説明

芳香族カルボン酸含有組成物保持槽及び芳香族カルボン酸の製造方法

【課題】導管の閉塞を防止しつつ差圧式液面計の精度を安定して向上させることができる芳香族カルボン酸含有組成物保持槽を提供する。
【解決手段】液状組成物101を保持する槽体100と、槽体100内の液面102の位置を測定する差圧式液面計200とを備えた組成物保持槽において、差圧式液面計200を、槽体100内に開口した中空部211を有する第一導管210と、中空部211内の圧力を伝達する第一圧力伝達手段220と、槽体100内に開口した中空部231を有する第二導管230と、中空部231内の圧力を伝達する第二圧力伝達手段240と、伝達された圧力差を測定する差圧測定手段250と、第一熱媒を第一導管210に供給する第一熱媒管262と、第一熱媒262の温度及び/又は流量を一定範囲に維持するように制御する第一制御手段281とを備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族カルボン酸含有組成物保持槽及び芳香族カルボン酸の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族カルボン酸の製造は通常は適切な溶媒中で行われる。また、製造される芳香族カルボン酸は通常は固体である。このため、芳香族カルボン酸の製造の際には、生成物は、溶媒中に芳香族カルボン酸が分散した液状組成物(例えば、スラリー)として得られることが多い。
また、芳香族カルボン酸を製造する場合、反応、晶析等の工程は、通常、各工程に対応した保持槽内において行われる。この際、品質、製造効率及び安全性の向上等の観点から、各保持槽内における液面の高さを調節しながら芳香族カルボン酸の製造を行う。したがって、前記の保持槽には、通常、液面の位置を測定する液面計を備え付ける。
【0003】
前記の液面計の一例として、差圧式液面計が挙げられる。差圧式液面計は、保持槽内の液面よりも上の部分(気相)の圧力と、保持槽内の液面よりも下の部分(液状組成物)の圧力とを測定し、両圧力の差を算出し、その圧力の差から液面の位置(高さ)を測定するものである。
ところで、多くの差圧式液面計では、液状組成物を案内する導管を備えている。この導管が何らかの理由により閉塞すると液面の位置を正確に測定することが困難になる。これを抑制するためには、例えば、加熱した熱媒(シール液等)を導管に供給するようにすればよい(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−315456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の技術では、差圧式液面計の精度が低下することがあった。これは、特許文献1記載の技術では熱媒の温度及び/又は流量が何らかの理由により大きく変動することがあり、この変動により前記の精度が低下したためと考えられる。
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、上記の閉塞を防止しつつ差圧式液面計の精度を安定して向上させることができる芳香族カルボン酸含有組成物保持槽及びそれを用いた芳香族カルボン酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、差圧式液面計の導管に供給される熱媒の温度及び/又は流量を一定範囲に維持するように制御することにより、差圧式液面計の精度を安定して向上させられることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明の要旨は、芳香族カルボン酸及び溶媒を含む液状組成物を保持する槽体と、該槽体内の液面の位置を測定する差圧式液面計とを備え、該差圧式液面計が、該槽体内に開口し、該槽体内の該液状組成物を導入する中空部を有する第一導管と、該第一導管の中空部内の圧力を伝達する第一圧力伝達手段と、該槽体内の該第一導管よりも上部に開口し、該槽体内の気体を導入する中空部を有する第二導管と、該第二導管の中空部内の圧力を伝達する第二圧力伝達手段と、該第一圧力伝達手段及び該第二圧力伝達手段から伝達された圧力の差を測定する差圧測定手段と、第一熱媒を該第一導管に供給する第一熱媒管と、該第一熱媒の温度及び/又は流量を一定範囲に維持するように制御する第一制御手段とを備えることを特徴とする芳香族カルボン酸含有組成物保持槽に存する(請求項1)。
【0008】
このとき、該第一圧力伝達手段が、該差圧測定手段に接続され、シール液で満たされた第一キャピラリーチューブと、該第一導管の中空部内の圧力を該第一キャピラリーチューブのシール液に伝える第一ダイアフラムとを備え、該第二圧力伝達手段が、該差圧測定手段に接続され、シール液で満たされた第二キャピラリーチューブと、該第二導管の中空部内の圧力を該第二キャピラリーチューブのシール液に伝える第二ダイアフラムとを備えることが好ましい(請求項2)。
【0009】
また、該第一熱媒が、該槽体内の該溶媒と実質的に同じ組成であることが好ましい(請求項3)。
【0010】
さらに、該液状組成物がスラリーであることが好ましい(請求項4)。
【0011】
また、該槽体内の該液状組成物を攪拌する攪拌手段を備えることが好ましい(請求項5)。
【0012】
さらに、該第一導管が該槽体の内径に対して0.05%以上20%以下の範囲で該槽体内に挿入されていることが好ましい(請求項6)。
【0013】
また、該槽体内において該第一導管が下向きに開口していることが好ましい(請求項7)。
【0014】
さらに、該槽体の外部に、該第一熱媒を加熱する熱源を備えることが好ましい(請求項8)。
【0015】
また、第二熱媒を該第二導管に供給する第二熱媒管と、該第二熱媒の温度及び/又は流量を一定範囲に維持するように制御する第二制御手段とを備えることが好ましい(請求項9)
【0016】
さらに、該槽体内の液面の位置を測定する放射線式液面計を備えることが好ましい(請求項10)。
【0017】
本発明の別の要旨は、本発明の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽を用いることを特徴とする芳香族カルボン酸の製造方法に存する(請求項11)。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、導管の閉塞を防止しつつ差圧式液面計の精度を安定して向上させることができる芳香族カルボン酸含有組成物保持槽及びそれを用いた芳香族カルボン酸の製造方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0020】
[1.芳香族カルボン酸含有組成物保持槽]
[1−1.第一実施形態]
図1〜図3は本発明の第一実施形態としての芳香族カルボン酸含有組成物保持槽について示すもので、図1は芳香族カルボン酸含有組成物保持槽の構成を模式的に示す概略図、図2は第一流量制御手段及び第二流量制御手段における制御フローを示す図、図3は第一温度制御手段及び第二温度制御手段における制御フローを示す図である。
【0021】
図1に模式的に示すように、本実施形態の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1は、槽体100と、差圧式液面計200と、放射線式液面計300とを備えている。
【0022】
・槽体
槽体100は、その内部に芳香族カルボン酸及び溶媒を含む液状組成物101を保持する容器である。槽体100の種類は、本発明の目的及び効果を損なわない限り特に制限はなく、後述する芳香族カルボン酸の製造方法におけるいずれの工程に用いられるかによって適宜選択される。例えば酸化反応槽、水添反応槽等の反応槽;芳香族カルボン酸を晶析させる晶析槽;生成した芳香族カルボン酸を固液分離した後の母液を貯蔵する母液槽;洗浄廃液を入れるための洗浄廃液槽などが挙げられる。このような槽体100の形状は、その種類に応じて適宜選択され、例えばガス及び材料等の供給口、生成物及び廃液の送出口等を備えるものであってもよい。なお、ここでは円筒状であるとして説明するが、形状はこれに限定されるものではない。
【0023】
槽体100の直径は通常1m以上であり、好ましくは2m以上、より好ましくは3m以上である。また通常10m以下、好ましくは7m以下、より好ましくは5m以下である。これにより必要とされる滞留時間の確保や低コスト等を実現することができる。
【0024】
また、槽体100の壁厚みは通常1mm以上であり、好ましくは5mm以上、より好ましくは10mm以上である。また通常100mm以下、好ましくは50mm以下、より好ましくは20mm以下である。これにより高強度、高耐腐食性、かつ低コストとすることができる。
【0025】
また、槽体100の材質としては、例えばSUS304L、SUS316L、SUS317L等のステンレス、またはこれらをPVC、もしくはPTFEライニングしたもの、炭素鋼や、これをチタンで被覆したもの、チタン、ハステロイ等を用いることができる。
【0026】
槽体100に保持される液状組成物101の状態は、溶液、分散液、スラリーなど、液状の挙動を示す組成物であればその存在状態に制限はない。ただし、後述するように閉塞防止できるという本実施形態の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1の利点を有効に活用する観点からは、液状組成物101はスラリーであることが好ましい。
【0027】
ここで、芳香族カルボン酸は、芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1を用いて製造する芳香族カルボン酸である。その例を挙げると、オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸(ベンゼントリカルボン酸)、2,6−、又は2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などが挙げられる。なかでもフタル酸類(オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸)のなどが好ましく、特にテレフタル酸が好ましい。
なお、芳香族カルボン酸としては、1種のみでもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で含んでいてもよい。
【0028】
また、溶媒としては、芳香族カルボン酸の製造の際に使用する任意の溶媒を用いることが可能である。例えば、酢酸、プロピオン酸、蟻酸等の有機酸、水などが挙げられる。中でも、後述するように閉塞防止できるという本実施形態の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1の利点を有効に活用する観点からは、温度の変動等によって溶媒から芳香族カルボン酸が析出するものが好ましく、具体的には酢酸及び水が好ましい。
【0029】
液状組成物101は、少なくとも上記の芳香族カルボン酸及び溶媒を含んでいれば、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例を挙げると、芳香族カルボン酸の製造の際に使用する触媒、前記の製造の際に副生する副生物等が挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみでもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で含んでいてもよい。
【0030】
また、槽体100内の液状組成物101の液面102よりも上部には、ガス(気体)103が満たされている。このガス103は、例えば、芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1で行う工程に応じて充填されたガス、液状組成物101から生じたガスなどである。後述する差圧式液面計200は、この液状組成物101とガス103との境界である液面102の位置を測定するようになっている。
【0031】
槽体100には液状組成物101を攪拌する攪拌手段として、モータ104、攪拌軸105及び攪拌翼106を備えた攪拌機107が設けられている。この攪拌機107は槽体100内の液状組成物101を攪拌する手段であり、組成物保持槽1が反応槽である場合などに必要に応じて設けられる。これにより、槽体100内での反応等の効率を高めることができる。この際、攪拌機107の形状、大きさ等は必要とする攪拌能力に応じて適切なものを採用すればよい。
【0032】
攪拌翼106の種類としては、例えばタービン型、パドル型、アンカー型等が挙げられる。また攪拌翼106の形状としては、槽体100の外径、液状組成物101の組成等に応じて適宜選択可能であるが、翼の幅は通常100mm以上、好ましくは150mm以上、より好ましくは200mm以上であり、通常1000mm以下、好ましくは900mm以下、より好ましくは800mm以下である。これにより攪拌効率がよく、かつ低コストとすることができる。
また攪拌翼106の枚数は、液状組成物101の量や組成等に応じて適宜選択可能であるが、通常1枚以上であり、また通常10枚以下、好ましくは9枚以下、より好ましくは8枚以下とする。これにより、攪拌効率を良好なものとし、また攪拌動力を低減してコストを低減することが可能となる。また攪拌翼106の段数としては、液状組成物101の量や組成等に応じて適宜選択可能であるが、通常1段以上とし、また通常10段以下、好ましくは9段以下、より好ましくは8段以下とすることができる。これにより、攪拌効率を良好なものとし、また攪拌動力を低減してコストを低減することが可能となる。
【0033】
また、攪拌機107と併せてバッフル(図示省略)が槽体100内に設けられていてもよい。バッフルは、通常、槽体100の内周面に沿って、その長さ方向が上記攪拌軸105の軸方向となるように取り付けられる板状体である。モータ104を駆動して攪拌翼106により攪拌する際、バッフルによって、液状組成物101の流れを乱すことができ、攪拌効率をより向上させることが可能となる。
【0034】
バッフルの幅としては、通常、槽体100の内径の5%以上、20%以下とすることが好ましい。このような範囲内では攪拌効率を良好なものとすることができるからである。
また、バッフルの枚数は、特に制限されるものではないが、通常2枚以上、10枚以下とすることが好ましい。これにより、攪拌効率を向上させることができるからである。
【0035】
槽体100には、槽体100内の温度を調整する温度調整手段(図示省略)を設けることが好ましい。通常、槽体100内の温度は常温又は高温に調整するため、温度調整手段としてヒーターを設ける。なお、ヒーターの種類、設置位置などは必要とする加熱能力に応じて適切なものを採用すればよい。
【0036】
また、温度調整手段によって槽体100内の温度をどの程度に調整するかは、芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1内において行う工程に応じて設定すればよい。ただし、本実施形態の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1の利点である閉塞防止効果は、運転温度が高い槽に用いた場合に特に効果的である。なお、調整する具体的な温度範囲については、芳香族カルボン酸の製造方法の説明と共に後述する。
【0037】
・差圧式液面計
差圧式液面計200は液面102の位置を測定する計測器であり、第一導管210と、第一圧力伝達手段220と、第二導管230と、第二圧力伝達手段240と、差圧測定手段としての差圧センサ250とを備えている。また、差圧式液面計200は、第一導管210に第一熱媒を供給する第一熱媒供給系260と、第二導管230に第二熱媒を供給する第二熱媒供給系270と、第一熱媒供給系260及び第二熱媒供給系270を制御する制御手段280とを備えている。
【0038】
第一導管210は、槽体100内に開口した中空部211を有する管である。なお、図1において第一導管210は一部を破断した様子を示している。中空部211は開口部212において槽体100内に開口していて、この開口部212を通じて中空部211に液状組成物101を導入できるようになっている。導入された液状組成物101は、その圧力が第一圧力伝達手段220を通じて差圧センサ250に伝達されるようになっている。
【0039】
第一導管210の材質は、槽体100内のガス及び液状組成物101により腐食しにくいものが好ましい。また、攪拌機107により液状組成物101を攪拌する場合には、液状組成物101による圧力で第一導管210が破損したり変形したりすることを防ぐため、剛性の高いものを用いることが好ましく、中でも槽体100と同等またはそれよりも剛性が高いものがより好ましい。通常は、第一導管210は、チタン、ステンレス(SUS304、SUS304L、SUS316L、SUS317L等)により形成する。
【0040】
第一導管210の形状に特に制限はないが、通常は真っ直ぐな円筒状の管を用いる。
【0041】
第一導管210の内径は、通常3インチ以下、好ましくは2インチ以下、より好ましくは1インチ以下とする。小さすぎると中空部211が閉塞しやすくなる可能性がある。なお、1インチは0.0254メートルである。
【0042】
また、第一導管210を槽体100内へ挿入した挿入部の長さL211は、槽体100の内径L100に対して、0.05%以上が好ましく、0.1%以上がより好ましく、また、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。第一導管210の挿入部の長さL211を槽体100の内径L100に対して前記のように所定の程度だけ長く形成することにより中空部211に固体粒子が進入することを抑制できるため、槽体100の内壁から剥がれた付着物及び液状組成物101中の浮遊物などにより中空部211が閉塞することを防止できる。一方、第一導管210の挿入部の長さL211を槽体100の内径L100に対して前記のように所定の程度だけ短く形成することにより、攪拌翼106と第一導管210との接触、液状組成物101の流れの影響などにより第一導管210が曲がったり折れたりすることを抑制できると共に、第一導管210の閉塞を防止することもできる。
【0043】
第一導管210の設置高さは、通常の運転時に液面102よりも下となる位置であれば特に制限はないが、槽体100内の高さH100の、通常3/4以下、好ましくは1/2以下、より好ましくは1/4以下の位置とする。第一導管210の設置位置が低いほど、より広範囲の液面の位置を測定できるからである。
【0044】
ここで、第一導管210の開口部212は、下向きに開口するように設けられていることが好ましい。槽体100の内壁から剥がれた付着物及び液状組成物101中の浮遊物などが開口部212から中空部211内に進入すると閉塞が生じることがあるが、開口部212を下向きに形成しておけば前記の進入を抑制し、閉塞を防止しやすくなる。具体的な態様としては、例えば、第一導管210の端部を斜め下向きに切り欠いたり、第一導管210の先端を下向きに曲げたりして開口部212を下向きに開口するように形成すればよい。中でも、第一導管210は曲がりがなく真っ直ぐに形成されている方が閉塞し難いため、第一導管210の端部を斜め下向きに切り欠く態様が好ましい。
【0045】
第一圧力伝達手段220は、液状組成物101を導入した中空部211内の圧力を差圧センサ250に伝達する手段である。この際、圧力は、例えば圧力の大きさの値を電気信号として伝達してもよいが、圧力自体を伝達するようにしてもよい。前者の場合には、例えば、液状組成物101の圧力を測定する圧力センサと当該圧力センサで測定した圧力の大きさを電気信号として伝達する配線により第一圧力伝達手段220を構成できる。しかし本実施形態では後者の構成をとり、第一圧力伝達手段220は第一キャピラリーチューブ221と第一ダイアフラム222とを備えて構成されているものとする。
【0046】
第一キャピラリーチューブ221はシール液で満たされたチューブであり、一端に加えられた圧力を、前記のシール液を通じて他端に伝達できる部材である。本実施形態では第一キャピラリーチューブ221の一端は第一ダイアフラム222に接続され、他端は差圧センサ250に接続されている。これにより、第一ダイアフラム222を介して加えられた中空部211内の液状組成物101からの圧力を、シール液を通じて差圧センサ250に伝達できるようになっている。
【0047】
第一キャピラリーチューブ221の材質に特に制限はないが、例えば銅、アルミニウム、ステンレス(SUS304等)などが挙げられる。また、第一キャピラリーチューブ221は、オレフィン樹脂テープの巻装などにより保護することが好ましい。
また、シール液は圧力の伝達機能を損なわない限り制限は無いが、例えばシリコンオイルなどを用いることができる。
【0048】
第一キャピラリーチューブ221の寸法は、圧力の伝達機能を損なわない限り制限は無い。例えば、長さ1m以上10m以下、径は10mmに形成すればよい。
【0049】
第一ダイアフラム222は、第一導管210の端部に設けられて中空部211の外側端部を封止すると共に、中空部211内の圧力を第一キャピラリーチューブ221のシール液に伝えるものである。中空部211内の圧力は、この第一ダイアフラム222と、第一キャピラリーチューブ221内のシール液とを介して差圧センサ250に伝達されるようになっている。
【0050】
第一ダイアフラム222の種類、形状等に制限はない。寸法は中空部211の外側端部を封止できるだけ大きければ他に制限はないが、大きすぎると省スペース化が図れないため、通常は300mm以下、好ましくは200mm以下の径のものを用いる。
【0051】
第二導管230は、槽体100内に開口した中空部231を有する管である。なお、図1において第二導管230は一部を破断した様子を示している。中空部231は開口部232において槽体100内に開口していて、この開口部232を通じて中空部231にガス103を導入できるようになっている。ただし、開口部232は第一導管210よりも上部に開口しているものとする。また、前記の導入されたガス103は、その圧力が第二圧力伝達手段240を通じて差圧センサ250に伝達されるようになっている。
【0052】
第二導管230の材質及び内径は、第一導管210と同様である。
【0053】
第二導管230の形状に特に制限はない。ただし、ガス103が後述する第二ダイアフラム242を劣化させるものである場合は、第二導管230の第二ダイアフラム242に接続されている側の端部233を、第二導管232の他の部位のよりも相対的に低位置に形成することが好ましい。第二ダイアフラム242の劣化を防止するためである。
例えばガス103が水素ガスを含んでいる場合、第二ダイアフラム242は水素ガスによって劣化することがある。しかし、第二導管230の端部233を第二導管230の他の部位よりも相対的に低位置に形成すれば、中空部231に供給された第二熱媒(後述する)が端部233に溜まるため、ガス103は第二ダイアフラム242に直接接することがなくなる。このため、第二ダイアフラム242の劣化を防止できる。なお、この場合でも中空部231内の圧力は第二熱媒を介して第二ダイアフラム242に伝わるため、差圧センサ250による差圧の測定に問題はない。
本実施形態では第二導管230が湾曲して形成され、端部233が少なくとも中央部234よりも相対的に低く形成されているものとする。
【0054】
第二導管230の設置高さは、通常の運転時に液面102よりも上となる位置であれば特に制限はないが、槽体100内の高さH100の、通常1/4以上、好ましくは1/2以上、より好ましくは3/4以上の位置とする。第二導管230の設置位置が高いほど、より広範囲の液面の位置を測定できるからである。
【0055】
さらに、第二導管230の開口部232は、下向きに開口するように設けられていることが好ましい。槽体100の内壁から剥がれた付着物などが開口部232から中空部231内に進入すると閉塞が生じることがあるが、このように下向きに形成しておけば前記の進入を抑制し、閉塞を防止しやすくなる。具体的な態様としては、例えば第一導管210と同様に形成することができる。ただし、上記のように第二導管230の設置位置は高いほど好ましいことから、本実施形態では、槽体100の天井部に開口部232を設けているものとする。
【0056】
第二圧力伝達手段240は、ガス103を導入した中空部231内の圧力を差圧センサ250に伝達する手段である。この際、第一圧力伝達手段220と同様に、圧力は、例えば圧力の大きさの値を電気信号として伝達してもよいが、圧力自体を伝達するようにしてもよい。前者の場合には、例えば、液状組成物101の圧力を測定する圧力センサと当該圧力センサで測定した圧力の大きさを電気信号として伝達する配線により第二圧力伝達手段240を構成できる。しかし本実施形態では後者の構成をとり、第二圧力伝達手段240は第二キャピラリーチューブ241と第二ダイアフラム242とを備えて構成されているものとする。
【0057】
第二キャピラリーチューブ241は、第一キャピラリーチューブ221と同様にシール液で満たされたチューブであり、一端に加えられた圧力を、前記のシール液を通じて他端に伝達できる部材である。本実施形態では第二キャピラリーチューブ241の一端は第二ダイアフラム242に接続され、他端は差圧センサ250に接続されている。これにより、第二ダイアフラム242を介して加えられた中空部231内のガス103からの圧力を、シール液を通じて差圧センサ250に伝達できるようになっている。
【0058】
第二キャピラリーチューブ241の材質、寸法、シール液などは、第一キャピラリーチューブ221と同様に形成すればよい。
【0059】
第二ダイアフラム242は、第二導管230の端部233に設けられて中空部231の外側端部を封止すると共に、中空部231内の圧力を第二キャピラリーチューブ241のシール液に伝えるものである。中空部231内の圧力は、この第二ダイアフラム242と、第二キャピラリーチューブ241内のシール液とを介して差圧センサ250に伝達されるようになっている。
【0060】
第二ダイアフラム242の種類、形状等に制限はない。寸法は中空部231の外側端部を封止できるだけ大きければ他に制限はないが、大きすぎると省スペース化が図れないため、通常は300mm以下、好ましくは200mm以下の径のものを用いる。
【0061】
差圧測定手段としての差圧センサ250は、第一圧力伝達手段220及び第二圧力伝達手段240から伝達された圧力を受け取り、その圧力の差(差圧)を測定するものである。測定された差圧からは、以下の要領で液面102の高さを算出することができる。
液状組成物101の比重ρが一定であれば、槽体100の底部や下部にかかる圧力は液面の高さに比例する。具体的には、第一導管210の中空部211内の圧力P1、第二導管230内の中空部231内の圧力P2は、第一導管210の設置位置から液面102までの高さHとの間にP1=P2+ρ・Hという関係が成立する。したがって、P2とP1との差P1−P2を求めるとP2が相殺されて、ρHのみを算出することができる。よって、得られたρHの値を液状組成物101の比重ρで割れば、液面102の高さHを算出することができる。
【0062】
また、前記の要領で差圧センサ250が前記の差圧から液面102の高さを算出するように構成してもよいが、差圧センサ250は少なくとも差圧を測定するものであれば、必ずしも液面102の高さの算出まで行わないものであってもよい。例えば、測定された差圧からユーザーが液面102の高さを算出するようにした場合であっても、液面102の高さを測定するとの機能は実質的に実現されるからである。
【0063】
また、本実施形態のように第二導管230の端部233を、第二導管230の他の部位のよりも相対的に低位置に形成した場合には、中空部231に供給された第二熱媒が端部233に溜まるため、第二圧力伝達手段240によって差圧センサ250に伝達される圧力は、厳密にはガス103の圧力と端部233内に溜まった第二熱媒の重みによる圧力との和になる。しかし、第二熱媒の重みの影響は波打ち等による液面102の変動による影響などと比較して非常に小さいため、前記第二熱媒の重みによる影響は無視しても特に問題はない。なお、特に液面102の高さを精密に測定したい場合は、第二圧力伝達手段240により伝達された圧力から端部233内に溜まった第二熱媒の重みによる圧力を除算して、中空部231内のガス103の圧力の正確な値を算出し、その値を用いて差圧を測定するようにしてもよい。
【0064】
本実施形態では、差圧センサ250が測定した差圧の値は表示装置(図示せず)に出力されるものとする。また、差圧センサ250は制御手段280に接続されていて、前記の差圧の値は、制御装置280に送られて、熱媒の制御に用いられるようになっている。
【0065】
第一熱媒供給系260は第一導管210に第一熱媒を供給するものである。第一導管210内の中空部211には液状組成物101が導入されるが、第一導管210内は槽体100内に比較して低温になって溶媒中の溶質が析出することがある。溶質の析出が生じると第一導管210内の中空部211が閉塞することがある。しかし、第一熱媒を第一導管210に供給して中空部211中を第一熱媒が流通するようにすれば、第一熱媒により中空部211内に流れが生じると共に、第一熱媒によって中空部211内の温度が上昇するため、閉塞を防止することができる。なお、第一導管210の中を第一熱媒が流れても、その流れによる圧力の変動は非常に小さいために無視でき、差圧センサ250による差圧の測定の正確さを損なうものではない。
【0066】
本実施形態では、第一熱媒供給系260は、第一熱媒源としての熱媒貯蔵槽261と、第一熱媒管262と、第一熱媒送出手段としてのポンプ263と、流量センサ264と、第一熱媒流量調整手段としてのバルブ265と、温度センサ266と、第一熱媒温度調整手段としてのヒーター267とを備えている。
【0067】
熱媒貯蔵槽261は第一熱媒を貯蔵した容器である。第一熱媒の種類は中空部211の閉塞防止が可能であれば制限はないが、芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1を用いて製造される芳香族カルボン酸の品質を著しく損なわないものが好ましい。中でも、液状組成物101に含まれる溶媒と実質的に同じ組成の溶媒を第一熱媒として使用すれば、芳香族カルボン酸の品質を損なわないため、特に好ましい。その具体例を挙げると、酢酸、水及び酢酸水溶液等が挙げられる。なお、ここで液状組成物101に含まれる溶媒と組成が実質的に同じであるとは、溶媒中に意図せず含まれている溶質については無視できることを表わす。例えば液状組成物101の溶媒として酢酸を用いた場合、この酢酸には析出し切れなかった芳香族カルボン酸、並びに、芳香族カルボン酸の製造過程において生じる微量の副生成物が溶解していることがあるが、このような場合、第一熱媒としては前記の芳香族カルボン酸及び副生成物が溶解していない酢酸を用いることができる。
【0068】
第一熱媒管262は第一熱媒を第一導管210に供給するものである。この第一熱媒管262の一端は熱媒貯蔵槽261に接続され、他端には第一導管210内の中空部211に開口したノズル268が設けられている。また、第一熱媒管262にはポンプ263が設けられていて、熱媒貯蔵槽261に貯蔵された第一熱媒がポンプ263によって送液されて、ノズル268から中空部211に供給されるようになっている。
【0069】
ノズル268は、第一導管210において第一ダイアフラム222に近い位置に形成するほど好ましい。中空部211中のより広い範囲に第一熱媒による流れを生ぜしめることで、閉塞をより確実に防止するためである。
【0070】
第一熱媒管262には、第一熱媒管262を流通する第一熱媒の流量を測定する流量センサ264が設けられている。流量センサ264は制御手段280に接続されていて、測定された流量の値は、制御手段280に送られて、第一熱媒の流量制御に用いるようになっている。
【0071】
流量センサ264の設置位置に特に制限はないが、ヒーター267よりも上流(即ち、熱媒貯蔵槽261に近い側)に形成することが好ましい。ヒーター267で加熱されると加熱された流体(即ち、第一熱媒)の密度が変化することに鑑み、流量センサ264をヒーター267よりも上流に設けることで正確な流量の測定を確実に行えるようにするためである。
【0072】
第一熱媒管262には、第一熱媒管262を流通する第一熱媒の流量を調整するためのバルブ265が設けられている。即ち、バルブ265の開度が大きくなれば第一熱媒の流量が多くなり、開度が小さくなれば第一熱媒の流量が少なくなるようになっている。これにより、第一導管210への第一熱媒の供給速度を調整できるようになっている。
【0073】
また、バルブ265は制御手段280に接続され、制御手段280の制御に従ってその開度を変化させるようになっている。また、バルブ265の開度は制御手段280に送られて、第一熱媒の流量制御に用いるようになっている。
【0074】
バルブ265の設置位置は、ヒーター267よりも上流とすることが好ましい。ヒーター267よりも下流に設置すると、バルブ265を絞ったり閉じたりした場合に、ヒーター267内で第一熱媒が滞留した状態で加熱されたり、下流に流れることができなくなった第一熱媒が上流側に逆流したりする可能性がためである。
【0075】
第一熱媒管262には、第一熱媒管262を流通する第一熱媒の温度を測定する温度センサ266が設けられている。温度センサ266は制御手段280に接続されていて、測定された温度の値は、制御手段280に送られて、第一熱媒の温度制御に用いるようになっている。
【0076】
温度センサ266の設置位置は、ヒーター267よりも下流に形成する。中でも、温度センサ266はノズル268のできるだけ近くに設けることが好ましい。第一熱媒管262を流通する間に第一熱媒が冷めた場合でも、第一導管210に供給される第一熱媒の温度を正確に測定できるからである。
【0077】
ヒーター267は第一熱媒の温度を調整するための第一熱媒温度調整手段である。第一熱媒は通常は冷却する必要は無いため、第一熱媒温度調整手段としては第一熱媒を加熱できるヒーターであれば任意のものを用いることができる。このヒーターは槽体100内の熱を利用する内部熱源であってもよく、槽体100の外部から熱を供給する外部熱源であってもよいが、槽体100の外部に熱源が存在する外部熱源が好ましい。内部熱源であると必然的に槽体100の内部の温度よりもヒーター温度が低くなるためである。中でも、ホットオイル及び蒸気は芳香族カルボン酸の製造工程外から別供給できるので、プラント運転条件が変動して槽体100の内部の温度が変動したときでも、温度を適切に制御できるため、好ましい。特に、芳香族カルボン酸の製造工程において生じた熱を回収して効率化を図る観点からは、熱回収により発生した蒸気(スチーム)等により加熱を行うパージヒーターを用いることが好ましい。
本実施形態では、蒸気を供給される容器によってヒーター267を構成し、第一熱媒管262の一部が前記の容器内を通過するようになっていることで、当該ヒーター267内で第一熱媒が加熱されるようになっているものとする。
【0078】
ここで、蒸気を用いる場合、温度の適切さ及び入手しやすさ等に応じて種々の圧力のスチームを用いうるが、例えば、温度が通常155℃以上170℃以下となる圧力約0.7MPaのスチーム(飽和温度164℃)を用いることができる。また、例えば、温度が通常110℃以上140℃以下となる圧力約0.25MPaのスチーム(飽和温度127℃)を用いることもできる。
一方、ホットオイルとしては例えば、有機系、無機系、シリコーン系、フッ素系、鉱油系などの各種油を用いることができる。その温度は、通常285℃以上330℃以下である。
【0079】
また、ヒーター267への蒸気の供給路にはバルブ269が設けられていて、供給される蒸気の量はバルブ269によって調整されるようになっている。即ち、バルブ269の開度が大きくなれば蒸気の供給量が多くなってヒーター267が高温になり、開度が小さくなれば蒸気の供給量が少なくなってヒーター267が低温になるようになっている。これにより、第一導管210へ供給される第一熱媒の温度を調整できるようになっている。
【0080】
また、バルブ269は制御手段280に接続され、制御手段280の制御に従ってその開度を変化させるようになっている。また、バルブ269の開度は制御手段280に送られて、第一熱媒の温度制御に用いるようになっている。
【0081】
第二熱媒供給系270は第二導管230に第二熱媒を供給するものである。第二導管230内の中空部231にはガス103が導入されるが、このガス103が第二ダイアフラム242を劣化させることがある。この際、第二熱媒によりガス103と第二ダイアフラム242とが直接に接しないようにすれば、第二ダイアフラム242の劣化を防止することができる。
また、何らかの原因により中空部231には液状組成物101が進入した場合、第二導管230内は槽体100内に比較して低温になって溶媒中の溶質が析出し、中空部231が閉塞することがある。しかし、第二熱媒を第二導管230に供給して中空部231中を第二熱媒が流通するようにすれば、第二熱媒により中空部231内に流れが生じると共に、第二熱媒によって中空部231内の温度が上昇するため、閉塞を防止することができる。
【0082】
本実施形態では、第二熱媒供給系270は、第二熱媒源としての熱媒貯蔵槽271と、第二熱媒管272と、第二熱媒送出手段としてのポンプ273と、流量センサ274と、第二熱媒流量調整手段としてのバルブ275と、温度センサ276と、第二熱媒温度調整手段としてのヒーター277とを備えている。
【0083】
熱媒貯蔵槽271、第二熱媒管272、ポンプ273、流量センサ274、バルブ275、温度センサ276及びヒーター277は、第一熱媒の代わりに第二熱媒を第二導管230に供給するようになっていること以外は、第一熱媒供給系260を構成する熱媒貯蔵槽261、第一熱媒管262、ポンプ263、流量センサ264、バルブ265、温度センサ266、ヒーター267とそれぞれ同様に構成されている。また、ヒーター277の温度調整が、蒸気の供給量を調整するべくバルブ269と同様に構成されたバルブ279によって行われるようになっている点も、第一熱媒供給系260と同様である。
【0084】
また、第二熱媒管272を流通した第二熱媒がノズル278を介して第二導管230に供給される点は第一熱媒供給系260と同様であるが、第二熱媒供給系270においては、中空部231におけるノズル278の開口位置は、第二導管230の端部233に第二熱媒が溜まるような位置とすることが好ましい。第二ダイアフラム242にガス103が接触することを確実に防止するためである。
【0085】
制御手段280は第一熱媒供給系260及び第二熱媒供給系270の制御を行う手段であって、第一熱媒の流量及び温度をそれぞれ制御する第一流量制御手段281及び第一温度制御手段282を備える第一制御手段283と、第二熱媒の流量及び温度をそれぞれ制御する第二流量制御手段284及び第二温度制御手段285を備える第二制御手段286とを備える。ここで、制御手段280はハードウェア的にはCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のメモリ、更にはインターフェース部からなる電子計算機により構成されていて、前記の第一制御手段283及び第二制御手段286(即ち、第一流量制御手段281、第一温度制御手段282、第二流量制御手段284及び第二温度制御手段285)は、当該電子計算機がその機能を発揮するようになっている。なお図1において、制御手段280と、バルブ265,269,275,279及びセンサ250,264,266,274,276との接続は一点鎖線にて示す。
【0086】
第一制御手段283は、第一熱媒の温度及び/又は流量を一定範囲に維持するように制御する手段である。この際、温度及び流量は少なくとも一方を制御すればよいが、両方を制御することが好ましい。本実施形態では、第一制御手段283は第一流量制御手段281及び第一温度制御手段282を備えることによって、温度及び流量の両方を制御するように構成されているものとする。
【0087】
第一流量制御手段281は第一導管210に供給される第一熱媒の流量を一定範囲に維持するように制御する手段である。この第一流量制御手段281が第一熱媒の流量を自動的に制御するため、第一導管210の閉塞を防止しつつ差圧式液面計の精度を安定して向上させることができる。例えば、何らかの理由により第一熱媒の流量が意図せず低下すると第一導管210内の液状組成物101の温度制御が不十分となって溶質が析出することがあるが、第一流量制御手段281が第一熱媒の流量を自動的に制御するようにすれば、前記の閉塞を確実に防止できる。このため、中空部211内の圧力が閉塞により変動することを防止して、差圧式液面計200の精度を安定して向上させることができる。
【0088】
ここで、第一熱媒の流量を制御すべき一定範囲とは、通常1キログラム/時間以上、好ましくは5キログラム/時間以上、より好ましくは10キログラム/時間以上であり、また、通常200キログラム/時間以下、好ましくは100キログラム/時間以下、より好ましくは50キログラム/時間以下である。流量が少なすぎると第一導管210の閉塞防止が困難になる傾向があり、多すぎると中空部211内の圧力に影響を与える傾向がある。
【0089】
具体的な制御としては、第一流量制御手段281は、差圧センサ250、流量センサ264及びバルブ265から送られた情報を読み込み、バルブ265の開度を制御することで第一熱媒の流量の制御を行っている。以下、第一流量制御手段281が行っている制御を、図2に沿って説明する。
【0090】
第一流量制御手段281は制御を開始すると、ステップS10において、差圧センサ250から読み込んだ差圧の値から、液面102の位置が閾値以上であるかどうかを判定する。ステップS10で用いられる閾値は芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1が運転中かどうかを判定するためのものである。即ち、液面102の位置が閾値よりも高い位置にあれば槽体100内には液状組成物が充填された運転状態であると判定でき、閾値よりも低い位置にあれば槽体100内には液状組成物が無い(又は少ない)停止状態であると判定できる。この判定を行うことにより、停止状態であった芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1が運転を開始した場合に確実に第一熱媒の供給を開始できる。ここで、閾値の値は芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1の用途に応じて様々であるが、通常は槽体100の高さH100の1/4以上3/4以下である。
ステップS10において液面102の位置が閾値以上であると判定された場合はステップS20に進むが、閾値未満であると判定された場合はステップS30に進む。
【0091】
ステップS30では、バルブ265が開いているか否かを判定する。ステップS30に来るということは芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1は停止状態であるため、第一熱媒の供給を続ける必要は無い。したがって、ステップS30での判定の結果バルブ265が開いていればステップS40に進んでバルブ265を閉めるように制御し、一連の制御を終了する。これにより第一熱媒の供給は停止し、第一熱媒の損失を回避できる。
一方、ステップS30での判定の結果バルブ265が閉まっていれば特段の制御は不要であるため、そのまま一連の制御を終了する。
【0092】
ステップS20では、流量センサ264から読み込んだ流量の値から、第一熱媒の流量が閾値以上であるかどうかを判定する。ステップS20での判定の結果、第一熱媒の流量が閾値未満であればステップS50に進み、バルブ265の開度を所定量だけ上げるように制御し、一連の制御を終了する。これにより、第一熱媒の供給量が不足することを防止して、第一熱媒の流量を一定範囲に制御できる。なお、ここで使用する閾値は、前記の第一熱媒の流量を制御すべき一定範囲の下限値を使用できる。
一方、ステップS20での判定の結果、第一熱媒の流量が閾値以上であればステップS60に進む。
【0093】
ステップS60では、流量センサ264から読み込んだ流量の値から、第一熱媒の流量が閾値以下であるかどうかを判定する。ステップS60での判定の結果、第一熱媒の流量が閾値よりも大きければステップS70に進み、バルブ265の開度を所定量だけ下げるように制御し、一連の制御を終了する。これにより、第一熱媒の供給量が過大となることを防止して、第一熱媒の流量を一定範囲に制御できる。なお、ここで使用する閾値は、前記の第一熱媒の流量を制御すべき一定範囲の上限値を使用できる。
一方、ステップS60での判定の結果、第一熱媒の流量が閾値以下であれば、そのまま一連の制御を終了する。
【0094】
一連の制御を終了した第一流量制御手段281は、再度同様の制御を行う。このように制御を繰り返すことにより、第一流量制御手段281は第一熱媒の流量の制御を行っているのである。
【0095】
第一温度制御手段282は第一導管210に供給される第一熱媒の温度を一定範囲に維持するように制御する手段である。この第一温度制御手段282が第一熱媒の温度を自動的に制御するため、第一導管210の閉塞を防止しつつ差圧式液面計の精度を安定して向上させることができる。例えば、何らかの理由により第一熱媒管262から供給される第一熱媒の温度が意図せず低下すると第一導管210内の液状組成物101の温度制御が不十分となって溶質が析出することがあるが、第一温度制御手段282が第一熱媒の温度を自動的に制御するようにすれば、前記の閉塞を確実に防止できる。このため、中空部211内の圧力が閉塞により変動することを防止して、差圧式液面計200の精度を安定して向上させることができる。
【0096】
ここで、第一熱媒の温度を制御すべき一定範囲とは、槽体100内の温度をT0とした場合、通常T0−30℃以上、好ましくはT0−20℃以上、より好ましくはT0−10℃以上であり、また、通常T0+30℃以下、好ましくはT0+20℃以下、より好ましくはT0+10℃以下である。温度が低すぎると溶質の析出防止が困難となる傾向があり、高すぎると中空部211内の圧力に影響を与える傾向がある。
【0097】
具体的な制御としては、第一温度制御手段282は、差圧センサ250、温度センサ266及びバルブ269から送られた情報を読み込み、バルブ269の開度を制御することで第一熱媒の温度の制御を行っている。以下、第一温度制御手段282が行っている制御を、図3に沿って説明する。
【0098】
第一温度制御手段282は制御を開始すると、ステップs10において、差圧センサ250から読み込んだ差圧の値から、液面102の位置が閾値以上であるかどうかを判定する。ステップs10で用いられる閾値は、第一流量制御手段281の制御ステップS10と同様、芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1が運転中かどうかを判定するためのものである。即ち、液面102の位置が閾値よりも高い位置にあれば槽体100内には液状組成物が充填された運転状態であると判定でき、閾値よりも低い位置にあれば槽体100内には液状組成物が無い(又は少ない)停止状態であると判定できる。この判定を行うことにより、停止状態であった芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1が運転を開始した場合に確実に熱媒の温度を所望の温度に制御できる。ここで、閾値の値は芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1の用途に応じて様々であるが、通常は第一流量制御手段281の制御ステップS10で用いたのと同様の値を用いればよい。
ステップs10において液面102の位置が閾値以上であると判定された場合はステップs20に進むが、閾値未満であると判定された場合はステップs30に進む。
【0099】
ステップs30では、バルブ269が開いているか否かを判定する。ステップs30に来るということは芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1は停止状態であるため、ヒーター267による第一熱媒の加熱を続ける必要は無い。また、熱回収効率を高める観点からも、ヒーター267への蒸気の供給を停止することが好ましい。したがって、ステップs30での判定の結果バルブ269が開いていればステップs40に進んでバルブ269を閉めるように制御し、一連の制御を終了する。これによりヒーター267への蒸気の供給が停止し、第一熱媒の加熱も停止するので、第一熱媒が過剰に加熱されることを回避できる。
一方、ステップs30での判定の結果バルブ269が閉まっていれば特段の制御は不要であるため、そのまま一連の制御を終了する。
【0100】
ステップs20では、温度センサ266から読み込んだ温度の値から、第一熱媒の温度が閾値以上であるかどうかを判定する。ステップs20での判定の結果、第一熱媒の温度が閾値未満であればステップs50に進み、バルブ269の開度を所定量だけ上げるように制御し、一連の制御を終了する。これにより、ヒーター267への蒸気の供給量が増加してヒーター267の温度が上昇するため、第一熱媒の温度も上昇し、第一熱媒の温度を一定範囲に制御できる。なお、ここで使用する閾値は、前記の第一熱媒の温度を制御すべき一定範囲の下限値を使用できる。
一方、ステップs20での判定の結果、第一熱媒の温度が閾値以上であればステップs60に進む。
【0101】
ステップs60では、温度センサ266から読み込んだ温度の値から、第一熱媒の温度が閾値以下であるかどうかを判定する。ステップs60での判定の結果、第一熱媒の温度が閾値よりも大きければステップs70に進み、バルブ269の開度を所定量だけ下げるように制御し、一連の制御を終了する。これにより、ヒーター267への蒸気の供給量が低下してヒーター267の温度が下がるため、第一熱媒の温度も下がり、第一熱媒の温度を一定範囲に制御できる。なお、ここで使用する閾値は、前記の第一熱媒の温度を制御すべき一定範囲の上限値を使用できる。
一方、ステップs60での判定の結果、第一熱媒の温度が閾値以下であれば、そのまま一連の制御を終了する。
【0102】
一連の制御を終了した第一温度制御手段282は、再度同様の制御を行う。このように制御を繰り返すことにより、第一温度制御手段282は第一熱媒の温度の制御を行っているのである。
【0103】
第二制御手段286は、第二熱媒の温度及び/又は流量を一定範囲に維持するように制御する手段である。この際、温度及び流量は少なくとも一方を制御すればよいが、両方を制御することが好ましい。本実施形態では、第二制御手段286は第二流量制御手段284及び第二温度制御手段285を備えることによって、温度及び流量の両方を制御するように構成されているものとする。
【0104】
第二流量制御手段284は第二導管230に供給される第二熱媒の流量を一定範囲に維持するように制御する手段である。この第二流量制御手段284が第二熱媒の流量を自動的に制御するため、第一流量制御手段281と同様、第二導管230の閉塞を防止しつつ差圧式液面計200の精度を安定して向上させることができる。ここで、第二熱媒の流量を制御すべき一定範囲は、通常は第一流量制御手段281と同様である。
具体的な制御としては、第二流量制御手段284は、差圧センサ250、流量センサ274及びバルブ275から送られた情報を読み込み、第一流量制御手段281と同様の要領でバルブ275の開度を制御することで第二熱媒の流量の制御を行っている。
【0105】
第二温度制御手段285は第二導管230に供給される第二熱媒の温度を一定範囲に維持するように制御する手段である。この第二温度制御手段285が第二熱媒の温度を自動的に制御するため、第一温度制御手段282と同様、第二導管230の閉塞を防止しつつ差圧式液面計200の精度を安定して向上させることができる。ここで、第二熱媒の温度を制御すべき一定範囲は、通常は第一温度制御手段282と同様である。
具体的な制御としては、第二温度制御手段285は、差圧センサ250、温度センサ276及びバルブ279から送られた情報を読み込み、第一温度制御手段282と同様の要領でバルブ279の開度を制御することで第二熱媒の温度の制御を行っている。
【0106】
・放射線式液面計
放射線式液面計300は、槽体100の内部に配置される挿入管301と、槽体100の外部に設けられて挿入管301内の放射性物質(図示せず)から発せられた放射線を検知する放射線検知手段302と、放射線検知手段302によって得られたデータから槽体100内の液面102の位置を測定する液面測定手段303とを備える。
【0107】
挿入管301は、保護筒(図示せず)内に放射線源として放射性物質が収納されたものであり、通常は槽体100内の液面102に対して挿入管301が垂直になるように配置される。この際、挿入管301において放射性物質が存在する範囲で槽体100内の液状組成物101の液面102の位置が計測可能であることから、通常、槽体100の液面102よりも挿入管301の下端部が下になるように配置される。さらに、挿入管301は、槽体100の外部に設置される放射線検知手段302の取り付け位置と挿入管301との距離が短くなるような位置に設置されることが好ましい。これにより、放射線強度が低い放射線源21を用いることが可能となる。
ここで使用する放射性物質に制限はないが、例えば、Cobalt−60、Cs(セシウム)−137等が用いられる。
【0108】
放射線検知手段302は、上記挿入管301内の放射性物質より放射された放射線を検知することが可能な手段であれば、その種類等は特に制限されない。このような放射線検知手段302としては、例えば放射線レベルを検知する放射線検出器等とすることができる。挿入管301から放射された放射線は、液状組成物101によって吸収・散乱されるが、ガス103の部分はそのまま通過することから、放射線レベルを測定することによって、後述する液面測定手段303によって液状組成物101の液面の位置を特定することが可能となる。
【0109】
液面測定手段303としては、上記放射線検知手段302によって測定された放射線レベルを分析し、液状組成物101の液面の位置を特定可能な手段であれば、その種類等は特に制限されない。このような液面測定手段303としては、例えば放射線検知手段302と連結された電子計算機等を用いることができる。なお、測定された液面の位置は、図示しない表示装置等に表示されるものとする。
【0110】
なお、本実施形態では放射線源を収納した挿入管301を槽体100の内部に挿入するタイプの放射線式液面計300を用いたが、放射線式液面計としては放射線源を槽体100の外部に設置するタイプのものを使用してもよい。
【0111】
・効果
本実施形態の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1は以上のように構成されているため、芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1の使用時には、差圧式液面計200により液状組成物101の液面102の位置を測定することができる。
この際、差圧式液面計200は第一熱媒供給系260を備えているため、第一導管210の中空部211に第一熱媒を供給してその閉塞を防止できる。また、第一制御手段283の制御によって第一熱媒の流量及び温度を一定範囲に維持できるので、前記の閉塞を従来よりも確実に防止すると共に第一熱媒の供給による中空部211内の圧力変動を抑制して、差圧式液面計の精度を安定して向上させることが可能である。さらに、第一制御手段283が芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1が運転中か停止中かを判断して第一熱媒の供給及び加熱の開始及び停止を行うように制御するため、第一熱媒の不要な供給及び加熱を防止することができる。なお、通常は、芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1は連続運転されるため、第一制御手段283による芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1が運転中か停止中かの判断ならびに当該判断に応じた第一熱媒の供給及び加熱の開始及び停止の制御(上記実施形態におけるステップS10、S30、S40、s10、s30及びs40)は、必ずしも行わなくてもよく、必要に応じて手動にて判断及び制御を行うようにしてもよい。
【0112】
さらに、差圧式液面計200は第二熱媒供給系270も備えているため、第二導管230の中空部231に第二熱媒を供給してその閉塞を防止できる。また、第二制御手段286の制御によって第二熱媒の流量及び温度を一定範囲に維持できるので、前記の閉塞を従来よりも確実に防止すると共に第二熱媒の供給による中空部231内の圧力変動を抑制して、差圧式液面計の精度を安定して向上させることが可能である。さらに、第二制御手段286が芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1が運転中か停止中かを判断して第二熱媒の供給及び加熱の開始及び停止を行うように制御するため、第二熱媒の不要な供給及び加熱を防止することができる。なお、通常は、芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1は連続運転されるため、第二制御手段286による芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1が運転中か停止中かの判断ならびに当該判断に応じた第二熱媒の供給及び加熱の開始及び停止の制御(上記実施形態におけるステップS10、S30、S40、s10、s30及びs40)は、必ずしも行わなくてもよく、必要に応じて手動にて判断及び制御を行うようにしてもよい。
【0113】
また、本実施形態では差圧式液面計200だけでなく放射線式液面計300によっても液面102の位置を測定できる。これにより、放射線式液面計300と差圧式液面計200とが互いに欠点を補い合うかたちで、液面102の位置の測定精度を向上させることが可能である。
【0114】
[1−2.第二実施形態]
図4は本発明の第二実施形態としての芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1’の構成を模式的に示す概略図である。なお、図4において図1と同様の部位は、同様の符号を付して示し、その説明を省略する。
【0115】
本実施形態の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1’は、第一熱媒及び第二熱媒として共通の熱媒を用いるようにし、第一温度制御手段282によって温度を制御された熱媒が第二導管230へも供給されるように構成されているほかは、第一実施形態と同様に構成され、同様の制御が行われるようになっている。したがって、本実施形態においては、第一温度制御手段282は第二温度制御手段としても機能する。
【0116】
本実施形態の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1’は以上のように構成されているため、第一制御手段283及び第二制御手段286の制御によって熱媒の流量及び温度を一定範囲に維持できるので、前記の閉塞を従来よりも確実に防止すると共に熱媒の供給による中空部211,231内の圧力変動を抑制して、差圧式液面計の精度を安定して向上させることが可能である。この際、第二導管230に供給される熱媒の温度が第一導管210に供給される熱媒の温度と同様となるように制御されていても、第二導管230における温度の変化は差圧センサ250による差圧の測定に対して、第一導管210における温度変化ほどの影響を与えることはないため、液面102の位置の測定の精度を低下させるおそれはない。
さらに、本実施形態の構成によれば、第一実施形態の構成に比較して構造をシンプルにできると共に、熱媒の流量及び温度の制御もシンプルにできるため、好ましい。
また、本実施形態によれば、第一実施形態と同様の利点を得ることが可能である。
【0117】
[1−3.その他の構成]
本発明の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽は、上述した第一及び第二実施形態に係るものに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で任意に変更して実施できる。
【0118】
例えば、少なくとも第一導管210に第一熱媒供給系260を設けるようにすれば、第二熱媒供給系270は設けない構成としてもよい。また、第二熱媒供給系270を設ける場合でも、第二熱媒の流量及び温度の制御を行わない構成としてもかまわない。通常は第一導管210の方が第二導管230よりも閉塞の可能性が高いため、少なくとも第一導管210の閉塞の防止ができれば充分な効果が見込める。
【0119】
また、例えば、第一制御手段283及び第二制御手段286、並びに、第一流量制御手段281、第一温度制御手段282、第二流量制御手段284及び第二温度制御手段285はハードウェア的に別の電子計算機により構成してもよい。また、制御手段280及び液面測定手段303をハードウェア的に同じ電子計算機により構成してもよい。
【0120】
また、例えば、第一熱媒管262及び第二熱媒管272にそれぞれ設けられるセンサ、バルブ、ヒーター等の設置位置は上述した実施形態の位置に限定されず、プラントにおける芳香族カルボン酸含有組成物保持槽1,1’の設置状態に応じて変更してもよい。
【0121】
[2.芳香族カルボン酸の製造方法]
次に、本発明の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽を適用した芳香族カルボン酸の製造方法について説明する。
芳香族カルボン酸の製造方法としては、加圧状態の反応装置内において溶媒中でアルキル芳香族化合物を酸化して芳香族カルボン酸を生成させる工程と、芳香族カルボン酸及び溶媒を含む液状組成物を反応装置から抜き出した後、固液分離装置にて加圧状態で固液分離を行い、芳香族カルボン酸ケーキ及び母液を得る工程とを少なくとも含む方法等とすることができる。本発明の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽は、芳香族カルボン酸の製造工程のいずれの工程に用いられるものであってもよく、例えば、反応槽や、晶析槽、固液分離装置により分離された母液を保持する母液槽や洗浄廃液槽等として用いることができる。
【0122】
以下、芳香族カルボン酸の製造方法の一実施形態について図5を用いて詳細に説明する。
まず反応器11にアルキル芳香族化合物Aを導入し、酢酸など脂肪族カルボン酸からなる溶媒C中で、原料であるアルキル芳香族化合物Aを空気などの分子状酸素含有ガスBにより酸化して芳香族カルボン酸を生成させ、溶媒との混合物である液状組成物Dを得る。酸化反応には通常触媒が用いられる。なお本発明においてアルキル芳香族化合物Aとは、アルキル基を持つ芳香族化合物だけでなく、一部酸化されたアルキル基を持つ芳香族化合物も含む概念である。
【0123】
本発明において原料及び溶媒の混合物は、液相、気液2相、気液固3相の様々なケースが挙げられるが、通常少なくとも液相を含む。
製造される芳香族カルボン酸の種類は特に制限はないが、例えばオルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸(ベンゼントリカルボン酸)、2,6−、又は2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などが挙げられる。なかでもフタル酸類(オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸)の製造の際に上記芳香族カルボン酸含有組成物保持槽を適用することが好ましく、特にテレフタル酸の製造に適用することが好ましい。
【0124】
芳香族カルボン酸の原料となるアルキル芳香族化合物Aとしては、例えば、ジ−及びトリ−アルキルベンゼン類、ジ−及びトリ−アルキルナフタレン類並びにジ−及びトリ−アルキルビフェニル類が挙げられる。好ましくは、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、o−、m−、又はp−ジイソプロピルベンゼン、トリメチルベンゼン類、2,6−又は2,7−ジメチルナフタレン、2,6−ジイソプロピルナフタレン、4,4’−ジメチルビフェニルなどが挙げられる。なかでもメチル基、エチル基、n−プロピル基およびイソプロピル基等の炭素数1以上、4以下のアルキル基を2個以上、4個以下有する芳香族化合物が、反応性が高く好ましい。また原料アルキル芳香族化合物は一部酸化されたアルキル芳香族化合物(一部酸化アルキル芳香族化合物)を含んでもよく、全てが一部酸化アルキル芳香族化合物であってもよい。
【0125】
一部酸化アルキル芳香族化合物とは、上記アルキル芳香族化合物におけるアルキル基が酸化されて、アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基又はヒドロキシアルキル基等に酸化されているものの、目的とする芳香族カルボン酸となる程には酸化されていない化合物である。具体的には、例えば3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、4−カルボキシベンズアルデヒド(以下、適宜「4CBA」と称する。)、p−トルアルデヒド、m−トルイル酸、p−トルイル酸、3−ホルミル安息香酸、4−ホルミル安息香酸及び2−メチル−6−ホルミルナフタレン類等を挙げることができる。
【0126】
原料としてはこれら化合物を単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
以上総合して、アルキル芳香族化合物Aとしてはキシレン類(o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン)が好ましく、特にp−キシレンが好ましい。アルキル芳香族化合物Aとしてp−キシレンを用いる場合、一部酸化アルキル芳香族化合物としては、例えば4CBA、p−トルアルデヒド、p−トルイル酸等が挙げられ、芳香族カルボン酸としてはテレフタル酸が得られる。
【0127】
このアルキル芳香族化合物Aを分子状酸素含有ガスBにより酸化する。分子状酸素含有ガスBとしては分子状酸素を含むガスであればよく、例えば空気、酸素富化空気、不活性ガスで希釈された酸素等が用いられる。このうち、コストが低い空気が実用的には好ましい。
【0128】
また、アルキル芳香族化合物Aを酸化する際には、好ましくは触媒が用いられる。触媒の種類としては、アルキル芳香族化合物を酸化し芳香族カルボン酸を生成する反応を促進する能力を有するものであれば特に制限はない。好ましくは重金属化合物からなる触媒である。重金属化合物に含まれる重金属としては、例えばコバルト、マンガン、ニッケル、クロム、ジルコニウム、銅、鉛、ハフニウム及びセリウム等が挙げられる。これらは単独で、または組み合わせて用いることができるが、特にコバルトとマンガンとを組み合わせて用いることが好ましい。このような重金属の化合物としては、例えば酢酸塩、硝酸塩、アセチルアセトナート塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩及び臭化物等を挙げることができる。なかでも酢酸塩及び臭化物が好ましい。
【0129】
また、触媒は必要に応じて触媒助剤を含んでいてもよい。触媒助剤として好ましくは臭素化合物であり、臭素化合物としては、例えば分子状臭素、臭化水素、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化コバルト及び臭化マンガン等の無機臭素化合物や、臭化メチル、臭化メチレン、ブロモホルム、臭化ベンジル、ブロモメチルトルエン、ジブロモエタン、トリブロモエタン及びテトラブロモエタン等を挙げることができる。これらの触媒助剤も単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0130】
好ましい態様としては、コバルト及び/又はマンガンの化合物を用い、触媒助剤として臭素化合物を用いる態様である。特に好ましくは、酢酸コバルト、酢酸マンガン、臭化水素の組合せが挙げられる。
重金属化合物と臭素化合物との組合せからなる触媒の場合、重金属化合物と臭素化合物との比は通常重金属原子1モルに対して臭素原子0.05モル以上とし、好ましくは0.1モル以上とし、より好ましくは0.5モル以上とする。一方、重金属原子1モルに対して、通常臭素原子10モル以下とし、好ましくは7モル以下とし、より好ましくは5モル以下とする。これらの範囲とすることで触媒活性が高まる。
【0131】
芳香族カルボン酸の製造に用いられる触媒の濃度は、上記酸化反応を促進し得る範囲であれば特に限定されないが、溶媒中の重金属濃度が通常10ppm以上、好ましくは100ppm以上、より好ましくは200ppm以上とする。一方、重金属濃度として通常10000ppm以下とし、好ましくは5000ppm以下とし、より好ましくは3000ppm以下とする。下限値以上とすることで反応速度が高まり、上限値以下とすることでコストが抑制できるとともに排液や排ガス中の重金属濃度、臭素濃度を低減でき、環境面、安全面で好ましい。
【0132】
溶媒Cは、通常生成する芳香族カルボン酸の少なくとも一部を溶解しうるものが用いられる。なお、常圧(以下本発明では、常圧とは、特に言及しない限り「0.101MPa」を指すものとする。)では芳香族カルボン酸が不溶又は難溶であっても、加圧下で少なくとも一部を溶解しうるものであればよい。
【0133】
また溶媒Cは、反応中に液体又は気液2層となるものが好ましく、原料や反応後の目的化合物に化学的な変化を来たさないものが用いられる。また溶媒Cの常圧における沸点は好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは60℃以上であり、また好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは150℃以下である。下限値以上とすることで取り扱いや回収が容易となり、上限値以下とすることで後工程での固液分離、乾燥が容易となる。
【0134】
溶媒Cの種類は特に限定されないが、溶解性や沸点から、脂肪族カルボン酸を含有することが好ましく、これらを主成分とする溶媒がより好ましい。酢酸、プロピオン酸、蟻酸及び酪酸を主成分とする溶媒がさらに好ましい。なお、主成分とするとは溶媒の全重量の60重量%以上を占めることを言う。なかでも溶解性及び取り扱いの容易性から酢酸を主成分とする溶媒が好ましい。特に好ましくは酢酸と水との混合物である。酢酸と水との比率は、酢酸100重量部に対して水が通常1重量部以上であり、好ましくは5重量部以上である。また、通常40重量部以下であり、好ましくは25重量部以下であり、より好ましくは15重量部以下である。上限値以下とすることで反応効率を向上させることができ、下限値以上とすることで酢酸の燃焼(による分解)量をより削減することができ、エネルギー面、経済面での節源が図れ、それぞれ好ましい。
【0135】
溶媒Cの量は原料や目的反応物の溶解性等により適宜変更可能であるが、アルキル芳香族化合物A100重量部に対して、通常100重量部以上とする。また通常500重量部以下とする。
【0136】
本発明の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽は、上記酸化反応で得られる芳香族カルボン酸の製造全般に適用しうるが、なかでも芳香族カルボン酸と、該芳香族カルボン酸が難溶性である溶媒Cとの組合せに適用することが好ましい。特に、テレフタル酸と酢酸を主成分とする溶媒との組合せである。
【0137】
上記製造方法において、アルキル芳香族化合物Aの酸化反応は、通常加圧状態、即ち常圧を超える圧力下で行われることが好ましい。液相酸化の反応効率を高めるためには、反応温度において溶媒Cとアルキル芳香族化合物Aとの混合物が液相を保持できる圧力以上とすることがより好ましい。また、反応後の液状組成物を固液分離装置へ移送しやすくするためにも反応器11の圧力は高いことが好ましい。好ましくは絶対圧で0.2MPa以上とし、より好ましくは0.5MPa以上とし、さらに好ましくは1MPa以上とする。一方、圧力は通常絶対圧で20MPa以下とする。副反応や化合物の分解を抑制でき、収率の低下を抑える利点がある。また圧力をできるだけ低く抑えることで、耐圧強度の低い反応器を用いることができ、コストが節減できる。好ましくは10MPa以下とし、より好ましくは7MPa以下とし、更に好ましくは5MPa以下とし、特に好ましくは2MPa以下とする。実際の運用においては、反応混合物(液状組成物)の組成及び設定反応温度において、沸騰状態を維持できる圧力とすることが望ましい。
【0138】
また、反応器11の温度は、通常100℃以上とする。反応速度を高め収率を上げるためである。好ましくは140℃以上とし、より好ましくは150℃以上とする。一方、温度は通常300℃以下とする。溶媒の燃焼による損失量を抑えることができる。また副反応や化合物の分解を抑制でき、収率の低下を抑える利点がある。好ましくは250℃以下とし、より好ましくは230℃以下とし、更に好ましくは210℃以下とする。
【0139】
上記製造方法において、酸化反応は連続的に実施すると生産効率が高まるため好ましい。その際の反応時間(平均滞留時間)は20分以上であると好ましく、30分以上であるとより好ましく、40分以上であると更に好ましい。反応を十分に進行させ、純度の高い芳香族カルボン酸を得るためである。一方、反応時間は300分以下であると好ましく、150分以下であるとより好ましく、120分以下であると更に好ましく、90分以下であると特に好ましい。溶媒Cの燃焼による損失を抑制しコストを低減するためである。また反応器11の容量を小さくできる点でも好ましい。
【0140】
本発明において反応器11の種類は特に限定されず、従来公知のものを用いてもよいが、特に本発明の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽を用いることが好ましい。芳香族カルボン酸含有組成物保持槽における槽体の形態は、例えば攪拌機付き反応器、気泡塔反応器、プラグフロー型(配管流通型)反応器などいずれでもよいが、反応効率を高めるには攪拌機付き完全混合槽型反応器とすることが好ましい。また通常反応器11の下部には分子状酸素含有ガスBの供給口が設けられる。反応器11の下部供給口から供給された分子状酸素含有ガスBは、アルキル芳香族化合物Aの酸化反応に利用された後、多量の溶媒Cの蒸気を含む反応ガスMとなり反応器11の塔頂部より抜き出される。
【0141】
次いで、必要に応じて凝縮器18にて溶媒Cを主とする凝縮液Nを凝縮分離した後、凝縮器排ガスOとして排出される。凝縮器18は一段でもよいし、複数段からなるものでもよい。或いは、凝縮器18に代えて蒸留塔を用いても同様の分離が可能である。
分子状酸素含有ガスBの供給量及び酸素濃度は、凝縮器排ガスO(凝縮器18が複数段からなる場合は最終段の凝縮器の排ガスを凝縮器排ガスOとする。)中の酸素濃度が特定範囲となるように制御するのが好ましい。好ましくは凝縮器排ガスO中の酸素濃度が0.5容量%以上、より好ましくは1容量%以上、更に好ましくは2容量%以上とする。下限値より高いほど反応効率が高まる利点がある。また好ましくは10容量%以下、より好ましくは8容量%以下、更に好ましくは7容量%以下となるよう制御する。上限値より低くすることで安全性が高まる。
【0142】
通常凝縮液Nは水分を含有しており、系内の水分量調整のためにその一部を系外にパージし、残りは反応器11に還流させる。また、凝縮器排ガスOを二つの流れに分岐させ、一方は系外に排出させ、他方は反応器11に連続的に循環供給させてもよい。
また、溶媒Cとして酢酸などの脂肪族カルボン酸を用いる場合、反応器11中の上記溶媒Cの水分濃度を前述の範囲に調整するには、溶媒Cとして純粋な酢酸などの脂肪族カルボン酸を供与し、かつ、後述する母液Gや洗浄排液Jの一部を再利用すると共に、反応器11で発生した反応ガスMを凝縮器18で凝縮して得られる水を含む凝縮液Nの一部を系外にパージする量を調整することで行える。これにより、新たな溶媒Cの使用量を抑えつつ、反応への影響を無視できる程度の水分濃度に抑えることができる。
【0143】
或いは、凝縮器18に代えて蒸留塔を用いてもよい。即ち、脂肪族カルボン酸と水とを分離可能な蒸留塔を反応器11に連結し、反応器11で発生した反応ガスMを蒸留塔で蒸留する。塔底から得られる水分濃度が低減された脂肪族カルボン酸を反応器11に回収するとともに、塔頂から得られる水を含む成分を例えば系外にパージするなどして、系内の水分量を調整することができる。
【0144】
なお、反応器11での酸化反応の後、必要に応じて追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理とは、反応器11(以下、「第1反応帯域」と言う。)での酸化反応で得られた反応混合物を、追酸化反応器11’(以下、「第2反応帯域」と言う。)において、アルキル芳香族化合物Aを供給することなく分子状酸素含有ガスB’を供給し酸化処理することである。
【0145】
追酸化処理の好ましい一例としては、第1反応帯域で得られた反応混合物に、より低温に保持した第2反応帯域において追酸化処理を行う(以下、「低温追酸化」という)。アルキル芳香族化合物Aがp−キシレンであれば、第2反応帯域の温度は第1反応帯域より1℃以上低温とすることが好ましく、5℃以上低温とすることがより好ましく、また、通常20℃以下低温とすることが好ましく、より好ましくは15℃以下低温とする。具体的な温度としては、通常140℃以上、好ましくは160℃以上である。また通常220℃以下、より好ましくは200℃以下である。下限値以上とすることにより、芳香族カルボン酸粒子が溶解しやすくなり純度が高まる傾向がある。また上限値以下とすることで、着色性の不純物の生成が抑えられる傾向がある。
【0146】
低温追酸化も加圧状態、即ち常圧を超える圧力下で行われることが好ましく、反応温度において内部の混合物が液相を保持できる圧力以上とすることがより好ましい。また、反応後の液状組成物を固液分離装置へ移送しやすくするためにも追酸化反応器11’の圧力は高いことが好ましい。好ましくは絶対圧で0.2MPa以上とし、より好ましくは0.5MPa以上とする。
【0147】
一方、圧力は通常絶対圧で20MPa以下とする。副反応や化合物の分解を抑制でき、収率の低下を抑える利点がある。また圧力をできるだけ低く抑えることで、耐圧強度の低い反応器を用いることができ、コストが節減できる。好ましくは10MPa以下とし、より好ましくは7MPa以下とし、更に好ましくは5MPa以下とし、特に好ましくは2MPa以下とする。実際の運用においては、反応器11から液状組成物Dを効率的に追酸化反応器11’に導入するため、反応器11よりも低い圧力とすることが望ましい。
【0148】
なお、低温追酸化反応は連続的に実施すると生産効率が高まり望ましい。その際の反応時間(平均滞留時間)は5分以上であると好ましく、10分以上であるとより好ましく、20分以上であるとさらに好ましい。反応を十分に行わせ、純度の高い芳香族カルボン酸を得るためである。また、反応時間は150分以下であると好ましく、120分以下であるとより好ましく、90分以下であるとさらに好ましい。溶媒Cの燃焼による損失を抑え、かつ装置を小型化するためである。
【0149】
追酸化処理の他の好ましい一例としては、第1反応帯域で得られた反応混合物に、より高温に保持した第2反応帯域において追酸化処理を行う(以下、「高温追酸化」という)。アルキル芳香族化合物Aがp−キシレンであれば、第2反応帯域の温度は第1反応帯域より1℃以上高く保持することが好ましく、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは50℃以上であり、また、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。具体的な温度としては、通常235℃以上、好ましくは240℃以上である。また通常290℃以下、より好ましくは280℃以下である。下限値以上とすることにより、芳香族カルボン酸粒子が溶解しやすくなり純度が高まる傾向がある。また上限値以下とすることで、着色性の不純物の生成が抑えられる傾向がある。
【0150】
高温追酸化も加圧状態、即ち常圧を超える圧力下に行われ、反応温度において内部の混合物が液相を保持できる圧力以上とすることが好ましい。また、反応後の液状組成物を固液分離装置へ移送しやすくするためにも追酸化反応器11’の圧力が高いことが好ましい。好ましくは絶対圧で0.2MPa以上とし、より好ましくは0.5MPa以上とする。
【0151】
一方、圧力は通常絶対圧で20MPa以下とする。副反応や化合物の分解を抑制でき、収率の低下を抑える利点がある。また圧力をできるだけ低く抑えることで、耐圧強度の低い反応器を用いることができ、コストが節減できる。好ましくは10MPa以下とし、より好ましくは7MPa以下とし、更に好ましくは5MPa以下とし、特に好ましくは2MPa以下とする。実際の運用においては、反応器11から液状組成物Dを効率的に追酸化反応器11’に導入するため、反応器11よりも低い圧力とすることが望ましい。
【0152】
なお、高温追酸化反応は連続的に実施すると生産効率が高まり望ましい。その際の反応時間(平均滞留時間)は5分以上であると好ましく、10分以上であるとより好ましく、20分以上であるとさらに好ましい。反応を十分に行わせ、純度の高い芳香族カルボン酸を得るためである。また、反応時間は150分以下であると好ましく、120分以下であるとより好ましく、90分以下であると更に好ましい。溶媒Cの燃焼による損失を抑え、かつ装置を小型化するためである。
【0153】
上記追酸化処理は1回のみ行ってもよいし、2回以上連続して行ってもよい。例えば低温追酸化を2回以上行ってもよいし、低温追酸化と高温追酸化を各1回以上行ってもよいし、高温追酸化を2回以上行ってもよい。追酸化処理を2回以上行う場合、通常追酸化反応器を2つ以上設ける。本発明において、好ましくは追酸化処理を1回以上行い、より好ましくは少なくとも低温追酸化を1回行う。
【0154】
追酸化処理を行うために供給する分子状酸素含有ガスB’としては、分子状酸素を含むガスであればよく、第1反応帯域と同様に、空気、酸素富化空気、不活性ガスで希釈された酸素等が用いられる。このうち、実用的には空気が好ましい。追酸化反応器11’から排出された反応ガスM’は酸素及び溶媒Cの蒸気を含み、上記反応ガスMに用いる凝縮器18と同様の凝縮器を用いて凝縮される。或いは、凝縮器に代えて蒸留塔を用いても同様の分離が可能である。
【0155】
分子状酸素含有ガスB’の供給量及び酸素濃度は、凝縮器からの凝縮器排ガス(凝縮器が複数段からなる場合は最終段の凝縮器の排ガス)中の酸素濃度が特定範囲となるように制御するのが好ましい。好ましくは凝縮器排ガス中の酸素濃度が0.5容量%以上、より好ましくは1容量%以上、更に好ましくは2容量%以上とする。下限値より高いほど反応効率が高まる利点がある。また好ましくは10容量%以下、より好ましくは8容量%以下、更に好ましくは7容量%以下となるよう制御する。上限値より低くすることで安全性が高まる。
【0156】
また分子状酸素含有ガスB’の供給量は、第1反応帯域で行う酸化反応に供給する分子状酸素含有ガスBの量の1/10000以上(体積比)であることが好ましく、1/1000以上であるとより好ましく、1/100以上であると更に好ましい。一方、ガスBの量の1/5以下であることが好ましく、1/10以下であるとより好ましい。
【0157】
なお、追酸化処理を行う反応器の種類は特に限定されないが、例えば上記第1反応帯域と同様のタイプの反応器などが使用可能である。また追酸化処理の他の条件については、第1反応帯域における酸化と同様である。
【0158】
以上のようにして酸化反応が行われ、反応器11又は追酸化反応器11’から芳香族カルボン酸と溶媒Cとを含む液状組成物Dが抜き出される。芳香族カルボン酸は固体として、好ましくは結晶として得られ、少なくとも固体の化合物と溶媒を含む液状組成物が得られる。なお芳香族カルボン酸は、一部、溶媒Cに溶解していてもよい。この液状組成物Dは溶媒Cや芳香族カルボン酸の他に、触媒、原料のアルキル芳香族化合物、及び副生成物(例えば、一部酸化アルキル芳香族化合物)などを含みうる。副生成物としては、p−キシレンからテレフタル酸を製造する場合には例えば4CBA、p−トルアルデヒド、p−トルイル酸、酢酸メチル等が挙げられる。液状組成物中には、4CBAがテレフタル酸に対して通常0.1ppm以上含まれており、また通常5000ppm含まれている。好ましくは3000ppm以下、より好ましくは2500ppm以下、更に好ましくは2000ppm以下、特に好ましくは1500ppm以下である。
【0159】
以下では便宜上、反応装置が反応器11のみからなり、反応器11から抜き出される液状組成物を反応装置から抜き出される液状組成物Dとする場合について説明する。ただしこの説明は、反応装置が反応器11及び追酸化反応器11’からなり、追酸化反応器11’から抜き出される液状組成物を反応装置から抜き出される液状組成物Dとした場合にも同様に適用される。
【0160】
この液状組成物Dは、必要に応じて晶析させるため、晶析槽25へ移送する。晶析槽25において圧力を低下させて冷却することで、主に上記芳香族カルボン酸からなる結晶を晶析させる。晶析槽25は一つのみであるよりも、直列に複数あって晶析を多段階的に行うことが好ましい。晶析は、回分及び連続のいずれであってもよいが、通常は連続で2段以上で段階的に降圧させ、好ましくは3段以上である。また通常6段以下、好ましくは5段以下である。これにより、溶媒Cがフラッシュ蒸発し、系内の温度が低下する。ここで晶析する上記結晶の大半が上記芳香族カルボン酸となるが、温度が低すぎると芳香族カルボン酸以外の物質が共晶し、さらに後述する固液分離工程で分離した母液を再利用する際に再加熱に要するエネルギーコストが大きくなるため、最終的な晶析温度は通常50℃以上、好ましくは70℃以上である。また通常180℃以下、好ましくは160℃以下である。本発明においては、上記晶析槽として、上述した芳香族カルボン酸含有組成物保持槽を用いることが好ましい。
【0161】
この液状組成物Dを溶媒と芳香族カルボン酸とに固液分離するため、固液分離装置13へ移送する。反応器11または晶析槽25と固液分離装置13との間には、ポンプ12や圧力弁を設けて適宜、液状組成物Dの圧力を調整してもよい。
【0162】
固液分離装置13は液状組成物Dを芳香族カルボン酸ケーキFと母液Gとに固液分離する。固液分離は常圧、減圧、加圧のいずれでも行いうる。加圧状態で固液分離を行うと内部エネルギーの大きいケーキFが得られ、後のケーキFの乾燥工程でケーキ付着液の蒸発を効率的に行うことができ、好ましい。
圧力は、絶対圧で、通常0.01MPa以上とし、好ましくは0.03MPa以上とし、より好ましくは0.05MPa以上とする。一方、圧力は通常絶対圧で20MPa以下とする。低めの圧力とすることで耐圧性がやや低い装置が使用でき、コストが節減できる。好ましくは10MPa以下とし、より好ましくは5MPa以下とし、更に好ましくは3MPa以下とし、特に好ましくは2MPa以下とする。
【0163】
固液分離装置13としては公知の装置を制限なく使用しうるが、例えば、水平ベルトフィルター、スクリーンボウルデカンター、ソリッドボウルセパレーター、ロータリー加圧フィルター、ロータリーバキュームフィルター等が挙げられる。
【0164】
固液分離装置13で分離された母液Gは、通常、固液分離装置13内の母液槽に一旦蓄積された後、母液タンク20に回収されるが、反応に用いた溶媒が主成分であり、溶解した芳香族カルボン酸や、未反応のアルキル芳香族化合物、触媒、副生成物、水などが含まれている。従って母液Gは反応器11へ移送して、溶媒、未反応原料、触媒を再利用するとともに、含まれる芳香族カルボン酸を反応系内に戻すと、プロセス全体の収率を上げることができ好ましい。固液分離を加圧下で行なう場合、母液Gは加圧状態を維持したまま反応器11へ移送すると、再加圧のためのエネルギーが節減でき、好ましい。また、母液タンク20の温度は通常50℃以上であり、好ましくは70℃以上である。また通常190℃以下、好ましくは180℃以下である。なお、上記固液分離装置13内の母液槽として、本発明の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽を用いてもよい。
【0165】
固液分離装置13で母液Gと分離された芳香族カルボン酸ケーキFは、そのまま乾燥してもよいが、洗浄装置14で洗浄することで、不純物や副生成物、触媒等を除去でき、得られる芳香族カルボン酸の結晶の純度が高まるので好ましい。
【0166】
洗浄装置14では芳香族カルボン酸ケーキFが洗浄液Iにより洗浄され、付着母液が除去され不純物濃度が低減された洗浄ケーキHが得られる。洗浄排液Jは洗浄ケーキHと分離され、洗浄装置14内の洗浄廃液槽に一旦蓄積された後、洗浄排液タンク21に回収することができる。洗浄排液Jには母液G同様、溶解した芳香族カルボン酸や、未反応のアルキル芳香族化合物、触媒、副生成物、水などが含まれるため、洗浄排液Jは反応器11へ移送し溶媒、未反応原料、触媒を再利用するとともに、含まれる芳香族カルボン酸を反応系内に戻すと、収率を上げることができ好ましい。洗浄を加圧下で行う場合、洗浄排液Jは加圧状態を維持したまま反応器11へ移送すると、再加圧のためのエネルギーが節減でき、好ましい。また、洗浄廃液タンク21の温度は通常50℃以上であり、好ましくは70℃以上である。また通常190℃以下、好ましくは180℃以下である。なお、上記洗浄装置14内の洗浄廃液槽として、本発明の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽を用いてもよい。
【0167】
なお、工程内に副生成物や触媒などの不純物が蓄積するのを避けるため、洗浄排液Jの一部は廃棄処理工程19へ送って廃棄し、残部を反応器11へ送って再利用することが好ましい。これにより、工程内への不純物の蓄積を抑制することができる。廃棄処理工程19は、例えば溶媒蒸発工程や触媒回収工程などからなる。
【0168】
また、母液タンク20と洗浄排液タンク21とをまとめて、1つの母液・洗浄排液タンクとしてもよい。その場合、反応器11への移送、溶媒、未反応原料、触媒の再利用や、廃棄処理工程へ移送しての廃棄もまとめて行うことができる。この場合も、本発明の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽を母液・洗浄廃液タンクとして用いることができる。
以下、母液タンク20や洗浄排液タンク21に関する説明は、このような母液・洗浄排液タンクをも含むものとする。
【0169】
洗浄に用いる洗浄液Iは、水や有機溶媒などを用い得、特に制約はないが、反応器11で用いる溶媒Cと相溶するものが好ましい。例えば、溶媒Cが酢酸を主成分とする溶媒である場合、洗浄液Iとしては、酢酸、水、或いは酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の比較的蒸発潜熱の小さい酢酸エステル類、又はこれらの混合物を主成分とする溶媒を用いることが好ましい。溶媒Cと主成分が共通するものであると、上記のような洗浄排液Jの再利用がより行い易く、より好ましい。溶媒Cが酢酸を主成分とする溶媒である場合、洗浄液Iも酢酸を主成分とする溶媒が好ましく、酢酸を60重量%以上含む溶媒であると好ましく、70重量%以上含む溶媒であることが特に好ましい。
【0170】
洗浄装置14の圧力は、固液分離装置13の圧力と同程度とすることが望ましい。
【0171】
母液Gや洗浄排液Jを反応装置に移送する場合、反応装置の中のどの反応器に移送してもよい。但し、反応効率を高めるため、好ましくは最も上流の反応器に移送する。
上記固液分離及び洗浄を加圧下で行なう場合、得られた洗浄ケーキHは、好ましくは乾燥装置16により乾燥させ、ケーキに残留する付着液を除去して芳香族カルボン酸を得る。通常芳香族カルボン酸結晶Kとして得られる。乾燥装置16は1つのみでもよいし複数の同一又は異なる装置で構成されていてもよい。
【0172】
乾燥装置16の種類は特に制限されないが、好ましくは、洗浄ケーキHを高圧状態から低圧状態へ移行させることで洗浄ケーキHに付着している付着液を放圧蒸発させる装置、いわゆるフラッシュ乾燥装置を含むことが好ましい。ここで放圧蒸発とは、高圧状態にある液体が、移行前の温度が移行後の圧力における沸点以上となる低圧状態へ急激に移行させられることによって、その内部エネルギーを気化熱として一部液体が蒸発することを言う。放圧蒸発を行える乾燥装置としては、例えば、高圧状態から低圧状態への抜き出しが可能なディスチャージバルブを備えた加圧乾燥装置などが挙げられる。例えば、高圧状態を保持したまま洗浄ケーキHを蓄えたケーキ保持槽から、ディスチャージバルブを開放して洗浄ケーキHをより低圧である粉体滞留槽へ抜き出す。
【0173】
放圧蒸発によれば、更なるエネルギーを加えることなく洗浄ケーキHの乾燥が行えるので、放圧蒸発でできるだけ多くの付着液を蒸発させることがエネルギーコスト節減上、好ましい。
ディスチャージバルブは抜き出し方式が連続式であっても間欠式であってもよく、また乾燥装置はディスチャージバルブを1つ備えていても複数備えていてもよい。なお、ディスチャージバルブによる抜き出しの際、粉体滞留槽での洗浄ケーキH滞留量が一定となるようタイミングや回数を調整すると、安定的に工程を進行させやすく好ましい。
【0174】
なお、固液分離工程と洗浄工程とを一つの装置で行える固液分離洗浄装置15(図中、破線囲みの15に相当する。)により、両工程を行ってもよい。工程を簡略化できる利点がある。このように二つの工程をまとめて行うことのできる固液分離洗浄装置15としては、スクリーンボウルデカンター(スクリーンボウル型遠心分離装置)、ソリッドボウルセパレーター、ロータリー加圧フィルター、水平ベルトフィルター、ロータリーバキュームフィルター等が挙げられる。これらの中でも、特にスクリーンボウルデカンターは耐熱性に優れ、反応器11の温度に近い高温域でも使用可能であるため好ましい。
【0175】
また、固液分離工程、洗浄工程及び乾燥工程を一つの装置で行える固液分離洗浄乾燥装置17(図中、破線囲みの17に相当する。)により、これら3つの工程を行ってもよい。工程を簡略化できる利点がある。このような装置としては特に制限はなく、例えばスクリーンボウルデカンター、ソリッドボウルデカンターのような遠心分離機や、水平ベルトフィルター、ロータリー加圧フィルター、ロータリーバキュームフィルターなどを用いることができる。なかでもスクリーンボウルデカンターは耐熱性に優れるため好ましい。
【0176】
このようにして得られる芳香族カルボン酸結晶Kの乾燥が不十分な場合は、乾燥装置16の後に加熱乾燥装置などを設け、更に乾燥を行うことが好ましい。加熱乾燥装置の種類は特に制限は無いが、乾燥効率やコスト等の点から、流動層乾燥装置(Fluidized Bed Dryer)、回転型乾燥装置(スチームチューブドライヤー等)などが好ましく用いられる。
【0177】
以上のような工程により、アルキル芳香族化合物から芳香族カルボン酸が得られる。得られた芳香族カルボン酸はそのまま使用してもよいし、純度を上げるために還元工程に供してもよい。
【0178】
還元工程としては、水素化精製プロセス(溶解工程、水素化工程、晶析工程、固液分離工程、洗浄工程、乾燥工程等からなる)が挙げられる。水素化精製プロセスについて、図6を用いて説明する。溶解工程としては、反応器26内で、上述した工程により得られた芳香族カルボン酸結晶Kを、溶媒Lに溶解させる。あるいは予め別の溶解槽で溶解させた後、反応器26に供給してもよい。使用する溶媒Lとしては、芳香族カルボン酸結晶Kが溶解可能なものであればよく、芳香族カルボン酸結晶に化学的な変化を来たさないものが用いられる。また溶媒Lの常圧における沸点は好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは60℃以上であり、また好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは150℃以下である。下限値以上とすることで取り扱いや回収が容易となり、上限値以下とすることで後工程での固液分離、乾燥が容易となる。
溶媒Lの種類は特に限定されないが、溶解性や沸点、取り扱いやすさから、水を含むことが好ましく、例えばテレフタル酸を製造する場合には、水を主成分とする溶媒が好ましく、より好ましくは90重量%が水、さらに好ましくは100重量%が水である溶媒が好ましい。
本プロセスでは好ましくは水素化触媒を用いる。例えばルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、オスミウム等の8〜10族金属触媒が用いられる。中でもパラジウムが好ましい。通常、これらは活性炭等に担持させて固定床として用いる。
【0179】
続いて、反応器26内に水素Wを導入し、芳香族カルボン酸結晶に含まれる不純物の少なくとも一部を還元する、水素化工程を行なう。水素化工程を行うにあたっては、芳香族カルボン酸結晶Kの常温における溶解度が小さい場合には、溶媒Lへの溶解度を高めるため、昇温することが好ましい。還元反応の温度としては、通常230℃以上、好ましくは250℃以上である。また通常330℃以下であり、好ましくは310℃以下である。また圧力については、溶媒を液体として維持するために、蒸気圧より高い圧力を必要とし、通常3MPa以上であり、好ましくは5MPa以上である。また通常20MPa以下であり、好ましくは15MPa以下、より好ましくは12MPa以下である。例えば芳香族カルボン酸としてテレフタル酸を製造する場合には、テレフタル酸結晶中に含まれる4−CBAを還元してパラトルイル酸に変換する。
【0180】
その後、芳香族カルボン酸を再度、必要に応じて晶析させるため、芳香族カルボン酸結晶Kが溶媒Lに溶解した液状組成物Xを晶析槽25へ移送する。晶析槽25において圧力を低下させて冷却することで、主に上記芳香族カルボン酸からなる結晶を晶析させる。晶析槽25は一つのみであるよりも、直列に複数あって晶析を多段階的に行うことが好ましい。晶析は、回分及び連続のいずれであってもよいが、通常は連続で2段以上で段階的に降圧させ、好ましくは3段以上である。また通常6段以下、好ましくは5段以下である。これにより、溶媒Lがフラッシュ蒸発し、系内の温度が低下する。例えば芳香族カルボン酸としてテレフタル酸を製造する場合、4−CBAが還元されたパラトルイル酸は、水に対する溶解度がテレフタル酸より高いので、晶析では、テレフタル酸が優先的に析出する。しかし、大気圧まで降下すると、温度が100℃程度となり、パラトルイル酸が共晶するので、最終晶析圧力は、通常0.1MPa以上、好ましくは0.2MPa以上、さらに好ましくは0.3MPa以上、特に好ましくは0.5MPa以上である。また、圧力範囲の上限は、好ましくは3MPa以下、さらに好ましくは1MPa以下、特に好ましくは0.7Pa以下である。なお、晶析の際発生する蒸気は、回収して芳香族カルボン酸の製造プロセスで再利用しても良い。本発明においては、上記晶析槽として、上述した芳香族カルボン酸含有組成物保持槽を用いることが好ましい。
【0181】
続いて、上記晶析工程を経た液状組成物Xを、例えば固液分離装置13で固液分離し、洗浄装置14で洗浄して乾燥させることにより、純度の高い芳香族カルボン酸結晶Yが得られる。なお、固液分離工程、洗浄工程、及び乾燥工程における方法及び装置は、上述した方法及び装置と同様とすることができる。また更なる乾燥工程を設けてもよいのも同様である。また洗浄液Tの種類等は適宜選択することができる。また図6において、図5と同様の装置等については同一の符号を付し、ここでの説明を省略する。なお、図6においては、ケーキ、母液、洗浄ケーキ、洗浄液及び洗浄廃液を、それぞれ符号Q、R、S、T及びUで示す。また、固液分離装置13で分離された母液R、洗浄廃液Uは、通常パラトルイル酸や触媒等、有価物を回収後、溶媒リサイクル工程、排出工程等に送られる。
【0182】
本発明の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽を用いた芳香族カルボン酸の製造方法では、上記で示した全工程を必須とするものではなく、反応器11で芳香族カルボン酸を生成させ、固液分離装置13に移送し、芳香族カルボン酸を溶媒から分離するものであればよい。また必要に応じて上記以外の装置や配管を設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明は芳香族カルボン酸の製造分野に用いることが可能であり、特にテレフタル酸の製造に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0184】
【図1】本発明の第一実施形態としての芳香族カルボン酸含有組成物保持槽の構成を模式的に示す概略図である。
【図2】本発明の第一実施形態を説明する図であって、第一流量制御手段及び第二流量制御手段における制御フローを示す図である。
【図3】本発明の第一実施形態を説明する図であって、第一温度制御手段及び第二温度制御手段における制御フローを示す図である。
【図4】本発明の第二実施形態としての芳香族カルボン酸含有組成物保持槽の構成を模式的に示す概略図である。
【図5】本発明の芳香族カルボン酸の製造方法の例を説明するための説明図である。
【図6】本発明の芳香族カルボン酸の製造方法における還元工程の一例を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0185】
1,1’ 芳香族カルボン酸含有組成物保持槽
100 槽体
101 液状組成物
102 液面
103 ガス
104 モータ
105 攪拌軸
106 攪拌翼
107 攪拌機
200 差圧式液面計
210 第一導管
211 中空部
212 開口部
220 第一圧力伝達手段
221 第一キャピラリーチューブ
222 第一ダイアフラム
230 第二導管
231 中空部
232 開口部
233 第二導管の端部
234 第二導管の中央部
240 第二圧力伝達手段
241 第二キャピラリーチューブ
242 第二ダイアフラム
250 差圧センサ
260 第一熱媒供給系
261 熱媒貯蔵槽
262 第一熱媒管
263 ポンプ
264 流量センサ
265 バルブ
266 温度センサ
267 ヒーター
268 ノズル
269 バルブ
270 第二熱媒供給系
271 熱媒貯蔵槽
272 第二熱媒管
273 ポンプ
274 流量センサ
275 バルブ
276 温度センサ
277 ヒーター
278 ノズル
279 バルブ
280 制御手段
281 第一流量制御手段
282 第一温度制御手段
283 第一制御手段
284 第二流量制御手段
285 第二温度制御手段
286 第二制御手段
300 放射線式液面計
301 挿入管
302 放射線検知手段
303 液面測定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族カルボン酸及び溶媒を含む液状組成物を保持する槽体と、該槽体内の液面の位置を測定する差圧式液面計とを備え、
該差圧式液面計が、
該槽体内に開口し、該槽体内の該液状組成物を導入する中空部を有する第一導管と、
該第一導管の中空部内の圧力を伝達する第一圧力伝達手段と、
該槽体内の該第一導管よりも上部に開口し、該槽体内の気体を導入する中空部を有する第二導管と、
該第二導管の中空部内の圧力を伝達する第二圧力伝達手段と、
該第一圧力伝達手段及び該第二圧力伝達手段から伝達された圧力の差を測定する差圧測定手段と、
第一熱媒を該第一導管に供給する第一熱媒管と、
該第一熱媒の温度及び/又は流量を一定範囲に維持するように制御する第一制御手段とを備える
ことを特徴とする芳香族カルボン酸含有組成物保持槽。
【請求項2】
該第一圧力伝達手段が、該差圧測定手段に接続され、シール液で満たされた第一キャピラリーチューブと、該第一導管の中空部内の圧力を該第一キャピラリーチューブのシール液に伝える第一ダイアフラムとを備え、
該第二圧力伝達手段が、該差圧測定手段に接続され、シール液で満たされた第二キャピラリーチューブと、該第二導管の中空部内の圧力を該第二キャピラリーチューブのシール液に伝える第二ダイアフラムとを備える
ことを特徴とする請求項1記載の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽。
【請求項3】
該第一熱媒が、該槽体内の該溶媒と実質的に同じ組成である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽。
【請求項4】
該液状組成物がスラリーである
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽。
【請求項5】
該槽体内の該液状組成物を攪拌する攪拌手段を備える
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽。
【請求項6】
該第一導管が該槽体の内径に対して0.05%以上20%以下の範囲で該槽体内に挿入されている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽。
【請求項7】
該槽体内において該第一導管が下向きに開口している
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽。
【請求項8】
該槽体の外部に、該第一熱媒を加熱する熱源を備える
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽。
【請求項9】
第二熱媒を該第二導管に供給する第二熱媒管と、
該第二熱媒の温度及び/又は流量を一定範囲に維持するように制御する第二制御手段とを備える
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽。
【請求項10】
該槽体内の液面の位置を測定する放射線式液面計を備える
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の芳香族カルボン酸含有組成物保持槽を用いる
ことを特徴とする芳香族カルボン酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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