説明

船舶

【課題】船型の肥大度が大きく、かつ、船首端が船首垂線(F.P.)に近い船型で、平水中造波抵抗を減少すると共に、波浪中抵抗増加を抑え、かつ、海水打ち込みを抑えることができる船舶を提供する。
【解決手段】 船長方向に関して、船首端Xfの位置から船首垂線F.P.の後方の少なくとも垂線間長Lppの10%の位置の間の範囲において、最大喫水Z0よりも上の船首部のフレアの横断面の形状を、鉛直線L(x)よりも船体中心線C.L.側にくびれた凹部10を有して形成し、該凹部10の中心の高さHmを、前記最大喫水Z0よりも上側で、船舶の航海速力をVsとし、重力加速度をgとした時に、(0.5×Vs×Vs)/gで計算される水頭h1の0.5倍以上3.0倍以下の範囲内の高さとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、満載状態における推進性能を向上できる船舶に関し、より詳細には、船首部における水面上昇に起因する満載喫水線より上の船体部分から発生する造波抵抗、及び、波浪中抵抗増加を減少できる船首部の形状を有する船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の船舶においては、図6〜図8に示すように、船首フレアは最大喫水(構造喫水:Scantling 喫水) の喫水線Z0の直上付近から水線面積を徐々に大きくして船首上甲板Z3につながるように広げている。これは、船首部にはアンカリングのための装置の格納スペースが必要になり、また、船首の上甲板には、係船作業やアンカリング作業などのために、ある程度の甲板面積が必要となるためである。
【0003】
この船首フレアの形状は、図9に示すように船首部の淀み点Oの近傍で水面が最大喫水Z0より上昇してもその影響は少なく、最大喫水Z0より上の部分に対する水の作用を特に考えなくてもよいとの設計思想に基づいている。
【0004】
しかしながら、本発明者らは、水槽実験や実船の航海の様子を観察した結果、船首部の淀み点O付近を中心した水面上昇分を考慮することが重要であり、この水面上昇分を考慮した船首部形状を採用することにより、平水航走中の造波抵抗及び波浪中抵抗増加を減少できるとの知見を得た。
【0005】
図9に示すように、船舶の航走中は、船首部と水とは相対的に航走速度Vsを持っており、船舶側に固定した座標系で見た場合には、船首部に水が流速Vsで流入してくることになる。従って、船首部がブラントな肥大船では、船首部の船体中心線(センターライン:C.L.)上の淀み点Oで水流速度Voがゼロとなるので、水の密度をρとし、重力加速度をgとすると、淀み点Oに於ける水頭h1と遠方の水頭hsとの関係は、ベルヌーイの定理により、ρ×g×ho+ρ×Vo2 /2=ρ×g×hs+ρ×Vs2 /2となり、淀み点Oに於ける水頭h1は、h1=Vs2 /(2×g)−Vo2 /(2×g)+hsとなる。ここで、Vo=0,hs=0とすると、h1=Vs2 /(2×g)となる。
【0006】
つまり、船首部の淀み点Oで水面が上昇する量を示す水頭h1は、Vs2 /(2×g)となり、船首部の先端では、航走時には、この水頭h1(Z1のライン)程度まで上昇することになる。従って、実際の水没部分は船首近傍では、満載喫水Z0よりも水頭h1分だけ高い位置Z1の近傍までとなる。例えば、船速が15kt(ノット)の船舶では、Vs=7.72m/sとなり、この水頭h1は3.0mとなる。
【0007】
そのため、図6〜図8に示す従来の船型のように、最大喫水Z0から直ぐにフレアが広がる船首形状を採用した場合は、平水航行中においても、このフレア部分で発生する波が大きくなり、船型の肥大度が大きく、かつ、船首端部が船首垂線(F.P.)に近い船型では、船首フレアが従来の船型よりも、張出が少なくなるため、フレアの傾斜角度θが大きい場合には、船首に衝突した波が、デッキに上がりやすく海水が打ち込み易くなる。また、船首に衝突した波が上に上がり易くなるため、船首端での波の上下動が大きくなり、前への押し出し(波の反射)も大きくなり、波の反射が主成分である波浪中抵抗増加も増大する。
【0008】
これに関連して、この最大喫水よりも上の部分に関して、すべての水線面形状において、船首形状を船首水線から0.02×Lov(船舶の全長)後方を50°以内に収めて、船首をできるだけ前方に尖らせて、この船首での前方への波反射、波崩れ現象を緩和し、波浪中抵抗増加を減少するた肥大船が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
しかしながら、この船首形状においては、最大喫水線を境にして上下で水線面形状の変化が大きいため、上述した船首部において水面が上昇することによる造波抵抗を減少できないという問題がある。また、船首上甲板の形状が制限されるため、アンカリング装置の格納やアンカリング作業用のスペースの確保が難しいという問題がある。
【特許文献1】特開2000−335477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、船型の肥大度が大きく、かつ、船首端が船首垂線(F.P.)に近い船型で、平水中造波抵抗を減少すると共に、波浪中抵抗増加を抑え、かつ、上甲板への海水打ち込みを抑えることができる船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明の船舶は、船長方向に関して、船首端の位置から船首垂線(F.P.)の後方の少なくとも垂線間長(Lpp)の10%の位置の間の範囲において、最大喫水よりも上の船首部のフレアの横断面の形状を、鉛直線よりも船体中心線(C.L.)側にくびれた凹部を有して形成し、該凹部の中心の高さを、前記最大喫水よりも上側で、船舶の航海速力をVsとし、重力加速度をgとした時に、(0.5×Vs×Vs)/gで計算される水頭(h1)の0.5倍以上3.0倍以下の範囲内の高さとするように構成される。
【0012】
この最大喫水は、材料寸法などから構造強度の面から決められる構造喫水(スカントリング(Scantling )喫水) 等のその船舶の航行可能な最大の喫水のことであり、船舶は、通常、この基本設計時に決められる構造喫水よりも浅い喫水で航海することになっている。なお、構造喫水は、国際満載吃水条約(ILLC)によって定められた方式によって計算される夏季満載吃水に対応する喫水であり、この喫水によって材料寸法が決められるため、構造喫水と呼ばれる。そして、この構造喫水より大きな喫水で船舶が航行することは無い。
【0013】
この凹部の中心の高さ(Hm)とは、船体横断面における船型の形状が最大喫水線(Z0)と交差する点を通る鉛直線と凹部との交点の上端(Ht)と下端(Hb)との平均高さ(Hm=(Ht+Hb)/2)のことをいう。
【0014】
そして、船首部正面では水面が盛り上がるので、凹部の中心の高さを最大水線より上の適切な位置に配置することにより、ピッチング量及び波浪中抵抗増加を減少する効果を大きくすることができる。凹部の中心の高さを水頭(h1=(0.5×Vs×Vs)/g)の0.5倍よりも小さくすると、水面上昇により、水流がフレアの広がり部分にも届くようになるため、抵抗減少効果が少なくなる。一方、この凹部の中心の高さを水頭の3.0倍よりも大きくすると、波浪中でも水流がフレアの広がり部分にも届き難くなり、抵抗減少効果を期待できるが、アンカリング装置の格納が難しくなるという問題や急激にフレアを広げることにより船首衝撃力が大きくなるという問題が生じてくる。
【0015】
また、この凹部10の中心の高さを、水頭の0.9倍〜2.6倍の範囲内とすると、この範囲から上甲板に向けて拡大すると、フレア傾斜角度が比較的小さいままで、上甲板における船首フレアの広がりを比較的大きくすることができ、船首衝撃力を少ない状態に維持したまま、アンカリング装置の格納や甲板配置が容易となるので、より好ましい。特に、満載喫水が最大喫水から大きく離れない船舶に適している。
【0016】
この構成によれば、船首部近傍において、最大喫水より上部で従来の船型の形状を削って凹部(括れ部)を設けるので、船首部で盛り上がる水や船首部に入射してくる波が、この凹部により左右の舷側側に逃げて円滑に後方に流れるようになる。そのため、平水中では、船首部における造波抵抗が減少して平水中推進抵抗が減少し、波浪中では、船首部における入射波の反射が減少して波の反射が主成分である波浪中抵抗増加が減少する。
【0017】
上記の船舶において、船長方向に関して、船首端の位置と、船首垂線の後方の垂線間長の2%の位置との間の範囲において、横断面形状で型深さの位置における水平線からの船首フレア傾斜角度を30度以上50度以下とするように構成される。
【0018】
この船首フレア傾斜角度の30度以上50度以下の範囲は実験的に求めた値であり、船首フレア傾斜角度をこの範囲にすることにより、船首フレアが従来船型よりも両舷側に開いた形状となり、船首に衝突した波がデッキ付近で返され、船首部分に衝突する波が上甲板(デッキ)付近で返されるので、上甲板上に波が打ち込まれ難くなる。船首フレア傾斜角度が、30度より小さいと、船体のピッチングを抑制する効果が小さくなり、また、上甲板への海水打ち込みを抑制する効果も少なくなる。また、30度より小さいと船舶建造時の工作が難しさを増すという問題がある。そして、船首フレア傾斜角度が、50度より大きいと、船首フレア部が開きすぎて下からの波に叩かれるので強度を補強する必要が生じたり、船体のピッチングが促進されるのでピッチング抑制効果が薄れる。
【0019】
上記の船舶において、前記凹部の中心の高さの位置を連結した形状に関して、平面視で、船首垂線(F.P.)の後方の垂線間長(Lpp)の1%の位置における幅方向位置が、船体中心線(C.L.)と船首部との交点から後方に向かって両舷側に100度以上140度以下(片舷側それぞれ50度以上70度以下)に開いた扇形状内に収まるように形成される。
【0020】
この構成によれば、凹部の中心の高さの位置を連結した形状が、膨らみを帯びず、凹部に流入する水流が後方に円滑に流れ易くなる形状になるため、船首方向に反射される波が少なくなるので、平水中推進抵抗及び波浪中抵抗増加が減少する。一方、前記の水線面の幅方向位置がこの扇形状より外側になると、船首部分の水線面形状が膨らみを帯び、凹部に流入する水流が後方に円滑に流れなくなると共に、船首方向に反射される波が多くなるので、平水中推進抵抗の増加及び波浪中抵抗の増加を抑制できなくなる。
【0021】
また、上記の船舶は、船首の最前端が船首垂線(F.P.)より前方に垂線間長(Lpp)の0%以上3.0%以下の範囲にあり、かつ、方形係数(Cb)が0.80〜0.90で、航海速力がフルード数(Fn)換算で0.12〜0.19の船舶である場合や垂線間長(Lpp)が150m〜350m等の大きな船舶の場合に特に大きな効果を奏することができる。
【0022】
この船首の最前端(船首端)の位置が船首垂線(F.P.)より前方に垂線間長Lppの0%以上3.0%以下の範囲にあるような、船首端が比較的船首垂線(F.P.)に近い船型では、従来の船首フレア形状のままでは海水打ち込みが発生し易いので、本発明の効果は大きい。
【0023】
また、方形係数Cbは、船舶の排水容積をVとし、船の垂線間長をLpp、型幅をB、型喫水をdとした時に、Cb=V/(Lpp×B×d)となる無次元の値であり、この方形係数の値が大きいと肥大の度合いが大きいので、本発明の効果はより大きくなる。
【0024】
フルード数Fnは、船速Vs(m/s)に関する無次元表示であり、船の垂線間長をLpp(m),重力加速度をg(m/s2 )とした時に、Fn=Vs/(g×Lpp)1/2 となる無次元の値であり、船首正面部分における水面の上昇が比較的高くなると共に、推進抵抗や波浪中抵抗増加は極端に大きくならないので、本発明の効果が占める割合も比較的大きくなる。なお、航海速力Vsは、計画速力等と呼ばれることもあるので、ここでも、航海速力の中に計画速力を含むものとする。
【0025】
更に、船長(垂線間長Lpp)が150m〜350m程度の船舶になると、比較的大きく肥大化し、船速も比較的遅い船舶となり、本発明の効果が大きくなる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の船舶によれば、船型の肥大度が大きく、かつ、船首端が船首垂線(F.P.)に近い船型で、船長方向に関して、船首端の位置から船首垂線(F.P.)の後方の少なくとも垂線間長(Lpp)の10%の位置の間の範囲において、船体中心線(C.L.)側にくびれた凹部を最大喫水よりも上側の適当な高さに設けたので、平水中造波抵抗を減少すると共に、波浪中抵抗増加を抑え、かつ、上甲板への海水打ち込みを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下図面を参照して本発明に係る船舶の実施の形態について説明する。
図1〜図3に示すように、本発明に係る実施の形態の船舶1は、船長方向に関して、船首端の位置Xfから船首垂線(F.P.)の後方の少なくとも垂線間長Lppの10%の位置X3の間の範囲において、最大喫水Z0よりも上の船首部のフレアの横断面の形状Yb(x,z)を、鉛直線Lよりも船体中心線C.L.側にくびれた凹部10を有して形成する。
【0028】
図1に示すように、凹部10を設ける船体横断面(X=x)において、この凹部10の中心の高さHm(x)を、船体横断面における船型の形状Yb(x,z)が最大喫水線Z0と交差する点P0を通る鉛直線L(x)と凹部10との交点の上端Ht(x)と下端Hb(x)との平均高さHm(x)(=(Ht(x)+Hb(x))/2)とする。そして、船首部正面では水面が盛り上がるので、凹部10の中心の高さHm(x)を最大水線Z0より上の適切な位置に配置することにより、ピッチング量及び波浪中抵抗増加を減少する効果を大きくすることができる。この中心の高さHm(x)を、船舶の航海速力をVsとし、重力加速度をgとした時に、(0.5×Vs×Vs)/gで計算される水頭h1(=(0.5×Vs×Vs)/g)の0.5倍〜3.0倍の範囲内の値とする。また、より好ましくは、この凹部10の中心の高さHm(x)を、水頭h1の0.9倍〜2.6倍の範囲内の値とする。
【0029】
凹部10の中心の高さHmを水頭(h1=(0.5×Vs×Vs)/g)の0.5倍よりも小さくすると、水面上昇により、水流がフレアの広がり部分にも届くようになるため、抵抗減少効果が少なくなる。一方、この凹部10の中心の高さHmを水頭h1の3.0倍よりも大きくすると、波浪中でも水流がフレアの広がり部分にも届き難くなり、抵抗減少効果を期待できるが、アンカリング装置の格納が難しくなるという問題や急激にフレアを広げることにより船首衝撃力が大きくなるという問題が生じてくる。
【0030】
また、この凹部10の中心の高さHmを、水頭h1の0.9倍〜2.6倍の範囲内とすると、この範囲から上甲板Z3に向けて拡大すると、フレア傾斜角度θが比較的小さいままで、上甲板における船首フレアの広がりを比較的大きくすることができ、船首衝撃力を少ない状態に維持したまま、アンカリング装置の格納や甲板配置が容易となるので、より好ましい。特に、満載喫水dfullが最大喫水Z0から大きく離れない船舶に適している。
【0031】
また、凹部10を設ける船体横断面(X=x)において、凹部10の上端Ht(x)と下端Hb(x)との差である凹部の縦長さ(Lz(x)=Ht(x)−Hb(x))は、水頭h1の0.5倍以上3.0倍以下とすることが好ましい。この凹部の縦長さLz(x)が水頭h1の0.5倍よりも小さいと水流を円滑に両舷側側に流すことができなくなり、水頭h1の3.0倍よりも大きいと、フレアを広げることが難しくなり、アンカリング装置の格納が難しくなる。また、急激にフレアを広げると船首衝撃力が大きくなる。
【0032】
また、凹部10を設ける船体横断面(X=x)において、凹部10の深さを、凹部10の最も船体中心線C.L.側の、即ち、最も内側の位置Pb(x)と、船型の形状Yb(x,z)が最大喫水線Z0と交差する点P0(x)を通る鉛直線L(x)との距離Ly(x)で定義し、この凹部10の深さLy(x)を、型幅Bの5%以上15%以下とすることが好ましい。この凹部の深さLy(x)が型幅Bの5%よりも小さいと水流を円滑に両舷側側に流すことができなくなり、型幅Bの15%よりも大きいと、フレアを広げることが難しくなり、アンカリング装置の格納が難しくなる。また、急激にフレアを広げると船首衝撃力が大きくなる。
【0033】
この構成によれば、船首部近傍において、最大喫水Z0より上部で従来の船型の形状を削って凹部(括れ部)10を設けるので、船首部で盛り上がる水や船首部に入射してくる波が、この凹部10により左右の舷側側に逃げて円滑に後方に流れるようになる。そのため、平水中では、船首部における造波抵抗が減少して平水中推進抵抗が減少する。また、波浪中では、入射波の前方への反射(波の前方への押し出し)が抑制されるので、波の反射が主成分である波浪中抵抗増加が減少する。また、それと共に、凹部10を設けることで、船首端に対する波の相対的な上下変動量が少なくなるので、波が上甲板(デッキ)Z3上に打ち込まれ難くなる。
【0034】
また、船首端Xfの位置と、船首垂線(F.P.)の後方の垂線間長(Lpp)の2%の位置Xrとの間の範囲において、型深さDの位置における船首フレア傾斜角度θ(x)を30度〜50度とするように構成される。
【0035】
この船首フレア傾斜角度θ(x)とは、水平線からの角度である。また、船首フレア傾斜角度θ(x)を実験的に求めた30度〜50度の範囲にすることにより、船首フレアが従来船型よりも両舷側に開いた形状となる。そのため、船首に衝突した波がデッキ付近で返され、船首部分に衝突する波が上甲板(デッキ)付近で返されるので、上甲板上に波が打ち込まれ難くなる。船首フレア傾斜角度θ(x)が、30度より小さいと、船体のピッチングを抑制する効果が小さくなり、また、上甲板への海水打ち込みを抑制する効果も少なくなる。また、30度より小さいと船舶建造時の工作が難しさを増すという問題がある。そして、船首フレア傾斜角度θ(x)が、50度より大きいと、船首フレア部が開きすぎて下からの波に叩かれるので強度を補強する必要が生じたり、船体のピッチングが促進されるのでピッチング抑制効果が薄れる。
【0036】
更に、図3に示すように、凹部10の中心の高さ(Z=Hm(x))の位置を連結した形状に関して、平面視で、船首垂線(F.P.)の後方の垂線間長(Lpp)の1%の位置Xpにおける幅方向位置Ybp(X=0.01×Lpp、Z=Hm(X=0.01×Lpp))が、船体中心線C.L.と船首部との交点Pfから後方に向かって両舷側に100度〜140度(片舷側にそれぞれ50度〜70度)開いた扇形状内(図3の斜線部)に収まるように形成する。あるいは、平面視で、この位置Xpの幅方向位置Ybpにおける船体中心線C.L.に対する傾斜角βが、60度以内に収まるように形成する。
【0037】
この構成によれば、凹部10の中心の高さHmにおける水線面形状が、丸みを帯びず、凹部10に流入する水流が後方に円滑に流れ易くなると共に、船首方向に反射される波が少なくなるので、平水中推進抵抗及び波浪中抵抗増加が減少する。一方、この水線面の幅方向位置Ybpがこの扇形状より外側になると、船首部分の水線面形状が丸みを帯び、凹部10に流入する水流が後方に円滑に流れなくなると共に、船首方向に反射される波が多くなるので、平水中推進抵抗の増加及び波浪中抵抗の増加を抑制できなくなる。
【0038】
また、上記の船舶は、船首の最前端が船首垂線(F.P.)より前方に垂線間長Lppの0%以上3.0%以下の範囲にあり、かつ、方形係数Cbが0.80〜0.90で、航海速力Vsがフルード数Fn換算で0.12〜0.19の船舶である場合や垂線間長(Lpp)が150m〜350m等の大きな船舶の場合に特に効果が大きい。
【実施例】
【0039】
実施例として、方形係数(Cb)が0.85のバルクキャリアの船型において、図4に示すように、最大喫水Z0から所定の設定高さh1までの間で変形した船型As,Bs,Cs,Dsのそれぞれに対して、船長Lppが3.42mの模型船を用意した。
【0040】
水槽における波浪中抵抗試験結果を全抵抗係数で図5に示すが、実施例Csでは、波浪中抵抗も比較例As及び実施例Bs,Dsよりは小さい。また、実施例Bs,Cs,Dsの中でも、凹部が実施例BsとDsの間にある実施例Csの抵抗が小さくなっており、凹部の形状を適切な形状にすることにより、本発明の効果をより有効なものとすることができることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る実施の形態の船舶の船首部の形状を示す部分正面図である。
【図2】図1の船舶の船首部の形状を示す部分側面図である。
【図3】図1の船舶の船首部の形状を示す部分平面図である。
【図4】実施例と比較例の船舶の船首部の形状を示す部分正面図である。
【図5】実施例と比較例の平水中抵抗試験結果の比較を示す図である。
【図6】従来の技術の船舶の船首部の形状を示す部分正面図である。
【図7】図6の船舶の船首部の形状を示す部分側面図である。
【図8】図6の船舶の船首部の形状を示す部分平面図である。
【図9】船首部における水面上昇を説明するための図である。
【符号の説明】
【0042】
1,1X 船舶
10 凹部(括れ部)
As 比較例
Bs,Cs,Ds 実施例
B 型幅
C.L. 船体中央線(センターライン)
D 型深さ
F.P. 船首垂線
Fn フルード数
g 重力加速度
h1 淀み点における水頭
hs 船首から遠方に離れた位置での水頭
Hb(x) 鉛直線と凹部との交点の下端
Hm(x) 凹部の中心の高さ
Ht(x) 鉛直線と凹部との交点の上端
Lh(x) 凹部の縦長さ
Ly(x) 凹部の深さ
L(x) 鉛直線
O 淀み点
P0(x) 船体横断面における船型の形状が最大喫水線と交差する点
Pb(x) 凹部の最も内側の位置の点
Pf 凹部の中心の高さの位置を連結した形状と船体中心線との交点
Vs 航海速力
Vo 淀み点の流速
Xf 船首端の位置
Xr 0.02×Lppの位置
Xp 0.01×Lppの位置
X3 0.1×Lppの位置
Yb(x,z) 船型の形状(フレアの横断面の形状)
Ybp 凹部の中心の高さの位置を連結した形状のXpにおける幅方向位置
Z0 最大喫水(構造喫水)
Z3 上甲板
θ(x) 船首フレア傾斜角度
α 扇形状の角度
β 傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船長方向に関して、船首端の位置から船首垂線の後方の少なくとも垂線間長の10%の位置の間の範囲において、最大喫水よりも上の船首部のフレアの横断面の形状を、鉛直線よりも船体中心線側にくびれた凹部を有して形成し、該凹部の中心の高さを、前記最大喫水よりも上側で、船舶の航海速力をVsとし、重力加速度をgとした時に、(0.5×Vs×Vs)/gで計算される水頭の0.5倍以上3.0倍以下の範囲内の高さとすることを特徴とする船舶。
【請求項2】
船長方向に関して、船首端の位置と、船首垂線の後方の垂線間長の2%の位置との間の範囲において、横断面形状で型深さの位置における水平線からの船首フレア傾斜角度を30度以上50度以下とすることを特徴とする請求項1記載の船舶。
【請求項3】
前記凹部の中心の高さの位置を連結した形状に関して、平面視で、船首垂線の後方の垂線間長の1%の位置における幅方向位置が、船体中心線と船首部との交点から後方に向かって両舷側に100度以上140度以下に開いた扇形状内に収まるように形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶。
【請求項4】
船首の最前端が船首垂線より前方に垂線間長の0%以上3.0%以下の範囲にあり、かつ、方形係数が0.80〜0.90で、航海速力がフルード数換算で0.12〜0.19の船舶であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−237895(P2007−237895A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62418(P2006−62418)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)