説明

船舶用ダクト及び船舶

【課題】推進性能の更なる向上を図ることが可能な船舶用ダクト及び船舶を提供する。
【解決手段】船舶用ダクト20は、第1板状体20a及び第2板状体20bを備える。第1板状体20aは、半径rを有する円弧状に湾曲されると共に、前後方向における断面形状が内側に向けて突出する翼形状を呈する。第2板状体20bは、平板によって構成され、第1板状体20bの端部に設けられている。第1板状体20aの中心軸Xと第2板状体20bとの直線距離rは、0<r/r<0.85を満たしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進性能を向上させるための船舶用ダクト及び当該ダクトが設けられた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前後方向における断面形状が内側に向けて突出する翼形状を呈する、略円環状の船舶用ダクトが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−220089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、本発明者は、従来の船舶用ダクトでは、推進性能の向上が減殺されていたことを見出した。すなわち、本発明者による船舶用ダクトがない場合の船尾近傍における流向の解析の結果、船舶用ダクトの上側部分に相当する領域においては、船尾に向かうにつれて下方に向かう流向となっているが、船舶用ダクトの下側部分に相当する領域においては、船尾に向かうにつれて上方に向かう流向となっていることが明らかとなった。そのため、従来の船舶用ダクトでは、上側部分においては推進力を得られるものの、下側部分においては抵抗となってしまっていた。
【0004】
本発明は、推進性能の更なる向上を図ることが可能な船舶用ダクト及び船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る船舶用ダクトは、半径rを有する円弧状に湾曲されると共に、前後方向における断面形状が内側に向けて突出する翼形状を呈する第1板状体と、第1板状体の端部に設けられた直線状の第2板状体とを備え、第1板状体の中心軸と第2板状体との直線距離rが、0<r/r<0.85を満たすことを特徴とする。
【0006】
本発明に係る船舶用ダクトでは、第1板状体が円弧状に湾曲されており、当該第1板状体の端部に直線状の第2板状体が設けられている。そのため、この船舶用ダクトを、スクリューの前方に位置すると共に、第1板状体が上側で且つ第2板状体が下側となるように、船体に取り付けた場合、従来の船舶用ダクトにおいて抵抗の原因となっていた下側部分が存在しなくなる。その結果、推進性能の更なる向上を図ることが可能となる。そして、本発明に係る船舶用ダクトでは、第1板状体の中心軸と第2板状体との直線距離rが、0<r/r<0.85を満たしている。そのため、従来の船舶用ダクトにおいて抵抗の原因となっていた下側部分が存在しないことによる推進性能の向上の効果を、十分に発揮することが可能となっている。
【0007】
好ましくは、第1板状体の中心軸と第2板状体との直線距離rが、0.3≦r/r≦0.8を満たす。このようにすると、従来の船舶用ダクトにおいて抵抗の原因となっていた下側部分が存在しないことによる推進性能の向上の効果を、より十分に発揮することが可能となっている。
【0008】
好ましくは、第2板状体は、平板によって構成されている。このようにすると、本発明に係る船舶用ダクトを簡単に構成することが可能となる。
【0009】
好ましくは、第2板状体は、前後方向における断面形状が内側に向けて突出する翼形状を呈する。このようにすると、第1板状体に加え、第2板状体においても推進力を得ることができるので、推進性能のより一層の向上を図ることが可能となる。
【0010】
一方、本発明に係る船舶は、船体と、主推進力を発生させるために船体に設けられたスクリューと、船舶用ダクトとを備え、船舶用ダクトは、半径rを有する円弧状に湾曲された第1板状体と、第1板状体の端部に設けられた直線状の第2板状体とを有し、第1板状体の中心軸と第2板状体との直線距離rが、0<r/r<0.85を満たしており、スクリューの前方に位置すると共に、第1板状体が上側で且つ第2板状体が下側となるように、船体に取り付けられているすことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る船舶では、船舶用ダクトにおいて、第1板状体が円弧状に湾曲されており、当該第1板状体の端部に直線状の第2板状体が設けられている。また、船舶用ダクトが、スクリューの前方に位置すると共に、第1板状体が上側で且つ第2板状体が下側となるように、船体に取り付けられている。そのため、従来の船舶用ダクトにおいて抵抗の原因となっていた下側部分が存在しなくなる。その結果、推進性能の更なる向上を図ることが可能となる。そして、本発明に係る船舶が備える船舶用ダクトでは、第1板状体の中心軸と第2板状体との直線距離rが、0<r/r<0.85を満たしている。そのため、従来の船舶用ダクトにおいて抵抗の原因となっていた下側部分が存在しないことによる推進性能の向上の効果を、十分に発揮することが可能となっている。
【0012】
好ましくは、第1板状体の中心軸と第2板状体との直線距離rが、0.3≦r/r≦0.8を満たす。このようにすると、従来の船舶用ダクトにおいて抵抗の原因となっていた下側部分が存在しないことによる推進性能の向上の効果を、より十分に発揮することが可能となっている。
【0013】
好ましくは、第1板状体の中心軸と船舶用ダクトの後縁部を含む仮想平面との交点が、スクリューの回転軸よりも上方に位置している。第1板状体は、前後方向における断面形状が内側に向けて突出する翼形状を呈しているので、船舶用ダクトの内側における流速は船舶用ダクトの外側における流速よりも速くなる。そのため、第1板状体の中心軸とスクリューの回転軸とが一致しているような場合と比較して、より多くの速い流れがスクリューに流入することとなる。その結果、より一層の推進性能の向上を図ることが可能となる。
【0014】
好ましくは、第2板状体は、平板によって構成されている。このようにすると、本発明に係る船舶が備える船舶用ダクトを簡単に構成することが可能となる。
【0015】
より好ましくは、船舶用ダクトは、第2板状体の前後方向が当該第2板状体の位置する領域における流向に沿うように、船体に取り付けられている。このようにすると、第2板状体において生じる抵抗を十分小さくすることが可能となる。
【0016】
好ましくは、第2板状体は、前後方向における断面形状が内側に向けて突出する翼形状を呈する。このようにすると、船舶用ダクトにおいて、第1板状体に加え、第2板状体においても推進力を得ることができるので、推進性能の更により一層の向上を図ることが可能となる。
【0017】
より好ましくは、船舶用ダクトは、第2板状体が当該第2板状体の位置する領域における流向に対して所定の迎角を有するように船体に取り付けられている。このようにすると、第2板状体においてより大きな推進力を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、推進性能の更なる向上を図ることが可能な船舶用ダクト及び船舶を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の好適な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0020】
まず、図1〜図3を参照して、本実施形態に係る船舶10の構造について説明する。船舶10は、船体12と、スクリュー14と、舵16と、ラダーホーン18と、船舶用ダクト20とを備える。なお、ラダーホーン18を備えない船舶も存在するが、そのような船舶であっても本発明の効果は変わらない。
【0021】
船体12は、図12に示されるように、後方に向いた後向船尾部12aと、下方に向いた下向船尾部12bとを有している。
【0022】
スクリュー14は、後向船尾部12aに設けられた突出部22の先端に設置されている。船舶10は、スクリュー14によって発生された推力(主推進力)を得て前進する。
【0023】
舵16は、船体12に対し回動可能となるように、その上端部16aから上方に延びる舵軸24を介して下向船尾部12bに取り付けられている。この舵16は、また、下向船尾部12bから下方に向けて突設されたラダーホーン18によっても支持されている。そのため、スクリュー14を回転させた状態で、図示しない舵取機によって舵軸24を介して舵16の角度を変えることで、船舶10の進行方向を変更し、針路に合わせることができる。なお、舵本体16は、先端部16bから後端部16cに向かうにつれて徐々に厚くなりその後徐々に薄くなる翼形状を呈している。
【0024】
船舶用ダクト20は、図1及び図2に示されるように、第1板状体20a及び一対の第2板状体20bを有する。第1板状体20aは、図2に示されるように、半径rを有する円弧状に湾曲されている。また、第1板状体20aは、図1及び図3に示されるように、前後方向における断面形状(縦断面形状)が、内側に向けて突出する翼形状を呈している。なお、例えば溶接等によって、ブラケット26の一端が第1板状体20aの頂部に接合されており、ブラケット26の他端が突出部22に接合されている。
【0025】
第2板状体20bは、図1及び図2に示されるように、平板によって構成されている。一対の第2板状体20bの各一端は、第1板状体20aの各端部にそれぞれ設けられている。一対の第2板状体20bの各他端は、例えば溶接等によって突出部22に接合されている。
【0026】
第2板状体20bは、図2に示されるように、第1板状体20aの中心軸Xから直線距離rだけ離間するように位置している。本実施形態において、直線距離rは、0<r/r<0.85を満たしており、好ましくは0.3≦r/r≦0.8を満たしている。
【0027】
ここで、船舶用ダクト20は、スクリュー14の前方に位置すると共に、第1板状体20aが上側で且つ第2板状体20bが下側となるように、船体12の突出部22に取り付けられている(図1参照)。また、船舶用ダクト20は、第1板状体20aの中心軸Xとその後縁部20cを含む仮想平面Sとの交点Pがスクリュー14の回転軸Xよりも上方に位置するように、船体12の突出部22に取り付けられている(図1参照)。
【0028】
船舶用ダクト20は、第1板状体20aの中心軸Xがスクリュー14の回転軸Xに対して上方に角度θだけ傾いている。この角度θは、第1板状体20aによって大きな揚力が得られるよう、第1板状体20aにおける流向に対して適切な迎角となるように設定することができる。
【0029】
ところで、従来、推進性能の向上を目的として、前後方向における断面形状が内側に向けて突出する翼形状を呈する、略円環状の船舶用ダクト120が船体12に設けられていた(図4参照)。しかしながら、本発明者が、船舶用ダクト20を船体12に設けない場合の船尾近傍における流向を解析した結果(図4参照)、船舶用ダクト120の上側部分に相当する領域(図4のA領域)においては、船尾に向かうにつれて下方に向かう流向となっているが、船舶用ダクト120の下側部分に相当する領域(図4のB領域)においては、船尾に向かうにつれて上方に向かう流向となっていることが明らかとなった。そのため、従来の船舶用ダクト120では、上側部分においては推進力を得られるものの、下側部分においては抵抗となってしまっていた。
【0030】
しかしながら、本実施形態においては、船舶用ダクト20の第1板状体20aが円弧状に湾曲されており、第1板状体20aの端部に平板状の第2板状体20bが設けられている。また、船舶用ダクト20が、スクリュー14の前方に位置すると共に、第1板状体20aが上側で且つ第2板状体20bが下側となるように、船体12に取り付けられている。そのため、従来の船舶用ダクト120において抵抗の原因となっていた下側部分が存在しなくなる。その結果、推進性能の更なる向上を図ることが可能となる。そして、船舶用ダクト20では、第1板状体20aの中心軸Xと第2板状体20bとの直線距離rが、0<r/r<0.85を満たしている。そのため、従来の船舶用ダクト120において抵抗の原因となっていた下側部分が存在しないことによる推進性能の向上の効果を、十分に発揮することが可能となっている。
【0031】
ここで、直線距離rが0<r/r<0.85を満たす場合に、推進性能が更に向上することを確認するための試験を行った。試験では、r/rが0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0となるように設定された船舶用ダクト20をそれぞれ用意して、それぞれについてBHP(Brake HorsePower:所要馬力)を測定した。そして、船舶用ダクト20による推進性能の向上率[%]を、それぞれの船舶用ダクト20について、(1−船舶用ダクト20を設けた場合におけるBHP/船舶用ダクト20がない場合におけるBHP)×100によって算出した。その結果を図5に示す。
【0032】
図5に示されるように、直線距離rが0<r/r<0.85を満たす場合、推進性能の向上率が7%よりも大きくなり、直線距離rが0.4≦r/r≦0.8を満たす場合、推進性能の向上率が8%以上となった。従って、直線距離rが0<r/r<0.85を満たす場合、推進性能が更に向上し、直線距離rが0.4≦r/r≦0.8を満たす場合、推進性能がより一層向上することが確認された。
【0033】
また、本実施形態においては、第1板状体20aの中心軸Xと船舶用ダクト20の後縁部20cを含む仮想平面Sとの交点Pがスクリュー14の回転軸Xよりも上方に位置するように、船舶用ダクト20が船体12に取り付けられている。第1板状体20aは、前後方向における断面形状が内側に向けて突出する翼形状を呈しているので(図1及び図3参照)、船舶用ダクト20の内側における流速は船舶用ダクトの外側における流速よりも速くなる。そのため、第1板状体20aの中心軸Xとスクリュー14の回転軸Xとが一致しているような場合と比較して、速い流れがより多くスクリュー14に流入することとなる。その結果、より一層の推進性能の向上を図ることが可能となる(図3参照)。
【0034】
また、本実施形態においては、第2板状体20bが平板によって構成されているので、船舶用ダクト20を簡単に構成することができるようになっている。
【0035】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。例えば、図6に示されるように、第2板状体20bが、前後方向における断面形状が内側に向けて突出する翼形状を呈するように構成されていてもよい。このとき、船舶用ダクト20は、第2板状体20bの位置する領域における流向に対して第2板状体20bが所定の迎角を有するように(図6においては、水平面と第2板状体20bの後縁側における上面とがなす角αが、例えば、上向0°〜40°程度、好ましくは上向10°〜30°程度となるように)、船体12に取り付けられているとより好ましい。この場合、第1板状体20aに加え、第2板状体20bにおいても推進力を得ることができるので、推進性能のより一層の向上を図ることが可能となる。
【0036】
また、第2板状体20bが平板によって構成されている場合には、図7に示されるように、船舶用ダクト20は、第2板状体20bの前後方向が第2板状体20bの位置する領域における流向に沿うように、船体12に取り付けられていてもよい。この場合、第2板状体20bにおいて生じる抵抗を十分小さくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、本実施形態に係る船舶の船尾部分を示す側面図である。
【図2】図2は、船舶用ダクトの正面図である。
【図3】図3は、船舶用ダクトの一部を拡大して示す縦断面図である。
【図4】図4は、船尾部分の近傍における流向を示す図である。
【図5】図5は、船舶用ダクトによる推進性能の向上率を示す図である。
【図6】図6は、本実施形態の第1変形例に係る船舶の船尾部分を示す斜視図である。
【図7】図7は、本実施形態の第1変形例に係る船舶の船尾部分を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
10…船舶、12…船体、14…スクリュー、20…船舶用ダクト、20a…第1板状体、20b…第2板状体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半径rを有する円弧状に湾曲された第1板状体と、
前記第1板状体の端部に設けられた直線状の第2板状体とを備え、
前記第1板状体の中心軸と前記第2板状体との直線距離rが、0<r/r<0.85を満たすことを特徴とする船舶用ダクト。
【請求項2】
前記第1板状体の中心軸と前記第2板状体との直線距離rが、0.3≦r/r≦0.8を満たすことを特徴とする請求項1に記載された船舶用ダクト。
【請求項3】
前記第2板状体は、平板によって構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載された船舶用ダクト。
【請求項4】
前記第2板状体は、前後方向における断面形状が内側に向けて突出する翼形状を呈することを特徴とする請求項1又は2に記載された船舶用ダクト。
【請求項5】
船体と、
主推進力を発生させるために前記船体に設けられたスクリューと、
船舶用ダクトとを備え、
前記船舶用ダクトは、
半径rを有する円弧状に湾曲された第1板状体と、
前記第1板状体の端部に設けられた直線状の第2板状体とを有し、
前記第1板状体の中心軸と前記第2板状体との直線距離rが、0<r/r<0.85を満たしており、
前記スクリューの前方に位置すると共に、前記第1板状体が上側で且つ前記第2板状体が下側となるように、前記船体に取り付けられていることを特徴とする船舶。
【請求項6】
前記第1板状体の中心軸と前記第2板状体との直線距離rが、0.3≦r/r≦0.8を満たすことを特徴とする請求項5に記載された船舶。
【請求項7】
前記第1板状体の中心軸と前記船舶用ダクトの後縁部を含む仮想平面との交点が、前記スクリューの回転軸よりも上方に位置していることを特徴とする請求項5又は6に記載された船舶。
【請求項8】
前記第2板状体は、平板によって構成されていることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載された船舶。
【請求項9】
前記船舶用ダクトは、前記第2板状体の前後方向が当該第2板状体の位置する領域における流向に沿うように、前記船体に取り付けられていることを特徴とする請求項8に記載された船舶。
【請求項10】
前記第2板状体は、前後方向における断面形状が内側に向けて突出する翼形状を呈することを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載された船舶。
【請求項11】
前記船舶用ダクトは、前記第2板状体が当該第2板状体の位置する領域における流向に対して所定の迎角を有するように前記船体に取り付けられていることを特徴とする請求項10に記載された船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−308023(P2008−308023A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157644(P2007−157644)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(503218067)住友重機械マリンエンジニアリング株式会社 (55)