説明

花及び/又は果実のサイズが大型化された植物の作出方法

【課題】 花及び果実のサイズが大型化された作物及びその栽培化及び遺伝学的改良方法を提供する。
【解決手段】 コリンオキシダーゼをコードする遺伝子(codA遺伝子)が、花及び果実のサイズの大型化にかかわる主要な遺伝子であることを特定し、この遺伝子を発現する遺伝子組換えトマトにおいて、グリシンベタインが蓄積され、主に細胞数と細胞サイズが増加し、花と果実が顕著に大型化したことを見出した。本発明は、コリンオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターで植物を形質転換することからなる花及び/又は果実のサイズが大型化された植物の作出方法であり、この方法によって作出された花及び/又は果実のサイズが大型化された植物若しくはこれと同じ性質を有するその子孫又はこれら植物の一部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、花や果実等の生殖器官のサイズが大型化された植物及びその作出方法に関し、より詳細には、花及び果実のサイズが大型化された植物及びその作出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界において、植物器官の固有のサイズは、種内では際だった均一性を示すばかりでなく、近縁の種間では明白な差異を示す。器官サイズを大型化させることは、長い間、作物の栽培化及び遺伝的改良における第一目標であったが、植物の固有な器官サイズを調節する生育機構については、ごく最近になるまで研究されてこなかった。しかも、最も特徴が調べられた植物の器官サイズを調節する遺伝子は葉、根及びシュート(苗条)の頂端分裂組織の生育に関係しており、花及び果実のような生殖器官のサイズを調節する生育機構及び分子的機構については、注意が余り払われてこなかった。
【0003】
花器官同定の立証のような、花生育のある種の側面については、良く研究されてきたが(非特許文献1)、花のパターン及びサイズがどの様に調節されているかについては、余り研究されてない。シロイヌナズナにおいて、花器官生育過程で、AINTEGUMENTA(ANT)遺伝子が器官生長の調節に関わっていることが知られている。即ち、構成的35Sプロモーターの下でのANTの異処的発現により、シロイヌナズナの花とシュートは、より大きな器官に生育する(非特許文献2、3)。この遺伝子組換えシロイヌナズナにおいて、萼片のサイズの大型化は細胞分裂の増加に依るもので、花弁、雄ずい及び心皮のサイズの大型化は、主に、細胞の大型化に依っている(非特許文献2)。ANT−過剰発現のシロイヌナズナ遺伝子組換え体においては、シュート器官の大型化は、細胞周期遺伝子の発現時間の長期化と器官の生長によるもので、ANTは単に細胞周期進行以上のことを行い細胞大型化にも作用することを示唆している(非特許文献3)。
【0004】
トマト属において、果実サイズの差異は極端に大きく1−2gから1000gに及ぶが(非特許文献4)、果実サイズ、果実の形状を調節する多くの主要量的形質遺伝子座(QTL)が頻繁に使われており、fruit weight、locule-number、fascinated、ovate、sun、 fs8.1等いくつかの座位が、果実サイズと果実形状を形質転換する上で重要であることが見いだされている(非特許文献5)。4種の主要QTL、即ちfwl.1、fw2.2、fw3.1、及びfw4.1は、恐らくfw3.1を除き、果実サイズに作用を有するが、果実の形状には作用を有しない様である(非特許文献6)。今日まで、サイズを調節するQTLの一つであるfw2.2のみがクローン化されて分子レベルで研究されており、この座位の対立遺伝子の自然変異のみで果実サイズが30%ほど変化することが分かっている(非特許文献7)。最終的に果実の総量は花内部の子房の形、構造の変化により影響を受ける。fascinated及びlocule-numberの2座位は、花内部の心皮の数を変えることで果実サイズを決定づけると報告されている(非特許文献4)。ovate変異はトマト果実を丸形から梨型へ変化させる(非特許文献8)。sun座位は、果実が左右の対称性を維持するように両縦方向の一様な伸長を引き起こすに対し、ovate座位は果実の茎末端(へた)が花末端より誇張される様な、非対称的な伸長をもたらす(非特許文献9)。他の座位、fs8.1、はずんぐりした、僅かに伸長した外観と機能に関わり、花初期生育期間に機能する(非特許文献10)。
【0005】
なお、本発明者はコリンオキシダーゼに対するcodA遺伝子による形質転換でラン藻やアブラナ科の植物がグリシンベテイン(GB)を合成するようになり、これがこれらの植物体内で蓄積され、生殖期を含め植物生育の様々な段階で、耐塩性及び/又は耐浸透圧性となることを示した(非特許文献11、特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】国際公開WO96/29857
【非特許文献1】H. Ma. Genes Dev. 8, 745 (1994).
【非特許文献2】B. A. Krizek, Dev. Genet. 25, 224 (1999).
【非特許文献3】Y. Mizukanri, R. L. Fischer. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 97, 942 (2002).
【非特許文献4】Z. Lippman, S. D. Tanksley, Genetics 158, 413 (2001).
【非特許文献5】S. D. Tanksley, Plant Cell 16, S181 (2004).
【非特許文献6】E. van der Knaap, S. D. Tanksley, Theor. Appl. Genet. 107, 139 (2003).
【非特許文献7】A. Frary et al.,Science 289, 85 (2000).
【非特許文献8】J. Liu, J. Van Eck, B. Cong, S.D. Tanksley, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99, 13302 (2002).
【非特許文献9】E. van der Knaap, S. D. Tanksley, Theor. Appl. Genet.103, 353 (2001).
【非特許文献10】H. -M. Ku, G. Grandillo, S. D. Tanksley, Theor. Appl. Genet.101, 873 (2000).
【非特許文献11】E. -J. Park et al., Plant J 40, 474 (2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、花及び果実のサイズが大型化された作物及びその栽培化及び遺伝学的改良方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、コリンオキシダーゼをコードする遺伝子(codA遺伝子)が、花及び果実のサイズの大型化にかかわる主要な遺伝子であることを特定し、この遺伝子を発現する遺伝子組換えトマトにおいて、主に細胞数と細胞サイズが増加し、花と果実が顕著に大型化したことを見出し、本発明を完成するに至った。
また、本発明者は、その後の研究により、花と果実の大型化は導入したcodA遺伝子発現の多面的作用に依るものであり、この遺伝子はこれらの形質の更なる改良に有用であることを明らかにした。
本発明者は、更に、codA遺伝子による形質転換は、栄養組織には明白な形態変化を伴わずに、花及び果実サイズを著しく大型化させることを解明し、codA遺伝子導入による一連の遺伝子の発現変化が花及び果実サイズの大型化に関わっていること解明した。
【0009】
即ち、本発明は、コリンオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターで植物を形質転換することからなる花及び/又は果実のサイズが大型化された植物の作出方法である。
また、本発明は、上記の方法によって作出された花及び/又は果実のサイズが大型化された植物若しくはこれと同じ性質を有するその子孫又はこれら植物の一部である。「一部」とは、これら植物の切花、果実、その他これら植物から切り取られた部分をいう。
【発明の効果】
【0010】
codA遺伝子でトマトを形質転換することにより、野生型(WT)トマトと比べて、花と果実のサイズが大型化し、その他の特徴ある形質として、花序あたりの花数が低下し、結実率が下がり、また子室数が増加した。花除去実験により、遺伝子組換えトマトの果実サイズの増加はcodA遺伝子の多面的作用に依って引き起こされることを実証した。花弁及び心皮器官の組織学的解析の結果から、遺伝子組換えトマト生殖器官のサイズの全体としての増加は細胞サイズ及び細胞数の増加により引き起こされたといえる。トマトcDNAミクロアレイ解析の結果から、野生型の花の遺伝子と比較して遺伝子組換えの花の多くの遺伝子が差異的に調節されていた。半定量的RT−PCRの結果から、codA遺伝子組換えトマトの生殖器官の大型化は、fw2.2を含む細胞分裂に関与する転写物の制御により与えられたものといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のコリンオキシダーゼをコードする遺伝子は、グラム陽性の土壌菌アルスロバクター属由来のものを使用できる。例えば、アルスロバクター・グロビフォルムス(Arthrobacter globiformis)やアルスロバクター・パセンス(pascens)由来のものが好ましく、特にアルスロバクター・グロビフォルムス由来のものが好ましい。
アルスロバクター・グロビフォルムスのコリンオキシダーゼをコードするcodA遺伝子は、1638bpのオープンリーディングフレームをもち、546アミノ酸をコードし、配列番号2の塩基配列362〜1999番目から成る。
このようなコリンオキシダーゼをコードする遺伝子はこれを適当なベクターに組み込むことにより、植物を形質転換することができる。さらに、これらのベクターに適当なプロモーターや形質発現にかかわる配列を導入することにより植物中において遺伝子を発現させることができる。
配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列から成るタンパク質又は該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸(例えば、全アミノ酸の5%以下)が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列から成り、コリンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列であっても本発明の遺伝子として使用できる。
コリンオキシダーゼ活性は、1段階の酸化反応でコリンをベタインに酸化する機能をいう(Ikuta, S. et. al., J. Biochem.82:1741-1749, 1977)。
【0012】
本癸明の方法により花及び果実のような生殖器官のサイズが大型化されうる植物の範囲は極めて広く、全ての農作物及び園芸植物が含まれ、例えば、バラ、キク、カーネーション、金魚草、シクラメン、ラン、トルコギキョウ、フリージア、ガーベラ、グラジオラス、カスミソウ、カランコエ、ユリ、ペラルゴニウム、ゼラニウム、ペチュニア、トレニア、チューリッブ、イネ、オオムギ、小麦、ナタネ、ポテト、トマト、ポプラ、バナナ、ユーカリ、サツマイモ、タイズ、アルファルファ、ルーピン、トウモロコシ、カリフラワーなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
コリンオキシダーゼをコードする遺伝子を組み込むベクター、形質転換方法並びに形質転換植物体の選択方法は形質転換すべき植物の種類に応じて適宜選択することができる。
形質転換植物の作出には、プロトプラストを経由する遺伝子導入法、あるいは組織の一部を用いる遺伝子導入法を利用できる。組織片を用いる遺伝子導入では、アグロバクテリウム(Agrobacterium)由来のTiプラスミドを利用することができる。コリンオキシダーゼをコードする遺伝子を組み込んだプロトプラストをもつアグロバクテリウムをカルス化した植物組織片に感染させ、カナマイシンなどの薬剤耐性を利用して選択し、次いで茎葉を分化させて組換え植物体を得ることができる。遺伝子の導入方法には、ヘリウムなどの高圧ガスで、DNAを表面に吸着させた金などの粒子を植物の細胞に物理的に導入する方法(いわゆる適伝予銃法(Particle Gun法)を用いることができる。

以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0014】
codA遺伝子(配列番号2)をもつプラスミドpBluescript(Skt)(Stratagene社)を、BstEII(翻訳開始点から−40の位置)とSmaI(ストップコドンの下流)制限酵素で消化した。このcodA遺伝子の前にタバコのルビスコの小サブユニットのトランジットペブチドをコードするcDNAを結合させた。このDNAフラグメントをバイナリープラスミドpB1221のベ一タ・グルクロニダーゼ遺伝子の位置に挿入した。このコンストラクトから。カリフラワーモザイクヴィールスの35SRNAプロモーター、ルビスコの小サブユニットのトランジットペプチドをコードするcDNA、codA遺伝子、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーターを含むフラグメントを、HindlllとEcoR1で切り出した。このフラグメントをバイナリーベクターブラスミドpCAMBIA(CAMBIA,Canberra,Australia)のHindlllとEcoR1のサイトに挿入した。このプラスミドpCG/codAをAgrobacterium tumefaciens EHA101に凍結・融解法で挿入した。このcodA遺伝子を含むプラスミドを用いて、トマト(Lycopersicon esculentum cv. Moneymaker)をアグロバクテリウム法で形質転換した。得られた形質転換体をcodA−遺伝子組換えトマトとよぶ。
【0015】
各5組の野生種トマト(以下「WT」で表す。)とcodA−遺伝子組換えトマト(以下「codA」で表す。)を温室中で水栽培した。温室の条件は、25℃で照射時間(400-500μmolm-2s-1)を16時間とした。水栽培の栄養分であるフローラシリーズ(Flora Series, General hydroponics, Sebastopol, CA, USA)を隔週で与え、pHを5.7-5.9に保持した。全ての花は開花期に印を付し、開花期後3〜5日目に花の摘みたての重量を測定した。各植物の最初の10個の果実を熟した時点で収穫し、果実毎の摘みたての重量、種子の数及び子室(locule)の数を測定した。
【0016】
その結果、下記のような事実が判明した。
(1)codA遺伝子による形質転換は大型化した花及び果実をもたらす。
表現型による観察結果を表1に示し、トマトの花弁と子房を図1に示す。
【表1】

【0017】
WT及びcodA遺伝子組換えトマトの間には有意な差異がある(p<0.001)。WT及びcodAトマトの間の有意な差異の一つは、花序あたりの花数であり−codA遺伝子組換えトマトの花序あたりの花数は、WTトマトより約30%少なかった。開花後3ないし5日後、遺伝子組換えトマトの各花はWTの花より約2倍の重量であり、花弁サイズもまたWTのものより約1.7倍大きかった(図1A)。また開花以前において子房サイズも大型化していた(図1B)。花弁セグメント数は、WTとcodAトマトの間に有意な差異がなかった(p=0.25)。
また、データは示さないが、遺伝子組換えした花において、心皮及び柱頭裂片の数は増加していた。実際30以上のGB蓄積性のcodA遺伝子組換えトマト株を作り出したが、それ等全ての株は花及び果実サイズが大型化するよう変化した表現形質を有していた。
【0018】
codA遺伝子により形質転換したトマトの果実を図2に示す。成熟した遺伝子組換えトマトのサイズは有意に大型化しており、WTトマトのサイズより平均54%重かった。遺伝子組換えトマトの果実重量の平均値は、WTトマトの値より60%重く、偏差の上限値に相当する、個々の遺伝子組換え果実の25%はWTの平均果実重量より約2倍重かった。
人工授粉なしで、花序あたりの結実率は、WTトマトが68%であるのに対し、遺伝子組換えトマトは42%に減少していた。この結果によると、花序あたりの花の数も少ないことを考慮すると、遺伝子組換えトマトの全果実数は更に低いことになる。しかし、本発明者は無限型トマト品種を用いたので、トマトあたりの花序総数の測定をしなかった。
【0019】
受精後各心皮は果実の子室に生長する。しかし、いくつかの品種は、多くの子室を持つ果実をつくり、屡々、より大きくたっぷりした果実をつくる。多重子室型の心皮はcodA花芽のごく初期段階で観察され、その後、WT果実が2〜3個の子室を持つのに対し、遺伝子組換え果実は6〜7個の子室を有する(表1、図3C及びD)。fascinated及びlocule-numberの2つの座位が花の心皮数を変えることによって果実サイズを変えること(非特許文献4)、特に、fascinated突然変異株では、心皮の数が増すばかりでなく、心皮が非合着となり、あるいは、萼片,花弁,雄ずいのような他の花器官数も増加することが報告されているが(非特許文献5)、fascinated突然変異株に見られるこれらの形質は、codA遺伝子組換えトマトの花には見られなかった(図1)。
【0020】
(2)トマト果実の大型化はcodA遺伝子導入の多面的な作用で引き起こされる。
codA遺伝子組換えトマトでは花序あたりの花数が少ないこと及び、結実率が少ないことを考慮すると、トマト果実サイズの大型化が、単一花序につく果実間で光合成物に対する競合が少ないことによって引き起こされたもので、果実数がより少ない結果として大きな果実になった可能性がある。遺伝子組換えトマトと比較し、WTはどの花序に対してもより多くの果実を持つので、限られた栄養物、光合成生産物の下で競合が激しくなり、サイズが小さくなるのであると考えられる。局所的に限られた光合成産物の下で、トマトは生育過程にある少数の果実を落下させることによって、多数の半詰まりの果実ではなく、数少ない充実した果実が残されるということが報告されている(T. C. Nesbitt, S. D. Tanksley, Plant Physiol. 127, 575 (2001))。従って、遺伝子組換えトマトの果実サイズが増加するということが、codA遺伝子導入の直接的な結果なのか、単に花序あたりの果実数が減少した為であるのか知る必要がある。
【0021】
本発明者は、花序あたりの果実負荷が果実サイズに影響するという可能性を調べる為に、花除去実験を行った。この実験において、5対のWT及び遺伝子組換えトマトに手を加え、トマトあたり5花序残し、各花序あたり3個の果実を残して果実を切り取り、全部でトマトあたり15個の果実を残した。花除去後の果実重量とサイズを表2に示す。
表中の1stは3個の果実のうちで最初に花序に付いた果実を示し、2ndと3rdはそれぞれ2番目と3番目に花序に付いた果実を示す。
【表2】

【0022】
全てのトマトの花数を等しくしても、野生型トマト(WT)と遺伝子組換えトマト(codA)間の果実サイズの差異は減らなかった。それ以上に、花除去によって、花除去しない場合に比べ、WTと遺伝子組換えトマト間の果実サイズの差異は強調され、特に、最初に花序に付いた成熟果実では差異が大きかった。遺伝子組換え果実はWT果実より長さと高さの両方で有意に大きかった。
しかし、果実の長さ/直径(全体では平均1.2)はWTと遺伝子組換えトマトの間で有意な差がなかった。大部分の場合、遺伝子組換えトマト花序の最初に成熟した果実は、成熟した残りの2個の果実よりも有意に大きかった。同様の傾向がWTトマトの果実に対しても認められた。しかし、同じ花序位置では、遺伝子組換え果実はWT果実より有意に大きかった。表2に示す結果から、遺伝子組換えトマトの大型化した果実サイズはcodA遺伝子の多面的な作用によって引き起こされたものであって、花序あたりの果実数の減少の結果として起こるシンク−ソース機構に依るものではないといえる。
【0023】
(3)遺伝子組換え花弁及び心皮組織の大型化は細胞サイズと細胞数の増加に由来する。
植物の器官サイズは細胞数と細胞サイズの両者により一般的に決定される。codAトマトが細胞分裂を伴う生長期の長期化、及び果実生育期間における分裂後の細胞大型化をどのように調整するか調べる為に、本発明者は開花期2−3日前の心皮器官の横断面と花弁器官の縦断面を光学顕微鏡により撮影することにより組織学的解析を行った。その写真を図3に示す。
遺伝子組換えトマトの花弁組織(図3A及び3B)に於いて、細胞サイズは大型化したが、単位面積あたりの細胞数は有意に減少した(p<0.01)。遺伝子組換えトマトの花弁の大型化した細胞(>25μm長)の割合は、WTトマトの値(8.4%)よりずっと高かった(13.4%)、他方、中型(12〜25μm)及び小型(<12μm)の細胞の割合については、WT及び遺伝子組換えトマトの間で有意な差異(中型及び小型の細胞についてそれぞれ、p=0.22及びp=0.44)が見られなかった。
【0024】
開花期2−3日前のcodA心皮は、WTトマトの心皮より顕著に大型であり、しばしば2層になった多くの子室から構成されている(図3C〜F)。更に、大部分の遺伝子組換え心皮の果皮外壁は、WT心皮のものより厚かった。codA遺伝子組換えトマトは、WTトマトが果皮外壁において有するより、単位面積あたり少ない細胞数を有するが(p<0.01)、果皮内壁についてはWTと有意な差異が無かった(p=0.25)。しかし、codA遺伝子組換えトマトは果皮外壁においては、WTと比較し有意に増加した細胞層(p<0.01)を有する。
以上から、花弁及び心皮組織を含めcodA生殖器官の大型化は、細胞サイズ及び細胞数の調節に依って起こると結論づけられる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】codA遺伝子により形質転換したトマトの花弁と子房を示す図である。「WT」はcodA遺伝子を導入していない野生型トマトを示し、「codA」は、codA遺伝子を導入したトマトを示す。図右のメジャーの単位はcmである。
【図2】codA遺伝子により形質転換したトマトの果実を示す図である。図右のメジャーの単位はcmである。
【図3】開花期2−3日前の花弁器官の縦断面と心皮器官の横断面を示す図である。A,C及びEはWT、B,D及びFはcodAのものを示す。WTとcodAの写真の縮尺は同じである。AとBは花弁器官の縦断面を示し、CとDは心皮器官の横断面を示す。CとDのボックスの拡大写真をぞれぞれEとFに示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コリンオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターで植物を形質転換することからなる花及び/又は果実のサイズが大型化された植物の作出方法。
【請求項2】
前記コリンオキシダーゼをコードする遺伝子が土壌菌アルスロバクター由来のものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コリンオキシダーゼが、配列番号1で表されるアミノ酸配列から成るタンパク質又は該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列から成り、コリンオキシダーゼ活性を有するタンパク質である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記コリンオキシダーゼをコードする遺伝子が配列番号2の塩基配列362〜1999番目から成る請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法によって作出された花及び/又は果実のサイズが大型化された植物若しくはこれと同じ性質を有するその子孫又はこれら植物の一部。
【請求項6】
前記植物がトマトである請求項5に記載の花及び/又は果実のサイズが大型化された植物若しくはこれと同じ性質を有するその子孫又はこれら植物の一部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−211968(P2008−211968A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173185(P2005−173185)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】