説明

芳香族ポリカーボネートの製造方法

【課題】原料を濾過するフィルターの交換頻度を低減すること。
【解決手段】原料調製槽で調製された溶融状態にある原料を直列に配されたプリーツタイプ等の複数のフィルターを備えたフィルター部20を用いて濾過した後、反応器へ供給する。またフィルターの上流にある側の目開きをAμm、下流側にある側の目開きをBμmとした場合に、少なくとも1つの組み合わせにおいて、A>Bを満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル交換反応による芳香族ポリカーボネートの製造方法に関し、詳しくは、原料を濾過するフィルターの交換頻度が低減される芳香族ポリカーボネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性等の機械的特性に優れ、しかも耐熱性、透明性等にも優れたエンジニアリングプラスチックスとして、OA部品、自動車部品、建築材料等に幅広く用いられている。特に耐衝撃性や透明性等の特性を生かして、光学用材料として光学レンズや記録用ディスク、シート、ボトル等の用途に幅広く使用されている。
【0003】
この芳香族ポリカーボネートの製造方法としては、ビスフェノール化合物等の芳香族ジオールとホスゲンとを原料とした、いわゆる界面法が工業化されている。
しかし、この方法は人体に有害なホスゲンを用いなければならないこと、環境に対する負荷の高いジクロロメタン等の溶剤を必要とすること、また多量に副生する塩化ナトリウムのポリマーへの混入等の問題点が指摘されている。
一方、芳香族ジオールと炭酸ジエステルとを溶融状態でエステル交換し、副生するフェノール等の低分子量物を系外に取り除きながら芳香族ポリカーボネートを得る方法も、いわゆる溶融法として古くから知られている。溶融法は界面法による上記のような問題点もなしに芳香族ポリカーボネートが製造できるという利点がある。
【0004】
ところで、芳香族ポリカーボネートは、上記のように光学用材料として光学レンズや記録用ディスクに用いられ、特にこれらの用途では異物の混入は致命的な問題となる。
芳香族ポリカーボネート中の異物を低減する方法としては、フィルターを用いて異物を濾過し除去した芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを原料として用いる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、原料である芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを混合溶融した後、特定の処理を行ったフィルターを用いて濾過する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
あるいは、フィルターで処理する原料液の流量とフィルターの濾過面積を規定する方法などが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開平5−239334号公報
【特許文献2】特開2003−048975号公報
【特許文献3】特開2002−256071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、原料を濾過するフィルターは時間とともに徐々に閉塞するため、通常、フィルター前後の差圧が一定レベルに達すると、新しいフィルターや洗浄したフィルターに取り替えることが行われている。
しかし、溶融法芳香族ポリカーボネートの原料として用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物や炭酸ジエステル、これらの混合物の融点は、室温よりも大幅に高いため、原料フィルターの交換作業は大きな危険を伴うという問題がある。フィルターの交換頻度を下げるには、単位流量当たりの濾過面積を大きくする方法もあるが、装置が過大になってしまい、フィルター交換作業の危険性をさらに増大させてしまうという問題がある。
上記のような問題は、原料中にエステル交換触媒が含まれていると微量の析出触媒によってさらに深刻となるため、抜本的な解決が求められていた。
【0007】
本発明は、従来の技術が有する上記の問題点に鑑みてなされたものである。
即ち、本発明の目的は、原料を濾過するフィルターの交換頻度を低減することのできる芳香族ポリカーボネートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った結果、原料を濾過するフィルターを複数にすればフィルターの交換頻度を低減できることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成した。
【0009】
かくして本発明によれば、芳香族ジヒドロキシ化合物および炭酸ジエステルを原料として芳香族ポリカーボネートを製造する方法において、溶融状態にある原料を直列に配された複数のフィルターを用いて濾過した後、反応器へ供給することを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造方法が提供される。
【0010】
ここで、原料は、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの混合物であることが好ましく、原料中に更にエステル交換触媒が含有していることが好ましい。
また、フィルターは、上流にある側の目開きをAμm、下流側にある側の目開きをBμmとした場合に、少なくとも1つの組み合わせにおいて、AはBより大きい(A>B)ことが好ましく、Aは最も上流側において8以上であり、かつBは最も下流側において2以下であることが更に好ましい。
そして、フィルターは、少なくとも3基であることが好ましく、フィルターの内、少なくとも1つが、プリーツタイプであることが好ましい。
一方、溶融状態にある原料のフィルターの少なくとも1つのフィルター面での流速が、1m/h〜20m/hであることが好ましく、溶融状態にある原料のフィルター面での流速が、(1)フィルターの目開きが5μm未満である場合は1m/h〜5m/hであること、(2)フィルターの目開きが5μm以上である場合は5m/h〜20m/hであることである条件を満たすことが更に好ましい。
また更に、原料調製槽と反応器との間にスタティックミキサーを更に配し、原料をスタティックミキサーを用いて混合することが好ましく、原料調製槽と反応器との間で、エステル交換触媒を原料中に添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、芳香族ポリカーボネートの製造において、原料を濾過するフィルターの交換頻度を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0013】
(ポリカーボネート樹脂)
本発明において、ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応に基づく溶融重縮合により製造される。
以下、原料として芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを用い、エステル交換触媒の存在下、連続的に溶融重縮合反応を行うことにより、ポリカーボネート樹脂を製造する方法について説明する。
【0014】
(芳香族ジヒドロキシ化合物)
本実施の形態において使用する芳香族ジヒドロキシ化合物としては、下記一般式(1)で示される化合物が挙げられる。
【0015】
【化1】

【0016】
ここで、一般式(1)において、Aは、単結合または置換されていてもよい炭素数1〜炭素数10の直鎖状、分岐状若しくは環状の2価の炭化水素基、又は、−O−、−S−、−CO−若しくは−SO−で示される2価の基である。X及びYは、ハロゲン原子又は炭素数1〜炭素数6の炭化水素基である。p及びqは、0〜2の整数である。尚、XとY及びpとqは、それぞれ、同一でも相互に異なるものでもよい。
【0017】
芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビスフェノール類;4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のビフェノ−ル類;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。
これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(「ビスフェノールA」、以下、BPAと略記することがある。)が好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0018】
(炭酸ジエステル)
本実施の形態において使用する炭酸ジエステルとしては、下記一般式(2)で示される化合物が挙げられる。
【0019】
【化2】

【0020】
ここで、一般式(2)中、A’は、置換されていてもよい炭素数1〜炭素数10の直鎖状、分岐状又は環状の1価の炭化水素基である。2つのA’は、同一でも相互に異なるものでもよい。
なお、A’上の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜炭素数10のアルキル基、炭素数1〜炭素数10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基などが例示される。
【0021】
炭酸ジエステルの具体例としては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが挙げられる。
これらの中でも、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと略記することがある。)、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
また、上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。
代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0023】
これら炭酸ジエステル(上記の置換したジカルボン酸又はジカルボン酸エステルを含む。以下同じ。)は、ジヒドロキシ化合物に対して過剰に用いられる。
即ち、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して炭酸ジエステルのモル比が、好ましくは、1.01以上、特に好ましくは1.02以上、また好ましくは1.30以下、特に好ましくは1.20以下で用いられる。モル比が1.01より小さくなると、得られるポリカーボネート樹脂の末端OH基が多くなり、樹脂の熱安定性が悪化する傾向となる。また、モル比が1.30より大きくなると、エステル交換の反応速度が低下し、所望の分子量を有するポリカーボネート樹脂の生産が困難となる傾向となる他、樹脂中の炭酸ジエステルの残存量が多くなり、成形加工時や成形品の臭気の原因となることがあり、好ましくない。
【0024】
(エステル交換触媒)
本実施の形態において使用するエステル交換触媒としては、通常、エステル交換法によりポリカーボネートを製造する際に用いられる触媒が挙げられ、特に限定されない。一般的には、例えば、アルカリ金属化合物、ベリリウム又はマグネシウム化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物又はアミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。
これらのエステル交換触媒の中でも、アルカリ金属化合物あるいはアルカリ土類金属化合物が本実施の形態の目的とする原料を濾過するフィルターの交換頻度の低減という点では効果が大きい。これらのエステル交換触媒は、1種類で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
エステル交換触媒の使用量は、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、好ましくは1×10−9モル以上、特に好ましくは1×10−7モル以上、また好ましくは、1×10−1モル以下、特に好ましくは1×10−2モル以下の範囲で用いられる。
【0025】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素化合物等の無機アルカリ金属化合物;アルカリ金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等の有機アルカリ金属化合物等が挙げられる。ここで、アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。
これらのアルカリ金属化合物の中でも、セシウム化合物が好ましく、特に、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムが好ましい。
【0026】
ベリリウム又はマグネシウム化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩等の無機アルカリ土類金属化合物;これらの金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等が挙げられる。ここで、アルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。
【0027】
塩基性ホウ素化合物としては、ホウ素化合物のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、ストロンチウム塩等が挙げられる。ここで、ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等が挙げられる。
【0028】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の3価のリン化合物、又はこれらの化合物から誘導される4級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0029】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0030】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン,4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0031】
(芳香族ポリカーボネートの製造方法)
次に、芳香族ポリカーボネートの製造方法について説明する。
芳香族ポリカーボネートの製造は、原料である芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを含む混合物を調製し(原調工程)、これらの化合物の混合物を、エステル交換反応触媒の存在下、溶融状態で複数の反応器を用いて多段階方式で重縮合反応させる(重縮合工程)ことによって行われる。反応方式は、バッチ式、連続式、又はバッチ式と連続式の組合せのいずれでもよいが、生産性や品質安定性の観点からは連続式が好ましい。反応器は、連続式の場合、一般に複数基の直列に配された反応器から構成され、好ましくは複数の竪型反応器及びこれに続く少なくとも1基の横型反応器が用いられる。
重縮合工程後、反応を停止させ反応液中の未反応原料や反応副生物を脱揮除去する工程や、熱安定剤、離型剤、色剤等を添加する工程、ポリカーボネート樹脂を所定の粒径のペレットに形成する工程などを適宜追加してもよい。
次に、製造方法の各工程について説明する。
【0032】
(原調工程)
芳香族ポリカーボネートの原料として使用する芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとは、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、バッチ式、半回分式または連続式の撹拌槽型の装置を用いて、溶融混合物として調製される。溶融混合の温度は、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールAを用い、炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネートを用いる場合は、好ましくは120℃以上、特に好ましくは125℃以上、また好ましくは180℃以下、特に好ましくは160℃以下の範囲から選択される。
この際、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの混合割合は、炭酸ジエステルが過剰になるように調整され、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルの割合は、好ましくは1.01モル以上、特に好ましくは1.02モル以上、また好ましくは、1.30モル以下、特に好ましくは1.20モル以下の割合になるように調整される。
【0033】
(重縮合工程)
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応による重縮合は、通常、2段階以上、好ましくは3段〜7段の多段方式で連続的に行われる。
具体的な反応条件としては、温度:150℃〜320℃、圧力:常圧〜0.01Torr(1.3Pa)、一段当たりの平均滞留時間:5分〜150分の範囲である。
重縮合工程を多段で行う場合の各反応器においては、重縮合反応の進行とともに副生するフェノールをより効果的に排出するために、上記の反応条件内で、通常段階的により高温、より高真空に設定する。尚、得られるポリカーボネート樹脂の色相等の品質低下を防止するためには、できるだけ低温、短滞留時間の設定が好ましい。
【0034】
重縮合工程を多段方式で行う場合は、好ましくは、複数基の竪型反応器および/またはこれに続く少なくとも1基の薄膜蒸発性能に優れた反応器を設けて、ポリカーボネート樹脂の平均分子量を増大させる。反応器は通常3基〜6基、好ましくは4基〜5基設置される。
ここで、薄膜蒸発性能に優れた反応器としては、例えば、薄膜反応器、遠心式薄膜蒸発反応器、表面更新型二軸混練反応器、二軸横型攪拌反応器、濡れ壁式反応器、自由落下させながら重合する多孔板型反応器、ワイヤーに沿わせて落下させながら重合するワイヤー付き多孔板型反応器等が用いられる。
【0035】
尚、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの重縮合に使用するエステル交換触媒は、通常、予め水溶液として準備される。触媒水溶液の濃度は特に限定されず、触媒の水に対する溶解度に応じて任意の濃度に調整される。また、水に代えて、アセトン、アルコール、トルエン、フェノール等の他の有機溶媒を用いることもできる。
触媒の溶解に使用する水としては、含有される不純物の種類ならびに濃度が一定であれば特に限定されないが、通常、蒸留水や脱イオン水等が好ましく用いられる。
【0036】
(製造装置)
次に、図面に基づき、本実施の形態が適用される芳香族ポリカーボネートの製造方法の一例を具体的に説明する。
図1は、芳香族ポリカーボネートの製造装置の一例を示す図である。図1に示す製造装置において、芳香族ポリカーボネートは、原料の芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを調製する原調工程と、これらの原料を溶融状態で複数の反応器を用いて重縮合反応させる重縮合工程とを経て製造される。
その後、反応を停止させ重合反応液中の未反応原料や反応副生物を脱揮除去する工程や、熱安定剤、離型剤、色剤等を添加する工程、芳香族ポリカーボネートを所定の粒径のペレットに形成する工程を経て、ポリカーボネート樹脂のペレットが成形される。
【0037】
原調工程においては、直列に接続した第1原料調製槽2a及び第2原料調製槽2bと、調製した原料を重縮合工程に供給するための原料供給ポンプ4aとが設けられている。第1原料調製槽2aと第2原料調製槽2bとには、例えばアンカー型攪拌翼3a,3bがそれぞれ設けられている。
また、第1原料調製槽2aには、DPC供給口1a−1から、炭酸ジエステルであるジフェニルカーボネート(以下、DPCと記載することがある。)が溶融状態で供給され、BPA供給口1bからは、芳香族ジヒドロキシ化合物であるビスフェノールA(以下、BPAと記載することがある。)が粉末状態で供給され、溶融したジフェニルカーボネートにビスフェノールAが溶解される。
【0038】
図1に示す芳香族ポリカーボネート樹脂の製造装置において、窒素ガス雰囲気下、所定の温度で調製されたDPC溶融液と、窒素ガス雰囲気下で計量されたBPA粉末とが、それぞれDPC供給口1a−1とBPA供給口1bから第1原料調製槽2aに連続的に供給される。第1原料調製槽2aの液面が移送配管中の最高位と同じ高さを超えると、原料混合物が第2原料調製槽2bに移送される。
次に、原料混合物は、原料供給ポンプ4aを経由して第1竪型反応器6aに連続的に供給される。この際に溶融した原料混合物は、フィルター部20を通過し濾過される。また触媒として、炭酸セシウム水溶液が、原料混合物の移送配管途中の触媒供給口5aから連続的に供給される。
なおフィルター部20については後ほど詳述する。
【0039】
第1竪型反応器6aでは、窒素雰囲気下、例えば、温度220℃、圧力13.33kPa(100Torr)、攪拌翼7aの回転数を160rpmに保持し、副生したフェノールを留出管8aから留出させながら平均滞留時間60分〜120分になるように液面レベルを一定に保ち、重縮合反応が行われる。次に、第1竪型反応器6aより排出された重合反応液は、引き続き、第2竪型反応器6b、第3竪型反応器6c、第4横型反応器9aに順次連続供給され、重縮合反応が進行する。各反応器における反応条件は、一般的には重縮合反応の進行とともに高温、高真空、低撹拌速度となるようにそれぞれ設定される。重縮合反応の間、各反応器における平均滞留時間は、例えば、60分程度になるように液面レベルを制御し、また各反応器においては、副生するフェノールが留出管8b,8c,8dから留出される。
【0040】
次に、フィルター部20について詳細に説明する。
図2は、フィルター部20の構成の一例について説明した図である。
図2に示すようにフィルター部20は、直列に接続された3基のフィルター21,22,23から構成される。
ここで、フィルターの上流にある側の目開きをAμm、下流側にある側の目開きをBμmとした場合に、少なくとも1つの組み合わせにおいて、AはBより大きい(A>B)ことが好ましい。この条件を満たした場合は、フィルターがより閉塞しにくくなり、フィルターの交換頻度の低減を図ることができる。
またAおよびBは、Aはその最上流側において好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、Bはその最下流側において好ましくは2以下、更に好ましくは1以下である。AおよびBがこの範囲より過度に外れると異物の除去が不十分になったり、フィルターが閉塞しやすかったりする傾向がある。
【0041】
またフィルターはどのタイプのものでも使用でき、該フィルターを構成する濾材としては、金属ワインド、積層金属メッシュ、金属不織布、多孔質金属板等のいずれでもよいが、濾過精度の観点から積層金属メッシュまたは金属不織布が好ましく、中でも金属不織布を焼結して固定したタイプのものが好ましい。フィルターの形状としては、バスケットタイプ、ディスクタイプ、リーフディスクタイプ、チューブタイプ、フラット型円筒タイプ、プリーツ型円筒タイプ等のいずれの型式であってもよいが、中でもプリーツタイプのものがより好ましい。
【0042】
フィルターの材質についての制限は特になく、金属製、樹脂製セラミック製等を使用することができるが、耐熱性や着色低減の観点からは、鉄含有量80%以下である金属製フィルターが好ましく、中でもSUS304、SUS316、SUS316L、SUS310S等のステンレス鋼製が好ましい。
【0043】
なおここで目開きとは、ISO16889に準拠し測定された下記式(1)で表されるβχ値が1000の場合のχの値を言う。

βχ=(χμmより大きい1次側の粒子数)/(χμmより大きい2次側の粒子数) …(1)
また上流とは、原料混合物の流れる方向に対し原料調製槽側を言い、また下流とは、原料混合物の流れる方向に対し反応器側を言うものとする。
【0044】
また、生産性とフィルター寿命の点から、溶融状態にある原料のフィルター面での流速が、1m/h〜20m/hであることが好ましい。該流速が小さすぎると設備が過大になり、大きすぎるとフィルター寿命が短くなる傾向にある。
また特に、フィルターの目開きが5μm未満である場合は、フィルター面において流速が1m/h〜5m/h、中でも2m/h〜3m/hであり、フィルターの目開きが5μm以上である場合は、フィルター面において流速が5m/h〜20m/h、中でも6m/h〜10m/hであることが好ましい。
本実施の形態におけるフィルターを通過させる際の原料流体の温度に制限はないが、低すぎると原料が固化し、高すぎると熱分解等の不具合があるため、通常100℃〜200℃、好ましくは120℃〜180℃、特に好ましくは125℃〜160℃である。
【0045】
図2に示した通り、スタティックミキサー24を3基のフィルターの前段あるいは後段、好ましくは前段に設けるのがよいが、なくてもかまわない。
フィルターの個数に関しては1基であるとフィルターが短時間の運転で閉塞することが多い。従って本実施の形態においては複数基のフィルターを使用するが、好ましくは3基以上である。この構成を採用することによりフィルターの閉塞が極めて生じにくくなり、フィルターの交換頻度の低減が図れるという優れた効果が生じる。
なお本実施の形態では、フィルター部20により濾過されるのは、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの原料混合物であるが、これらの原料を別々に濾過した後に混合してもよい。
本実施の形態において触媒の添加位置は限定されず、原料調製槽、原料調製槽と反応器の間、反応器の何れで添加してもよいが、添加量の安定化、原料の熱安定性の観点からは図1に示すように原料調製槽と反応器の間で触媒を添加することが好ましく、中でも図1に示すように、上記原料混合物とエステル交換触媒が全て混合した状態でフィルター部20を通過するのが好ましい。
但し、本実施の形態においては、フィルター部の位置は20に限定されるものではなく、溶融状態にある原料が直列に配された複数のフィルターを用いて濾過した後、反応器へ供給されていればよい。
即ち、図1において、20−1、20−2、20の何れの位置にフィルター部を設置してもよく、また、フィルター部の設置箇所が複数であってもよい。あるいは、フィルター部の各フィルターを20−1、20−2、20の複数箇所に渡って設置されていてもかまわない。しかし、反応槽へ移送する直前に異物を除去する観点から20にフィルターが少なくとも1つ設置されていることが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限りこれらの実施例により限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
芳香族ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールAを、炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネートを、ジフェニルカーボネート/ビスフェノールA=1.065(mol/mol)となるように、熱媒ジャケットおよび内部に熱媒コイルを有し、内温が150℃に保持された原料調製槽に連続的に供給し、混合、融解させた。
この原料混合物を原料調製槽の底部にある配管から抜き出し、該配管に炭酸セシウムの水溶液を原料ビスフェノールA1molに対し、炭酸セシウムとして0.5μmolとなるように流量をコントロールして配管で添加し、続いてスタティックミキサーを具備した配管を通じ、3基の直列に配されたフィルターユニットに供給、濾過した。それぞれのフィルターはSUS316製の金属不織布を焼結させたメディアをプリーツ型に加工した構造であり、目開きは上流から順に、10μm、5μm、1μmであった。この時、フィルター面での流速は、上流から順に7m/h、6m/h、2m/hとした。この状態で1年間の連続運転をしたが、フィルターを交換する基準となる差圧まで達することはなかった。
【0048】
(実施例2)
実施例1において、フィルター面での流速が、上流から順に28m/h、10m/h、6m/hになるように設定したこと以外は実施例1と同様に運転を実施した。この状態で連続運転したところ、30日後にフィルターを交換する基準となる差圧に達した。
【0049】
(比較例1)
実施例1において、フィルターを目開き1μmのものを1基だけ用いたこと以外他は実施例1と同様に運転を実施した。2週間でフィルターを交換する基準となる差圧まで達したため、フィルターの交換を実施しなければならなかった。
【0050】
以上、本実施の形態において詳述した芳香族ポリカーボネートの製造方法によれば、原料を濾過するフィルターの交換頻度を低減することができる。その結果、フィルター交換の際の危険度やフィルター交換に伴う運転の停止頻度を低減でき、異物の少ない芳香族ポリカーボネートを安定的に得ることができるという優れた効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】芳香族ポリカーボネートの製造装置の一例を示す図である。
【図2】フィルター部の構成の一例について説明した図である。
【符号の説明】
【0052】
2a…第1原料調製槽、2b…第2原料調製槽、3a,3b…アンカー型攪拌翼、4a…原料供給ポンプ、5a…触媒供給口、6a…第1竪型反応器、6b…第2竪型反応器、6c…第3竪型反応器、7a,7b,7c,10a…攪拌翼、8a,8b,8c,8d…留出管、9a…第4横型反応器、20,20−1,20−2…フィルター部、21,22,23…フィルター、24…スタティックミキサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジヒドロキシ化合物および炭酸ジエステルを原料として芳香族ポリカーボネートを製造する方法において、
溶融状態にある前記原料を直列に配された複数のフィルターを用いて濾過した後、反応器へ供給することを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項2】
前記原料が、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項3】
前記原料中に更にエステル交換触媒を添加し、前記複数のフィルターを用いて濾過することを特徴とする請求項1または2に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項4】
前記フィルターは、上流にある側の目開きをAμm、下流側にある側の目開きをBμmとした場合に、少なくとも1つの組み合わせにおいて、AはBより大きい(A>B)ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項5】
前記Aは最も上流側において8以上であり、かつ前記Bは最も下流側において2以下であることを特徴とする請求項4に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項6】
前記フィルターは、少なくとも3基であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項7】
前記フィルターの内、少なくとも1つが、プリーツタイプであることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項8】
溶融状態にある前記原料の前記フィルターの少なくとも1つのフィルター面での流速が、1m/h〜20m/hであることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項9】
溶融状態にある前記原料の前記フィルター面での流速が、下記(1)および(2)の条件を満たすことを特徴とする請求項8に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
(1)フィルターの目開きが5μm未満である場合は、1m/h〜5m/hであること。
(2)フィルターの目開きが5μm以上である場合は、5m/h〜20m/hであること。
【請求項10】
原料調製槽と前記反応器との間にスタティックミキサーを更に配し、前記原料を当該スタティックミキサーを用いて混合することを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項11】
前記原料調製槽と前記反応器との間で、前記エステル交換触媒を前記原料中に添加することを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−247953(P2008−247953A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87536(P2007−87536)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】