説明

芳香族ポリスルホン樹脂粒子の水分散液

【課題】水を分散媒とする芳香族ポリスルホン粒子の分散液であって、芳香族ポリスルホン粒子が沈降し難く、水性塗料として好適な分散液を提供する。
【解決手段】下記要件(a)及び(b)を満たす芳香族ポリスルホン樹脂粒子を、水に分散させる。
(a)芳香族ポリスルホン樹脂粒子を構成する芳香族ポリスルホン樹脂が、ヒドロキシル基及び/又はその塩を、前記芳香族ポリスルホン樹脂を構成する繰返し単位100個あたり、1.6個以上有すること。
(b)芳香族ポリスルホン樹脂粒子の体積平均粒径が、50μm以下であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリスルホン樹脂粒子が水に分散してなる分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリスルホン樹脂は、耐熱性や耐薬品性に優れることから、各種用途に用いられている。その用途の1つとして、溶液や分散液の形態の塗料があり、例えば、特開2001−146571号公報(特許文献1)には、芳香族ポリスルホン樹脂、フッ素樹脂及び有機溶媒を含有する塗料が開示されており、前記芳香族ポリスルホン樹脂として、末端水酸基を有する所定の還元粘度のものを用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−146571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記塗料としては、その調製時や塗工時の作業環境改善や、有機溶剤の廃棄や回収のコスト削減の点から、有機溶媒を分散媒とする油性塗料より、水を分散媒とする水性塗料が好ましいが、芳香族ポリスルホン樹脂は水に溶解し難く、また、従来の塗料で用いられている芳香族ポリスルホン樹脂粒子を水に分散させると、沈降し易く、分散性に劣るという問題があった。そこで、本発明の目的は、水を分散媒とする芳香族ポリスルホン粒子の分散液であって、芳香族ポリスルホン粒子が沈降し難く、水性塗料として好適な分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、下記要件(a)及び(b)を満たす芳香族ポリスルホン樹脂粒子が水に分散してなることを特徴とする分散液を提供する。
(a)芳香族ポリスルホン樹脂粒子を構成する芳香族ポリスルホン樹脂が、ヒドロキシル基及び/又はその塩を、前記芳香族ポリスルホン樹脂を構成する繰返し単位100個あたり、1.6個以上有すること。
(b)芳香族ポリスルホン樹脂粒子の体積平均粒径が、50μm以下であること。
【0006】
また、本発明によれば、前記分散液を用いてなる塗料も提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の分散液は、芳香族ポリスルホン樹脂粒子が沈降し難い状態で水に分散しているので、耐熱性や耐薬品性に優れる塗膜を与える水性塗料として好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
芳香族ポリスルホン樹脂粒子を構成する芳香族ポリスルホン樹脂は、芳香族基(芳香族化合物から、その芳香環に結合した水素原子を2個除いてなる残基)及びスルホニル基(−SO2−)を含む繰返し単位有する樹脂である。芳香族ポリスルホン樹脂は、耐熱性や耐薬品性の点から、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、さらに、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)や、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)等の他の繰返し単位を有していてもよい。芳香族ポリスルホン樹脂は、繰返し単位(1)を、全繰返し単位の合計に対して、50〜100モル%有することが好ましく、80〜100モル%有することがより好ましい。
【0009】
−Ph1−SO2−Ph2−O− (1)
【0010】
(Ph1及びPh2は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【0011】
−Ph3−R−Ph4−O− (2)
【0012】
(Ph3及びPh4は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。Rは、アルキリデン基、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【0013】
−(Ph5)n−O− (3)
【0014】
(Ph5は、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。nは、1〜3の整数を表す。nが2以上である場合、複数存在するPh5は、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0015】
Ph1〜Ph5のいずれかで表されるフェニレン基は、p−フェニレン基であってもよいし、m−フェニレン基であってもよいし、o−フェニレン基であってもよいが、p−フェニレン基であることが好ましい。前記フェニレン基にある水素原子を置換していてもよいアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基及びt−ブチル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜5である。前記フェニレン基にある水素原子を置換してもよいアリール基の例としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基及びp−トルイル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜15である。Rで表されるアルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基及び1−ブチリデン基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜5である。
【0016】
本発明では、芳香族ポリスルホン樹脂として、ヒドロキシル基及び/又はその塩(以下、合わせて「ヒドロキシル基類」とうことがある。)を、前記芳香族ポリスルホン樹脂を構成する繰返し単位100個あたり、1.6個以上有するものを用いる。
【0017】
このようにヒドロキシル基類を所定個以上有する芳香族ポリスルホン樹脂を用いることにより、その粒子の水に対する分散性を向上させることができる。なお、ヒドロキシル基類の前記個数は、通常4個以下、好ましくは3個以下である。
【0018】
前記ヒドロキシル基類は、その全てがヒドロキシル基であることが好ましい。また、芳香族ポリスルホン樹脂は、前記ヒドロキシル基類を、芳香環に結合した状態で、すなわちフェノール性ヒドロキシル基及び/又はその塩として有することが好ましく、また、主鎖の末端に有することが好ましい。
【0019】
ヒドロキシル基の塩は、ヒドロキシル基からプロトンが解離してなるオキシアニオン基と、対カチオンとから構成され、対カチオンの例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンの等のアルカリ金属イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン、アンモニアや1〜3級アミンがプロトン化されてなるアンモニウムイオン、及び4級アンモニウムイオンが挙げられる。なお、対カチオンが、アルカリ土類金属イオン等の多価カチオンである場合、対アニオンは、複数のオキシアニオン基から構成されていてもよいし、オキシアニオン基と、塩化物イオン、水酸化物イオン等の他のアニオンとから構成されていてもよい。
【0020】
本発明で用いる芳香族ポリスルホン樹脂は、その還元粘度が好ましくは0.25〜0.60dL/g、より好ましくは0.30〜0.55dL/g、さらに好ましくは0.36〜0.55dL/gである。芳香族ポリスルホン樹脂の還元粘度があまり小さいと、得られる分散液を塗料として用いたときに、塗膜の強度が低くなり易く、芳香族ポリスルホン樹脂の還元粘度があまり大きいと、得られる芳香族ポリスルホン樹脂粒子が粉砕し難くなる。
【0021】
また、本発明で用いる芳香族ポリスルホン樹脂は、得られる分散液を塗料として用いたときの塗膜の耐久性の点から、その熱重量測定における5%重量減少温度が、400℃以上であることが好ましい。
【0022】
芳香族ポリスルホン樹脂は、対応する芳香族ジハロゲノスルホン化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物とを、炭酸のアルカリ金属塩を用いて、有機高極性溶媒中で重縮合させることにより、好適に製造できる。例えば、繰返し単位(1)を有する樹脂は、芳香族ジハロゲノスルホン化合物として、下記式(4)で表される化合物(以下、「化合物(4)」ということがある。)を用い、芳香族ジヒドロキシ化合物として、下記式(5)で表される化合物(以下、「化合物(5)」ということがある。)を用いることにより、製造できる。また、繰返し単位(1)と繰返し単位(2)とを有する樹脂は、芳香族ジハロゲノスルホン化合物として、化合物(4)を用い、芳香族ジヒドロキシ化合物として、下記式(6)で表される化合物(以下、「化合物(6)」ということがある。)を用いることにより、製造できる。また、繰返し単位(1)と繰返し単位(3)とを有する樹脂は、芳香族ジハロゲノスルホン化合物として、化合物(4)を用い、芳香族ジヒドロキシ化合物として、下記式(7)で表される化合物(以下、「化合物(7)」ということがある。)を用いることにより、製造できる。
【0023】
1−Ph1−SO2−Ph2−X2 (4)
【0024】
(X1及びX2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。Ph1及びPh2は、前記と同義である。)
【0025】
HO−Ph1−SO2−Ph2−OH (5)
【0026】
(Ph1及びPh2は、前記と同義である。)
【0027】
HO−Ph3−R−Ph4−OH (6)
【0028】
(Ph3、Ph4及びRは、前記と同義である。)
【0029】
HO−(Ph5)n−OH (7)
【0030】
(Ph5及びnは、前記と同義である。)
【0031】
化合物(4)の例としては、ビス(4−クロロフェニル)スルホン及び4−クロロフェニル−3’,4’−ジクロロフェニルスルホンが挙げられる。化合物(5)の例としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)スルホン及びビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)スルホンが挙げられる。化合物(6)の例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド及びビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテルが挙げられる。化合物(7)の例としては、ヒドロキノン、レゾルシン、カテコール、フェニルヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、3,5,3’,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジフェニル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル及び4,4’’’−ジヒドロキシ−p−クオターフェニルが挙げられる。
【0032】
なお、化合物(4)以外の芳香族ジハロゲノスルホン化合物の例としては、4,4’−ビス(4−クロロフェニルスルホニル)ビフェニルが挙げられる。また、芳香族ジハロゲノスルホン化合物及び/又は芳香族ジヒドロキシ化合物の全部又は一部に代えて、4−ヒドロキシ−4’−(4−クロロフェニルスルホニル)ビフェニル等の分子中にハロゲノ基及びヒドロキシル基を有する化合物を用いることもできる。
【0033】
炭酸のアルカリ金属塩は、正塩である炭酸アルカリであってもよいし、酸性塩である重炭酸アルカリ(炭酸水素アルカリ)であってもよいし、両者の混合物であってもよい。炭酸アルカリとしては、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムが好ましく用いられ、重炭酸アルカリとしては、重炭酸ナトリウムや重炭酸カリウムが好ましく用いられる。
【0034】
有機高極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリドン、スルホラン(1,1−ジオキソチラン)、1,3-ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン及びジフェニルスルホンが挙げられる。
【0035】
目的とする反応は、芳香族ジハロゲノスルホン化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物との脱ハロゲン化水素・重縮合であり、仮に副反応が生じなければ、両者のモル比が1:1に近いほど、すなわち芳香族ジハロゲノスルホン化合物の使用量が芳香族ジヒドロキシ化合物に対して100モル%に近いほど、得られる芳香族ポリスルホン樹脂は、重合度が高くなり、還元粘度が高くなる傾向にあるが、実際は、副生する水酸化アルカリ等により、ハロゲノ基のヒドロキシル基類への置換反応や解重合等の副反応が生じ、この副反応により、得られる芳香族ポリスルホン樹脂の重合度が低下し、還元粘度が低下する傾向にあり、また、ヒドロキシル基類の個数が増加する傾向にある。また、仮に副反応が生じなければ、炭酸のアルカリ金属塩の使用量が多いほど、目的とする重縮合が速やかに進行するので、得られる芳香族ポリスルホン樹脂は、重合度が高くなり、還元粘度が高くなる傾向にあるが、実際は、炭酸のアルカリ金属塩の使用量が多いほど、前記同様の副反応が生じ易くなる。さらに、仮に副反応が生じなければ、重縮合温度が高いほど、目的とする重縮合が速やかに進行するので、得られる芳香族ポリスルホン樹脂は、重合度が高くなり、還元粘度が高くなる傾向にあるが、実際は、重縮合温度が高いほど、前記同様の副反応が生じ易くなる。したがって、この副反応の度合いも考慮して、前記所定個以上のヒドロキシル基類を有する芳香族ポリスルホン樹脂が得られるように、好ましくは前記好適な還元粘度を有する芳香族ポリスルホン樹脂が得られるように、芳香族ジハロゲノスルホン化合物の使用量や、炭酸のアルカリ金属塩の使用量、重縮合温度を調整することが好ましい。
【0036】
芳香族ジハロゲノスルホン化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常80〜105モル%であり、好ましくは98〜100モル%である。
【0037】
炭酸のアルカリ金属塩の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物のヒドロキシル基に対して、アルカリ金属として、通常95モル%以上である。また、芳香族ジハロゲノスルホン化合物の使用量が、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、80〜98モル%である場合、炭酸のアルカリ金属塩の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物のヒドロキシル基に対して、アルカリ金属として、通常95〜100.5モル%であり、芳香族ジハロゲノスルホン化合物の使用量が、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、98〜105モル%である場合、炭酸のアルカリ金属塩の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物のヒドロキシル基に対して、アルカリ金属として、通常100.5〜140モル%である。
【0038】
典型的な芳香族ポリスルホン樹脂の製造方法では、第1段階として、芳香族ジハロゲノスルホン化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物とを有機極性溶媒に溶解させ、第2段階として、得られた溶液に炭酸のアルカリ金属塩を加え、芳香族ジハロゲノスルホン化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物とを重縮合させ、第3段階として、得られた反応混合物から、未反応の炭酸のアルカリ金属塩と、副生したハロゲン化アルカリ等のアルカリ金属塩と、有機極性溶媒とを除去して、芳香族ポリスルホン樹脂を取得する。
【0039】
ここで、第1段階の溶解温度は、通常40〜180℃であり、第2段階の重縮合温度は、通常180〜400℃である。重縮合温度が高いほど、高分子量で還元粘度の高い芳香族ポリスルホン樹脂が得られる傾向にあり、好ましいが、あまり高いと、分解等の副反応が生じ易くなり、好ましくない。また、重縮合温度があまり低いと、反応が遅くなり、好ましくない。重縮合反応は、通常、副生する水を除去しながら徐々に昇温し、有機極性溶媒の還流温度に達した後、さらに通常1〜50時間、好ましくは10〜30時間攪拌することにより行うのがよい。
【0040】
なお、前記第1段階及び第2段階に代えて、まず、炭酸のアルカリ金属塩と芳香族ジヒドロキシ化合物と有機極性溶媒とを混合して反応させ、副生する水を取り出し、次いで、芳香族ジハロゲノスルホン化合物と混合し、重縮合を行ってもよいが、この方法は、芳香族ジハロゲノスルホン化合物の使用量が芳香族ジヒドロキシ化合物に対して80〜98モル%である場合に、主に採用される。芳香族ジハロゲノスルホン化合物の使用量が芳香族ジヒドロキシ化合物に対して98〜105モル%である場合に、この方法を採用すると、ヒドロキシル基類の個数が少なくなるため、好ましくない。この方法では、水を反応溶液から取り出すために、水と共沸する有機溶媒を反応溶液に混合させ、共沸脱水させてもよい。水と共沸する有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、メチルイソブチルケトン、ヘキサン及びシクロヘキサンが挙げられる。共沸脱水を実施する温度は、共沸溶媒と水が共沸する温度によるが、通常70〜200℃である。
【0041】
第3段階では、第2段階で得られた反応混合物から、未反応の炭酸のアルカリ金属塩と、副生したハロゲン化アルカリ等のアルカリ金属塩を、濾過器や遠心分離器等で除去することにより、芳香族ポリスルホン樹脂が有機極性溶媒に溶解してなる溶液を得ることができる。そして、その溶液から有機極性溶媒を除去することにより、芳香族ポリスルホン樹脂が得られる。有機極性溶媒の除去は、前記溶液から直接、有機極性溶媒を留去することにより行ってもよいし、前記溶液を一旦芳香族ポリスルホン樹脂の貧溶媒におとして、芳香族ポリスルホン樹脂を析出させ、濾過や遠心分離等で分離することにより行ってもよい。
【0042】
また、比較的高融点の有機極性溶媒が重合溶媒として用いられる場合には、第2段階で得られた反応混合物を冷却固化させ、その固溶体を粉砕した後、水と、芳香族ポリスルホン樹脂に対して溶解力を持たず、かつ、有機極性溶媒に対して溶解力をもつ溶媒とを用いて、炭酸のアルカリ金属塩と、副生したハロゲン化アルカリ等のアルカリ金属塩と、有機極性溶媒とを抽出除去することも可能である。
【0043】
前記粉砕後の粒径は、抽出効率及び抽出時の作業性の点から、中心粒径として200〜2000μmであることが好ましい。あまり大きいと、抽出効率が悪く、あまり小さいと、溶液抽出の際に固結したり、抽出後に濾過や乾燥を行う際に目詰まりを起こしたりするため、好ましくない。前期粉砕後の粒径は、好ましくは250〜1500μmであり、より好ましくは300〜1000μmである。
【0044】
抽出溶媒としては、例えば重合溶媒にジフェニルスルホンを使用した場合、アセトンとメタノールとの混合溶媒を用いることができる。ここで、アセトンとメタノールとの混合比は、抽出効率や、芳香族ポリスルホン樹脂粉体の固着性から決めるのがよい。
【0045】
以上のようにしてヒドロキシル基類を前記所定個以上有する芳香族ポリスルホン樹脂を製造することができるが、市販の芳香族ポリスルホン樹脂を使用することもでき、その例としては、住友化学(株)製「スミカエクセル5003P」が挙げられる。
【0046】
本発明の分散液は、前記のようにヒドロキシル基類を所定個以上有する芳香族ポリスルホン樹脂を、体積平均粒径が50μm以下の粒子として、水に分散させてなるものである。このように体積平均粒径が所定値以下の芳香族ポリスルホン樹脂粒子を用いることにより、芳香族ポリスルホン粒子が沈降し難く、分散性に優れる分散液を得ることができる。芳香族ポリスルホン樹脂粒子の体積平均粒径は、さらなる分散性向上の点から、好ましくは30μm以下である。なお、芳香族ポリスルホン樹脂粒子の体積平均粒径は、あまり小さいと、機械粉砕時の出来高量が減少し易くなるので、通常5μm以上である。
【0047】
前記のように製造され、また市販されている芳香族ポリスルホン樹脂粒子は、通常、比較的大きい体積平均粒径を有するため、機械粉砕により、体積平均粒径が50μm以下になるように粉砕するのがよい。機械粉砕の方法は、適宜選択されるが、衝撃型粉砕機を用いて行うのが好ましい。また、機械粉砕の環境としては、常温下であってもよいし、液体窒素等を使用した低温下であってもよいが、粉砕効率の点から、低温下であるのが好ましい。
【0048】
芳香族ポリスルホン樹脂粒子の水への分散は、必要に応じて、界面活性剤その他の成分を添加したり、超音波処理したりして、芳香族ポリスルホン樹脂粒子の分散液中濃度が、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下となるように行うのがよい。こうして得られる分散液は、芳香族ポリスルホン樹脂の耐熱性や耐薬品性を生かして、耐熱性や耐薬品性に優れる塗膜を与える水性塗料として好適に用いることができる。
【0049】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0050】
〔芳香族ポリスルホン樹脂中のヒドロキシル基類の個数の測定〕
所定量の芳香族ポリスルホン樹脂をジメチルホルムアミドに溶解させ、過剰量のパラトルエンスルホン酸を加えた。この溶液を、電位差滴定装置を用いて、0.05モル/Lのカリウムメトキシド/トルエン・メタノール溶液で滴定し、残存パラトルエンスルホン酸を中和した後、ヒドロキシル基を中和した。このヒドロキシル基の中和に要したカリウムメトキシドの量(モルを個数に換算)が、前記所定量の芳香族ポリスルホン樹脂中のヒドロキシル基類の個数に相当し、芳香族ポリスルホン樹脂の前記所定量(g)を芳香族ポリスルホン樹脂の繰返し単位の式量(g/モル)で割った値(モルを個数に換算)が、前記所定量の芳香族ポリスルホン樹脂中の繰返し単位の個数に相当するので、前者を後者で割り、100を掛けることにより、芳香族ポリスルホン樹脂中の繰返し単位100個あたりのヒドロキシル基類の個数を求めた。
【0051】
〔芳香族ポリスルホン樹脂の還元粘度の測定〕
芳香族ポリスルホン樹脂約1gをN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させて、その容量を1dLとし、この溶液の粘度(η)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定した。また、溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミドの粘度(η0)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定した。前記溶液の粘度(η)と前記溶媒の粘度(η0)から、比粘性率((η−η0)/η0)を求め、この比粘性率を、前記溶液の濃度(約1g/dL)で割ることにより、芳香族ポリスルホン樹脂の還元粘度(dl/g)を求めた。
【0052】
〔芳香族ポリスルホン樹脂粒子の体積平均粒径の測定〕
分散剤(花王(株)製「ノニオン界面活性剤エマルゲン」)を数十ppm程度の濃度となるように溶解させた水を測定溶媒として用い、これに芳香族ポリスルホン粒子を加え、超音波で軽く解して分散させ、レーザー回折散乱粒度分布測定機((株)セイシン企業製「LMS−30」)を用いて測定した。
【0053】
〔芳香族ポリスルホン樹脂粒子の分散性の評価〕
芳香族ポリスルホン樹脂粒子の水分散液を測定用セルに入れ、その鉛直方向中間部について、色調測定機(日本電色工業(株)製「測色色差計ZE−2000」)を用いて、透過モードで色調測定を行い、測定開始から1分後、5分後及び20分後の透過度(L値)を求めた。この透過度が低いほど、粒子が良く分散していることを意味する。
【0054】
実施例1〜5、比較例1〜3
芳香族ポリスルホン樹脂粒子(住友化学(株)製「スミカエクセル5003P」、繰返し単位100個あたりヒドロキシル基類を2個含有、還元粘度0.515dL/g、体積平均粒径352μm)を、衝撃型機械粉砕機により低温粉砕し、体積平均粒径8μmの粒子A、体積平均粒径20μmの粒子B、及び体積平均粒径24μmの粒子Cを得た。なお、未粉砕の前記粒子を、粒子Dとして用いた。また、芳香族ポリスルホン樹脂粒子(住友化学(株)製「スミカエクセル4100MP」、ヒドロキシル基類不含、還元粘度0.41dL/g、体積平均粒径12μm)を、粒子Eとして用いた。
【0055】
50mLコニカルビーカーに、純水15mL、粒子A〜Eを表1に示す量、及び界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエステル)50μLを加えて、30分間攪拌した。その後、10分間の超音波処理を行い、芳香族ポリスルホン樹脂粒子の水分散液を得た。この分散液について、分酸性を評価し、結果を表1に示した。
【0056】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(a)及び(b)を満たす芳香族ポリスルホン樹脂粒子が水に分散してなることを特徴とする分散液。
(a)芳香族ポリスルホン樹脂粒子を構成する芳香族ポリスルホン樹脂が、ヒドロキシル基及び/又はその塩を、前記芳香族ポリスルホン樹脂を構成する繰返し単位100個あたり、1.6個以上有すること。
(b)芳香族ポリスルホン樹脂粒子の体積平均粒径が、50μm以下であること。
【請求項2】
前記芳香族ポリスルホン樹脂が、下記式(1)で表される繰返し単位を有する樹脂である請求項1に記載の分散液。
−Ph1−SO2−Ph2−O− (1)
(Ph1及びPh2は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【請求項3】
前記芳香族ポリスルホン樹脂の還元粘度が、0.25〜0.60dl/gである請求項1又は2に記載の分散液。
【請求項4】
前記芳香族ポリスルホン樹脂の熱重量測定における5%重量減少温度が、400℃以上である請求項1〜3のいずれかに記載の分散液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の分散液を用いてなる塗料。

【公開番号】特開2011−68862(P2011−68862A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171793(P2010−171793)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】