説明

色火を生成するための低煙花火用燃焼物組成物

本発明は、実質的に過塩素酸塩不含の塩素含有花火用燃焼物組成物であって、この花火用燃焼物組成物を調製するプロセスで少なくとも部分的に溶解された繊維状ニトロセルロース出発物質から誘導されるニトロセルロースと、色火剤とを含む塩素含有花火用燃焼物組成物を提供する。本発明はさらに、上記花火用燃焼物組成物を含む花火製品、およびそれを調製するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩素含有花火用燃焼物組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の色彩豊かな花火は、所望の色(1色または多色)を発生させるために、かなりの量の金属塩および過塩素酸塩を含有する。ごくわずかな比率の未燃焼の星または炎は過塩素酸塩を含有して、いずれは飲料水にたどり着き得るため、かかる花火は環境に影響を及ぼす。公知の花火に関する別の問題は、周囲を囲まれた会場(例えば都市部の競技場など)では深刻な問題を引き起こす多量の煙の発生である。
【0003】
特許文献1および特許文献2において、いくつかの高窒素、低炭素含量のエネルギー物質の金属塩が、低煙花火組成物のための有望な成分として提示されている。
【0004】
これらの文献で言及される高窒素、低炭素含量のエネルギー物質は、しかしながら、容易に入手できる化合物ではない。これらの化合物を調製するために、多段階の合成が必要とされる。さらに、これらの合成のいくつかでは、環境に優しくない、有毒または有害な化学前駆体が必要とされる。これら2つの問題点は、高窒素、低炭素含量の金属塩の価格を大幅に上昇させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,214,139号明細書
【特許文献2】米国特許第5,917,146号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、花火で使用することができ、かつ化学工業で広く入手可能である(いわゆるバルク品)高窒素含量、低炭素含量の物質を含む低煙、過塩素酸塩不含の花火用燃焼物組成物を提供することによって、花火の環境への影響を軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くべきことに、この目的は、花火用燃焼物燃料、色火剤および特定のニトロセルロースを含む塩素含有花火用燃焼物組成物を使用する場合に実現できることが本発明で見出された。
【0008】
従って、本発明は、塩素含有花火用燃焼物組成物であって、この花火用燃焼物組成物を調製するプロセスで少なくとも部分的に溶解された繊維状ニトロセルロース出発物質から誘導されるニトロセルロースと、花火用燃焼物燃料と、色火剤とを含む塩素含有花火用燃焼物組成物に関する。
【0009】
本発明に係る塩素含有花火用燃焼物組成物は実質的に過塩素酸塩不含でありかつほとんど煙を発生しないという事実とは別に、本発明に係る塩素含有花火用燃焼物組成物は、高押出し性、燃焼速度の良好な制御を有し、かつ魅力ある色パターンを発生させるという利点を有する。
【0010】
本発明に係る塩素含有花火用燃焼物組成物は、実質的に過塩素酸塩不含である。本発明の文脈では、これは、本発明に係る塩素含有花火用燃焼物組成物が典型的な不純物レベル(すなわち痕跡量)以下の過塩素酸塩しか含有しないことを意味する。そのため、好ましくは、本花火用燃焼物組成物は、全花火用燃焼物組成物に基づき、0.05%(質量/質量)(質量%)未満を含有する。
【0011】
好ましくは、本発明に係る花火用燃焼物組成物では、ニトロセルロースは、全花火用燃焼物組成物に基づき、20−96重量%の範囲の量で存在する。より好ましくは、このニトロセルロースは全花火用燃焼物組成物に基づき、85−95重量%の量で存在する。
【0012】
好ましくは、本発明に従って使用されることになるニトロセルロースは、14重量%未満の窒素含量を有する。より好ましくは、このニトロセルロースは、12−13.5重量%の範囲の窒素含量を有する。
【0013】
適切には、少なくとも3重量%の繊維状ニトロセルロース出発物質が、上記花火用燃焼物組成物を調製するプロセスの中で溶解される。
【0014】
好ましくは、3−80重量%の繊維状ニトロセルロース出発物質が、上記花火用燃焼物組成物を調製するプロセスで溶解される。
【0015】
適切には、繊維状ニトロセルロース出発物質は、有機溶媒の混合物を用いて、少なくとも部分的に溶解される。適切な溶媒としては、アセトン、エタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソプロパノール、ブタノール、メチルエチルケトン、およびメチルイソブチルケトンが挙げられる。好適な溶媒としてはアセトンおよびエタノールが挙げられる。好ましくは、アセトンおよびエタノールの混合物が使用される。
【0016】
好ましくは、色火剤は、全花火用燃焼物組成物に基づき、1−10重量%の範囲の量で存在する。
【0017】
好ましくは、この色火剤は、ストロンチウムアミノテトラゾール、バリウムアミノテトラゾール、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、および塩素酸バリウムからなる群から選択される。
【0018】
好ましくは、この色火剤は、ストロンチウムアミノテトラゾールまたはバリウムアミノテトラゾールを含む。
【0019】
適切には、本花火用燃焼物組成物は、加えて、全花火用燃焼物組成物に基づき、1−80重量%の範囲の量の酸化剤(oxidator)を含む。
【0020】
好ましくは、この酸化剤は、NHClO、KClO、KClO、KNO、NHNO、Sr(NO、Ba(NO、およびBa(ClOからなる群から選択される。
【0021】
より好ましくは、この酸化剤は、NHNO、Sr(NOまたはBa(NOを含む。
【0022】
本発明はまた、本発明に係る花火用燃焼物組成物を含む花火製品にも関する。
【0023】
加えて、本発明はまた、本発明に係る花火用燃焼物組成物を調製するための方法をも提供する。この方法は、上記ニトロセルロース出発物質、上記色火剤および上記塩素供与体を混合する工程と、そのように得られた混合物を有機溶媒の混合物と混合する工程と、そのようにして得られた物質を押し出す工程と、押し出された物質の中に存在する溶媒を気化させて、多孔性の物質を得る工程とを含む。
【0024】
上記金属塩は、対応する金属化合物を5−アミノテトラゾールと反応させることにより得ることができる。好ましくは、この金属塩は、対応する金属水酸化物、金属硫酸塩、金属塩化物または金属硝酸塩を5−アミノテトラゾールと反応させることにより得られる。より好ましくは、この金属塩は、対応する金属水酸化物または金属硝酸塩を5−アミノテトラゾールと反応させることにより得られる。最も好ましくは、この金属塩は、対応する金属水酸化物を5−アミノテトラゾールと反応させることにより得られる。
【0025】
この5−アミノテトラゾールは、無水形態または結晶水を含有する形態のいずれであってもよい。
【0026】
適切には、この金属塩で使用されることになる金属は、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、銅、カリウム、鉄、マグネシウム、リチウム、ホウ素、チタン、アンチモンおよびアルミニウムからなる群から選択される。
【0027】
好ましくは、この金属はストロンチウム、バリウムまたは銅である。
【0028】
種々の金属塩の混合物は、所望の色を得るために適切に使用することができる。
【0029】
適切には、使用することになる金属塩は、酸によってプロトン化されていてもよい。
【0030】
適切には、この酸は、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、フッ化水素、硝酸、塩素酸および過塩素酸からなる群から選択される。
【0031】
好ましくは、この酸は、塩化水素、塩素酸または過塩素酸である。
【0032】
適切には、上記酸化剤は、硝酸アンモニウム、硝酸バリウム、塩素酸バリウム、硝酸ストロンチウム、および硝酸カリウムからなる群から選択される。
【0033】
好ましくは、この酸化剤は硝酸アンモニウムを含む。
【0034】
上記花火用燃焼物燃料は、ニトロセルロース、セルロース、5−アミノ−1H−テトラゾール(CH3N5)、硝酸グアニジウム、アラビアゴム、レッドガムおよびシェラックからなる群から選択される。
【0035】
好ましくは、上記花火用燃焼物燃料は、ニトロセルロースまたはセルロースを含む。
【0036】
本発明に従って使用されることになる花火用燃焼物燃料は、液体形態で、さらには粉末形態で付与できる。ニトロセルロースおよびセルロースとは別に、異なる化合物(例えば5−アミノ−1H−テトラゾールなど)も花火用燃焼物燃料として使用することができる。
【0037】
本発明に係る花火用燃焼物組成物は塩素を含有する。適切には、本花火用燃焼物組成物は、全花火用燃焼物組成物に基づき、1−20重量%の範囲の量、好ましくは0.2−5重量%の範囲の量の塩素を含む。この塩素は、色火剤によって、または別個の塩素供与体によって提供されてもよい。かかる塩素供与体は、適切には、全花火用燃焼物組成物に基づき、1−20重量%の量で存在する。
【0038】
この塩素は、好ましくは、塩化アンモニウムによって提供される。花火用燃焼物の先行技術において記載されているものなどの他の塩素供与体、例えば塩化ゴム(Parlon、Pergut、Alloprene(いずれも商標名)など)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ヘキサクロロエタンもしくはヘキサクロロベンゼン(C6C16)、または塩素化ワックスもしくは塩素化パラフィンを使用してもよい。
【0039】
より好ましくは、この塩素は塩化アンモニウムによって提供される。
【0040】
本発明に従って使用されることになる花火用燃焼物組成物は、当業者にとって一般的な他の従来の成分(燃焼速度調整剤(burn rate modifier)、安定剤、加工用添加剤、フレグマタイザー(flegmatizer)など)を含んでもよい。存在する場合、これらの成分は、全花火用燃焼物組成物に基づき、10重量%未満の量で存在することになるであろう。
【0041】
本発明はまた、本発明に係る花火用燃焼物組成物を含む花火製品にも関する。
【0042】
加えて本発明は、花火製品における、本願明細書中で上で記載した5−アミノテトラゾールの金属塩の使用に関する。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
以下の組成を有する、本発明に係る赤色超低煙過塩素酸塩不含の星の形態の花火用燃焼物組成物(コードネーム MZ5A)を調製した:100グラム(94.79重量%)のBergeracから入手したニトロセルロース(NC)繊維(13.5重量%のN);本発明者らが合成した5.27グラム(5重量%)のストロンチウムアミノテトラゾール(Sr−AT);0.22グラム(0.21重量%)のNHCl(分析用(pro analyse))、Merck KGaG、カタログ番号 1.01145.1000。
【0044】
このNCは、Heraeusストーブ中で、45℃で2日間乾燥し、すべての水分を除去した。Sr−ATおよびNH4Cl結晶はともに、確実に密接な混合物となるように、乳鉢および乳棒を用いて微細な粉末に粉砕した。エルレンマイヤーフラスコを35.14gのアセトンおよび50gのエタノールで満たした。この混合物を、均一に混合するまで撹拌した。この溶媒の混合物を用いて、NC:アセトン=74:26の比を得た。
【0045】
まず初めに、この溶媒混合物の半分を、小スケールのS字翼ミキサー(S−blader mixer)(IKAミキサー)中で50gのNCに加えた。10分後、塊が付着していないように混合羽根を擦り落とし、その後でこのミキサーを再スタートした。15分後、もう25gのNCを加え、その後でこのミキサーを再スタートした。20分後、上記微粉化したNHClおよびSr−ATをこのミキサーに加えた。35分後、残りのNCおよび溶媒を加えた。開始から60分間混合し続けた後で、このミキサーから中身を取り出した。この混合物をRosand Double Barrel Capillary Rheometerに入れた。このRosand Rheometerのシリンダー(barrel)の下に、10mmの押出しノズルを設置した。充填後、このピストンを100mm/分の速度で下げた。その間、圧力は2.5−3.2MPa(25−32bar)の間に留まった。このRosand Rheometerの下で、押出物を集め、手作業で1cmの長さの円柱状に切断した。これらの円筒状の星を、すべての溶媒を除去するためにHeraeusストーブ中で40℃で12時間乾燥し、次いでこの星をGallenkamp真空ストーブ(vacuumstove)中で40℃で5時間乾燥した。
【0046】
(実施例2)
以下の組成を有する、本発明に係る緑色超低煙過塩素酸塩不含の星の形態の花火用燃焼物組成物(コードネーム MZ6)を調製した:100グラム(93.35重量%)の、Bergeracから入手したニトロセルロース繊維(13.5重量%N);5.26グラム(4.91重量%)の本発明者らが合成したバリウムアミノテトラゾール;1.86グラム(1.74重量%)のNHCl(分析用)、Merck KGaG。上記の組成物を、実施例1に記載した赤色超低煙過塩素酸塩不含の星の混合物と同様にして調製した。
【0047】
実験室スケール(すなわち、典型的には小スケールのバッチ)で星を製造するためにRosand Rheometerを使用したこと、他方で同時に、このRosand Rheometerによって、大スケールの押出プロセスにとって決定的な重要なレオメトリーパラメータを使用者が測定することが可能になることは当業者には明らかであろう。Theyson Twin Screw Extruder(同方向回転、自己ワイピング式、45mm、1305スクリュー長、29L/D)は、本願明細書に記載する花火用燃焼物の星の大スケールでの製造のために適切かつ魅力的な選択肢である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に過塩素酸塩不含の塩素含有花火用燃焼物組成物であって、前記花火用燃焼物組成物を調製するプロセスで少なくとも部分的に溶解された繊維状ニトロセルロース出発物質から誘導されるニトロセルロースと、色火剤とを含む塩素含有花火用燃焼物組成物。
【請求項2】
前記ニトロセルロースが、全花火用燃焼物組成物に基づき、20−96重量%の範囲の量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ニトロセルロースが14重量%未満の窒素含量を有する、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ニトロセルロースが12−13.5重量%の範囲の窒素含量を有する、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記ニトロセルロースが、全花火用燃焼物組成物に基づき、85−95重量%の量で存在する、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも3重量%の前記繊維状ニトロセルロース出発物質が、前記花火用燃焼物組成物を調製するプロセスの中で溶解される、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
3−80重量%の前記繊維状ニトロセルロース出発物質が、前記花火用燃焼物組成物を調製するプロセスの中で溶解される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記繊維状ニトロセルロース出発物質が、有機溶媒の混合物を用いて少なくとも部分的に溶解される、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記色火剤が、全花火用燃焼物組成物に基づき、1−10重量%の範囲の量で存在する、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記色火剤が、ストロンチウムアミノテトラゾール、バリウムアミノテトラゾール、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、および塩素酸バリウムからなる群から選択される、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記色火剤がストロンチウムアミノテトラゾールまたはバリウムアミノテトラゾールを含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
塩素が、全花火用燃焼物組成物に基づき、1−20重量%の量で存在する、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記塩素が塩化アンモニウム、Parlon、Pergut、Alloprene、PVC、Superchlon、ヘキサクロロエタンまたはヘキサクロロベンゼンによって提供される、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記塩素供与体が塩化アンモニウムを含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
加えて、全花火用燃焼物組成物に基づき、1−80重量%の範囲の量の酸化剤を含む、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記酸化剤がKNO、NHNO、Sr(NO、およびBa(NOからなる群から選択される、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記酸化剤がNHNO、Sr(NOまたはBa(NOを含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
加えて、全花火用燃焼物組成物に基づき、1−10重量%の範囲の量の(5−アミノテトラゾール)の金属塩を含む、請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
前記金属がバリウム、ストロンチウムまたは銅を含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
請求項1から請求項19のいずれか1項に記載の花火用燃焼物組成物を含む花火製品。
【請求項21】
請求項1から請求項20のいずれか1項に記載の花火用燃焼物組成物を調製するための方法であって、前記ニトロセルロース出発物質、前記色火剤および前記塩素供与体を混合する工程と、そのように得られた混合物を有機溶媒の混合物と混合する工程と、そのようにして得られた物質を押し出す工程と、前記押し出された物質の中に存在する前記溶媒を気化させて、多孔性の物質を得る工程とを含む方法。

【公表番号】特表2010−525287(P2010−525287A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504000(P2010−504000)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050215
【国際公開番号】WO2008/127106
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(509237077)クリアースパーク エルエルシー (4)
【氏名又は名称原語表記】CLEARSPARK,LLC
【住所又は居所原語表記】1401 Flower Street Glendale,CA 91201 United States of America