説明

芳香族ポリカーボネート、電子写真感光体および画像形成装置

【課題】良好な電荷輸送性能を有し、機械的強度、帯電電位および感度といった電気的特性、耐久性などに優れ、たとえば、電子写真感光体の感光層を形成するためのマトリックス樹脂として好適に使用できる新規な芳香族ポリカーボネートを提供する。
【解決手段】導電性支持体と単層型感光層とを含む電子写真感光体において、単層型感光層に、一般式(1)


(式中nは0〜3の整数を示す。)で表される非対称ビスヒドロキシエナミン基本骨格を有する化合物から誘導される構成単位を含む芳香族ポリカーボネートを含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート、電子写真感光体および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機、プリンタ、ファクシミリなどの電子写真方式の画像形成装置において、静電潜像を形成する電子写真感光体の表面層には、高い機械的強度を有し、耐摩耗性、寸法安定性、耐摩耗性などに優れることから、ポリカーボネート樹脂が使用される。特に、導電性支持体上に、電荷発生材料を含む電荷発生層および電荷輸送材料を含む電荷輸送層を順次積層してなる機能分離型電子写真感光体において、最外層になる電荷輸送層には、電荷輸送材料を該層中に保持するためのバインダ樹脂として、ポリカーボネートが多用される。ポリカーボネートとしては、たとえば、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール(ビスフェノールA)とホスゲンとを反応させて得られる、ビスフェノールAポリカーボネート、耐摩耗性、溶解性などに優れる4,4'−シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)から合成されるZ型ポリカーボネートなどの芳香族ポリカーボネートが代表的なものとして知られている。これらのポリカーボネートは、一般に、他の熱可塑性樹脂に比べて機械的強度、特に低温での機械的強度に優れ、さらに耐候性にも優れる。
【0003】
ところで、電子写真感光体に要求される電気特性を維持するために、電荷輸送層は、バインダ樹脂であるポリカーボネートとほぼ同量の電荷輸送材料を含み、ポリカーボネートと電荷輸送材料との量比的な問題により、さらに電荷輸送材料がポリカーボネートとの相溶性の低い低分子量化合物であることも相俟って、電荷輸送層の耐摩耗性、耐久性などを損なう原因になる。
【0004】
このため、電荷輸送材料の電気的特性を向上させることによって、電子写真感光体としての電気的特性を維持したまま、電荷輸送材料の添加量を減らし、電荷輸送層の耐久性を向上させる試みがなされ、電荷輸送材料の感度および移動度の一層の向上が図られてきた。しかしながら、これまで提案されてきた電荷輸送材料では、電気的特性を得るためには、電荷輸送層の耐久性に悪影響を及ぼす程度の添加量が必要になり、電気的特性と耐久性とを両立することは非常に困難である。
【0005】
電子写真感光体における、前記のような課題を解決するために、バインダ樹脂に電荷輸送機能を付与し、電荷輸送材料の添加量を減らそうとする試みがなされ、電荷輸送機能を有する構成単位を含むバインダ樹脂、いわゆる高分子光導電性材料の開発が進められている。その具体例としては、主鎖にカルバゾール環を有するカルバゾール系ポリカーボネート(たとえば特許文献1参照)、側鎖にカルバゾール環を有するポリビニルカルバゾール(たとえば特許文献2参照)などが挙げられる。これらのカルバゾール系重合体は、可撓性が乏しく、機械的強度も低く、さらに電荷輸送能を低下させる原因の1つである構造的トラップを形成し易いという欠点がある。
【0006】
また、ヒドラゾン側鎖を有するポリスチレン化合物(たとえば特許文献3参照)、主鎖に第3級アミン構造を有するアリールアミン化合物(たとえば特許文献4〜6参照)、側鎖に第3級アミン構造(トリフェニルアミン骨格)を有する(メタ)アクリル酸共重合体(たとえば特許文献7参照)などが挙げられる。これらの重合体も、電荷輸送能、機械的強度などの点で充分満足できるものではない。
【0007】
また、特許文献1〜7に記載の重合体は、いずれもπ電子共役系であるけれども、それとは異なるσ電子共役系を介した伝導機構を有するポリシラン(たとえば特許文献8〜9参照)などが挙げられる。ポリシランは電荷輸送能には優れるものの、紫外光により簡単に分解し機械的強度も劣るため、実用化には至っていない。
【0008】
また、機械的強度の向上を目的として、電荷輸送材料をモノマー化し、このモノマーとポリカーボネートモノマーとを共重合させたポリカーボネート系共重合体が挙げられる(たとえば特許文献10〜11、非特許文献1参照)。しかしながら、このような共重合体は、電荷輸送能および機械的強度ともに、充分満足できる水準にはない。
【0009】
また、電荷輸送能に優れるエナミン化合物(たとえば特許文献12〜13参照)をモノマー化し、このエナミンモノマーとポリカーボネートモノマーとを共重合させてなる芳香族ポリカーボネートが挙げられる(たとえば、特許文献14参照)。しかしながら、この芳香族ポリカーボネートは、構造の対称性が高く、結晶化を引き起こし易いことから、電子写真感光体の感光層用樹脂として使用すると、結晶化部分が画像欠陥になるという不都合を生じる。
【0010】
また、電荷輸送層などの感光層の機械的強度を向上させる手段として、感光層の上に表面保護層を積層することも行われている。この表面保護層は、通常、導電性物質とバインダ樹脂とを含む。そして、バインダ樹脂としては、たとえば、極性基を有するポリカーボネート(たとえば特許文献15参照)、フッ素置換アルキル基を有するポリカーボネート(たとえば特許文献16参照)などが提案されている。しかしながら、このような電子写真感光体では、電荷輸送層中の電荷輸送物質と表面保護層中の導電性物質との不適合によって、表面保護層と電荷輸送層との界面に電位障壁が形成されるので、電荷の注入が不充分で感度低下の原因となり、また両層の材料が異なることに起因する収縮率の差などによって、製造時に剥離および/またはクラックの発生があり充分な性能を実現することができない。
【0011】
また、最近ではシロキサン系樹脂からなる表面保護層が提案されている(たとえば特許文献17参照)。しかしながら、シロキサン系樹脂を用いて表面保護層を形成するには、シロキサン系樹脂を加熱硬化させる必要があるけれども、加熱により感光層中の材料を劣化させる場合がある。また、シロキサン樹脂自体は絶縁体であることから、電荷輸送能を有する低分子化合物を添加する必要があるけれども、このような低分子化合物の添加が表面保護層の機械的強度を低下させる原因になることは、電荷輸送層の場合と同様である。
【0012】
【特許文献1】特開平4−183719号公報
【特許文献2】特開昭50−82056号公報
【特許文献3】特開平3−50555号公報
【特許文献4】特開平1−13061号公報
【特許文献5】特開平1−19049号公報
【特許文献6】特開平5−40350号公報
【特許文献7】特開平5−66598号公報
【特許文献8】特開昭63−285552号公報
【特許文献9】特開平5−19497号公報
【特許文献10】特開平3−221522号公報
【特許文献11】特開平4−11627号公報
【特許文献12】特開平6−43674号公報
【特許文献13】特許登録第3580426号明細書
【特許文献14】特開2004−269813号公報
【特許文献15】米国特許第4260671号明細書
【特許文献16】特開平10−158380号公報
【特許文献17】特開2000−242019号公報
【非特許文献1】「電荷輸送性ポリマーの開発と実用化に向けての展望」、額田克己著、機能材料、1999年10月号、Vol.19、No.10、第52〜59頁、シーエムシー出版刊
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、電子写真感光体において感光層を形成するためのマトリックスとして用いると、機械的強度に優れ、かつ電気的特性が非常に良好で、帯電電位および感度が高く、しかも電圧の印加、レーザ光などの照射、トナーの付着、加熱加圧などを繰返し実行しても諸特性の変化が非常に少なく、高画質画像を長期にわたって安定的に形成できる新規な芳香族ポリカーボネート、該芳香族ポリカーボネートを利用する電子写真感光体および画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特許文献13に記載の有機光導電性材料のビスヒドロキシエナミン化合物に類似のビスヒドロキシエナミン化合物を構成単位として含む、本発明の目的に叶う芳香族ポリカーボネート樹脂を得ることに成功し、本発明を完成した。
【0015】
本発明は、下記一般式(1)で表される構成単位(以後「構成単位(1)」と称す)を含有する芳香族ポリカーボネートである。
【0016】
【化6】

【0017】
(式中、ArおよびArは同一または異なって、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよい複素環基を示す。Arは置換基を有してもよいアリーレン基または置換基を有してもよい2価の複素環基を示す。2個のArは同一または異なって、置換基を有してもよいアリーレン基または置換基を有してもよい2価の複素環基を示す。2個のArは同一または異なって、水素原子、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基、置換基を有してもよいアラルキル基または置換基を有してもよいアルキル基を示す。Arは置換基を有してもよいアリーレン基または置換基を有してもよい2価の複素環基を示す。ただし、ArおよびArは同一であってはならない。Rは水素原子または置換基を有してもよいアルキル基を示す。2n個のRおよびRならびに2個のRは同一または異なって、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基または置換基を有してもよいアラルキル基を示す。nは0乃至3の整数を示す。)
【0018】
また本発明の芳香族ポリカーボネートは、前述の構成単位(1)とともに、下記一般式(4)で表される構成単位(以後「構成単位(4)」と称す)を含むことを特徴とする。
【0019】
【化7】

【0020】
(式中、Xは基−Y−Z−または基−Z−Y−を示す。ここで、Yは置換または無置換の鎖状脂肪族2価基、置換または無置換の環状脂肪族2価基、置換または無置換の芳香族2価基、置換または無置換の複素環2価基或いはこれらの2以上を結合してなる2価基を示す。Zは酸素原子または硫黄原子を示す。)
【0021】
また本発明の芳香族ポリカーボネートは、前述の構成単位(1)が、一般式
【化8】

【0022】
(式中、Ar、Ar、Ar、Rおよびnは上記に同じ。)
であらわされる構成単位(以後「構成単位(2)」と称す)であることを特徴とする。
【0023】
また本発明の芳香族ポリカーボネートは、前述の構成単位(1)が、一般式
【化9】

【0024】
(式中、Ar、Ar、ArおよびRは上記に同じ。)
で表される構成単位(以後「構成単位(3)」と称す)であることを特徴とする。
【0025】
また本発明の芳香族ポリカーボネートは、前述の構成単位(4)において、Xが、一般式(5)
【0026】
【化10】

【0027】
(式中、式中、l個のRおよびm個のRは同一または異なって、水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基、C1〜C4の低級アルコキシ基またはハロゲン原子を示す。Aは単結合、酸素原子、硫黄原子、置換または無置換の鎖状脂肪族2価基、置換または無置換の環状脂肪族2価基、或いはこれらを2種以上結合してなる価基を示す。lおよびmは同一または異なって1〜4の整数を示す。)
で表される二価基であることを特徴とする。
【0028】
また本発明は、導電性支持体上に、前述のいずれか1つの芳香族ポリカーボネートを含む感光層を有することを特徴とする電子写真感光体である。
【0029】
また本発明は、導電性支持体上に、感光層と前述のいずれか1つの芳香族ポリカーボネートを含む表面保護層とを有することを特徴とする電子写真感光体である。
【0030】
また本発明は、前述のいずれか1つの電子写真感光体と、電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電状態にある電子写真感光体を画像情報に応じた光で露光して静電潜像を形成する露光手段と、電子写真感光体に形成される静電潜像を現像して可視像化する現像手段と、現像手段によって現像された可視像を記録媒体上に転写する転写手段とを含むことを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、構成単位(1)を含む単独重合体または構成単位(1)と構成単位(4)とを含む共重合体である芳香族ポリカーボネートが得られる。該芳香族ポリカーボネートは、良好な電荷輸送性能を有するだけでなく、機械的強度、電気的特性、耐久性などに優れ、単層型電子写真感光体における感光層、積層型電子写真感光体における電荷輸送層、単層型および積層型電子写真感光体における表面保護層などのマトリックス樹脂として好適に使用できる。さらに、前記感光層、電荷輸送層などにおいて、本発明の芳香族ポリカーボネートを電荷輸送物質として用い、かつ他の芳香族ポリカーボネートをマトリックス樹脂として用いる場合に、マトリックス樹脂との相溶性が良好であるため、前記感光層、電荷輸送層などにおいて均一な電荷輸送性能が発揮される。
【0032】
なお、本発明の芳香族ポリカーボネートは、電子写真感光体における電荷輸送材料、電荷輸送層および単層型感光層用マトリックス樹脂などとして使用できるだけでなく、センサ材料、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、有機フォトリフラクティブ素子などとしても好適に使用できる。
【0033】
本発明によれば、化学物質としての分解または変質し難いという安定性、入手容易性、製造コストなどを考慮すると、構成単位(1)の中でも、構成単位(2)が好ましく、構成単位(3)がさらに好ましい。
【0034】
本発明によれば、Xで示される2価基が一般式(5)の2価基である構成単位(4)を用いることによって、得られる芳香族ポリカーボネートの機械的強度、耐久性、耐候性、耐薬品性などがさらに向上する。
【0035】
本発明によれば、本発明の芳香族ポリカーボネートを、感光層、表面保護層などに含有する電子写真感光体が提供され、該電子写真感光体は、電荷輸送性能、機械的強度、電気的特性、耐久性(耐摩耗性も含む)などの諸性能を非常に高い水準で併せ持つ。したがって、該電子写真感光体を用いれば、10万枚またはそれ以上の画像形成を実施しても、膜減り量が非常に少なく、電気的特性が初期の状態とほとんど変わらず、かぶり、黒ポチ、白ポチなどの画像欠陥のない高画質画像を安定的に形成できる。
本発明によれば、本発明の電子写真感光体を含む画像形成装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の芳香族ポリカーボネートは、構成単位(1)を含む単独重合体であるかまたは構成単位(1)と構成単位(4)とを含む共重合体である。これらの単独重合体および共重合体の中でも、原料の入手または合成が容易であり、ひいては原料コストが低いという観点、および化合物としての安定性という観点からは、構成単位(1)として構成単位(2)を含むものが好ましく、構成単位(3)を含むものが特に好ましい。
【0037】
共重合体である本発明の芳香族ポリカーボネートにおける、構成単位(1)と構成単位(4)との含有比率は特に制限されないけれども、通常は、構成単位(1):構成単位(4)=5〜95:95〜5(モル比)、好ましくは20〜60:40〜80(モル比)、さらに好ましくは30〜45:70〜55(モル比)である。
【0038】
また本発明の芳香族ポリカーボネートの数平均分子量(Mn)は、通常1000〜500000、好ましくは10000〜500000である。この数平均分子量は、ゲルパーミェーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されたポリスチレン換算数平均分子量である。
【0039】
一般式(1)〜(3)において符号ArおよびArで示される、置換基を有してもよいアリール基としては、フェニル、トリル、メトキシフェニル、ナフチル、ビフェニリルなどの、炭素数1〜4のアルキル基および炭素数1〜4のアルコキシ基から選ばれる置換基を有することのあるアリール基が挙げられる。これらの中でも、フェニル、トリル、メトキシフェニル、ナフチルなどが好ましい。
【0040】
また、置換基を有してもよい複素環基としては、フリル、チエニル、チアゾリル、ベンゾフリル、N−メチルインドリルなどの、置換基として炭素数1〜4のアルキル基を有することのある複素環基が挙げられる。
【0041】
一般式(1)において符号ArおよびArで示され、かつ一般式(1)〜(3)において符号Arで示される、置換基を有してもよいアリーレン基としては、p−フェニレン、m−フェニレン、メチル−p−フェニレン、メトキシ−p−フェニレン、1,4−ナフチレン、ピレニレン、ビフェニレン、フェノキシフェニレン、フェニルチオフェニレンなどの、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、フェノキシ基およびフェニルチオ基から選ばれる置換基を有することのあるアリーレン基が挙げられる。これらの中でも、p−フェニレン、m−フェニレン、メチル−p−フェニレン、メトキシ−p−フェニレン、1,4−ナフチレンなどが好ましく、p−フェニレン、1,4−ナフチレンなどが特に好ましい。また、置換基を有してもよい2価複素環基としては、1,4−フランジイル、1,4−チオフェンジイル、1,4−チアゾールジイル、2,5−ベンゾフランジイル、2,5−ベンゾチオフェンジイル、N−メチルインドール−2,5−ジイル、2,5−ベンゾチアゾールジイル、2,5−ベンゾオキサゾールジイル、N−エチルカルバゾール−3,6−ジイルなどが挙げられる。なお、ArおよびArの一方がp−フェニレンであり、他方が1,4−ナフチレンである場合すなわち一般式(2)の場合が、原材料を安価に入手できまたは合成が容易であることから、特に好ましい。
【0042】
一般式(1)において、Arで示される置換基を有してもよいアリール基としては、フェニル、トリル、メトキシフェニル、ナフチル、ピレニル、ビフェニリル、フェノキシフェニル、p−(フェニルチオ)フェニル、p−スチリルフェニルなどの、炭素数1〜4のアルコキシ基、フェノキシ基、フェニルチオ基およびスチリル基から選ばれる置換基を有することのあるアリール基が挙げられる。これらの中でも、フェニル、メトキシフェニル、ナフチルなどが好ましい。置換基を有してもよい複素環基としては、フリル、チエニル、チアゾリル、ベンゾフリル、ベンゾチオフェニル、N−メチルインドリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、N−エチルカルバゾリルなどの、置換基として炭素数1〜4のアルキル基を有することのある複素環基が挙げられる。置換基を有してもよいアラルキル基としては、ベンジル、p−メトキシベンジル、1−ナフチルメチルなどの、置換基として炭素数1〜4のアルコキシ基を有することのあるアラルキル基が挙げられる。置換基を有してもよいアルキル基としては、メチル、2−チエニルメチル、エチル、トリフルオロメチル、フルオロメチル、イソプロピル、tert−ブチルなどの、ハロゲン原子および2−チエニル基から選ばれる置換基を有することのある炭素数1〜4の直鎖状または分岐鎖状アルキル基、シクロヘキシル、シクロペンチルなどのシクロアルキル基などが挙げられる。
【0043】
一般式(1)〜(3)において、符号Rで示されるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、沃素などが挙げられる。これらの中でも、フッ素、塩素などが好ましい。置換基を有してもよいアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、トリフルオロメチルなどの、置換基としてハロゲン原子を有することのある炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0044】
一般式(1)において、符号R、RおよびRで示される置換基を有してもよいアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、トリフルオロメチル、2−チエニルメチルなどの、ハロゲン原子および2−チエニル基から選ばれる置換基を有することのある炭素数1〜4の直鎖状または分岐鎖状アルキル基が挙げられる。置換基を有してもよいアリール基としては、フェニル、トリル、メトキシフェニル、ナフチルなどの、炭素数1〜4のアルキル基および炭素数1〜4のアルコキシ基から選ばれる置換基を有することのあるアリール基が挙げられる。これらの中でも、フェニル、ナフチルなどが好ましい。置換基を有してもよい複素環基としては、フリル、チエニル、チアゾリルなどが挙げられる。置換基を有してもよいアラルキル基としては、ベンジル、p−メトキシベンジルなどの、炭素数1〜4のアルコキシ基を有することのあるアラルキル基が挙げられる。
【0045】
本発明の芳香族ポリカーボネートのうち、構成単位(1)からなる単独重合体は、たとえば、原料化合物として、電荷輸送能を有するビスヒドロキシエナミン化合物の1種または2種以上と、カーボネート化合物の1種または2種以上とを用いる以外は、従来のポリカーボネートと同様に製造できる。
【0046】
また本発明の芳香族ポリカーボネートのうち、構成単位(1)と構成単位(4)とを含む共重合体は、たとえば、原料化合物として、電荷輸送能を有するビスヒドロキシエナミン化合物の1種または2種以上と、カーボネート化合物の1種または2種以上と、ジヒドロキシ化合物の1種または2種以上とを用いる以外は、従来のポリカーボネートと同様に製造できる。
【0047】
電荷輸送能を有するビスヒドロキシエナミン化合物としては公知のものを使用でき、たとえば、下記一般式(6)で表されるビスヒドロキシエナミン化合物(以後「ビスヒドロキシエナミン化合物(6)」と称す)が挙げられる。
【0048】
ビスヒドロキシエナミン化合物(6)の中でも、下記一般式(7)で表されるビスヒドロキシエナミン化合物(以後「ビスヒドロキシエナミン化合物(7)」と称す)が好ましく、下記一般式(8)で表されるビスヒドロキシエナミン化合物(以後「ビスヒドロキシエナミン化合物(8)」と称す)が特に好ましい。
【0049】
【化11】

【0050】
(式中、(式中、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、R、R、Rおよびnは上記に同じ。q個のaは同一または異なって、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、フェノキシ基またはフェニルチオ基を示す。qは0または1〜4の整数を示す。)
【0051】
ビスヒドロキシエナミン化合物(6)は、たとえば、下記反応行程式に示す方法により、ビスヒドロキシエナミンのエーテル化合物(14a)または(14b)を製造し、さらに符号Rで示される水酸基の保護基を脱保護することによって製造できる。
【0052】
[反応行程式]
【化12】

【0053】
(式中、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、R、R、R、Rおよびnは上記に同じ。2つのRは同一または異なって、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基または置換基を有してもよいアラルキル基を示す。2つのRは同一または異なって、置換基を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよいアリール基を示す。Rは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基または置換基を有してもよいアラルキル基を示す。)
【0054】
この反応行程式において、符号R、RおよびRで示される置換基を有してもよいアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、トリフルオロメチル、2−チエニルメチルなどの、ハロゲン原子および2−チエニル基から選ばれる置換基を有することのある炭素数1〜4の直鎖状または分岐鎖状アルキル基が挙げられる。置換基を有してもよいアリール基としては、フェニル、トリル、メトキシフェニル、ナフチルなどの、炭素数1〜4のアルキル基および炭素数1〜4のアルコキシ基から選ばれる置換基を有することのあるアリール基が挙げられる。これらの中でも、フェニル、ナフチルなどが好ましい。
【0055】
符号RおよびRで示される置換基を有してもよい複素環基としては、フリル、チエニル、チアゾリルなどが挙げられる。置換基を有してもよいアラルキル基としては、ベンジル、p−メトキシベンジルなどの、アルキル部分が炭素数1〜3の直鎖または分岐鎖状アルキレン基でありかつ炭素数1〜4のアルコキシ基を有することのあるアラルキル基が挙げられる。
【0056】
この反応行程式における各反応は、たとえば、次のようにして実施できる。
一般式(9)で表されるカルボニル化合物(以後「カルボニル化合物(9)」と称す)と、一般式(10)で表される2級アミン化合物(以後「2級アミン化合物(10)」と称す)との脱水縮合反応は、酸触媒の存在下、適当な溶媒中にて加熱しながら実施される。カルボニル化合物(9)と2級アミン化合物(10)との使用量は特に制限されないけれども、反応の効率性などを考慮すると、それぞれなどモル量を使用すればよい。酸触媒としては、たとえば、p−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、ピリジニウム−p−トルエンスルホン酸などが挙げられる。酸触媒の使用量は、好ましくはカルボニル化合物(9)に対して0.001〜0.1モル当量、さらに好ましくは0.002〜0.04モル当量、特に好ましくは0.005〜0.02モル当量である。溶媒としては、本反応に不活性でかつ2種の原料化合物および酸触媒を溶解または分散できるものであれば特に制限されないけれども、たとえば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、クロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素類、ブタノールなどの低級アルコール類、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類などが挙げられる。加熱温度は、原料化合物および酸触媒の種類、それらの使用量などに応じて適宜選択できる。反応中に水が副生して反応の円滑な進行を妨げる場合があるので、副生する水を溶媒とともに共沸させて反応系外に取除くのが好ましい。この反応によって、一般式(11)で表されるエナミン中間体(以後「エナミン中間体(11)」と称す)が得られる。
【0057】
エナミン中間体(11)のビスホルミル化は、たとえば、ビルスマイヤー反応に従って実施できる。具体的には、エナミン中間体(11)とビルスマイヤー試薬とを撹拌下に加熱した後、加水分解を行うことによって実施される。ビルスマイヤー試薬としては公知のものを使用でき、たとえば、適当な溶媒中にてオキシ塩化リンとホルムアミド類の1種または2種以上とを反応させて得られるビルスマイヤー試薬が挙げられる。ここで溶媒としては、たとえば、N,N−ジメチルホルムアミド、1,2−ジクロロエタンなどが挙げられる。N,N−ジメチルホルムアミドはオキシ塩化リンと反応させるホルムアミド類としても使用できる。ホルムアミド類としては、N,N−ジメチルホルムアミドのほかに、N−メチル−N−フェニルホルムアミド、N,N−ジフェニルホルムアミドなどが挙げられる。エナミン中間体(11)とビルスマイヤー試薬との使用割合は特に制限されないけれども、反応の効率性などを考慮すると、好ましくはエナミン中間体(11)の1当量に対して、ビルスマイヤー試薬を2.0〜2.3当量程度用いればよい。この反応は、撹拌下にかつ60〜110℃の加熱下に行われ、2〜8時間程度で終了する。
【0058】
反応終了後の反応混合物にアルカリを加えて加水分解を行うことによって、一般式(12)で表されるビスカルボニル中間体(以後「ビスカルボニル中間体(12)」と称す)のうち、2つのRが水素原子である化合物(以後「ビスカルボニル中間体(12a)」と称す)の析出が生じる。ここでアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの一般的なアルカリ剤を使用できる。また、アルカリ剤は水溶液の形態で使用され、該水溶液におけるアルカリ剤の濃度は1〜8N程度とすればよい。アルカリの反応混合物への添加量は特に制限されないけれども、1〜8Nの水溶液の形態で用いられる。
【0059】
またエナミン中間体(11)のビスアシル化は、たとえば、フリーデルクラフツ反応に従って実施できる。具体的には、適当な溶媒中にてエナミン中間体(11)とフリーデルクラフツ反応試薬とを反応させ、さらに反応生成物を加水分解することによって実施される。ここで溶媒としては、反応に不活性でかつエナミン中間体(11)およびフリーデルクラフツ反応試薬を溶解または分散できるものであれば特に制限なく使用でき、たとえば、1,2−ジクロロエタンなどが挙げられる。フリーデルクラフツ反応試薬としては公知のものを使用でき、たとえば、ルイス酸と酸塩化物とを反応させて得られるものが挙げられる。ここで、ルイス酸としては、たとえば、塩化錫、塩化銅、塩化アルミニウムなどが挙げられる。酸塩化物としては、たとえば、アセチルクロライドなどが挙げられる。エナミン中間体(11)とフリーデルクラフツ試薬との使用割合は特に制限されないけれども、反応の効率性などを考慮すると、エナミン中間体(11)の1当量に対して、フリーデルクラフツ試薬を2.0〜2.3当量程度用いればよい。この反応は、撹拌下にかつ−40〜80℃の温度下に行われ、2〜8時間程度で終了する。
【0060】
反応終了後の反応混合物にアルカリを加えて加水分解を行うことによって、ビスカルボニル中間体(12)のうち、2つのRが水素原子以外の基である化合物(以後「ビスカルボニル中間体(12b)」と称す)が得られる。アルカリによる加水分解は、ビスカルボニル中間体(12a)を得る加水分解と同様に実施できる。
【0061】
さらに、ビスカルボニル中間体(12)をウィッティッヒ−ホルナー(Wittig−Horner)反応に供し、ビスカルボニル中間体(12)とウィッティッヒ(Wittig)試薬とを反応させることによって、ビスヒドロキシエナミン化合物(6)の前駆体となるエーテル化合物である、一般式(14a)または(14b)で表されるエーテル化合物(以後「エーテル化合物(14a)または(14b)」と称す)が得られる。
【0062】
ここで、ウィッティッヒ試薬としては、一般式(13a)または(13b)で表される化合物(以後「ウィッティッヒ試薬(13a)または(13b)」と称す)が挙げられる。なお、ウィッティッヒ試薬(13a)および(13b)は、符号Arで示される置換基にさらに置換する水酸基が、符号Rで示される置換基により保護されている。
【0063】
ビスカルボニル中間体(12)とウィッティッヒ試薬(13a)とを反応させるとエーテル化合物(14a)が得られ、さらに符号Rで示される保護基を脱保護することによって、ビスヒドロキシエナミン化合物(6)においてn=0である化合物(以後「ビスヒドロキシエナミン化合物(6a)」と称す)が得られる。
【0064】
また、ビスカルボニル中間体(12)とウィッティッヒ試薬(13b)とを反応させるとエーテル化合物(14b)が得られ、さらに符号Rで示される保護基を脱保護することによって、ビスヒドロキシエナミン化合物(6)においてn=1または2である化合物(以後「ビスヒドロキシエナミン化合物(6b)」と称す)が得られる。
【0065】
ビスカルボニル中間体(12)に対するウィッティッヒ−ホルナー反応は公知の方法に従って実施できる。たとえば、適当な溶媒中にて、金属アルコキシド塩基などの触媒の存在下に、ビスカルボニル中間体(12)とウィッティッヒ試薬(13a)または(13b)とを反応させればよい。溶媒としては、反応に不活性でかつ反応基質および触媒を溶解または分散できるものであれば特に制限なく使用でき、たとえば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類などが挙げられる。溶媒は1種を単独で使用できまたは必要に応じて2種以上を混合して使用できる。また溶媒の使用量は特に制限されず、反応基質の使用量、反応温度、反応時間などの反応条件に応じて、反応が円滑に進行する量を適宜選択すればよい。金属アルコキシド塩基としては公知のものを使用でき、たとえば、カリウムt−ブトキサイド、ナトリウムエトキサイド、ナトリウムメトキサイドなどのアルカリ金属アルコキシド塩基などが挙げられる。金属アルコキシド塩基は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。反応基質および触媒の使用量は特に制限されず、反応条件などに応じて広い範囲から適宜選択できるけれども、反応の円滑な進行などを考慮すると、好ましくはビスカルボニル中間体(12)の1当量に対して、ウィッティッヒ試薬(13a)または(13b)を2.0〜2.3当量程度、および触媒を2.0〜2.5当量程度用いればよい。この反応は、撹拌下にかつ室温下または30〜60°の加熱下に行われ、2〜8時間程度で終了する。この反応により、エーテル化合物(14a)または(14b)が得られる。
【0066】
エーテル化合物(14a)または(14b)の脱保護は、公知の方法に従って実施できる。たとえば、エーテル化合物(14a)または(14b)と脱保護剤とを適当な溶媒中にて反応させることにより実施できる。ここで、脱保護剤としては公知のものを使用でき、たとえば、臭化水素、ヨウ化水素などのハロゲン化水素、塩化アルミニウム、臭化アルミニウムなどのハロゲン化アルミニウム、三臭化ホウ素、エタンチオールナトリウム塩などが挙げられる。脱保護剤は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。脱保護剤の使用量は特に制限されないけれども、エーテル化合物(14a)または(14b)の1当量に対して、2.0〜3.0当量程度、好ましくは2.2〜2.6当量程度用いればよい。反応を円滑に進行させること、反応終了後の目的化合物を容易に単離精製することなどを考慮すると、を溶媒としては反応に不活性でかつ反応基質を安定的に溶解または分散できるものであれば特に制限なく使用できるけれども、たとえば、ベンゼン、ニトロベンゼンなどの芳香族炭化水素類、クロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミドなどのホルムアミド類、無水酢酸、塩化メチレンなどが挙げられ、脱保護剤の種類に応じて適宜選択して使用すればよい。たとえば、ハロゲン化水素を用いる場合は、無水酢酸が好ましい。ハロゲン化アルミニウムを用いる場合は、芳香族炭化水素類、ハロゲン化芳香族炭化水素類などが好ましい。三臭化ホウ素を用いる場合は、塩化メチレンが好ましい。エタンチオールナトリウム塩を用いる場合は、ホルムアミド類が好ましい。溶媒の使用量は特に制限されず、反応基質および脱保護剤の種類、使用量、反応温度などの反応条件に応じて広い範囲から適宜選択できる。この脱保護反応は、冷却下または室温から溶媒還流下にて行われ、0.5〜24時間程度で終了する。なお、反応温度は脱保護反応が円滑に進行する温度を適宜選択すればよい。この反応により、ビスヒドロキシエナミン化合物(6)が得られる。
【0067】
なお、上記各反応において生成する目的化合物は、反応終了後の反応混合物から単離してまたは単離することなく次の反応に供することができる。なお、目的化合物の反応混合物からの単離は、抽出、クロマトグラフィー、遠心分離、再結晶化、洗浄などの一般的な精製手段に従って実施できる。
【0068】
ビスヒドロキシエナミン化合物(6)の具体例としては、たとえば、下記表1〜表9に記載のものが挙げられる。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
【表4】

【0073】
【表5】

【0074】
【表6】

【0075】
【表7】

【0076】
【表8】

【0077】
【表9】

【0078】
また、本発明の芳香族ポリカーボネートの製造において、ビスヒドロキシエナミン化合物とともに用いられるカーボネート化合物としては、ポリカーボネートの製造に用いられるものをいずれも使用でき、たとえば、ビスフェニルカーボネートなどのビスアリールカーボネート類、ビスクロロホーメートなどのハロゲン化ホーメート類、ホスゲン、トリクロロメチルクロロホーメート(ホスゲンの2量体)、ビス(トリクロロメチル)カーボネート(ホスゲンの3量体)、ホスゲンの多量体などのハロゲン化カーボネート類などが挙げられる。なお、ホスゲンの3量体は、熱的および化学的に安定で、反応制御および取り扱いが容易であるという利点を有する。また、ハロゲン化ホーメート類は下記のジヒドロキシ化合物から誘導することもできる。
【0079】
また、本発明の芳香族ポリカーボネートの製造において、ビスヒドロキシエナミン化合物およびカーボネート化合物とともに用いられるジヒドロキシ化合物としては、たとえば、一般式
HO−X−OH …(15)
(式中Xは上記に同じ。)
で表されるジヒドロキシ化合物(以後「ジヒドロキシ化合物(15)」と称す)が挙げられる。ジヒドロキシ化合物(15)を用いることによって得られる構成単位(1)と構成単位(4)とを含む芳香族ポリカーボネートの機械的強度が、構成単位(1)のみを含む芳香族ポリカーボネートの機械的強度よりも一層向上する。
【0080】
ジヒドロキシ化合物(15)の具体例としては、たとえば、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス(2−メチルフェノール)、4,4'−シクロヘキシリデンビスフェノール、4,4−エチリデンビスフェノール、4,4'−(1,3−ジメチルブチリデン)ビスフェノール、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4'−(1−フェニルエチリデン)ビスフェノール、4,4'−(2−エチルヘキシリデン)ビスフェノール、5,5'−(1−メチルエチリデン)(1,1'−ビフェニル)−2−オール、1,1'−ビフェニル−4,4'−ジオール、4,4'−メチリデンビスフェノール、4,4'−メチレンンビス[2−(2−プロペニル)フェノール]、4,4'−メチリデンビス(2−メチルフェノール)、4,4'−プロパンジイルビスフェノール、4,4'−(1−メチルプロピリデン)ビスフェノール、4,4'−(2−メチルプロピリデン)ビスフェノール、4,4'−(3−メチルブチリデン)ビスフェノール、4,4'−シクロペンチリデンビスフェノール、4,4'−(フェニルメチリデン)ビスフェノール、4,4'−(1−メチルヘプチリデン)ビスフェノール、4,4'−シクロヘキシリデンビス(3−メチルフェノール)、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス[2−(2−プロペニル)フェノール]、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス[2−(1−メチルエチル)フェノール]、4,4'−(1−メチルオクチリデン)ビスフェノール、4,4'−(1−フェニルエチリデン)ビス(2−メチルフェノール)、4,4'−シクロヘキシリデンビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4'−(1−メチル)ノニリデンビスフェノール、4,4'−デシリデンビスフェノール、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス[2−(1,1−メチルプロピル)フェノール]、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス[2−(1,1−ジメチルエチル)フェノール]、4,4'−(ジフェニルメチリデン)ビスフェノール、4,4'−シクロヘキシリデンビス[2−(1,1−ジメチルエチル)フェノール]、4,4'−(2−メチルプロピリデン)ビス[3−メチル−6−(1,1−ジメチルエチル)フェノール]、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス(2−シクロヘキシルフェノール)、4,4’−メチレン−ビス[2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)フェノール]、4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−sec−ブチルフェノール)、5,5'−(1,1−シクロヘキシリデン)ビス−(1,1'−ビフェニル)−2−オール、4,4'−シクロヘキシリデンビス(2−シクロヘキシルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−ノニルフェノール)、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス[2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)フェノール]、5,5'−(1−フェノールエチリデン)(1,1'−ビフェニル)−2−オール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタノン、4,4'−メチレンビス(2−フルオロフェノール)、4,4'−[2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチリデン]ビスフェノール、4,4'−イソプロピリデンビス(2−フルオロフェノール)、4,4'−[(4−フルオロフェニル)メチレン]ビス(2−フルオロフェノール)、4,4'−(フェニルメチレン)ビス(2−フルオロフェノール)、4,4'−[(4−フルオロフェニル)メチレン]ビスフェノール、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス(2−クロロ−6−メチルフェノール)、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス(2,6−ジクロロフェノール)、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス(2−クロロフェノール)、4,4'−メチレンビス(2,6−ジブロモフェノール)、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス(2,6−ジブロモフェノール)、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス(2−ニトロフェノール)、3,3'−ジメチル−1,1'−ビフェニル−4,4'−ジオール、3,3'5,5'−テトラメチル−1,1'−ビフェニル−4,4'−ジオール、3,3',5,5'−テトラ−t−ブチル−1,1'−ビフェニル−4,4'−ジオール、3,3'−ジフルオロ−1,1'−ビフェニル−4,4'−ジオール、3,3',5,5'−テトラフルオロ−1,1'−ビフェニル−4,4'−ジオールなどが挙げられる。これらは、2種類以上併用して用いてもよい。特に反応性の観点から、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス(2−メチルフェノール)、4,4'−シクロヘキシリデンビスフェノールなどが好ましい。
【0081】
ビスヒドロキシエナミン化合物とカーボネート化合物との重合およびビスヒドロキシエナミン化合物とカーボネート化合物とジヒドロキシ化合物との重合は、たとえば、「プラスチック材料講座 ポリカーボネート樹脂」(松金幹夫、田原省吾、加藤修士著、日刊工業新聞社刊、1969年発行)などに記載の、公知の方法に従って実施できる。たとえば、カーボネート化合物としてビスアリールカーボネート類を用いる場合には、エステル交換法により本発明の芳香族ポリカーボネートが得られる。また、カーボネート化合物としてハロゲン化カーボネート類を用いる場合は、溶液重合法、界面重合法などにより本発明の芳香族ポリカーボネートが得られる。
【0082】
たとえば、界面重合法によれば、ビスヒドロキシエナミン化合物を含む水相と、カーボネート化合物およびポリカーボネート生成触媒を含み、さらに必要に応じてジヒドロキシ化合物を含む油相とを混合し、2相間で、ビスヒドロキシエナミン化合物と、カーボネート化合物と、必要に応じてジヒドロキシ化合物とを重合させることにより、本発明の芳香族ポリカーボネートを製造できる。
【0083】
ビスヒドロキシエナミン化合物は、アルカリ性下で水に溶解する。水をアルカリ性化するには、一般的な塩基を使用できる。塩基としては公知のものを使用でき、たとえば、
水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩などが挙げられる。これらの中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。塩基は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。ここで用いる水は蒸留水、イオン交換水などである。塩基の使用量は、使用されるビスヒドロキシエナミン化合物の全量が、使用される水に対して安定的に溶解する量とすればよい。
【0084】
油相を構成する有機溶媒としてはこの分野で常用されるもの、すなわち水に対する溶解度が重合反応に悪影響を及ぼさない程度に低くかつ生成する芳香族ポリカーボネートを溶解し得るものを使用でき、たとえば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロプロパンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素類、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素類、ハロゲン化脂肪族炭化水素類の2種以上の混合物、ハロゲン化芳香族炭化水素類の2種以上の混合物、ハロゲン化脂肪族炭化水素類の1種または2種以上とハロゲン化芳香族炭化水素類の1種または2種以上との混合物などが挙げられる。これらの中でも、ジクロロメタン、クロロベンゼンなどが好ましい。さらに、前記有機溶媒に、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類などから選ばれる1種または2種以上を混合してもよい。有機溶媒の使用量は特に制限されないけれども、各モノマー化合物の種類および使用量、有機溶媒自体の種類、反応温度、反応時間などの反応条件に応じて重合反応が円滑に進行する量を適宜選択すればよい。
【0085】
ポリカーボネート生成触媒としてもこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、3級アミン、4級アンモニウム塩、3級ホスフィン、4級ホスホニウム塩、含窒素複素環化合物およびその塩、イミノエーテルおよびその塩、アミド基含有化合物などが挙げられる。これらの中でも3級アミンが好ましく、炭素数3〜30の3級アミンがさらに好ましく、トリエチルアミンが特に好ましい。ポリカーボネート生成触媒の反応系への添加時期は、カーボネート化合物を反応系へ添加する前および添加した後のいずれでもよく、添加前後の2度でもよい。
【0086】
なお、ビスヒドロキシエナミン化合物、ジヒドロキシ化合物およびカーボネート化合物の3種のモノマー化合物を用いる場合、それらの使用割合は特に制限されないけれども、好ましくは、構成単位(1)と構成単位(4)とのモル比が前述の範囲内になるように用いればよい。
【0087】
界面重合反応では、クロマトグラフィーなどの手法により生成するポリカーボネートの分子量を追跡し、所望の分子量になった時点で反応系に、分子量調節剤としての末端停止剤を添加することができる。末端封止剤としてもこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、1価の芳香族ヒドロキシ化合物、1価の芳香族ヒドロキシ化合物のハロホーメート誘導体、1価のカルボン酸、1価のカルボン酸のハライド誘導体などが挙げられる。これらの中でも、1価の芳香族ヒドロキシ化合物が好ましく、フェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールなどがさらに好ましい。末端停止剤を用いる場合、得られる芳香族ポリカーボネートのC末端およびO末端には、末端停止剤に由来する1価の置換基が結合する。
【0088】
界面重合反応では、得られる芳香族ポリカーボネートの機械的特性をさらに向上させるために、分岐化剤を適量添加することもできる。分岐化剤としてもこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、フェノール性水酸基、ハロホーメート基、カルボン酸基、カルボン酸ハライド基、活性なハロゲン原子などから選ばれる同種または異種の反応基を3つ以上有する化合物などが挙げられる。
【0089】
界面重合反応では、高速撹拌、乳化剤の添加などによって反応媒体を乳化させて反応を実施することによって、短時間で分子量分布の狭い芳香族ポリカーボネートが得られる。
【0090】
界面重合反応は、たとえば、0〜40℃の温度下に行われ、数分〜5時間程度で終了する。また、反応系における水相のpHは、たとえば、塩基の添加などによって、通常10以上に保つことが好ましい。
【0091】
また、溶液重合法によれば、適当な溶媒中にて、脱酸剤の存在下に、ビスヒドロキシエナミン化合物およびカーボネート化合物ならびに必要に応じてジヒドロキシ化合物を重合させることにより、本発明の芳香族ポリカーボネートを製造できる。さらに具体的には、ビスヒドロキシエナミン化合物および必要に応じてジヒドロキシ化合物を溶媒に溶解し、この溶液に脱酸剤を添加し、さらにビスクロロホーメート、ホスゲン、ホスゲンの2〜3量体、ホスゲンの多量体などのカーボネート化合物を添加し、重合反応を実施することにより得られる。ビスヒドロキシエナミン化合物、ジヒドロキシ化合物およびカーボネート化合物の使用割合は特に制限されないけれども、好ましくは、構成単位(1)と構成単位(4)とのモル比が前述の範囲内になるように用いればよい。溶媒としてはこの分野で常用され、重合反応に不活性でありかつ3種の反応基質および脱酸剤を溶解または分散し得るものを使用でき、たとえば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類、ピリジンなどが挙げられる。脱酸剤としてもこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミンなどの第3級アミン類、ピリジンなどが挙げられる。さらに、界面重合の場合と同様に、分子量調節剤、分岐化剤などを添加できる。この反応は、通常0〜40℃の温度下に行われ、数分〜5時間程度で終了する。
【0092】
さらに、エステル交換法によれば、たとえば、不活性ガス雰囲気中にてビスヒドロキシエナミン化合物およびビスアリールカーボネート(カーボネート化合物)ならびに必要に応じてジヒドロキシ化合物を混合し、通常減圧下にかつ120〜350℃の温度下に反応させることにより、芳香族ポリカーボネートが得られる。減圧度は段階的に変化させ、最終的には1mmHg以下にし、副生するフェノール類を系外に留去させる。反応時間は通常1〜4時間程度である。また、必要に応じて、分子量調節剤、酸化防止剤などを添加してもよい。
【0093】
また、上記の各重合反応において、重合操作を適宜選択することによって、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、ランダム交互共重合体またはランダムブロック共重合体を選択的に製造できる。たとえば、ビスヒドロキシエナミン化合物とジヒドロキシ化合物とを均一に混合した後、ホスゲンなどのカーボネート化合物との縮合反応を行うと、ランダム共重合体が得られる。重合反応の途中で、反応系に数種のビスヒドロキシエナミン化合物をさらに添加すると、ランダムブロック共重合体が得られる。ジヒドロキシ化合物から誘導されるビスクロロホーメートとビスヒドロキシエナミン化合物との縮合反応を行えば、交互共重合体が得られる。逆にビスヒドロキシエナミン化合物から誘導されるビスクロロホーメートとジヒドロキシ化合物との縮合反応によっても同様に交互共重合体が得られる。ビスクロロホーメートとビスヒドロキシエナミン化合物またはジヒドロキシ化合物との縮合反応の際に、ビスクロロホーメート、ビスヒドロキシエナミン化合物またはジヒドロキシ化合物の2種以上使用することによって、ランダム交互共重合体が得られる。
【0094】
このようにして得られる本発明の芳香族ポリカーボネートは、抽出、クロマトグラフィー、遠心分離、再結晶化、洗浄などの一般的な精製手段により、重合反応終了後の反応混合物中から容易に単離精製できる。
【0095】
また、本発明の芳香族ポリカーボネートの末端構造はパラヒドロキシ安息香酸−n−ブチル、パラヒドロキシ−n−プロピル、パラヒドロキシ安息香酸エチルが好ましい。
【0096】
本発明の芳香族ポリカーボネートには、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、滑剤、可塑剤などの一般的な樹脂添加剤から選ばれる1種または2種以上を添加できる。
【0097】
図1〜図8は、本発明の他の実施形態である電子写真感光体の要部の構成を模式的に示す断面図である。図1〜4に示す電子写真感光体は、感光層2が1層からなることを特徴とする単層型電子写真感光体である。また、図5〜8に示す電子写真感光体は、感光層2aが電荷発生層3と電荷輸送層4とからなる機能分離型または積層型電子写真感光体である。
【0098】
図1に示す電子写真感光体は、導電性支持体(電子写真感光体用素管)1と、導電性支持体1の表面に形成される感光層2とを含む。
【0099】
図2に示す電子写真感光体は、導電性支持体1と、導電性支持体1の表面に形成される感光層2と、感光層2の表面に形成される表面保護層5とを含む。
【0100】
図3に示す電子写真感光体は、導電性支持体1と、導電性支持体1の表面に形成される下引層6と、下引層6の表面に形成される感光層2とを含む。
【0101】
図4に示す電子写真感光体は、導電性支持体1と、導電性支持体1の表面に形成される下引層6と、下引層6の表面に形成される感光層2と、感光層2の表面に形成される表面保護層5とを含む。
【0102】
図5に示す電子写真感光体は、導電性支持体1と、導電性支持体1の表面に形成される電荷発生層3と、電荷発生層3の表面に形成される電荷輸送層4とを含む。
【0103】
図6に示す電子写真感光体は、導電性支持体1と、導電性支持体1の表面に形成される電荷発生層3と、電荷発生層3の表面に形成される電荷輸送層4と、電荷輸送層4の表面に形成される表面保護層5とを含む。
【0104】
図7に示す電子写真感光体は、導電性支持体1と、導電性支持体1の表面に形成される下引層6と、下引層6の表面に形成される電荷発生層3と、電荷発生層3の表面に形成される電荷輸送層4とを含む。
【0105】
図8に示す電子写真感光体は、導電性支持体1と、導電性支持体1の表面に形成される下引層6と、下引層6の表面に形成される電荷発生層3と、電荷発生層3の表面に形成される電荷輸送層4と、電荷輸送層4の表面に形成される表面保護層5とを含む。
図1〜8に示す電子写真感光体を構成する各層は、具体的には、次の通りである。
【0106】
[導電性支持体]
導電性支持体1は、たとえば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛、ステンレス鋼、チタンなどの金属材料により構成される。また、これらの金属材料に限定されることなく、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリオキシメチレン、ポリスチレンなどの合成樹脂、硬質紙、ガラスなどからなる基体表面に金属箔をラミネートしたもの、金属材料を蒸着したもの、導電性高分子、酸化スズ、酸化インジウム、炭素粒子、金属粒子などの導電性化合物の層を蒸着もしくは塗布したものなどを用いることもできる。導電性支持体1の表面には、必要に応じて、画質に影響のない範囲内で、陽極酸化皮膜処理、薬品、熱水などによる表面処理、着色処理、表面を粗面化するなどの乱反射処理を施してもよい。乱反射処理は、レーザを露光光源として用いる電子写真プロセスにおいて本発明の電子写真感光体を用いる場合に特に有効である。すなわち、レーザを露光光源として用いる電子写真プロセスでは、レーザ光の波長が揃っているので、入射するレーザ光と電子写真感光体内で反射された光とが干渉を起こし、この干渉による干渉縞が画像上に現れて画像欠陥の発生することがある。導電性支持体の表面に前述のような乱反射処理を施すことによって、この波長の揃ったレーザ光の干渉による画像欠陥を防止できる。
【0107】
[感光層]
感光層2は、電荷発生物質と本発明の芳香族ポリカーボネートとを含んで構成される。感光層2において、本発明の芳香族ポリカーボネートは、電荷輸送物質およびバインダ樹脂として機能する。感光層2は、必要に応じて、本発明の芳香族ポリカーボネート以外の電荷輸送物質、本発明の芳香族ポリカーボネート以外のバインダ樹脂、酸化防止剤などを含有してもよい。
【0108】
電荷発生物質は、光を吸収することにより電荷を発生させる物質である。電荷発生物質としてはこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、アゾ系顔料(モノアゾ系顔料、ビスアゾ系顔料、トリスアゾ系顔料など)、インジゴ系顔料(インジゴ、チオインジゴなど)、ペリレン系顔料(ペリレンイミド、ペリレン酸無水物など)、多環キノン系顔料(アントラキノン、ピレンキノンなど)、フタロシアニン系顔料(金属フタロシアニン、無金属フタロシアニンなど)、トリフェニルメタン系色素(メチルバイオレット、クリスタルバイオレット、ナイトブルー、ビクトリアブルーなど)、アクリジン系色素(エリスロシン、ローダミンB、ローダミン3R、アクリジンオレンジ、フラペオシンなど)、チアジン系色素(メチレンブルー、メチレングリーンなど)、オキサジン系色素(カプリブルー、メルドラブルーなど)、スクアリリウム色素、ピリリウム塩類、チオピリリウム塩類、チオインジゴ系色素、ビスベンゾイミダゾール系色素、キナクリドン系色素、キノリン系色素、レーキ系色素、アゾレーキ系色素、ジオキサジン系色素、アズレニウム系色素、トリアリルメタン系色素、キサンテン系色素、シアニン系色素などの有機顔料、染料、さらにアモルファスシリコン、アモルファスセレン、テルル、セレン−テルル合金、硫化カドミウム、硫化アンチモン、酸化亜鉛、硫化亜鉛などの無機材料が挙げられる。電荷発生物質は1種を単独でまたは2種以上を組合せて使用する。
【0109】
本発明の芳香族ポリカーボネートとしては、前述の、構成単位(1)の単独重合体および構成単位(1)と構成単位(4)とを含む共重合体から選ばれる1種または2種以上を使用できる。
【0110】
本発明の芳香族ポリカーボネート以外の電荷輸送物質は、たとえば、感光層2の電気特性をさらに向上させるために用いられる。該電荷輸送物質には、ホール輸送物質および電子輸送物質が包含される。ホール輸送物質としてはこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、カルバゾール誘導体、ピレン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、多環芳香族化合物、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリールアミン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、エナミン誘導体、ベンジジン誘導体、これらの化合物から誘導される基を主鎖または側鎖に有するポリマー(ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリ−1−ビニルピレン、エチルカルバゾール−ホルムアルデヒド樹脂、トリフェニルメタンポリマー、ポリ−9−ビニルアントラセンなど)、ポリシランなどが挙げられる。電子輸送物質としてもこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ベンゾキノン誘導体、テトラシアノエチレン誘導体、テトラシアノキノジメタン誘導体、フルオレノン誘導体、キサントン誘導体、フェナントラキノン誘導体、無水フタール酸誘導体、ジフェノキノン誘導体などの有機化合物、アモルファスシリコン、アモルファスセレン、テルル、セレン−テルル合金、硫化カドミウム、硫化アンチモン、酸化亜鉛、硫化亜鉛などの無機材料が挙げられる。電荷輸送物質は1種を単独でまたは2種以上を組合せて使用できる。
【0111】
本発明の芳香族ポリカーボネート以外のバインダ樹脂は、たとえば、感光層2の機械的強度、耐久性などを向上させるために用いられる。バインダ樹脂には、本発明の芳香族ポリカーボネートとの相溶性に優れるものが好ましく用いられる。その具体例としては、たとえば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどのビニル系樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリアミド、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル、ポリアクリルアミド、ポリフェニレンオキサイドなどの熱可塑性樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、これらの樹脂の部分架橋物などが挙げられる。これらの中でも、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレートおよびポリフェニレンオキサイドは、体積抵抗値が1013Ω以上であって電気絶縁性に優れ、また成膜性、電位特性などにも優れるので、バインダ樹脂として好適に使用でき、ポリカーボネートは特に好適に使用できる。バインダ樹脂は1種を単独でまたは2種以上を組合せて使用できる。
【0112】
酸化防止剤は、電子写真感光体の帯電時に発生するオゾン、NOxなどの活性物質の付着による表面層の劣化を軽減し、電子写真感光体の繰返し使用時の耐久性を向上させ得る。また、後述する感光層形成用塗工液としての安定性を高め、液寿命を延長させるとともに、該塗工液で製造した電子写真感光体も、不純物が軽減されるので耐久性が向上する。
【0113】
酸化防止剤としては、たとえば、ヒンダードフェノール誘導体、ヒンダードアミン誘導体などが挙げられる。酸化防止剤の使用量は特に制限されないけれども、好ましくは、電荷輸送物質100重量部に対して0.1〜10重量部である。酸化防止剤の使用量が0.1重量部未満では、後述する感光層形成用塗工液の安定性および電子写真感光体の耐久性を向上効果が不充分になる。また10重量部を超えると、電子写真感光体の電気特性に悪影響を及ぼす。
【0114】
感光層2は、電荷発生物質および本発明の芳香族ポリカーボネート、ならびに必要に応じて本発明の芳香族ポリカーボネート以外の電荷輸送物質、本発明の芳香族ポリカーボネート以外のバインダ樹脂、酸化防止剤などを適用な有機溶媒に溶解および/または分散して感光層形成用塗工液を調製し、この塗工液を導電性支持体1または後述する下引層6の表面に塗布し、乾燥して有機溶媒を除去することによって形成できる。
【0115】
ここで有機溶媒としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン、ジメトキシベンゼン、ジクロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジベンジルエーテル、ジメトキシメチルエーテルなどのエーテル類、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソホロンなどのケトン類、安息香酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、ジフェニルスルフィドなどの含イオウ溶剤、ヘキサフロオロイソプロパノールなどのフッ素系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶剤、これら溶媒の2種以上の混合溶媒、これら溶媒の1種または2種以上にさらにアルコール類、アセトニトリルまたはメチルエチルケトンを加えた混合溶媒などが挙げられる。
【0116】
感光層の膜厚は特に制限されないけれども、好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜50μmである。膜厚が5μm未満では、電子写真感光体表面の帯電保持能が低下するおそれがある。膜厚が100μmを超えると、電子写真感光体の生産性が低下するおそれがある。
【0117】
[電荷発生層および電荷輸送層]
感光層2aは、電荷発生層3と電荷輸送層4とを含んで構成される積層体である。
電荷発生層3は、電荷発生物質およびバインダ樹脂を含有する。
【0118】
電荷発生物質としては、感光層2に含まれるものと同様の電荷発生物質の1種または2種以上を使用できる。
【0119】
バインダ樹脂としては電荷発生層のマトリックス樹脂として常用されるものを使用でき、たとえば、ポリエステル、ポリスチレン、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレートなどの熱可塑性樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマールなどの熱硬化性樹脂、これらの樹脂に含まれる構成単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂などの絶縁性樹脂)などが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルブチラールが好ましい。バインダ樹脂は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0120】
電荷発生物質とバインダ樹脂との含有割合は特に制限されないけれども、好ましくは、電荷発生物質とバインダ樹脂との合計量の全量において、電荷発生物質を10〜99重量%含有し、かつ残部がバインダ樹脂である。電荷発生物質の割合が10重量%未満では、感度が低下するおそれがある。電荷発生物質の割合が99重量%を超えると、電荷発生層3の膜強度が低下するだけでなく、電荷発生物質の分散性が低下して粗大粒子が増大し、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷が減少するので、画像欠陥、特に白地にトナーが付着し微小な黒点が形成される黒ポチと呼ばれる画像のかぶりが多く発生する。
【0121】
電荷発生層3は、前記2種の必須成分のほかに、必要に応じて、ホール輸送材料、電子輸送材料、酸化防止剤、分散安定剤、増感剤などから選ばれる1種または2種以上のそれぞれ適量を含んでもよい。これによって、電位特性が向上するとともに、後述する電荷発生層形成用塗工液の安定性が高まり、電子写真感光体の繰返し使用時の疲労劣化を軽減し、耐久性を向上させ得る。
【0122】
電荷発生層3は、たとえば、電荷発生物質、バインダ樹脂および必要に応じて他の添加剤を適当な有機溶媒に溶解または分散して電荷発生層形成用塗工液を調製し、この塗工液を導電性支持体1または後述の下引層6の表面に塗布し、乾燥して有機溶媒を除去することにより形成できる。具体的には、たとえば、バインダ樹脂を有機溶媒に溶解してなる樹脂溶液に電荷発生物質および必要に応じて他の添加剤を溶解または分散させることにより、電荷発生層形成用塗工液が調製される。
【0123】
ここで有機溶媒としては、たとえば、テトラクロロプロパン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、イソホロン、メチルエチルケトン、アセトフェノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、安息香酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル類、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジベンジルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジオキサンなどのエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン、ジメトキシベンゼン、ジクロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類類、ジフェニルスルフィドなどの含イオウ溶剤、ヘキサフロオロイソプロパノールなどのフッ素系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。また、これらの溶剤を2種以上混合した混合溶剤を用いることもできる。
【0124】
電荷発生物質などを樹脂溶液に溶解または分散させるに先立ち、電荷発生物質およびその他の添加剤を予備粉砕してもよい。予備粉砕は、たとえば、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミル、超音波分散機などの一般的な粉砕機を用いて実施される。
【0125】
電荷発生物質などの樹脂溶液への溶解または分散は、たとえば、ペイントシェーカ、ボールミル、サンドミルなどの一般的な分散機を用いて実施される。このとき、樹脂溶液、電荷発生物質などを収容する容器および分散機を構成する部材から、摩耗などによって不純物が発生し、塗工液中に混入しないように、分散条件を適宜選択するのが好ましい。
【0126】
電荷発生層形成用塗工液の塗布方法としては、ロール塗布、スプレー塗布、ブレード塗布、リング塗布、浸漬塗布などが挙げられる。
【0127】
電荷発生層3の膜厚は特に制限されないけれども、好ましくは0.05〜5μm以下、さらに好ましくは0.1〜1μmである。電荷発生層の膜厚が0.05μm未満では、光吸収の効率が低下し、感度が低下する。電荷発生層の膜厚が5μmを超えると、電荷発生層内部での電荷移動が電子写真感光体表面の電荷を消去する過程の律速段階となり、感度が低下する。
【0128】
電荷輸送層4は、電荷発生物質で発生した電荷を受入れ輸送する能力を有する本発明の芳香族ポリカーボネートにより構成される。さらに、電荷輸送層4は、本発明の芳香族ポリカーボネート以外の電荷輸送物質、本発明の芳香族ポリカーボネート以外のバインダ樹脂、酸化防止剤などを含むことができる。
【0129】
また電荷輸送層4は、本発明の芳香族ポリカーボネート以外の電荷輸送物質および本発明の芳香族ポリカーボネート以外のバインダ樹脂を必須成分として含有し、さらに必要に応じて酸化防止剤などの添加剤を含む構成を採ることもできる。
【0130】
本発明の芳香族ポリカーボネートとしては、構成単位(1)からなる単独重合体および構成単位(1)と構成単位(4)とを含む共重合体から選ばれる1種または2種以上を使用できる。
【0131】
また、本発明の芳香族ポリカーボネート以外の電荷輸送物質、本発明の芳香族ポリカーボネート以外のバインダ樹脂および酸化防止剤としては、感光層2において用いられるものと同様のものを同様の使用量でそれぞれ使用できる。
【0132】
電荷輸送層4は、たとえば、適当な有機溶媒に本発明の芳香族ポリカーボネート、ならびに必要に応じて本発明の芳香族ポリカーボネート以外の電荷輸送物質、本発明の芳香族ポリカーボネート以外のバインダ樹脂、酸化防止剤などを溶解または分散させて電荷輸送層形成用塗工液を調製し、この電荷輸送層形成用塗工液を電荷発生層3の表面に塗布し、乾燥により有機溶媒を除去することにより形成できる。
【0133】
ここで用いられる有機溶媒としては、感光層2の形成に用いられる有機溶媒と同様のものを使用できる。電荷輸送層形成用塗工液の電荷発生層3表面への塗布方法としては特に制限はなく、たとえば、浸漬塗布、ロール塗布、インクジェット塗布などが挙げられる。また、乾燥は、塗工液中に含まれる有機溶媒を除去し、かつ均一な表面を有する電荷輸送層4を形成できる温度を適宜選択して実施すればよい。
【0134】
電荷輸送層4の膜厚は特に制限されないけれども、好ましくは5〜50μm、さらに好ましくは10〜40μmである。電荷輸送層の膜厚が5μm未満では、電子写真感光体表面の帯電保持能が低下するおそれがある。電荷輸送層の膜厚が50μmを超えると、電子写真感光体の解像度が低下するおそれがある。
【0135】
[表面保護層]
表面保護層5は、たとえば、感光層2,2aの耐久性を向上させる機能を有する。表面保護層5は、たとえば、バインダ樹脂を適当な有機溶媒に溶解した樹脂溶液を感光層2,2a表面に塗布し、乾燥により有機溶媒除去することにより形成できる。ここで用いられるバインダ樹脂および有機溶媒としては、電荷輸送層4において用いられるのと同様のものを同量で使用できる。表面保護層5の膜厚は特に制限されないけれども、好ましくは0.5〜10μm以下、さらに好ましくは1〜5μmである。表面保護層5の膜厚が0.5μm未満では、電子写真感光体表面の耐擦過性が劣り、耐久性も不充分である。10μmを超えると、電子写真感光体の解像度が低下する。
【0136】
下引層6は、導電性支持体1から感光層2,2aへの電荷の注入を防止する機能を有する。その結果、感光層2,2aの帯電性の低下が抑制され、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷の減少を抑え、かぶりなどの画像欠陥の発生が防止される。特に、反転現像プロセスによる画像形成の際に、白地部分にトナーからなる微小な黒点が形成される黒ポチと呼ばれる画像かぶりが発生するのが防止される。また、下引層6を導電性支持体1表面に被覆することにより、導電性支持体1表面の欠陥である凹凸の度合を軽減して表面を均一化し、感光層2,2aの成膜性を高め、導電性支持体1と感光層2,2aとの密着性を向上させる。
【0137】
[下引層]
下引層6は、たとえば、樹脂材料を適当な溶媒に溶解させた下引層形成用塗工液を調製し、この塗工液を導電性支持体1の表面に塗布し、加熱により該塗工液中の溶媒を除去することによって形成できる。樹脂層を構成する樹脂材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン、ポリビニルブチラール、ポリアミド、ポリアリレートなどの熱可塑性樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂、これらの熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂に含まれる構成単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、エチルセルロースなどの天然高分子材料などが挙げられる。樹脂材料を溶解または分散させる溶媒としては、たとえば、水、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類、メチルカルビトール、ブチルカルビトールなどのグライム類などが、これらの溶媒を2種以上混合した混合溶媒などが挙げられる。
【0138】
さらに、下引層形成用塗工液には、金属酸化物粒子を添加してもよい。金属酸化物粒子の添加により下引層6の体積抵抗値を容易に調節でき、導電性支持体1から感光層2,2aへの電荷注入をさらに抑制できるとともに、各種環境下において電子写真感光体の電気特性を維持できる。金属酸化物粒子としては、たとえば、酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化スズなどが挙げられる。金属酸化物微粒子を下引層形成用塗工液中に分散させるには、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミル、超音波分散機などの、一般的な粒子分散装置を使用できる。
【0139】
樹脂材料と金属酸化物粒子とを含む下引層形成用塗工液における、樹脂材料と金属酸化物粒子との合計含有量をC、溶剤の含有量をDとするとき、両者の比率(C/D)は、好ましくは1/99〜40/60(=0.01〜0.67、重量比)であり、さらに好ましくは2/98〜30/70(=0.02〜0.43、重量比)である。また、樹脂材料含有量(E)と金属酸化物粒子含有量(F)との比率(E/F)は、好ましくは1/99〜90/10(=0.01〜9.0、重量比)であり、さらに好ましくは5/95〜70/30(=0.05〜2.33、重量比)である。
【0140】
下引層6の膜厚は特に制限されないけれども、好ましくは0.01〜20μm、さらに好ましくは0.1〜10μmである。膜厚が0.01μm未満では、下引層6として実質的に機能しなくなり、導電性支持体1の欠陥を被覆して均一な表面が得られず、また導電性支持体1から感光層2,2aに対する電荷の注入を防止できなくなるので、感光層2,2aの帯電性の低下が生じる。膜厚が20μmを超えると、下引層6の均一な形成が難しく、また電子写真感光体の感度も低下する。
【0141】
なお、導電性支持体1の表面にアルマイトを含む層(アルマイト層)を形成し、下引層6とすることができる。
【0142】
図9は、本発明の他の実施形態である画像形成装置20の構成を簡略化して示す側面配置図である。画像形成装置20は、前述した図1〜8に示すいずれかの構成を有する本発明の電子写真感光体21を備えることを特徴とする。図9を参照して、本発明の実施の他の形態である画像形成装置20について説明する。なお、本発明の画像形成装置は、以下の記載内容に限定されるものではない。
【0143】
画像形成装置20は、本発明の製造方法により製造された電子写真感光体21であって、不図示の装置本体に回転自在に支持される電子写真感光体21と、帯電器24と、露光手段28と、現像器25と、転写器26と、クリーナ27と、定着器31とを含んで構成される。
【0144】
電子写真感光体21は、不図示の駆動手段によって回転軸線22まわりに矢符23方向に回転駆動される。駆動手段は、たとえば電動機と減速歯車とを含んで構成され、その駆動力を電子写真感光体21の芯体を構成する導電性支持体に伝えることによって、電子写真感光体21を所定の周速度で回転駆動させる。帯電器24、露光手段28、現像器25、転写器26と、クリーナ27は、電子写真感光体21の外周面に沿って、矢符23で示される電子写真感光体21の回転方向上流側から下流側に向ってこの順序で設けられる。
【0145】
帯電器24は、電子写真感光体21の外周面を所定の電位に帯電させる帯電手段である。本実施の形態では、帯電器24は、接触式の帯電ローラ24aと、帯電ローラ24aに電圧を印加するバイアス電源24bとによって実現される。帯電手段としてはチャージャーワイヤも使用できるが、感光体表面の高い耐摩耗性が要求される帯電ローラにおいて、本発明の表面保護層が形成された電子写真感光体は耐久性向上により大きな効果を発揮する。
【0146】
露光手段28は、たとえば半導体レーザなどを光源として備え、光源から出力されるレーザビームなどの光28aを、電子写真感光体21の帯電器24と現像器25との間に照射することによって、帯電された電子写真感光体21の外周面に対して画像情報に応じた露光を施す。光28aは、主走査方向である電子写真感光体21の回転軸線22の延びる方向に繰返し走査され、これに伴って電子写真感光体21の表面に静電潜像が順次形成される。
【0147】
現像器25は、露光によって電子写真感光体21の表面に形成される静電潜像を、現像剤によって現像する現像手段であり、電子写真感光体21を臨んで設けられ、電子写真感光体21の外周面にトナーを供給する現像ローラ25aと、現像ローラ25aを電子写真感光体21の回転軸線22と平行な回転軸線まわりに回転可能に支持するとともにその内部空間にトナーを含む現像剤を収容するケーシング25bとを備える。
【0148】
転写器26は、現像によって電子写真感光体21の外周面に形成される可視像であるトナー画像を、図示しない搬送手段によって矢符29方向から電子写真感光体21と転写器26との間に供給される記録媒体である転写紙30上に転写させる転写手段である。転写器26は、たとえば、帯電手段を備え、転写紙30にトナーと逆極性の電荷を与えることによってトナー画像を転写紙30上に転写させる非接触式の転写手段である。
【0149】
クリーナ27は、転写器26による転写動作後に電子写真感光体21の外周面に残留するトナーを除去し回収する清掃手段であり、電子写真感光体21の外周面に残留するトナーを剥離させるクリーニングブレード27aと、クリーニングブレード27aによって剥離されたトナーを収容する回収用ケーシング27bとを備える。また、このクリーナ27は、図示しない除電ランプと共に設けられる。
【0150】
また、画像形成装置20には、電子写真感光体21と転写器26との間を通過した転写紙30が搬送される下流側に、転写された画像を定着させる定着手段である定着器31が設けられる。定着器31は、図示しない加熱手段を有する加熱ローラ31aと、加熱ローラ31aに対向して設けられ、加熱ローラ31aに押圧されて当接部を形成する加圧ローラ31bとを備える。
【0151】
この画像形成装置20による画像形成動作は、次のようにして行われる。まず、電子写真感光体21が駆動手段によって矢符23方向に回転駆動されると、露光手段28による光28aの結像点よりも電子写真感光体21の回転方向上流側に設けられる帯電器24によって、電子写真感光体21の表面が正または負の所定電位に均一に帯電される。
【0152】
次いで、露光手段28から、電子写真感光体21の表面に対して画像情報に応じた光28aが照射される。電子写真感光体21は、この露光によって、光28aが照射された部分の表面電荷が除去され、光28aが照射された部分の表面電位と光28aが照射されなかった部分の表面電位とに差異が生じ、静電潜像が形成される。
【0153】
露光手段28による光28aの結像点よりも電子写真感光体21の回転方向下流側に設けられる現像器25から、静電潜像の形成された電子写真感光体21の表面にトナーが供給されて静電潜像が現像され、トナー画像が形成される。
【0154】
電子写真感光体21に対する露光と同期して、電子写真感光体21と転写器26との間に、転写紙30が供給される。転写器26によって、供給された転写紙30にトナーと逆極性の電荷が与えられ、電子写真感光体21の表面に形成されたトナー画像が、転写紙30上に転写される。
【0155】
トナー画像の転写された転写紙30は、搬送手段によって定着器31に搬送され、定着器31の加熱ローラ31aと加圧ローラ31bとの当接部を通過する際に加熱および加圧され、トナー画像が転写紙30に定着されて堅牢な画像となる。このようにして画像が形成された転写紙30は、搬送手段によって画像形成装置20の外部へ排紙される。
【0156】
一方、転写器26によるトナー画像の転写後も電子写真感光体21の表面上に残留するトナーは、クリーナ27によって電子写真感光体21の表面から剥離されて回収される。このようにしてトナーが除去された電子写真感光体21の表面の電荷は、除電ランプからの光によって除去され、電子写真感光体21の表面上の静電潜像が消失する。その後、電子写真感光体21はさらに回転駆動され、再度帯電から始まる一連の動作が繰返されて連続的に画像が形成される。
【0157】
本発明の画像形成装置20は、適度な導電性を有して耐久性に優れる表面保護層を有する電子写真感光体21を備えるので、各種の環境下において高品質の画像を形成することができる。
【実施例】
【0158】
以下に製造例、実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。以下において、「部」は「重量部」を意味する。
【0159】
(製造例1)
下記反応行程式に従って、例示化合物No.1(化合物(6a))を製造した。
【0160】
【化13】

【0161】
[エナミン中間体(11a)の製造]
トルエン100mlに、ジフェニルアセトアルデヒド(9a)20.6g(1.05当量)、N−フェニル−α−ナフチルアミン(10a)21.9g(1.0当量)およびDL−10−カンファースルホン酸0.23g(0.01当量)を加えて120〜130℃に加熱し、副生する水をトルエンと共沸させて系外に取除きながら、6時間反応を行った。反応終了後、反応溶液を10分の1程度に濃縮し、激しい撹拌下にあるヘキサン100ml中に徐々に滴下し、結晶を析出させた。析出した結晶を濾取し、冷エタノールで洗浄することによって、淡黄色粉末状化合物34.9gを得た。
【0162】
得られた淡黄色粉末状化合物を液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS)で分析した結果、化学構造式(11a)の化合物(分子量の計算値:397.18)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]に相当するピークが398.4に観測されたことから、該化合物が化学構造式(11a)で表されるエナミン中間体(11a)であることが判った(収率:88%)。また、LC−MSの分析結果から、得られたエナミン中間体(11a)の純度は99.1%であった。
【0163】
[エナミン−ビスアルデヒド中間体(12a)の製造]
無水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)100ml中に、氷冷下、オキシ塩化リン18.4g(2.4当量)を徐々に加えて約30分間撹拌し、ビルスマイヤー試薬を調製した。この溶液中に、氷冷下、エナミン中間体(11a)19.9g(1.0当量)を徐々に加えた。その後、徐々に加熱して反応温度を110℃まで上げ、110℃を保つように加熱しながら3時間撹拌した。反応終了後、この反応溶液を放冷し、冷4N水酸化ナトリウム水溶液800ml中に徐々に加え、沈殿を生じさせた。生じた沈殿を濾取し、充分に水洗した後、エタノールと酢酸エチルとの混合溶剤(エタノール:酢酸エチル=8:2〜7:3で再結晶を行うことによって、黄色粉末状化合物19.2gを得た。
【0164】
得られた黄色粉末状化合物をLC−MSで分析した結果、化学構造式(12a)の化合物(分子量の計算値:453.17)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]に相当するピークが454.1に観測されたことから、該化合物が化学構造式(12a)で表されるエナミン−アルデヒド中間体(12a)であることが判った(収率:85%)。また、LC−MSの分析結果から、得られたエナミン−アルデヒド中間体(12a)の純度は99.2%であった。
【0165】
[ビスアルコキシエナミン化合物(14aa)の製造]
エナミン−ビスアルデヒド中間体(12a)9.08g(1.0当量)およびジエチルベンジルホスホネート(13aa)12.41g(2.4当量)を、無水DMF 80mlに溶解させ、その溶液中にカリウムt−ブトキシド5.6g(2.5当量)を0℃で徐々に加えた。その後室温で1時間放置し、さらに50℃まで加熱し、50℃を保つように加熱しながら5時間撹拌した。反応混合物を放冷した後、過剰のメタノール中に注いだ。析出物を回収し、トルエンに溶解させてトルエン溶液とした。このトルエン溶液を分液ロートに移し、水洗した後、有機層を取出し、取出した有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥後、固形物を除去した有機層を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを行うことによって、黄色結晶11.5gを得た。
【0166】
得られた黄色結晶をLC−MSで分析した結果、化学構造式(14aa)で表される化合物(分子量の計算値:661.30)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]に相当するピークが662.5に観測された。このことから、該結晶が、例示化合物No.1の前駆体であるビスアルコキシエナミン化合物(14aa)であることが判った(収率:87%)。また、LC−MSの分析結果から、得られた化合物の純度は99.7%であった。
【0167】
[非対称ビスヒドロキシエナミン化合物(6a)(例示化合物No.1)の合成]
非対称ビスアルコキシエナミン化合物(14aa)7.2g(1.0当量)およびエタンチオールナトリウム塩6.39g(7.0当量)をN,N−ジメチルホルムアミド130mlに懸濁させ、窒素ガス気流下、撹拌しながら徐々に加熱すると、130℃で発泡が始まった。発泡がおさまった後、さらに温度を上げて、4時間加熱環流した。室温まで放冷した後、反応混合物を氷水600ml中に注入し、撹拌下に濃塩酸3.2mlを加えて中和した。これを酢酸エチル400mlで抽出し、抽出液を水洗、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過でこれを除去した後、溶媒を留去して粗結晶6.71gを得た。これを、エタノールと酢酸エチルとの混合溶剤(エタノール:酢酸エチル=8:2〜7:3で再結晶を行うことによって、黄色粉末状化合物5.91gを得た。
【0168】
この黄色粉末状化合物の差動熱伝導度法による炭素(C)、水素(H)および窒素(N)同時定量法による元素分析値は以下のとおりであった。
【0169】
<例示化合物No.1の元素分析値>
理論値 C:86.90%、H:5.87%、N:2.20%
実測値 C:86.17%、H:5.24%、N:2.04%
【0170】
また、得られた黄色結晶をLC−MSで分析した結果、目的とする化学構造式(6a)で表される化合物(分子量の計算値:635.28)にプロトンが付加した分子イオン[MH]に相当するピークが636.7に観測された。
【0171】
元素分析および、LC−MSの分析結果から、得られた黄色結晶が、例示化合物No.1の非対称ビスヒドロキシエナミン化合物(6a)であることが判った(収率:85%)。また、LC−MSの分析結果から、得られた化合物(6a)の純度は99.1%であった。
【0172】
(製造例2)芳香族ポリカーボネート(P−1)の合成
水酸化ナトリウム1.62gおよびナトリウムハイドロサルファイト0.075gを水60mlに溶解させた水溶液の中に、製造例1で得られた非対称ビスヒドロキシエナミン化合物(6a)(例示化合物No.1)3.24g(5.0ミリモル)、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール1.48g(6.5ミリモル)および4−tert−ブチルフェノール0.030gを加え、アルゴンガス気流下で撹拌した。この混合液に、氷冷下および激しい撹拌下にトリホスゲン2.11gのジクロロメタン40ml溶液を徐々に滴下し、エマルジョンを形成しながら反応を行った。滴下終了後、反応溶液を室温まで戻し、水酸化ナトリウム0.25gを加え、さらにトリエチルアミンを0.45ml加えた。その後液温を25〜30℃の範囲に保持しながら3時間反応させた。反応終了後ジクロロメタン200mlを加えて有機層を抽出した。この有機層を3%水酸化ナトリウム水溶液、2%塩酸水溶液およびイオン交換水により順次洗浄した後、メタノール中に再沈させ、表10に示す構成単位(1)および構成単位(4)からなる芳香族ポリカーボネート(P−1)4.32gを得た。
【0173】
この芳香族ポリカーボネートの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したところ、数平均分子量28800、重量平均分子量72000(いずれもポリスチレン換算)であった。また、このものの赤外吸収スペクトルには1775cm−1にカーボネートのC=O伸縮振動に基づく吸収が認められた。また、H−NMRの測定によるシグナルの面積比より、例示化合物No.1由来の構成単位(1)と4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール由来の構成単位(4)とが0.35/0.65(モル比)の比率にて重合していることがわかった。
【0174】
(製造例2) 芳香族ポリカーボネート(P−2)の合成
ビスフェノール成分として、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール1.48g(6.5ミリモル)に代えて4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール1.98g(6.5ミリモル)を用いる以外は製造例1と同様にして、表10に示す構成単位(1)および構成単位(4)からなる芳香族ポリカーボネート(P−2)4.47gを得た。
【0175】
この芳香族ポリカーボネートの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したところ、数平均分子量29400、重量平均分子量73500(いずれもポリスチレン換算)であった。また、このものの赤外吸収スペクトルには1775cm−1にカーボネートのC=O伸縮振動に基づく吸収が認められた。また、H−NMRの測定によるシグナルの面積比より、例示化合物No.1由来の構成単位(1)と4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール由来の構成単位(4)とが0.37/0.63(モル比)の比率にて重合していることがわかった。
【0176】
(製造例3) 芳香族ポリカーボネート(P−3)の合成
非対称ビスヒドロキシエナミン化合物として、非対称ビスヒドロキシエナミン化合物(6a)(例示化合物No.1)3.24g(5.0ミリモル)に代えて、表8に記載の例示化合物No.62 3.47g(5.0ミリモル)を用いる以外は、製造例2と同様にして、表10に示す構成単位(1)および構成単位(4)からなる芳香族ポリカーボネート(P−3)4.52gを得た。
【0177】
この芳香族ポリカーボネートの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したところ、数平均分子量26500、重量平均分子量69700(いずれもポリスチレン換算)であった。また、このものの赤外吸収スペクトルには1775cm−1にカーボネートのC=O伸縮振動に基づく吸収が認められた。また、H−NMRの測定によるシグナルの面積比より、例示化合物No.62由来の構成単位(1)と4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール由来の構成単位(4)とが0.40/0.60(モル比)の比率にて重合していることがわかった。
【0178】
(製造例4) 比較用芳香族ポリカーボネート(P−4)の合成
ビスヒドロキシエナミン化合物として、非対称ビスヒドロキシエナミン化合物(6a)(例示化合物No.1)3.24g(5.0ミリモル)に代えて、特開2004−269377号公報記載の下記化学構造式(20)で表される対称ビスヒドロキシエナミン化合物2.92g(5.0ミリモル)を用いる以外は製造例1と同様にして、表1に示す反応を行い、表10に示す対称ビスヒドロキシエナミン化合物(20)由来の構成単位(1’)および構成単位(4)からなる芳香族ポリカーボネート(P−4)3.84gを得た。
【0179】
この芳香族ポリカーボネートの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したところ、数平均分子量28000、重量平均分子量71000(いずれもポリスチレン換算)であった。また、このものの赤外吸収スペクトルには1775cm−1にカーボネートのC=O伸縮振動に基づく吸収が認められた。また、H−NMRの測定によるシグナルの面積比より、対称ビスヒドロキシエナミン化合物(20)由来の構成単位(1’)と4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノールとが0.42/0.58(モル比)の比率にて重合していることがわかった。
【0180】
【化14】

【0181】
【表10】

【0182】
(実施例1)
酸化チタン(商品名:TTO55A、石原産業(株)製)7部および共重合ナイロン樹脂(商品名:CM8000、東レ(株)製)13部を、メチルアルコール159部と1,3−ジオキソラン106部との混合溶剤に加え、ペイントシェーカにて8時間分散処理し、下引層形成用塗布液を調製した。この下引層形成用塗布液を塗布槽に満たし、直径30mm、長さ340mmのアルミニウム製ドラム状支持体を浸漬し、引き上げて自然乾燥して膜厚1μmの下引層を形成した。
【0183】
次いで、CuKα1.541ÅのX線に対するブラッグ角(2θ±0.2°)が、27.3°に主要なピークを示すX線回折スペクトルを有するチタニルフタロシアニン1部およびブチラール樹脂(商品名:#6000−C、電気化学工業(株)製)1部をメチルエチルケトン98部に混合し、ペイントシェーカにて分散処理して電荷発生層形成用塗布液を調製した。この電荷発生層形成用塗布液を、下引層形成の場合と同様の方法で下引層表面に塗布し、自然乾燥して膜厚0.4μmの電荷発生層を形成した。
【0184】
次いで、本発明の芳香族ポリカーボネート(P−1)の21重量%テトラヒドロフラン溶液を調製し、電荷輸送層形成用塗布液とした。この電荷輸送層形成用塗布液を下引層形成の場合と同様の方法で電荷発生層表面に塗布し、110℃で1時間乾燥して膜厚21μmの電荷輸送層を形成し、図6に示すのと同じ積層構造を有する本発明の積層型電子写真感光体を作製した。
【0185】
(実施例2)
本発明の芳香族ポリカーボネート(P−1)に代えて、本発明の芳香族ポリカーボネート(P−2)を用いる以外は、実施例1と同様にして、本発明の積層型電子写真感光体を作製した。
【0186】
(実施例3)
本発明の芳香族ポリカーボネート(P−1)に代えて、本発明の芳香族ポリカーボネート(P−3)を用いる以外は、実施例1と同様にして、本発明の積層型電子写真感光体を作製した。
【0187】
(実施例4)
直径30mm、全長340mmのアルミニウム製ドラム状支持体の表面に、実施例1と同様にして、膜厚1μmの下引層および膜厚0.4μmの電荷発生層を順次形成した。
【0188】
次いで、ブタジエン化合物(21)(1,1−ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−4,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、商品名:T405、(株)高砂ケミカル製)100部、構成単位(22)からなるZ型ポリカーボネート(ユーピロンZ400、三菱ガス化学(株)製)100部および2,6−ビス−tert−ブチル−4−メチルフェノール(商品名:スミライザーBHT、住友化学(株)製)5部を混合し、テトラヒドロフランを溶剤として固形分21重量%の電荷輸送層形成用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を前述の中間層と同様の方法で先に設けた電荷発生層上に塗布した後、110℃で1時間乾燥して膜厚21μmの電荷輸送層を形成した。
【0189】
【化15】

【0190】
次いで、本発明の芳香族ポリカーボネート(P−3)の21重量%テトラヒドロフラン溶液を調製し、表面保護層形成用塗布液とした。この表面保護層形成用塗布液を実施例1における下引層形成の場合と同様の方法で電荷輸送層表面に塗布し、110℃で1時間乾燥して膜厚4μmの表面保護層を形成し、図8に示すのと同じ積層構造を有する本発明の積層型電子写真感光体を作製した。
【0191】
(比較例1)
表面保護層を設けない以外は、実施例4と同様にして、積層型電子写真感光体を作製した。
【0192】
(比較例2)
直径30mm、全長340mmのアルミニウム製ドラム状支持体の表面に、実施例1と同様にして、膜厚1μmの下引層、膜厚0.4μmの電荷発生層および膜厚21μmの電荷輸送層を順次形成した。
【0193】
次いで、Z型ポリカーボネート(商品名:ユーピロンZ800、三菱ガス化学(株)製)の10重量%テトラヒドロフラン溶液を調製し、表面保護層形成用塗布液とした。この表面保護層形成用塗布液を実施例1における下引層形成の場合と同様の方法で電荷輸送層表面に塗布し、110℃で1時間乾燥して膜厚4μmの表面保護層を形成し、図8に示すのと同じ積層構造を有する積層型電子写真感光体を作製した。
【0194】
(比較例3)
電荷輸送層の形成に際し、本発明の芳香族ポリカーボネート(P−1)に代えて、芳香族ポリカーボネート(P−4)を用いる以外は、実施例1と同様にして、積層型電子写真感光体を作製した。
【0195】
(画像評価)
実施例1〜4および比較例1〜3で得られた積層型電子写真感光体を市販複写機(商品名:AR−451N、シャープ(株)製)に搭載し、ハーフトーン画像を確認して、初期および10万枚複写後の画像状態を評価した。
【0196】
また、初期および10万枚複写後に、評価用複写機の現像部位から現像槽を取出し、代わりに表面電位計(商品名:Model344、Trek社製)をセットし、白ベタ原稿複写時の表面電位V0(V)、ハーフトーン原稿複写時の表面電位VH(V)および黒ベタ原稿複写時の表面電位VL(V)を測定し、電気特性を評価した。
【0197】
(耐久性評価)
実施例1〜4および比較例1〜3で得られた積層型電子写真感光体を市販複写機(商品名:AR−451N、シャープ(株)製)に搭載し、1万枚の画像複写を実施した。画像複写前および画像複写後の電子写真感光体におけるドラム支持体上の総膜厚T1およびT2を膜厚測定器(商品名:MCPD1100、大塚電子(株)製)にて測定し、摩耗量ΔT(=T1−T2)を求めた。磨耗量が大きいほど耐久性に劣ると評価した。
結果を表11に示す。
【0198】
【表11】

【0199】
本発明の芳香族ポリカーボネートを電荷輸送層に用いた実施例1〜3および表面保護層に用いた実施例4においては、繰り返し使用(10万枚複写)後も画像状態が良好であり、磨耗も少なかった。
【0200】
これに対し、比較例1では初期は画像状態が良好であったものの、繰り返し使用後には画像にカブリが生じた。また、磨耗も大きく、帯電性の低下も顕著である。比較例2では初期の帯電特性は良好であるけれども、露光により電位が減衰しないため、画像濃度が低く画像が薄い状態であった。さらに繰り返し使用後には、ほとんど画像が出なかった。これは、表面保護層が電荷輸送能を持たず、帯電しても電荷が消去できないためと考えられる。比較例3は、従来技術の芳香族ポリカーボネートを電荷輸送層に用いものであるけれども、該芳香族ポリカーボネートの構成単位(1’)は化学構造的な対象性が高いため、溶解性が低く、溶媒への不溶部分が結晶状態で電荷輸送層中に残り、その部分が画像に黒点として発現したものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0201】
【図1】本発明の他の実施形態である単層型電子写真感光体の要部の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態である単層型電子写真感光体の要部の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態である単層型電子写真感光体の要部の構成を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態である単層型電子写真感光体の要部の構成を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態である積層型電子写真感光体の要部の構成を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態である積層型電子写真感光体の要部の構成を模式的に示す断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態である積層型電子写真感光体の要部の構成を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の他の実施形態である積層型電子写真感光体の要部の構成を模式的に示す断面図である。
【図9】本発明の他の実施形態である画像形成装置の構成を簡略化して示す側面配置図である。
【符号の説明】
【0202】
1 導電性支持体
2,2a 感光層
3 電荷発生層
4 電荷輸送層
5 表面保護層
6 下引層
20 画像形成装置
21 電子写真感光体
24 帯電器
25 現像器
26 転写器
27 クリーナ
28 露光手段
30 転写紙
31 定着器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位を含有する芳香族ポリカーボネート。
【化1】

(式中、ArおよびArは同一または異なって、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよい複素環基を示す。Arは置換基を有してもよいアリーレン基または置換基を有してもよい2価の複素環基を示す。2個のArは同一または異なって、置換基を有してもよいアリーレン基または置換基を有してもよい2価の複素環基を示す。2個のArは同一または異なって、水素原子、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基、置換基を有してもよいアラルキル基または置換基を有してもよいアルキル基を示す。Arは置換基を有してもよいアリーレン基または置換基を有してもよい2価の複素環基を示す。ただし、ArおよびArは同一であってはならない。Rは水素原子または置換基を有してもよいアルキル基を示す。2n個のRおよびRならびに2個のRは同一または異なって、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基または置換基を有してもよいアラルキル基を示す。nは0乃至3の整数を示す。)
【請求項2】
一般式(1)で表される構成単位とともに、下記一般式(4)で表される構成単位を含有することを特徴とする請求項1記載の芳香族ポリカーボネート。
【化2】

(式中、Xは基−Y−Z−または基−Z−Y−を示す。ここで、Yは置換または無置換の鎖状脂肪族2価基、置換または無置換の環状脂肪族2価基、置換または無置換の芳香族2価基、置換または無置換の複素環2価基或いはこれらの2以上を結合してなる2価基を示す。Zは酸素原子または硫黄原子を示す。)
【請求項3】
一般式(1)で表される構成単位が、一般式
【化3】

(式中、ArおよびArは同一または異なって、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよい複素環基を示す。2個のArは置換基を有してもよいアリーレン基または置換基を有してもよい2価の複素環基を示す。Rは水素原子または置換基を有してもよいアルキル基を示す。nは0乃至3の整数を示す。)
であらわされる構成単位であることを特徴とする請求項1または2記載の芳香族ポリカーボネート。
【請求項4】
一般式(1)で表される構成単位が、一般式
【化4】

(式中、ArおよびArは同一または異なって、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよい複素環基を示す。2個のArは置換基を有してもよいアリーレン基または置換基を有してもよい2価の複素環基を示す。Rは水素原子または置換基を有してもよいアルキル基を示す。)
で表される構成単位である請求項1または2記載の芳香族ポリカーボネート。
【請求項5】
一般式(4)で表される構成単位において、Xが、一般式(5)
【化5】

(式中、l個のRおよびm個のRは同一または異なって、水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基、C1〜C4の低級アルコキシ基またはハロゲン原子を示す。Aは単結合、酸素原子、硫黄原子、置換または無置換の鎖状脂肪族2価基、置換または無置換の環状脂肪族2価基、或いはこれらを2種以上結合してなる価基を示す。lおよびmは同一または異なって1〜4の整数を示す。)
で表される二価基であることを特徴とする請求項2〜4記載の芳香族ポリカーボネート。
【請求項6】
導電性支持体上に、請求項1〜5のいずれか1つの芳香族ポリカーボネートを含む感光層を有することを特徴とする電子写真感光体。
【請求項7】
導電性支持体上に、感光層と請求項1〜5のいずれか1つの芳香族ポリカーボネートを含む表面保護層とを有することを特徴とする電子写真感光体。
【請求項8】
請求項6または7の電子写真感光体と、電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電状態にある電子写真感光体を画像情報に応じた光で露光して静電潜像を形成する露光手段と、電子写真感光体に形成される静電潜像を現像して可視像化する現像手段と、現像手段によって現像された可視像を記録媒体上に転写する転写手段とを含むことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−335869(P2006−335869A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161840(P2005−161840)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】