説明

芳香族ポリカーボネートの製造方法

【課題】PL蒸留残渣を所定の場所に送り、これらに含まれる有効成分を完全利用し、全体の効率が向上させることができ、かつ、環境負荷を低減させることができる芳香族ポリカーボネートの製造方法を提供する。
【解決手段】ジフェニルカーボネート製造工程、ビスフェノールA製造工程、芳香族ポリカーボネート製造工程を含む、芳香族ポリカーボネートの製造方法において、PL蒸留工程で生じるPL蒸留残渣を、DPC蒸留工程に送ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、芳香族ポリカーボネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族カーボネート(本特許請求の範囲及び明細書において、「PC」と略する。)は、一般的に、ジフェニルカーボネート(本特許請求の範囲及び明細書において、「DPC」と略する。)、及びビスフェノールA(本特許請求の範囲及び明細書において、「BPA」と略する。)を重合反応して製造される。
【0003】
[副生フェノールの処理]
上記重合反応において、フェノール(本特許請求の範囲及び明細書において、「PL」と略する。)が副生する。この副生PLには、不純物として、DPC、BPA、DPC及びBPAが1〜数分子反応したオリゴマー等が含まれる。この副生PLは、BPA製造工程やDPC製造工程に戻される方法が知られている。
【0004】
すなわち、上記副生PLを、そのまま又は低純度に精製してBPA製造工程に戻す方法が特許文献1に記載されている。得られる副生PLの精製度を低くしてもいいのは、DPCや上記オリゴマーが加水分解されて、PLやBPAとなり、BPA製造工程に混入しても問題ないからである。
【0005】
さらに、上記副生PLを、高純度に精製してDPC製造工程に戻す方法が、特許文献2、特許文献3等に記載されている。得られる副生PLの精製度を高くする必要があるのは、BPA等がDPC製造工程に混入し、閉塞するのを防止するためである。
【0006】
[製造工程間の連携]
また、通常、BPAは、精製された後の溶融状態のものを冷却し、固形状としたものを使用しているが、BPAの製造設備が、PCの製造設備と近接して設けられている場合、上記溶融状態のまま、あるいは、BPAとPLの一定組成の混合溶液のまま、上記PCの製造設備に供して重合を行うと、あらためて加熱したり、精製したりする必要がなくなり、熱効率が向上する。
【0007】
[排液処理]
さらに、上記のDPC及びBPAの製造工程、及びPCの製造工程においては、それぞれ有機物を大量に含む排液が生じる。
【0008】
すなわち、まず、上記PCの製造工程においては、上記DPC及びBPAを原料とし、重合工程を経てPCを製造する主工程において、上記重合工程での蒸発成分を液化して蒸留工程にかけることによってPLを回収した後の蒸留残渣が排液となる。この蒸留残渣には、PL、DPC、BPA、DPC及びBPAが数分子結合したオリゴマー等が含有しており、これらの回収は、PCの収率に大きく影響する。
【0009】
これに対し、上記蒸留残渣を上記重合工程に戻す方法が、特許文献3や特許文献4に開示され、また、上記蒸留残渣を再び蒸留して上記各成分を回収し、回収蒸留残渣を燃料として使用する方法が特許文献1に開示されている。
【0010】
また、上記DPCの製造工程においては、PL及びカルボニル化合物を原料とし、反応工程及び蒸留工程を経てDPCを製造する主工程において、上記蒸留工程で生じる蒸留残渣が排液となる。この蒸留残渣には、DPCが含まれており、この回収は、DPCの収率に大きく影響する。
【0011】
これに対し、上記蒸留残渣を再度蒸留し、DPCを回収し、これを上記反応工程終了後の反応液に戻す方法が、特許文献5に開示されている。
【0012】
さらに、特許文献6に記載されているように、上記BPAの製造工程においては、PL及びアセトンを原料とし、合成反応工程、晶析工程、及び固液分離工程を経てBPAを製造する主工程において、上記固液分離工程から分離された母液には、多量のPL及びBPAの他、2,4−異性体、トリスフェノール類、クロマン化合物等の副生物を含み、さらに、少量の着色不純物や着色性不純物を含む。そして、この母液は、BPAの反応原料となるPLやBPAを含むことから、全工程に循環して再使用されるが、処理をせずに全量を循環すると、前記副生物や、着色不純物及び着色性不純物の蓄積が起こることから、それらの副生物や不純物の除去が必要となる。
【0013】
[真空装置]
また、DPCを製造する工程においては、還流させつつDPCを蒸留して精製し、PCを製造する工程においては、PLをDPCと蒸留分離しながら除去する。これらの蒸留操作は、蒸留温度を下げるために、真空設備を設けて減圧下で行われる(特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2000−53759号公報
【特許文献2】特開平10−60106号公報
【特許文献3】特開平9−255772号公報
【特許文献4】特開平9−165443号公報
【特許文献5】特開2002−322130号公報
【特許文献6】特開平5−331088号公報
【特許文献7】特開平9−38402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
[副生フェノールの処理、3つの製造工程統合時の問題]
しかしながら、上記の場合は、いずれも、BPA、DPC等、水以外の不純物の含有量に注目しているものの、水の含有量については検討されていない。重合原料であるDPCやBPC、特に、いったん固形化して保持されたものを使用すると、原料に含まれる水分や、更には重合触媒とともに供給される水分が副生フェノールに同伴される。水の存在は、BPA製造工程においては、触媒の活性低下を引き起こし、反応転化率を低下させる。また、DPC製造工程においては、触媒の活性低下につながると共に、製造されるDPCの加水分解につながる。
【0016】
さらに、上記PC重合工程で生じる副生フェノールには、上記の不純物が含まれる。これらの副生物には、DPC製造工程に送られても問題ないが、BPA製造工程に送られると問題となる不純物や、これと逆の場合の不純物が含まれる。
【0017】
さらにまた、上記の通り、PC重合工程で留出するフェノールを主成分とする留出成分からは、水分除去のための工程が必要となる。ところが、DPC製造工程、BPA製造工程及びPC製造工程を1カ所にまとめた場合においては、BPA製造工程にも水分除去のための工程を有するので、同様の工程が重複して存在することとなる。
【0018】
[製造工程間の連携]
また、BPAの製造工程の、得られたBPAを晶析する工程において、使用される晶析装置等の接液部に固体の付着が生じやすく、数ヶ月に1度は、この工程を停止させて、掃除をする必要がある。このため、BPAの製造工程の、合成反応工程から晶析工程に至る工程は、断続的な運転となる。
【0019】
これに対し、DPC製造工程においては、上記のような問題はなく、連続的にDPCを製造することができる。このため、BPAを溶融状態のまま、必要量貯蔵することにより、PCを連続的に重合することが可能となる。
【0020】
しかし、BPAを溶融状態で保持すると、黄変、分解等が生じやすく、得られるPCの品質に影響を与えることとなる。
【0021】
[排液処理]
さらに、上記PCの製造工程における蒸留残渣にはPLが含有されているため、その全てを重合工程に戻すと、重合開始当初からPLが存在することとなり、初期の重合速度に影響を与える。さらに、PCの製造工程における蒸留残渣は、一般的に着色しており、そのままリサイクルしたのでは、製品のPCの着色を招くこととなる。また、上記蒸留残渣を再度蒸留しても、その回収蒸留残渣にも多少の上記各成分が含まれるので、そのまま廃棄処分するのは、製造効率に影響すると共に、環境負荷の問題が生じる。
【0022】
また、上記DPCの製造工程における蒸留残渣は、そのまま廃棄処理がされている。この蒸留残渣には、DPCがまだ含まれており、そのまま廃棄処分するのは、製造効率に影響すると共に、環境負荷の問題が生じることがある。
【0023】
[真空装置]
さらにまた、減圧下で蒸留すると、PLやDPC等の留出成分が、真空設備に引っ張られて、真空設備に連結される配管の途中に液溜まりを生じたり、この溜まった留出成分が固まったりして、真空状態を維持できなくなる場合がある。また、留出したPLやDPC等の留出成分をポンプによって還流させる場合、還流用の配管内で留出成分が固化するなどの原因によって詰まるおそれもあった。
【0024】
そこでこの発明は、副生フェノールの対処法として、PC製造工程において生じる副生PLの含水率を所定範囲内に限定することにより、送られるBPA製造工程及びDPC製造工程での製造効率を保持し、全体として、PCの製造効率を保持することを目的とする。
【0025】
さらに、芳香族ポリカーボネート重合工程で生じる副生フェノールに含まれる不純物にあわせて、ジフェニルカーボネート製造工程又はビスフェノールA製造工程に送ることにより、副生フェノールの精製処理を省力化することも目的とする。
【0026】
さらにまた、3つの製造工程統合時の問題においては、既存のジフェニルカーボネート及びビスフェノールAを製造するために用いられる工程を利用することにより、芳香族ポリカーボネート重合工程で生じるフェノールを主成分とする留出成分の精製処理を省力化することも目的とする。
【0027】
また、製造工程間の連携については、十分な品質を有するPCの製造方法を提供できる製造工程間の連携方法を提供することを目的とする。
【0028】
さらに、排液処理法として、DPC製造工程における蒸留残渣、及びPC製造工程における蒸留残渣を、PCを製造する各工程の特定位置に戻すことにより、全体の効率を向上させ、かつ、環境負荷を低減させることを目的とする。
【0029】
さらにまた、蒸留工程については、PLやDPCが留出する装置において、配管内で液溜まりや固化を生じにくくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
この発明は、副生フェノールの対処法として、フェノール(PL)及びカルボニル化合物を原料とし、ジフェニルカーボネート(DPC)を製造するジフェニルカーボネート(DPC)製造工程、及び/又は、フェノール(PL)及びアセトンを原料としてビスフェノールA(BPA)を製造するビスフェノールA(BPA)製造工程、並びに、上記ジフェニルカーボネート(DPC)及びビスフェノールA(BPA)を原料とし、PC重合工程を経て芳香族ポリカーボネート(PC)を製造すると共に、副生フェノールを回収する芳香族ポリカーボネート(PC)製造工程を含む、芳香族ポリカーボネート(PC)の製造方法において、上記芳香族ポリカーボネート(PC)製造工程で回収される副生フェノール中に含まれる水分量を、0.2重量%以下として、上記ジフェニルカーボネート(DPC)製造工程、及び/又はビスフェノールA(BPA)製造工程の原料の一部として用いることを特徴とする。
【0031】
また、上記ジフェニルカーボネート(DPC)製造工程で原料として使用されるフェノールとして、クレゾール及び/又はキシレノールを20〜1000重量ppm含有するフェノール(PL)を用い、上記ビスフェノールA(BPA)製造工程で原料として使用されるフェノールの少なくとも一部として、上記芳香族ポリカーボネート(PC)製造工程の重合工程で生じるフェノール(PL)を用いることができる。
【0032】
さらに、上記芳香族ポリカーボネート製造工程で副生するフェノールのうち、50〜95重量%を上記ジフェニルカーボネート製造工程で使用するフェノールの少なくとも一部として使用し、かつ、50〜5重量%を上記ビスフェノールA製造工程の原料の少なくとも一部として使用することを特徴とする。
【0033】
また、各工程の連携については、上記PL蒸留工程の前及び/又は後に、上記PL蒸留工程にかける前のPC蒸発成分の液化物、及び/又は上記PL蒸留工程で回収された副生フェノールを貯蔵するPC貯蔵工程を設けること、上記DPC蒸留工程の後に、このDPC蒸留工程で得られたジフェニルカーボネートを貯蔵するDPC貯蔵工程を設けること、及び/又は上記BPA晶析・分離工程と、上記PC重合工程との間に、ビスフェノールAとフェノールとの混合物を貯蔵するBPA貯蔵工程を設けることを特徴とし、必要に応じて、各貯蔵工程に用いられる貯蔵タンクの容量を、下記のように規定することを特徴とする。
【0034】
・10≦(Vc/Fc)≦100 (1)
(なお、式(1)において、Vcは、PC貯蔵タンクの容量(m)を示し、Fcは、PC蒸発成分の液化物又は副生フェノールの供給速度(m/hr)を示す。)
・10≦(Vd/Fd)≦100 (2)
(なお、式(2)において、Vdは、DPC貯蔵タンクの容量(m)を示し、Fdは、ジフェニルカーボネートの供給速度(m/hr)を示す。)
・10≦(Vb/Fb)≦1000 (3)
(なお、式(3)において、Vbは、BPA貯蔵タンクの容量(m)を示し、Fbは、PC重合工程に供されるビスフェノールAの供給量(m/hr)を示す。)
【0035】
さらに、排液処理法として、PL蒸留残渣を、DPC蒸留工程及び/又はDPC回収蒸留工程に送ったり、PL蒸留残渣並びに/又はDPC蒸留残渣及び/若しくはDPC回収蒸留残渣を、上記BPA母液処理工程に送ったり、PL蒸留残渣を、上記DPC蒸留工程及び/又はDPC回収蒸留工程に送り、次いで、DPC蒸留残渣及び/又はDPC回収蒸留残渣を、上記BPA母液処理工程に送ることを特徴とする。
【0036】
さらにまた、蒸留工程については、DPC蒸留工程又はPL蒸留工程の蒸留塔に、留出する物質を凝縮する凝縮器、系内を減圧にする真空設備、及び、上記凝縮器と上記真空設備とを繋ぐ真空配管を設け、上記真空配管は、上記凝縮器側から上記真空設備側へ向かって下向きの傾斜を有しており、かつ、上記凝縮器側から上記真空設備側へ向かって上方に立ち上がる部分の高さの合計が1m以下とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
この発明によると、副生フェノールの含水量を所定範囲に限定するので、この副生フェノールをジフェニルカーボネート製造工程や、ビスフェノールA製造工程の原料の一部として使用しても、製造効率の低下は少なく、ほぼ保持される。
【0038】
さらに、芳香族ポリカーボネート製造工程の重合初期に回収される副生フェノールに含まれる不純物は、ジフェニルカーボネート製造工程における原料及び生成物であるので、これらの不純物を含む副生フェノールは、精製することなく、ジフェニルカーボネート製造工程に使用されるフェノールの少なくとも一部として使用することができる。
一方、芳香族ポリカーボネート製造工程の重合後期に回収される副生フェノールに含まれる不純物は、ビスフェノールA製造工程で加水分解され、この製造工程での原料及び生成物となり、かつ、ビスフェノールA製造工程での触媒活性低下原因となるアルコール類等がほとんど含まれないので、これらの不純物を含む副生フェノールは、精製することなく、ビスフェノールA製造工程に使用されるフェノールの少なくとも一部として使用することができる。
【0039】
さらにまた、ジフェニルカーボネート製造工程、ビスフェノールA製造工程、芳香族ポリカーボネート製造工程を統合的に運用することにより、ジフェニルカーボネートの製造原料として市販のフェノールを、ビスフェノールAの製造原料として、芳香族ポリカーボネート製造工程の重合工程で生じる留出成分を用いることが可能となる。
【0040】
また、上記PL蒸留工程の前及び/又は後に、上記PL蒸留工程にかける前のPC蒸発成分の液化物、及び/又は上記PL蒸留工程で回収された副生フェノールを貯蔵するPC貯蔵工程を設ける場合、上記DPC蒸留工程の後に、このDPC蒸留工程で得られたジフェニルカーボネートを貯蔵するDPC貯蔵工程を設ける場合、及び/又は上記BPA晶析・分離工程と、上記PC重合工程との間に、ビスフェノールAとフェノールとの混合物を貯蔵するBPA貯蔵工程を設ける場合、各工程で得られる化合物の品質を一定の範囲に保持することができ、かつ、前工程の都合にかかわらず、後工程を連続的に行うことができる。
【0041】
さらに、PL蒸留残渣、DPC蒸留残渣、及び/又はDPC回収蒸留残渣を所定の場所に送る場合、これらに含まれる有効成分を完全利用することができるので、全体の効率が向上させることができ、かつ、環境負荷を低減させることができる。
【0042】
さらにまた、凝縮器から真空設備へ繋がる真空配管の、傾斜とは上下の向きが逆に立ち上がる部分の高さの合計が1m以下とする場合、立ち上がる部分に溜まる液体分及び固体分を最小限に抑え、配管が完全に閉塞したり、圧力損失が大きくなりすぎたりすることを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明に係るDPC製造工程のフローの例を示す工程図
【図2】この発明に係るBPA製造工程のフローの例を示す工程図
【図3】この発明に係るBPA製造工程の水分離工程(工程(b−2))のフローの例を示す工程図
【図4】この発明に係るBPA製造工程の母液処理工程(工程(g))のフローの例を示す工程図
【図5】この発明に係るPC製造工程のフローの例を示す工程図
【図6】この発明に係るPC製造工程の他のフローの例を示す工程図
【図7】この発明にかかるDPC製造工程、BPA製造工程、及びPC製造工程にDPC貯蔵工程、BPA貯蔵工程、及び/又はPC貯蔵工程を設けた場合のフローの例を示す工程図
【図8】この発明にかかるDPC製造工程、BPA製造工程、及びPC製造工程において、PL蒸留残渣(X2)、DPC蒸留残渣(X1)、及び/又はDPC回収蒸留残渣(X1’)を所定工程に送ることを示したフローの例を示す工程図
【図9】この発明にかかる真空装置のフローの例を示す工程図
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、この発明の実施形態について詳細に説明する。
この発明にかかる芳香族ポリカーボネート(PC)の製造方法は、ジフェニルカーボネート(DPC)及びビスフェノールA(BPA)を重合させて製造する方法である。
【0045】
[DPC製造工程]
DPCは、PL及びカルボニル化合物を原料として製造される。このカルボニル化合物は、DPCのカルボニル基を形成することができれば、制限なく用いられる。このようなカルボニル化合物の例としては、ホスゲン(以下、「CDC」と略する。)、一酸化炭素、炭酸ジアルキル等があげられる。以下において、カルボニル化合物としてCDCを用い、反応後にDPC洗浄工程及びDPC蒸留工程を経て、DPCを製造する工程について説明する。
【0046】
上記DPC製造工程は、図1に示すプロセスから構成される。すなわち、原料として、PL、CDCを用い、これとピリジン等のアルカリ系触媒(C1)とをDPC反応器1に導入するDPC反応工程を行う。このときの反応条件は特に限定されないが、PLが溶融状態にある50〜180℃、常圧下が好ましい。また、PLとCDCの混合比(モル比)は、CDCの完全消費の観点から、PL1モルに対して、0.40〜0.49モルが好ましい。
【0047】
上記DPC反応工程で製造されたDPC含有反応液aは、脱塩酸塔2に送られ、脱塩酸工程が行われる。DPC反応器1及び脱塩酸塔2で生じた塩酸ガス(D1)は、回収され、塩酸処理工程(図示せず)に送られる。
【0048】
次いで、得られた脱塩酸処理液bは、DPC洗浄工程に付される。このDPC洗浄工程は、下記の中和工程及び水洗工程から構成される。すなわち、上記脱塩酸処理液bは、混合槽3に送られ、次いで、アルカリ中和槽4に送られ、アルカリ性水溶液(E1)で上記脱塩酸塔で除去しきれなかった塩酸を中和する中和工程が行われる。ここで排出される中和排水(D2)は、排水処理工程(図示せず)に送られ、含有する有効な有機成分を回収した後、活性汚泥処理に付される。
【0049】
そして、得られた中和処理液eは、水洗槽5に送られ、水(W)で水洗するDPC水洗工程が行われる。このDPC水洗工程で排出される排水(D3)は、前記中和工程のアルカリ性水溶液(E1)を調整する際のアルカリ希釈剤として再利用することが可能である。
【0050】
上記DPC水洗工程で得られた水洗処理液fは、蒸留塔に送られ、DPC蒸留工程が行われる。図1においては、3つの蒸留塔が用いられるが、これに限られるものではない。3つの蒸留塔を用いる場合、第1DPC蒸留塔6で水、PL及びアルカリ系触媒を含有する混合ガス(F)を回収する。この混合ガス(F)は、各成分を分離して、反応系に再利用することができる。
【0051】
そして、上記第1DPC蒸留塔6の第1蒸留残渣gを第2DPC蒸留塔7で再蒸留し、製品である精製されたDPCを蒸留分として回収する。
【0052】
上記第1DPC蒸留塔6での蒸留条件としては、水、アルカリ系触媒、PLが蒸留され、DPCが残留する条件であれば特に限定されるものではなく、1.3〜13kPaが好ましい。温度はその圧力下での沸点となる。また、上記第2DPC蒸留塔7での蒸留条件としては、DPCが蒸留され、DPCより高沸の不純物が残留する条件であれば特に限定されるものではなく、1.3〜6.5kPaで、150〜220℃が好ましい。
【0053】
ところで、第2DPC蒸留塔7でのDPC蒸留残渣X1には、フェノール含有不純物であるメチルフェノールが反応したDPCのメチル置換体、CDC中の残留臭素が反応したDPCの臭素置換体を中心とする不純物が含有するが、DPCそのものも含有する。このため、このDPC蒸留残渣X1を再び蒸留し、ジフェニルカーボネート(DPC)を回収してもよい。この場合、図1に示すように、DPC蒸留残渣X1を、DPC回収蒸留塔8を用いて回収蒸留工程にかける。これにより、DPC含有回収液dを蒸留回収することができる。そして、上記のDPCのメチル置換体や臭素置換体が濃縮されたDPC回収蒸留残渣(X1’)が蒸留釜残側から回収される。
【0054】
上記DPC回収蒸留塔8での蒸留条件としては、DPCが蒸留され、DPCより高沸の不純物が残留する条件であれば特に限定されるものではなく、1.3〜6.5kPa、150〜220℃が好ましい。
【0055】
そして、上記DPC回収蒸留塔からの留出物であるDPC含有回収液dは、DPCを多く含む成分であるので、これを、混合槽3に送ることにより、洗浄・蒸留工程に再投入することができ、ジフェニルカーボネート(DPC)の回収効率をより向上させることができる。
【0056】
[BPA製造工程]
BPAの製造工程は、図2示すプロセスから構成される。すなわち、原料としてPL及びアセトン(A)を用い、BPA反応工程(工程(a))、BPA低沸除去工程(工程(b))、BPA晶析・分離工程(工程(c))、加熱溶融工程(工程(d))、PL除去工程(工程(e))、造粒工程(工程(f))を経由してBPAが製造される。
【0057】
次に、各工程についてそれぞれ説明する。
上記工程(a)は、PLとアセトン(A)とを酸性触媒の存在下で、縮合反応させてBPAを生成させる工程である。ここで用いる原料のPL及びアセトン(A)は、化学量論量よりもPLが過剰な条件で反応させる。PLとアセトン(A)とのモル比は、PL/アセトン(A)の比として3〜30、好ましくは5〜20の範囲である。反応温度は通常30〜100℃、好ましくは50〜90℃、反応圧力は、一般に常圧〜5kg/cm・Gで行われる。
【0058】
上記酸性触媒としては、塩酸等の無機酸や有機酸、イオン交換樹脂等を用いることができる。上記酸性触媒としてイオン交換樹脂を用いる場合、ゲル型で架橋度が1〜8%、好ましくは2〜6%のスルホン酸型陽イオン交換樹脂が適しているが、特に限定されるものではない。また、酸触媒として塩酸を用いてもよい。
【0059】
上記スルホン酸陽イオン交換樹脂は、そのままでも用いられるが、必要に応じて、変性させたスルホン酸陽イオン交換樹脂を用いることができる。上記変性に要される化合物としては、メルカプト基を有する化合物等があげられる。
【0060】
上記メルカプト基を有する化合物としては、2−アミノエタンチオール等のアミノアルカンチオール、2−(4−ピリジル)エタンチオール等のω−ピリジルアルカンチオール、加水分解等により容易にメルカプト基を発現する2,2−ジメチルチアゾリジン等のチアゾリジン類等、従来からこの用途に用い得ることが知られている任意のものを用いることができる。
【0061】
上記工程(a)で生成する反応混合物中には、一般にBPAの他に、未反応PL、未反応アセトン(A)、触媒、反応生成水(W)及び着色物質等の副生物が含まれる。
【0062】
上記工程(b)は、上記工程(a)で得られる反応混合液からBPA低沸点成分と塩酸等の触媒とを除去する工程である。ここでいうBPA低沸点成分とは、反応生成水(W)、未反応アセトン(A)、及びこれらと沸点が近いものである。この工程では、上記反応混合物からこれらの低沸点成分を例えば減圧蒸留等により除去し、また触媒等の固体成分は濾過等によって除かれる。なお、固定床触媒反応器を用いる場合は脱触媒の必要は特にない。減圧蒸留は圧力50〜300mmHg、温度70〜130℃の範囲を用いるのが好ましく、未反応PLが共沸してその一部が系外へ除かれることもある。
【0063】
上記工程(b)で留去されたBPA低沸留去分(D4)は、水、少量のアセトン(A)、フェノール(PL)等を含む。このBPA低沸留去分(D4)は、図3に示すように、PL分離塔12に送られ、必要に応じて抽剤を用いて、塔底よりPLを回収する水分離工程(工程(b−2))を行う。この水分離工程で得られたPL回収液kは、BPA用回収PLタンク11に回収する。そして、上記PL分離塔12の塔頂より回収した水・アセトン混合物AWは、別途処理される。
【0064】
上記工程(c)は、上記工程(b)で得られた混合液を冷却し、BPAとPLとの混合物を析出させて分離する工程である。この工程(c)に先立って、上記工程(b)で得られた混合液中のBPAの濃度を、PLを留去又は追加することにより、BPAの濃度を10〜50重量%、好ましくは20〜40重量%に調整しておくと、上記付加物の収率を高め、かつスラリー状の混合液の見掛けの粘度を調節して、作業性を改良する上で好ましい。なお、上記のBPAとPLとの混合物としては、BPAとPLとの付加物結晶、BPA結晶とPL結晶との単純混合物があげられる。
【0065】
上記工程(c)における冷却は、一般に45〜60℃の温度まで行われ、これによって、BPAとPLとの付加物結晶又は各結晶が析出し、系はスラリー状になる。この冷却は、外部に設けた熱交換器や晶析機に加えられる水の蒸発潜熱による除熱によって行われる。次に、このスラリー状の液を、ろ過、遠心分離等により結晶と反応副生物を含む母液とに分離し、結晶を次工程に供する。分離された母液の一部又は全部は、後述するBPA母液処理工程(g)を経由して、工程(a)にリサイクルして、原料として使用されるPLの一部又は全部として用い、更に反応収率の向上を図る。
【0066】
上記工程(d)は、上記工程(c)で得られた結晶を加熱溶融する工程である。この付加物結晶の組成は、BPAが45〜70重量%、PLが55〜30%の範囲にあるのが一般的である。この結晶を100〜160℃に加熱することにより溶融して次工程に供する。
【0067】
上記工程(e)は、上記工程(d)で得られた溶融液からPLを除去して溶融BPAを得る工程である。工程(d)で得られた溶融液から、減圧蒸留等の方法によってPLを除去することにより付加物を解離させて、高純度のBPAが回収できる。この減圧蒸留は、圧力10〜100mmHg、温度150〜220℃の範囲で、かつ系内に存在するビスフェノールA(BPA)とフェノール(PL)との混合液の融点より少なくとも10℃高い温度で行うのが好ましい。減圧蒸留に加えてスチームストリッピングを行って、残存するPLを除去する方法も提案されている。
【0068】
上記工程(f)は、上記工程(e)で得られた溶融状態のBPAを冷却・固化し、造粒して粒状の製品を得る工程である。溶融状態のBPAは、例えばスプレードライヤー等の造粒装置により液滴にされ、冷却固化されて製品となる。この液滴は、噴霧、滴下、散布等により調製され、冷却は通常窒素あるいは空気等によって行われる。
【0069】
このBPAの製造工程、特に、上記工程(a)において、BPA以外に、2,4’−ビスフェノールA等の副生物(以下、「BPA副生物」と称する。)も同時に合成される。そして、このBPA副生物は、主として、上記工程(c)の母液に含有され、上記BPAの製造工程を循環する。このため、上記BPA副生物がこの循環系内で蓄積する傾向にあり、ある程度以上の蓄積が生じると、上記工程(c)での分離が不十分となり、BPA側に付随してしまい、結果として、製品BPAの品質を低下させる傾向がある。このため、上記工程(c)の母液の一部又は全部を、BPA母液処理工程(工程(g))にかけることにより、上記母液中の上記BPA副生物を分離・除去して減少させ、これをBPA製造原料として用いることにより、製品BPAの品質を保持することができる。
【0070】
上記工程(g)は、蒸留によりPLを回収する方法、又は、母液を塩基性物質の存在下で加熱してこの母液中のBPA副生物を分解して、PL及びPL誘導体を生じさせ、次いで、これを、酸触媒又はアルカリ触媒を用いて反応させてBPAを製造し、これを回収する方法である。
【0071】
具体的には、図4に示すように、まず、上記母液の一部又は全部をPL蒸発器13に導入し、同時に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性物質を導入する。次いで、PLの沸点以上に加熱して蒸発させ、PLをPL蒸発器13の上部から抜き出す。そして、PL蒸発器13の下部から上記BPA及びBPA副生物を主成分とする蒸発残渣を残渣反応器14に送り、180〜300℃の熱をかけることにより、上記BPA及びBPA副生物に分解反応を生じさせ、BPAの反応中間体であるイソプロペニルフェノール等の分解物を得、これを塔頂から蒸留留去させる。また、この残渣反応器14で生じた釜残分は、有機分を大量に含む排液として、焼却処理等の排液処理工程(図示せず)に送られる。
【0072】
上記BPA副生物の分解物であるPL及びPL誘導体は、残渣反応器14の上部より留去されて再生反応器15に送られるが、残渣反応器14の上部より取り出す際、上記PL蒸発器13の上部から抜き出されたPLと混合させる。これにより、PL誘導体の濃度が希釈されて、好ましくない副反応が生じるのを抑えることができる。
【0073】
次いで、再生反応器15において、上記BPA副生物の分解物であるPL及びPL誘導体を、酸触媒を用いて、再度、反応させることにより、BPA等を生成させる。これは、未反応のPLと共に、上記原料として使用されるPLに混合されて、工程(a)に送られる。上記BPAは、そのまま、工程(c)を経て回収され、PLは、原料として使用されるので、BPAの製造効率を高めることができる。
【0074】
[PC製造工程]
上記PCの製造工程は、図5に示すプロセスから構成される。すなわち、原料として、上記の方法で製造されたDPC及びBPAを用い、これとアルカリ水溶液等の塩基性触媒(C2)とを混合槽21に導入して混合し、次いで重合槽に送ってPC重合工程を行う。上記重合槽は、重合で副生するフェノールを留出させながら縮重合が行うことができるものであれば、特に制限はなく、縦型槽、横型槽、塔形式の槽の何れの槽であってもよい。
【0075】
さらに、上記重合槽の数は、特に限定されないが、重合反応が脱フェノールを行いながらの縮重合であるので、重合度に併せて重合条件をかえることを可能とするため、複数の重合槽を用いるのが好ましい。図5においては、縦型重合槽を3つ(第1重合槽22,第2重合槽23,第3重合槽24)、及び横型重合器を1つ(第4重合器25)を直列に連結した重合槽群を示した。この場合の重合条件としては、例えば、第1重合槽22において、200〜250℃で50から200Torr、第2重合槽23において、230〜280℃で10から50Torr、第3重合槽24において、250〜300℃で0.2から5Torr、第4重合器25において、260〜320℃で0.05から2Torrとすることができる。このようにすると、重合が進行するにつれて副生フェノール(以下、「s−PL」と略する。)が留去され、所望の重合度のPCを得ることができる。
【0076】
上記PC重合工程において生じたs−PLを主成分とするPC蒸発成分pは、熱交換器26,27やコンデンサ28によって液化され、PC用回収PLタンク29に送られる。そして、残りの排ガス(D5)は、真空設備側に吸引されて、処理工程(図示せず)に送られる。
【0077】
上記PC重合工程で製造されたPCは、押出機32に送られる。ここで、含有する揮発分を排ガス(D5)として除去すると共に、酸Iや各種添加剤Jを加えて、触媒の中和等が行われる。そして、ペレット化等の処理(図示せず)が行われ、製品としてのPCが得られる。
【0078】
上記PC蒸発成分pは、上記の通り、液化されてPC用回収PLタンク29に送られる。このPC蒸発成分pは、s−PLを主成分とするが、原料であるDPC、BPA、DPC及びBPAの1分子同士〜数分子同士が縮重合したオリゴマー、アルカリ系触媒由来の水等を含有する。このため、このPC蒸発成分pをPL蒸留工程にかけ、s−PLを回収する。このPL蒸留工程の例としては、図5に示すような2段の蒸留塔を用いる方法を例としてあげることができる。まず、第1PL蒸留塔30では、PLより低沸点の水等を蒸発留去させ、水を主成分とし、PLを含有するPC低沸留去分(D6)を回収除去する。次いで、第1PL蒸留塔30の第1段蒸留残渣qを第2PL蒸留塔31に送って、高沸分をカットしてs−PLを蒸留回収すると共に、上記高沸分であるPL蒸留残渣(X2)を回収する。
【0079】
[副生フェノール(s−PL)の処理1:s−PLの水分量]
上記PL蒸留工程で蒸留回収したs−PL中の水分量は、0.2重量%以下がよく、0.1重量%以下が好ましく、0.05重量%以下がより好ましく、0.01重量%以下がさらに好ましい。0.2重量%より多いと、後述するように、上記DPC製造工程やBPA製造工程に送ったとき、DPC製造工程及びBPA製造工程においては、触媒活性の低下を生じ、また、DPC製造工程においては、加水分解等が生じやすくなる。このため、DPC製造工程やBPA製造工程での製造効率の低下が生じやすい。一方、水分量は少なければ少ないほどよいので、水分量の下限は、0重量%である。
【0080】
第1PL蒸留塔30において、PC蒸発成分pから蒸留にて水を留去しようとすると、通常の蒸留条件では、PLが相当量同伴し、ロスが生じる。これは、水とPLとが共沸性を有するためである。このロスを防止するため、抽出蒸留を行ったり、減圧条件にして共沸性をなくしたり、理論段数及び還流比をアップさせる等の方法があるが、いずれにしろ、完全な分離を行うことは経済上好ましくない。このため、第1PL蒸留塔30において、通常の蒸留条件で水を一部PLと共に留去させたPC低沸留去分(D6)を、上記DPC製造工程のDPC洗浄工程、及び/又はBPA製造工程の水分離工程((b−2)工程)に送ることができる。
【0081】
上記第1PL蒸留塔30の蒸留条件としては、大気圧から数十Torrの減圧下、塔頂温度をその圧力下での水の沸点以上、かつ、フェノールの沸点以下が好ましい。この第1PL蒸留塔30の塔頂ガスは、水とPLの混合ガスであり、塔頂温度を目的の混合ガスの組成における沸点に調整するのが好ましい。上記塔頂温度が、水の沸点より低いと、第1段残渣q中の水分量が増加し、第2PL蒸留塔31で得られるs−PL中の水分量が上記範囲を外れて増大するおそれがある。一方、上記塔頂温度が、PLの沸点より高いと、PC低沸留去分(D6)に含まれるs−PL量が増大し、その回収に多量のエネルギーを要することとなり、経済的でない。
【0082】
上記第1PL蒸留塔30の塔頂ガス中のPL含有量としては、具体的には、PL濃度が50重量%以上が好ましく、中でも、70重量%以上がより好ましい。また、上限は、99.8重量%が好ましい。50重量%より低いと、PC蒸発成分pから水の除去が不十分となり、s−PL中の水分量が増大する傾向がある。一方、99.8重量%より高いと、PC低沸留去分(D6)に含まれるs−PL量が増大し、s−PLの回収に多量のエネルギを要することとなる。
【0083】
このようにして得られたs−PLは、DPC製造工程やBPA製造工程の原料の一部として用いられる。
【0084】
具体的には、上記DPC製造工程においては、s−PLは、上記のDPC反応工程で用いられる。上記DPC反応工程に送られると、原料のPLの一部又は全部として使用することができる。このとき、含有する水は、上記範囲内なので、反応工程に与える影響は少なく、DPCの製造効率を保持することができる。
【0085】
次に、上記BPA製造工程においては、s−PLは、上記のBPA反応工程((a)工程)で用いられる。上記BPA反応工程で用いられると、原料のPLの一部又は全部として使用することができる。このとき、含有する水は、上記範囲内なので、合成反応工程に与える影響は少なく、BPAの製造効率を保持することができる。
【0086】
[PC低沸留去分(D6)の処理]
上記第1PL蒸留塔30で留去された低沸留去分(D6)は、上記したように、上記DPC製造工程のDPC洗浄工程や、上記BPA製造工程の水分離工程((b−2)工程)に戻すことにより、PC低沸留去分(D6)中のPLを回収することができる。
【0087】
具体的には、図1に示すように、上記DPC製造工程のDPC洗浄工程、例えばアルカリ中和槽4に戻すと、PC低沸留去分(D6)に含有されるPLは、有機相(反応液)に抽出され、次工程の第1DPC蒸留塔6で混合ガス(F)として回収され、最終的には、DPCの原料として使用される。
【0088】
また、図2や図3に示すように、上記BPA製造工程の水分離工程程((b−2)工程)、より具体的には、例えば、PL分離塔12に戻すと、PC低沸留去分(D6)に含有されるPLは、塔底よりPL回収液kとして回収され、最終的には、BPAの原料として使用される。
【0089】
[副生フェノール(s−PL)の処理2:PC重合工程でのPC蒸発成分の処理]
上記重合工程において副生したフェノールを含有するPC蒸発成分pは、図5に示すように、熱交換器26,27やコンデンサ28によって液化され、PC用回収PLタンク29に送られる。そして、残りの排ガス(D5)は、処理工程(図示せず)に送られる。
【0090】
ところで、上記の第1重合槽22〜第3重合槽24の蒸発成分に含まれる副生フェノール分以外の不純物は、それぞれ異なる。具体的には、初期段階の重合工程からでてくる蒸発成分には、副生フェノール分以外に不純物として、PLより沸点の低い不純物や、少量のカルボニル化合物、ジフェニルカーボネート等が含まれる。これらの不純物は、上記DPC製造工程における原料及び生成物であり、かつ、BPA等の高融点物を含有していないので、これらの不純物を含む蒸発成分は、精製することなく、又は低純度の精製により、DPC製造工程に使用されるPLの一部として使用することができる。
【0091】
一方、上記PC重合工程の後期段階での重合工程から出てくる蒸発成分には、副生フェノール分以外に不純物として、DPC、BPA、DPCとBPAから得られるオリゴマー等のPLより沸点の高い不純物が含まれ、PLより沸点の低い不純物は、ほとんど含まれない。これらの不純物は、BPA製造工程で加水分解され、この製造工程での原料及び生成物となり、かつ、BPA製造工程での触媒活性低下原因となるアルコール類等がほとんど含まれていない。このため、これらの不純物を含む蒸発成分は、精製することなく、または、低純度の精製により、BPA製造工程に使用されるPLの一部として使用することができる。
【0092】
このことから、図6に示すように、PC重合工程の蒸発成分を2つに分けて回収することができる。すなわち、前期段階での重合工程での蒸発成分、すなわち、第1重合槽22、又は第1重合槽22及び第2重合槽23から回収される、副生フェノール分を含む第1PC蒸発成分p1を、第1PC用回収PLタンク29aに送り、また、後期段階での重合工程での蒸発成分、すなわち、第2重合槽23以降の重合槽、又は第3重合槽24以降の重合槽から回収される、副生フェノール分を含む第2PC蒸発成分p2を、第2PC用回収PLタンク29bに送ることができる。
【0093】
このように回収された第1PC蒸発成分p1は、図5に示すPL蒸留工程を経ることなく、DPC製造工程に原料として使用されるPLの一部として使用することができる。また、第2PC蒸発成分p2は、図5に示すPL蒸留工程を経ることなく、BPA製造工程に原料として使用されるPLの一部として使用することができる。
【0094】
上記DPC製造工程で使用される副生フェノール分を含む第1PC蒸発成分p1が得られる上記重合槽、すなわち、第1重合槽22、又は第1重合槽22及び第2重合槽23には、蒸発成分を一部液化し、還流する還流装置33a、33bを設けるのが好ましい。この還流装置33a、33bを設けることにより、第1重合槽22、又は第1重合槽22及び第2重合槽23から留出する成分のうち、PLより高沸点の成分を各重合槽に戻すことができ、得られる第1PC蒸発成分p1中に含まれるPLより高沸点の成分をより減少させることができる。
【0095】
ところで、上記の第2重合槽23から回収される蒸発成分は、上記したように、第1PC用回収PLタンク29a又は第2PC用回収PLタンク29bのいずれかに送られる。この回収タンクの選択は、いずれか一方に限定して配管を設けてもよく、図6に示すように、両方の回収タンクにつながる配管を設けると共に、それぞれの配管に弁34a、34bを設け、適宜、切り替えるようにしてもよい。これは、上記の第2重合槽23から回収される蒸発成分に含まれる副生フェノール分以外の不純物は、相対的に少なく、第1PC蒸発成分p1として用いることもでき、また、第2PC蒸発成分p2として用いることもできるからである。
【0096】
上記第2重合槽23からの留出する蒸発成分を第1PC用回収PLタンク29aに送る量、又は第2PC用回収PLタンク29bに送る量は、他の各重合槽からの蒸発成分量、特にこの蒸発成分に含まれる副生フェノール量、及びこの蒸発成分に含まれる不純物含量によって調整される。
【0097】
上記PC重合工程の蒸発成分に含まれる副生フェノール分のうち、上記DPC製造工程に送られ、原料のPLの一部として使用される量、すなわち、第1PC蒸発成分p1に含まれる副生フェノールの量は、上記PC重合工程の蒸発成分に含まれる副生フェノール分の全量、すなわち、第1PC蒸発成分p1及び第2PC蒸発成分p2に含まれる副生フェノール分の合計量に対して、50〜95重量%がよく、50〜70重量%が好ましい。
【0098】
また、上記第2PC蒸発成分p2に含まれる副生フェノール分の量は、上記PC重合工程の蒸発成分に含まれる副生フェノール分の全量に対して、50〜5重量%がよく、50〜30重量%が好ましい。
【0099】
上記第1PC蒸発成分p1に含まれる副生フェノールの量が、50重量%より少ないと、DPCより低沸点である不純物、特にアルコール等が第2PC蒸発成分p2に混入し、そのままBPA製造原料として使用すると、反応活性が低下する傾向があり、好ましくない。一方、95重量%より多いと、DPCより高沸点であるBPAやオリゴマーが第1PC蒸発成分p1に混入し、DPC製造時の配管閉塞をまねくおそれがある。
【0100】
また、上記DPC製造工程で使用される蒸発成分、すなわち、上記第1PC蒸発成分p1に含まれる、BPAや上記DPCとBPAとから得られるオリゴマー等のDPCより高沸点を有する高沸点化合物の含有量は、1.0重量%以下が好ましく、0.1重量%以下がより好ましい。1.0重量%より多いと、DPC製造時の配管閉塞をまねくおそれがある。
【0101】
さらに、上記BPA製造工程で使用される蒸発成分、すなわち、上記第2PC蒸発成分p2に含まれるDPCより低沸点を有する低沸点化合物、具体的には、カルボニル化合物、カルボニル化合物から副生するアルコール等の含有量は、100重量ppm以下が好ましく、50重量ppm以下がより好ましい。なお、上記BPA製造工程で、原料として使用されるPLは、上記第1PC蒸発成分p1及び上記第2PC蒸発成分p2に含まれる再生フェノール分以外に、不足分としての市販フェノール、さらには、BPA製造工程を循環するPLを含む。そのため、上記の原料として使用されるPL中の上記低沸点化合物の含有量は、副生フェノール中の上記低沸点化合物の含有量より少なく、通常、20重量ppm以下、好ましくは5重量ppm以下である。20重量ppmより多いと、BPA製造時の触媒活性を低下させ、生産性の低下をまねくおそれがある。
【0102】
なお、上記カルボニル化合物がジアルキルカーボネート及び/又はアルキルアリールカーボネートの場合、上記のカルボニル化合物から副生するアルコールは、ジアルキルカーボネート及び/又はアルキルアリールカーボネートから得られるアルキルアルコールとなる。
【0103】
このように、PC蒸発成分pを2つに分け、不純物の種類に合わせて、DPC製造工程及びBPA製造工程へ送ることにより、PC製造工程において、PL蒸留工程を省略することができ、製造効率の向上に寄与できる。
【0104】
[副生フェノール(s−PL)の処理3:PC蒸発成分p及び市販PLの不純物による使用法の区分け]
ところで、DPC製造工程とBPA製造工程、及びPC製造工程が同一スケールの場合、図5で示すPC製造工程で生じるs−PLの量は、理論的に、DPC製造工程及びBPA製造工程で原料として使用される量の合計の約半分であり、かつ、DPC製造工程で原料として使用される量と、BPA製造工程で原料として使用される量とは、理論上同一である。そして、不足分は、市販のPL(以下、単に「市販PL」と称する。)で補われる。このため、s−PLや市販PLをどのように使用するかが問題となることがある。
【0105】
一般に、市販PLには、クレゾール及び/又はキシレノールや、ヒドロキシアセトン等の不純物がある程度含有されており、一方、s−PLを蒸留回収する前の成分であるPC蒸発成分pには、クレゾール及び/又はキシレノールや、ヒドロキシアセトン等の不純物の含有量が少ない。このため、クレゾール及び/又はキシレノールや、ヒドロキシアセトン等の不純物の含有量の違いでs−PLの使用方法を決めることができる。
【0106】
具体的には、DPC製造工程の原料として使用されるPLとしては、クレゾール及び/又はキシレノールを20〜1000重量ppm含有するフェノール(以下、「クレゾール等含有PL」と称する。)を用い、BPA製造工程の原料として使用されるPLとしては、クレゾール及び/又はキシレノールを20重量ppm未満含有するフェノール(以下、「クレゾール等不含PL」と称する。)を用いるのがよい。
【0107】
クレゾール等含有PLとしては、市販PLがあげられる。そして、この市販PLには、上記のクレゾールやキシレノール以外に、ヒドロキシアセトン等の着色原因不純物が数十重量ppm含まれる。
【0108】
このクレゾール等含有PLは、そのまま、上記したように、上記DPC反応工程に使用することができる。このクレゾール等含有PL中の不純物であるクレゾール、キシレノール、ヒドロキシアセトン等の着色原因不純物等の不純物の量は、いずれも上記DPC反応工程において許容できる範囲である。そして、後述する第1DPC蒸留塔6によって、混合ガスFの一部として蒸発留去されたり、蒸留残渣として除去される。このため、上記PC製造工程に、このクレゾール等含有PLを用いて製造したDPCを使用しても、得られるPCの品質に影響を与えない。
【0109】
上記クレゾール等不含PLとしては、s−PLを蒸留回収する前の成分であるPC蒸発成分pをあげることができる。このPC蒸発成分pに含まれるヒドロキシアセトン等の触媒毒原因不純物の含有量は、10ppm未満が好ましく、中でも、5ppm未満がより好ましく、1ppm未満がさらに好ましい。10ppm以上だと、結果的に、触媒の寿命を著しく低下させる。
【0110】
上記PC蒸発成分pに含まれる不純物としては、上記したクレゾール、キシレノールや、ヒドロキシアセトン等の触媒毒原因物質や着色原因物質以外に、DPC、BPA、DPC及びBPAが1〜数分子反応したオリゴマー等が含まれる。
【0111】
上記PC蒸発成分pに含まれるクレゾール及び/又はキシレノールの含有量は、20重量ppm以下が好ましく、10重量ppm以下がより好ましい。20重量ppmより多いと、BPAのアルキル置換体が生成され、BPAの純度低下を招くおそれがある。
【0112】
上記PC蒸発成分pは、水を含有する。水の存在は、BPA製造工程においては、触媒の活性低下が生じ、BPAの生成率の低下につながる。このため、水分除去のための工程が必要となる。これを行うため、上記PC蒸発成分pを、水を除去する工程を経た後に、BPA製造工程の工程(a)に用いるのが好ましい。
【0113】
上記水を除去する工程としては、上記水分離工程(工程(b−2))をそのまま使用することができる。すなわち、図3において、原料となるPC蒸発成分pをPL分離塔12に送り、水除去工程を行う。このとき、蒸発留去される水・アセトン混合物AWは、別途処理される。また、上記PL分離塔12の蒸留残渣は、図2及び3に示さないが、高沸除去塔に送られて、PLより高沸の成分を分離する高沸分除去工程が行われ、高沸成分が蒸留釜残として分離・除去され、蒸留分としてPLが回収される。
【0114】
上記の回収されたPLは、そのまま、原料PLとして、上記BPA製造工程のBPA反応工程((a)工程)に供してもよく、また、上記BPA用回収PLタンク11に一旦回収し、これを、図2に示す工程(c)、及び必要に応じて、母液処理工程(工程(g))を経由して上記BPA反応工程((a)工程)に供してもよい。上記BPA晶析・分離工程((c)工程)に供与するのは、合成されたBPAの洗浄液として使用するのに、きれいなPLを使用するのが好ましいからであり、かつ、上記BPA晶析・分離工程((c)工程)に供しても、この工程で混入する不純物は、上記BPA反応工程で生成したBPAの2,4’−異性体等(以下、「BPA副生物」と称する。)であり、上記合成反応工程には影響しないからである。一方、上記の高沸分除去工程から排出される高沸成分は、前述した母液処理工程(g)に送られ、有効成分を回収することができる。
【0115】
このように、PC蒸発成分pをBPA製造工程に送り、DPC製造工程に市販PLを用いると、含まれる不純物による悪影響を抑制することができると共に、PC製造工程において、PL蒸留工程を省略することができ、製造効率の向上に寄与できる。
【0116】
[製造工程間の連携−貯蔵工程の設置]
(1.PC製造工程)
上記PC製造工程において、図7に示すように、上記PL蒸留工程の前及び/又は後に、上記PL蒸留工程にかける前のPC蒸発成分pの液化物、及び/又は上記PL蒸留工程で回収されたs−PLを貯蔵するPC貯蔵工程(PC第1貯蔵工程又はPC第2貯蔵工程)を設けることができる。このPC貯蔵工程を設けることにより、PC重合工程が一時的に停止したり、断続的になっても、このPC貯蔵工程で、上記のPC蒸発成分p又はs−PLが貯蔵され、これを次工程である、PL蒸留工程や、DPC反応工程又はBPA反応工程の原料PLとして連続的に供給することができ、次工程を連続的に運転することが可能となる。
【0117】
上記のPC貯蔵工程に用いられるPC貯蔵タンクの容量は、上記PC重合工程の運転時間及び停止時間を考慮して決めればよく、具体的には、下記式(1)の条件を満たす容量とすることが好ましい。
10≦(Vc/Fc)≦100 (1)
なお、式(1)において、Vcは、PC貯蔵タンクの容量(m)を示し、Fcは、PC蒸発成分の液化物又は副生フェノールの供給速度(m/hr)を示す。
【0118】
Vc/Fcが10より小さいと、上記のPC蒸発成分p又はs−PLを次工程に連続的に供給することが困難となる場合がある。そして、PC製造グレードの変更に伴うPC蒸発成分pの組成変動を調整することが困難となる。一方、100より大きくてもよいが、あまり大きくしすぎても、生産効率の面から、そこまで貯蔵する必要性が乏しく、かえって無駄となり、熱安定性の観点からも必要以上の保持時間は好ましくない。
【0119】
なお、このPC貯蔵タンクは、PC第1貯蔵工程及びPC第2貯蔵工程の一方のみに設けてもよく、両方に設けてもよい。また、1つのPC貯蔵工程の中で、上記PC貯蔵タンクを1つ設けてもよく、直列又は並列に複数個設けても良い。なお、複数個設けた場合の上記式(1)のVcは、複数個存在するタンクの容量の合計量を意味する。
【0120】
(2.DPC製造工程)
上記DPC製造工程において、図7に示すように、DPC蒸留工程の後に、このDPC蒸留工程で得られたDPCを貯蔵するDPC貯蔵工程を設けることができる。このDPC貯蔵工程を設けることにより、DPC製造工程が一時的に停止したり、断続的になっても、このDPC貯蔵工程で、DPCが貯蔵され、これを次工程である、PC製造工程の原料DPCとして連続的に供給することができ、連続的にPCを製造することが可能となる。
【0121】
上記DPC貯蔵工程貯蔵工程に用いられるDPC貯蔵タンクの容量は、上記DPC製造工程の運転時間及び停止時間を考慮して決めればよく、具体的には、下記式(2)の条件を満たす容量とすることが好ましい。
10≦(Vd/Fd)≦100 (2)
なお、式(2)において、Vdは、DPC貯蔵タンクの容量(m)を示し、Fdは、ジフェニルカーボネートの供給速度(m/hr)を示す。
【0122】
Vd/Fdが10より小さいと、上記のDPCを次工程に連続的に供給することが困難となる場合がある。一方100より大きくてもよいが、あまり大きくしすぎても、生産効率の面から、そこまで貯蔵する必要性が乏しく、かえって無駄となり、熱安定性の観点からも好ましくない。
【0123】
なお、このDPC貯蔵タンクを1つ設けてもよく、直列又は並列に複数個設けても良い。なお、複数個設けた場合の上記式(2)のVdは、複数個存在するタンクの容量の合計量を意味する。
【0124】
(3.BPA製造工程)
上記BPA製造工程において、図7に示すようなPL除去工程((e)工程)の後、又は、図示しないが、BPA晶析・分離工程((c)工程)からPL除去工程((e)工程)までの間に、上記のビスフェノールA(BPA)とフェノール(PL)との混合物を貯蔵するためのBPA貯蔵工程が設けられる。
【0125】
このBPA貯蔵工程を設けることにより、上記BPA製造工程のいずれかの工程が一時的に停止し、停止した工程以前の工程が断続的になっても、このBPA貯蔵工程で上記混合物が貯蔵され、これをPC製造工程に供与することができ、連続的にPCを製造することが可能となる。
【0126】
特に、上記のBPA晶析・分離工程((c)工程)は、使用される晶析槽、熱交換器等の晶析装置の接液部に固体の付着が生じやすく、数ヶ月に1度は、この工程を停止させて、掃除をする必要がある。このため、上記のBPA反応工程((a)工程)からBPA晶析・分離工程((c)工程)に至る工程は断続的な運転となる傾向がある。そこで、PL除去工程((e)工程)の後、又は、図示しないが、BPA晶析・分離工程((c)工程)からPL除去工程((e)工程)までの間に、上記BPA貯蔵工程を設けることにより、上記のBPA反応工程((a)工程)からBPA晶析・分離工程((c)工程)に至る工程が断続的になっても、上記PC製造工程を連続的に行うことができる。
【0127】
上記BPA貯蔵工程で貯蔵される混合物の形態としては、BPAとPLとの付加物結晶、BPAとPLとの付加物結晶を含むスラリー、BPAとPLとの混合液等があげられる。
【0128】
上記のBPAとPLとの混合物の組成は、BPAが45〜70重量%、PLが55〜30%の範囲にあるのが一般的である。このため、上記の貯蔵時の温度が0〜95℃の場合、付加物は結晶状態となる。また、上記の混合物中のフェノール割合が高い場合、貯蔵温度が40℃以上になると、BPAと付加していないPLが溶融状態となるため、スラリー状又は溶液となる。さらに、貯蔵温度が95℃を超えると、上記付加物が溶融するため、溶融状態となる。
【0129】
上記貯蔵温度は好ましくは45〜150℃であり、上記BPAとPLの混合物がスラリー状ないしは溶液状態であることが望ましい。また、BPAの分解および着色を防止する目的で、できるだけ低温で保持させるのが好ましく、上記条件下では、BPAの分解で生じる着色原因物質と考えられる、4−イソプロペニルフェノールの生成を抑制することが可能である。
【0130】
さらに、貯蔵タンク内を窒素ガス等の不活性ガス雰囲気とし、エアの混入を防止することも重要である。また、貯蔵タンクの材質は、一般的なオーステナイト系ステンレス鋼やフェライト系ステンレス鋼を使用することができるが、色調低下の原因になるFeの溶出の少ないものが好適に用いられ、なかでも、Cr含有量が16%以上であり、カーボン含有量が0.03%以上の鋼材質、例えば、SUS316よりはSUS304が好ましく、SUS316L、SUS304LよりはSUS316、SUS304が好ましく用いられる。当然ではあるが、よりCr含有量の高いSUS309SやSUS310Sはより好ましい方向である。
【0131】
このBPAとPLとの混合物を貯蔵するタンクの容量は、上記BPA製造工程の運転時間及び停止時間を考慮して決めればよく、具体的には、下記式(3)の条件を満たことが好ましい。
10≦(Vb/Fb)≦1000 (3)
なお、式(3)において、Vbは、BPA貯蔵タンクの容量(m)を示し、Fbは、PC重合工程に供されるビスフェノールAの供給量(m/hr)を示す。
【0132】
Vb/Fbが10より小さいと、PC重合工程を連続的に行うことが困難となる場合がある。一方、1000より大きくてもよいが、あまり大きくしすぎても、生産効率の面から、そこまで貯蔵する必要性が乏しく、かえって無駄となり、品質面からも長期保存は好ましくない。
なお、この貯蔵タンクは、1つであってもよく、直列又は並列に複数個設けても良い。複数個設けた場合の上記式(3)のVbは、複数個存在するタンクの容量の合計量を意味する。
【0133】
上記BPA貯蔵工程では、上記の形態を有する付加物を貯蔵するため、pHが酸性やアルカリ性になった場合、BPAの分解反応が生じやすくなる。これを防止するため、上記BPA晶析・分離工程((c)工程)とPC重合工程との間に存在するBPA貯蔵タンク、あるいはそれより前の工程に、BPA中和工程を設けることが好ましい(図示せず)。このBPA中和工程で、上記混合物中の酸成分又は塩基成分を中和することができ、上記混合物中のBPAの分解を抑制することができる。
【0134】
[排液処理]
(PL蒸留残渣(X2)の処理)
上記のPL蒸留残渣(X2)には、PL、DPC、BPA、DPC及びBPAの1分子同士〜数分子同士が縮重合したオリゴマー等を含有するが、このうち、PL、BPA及びDPCを多く含む。そこで、これらの有効成分を有効活用するため、図8に示すように、上記のPL蒸留残渣(X2)を、上記DPC製造工程の上記の蒸留工程又は回収蒸留工程、又は上記BPA製造工程の上記母液処理工程(工程(g))に送る。
【0135】
上記DPC製造工程において、上記回収蒸留工程を有さず、上記のPL蒸留残渣(X2)を、上記DPC製造工程の上記蒸留工程に送る場合、具体的には、図1に示すように、上記PL蒸留残渣(X2)を、第1DPC蒸留塔6に送る。これにより、上記PL蒸留残渣(X2)は、第1DPC蒸留塔6及び第2DPC蒸留塔7で蒸留され、PL及びDPCを回収する。このうち、PLは、第1DPC蒸留塔6で混合ガス(F)の一成分として回収され、DPCは、第2DPC蒸留塔7で回収される。
【0136】
上記DPC製造工程において、上記回収蒸留工程を有し、上記のPL蒸留残渣(X2)を、上記DPC製造工程の上記回収蒸留工程に送る場合、具体的には、図1に示すように、上記PL蒸留残渣X2を、DPC回収蒸留塔8に送る。これにより、上記PL蒸留残渣(X2)は、DPC回収蒸留塔8で蒸留され、PL及びDPCを回収し、混合槽3に送られる。このうち、PLは、第1DPC蒸留塔6で混合ガス(F)の一成分として回収され、DPCは、第2DPC蒸留塔7で回収される。
【0137】
また、上記のPL蒸留残渣(X2)を、上記BPA製造工程の上記母液処理工程(工程(g))に送る場合、具体的には、図4に示すように、上記PL蒸留残渣(X2)を、残渣反応器14に送る。これにより、PLは、そのまま留去されるが、他の成分は、分解され、再生反応器15で再びBPA等が生成され、BPA製造工程のBPA反応器(図示せず)に送られる。これにより、PLは原料として使用され、BPAは、そのまま合成されるBPAと一体となって動く。
【0138】
(蒸留残渣(X1)又は回収蒸留残渣(X1’)の処理)
上記DPC製造工程において、上記回収蒸留工程を有さないときの蒸留残渣(X1)、又は、上記回収蒸留工程を有するときの回収蒸留残渣(X1’)には、DPCや、DPCのメチル置換体、DPCの臭素置換体等のDPC系不純物等が含まれ、また、上記PL蒸留残渣(X2)を、上記蒸留工程又は回収蒸留工程に導入した場合は、合わせて、BPA、DPC及びBPAの1分子同士〜数分子同士が縮重合したオリゴマー等を含有するが、このうち、BPA及びDPCを多く含む。そこで、これらの有効成分を有効活用するため、上記蒸留残渣(X1)又は回収蒸留残渣(X1’)を、上記BPA製造工程の上記母液処理工程(工程(g))に送る。
【0139】
この場合、具体的には、図4に示すように、上記蒸留残渣(X1)又は回収蒸留残渣(X1’)を、残渣反応器14に送る。これにより、各成分は、分解され、一部は再生反応器15で再びBPAに変換され、得られたBPAやフェノールは、BPA製造工程のBPA反応器(図示せず)に送られる。
【0140】
(PL蒸留残渣(X2)と蒸留残渣(X1)又は回収蒸留残渣(X1’))
PL蒸留残渣(X2)、蒸留残渣(X1)及び回収蒸留残渣(X1’)の処理法として、上記の方法があげられるが、これらの中でも、上記PL蒸留残渣(X2)を、上記DPC蒸留工程やDPC回収蒸留工程に送り、次いで、上記DPC蒸留工程で生じるDPC蒸留残渣(X1)やDPC回収蒸留残渣(X1’)を、上記BPA母液処理工程(工程(g))に送ることが好ましい。
【0141】
このようにすることにより、DPC製造工程、BPA製造工程、及びPC製造工程からでる排液は、ビスフェノールA(BPA)製造工程の上記母液処理工程(工程(g))から生じる排液(D7)の1つに集約される。このようにすると、3工程のそれぞれで発生していた、有機物を大量に含有する排液を1つにまとめることができ、排液全体としての排出量を抑制することが可能となり、排液処理工程(図示せず)が効率的となり、その負荷を低下させることができる。
【0142】
[真空装置]
上記のDPC蒸留工程やPC重合工程、PL蒸留工程の蒸留装置及び重合装置には、留出成分を凝縮する凝縮器、系内を減圧にする真空設備、及び上記凝縮器と真空設備とを繋ぐ真空配管が設けられる。以下において、蒸留装置を例にして説明する。
【0143】
蒸留塔等の蒸留装置41には、図9に示すように、DPCやPL等の留出する物質を凝縮する凝縮器42、系内を減圧にする真空設備43、及び、上記凝縮器42と真空設備43とを繋ぐ真空配管44が設けられる。
【0144】
この蒸留装置41は、還流部が形成される場合が多い。この還流部を形成する装置としては、留出する物質を凝縮する凝縮器42、凝縮された液の一部を溜める凝縮液タンク45、凝縮液タンク45中の凝縮液を蒸留装置41に戻す送液ポンプ46、及び、送液ポンプ46と蒸留装置41とを連結する還流配管47等が含まれる。以下、この還流部を「還流装置」と称する。
【0145】
上記の真空設備43は、蒸留装置41や還流装置内のガスを吸引して排出し、蒸留装置41を減圧状態にするための設備である。このような真空設備43としては、例えば真空ポンプ等があげられる。
【0146】
この真空設備43に繋がる真空配管44は、凝縮器42側から真空設備43側へ向かって下向きの傾斜を有している。この傾斜は、真空配管44の水平部分のうちできるだけ長い区間にわたっていることが望ましい。また、上記の傾斜は、水平方向から下向きに0°より大きく、90°以下であればよいが、上記真空設備へ向かって水平方向に2m進むときには、1cm以上、下方向に進むものであると望ましく、5cm〜1m下方向に進むものであればより望ましい。さらに、傾斜のある水平部分には、完全水平部分及び立ち上がる部分が無ければより望ましく、傾斜が真空配管44の端から端まで一定であればさらに望ましい。なお、上記水平部分は、水平状態、及び水平状態から少し傾斜した状態の部分をいう。また、上記完全水平部分とは、鉛直方向に対して直角方向の部分をいう。
【0147】
上記の傾斜は、途中に上記の完全水平部分や立ち上がる部分があってもよいが、その立ち上がる部分の高さの合計は1m以下であることが好ましく、50cm以下がより好ましく、10cm以下であればさらに好ましく、そのような部分は無いことが最も好ましい。この立ち上がる部分の高さの合計が1mを超えると、上記の立ち上がる部分に上記の留出物が溜まった場合に生じる圧力損失が大きくなりすぎ、減圧吸引しきれなくなるおそれがある。なお、上記の立ち上がる部分とは、上記の傾斜とは逆に、凝縮器42から真空設備43へ向かって上方に傾斜を有する部分をいう。ここには、上記の留出物が液体又は固体として溜まりやすく、溜まった場合には圧力損失を生じ、溜まりすぎると管そのものを閉塞させてしまうおそれもあるため、無い方がより望ましい。そのため、上記の傾斜は凝縮器42側から真空設備43側へ向かって下方向のみであればさらに望ましい。
【0148】
上記の凝縮器42では、PLやDPC等を凝縮する。凝縮された留出物は、系外に抜き出されるか、蒸留装置41に還流するために上記還流装置の凝縮液タンク45に送られる。
【0149】
上記蒸留塔41内の圧力は、減圧であることが好ましく、1〜200Torrであることがより好ましく、5〜100Torrであれば特に好ましい。そのとき、蒸留塔41内のガスを引く真空配管44内の真空減圧された圧力は蒸留塔41内の圧力に近いか、それ以下であることが望ましく、1〜100Torrであればより望ましい。
【0150】
さらに、蒸留塔41の塔頂から凝縮器42への配管構造は、以下の条件を満たしていることが望ましい。配管の内径は、actualガス線速が0.01〜20m/secとなる範囲であることが望ましい。また、蒸留塔41の塔頂から凝縮器42までの配管の長さは短いほどよく、10m以下であることが望ましく、0mであればもっとも望ましい。さらに、配管の曲折部は少ないほどよく、5箇所以下であることが望ましい。これらの条件から、凝縮器42は、蒸留塔41の塔頂に塔頂コンデンサとして設けられているともっとも望ましい。これらの条件が満たされていると、真空設備43による蒸留塔41の真空減圧状態がより安定化されるようになる。
【0151】
留出されたPLやDPCのガスは、凝縮器42の上から下へと流れるように供給されることが望ましい。また、凝縮器42の内部と出口部とは、ガス線速が小さくなるように、大口径であることが望ましい。ガス線速が大きいと、圧損原因となり、蒸留装置41の真空減圧が保持できなくなるおそれがある。
【0152】
上記の凝縮器42と真空配管44との間には、ミストを捕捉するためのミストキャッチャー48が設けられていると望ましい。ミスト状のPLやDPCが真空配管44に混入して溜まったり、固化したりすることを、できるだけ防ぐためである。
【0153】
上記の真空配管44は、上記の留出物の融点以上に内部を加熱、保温する設備を有していることが望ましい。その設備としては、例えば、上記真空配管44を、二重管構造や、蒸気又は電気によるトレース構造にすることが挙げられる。なお、上記留出物が複数の成分からなっている場合には、それらの中で最も高い融点を持つ物質の融点以上であることが望ましい。また、上記真空配管44内は減圧状態であるが、ここで融点とは減圧状態における融点である。真空配管44内が上記の留出物の融点以上とすると、凝縮器42で凝縮しきれずに真空配管44に混入したPLやDPCが、固化することなく液体か気体のままであり続けるので、真空配管44の内部が詰まる可能性をさらに低くできる。そのため、DPCの融点である80℃以上であって、蒸留装置41の塔頂部の温度以下であると工程の運用上望ましい。
【0154】
また、上記の真空配管44には、下側に向けて少なくとも一つの液抜き口49を設けることが望ましい。真空配管44内で液化したり、露となったりした上記の留出物を、真空配管44内に留まらせずに、抜き取ることが必要だからである。この液抜き口49のうち、少なくとも一つは、真空配管44の真空設備43に接続している部分に近接していることが望ましい。真空配管44が傾斜を有しているため、その傾斜の一番下に出来るだけ近いところから抜き出さないと、それより先で上記留出物が溜まる可能性があるからである。このような液の抜き取りは、真空設備43による真空減圧中に行うのではなく、装置全体を停止して行ってもよい。さらに、真空配管44の長さが3mを超える場合は、真空配管44の途中にも液抜き口49を設けると、液溜まりを回避しやすくなり、より望ましい。
【0155】
さらに、上記の凝縮器42側の真空配管44には、加熱流体を供給可能な供給口50を設けることが望ましい。この供給口50を設ける位置は、凝縮器42に近いところほど望ましいが、真空配管44と凝縮器42との間に、上記ミストキャッチャー48が存在している場合は、ミストキャッチャー48と凝縮器42の間ではなく、真空配管44がミストキャッチャー48に接続されているところに出来るだけ近いことが望ましい。この供給口50を設けることにより、ここから上記加熱流体を流し込み、液抜き口49から抜き出すことができ、真空配管44を洗浄することができる。そのため、供給口50と液抜き口49の間の部分が、真空配管44のうちのできるだけ長い領域を占めることが望ましい。また、傾斜があるため、位置エネルギーの高い方から供給した方が効率がよい。このため、供給口50は、真空配管44の上側を向いて開いているのが望ましい。
【0156】
上記加熱流体とは、真空配管44内の温度において流体であるものをいい、液体でも気体でもよい。上記加熱流体としては、例えば、水蒸気、PL、窒素などが挙げられ、水蒸気又はPL蒸気であるとより望ましい。PL蒸気を用いると、真空配管44内部でDPCが固化していた際に溶解させることができるのでさらに望ましい。これらのうちの一つだけでも、複数の混合体であってもよい。ただし、上記加熱流体は、真空配管44の素材やDPC等とは、真空配管44内の温度圧力条件下で、ほとんど反応しないものであることが望ましく、まったく反応しないものであるとより望ましい。
【0157】
また、上記の真空配管44には、凝縮器42、真空設備43、ミストキャッチャー48などと連結する部分に、弁51,52が設けられていることが望ましい。上記加熱流体によって洗浄する際、弁によってさえぎられていると、真空配管44の外に上記加熱流体が漏れることを防ぐことができるからである。
【0158】
さらに、上記の真空配管44には、フリーズコンデンサ(図示せず)が設けられていることが望ましい。このフリーズコンデンサは、2基以上が並列に設置されていて、それぞれを切り替えられるとなお望ましい。上記フリーズコンデンサが設置されていると、凝縮器42で捕捉できなかった留出成分を強制的に固化して捕集することができ、それ以降の真空配管44で、閉塞、又は圧損の上昇を抑制でき、望ましい。
【0159】
また、DPCからPL等の低沸点化合物を蒸留除去する場合は、蒸留装置41から留出する蒸発ガスを液化するために、凝縮器42を2基以上直列に繋いで使用することも効果的である。その際、各凝縮器42の温度は蒸留装置41から離れるに従い、徐々に低温化させるのが好ましい。特に、最初の凝縮器42はDPC等の高沸点成分を積極的に凝縮させるために、80〜150℃に調整し、液化された凝縮液は蒸留装置41へ循環する。次いで、最初の凝縮器42で液化されなかった未凝縮ガスは、2段目以降の凝縮器42で0〜80℃に調整され、ほぼ完全に液化される。ここで液化された凝縮液は、必要に応じて一部を蒸留装置41へ還流し、残り乃至は全量を留出する。このように凝縮器42を2基以上設置すると、万が一、DPCが蒸留装置41から多量に留出しても凝縮器42内で固化閉塞することなく、運転が継続でき、長時間安定して蒸留を行うことができる。DPCの凝固点は80℃であり、PLの凝固点(40℃)より高いため、通常のPL等低沸点化合物のみを凝縮させる凝縮器42の温度条件下においては、DPCが大量に存在すると、凝縮器42内でDPCが固化するおそれがある。従って、凝縮器42を2基以上設置し、高融点であるDPCを強制的に凝縮除去した後、未凝縮ガスを凝縮させたほうが、固化防止になり、蒸留装置41の真空度を安定させることができる。また、蒸留留去させる軽沸分として、PL以外に、PLより低沸点化合物を多く含有する場合は、この複数段の凝縮器42を用いるのがより望ましい。
【0160】
次に、上記の還流装置について、図9を用いて説明する。この還流装置を用いることにより、高沸点成分の蒸発を抑止しつつ、蒸留分離の効率を高めることができる。
【0161】
上記の送液ポンプ46によって上記凝縮液タンク中の凝縮液を蒸留装置41に還流するための還流配管47の水平部分は、蒸留装置41側から送液ポンプ46側へ下向きの傾斜を有していることがよい。この傾斜を有する水平部分の途中には、完全水平部分や立ち上がる部分は無い方が好ましく、傾斜が一定であればより望ましい。このとき、上記の傾斜は、送液ポンプ46へ向けて水平方向に2m進むときに1cm以上、下方向に進むものであると望ましく、5cm〜1m下方向に進むものであればより望ましい。もし完全水平部分や立ち上がる部分がある場合には、傾斜による高度差が、立ち上がる部分の高さの差の合計よりも大きいことが必要であり、かつ、立ち上がる部分の高さの合計が、1m以下であることが望ましく、10cm以下であればさらに望ましい。なおここで、上記の立ち上がる部分とは、上記の傾斜とは逆に、蒸留装置41側から送液ポンプ46側へ向かって上方に傾斜する部分をいう。
【0162】
また、送液ポンプ46の位置にもよるが、図9に示すように、還流配管47の、上記の傾斜を有する水平部分と送液ポンプ46との間に、垂直又は垂直に近い勾配である部分があってもよい。このとき、送液ポンプ46の前後で溜まる液を抜き出すため、上記の送液ポンプ46の吸入口付近と、吐出口付近との配管には、液抜き口53,54を設けてもよい。
【0163】
上記の還流配管47は、上記の留出物の融点以上に内部を加熱、保温する設備を有していることが望ましい。なお、上記の留出物が複数の成分からなっている場合には、それらの中で最も高い融点を持つ物質の融点以上に加熱、保温することができると望ましい。上記還流配管が上記の留出物の融点以上であると、上記留出物が固化することなく、液体か気体のままであり続けるので、内部で詰まる可能性をさらに低く出来る。このように加熱、保温する設備としては、二重管構造や、蒸気、電気によるトレース構造をしているものがあげられる。
【0164】
この還流配管47の蒸留塔41に近い箇所に、供給口55が設けられていると望ましい。装置全体の運転を停止した場合に、この供給口55から上記加熱流体を流し込み、液抜き口54から抜き出すことで、還流配管47を洗浄することができる。またその際に、上記加熱流体が蒸留装置41に流れ込まないように、還流配管47と蒸留装置41との間に弁56が設けられていると望ましい。
【0165】
なお、上記したような、PLやDPCを留出する蒸留装置は、DPCからPC重合工程やPL等の不純物を除去して精製DPCを回収するDPC蒸留工程や、DPCとBPAとを真空減圧下で反応させて副生するPL(s−PL)を回収しつつPCを重合するPC製造工程のPL蒸留工程等において、PLやDPCを回収するために用いることができる。さらに、同様にPLやDPCを留出する工程であれば利用可能である。
【0166】
また、上記したような、PLやDPCを還流させる還流装置は、例示した蒸留装置41から留出したPLやDPCを蒸留装置41に戻して、供給されたPLやDPCに含有されていた高沸点成分の蒸発を抑え、蒸留分離効率を高める工程のほか、同様に還流の必要がある工程であれば利用可能である。なお、上記高沸点成分は蒸留装置41の下部から別に抜き出すことができる。
【0167】
また、これらの装置がDPCの製造に用いられる場合は、還流配管47の、上記傾斜を有する水平部分以外の箇所に、DPCを系外に取り出す取り出し口57があるとよい。
【0168】
これらの工程において、上記したそれぞれの装置を用いることにより、それぞれに設けられている供給口50、55から上記加熱流体を供給する洗浄方法によって、管内が閉塞した場合でも容易に閉塞を解除することができる。
【実施例】
【0169】
((実施例1))
以下に、s−PLの処理について、本発明を更に具体的に説明する。
【0170】
(脱水したs−PLの製造)
[PCの重合工程]
窒素ガス雰囲気下、130℃で、BPA(三菱化学(株)製、後述する参考例2で得られたもの)を34.3kg/hrで、DPC(三菱化学(株)製、後述する参考例1で得られたもの)を33.5kg/hrで溶融混合し、130℃に加熱した原料導入管を介して常圧、窒素雰囲気下、210℃に制御した第1縦型攪拌重合槽内に連続供給し、平均滞留時間が60分になるように槽底部のポリマー排出ラインに設けられたバルブ開度を制御しつつ液面レベルを一定に保った。また、上記原料混合物の供給を開始すると同時に、触媒として水溶液とした炭酸セシウムをBPA1モルに対し、0.5×10−6モルの流量で連続供給した。槽底より排出された重合液は、引き続き第2、3、4の縦型重合槽並びに第5の横型重合器に逐次連続供給された。反応の間、各槽の平均滞留時間が60分になるように液面レベルを制御し、また同時に副生するPLの留去も行った。第1〜3重合槽より蒸発するガスは、それぞれ多段凝縮器で凝縮液化され、一部を各重合槽に還流し、残りをs−PLタンクに回収した。一方、第4〜5重合器より蒸発するガスは、それぞれ、並列2基ある片方のフリーズコンデンサで固化され、他方のフリーズコンデンサとの切替運転により固化分を溶融し、s−PLタンクに回収された。
【0171】
各反応槽の重合条件は、第1重合槽(210℃、100Torr)、第2重合槽(240℃、15Torr)、第3重合槽(260℃、0.5Torr)、第4重合槽(270℃、0.5Torr)であった。また、ポリカーボネートの製造速度は38.3kg/hrで運転を400時間行った。
【0172】
このポリマーを溶融状態のまま、2軸押出機(神戸製鋼所(株)製、スクリュー径0.046m、L/D=40.2)に導入し、ポリカーボネート当たり5ppm相当のp−トルエンスルホン酸ブチルを連続的に添加した。なおp−トルエンスルホン酸ブチルは、原液をフレーク状のポリカーボネートにミキサーを用いて分散させマスターバッチを作成し、重量フィーダーを用いて、窒素下、上記押出機に供給し、ペレット化した。得られたポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)は、21000であり、初期色相(YI)は1.7だった。
【0173】
<粘度平均分子量(Mv)の測定>
PCの濃度(C)が0.6g/dlの塩化メチレン溶液を用いて、ウベローデ型粘度計により温度20℃で測定した比粘度(ηsp)から、下記の両式を用いて算出した。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp)
[η]=1.23×10−4(Mv)0.83
【0174】
<初期色相(YI)の測定>
PCを窒素雰囲気下、120℃で6時間乾燥した後、(株)日本製鋼所製J−100射出成形機で3mm厚の射出成形片を360℃で製作し、スガ試験機株式会社製SC−1によりYI値を測定した(このYI値が大きいほど着色していることを示す)。
【0175】
[s−PL精製工程]
上記重合工程より約30.2kg/hrで回収されたs−PLを分析した結果、DPCが5.0重量%、BPAが0.5重量%、オリゴマーが0.3重量%、水分が0.3重量%検出された。
このs−PLを以下の2塔の蒸留塔で連続的に精製した。第1PL蒸留塔は、200Torr、還流比2で、含有する水を一部PLとともに留去し、缶出液は第2PL蒸留塔へ供給した。第1PL蒸留塔より留出されるPC低沸留去分中のフェノール濃度は、約90重量%であった。次いで、第2PL蒸留塔では、50Torr、還流比0.5で、トップより精製s−PLを約27kg/hrで得た。一方、缶出からはDPC、BPA、及び、オリゴマーをそれぞれ、67重量%、7重量%、及び、4重量%含有するPL混合液を約2.2kg/hrで連続的に抜き出した。
【0176】
(実験例1)DPCの製造
まず、図5の第2PL蒸留塔で留去された脱水後のs−PLをDPC原料として使用し、かつ、第1PL蒸留塔30のs−PLの脱水時に留出されるPC低沸留去分(D6)をDPCの洗浄工程にリサイクルしながら、DPCを製造する方法について、具体的に説明する。
【0177】
[DPC反応工程・脱塩酸工程]
図1に示すフローに準じてDPC製造工程を行った。なお、DPC反応器1は、2つの反応器を直列に連結して用いた。
【0178】
温度50℃で溶融した上記精製したs−PL30.0kg/hr(0.32kmol/hr)、及び触媒として、後述する低沸蒸留塔から留出した低沸点物質を脱水処理したピリジン含有PLを、DPC第一反応器へ連続供給しながら、150℃へ昇温した。十分に攪拌を行いながら、ホスゲン(CDC)ガス3.56Nm/hr(0.16kmol/hr)をDPC第一反応器へ連続供給した。DPC第一反応器から流出した反応混合物は、気液混相にてオーバーフロー管を介してDPC第二反応器へ供給した。DPC第二反応器も十分な攪拌状態のもと150℃に調整し、反応液は脱塩酸塔2へ供給し、脱塩酸塔2では、中間体であるフェニルクロロフォーメートとPLの押し切り反応を完結すべく、窒素ガスによる向流接触を160℃で実施した。脱塩酸塔2の底からは、DPCが約89重量%の脱塩酸処理液bが連続的に抜き出された。供給されたホスゲンは、そのほぼ100%がDPCに転換された。一方、DPC合成時の排ガス(D1、DPC第二反応器からの反応排ガス及び脱塩酸等塔2からの窒素含有排ガス)は、混合した後、10℃まで冷却され、凝縮液はDPC第二反応器へ戻され、未凝縮ガスの塩化水素はアルカリ水溶液で中和され、排出した。
【0179】
[DPC洗浄工程・DPC水洗工程]
得られた脱塩酸処理液bと、後述するDPC回収蒸留塔8より回収されたDPC含有回収液dとを混合槽3に送り、続いて、テフロンライニング製のアルカリ中和槽4に送った。そして、約5重量%の水酸化ナトリウム水溶液(25重量%の水酸化ナトリウム水溶液と次工程の水洗後に分離された水相、及び上記s−PL精製工程で得られたPC低沸留去分との混合液)を上記中和槽4に供給し、80℃で約10分間混合した後、pH8.5に調整した。静置分離し、分離した有機相を水洗槽5に移送した。一方、分離後の水相(PLや食塩を含有している)は、水蒸気と接触させて、含有するPLをほぼ全量低沸留去分として回収し、次工程の水洗槽5に供給した。水洗槽5では有機相に対して約30重量%に相当する温水で洗浄され、水相(前述した中和混合槽にリサイクルされる)を分離して、粗製DPC(水、触媒ピリジン、PLを含有する)である水洗処理液fを得た。
【0180】
[DPC蒸留工程−低沸蒸留工程]
次に、上記水洗処理液fを約42kg/hr、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を70mL/hrで第1DPC蒸留塔6の中段に連続供給した。第1DPC蒸留塔6は内径150mm、高さ4.0mで、上部に還流装置、中央に原料供給部があり、濃縮部および回収部にスルザーパッキング(住友重機械工業(株)製)を充填した、理論段数8段の連続蒸留塔を使用した。真空度20torr、熱媒オイル温度約220℃、トップ温度80〜100℃、還流比1の条件で蒸留してDPCより低沸点物質である水、触媒ピリジン、未反応PLを含む混合ガスFを蒸留除去した。混合ガスFは脱水処理後、一部をパージし、残りを前記DPC第一反応器へ供給した。一方、塔底からは、約37kg/hrでDPCを主とする第1蒸留残渣gを抜き出した。その中の水分は未検出(10ppm以下)であり、ピリジンとPLの含有量はそれぞれ未検出(1ppm以下)と50ppmであった。
【0181】
[DPC蒸留工程−高沸蒸留工程]
更に、この第1蒸留残渣gを第2DPC蒸留塔7に連続供給した。第2DPC蒸留塔7は内径200mm、高さ4.0mで、上部に還流装置、中央に原料供給部があり、濃縮部および回収部にスルザーパッキング(住友重機械工業(株)製)を充填した、理論段数8段の連続蒸留塔を使用した。真空度20torr、熱媒オイル温度約240℃、トップ温度約180℃、還流比0.5、留出率約90%の条件で蒸留して、トップより精製DPCを約33.5kg/hrで得、塔底より高沸物であるDPC蒸留残渣(X1)を約4kg/hrでパージした。精製DPCは、PLを80ppm含有する高純度品であった。
【0182】
[DPC回収蒸留工程]
さらに、高沸蒸留塔の塔底よりパージされたDPC蒸留残渣(X1)を同時にDPC回収蒸留塔8に供給し、下記の条件で連続蒸留し、トップより約3.5kg/hrで回収されたDPC含有回収液dは、前述した混合槽3にリサイクルし、缶出液であるDPC回収蒸留塔8は約0.2kg/hrで連続的にパージした。DPCの回収蒸留の条件は、内径100mm、高さ3.0mで、上部に還流装置、中央に原料供給部があり、濃縮部および回収部にスルザーパッキング(住友重機械工業(株)製)を充填した、理論段数8段の連続蒸留塔を使用し、真空度20torr、熱媒オイル温度約240℃、トップ温度180℃、還流比0.5で実施した。また、DPC回収蒸留塔8の缶出液であるDPC回収蒸留残渣(X1’)には、DPCのアルキル置換体とブロム置換体が、それぞれ、約7000重量ppmと約800重量ppm検出された。
【0183】
(参考例1)DPCの製造
上記の精製s−PLの代わりに、市販のPL(三菱化学(株)製)を用いた以外は、実験例1と同様にして、DPCを製造した。
【0184】
[結果]
s−PLを用いても、市販のPLの場合と同様の収率が得られ、製造効率が保持されたことが確認された。
【0185】
(比較例1)DPCの製造
上記のs−PL精製工程において、第1PL蒸留塔をバイパスして得られたs−PL(含水率0.3重量%)を用いた以外は、実験例1と同様にしてDPCを製造した。その結果、DPC反応工程での加水分解により、脱塩酸処理液b中のDPC濃度が86重量%まで低下し、製造効率の大幅な低下がみられた。
【0186】
(参考例2)BPAの製造
(BPA製造工程)
図2〜4に示すフローにしたがって、BPAを製造した。すなわち、温度調節器を有する流通式BPA反応器に、4−ピリジンエタンチオールでスルホン酸基の15%を中和した、スルホン酸型酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製:商品名 ダイヤイオンSK−104)を60L充填した。このBPA反応器に、PL:アセトンのモル比10:1の混合液を温度80℃、68.2kg/hrの流量で装入し、反応させた。アセトンの転化率は80%であった。反応混合物は、低沸点物(未反応アセトン、水、PLの一部)を5.1kg/hの流量で除去したのち、50℃に冷却して付加物の結晶を析出させた。これを濾過して、付加物の結晶と母液とに分離した。流量はそれぞれ16.5kg/hと46.5kg/hであった。この母液の10wt%を母液処理工程に供給し、他の母液はBPA反応器に装入する原料の一部として循環させた。
【0187】
ここで得られた付加物結晶を、再度27.2kg/hの流量のPLに溶解させたのち、50℃に冷却して結晶を析出させ、濾過して付加物の結晶(11.3kg/h)と母液(32.5kg/h)とに分離した。分離された結晶は、0.3mmHgの減圧下、180℃に加熱してPLを除去し、純度99.95%以上のBPAを7.7kg/hの流量で得た。
【0188】
上記の母液処理工程に供給した母液は、図4に示すPL蒸発器でPLの一部を留去し濃縮した。次に、水酸化ナトリウムを0.1重量%含ませ、50mmHgの減圧下、210℃にコントロールした残渣反応器14の塔底に装入した。塔底の液レベルは一定の条件で運転し(滞留時間 1hr)、残渣反応器14の塔底液は0.5kg/hの流量で系外にパージした。さらに、残渣反応器14の塔頂からの流出液と前述のPLとを混ぜ、スルホン酸型酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製:商品名 ダイヤイオンSK−104)を4L充填した、流通式再生反応器15に4.2kg/hの流量で装入し、80℃の条件で、反応させた。得られた反応液は最初のBPA反応器に循環した。
【0189】
反応混合物より分離して得られた、低沸点物(未反応アセトン、水、PLの一部)を、5.1kg/hの流量でPL回収塔に装入し、同時にエチルベンゼン(共沸ブレイカー)を塔頂部より供給した。そして、PL回収塔の塔頂よりアセトン、水、エチルベンゼンの混合液を2.4kg/hの流量で、塔底よりPLを3.5kg/hの流量で、それぞれ抜き出した。さらに、PL回収塔の塔頂流出物(アセトン、水、エチルベンゼン)を、アセトン回収塔に装入し、塔頂よりアセトンを0.7kg/hの流量で、塔底より水、エチルベンゼンの混合物を1.6kg/hの流量でそれぞれ抜き出した。PL回収塔塔底より得られたPLとアセトン回収塔塔頂より得られたアセトンは、前述の合成反応器に装入する原料の一部として循環させた。
【0190】
さらに、前述の合成反応器へは、系外へパージされた量及び得られたBPAの量に対応する量のアセトンを2.9kg/hで、精製PLを15kg/hで補給し、BPA反応を連続的に行い、上記の系全体としてBPAを連続的に製造した。ここで得られたBPAを、前述のPCの重合工程に装入し、PCを製造した。
【0191】
上記で使用した精製PLは、市販工業用PL(水分濃度0.1wt%、不純物濃度0.05wt%、ヒドロキシアセトン濃度20ppm)を、温度80℃、接着時間50分で三菱化学(株)製:商品名 ダイヤイオンSK−104H樹脂に接触処理後、蒸留塔塔底温度175℃、塔頂圧力560mmHgで蒸留し、塔頂より得たものである。この精製PL中のヒドロキシアセトン含有量は、1ppm以下であった。
【0192】
(実験例2)BPAの製造
次に、図5の第2PL蒸留塔で留去されたs−PLの脱水品をBPA原料として使用し、かつ、s−PLの脱水時に留出されるPC低沸留去分(D6)をBPAの水分離工程に戻しながら、BPAを製造する方法について説明する。
【0193】
上記BPA製造工程(参考例2)において、反応混合物より分離して得られた、低沸点物(未反応アセトン、水、PLの一部)(5.1kg/h)に、前述のs−PL精製工程の第1蒸留塔の塔頂より得られた低沸留去分をまぜて、PL回収塔に装入し、同時にエチルベンゼン(共沸ブレイカー)を塔頂部より供給した。そして、PL回収塔の塔頂よりアセトン、水、エチルベンゼンの混合液を2.5kg/hの流量で、塔底よりPLを4.0kg/hの流量で、それぞれ抜き出した。さらに、PL回収塔の塔頂流出物(アセトン、水、エチルベンゼン)を、アセトン回収塔に装入し、塔頂よりアセトンを0.7kg/hの流量で、塔底より水、エチルベンゼンの混合物を1.7kg/hの流量でそれぞれ抜き出した。PL回収塔塔底より得られたPLとアセトン回収塔塔頂より得られたアセトンは、前述の合成反応器に装入する原料の一部として循環させた。
【0194】
さらに、前述のBPA反応器へは、系外へパージされた量及び得られたBPAの量に対応する量のアセトンを2.9kg/hで、PLとして前述のPL蒸留工程の第2PL蒸留塔の塔頂より得られた精製s−PLを14.5kg/hで補給し、合成反応を連続的に行い、上記の系全体としてBPAを連続的に製造した。さらに、ここで得られたBPAを、前述の重合工程に装入し、PCを製造した。
【0195】
その結果、s−PL精製工程の第1蒸留塔の塔頂より得られた低沸留去分をBPA製造工程内の既存の工程にリサイクルすることで、低沸留去分中のPLのほぼ全量をBPAの原料として効率的に回収できた。以上の操作を実施しながら、前述の如くBPA及びPCを製造した結果、得られたBPA及びPCの品質には何ら問題が無かった。
【0196】
(比較例2)BPAの製造
上記の精製s−PLの代わりに、上記のs−PL精製工程において、第1PL蒸留塔をバイパスして得られたs−PL(含水率0.3重量%)を用いた以外は、実験例2と同様にして、BPAを製造した。その結果、BPAの収量に低下がみられた。これは、含有する水によって、反応触媒であるイオン交換樹脂の活性低下が引き起こされたためと考えられる。
【0197】
(比較例3)BPAの製造
参考例2において、精製PLに代えて市販の工業用PLを用いた以外は、参考例2と同様にしてBPAを製造した。その結果、徐々にBPAの収量が低下し、含有するヒドロキシアセトンによる触媒の活性低下が確認された。
【0198】
((実施例2))
次に、s−PLの処理2として、PC重合工程でのPC蒸発成分の処理について、実験例を用いて説明する。
【0199】
〔DPCの製造例(1)〕
市販PLとCDCからDPCを製造する例を以下に示す。
<反応工程>
溶融した市販PLとピリジン触媒を反応器へ連続供給しながら、150℃の混合下、ホスゲンガスを連続供給した。ホスゲン化反応に伴って副生される塩化水素ガスは10℃まで冷却し、凝縮液は反応器に戻され、未凝縮ガスはアルカリ水溶液で中和後排出した。一方、反応器からはDPCが約91重量%含有する反応液を連続的に抜き出した。反応工程でのホスゲンの反応率はほぼ100%であった。
【0200】
<洗浄工程>
上記反応液と約5重量%の水酸化ナトリウム水溶液を、それぞれテフロンライニング製の中和混合槽に供給し、80℃下で約10分間混合し、pH8.5に調整した。中和後の有機相は静置分離後、水洗混合槽に移送した。水洗混合槽では有機相に対して約30重量%に相当する温水で洗浄され、水相を分離して、粗製DPC(水1重量%、ピリジン2重量%、PL8重量%、DPC89重量%含有)を得た。
【0201】
<低沸蒸留工程>
次に、上記粗製DPCを約30kg/hrで低沸蒸留塔の中段に連続供給した。低沸蒸留塔は内径150mm、高さ4.0mで、上部に還流装置、中央に原料供給部があり、濃縮部および回収部にスルザーパッキング(住友重機械工業(株)製)を充填した、理論段数8段の連続蒸留塔を使用した。真空度20torr、熱媒オイル温度約220℃、トップ温度80〜100℃、塔中段温度160℃、還流比1の条件で蒸留してDPCより低沸点物質である水、ピリジン、PLを蒸留留去した。塔底からは、約26kg/hrでDPC(水10重量ppm以下、ピリジン1重量ppm以下、PL50重量ppm)が連続的に抜き出された。
【0202】
<高沸蒸留工程>
更に、このDPC(低沸蒸留塔の缶出液)を高沸蒸留塔に連続供給した。高沸蒸留塔は内径200mm、高さ4.0mで、上部に還流装置、中央に原料供給部があり、濃縮部および回収部にスルザーパッキング(住友重機械工業(株)製)を充填した、理論段数8段の連続蒸留塔を使用した。真空度20torr、熱媒オイル温度約240℃、トップ温度約180℃、還流比0.5の条件で蒸留して、トップより精製DPCが約23.5kg/hrで得られ、塔底より高沸物(DPCのアルキル置換体とブロム置換体がそれぞれ約350重量ppmと約40重量ppm含有するDPC)が約2.5kg/hrでパージされた。精製DPCは、PL80重量ppm含有する高純度品であった。
【0203】
〔DPCの製造例(2)〕
市販PLとジメチルカーボネートからDPCを製造する例を以下に記す。
【0204】
<反応工程>
内径50mm、高さ5mの実段数50段のトレイ式蒸留塔(第1反応蒸留塔)の上から10段目に市販PL、ジメチルカーボネート及び触媒としてテトラフェノキシチタンを含む原料液を600g/hr(ジメチルカーボネート390g/hr、PL200g/hr、テトラフェノキシチタン0.5g/hr)の流量でフィードした。塔底をマントルヒーターで加熱して反応蒸留を行い、塔頂からメタノールを含むジメチルカーボネート溶液を還留比12で還留させながら抜き出した。生成したメチルフェニルカーボネート及び少量のDPCを含む塔底液は、塔底から抜き出して、内径80mm、高さ4mの実段数50段のトレイ式蒸留塔(第2反応蒸留塔)の上から10段目にフィードした。第2反応蒸留塔では、更に反応が進行して生成したDPC、メチルフェニルカーボネートを含む液が、塔底から抜き出された。そして、大部分の未反応ジメチルカーボネートと一部の未反応PLは、第2反応蒸留塔の塔頂より留去して第1反応蒸留塔へリサイクルした。
【0205】
<リサイクル工程>
内径32mm、高さ2.5mの実段数30段の蒸留塔(共沸蒸留塔)の中段に第1反応蒸留塔から留出させたメタノールを含むジメチルカーボネートの溶液をフィードして、還留比5で蒸留した。塔頂よりほぼ共沸組成に近いメタノールとジメチルカーボネートの混合液を抜き出し、次いで抽出蒸留塔にフィードした。抽出蒸留塔では、メタノールとジメチルカーボネートを分離し、メタノールは系外にパージされ、ジメチルカーボネートは第1反応蒸留塔へリサイクルした。また、前記の共沸蒸留塔の塔底液は微量のPLを含むジメチルカーボネートであり、これは第1反応蒸留塔へ循環した。
【0206】
<精製工程>
第2反応蒸留塔の塔底から連続的に抜き出された触媒及びDPCを含む高沸点反応混合物は蒸発缶へ導入され、そこで触媒を含む蒸発凝縮液がパージされた。一方、蒸発缶で形成されたDPCを多量に含む蒸発物はジフェニルカーボネート精製塔に供給された。精製塔の塔頂圧力は20Torr、塔底温度は190℃に制御され、塔頂からフェノール及びメチルフェニルカーボネートを含む低沸点混合物を留出し、一部は還流し、残りは前記の第2反応蒸留塔へリサイクルした。一方、ジフェニルカーボネート精製塔の塔底からは高沸不純物をパージし、塔中段からDPCを得た。
【0207】
以上のような操作を連続で行い、各工程が定常状態になるまで継続した。定常状態においてサンプリングして高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、得られたジフェニルカーボネートにはメチルフェニルカーボネートが300重量ppm検出された。また、DPCの収率は、PL基準で約95%であった。
【0208】
〔BPAの製造例〕
市販PLとアセトンからBPAを製造する例を以下に記す。
温度調節器を有する流通式合成反応器に、4−ピリジンエタンチオールでスルホン酸基の15%を中和した、スルホン酸型酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、商品名ダイヤイオンSK−104)を60L充填した。この合成反応器に、PL:アセトンのモル比が10:1の混合液を温度80℃、68.2kg/hrの流量で装入し、反応させた。アセトンの転化率は80%であった。反応混合物は、低沸点物(未反応アセトン、水、PLの一部)を5.1kg/hの流量でパージしたのち、50℃に冷却して付加物の結晶を析出させた。これを濾過して、付加物の結晶と母液とに分離した。流量はそれぞれ16.5kg/hと46.5kg/hであった。この母液の10wt%を母液処理工程に供給し、他の母液は合成反応器に装入する原料の一部として循環させた。
【0209】
ここで得られた付加物結晶を、再度27.2kg/hの流量のPLに溶解させたのち、50℃に冷却して結晶を析出させ、濾過して付加物の結晶(11.3kg/h)と母液(32.5kg/h)とに分離した。分離された結晶は、0.3mmHgの減圧下、180℃に加熱しPLを除去し、純度99.95%以上のBPAを7.7kg/hの流量で得た。
【0210】
一方、母液処理工程に供給した母液は、PLの一部を留去し濃縮した。次に、水酸化ナトリウムを0.1重量%含ませ、50mmHgの減圧下、210℃にコントロールした分解蒸留塔の塔底に装入した。塔底の液レベルは一定の条件で運転し(滞留時間:1hr)、分解蒸留塔の塔底液は0.5kg/hの流量で系外にパージした。さらに、分解蒸留塔の塔頂からの流出液と前述のPLとを混ぜ、スルホン酸型酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、商品名ダイヤイオンSK−104)を4L充填した、流通式反応器に4.2kg/hの流量で装入し、80℃の条件で、反応させた。得られた反応液は最初の合成反応器に循環した。
【0211】
前述の合成反応器へは、系外へパージされた量及び得られたビスフェノールAの量に対応する量の市販PL(18.5kg/h)とアセトン(3.6kg/h)を補給し、合成反応を連続的に行い、上記の系全体としてBPAを連続的に製造した。
【0212】
〔PCの製造例(1)〕
上記DPCの製造例(1)で得られたDPCと、上記BPAの製造例から得られたBPAから図6に示す工程でPCを製造する例を以下に記す。
【0213】
<PC重合工程>
上記DPCとBPAを窒素ガス雰囲気下、0.977重量比で混合槽21にて溶融混合し、窒素雰囲気下、210℃、100Torrに制御した第1縦型攪拌重合槽22内に連続供給し、平均滞留時間が60分になるように槽底部のポリマー排出ラインに設けられたバルブ開度を制御しつつ液面レベルを一定に保った。また、上記原料混合物の供給を開始すると同時に、触媒として水溶液とした炭酸セシウムをBPA1モルに対し、0.5×10−6モルの流量で連続供給した。槽底より排出された重合液は、引き続き第2、3の縦型重合槽23,24並びに第4の横型重合器25に逐次連続供給された。反応の間、各槽の平均滞留時間が60分になるように液面レベルを制御し、また同時に副生するPLの留去も行った。第1、2重合槽22,23より蒸発するガスは、それぞれ環流装置33a,33b、及び多段凝縮器26,27で凝縮液化され、一部を各重合槽に還流し、残りを第1PC用回収PLタンク29aに回収した。一方、第3重合槽24より蒸発するガスは、並列2基ある片方のフリーズコンデンサーで固化され、他方のフリーズコンデンサーとの切替運転により固化分を溶融し、第2PC用回収PLタンク29bに回収された。その際、第1,及び第2重合槽22,23より留出されるPC蒸発成分は全てを第1PC用回収PLタンク29aに、第3重合槽24より留出されるPC蒸発成分は第2PC用回収PLタンク29bにそれぞれ貯蔵した。
【0214】
各重合槽の重合条件は、第1重合槽22(210℃、100Torr)、第2重合槽23(240℃、15Torr)、第3重合槽24(260℃、0.5Torr)、第4重合器25(280℃、0.5Torr)であった。
【0215】
上記得られたポリマーを溶融状態のまま、2軸押出機(神戸製鋼所(株)製、スクリュー径0.046m、L/D=40.2)に導入し、ポリカーボネート当たり5重量ppm相当のp−トルエンスルホン酸ブチルを連続的に添加しながら、ペレット化した。こうして得られたPCのMvは21,000であり、初期YIは1.7であった。なお、分子量(Mv)及び初期色相(YI)の測定方法は、上記のとおりである。
【0216】
<PC蒸発成分>
上記重合工程より回収された各PC蒸発成分の量ならびに組成を測定した結果、以下の通りであった。
・第1PC用回収PLタンク29a
回収された第1PC蒸発成分p1中のフェノール量は、PC重合工程で留出したPL全体量に対して、約60%であった。PL以外にはDPCが1.1重量%検出され、BPA及びオリゴマー成分は未検出であった。
・第2PC用回収PLタンク29b
回収された第2PC蒸発成分p2中のフェノール量は、重合工程で留出したPL全体量に対して、約40%であり、PL以外にDPCが6.0重量%検出され、BPA及びオリゴマー成分がそれぞれ1.2重量%、0.3重量%検出された。
【0217】
〔PCの製造例(2)〕
上記DPCの製造例(2)で得られたDPCと、上記BPAの製造例から得られたBPAからPCを製造する例を以下に記す。
【0218】
<PC重合工程>
DPCとして、前述したDPCの製造例(2)で得られたDPCを使用した以外は、前記PCの製造例(1)と同様の操作を実施した。得られたPCは、Mv=21,000、初期YI=1.7であり、前記芳香族ポリカーボネートの製造例(1)のそれと同等品質であった。
【0219】
<PC蒸発成分>
上記重合工程より回収された各PC蒸発成分の量ならびに組成を測定した結果、以下の通りであった。
・第1PC用回収PLタンク29a
回収された第1PC蒸発成分p1中のフェノール量は、PC重合工程で留出したPL全体量に対して、約60%であった。PL以外にはDPCが1.1重量%、メタノールが95重量ppm検出され、BPAおよびオリゴマー成分は未検出であった。
・第2PC用回収PLタンク29b
回収された第2PC蒸発成分p2中のフェノール量は、重合工程で留出したPL全体量に対して、約40%であり、PL以外にDPCが6.0重量%検出され、BPA及びオリゴマー成分がそれぞれ1.2重量%、0.3重量%検出された。メタノールは未検出(5重量ppm以下)であった。
【0220】
(実験例1)
上記PCの製造例(1)で得られた副生フェノールを含むPC蒸発成分を用いて、DPC及びBPAを製造した。
<DPCの製造>
前述したDPCの製造例(1)で使用した市販PLの60%に相当する分を、上記PCの製造例(1)で回収された第1PC蒸発成分p1に変えた以外は、前述したDPCの製造例(1)と同様の操作を行い、DPCを製造した。結果、反応工程でのホスゲン反応率、及び、得られたDPCの品質は何ら変わりなく問題なかった。
【0221】
<BPAの製造>
前述したBPAの製造例において、合成反応器に連続的に補給される市販PLの40%に相当する分を、上記PCの製造例(1)で回収された第2PC蒸発成分p2に変えた以外は、前述したBPAの製造例と同様の操作を行い、BPAを製造した。結果、アセトンの転化率、ビスフェノールAの品質に問題はなかった。
【0222】
(実験例2)
上記PCの製造例(2)で得られた副生フェノールを含むPC蒸発成分を用いて、DPC及びBPAを製造した。
<DPCの製造>
前述したDPCの製造例(2)で使用した市販PLの60%に相当する分を、上記PCの製造例(2)で回収された第1PC蒸発成分p1に変えた以外は、前述したDPCの製造例(2)と同様の操作を行い、DPCを製造した。結果、同等品質のDPCを得ることができ、メチルフェニルカーボネート由来のメタノールが混入しても問題ないことが確認できた。
【0223】
<BPAの製造>
前述したBPAの製造例において、合成反応器に連続的に補給される市販PLの40%に相当する分を、上記PCの製造例(2)で回収された第2PC蒸発成分p2に変えた以外は、前述したBPAの製造例と同様の操作を行い、BPAを製造した。結果、アセトンの転化率、BPAの品質に問題はなかった。また、反応原料中のメタノール濃度は未検出であった。
【0224】
(比較例1)
上記PCの製造例(1)で回収された第2PC蒸発成分p2を使用してDPCを製造した。
<DPCの製造>
前述したDPCの製造例(1)で使用した市販PLを全て、上記PCの製造例(1)で回収された第2PC蒸発成分p2に変えた以外は、前述したDPCの製造例(1)と同様の操作を行い、DPCを製造した。結果、反応液を洗浄工程に移送する配管内で閉塞を生じ、運転を継続することができなかった。
【0225】
(比較例2)
上記PCの製造例(2)で回収された第1PC蒸発成分p1を使用してBPAを製造した。
<BPAの製造>
前述したBPAの製造例において、合成反応器に連続的に補給される市販PLを全て、上記PCの製造例(2)で回収された第1PC蒸発成分p1(メタノール95重量ppm含有)に変えた以外は、前述したBPAの製造例に従ってBPAを連続的に製造した。結果、アセトンの転化率が55.0%まで大幅に低下し、含有するメタノールにより触媒性能が低下したと考えられる。また、合成反応時の原料フェノール中のメタノール濃度は、循環する母液にて希釈され、約30重量ppmであった。
【0226】
((実施例3))
次に、s−PLの処理3として、PC蒸発成分p及び市販PLの不純物による使用法の区分けについて、実験例を用いて説明する。
【0227】
(実験例1)
(DPCの製造)
〔反応工程〕
溶融した市販PL(三菱化学(株)製、クレゾール含有量:45重量ppm、ヒドロキシアセトン含有量:27重量ppm、以下、「PL1」と称する。)とピリジン触媒を反応器へ連続供給しながら、150℃の混合下、ホスゲンガスを連続供給した。ホスゲン化反応に伴って副生される塩化水素ガスは10℃まで冷却し、凝縮液は反応器に戻され、未凝縮ガスはアルカリ水溶液で中和後排出した。一方、反応器からはDPCが約91重量%含有する反応液を連続的に抜き出した。
【0228】
〔洗浄工程〕
上記反応液と約5重量%の水酸化ナトリウム水溶液を、それぞれテフロンライニング製の中和混合槽に供給し、80℃で約10分間混合しpH8.5に調整した。中和後の有機相は静置分離後、水洗混合槽に移送した。水洗混合槽では有機相に対して約30重量%に相当する温水で洗浄され、水相を分離して、粗製DPC(水1重量%、ピリジン2重量%、PL8重量%、DPC89重量%含有)を得た。
【0229】
〔低沸蒸留工程〕
次に、上記粗製DPCを約30kg/hrで低沸蒸留塔の中段に連続供給した。低沸蒸留塔は内径150mm、高さ4.0mで、上部に還流装置、中央に原料供給部があり、濃縮部および回収部にスルザーパッキング(住友重機工業製)を充填した、理論段数8段の連続蒸留塔を使用した。真空度20torr、熱媒オイル温度約220℃、トップ温度80〜100℃、塔中段温度160℃、還流比1の条件で蒸留してDPCより低沸点物質である水、ピリジン、PLを蒸留留去した。塔底からは、約26kg/hrでDPC(水10重量ppm以下、ピリジン1重量ppm以下、PL50重量ppm)が連続的に抜き出された。
【0230】
〔高沸蒸留工程〕
更に、このDPC(低沸蒸留塔の缶出液)を高沸蒸留塔に連続供給した。高沸蒸留塔は内径200mm、高さ4.0mで、上部に還流装置、中央に原料供給部があり、濃縮部および回収部にスルザーパッキング(住友重機工業製)を充填した、理論段数8段の連続蒸留塔を使用した。真空度20torr、熱媒オイル温度約240℃、トップ温度約180℃、還流比0.5の条件で蒸留して、トップより精製DPC(PL80重量ppm含有)が約23.5kg/hrで得られた。
【0231】
(参考例1)
上記の市販PL(PL1)の代わりに、三菱化学(株)でのPC製造工場から得られたPC蒸発成分pを以下の条件で蒸留精製した副生フェノール(クレゾール含有量:5重量ppm、ヒドロキシアセトン含有量:1重量ppm以下、以下、「PL2」と称する。)を用いた以外は、実験例1と同様にして、DPCを製造した。
[蒸留精製条件]
第1蒸留塔では、200Torr、還流比2で、含有する水を一部PLとともに留去し、缶出液を第2蒸留塔へ連続供給した。第2蒸留塔では、50Torr、還流比0.5で、トップより精製した副生フェノールを得、缶出からは高沸点の成分であるDPC、BPA、及び、オリゴマーを含有するPL混合液を連続的にパージした。
〔結果〕
市販pLを精製することなく、DPC製造に使用しても、蒸留精製した副生フェノールを用いた場合と同様に、高純度で、変色等の生じない高純度なDPCが得られた。
【0232】
(実験例2、比較例1)BPAの製造
スルホン酸基の15重量%が4−(2−メルカプトエチル)ピリジンで変性されたスルホン酸型陽イオン交換樹脂(スチレン−ジビニルベンゼン架橋共重合体のスルホン化物(ダイヤイオンSK104H、三菱化学(株)製))を反応器に充填し、これに上記PL(PL2又はPL1)とアセトン(三菱化学(株)製)とからなる原料流体(PL:アセトン=13:1(モル比))をフェノール湿潤触媒基準のLHSV=5hr−1で連続的に流通させながら、70℃の反応温度で、1008時間にわたって、BPAの生成反応を行った。反応開始直後のアセトンの反応率、1008時間経過後のアセトン反応率、及びBPAの選択率を表1に示す。また、反応開始120時間経過後のアセトン反応率に対する1008時間経過後のアセトン反応率の比を、活性維持率として算出した。この結果も合わせて表1に示す。
【0233】
【表1】

【0234】
なお、反応率(%)、触媒の活性維持率(%)は、下記の式から算出した。
反応率(%)={(供給アセトン量−未反応アセトン量)/供給アセトン量}×100
活性維持率(%)=(1008時間後のアセトン転化率)/(120時間後のアセトン転化率)×100
【0235】
[結果]
PLとして、重合工程で留出したPLを蒸留精製したものを用いた場合、市販PLを用いた場合とは異なり、反応率も触媒の活性維持率も高い保持率を有していた。
【0236】
また、重合工程で留出したPLを蒸留精製したものを用いた場合、得られるBPAの色調は白色だったが、市販PLを用いた場合は、少し黄変していた。これらを用いてPCを製造したとすると、重合工程で留出したPLを蒸留精製したものを用いてBPAを製造した場合では、白色の高純度のPCが得られると考えられるが、市販PLを用いてBPAを製造した場合は、得られるPCが多少黄変し、純度も低下することが予想される。
【0237】
((実施例4))
次に、製造工程間の連携について、図7に記載のフローしたがって、本発明を更に具体的に説明する。なお、BPA貯蔵工程は、図7と異なり、加熱溶融工程((d)工程)とPL除去工程((e)工程)の間に設けた。
【0238】
(実験例1)
〔BPAの製造〕
温度調節器を有する流通式BPA反応器に、4−ピリジンエタンチオールでスルホン酸基の15%を中和した、スルホン酸型酸性陽イオン交換樹脂(三菱化成(株)製:商品名ダイヤイオンSK−104)を60L充填した。この合成反応器に、PL:アセトン(A)のモル比が10:1の混合液を温度80℃、68.2kg/hrの流量で装入し、反応させた。アセトン(A)の転化率は80%であった。反応混合物は、低沸点物(未反応アセトン、水、PLの一部)を5.1kg/hの流量でパージしたのち、50℃に冷却して付加物の結晶を析出させた。これを濾過して、付加物の結晶と母液とに分離した。流量はそれぞれ16.5kg/hと46.5kg/hであった。この母液の10wt%を母液処理工程に供給し、他の母液は合成反応器に装入する原料の一部として循環させた。
【0239】
ここで得られた付加物結晶を、再度27.2kg/hの流量のフェノールに溶解させたのち、50℃に冷却して結晶を析出させ、濾過して付加物の結晶(11.3kg/h)と母液(32.5kg/h)とに分離した。分離された結晶は、精製PL1.5kg/hrと混合され、BPAとPLの60:40重量%の混合物を、12.8kg/hrでBPA貯蔵タンク(以下の条件)にストックし、次工程のPL除去工程に12.0kg/hrで連続して供給した。
【0240】
上記BPA貯蔵タンクは、SUS304製の容量150Lのもの(明細書に記載のVb/Fb=22となる)を使用し、系内を窒素でシールし、BPAとPLの混合物の内温を120℃に調整した。また、上記BPAとPLの混合物には、イオン交換樹脂からの溶出したと考えられるPLスルホン酸が約10重量ppb検出されたため、貯蔵タンクに移送する前に、該酸性物質を完全に中和すべく、中和相当量の苛性ソーダ水溶液を添加し中和した後、上記貯蔵タンクに供給した。貯蔵タンクの液面は、運転開始から僅かながら徐々に上昇してきた。
【0241】
次に、BPA貯蔵タンク内のBPAとPLの混合物は、12.0kg/hrで連続して、PL除去工程に移送され、0.3mmHgの減圧下、180℃に加熱してPLを除去し、純度99.95%以上のBPAを7.2kg/hr(6.8L/hr)の流量で得た。得られたBPAは、そのまま、後述する芳香族ポリカーボネート製造工程に連続して供給した。
【0242】
一方、母液処理工程(図7に示さず。図4参照。)に供給した母液は、PLの一部をPL蒸発器13で留去し濃縮した。次に、水酸化ナトリウムを0.1重量%含ませ、50mmHgの減圧下、210℃にコントロールした残渣反応器14の塔底に装入した。塔底の液レベルは一定の条件で運転し(滞留時間:1hr)、残渣反応器14の塔底液は0.5kg/hの流量で系外にパージした。さらに、残渣反応器14の塔頂からの流出液と前述のPLとを混ぜ、スルホン酸型酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製:商品名ダイヤイオンSK−104)を4L充填した、流通式再生反応器15に4.2kg/hの流量で装入し、80℃の条件で、反応させた。得られた反応液は最初のBPA反応器に循環した。
【0243】
前述のBPA反応器へは、系外へパージされた量及び得られたBPAの量に対応する量の市販のPL(18.5kg/h)とアセトン(3.6kg/h)を補給し、合成反応を連続的に行い、上記の系全体としてBPAを連続的に製造した。
【0244】
〔PCの製造〕
図5に示すフローにしたがって、PCの製造例を以下に記す。
上記連続的に供給されるBPAとDPCを窒素ガス雰囲気下、混合槽21で1.024重量比で溶融混合し、窒素雰囲気下、210℃、100Torrに制御した第1縦型攪拌重合槽22内に連続供給し、平均滞留時間が60分になるように槽底部のポリマー排出ラインに設けられたバルブ開度を制御しつつ液面レベルを一定に保った。また、上記原料混合物の供給を開始すると同時に、触媒として水溶液とした炭酸セシウムをBPA1モルに対し、0.5×10−6モルの流量で連続供給した。槽底より排出された重合液は、引き続き第2、3の縦型重合槽23,24並びに第4の横型重合槽25に逐次連続供給された。反応の間、各槽の平均滞留時間が60分になるように液面レベルを制御し、また同時に副生するPLの留去も行った。第1、2重合槽より蒸発するPC蒸発成分pは、それぞれ多段凝縮器で凝縮液化され、一部を各重合槽に還流し、残りをPC用PLタンク29に回収した。一方、第3,4重合槽24,25より蒸発するガスは、それぞれ、並列2基ある片方のフリーズコンデンサで固化され、他方のフリーズコンデンサとの切替運転により固化分を溶融し、PC用PLタンク29に回収した(図示せず)。
【0245】
各反応槽の重合条件は、第1重合槽(210℃、100Torr)、第2重合槽(240℃、15Torr)、第3重合槽(260℃、0.5Torr)、第4重合槽(280℃、0.5Torr)であった。
【0246】
上記得られたポリマーを溶融状態のまま、PC当たり5重量ppm相当のp−トルエンスルホン酸ブチルを連続的に添加しながら、ペレット化した。こうして得られたポリカーボネートのMvは21,000であり、初期YIは1.8であった。
【0247】
<分子量(Mv)の測定>
PCの濃度(C)が0.6g/dlの塩化メチレン溶液を用いて、ウベローデ型粘度計により温度20℃で測定した比粘度(ηsp)から、下記の両式を用いて分子量(Mv)を算出した。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp)
[η]=1.23×10−4(Mv)0.83
【0248】
<初期色相(YI)の測定>
PCを窒素雰囲気下、120℃で6時間乾燥した後、(株)日本製鋼所(株)製:J−100射出成形機で3mm厚の射出成形片を360℃で製作し、スガ試験機(株)製:SC−1によりYI値を測定した(このYI値が大きいほど着色していることを示す)。
【0249】
上記運転を1週間継続した後、BPAの晶析装置を洗浄する目的で、合成反応・晶析工程を一時的に約8hrほど停止した。しかしながら、その間も貯蔵タンクにストックされた混合液を用いて、後工程を連続して運転し、BPA、および、芳香族ポリカーボネートを製造することができた。また、得られた上記品質は、1週間の継続運転時もその後の後工程のみの運転時も、初期品質と何ら変わりなく問題なかった。
【0250】
(実験例2)
実験例1のBPA製造時のBPA貯蔵タンクの容量を2m3(Vb/Fb=294となる)に変えた以外は、上記実験例1と同様の操作を行い、BPAおよび芳香族ポリカーボネートを連続して製造した。得られた芳香族ポリカーボネートのMvは21,000であり、初期YIは1.8を示した。
また、上記運転を2ヶ月継続したが、その間、芳香族ポリカーボネートの色相(初期YI)は1.8〜1.9を示し、良好な製品を得ることができた。さらに、その後、BPAの合成反応・晶析工程を一時的に約3日ほど停止したが、貯蔵タンクにストックされた混合液を用いて、後工程を連続して運転することができ、得られた製品品質も問題なかった。それ以降、上述の通り、BPAの前工程(BPA貯蔵タンクより前にある工程まで)を、2ヶ月毎に3日間停止する断続運転を行い、該BPAの後工程から芳香族ポリカーボネートの製造までを連続運転して、約半年にわたり、良品質の芳香族ポリカーボネートを連続して得ることができた。
【0251】
(比較例1)
実験例1のBPA製造時のBPA貯蔵タンクの容量を50L(Vb/Fb=7となる)に変えた以外は、上記実験例1と同様の操作を行い、BPAおよび芳香族ポリカーボネートを連続して製造した。得られた芳香族ポリカーボネートのMvは21,000であり、初期YIは1.8を示した。
【0252】
しかしながら、上記運転を開始して2日を過ぎてから、BPA貯蔵タンクが一杯となり、ビスPL製造の前工程(貯蔵タンクより前にある工程まで)の製造速度を低下させ、貯蔵タンクの液面が一定になるように調整した。その後、該前工程のみを停止したところ、貯蔵タンクの液面は見る見るうちに低下し、約4hrで空となり、後工程およびPC工程の全工程を停止せざるを得なくなった。
【0253】
(比較例2)
比較例1において、貯蔵タンクの液面が一定になるように、BPAの前工程(貯蔵タンクより前にある工程まで)の製造速度を調整しながら、連続的にBPAを製造し、得られたBPAは冷却後、造粒されたものを、新たに設けたBPAの粉体ホッパー(容量1m)に一度貯蔵した。その後、粉体計量フィーダーを用いて、DPC溶液に供給、溶解させながら、上述の通り連続的にPCを製造した。上記粉体ホッパーにBPAが存在している間は、BPA工程を一時的に停止しても、PCの製造速度には問題無かったが、この方法では、溶融しているBPAを粉体にするため一度冷却し、その後溶解のために加熱する必要があり、熱効率の面で不利であった。また、BPAの供給時に粉塵が発生し、ガスラインが閉塞するトラブルが発生した。
【0254】
(比較例3)
比較例1において、貯蔵タンクの液面が一定になるように、貯蔵タンク以降の製造速度を若干上昇させ、連続的にBPAを7.7kg/hrで製造した。得られたBPA単体は、新たに設けた容量2m3のタンクに貯蔵され、内温が160℃にコントロールされた後、比較例1と同様に、7.2kg/hrでPCの製造原料として供給した。得られたPCの初期YIは1.8であったが、運転を継続するにつれて、色相が明らかに悪化し始め、BPA単体で溶融保持すると品質は大幅に悪化した。
【0255】
(実験例3)
次に、BPA製造工程、DPC製造工程及びPC製造工程を連携し、各製造工程にBPA、DPC、PC貯蔵工程を設けた実験例を以下に記す。
〔BPAの製造〕
上記実験例1と同様に実施した。
【0256】
〔DPCの製造〕
<反応工程>
温度50℃の溶融フェノールを6.4kg/hr、触媒として、後述する低沸蒸留塔から留出した低沸点物質を脱水処理したピリジン含有フェノールを第一反応器へ連続供給しながら、150℃へ昇温した。十分に攪拌を行いながら、ホスゲンガス0.75Nm/hrを第一反応器へ連続供給した。第一反応器から流出した反応混合物は、気液混相にてオーバーフロー管を介して第二反応器へ供給した。第二反応器も十分な攪拌状態のもと150℃に調整し、反応液は脱ガス塔へ供給し、脱ガス塔では、中間体であるフェニルクロロフォーメートとフェノールの押し切り反応を完結すべく、窒素ガスによる向流接触を160℃で実施した。脱ガス塔底からは、ジフェニルカーボネートが約89重量%の反応液が連続的に抜き出された。供給されたホスゲンは、そのほぼ100%がジフェニルカーボネートに転換された。一方、ジフェニルカーボネート合成時の排ガス(第二反応器からの反応排ガス及び脱ガス塔からの窒素含有排ガス)は、混合した後、10℃まで冷却され、凝縮液は第二反応器へ戻され、未凝縮ガスの塩化水素はアルカリ水溶液で中和され、排出した。
【0257】
<洗浄工程>
得られた反応液と、後述する回収蒸留塔より回収されたジフェニルカーボネートと、約5重量%の水酸化ナトリウム水溶液(25重量%の水酸化ナトリウム水溶液と次工程の水洗後に分離された水相との混合液)を、それぞれテフロンライニング製の中和混合槽に供給し、80℃で約10分間混合しpH8.5に調整した。中和後の有機相は静置分離後、水洗混合槽に移送した。一方、分離後の水相(フェノールや食塩を含有している)は、水蒸気と接触させて、含有するフェノールをほぼ全量フェノール含有水として回収し、次工程の水洗混合槽に供給した。水洗混合槽では有機相に対して約30重量%に相当する温水で洗浄され、水相(前述した中和混合槽にリサイクルされる)を分離して、粗製ジフェニルカーボネート(水、触媒ピリジン、フェノールを含有する)を得た。
【0258】
<低沸蒸留工程>
次に、上記粗製ジフェニルカーボネートを約9kg/hr、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を15mL/hrで低沸蒸留塔の中段に連続供給した。低沸蒸留塔は内径100mm、高さ4.0mで、上部に還流装置、中央に原料供給部があり、濃縮部および回収部にスルザーパッキング(住友重機械工業製)を充填した、理論段数8段の連続蒸留塔を使用した。真空度20torr、熱媒オイル温度約220℃、トップ温度80〜100℃、還流比1の条件で蒸留してジフェニルカーボネートより低沸点物質である水、触媒ピリジン、未反応フェノールを蒸留除去した。低沸点物質は脱水処理後、一部をパージし、残りを前記ホスゲン化第一反応器へ供給した。一方、塔底からは、約7.8kg/hrでジフェニルカーボネートを抜き出し、その中の水分は未検出(10ppm以下)であり、ピリジンとフェノールの含有量はそれぞれ未検出(1ppm以下)と50ppmであった。
【0259】
<高沸蒸留工程>
更に、このジフェニルカーボネート(低沸蒸留塔の缶出液)を高沸蒸留塔に連続供給した。高沸蒸留塔は内径100mm、高さ4.0mで、上部に還流装置、中央に原料供給部があり、濃縮部および回収部にスルザーパッキング(住友重機械工業製)を充填した、理論段数8段の連続蒸留塔を使用した。真空度20torr、熱媒オイル温度約240℃、トップ温度約180℃、還流比0.5、留出率約90%の条件で蒸留して、トップより精製ジフェニルカーボネートを約7.1kg/hr(7L/hr)で得、塔底より高沸物を約0.8kg/hrでパージした。精製ジフェニルカーボネートは、フェノールを80ppm含有する高純度品であり、SUS316製の容量200Lのタンク(明細書に記載のVd/Fd=29となる)に100℃で一定量(約100L)貯蔵された後、7L/hrでPC重合原料として供給された。
【0260】
<回収蒸留工程>
さらに、高沸蒸留塔の塔底よりパージされた缶出液を同時に回収蒸留塔に供給し、下記の条件で連続蒸留し、トップより約0.7kg/hrで回収されたジフェニルカーボネートは前述した中和混合槽にリサイクルし、缶出液は約0.04kg/hrで連続的にパージした。ジフェニルカーボネートの回収蒸留の条件は、内径50mm、高さ3.0mで、上部に還流装置、中央に原料供給部があり、濃縮部および回収部にスルザーパッキング(住友重機械工業製)を充填した、理論段数8段の連続蒸留塔を使用し、真空度20torr、熱媒オイル温度約240℃、トップ温度180℃、還流比0.5で実施した。また、回収蒸留塔の缶出液には、ジフェニルカーボネートのアルキル置換体とブロム置換体が、それぞれ、約7000重量ppmと約800重量ppm検出された。
【0261】
〔PCの製造〕
<重合工程>
窒素ガス雰囲気下、130℃で、上記で得られたビスフェノールAを7.2kg/hrで、ジフェニルカーボネートを7.1kg/hrで溶融混合し、130℃に加熱した原料導入管を介して常圧、窒素雰囲気下、210℃に制御した第1縦型攪拌重合槽内に連続供給し、平均滞留時間が60分になるように槽底部のポリマー排出ラインに設けられたバルブ開度を制御しつつ液面レベルを一定に保った。また、上記原料混合物の供給を開始すると同時に、触媒として水溶液とした炭酸セシウムをビスフェノールA1モルに対し、0.5×10−6モルの流量で連続供給した。槽底より排出された重合液は、引き続き第2、3、4の縦型重合槽並びに第5の横型重合槽に逐次連続供給された。反応の間、各槽の平均滞留時間が60分になるように液面レベルを制御し、また同時に副生するフェノールの留去も行った。第1〜3重合槽より蒸発するガスは、それぞれ多段凝縮器で凝縮液化され、一部を各重合槽に還流し、残りを副生フェノールタンクに回収した。一方、第4〜5重合槽より蒸発するガスは、それぞれ、並列2基ある片方のフリーズコンデンサーで固化され、他方のフリーズコンデンサーとの切替運転により固化分を溶融し、上記の副生フェノールタンクに回収された。
【0262】
各反応槽の重合条件は、第2重合槽(210℃、100Torr)、第3重合槽(240℃、15Torr)、第4重合槽(260℃、0.5Torr)、第5重合槽(270℃、0.5Torr)であった。また、ポリカーボネートの製造速度は8.0kg/hrで運転を行った。
【0263】
次に、このポリマーを溶融状態のまま、2軸押出機(神戸製鋼所(株)製)に導入し、ポリカーボネート当たり5ppm相当のp−トルエンスルホン酸ブチルを連続的に添加した。なおp−トルエンスルホン酸ブチルは、原液をフレーク状のポリカーボネートにミキサーを用いて分散させマスターバッチを作成し、重量フィーダーを用いて、窒素下、上記押出機に供給し、ペレット化した。こうして得られたポリカーボネートのMvは21,000であり、初期YIは1.7であった。
【0264】
・分子量(Mv):
ポリカーボネートの濃度(C)が0.6g/dlの塩化メチレン溶液を用いて、ウベローデ型粘度計により温度20℃で測定した比粘度(ηsp)から、下記の両式を用いて算出した値である。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp)
[η]=1.23×10−4×(Mv)0.83
【0265】
・初期色相(YI):
ポリカーボネート樹脂を窒素雰囲気下、120℃で6時間乾燥した後、(株)日本製鋼所製J−100射出成形機で3mm厚の射出成形片を360℃で製作し、スガ試験機株式会社製SC−1によりYI値を測定した(このYI値が大きいほど着色していることを示す)。
【0266】
<副生フェノール精製工程>
上記重合工程より約6.3kg/hr(6L/hr)で回収された副生フェノールは前述した副生フェノールタンク(SUS304製の容量200Lタンク。明細書に記載のVc/Fc=33となる)に一定量(約100L)貯蔵した後、以下の蒸留精製を行い、DPC製造原料としてリサイクルした。不足分は、市販PLを一部補充した。
第1の蒸留塔は、200Torr、還流比2で、含有する水を一部フェノールとともに留去し、缶出液は第2蒸留塔へ供給した。第2蒸留塔では、50Torr、還流比0.5で、トップより精製フェノールを約5.8kg/hrで得、精製フェノールタンクを経由して、DPC製造工程に供給した。一方、缶出からはジフェニルカーボネート、ビスフェノールA、及び、オリゴマーをそれぞれ、67重量%、7重量%、及び、4重量%含有するフェノール混合液を連続的に抜き出した。
【0267】
上記実験を継続して400時間実施したが、途中温調トラブル等でDPC製造工程を一時的に停止する必要が生じたものの、貯蔵タンク内の液を用いることで全系停止には至らず、早急にトラブル対処することができた。また、運転の途中でポリカーボネートのグレードとしてMv=15,000なるものを製造したが、その際重合槽より回収される副生フェノールの一時的な組成変動を生じたが、前記貯蔵タンク内でその変動が緩和でき、次工程の副生フェノール精製工程の運転条件をスムーズに変更することができた。
【0268】
((実施例5))
次に、排液処理について、本発明を更に具体的に説明する。なお、まず、粘度平均分子量(Mv)及び初期色相(YI)の測定方法は、上記の通りである。
【0269】
(実験例1)
(DPC製造工程)
図1に記載のフローにしたがって行った。以下に、詳細を示す。
〔DPC反応工程〕
溶融PLとピリジン触媒をDPC反応器1へ連続供給しながら、150℃の混合下、ホスゲン(CDC)ガスを連続供給した。次いで、脱塩酸塔2に送り、ホスゲン化反応に伴って副生される塩化水素ガス(D1)は10℃まで冷却し、凝縮液は反応器に戻され、未凝縮ガスはアルカリ水溶液で中和後排出した。一方、脱塩酸塔2からはDPCが約91重量%含有する脱塩酸処理液bを連続的に抜き出した。
【0270】
〔DPC洗浄工程・DPC水洗工程〕
上記脱塩酸処理液bを混合槽3に送り、続いて、テフロンライニング製のアルカリ中和槽4に送った。また、約5重量%の水酸化ナトリウム水溶液を、アルカリ中和槽4に供給し、80℃下で約10分間混合し、pH8.5に調整した。中和後の有機相は静置分離後、水洗槽5に移送した。水洗槽5では有機相に対して約30重量%に相当する温水で洗浄され、水相を分離して、粗製DPC(水1重量%、ピリジン2重量%、PL8重量%、DPC89重量%含有)である水洗処理液fを得た。
【0271】
〔DPC蒸留工程−低沸蒸留工程〕
次に、上記水洗処理液fを約30kg/hrで第1PL蒸留塔6の中段に連続供給した。第1PL蒸留塔6は内径150mm、高さ4.0mで、上部に還流装置、中央に原料供給部があり、濃縮部および回収部にスルザーパッキング(住友重機械工業(株)製)を充填した、理論段数8段の連続蒸留塔を使用した。真空度20torr、熱媒オイル温度約220℃、トップ温度80〜100℃、塔中段温度160℃、還流比1の条件で蒸留してDPCより低沸点物質である水、ピリジン、PLを含む混合ガスF蒸留留去した。塔底からは、約26kg/hrでDPC(水10重量ppm以下、ピリジン1重量ppm以下、PL50重量ppm)を含む缶出液である第1蒸留残渣gが連続的に抜き出された。
【0272】
〔DPC蒸留工程−高沸蒸留工程〕
更に、この第1蒸留残渣gを第2PL蒸留塔7に連続供給した。第2PL蒸留塔7は内径200mm、高さ4.0mで、上部に還流装置、中央に原料供給部があり、濃縮部および回収部にスルザーパッキング(住友重機械工業(株)製)を充填した、理論段数8段の連続蒸留塔を使用した。真空度20torr、熱媒オイル温度約240℃、トップ温度約180℃、還流比0.5の条件で蒸留して、トップより精製DPCが約23.5kg/hrで得られ、塔底より高沸物(DPCのアルキル置換体とブロム置換体がそれぞれ約350重量ppmと約40重量ppm含有するDPC)であるDPC蒸留残渣(X1)が約2.5kg/hrでパージされた。精製DPCは、PLを80重量ppm含有する高純度品であった。
【0273】
(PC製造工程)
〔PC重合工程〕
図5に示すフローにしたがって行った。すなわち、上記DPC製造工程で得られた精製DPCとBPAを窒素ガス雰囲気下、混合槽21において、0.977重量比で溶融混合し、130℃に加熱した原料導入管を介して常圧、窒素雰囲気下、210℃に制御した縦型第1重合槽22内に連続供給し、平均滞留時間が60分になるように槽底部のポリマー排出ラインに設けられたバルブ開度を制御しつつ液面レベルを一定に保った。また、上記原料混合物の供給を開始すると同時に、触媒として水溶液とした炭酸セシウムをBPA1モルに対し、0.5×10−6モルの流量で連続供給した。槽底より排出された重合液は、引き続き第2、3の縦型重合槽並びに第4の横型重合器に逐次連続供給された。反応の間、各槽の平均滞留時間が60分になるように液面レベルを制御し、また同時に副生するPLの留去も行った。第1〜3重合槽より蒸発するPC蒸発成分pは、それぞれ多段凝縮器で凝縮液化され、一部を各重合槽に還流し、残りをPC用回収PLタンク29に回収した。一方、第4重合器より蒸発するガスは、並列2基ある片方のフリーズコンデンサで固化され、他方のフリーズコンデンサとの切替運転により固化分を溶融し、PC用回収PLタンク29に回収された(図示せず)。
【0274】
各反応槽の重合条件は、第1重合槽(210℃、100Torr)、第2重合槽(240℃、15Torr)、第3重合槽(260℃、0.5Torr)、第4重合器(270℃、0.5Torr)であった。
【0275】
上記得られたポリマーを溶融状態のまま、2軸押出機(神戸製鋼所(株)製、スクリュー径0.046m、L/D=40.2)32に導入し、PC当たり5重量ppm相当のp−トルエンスルホン酸ブチルを連続的に添加しながら、ペレット化した。こうして得られたPCの粘度平均分子量(Mv)は21,000であり、初期色相(YI)は1.7であった。
【0276】
〔PL蒸留工程〕
上記PC重合工程より回収されたPC蒸発成分pを分析した結果、DPCが5.0重量%、BPAが0.5重量%、オリゴマーが0.3重量%、水分が0.2重量%検出された。
このPC蒸発成分pを以下の2塔の蒸留塔(第1PL蒸留塔30,第2PL蒸留塔31)で連続的に精製した。第1PL蒸留塔30は、200Torr、還流比2で、含有する水を一部PLとともにPC低沸留去分(D6)として留去し、缶出液である第1段蒸留残渣qは、第2PL蒸留塔31へ連続供給した。第2PL蒸留塔31では、50Torr、還流比0.5で、トップより精製PLを得、缶出からはDPC、BPA、及び、オリゴマーをそれぞれ、67重量%、7重量%、及び、4重量%含有するPL蒸留残渣(X2)を連続的にパージした。
【0277】
(PC製造工程の蒸留残渣X2を、DPC製造工程の蒸留工程に送る例)
上記PC製造工程の副生PL精製工程よりパージされたPL蒸留残渣(X2,PL22重量%、DPC67重量%、BPA7重量%、オリゴマー4重量%含有)を上記DPC製造工程の第1DPC蒸留塔6へ供給し、次いで、第1DPC蒸留塔6の缶出液である第1蒸留残渣gを第2DPC蒸留塔7へ供給した。その結果、上記PL蒸留残渣(X2)のうちPLのほぼ100%が第1DPC蒸留塔6のトップより回収され、DPCの約半分が第2DPC蒸留塔7のトップより回収され、上記PL蒸留残渣(X2)を既存の所定の工程にリサイクルするだけで有効成分が効率的に回収できた。
以上の操作を実施しながら、前述の如くDPC及びPCを製造した結果、得られたDPC及びPCの品質には何ら問題が無かった。
【0278】
(実験例2)
(DPC製造工程)
図1に記載のフローにしたがって行った。以下に、詳細を示す。
〔回収蒸留工程〕
実験例1のDPC製造工程の高沸蒸留工程よりパージされたDPC蒸留残渣(X1)をDPC回収蒸留塔8に供給し、下記の条件で連続蒸留し、トップよりDPC含有回収液dを留出回収した。回収された留出分は、DPC製造工程の洗浄工程にリサイクルし、歩留まりを向上させた。一方、DPC回収蒸留塔の缶出からは高沸物(DPCのアルキル置換体とブロム置換体がそれぞれ約7000重量ppmと約800重量ppm含有するDPC)であるDPC回収蒸留残渣(X1’)が連続的にパージされた。
【0279】
DPCの回収蒸留の条件は、内径100mm、高さ3.0mで、上部に還流装置、中央に原料供給部があり、濃縮部および回収部にスルザーパッキング(住友重機械工業(株)製)を充填した、理論段数8段の連続蒸留塔を使用し、真空度20torr、熱媒オイル温度約240℃、トップ温度180℃、還流比0.5で実施した。
その他の操作は、実験例1と同様に行い、精製DPC(PL80重量ppm含有)の高純度品を製造し、PCを製造した。
【0280】
(PC製造工程の蒸留残渣(X2)を、DPC製造工程の回収蒸留工程に送る例)
上記PC製造工程のPL蒸留工程よりパージされたPL蒸留残渣(X2,PL22重量%、DPC67重量%、BPA7重量%、オリゴマー4重量%含有)を上記DPC製造工程のDPC回収蒸留塔8へ供給した。その結果、上記蒸留残渣のうちPLのほぼ100%とDPCの約80重量%が回収蒸留塔のトップより回収され、上記PL蒸留残渣X2を既存の所定の工程にリサイクルするだけで有効成分が効率的に回収できた。
以上の操作を実施しながら、前述の如くDPC及びPCを製造した結果、得られたDPC及びPCの品質には何ら問題が無かった。
【0281】
(実験例3)
(BPA製造工程)
図2〜4に示すフローで行った。温度調節器を有する流通式BPA反応器に、4−ピリジンエタンチオールでスルホン酸基の15%を中和した、スルホン酸型酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製:商品名 ダイヤイオン SK−104)を60L充填した。このBPA反応器に、PL:アセトンのモル比10:1の混合液を温度80℃、68.2kg/hrの流量で装入し、反応させた。アセトンの転化率は80%であった。反応混合物は、低沸点物(未反応アセトン、水、PLの一部)を5.1kg/hの流量でパージしたのち、50℃に冷却して付加物の結晶を析出させた。これを濾過して、付加物の結晶と母液とに分離した。流量はそれぞれ16.5kg/hと46.5kg/hであった。この母液の10wt%を母液処理工程に供給し、他の母液は合成反応器に装入する原料の一部として循環させた。
【0282】
ここで得られた付加物結晶を、再度27.2kg/hの流量のフェノールに溶解させたのち、50℃に冷却して結晶を析出させ、濾過して付加物の結晶(11.3kg/h)と母液(32.5kg/h)とに分離した。分離された結晶は、0.3mmHgの減圧下、180℃に加熱してPLを除去し、純度99.95%以上のBPAを7.7kg/hの流量で得た。
【0283】
一方、母液処理工程に供給した母液は、図4に示すように、PL蒸発器13で、PLの一部を留去し濃縮した。次に、水酸化ナトリウムを0.1重量%含ませ、50mmHgの減圧下、210℃にコントロールした残渣反応器14分解蒸留塔の塔底に装入した。塔底の液レベルは一定の条件で運転し(滞留時間:1hr)、分解蒸留塔の塔底液は0.5kg/hの流量で系外にパージした。さらに、残渣反応器14の塔頂からの流出液と前述のPLとを混ぜ、スルホン酸型酸性陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製:商品名 ダイヤイオン SK−104)を4L充填した、流通式再生反応器15に4.2kg/hの流量で装入し、80℃の条件で、反応させた。得られた反応液は最初のBPA反応器に循環した。
前述のBPA反応器へは、系外へパージされた量及び得られたBPAの量に対応する量のアセトン(3.6kg/h)とPL(18.5kg/h)とを補給し、合成反応を連続的に行い、上記の系全体としてBPAを連続的に製造した。
【0284】
(DPC製造工程のDPC蒸留残渣(X1)とPC製造工程のPL蒸留残渣(X2)を、BPA製造工程の母液処理工程に送る例)
上記DPC製造工程のDPC蒸留残渣(X1,DPCのアルキル置換体:約350重量ppm、DPCのブロム置換体約40重量ppm、残りはDPC)を0.11kg/hの流量で、PC製造工程の副生PL精製工程よりパージされたPL蒸留残渣(X2,PL22重量%、DPC67重量%、BPA7重量%、オリゴマー4重量%含有)を0.15kg/hの流量で、上記BPA製造工程の母液処理工程((g)工程)へ供給した。このとき、残渣反応器14の塔底の液レベルは一定の条件で運転し(滞留時間:1hr)、塔底液は0.6kg/hで系外にパージした。
【0285】
その結果、上記各蒸留残渣のうちPLのほぼ100%とBPAの分解生成物が母液処理工程の残渣反応器14のトップより回収され、上記各蒸留残渣を既存の所定の工程にリサイクルするだけで有効成分が効率的に回収できた。
以上の操作を実施しながら、前述の如くBPA、DPC及びPCを製造した結果、得られたBPA、DPC及びPCの品質には何ら問題が無かった。
【0286】
(実験例4)
(DPC製造工程のDPC回収蒸留残渣(X1’)とPC製造工程のPL蒸留残渣(X2)を、BPA製造工程の母液処理工程に送る例)
上記DPC製造工程のDPC回収蒸留残渣(X1’,DPCのアルキル置換体:約7000重量ppm、DPCのブロム置換体約800重量ppm、残りはDPC)を0.11kg/hの流量で、PC製造工程の副生PL精製工程よりパージされたPL蒸留残渣(X2,PL22重量%、DPC67重量%、BPA7重量%、オリゴマー4重量%含有)を0.15kg/hの流量で、上記BPA製造工程の母液処理工程((g)工程)へ供給した。このとき、残渣反応器14の塔底の液レベルは一定の条件で運転し(滞留時間 1hr)、塔底液は0.6kg/hで系外にパージした。
【0287】
その結果、上記蒸留残渣のうちPLのほぼ100%とBPAの分解生成物が母液処理工程の残渣反応器14のトップより回収され、上記各蒸留残渣を既存の所定の工程にリサイクルするだけで有効成分が効率的に回収できた。
以上の操作を実施しながら、前述の如くBPA、DPC及びPCを製造した結果、得られたBPA、DPC及びPCの品質には何ら問題が無かった。
【0288】
(実験例5)
(PC製造工程のPL蒸留残渣(X2)を、DPC製造工程の回収蒸留工程に送り、DPC回収蒸留残渣(X1’)をBPA製造工程の母液処理工程に送る例)
上記PC製造工程の副生PL精製工程よりパージされたPL蒸留残渣(X2、PL22重量%、DPC67重量%、BPA7重量%、オリゴマー4重量%含有)を上記DPC製造工程のDPC回収蒸留塔8へ供給し、DPC回収蒸留塔8より留出された有効成分は上記DPC製造工程の洗浄工程にリサイクルし、かつ、DPC回収蒸留塔8の缶出液であるDPC回収蒸留残渣(X1’)は、上記BPA製造工程の母液処理工程((g)工程)に供給し、該工程で回収された有効成分をBPA製造工程の合成原料として使用した。以上の操作を実施しながら、BPA、DPC及びPCを400時間連続して運転した結果、得られたBPA、DPC及びPCの品質には何ら問題が無く、高沸廃棄物はBPA製造工程の母液処理工程からの排出にまとめられ、その量は激減し、歩留まりが大幅に向上した。
【符号の説明】
【0289】
1 DPC反応器
2 脱塩酸塔
3 混合槽
4 アルカリ中和槽
5 水洗槽
6 第1DPC蒸留塔
7 第2DPC蒸留塔
8 DPC回収蒸留塔
【0290】
11 BPA用回収PLタンク
12 PL分離塔
13 フェノール蒸発器
14 残渣反応器
15 再生反応器
【0291】
21 混合槽
22 第1重合槽
23 第2重合槽
24 第3重合槽
25 第4重合器
26 熱交換器
27 熱交換器
28 コンデンサ
29 PC用回収PLタンク
29a 第1PC用回収PLタンク
29b 第2PC用回収PLタンク
30 第1PL蒸留塔
31 第2PL蒸留塔
32 押出機
33a,33b 環流装置
【0292】
41 蒸留装置
42 凝縮器
43 真空設備
44 真空配管
45 凝縮液タンク
46 送液ポンプ
47 還流配管
48 ミストキャッチャー
49 液抜き口
50 供給口
【0293】
51 弁
52 弁
53 液抜き口
54 液抜き口
55 供給口
56 弁
57 取り出し口
【0294】
A アセトン
BPA ビスフェノールA
C1 アルカリ系触媒
C2 塩基性触媒
CDC ホスゲン
D1 塩酸ガス
D2 中和排水
D3 排水
D4 BPA低沸留去分
D5 排ガス
D6 PC低沸留去分
D7 廃液
【0295】
AW 水・アセトン混合物
DPC ジフェニルカーボネート
E1 アルカリ性水溶液
F 混合ガス
I 酸
J 添加剤
p PC蒸発成分
p1 第1PC蒸発成分
p2 第2PC蒸発成分
PL フェノール
s−PL 副生フェノール
W 水
X1 DPC蒸留残渣
X1’ 回収蒸留残渣
X2 PL蒸留残渣
【0296】
a DPC含有反応液
b 脱塩酸処理液
d DPC含有回収液
e 中和処理液
f 水洗処理液
g 第1蒸留残渣
k PL回収液
p PC蒸発成分
q 第1段蒸留残渣

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール(PL)及びカルボニル化合物を原料とし、ジフェニルカーボネート(DPC)を製造するジフェニルカーボネート(DPC)製造工程、
及び/又は、フェノール(PL)及びアセトンを原料としてビスフェノールA(BPA)を製造するビスフェノールA(BPA)製造工程、
並びに、上記ジフェニルカーボネート(DPC)及びビスフェノールA(BPA)を原料とし、PC重合工程を経て芳香族ポリカーボネート(PC)を製造すると共に、副生フェノールを回収する芳香族ポリカーボネート(PC)製造工程を含む、芳香族ポリカーボネートの製造方法において、
上記ジフェニルカーボネート(DPC)製造工程は、DPC反応工程及びDPC蒸留工程を有する工程であり、
上記芳香族ポリカーボネート(PC)製造工程のうち、副生フェノールを回収する工程は、上記PC重合工程でのPC蒸発成分を液化してPL蒸留工程にかけ、このPC蒸発成分からPC低沸留去分を除去することによって、副生フェノールを回収する工程であり、
上記芳香族ポリカーボネート(PC)製造工程で回収される副生フェノールを上記ジフェニルカーボネート(DPC)製造工程、及び/又はビスフェノールA(BPA)製造工程の原料として用い、
かつ、上記PL蒸留工程で生じるPL蒸留残渣を、上記DPC蒸留工程に送ることを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項2】
上記ビスフェノールA製造工程は、BPA反応工程、BPA低沸除去工程及びBPA晶析・分離工程を有すると共に、上記BPA低沸除去工程から排出されるBPA低沸留去分をBPA水分離工程にかけてフェノール回収液を回収する工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項3】
上記PL蒸留工程で除去されるPC低沸分中のフェノール濃度が50〜99.8重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項4】
上記ジフェニルカーボネート製造工程は、上記のDPC反応工程とDPC蒸留工程の間にDPC洗浄工程を有し、
上記PL蒸留工程で発生するPC低沸留去分を、上記DPC洗浄工程に送ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項5】
上記PL蒸留工程で発生するPC低沸留去分を、上記BPA水分離工程に送ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項6】
上記ビスフェノールA製造工程で原料として使用されるフェノール中の、ヒドロキシアセトンの含有量が10重量ppm未満であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項7】
上記BPA反応工程に用いられる酸触媒が、メルカプト基を有する化合物で変性されたスルホン酸型陽イオン交換樹脂である請求項1乃至6のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項8】
上記PL蒸留工程の前及び/又は後に、上記PL蒸留工程にかける前のPC蒸発成分の液化物、及び/又は上記PL蒸留工程で回収された副生フェノールを貯蔵するPC貯蔵工程を設け、このPC貯蔵工程に用いられるPC貯蔵タンクの容量を、下記式(1)の条件を満たす容量とすることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
10≦(Vc/Fc)≦100 (1)
(なお、式(1)において、Vcは、PC貯蔵タンクの容量(m)を示し、Fcは、PC蒸発成分の液化物又は副生フェノールの供給速度(m/hr)を示す。)
【請求項9】
上記DPC蒸留工程の後に、このDPC蒸留工程で得られたジフェニルカーボネートを貯蔵するDPC貯蔵工程を設け、このDPC貯蔵工程に用いられるDPC貯蔵タンクの容量を、下記式(2)の条件を満たす容量とすることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
10≦(Vd/Fd)≦100 (2)
(なお、式(2)において、Vdは、DPC貯蔵タンクの容量(m)を示し、Fdは、ジフェニルカーボネートの供給速度(m/hr)を示す。)
【請求項10】
上記BPA晶析・分離工程と、上記PC重合工程との間に、ビスフェノールAとフェノールとの混合物を貯蔵するBPA貯蔵工程を設けることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項11】
上記BPA貯蔵工程に用いられるBPA貯蔵タンクの容量を、下記式(3)の条件を満たす容量とすることを特徴とする請求項10に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
10≦(Vb/Fb)≦1000 (3)
(なお、式(3)において、Vbは、BPA貯蔵タンクの容量(m)を示し、Fbは、PC重合工程に供されるビスフェノールAの供給量(m/hr)を示す。)
【請求項12】
上記BPA貯蔵工程で貯蔵される上記ビスフェノールAとフェノールとの混合物が、ビスフェノールAとフェノールとの付加物結晶、ビスフェノールAとフェノールとの付加物結晶を含むスラリー、ビスフェノールAとフェノールとの混合液のいずれかの形態であることを特徴とする請求項10又は11に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項13】
上記BPA晶析工程とPC重合工程との間、又はそれより前の工程に、中和工程を設けることを特徴とする請求項10乃至12のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項14】
上記のBPA反応工程からBPA晶析工程に至る工程を断続的に行うと共に、上記PC重合工程を連続的に行うことを特徴とする請求項10乃至13のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項15】
上記ジフェニルカーボネート製造工程は、上記DPC蒸留工程のDPC蒸留残渣からジフェニルカーボネートを回収するDPC回収蒸留工程を有し、
上記PL蒸留工程で生じるPL蒸留残渣を、上記DPC蒸留工程及び/又はDPC回収蒸留工程に送ることを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項16】
上記ビスフェノールA製造工程は、上記BPA晶析・分離工程から排出される母液の一部又は全部を、BPA母液処理工程に送って母液中の副生物を減少させ、次いで、ビスフェノールA製造の原料として使用されるフェノールの一部又は全部として用いる工程を有し、
上記PL蒸留工程で生じるPL蒸留残渣、及び/又は上記DPC蒸留工程で生じるDPC蒸留残渣を、上記ビスフェノールA製造工程の上記BPA母液処理工程に送ることを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項17】
上記PL蒸留工程で生じるPL蒸留残渣、並びに/又は、上記DPC蒸留工程で生じるDPC蒸留残渣及び/若しくは上記DPC回収蒸留工程で生じるDPC回収蒸留残渣を、上記ビスフェノールA製造工程の上記BPA母液処理工程に送ることを特徴とする請求項1乃至16のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項18】
上記PL蒸留工程で生じるPL蒸留残渣を、上記DPC蒸留工程に送り、次いで、上記DPC蒸留工程で生じる蒸留残渣を、上記BPA母液処理工程に送ることを特徴とする請求項1乃至17のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項19】
上記PL蒸留工程で生じるPL蒸留残渣を、上記DPC蒸留工程及び/又はDPC回収蒸留工程に送り、次いで、上記DPC蒸留工程で生じるDPC蒸留残渣及び/又はDPC回収蒸留残渣を、上記BPA母液処理工程に送ることを特徴とする請求項1乃至18のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項20】
上記BPA母液処理工程は、母液の一部又は全部に塩基性物質を加えて加熱することによって、フェノール及びフェノール誘導体を生じさせ、次いで、このフェノール及びフェノール誘導体を、酸触媒又はアルカリ触媒を用いて反応させることにより、ビスフェノールAを得ることを特徴とする請求項17乃至19のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項21】
上記塩基性物質が水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムであることを特徴とする請求項20に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項22】
上記DPC蒸留工程の蒸留塔に、留出する物質を凝縮する凝縮器、系内を減圧にする真空設備、及び、上記凝縮器と上記真空設備とを繋ぐ真空配管を設け、
上記真空配管は、上記凝縮器側から上記真空設備側へ向かって下向きの傾斜を有しており、かつ、上記凝縮器側から上記真空設備側へ向かって上方に立ち上がる部分の高さの合計が1m以下であることを特徴とする請求項1乃至21のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項23】
上記PC重合工程でのPC蒸発成分を液化する工程に用いられる重合装置に、留出するPC蒸発成分を凝縮する凝縮器、重合系内を減圧にする真空設備、及び上記凝縮器と真空設備とを繋ぐ真空配管を設け、
上記真空配管は、上記凝縮器側から上記真空設備側へ向かって下向きの傾斜を有しており、かつ、上記凝縮器側から上記真空設備側へ向かって上方に立ち上げる部分の高さの合計が1m以下であることを特徴とする請求項1乃至22のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項24】
上記PL蒸留工程の蒸留塔に、留出する物質を凝縮する凝縮器、系内を減圧にする真空設備、及び、上記凝縮器と上記真空設備とを繋ぐ真空配管を設け、
上記真空配管は、上記凝縮器側から上記真空設備側へ向かって下向きの傾斜を有しており、かつ、上記凝縮器側から上記真空設備側へ向かって上方に立ち上がる部分の高さの合計が1m以下であることを特徴とする請求項1乃至23のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項25】
上記真空配管が、上記蒸留塔及び/又は重合装置からの留出物の融点以上に内部を加熱保温する設備を有することを特徴とする請求項23又は24に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項26】
上記真空配管の上記真空設備側に、少なくとも一つの液抜き口を設けることを特徴とする請求項22乃至25のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項27】
上記真空配管の上記凝縮器側に、加熱流体を供給可能な供給口を設けることを特徴とする請求項22乃至26のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項28】
上記供給口から、上記加熱流体を供給することにより、上記真空配管を洗浄することを特徴とする請求項27に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項29】
上記加熱流体が、水蒸気、フェノール、窒素のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項27又は28に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項30】
上記ジフェニルカーボネート製造工程で原料として使用されるフェノールとして、クレゾール及び/又はキシレノールを20〜1000重量ppm含有するフェノールを用い、
上記ビスフェノールA製造工程で原料として使用されるフェノールの少なくとも一部として、上記芳香族ポリカーボネート製造工程の重合工程で生じるフェノールを用いることを特徴とする請求項1乃至29のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項31】
上記ビスフェノールA製造工程で原料として使用されるフェノール中の、クレゾール及び/又はキシレノールの含有量が20重量ppm未満であることを特徴とする請求項30に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項32】
上記ビスフェノールA製造工程で原料として使用されるフェノールの少なくとも一部として、上記芳香族ポリカーボネート製造工程の重合工程で生じるフェノールを、水を除去する工程を経た後に用いることを特徴とする請求項30又は31に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項33】
上記ビスフェノールA製造工程は、BPA反応工程、BPA低沸除去工程及びBPA晶析・分離工程を有すると共に、上記BPA低沸除去工程から排出されるBPA低沸留去分をBPA水分離工程にかけてフェノールを回収する工程を有し、
上記の水を除去する工程が、上記ビスフェノールA製造工程の水分離工程であることを特徴とする請求項32に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項34】
上記水を除去する工程に次いで、フェノールより高沸点の成分を分離するBPA高沸分分離工程を有することを特徴とする請求項32又は33に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項35】
上記ビスフェノールA製造工程は、上記BPA晶析・分離工程から排出される母液の一部又は全部を、BPA母液処理工程に送って母液中の副生物を減少させ、次いで、ビスフェノールA製造の原料として使用されるフェノールの一部又は全部として用いる工程を有し、
上記BPA高沸分除去工程で得られたフェノールより高沸点の成分を、上記BPA母液処理工程に送ることを特徴とする請求項34に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項36】
上記芳香族ポリカーボネート製造工程で副生するフェノールのうち、50〜95重量%を上記ジフェニルカーボネート製造工程で使用するフェノールの少なくとも一部として使用し、かつ、50〜5重量%を上記ビスフェノールA製造工程の原料の少なくとも一部として使用することを特徴とする請求項1乃至35のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項37】
上記芳香族ポリカーボネート製造工程で副生するフェノールのうち、50〜70重量%を上記ジフェニルカーボネート製造工程で使用するフェノールの少なくとも一部として使用し、かつ、50〜30重量%を上記ビスフェノールA製造工程の原料の少なくとも一部として使用することを特徴とする請求項36に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項38】
上記芳香族ポリカーボネート製造工程における重合工程は、少なくとも3槽の重合槽から構成され、上記重合槽のうち、第1槽、又は第1槽及び第2槽から回収される副生フェノールを上記ジフェニルカーボネート製造工程で使用するフェノールの少なくとも一部として使用し、かつ、上記重合槽のうち、第2槽以降、又は第3槽以降の重合槽から回収される副生フェノールを上記ビスフェノールA製造工程で使用するフェノールの少なくとも一部として使用することを特徴とする請求項1乃至37のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項39】
上記ジフェニルカーボネート製造工程で使用される副生フェノールは、ジフェニルカーボネートより高沸点を有する高沸点化合物を1.0重量%以下含有する請求項36乃至38のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項40】
上記ジフェニルカーボネート製造工程で使用される副生フェノールが得られる上記重合槽は、蒸発成分を還流する還流装置を有する請求項36乃至39のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項41】
上記カルボニル化合物がジアルキルカーボネート及び/又はアルキルアリールカーボネートであり、上記芳香族ポリカーボネート製造工程で副生するフェノールを上記ビスフェノールA製造工程の原料の一部として使用するとき、上記の原料として用いられるフェノールには、ジアルキルカーボネート及びアルキルアリールカーボネート、並びにジアルキルカーボネート及び/又はアルキルアリールカーボネートから得られるアルキルアルコールを20重量ppm以下含有する請求項36乃至40のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−222589(P2010−222589A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118561(P2010−118561)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【分割の表示】特願2004−238681(P2004−238681)の分割
【原出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】