船舶用自動操舵装置
【課題】 実用化に適した同定を行なうことができる船舶用自動操舵装置を提供する
【解決手段】 設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、船体パラメータを同定する同定演算部を備える。同定演算部は、入力データとしての命令舵角と出力データとしての船首方位が供給されてそれぞれのデータを蓄積し、蓄積された入力データから同定モデルを用いてモデル出力データを出力し、該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節する。同定モデルは、3次の船体モデルと、外乱モデルと、船体運動の初期値を含み、外乱モデルは、δoffset=δ0+cδψが組み込まれ、船体パラメータTm、T3m、Km、δ0m、cδm、及び船体運動の初期値r0mが同定するべきパラメータとなる。
【解決手段】 設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、船体パラメータを同定する同定演算部を備える。同定演算部は、入力データとしての命令舵角と出力データとしての船首方位が供給されてそれぞれのデータを蓄積し、蓄積された入力データから同定モデルを用いてモデル出力データを出力し、該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節する。同定モデルは、3次の船体モデルと、外乱モデルと、船体運動の初期値を含み、外乱モデルは、δoffset=δ0+cδψが組み込まれ、船体パラメータTm、T3m、Km、δ0m、cδm、及び船体運動の初期値r0mが同定するべきパラメータとなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体モデルにおける船体パラメータを同定する同定機能を有する船舶用自動操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶用自動操舵装置は、設定針路にジャイロコンパスからの方位を追従させるために舵を制御する装置であり、その制御系は、設定針路と船首方位との入力から偏差と旋回角速度とを求め制御ゲインを乗じて制御量である命令舵角を操舵機に出力する。操舵機は舵を動かして、船体に旋回角速度を誘起させて方位を変化させる。
【0003】
図1を参照して自動操舵装置を含む全体のシステムを説明すると、12は自動操舵装置、14は操舵機、16は船体であり、自動操舵装置12は、さらに、軌道演算部22、減算器24、フィードフォワード制御器26、フィードバック制御器28、加算器30、同定演算部32を備えている。
【0004】
軌道演算部22は設定針路ψSを入力し、設定針路ψSから軌道計画に基づいた参照針路ψRを演算するものである。減算器24にて参照針路ψRと船体16の船首方位ψとの偏差eがとられ、フィードバック制御器28に入力され制御ゲインが乗じられる。フィードフォワード制御器26及びフィードバック制御器28の出力が加算器30で加算されて、命令舵角δcとなる。
【0005】
同定演算部32は、船体パラメータを同定するもので、同定された船体パラメータは、軌道演算部22、フィードフォワード制御器26及びフィードバック制御部28へと入力されて、各演算及び制御に用いられる。
【0006】
例えば、貨物船やタンカーなどの船舶は荷物の積み下ろしにより喫水が変化する。そのため、船体特性が変化し積み下ろし前の制御ゲインを用いると、操舵系の閉ループ安定性が低下しヨーイングを生じる場合を起こす。この状況を回避するために船体パラメータを同定し、制御ゲインを設定する方法が非特許文献1で提案されている。
【0007】
本出願人による特許文献1では、オフライン処理による同定算法を行なう船舶用自動操舵装置を提案する。図13は、その同定演算部32のブロック図であり、自動操舵装置12と同じ、減算器24−1、フィードフォワード制御部26−1、フィードバック制御部28−1及び加算器30−1を備えると共に、制御対象モデル34、減算器36及びパラメータ調節部38を備える。この同定演算部32へ供給される入力データとしては、軌道演算部22からの参照針路ψR、また、同様に供給される出力データとしては、減算器24からの偏差eとなっており、これらは、一旦メモリに記憶され、同定演算部32での処理はオフラインで行なわれる。
【0008】
同定演算部32では、減算器36において、減算器24−1にて得られるモデル偏差emと、偏差eとの差である同定誤差が得られる。パラメータ調節部38では、基本的に、同定誤差が最小となるような船体パラメータ同定値を求め、それを、制御対象モデル34の他、軌道演算部22、フィードフォワード制御器26及びフィードバック制御部28へと供給する。
【0009】
以上の制御対象モデル34は、船体をラプラス演算子sを用いた伝達関数K/(Ts+1)によって表される1次モデルによって近似されており、同定する船体パラメータは、旋回力指数K、及び時定数である追従安定性指数Tとなっている。パラメータ調節部38では、パラメータ毎に、同定誤差の平均と分散を求め、分散の最小値を見つけ、また平均が0となる場合を見つけることにより、船体パラメータK、Tを同定している。
【0010】
また、外乱モデルに関しては、舵角オフセットを参照針路に比例する項として組み入れている。
【0011】
【非特許文献1】大津、長谷川、IX. オートパイロットの評価と展望、第3回操縦性シンホジウムテキスト、日本造船学会試験水槽委員会、p.243/279(1981)
【特許文献1】特開2001−18893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1に記載された同定においては、以下のような問題点がある。
・船体モデルを1次モデルで近似しているために、船舶によっては変針時にオーバシュートを生じることがある。
・外乱モデルである舵角オフセットが参照針路に比例する項のみであるために、変針前または保針時の舵角オフセットによる同定誤差が発生しており、これを無視できない。
・自動変針時に船体運動の初期値がほぼ0でないときに実施された場合、この初期値による同定誤差が無視できない。
・閉ループを用いているため、同定するべきパラメータが多くなると、その次数は同定モデルと制御系との和となるために、計算量が飛躍的に増大し、実用化が困難となる。
・船舶は離桟後、手動操船を経て自動操船に移るため、手動時の同定実施は安全上必須であるが、従来の同定演算部では、手動操船時の同定はできない。
・従来のパラメータ毎に平均や分散の最小値または0値を求めてパラメータを探索する手順は、同定するべきパラメータが多くなると計算量が飛躍的に増大し、実用化が困難となる。
【0013】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたもので、その目的はより実用化に適した同定を行なうことができる船舶用自動操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記同定モデルは船体モデルを含み、該船体モデルの伝達関数は、
【0015】
【数1】
で表されることを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明は、設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記同定モデルは船体モデルと外乱モデルとを含み、外乱モデルは、舵角オフセットとして、変針前または保針時の舵角オフセットδ0を組み入れており、同定演算部は、前記船体パラメータと共に変針前または保針時の舵角オフセットδ0を同定するべきパラメータとすることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の発明は、設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記同定モデルは船体モデルと外乱モデルとを含み、外乱モデルは、舵角オフセットとして、cδψ(ψ:船首方位)を組み入れており、同定演算部は、前記船体パラメータと共に舵角オフセット係数cδを同定するべきパラメータとすることを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明は、設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記同定モデルは船体モデルと変針時における船体運動の初期値とを組み入れており、同定演算部は、前記船体パラメータと共に船体運動の初期値を同定するべきパラメータとすることを特徴とする。
【0019】
請求項5に記載の発明は請求項4記載のものにおいて、前記船体運動の初期値は、船体の旋回角速度の初期値であることを特徴とする。
【0020】
請求項6に記載の発明は請求項1ないし5のいずれか1項に記載のものにおいて、前記入力データとして命令舵角、前記出力データとして船首方位とすることを特徴とする。
【0021】
請求項7に記載の発明は、設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記入力データは命令舵角、前記出力データは船首方位とすることを特徴とする。
【0022】
請求項8に記載の発明は請求項1ないし7のいずれか1項に記載の前記パラメータ調節部が、モデル出力データと出力データの差の関数となるスカラ値である評価関数を最小化する同定パラメータ値を同定パラメータに決定し、その中で対応する同定パラメータに船体パラメータを調節することを特徴とする。
【0023】
請求項9に記載の発明は請求項8記載の前記パラメータ調節部が、同定パラメータを多変数とする評価関数の極小解を求め、該極小解となる同定パラメータ値を同定パラメータとすることを特徴とする。
【0024】
請求項10に記載の発明は請求項8または9記載の前記パラメータ調節部が、船体モデルにおける船体パラメータの範囲に応じた安定船領域と不安定船領域とで評価関数をそれぞれ最小化する同定パラメータを探索する安定船領域同定探索部と不安定船領域同定探索部とをそれぞれ備えることを特徴とする。
【0025】
請求項11に記載の発明は請求項8ないし10のいずれか1項に記載の前記パラメータ調節部が、SQPのアルゴリズムにより評価関数を最小化する同定パラメータを求めることを特徴とする。
【0026】
請求項12に記載の発明は、設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から複数の船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、
前記同定モデルは船体モデルを含み、
前記パラメータ調節部は、
モデル出力データと出力データの差の関数となるスカラ値である評価関数を最小化する同定パラメータ値を同定パラメータに決定する第1判別部と、
前記第1判別部で決定した同定パラメータ値のうちの船体パラメータに対応する同定パラメータ値を用いた船体モデルの入力データに対するモデル出力データを算出し、同様に、現在の船体パラメータ値であるノミナル値を用いた船体モデルの入力データに対するモデル出力データを算出し、同定パラメータ値を用いたモデル出力データから求めた評価関数と、ノミナル値を用いたモデル出力データから求めた評価関数とをそれぞれ求めて、どちらの評価関数が小さいかまたは大きくないかを判定し、評価関数が小さいまたは大きくない方に用いた同定パラメータ値またはノミナル値に船体パラメータを調節する第2判別部と、
を備えることを特徴とする。
【0027】
請求項13に記載の発明は、請求項1ないし12のいずれか1項に記載のものにおいて、入力データと出力データは、少なくとも変針前静定時間と変針中と変針後静定時間におけるデータが含まれることを特徴とする。
【0028】
請求項14に記載の発明は、請求項1ないし13のいずれか1項に記載の前記変針後静定時間が、モデル出力データと出力データの差の関数となるスカラ値である評価関数を各同定パラメータで偏微分したときの偏微分係数の少なくとも1つの偏微分係数が変針後にピーク値を示す時刻を含むか、またはピーク値を含む時刻に基づく時間範囲に、設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
請求項1記載の発明によれば、船体モデルとして1次モデルではなく、分子に時定数T3sを加えたモデルとすることにより、変針時におけるオーバシュートの発生を防ぐことができるようになる。
【0030】
請求項2記載の発明によれば、同定モデルに外乱モデルである舵角オフセットとして変針前または保針時の舵角オフセットδ0を組み入れ、この舵角オフセットδ0を同定するべきパラメータの1つとしているので、より正確に同定を行なうことができるようになる。
【0031】
請求項3記載の発明によれば、同定モデルに外乱モデルである舵角オフセットとして、船首方位に比例する項を組み入れ、この舵角オフセット係数cδを同定するべきパラメータとすることにより、手動操船においても船首方位のデータを取り込むことができることから、手動操船時においても自動操船時と同様に同定を行なうことができるようになる。
【0032】
請求項4記載の発明によれば、同定モデルに船体運動の初期値を組み入れ、この船体運動の初期値を同定するべきパラメータとすることにより、船体運動時に変針がなされたときであっても同定をより正確に行なうことができるようになる。そして請求項5記載の発明によれば、変針時に船体が旋回角速度を持つ場合であっても、同定を行なうことができるようになる。
【0033】
請求項6及び請求項7記載の発明によれば、入力データとして命令舵角、出力データとして船首方位とすることにより、同定するべきパラメータ数が多くなったとしても、開ループであるので同定のための演算を簡素化することができる。また、手動操船においても適用できるので、手動操船及び自動操船のいずれの操舵モードにおいても同一の構成で同定処理を行なうことができるようになる。
【0034】
請求項8及び請求項9記載の発明によれば、モデル出力データと出力データの差の関数となるスカラ値である評価関数を最小化する同定パラメータ値を同定パラメータに決定することにより、同定パラメータが多数あっても、汎用のアルゴリズムによって同定パラメータを求めることができるようになる。
【0035】
請求項10記載の発明によれば、船体パラメータは、その範囲に応じた安定船領域か不安定船領域にしか存在しないので、予め決められた安定船領域か不安定船領域でそれぞれ同定パラメータを探索することで、現実の船体の特性に合致した船体パラメータを同定することができるようになる。
【0036】
請求項11記載の発明によれば、SQPのアルゴリズムを用いることにより、パラメータ探索領域を限定することができるので、所望の領域にある船体パラメータを同定することができるようになる。
【0037】
請求項12記載の発明によれば、ある同定で得られた同定パラメータ値と、現在の船体パラメータ値であるノミナル値のいずれがより適した値であるかを第2判別部が判別している。即ち、第2判別部が、それぞれの値を用いた船体モデルの入力データに対するモデル出力データを算出して、それぞれのモデル出力データから評価関数を作成し、これらの2つの評価関数のうちでより評価関数を小さくさせる同定パラメータ値またはノミナル値を船体パラメータに採用するようにしているので、仮に、良好な同定が行なえなかった場合には、その同定パラメータ値を採用しないようにして、船体パラメータを常に良好な値に維持することができる。
【0038】
請求項13記載の発明によれば、変針前静定時間におけるデータを同定演算部に取り込むことで、変針前の外乱または船体運動を含む状態を表すデータを取り込むことができて、より正確な同定を行なうことができる。
【0039】
請求項14記載の発明によれば、変針後静定時間の設定において、評価関数の偏微分係数のピーク値を示す時刻を含むようにするか、またはその時刻に基づき設定することによって、高い分解能で評価関数から同定を行なうことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の船舶用自動操舵装置を含む全体のシステムを表すブロック図である。図において、12は自動操舵装置、14は操舵機、16は船体である。操舵機14及び船体16を合わせたものが制御対象となる船体プラント18である。自動操舵装置12は、さらに、軌道演算部22、減算器24、フィードフォワード制御器26、フィードバック制御器28、加算器30、同定演算部32を備えている。フィードバック制御器28は参照針路ψR、船体16の船首方位ψ及びフィードバック制御器28出力から推定方位、推定角速度を求める推定器を含むことができる。背景技術にて既に説明した部分については、説明を省略する。
【0041】
図2は、同定演算部32の構成を表すブロック図である。同定演算部32には、実プロセスから制御対象の入出力データが時系列データとして供給されるので、これらの入力データ及び出力データを蓄積する入力データ記憶部40、出力データ記憶部42を備える。入力データ記憶部40及び出力データ記憶部42は、リングバッファ型メモリとすることができる。さらに、同定演算部32は、データ抽出部43、同定モデル44、減算器46及びパラメータ調節部48を備える。まず、同定演算の原理について以下説明する。
【0042】
1.同定モデル
同定モデル44は、船体モデル、外乱モデル及び船体運動の初期値とから構成され、入力データである命令舵角δcを入力しモデル出力データであるモデル船首方位ψmを出力する。以下、船体モデル、外乱モデル及び船体運動についてそれぞれ説明する。
【0043】
1.1 船体モデル
この実施形態において、船体モデルは、操舵機と船体とを一体化したものとし、操舵機の時定数(船体の時定数に比較して十分に小さい)やオンオフ制御の非線形性などの不確定特性を時定数の大きい船体特性に吸収させて、舵速度や許容舵角などの確定要素を残存させる。そして、船体モデルとしては、以下の式を採用することとする(図3参照)。
【0044】
【数2】
【0045】
ここで、Pは船体モデルの伝達関数、ψ(s)は船首方位、Ks、Ts、T3sは、同定するべき船体パラメータで、それぞれ旋回力ゲイン[1/s/deg]、二つの時定数[s]をそれぞれ示し、Ts>T3sである。また、(・)sは船体値を意味する。
【0046】
従来の1次モデルの伝達関数K/(Ts+1)に比較して(2)式に示す分子に時定数T3Sを加えた伝達関数を船体モデルに採用することによって、パラメータの数は増加するものの変針時のオーバシュートを防ぐことができるようになる。
【0047】
任意には、以上の船体モデルを採用する以外に、次の伝達関数を採用することも可能である。
【0048】
【数3】
しかしながら、Ts》T2sとすることができるので、(2)式とすることでも十分である。
【0049】
1.2 外乱モデル
外乱は、直流成分のものと交流成分のものとに分ける。直流成分の外乱は外乱モデルとして扱い、交流成分の外乱はそのまま未知のものとする。外乱モデルは、船体と風との相対速度
【0050】
【数4】
によって発生する船体の方位軸まわりのモーメントを舵角オフセットに換算した関数δoffset=f(ベクトルVR)で定める。相対速度ベクトルの絶対値の時間変化が微小とすれば、相対速度ベクトルは方位の関数ベクトルVR=g(ψ)として扱える。このことから舵角オフセットを、
【0051】
【数5】
と近似する。ここで、δoffsetは外乱モデルの舵角成分を、
は変針前または保針時の舵角オフセットを、cδは変針後の舵角オフセット係数を示す。(3)式の関係を図4に示す。ψは方位変化なので変針前は零であるので、(3)式の第1項のδ0は、変針前の舵角オフセットとして設定する。(3)式の第2項のcδψは変針後の方位変化に関係する舵角オフセット変化に対応する項となる。この第2項をψに比例する項とすることによって、手動操船及び自動操船のいずれの場合においても、同様のモデルを用いることができる、という利点を持つ。
【0052】
1.3 船体運動
船体運動の初期値は(2)式より直接取得できる方位と取得できない旋回角速度とがある。角速度の初期値応答は、
【0053】
【数6】
になり、方位変化は、
【0054】
【数7】
になり、方位定常値は(1−T3s/Ts)r0Tsである。仮にr0=0.01[deg/s]、Ts=100[s]、T3s=10[s]とすると、方位定常値は1度程度となり、10度の変針の場合には方位応答の10%となるから、角速度初期値を考慮しないと、方位変化が同定誤差の原因になる。しかしながら、角速度初期値は直接取得することはできないから、微分とローパスフィルタとを用いた擬似微分や対象モデルを用いた推定器による取得方法が考えられるが、擬似微分は外乱抑制のためのフィルタ時定数による時間遅れが問題となり、推定器は船体値とノミナル値とのパラメータ誤差による推定誤差が問題になる。よって、本発明では、角速度初期値を同定パラメータとして同定モデルに含ませることにより、同定誤差を防止する。
【0055】
任意には、船体モデルとして(2’)式を採用する場合には、角加速度の初期値を同定パラメータとして同定モデルに含ませることもでき、より正確に船体運動の初期値を組み込むことができるようになる。但し、実用的には、角速度初期値のみとすることで十分である。
【0056】
1.4 同定モデル
以上の船体モデル、舵角オフセット及び角速度初期値から図5に示す同定モデルを構成する。舵角オフセットに関しては、命令舵角に追加される。尚、δ0/sとするのは、一定値の入力とするためである。
同定モデルの伝達関数は、
【0057】
【数8】
になる。ここで、添字(・)mは、モデル値を意味する。よって、同定モデルは3次系となり、同定パラメータはx1m、x2m、x3m、δom、cδm、r0mの6個となる。
【0058】
2. 入力データと出力データ
本発明では、同定演算を手動操船と自動操船の両方において、それぞれの変針応答から行う。
【0059】
2.1 手動操船
手動操船においては、図6に示すように、操船者による命令舵角δcを同定演算部32の入力データとし、船首方位ψを同定演算部32の出力データとする。
簡単のため船体モデルのみを考慮すると、同定誤差γhは、(1)式及び(2)式を用いて制御対象の船首方位とモデル船首方位との差となり、
【0060】
【数9】
になる。
【0061】
上式よりP−Pm=0、即ちγh=0となるパラメータ条件を求めると、x1m=x1、x2m=x2、x3m=x3、T3m=T3を得る。
【0062】
2.2 自動操船
自動操船では、同定演算部32に供給する入力データ及び出力データの収集方式として、特許文献1における同定演算部のように(図13参照)、参照針路ψRを入力データとし、偏差eを出力データとする閉ループで同定する間接方式と、命令舵角δcを入力データとし、船首方位ψを出力データとする開ループで同定する直接方式とが考えられる。間接方式では、ψRからeまでの伝達関数の次数+同定モデルの次数になり、加えて、フィードバック制御器に含まれる推定器の初期値も考慮すると、次数が高次になり計算量も増加し、処理も煩雑になるのに対して、直接方式では同定系の次数が同定モデルの次数であり、且つ手動操船の場合と構成が同じになるために、構成が共通化・簡素化できる、という利点がある。よって、本実施形態では、直接方式で行い、命令舵角δcを入力データとし、船首方位ψを出力データとする。
【0063】
3. 評価関数及び同定範囲
3.1 評価関数
パラメータ調節部48には、上述のごとく図2に示すように、命令舵角δcを入力データとし、船首方位ψを出力データとして蓄積されたデータに対して、同定モデル44のモデル出力データと、実プロセスの出力データとの差異となる、減算器46による同定誤差γが順次入力される。パラメータ調節部48では、同定誤差γをスカラー量に変換した評価関数Jを求め、該評価関数Jを最小にするパラメータを調整する。評価関数Jとして、同定誤差γの二乗和とし、
【0064】
【数10】
と定義することができる。ここでnは同定の時間範囲内にある同定データ数を表す。勿論、二乗和とする他に、同定誤差の絶対値の和とすることもでき、または適宜重み付け係数をかけることもでき、任意の評価関数を採用することができる。
【0065】
モデルの出力はパラメータに依存するので、評価関数Jは非線形関数となる。よって、パラメータ調節部48では、多変数関数である評価関数Jを最小化するモデルのパラメータを求める。かかる演算は、公知の任意の手段、例えば、SQP(逐次型二次計画法sequential quadratic programming algorithm)のアルゴリズムを用いて行うことができ、評価関数の極小解を求め、該極小解となる同定パラメータ値を同定パラメータとする。
【0066】
SQPを用いる場合には、パラメータ探索範囲を限定することができるために、後述の領域探索において便利である。
【0067】
3.2 手動操船時の同定の時間範囲
1回の同定演算に用いるデータ抽出の時間範囲は、図7に示すように、変針前静定時間と変針中と変針後静定時間とからなる。
【0068】
同定を開始するための条件として、次の条件を設定することができる。
(1) 船速が設定上限値と設定下限値の範囲内にあること
(2) 方位変化が設定最大値と設定最小値の範囲内にあること
(3) 舵角が、変針前にその振幅が設定振幅最大値(例えば3度)を超えず、変針時の舵角が設定振幅最小値(例えば4度)を超えていること。
(4) 変針前後の静定時間がそれぞれの設定値を満足していること(例えば、変針前60秒、変針後180秒)
変針前静定時間は、δ0mとr0mとの捕捉のために設定するものであり、これらを適正に同定するのに必要な適当な時間とすることができる。
【0069】
一方、変針後静定時間は船体パラメータ誤差に影響するので、手動操船時において、同定データ数が一定で船体パラメータ誤差が小さくなるような静定時間を設定する必要がある。以下、この静定時間について説明する。
【0070】
同定演算は、(4)式の同定パラメータに対する偏微係数を零にする停留点を求めることであるから、
【数11】
となる。ここで、xim(i=1〜3)は簡単化のために船体モデルの船体パラメータのみを考える。同定モデル44が制御対象18と一致するものとして、上式の∂ψm/∂ximを制御対象の∂ψ/∂xiと置き換えて考える。そのため、図8に示すようなδcの時系列データを入力データとする手動操船における変針の応答を考える。図8において、δwは操舵量[deg]を、twは入力時間[s]を示す。δcに対するψの時間応答解と偏微係数とは、t<twにおいて、
【0071】
【数12】
になる。ここで、c3=1−T3s/Tsである。同様に、t≧twにおいて、
【0072】
【数13】
【0073】
になる。静定時間を調べるために、t≧twでの各偏微係数において、定常値を求めると、ψ(t→∞)=δwKstw、∂ψ/∂Ks(t→∞)=δwtw、∂ψ/∂Ts(t→∞)=0、∂ψ/∂T3s(t→∞)=0になる。∂ψ/∂Tsのピーク値は、その時間微分関数を零とする時間tpで与えられる。即ち、
【0074】
【数14】
【0075】
になる。ここで、eε≒1+ε+(1/2)ε2を用いている。
【0076】
静定時間の範囲は偏微係数のピーク値を含んだ方が分解能が得られ、停留点での精度が向上すると考えられる。そこで、各偏微係数をそれぞれの定常値またはピーク値で割った値、つまり正規化した値の和
【0077】
【数15】
【0078】
を求める。ここで、cK=δwtw、cT=∂ψ/∂Ts|t=tp、cT3=∂ψ/∂T3s|t=tw、である。
【0079】
Ks=0.05、Ts=40、T3s=4とした数値例の場合の正規化した偏微係数の時間応答を図9に示す。同図によりNSは、∂ψ/∂Tsのピーク付近で最大値となり、その後、減衰して1に漸近する。静定時間はNSのピークを含んだTs以上、例えば、2Ts〜3Tsが良いと考えられる。
【0080】
同定範囲とする静定時間に対する同定計算の結果を図10に示す。図10は船体パラメータ誤差(図10の上段)及び制御ゲインの誤差(図10の下段)のそれぞれ同定範囲とする静定時間との関係を表すグラフである。同定データ数(100点)は一定としているので、静定時間が長くなる程、データ間隔が増すことになる。
【0081】
ここで、船体パラメータを集約した指標である制御ゲインとして、微分ゲインKDnと、2次標準系の固有周波数ωnとを用いており、KDn及びωnは、以下の式で定義される。
【0082】
【数16】
【0083】
上式において比例ゲインKp=1、ζn=0.9を用いる。図10中、KDm、ωmは同定値を、KDs、ωsは船体値を表している。図10の上段からパラメータ誤差に関しては、静定時間が1.5Ts〜3Tsのときにパラメータ誤差が小さくなり、図10の下段から制御ゲイン誤差は静定時間が3Tsの前後のときに小さくなることがわかる。
【0084】
以上のことから、変針後の同定範囲の静定時間として3Ts程度を選ぶとよいことが分かる。実際には、手動操船の場合、変針中の時間範囲が不確定であることが多いので、変針開始前の所定時間と変針開始後の所定時間(上記3Tsを目安に設定される)の合計を同定の時間範囲とする。
【0085】
3.3 自動操船時の同定の時間範囲
自動操船時についても、同定を開始するための条件を手動操船時と同様に設定する。また、同定の時間範囲は変針前静定時間、変針中及び変針後静定時間とからなる。変針前は手動操船と同様に設定することができる。変針中は変針のための命令舵角入力時であり、入力の大きさと時間とにより変針量が決まる。
【0086】
変針後静定時間は、手動操船時と異なり閉ループ特性をもち、閉ループの代表根の特性は(5)、(6)式で表される。代表根の減衰係数は設計値ζn=0.9と異なるが、悪くても0.3程度が確保できる。そのため、変針後、代表根の固有周波数の周期で0.3×0.3≒0.1程度の振幅減衰が得られる。よって静定時間は代表根である操舵系の固有周期の1倍程度を確保すれば、その応答特性を把握できると考える。
【0087】
同定演算部32は以上の原理に従って構成され、まず、入力データである命令舵角δc、及び出力データである船首方位ψが時系列的に順次、入力データ記憶部40及び出力データ記憶部42に格納される。
【0088】
また、手動操船か自動操船かを示す操舵モード信号がデータ抽出部43に入力される。データ抽出部43において手動操船であり同定開始条件を満足すると判定された場合には、設定された変針前の所定の静定時間及び3Ts程度の変針後の所定の静定時間の間のデータがそれぞれ入力データ記憶部40及び出力データ記憶部42から抽出される。
【0089】
また、自動操船であり同定開始条件を満足すると判定された場合には、設定された変針前静定時間、変針中、及び操舵周期程度の変針後静定時間の間のデータがそれぞれ入力データ記憶部40及び出力データ記憶部42から抽出される。
【0090】
抽出された入力データは、同定モデル44において演算されて、モデル船首方位ψmが出力されて、減算器46で実際の船首方位ψとの差である同定誤差γが求められ、該同定誤差γがパラメータ調節部48で評価されパラメータの調節がなされる。パラメータ調節部48は、同定モデル44で用いる同定パラメータを変化させて同定誤差γから(4)式で表される評価関数を求め、該評価関数を最小とする同定パラメータを決定する。
【0091】
パラメータ調節部48の詳細構成ブロック図を図11に示す。パラメータ調節部48は、安定船領域同定探索部50、不安定船領域同定探索部52、第1判別部54、第2判別部56及び船体ノミナル値記憶部58を備える。
【0092】
安定船とは、x1>0、x2>0及びx3>0を満足する船であり、不安定船とは、x1<0、x2>0及びx3<0を満足する船であり、いずれかの条件を満足する船しか存在し得ない。評価関数を最小とする同定パラメータが必ず安定船か不安定船のいずれかの範囲に属するように、それぞれ安定船領域同定探索部50、不安定船領域同定探索部52は、それぞれの満足するべき条件の範囲内で同定パラメータの探索を行なうべく、同定モデル44の同定パラメータの範囲を変化させる。
【0093】
安定船領域同定探索部50及び不安定船領域同定探索部52のそれぞれで決定された最小の評価関数Js、Juは、第1判別部54において、いずれの評価関数が小さいか(または大きくないか)が判定される。
【0094】
【数17】
【0095】
そして、より小さい評価関数を導き出す同定パラメータが決定される。
さらに、第2判別部56では、第1判別部54で決定された同定パラメータのうちの船体パラメータに対応する同定パラメータ値と、現在のノミナルの船体パラメータであり船体ノミナル値記憶部58に記憶されているノミナル値との比較を行なう。この比較は船体モデルを用いて行なう。第1判別部54で決定された船体パラメータの同定パラメータ値をx1m、x2m、x3mとし、ノミナル値をx1n、x2n、x3nとすると、それぞれの値を採用した船体モデルを用いて、それぞれ入力データである命令舵角に対するモデル船首方位を求め、評価関数Jm、Jnを求める。即ち、
【0096】
【数18】
【0097】
そして、いずれの評価関数Jm、Jnが小さいか(または大きくないか)が判定される。
【0098】
【数19】
【0099】
Jmの方が小さい場合には、第1判別部54で決定された同定パラメータをノミナル値に更新して、船体ノミナル値記憶部58に記憶すると共に、出力する。一方、Jnの方が小さい場合には、更新は行なわず、現在のノミナル値をそのまま出力する。同じ場合はいずれかの値を採用する。
【0100】
こうして、同定して得られた同定パラメータ値が現在のノミナル値よりも悪いと考えられる場合には、その同定パラメータ値を採用しないようにして、船体パラメータを常に良好な値に維持することができる。
【0101】
4.検証結果
以上の同定モデルによる同定の効果をシミュレーションによって検証する。制御対象は実船の特性に近いと考えられる流体力学モデルを用いる(但し、船体パラメータに相当する値は不明である)。同定パラメータの探索範囲は、船体パラメータ(x1、x2、x3)において安定船と不安定船に分け、外乱と運動量初期値(δ0、cδ、r0)を含み、以下の表の範囲とする。
【0102】
【表1】
【0103】
安定船領域同定探索部50及び不安定船領域同定探索部52のそれぞれで、対応する探索範囲での評価関数が小さい方の船体パラメータを第1判別部54で求め、それを船体ノミナル値とした。尚、第2判別部56による判定はここでは行なっていない。
静定時間は3Ts≒180[s]とした。同定計算にはSQPを利用した。
【0104】
シミュレーション結果を図12に示す。制御対象を不安定船相当に、船体ノミナル値の初期値を安定船相当に設定して、±10度の変針を実施した。
【0105】
1回目の変針ではパラメータ誤差のためオーバシュートを生じているのに対して、この変針データを用いて同定しノミナル値を更新した(第1回同定)ところ、2回目の変針では、オーバシュートは生じず良好な変針特性になった。2回目の変針データを用いた第2回目の同定の変動を制御ゲインで見ると、KD、ωn共に10%程度に収まっていた。よって1回の変針で良好な同定が行なえることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の船舶用自動操舵装置を含む全体のシステムを表すブロック図である。
【図2】図1の同定演算部の構成を表すブロック図である。
【図3】制御対象の構成を表すブロック図である。
【図4】外乱モデルの舵角オフセットと船首方位との変針前と変針後の関係を表すグラフである。
【図5】同定モデルの構成を表すブロック図である。
【図6】手動操船における同定演算部の構成を表すブロック図である。
【図7】手動操船における同定の時間範囲と命令舵角、船首方位、速度との関係を表す図である。
【図8】同定時間の解析のための手動変針の応答例を表すグラフである。
【図9】評価関数の同定パラメータに対する偏微係数を正規化したもの及びその正規化値の和の時間変化を表すグラフである。
【図10】パラメータ誤差及び制御ゲインの誤差のそれぞれ静定時間との関係を表すグラフである。
【図11】パラメータ調節部の詳細構成ブロック図である。
【図12】シミュレーションによる検証結果を表す図である。
【図13】従来の同定演算部のブロック図である。
【符号の説明】
【0107】
12 自動操舵装置
32 同定演算部
40 入力データ記憶部
42 出力データ記憶部
44 同定モデル
46 減算器
48 パラメータ調節部
50 安定船領域同定探索部
52 不安定船領域同定探索部
54 第1判別部
56 第2判別部
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体モデルにおける船体パラメータを同定する同定機能を有する船舶用自動操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶用自動操舵装置は、設定針路にジャイロコンパスからの方位を追従させるために舵を制御する装置であり、その制御系は、設定針路と船首方位との入力から偏差と旋回角速度とを求め制御ゲインを乗じて制御量である命令舵角を操舵機に出力する。操舵機は舵を動かして、船体に旋回角速度を誘起させて方位を変化させる。
【0003】
図1を参照して自動操舵装置を含む全体のシステムを説明すると、12は自動操舵装置、14は操舵機、16は船体であり、自動操舵装置12は、さらに、軌道演算部22、減算器24、フィードフォワード制御器26、フィードバック制御器28、加算器30、同定演算部32を備えている。
【0004】
軌道演算部22は設定針路ψSを入力し、設定針路ψSから軌道計画に基づいた参照針路ψRを演算するものである。減算器24にて参照針路ψRと船体16の船首方位ψとの偏差eがとられ、フィードバック制御器28に入力され制御ゲインが乗じられる。フィードフォワード制御器26及びフィードバック制御器28の出力が加算器30で加算されて、命令舵角δcとなる。
【0005】
同定演算部32は、船体パラメータを同定するもので、同定された船体パラメータは、軌道演算部22、フィードフォワード制御器26及びフィードバック制御部28へと入力されて、各演算及び制御に用いられる。
【0006】
例えば、貨物船やタンカーなどの船舶は荷物の積み下ろしにより喫水が変化する。そのため、船体特性が変化し積み下ろし前の制御ゲインを用いると、操舵系の閉ループ安定性が低下しヨーイングを生じる場合を起こす。この状況を回避するために船体パラメータを同定し、制御ゲインを設定する方法が非特許文献1で提案されている。
【0007】
本出願人による特許文献1では、オフライン処理による同定算法を行なう船舶用自動操舵装置を提案する。図13は、その同定演算部32のブロック図であり、自動操舵装置12と同じ、減算器24−1、フィードフォワード制御部26−1、フィードバック制御部28−1及び加算器30−1を備えると共に、制御対象モデル34、減算器36及びパラメータ調節部38を備える。この同定演算部32へ供給される入力データとしては、軌道演算部22からの参照針路ψR、また、同様に供給される出力データとしては、減算器24からの偏差eとなっており、これらは、一旦メモリに記憶され、同定演算部32での処理はオフラインで行なわれる。
【0008】
同定演算部32では、減算器36において、減算器24−1にて得られるモデル偏差emと、偏差eとの差である同定誤差が得られる。パラメータ調節部38では、基本的に、同定誤差が最小となるような船体パラメータ同定値を求め、それを、制御対象モデル34の他、軌道演算部22、フィードフォワード制御器26及びフィードバック制御部28へと供給する。
【0009】
以上の制御対象モデル34は、船体をラプラス演算子sを用いた伝達関数K/(Ts+1)によって表される1次モデルによって近似されており、同定する船体パラメータは、旋回力指数K、及び時定数である追従安定性指数Tとなっている。パラメータ調節部38では、パラメータ毎に、同定誤差の平均と分散を求め、分散の最小値を見つけ、また平均が0となる場合を見つけることにより、船体パラメータK、Tを同定している。
【0010】
また、外乱モデルに関しては、舵角オフセットを参照針路に比例する項として組み入れている。
【0011】
【非特許文献1】大津、長谷川、IX. オートパイロットの評価と展望、第3回操縦性シンホジウムテキスト、日本造船学会試験水槽委員会、p.243/279(1981)
【特許文献1】特開2001−18893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1に記載された同定においては、以下のような問題点がある。
・船体モデルを1次モデルで近似しているために、船舶によっては変針時にオーバシュートを生じることがある。
・外乱モデルである舵角オフセットが参照針路に比例する項のみであるために、変針前または保針時の舵角オフセットによる同定誤差が発生しており、これを無視できない。
・自動変針時に船体運動の初期値がほぼ0でないときに実施された場合、この初期値による同定誤差が無視できない。
・閉ループを用いているため、同定するべきパラメータが多くなると、その次数は同定モデルと制御系との和となるために、計算量が飛躍的に増大し、実用化が困難となる。
・船舶は離桟後、手動操船を経て自動操船に移るため、手動時の同定実施は安全上必須であるが、従来の同定演算部では、手動操船時の同定はできない。
・従来のパラメータ毎に平均や分散の最小値または0値を求めてパラメータを探索する手順は、同定するべきパラメータが多くなると計算量が飛躍的に増大し、実用化が困難となる。
【0013】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたもので、その目的はより実用化に適した同定を行なうことができる船舶用自動操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記同定モデルは船体モデルを含み、該船体モデルの伝達関数は、
【0015】
【数1】
で表されることを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明は、設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記同定モデルは船体モデルと外乱モデルとを含み、外乱モデルは、舵角オフセットとして、変針前または保針時の舵角オフセットδ0を組み入れており、同定演算部は、前記船体パラメータと共に変針前または保針時の舵角オフセットδ0を同定するべきパラメータとすることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の発明は、設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記同定モデルは船体モデルと外乱モデルとを含み、外乱モデルは、舵角オフセットとして、cδψ(ψ:船首方位)を組み入れており、同定演算部は、前記船体パラメータと共に舵角オフセット係数cδを同定するべきパラメータとすることを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明は、設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記同定モデルは船体モデルと変針時における船体運動の初期値とを組み入れており、同定演算部は、前記船体パラメータと共に船体運動の初期値を同定するべきパラメータとすることを特徴とする。
【0019】
請求項5に記載の発明は請求項4記載のものにおいて、前記船体運動の初期値は、船体の旋回角速度の初期値であることを特徴とする。
【0020】
請求項6に記載の発明は請求項1ないし5のいずれか1項に記載のものにおいて、前記入力データとして命令舵角、前記出力データとして船首方位とすることを特徴とする。
【0021】
請求項7に記載の発明は、設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記入力データは命令舵角、前記出力データは船首方位とすることを特徴とする。
【0022】
請求項8に記載の発明は請求項1ないし7のいずれか1項に記載の前記パラメータ調節部が、モデル出力データと出力データの差の関数となるスカラ値である評価関数を最小化する同定パラメータ値を同定パラメータに決定し、その中で対応する同定パラメータに船体パラメータを調節することを特徴とする。
【0023】
請求項9に記載の発明は請求項8記載の前記パラメータ調節部が、同定パラメータを多変数とする評価関数の極小解を求め、該極小解となる同定パラメータ値を同定パラメータとすることを特徴とする。
【0024】
請求項10に記載の発明は請求項8または9記載の前記パラメータ調節部が、船体モデルにおける船体パラメータの範囲に応じた安定船領域と不安定船領域とで評価関数をそれぞれ最小化する同定パラメータを探索する安定船領域同定探索部と不安定船領域同定探索部とをそれぞれ備えることを特徴とする。
【0025】
請求項11に記載の発明は請求項8ないし10のいずれか1項に記載の前記パラメータ調節部が、SQPのアルゴリズムにより評価関数を最小化する同定パラメータを求めることを特徴とする。
【0026】
請求項12に記載の発明は、設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から複数の船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、
前記同定モデルは船体モデルを含み、
前記パラメータ調節部は、
モデル出力データと出力データの差の関数となるスカラ値である評価関数を最小化する同定パラメータ値を同定パラメータに決定する第1判別部と、
前記第1判別部で決定した同定パラメータ値のうちの船体パラメータに対応する同定パラメータ値を用いた船体モデルの入力データに対するモデル出力データを算出し、同様に、現在の船体パラメータ値であるノミナル値を用いた船体モデルの入力データに対するモデル出力データを算出し、同定パラメータ値を用いたモデル出力データから求めた評価関数と、ノミナル値を用いたモデル出力データから求めた評価関数とをそれぞれ求めて、どちらの評価関数が小さいかまたは大きくないかを判定し、評価関数が小さいまたは大きくない方に用いた同定パラメータ値またはノミナル値に船体パラメータを調節する第2判別部と、
を備えることを特徴とする。
【0027】
請求項13に記載の発明は、請求項1ないし12のいずれか1項に記載のものにおいて、入力データと出力データは、少なくとも変針前静定時間と変針中と変針後静定時間におけるデータが含まれることを特徴とする。
【0028】
請求項14に記載の発明は、請求項1ないし13のいずれか1項に記載の前記変針後静定時間が、モデル出力データと出力データの差の関数となるスカラ値である評価関数を各同定パラメータで偏微分したときの偏微分係数の少なくとも1つの偏微分係数が変針後にピーク値を示す時刻を含むか、またはピーク値を含む時刻に基づく時間範囲に、設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
請求項1記載の発明によれば、船体モデルとして1次モデルではなく、分子に時定数T3sを加えたモデルとすることにより、変針時におけるオーバシュートの発生を防ぐことができるようになる。
【0030】
請求項2記載の発明によれば、同定モデルに外乱モデルである舵角オフセットとして変針前または保針時の舵角オフセットδ0を組み入れ、この舵角オフセットδ0を同定するべきパラメータの1つとしているので、より正確に同定を行なうことができるようになる。
【0031】
請求項3記載の発明によれば、同定モデルに外乱モデルである舵角オフセットとして、船首方位に比例する項を組み入れ、この舵角オフセット係数cδを同定するべきパラメータとすることにより、手動操船においても船首方位のデータを取り込むことができることから、手動操船時においても自動操船時と同様に同定を行なうことができるようになる。
【0032】
請求項4記載の発明によれば、同定モデルに船体運動の初期値を組み入れ、この船体運動の初期値を同定するべきパラメータとすることにより、船体運動時に変針がなされたときであっても同定をより正確に行なうことができるようになる。そして請求項5記載の発明によれば、変針時に船体が旋回角速度を持つ場合であっても、同定を行なうことができるようになる。
【0033】
請求項6及び請求項7記載の発明によれば、入力データとして命令舵角、出力データとして船首方位とすることにより、同定するべきパラメータ数が多くなったとしても、開ループであるので同定のための演算を簡素化することができる。また、手動操船においても適用できるので、手動操船及び自動操船のいずれの操舵モードにおいても同一の構成で同定処理を行なうことができるようになる。
【0034】
請求項8及び請求項9記載の発明によれば、モデル出力データと出力データの差の関数となるスカラ値である評価関数を最小化する同定パラメータ値を同定パラメータに決定することにより、同定パラメータが多数あっても、汎用のアルゴリズムによって同定パラメータを求めることができるようになる。
【0035】
請求項10記載の発明によれば、船体パラメータは、その範囲に応じた安定船領域か不安定船領域にしか存在しないので、予め決められた安定船領域か不安定船領域でそれぞれ同定パラメータを探索することで、現実の船体の特性に合致した船体パラメータを同定することができるようになる。
【0036】
請求項11記載の発明によれば、SQPのアルゴリズムを用いることにより、パラメータ探索領域を限定することができるので、所望の領域にある船体パラメータを同定することができるようになる。
【0037】
請求項12記載の発明によれば、ある同定で得られた同定パラメータ値と、現在の船体パラメータ値であるノミナル値のいずれがより適した値であるかを第2判別部が判別している。即ち、第2判別部が、それぞれの値を用いた船体モデルの入力データに対するモデル出力データを算出して、それぞれのモデル出力データから評価関数を作成し、これらの2つの評価関数のうちでより評価関数を小さくさせる同定パラメータ値またはノミナル値を船体パラメータに採用するようにしているので、仮に、良好な同定が行なえなかった場合には、その同定パラメータ値を採用しないようにして、船体パラメータを常に良好な値に維持することができる。
【0038】
請求項13記載の発明によれば、変針前静定時間におけるデータを同定演算部に取り込むことで、変針前の外乱または船体運動を含む状態を表すデータを取り込むことができて、より正確な同定を行なうことができる。
【0039】
請求項14記載の発明によれば、変針後静定時間の設定において、評価関数の偏微分係数のピーク値を示す時刻を含むようにするか、またはその時刻に基づき設定することによって、高い分解能で評価関数から同定を行なうことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の船舶用自動操舵装置を含む全体のシステムを表すブロック図である。図において、12は自動操舵装置、14は操舵機、16は船体である。操舵機14及び船体16を合わせたものが制御対象となる船体プラント18である。自動操舵装置12は、さらに、軌道演算部22、減算器24、フィードフォワード制御器26、フィードバック制御器28、加算器30、同定演算部32を備えている。フィードバック制御器28は参照針路ψR、船体16の船首方位ψ及びフィードバック制御器28出力から推定方位、推定角速度を求める推定器を含むことができる。背景技術にて既に説明した部分については、説明を省略する。
【0041】
図2は、同定演算部32の構成を表すブロック図である。同定演算部32には、実プロセスから制御対象の入出力データが時系列データとして供給されるので、これらの入力データ及び出力データを蓄積する入力データ記憶部40、出力データ記憶部42を備える。入力データ記憶部40及び出力データ記憶部42は、リングバッファ型メモリとすることができる。さらに、同定演算部32は、データ抽出部43、同定モデル44、減算器46及びパラメータ調節部48を備える。まず、同定演算の原理について以下説明する。
【0042】
1.同定モデル
同定モデル44は、船体モデル、外乱モデル及び船体運動の初期値とから構成され、入力データである命令舵角δcを入力しモデル出力データであるモデル船首方位ψmを出力する。以下、船体モデル、外乱モデル及び船体運動についてそれぞれ説明する。
【0043】
1.1 船体モデル
この実施形態において、船体モデルは、操舵機と船体とを一体化したものとし、操舵機の時定数(船体の時定数に比較して十分に小さい)やオンオフ制御の非線形性などの不確定特性を時定数の大きい船体特性に吸収させて、舵速度や許容舵角などの確定要素を残存させる。そして、船体モデルとしては、以下の式を採用することとする(図3参照)。
【0044】
【数2】
【0045】
ここで、Pは船体モデルの伝達関数、ψ(s)は船首方位、Ks、Ts、T3sは、同定するべき船体パラメータで、それぞれ旋回力ゲイン[1/s/deg]、二つの時定数[s]をそれぞれ示し、Ts>T3sである。また、(・)sは船体値を意味する。
【0046】
従来の1次モデルの伝達関数K/(Ts+1)に比較して(2)式に示す分子に時定数T3Sを加えた伝達関数を船体モデルに採用することによって、パラメータの数は増加するものの変針時のオーバシュートを防ぐことができるようになる。
【0047】
任意には、以上の船体モデルを採用する以外に、次の伝達関数を採用することも可能である。
【0048】
【数3】
しかしながら、Ts》T2sとすることができるので、(2)式とすることでも十分である。
【0049】
1.2 外乱モデル
外乱は、直流成分のものと交流成分のものとに分ける。直流成分の外乱は外乱モデルとして扱い、交流成分の外乱はそのまま未知のものとする。外乱モデルは、船体と風との相対速度
【0050】
【数4】
によって発生する船体の方位軸まわりのモーメントを舵角オフセットに換算した関数δoffset=f(ベクトルVR)で定める。相対速度ベクトルの絶対値の時間変化が微小とすれば、相対速度ベクトルは方位の関数ベクトルVR=g(ψ)として扱える。このことから舵角オフセットを、
【0051】
【数5】
と近似する。ここで、δoffsetは外乱モデルの舵角成分を、
は変針前または保針時の舵角オフセットを、cδは変針後の舵角オフセット係数を示す。(3)式の関係を図4に示す。ψは方位変化なので変針前は零であるので、(3)式の第1項のδ0は、変針前の舵角オフセットとして設定する。(3)式の第2項のcδψは変針後の方位変化に関係する舵角オフセット変化に対応する項となる。この第2項をψに比例する項とすることによって、手動操船及び自動操船のいずれの場合においても、同様のモデルを用いることができる、という利点を持つ。
【0052】
1.3 船体運動
船体運動の初期値は(2)式より直接取得できる方位と取得できない旋回角速度とがある。角速度の初期値応答は、
【0053】
【数6】
になり、方位変化は、
【0054】
【数7】
になり、方位定常値は(1−T3s/Ts)r0Tsである。仮にr0=0.01[deg/s]、Ts=100[s]、T3s=10[s]とすると、方位定常値は1度程度となり、10度の変針の場合には方位応答の10%となるから、角速度初期値を考慮しないと、方位変化が同定誤差の原因になる。しかしながら、角速度初期値は直接取得することはできないから、微分とローパスフィルタとを用いた擬似微分や対象モデルを用いた推定器による取得方法が考えられるが、擬似微分は外乱抑制のためのフィルタ時定数による時間遅れが問題となり、推定器は船体値とノミナル値とのパラメータ誤差による推定誤差が問題になる。よって、本発明では、角速度初期値を同定パラメータとして同定モデルに含ませることにより、同定誤差を防止する。
【0055】
任意には、船体モデルとして(2’)式を採用する場合には、角加速度の初期値を同定パラメータとして同定モデルに含ませることもでき、より正確に船体運動の初期値を組み込むことができるようになる。但し、実用的には、角速度初期値のみとすることで十分である。
【0056】
1.4 同定モデル
以上の船体モデル、舵角オフセット及び角速度初期値から図5に示す同定モデルを構成する。舵角オフセットに関しては、命令舵角に追加される。尚、δ0/sとするのは、一定値の入力とするためである。
同定モデルの伝達関数は、
【0057】
【数8】
になる。ここで、添字(・)mは、モデル値を意味する。よって、同定モデルは3次系となり、同定パラメータはx1m、x2m、x3m、δom、cδm、r0mの6個となる。
【0058】
2. 入力データと出力データ
本発明では、同定演算を手動操船と自動操船の両方において、それぞれの変針応答から行う。
【0059】
2.1 手動操船
手動操船においては、図6に示すように、操船者による命令舵角δcを同定演算部32の入力データとし、船首方位ψを同定演算部32の出力データとする。
簡単のため船体モデルのみを考慮すると、同定誤差γhは、(1)式及び(2)式を用いて制御対象の船首方位とモデル船首方位との差となり、
【0060】
【数9】
になる。
【0061】
上式よりP−Pm=0、即ちγh=0となるパラメータ条件を求めると、x1m=x1、x2m=x2、x3m=x3、T3m=T3を得る。
【0062】
2.2 自動操船
自動操船では、同定演算部32に供給する入力データ及び出力データの収集方式として、特許文献1における同定演算部のように(図13参照)、参照針路ψRを入力データとし、偏差eを出力データとする閉ループで同定する間接方式と、命令舵角δcを入力データとし、船首方位ψを出力データとする開ループで同定する直接方式とが考えられる。間接方式では、ψRからeまでの伝達関数の次数+同定モデルの次数になり、加えて、フィードバック制御器に含まれる推定器の初期値も考慮すると、次数が高次になり計算量も増加し、処理も煩雑になるのに対して、直接方式では同定系の次数が同定モデルの次数であり、且つ手動操船の場合と構成が同じになるために、構成が共通化・簡素化できる、という利点がある。よって、本実施形態では、直接方式で行い、命令舵角δcを入力データとし、船首方位ψを出力データとする。
【0063】
3. 評価関数及び同定範囲
3.1 評価関数
パラメータ調節部48には、上述のごとく図2に示すように、命令舵角δcを入力データとし、船首方位ψを出力データとして蓄積されたデータに対して、同定モデル44のモデル出力データと、実プロセスの出力データとの差異となる、減算器46による同定誤差γが順次入力される。パラメータ調節部48では、同定誤差γをスカラー量に変換した評価関数Jを求め、該評価関数Jを最小にするパラメータを調整する。評価関数Jとして、同定誤差γの二乗和とし、
【0064】
【数10】
と定義することができる。ここでnは同定の時間範囲内にある同定データ数を表す。勿論、二乗和とする他に、同定誤差の絶対値の和とすることもでき、または適宜重み付け係数をかけることもでき、任意の評価関数を採用することができる。
【0065】
モデルの出力はパラメータに依存するので、評価関数Jは非線形関数となる。よって、パラメータ調節部48では、多変数関数である評価関数Jを最小化するモデルのパラメータを求める。かかる演算は、公知の任意の手段、例えば、SQP(逐次型二次計画法sequential quadratic programming algorithm)のアルゴリズムを用いて行うことができ、評価関数の極小解を求め、該極小解となる同定パラメータ値を同定パラメータとする。
【0066】
SQPを用いる場合には、パラメータ探索範囲を限定することができるために、後述の領域探索において便利である。
【0067】
3.2 手動操船時の同定の時間範囲
1回の同定演算に用いるデータ抽出の時間範囲は、図7に示すように、変針前静定時間と変針中と変針後静定時間とからなる。
【0068】
同定を開始するための条件として、次の条件を設定することができる。
(1) 船速が設定上限値と設定下限値の範囲内にあること
(2) 方位変化が設定最大値と設定最小値の範囲内にあること
(3) 舵角が、変針前にその振幅が設定振幅最大値(例えば3度)を超えず、変針時の舵角が設定振幅最小値(例えば4度)を超えていること。
(4) 変針前後の静定時間がそれぞれの設定値を満足していること(例えば、変針前60秒、変針後180秒)
変針前静定時間は、δ0mとr0mとの捕捉のために設定するものであり、これらを適正に同定するのに必要な適当な時間とすることができる。
【0069】
一方、変針後静定時間は船体パラメータ誤差に影響するので、手動操船時において、同定データ数が一定で船体パラメータ誤差が小さくなるような静定時間を設定する必要がある。以下、この静定時間について説明する。
【0070】
同定演算は、(4)式の同定パラメータに対する偏微係数を零にする停留点を求めることであるから、
【数11】
となる。ここで、xim(i=1〜3)は簡単化のために船体モデルの船体パラメータのみを考える。同定モデル44が制御対象18と一致するものとして、上式の∂ψm/∂ximを制御対象の∂ψ/∂xiと置き換えて考える。そのため、図8に示すようなδcの時系列データを入力データとする手動操船における変針の応答を考える。図8において、δwは操舵量[deg]を、twは入力時間[s]を示す。δcに対するψの時間応答解と偏微係数とは、t<twにおいて、
【0071】
【数12】
になる。ここで、c3=1−T3s/Tsである。同様に、t≧twにおいて、
【0072】
【数13】
【0073】
になる。静定時間を調べるために、t≧twでの各偏微係数において、定常値を求めると、ψ(t→∞)=δwKstw、∂ψ/∂Ks(t→∞)=δwtw、∂ψ/∂Ts(t→∞)=0、∂ψ/∂T3s(t→∞)=0になる。∂ψ/∂Tsのピーク値は、その時間微分関数を零とする時間tpで与えられる。即ち、
【0074】
【数14】
【0075】
になる。ここで、eε≒1+ε+(1/2)ε2を用いている。
【0076】
静定時間の範囲は偏微係数のピーク値を含んだ方が分解能が得られ、停留点での精度が向上すると考えられる。そこで、各偏微係数をそれぞれの定常値またはピーク値で割った値、つまり正規化した値の和
【0077】
【数15】
【0078】
を求める。ここで、cK=δwtw、cT=∂ψ/∂Ts|t=tp、cT3=∂ψ/∂T3s|t=tw、である。
【0079】
Ks=0.05、Ts=40、T3s=4とした数値例の場合の正規化した偏微係数の時間応答を図9に示す。同図によりNSは、∂ψ/∂Tsのピーク付近で最大値となり、その後、減衰して1に漸近する。静定時間はNSのピークを含んだTs以上、例えば、2Ts〜3Tsが良いと考えられる。
【0080】
同定範囲とする静定時間に対する同定計算の結果を図10に示す。図10は船体パラメータ誤差(図10の上段)及び制御ゲインの誤差(図10の下段)のそれぞれ同定範囲とする静定時間との関係を表すグラフである。同定データ数(100点)は一定としているので、静定時間が長くなる程、データ間隔が増すことになる。
【0081】
ここで、船体パラメータを集約した指標である制御ゲインとして、微分ゲインKDnと、2次標準系の固有周波数ωnとを用いており、KDn及びωnは、以下の式で定義される。
【0082】
【数16】
【0083】
上式において比例ゲインKp=1、ζn=0.9を用いる。図10中、KDm、ωmは同定値を、KDs、ωsは船体値を表している。図10の上段からパラメータ誤差に関しては、静定時間が1.5Ts〜3Tsのときにパラメータ誤差が小さくなり、図10の下段から制御ゲイン誤差は静定時間が3Tsの前後のときに小さくなることがわかる。
【0084】
以上のことから、変針後の同定範囲の静定時間として3Ts程度を選ぶとよいことが分かる。実際には、手動操船の場合、変針中の時間範囲が不確定であることが多いので、変針開始前の所定時間と変針開始後の所定時間(上記3Tsを目安に設定される)の合計を同定の時間範囲とする。
【0085】
3.3 自動操船時の同定の時間範囲
自動操船時についても、同定を開始するための条件を手動操船時と同様に設定する。また、同定の時間範囲は変針前静定時間、変針中及び変針後静定時間とからなる。変針前は手動操船と同様に設定することができる。変針中は変針のための命令舵角入力時であり、入力の大きさと時間とにより変針量が決まる。
【0086】
変針後静定時間は、手動操船時と異なり閉ループ特性をもち、閉ループの代表根の特性は(5)、(6)式で表される。代表根の減衰係数は設計値ζn=0.9と異なるが、悪くても0.3程度が確保できる。そのため、変針後、代表根の固有周波数の周期で0.3×0.3≒0.1程度の振幅減衰が得られる。よって静定時間は代表根である操舵系の固有周期の1倍程度を確保すれば、その応答特性を把握できると考える。
【0087】
同定演算部32は以上の原理に従って構成され、まず、入力データである命令舵角δc、及び出力データである船首方位ψが時系列的に順次、入力データ記憶部40及び出力データ記憶部42に格納される。
【0088】
また、手動操船か自動操船かを示す操舵モード信号がデータ抽出部43に入力される。データ抽出部43において手動操船であり同定開始条件を満足すると判定された場合には、設定された変針前の所定の静定時間及び3Ts程度の変針後の所定の静定時間の間のデータがそれぞれ入力データ記憶部40及び出力データ記憶部42から抽出される。
【0089】
また、自動操船であり同定開始条件を満足すると判定された場合には、設定された変針前静定時間、変針中、及び操舵周期程度の変針後静定時間の間のデータがそれぞれ入力データ記憶部40及び出力データ記憶部42から抽出される。
【0090】
抽出された入力データは、同定モデル44において演算されて、モデル船首方位ψmが出力されて、減算器46で実際の船首方位ψとの差である同定誤差γが求められ、該同定誤差γがパラメータ調節部48で評価されパラメータの調節がなされる。パラメータ調節部48は、同定モデル44で用いる同定パラメータを変化させて同定誤差γから(4)式で表される評価関数を求め、該評価関数を最小とする同定パラメータを決定する。
【0091】
パラメータ調節部48の詳細構成ブロック図を図11に示す。パラメータ調節部48は、安定船領域同定探索部50、不安定船領域同定探索部52、第1判別部54、第2判別部56及び船体ノミナル値記憶部58を備える。
【0092】
安定船とは、x1>0、x2>0及びx3>0を満足する船であり、不安定船とは、x1<0、x2>0及びx3<0を満足する船であり、いずれかの条件を満足する船しか存在し得ない。評価関数を最小とする同定パラメータが必ず安定船か不安定船のいずれかの範囲に属するように、それぞれ安定船領域同定探索部50、不安定船領域同定探索部52は、それぞれの満足するべき条件の範囲内で同定パラメータの探索を行なうべく、同定モデル44の同定パラメータの範囲を変化させる。
【0093】
安定船領域同定探索部50及び不安定船領域同定探索部52のそれぞれで決定された最小の評価関数Js、Juは、第1判別部54において、いずれの評価関数が小さいか(または大きくないか)が判定される。
【0094】
【数17】
【0095】
そして、より小さい評価関数を導き出す同定パラメータが決定される。
さらに、第2判別部56では、第1判別部54で決定された同定パラメータのうちの船体パラメータに対応する同定パラメータ値と、現在のノミナルの船体パラメータであり船体ノミナル値記憶部58に記憶されているノミナル値との比較を行なう。この比較は船体モデルを用いて行なう。第1判別部54で決定された船体パラメータの同定パラメータ値をx1m、x2m、x3mとし、ノミナル値をx1n、x2n、x3nとすると、それぞれの値を採用した船体モデルを用いて、それぞれ入力データである命令舵角に対するモデル船首方位を求め、評価関数Jm、Jnを求める。即ち、
【0096】
【数18】
【0097】
そして、いずれの評価関数Jm、Jnが小さいか(または大きくないか)が判定される。
【0098】
【数19】
【0099】
Jmの方が小さい場合には、第1判別部54で決定された同定パラメータをノミナル値に更新して、船体ノミナル値記憶部58に記憶すると共に、出力する。一方、Jnの方が小さい場合には、更新は行なわず、現在のノミナル値をそのまま出力する。同じ場合はいずれかの値を採用する。
【0100】
こうして、同定して得られた同定パラメータ値が現在のノミナル値よりも悪いと考えられる場合には、その同定パラメータ値を採用しないようにして、船体パラメータを常に良好な値に維持することができる。
【0101】
4.検証結果
以上の同定モデルによる同定の効果をシミュレーションによって検証する。制御対象は実船の特性に近いと考えられる流体力学モデルを用いる(但し、船体パラメータに相当する値は不明である)。同定パラメータの探索範囲は、船体パラメータ(x1、x2、x3)において安定船と不安定船に分け、外乱と運動量初期値(δ0、cδ、r0)を含み、以下の表の範囲とする。
【0102】
【表1】
【0103】
安定船領域同定探索部50及び不安定船領域同定探索部52のそれぞれで、対応する探索範囲での評価関数が小さい方の船体パラメータを第1判別部54で求め、それを船体ノミナル値とした。尚、第2判別部56による判定はここでは行なっていない。
静定時間は3Ts≒180[s]とした。同定計算にはSQPを利用した。
【0104】
シミュレーション結果を図12に示す。制御対象を不安定船相当に、船体ノミナル値の初期値を安定船相当に設定して、±10度の変針を実施した。
【0105】
1回目の変針ではパラメータ誤差のためオーバシュートを生じているのに対して、この変針データを用いて同定しノミナル値を更新した(第1回同定)ところ、2回目の変針では、オーバシュートは生じず良好な変針特性になった。2回目の変針データを用いた第2回目の同定の変動を制御ゲインで見ると、KD、ωn共に10%程度に収まっていた。よって1回の変針で良好な同定が行なえることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の船舶用自動操舵装置を含む全体のシステムを表すブロック図である。
【図2】図1の同定演算部の構成を表すブロック図である。
【図3】制御対象の構成を表すブロック図である。
【図4】外乱モデルの舵角オフセットと船首方位との変針前と変針後の関係を表すグラフである。
【図5】同定モデルの構成を表すブロック図である。
【図6】手動操船における同定演算部の構成を表すブロック図である。
【図7】手動操船における同定の時間範囲と命令舵角、船首方位、速度との関係を表す図である。
【図8】同定時間の解析のための手動変針の応答例を表すグラフである。
【図9】評価関数の同定パラメータに対する偏微係数を正規化したもの及びその正規化値の和の時間変化を表すグラフである。
【図10】パラメータ誤差及び制御ゲインの誤差のそれぞれ静定時間との関係を表すグラフである。
【図11】パラメータ調節部の詳細構成ブロック図である。
【図12】シミュレーションによる検証結果を表す図である。
【図13】従来の同定演算部のブロック図である。
【符号の説明】
【0107】
12 自動操舵装置
32 同定演算部
40 入力データ記憶部
42 出力データ記憶部
44 同定モデル
46 減算器
48 パラメータ調節部
50 安定船領域同定探索部
52 不安定船領域同定探索部
54 第1判別部
56 第2判別部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記同定モデルは船体モデルを含み、該船体モデルの伝達関数は、
【数1】
で表されることを特徴とする船舶用自動操舵装置。
【請求項2】
設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記同定モデルは船体モデルと外乱モデルとを含み、外乱モデルは、舵角オフセットとして、変針前または保針時の舵角オフセットδ0を組み入れており、同定演算部は、前記船体パラメータと共に変針前または保針時の舵角オフセットδ0を同定するべきパラメータとすることを特徴とする船舶用自動操舵装置。
【請求項3】
設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記同定モデルは船体モデルと外乱モデルとを含み、外乱モデルは、舵角オフセットとして、cδψ(ψ:船首方位)を組み入れており、同定演算部は、前記船体パラメータと共に舵角オフセット係数cδを同定するべきパラメータとすることを特徴とする船舶用自動操舵装置。
【請求項4】
設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記同定モデルは船体モデルと変針時における船体運動の初期値とを組み入れており、同定演算部は、前記船体パラメータと共に船体運動の初期値を同定するべきパラメータとすることを特徴とする船舶用自動操舵装置。
【請求項5】
前記船体運動の初期値は、船体の旋回角速度の初期値であることを特徴とする請求項4記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項6】
前記入力データとして命令舵角、前記出力データとして船首方位とすることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項7】
設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記入力データは命令舵角、前記出力データは船首方位とすることを特徴とする船舶用自動操舵装置。
【請求項8】
前記パラメータ調節部は、モデル出力データと出力データの差の関数となるスカラ値である評価関数を最小化する同定パラメータ値を同定パラメータに決定し、その中で対応する同定パラメータに船体パラメータを調節することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項9】
前記パラメータ調節部は、同定パラメータを多変数とする評価関数の極小解を求め、該極小解となる同定パラメータ値を同定パラメータとすることを特徴とする請求項8記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項10】
前記パラメータ調節部は、船体モデルにおける船体パラメータの範囲に応じた安定船領域と不安定船領域とで評価関数をそれぞれ最小化する同定パラメータを探索する安定船領域同定探索部と不安定船領域同定探索部とをそれぞれ備えることを特徴とする請求項8または9記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項11】
前記パラメータ調節部は、SQPのアルゴリズムにより評価関数を最小化する同定パラメータを求めることを特徴とする請求項8ないし10のいずれか1項に記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項12】
設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から複数の船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、
前記同定モデルは船体モデルを含み、
前記パラメータ調節部は、
モデル出力データと出力データの差の関数となるスカラ値である評価関数を最小化する同定パラメータ値を同定パラメータに決定する第1判別部と、
前記第1判別部で決定した同定パラメータ値のうちの船体パラメータに対応する同定パラメータ値を用いた船体モデルの入力データに対するモデル出力データを算出し、同様に、現在の船体パラメータ値であるノミナル値を用いた船体モデルの入力データに対するモデル出力データを算出し、同定パラメータ値を用いたモデル出力データから求めた評価関数と、ノミナル値を用いたモデル出力データから求めた評価関数とをそれぞれ求めて、どちらの評価関数が小さいかまたは大きくないかを判定し、評価関数が小さいまたは大きくない方に用いた同定パラメータ値またはノミナル値に船体パラメータを調節する第2判別部と、
を備えることを特徴とする船舶用自動操舵装置。
【請求項13】
入力データと出力データは、少なくとも変針前静定時間と変針中と変針後静定時間におけるデータが含まれることを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1項に記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項14】
前記変針後静定時間は、モデル出力データと出力データの差の関数となるスカラ値である評価関数を各同定パラメータで偏微分したときの偏微分係数の少なくとも1つの偏微分係数が変針後にピーク値を示す時刻を含むか、またはピーク値を含む時刻に基づく時間範囲に設定されることを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1項に記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項1】
設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記同定モデルは船体モデルを含み、該船体モデルの伝達関数は、
【数1】
で表されることを特徴とする船舶用自動操舵装置。
【請求項2】
設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記同定モデルは船体モデルと外乱モデルとを含み、外乱モデルは、舵角オフセットとして、変針前または保針時の舵角オフセットδ0を組み入れており、同定演算部は、前記船体パラメータと共に変針前または保針時の舵角オフセットδ0を同定するべきパラメータとすることを特徴とする船舶用自動操舵装置。
【請求項3】
設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記同定モデルは船体モデルと外乱モデルとを含み、外乱モデルは、舵角オフセットとして、cδψ(ψ:船首方位)を組み入れており、同定演算部は、前記船体パラメータと共に舵角オフセット係数cδを同定するべきパラメータとすることを特徴とする船舶用自動操舵装置。
【請求項4】
設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記同定モデルは船体モデルと変針時における船体運動の初期値とを組み入れており、同定演算部は、前記船体パラメータと共に船体運動の初期値を同定するべきパラメータとすることを特徴とする船舶用自動操舵装置。
【請求項5】
前記船体運動の初期値は、船体の旋回角速度の初期値であることを特徴とする請求項4記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項6】
前記入力データとして命令舵角、前記出力データとして船首方位とすることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項7】
設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、前記入力データは命令舵角、前記出力データは船首方位とすることを特徴とする船舶用自動操舵装置。
【請求項8】
前記パラメータ調節部は、モデル出力データと出力データの差の関数となるスカラ値である評価関数を最小化する同定パラメータ値を同定パラメータに決定し、その中で対応する同定パラメータに船体パラメータを調節することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項9】
前記パラメータ調節部は、同定パラメータを多変数とする評価関数の極小解を求め、該極小解となる同定パラメータ値を同定パラメータとすることを特徴とする請求項8記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項10】
前記パラメータ調節部は、船体モデルにおける船体パラメータの範囲に応じた安定船領域と不安定船領域とで評価関数をそれぞれ最小化する同定パラメータを探索する安定船領域同定探索部と不安定船領域同定探索部とをそれぞれ備えることを特徴とする請求項8または9記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項11】
前記パラメータ調節部は、SQPのアルゴリズムにより評価関数を最小化する同定パラメータを求めることを特徴とする請求項8ないし10のいずれか1項に記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項12】
設定針路と船首方位に基づいて船体パラメータを用いて命令舵角を出力する船舶用自動操舵装置において、
船体パラメータを同定する同定演算部を備え、該同定演算部は、
入力データと出力データとが供給されてそれぞれのデータを蓄積する記憶部と、
蓄積された入力データからモデル出力データを出力する同定モデルと、
該同定モデルからのモデル出力データと前記出力データとの比較結果から複数の船体パラメータを調節するパラメータ調節部と、
を備え、
前記同定モデルは船体モデルを含み、
前記パラメータ調節部は、
モデル出力データと出力データの差の関数となるスカラ値である評価関数を最小化する同定パラメータ値を同定パラメータに決定する第1判別部と、
前記第1判別部で決定した同定パラメータ値のうちの船体パラメータに対応する同定パラメータ値を用いた船体モデルの入力データに対するモデル出力データを算出し、同様に、現在の船体パラメータ値であるノミナル値を用いた船体モデルの入力データに対するモデル出力データを算出し、同定パラメータ値を用いたモデル出力データから求めた評価関数と、ノミナル値を用いたモデル出力データから求めた評価関数とをそれぞれ求めて、どちらの評価関数が小さいかまたは大きくないかを判定し、評価関数が小さいまたは大きくない方に用いた同定パラメータ値またはノミナル値に船体パラメータを調節する第2判別部と、
を備えることを特徴とする船舶用自動操舵装置。
【請求項13】
入力データと出力データは、少なくとも変針前静定時間と変針中と変針後静定時間におけるデータが含まれることを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1項に記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項14】
前記変針後静定時間は、モデル出力データと出力データの差の関数となるスカラ値である評価関数を各同定パラメータで偏微分したときの偏微分係数の少なくとも1つの偏微分係数が変針後にピーク値を示す時刻を含むか、またはピーク値を含む時刻に基づく時間範囲に設定されることを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1項に記載の船舶用自動操舵装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−321455(P2006−321455A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148600(P2005−148600)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000003388)株式会社トキメック (103)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000003388)株式会社トキメック (103)
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