説明

花粉飛散防止剤

【課題】樹木本体および枝葉に影響を及ぼすことなく、雄性器官に対する作用が鋭敏な花粉飛散防止剤を提供すること。
【解決手段】オレイン酸またはリノール酸と炭素数4以上の多価アルコールとのエステルを0.5〜30%含有させ、界面活性剤によってエマルジョンを安定化させた花粉飛散防止剤。例えばスギに対し、雄花が着生する8月から花粉粒の生育期に当る10〜11月までの比較的長い期間にわたり散布することができ、翌春の花粉の飛散を有効に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物の花粉が飛散しないようにするための花粉飛散防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の雄性器官に存在する花粉のうち、風媒花粉は風に乗って空中に飛散し、雌性器官に付着して受精を行なう。この花粉を人が吸引するといわゆる花粉症と呼ばれる重篤な症状が引き起こされることがあり、特にスギ、ヒノキまたはブタクサ等の花粉による花粉症では目や鼻にアレルギー症状が起こり、このような花粉症に悩む人々は年々増加の傾向にある。このような花粉に対する被害への対応策としては、抗ヒスタミン剤や副腎皮質ホルモン等の投与、目薬やマスク等の使用が挙げられるが、最も効率的な対策は花粉の空中への飛散を防止することである。
【0003】
花粉の空中への飛散を防止する手段としては、原因となる樹木の伐採や草木の除草を行うことが挙げられるが、伐採や除草には膨大な労働力を必要とするのみならず、伐採は時に自然環境の破壊等の悪影響をもたらすという問題がある。
【0004】
樹木の伐採や草木の除草以外に花粉の飛散を防止する手段として、ある種の薬剤を雄性器官に対して散布または塗布することが提案されている。このような薬剤の例としては、オレイン酸又はリノール酸を主成分とした植物油脂(特許文献1)やオレイン酸ナトリウム(特許文献2)を有効成分とするものが開示されている。
【0005】
しかし、これらの薬剤においては雄性器官に対する作用が比較的緩慢であるため、薬剤の散布時期が雄花の着生期にあたる8月に限定されるという欠点があった。
【特許文献1】特開平05−238902号公報
【特許文献2】特開平07−053307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、樹木本体および枝葉に影響を及ぼすことなく、雄性器官に対する作用が鋭敏な花粉飛散防止剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、オレイン酸またはリノール酸と炭素数4以上の多価アルコールとのエステルが、植物の雄性器官に対する作用が鋭敏であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、オレイン酸またはリノール酸と炭素数4以上の多価アルコールとのエステルを含有する花粉飛散防止剤である。
【0009】
好適な実施態様においては、上記オレイン酸またはリノール酸と炭素数4以上の多価アルコールとのエステルを0.5〜30質量%含有するエマルションである花粉飛散防止剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹木本体および枝葉に影響を及ぼすことなく、雄性器官に対する作用が鋭敏な花粉飛散防止剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の花粉飛散防止剤は、オレイン酸またはリノール酸と炭素数4以上の多価アルコールとのエステルを含有する。オレイン酸またはリノール酸以外の脂肪酸と炭素数4以上の多価アルコールとのエステルでは雄性器官に対する作用が鋭敏でないものや、雄性器官に対する作用は鋭敏でも樹木本体および枝葉に影響を与えるものがあり好ましくない。
【0012】
オレイン酸またはリノール酸と炭素数4以上の多価アルコールとのエステルは、脂肪酸と多価アルコールとの通常の脱水反応から得られる。オレイン酸またはリノール酸と炭素数4以上の多価アルコールとのエステルは、多価アルコールに対する脂肪酸の仕込みモル比を調整することによリ、多価アルコールの水酸基の一部または全てをエステル化することによって得ることができる。
【0013】
オレイン酸またはリノール酸との反応に使用される炭素数4以上の多価アルコールは、炭素数が4以上であればいずれでもよく、例えば1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ヘキシレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、ジトリメチロールプロパン、ジグリセリン、トリグリセリン等があげられる。炭素数が2の多価アルコールであるエチレングリコールおよび炭素数が3のプロピレングリコールとオレイン酸またはリノール酸とのエステルでは雄性器官に対する作用は鋭敏であるが、樹木本体および枝葉に影響を与えるため好ましくない。
【0014】
本発明の花粉飛散防止剤は、使用に際してはオレイン酸またはリノール酸と炭素数4以上の多価アルコールとのエステルに界面活性剤を添加してエマルションとすることが好ましい。ここでエマルション中に配合されるオレイン酸またはリノール酸と炭素数4以上の多価アルコールとのエステルは0.5〜30質量%が好ましく、更に好ましくは1〜20質量%配合されることが好ましい。オレイン酸またはリノール酸と炭素数4以上の多価アルコールとのエステルの配合量が30質量%を超えるとエマルションの安定性が悪くなる場合がある。エマルションに添加する界面活性剤としては一般的に使用される界面活性剤であればいずれでも良く、特に非イオン性界面活性剤が好ましい。非イオン性界面活性剤の例としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル型非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル型非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン脂肪酸ソルビタンエステル型非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油型非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル型非イオン性界面活性剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル型非イオン性界面活性剤等が挙げられる。このようにしてエマルションとした花粉飛散防止剤は、これに水等の希釈剤を添加して希釈した液を例えばヘリコプター等から散布することによって、広範囲において花粉の飛散を防止することができる。
【0015】
本発明の花粉飛散防止剤の例えばスギへの散布時期は、雄花の花芽の分化後のいずれの時期に散布してもよく、雄花が着生する8月から花粉粒の生成期に当たる10〜11月までの比較的長い期間にわたり散布することができ、これにより翌春の花粉の飛散を有効に防止することができる。
【実施例】
【0016】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。なお、例中、「%」はいずれも質量基準を意味する。
【0017】
評価1(スギに対する浸漬試験)
表1に示すオレイン酸またはリノール酸と炭素数4以上の多価アルコールからなるエステルを調製した。先端に雄花15個を着けた長さ約10cmのスギの針葉の多数を同じスギの木から採取し、これらのそれぞれ5本を1群として、各群を表1の薬剤100mLに浸漬した。1分間浸漬後に液から引き上げてビーカーに入れ、一週間経過後における雄花および針葉の変化を観察した。試験は8月と11月のスギについて行った。8月の結果を表2に、また11月の結果を表3にそれぞれ示す。なお、比較例に使用したオレイン酸ナトリウムおよびステアリン酸またはパルミチン酸と多価アルコールとのエステルは室温で固体であるので、オレイン酸ナトリウムは有効成分濃度として5%になるように水に溶解した水溶液として、またステアリン酸またはパルミチン酸と多価アルコールとのエステルは雄花および枝葉に影響を与えないスクワランに有効成分濃度として5%になるように溶解した液状油として使用した。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
【表3】

【0021】
表2および3に示した結果より、本発明に係る実施例では、8月と11月のいずれの月においても針葉に影響を及ぼすことなく、雄花に対する作用が鋭敏であることが確認できた。これに対して比較例1、2および3ではそれぞれオレイン酸、オレイン酸ナトリウムおよびリノール酸を薬剤として使用しているため、11月の雄花に対し効果が得られていない。比較例4および5ではステアリン酸およびパルミチン酸と炭素数4以上の多価アルコールとのエステルを薬剤として使用しているため、8月および11月とも雄花に対し効果が得られず、また針葉に対しては悪影響を与えている。比較例6および7ではリノレン酸と炭素数4以上の多価アルコールとのエステルを薬剤として使用しているため、8月および11月とも雄花に対しては効果が得られているが、針葉に対しては悪影響を与えている。比較例8および9ではそれぞれオリーブ油およびひまわり油を薬剤として使用しているため、11月の雄花に対し効果が得られていない。
【0022】
評価2(エマルション型花粉飛散防止剤の評価)
表4に示す処方のエマルションを調製し、評価1と同様にそれぞれのエマルションのスギに対する効果を評価した。すなわち先端に雄花15個を着けた長さ約10cmのスギの針葉の多数を同じスギの木から採取し、これらのそれぞれ5本を1群として、各群を表4のエマルション100mL中に浸漬した。1分間浸漬後に液から引き上げてビーカーに入れ、一週間経過後における雄花および針葉の変化を観察した。試験は8月と11月のスギについて行った。結果を表5に示す。なお、エマルションの調製は以下のように行なった。
(エマルションの調製方法)
表4に示す配合量のオレイン酸と多価アルコールとのエステル、界面活性剤としてポリオキシエチレン(40モル)硬化ヒマシ油、乳化安定剤としてグリセリン、および水を70℃で攪拌、混合した後、ホモジナイザー(みづほ工業株式会社製QUICK HOMO MIXER LR−1)を使用して毎分7000回転で3分間処理後、攪拌しながら冷却してエマルションを得た。
(エマルションの安定性の評価)
各エマルションを−5℃と40℃を交互に12時間ずつ繰り返す恒温槽に1ヶ月間入れ、エマルションの状態を観察し、以下のように評価した。
○:安定性良好(1ヶ月間エマルションの外観が変化しない)
×:安定性不良(1ヶ月未満にエマルションに分離が認められる)
【0023】
【表4】

【0024】
【表5】

【0025】
表5に示した結果より、8月と11月のいずれの月においても針葉に影響を及ぼすことなく、雄花に対する作用が鋭敏であることが確認できた。配合例6ではオレイン酸とペンタエリスリトールとのエステルの配合量が30質量%を超えているため、エマルションの安定性が悪くなっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレイン酸またはリノール酸と炭素数4以上の多価アルコールとのエステルを含有する花粉飛散防止剤。
【請求項2】
請求項1記載の花粉飛散防止剤を0.5〜30質量%含有するエマルションである花粉飛散防止剤。

【公開番号】特開2009−191052(P2009−191052A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36632(P2008−36632)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】