説明

芳香族ポリアミドからフィラメント糸を製造する方法

光学異方性アラミド紡糸溶液を紡糸口金配置内で通路開口を有するフィルターによって濾過しそして紡糸口金配置内で多数の紡糸オリフィスを通して押出し、ここで押出された異方性アラミド紡糸溶液を空気間隙を介して案内し、この工程で延伸しそして水性凝固浴中で捕集し、ここで、紡糸口金配置内の光学異方性アラミド紡糸溶液が流れ抵抗器を介して紡糸オリフィスに供給され、ここで流れ抵抗器はフィルターよりも紡糸オリフィスのより近くに配置されそして流れ抵抗器とフィルターは互に離れて配置されている、パラ芳香族ポリアミドからフィラメント糸を製造する方法が開示されている。
本発明の他の主張はパラ芳香族ポリアミドフィラメント糸である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリアミドからフィラメント糸を製造する方法に関する。この方法では、光学異方性のアラミド紡糸溶液が通路開口を有するフィルターにより紡糸口金配置内で濾過されそして多数の開口を通して紡糸口金配置内で押出される。その際、押出された異方性アラミド紡糸溶液は空気間隙を経て案内され、その工程で延伸されそして水性凝固浴中に捕集される。本発明は少なくとも300dtexの番手を持つパラ芳香族ポリアミドフィラメント糸、この種の糸を持つ編織布並びにこの種の糸を持つ耐貫通性製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリアミドからフィラメント糸を製造する方法は特許文献1で知られている。この既知法を用いて、0.8dtexよりも小さいフィラメント線密度を持つ糸が製造される。特許文献1の焦点は0.3〜0.8dtexのフィラメント線密度を持つ糸の製造である。この文献に開示された糸は728dtexの番手で2630mN/texの最大強度および0.5dtexのフィラメント線密度を有している。
特許文献2に記載された方法を用いて、パラ芳香族ポリアミドから糸が同様に製造される。該糸は、例えば0.66dtex(0.6den)のフィラメント線密度を持つフィラメントを有している。しかしながら、これらの糸の番手は162デニール(178dtex)にすぎない。
【0003】
芳香族ポリアミドフィラメント糸は特許文献3に開示されている。実施例1、2において、いずれも糸は270デニール(297dtex)の番手を有し、実施例1では糸強度31.3g/den(2845mN/tex)でありそして実施例2では強度30.9g/den(2827mN/tex)であった。実施例1および2の糸の線密度はいずれも0.6デニール(0.66dtex)であった。実施例6では糸が提案されており、その糸は番手が1000デニール(1100dtex)そして強度が28.3g/d(2572mN/tex)であった。実施例1、2と比較すると、番手が増加するとこれらの糸の強度が低下することが、実施例6から明らかである。
しかしながら、これまでに知られた方法の欠点は、特に低いフィラメント線密度を持つ糸の製造中、紡糸工程が紡糸中にフィラメントの切断によって唯か数時間後には中断されていたということである。さらに、公知技術で製造されたフィラメント糸の強度は不都合に低くしかも同時に該フィラメント糸は高番手を有するが低いフィラメント線密度を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許公開第823499号
【特許文献2】WO98/18984号パンフレット
【特許文献3】特許第11189916号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、それ故、紡糸工程が長時間に亘って連続的に実施され得る、芳香族ポリアミドからフィラメント糸を製造する方法を提供することにある。特に、紡糸工程中のフィラメントの切断がそれによって阻止されるべきである。さらに、この糸の強度は低いフィラメント線密度にもかかわらず高くなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、光学異方性のアラミド紡糸溶液が通路開口を持つフィルターにより紡糸口金配置内で濾過されそして複数の紡糸オリフィスを通して紡糸口金配置内で押出され、その際、押出された異方性アラミド紡糸溶液は空気間隙を介して案内され、この工程中に延伸されそして水性凝固浴中に捕集され、その際紡糸口金配置内の光学異方性のアラミド紡糸溶液は流れ抵抗器を介して紡糸オリフィスに供給され、流れ抵抗器はフィルターよりも紡糸オリフィスのより近くに配置されそして流れ抵抗器とフィルターは互に離れて配置されている、ことで本発明により達成される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】紡糸口金配置の概略的断面図。
【図2】フィルターと流れ抵抗器を有する紡糸口金配置の概略的断面図。
【図3】フィルターと流れ抵抗器を有する別の紡糸口金配置の概略的断面図。
【図4】フィルターと流れ抵抗器を有する別の紡糸口金配置の概略的断面図。
【図5】フィルターと流れ抵抗器を有する別の紡糸口金配置の概略的断面図。
【図6】付属成分を備えた紡糸口金配置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
紡糸口金配置は、少なくともフィルター、流れ抵抗器および紡糸口金板が互にすぐ隣りに近接して配置されている配置であると理解される。すぐ隣りに近接しては紡糸口金配置内でフィルターと紡糸口金板との間の最大距離が10cm未満、好ましくは5cm未満、さらに特に好ましくは2cm未満であることを意味すると理解される。もし、紡糸口金板、フィルターおよび流れ抵抗器が例えば紡糸口金ヘッド中に位置している場合、この紡糸口金ヘッドは本発明の意味での紡糸口金配置を表わしている。例えば混合用素子や防止溶液ポンプの近くに配置されている、(予)フィルターは、紡糸口金配置内のフィルターではない。その理由はこのフィルターは紡糸口金板のすぐ隣りに近接して配置されていないからである。文献DE19715584A1には、例えば、布地微細フィルターのみが紡糸口金配置内に備えられている紡糸口金配置が開示されている。第1の予フィルターは円筒状成型体内に備えられ、このように紡糸口金配置の外に存在する。
処理される紡糸溶液は、紡糸口金配置に供給される前に本発明方法でも同様に予め濾過されることは明らかである。この目的のために必要な予フィルターは、しかしながら、紡糸口金オリフィスおよび流れ抵抗器のすぐ隣りに近接していず、そのため紡糸口金配置の部分ではない。
【0009】
流れ抵抗器とフィルターは、好ましくは通路開口を有する。ここで、フィルターの通路開口は好ましくは流れ抵抗器の通路開口よりも小さい。流れ抵抗器の通路開口に対するフィルターのより小さい通路開口は、流れ抵抗器の全通路開口の約50%〜100%、特に好ましくは約60%〜80%がフィルターの通路開口よりも大きいときとして理解されるべきでもある。ここで、フィルターの通路開口は、フィルターの全通路開口の約40%〜100%、特に好ましくは60%〜90%の量となる該開口を、比較のために好ましく用いられる。
好ましくは、フィルターの通路開口の大きさはフィルターの通路開口を最大直径xμmのボールが通過できる十分な大きさである。ここで、流れ抵抗器の通路開口の大きさは流れ抵抗器の通路開口を最大直径yμmのボールが通過できる十分な大きさであり、ここでx<yである。
好ましくは、紡糸オリフィスの直径は紡糸オリフィスを最大直径zμmのボールが通過できる十分な大きさである。ここで、流れ抵抗器の通路開口の大きさは流れ抵抗器の通路開口を最大直径yμmのボールが通過できる十分な大きさであり、ここでz≧yである。
【0010】
もし、流れ抵抗器の付加的な濾過機能が妨げられるべき場合には、フィルターの通路開口と流れ抵抗器との開口の大きさの選択に注意して、通常の流れ条件(付加圧力なし)下紡糸口金配置中のフィルターを通過できる粒子が流れ抵抗器も通過できるようにする。紡糸口金配置中のフィルターを通過した粒子は、この場合、流れ抵抗器によってその後に阻止されることはない。
流れ抵抗器が紡糸口金配置内でフィルターの通路開口よりも小さい通路開口を有することは一実施態様においてありそうなことである。この目的のために、流れ抵抗器の全通路開口または通路開口の僅かのみが紡糸口金配置中のフィルターの通路開口の全てあるいは僅かな一部よりも小さいことがあり得る。例えば、フィルターの通路開口の50%〜100%が、流れ抵抗器の選択された通路開口よりも大きいことができる。この流れ抵抗器の該通路開口の相対的頻度は40%〜100%である。
好ましくは紡糸オリフィスは30μm〜70μm、特に好ましくは40μm〜50μm、さらに特に好ましくは45μmの直径を有している。さらに、流れ抵抗器の通路開口は好ましくは5μm〜70μm、より特に好ましくは9μm〜25μmの大きさを有している。同様に、フィルターの通路開口は好ましくは1μm〜30μm、より特に好ましくは15μmの大きさを有している。
流れ抵抗器の通路開口は、好ましくは最大直径が5μm〜70μmのボールが、流れ抵抗器の通路開口を通過できる十分な大きさである。
【0011】
さらに、フィルターの通路開口は、好ましくは最大直径が1μm〜30μmのボールがフィルターの通路開口を通過できる十分な大きさである。
好ましくは、紡糸オリフィスの大部分、流れ抵抗器の通路開口の大部分および/またはフィルターの通路開口の大部分は、それぞれの場合に、一つに面内にあり、それらの面は互に平行に走っている。もし、流れ抵抗器が紡糸オリフィスに向けて配置されているなら、流れ抵抗器の通路開口は紡糸オリフィスに向いていることが特に好ましい。例えば、紡糸オリフィスは紡糸口金板を横切って面一ぱいに分散されて配列され得る。この種の配置は例えば文献WO97/15706A1の図1〜4に表わされている。流れ抵抗器に関しては、これは流れ抵抗器が紡糸オリフィスのそれぞれの面に向いて配置されていることを意味している。すなわち、流れ抵抗器と紡糸オリフィスとは平行面中に存在する。
【0012】
金属製の金網が好ましくは流れ抵抗器に用いられる。一般に、しかしながら、良好な寸法安定性を有する耐酸性および耐熱性材料であれば全ての材料が流れ抵抗器に用いられる。流れ抵抗器を製造するための材料は、好ましくは硫酸に対し耐性がありそして0〜80℃の温度で変形しない。不織布または織布、セラミック、ポリアミドあるいはガラスの如き布地材料は流れ抵抗器を製造するための可能性のある材料として挙げられるべきである。それに代る多くにものも流れ抵抗器の態様のために可能性がある。好ましい態様において、流れ抵抗器は金網によって形成される。細いワイヤーの流れ抵抗器を用いると、ワイヤーの太さにより紡糸オリフィス上に、望ましくない大きな“陰”が落とされるのを有利に防止することができる。これらの“陰”のために、紡糸オリフィスは流れ抵抗器の構造(ワイヤー)によって部分的にあるいは恐らく完全に被覆される。細いワイヤーの構造の流れ抵抗器はそれ故好ましい。この種の流れ抵抗器はある環境下で不安定でありうるので、流れ抵抗器は支持構造物上に設置されるのが好ましい。支持構造物上の流れ抵抗器は、薄い流れ抵抗器がその方法に存在する圧力により形が損傷されたり、変化を受けるのを有利に防止することができる。この支持構造物は、例えば枠内に支柱を有する円形枠すなわち車輪に似たものであることができる。さらに、支持構造物は格子通路が流れ抵抗器の通路よりも実質的に大きい格子としても提供されうる。支持構造物の両実施態様において、切り抜きとも呼ばれる、支持構造物の通路は、紡糸オリフィスが支持構造物によって全くあるいは殆んど被覆されないように、紡糸オリフィスに関して支持構造物中に位置している。支持構造物が必要とされないように強固に流れ抵抗器を実現することももちろん可能である。
【0013】
本発明方法により、芳香族ポリアミドフィラメント糸は、中断なしに、3時間まで連続的に紡糸されることが可能となる。特に好ましくは、芳香族ポリアミドフィラメント糸は、中断なしに3日間まで紡糸されることが可能となる。さらに特に好ましくは、本発明方法を用いて中断なしに30日間紡糸することができる。
中断なしの連続紡糸法は、紡糸工程中に1本あるいはそれ以上のフィラメントが切断すること、すなわち紡糸が失敗またはそれ以上可能でなくなることのために紡糸工程が中断されねばならない、ことがない方法として理解されるべきである。
紡糸溶液は、好ましくは濃硫酸中のポリ(パラフェニレンテレフタラミド)[PPTA]製の溶液である。このPPTA紡糸溶液は、好ましくは10wt%〜20wt%のポリマー濃度を有する。水性凝固浴は、好ましくは0%〜20%の硫酸濃度を有する。紡糸工程中に凝固浴は−5℃〜20℃、特に好ましくは0℃〜10℃の温度に保持され且つ10mm〜20mmの深さを有することが、さらに好ましい。
【0014】
本発明のさらなる主題は少なくとも300dtexの番手と少なくとも2700mN/texの強度を持つパラ芳香族ポリアミドフィラメント糸である。本発明のポリアミドフィラメント糸は0.8dtex〜0.3dtex以上のフィラメント線密度を有するフィラメント束を有する。ポリアミドフィラメント糸の強度は特に好ましくは2750mN/texであり、フィラメント線密度は、好ましくは0.6dtex〜0.4dtexである。ポリアミドフィラメント糸の強度はASTM D−885により求められる。
凝固浴の温度および凝固浴中の硫酸濃度は、高強度のPPTA製ポリアミドフィラメント糸を製造するために、好ましくは低く設定される。
【0015】
本発明のパラ芳香族ポリアミドフィラメント糸は、本発明のパラ芳香族ポリアミドフィラメント糸を有する布地の製造および/または耐貫通物品の製造にすばらしく適している。
耐貫通物品は、それにより貫通阻止効果が達成される。例えば保護チョッキ、保護着、ヘルメット、乗物パネルまたはビル被覆であると理解される。
整理すると、芳香族ポリアミド製フィラメント糸、0.8〜0.3dtexのフィラメント線密度を持つ、該糸のフィラメントが、従来技術の方法を用いて達成できるよりもさらに長い時間に亘って有利に、本発明方法を用いて製造することができる。これは流れ抵抗器を用いることによって可能となった。この流れ抵抗器は好ましくは小さな通路開口を有しそしてこの流れ抵抗器を形成する材料は小さい太さを有する。本発明の方法は、比較的長期間に亘って連続的に、0.8〜0.3dtex以上、特に0.6〜0.4dtexの範囲のフィラメント線密度を有するフィラメント糸を製造するのに特に適している。本発明方法により製造された上記糸は、しかしながら、最大の0.8dtexのフィラメント線密度において、公知方法により製造された糸よりも驚くほど高い強度を有する。例えば、文献EP0823499A1に記載された方法により製造された糸は、0.8dtex未満のフィラメント線密度において最大で2630mN/texの強度を持つことが同文献からわかるが、一方本発明方法により製造された糸は少なくとも2700mN/texおよび2800mN/texを超えさえする強度を有する。特に、0.8〜0.3dtex以上のフィラメント線密度および2700〜3250mN/texの強度を有するフィラメントの束からなる、少なくとも300dtexの番手を持つ芳香族ポリアミド糸が製造され得る。
本発明が引き続き図面により説明される。
【0016】
紡糸口金配置1が図1に断面で概略的に示されている。ここで、この実施態様における紡糸口金配置1は紡糸口金板を横切って面一ぱいに分散されている、多数の連続紡糸オリフィス4を有している。それぞれの場合、多数の紡糸オリフィス4は紡糸口金板の各面に存在しているが、以下に単一紡糸オリフィス4も説明されるであろう。凝固浴から見ると、切り抜きを持つ板3が紡糸オリフィス4の上方にある。板3の切り抜きは、紡糸オリフィス4が板3によって被覆されないように、紡糸オリフィス4の面に形と大きさとが適合している。さらに正確には、板3の切り抜きは、少なくとも紡糸オリフィス4の面の大きさを有し、それによって切り抜きの形が面の形に実質的に対応している。板3は紡糸口金板に対しある距離で配置されそして例えば金属からなる。板3は、その上にある流れ抵抗器2を安定させるために支持構造物として作用しそしてそれ故支持構造物3とも呼ばれる。流れ抵抗器2は支持構造物3の切り抜きおよび紡糸オリフィス4の上にまで伸びておりそして例えば金網またはフルイまたは多数の個々の金網からなる。当然、金属以外の材料製の網も流れ抵抗器2として可能である。複数の個々の金網を用いるとき、複数の個々の金網は支持構造物3と少なくとも部分的に接触している。金網は好ましくはループを有する。流れ抵抗器2のメッシュサイズは、それによって、例えばフィルター8(図1に示されていない)のメッシュサイズよりも大きくなる。このフィルターは流れ抵抗器2の前に且つ紡糸口金配置1内に配置されそして紡糸溶液を追加時間濾過する。流れ抵抗器2は、このように、設計中に如何なるフィルター効果も有するものではない。その理由はフィルター8の通路開口は流れ抵抗器2の通路開口よりも小さいためである。この手段によって、金網としての流れ抵抗器2の態様に関して、強固でない金網も流れ抵抗器2を作るのに用いられる。なぜなら、金網は紡糸溶液の何らかの要素を抑えなければならないことはないからである。支持構造物3の使用は流れ抵抗器2が流れ抵抗器2中を流れる紡糸溶液によって損傷されるのを有利に防止することができる。強固でない網にもかかわらず、流れ抵抗器2は紡糸溶液に抵抗を示す。紡糸工程は、流れ抵抗器2により生み出された抵抗によって、3日間を超える連続紡糸法が可能となるように有利に、影響される。連続紡糸法は、紡糸されるべきフィラメントが紡糸工程中に切断が起る最初のときおよび/または紡糸が失敗かもはや可能でなくなるとき終るものと考えられるべきである。本発明方法は低いフィラメント線密度としかし高い強度とを持つフィラメント糸を製造するために特に好ましく用いられる。
【0017】
口金配置1の断面は図2に詳しく概略示されている。フィルター8が流れ抵抗器2の上方に且つ紡糸オリフィス4の上方に備えられている。フィルター8と流れ抵抗器2が互に頂点に存在しないように、スペーサー7が備えられ、フィルター8がスペーサー7の頂点上に存在する。紡糸オリフィス4は、紡糸口金板6の内にありそしてこの実施態様では凝固浴(図示されていない)の方向に先細りになっている。フィルター8は直径dの通路開口を有している。流れ抵抗器2は同様に直径dの通路開口を有している。フィルター8の通路開口の直径dはこの実施態様では流れ抵抗器2の通路開口の直径dよりも小さい。図2に示された実施態様では、流れ抵抗器2は紙面中に伸びる構造物5によって形成されている。この実施態様において、構造物5は、紡糸オリフィス4と比較して、相対的に太い。この手段によって、紡糸オリフィス4は構造物5によって部分的にもしくは完全に被覆される(陰にされる)。その結果、紡糸オリフィス4への紡糸溶液の流れが影響を受け、その理由のために、構造物5の太さは紡糸オリフィス4の直径よりも小さく選択されるのが好ましい。紡糸オリフィス4は好ましくは構造物5の太さの約150%に相当する大きさを有する。
【0018】
図3の実施態様は、図2におけると同様に、流れ抵抗器2とフィルター8が格子構造によって形成されていることを概略的に示している。流れ抵抗器2の格子とフィルター8の格子は、紙面の中へ走っており且つ例えばワイヤーであることができる構造物5と5’によって形成されている。別の構造物(図示されていない)が構造物5と5’に直角に走っておりそして格子が作られるように、同じ物と接触している。流れ抵抗器2を形成する構造物5はフィルター8を形成する構造物5’よりも小さい。それにもかかわらず、すぐ前に述べた場合のように、フィルター8の構造物5’が、流れ抵抗器2の構造物5よりも、一緒にもっと近くに設置される場合には、フィルター8の通路開口の直径dは流れ抵抗器2の通路開口の直径dよりも小さい。流れ抵抗器2の構造物5とフィルター8の構造物5’は例えば別個のワイヤーであることができ、ここでワイヤーの太さは構造物5と5’の大きさを決める。図3の実施態様において、構造物5の太さは、該構造物が紡糸オリフィス4の直径よりも実質的に小さくなるように選ばれる。この手段によって構造物5によって完全に被覆される紡糸オリフィス4はない。この手段によって、紡糸溶液の流れが、同じ時間中に、被覆されていない紡糸オリフィス4を通過する紡糸溶液の流れよりも被覆されている紡糸オリフィス4を通過する紡糸溶液の流れが少なくなるように紡糸工程中で邪魔されることはない。
【0019】
図4は流れ抵抗器2がほぼ中央で破断されたことを概略的に示している。流れ抵抗器2へのこの種の損傷は、流れ抵抗器2が紡糸溶液の圧力に耐えられないことで紡糸工程中に起ることがある。図4に示されているような、流れ抵抗器2への損傷の場合、紡糸工程の平穏化および長く継続する紡糸はもはや不可能である。
【0020】
図5は、流れ抵抗器2の損傷がいかにして、非常に細く且つ強固ではない構造物5にもかかわらず、防止できるかを概略的に示している。この目的のために、流れ抵抗器2は支持構造物3によって支持されている。この支持構造物3は図5の実施態様では板3として示されている。ここで、この板3はしかしながら、紡糸口金板6の端部領域を被覆しているだけである。紡糸オリフィス4は支持構造物3によって被覆されていない。この実施態様において、流れ抵抗器2は板3の少なくとも端部領域にある。この手段によって、流れ抵抗器2についての曲げモーメントから生じる曲げ応力が減少される。この手段によって、流れ抵抗器2の損傷の危険性が減少される。支持構造物3は、図5の実施態様におけるように、紡糸口金板6の端部領域にのみ備えられるか、あるいは紡糸口金板6の全横断部に亘って伸びることもできる。後者の場合、支持構造物3は切り抜きを有し、切り抜きは紡糸オリフィス4の上方に設けられる(図1についての説明参照)。有利なことに、紡糸オリフィス4は支持構造物3によって、このように、同様に被覆されていない。
【0021】
図6は、糸紡糸用装置を概略的に示している。この装置は紡糸口金配置1とその他の要素を有している。流れ抵抗器2、フィルター8および一面に分散された紡糸オリフィス4を持つ紡糸口金板6が紡糸口金配置1内に配置されている。提案された方法では、紡糸溶液は、該溶液が紡糸口金配置1へ供給される前に既に濾過されているのが好ましい。この目的のために、付加的予フィルター9が導入管内に備えられている。紡糸口金配置1のフィルター8はこの設計では第2フィルターとして作用する。ここで、紡糸口金配置1のフィルター8の通路開口は、導入管中の付加的予フィルター9の通路開口よりも大きいか、同じかあるいは小さくてもよい。
【実施例】
【0022】
紡糸工程のために、2000ヶの紡糸オリフィスを持つ紡糸口金板が用いられ、2000本のフィラメントが紡糸された。該2000本のフィラメントが凝固浴中で凝固された後に、夫々1000本のフィラメントが1本の糸に統合された。
紡糸用紡糸装置は、2面を備えた紡糸口金板を有している。各面は1000ヶの紡糸オリフィスを有しそして各紡糸オリフィスは最大直径45μmのボールが紡糸オリフィスを通過できる十分な大きさである。フィルターが紡糸オリフィスの上方に配置されている。このフィルターは最大線規格が70μmの金網からなっている。フィルターの通路開口は、最大直径が15μmのボールがフィルターの通路開口を通過できる十分な大きさであった。支持構造物は紡糸オリフィスの上方且つフィルターの下方に配置されていた。該構造物は形が平坦な金属軍輪に似ておりそして紡糸オリフィスを完全には被覆していなかった。流れ抵抗器が支持構造物上に置かれて位置していた。流れ抵抗器も同様に金網からなり、そのワイヤーは25μmの規格を有していた。流れ抵抗器の通路開口は、全て、最大直径25μmのボールが流れ抵抗器の通路開口を通過できる十分な大きさであった。支持構造物と紡糸オリフィスの間の距離は5mmであった。
凝固浴は紡糸オリフィスの下に配置された。紡糸オリフィスと凝固浴との間の距離(いわゆる空気間隙)は6mmであった。
【0023】
99.8%硫酸に溶解された、ポリマー濃度19.89%のポリ(パラフェニレンテレフタラミド)製の光学異方性紡糸溶液が紡糸溶液として用いられた。この紡糸溶液は86℃の温度であった。紡糸溶液が先ずフィルターを、次いで流れ抵抗器を、そして最後に紡糸オリフィスを通過した後、フィラメントは空気間隙中で12.3倍に延伸された。延伸されたフィラメントは、最終的に凝固浴に到った。この水性凝固浴は10%の硫酸濃度、12mmの深さと5℃の温度を有していた。フィラメントは引き続き洗滌され(脱ミネラル水)、中和され(0.73%NaOH水)、再洗滌され(脱ミネラル)そして165℃の温度で乾燥された。その後、フィラメントは300m/minの巻速度で巻き取られた。
この方法により且つこの装置を用いて紡糸された糸は、0.475dtexのフィラメント線密度と2740〜2820mN/texの強度、3.4〜3.5%の伸度および108〜110GPaの弾性モジュラスを有していた。各糸の番手は475dtexであった。これらの測定された仕様事項はASTM D−885により求められた。
【符号の説明】
【0024】
1 紡糸口金
2 流れ抵抗器
3 支持構造物/板
4 紡糸オリフィス
5 流れ抵抗器の構造
5’ フィルターの構造
6 紡糸口金板
7 スペーサー
8 フィルター
フィルター通路開口の直径
流れ抵抗器通路開口の直径




【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学異方性アラミド紡糸溶液を紡糸口金配置(1)内で通路開口を有するフィルター(8)によって濾過しそして紡糸口金配置(1)内で多数の紡糸オリフィス(4)を通して押出し、ここで押出された異方性アラミド紡糸溶液を空気間隙を介して案内し、この工程で延伸しそして水性凝固浴中で捕集する、芳香族ポリアミドからフィラメント糸を製造する方法であって、紡糸口金配置(1)内の光学異方性アラミド紡糸溶液が流れ抵抗器(2)を介して紡糸オリフィス(4)に供給され、ここで流れ抵抗器(2)はフィルター(8)よりも紡糸オリフィス(4)のより近くに配置されそして流れ抵抗器(2)とフィルター(8)は互に離れて配置されていることを特徴とする上記方法。
【請求項2】
フィルター(8)と流れ抵抗器(2)が通路開口を有し、ここでフィルター(8)の通路開口が流れ抵抗器(2)の通路開口よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フィルター(8)の通路開口の大きさが最大直径xμmのボールがフィルター(8)の通路開口を通過できるに十分に大きくそして流れ抵抗器(2)の通路開口の大きさが最大直径yμmのボールが流れ抵抗器(2)の通路開口を通過できるに十分に大きく、そしてx<yであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
紡糸オリフィス(4)の直径が最大直径zμmのボールが紡糸オリフィス(4)を通過できるに十分に大きくそして流れ抵抗器(2)の通路開口の大きさが最大直径yμmのボールが流れ抵抗器(2)の通路開口を通過できるに十分に大きく、そしてz≧yであることを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の方法。
【請求項5】
紡糸オリフィス(4)が30μm〜70μmの直径を有することを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の方法。
【請求項6】
紡糸オリフィス(4)が40μm〜50μmの直径を有することを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の方法。
【請求項7】
流れ抵抗器(2)の通路開口の大きさが最大直径5μm〜70μmのボールが流れ抵抗器(2)の通路開口を通過できるに十分に大きいことを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の方法。
【請求項8】
フィルター(8)の通路開口の大きさが最大直径1μm〜30μmのボールがフィルター(8)の通路開口を通過できるに十分に大きいことを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の方法。
【請求項9】
フィラメント線密度0.8〜0.3dtex以上のフィラメントの束からなる、少なくとも300dtexの番手と少なくとも2700mN/texの強度を有する、パラ芳香族ポリアミドフィラメント糸。
【請求項10】
上記糸が少なくとも2750mN/texの強度と0.6〜0.4dtexのフィラメント線密度を有することを特徴とする、請求項9に記載のポリアミドフィラメント糸。
【請求項11】
請求項9または10によるポリアミドフィラメント糸を有する布地。
【請求項12】
請求項9または10によるポリアミドフィラメント糸を有する耐貫通性製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−518096(P2012−518096A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549572(P2011−549572)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051755
【国際公開番号】WO2010/094620
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(501469803)テイジン・アラミド・ビー.ブイ. (48)
【Fターム(参考)】