説明

花の形態を改変する遺伝子

【課題】MADSボックス型転写因子を標的として植物の花型を改変することにより、新たな美的価値を有する植物を作出する。
【解決手段】下記(a)乃至(d)のいずれかに記載の遺伝子が導入され、花型が改変された植物を提供する。(a)特定なる配列に記載された塩基配列の一部又は全部の塩基が欠失し又は置換された遺伝子(b)特定なる配列に記載された塩基配列に一個若しくは複数個の塩基が付加された遺伝子(c)特定なる配列に記載された塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列の一部又は全部の塩基が欠失し又は置換された遺伝子(d)特定なる配列に記載された塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列に一個若しくは複数個の塩基が付加された遺伝子

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子工学的手法を利用した花の形態の改変に関する。
【背景技術】
【0002】
花の形態が従来知られたものと異なる植物は江戸時代より珍重され、その品種は長く維持されてきた。花の形態は園芸植物の観賞性における重要な要素の一つである。
【0003】
一方、近年の遺伝子工学の発達は目覚しく、花の形態が従来知られたものとは異なる植物の品種が有する遺伝子を遺伝子工学的手法によって導入できれば、従来の交配育種で行われていた品種育成に比べ短時間で多様な品種を作製することができる。
【0004】
この観点から、過去十数年に亘り花の形態の発生に関する遺伝的制御機構が研究されており、特に2種の双子葉植物(シロイヌナズナ、キンギョソウ)を中心に研究されている。そしてこれらの研究によると、高等植物における花の形態の発生はABCモデルによって説明することが提案されている。このモデルは、遺伝子をA、B、Cの3つのクラスに分類し、A、B、Cのクラスの遺伝子それぞれが隣接するクラスの遺伝子に作用することで花の形態が変化する、と考えるモデルである。なおこのモデルによると、Aクラスの遺伝子が活性になると最初の輪生器官が萼片に、AクラスとBクラスの遺伝子が活性になると2番目の輪生器官を花弁に、BクラスとCクラスの遺伝子が活性になると3番目の輪生器官が雄ずいに、Cクラスの遺伝子が活性になると4番目の輪生器官が雌ずいに、それぞれ決定される。なおAクラスとCクラスの遺伝子が活性になると2番目の輪生器官と3番目の輪生器官の境界で相互に拮抗すると考えられている。例えばシロイヌナズナでは、APETALA1(AP1)とAPETALA(AP2)はAクラスに、APETALA3(AP3)とPISTILLATA(PI)はBクラスに、そしてAGAMOUS(AG)はCクラスに、それぞれ分類される。
【0005】
一方、上記ABCモデルの各クラスに分類された遺伝子の多くは同時にMADSボックス遺伝子でもあることが判明している。MADSボックス遺伝子とはMADSドメインと呼ばれる約60個のアミノ酸の保存的配列を共通に持つ遺伝子ファミリーであり、その保存的配列の多くは転写制御を介して植物の形態形成や器官形成を制御していると考えられているため、ABCモデルとの相関を考慮した研究が進められてきている(例えば下記特許文献1、2参照)。
【0006】
また現在、MADSボックス遺伝子はモデル植物だけでなく多様な植物群にも存在することが確認されている。そして更にコケ植物、シダ植物、裸子植物、被子植物へと生殖器官が複雑化するにつれて生殖器官形成に関与するMADSボックス遺伝子の数も遺伝子重複により増加し、より機能的・発現領域的に分化していることも分かっている。
従って、被子植物の花の体制はMADSボックス遺伝子の遺伝子重複による余剰的な機能獲得や発現制御における変化、またそれらの組み合わせなど複雑な進化によって確立され、多様化してきたと考えられている。
【非特許文献1】酒井一 花の形態形成の分子遺伝学 新版「植物の形を決める分子機構」(秀潤社)150−163頁、2000年
【非特許文献2】後藤弘爾 花の形態形成−花開く植物分子遺伝学− 「植物の形を決める分子機構」(秀潤社)52−61頁、1994年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、スイレン科植物は被子植物の中でアンボレラ科に次いで2番目に原始的であるものの、これらのMADSボックス遺伝子の解析は行われていない。これらのMADSボックス遺伝子の解析を行うことで、双子葉類、単子葉類双方の特徴を併せ持つ花の創生や、より多様な花の改変などの可能性をもつと考えられる。
そこで本発明は、MADSボックス型転写因子を標的として植物の花型を改変することにより、新たな美的価値を有する植物を作出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を鑑み、まず科内で花の形態が多様化しているスイレン科についてのMADSボックス遺伝子の解析を試みた。スイレン科は、同花被花で各器官が輪生配列する単子葉類的特徴を持つジュンサイ、ハゴロモモを含むハゴロモモ亜科と異花被花で螺旋配列のオニバス、コウホネ、ヒツジグサを含むヒツジグサ亜科に分けられる。
スイレン科植物であるヒツジグサ、オニバス、ハゴロモモ、ジュンサイ、コウホネから単離されたMADSボックス型転写因子の一つであるNtPI(ヒツジグサ)、EfPI(オニバス)、CcPI(ハゴロモモ)、BsPI(ジュンサイ)、NjPI(コウホネ)、NtAP3(ヒツジグサ)、EfAP3(オニバス)、CcAP3(ハゴロモモ)、BsAP3(ジュンサイ)、NjAP3(コウホネ)は、花の器官の特異性決定に関与するホメオティック遺伝子である。なおこれらはその構造から花のABCモデルではBクラスに属するとされている。
従来BクラスMADSボックス遺伝子は花器官形成過程で花弁と雄ずいに発現するといわれてきたが、本発明者らはあるスイレン科植物のBクラスMADSボックス遺伝子は、その発現が花弁と雄ずいに限定されないことを発見した。
そこで、本発明者らは、まずこのような組織特異性をもつスイレン科各種のBクラス遺伝子(AP3、PI)の単離を試み、各種の花芽から目的の遺伝子をコードするmRNAを単離することに成功した。
即ち、本発明は、スイレン科各種由来のBクラスMADS遺伝子の機能の昂進または抑制による植物の花形の改変に関し、具体的には以下の手段を採用する。
【0009】
まず、第一の手段として、下記(a)乃至(d)のいずれかに記載の遺伝子が導入され、花型が改変された植物とする。
(a)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列の一部又は全部の塩基が欠失し又は置換された遺伝子
(b)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列に一個若しくは複数個の塩基が付加された遺伝子
(c)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列の一部又は全部の塩基が欠失し又は置換された遺伝子。
(d)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列に一個若しくは複数個の塩基が付加された遺伝子
また、この場合において、植物の花型の改変は、雌ずいの雄ずいへの転換、雄ずいの雌ずいへの転換、花弁のがく片への転化、二次花の形成、がく片様花弁様構造の形成、の少なくともいずれかであることが望ましい。
なお、本明細書において「花型が改変されている」とは、野生型植物の花型と比較して対象植物の花型が相違し、この相違が人為的に生じたものであることを意味する。本発明における花型の改変には、雄ずいの花弁への転化、二次花の形成、およびがく片様花弁様構造の形成が含まれる。
なお、本明細書において「雄ずい」とは、種子植物の花の器官の1種で、雄性生殖器官であり、花糸の先端に葯がついた構造を有する器官を意味する。
また、本明細書において「花弁」とは、花冠(corolla)を構成している裸花葉を意味する。また、本明細書において、「二次花」とは、花の内部に生じ、本来の(外の)花と同様の構造をしている構造体を意味する。
また、本明細書において、「がく片様花弁様構造」とは、一つの花器官の中にがく片の特徴を示す部分と花弁の特徴を示す部分とをモザイク状に含む構造体を意味する。
なお本手段では、一部又は全部の塩基が欠失することにより、これら遺伝子が発現せず、花型の改変が生じた植物を得ることができる。ここで一部とは、本遺伝子が発現しない程度の範囲をいうが、もとの遺伝子に対し概ね相同性が90%以下である場合、遺伝子が発現しない程度と認めることができる(以下手段において同様である)。
【0010】
また、第二の手段として、下記(a)乃至(d)のいずれかに記載の遺伝子が導入され、花型が改変された植物とする。
(a)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列からなる遺伝子から転写されるRNAと相補的なアンチセンスRNAをコードする遺伝子
(b)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列からなる遺伝子から転写されるRNAを特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードする遺伝子
(c)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列からなる遺伝子由来のタンパク質に対してドミナントネガティブの形質を有するタンパク質をコードする遺伝子
(d)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列と90%以上の相同性を有する遺伝子から転写されるRNAと相補的名アンチセンスRNAをコードする遺伝子
(e)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列と90%以上の相同性を有する遺伝子から転写されるRNAを特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードする遺伝子
(f)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列と90%以上の相同性を有する遺伝子からなる遺伝子由来のタンパク質に対してドミナントネガティブの形質を有するタンパク質をコードする遺伝子
また、この場合において、植物の花型の改変は、雌ずいの雄ずいへの転換、雄ずいの雌ずいへの転換、花弁のがく片への転化、二次花の形成、がく片様花弁様構造の形成、の少なくともいずれかであることが望ましい。
なお、本明細書において「ドミナントネガティブの形質を有するたんぱく質」とは、遺伝子本来の動きを阻害するたんぱく質を意味する。また、本明細書において「リボザイム」とは、他の一本鎖RNAを特異的に切断する能力を有するRNA分子であって、「リボザイム活性」とは、このリボザイムによって特異的に切断される性質を意味する。
【0011】
また、第三の手段として、植物の花形を改変する下記(a)、(b)のいずれかに記載のDNAとする。
(a)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列からなるDNA。
(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相同性が90%以上の塩基配列からなるDNA。
なお、この場合において、このDNAを含有してなる組み換えベクターとすること、更に、この組み換えベクターを含有する形質転換体とすること、さらに、この組み換えベクターを含有する植物とすること、また野生型植物と比較して花型が改変されていることとすること、更には、植物の花型の改変は、雄ずいの花弁への転化、二次花の形成、およびがく片様花弁様構造の形成からなる群より選択される少なくとも一つであることとすることも望ましい。
【0012】
また、第四の手段として、花型が改変された植物を生産する方法であって、配列番号1に記載の塩基配列からなる遺伝子または該遺伝子を含むベクターを植物細胞に導入する工程、を有する植物を生産する方法とすることも望ましい。なおこの場合において、植物細胞から植物体を再生させる工程、を含むこととするのも望ましく、また、この植物における花型の改変は、雄ずいの花弁への転化、二次花の形成、およびがく片様花弁様構造の形成からなる群より選択される少なくとも一つであるとすることも望ましい。
【0013】
また、第五の手段として、下記(a)、(b)のいずれかに記載の遺伝子が導入された組み換えベクターとする。
(a)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列からなる遺伝子。
(b)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなる遺伝子。
また、この組み換えベクターを含有する形質転換体とすること、この組み換えベクターを含有する植物とすること、野生型植物と比較して花型が改変されていること、とすることも望ましい。この場合は、配列番号1乃至10のいずれかに記載の遺伝子を有する組み換えベクターとし、形質転換体にて高発現させることで、塩基を欠失若しくは置換するのではなく花形の遺伝子を高発現させることで花型の改変を行うことができるものである。ここで高発現とは、野生種に比べ花型が改変される程度の発現量をいう。
【発明の効果】
【0014】
以上により、MADSボックス型転写因子を標的として植物の花型を改変することにより、新たな美的価値を有する観賞用植物を作出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
カリフラワーモザイクウィルスの35Sプロモーターに導入したBクラス遺伝子のトランスジェニックシロイヌナズナはPI、AP3ともに花芽全体で発現しており、ABCモデルによると花弁−花弁-雄ずい-雄ずいという形態の花になる。また一方でこのトランスジェニックシロイヌナズナのPIのみ花芽全体で発現させると花弁-花弁-雄ずい-雌ずいという形態の花になる。またこれに対し、AP3のみを花芽全体で発現させるとがく片-花弁-雄ずい-雄ずいという形態の花になる。このように同じBクラス遺伝子であっても遺伝子により別々の発現制御を受けている。
【0016】
BクラスMADSボックス遺伝子の機能昂進による花型改変としてはペチュニアにおけるAP3相同遺伝子pMADS1にカリフラワーモザイクウィルス(CAMV)35Sプロモーターを融合させたpMADS1(35S−pMADS1)を野生型に導入した形質転換体ではコサプレッションにより花弁の代わりにがく片が生じるgreen petal変異体(gp)と同様の表現系が現れた。green petal変異体に35S−pMADS1を導入し植物体全体で発現させるとがく片状の花弁が野生型の花弁に回復した。35S−pMADS1の導入によってpMADS1が植物体全体で発現している形質転換体においてがく片から花弁への部分的な転換が起こった。 またペチュニアの別のBクラスMADSボックス遺伝子であるPI相同遺伝子fbp1では35Sプロモーターに融合して野生型に導入した時に現れるコサプレッションによる表現型は雄ずいの心皮への転換および花弁のがく片への部分的な転換であった。
【0017】
このようにBクラスMADSボックス遺伝子の発現を人為的に制御することにより花形態の改変が可能となる。とくに今回得られた日本産スイレン科のBクラスMADSボックス遺伝子はきわめて原始的なスイレン科の進化的位置と花の多様性(スイレン科は、同花被花で各器官が輪生配列する単子葉類的特徴を持つジュンサイ、ハゴロモモを含むハゴロモモ亜科と異花被花で螺旋配列のオニバス、コウホネ、ヒツジグサを含むヒツジグサ亜科に分けられる。ヒツジグサでは花弁と雄ずいの間に中間的器官(花弁様雄ずい)を持つことも特徴である。)から、がく片を花弁様に改変した花の創生、雄ずいを花弁様に改変した花の創生など従来よりもより多様な種類の花の改変が期待出来、新たな美的価値を持つ花の創生を可能にするものである。
【実施例】
【0018】
本実施例では上記の全5種類の植物(ヒツジグサ、オニバス、ハゴロモモ、ジュンサイ、コウホネ)に対し、各2種ずつ、全10種の塩基配列について特定を行った。なお上記いずれにおいても以下の作業をほぼ同じく行った。
【0019】
(Total mRNAの抽出)
まず、Total mRNAを抽出した。Total mRNAの抽出はμMACS mRNA Isolation Kit(Miltenyi Biotec社製)を用いて行った。
【0020】
まず若い花芽100mgを乳鉢に入れ、液体窒素で凍らせながら細粉状になるまで粉砕し、この粉末試料を1.5mlだけチューブに薬さじで移した。そしてこのチューブにLysis Binding bufferを1.0ml加えて細胞を融解させた(なお細胞を溶解させた後の液を以下単に「細胞溶解液」という)。そしてこの細胞融解液をμLisateClear Columnがセットされた遠心チューブに移し、遠心分離機を用いて遠心分離させた。なお回転数は15000rpm、時間は3分間とした。そしてμLisateClear Columnを遠心チューブから除き、遠心チューブ内の細胞融解液にOligo (dT) microBeadsを50μl加え、泡立てないように2、3回ピペッティングにより混合した。次に、μMACS(マグネット)にMACS Column Type μと洗浄液を受けるチューブをセットし、カラム上部からLysis Binding bufferを流し入れた後、先ほど得た細胞溶解液を流し入れ、Oligo (dT) microBeadsを吸着させた。
【0021】
その後、Lysis Binding buffer200μlを2回、カラム上部から通し、たんぱく質やDNAを取り除いた。そして更に、Wash Buffer100μlを4回、カラム上部から通し、rRNA、rRNA、及びDNAを除いた。そして最後に65℃に加温したDEPC処理水120μlをカラム上部からに通し、Oligo(dT) microBeadsに吸着したmRNAを溶出させ、Total mRNAを得た。
【0022】
(3’race法による標的遺伝子の下流部分の単離)
上記作業により抽出したTotal mRNAからSuperScript・First−strand Synthesis for RT−PCR(Invitrogen社製)を用いて以下の操作によりcDNAを合成した。
【0023】
上記作業により抽出したTotal mRNAを2μl、アダプタープライマーを1μl、10mMのdNTPmixを1μl、RNase free水を10μl、0.2mlのチューブに混合し,65℃で5分間加熱した後氷上に移し急冷した。そして10×RTbufferを2μl、25mMのMgClを4μl、0.1MのDTTを2.0μl、RNaseOUTを1μl、SuperScript・Reverse Transcriptaseを1μl更に加え、50℃で50分間インキュベートした後、85℃で10分間加熱し、酵素を失活させた。その後RNaseHを1μl加え、37℃で20分間インキュベートした。
【0024】
次にcDNAをテンプレートとして目的の遺伝子の下流部分を単離するためのPCR反応を行った。プライマーはこれまでに分かっている保存的配列から、ディジェネレートプライマーを設計したものを用い、もう一つのプライマーはcDNA合成で使用したアダプタープライマーの一部と同じ配列をもつアブリッジドユニバーサルアンカープライマー(AUAP)を用いた。なお、設計したプライマーは、ATGGGIMGIGGIAAR ATHGARAであった。
【0025】
PCR反応は5unit/μl Ex Taq DNA polymerase(TAKARA社製)を0.125μl、10pmol/μlプライマーをそれぞれ1μl、2.5mMのdNTP mixtureを2μl、更に減菌蒸留水を適量加えて全量を25μlとし、94℃で2分間加熱した後、94℃を45秒、53℃〜57℃を45秒、72℃を2分のサイクルを35回繰り返した。
【0026】
アニーリング温度はプライマー配列に従い53〜57℃の間の温度を適時用いた。得られたPCR産物は先に使用したディジェネレートプライマーより下流側に設計したもう一つのディジェネレートプライマーとAUAPにより再度PCR(Nested PCR)を行った。PCR産物は分子マーカーで200bpラダーとともにアガロースゲル用いた電気泳動を行い、目的の遺伝子が増幅しているか確認した。目的の位置にDNAのバンドが出ていた場合、ゲルを剃刀で切り出し、Quantum Prep Freze N
Squeeze DNA(BIO−RAD)を用いて精製した。ゲルをカラムに入れ、−30℃の冷凍庫で凍らした後、15000rpmで3分間遠心分離を行い、精製した。
【0027】
次にTA Cloning kit Dual Promoter(Invitrogen社製)を用いて増幅断片をPCR・ベクターに導入した。精製した増幅断片を2μl、10×Ligation Bufferを0.5μl、25ng/μl PCR・ベクターを1μl、滅菌蒸留水を2μl、T4 DNA Ligaseを0.5μl混合し、14℃で4時間以上反応させ、ライゲーション反応を行った。
【0028】
次にトランスフォーメーションを行うために、ライゲーション反応液2μlをCompetent Cell 25μlに加え、ピペットで軽くかき混ぜた。チューブを氷上に30分間置いた後、42℃のウォーターバスに30秒間浮かべ、ヒートショックした後氷上で急冷し、大腸菌へベクターを取り込ませた。その後常温のSOC(2.0% Bacto Tripton、0.5% Yeast Extract、0.5%
NaCl、0.02% KCl、0.4% MgCl 120mM Glucose)を200μl加え、37℃、225rpmで一時間インキュベートした。
【0029】
そしてこれを100μg/mlアンピシリン濃度のLB培地(1.0% Bacto Tripton、0.5% Yeast Extract、1.0% NaCl、1.5% Bacto Ager)に流し入れ、37℃で6時間インキュベートした。培養後、滅菌爪楊枝でシングルコロニーを拾い、ナンバリングされたマスタープレートヘと植えかえた。マスタープレートは37℃で16時間インキュベートした後、4℃の冷蔵庫で保存した。
【0030】
シングルコロニーに対しダイレクトPCRを行い、プラスミドヘ組み込まれたcDNAの長さを確認した。PCRの反応液組成は10×Gene Taq Universal Bufferを1μl、2.5mMのdNTP mixtureを0.8μl、10pmol M13+Primerを0.5μl、10pmol/μl M13−Primerを0.5μl、Gene Taq(Nippon Gene)を0.05μl、滅菌蒸留水を7.2μl加え、全量10μlの反応液を作り、滅菌爪楊枝を用いてコロニーを反応液に入れたものをPCR反応液として94℃で1分、52℃で1分、72℃で2分のサイクルを30回行った。
【0031】
次に、このPCR産物を1.0% TAKARA LO3−0.5×TBEアガロースゲルで200bpラダーマーカーとともに電気泳動を行い、インサート断片のサイズを確認した。そして目的のサイズのバンドが出たものは、ABI PRISM_3100 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)を用いたダイレクトシークエンス法で目的領域の塩基配列を決定した。
【0032】
精製したPCR産物をテンプレートDNAとし、BigDye・Terminator v2.0 100RR(Applied Biosystems)を用いてサイクルシークエンスを行った。得られた配列は既知のMADSボックス遺伝子のアミノ酸配列と比較してアライメントを行い、アライメントできた配列について既知のMADSボックス遺伝子の配列とともにコンピュータアプリケーションソフトPHYLIP ver.3.56に含まれるPROTODISTでDayhoff−PAM matrixに基づく遺伝子距離を算出し、NEIGHBORを用いて近隣接合法(NJ法)による遺伝子系統樹を構築した。それによりシロイヌナズナのAP3及びPIに相同性を持つ遺伝子を選別した。
【0033】
(5'rase法による標的遺伝子の上流部分の単離)
先の33'race法は標的遺伝子の後半部分しか得られないため、その前半部分を5'race法により単離した。
【0034】
3'race法で得られた標的遺伝子の後半部分の配列を基に遺伝子特異的プライマーを設計した。表1にそのプライマーを示す。
【表1】

【0035】
まずGSP1を用いて先に単離したmRNAから新たなcDNAを合成した。合成したcDNAに5’RACE System for Rapid Amplification of cDNA Ends V.2.0(Gibco BRL)を用いてTdT−tailing法によりpoly−C配列の付加を行ったあとGSP2とキットに添付の5’race
Anchor Primerにて1st PCRを行った。つづいてGSP3とキットに添付のAUAPによる2nd PCRを行った。
得られたPCR産物は3’race法と同様なプロセスを経て塩基配列を決定した。遺伝子全長の単離先の3'race法と5'race法で得られた配列を基に開始コドンより上流側に一つ、終始コドンより下流側に一つPCRプライマーを設計し、3'race法実験時に作成したcDNAをテンプレートとしてPCRを行い、目的遺伝子の全長配列を得ることができた。なお、本実施形態において取得した遺伝子の対応は以下のとおりである。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0036】
上記のとおり、MADSボックス型転写因子を標的として植物の花型を改変することにより、新たな美的価値を有する観賞用植物を作出することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)乃至(d)のいずれかに記載の遺伝子が導入され、花型が改変された植物。
(a)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列の一部又は全部の塩基が欠失し又は置換された遺伝子
(b)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列に一個若しくは複数個の塩基が付加された遺伝子
(c)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列の一部又は全部の塩基が欠失し又は置換された遺伝子
(d)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列に一個若しくは複数個の塩基が付加された遺伝子
【請求項2】
前記植物の花型の改変は、雌ずいの雄ずいへの転換、雄ずいの雌ずいへの転換、花弁のがく片への転化、二次花の形成、がく片様花弁様構造の形成、の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の植物。
【請求項3】
下記(a)乃至(d)のいずれかに記載の遺伝子が導入され、花型が改変された植物。
(a)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列からなる遺伝子から転写されるRNAと相補的なアンチセンスRNAをコードする遺伝子
(b)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列からなる遺伝子から転写されるRNAを特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードする遺伝子
(c)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列からなる遺伝子由来のタンパク質に対してドミナントネガティブの形質を有するタンパク質をコードする遺伝子
(d)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列と90%以上の相同性を有する遺伝子から転写されるRNAと相補的名アンチセンスRNAをコードする遺伝子
(e)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列と90%以上の相同性を有する遺伝子から転写されるRNAを特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードする遺伝子
(f)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列と90%以上の相同性を有する遺伝子からなる遺伝子由来のタンパク質に対してドミナントネガティブの形質を有するタンパク質をコードする遺伝子
【請求項4】
前記植物の花型の改変は、雌ずいの雄ずいへの転換、雄ずいの雌ずいへの転換、花弁のがく片への転化、二次花の形成、がく片様花弁様構造の形成、の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の植物。
【請求項5】
植物の花形を改変する下記(a)、(b)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列からなるDNA
(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相同性が90%以上の塩基配列からなるDNA
【請求項6】
請求項1に記載のDNAを含有してなる組み換えベクター。
【請求項7】
請求項2に記載の組み換えベクターを含有する形質転換体。
【請求項8】
請求項2に記載の組み換えベクターを含有する植物。
【請求項9】
野生型植物と比較して花型が改変されている、請求項8記載の植物。
【請求項10】
前記植物の花型の改変は、雄ずいの花弁への転化、二次花の形成、およびがく片様花弁様構造の形成からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項9記載の植物体。
【請求項11】
花型が改変された植物を生産する方法であって、配列番号1に記載の塩基配列からなる遺伝子または該遺伝子を含むベクターを植物細胞に導入する工程、を有する植物を生産する方法。
【請求項12】
前記植物細胞から植物体を再生させる工程、を含む請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記植物における花型の改変は、雄ずいの花弁への転化、二次花の形成、およびがく片様花弁様構造の形成からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
下記(a)、(b)のいずれかに記載の遺伝子が導入された組み換えベクター。
(a)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列からなる遺伝子
(b)配列番号1乃至10のいずれかに記載された塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなる遺伝子
【請求項15】
請求項14に記載の組み換えベクターを含有する形質転換体。
【請求項16】
請求項14に記載の組み換えベクターを含有する植物。
【請求項17】
野生型植物と比較して花型が改変されている、請求項14記載の植物。


【公開番号】特開2006−81493(P2006−81493A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271067(P2004−271067)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年5月12日 The Botanical Society and Springer−Verlag発行の「Journal of Plant Research(2004)117」に発表
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】