説明

船首バルブ形状

【課題】軽荷状態での圧力抵抗を小さくすることが可能となる船舶の船首形状を提供する。
【解決手段】船首バルブ形状において、軽荷状態での船首部の喫水αより下方の船首バルブの断面を細くした。また、前記船首バルブ形状は、軽荷状態での船首部の喫水より上部は通常より大きめの容積を持たせ、さらに、前記船首バルブ形状は、肥大船の船首バルブ形状であることを特徴とする。このような船舶の船首形状において、軽荷喫水より下部を細くすることにより、軽荷状態での速力向上と同時に、満載状態での速力低下を最小限に抑え、総合的な運航性能を向上させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥大船の船首バルブ部分に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の肥大船の船首バルブ部分は様々の形状のものが知られており、例えば、特開2004−74891号公報に開示のものが知られている。当該特開2004−74891号公報に開示のものは、「造波抵抗の低減、特に満載喫水状態における造波抵抗の低減を図ることが可能な船舶を提供する」ことを目的として(同公報明細書段落番号0006参照)、「船首に前方に突出するバルブ30を備え・・・、満載喫水線L.W.L.がバルブ30の上面30aと交差する位置にある。また、当該船舶10の最大幅をBとし、満載喫水をdとし、バルブ30の船首船尾方向の長さをLとし、バルブ30の体積をVとしたとき、0.1<(V/B・d・L)<0.25の関係を満たす。」構成により(同公報要約書解決手段参照)、「造波抵抗の低減、特に満載喫水状態における造波抵抗の低減を図ることが可能な船舶が提供される」との効果を奏するものである(同公報明細書段落番号0035参照)。
【0003】
このように、船舶の航海中に受ける造波抵抗の軽減を目的として、船舶の船首部下部に突出するバルブを設けている。図6は、当該特開2004−74891号公報において、バルブサイズ比が0.05〜0.08程度の満載喫水状態でバルブが水面下にある従来の船舶の船首部の構成を立体的に示す図として説明される従来の船首バルブ部分を示す図(特開2004−74891号公報添付図9)であり、図6において、符号L.W.Lは、喫水を示す。
次に、図6に示される従来の船首バルブ部分の概略を示す図7〜図9に基づいてさらに詳しく説明する。図7は、従来の船首バルブ部分を示す側面図であり、図8は、同正面図であり、図9は、同平面図である。図7において、αは軽荷状態喫水、F.P.やA及びB並びにaは、それぞれF.P.−F.P.断面、A−A断面等の断面基準線を示す。また、図8,図9において、C.L.は、船体中心線を示す。
【0004】
すなわち、従来の船首バルブ部分は、それぞれの図で示される側面形状、正面形状、平面形状を有し、さらに、図7〜図9において、それぞれ断面基準として示される「A断面」、「B断面」、「F.P.断面]、「a断面」は、図7においては、それぞれ直線断面として表れるが、これらの各断面基準は、図8正面図においては、図8に示されるように、各「A断面」、「B断面」は図7と同様直線状に表れるが、「a断面」、「F.P.断面」は、図8上では、長円形に表れ、同様に、図9の平面図では、「F.P.断面」、「a断面」は直線状に表れるが、「A−A断面」、「B−B断面」は、図9に示されるように表れる。
図8から明らかなように、従来の船首バルブは、前記「F.P.断面」及び「a断面」が長円形になっているため、軽荷状態では、船首バルブの幅が最大となる付近が船首部の喫水となり、このため軽荷状態には大きな圧力抵抗を受けるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−74891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑み、船舶の船首形状において、軽荷状態での圧力抵抗を小さくすることが可能となる船舶の船首形状を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題解決のために、本願請求項1に係る発明は、船首バルブ形状において、軽荷状態での船首部の喫水より下方の船首バルブの断面を細くしたことを特徴とする。
また、本願請求項2に係る発明は,前記請求項1に係る船首バルブ形状において、前記船首バルブ形状は、軽荷状態での船首部の喫水より上部は通常より大きめの容積を持たせたことを特徴とする。
さらに、本願請求項3に係る発明は、前記請求項1また2に係る船首バルブ形状において、前記船首バルブ形状は、肥大船の船首バルブ形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、上述のとおり構成されているので、次に記載する効果を奏する。
船舶の船首形状において、軽荷喫水より下部を細くすることにより、軽荷状態での速力向上と同時に、満載状態での速力低下を最小限に抑え、総合的な運航性能を向上させることが可能となるというメリットを有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本実施例1に係る船首バルブ部分の概略側面図、
【図2】図2は、本実施例1に係る船首バルブ部分の概略正面図、
【図3】図3は、本実施例1に係る船首バルブ部分の概略平面図、
【図4】図4(a)(b)は、図1〜図3に示した本実施例1に係る船首バルブ部分と図6〜図9に示した従来の船首バルブ部分の水の抵抗の概略を示す概略図、
【図5】図5は、横軸を速力(knots)、縦軸を馬力(kw)とした本実施例1に係る船首バルブ部分を有する船舶と従来の船首バルブ部分を有する船舶のそれぞれ満載状態及び軽荷状態の速力−馬力曲線を示すグラフ図、
【図6】図6は、当該特開2004−74891号公報において、バルブサイズ比が0.05〜0.08程度の満載喫水状態でバルブが水面下にある従来の船舶の船首部の構成を立体的に示す図として説明される従来の船首バルブ部分を示す図、
【図7】図7は、従来の船首バルブ部分を示す側面図、
【図8】図8は、従来の船首バルブ部分を示す正面図、
【図9】図9は、従来の船首バルブ部分を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る船首バルブ形状を実施するための形態として一実施例を示す図面に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
図1〜図3は、本発明に係る船首バルブ形状を実施するための形態の一実施例である船首バルブ部分の実施例1の概略を示す図であり、そのうち、図1は、本実施例1に係る船首バルブ部分の概略側面図であり、図2は、同概略正面図、図3は、同概略平面図である。これらの図1、図2、図3は、便宜上、図7〜図9に示す従来の船首バルブ部分と重ねて表現して、その違いが明確となるように表示している。すなわち、図1ないし図3において、従来の船首バルブ部分は、実線で示し、本実施例1に係る船首バルブ部分は、破線で示す。なお、図1ないし図3において、符号αは、図7〜図9に示すと同様の軽荷状態喫水、C.L.は船体中心線を示し、その他、「A」、「B」、「F.P.」、「a」は、それぞれ船首バルブ部分の各部位の断面基準線を示す。
【0012】
図1〜図3から明らかなように、本実施例1に係る船首バルブ部分は、軽荷状態での船首部の喫水より下方の船首バルブの断面を細くする形状とする。つまり、軽荷状態での船首部の喫水より上部は通常より大きめの容積を持たせて、船首バルブによる満載状態での造波抵抗軽減効果の減少を小さくすると共に、軽荷喫水より下部は通常より細くする形状としたものである。このようにすることにより、軽荷状態での航走時に受ける圧力抵抗を軽減させることが可能となる。
【0013】
本実施例1に係る船首バルブ部分を図1〜図3に基づいて、さらに詳しく説明する。
図1から明らかなように、本実施例1に係る船首バルブ部分の側面図は、従来の船首バルブ部分と同じ形状である。しかしながら、図2から明らかなように、本実施例1に係る船首バルブ部分の正面概略は、従来の船首バルブ部分のそれと比較すれば、前記軽荷状態喫水α直下で急激に細くなる形状である。さらに、図3から明らかなように、本実施例1に係る船首バルブ部分の平面概略は、従来の船首バルブ部分のそれと比較すれば、先端部分がより細く形成される。したがって、推進の際の水の抵抗は,本実施例1に係る船首バルブ部分を有する船舶の推進抵抗は小さくなる。
【0014】
これを概念的に示すと以下のとおりである。図4(a)(b)は、図1〜図3に示した本実施例1に係る船首バルブ部分を有する船舶と図6〜図9に示した従来の船首バルブ部分を有する船舶との間の推進の際の水の抵抗を受ける概略を示す概略図であり、図4(a)は、本実施例1に係る船首バルブ部分の抵抗概略を図4(b)は、従来の船首バルブ部分の抵抗概略を示す。図4において、C.L.は船体中心線、矢印βは水の流れを示す。
【0015】
図4(a)(b)から明らかなように、本実施例1に係る船首バルブ部分は、従来の船首バルブ部分と比較して鋭利に構成され、水の流れに対して抵抗が小さくなる。すなわち、本実施例1に係る船首バルブ部分を有する船舶において、図1ないし図3に示すように、軽荷状態での船首部の喫水より上部は通常より大きめの容積を持たせて、船首バルブによる満載状態での造波抵抗軽減効果の減少を小さくすると共に、軽荷喫水より下部を細くすることにより、軽荷状態での航走時に受ける圧力抵抗を軽減させることが可能となる。
【0016】
これを実証した。図5は、横軸を速力(knots)、縦軸を馬力(kw)とした本実施例1に係る船首バルブ部分を有する船舶と従来の船首バルブ部分を有する船舶のそれぞれ満載状態及び軽荷状態の速力−馬力曲線を示す実証データを示すグラフ図であり、従来の船首バルブ部分を有する船舶の速力−馬力曲線を実線で、本実施例1に係る船首バルブ部分を有する船舶の速力−馬力曲線を破線で示す。
なお、図5において、速力軸と平行な直線は、常用出力を示す。実証は、本願出願人の実験水槽において、垂線間長2mの模型船において、長円形の船首バルブ部分を有する模型船と、前記軽荷状態喫水直下において、船首バルブの断面を細くした本実施例1に係る船首バルブ部分を有する模型船とで実証測定した結果をグラフ化したものである。
【0017】
図5から明らかなように、長円形の船首バルブ部分を有する模型船と、本実施例1に係る船首バルブ部分を有する模型船とでは、常用出力時の満載状態及び軽荷状態において、ΔVsの改善があること明らかである。また、両模型船において、満載状態における改善と同軽荷状態における改善を比較すると、ΔVs(軽荷)>ΔVs(満載)であり、本実施例1に係る船首バルブ部分を有する船舶にあっては、総合的に見て、軽荷状態における運行性能に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、船首バルブ形状、特に,肥大船の船首バルブ形状に利用される。
【符号の説明】
【0019】
α 軽荷状態喫水、
C.L.船体中心線
A、B、F.P.、a 船首バルブ部分の各部位の断面基準線
10 当該船舶
30 バルブ
30a 上面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽荷状態での船首部の喫水より下方の船首バルブの断面を細くしたことを特徴とする船首バルブ形状。
【請求項2】
前記船首バルブ形状は、軽荷状態での船首部の喫水より上部は通常より大きめの容積を持たせたことを特徴とする請求項1に記載の船首バルブ形状。
【請求項3】
前記船首バルブ形状は、肥大船の船首バルブ形状であることを特徴とする請求項1また2に記載の船首バルブ形状。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−1147(P2012−1147A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139278(P2010−139278)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000146814)株式会社新来島どっく (101)