説明

芳香族ビニル重合体水素化物の製造方法

【課題】 短時間の反応で高い水素化率が得られ、かつ分解の抑制された芳香族ビニル重合体水素化物の製造方法を提供する。
【解決手段】 芳香族ビニル重合体を水素化触媒を用いて水素化反応する芳香族ビニル重合体水素化物の製造方法であって、該水素化触媒が、
(i)昇温還元反応方法で測定したTCD強度が最大値を示す温度が90〜140℃であり、かつ
(ii)水素を用いたBET法により測定される金属表面積が18m/g以上(ただし、上記金属表面積は、水素:アルゴンが体積比で3:97である混合ガスを水素化触媒1gあたり300ml/分の流量で流通させることにより、200℃で30分間還元処理したものについて測定される値である)
であることを特徴とする芳香族ビニル重合体水素化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ビニル重合体を水素化反応して芳香族ビニル重合体水素化物を製造する方法に関する。より詳しくは、比較的低温でも安全でかつ高い活性を示す水素化触媒を用いた、水素化反応時の重合体の分解が抑制された芳香族ビニル重合体水素化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ビニル重合体の水素化物は、透明性が高く、低複屈折性に優れ、プラスチックレンズなどの成形品に好適に用いられている。しかし芳香族ビニル重合体の水素化反応においては、高い水素化率を得るために反応温度を上げると、分解反応が起こりやすい。分解すると、水素化物の分子量が低下し、得られる成形品の強度が低下するという問題が生じる。分解反応を起こさずに水素化後の分子量を高く維持する為に、低温で反応を行い分解率を低くする方法が提案されている。しかし低温での水素化反応で高い水素化率を得るためには、水素化触媒を多量に使用するか、または長時間の反応が必要になるという問題があった。
【0003】
例えば水素化反応活性に優れる触媒として、昇温還元反応方法で測定したTCD強度が最大値を示す温度が170〜450℃の範囲にある水素化触媒が開示されている(特許文献1参照)。しかし、この触媒を芳香族ビニル化合物の水素化反応に用いる場合、触媒量が多量に必要であった。
【0004】
分解反応が抑制された重合体水素化物の製造方法として、水素化反応時の、温度及び水素圧を特定の履歴で制御する方法も開示されている(特許文献2参照)。しかし、この方法では操作が煩雑であり、そのため、長時間の反応が必要であった。
【0005】
【特許文献1】特開2002−12620号公報
【特許文献2】特開2004−137314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、水素化触媒の使用量が少なくでき、短時間の反応で高い水素化率が得られ、かつ分解の抑制された芳香族ビニル重合体水素化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討の結果、昇温還元反応方法で測定したTCD強度が最大値を示す温度および還元処理したときの金属表面積が特定の範囲にある水素化触媒を用いることで上記課題を解決できることを見出し、これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして本発明によれば、芳香族ビニル重合体を水素化触媒を用いて水素化反応する芳香族ビニル重合体水素化物の製造方法であって、該水素化触媒が、
(i)昇温還元反応方法で測定したTCD強度が最大値を示す温度が90〜140℃であり、かつ
(ii)水素を用いたBET法により測定される金属表面積が18m/g以上(ただし、上記金属表面積は、水素:アルゴンが体積比で3:97である混合ガスを水素化触媒1gあたり300ml/分の流量で流通させることにより、200℃で30分間還元処理したものについて測定される値である)
であることを特徴とする芳香族ビニル重合体水素化物の製造方法が提供される。
該水素化触媒は、周期律表第8族〜第10族のいずれかに属する遷移金属が担体に担持されてあるものであることが好ましい。また、水素化反応の温度は160〜180℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の芳香族ビニル重合体水素化物の製造方法によれば、芳香族ビニル重合体を短時間の反応で水素化することが可能であり、水素化触媒の使用量も少ないので生産性に優れる。また、水素化反応時の芳香族ビニル重合体の分解が抑制されるので、得られる芳香族ビニル重合体水素化物は成形性や機械強度に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の製造方法は、芳香族ビニル重合体を、特定の水素化触媒を用いて水素化反応する方法である。
【0011】
本発明で用いる芳香族ビニル重合体は、芳香族ビニル化合物の重合体である。芳香族ビニル化合物としては、芳香環を有し、かつ、重合性の二重結合を有する化合物であれば格別な限定はない。芳香族ビニル化合物の例としては、スチレン;α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、および4−フェニルスチレン等の炭化水素基置換スチレン;4−モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、および4−モノフルオロスチレン等のハロゲン置換スチレン;が挙げられる。またこれらにアルコキシル基、ヒドロキシル基等を置換基として有していてもよい。中でもスチレンが好適である。
【0012】
本発明において芳香族ビニル重合体は、芳香族ビニル化合物と、これと共重合可能な他の単量体との共重合体(以下、「芳香族ビニル共重合体」ともいう。)であっても良い。このような単量体を重合してなる繰り返し単位の量は、通常50重量%以下である。
【0013】
芳香族ビニル化合物と共重合可能な他の単量体の例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等の共役ジエン単量体;アクリロニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル単量体;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸;1−ヒドロカルボニルエチレン、2−ヒドロカルボニル−プロペン、1−メチルカルボニルエチレン、2−メチルカルボニル−プロペン、N−フェニルマレイミド等のその他のビニル単量体;などが挙げられる。これらのうち、共役ジエン単量体が好ましく、イソプレンが特に好ましい。
【0014】
芳香族ビニル共重合体は、芳香族ビニル化合物と、これと共重合可能なその他の単量体とがランダムに共重合したランダム共重合体であってもよいし、ブロック状になって共重合したブロック共重合体であってもよい。ブロック共重合体の形態は特に限定されず、例えば、芳香族ビニル化合物からなる重合体ブロックAと、これと共重合可能なその他の単量体からなる重合体ブロックBとが、A−(B−A)、(B−A)、B−(A−B)、(A−B)−X、(B−A)−Xなどの構造を有するものが挙げられるが、これらのうち、A−(B−A)、特にA−B−Aの構造を有するものが好ましい。ここで、Xはカップリング剤残基を表す。また、n及びmは自然数を表す。なお、カップリング剤残基とは、例えば、A−Bの構造を有するブロック共重合体を、カップリング剤を用いてカップリングさせて(A−B)−Xまたは(B−A)−Xの構造を有するブロック共重合体を得る場合の、カップリング剤に由来する基である。重合体ブロックAと重合体ブロックBとは明確にブロック化されている方が好ましいが、重合体ブロックAの組成から重合体ブロックBの組成に漸次変化するテーパー構造となっていてもよい。またA−B−A構造のように複数の重合体ブロックAで構成されているブロック重合体では一の重合体ブロックAの分子量が他の重合体ブロックAの分子量と異なっていても良い。
【0015】
芳香族ビニル重合体の製造方法は特に制限はなく、懸濁重合、溶液重合および塊状重合のいずれでもよいが、芳香族ビニル化合物の重合反応に続いて、得られる芳香族ビニル重合体を単離せずに水素化反応を行う場合は、有機溶媒中で重合する溶液重合が工程を連続して行うのに好都合である。
【0016】
有機溶媒としては、重合を阻害しないものであれば限定されず、例えば、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、デカヒドロナフタレンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類などが挙げられる。これらの中でも、脂肪族炭化水素や脂環式炭化水素などの炭化水素溶媒は重合反応後の水素添加反応の溶媒としても使えるので好ましい。これらの有機溶媒はそれぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。有機溶媒の使用量は、単量体濃度が、通常、1〜40重量%、好ましくは10〜30重量%になる量である。
【0017】
また、ラジカル重合、アニオン重合およびカチオン重合のいずれの方法も採用できるが、複屈折のより小さな重合体として好ましい、分子量分布のより狭い重合体を得るためにはアニオン重合が好ましい。アニオン重合では重合触媒として有機アルカリ金属を使用することが好ましい。所望により、分子量分布の狭い重合体を得るためにルイス塩基を添加してもよい。
【0018】
有機アルカリ金属としては、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム。フェニルリチウム、スチルベンリチウムなどのモノ有機リチウム化合物;ジリチオメタン、1,4−ジリチオブタン、1,4−ジリチオ−2−エチルシクロヘキサン、1,3,5−トリリチオベンゼンなどの多官能性有機リチウム化合物;ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレンなどが挙げられる。これらの中でも、有機リチウム化合物が好ましく、モノ有機リチウムが特に好ましい。これらの有機アルカリ金属は、単独、または2種以上を組み合わせて使用することができる。有機アルカリ金属の使用量は、単量体100重量部あたり、通常、0.05〜100ミリモル、好ましくは0.10〜50ミリモル、より好ましくは0.15〜20ミリモルである。
【0019】
ルイス塩基としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジベンジルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル化合物:テトラメチルエチレンジアミン、トリエチルアミン、ピリジンなどの第3級アミン化合物;カリウム−t−アミルオキシド、カリウム−t−ブチルオキシドなどのアルキル金属アルコキシド化合物;トリフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物などが挙げられる。これらの中でも特にエーテル化合物を用いると、分子量分布の狭い重合体を容易に得られるので好ましい。これらのルイス塩基化合物は、単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。ルイス塩基化合物の使用量は、有機アルカリ金属に対して、通常、0.001〜10.0ミリモル、好ましくは0.01〜5.0ミリモル、より好ましくは0.1〜2.0ミリモルである。
【0020】
重合反応は、等温、断熱のいずれでもよく、通常、−70〜150℃、好ましくは−50〜120℃で行う。重合時間は、通常、0.01〜20時間、好ましくは0.1〜10時間である。
【0021】
重合反応後は、重合反応溶液から芳香族ビニル重合体を単離した後に芳香族ビニル重合体の溶液を調製して水素化反応を行ってもよいが、溶液重合の溶媒を水素化反応の溶媒と共通にして重合後に重合体を単離することなく水素添加反応を行うことが好ましい。重合反応がアニオン重合の溶液重合であると、得られる重合反応溶液から芳香族ビニル重合体を単離せずにそのまま水素化反応に用いることができる。このとき、水素化反応前に重合触媒を除去してもよい。重合触媒を除去することにより、水素化率の向上を図ることができる。重合反応溶液から重合触媒を除去する方法としては、活性アルミナなどの吸着剤を添加して加温状態で攪拌して吸着させて濾別する方法、イソプロピルアルコールなどを少量添加して重合触媒を沈殿させて濾別する方法などがある。
【0022】
芳香族ビニル重合体の分子量は、特に限定されないが、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常、10,000〜300,000、好ましくは50,000〜280,000、より好ましくは100,000〜250,000、特に好ましくは150,000〜230,000の範囲である。また、数平均分子量(Mn)も標準ポリスチレンの換算値で表示する。重量平均分子量が過度に大きいと水素添加率の低下を惹起するおそれがあり、逆に、重量平均分子量が過度に小さいと成形品の機械的強度を悪化させる可能性がある。また、分子量50万以上の超高分子の重合体の割合は、通常、5重量%以下、好ましくは3重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。超高分子量重合体の割合が過度に大きいと、水素化率が低下するおそれがある。
【0023】
分子量分布の広さの指標である重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、通常、1.25以下、好ましくは1.20以下、より好ましくは1.15以下である。Mw/Mn値が過度に大きいと、水素化率が低下し、また、ガラス転移温度(Tg)が低下して得られる水素化物の耐熱性が悪化するおそれがある。
【0024】
本発明で用いる水素化触媒は、(i)昇温還元反応方法(Temperature Programmed Reduction Method:以下「TPR法」という。)で測定したTCD強度が最大値を示す温度が、90〜140℃、好ましくは90〜120℃の範囲内である。水素化触媒のTCD強度が最大値を示す温度がこの範囲であると、触媒表面の不動態膜が低温で除去されやすく、低温ですばやく活性が発現するので好ましい。水素化触媒のTCD強度が最大値を示す温度が低すぎると、自然発火のおそれがあり、取扱いが困難となる。一方、高すぎると、水素化活性が不十分である。
【0025】
水素化触媒のTCD強度は、TPR法により測定する。すなわち、TCD強度は、温度制御可能な反応管に水素化触媒を充填し、これに水素とアルゴンの混合ガスを流通させて徐々に加熱昇温し、該反応管入口と出口とにおいて熱伝導度検出器(Theramal conductivity detector:以下「TCD検出器」という。)で測定した混合ガスの熱伝導度の差である。なお、TCD強度は、昇温速度を、通常10℃/1分程度に設定して測定するが、昇温速度が数℃/1分程度変化しても、TCD強度が最大値を示す温度は変化しない。TPR法においては、上記加熱温度を横軸に、TCD強度を縦軸にしてプロットしたグラフの一定温度範囲のTCD強度の積分面積は、該温度範囲における水素化触媒の水素消費量と相関があるため、TCD強度が最大値を示す温度は、触媒の水素消費量が最大となる温度と一致する。
【0026】
また、本発明で用いる水素化触媒は、(ii)水素を用いたBET法により測定される金属表面積が18m/g以上、好ましくは25m/g以上である。ただし、上記金属表面積は、水素:アルゴンが体積比で3:97である混合ガスを水素化触媒1gあたり300ml/分の流量で流通させることにより、200℃で30分間還元処理したものについて測定される値である。金属表面積がこの範囲であると、水素化反応の活性が高いので好ましい。この範囲を外れる水素化触媒は、水素化反応の活性が十分ではない。
【0027】
本発明に用いられる好適な水素化触媒は、担持型金属触媒である。触媒に用いられる金属としては、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウムなどの遷移金属を挙げることができる。これらのうち、ニッケル、パラジウム、ルテニウム、及びロジウムなどの周期律表第8族〜第10族の遷移金属が好ましい。担体としては、カーボン、アルミナ、シリカ、ケイソウ土などを挙げることができる。また、担持型金属触媒の金属担持量(触媒中の金属含有率)は、通常30〜80重量%、好ましくは40〜70重量%、より好ましくは45〜60重量%である。水素化触媒の具体例としては、シリカ担持ニッケル触媒、ケイソウ土担持ニッケル触媒、アルミナ担持ニッケル触媒、カーボン担持パラジウム触媒、シリカ担持パラジウム触媒、ケイソウ土担持パラジウム触媒、アルミナ担持パラジウム触媒、シリカ担持白金触媒、アルミナ担持白金触媒、シリカ担持ロジウム触媒、アルミナ担持ロジウム触媒、シリカ担持ルテニウム触媒、アルミナ担持ルテニウム触媒などが挙げられる。
【0028】
本発明に用いる水素化触媒の製法は限定されないが、例えば、金属酸化物を担体に付着させ、これを特定温度以上で還元し、次いで、酸素存在下に特定温度以下で加熱することによって得られる。担体に金属酸化物を付着させる方法は、特に限定されず、例えば金属イオンを含有する溶液を担体表面に接触させて担体上に金属塩を析出させるいわゆる沈殿法を用いることができる。そして前記の担体上の金属塩は乾燥、焼成により金属酸化物となる。
【0029】
還元処理は、上記の担体上の金属酸化物を、350℃以上1000℃以下、好ましくは380℃以上800℃以下、より好ましくは420℃以上600℃以下にて還元反応させる処理である。還元温度が低すぎると、水素化反応時の水素吸着量が低下して触媒の活性が低下し、高すぎると、金属粒子同士が一部融合して表面積が減少し、活性が低下する。この還元処理を水素存在下に行うことが、触媒活性を高めるために好ましい。還元処理時間などその他の還元処理条件は特に限定されない。
【0030】
還元処理後、酸素の存在下に、100℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは50℃以下の温度で加熱処理する。この加熱処理によって、金属表面に不動態膜が形成され、触媒が自然発熱又は自然発火する危険性をなくすことができる。加熱処理の温度が高すぎると、金属粒子の内部まで酸化が進行して触媒の水素化反応活性が低下する。加熱処理は、好ましくは、窒素やアルゴンなどの不活性気体と酸素との混合気体の存在下に行う。該混合気体は、さらに二酸化炭素を含んでいることが好ましい。混合気体中の酸素の濃度は、好ましくは1〜5容積%であり、二酸化炭素の濃度は、好ましくは50〜99容積%である。
【0031】
本発明の製造方法は、上記の水素化触媒を用いて、芳香族ビニル重合体を水素化反応する。水素化反応は、通常、芳香族ビニル重合体の溶液と、水素化触媒とを、水素の存在下に接触させて行う。芳香族ビニル重合体の溶液と水素化触媒とを接触させる方法としては、(1)該重合体溶液に水素化触媒を一定量添加して、反応器内で撹拌混合する方法(いわゆる懸濁反応法)、及び、(2)重合体溶液と水素とを、水素化触媒を充填した固定床式反応器に通過させる方法(いわゆる固定床反応法)のいずれの方法を用いることもできるが、懸濁反応法が水素化率が高くできるので好ましい。
【0032】
水素化反応に用いる溶媒としては、前述の溶液重合に用いた有機溶媒のうち、水素化を阻害しないものであればいずれも使用することができる。また、その他に、アルコール類も用いることができる。これらの有機溶媒は、単独でも、2種以上組み合わせて用いることもできる。有機溶媒の使用量は、芳香族ビニル重合体の濃度が、通常、1〜50重量%、好ましくは3〜40重量%となる量である。
【0033】
用いる水素化触媒の量は、芳香族ビニル重合体100重量部に対して、通常1〜50重量部、好ましくは1〜20重量部、より好ましくは1〜10重量部である。水素の圧力は、通常1〜20MPa、好ましくは1〜5MPaである。水素化反応の温度は、通常室温〜200℃、好ましくは160〜200℃である。本発明に用いる水素化触媒は、低温でも高い活性を有するので、触媒量が少なく、反応時間が短い場合でも分解が抑制され、かつ高い水素化率とすることができる。水素化反応の時間は、好ましくは1〜12時間、より好ましくは1〜4時間である。
【0034】
得られる水素化物の水素化率は、好ましくは90〜100%、より好ましくは99〜100%である。なお、本発明において水素化率とは、芳香族ビニル重合体の芳香環および非芳香族性の炭素−炭素二重結合の合計の内、水素化された割合を表す。
【0035】
得られる水素化物の分子量は、特に限定されないが、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常、10,000〜300,000、好ましくは100,000〜270,000、より好ましくは100,000〜250,000の範囲である。また、数平均分子量(Mn)も標準ポリスチレンの換算値で表示する。また、分子量400,000以上の超高分子の重合体の割合は、通常、5重量%以下、好ましくは3重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。
【0036】
分子量分布の広さの指標である重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、通常、2.0以下、好ましくは1.7以下、より好ましくは1.4以下、さらに好ましくは1.3以下である。Mw/Mn値が過度に大きいと、機械強度が低下し、また、ガラス転移温度(Tg)が低下して耐熱性を悪化させる可能性がある。
【0037】
本発明の製造方法で得られた重合体水素化物は、公知の成形方法によって成形品として各種用途に適用できる。具体的用途としては、液体薬品容器、ボトル、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、輸液用バッグ、密封薬袋、プレス・スルー・パッケージ、固体薬品容器、点眼薬容器などの液体、粉体、または固体薬品の容器、食品容器、血液検査用サンプリング試験管、薬品容器用キャップ、採血管、検体容器などのサンプリング容器、注射器などの医療器具、メス、鉗子、ガーゼ、コンタクトレンズなどの医療器具などの滅菌容器、ビーカー、シャーレ、フラスコ、試験管、遠心管などの実験・分析器具、医療検査用プラスチックレンズなどの医療用光学部品、医療用輸液チューブ、配管、継ぎ手、チューブ、バルブなどの配管材料、義歯床、人工心臓、人造歯根などの人工臓器やその部品などの医療用器材;多層回路基板、ソルダーレジスト、層間絶縁膜、液晶表示装置用のスペーサーなどの電気絶縁材料;タンク、トレイ、キャリア、ケースなどの処理用または移送用容器、キャリアテープ、セパレーション・フィルムなどの保護材、シッパー流量計、フィルター、ポンプ、半導体ウエハーキャリアなどの電子部品処理用器材;光学材料; 情報記録用のハードディスク基板やハードディスクのカバー、受光素子用窓などの電子部品用途;窓、機器部品、ハウジング等の構造材料や建材; バンパー、ルームミラー、ヘッドランプカバー、テールランプカバー、インストルメントパネル等の自動車用器材; スピーカーコーン材、スピーカー用振動素子、電子レンジ容器等の電気用器材; ボトル、リターナブルボトル、哺乳瓶等の食品用容器;ラップ等の包装材料; フィルム、シート、ヘルメット等;光ディスク、光ファイバー、光カード、光学レンズ、フレネルレンズ、レンチキュラレンズ、光学ミラー、液晶表示素子基板、導光板、光拡散板、有機ELの封止材、偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散シート、プリズムシート、集光シート、自動車の窓材やルーフ材、航空機用窓材、自動販売機用窓材、ショーウィンドー材、ショーケース材、燃料電池用隔壁等が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。実施例における各特性は、下記の方法により求めた。
【0039】
(1)水素化触媒のTCD強度
温度制御可能な反応管に水素化触媒を充填し、これに、水素濃度30%の水素とアルゴンの混合ガスを流通させながら、25℃から1000℃まで、10℃/分の昇温速度にて徐々に加熱昇温した。熱伝導度検出器を用いて、該反応管入口と出口とにおける混合ガスの熱伝導度の差を測定し、これをTCD強度とした。
(2)水素化触媒の還元処理後の金属表面積
全自動ガス吸着量測定装置(AUTOSORB−1;ユアサアイオニクス社製)を用いて、200℃で、水素化触媒100mgに対し水素:アルゴンが体積比で3:97である混合ガスを30ml/分の速度で流通させて還元処理を行った。次いで、同装置を用い、水素を用いたBET法により金属表面積を測定した。
(3)分子量および分子量分布
重合体および重合体水素化物の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC、東ソー(株)製、HLC−8020)によるポリスチレン換算値として測定した。
(4)重合体の水素化率は、H−NMR測定により求めた。
【0040】
[実施例1]
平均粒子径10μmのケイソウ土2部をイオン交換水100部中に浸漬し、攪拌した。次いで、該ケイソウ土が分散しているイオン交換水に対し、硝酸ニッケル及び炭酸ナトリウムの混合物(重量比1対1)を25部添加した。上記混合液を60〜80℃にて撹拌混合した結果、ケイソウ土表面にニッケル化合物の沈殿現象が認められた。沈殿物が表面に付着したケイソウ土を、イオン交換水により洗浄及び乾燥を繰り返して硫酸等の不純物を除去し、次いで350±5℃の温度にて電気炉内で焼成して、ケイソウ土表面に付着したニッケル化合物をニッケル酸化物にした。焼成後のニッケル酸化物が付着したケイソウ土を水素ガス存在下で450℃にて加熱して還元処理を行い、ニッケル酸化物を金属ニッケルとした。
還元処理後の金属ニッケルが付着したケイソウ土を、酸素:二酸化炭素を体積比で3:97で混合した混合気中、60℃で1時間加熱処理を行い、上記金属ニッケルの表面に不動態膜を形成してニッケル−ケイソウ土担持型の水素化触媒を得た。得られた水素化触媒のTCD強度を測定した結果、強度が最大値を示す温度は130℃であり、また、還元処理後の金属表面積は22m/gであった。
【0041】
十分に乾燥し、窒素置換した、撹拌装置を備えたステンレス鋼製オートクレーブに、脱水シクロヘキサン320部、組成が重量比で(スチレン(St)/イソプレン(IP))=(95/5)である混合モノマー4部及びジブチルエーテル0.1部を供給した。次いで、50℃で撹拌しながらn−ブチルリチウムの15%ヘキサン溶液0.15部を添加して重合を開始した。30分間重合を行った時点での転化率は96%であった。同条件下での重合を継続しながらオートクレーブ中の重合反応溶液中に、上記と同じ組成の混合モノマー76部を、1時間かけて連続的に添加した。添加終了時点での、全モノマーに対する転化率は95%であった。同条件下で30分重合を行った後、イソプロピルアルコール0.1部を添加して反応を停止させスチレン・イソプレン共重合体を得た。重合溶液の一部を、イソプロピルアルコール中に注いでスチレン・イソプレン共重合体を析出させ取り出した。得られた共重合体のMwは230,000であった。
【0042】
上記で得られたスチレン・イソプレン共重合体の22%シクロヘキサン溶液を、加圧可能なオートクレーブに供給し、重合体100部に対して、上記水素化触媒を7.2部添加し、オートクレーブ内に水素を供給して、温度170℃、水素圧4.4MPaにて水素化反応を行った。反応器の圧力低下が観測されなくなった時点を反応終了とし、120分で反応を終了した。
反応後の溶液を孔径0.5μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターで濾過して触媒を分離除去した後、大量のイソプロピルアルコール中に注いで水素化物を析出させた。得られた水素化物を濾過により回収して乾燥した後、水素化率を測定した結果、99%以上であった。また、Mwは160,000、Mw/Mnは1.40であった。結果を表1に記載する。なお、表1中における「TPR PT」は、水素化触媒のTCD強度が最大値を示す温度を表す。
【0043】
【表1】

【0044】
[実施例2,比較例1〜3]
水素化触媒の製造において、不導体膜の形成を表1に示す条件で行い、得られた水素化触媒を水素化反応に用いた他は、実施例1と同様にして水素化物を得た。得られた水素化触媒および水素化物について各特性を測定した結果を表1に示す。
【0045】
[比較例4]
n−ブチルリチウムの15%ヘキサン溶液の量を0.13部とした以外は実施例1と同様にして重合体を得た。得られた重合体のMwは240,000であった。次いで、得られた重合体を用いて、比較例1と同様の方法で水素化反応を実施した所、400分で反応が終了した。反応後の溶液から比較例1と同様にして水素化物を得た。該水素化物の水素化率は、99%以上であった。また、Mwは160,000、Mw/Mnは1.50であった。
【0046】
[比較例5]
水素化触媒の量を10部とした以外は比較例1と同様の方法で水素化反応を実施した所、150分で反応が終了した。反応後の溶液から比較例1と同様にして水素化物を得た。該水素化物の水素化率は、99%以上であった。また、Mwは145,000、Mw/Mnは1.55であり、分解反応が進んでいた。
【0047】
以上より明らかなように、本発明の製造方法により芳香族ビニル重合体水素化物を製造すると、短時間の水素化反応で高い水素化率が得られ、また、Mwの低下およびMw/Mnの増加の割合が小さく、分解が抑制されていることが分かる(実施例1,2)。これに対し、TCD強度が最大値を示す温度が高すぎる水素化触媒を用いると、水素化反応に長時間を要し、また、重合体の分解によりMwの低下およびMw/Mnの増加の割合が大きい(比較例1,2)。また、このような触媒を用いる場合に、水素化反応前の重合体としてMwの高いものを用いると、水素化反応に要する時間がさらに長くなり、また、水素化物のMwは同等でもMw/Mnはさらに増大する(比較例4)。さらに、水素化触媒の使用量を増やしても、水素化反応時間は短くなるが、Mwの低下およびMw/Mnの増加の割合はより大きくなる(比較例5)。一方、還元処理後の金属表面積が小さすぎる水素化触媒を用いた場合にも、水素化反応の活性は低く、また、重合体の分解も抑制できなかった(比較例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル重合体を水素化触媒を用いて水素化反応する芳香族ビニル重合体水素化物の製造方法であって、該水素化触媒が、
(i)昇温還元反応方法で測定したTCD強度が最大値を示す温度が90〜140℃であり、かつ
(ii)水素を用いたBET法により測定される金属表面積が18m/g以上(ただし、上記金属表面積は、水素:アルゴンが体積比で3:97である混合ガスを水素化触媒1gあたり300ml/分の流量で流通させることにより、200℃で30分間還元処理したものについて測定される値である)
であることを特徴とする芳香族ビニル重合体水素化物の製造方法。
【請求項2】
水素化触媒が、周期律表第8族〜第10族のいずれかに属する遷移金属が担体に担持されてあるものである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
水素化反応の温度が160〜180℃である請求項1記載の製造方法。