説明

芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物およびその成形品

【課題】芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融流動性を改良し、成形不良を改善した成形品を提供する。
【解決手段】 芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)70〜99.6質量%と、流動性向上剤(B)0.1〜29.7質量%と、(メタ)アクリレート単量体、スチレン、アクリロニトリル単量体から選ばれる少なくとも一種以上の単量体混合物を重合して得られる質量平均分子量が30万〜500万の重合体からなる溶融張力向上剤(C)0.3〜20質量%とを含有する芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物であって、前記流動性向上剤(B)が、芳香族ビニル単量体(b1)0.5〜99.5質量%、エステル基がフェニル基または置換フェニル基である(メタ)アクリル酸エステル単量体(b2)0.5〜99.5質量%、および他の単量体(b3)0〜40質量%からなる単量体混合物(ただし、単量体(b1)〜(b3)の合計が100質量%)を重合して得られる重合体であることを特徴とする、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジニアリングプラスチックの中でも、特に芳香族ポリカーボネート樹脂は、その優れた機械強度、耐熱性、電気特性、寸法安定性、難燃性、透明性などにより、電気電子・OA機器、光メディア、自動車部品、建築部材など、広く使用されている。しかしながら、芳香族ポリカーボネート樹脂は非晶性であるため、成形加工温度が高く、溶融流動性に劣るという問題を有している。
芳香族ポリカーボネート樹脂の優れた特性を損なうことなく溶融流動性を向上させる方法として、特許文献1には、芳香族ポリカーボネート樹脂等のエンジニアリングプラスチックに、フェニルメタクリレートとスチレンとの共重合体を含む流動性向上剤を配合する方法が記載されている。
【0003】
一方、溶融張力などのレオロジー特性を改善させる方法として、特許文献2には、芳香族ポリカーボネート樹脂に粘度平均分子量20万〜130万のアクリル系樹脂を添加する事で、良好な発泡シート成形体を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/030819号パンフレット
【特許文献2】特開平10−329206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融張力を向上し、かつ溶融流動性を維持する事は困難であった。特許文献1に記載されている方法では、溶融流動性は改良するが、溶融張力が不足し、ジェッティングやフローマークなど溶融張力不足由来の成形不良が起きる。特許文献2に記載されている方法では、溶融張力は改良するが、溶融粘度(溶融流動性)が低下する。
本発明の目的は、芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融流動性を改良し、かつジェッティングやフローマークなどの成形不良を改善した成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)70〜99.6質量%と、流動性向上剤(B)0.1〜29.7質量%と、(メタ)アクリレート単量体、スチレン、アクリロニトリル単量体から選ばれる少なくとも一種以上の単量体混合物を重合して得られる質量平均分子量が30万〜500万の重合体からなる溶融張力向上剤(C)0.3〜20質量%とを含有する芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物であって、前記流動性向上剤(B)が、芳香族ビニル単量体(b1)0.5〜99.5質量%、エステル基がフェニル基または置換フェニル基である(メタ)アクリル酸エステル単量体(b2)0.5〜99.5質量%、および他の単量体(b3)0〜40質量%からなる単量体混合物(ただし、単量体(b1)〜(b3)の合計が100質量%)を重合して得られる重合体であることを特徴とする、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、溶融流動性を改良し、かつジェッティングやフローマークなどの成形不良を改善する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)〕
芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)は、芳香族ヒドロキシ化合物と、ジフェニルカーボネート等の炭酸ジエステルまたはホスゲンとを反応させることによって得られる芳香族ポリカーボネート重合体または共重合体である。芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)は、分岐状のものであってもよい。分岐状の芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)の場合、芳香族ヒドロキシ化合物としては、芳香族ジヒドロキシ化合物と芳香族ポリヒドロキシ化合物等とが併用される。
【0009】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)−3,3,5―トリメチルシクロヘキサンが挙げられる。これらのうち、ビスフェノールAが好ましい。さらに、難燃性を高める目的で、これら芳香族ジヒドロキシ化合物は、スルホン酸テトラアルキルホスホニウム、臭素原子、またはシロキサン構造を有する基で置換された構造を有していてもよい。
【0010】
芳香族ポリヒドロキシ化合物としては、例えば、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタンが挙げられる。分岐状の芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)を得る場合の芳香族ポリヒドロキシ化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物(100モル%)に対して、好ましくは0.01〜10モル%であり、より好ましくは0.1〜2モル%である。
【0011】
芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)の分子量の調節、末端基の調節等の目的で、一価芳香族ヒドロキシ化合物、またはそのクロロホルメート体等の一価芳香族ヒドロキシ化合物誘導体を用いてもよい。一価芳香族ヒドロキシ化合物およびその誘導体としては、フェノール、m−クレゾール、p−クレゾール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等のアルキルフェノール、これらの誘導体等が挙げられる。これら一価芳香族ヒドロキシ化合物および/またはその誘導体の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物(100モル%)に対して、好ましくは0.1〜10モル%であり、より好ましくは1〜8モル%である。
【0012】
芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)には、難燃性を高める目的で、シロキサン構造を有するポリマーまたはオリゴマーを共重合させてもよく、成形時の溶融流動性を向上させる目的で、ジカルボン酸またはジカルボン酸クロライド等の誘導体を共重合させてもよい。
【0013】
芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)の分子量は、溶媒として塩化メチレンを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、14000〜40000が好ましく、16000〜30000がより好ましく、18000〜26000がさらに好ましい。
また、2種以上の芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)を混合して用いてもよい。
【0014】
芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)を含む樹脂材料として、芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)と後述の他の樹脂および/またはエラストマーとを組み合わせた芳香族ポリカーボネート系ポリマーアロイを用いてもよい。
【0015】
〔他の樹脂、エラストマー〕
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物には、芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)が本来有する、優れた透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性、自己消火性(難燃性)等を損なわない範囲、具体的には芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)100質量部に対して50質量部以下の範囲で、他の樹脂および/またはエラストマーを配合してもよい。
【0016】
他の樹脂としては、例えば、ポリスチレン(PSt)、スチレン系ランダム共重合体(アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)等)、スチレンと無水マレイン酸との交互共重合体、グラフト共重合体(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン樹脂(AES樹脂)、アクリロニトリル−アクリレート−スチレン樹脂(AAS樹脂)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)等)等のスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、これらの共重合体等のポリエステル;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、メタクリル酸メチル単位を有する共重合体等のアクリル系樹脂;ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体等のオレフィン系樹脂;ポリウレタン;シリコーン樹脂;シンジオタクチックPS;6−ナイロン、6,6−ナイロン等のポリアミド;ポリアリレート;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルケトン;ポリスルホン;ポリエーテルスルホンポリアミドイミド;ポリアセタール等、各種汎用樹脂またはエンジニアリングプラスチックが挙げられる。
【0017】
エラストマーとしては、例えば、イソブチレン−イソプレンゴム;ポリエステル系エラストマー;スチレン−ブタジエンゴム、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン(SBS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレン(SEBS)、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン(SIS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)−ポリスチレン(SEPS)等のスチレン系エラストマー;エチレン−プロピレンゴム等のポリオレフィン系エラストマー;ポリアミド系エラストマー;アクリル系エラストマー;ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム等を含有するコアシェル型の耐衝撃性改良剤等、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン樹脂(MBS樹脂)、メタクリル酸メチル−アクリロニトリル−スチレン樹脂(MAS樹脂)に代表されるコアシェル型の耐衝撃性改良剤が挙げられる。
【0018】
〔流動性向上剤(B)〕
流動性向上剤(B)は、芳香族ビニル単量体(b1)0.5〜99.5質量%、エステル基がフェニル基または置換フェニル基である(メタ)アクリル酸エステル単量体(b2)0.5〜99.5質量%、および他の単量体(b3)0〜40質量%からなる単量体混合物(ただし、単量体(b1)〜(b3)の合計が100質量%)を重合して得られる重合体である。
なお、本発明において「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
流動性向上剤(B)は、溶融成形時には、芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)と相分離挙動を示し、かつ成形品の使用温度領域では、耐剥離性が良好なレベルとなるような、芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)との相溶性(親和性)を示すため、芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)の特性(耐熱性、耐衝撃性等)を損なうことなく、従来にない著しい溶融流動性(成形性)および耐薬品性の向上効果を発現する。
【0019】
流動性向上剤(B)においては、重合前の単量体混合物中の各単量体の混合比(質量%)と重合後の重合体の単量体構成単位(質量%)が一致していることが好ましく、単量体混合物における重合率は少なくとも90%以上であることが好ましい。95%以上であることがより好ましく、97%以上であることがさらに好ましい。重合率が90%より小さい場合は、重合前の単量体混合物中の各単量体の混合比(質量%)と重合後の重合体の単量体構成単位(質量%)が異なる可能性があり、最適な組成範囲にずれが生じる恐れがある。また得られた重合体を回収する際に未反応の単量体を精製する必要が生じることからも好ましくない。重合率が95%以上であれば、重合前の単量体混合物中の各単量体の混合比(質量%)と重合後の重合体の単量体構成単位(質量%)は実質ほぼ一致していると考えて問題はない。
【0020】
芳香族ビニル単量体(b1)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレンが好ましい。
【0021】
芳香族ビニル単量体(b1)の含有量は、単量体混合物(100質量%)中、0.5〜99.5質量%である。芳香族ビニル単量体(b1)の含有量がこの範囲にあれば、流動性向上剤(B)は、優れた溶融流動性向上効果を発現する。
芳香族ビニル単量体(b1)の含有量が99.5質量%を超えると、芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)との相溶性が不充分となり、結果、成形品が層状剥離を引き起こし、外観および機械特性を損なう場合がある。芳香族ビニル単量体(b1)の含有量が0.5質量%未満であると、芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)との相溶性が良くなりすぎるため、溶融時に相分離挙動を十分に発揮することができず、溶融流動性の向上効果が低下する傾向にある。
外観および機械特性と、溶融流動性とのバランスを考えると、芳香族ビニル単量体(b1)の含有量は、98質量%以下が好ましく、96質量%以下がより好ましく、93質量%以下がさらに好ましく、90質量%以下が特に好ましい。また、芳香族ビニル単量体(b1)の含有量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましい。
【0022】
エステル基がフェニル基または置換フェニル基である(メタ)アクリル酸エステル単量体(b2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸ブロモフェニル、(メタ)アクリル酸ジブロモフェニル、(メタ)アクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル、(メタ)アクリル酸モノクロルフェニル、(メタ)アクリル酸ジクロルフェニル、(メタ)アクリル酸トリクロルフェニルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、(メタ)アクリル酸フェニルが特に好ましい。
【0023】
エステル基がフェニル基または置換フェニル基である(メタ)アクリル酸エステル単量体(b2)の含有量は、単量体混合物(100質量%)中、0.5〜99.5質量%である。単量体(b2)の含有量がこの範囲にあれば、流動性向上剤(B)は、優れた相溶性(耐剥離性)の向上効果を発現する。
エステル基がフェニル基または置換フェニル基である(メタ)アクリル酸エステル単量体(b2)の含有量が0.5質量%未満であると、芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)との相溶性が不充分となり、結果、成形品が層状剥離を引き起こし、外観および機械特性を損なう場合がある。単量体(b2)の含有量が99.5質量%を超えると、芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)との相溶性が良くなりすぎるため、溶融時に相分離挙動を十分に発揮することができず、溶融流動性の向上効果が低下するとともに、耐薬品性の向上効果が低下する傾向にある。
外観および機械特性と、溶融流動性とのバランスを考えると、単量体(b2)の含有量は、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましく、30質量%以下が特に好ましい。また、単量体(b2)の含有量は、2質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、7質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上が特に好ましい。
【0024】
流動性向上剤(B)を構成する重合体は、上述の特性を損なわない範囲において、必要に応じて、芳香族ビニル単量体(b1)およびエステル基がフェニル基または置換フェニル基である(メタ)アクリル酸エステル単量体(b2)と共重合可能な他の単量体(b3)を0〜40質量%含んでもよい。
他の単量体(b3)は、α,β−不飽和単量体である。このような単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソボロニル、(メタ)アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、フタル酸2−メタクリロイルオキシエチル、(メタ)アクリル酸アリル、1,3−ブチレンジメタクリレート等の反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル;安息香酸ビニル、酢酸ビニル、無水マレイン酸、N−フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、ジビニルベンゼンが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
他の単量体(b3)の含有量は、単量体混合物(100質量%)中、0〜40質量%である。単量体(b3)の含有量が40質量%を超えると、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融流動性向上効果が低下する傾向にある。他の単量体(b3)の含有量は、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。
【0026】
流動性向上剤(B)は、芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)との相溶性に優れることから、これを含む芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物からなる成形品の透明性は良好となる。流動性向上剤(B)を構成する重合体を、芳香族ビニル単量体(b1)とエステル基がフェニル基または置換フェニル基である(メタ)アクリル酸エステル単量体(b2)の二成分系とし、さらにこれらの含有量を、特定範囲内とすることで、極めて高度な透明性を発現させることが可能となる。
極めて高度な透明性を発現する重合体としては、重合体中の芳香族ビニル単量体(b1)が0.5〜40質量%であり、単量体(b2)が60〜99.5質量%からなる重合体(B1)(両者の合計量は100質量%である)、重合体中の芳香族ビニル単量体(b1)が60〜99.5質量%であり、単量体(b2)が0.5〜40質量%である重合体(B2)(両者の合計量は100質量%である)の2つが挙げられる。
【0027】
流動性向上剤(B)を構成する重合体の質量平均分子量は、5000〜200000が好ましい。質量平均分子量が5000未満であると、相対的に低分子量物が多くなるため、耐熱性、剛性等の種々の特性を低下させる可能性がある。また、溶融成形時の発煙、ミスト、機械汚れ、フィッシュアイ、シルバー等の成形品の外観不良といった問題が発生する可能性が高くなるおそれがある。高温時の透明性が良好な成形品(ヘイズの温度依存性が小さい成形品)が必要な場合は、重合体の質量平均分子量は高い方がよい。したがって、重合体の質量平均分子量は10000以上が好ましく、15000以上がより好ましく、30000以上がさらに好ましく、40000以上が特に好ましい。
また、重合体の質量平均分子量が200000を超えると、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融粘度も高くなり、充分な溶融流動性の向上効果が得られない可能性がある。なお、耐薬品性のみを向上させたい場合においては、重合体の質量平均分子量が200000を超えても特に問題はない。著しい溶融流動性の向上効果が必要な場合は、重合体の質量平均分子量は低い方がよい。したがって、重合体の質量平均分子量は170000以下が好ましく、150000以下がより好ましく、120000以下がさらに好ましく、100000以下が特に好ましい。
【0028】
流動性向上剤(B)を構成する重合体の分子量分布、すなわち質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)は、小さい方が好ましい。分子量分布は、4.0以下が好ましく、3.0以下がさらに好ましく、2.0以下が特に好ましい。分子量分布が4.0を超えると、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融粘度も高くなり、充分な溶融流動性の向上効果が得られない可能性がある。
【0029】
流動性向上剤(B)を構成する重合体の製造方法としては、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法等が挙げられる。これらのうち、回収方法が容易である点で懸濁重合法、乳化重合法が好ましい。なお、乳化重合法の場合は、重合体中の残存塩が芳香族ポリカーボネート系樹脂の熱分解を引き起こすおそれがある。そのため、乳化重合の際には、カルボン酸塩乳化剤等を用い、重合体を酸析凝固等により回収をする、またはリン酸エステル等のノニオンアニオン系乳化剤等を用い、酢酸カルシウム塩等を用いた塩析凝固により重合体を回収することが好ましい。
【0030】
流動性向上剤(B)の配合量は、所望の物性等に応じて適宜決定すればよい。芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)の特性(透明性、耐熱性、耐衝撃性等)を低下させることなく有効な溶融流動性の向上効果を得るためには、流動性向上剤(B)の配合量は、芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)と他の樹脂またはエラストマーとの合計100質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましい。流動性向上剤(B)の配合量が0.1質量部未満であると、充分な溶融流動性の向上効果が得られないおそれがある。流動性向上剤(B)の配合量が30質量部を超えると、芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)の優れた機械特性を損なうおそれがある。流動性向上剤(B)配合量は、芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)と他の樹脂またはエラストマーとの合計100質量部に対して、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上がさらに好ましく、3質量部以上が特に好ましい。また、流動性向上剤(B)配合量は、芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)と他の樹脂またはエラストマーとの合計100質量部に対して、25質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましく、10質量部以下が特に好ましい。
【0031】
本発明の溶融張力向上剤(C)は、(メタ)アクリレート単量体、スチレン、アクリロニトリル単量体から選ばれる少なくとも一種以上の単量体混合物を重合して得られる質量平均分子量が30万〜500万の重合体からなる。(メタ)アクリレート単量体単位しては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレートなどの芳香族メタクリレートが挙げられ、これらを単独あるいは2種以上併用することができる。好ましくはメチルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートであり、さらに好ましくは、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、フェニルメタクリレートである。
【0032】
本発明の溶融張力向上剤(C)では、その他の単量体単位を含んでも良い。その他の単量体単位は、α,β−不飽和単量体であり、例えば以下のようなものが挙げられる。;
α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物;
メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;
ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン系単量体;
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体;
酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル系単量体;
エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;
【0033】
本発明の溶融張力向上剤(C)の質量平均分子量は、30万〜500万である。好ましくは40万〜300万であり、さらに好ましくは60万〜200万であり、最も好ましくは、80万〜130万である。質量平均分子量が範囲内にある事により、良好な相容性を示し、溶融張力向上効果が高い。
【0034】
本発明の溶融張力向上剤(C)を得るための重合方法としては、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法が挙げられるが、本発明の範囲内の分子量を得るのが容易である点から、乳化重合法が好ましい。乳化重合法の場合は、重合後に、酸析凝固や塩析凝固、噴霧乾燥などの方法により重合体を回収するのが一般的である。
【0035】
溶融張力向上剤(C)の含有量は、所望の物性等に応じて適宜決定すればよく、特に制限されない。芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)と流動性向上剤(B)からなるマトリックス樹脂(A+B)の性能(溶融流動性、衝撃強度等)を低下させることなく有効な成形性改良効果を得るためには、熱可塑性樹脂組成物中、芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)が70〜99.6質量%、流動性向上剤(B)が0.1〜29.7質量%、溶融張力向上剤(C)が0.3〜20質量%であることが好ましい。溶融張力向上剤(C)の含有量が0.3質量%より小さいと、充分な改良効果が得られない恐れがある。また、溶融張力向上剤(C)の含有量が20質量%より大きいと、マトリックス樹脂(A+B)の優れた性能(溶融流動性、衝撃強度等)を損なう恐れがある。
溶融張力向上剤(C)の含有量は、より好ましくは0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1質量%以上である。また、溶融張力向上剤(C)の含有量は、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0036】
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物には、必要に応じて、公知の安定剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、難燃剤等の添加剤を配合してもよい。例えば、成形品の強度、剛性、さらには難燃性を向上させるために、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維等を含有させることができる。
【0037】
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、例えば、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単純スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、2本ロール、ニーダー、ブラベンダー等を用いて、流動性向上剤、芳香族ポリカーボネート樹脂、および必要に応じて添加剤等を混合し、混練する公知の方法が挙げられる。
【0038】
本発明の成形品は、本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、注型成形法等の公知の方法で成形することにより得られる。本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、射出成形品の原料として特に有用である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例中の「部」および「%」は、それぞれ「質量部」および「質量%」を表す。
【0040】
(重合率の測定)
以下の手順により、重合体の重合率を測定した。
1)アルミ皿の質量を0.1mgの単位まで測定する。(A)
2)アルミ皿に重合体を約1g取り、質量を0.1mgの単位まで測定する。(B)
3)重合体の入ったアルミ皿を180℃の乾燥機に入れ、45分間加熱する。
4)重合体の入ったアルミ皿を乾燥機から取出し、デシケーター内で室温まで冷却した後、質量を0.1mgの単位まで測定する。(C)
5)下記式により、重合体の固形分を算出する。
(C−A)/(B−A)×100[%]
6)算出した固形分を、仕込み時の固形分で割り、重合体の重合率を算出する。
【0041】
(質量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の測定)
以下の手順により、重合体の(Mw)および(Mn)を測定した。
ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、標準ポリスチレンによる検量線から求めた。測定条件は以下のとおり。
カラム :TSK−GEL SUPER HZM−N(東ソー(株)製)
測定温度 :40℃
溶離液 :クロロホルム
溶離液速度 :0.6ml/分
検出器 :RI
【0042】
(溶融流動性の評価)
樹脂組成物のスパイラルフロー長さを、射出成形機(IS−100、東芝機械(株)製)を用いて測定した。
成形温度300℃、金型温度80℃、射出圧力98MPaとし、成形品の肉厚は2mm、幅は15mmとした。
【0043】
(フローマークの評価)
得られたスパイラルフロー成形品を目視にて観察した。
×:フローマークが観察できる場合
○:フローマークが観察できない場合
【0044】
<製造例1>
流動性向上剤(B−1)の製造
温度計、窒素導入管、冷却管および攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、下記の乳化剤混合物を投入して攪拌し、窒素雰囲気下で内温を60℃まで加熱した。
乳化剤混合物:
フォスファノールRS−610Na 1.0部
(花王(株)製、アニオン系乳化剤)
脱イオン水 293部
【0045】
次いで、下記の還元剤混合物をセパラブルフラスコ内に投入した。
還元剤混合物:
硫酸第一鉄 0.0001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.0003部
ロンガリット 0.3部
脱イオン水 5部
【0046】
下記の単量体混合物を180分かけてセパラブルフラスコ内に滴下し、その後60分間攪拌して重合を終了し、重合体(B−1)ラテックスを得た。
単量体混合物:
スチレン 87.5部
フェニルメタクリレート 12.5部
n−オクチルメルカプタン 0.5部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.2部
酢酸カルシウム5部を溶解した水溶液625部を83℃に加温し攪拌した。ここに、得られた重合体(B−1)ラテックスを徐々に滴下した。次いで、91℃に昇温して5分間保持し、ラテックスの凝固を行なった。凝固物を分離洗浄後、75℃で24時間乾燥して、重合体(B−1)を得た。
重合体(B−1)の重合率は95%、(Mw)は52000、(Mn)は23000であった。
【0047】
<実施例1〜2、比較例1〜3>
芳香族ポリカーボネート樹脂(パンライトL−1225Y、帝人化成(株)製)、流動性向上剤(B−1)、および溶融張力向上剤としてメチルメタクリレートとブチルアクリレートとの共重合体(質量平均分子量300万)(メタブレンP−530、三菱レイヨン(株)製)を表1に示す割合で配合し、2軸押出機(TEM−35、東芝機械(株)製)に供給し、280℃で溶融混練して芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物の評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1の結果から明らかなように、実施例1,2の樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融流動性が良好であり、かつ成形品にフローマークが検出されなかった。
比較例1の樹脂組成物は、流動性向上剤(B−1)と溶融張力向上剤(C)を含まないため、溶融流動性に劣っていた。
比較例2,3の樹脂組成物は、流動性向上剤(B−1)を含むが、溶融張力向上剤(C)を含まないため、溶融流動性は良好であったが、成形品にフローマークが検出されてしまっていた。
実施例1,2と比較例2,3との比較から、溶融張力向上剤(C)を配合することで、溶融流動性を低下することなくフローマークを改良していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)70〜99.6質量%と、流動性向上剤(B)0.1〜29.7質量%と、(メタ)アクリレート単量体、スチレン、アクリロニトリル単量体から選ばれる少なくとも一種以上の単量体混合物を重合して得られる質量平均分子量が30万〜500万の重合体からなる溶融張力向上剤(C)0.3〜20質量%とを含有する芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物であって、
前記流動性向上剤(B)が、芳香族ビニル単量体(b1)0.5〜99.5質量%、エステル基がフェニル基または置換フェニル基である(メタ)アクリル酸エステル単量体(b2)0.5〜99.5質量%、および他の単量体(b3)0〜40質量%からなる単量体混合物(ただし、単量体(b1)〜(b3)の合計が100質量%)を重合して得られる重合体であることを特徴とする、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を成形することにより得られる成形品。

【公開番号】特開2012−233096(P2012−233096A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102981(P2011−102981)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】