説明

色見本選択装置

【課題】本発明は、色覚障害者が識別可能な複数色を選択する際に、色覚障害者に識別できる配色を、色覚正常者が容易に選択できるような色見本選択装置を提案するものである。
【解決手段】表示画面と、入力手段とを備えた色見本選択装置であって、
表示画面には、複数の色見本が表示され、
1つの色見本を選択した時に、前記複数の色見本のうち、色覚障害者が前記1つの色見本と区別できない色見本に新たな表示が現れることを特徴とする色見本選択装置。
1つの色見本の色覚障害者が認識しているCIEL*a*b*色彩値と、その他の色見本の色覚障害者が認識しているCIEL*a*b*色彩値との色差が、0〜20であるとき、新たな表示が現れるものである上記色見本選択装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色覚障害者にとって識別可能な複数の色を選択するための色見本選択装置に関する。当該色見本で選択された複数の色は、例えば、マーキングフィルムなどの着色フィルムに使用できる。
【背景技術】
【0002】
従来、オフセットやグラビアに代表される印刷分野、壁紙やタイルなどを使用する建築分野、あるいは、塗料やマーキングフィルムを看板に使用するサインディスプレイ分野など、設計やデザインにおいて色彩が重要な役割を果たす分野では、材料や製作を発注する際のコミュニケーション手段として、色票が利用されている。色票は発注者が受注者に対して意図する色を正確に伝えるためのツールとして有効であるとともに、発注者側がデザイン上において色彩を選択する際に、どの色を使用することができるかという指標として利用することも広く行われている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
一方、色覚に障害を持つ人々は、日本人男性の20人に1人、日本人女性の500人に1人いるとされている。色覚に関する障害の多くは、赤・緑・青の3つある視物質遺伝子のうち、いずれかの変異による機能不全により生ずることが、数多くの報告で示されている。これらの人々は、かなり広範囲の色を見分けることができるものの、非常に見分けにくい色も一部あるため、前記色票により提供される色彩情報を間違って認識することも多い。
【0004】
これに対し、近年、バリアフリーやユニヴァーサルデザインの観念に立った、設計やデザインが求められている。色覚正常者が識別できる設計やデザインにおける配色は、前記色票を用いて容易に選択できるが、色覚障害者が識別できる配色を選択することは困難をきわめる。そのため、実験、心理的に証明された結果に即して、トライアンドエラーで配色を選択しているのが現状である。
【特許文献1】特開平8−331402号公報
【特許文献2】特開2002−169473号公報
【特許文献3】特開2003−5654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の点に鑑み、本発明は、色覚障害者が識別可能な複数色を選択する際に、色覚障害者に識別できる配色を、色覚正常者が容易に選択できるような色見本選択装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、表示画面と、入力手段とを備えた色見本選択装置であって、
表示画面には、複数の色見本が表示され、
1つの色見本を選択した時に、前記複数の色見本のうち、色覚障害者が前記1つの色見本と区別できない色見本に新たな表示が現れることを特徴とする色見本選択装置に関する。
【0007】
また、本発明は、1つの色見本の色覚障害者が認識しているCIEL*a*b*色彩値と、その他の色見本の色覚障害者が認識しているCIEL*a*b*色彩値との色差が、0〜20であるとき、新たな表示が現れるものである上記色見本選択装置に関する。
【0008】
また、本発明は、さらに、出力手段を備えた上記色見本選択装置であって、出力手段は、選択された色のRGB値、色名称、色番号、XYZ、CIEL*a*b*色彩値、マンセル値、色材配合処方、CMYK値、品番の少なくとも1つを出力するものである色見本選択装置に関する。
【0009】
また、本発明は、出力手段は、着色シートの品番を含むものである上記色見本選択装置に関する。
【0010】
また、本発明は、上記色見本選択装置で選択された色見本の色で着色された着色物に関する。
【0011】
また、本発明は、着色物が、着色シートである上記着色物に関する。
【0012】
また、本発明は、上記色見本選択装置で複数の色を選択する色の選択方法に関する。
【0013】
また、本発明は、上記色見本選択装置で複数の色を選択する着色物の色の選択方法に関する。
【0014】
また、本発明は、着色物が、着色シートである上記着色物の色の選択方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、様々な分野における色彩の設計やデザイン作成において、色覚障害者が識別可能な配色を、トライアンドエラーによることなしで色覚正常者が容易に選択することを可能とする効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明でいう色覚障害は、眼の錐体細胞が1種類のみ機能する1色型色覚、2種類の錐体が機能する2色型色覚、3種類の錐体とも機能するがそのうちの1種類の波長特性がずれている異常3色型色覚など、いくつかに大別される。2色型色覚や異常3色型色覚では、どの錐体に変化や機能不全があるかによって第1色覚異常、第2色覚異常、第3色覚異常の3つの種類に分けられる。第1色覚異常と第2色覚異常は色の見え方が比較的近く、総称して「赤緑色覚異常」と呼ばれ日本人男性の5%がこの障害を持つ。第3色覚異常は稀である。
(池田光男, 中嶋芳雄「色覚のメカニズムと色覚異常」, 眼科Mook No.16, 1982)
本発明の基本的な考え方は、複数の色見本を選択する際に、特定の色が選択されると、
すでに、選択された色と色覚障害者が区別できない色が選択できないように設定されており、結果として、色覚障害者が識別できる配色なる色見本選択装置を提供することである。
【0017】
図1は、赤緑色覚異常において認識可能な色空間を示した概念図である。赤緑色覚異常を持つ色覚障害者は、あらゆる色をこの該色空間(図中塗りつぶされた平面部分)のいずれかと同一に感じる。そこで、本発明の色見本選択装置で選択された複数の色は、色覚障害者が見たとき、該色空間に含まれ、かつ、重複することがないよう任意に色を選択すべき色組み合わせでなければならない。

本発明においては、表示画面に複数の色見本が表示される。ここで、表示可能な色見本の個数は、用途によって異なるが、通常、2〜1000個程度が選択される。一度にすべての色見本を表示できない場合は、スクロール、タブ、ページなどの表示切り替えをおこなってもよい。さらに、選択色の色名、対応する色製品の品番、選択色のデバイス値(CMYK値やRGB値)などが併記されてもよい。本発明では、色覚異常者が認識可能な色の配色を提供することが主たる目的であるから、表示画面上では、該色空間上の色として正確に再現されていなくても構わない。つまり、表示画面によっては色を正確に再現できない場合もあるため、色覚異常者が判別できる範囲内であれば、実際に表現される色の不正確さは容認される。
【0018】
第1の色見本の選択は、表示画面の複数の色見本の中から選択される。マウス、タッチパネルなどの入力手段で、第1の色見本は選択される。
第1の色見本が選択された後、色覚障害者が当該第1の色見本と区別できないすべての色見本に新たな表示が現れる。新たな表示は色見本の上または傍に記号や文字や図形などで現されてもよいし、また、色見本を覆い色見本が消えるように現されてもよい。新たな表示が現れなかった色見本が、第2以降の色見本の候補となる。これらの候補の中から、第2の色見本が選択され、その後、色覚障害者が当該第2の色見本と区別できないすべての色見本にも新たな表示が現れる。このときの表示は、第1の色見本選択後に表示されたものと同じであっても、異なっていてもよい。色見本を選択するたびに、新たな表示が現れない色見本の候補の数は大きく減ることになるが、必要な色見本の数だけこの操作を繰り返す。
【0019】
色見本が選択された後に、色覚障害者が当該の色見本と区別できないすべての色に新たな表示がされる。このときの区別できない色である否かの基準は、選択された色見本の色覚障害者が認識しているCIEL*a*b*色彩値と、当該色見本以外の色見本の色覚障害者が認識しているCIEL*a*b*色彩値との色差が、0〜20であるものを標準とする。個人によって色差の上限の設定は変更されてもよく、通常、0〜30の間で設定される。これらは、予め、設定されていてもよいし、必要な都度、変更されてもよい。
【0020】
色見本が選択された後に、別枠に、すでに選択された色が表示されていると第2以降の色見本を選択する際に参考になる。また、別枠では、一度選択した色の選択を取り消したり、選択した色の情報、例えば、RGB値、色名称、色番号、XYZ、CIEL*a*b*色彩値、マンセル値、色材配合処方、CMYK値、品番などが表示されていてもよい。
【0021】
必要な数の色見本の選択が終わったら、選択結果を出力手段で出力してもよい。これは、表示画面のハードコピーであっても、プリンターなどの紙媒体への出力でも、電子メールやネットワークを介した電子情報での出力であってもよい。出力される情報は、選択された色のRGB値、色名称、色番号、XYZ、CIEL*a*b*色彩値、マンセル値、色材配合処方、CMYK値、品番の少なくとも1つを出力するものであればよい。
【0022】
以下に、図を参照して、本発明の色見本選択装置の例を説明する。
図2は、カラーマーキング用着色シートの色見本選択装置の表示画面である。
表示画面には、全230色中の100色の色見本が表示されている。各色見本の下には、カラーマーキング用着色シートダイナカル(東洋インキ製造株式会社製)の製品番号が、記載されている。
右側には、別枠として、選択した色が表示できるスペースがある。上側には、選択された色見本の色覚障害者が認識しているCIEL*a*b*色彩値との色差の設定を、変更するスライドバー「色混合可能性の判定基準」がある。
【0023】
図3は、色見本の中から、第1の色見本として、品番DC4029を選択したときの表示画面である。品番DC4029と色覚障害者が区別できない27色について、白抜き×印が表示された。このとき、選択された色見本の色覚障害者が認識しているCIEL*a*b*色彩値と、当該色見本以外の色見本の色覚障害者が認識しているCIEL*a*b*色彩値との色差が、0〜20である色に白抜き×印表示がされている。
右側の別枠には、選択された第1の色が表示される。「一般」は選択した色、「第一」は第一色覚障害者が認識している色、、「第二」は第二色覚障害者が認識している色、
、「第三」は第三色覚障害者が認識している色が同時に表示できるようになっている。

【0024】
カラーマーキング用着色シートダイナカルは、屋外広告看板用材料であり、塩化ビニルなどのプラスチック製着色フィルムとアクリル樹脂系などの粘着剤とで構成された粘着シートである。主に建造物に対する袖看板,壁面看板,屋上看板,窓ガラス等へのウィンドウ表示や、道路標識や案内板,自動車や鉄道等の車両ボディ等に使用され、複数色の着色シートを組み合わせ企業名やシンボルマーク,ロゴの表示、注意勧告や広告等に使用されるものである。
【0025】
前記色見本選択装置で選択されたダイナカルDC4029(ポピーレッド)とDC4003(ペッパーレッド)を用いて、縦3m,横0.4mの袖看板を作成し、高さ5mの位置に設置した。看板表示は、縦3m,横0.4mのダイナカルDC4029を盤面に全面貼りし、その上からダイナカルDC4003を「東洋インキ製造株式会社」と切り文字作成し貼り付けた。本作成看板を色覚障害者及び健常者により確認した結果、両者とも明確に表示内容を認識することができた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の色見本選択装置により、選択された色は、着色シートに使用できるほか、紙・木・金属・陶磁器など、複数の色を構成される印刷物、塗布物、配置される物などの配色に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】赤緑色覚異常において認識可能な色空間の概念図
【図2】本発明を実施の形態例(第1の色見本選択前)
【図3】本発明を実施の形態例(第1の色見本選択後)
【図4】本発明を実施の形態例(第6の色見本選択後)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示画面と、入力手段とを備えた色見本選択装置であって、
表示画面には、複数の色見本が表示され、
1つの色見本を選択した時に、前記複数の色見本のうち、色覚障害者が前記1つの色見本と区別できない色見本に新たな表示が現れることを特徴とする色見本選択装置。
【請求項2】
1つの色見本の色覚障害者が認識しているCIEL*a*b*色彩値と、その他の色見本の色覚障害者が認識しているCIEL*a*b*色彩値との色差が、0〜20であるとき、新たな表示が現れるものである請求項1記載の色見本選択装置。
【請求項3】
さらに、出力手段を備えた請求項1または2記載の色見本選択装置であって、出力手段は、選択された色のRGB値、色名称、色番号、XYZ、CIEL*a*b*色彩値、マンセル値、色材配合処方、CMYK値、品番の少なくとも1つを出力するものである色見本選択装置。
【請求項4】
出力手段は、着色シートの品番を含むものである請求項3記載の色見本選択装置。
【請求項5】
請求項1〜3いずれか記載の色見本選択装置で選択された色見本の色で着色された着色物。
【請求項6】
着色物が、着色シートである請求項5記載の着色物。
【請求項7】
請求項1〜3いずれか記載の色見本選択装置で複数の色を選択する色の選択方法。
【請求項8】
請求項1〜3いずれか記載の色見本選択装置で複数の色を選択する着色物の色の選択方法。
【請求項9】
着色物が、着色シートである請求項5記載の着色物の色の選択方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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