説明

芳香族コポリアミド繊維の製造方法

【課題】可塑延伸倍率が向上された芳香族ポリアミド繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】芳香族ジカルボン酸クロライドと芳香族ジアミンを反応させた芳香族コポリアミドであって、芳香族ジアミンとして特定のヘテロ環含有ジアミンと、芳香環の水素がハロゲンで置換された2価の芳香族基を有するジアミンと、非置換の2価の芳香族基を有するジアミンを、特定のモル比で共重合してなる多元芳香族コポリアミドの中和ドープから形成された繊維を、ヘテロ環含有反復構造単位の比率が同一でかつハロゲンで置換された芳香族基を有する反復構造単位を含まない芳香族ポリアミドの延伸倍率に対して、延伸倍率の向上率150〜300%となる倍率で可塑延伸することにより、繊維中の欠陥が少なく、物性に優れた芳香族コポリアミド繊維を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族コポリアミド繊維の製造方法に関する。より詳しくは、従来の芳香族ポリアミド繊維に比べて、可塑延伸倍率が向上されており、繊維欠陥の非常に少ない芳香族コポリアミドを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなる芳香族ポリアミド繊維(以下「アラミド繊維」ということがある)、特にパラ型アラミド繊維は、その強度、高弾性率、高耐熱性等の特性を生かして、産業用途及び衣料用途に広く用いられている。
【0003】
代表的なパラ型アラミド繊維の例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)繊維がある。この繊維は多くの利点を有するが、ポリマードープの光学異方性を利用した所謂液晶紡糸法により製造される点で、プロセス上の問題があり、また、繊維性能については、機械的物性のうち強度が必ずしも高くないこと及び伸度が低く靱性が不十分であること等の欠点が見られる。
【0004】
この問題を解消するため、光学異方性を保持したままヘテロ環含有モノマーを導入した芳香族コポリアミドを用いて、機械的物性を向上させようとした芳香族コポリアミド繊維を開発する試みがなされた(下記特許文献1参照)。しかしながら、かかる芳香族コポリアミドは、ポリマー溶液の不安定性等の要因で、安定した性能を発揮することが難しいことがわかった。
【0005】
そこで、公知のアミド系溶媒に対して高い溶解度を有し、容易に紡糸することができ、紡糸した繊維が延伸処理後に高い引っ張り強度と高い初期モジュラスを有する別の芳香族コポリアミド繊維を開発する試みがなされ、例えば、少なくとも下記の化学式(1)及び(2)の反復構造単位を含むヘテロ環含有芳香族コポリアミドであって、アミド系溶媒に対して光学的に等方性の溶液を形成するような芳香族ポリアミドから繊維を製造することが提案されている(下記特許文献2及び特許文献3参照)。しかしながら、これらの特許文献に開示されている芳香族コポリアミド繊維は、引っ張り強度、初期モジュラス等の機械的物性が不十分である。
【0006】
また、同様に、少なくとも下記の化学式(1)及び(2)の反復構造単位を含む芳香族コポリアミドの未中和ポリマー溶液を紡糸し可塑化延伸することにより、高引っ張り強度、高初期モジュラス等、改善された機械的物性をもつ芳香族コポリアミド繊維が提案されている(例えば、下記非特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、ポリマー溶液が未中和であるため、重合時に発生する塩酸を含み、高温下におけるポリマー鎖分解あるいは設備の腐蝕等の問題があるため、工業的に有用な繊維を得ることは難しい。
【0007】
以上のように、現在に至るまで、中和されたポリマー溶液から、従来と同程度もしくはそれ以上の倍率の可塑化延伸によって優れた機械的物性をもつ芳香族コポリアミド繊維を製造する方法は、未だ提案されていないのが実状である。
【0008】
【特許文献1】特開昭51−8363号公報
【特許文献2】特開平7−300534号公報
【特許文献3】特開平7−278303号公報
【非特許文献1】J.W.S.Hearle著 「High−performance fibres」 第118〜120頁、 Woodhead Publishing Limited (2001年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来のアラミド繊維と比較して、高可塑化延伸倍率で延伸することができ、かつ繊維中の欠陥の程度が十分低減され、その結果、引っ張り強度、初期モジュラス等の機械的物性が優れた芳香族コポリアミド繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的は、下記の化学式(1)、(2)及び(3)の反復構造単位を含むヘテロ環含有芳香族コポリアミドからなり、かつ、該芳香族コポリアミドの構造反覆単位の全量に対し、化学式(2)の反復構造単位を30〜95モル%、化学式(3)の反復構造単位を5〜20モル%含むヘテロ環含有芳香族ポリアミドの中和ドープを紡糸し、得られた芳香族コポリアミド繊維を、アミド系溶媒を含む水溶液からなる延伸浴中で化学式(2)の反復構造単位の含有率が同一でかつ化学式(3)の反復構造単位を含まないヘテロ環含有芳香族コポリアミド繊維の延伸倍率に対して、延伸倍率向上率が150〜300%となる倍率で可塑延伸することを特徴とする、本発明の芳香族コポリアミド繊維の製造方法によって達成される。
【0011】
【化1】

【0012】
なお、上記化学式(1)、(2)及び(3)におけるAr、Ar及びArは、各々独立した、パラ配位又は平行軸方向に結合基を有する2価の芳香族基であり、Arは非置換又は置換された芳香族基、Arは非置換の芳香族基、Arはハロゲン基で置換された芳香族基である。
【0013】
本発明でいう芳香族コポリアミドとは、2種以上の2価の芳香族基が直接アミド結合により連結されている繊維形成性ポリマーを総称し、これらの芳香族基において、2個の芳香環同士が直接結合するか、酸素原子、硫黄原子又はアルキレン基を介して結合していてもよく、また、芳香環にメチル基やエチル基等の低級アルキル基、メトキシ基、クロル基等のハロゲン基等を含むものであってもよい。
【0014】
本発明の方法では、繊維の製造に使用する芳香族コポリアミドとして、少なくとも上記3種の反復構成単位を(ポリマー繰り返し単位)含む特定の多元共重合体を使用することを一つの特徴としている。該共重合体にあっては、ポリアミド反覆構造単位の全量(100モル%)のうち、化学式(2)の反復構造単位が30〜95モル%、好ましくは50〜90モル%、を占め、かつ、化学式(3)の反復構造単位が5〜20モル%、好ましくは10〜20モル%、を占める多元共重合体である。さらに、該多元共重合体は化学式(1)の反復構造単位を5モル%以上含み、かつ以上3種の反復構造単位の合計が実質的に100モル%となるよう共重合したものが好ましい。かかる芳香族コポリアミドのうちでも、反復構造単位の全量に対し、化学式(1)の反復構造単位を10〜20モル%、化学式(2)の反復構造単位を50〜90モル%、化学式(3)の反復構造単位を10〜20モル%含むコポリアミドが特に好適な結果が得られる。
【0015】
なお、本発明では、目的とする芳香族コポリアミド繊維の特性を本質的に損なわない範囲で、上記反覆構造単位のAr、Ar及びArの一部(例えば、全体の10モル%未満)を、メタ型の2価の芳香族基、例えばメタフェニレン基等、に置き替えても差し支えない。
【0016】
さらに、本発明の方法では、後に詳述するような重合〜製糸工程を経て芳香族コポリアミド繊維を製造することをもう一つの特徴としている。特に、中和ドープから紡糸した凝固糸を、アミド系溶媒を含む水溶液からなる延伸浴中で、上記化学式(2)の反復構造単位の含有率が同一でかつ化学式(3)の反復構造単位を含まないヘテロ環含有芳香族コポリアミド繊維の延伸倍率に対して、延伸倍率向上率が150〜300%となる倍率で可塑延伸することを必須とするものである。
【0017】
ここで「延伸倍率向上率」とは、上記の化学式(3)の反復構造単位を含まず、かつ、化学式(2)の反復構造単位の含有率(モル%)が同一のヘテロ環含有芳香族コポリアミドからなる対象繊維を、本発明の繊維に適用するのと同じ組成・温度のアミド系水溶液中にて同じ速度で延伸し、断糸や毛羽等が発生せず良好に延伸できる最大の延伸倍率を求め、その延伸倍率に対して150%〜300%に相当する高い延伸倍率をいう。
【0018】
なお、本発明の方法では、上記可塑延伸の延伸浴としてアミド系溶媒の濃度が30〜80重量%の水溶液を使用するのが好ましく、また、可塑延伸後に300〜550℃の温度で熱処理することが好ましい。
かくして、本発明の方法によれば、芳香族コポリアミドのポリマー組成と重合・製糸条件との組合せによって、すぐれた機械的物性の芳香族コポリアミド繊維を良好な生産性にて製造される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法によれば、従来のアラミド繊維に比べ、高い延伸倍率で可塑延伸することができるので、繊維中の欠陥の程度が十分低減され、その結果、引っ張り強度、初期モジュラス等の機械的物性に優れた芳香族コポリアミド繊維を安定した工程調子で製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明によれば、目的とする高品質の芳香族コポリアミド繊維は、重合及び製糸(すなわち、紡糸・延伸熱処理)の工程を経て製造される。以下、本発明の製造方法を工程順に説明する。
【0021】
(重合)
本発明の方法において、使用する上記の芳香族コポリアミドは、それ自体公知の溶液重合法により、アミド系溶媒中で、上記化学式(1)(2)及び(3)の反復構造単位を形成し得る芳香族ジカルボン酸クロライドと芳香族ジアミンとを反応せしめてポリマー溶液を得る方法で製造することができる。
【0022】
この際、好適に用いられる芳香族ジカルボン酸ジクロライドとしては、例えば、テレフタル酸ジクロライド、2−クロロテレフタル酸ジクロライド、3−メチルテレフタル酸ジクロライド、4、4’−ビフェニレンジカルボン酸ジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド等のパラ又は平行軸方向に官能基を有する(以下、これらを「パラ型」と総称する)芳香族ジカルボン酸ジクロライドが挙げられる。これら非置換又は置換のいずれでもよいが、なかでもテレフタル酸ジクロライドが特に好適である。これらの芳香族ジカルボン酸ジクロライドは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明の目的を損なわない範囲で、上記パラ型の芳香族ジカルボン酸ジクロライドの一部をイソフタル酸ジクロライドのようなメタ型のジカルボン酸クロライドに置き換えても差し支えない。
【0023】
一方、芳香族ジアミンとしては、少なくとも3種の芳香族ジアミンが用いられる。第1の芳香族ジアミンは、非置換パラ型芳香族ジアミンから選ばれた1種であり、例えば、パラフェニレンジアミン、4,4’−ビフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル等の、従来のパラ型アラミド繊維の製造に用いられるものが好適に使用される。これらは単独で使用してもよく2種以上併用することもできる。かかる非置換パラ型芳香族ジアミンとしては、なかでもパラフェニレンジアミンが特に好適である。なお、本発明の目的を損なわない範囲で、上記パラ型芳香族ジアミンの一部をメタフェニレンジアミンのような非置換メタ型芳香族ジアミンに置き換えても差し支えない。
【0024】
第2の芳香族ジアミンは、置換又は非置換のフェニルベンジミダゾール基を有する芳香族ジアミン類から選ばれた1種であり、なかでも入手のし易さ、得られる繊維の優れた引っ張り強度及び初期モジュラス等の点から、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンジミダゾールがよい。
【0025】
また、第3の芳香族ジアミンは、ハロゲン置換のパラ型芳香族ジアミンから選ばれた1種であり、例えば、モノクロロパラフェニレンジアミン、ジクロロパラフェニレンジアミン、モノフロロパラフェニレンジアミン、モノブロモパラフェニレンジアミン等が用いられる。この第3の芳香族ジアミンについても、本発明の目的を損なわない範囲で、上記ハロゲン置換のパラ型芳香族ジアミンの一部をモノクロロメタフェニレンジアミンのようなメタ型の置換芳香族ジアミンに代替しても差し支えない。
【0026】
本発明で繊維を形成する芳香族コポリアミドは、既に述べたとおり、上記化学式(2)のヘテロ環含有反復構造単位の含有率を、該芳香族ポリアミド反覆構造単位の全量に対し30〜95モル%、好ましくは50〜95モル%の範囲とする。該反復構造単位の含有率が30モル%未満の場合には重合反応においては反応溶液が濁るという問題が生じ、このような濁ったドープでは紡糸することが困難である。また、上記化学式(3)の反復構造単位の含有率を、該芳香族ポリアミド構造単位の全量に対し5〜20モル%、好ましくは10〜20モル%の範囲とする。該反復構造単位の含有率が5モル%未満の場合には、紡糸した繊維に可塑延伸及び熱処理を施しても繊維中の欠陥の程度が有意に低減しない。また、含有率が20モル%より多い場合には、紡糸用ポリマー溶液の粘性が大幅に下がるという問題が生じ、紡糸することが困難である。したがって、本発明では、溶液重合に際し、各反応成分の仕込み量を、生成ポリマー中で各反覆構造単位がそれぞれ上記の範囲となるように調整する必要がある。
【0027】
本発明で重合溶媒として適当なアミド系溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等を例示することができるが、特に、芳香族コポリアミドの重合からドープ調製並びに湿式紡糸工程に至るまでの取扱い性や安定性及び害溶媒の毒性等の点から、N−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0028】
本発明においては、芳香族コポリアミドのアミド系溶媒に対する溶解性を向上させるために、重合の前、途中、終了時等に無機塩を適当量添加することができる。このような無機塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化カルシウム等が挙げられる。該無機塩の添加量は3〜10重量%が好ましい。添加量が10重量%を越えると無機塩をアミド系溶媒に対し全量溶解させることが困難となり、添加量が3重量%未満の場合には、溶解性向上の効果が不十分となるので、好ましくない。
【0029】
重合反応終了後の溶液には、反応で生成した塩酸を含むため、塩基性の無機化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等を添加し中和する。中和したポリマー溶液中には中和反応で生じた塩化カルシウム等の無機塩が含まれることがあるが、該無機塩はそのまま溶解性向上に寄与するので、無機塩濃度が過剰にならない限り、除去する必要はない。
重合反応において生成するポリマーの溶媒に対する濃度は重要である。均質な高重合度のポリマーを得るには生成ポリマー濃度として10重量%以下が好ましい。とりわけ3〜8重量%の濃度範囲が品質の安定したポリマーを得るのに好都合である。
【0030】
(製糸)
溶液重合により得られた上記芳香族コポリアミドのドープは、そのまま、あるいはポリマー濃度を適宜調整後、公知の芳香族ポリアミド繊維の紡糸方法に従って凝固液中に押し出され、凝固糸となる。紡糸用ドープには、必要に応じ、着色剤、難燃剤、安定剤等の添加剤を含んでもよい。紡糸工程では、紡糸口金直下にエアーギャップと呼ばれる短い空間を設け、この空間を通過した未凝固繊維(ポリマードープ)を直ちに凝固液中に導入する方法が好ましいが、通常の湿式紡糸でも差し支えない。
【0031】
凝固液は、一般に、アミド系溶媒と水との2成分からなる水溶液で構成される。ここで使用するアミド系溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等が使用可能であるが、取扱い性、安定性及び該溶媒の毒性等の点から、N−メチル−2−ピロリドンが特に好ましく使用される。
【0032】
凝固液となる水溶液中のアミド系溶媒の濃度は、濃度10〜50重量%であることが好ましい。濃度が50重量%を越えると、紡出した芳香族コポリアミドドープの凝固が進まず、繊維状物同士の密着が発生し、連続的に製糸することが困難となる。また、濃度が10重量%未満であると、可塑化が十分に進まず、続いて行なわれる可塑延伸時の延伸性が低下するため好ましくない。凝固浴の温度は凝固浴組成と密接な関係があるが、あまり高温にすると紡糸した繊維同士の密着が激しくなる上、作業性も悪くなるため。好適な温度は0〜50℃である。
【0033】
本発明においては、紡糸用ドープが光学的等方性であり、かつ中和されているため、紡糸性が良好で、安定かつ円滑な紡糸を行うことができ、設備の腐食等の問題も生じない。
凝固浴から引き取られた芳香族コポリアミド糸条は、延伸浴中で特定の延伸倍率に可塑延伸される。すなわち、本発明で採用する延伸倍率は、上記化学式(2)の反復構造単位の含有比率が同一でかつ化学式(3)の反復構造単位を含まないヘテロ環含有芳香族コポリアミド繊維の延伸倍率に対する延伸倍率向上率が150〜300%となる倍率とする。延伸倍率がこれより小さいときは、繊維内部に欠陥が残り、所望の機械的物性を有する繊維が得られないばかりでなく、延伸倍率が低いため生産性も低下する。一方、延伸倍率が過大になると延伸時に断糸や毛羽が発生する。
【0034】
ここで言う「延伸倍率向上率」とは、既に述べたように、上記の化学式(3)の反復構造単位を含まず、かつ化学式(2)の反復構造単位の含有率(モル%)が同一のヘテロ環含有芳香族コポリアミドからなる繊維(対象繊維)を、本発明の繊維に適用する際と同じ組成・温度のアミド系水溶液中にて同じ速度で可塑延伸し、断糸や毛羽(単繊維破断)等が発生せず良好に延伸できる最高の延伸倍率(最大延伸倍率)を求め、その最大延伸倍率に対して150%〜300%に相当する高い延伸倍率をいう。例えば、化学式(3)の反復構造単位を含まずに、化学式(1)及び(2)の反復構造単位のみからなり、かつ化学式(2)の反覆構造単位の含有率が同一の芳香族コポリアミド繊維(対象繊維)の最大延伸倍率が2.0倍のとき、本発明の方法にあっては、その150%〜300%に相当する3.0〜6.0倍の比較的高い倍率で可塑延伸する。本発明において実際に適用する延伸倍率の範囲は、当該繊維を形成するポリマーの組成や延伸浴の組成、温度等によって異なるが、通常、2.3〜4.5倍程度になる。
【0035】
本発明では可塑延伸、すなわち繊維を可塑化した状態で延伸を行うため、延伸浴としてアミド系溶媒の水溶液を使用する。ここで用いられるアミド系溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等を例示することができるが、なかでもN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0036】
延伸浴を構成する水溶液のアミド系溶媒の濃度は30〜80重量%が好ましい。濃度が80重量%を越えると芳香族コポリアミド糸条が該水溶液中に溶解するため、連続的に製糸することが困難となる。また、濃度が30重量%未満であると繊維の可塑化が十分に進まず、上記延伸倍率を確保することが困難である。該水溶液の温度は、あまり高温にすると繊維同士の密着が激しくなる上、作業性も悪くなるため、0〜50℃が好適である。
【0037】
延伸に続いて、該芳香族コポリアミド繊維は水洗工程にて溶媒を十分に除去し、乾燥工程にて充分に乾燥したのち熱処理を行う。本発明における繊維の熱処理温度は300〜550℃の範囲が好ましい。熱処理温度が300℃未満の場合には、繊維が充分に配向結晶化を起こさせることができないために、充分な引っ張り強度、初期モジュラスが得られない。また、熱処理温度が550℃を越える場合には、繊維が熱劣化を引き起こすために、充分な引っ張り強度、初期モジュラスが得られない。この熱処理は、定長下又は処理前の原長に対し15%以内の伸張下又は制限収縮下で行うのが適当である。
【0038】
(得られる繊維)
本発明の方法で得られる芳香族コポリアミド繊維の繊度は、単糸繊度として0.55〜22dtexの範囲が好ましく、特に1.67〜16.7dtexの範囲が好ましい。単糸繊度が0.55dtex未満では製糸工程における毛羽や単糸切れが発生しやすく、また、単糸繊度が22dtexを超えると撚糸、製網等が困難になるので好ましくない。
【0039】
本発明の方法では、特定組成の芳香族コポリアミド繊維を上述のような条件で製造することによって、繊維中の欠陥が有意に低減し、平均空孔径が3.0nm以下、好ましくは0.5〜2.8nm、となり、機械的物性は、引っ張り強度20cN/dtex以上、好ましくは22〜30cN/dtexであり、初期モジュラス500cN/dtex以上、好ましくは600〜1000cN/dtexと良好な値を示し、特に産業用、防護衣料用の資材として有用である。しかも、本発明方法では延伸倍率を大きくとることができるので製糸段階の生産性も向上する。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はその説明内容に限定されるものではない。なお、実施例中の各特性値は下記の方法で測定した。
<粘度(ηinh)>
98%濃度の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dlの溶液について溶液温度30℃で測定した。
<繊維中欠陥>
表1に示す繊維中の欠陥は、小角X線散乱装置を用いて測定される繊維中の平均空孔径(nm)によって表示した。測定装置及び測定条件は以下のとおりである。
装置:RIGAKU製小角X線散乱装置(RU−200B)
測定条件:λ(CuKα)=0.154nm、45kV、70mA
解析方法:本測定機器を用いて、小角領域(2θ<10°)で測定を行い、散乱光プロファイルから、繊維中の平均空孔径(nm)を算出した。すなわち、小角X線散乱の解析からDebyeプロットを行い、Debyeプロットから下記の数式により平均孔径(nm)を求めた。
【数1】

【0041】
[実施例1]
窒素を内部にフローしている攪拌翼を有する攪拌槽に、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す)1.840Lを投入した後、十分に乾燥させた塩化カルシウム160.0g投入し溶解させた。次いで、パラフェニレンジアミン3.6g(10モル%)と、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンジミダゾール51.8g(70モル%)と、モノクロロパラフェニレンジアミン9.4g(20モル%)とを秤量して投入し溶解させた。続いて、テレフタル酸クロライド66.8g(100モル%)を投入し、反応せしめて芳香族コポリアミドのポリマー溶液を得た。この生成物に22.5重量%の水酸化カルシウムを含有するNMP分散液107.5gを添加し、中和反応を行ってポリマー溶液を得た。
得られたポリマー溶液から析出せしめたポリマーについて測定した粘度(ηinh)は5.5であった。
【0042】
得られたポリマー溶液(ドープ)を用い、孔径0.15mm、孔数25ホールの紡糸口金から毎分2.5ccの割合で吐出し、エアーギャップと呼ばれる短い空隙部分を通した後、NMP濃度30重量%、温度50℃の水溶液中に紡出し、6m/分の速度で引き取って、凝固糸を得た。
該凝固糸は、引き続き、温度30℃、濃度70重量%のNMP水溶液中で4.5倍の延伸倍率で可塑延伸を行った。可塑延伸した糸条は水洗、乾燥し、次いで、温度450℃下で緊張熱処理を行い、30.0m/分の速度で巻き取って42dtex/25filの糸条を得た。この結果を表1の実施例1欄に示す。
【0043】
[実施例2〜5]
実施例1と同様の製造方法に従い、ジアミン類の添加比率、NMP水溶液中での延伸倍率を表1に記載のとおりに変更する以外は、実施例1と同様にして芳香族コポリアミド繊維を製造した。これらの結果を表1の実施例2〜5欄にまとめて示す。
【0044】
[比較例1〜4]
実施例1と同様の製造方法に従い、ジアミン類の添加比率、NMP水溶液中での延伸倍率を表1に記載のとおりに本発明の範囲外に変更する以外は、実施例1と同様にして芳香族コポリアミド繊維を製造した。これらの結果を表1の比較例1〜3欄にまとめて示す。なお、比較例1は上記化学式(3)の反復構造単位を含まず、かつ化学式(2)のヘテロ環含有の反復構造単位ジアミン成分のモル%が実施例1と同一のポリマーから得られた繊維を使用した場合の実験例であり、比較例2〜4は各成分の共重合比が本発明で特定した範囲外の実験例である。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の方法によれば、中和されたポリマー溶液から十分な可塑化延伸倍率で延伸することができ、かつ繊維中の欠陥の程度が十分低減され、その結果、引っ張り強度、初期モジュラス等の機械的物性に優れた芳香族コポリアミド繊維を製造することができるので、本発明は繊維産業にきわめて有用な発明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式(1)、(2)及び(3)の反復構造単位を含むヘテロ環含有芳香族コポリアミドからなり、かつ、該芳香族コポリアミドの構造反覆単位の全量に対し、化学式(2)の反復構造単位を30〜95モル%、化学式(3)の反復構造単位を5〜20モル%含むヘテロ環含有芳香族ポリアミドの中和ドープを紡糸し、得られた芳香族コポリアミド繊維を、アミド系溶媒を含む水溶液からなる延伸浴中で化学式(2)の反復構造単位の含有率が同一でかつ化学式(3)の反復構造単位を含まないヘテロ環含有芳香族コポリアミド繊維の延伸倍率に対して、延伸倍率向上率が150〜300%となる倍率で可塑延伸することを特徴とする芳香族コポリアミド繊維の製造方法。
【化1】

[上記化学式(1)、(2)及び(3)において、Ar、Ar及びArは、いずれも互いに独立した、パラ配位又は平行軸方向に結合基を有する2価の芳香族基であって、Arは非置換あるいは置換された2価の芳香族基であり、Arは非置換の2価の芳香族基であり、Arはハロゲン基で置換された2価の芳香族基である。]
【請求項2】
可塑延伸の延伸浴が、アミド系溶媒の濃度が30〜80重量%の水溶液からなることを特徴とする請求項に記載の芳香族コポリアミド繊維の製造方法。
【請求項3】
可塑延伸後に300〜550℃の温度で熱処理することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の芳香族コポリアミド繊維の製造方法。