説明

船舶用電源システム

【課題】船内母線に対して電圧や周波数が異なる電源から効率良く、船内母線への電力供給と電動機の駆動とを実現できるようにした船舶用電源システムを提供する。
【解決手段】船内母線3の電圧周波数と同期しながら、出力指令に基づいて出力電力を制御するための第1の制御信号aを出力する第1の制御手段19-4と、速度指令に基づいて出力電力を調節して電動機9の速度を制御するための第2の制御信号bを出力する第2の制御手段19-5と、切替設定に従って第1の制御信号aと第2の制御信号bとを切り替える信号切替手段19-6とを備え、インバータ装置19が船内母線3に接続された場合は第1の制御信号aを選択してインバータ装置19を運転し、船内母線3に接続されている負荷5に電力を供給し、インバータ装置19が電動機9に接続された場合は第2の制御信号bを選択してインバータ装置19を運転し電動機9を駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の船内負荷へ電力を供給する船舶用電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶に備えられる電源システムには、ディーゼル発電装置やガスタービン発電装置に加えて、船舶の主機に直結された発電機(軸駆動発電機)で発電するシステムや主機に備わった排気ガスターボチャージャに直結された発電機で発電するようにした発電システムが利用されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0003】
このように、主機や排気ガスターボチャージャで駆動される発電機から船内へ電力を供給する発電システムの場合、ディーゼル発電装置やガスタービン発電装置で消費する燃料を削減でき、船舶全体の発電効率を向上させることができる。
【0004】
このような船舶用電源システムの従来技術について図4を参照して説明する。
図4において、ディーゼル発電装置1は遮断器2を介して船内母線3に一定電圧一定周波数の電力を供給する。船内母線3には遮断器4を介して一般負荷(L)5が接続される。
【0005】
船内母線3にはまた、遮断器6と電動機駆動用インバータ装置7を介して例えば荷役用ポンプ(P)8を駆動する電動機(M)9が負荷として接続される。電動機駆動用インバータ装置7は船内母線3から供給される一定電圧一定周波数の電力を入力し、内部のコンバータ(CONV)7-1で一旦直流電力に変換した後に直流主回路7-2を介してインバータ(INV)7-3で任意の可変電圧可変周波数の電力に変換することにより電動機9を可変速駆動する。
【0006】
電動機駆動用インバータ装置7の内部に設けられた速度制御装置7-4は、速度指令に基づいて、例えばV/f制御によって電動機駆動用インバータ装置7の出力電圧周波数を制御して電動機9の速度を制御する。
【0007】
主機10はスクリュー11を駆動すると共に発電機(S/G)12を駆動する。発電機12は発電用インバータ装置13とフィルタ(FIL)14および遮断器15を介して船内母線3に接続され、船内負荷へ電力を供給する。
【0008】
発電用インバータ装置13は主機10の運転状態に応じて発電機12から出力される電圧および周波数の変動する電力を入力し、内部のコンバータ(CONV)13-1で直流電力に変換した後、直流主回路13-2を介してインバータ(INV)13-3により船内母線3の電圧周波数に変換して出力する。発電用インバータ装置13の内部に設けられている発電用制御装置13-4は、変圧器16により検出した船内母線3電圧の周波数と位相を基準とし、変流器17により検出した出力有効電流および出力無効電流が「出力有効電流指令」および「出力無効電流指令」と一致するようにインバータ13-3の出力電圧と出力電流とを制御することにより出力電力を自動制御する。
【0009】
なお、変流器17を介さずに「出力有効電流指令」および「出力無効電流指令」をインバータ13-3に与え、インバータ13-3の出力電圧と出力電流を操作することで出力電力を与えることもできる。
【0010】
従来の船舶用電源システムでは、以上のような構成により主機10の運転中その動力を電力に変換して船内母線3に供給することにより、ディーゼル発電装置1の燃料を低減して船舶内の発電システム全体の効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2009−521363号公報
【特許文献2】特開2010−222001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図4で示したような従来の船舶用電源システムは、電圧と周波数が変動する発電電力を一定電圧一定周波数の船内母線に供給するものであるが、そのためには電圧と周波数とを変換する専用の発電用インバータ装置13を設置する必要があり、スペースの限られた船内に発電用インバータ装置13と電動機駆動用インバータ装置7の合計2台のインバータ装置を設置することになる。
【0013】
電動機駆動用インバータ装置7は、主に船舶が港湾に停泊中の荷役作業時に運転され、航海中に運転されることは少ない。一方、発電用インバータ装置13は、船舶が港湾に停泊中主機10および発電機12の運転停止しているため、運転されることはないが航海中は常時運転される。
【0014】
このように、発電用インバータ装置13および電動機駆動用インバータ装置7はいずれか一方が運転停止される期間があり、それぞれの稼働時間に無駄が生じている。
仮に、航海中に荷役作業が行われることを想定したとしても、発電機12から発電用インバータ装置13、船内母線3および電動機駆動用インバータ装置7を介して電動機9に供給される電力は、発電機12の交流電力から船内母線3の一定電圧一定周波数の交流電力に変換された後、さらに電動機9を駆動するための可変電圧可変周波数の交流電力に変換されることになり、電力変換過程に無駄が生じ、変換効率が低い状態で運転されることになる。
【0015】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、電圧や周波数が異なる電源から効率良く、船内母線への電力供給と電動機の駆動とを実現できるようにした船舶用電源システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために請求項1に係る船舶用電源システムの発明は、船内に設けられ、電源として交流電力または直流電力を入力し、これを任意の電圧および周波数の交流電力に変換して出力するインバータと、船内に設けられた発電装置から一定電圧一定周波数の交流電力を供給される船内母線と、可変電圧可変周波数の交流電力によって駆動される電動機と、前記インバータの出力を前記船内母線あるいは前記電動機へ切替接続する遮断器と、前記船内母線の電圧周波数と同期しながら、出力指令に基づいて前記インバータの出力電力を制御するための第1の制御信号を出力する第1の制御手段と、速度指令に基づいて前記インバータの出力電力を調節して前記電動機の速度を制御するための第2の制御信号を出力する第2の制御手段と、切替設定に従って前記第1の制御信号と前記第2の制御信号とを切り替える信号切替手段とを備え、前記インバータが前記船内母線に接続された場合は前記信号切替手段により前記第1の制御信号を選択し、当該第1の制御信号に基づいて前記インバータを運転して当該船内母線に接続されている負荷に電力を供給し、前記インバータが前記電動機に接続された場合は前記信号切替手段により前記第2の制御信号を選択し、当該第2の制御信号に基づいて前記インバータを運転して当該電動機を駆動することを特徴とする。
【0017】
また、請求項2に係る船舶用電源システムの発明は、請求項1記載の船舶用電源システムにおいて、前記インバータの電源が船舶の主機により駆動される発電機であることを特徴とする。
【0018】
また、請求項3に係る船舶用電源システムの発明は、請求項1記載の船舶用電源システムにおいて、前記インバータの電源が前記船舶の主機に備えられている排気ガスターボチャージャ装置により駆動される発電機であることを特徴とする。
【0019】
さらに、請求項4に係る船舶用電源システムの発明は、請求項2または3のいずれかに記載の船舶用電源システムにおいて、前記インバータの電源を前記発電機から前記船内母線に切替える切替開閉器を備え、前記船内母線の交流電力を当該インバータにより任意の交流電力に変換して前記電動機を駆動することを特徴とする。
【0020】
さらに、請求項5に係る船舶用電源システムの発明は、請求項1記載の船舶用電源システムにおいて、前記インバータの電源が蓄電池システムであることを特徴とする。
さらにまた、請求項6に係る船舶用電源システムの発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の船舶用電源システムにおいて、前記インバータと、前記第1の制御手段と、前記第2の制御手段と、前記信号切替手段とを纏めてインバータ装置を構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、1台のインバータ装置で船内母線への電力供給と、荷役作業用等の電動機の速度制御の両方を行える船舶用電源システムを実現できるため、電圧および周波数が変動する交流電源や直流電源からの電力を効率良く、船内母線への電力供給あるいは電動機の駆動が可能であり、しかも占有スペースが小さく、さらに船内に艤装する部品の設備費を抑制することのできる船舶用電源システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る船舶用電源システムの構成図。
【図2】本発明の第1の実施形態の変形例に係る船舶用電源システムの構成図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る船舶用電源システムの構成図。
【図4】従来技術の船舶用電源システムの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、各図を通して対応する装置、部品には同一符号を付けることにより、重複する説明は適宜省略する。
【0024】
[第1の実施形態]
図1は本発明の第1の実施の形態の船舶用電源システムの構成図である。
図1において、船内に設けられたディーゼル発電装置(D/G)1は遮断器2を介して船内母線3に一定電圧および一定周波数の電力を供給する。船内母線3に遮断器4を介して接続された一般負荷(L)5には一定電圧および一定周波数の電力が供給される。
【0025】
主機10はスクリュー11を駆動すると共に発電機(S/G)12を駆動する。発電機12は切替開閉器18、インバータ装置19、遮断器15、遮断器20およびフィルタ14を順に介して船内母線3に接続されると共に、遮断器15および遮断器20の共通接続点Jに接続された遮断器6を介して荷役用ポンプ8駆動用の電動機9にも接続されるようになっている。なお、前記切替開閉器18は、可動接点c3を固定接点c1または固定接点c2の何れかに切替ることによってインバータ装置19の電源を切替るように構成されている。因みに、可動接点c3を固定接点c1に接続したときは発電機12がインバータ装置19の電源として接続され、一方、可動接点c3を固定接点c2に接続したときは電路21を介して船内母線3がインバータ装置19の電源として接続される。
【0026】
インバータ装置19は、発電機12から入力した電圧および周波数が変動する交流電力を内部のコンバータ19-1で一旦直流電力に変換し、直流主回路19-2に接続されたインバータ19-3により任意の電圧および周波数の交流電力に変換して出力する。
【0027】
また、インバータ装置19の内部に設けた発電用制御装置19-4は、変圧器16を介して検出した船内母線3の電圧の周波数と位相を基準とし、変流器17を介して検出した出力有効電流および出力無効電流が、「出力有効電流指令」および「出力無効電流指令」に一致するようにインバータ19-3の出力電圧と出力電流とを制御する制御信号aを出力する。なお、「出力有効電流指令」および「出力無効電流指令」を総称して「出力指令」と言う場合がある。
【0028】
また、インバータ装置19内部に設けた速度制御装置19-5は、外部から与えられた「速度指令」に基づいて、例えばV/F制御によってインバータ19-3の出力電圧および出力周波数を制御する制御信号bを出力する。
【0029】
さらに、インバータ装置19内部に設けた信号切替器19-6は、「切替設定」に基づいて前記発電用制御装置19-4から出力された制御信号aと前記速度制御装置19-5から出力された制御信号bのいずれかを選択し、その選択された信号をインバータ19-3へ出力する。すなわち、インバータ19-3は信号切替器19-6から出力された制御信号aまたは制御信号bのいずれかの制御信号に基づいて出力電圧を制御する。
【0030】
ディーゼル発電装置1が一般負荷5へ一定電圧一定周波数の電力を供給しているときに、切替開閉器18の可動接点c3を固定接点c1に接続することにより発電機12をインバータ装置19に接続し、さらに遮断器15および遮断器20を閉、遮断器6を開とした状態のとき、インバータ19-3が信号切替器19-6から出力された制御信号aに基づいて運転すると、主機10の運転状況によって電圧および周波数が変動する発電機12の出力電力は、インバータ装置19によって一定電圧一定周波数の交流電力に変換されて船内母線3に供給される。
【0031】
一方、遮断器20を開にしてインバータ装置19を船内母線3から切り離し、さらに電動機9に接続される遮断器6を閉じれば、信号切替器19-6からインバータ19-3に制御信号bを出力する場合、発電機12から出力された交流電力はインバータ19-3により制御信号bに基づいた電圧および周波数に変換されて電動機9を駆動する。
【0032】
通常、船舶の停泊中は主機10が停止しているため発電機12からの電力を得ることができないので、代わって船内母線3からインバータ装置19に電力を供給することになる。この場合、切替開閉器18の可動接点c3を固定接点c1から固定接点c2へ切替えることにより、電路21を介して船内母線3とインバータ装置19とが接続され、船内母線3の一定電圧および一定周波数の電力は、インバータ19-3により任意の電圧および周波数の電力に変換して出力することができ、この出力された任意の電圧および周波数の電力によって電動機9を駆動することができる。
【0033】
以上述べたように、本実施形態によれば、主機10で駆動される発電機12の電圧および周波数が変動する電力を1台のインバータ装置19のみで船内母線3への電力供給と電動機9の駆動を切替えて運転可能とする船舶用電源システムを実現することができる。また、主機10が停止している停泊中であっても、切替開閉器18により船内母線3から電路21を介してインバータ装置19へ電力供給ができるので、停泊中に電動機9を駆動することが可能である。
【0034】
[変形例]
図1に示した発電機12は、主機10で直接駆動するように構成されているが、主機10で直接駆動する代わりに図2に示すように主機10に備わる排気ガスターボチャージャ(TC)22によって駆動するようにしても同様の機能を実現できる。
【0035】
また、変流器17を介さずに「出力有効電流指令」および「出力無効電流指令」を発電用制御回路19-4に与えてインバータ19‐3の出力電圧と出力電流とを制御し出力電力を与えるように変更してもよい。
【0036】
[第2の実施形態]
図3は本発明の第2の実施の形態の船舶用電源システムの構成図である。
図3において、本実施形態が第1の実施形態と相違する点は、インバータ装置19に替えてコンバータ19-1を省いて直流電力を電源とするインバータ装置19Aを設けた点、インバータ19-3の電源として主機10により駆動される発電機(S/G)12に替えて、蓄電池システム23を設けるようにした点、切替開閉器18に替えて遮断器24を設けた点、電路21を省いた点であり、その他の構成は図1と同様である。
【0037】
本実施形態は、蓄電池システム23から出力される直流電力をインバータ19-3で所望の電圧および周波数の交流電力に変換して船内母線3に供給したり、電動機9に供給してこれを駆動することができる。
【0038】
本実施形態は、第1の実施形態の奏する作用効果に加えて、発電機(S/G)12に替えて直流電力を出力する蓄電池システム23を採用したことにより、コンバータ19-1を省くことができるので、インバータ装置19Aの製造コストを抑えることができ、その分、船舶用電源システムの設備費を抑制することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…ディーゼル発電装置(D/G)、2,4,6,15,20,24…遮断器、3…船内母線、5…一般負荷(L)、8…荷役用ポンプ(P)、9…電動機(M)、10…主機、11…スクリュー、12…発電機(S/G)、14…フィルタ、16…変圧器(PT)、17…変流器(CT)、18…切替開閉器、19,19A…インバータ装置、19-1…コンバータ(CONV)、19-2…直流主回路、19-3…インバータ(INV)、19-4…発電用制御装置、19-5…速度制御装置、19-6…信号切替器、21…電路、22…排気ガスターボチャージャ(TC)、23…蓄電池システム、a,b…制御信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船内に設けられ、電源として交流電力または直流電力を入力し、これを任意の電圧および周波数の交流電力に変換して出力するインバータと、
船内に設けられた発電装置から一定電圧一定周波数の交流電力を供給される船内母線と、
可変電圧可変周波数の交流電力によって駆動される電動機と、
前記インバータの出力を前記船内母線あるいは前記電動機へ切替接続する遮断器と、
前記船内母線の電圧周波数と同期しながら、出力指令に基づいて前記インバータの出力電力を制御するための第1の制御信号を出力する第1の制御手段と、
速度指令に基づいて前記インバータの出力電力を調節して前記電動機の速度を制御するための第2の制御信号を出力する第2の制御手段と、
切替設定に従って前記第1の制御信号と前記第2の制御信号とを切り替える信号切替手段とを備え、
前記インバータが前記船内母線に接続された場合は前記信号切替手段により前記第1の制御信号を選択し、当該第1の制御信号に基づいて前記インバータを運転して当該船内母線に接続されている負荷に電力を供給し、前記インバータが前記電動機に接続された場合は前記信号切替手段により前記第2の制御信号を選択し、当該第2の制御信号に基づいて前記インバータを運転して当該電動機を駆動することを特徴とする船舶用電源システム。
【請求項2】
前記インバータの電源は、船舶の主機により駆動される発電機であることを特徴とする請求項1記載の船舶用電源システム。
【請求項3】
前記インバータの電源は、前記船舶の主機に備えられている排気ガスターボチャージャ装置により駆動される発電機であることを特徴とする請求項1記載の船舶用電源システム。
【請求項4】
前記インバータの電源を前記発電機から前記船内母線に切替える切替開閉器を備え、前記船内母線の交流電力を当該インバータにより任意の交流電力に変換して前記電動機を駆動することを特徴とする請求項2または3のいずれかに記載の船舶用電源システム。
【請求項5】
前記インバータの電源は、蓄電池システムであることを特徴とする請求項1記載の船舶用電源システム。
【請求項6】
前記インバータと、前記第1の制御手段と、前記第2の制御手段と、前記信号切替手段とを纏めてインバータ装置を構成したことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の船舶用電源システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−18390(P2013−18390A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153924(P2011−153924)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000195959)西芝電機株式会社 (172)