説明

色収差補正素子

【目的】 ガラス2枚、あるいは3枚を貼り合わせた素子よりも安価で製造できる色収差補正素子を提供することを目的とする。
【構成】 光入射端面1a、射出端面1bの少なくとも一方に、光軸に対して垂直な平面を光軸に対して同心円状の輪帯として階段状に形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、光学系の持つ色収差を補正する素子に関し、特に、色収差以外の収差が補正された非球面単レンズと組み合せて利用される色収差補正素子に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、光ディスク用の対物レンズには軽量化のために両面非球面の単レンズが使われるようになっている。しかし、非球面単レンズでは色収差の補正はできない。
【0003】光ディスク装置の光源として用いられている半導体レーザーは、出力パワーの変化、あるいは温度の変化により発光波長がシフトする。このため、対物レンズの色収差が補正されていない場合には、光束の集光位置が波長のシフトにより変化し、情報の読取、書込みに誤りを生じる可能性がある。
【0004】この問題を解決するため、本発明者らは、ガラスレンズを2枚、あるいは3枚貼り合わせた色収差補正素子を発明した(特開平3-155514号公報、特開平3-155515公報参照)。この色収差補正素子を非球面単レンズと組み合せて使用することにより、波長変動による影響を受けないレンズを比較的小型で提供できた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した色収差補正素子は製造コストが高く、非球面単レンズを用いることによるコストダウンの効果が全体としてなくなってしまうという問題があった。
【0006】
【発明の目的】この発明は、上述した従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、ガラス2枚、あるいは3枚を貼り合わせた素子よりも安価で製造できる色収差補正素子を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】この発明にかかる色収差補正素子は、上記の目的を達成させるため、光入射、射出端面の少なくとも一方に、光軸に対して垂直な平面を光軸に対して同心円状の輪帯として階段状に形成したことを特徴とする。
【0008】
【実施例】以下、この発明の実施例を説明する。
【0009】実施例の色収差補正素子1は、図1に示すように、図中左側となる光入射側端面1aに、複数の階段状の平面が形成され、射出側端面1bは単一の平面で構成されている。入射側端面1aの平面は、図2に示すように、光軸を中心とした同心円状の輪帯として形成されている。なお、これらの図では、理解を容易にするため、輪帯の幅、段差を誇張して示している。
【0010】各平面の光軸方向のピッチPは、以下の条件により規定される。
【0011】
【数1】P=mλ0/(n−1)ただし、mは整数、nは屈折率、λ0は使用波長中の任意の1波長である。
【0012】波長λ0の光に対しては、図3に示すように隣接する面を通過する光線は光路長がmλ0だけズレて射出後再び平面波を形成する。
【0013】波長がλ0+Δλに変化した場合、色収差補正素子の材料の波長変化による屈折率変化を無視すると、隣接する面の間で約mΔλの波面のズレを生じ、光路差が波長の整数倍とならない。このため、図4に示すように射出される波面は平面波でなく略球面波となり、パワーを持つ。
【0014】色収差補正素子1の巨視的な形状が凹平レンズとなる場合には、一般の屈折を利用した正レンズの色収差を打ち消すことができるため、図5に示すように光ディスク用の対物レンズ2と組み合せて使用することにより、色収差を補正することができる。図中の符号3は、光ディスクのカバーガラスである。
【0015】次に、色収差補正素子を対物レンズと離して配置する場合の色収差補正効果について説明する。
【0016】2つのレンズ群A,Bが間隔L離れて配置された光学系に平行光が入射した場合のレンズ最終面から結像面までの距離、すなわち、バックフォーカスfBは、それぞれのレンズ群のパワーをφA,φBとして、以下の式(1)で表される。また、この式(1)をφB、L、φAでそれぞれ微分すると、式(2),(3),(4)が得られる。
【0017】
【数2】
fB=(1−φAL)/(φA+φB−φAφBL) …(1) dfB/dφB=−(1−φAL)2/(φA+φB−φAφBL)2 …(2) dfB/dL=−φA2/(φA+φB−φAφBL)2 …(3) dfB/dφA=−1/(φA+φB−φAφBL)2 …(4)
【0018】レンズ群Aをパワーを持たない色収差補正素子であると仮定すると、微分式は(5),(6),(7)に示すように簡略となる。
【0019】
【数3】dfB/dφB≒−1/φB2 …(5)dfB/dL≒ 0 …(6)dfB/dφA≒ −1/φB2 …(7)
【0020】すなわち、レンズ群Aにパワーが非常に弱い場合には、間隔Lが変化してもピント位置の変化はなく、レンズ群Bのパワーの変化により式(5)、レンズ群Aのパワーの変化により式(7)で示すピントの移動が生じる。
【0021】そこで、波長の変化によって各レンズ群A,Bのパワーが変化する場合にも、それぞれのパワーの変化量が互いに相殺するよう設定しておけば、すなわち、波長λで各レンズのパワーを微分した際の変化率が以下の式(8)で示される関係にあれば、波長が変化してもピント位置は移動しないこととなる。
【0022】
【数4】dφA/dλ=−dφB/dλ …(8)
【0023】一方、レンズ群Bの波長変化に対するパワーの変化はバックフォーカスの変化との関係では式(9)により表され、また、レンズ群Aを回折レンズとした場合のパワーは、波長に比例するため式(10)により表される。
【0024】
【数5】dφB/dλ=−(dfB/dλ)φB2 …(9)dφA/dλ=φA/λ …(10)
【0025】式(9),(10)を式(8)に代入すると、回折レンズとして構成される色収差補正素子のパワーは、以下の式(11)により得られる。
【0026】
【数6】φA=−(dfB/dλ)λφB2 …(11)
【0027】例えば、レンズ群Bとして焦点距離3mm、使用波長780nm、dfB/dλ=0.060μm/nmの対物レンズを用いる場合、色収差補正素子のパワーφAは、以下の式(12)で示すように設定される。
【0028】
【数7】
φA=0.06×10-3・780・(1/3)2=1/192.3 …(12)
【0029】すなわち、焦点距離192mmの正の回折レンズを用いることにより、対物レンズの色収差を補正できる。ただし、色収差補正素子の全体のパワーを0とするためには、この回折レンズに接して焦点距離−192mmの負の屈折レンズを配置する必要がある。屈折レンズで負レンズを構成する場合には、分散によりわずかに色収差補正効果が大きくなる。
【0030】上記の負レンズをBSL7(株式会社オハラの商品名、波長λ0=780nmにおける屈折率:1.51072)で作成すると、入射側の面は曲率半径−98.058mmの球面、射出側の面は平面の凹平レンズとすることができる。
【0031】ただし、正の回折レンズと負の屈折レンズとを別個に設けたのでは、素子数を削減できず、コストダウンを図ることができない。そのため、正の回折レンズと負の屈折レンズとを単一の素子として構成することが望ましい。
【0032】単一の素子として構成するためには、負レンズの凹面を光軸方向のピッチPがλ0/(n−1)=1.5273μmとなるよう階段状に平面化すればよい。これにより、色収差補正に対しては焦点距離192mmの回折レンズとして機能し、使用中心波長780nmでは一次回折光が直進してパワーを持たない色収差補正素子を構成することができる。
【0033】光軸方向に光の進行方向に沿って座標を取り、光軸と交差する部分の座標を0とすると、光軸から距離h離れた部分の座標X(h)は、曲面の場合には式(13)、階段状の平面の場合には式(14)で表される。
【0034】
【数8】
X(h)=r(1−√(1−h2/r2)) …(13) X(h)=λ0/(n−1)・ Int((r(1−√(1−h2/r2))/(λ0/(n−1))+C) …(14)ただし、Int(x)は、xの整数部分を与える関数、Cは、0≦C<1を満たす任意の定数である。
【0035】前記の対物レンズと組み合せて使用する場合、色収差補正素子の具体的な形状は以下の表1に示すとおりとなる。
【0036】
【表1】
h(mm) X(μm) 屈折率 1.51072 0.000 〜 0.387 0.00 〜 0.670 -1.53 〜 0.865 -3.05 〜 1.024 -4.58 〜 1.161 -6.11 〜 1.284 -7.64 〜 1.395 -9.16 〜 1.499 -10.69 〜 1.596 -12.22 〜 1.687 -13.75 〜 1.773 -15.27 〜 1.856 -16.80 〜 1.935 -18.33 〜 2.011 -19.85 〜 2.084 -21.38 〜 2.155 -22.91
【0037】なお、上記の実施例では、光軸方向ピッチをλ0/(n−1)としたが、使用波長幅が狭い場合には、mλ0/(n−1) (m:整数)としてm次の回折光を用いても回折効率は下がらないため、問題なく使用できる。
【0038】特に、通常色収差補正素子の周辺部は中央部と比較して輪帯の幅が狭くなるので、mの値を1から徐々に増加させてピッチを異ならせることにより、周辺部の輪帯の幅が狭くなりすぎないようにすることも可能である。式(15)は、mを考慮に入れた場合の式(14)の変形である。
【0039】
【数9】
X(h)=mλ0/(n−1)・ Int((r(1−√(1−h2/r2))/(mλ0/(n−1))+C) …(15)
【0040】また、実施例では、色収差補正素子の巨視的な形状が凹平レンズとなるよう構成することにより、凸レンズで発生した色収差を補正するよう設定したが、この向きを変えて平凹レンズとしても機能は変化せず、また、図6に示すように両面の巨視的形状を曲面としてもよい。基準となる曲面は、実施例のような球面のみでなく、非球面とすることもできる。
【0041】さらに、巨視的形状が図7に示すような凸平レンズ、あるいは図8に示すような両凸レンズとなるよう形成した場合には、負の屈折レンズで発生した色収差を補正するために用いることができる。
【0042】図9は、上記の色収差補正素子を含む光磁気情報記録再生装置の光学系を示す。光源である半導体レーザー10から発した発散光は、コリメートレンズ11により平行光束とされ、ビーム整形プリズム12により断面円形に整形される。整形されたレーザービームは、プリズム13により反射され、色収差補正素子1を透過し、ミラー14で反射されて対物レンズ2によりディスクD上に収束される。
【0043】対物レンズ2とミラー14とは、キャリッジ15上に設けられており、このキャリッジ15はガイドレール16に沿って図中矢印で示したディスクDの半径方向にスライド可能である。
【0044】ディスクDからの反射光は、再び対物レンズ2、ミラー14、色収差補正素子1を透過し、プリズム13で反射され、一部は集光レンズ17を介して信号再生用の受光素子18上に集光され、残部は集光レンズ19を介してエラー信号検出用の受光素子20上に集光される。それぞれの受光素子18,20からは、受光した反射光に応じて、ディスクに記録された情報、あるいはトラッキングエラー、フォーカシングエラー等の信号が出力される。
【0045】図10は、上記光学系の変形例を示したものであり、この例では、色収差補正素子1がプリズム13に貼り付けられている。
【0046】半導体レーザー10の出力は、記録時にはディスク上の磁化の方向を変更する領域で断続的に大きくなり、再生時には小さく一定となる。このパワー変化により発振波長が変化するが、上記の例のように光源と対物レンズとの間に色収差補正素子1を設けることにより、波長の変化に応じて光束の収束度を微小に変化させることができ、対物レンズ2の集光位置の移動を抑えることができる。
【0047】
【発明の効果】以上説明したように、この発明によれば、単一の素子で正レンズ、または、負レンズで発生する色収差を補正することができ、少ない構成枚数で色収差のないレンズ系を構成することができる。したがって、レンズ系の軽量化とコストダウンとを図ることができる。
【0048】また、この色収差補正素子を光情報記録再生装置の光学系に用いることにより、光源の波長変動による対物レンズの集光位置の移動を抑えることができ、波長の切り替え時にも安定した動作が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明にかかる色収差補正素子の実施例を示す図2のI−I線に沿った断面図である。
【図2】 図1の素子の平面図である。
【図3】 色収差補正素子を設計波長の光が透過する場合の波面を示す図である。
【図4】 色収差補正素子を設計波長以外の光が透過する場合の波面を示す図である。
【図5】 色収差補正素子と対物レンズとを組み合せた例を示す説明図である。
【図6】 色収差補正素子の巨視的な形状を両凹レンズとした例を示す説明図である。
【図7】 色収差補正素子の巨視的な形状を凸平レンズとした例を示す説明図である。
【図8】 色収差補正素子の巨視的な形状を両凸レンズとした例を示す説明図である。
【図9】 色収差補正素子を含む光情報記録再生装置の光学系の一例を示す説明図である。
【図10】 色収差補正素子を含む光情報記録再生装置の光学系の他の例を示す説明図である。
【符号の説明】
1…色収差補正素子
1a…入射側端面
1b…射出側端面
2…対物レンズ
3…カバーガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】光入射、射出端面の少なくとも一方に、光軸に対して垂直な平面を光軸に対して同心円状の輪帯として階段状に形成して構成されることを特徴とする色収差補正素子。
【請求項2】前記平面の光軸方向のピッチPが、以下の条件により規定されることを特徴とする請求項1に記載の色収差補正素子。
P=mλ0/(n−1)ただし、mは整数、nは屈折率、λ0は使用波長中の任意の1波長である。
【請求項3】前記階段状の輪帯が形成された面は、巨視的には凹面であることを特徴とする請求項1に記載の色収差補正素子。
【請求項4】前記階段状の輪帯が形成された面は、巨視的には凸面であることを特徴とする請求項1に記載の色収差補正素子。
【請求項5】光源から発した光束を対物レンズにより情報記録媒体上に収束させ、情報の記録、あるいは再生をする光情報記録再生装置において、前記光源と前記対物レンズとの間の光路中に、光入射、射出端面の少なくとも一方に、光軸に対して垂直な平面を光軸に対して同心円状の輪帯として階段状に形成して構成された色収差補正素子を設けたことを特徴とする光情報記録再生装置。
【請求項6】前記色収差補正素子の前記平面の光軸方向のピッチPが、以下の条件により規定されることを特徴とする請求項5に記載の光情報記録再生装置。
P=mλ0/(n−1)ただし、mは整数、nは屈折率、λ0は使用波長中の任意の1波長である。
【請求項7】前記色収差補正素子の前記階段状の輪帯が形成された面は、巨視的には凹面であることを特徴とする請求項5に記載の光情報記録再生装置。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【図8】
image rotate


【図9】
image rotate


【図10】
image rotate


【公開番号】特開平6−82725
【公開日】平成6年(1994)3月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−138300
【出願日】平成5年(1993)6月10日
【出願人】(000000527)旭光学工業株式会社 (1,878)