説明

芳香族ポリカーボネートの製造方法

【課題】透明異物の混入が少なく、透明性及び成形外観に優れた、エステル交換法芳香族ポリカーボネートの提供。
【解決手段】触媒存在下、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物とのエステル交換反応によって生成するポリマー融液を、その溶融温度以上に昇温されたリーフディスク型ポリマーフィルターを通してペレット化する方法において、ポリカーボネート中に残存する触媒を中和するために、イオウ含有酸性化合物を添加し、且つ、該ポリマーフィルターへのポリマー融液通液前の、リーフディスクの昇温を不活性ガス雰囲気下で行うことにより、該リーフディスクの絶対濾過精度以上の大きさを有する透明異物が、該ポリカーボネート1g当たり5個以下とすることを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物とのエステル交換法により製造され、透明異物の混入が少ないため透明性、色相に優れた芳香族ポリカーボネートを提供することに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは、耐衝撃性などの機械的特性に優れ、しかも耐熱性、透明性などにも優れており、各種機械部品、光学用ディスク、自動車部品などの用途に広く用いられている。特にメモリー用光ディスク、光ファイバー、レンズなどの光学用途への期待は大きく、種々の研究が盛んになされている。このような光学用途においては、不純物や異物含量の少ないポリカーボネートの出現が特に望まれている。ところで炭酸ジエステル化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物を重縮合させてポリカ−ボネ−トを製造する、いわゆるエステル交換法は、ホスゲン法(界面重合法)に比べて、工程が比較的単純であり、操作、コスト面で優位性が発揮できるだけでなく、毒性の強いホスゲンや、塩化メチレン等のハロゲン系溶剤を使用しないという点において、環境保全の面からも優れている。
【0003】
しかし、エステル交換法による製造では、重合工程で高温、長時間で反応させるため、樹脂の焼けの混入やゲル化等の問題が生じる。このような異物が混入すれば、透明性や成型時の外観が悪化することが知られている。これらの問題を解決するために、種々の提案がなされている。例えば特開平5−239334号公報には、添加剤を添加した後ポリマーフィルターで濾過して異物を除去する方法が開示されている。しかしながら、上記方法は、外部ダストや焼けを取る方法を示したのみで、ポリマーフィルター内で生成する透明異物については触れていない。
【0004】
【特許文献1】特開平5−239334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物とのエステル交換法による芳香族ポリカーボネートの製造において、透明異物の混入が少なく、透明性及び成形外観に優れた芳香族ポリカーボネートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、透明性を低下させ、成型不良を起こし、記録エラーの原因ともなる透明異物について、その生成及び混入の防止策を鋭意検討する過程で、異物を除去するために設置したリーフディスク型ポリマーフィルター内で、新たに透明異物が生成することを見出した。驚くべきことに、生成する異物の中には、使用したリーフディスクの絶対濾過精度以上の大きさを有する透明異物さえあることを見出した。また、リーフディスクの絶対濾過精度以上の大きさを有する透明異物の量をある限度以下にすれば、上記の目的を達成できることを見出した。
【0007】
さらに、本発明者らは、触媒存在下、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物とのエステル交換反応によって生成するポリマー融液を、リーフディスク型ポリマーフィルターに通してペレット化する方法において、ポリカーボネート中に残存する触媒を中和するために、イオウ含有酸性化合物を添加し、且つ、該ポリマーフィルターへのポリマー融液通液前の、リーフディスクの昇温を不活性ガス雰囲気下で行うことにより、透明異物の生成が抑制され、透明性、成形性に優れる芳香族ポリカーボネートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製品中への透明異物の混入を防止し、透明性と成形性に優れたエステル交換法芳香族ポリカーボネートが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。本発明に係わる芳香族ポリカーボネートを製造する原料として、炭酸ジエステル化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物とが用いられる。
【0010】
炭酸ジエステル化合物
炭酸ジエステル化合物は、下記式(1)で表される。
【0011】
【化1】


(式中、A及びA’は、炭素数1〜18の、置換されていてもよい、脂肪族基又は芳香族基であり、AとA’とは、同一でも異なってもよい。)
【0012】
式(1)で表される炭酸ジエステル化合物の具体例としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート及びジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート等があるが、好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートがあり、特にジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステル化合物は、単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。
【0013】
また、上記のような炭酸ジエステル化合物と共に、好ましくは50%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量でジカルボン酸、あるいはジカルボン酸エステルを使用してもよい。このようなジカルボン酸あるいはジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が用いられる。このようなカルボン酸、あるいはカルボン酸エステルを炭酸ジエステル化合物と併用した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0014】
芳香族ジヒドロキシ化合物
もう一つの原料である芳香族ジヒドロキシ化合物は、下記式(2)で示される。
【0015】
【化2】


(式中、Bは、1〜15の炭素数を有する2価の炭化水素基、ハロゲン置換の2価の炭化水素基、−S−基、−SO2 −基、−SO−基、−O−基又は−CO−基を示し、Xは、ハロゲン原子、炭素数1〜14のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数1〜8のオキシアルキル基又は炭素数6〜18のオキシアリール基を示す。mは、0又は1であり、yは、0〜4の整数である。)
【0016】
式(2)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−2,5−ジエトキシジフェニルエーテル等が例示される。これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが好ましい。また、これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で又は2種以上を混合して、用いることができる。
【0017】
炭酸ジエステル化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率は、所望する芳香族ポリカーボネートの分子量と末端ヒドロキシ基量により決められる。末端ヒドロキシ基量は、製品ポリカーボネートの熱安定性と加水分解安定性に大きな影響を及ぼし、実用的な物性を持たせるためには1000ppm以下にすることが必要となる。従って、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して炭酸ジエステル化合物を等モル量以上用いるのが一般的であり、1.01〜1.30モル、好ましくは1.01〜1.20モルの量で用いられるのが望ましい。
【0018】
エステル交換触媒
エステル交換法により芳香族ポリカーボネートを製造する際には、通常エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒としては、主として、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が使用され、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物あるいはアミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能である。これらの触媒は、1種類で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
触媒量は、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、1×10-8〜1×10-5モルの範囲で用いられる。この量より少なければ、所定の分子量、末端ヒドロキシ基量のポリカーボネートを製造するのに長時間必要な重合活性が得られず、この量より多い場合は、ポリマー色相が悪化し、ゲルの発生による異物量も増大する傾向となる。特に、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いる場合、それらの金属量として1×10-8〜2×10-6モルの範囲が好ましく、0.5×10-7〜1×10-6モルの範囲が特に好ましい。
【0020】
アルカリ金属化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩、酢酸塩、リン酸水素塩、フェニルリン酸塩等の無機アルカリ金属化合物や、ステアリン酸、安息香酸等の有機酸類、メタノール、エタノール等のアルコール類,石炭酸、ビスフェノールA等のフェノール類との塩等の有機アルカリ金属化合物等が挙げられる。アルカリ土類金属化合物としては、ベリリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムの水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩、酢酸塩等の無機アルカリ土類金属化合物や、有機酸類、アルコール類、フェノール類との塩等の有機アルカリ土類金属化合物等が挙げられる。
【0021】
塩基性ホウ素化合物の具体例としては、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素、等の水素化物、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、或いはストロンチウム塩等が挙げられる。
【0022】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0023】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0024】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0025】
芳香族ポリカーボネート
本発明の芳香族ポリカーボネートは、二段階以上の多段工程で製造される。一般的には反応温度140〜320℃、反応時間0.1〜5時間、常圧より減圧度を上げながら副生するモノフェノール化合物をラインから連続的に除去しながら反応を行う。必要に応じて窒素等の不活性ガスを流通させることもできる。また、モノフェノール化合物に同伴する原料を反応槽に戻すために分留塔を反応器に付設することもできる。最終的には2mmHg以下の減圧下、250〜320℃の温度で重縮合反応を行い粘度平均分子量10000〜18000、好ましくは14000以上に高分子量化する。分子量が小さすぎると、極端に衝撃強度が低下するなど、機械的強度特性を維持できず、また大きすぎると、後記するように、透明異物量を好ましい範囲まで低減することが極めて困難となる。
【0026】
反応の方式は、バッチ式、連続式、又はバッチ式と連続式の組合せのいずれでもよい。使用する装置は、槽型、管型又は塔型のいずれの形式であってもよく、例えば、各種の撹拌翼を具備した竪型重合槽、横型1軸タイプの重合槽又は/及び横型2軸タイプの重合槽等を使用することができる。
【0027】
反応は、実質的に無酸素下で行われることが好ましく、例えば、運転開始前に原料調整槽、反応器及び配管内を窒素ガス等の不活性ガスで置換しておく。通常、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物との溶融混合物を、竪型反応器に供給する。触媒は、原料とは別のラインで第1反応槽に直接供給してもよいし、第1反応槽に入る手前の配管内で、スタティックミキサー等により原料と混合した状態で供給させてもよい。必要に応じて、触媒を溶解あるいは懸濁するための溶媒が用いられる。好ましい溶媒としては、水、アセトン、フェノール等が挙げられる。
【0028】
重合液供給口は、反応槽側壁液相部にあり、抜き出し口は、反応槽底部にあるのが好ましい。また、各槽から反応液を連続して抜き出す方法は、落差を利用する方法、圧力差を利用する方法、ギアポンプ等の送液ポンプを用いる方法等、反応液の物性に適応した方法で行うのが好ましい。
【0029】
リーフディスク型ポリマーフィルター
重合終了後、製造された芳香族ポリカーボネート融液は、通常、押出機に導入し、後記の各種添加剤を投入後、リーフディスク型ポリマーフィルターを通してペレット化する。所望とあれば、ギヤポンプ等で反応槽から抜き出されたポリマー融液は、直接該ポリマーフィルターを通してペレット化することもできる。
【0030】
本発明で使用するリーフディスク型ポリマーフィルターは、一般的には、ハウジング、センターポスト及び多数枚のリーフディスクからなる。センターポストに装着されるフィルターエレメントである、リーフディスクの枚数は、ポリマーの流量や粘度にもよるが、数枚から数百枚に及ぶ。センターポストへの装着は、例えば、中央に円形の穴を設けたリーフディスクを所定枚数、表面に多数の小貫通孔を設けた円筒形のセンターポストに通し、ディスク間を十分に締め付けることによって行われる。また、ポリマーフィルターの組立は、上記のようにしてリーフディスクを装着したセンターポストを、ハウジング内の所定位置に固定することによって行われる。この種のポリマーフィルターでは、供給されたポリマー融液は、リーフディスクを通って濾別された後、センターポストの貫通孔を経て円筒内の空間を通り、センターポストの一端開口部から排出される構造を有する。なお、センターポスト及びハウジングの材質は、通常、SUS製、内面メッキ等から選ばれる。
【0031】
本発明で用いられるポリマーフィルター用リーフディスクは、通常円板形で、直径100〜600mm程度、厚み5mm程度であり、種々の線径及び開口率を有する織金網を1種以上、1層以上重ねたものが用いられる。織りの種類も、平織、綾織、平畳織、綾畳織等があり、不織布でもよい。材質は、通常、SUS−316やSUS−316L等のステンレス系が用いられるが、燒結金属や樹脂を用いることも可能である。リーフディスクは、また、絶対濾過精度が好ましくは0.5μm〜50μmであり、さらに好ましくは、絶対濾過精度が0.5μm〜20μmである。このような絶対濾過精度のリーフディスクを用いると、濾過滞留時間が長くなってポリカーボネート組成物が熱劣化してしまうようなことがなく、またリーフディスクも長い寿命で使用できるため好ましい。
【0032】
本発明方法において、ポリマーフィルターの温度は、これに通液するポリマーの溶融温度以上、通常、240℃〜320℃に昇温した状態を保つことが重要である。すなわち、溶融温度より低いと、ポリマーがフィルター内部で固化して閉塞したり、溶融粘度が高くなりすぎて剪断発熱による樹脂の劣化の原因となる。また、温度が高すぎるとポリマーの熱劣化が起こり樹脂が劣化する。ポリマーフィルターは、通常、電気ヒーターや熱媒を昇温源に使用する。
【0033】
また、ポリマーフィルターは、その使用に際し、ポリマー融液の通液前に上記の温度に昇温しておくことが必要である。しかも、ポリマーフィルター、特に前記センターポストに装着したリーフディスクの昇温時の雰囲気に使用されるガスは、不活性ガスが好ましく、特にアルゴンや窒素が好ましい。このように、昇温時に不活性ガス雰囲気を使用することで、使用するリーフディスクの絶対濾過精度以上の大きさを有する透明異物の量を、ポリカーボネート1g当たり5個以下にすることができる。この透明異物数が5個/gを超えると、成形時にシルバーの発生率が高くなり、その結果、記録エラーや外観不良といった問題が起こる。しかし、ポリマーフィルターの不活性ガス処理により透明異物数を低減させるためには、ポリカーボネートの粘度平均分子量が18000以下、好ましくは17000以下であることが最も好ましい。この範囲を超える分子量域では、溶融重合に特有の架橋化反応が関与し始め、透明異物数は桁違いに増加することになる。例えば、10μm以上の大きさの透明異物数(y:単位個/g)と総架橋点数(x:単位ppm)との間には、大凡下式で示される関係がある。
y=exp(2.616×10-3x+1.518)
【0034】
また、昇温時に使用する不活性ガスの流速は特に規定は無いが、10ml/min以下であることが好ましく、特に0.2〜10ml/minが好ましい。流速が大きすぎるとポリマーフィルター内の温度が上がらず、溶融樹脂を通液した場合内部で固化し、運転継続が困難となる。また、流速が10ml/min以下でも不活性ガスの温度が低すぎると同様にフィルター内の温度が上がらず、溶融樹脂を通液した場合内部で固化し、運転継続が不可能となる場合がある。そのため、不活性ガスは加熱して使用することが好ましく、不活性ガスの加熱温度は100℃〜300℃の範囲内、特には150〜300℃の範囲内が好ましい。加熱不活性ガスの使用は、ポリマーフィルター表面の安定化及び局所的低温部の解消により、安定なポリマー製造を可能にする。
【0035】
添加剤
本発明に使用される添加剤として、アルカリ金属化合物等の触媒を用いる場合には、ポリカーボネート中に残存する触媒を中和するために、酸性化合物、特にはイオウ含有酸性化合物を、触媒金属に対して0.5〜10当量、好ましくは1〜5当量を添加することができる。すなわち、通常0.01〜20ppm、好ましくは0.1〜10ppm、さらに好ましくは3〜7ppm添加する。
【0036】
イオウ含有酸性化合物の例としては、スルホン酸、スルフィン酸又はそれらのエステル誘導体であり、具体的には、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びドデシルベンゼンスルホン酸、それらのメチル、エチル、ブチル、t−ブチル、オクチル、ドデシル、フェニル、ベンジル、フェネチル等のエステル類、ベンゼンスルフィン酸、トルエンスルフィン酸、ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。これらの化合物の内、p−トルエンスルホン酸のエステル又はベンゼンスルホン酸のエステルが好ましく、これらの化合物を2種以上使用してもよい。さらに、これらの化合物のアルカリ金属塩を、これらの化合物と併用すると、分散性が向上し失活効果が高まるので好ましい。併用する量としては、非アルカリ金属塩に対してアルカリ金属塩を、重量比で0.3〜3倍程度の量用いることが好ましい。
【0037】
イオウ含有酸性化合物のポリカーボネートへの添加方法は、任意の方法により行うことができる。例えば、イオウ含有酸性化合物を、直接又は希釈剤で希釈して、溶融又は固体状態にあるポリカーボネートに添加し、分散させることができる。具体的には、重縮合反応器中、反応器からの移送ライン中、押出機中に供給して混合することができ、通常は押出機中に供給される。また、ミキサー等で、ポリカーボネートや、他種ポリマーのペレット、フレーク、粉末等と混合後、押出機に供給して混練することもできる。これらのうちポリカーボネートのフレークに、イオウ含有酸性化合物の原液を添加し、ミキサー等で混合後、マスターバッチとして添加することが好ましい。さらに、添加の際には、重量フィーダー等を用いて、添加量を精度良く制御することが好ましい。
【0038】
また押出機で、ベントによる減圧処理を行う場合、又は水添加、熱安定剤、離型剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、有機・無機充填剤等を添加する場合は、これらの添加及び処理は、イオウ含有酸性化合物と同時に行ってもよいが、イオウ含有酸性化合物を最初に添加、混練することが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、得られた芳香族ポリカーボネートの分析は下記の測定方法により行った。
【0040】
(1)粘度平均分子量(Mv)
ウベローデ粘度計を用いて、塩化メチレン中20℃の極限粘度[η]を測定し、以下の式より粘度平均分子量(Mv)を求めた。
[η]=1.23×10-4×(Mv)0.83
【0041】
(2)透明異物量
ポリカーボネート樹脂を、窒素雰囲気下、120℃で6時間以上乾燥した後、(株)いすず化工製単軸30mm押出機を用いて、厚み70μmのフィルムを製膜し、90cm×50cm範囲(約4g)を、実体顕微鏡を用いて核のない透明異物(=フィッシュアイ)をマーキングし、大きさと数を測定した。核のない透明異物の平面的境界は周辺との屈折率が異なることによって定め、その大きさは、屈折率の異なる部分の最大距離とした。この大きさが、使用するポリマーフィルターの絶対濾過精度以上である10μm以上の透明異物の数を数え、1g当たりの異物数を算出した。
【0042】
(3)成形外観検査
ポリカーボネート樹脂を、窒素雰囲気下、120℃で6時間以上乾燥させた後、(株)住友重機社製のSD−40型を用いて、320℃の温度でCDディスク盤を成形した。この成形品の表面に、レイボルト社製のAlスパッタを用いて、Al蒸着した後、外観を目視で検査して、シルバーの発生を観察した。ここで、シルバーとは、成形時の線状欠陥の総称であり、その発生は異物全般、成形時の空気の巻き込み等による。従って、シルバーの有無により記録エラーの原因が判定される。
【0043】
実施例1
窒素ガス雰囲気下、ビスフェノールAとジフェニルカーボネートとを、一定のモル比(DPC/BPA=1.065)で混合し、140℃に加熱して、溶融混合物を得た。これを、140℃に加熱した原料導入管を介して、常圧、窒素雰囲気下、210℃に制御した第1竪型撹拌重合槽内に連続供給した。平均滞留時間が60分になるように、槽底部のポリマー排出ラインに設けられたバルブ開度を制御しつつ、液面レベルを一定に保った。また、上記原料混合物の供給を開始すると同時に、触媒として炭酸セシウム水溶液を、ビスフェノールA1モルに対し、0.5×10−6モルの割合で連続供給した。
【0044】
槽底より排出された重合液は、引き続き第2、第3及び第4の竪型撹拌重合槽並びに第5の横型撹拌重合槽に、逐次、連続供給された。反応の間、各槽の平均滞留時間が60分になるように、液面レベルを制御し、また同時に副生するフェノールの留去も行った。第2〜5重合槽の重合条件は、それぞれ、第2重合槽(210℃、13300Pa)、第3重合槽(240℃、1995Pa)、第4重合槽(260℃、67Pa)、第5重合槽(265℃、67Pa)で、反応の進行とともに高温、高真空、低撹拌速度に条件を設定した。ポリカーボネートの製造速度は、50kg/Hrである。こうして得られたポリカーボネートの分子量は、15500であった。
【0045】
次に、溶融状態のままで、このポリマーをギヤポンプにて2軸押出機(L/D=42、バレル温度240℃)に導入し、p−トルエンスルホン酸ブチルを7ppm添加した後、リーフディスク型ポリマーフィルターを通してペレット化した。このポリマーフィルターは、絶対濾過精度10μmの織金網製のリーフディスク135枚をセンターポストに装着したもので、ポリマー融液通液前に、流速5ml/min、36時間、200℃の窒素雰囲気下で電気ヒーターにより280℃までに昇温して、使用した。得られたペレットの透明異物量と成形外観検査の結果を表−1に示した。
【0046】
実施例2
ポリマーフィルターの昇温をアルゴンガス雰囲気下で行った以外は、実施例1と同様な操作を行った。その結果を表−1に示した。
【0047】
比較例1
ポリマーフィルターの昇温を空気雰囲気下で行った以外は、実施例1と同様な操作を行った。その結果も表−1に示した。
【0048】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒存在下、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物とのエステル交換反応によって生成するポリマー融液を、その溶融温度以上に昇温されたリーフディスク型ポリマーフィルターを通してペレット化する方法において、ポリカーボネート中に残存する触媒を中和するために、イオウ含有酸性化合物を添加し、且つ、該ポリマーフィルターへのポリマー融液通液前の、リーフディスクの昇温を不活性ガス雰囲気下で行うことにより、該リーフディスクの絶対濾過精度以上の大きさを有する透明異物が、該ポリカーボネート1g当たり5個以下とすることを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項2】
芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量が、10000〜18000の範囲内にあることを特徴とする請求項1記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項3】
昇温時に使用する不活性ガス流速が、10ml/min以下であることを特徴とする請求項2記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項4】
不活性ガスを加熱して使用することを特徴とする請求項3記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項5】
不活性ガスの加熱温度が、100〜300℃の範囲内であることを特徴とする請求項4記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。

【公開番号】特開2008−169401(P2008−169401A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89505(P2008−89505)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【分割の表示】特願2000−389097(P2000−389097)の分割
【原出願日】平成12年12月21日(2000.12.21)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】