説明

芳香族化合物の製造方法

【課題】水素と炭化水素及び/又は炭素酸化物を含む原料ガスから、触媒反応により、工業的に有利に芳香族化合物を製造する。
【解決手段】触媒の存在下に水素を炭化水素及び/又は炭素酸化物と反応させてメタンと水に変換し、得られたメタン及び必要に応じてその他の炭化水素を反応させて芳香族化合物及び水素を得る芳香族化合物の製造方法において、メタン化反応による発熱量を芳香族化における吸熱反応の熱源として利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族化合物の製造方法に関し、詳しくは、水素と炭化水素及び/又は炭素酸化物からメタン等の低級炭化水素を生成させ、得られた生成ガスの触媒反応により、工業的に有利に芳香族化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の石油価格高騰、資源枯渇の問題から、石油代替原料による石油製品の製造技術の開発、及び、地球温暖化の問題から、石炭などの天然資源由来の一酸化炭素や二酸化炭素に代表されるような炭素酸化物の有効利用技術の開発が望まれている。
一酸化炭素及び二酸化炭素などの炭素酸化物の有効利用については、炭素酸化物のメタン化、高カロリー化に代表される数多くの提案がなされている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
しかしながら、炭素酸化物又は低級炭化水素のメタン化反応は、下記式(1)〜(6)に示すように、大きな発熱量を伴う発熱反応であるために、高濃度の炭素酸化物や低級炭化水素を含む原料に対しては、循環ラインの設置や反応器の分割による除熱が必要であり、実用化が困難であった。
【0004】
CO + 3H → CH + HO + 約50kcal/mol (1)
CO + 4H → CH + 2HO + 約40kcal/mol (2)
+ H → C + 約30kcal/mol (3)
+ H → 2CH + 約15kcal/mol (4)
+ H → C + 約35kcal/mol (5)
+ 2H → 3CH + 約30kcal/mol (6)
【0005】
また、プロセスとして組み込めたとしても、メタン化反応による発熱を除熱するために、莫大なユーティリティコストや設備コストが必要であった。
さらに、装置面での対応が可能であっても、350℃を超えるような温度では、メタン化に用いられる一般的な触媒では、シンタリングなどによる劣化のために、発熱を許容できない問題があった。
【0006】
即ち、一般に市販されているメタン化触媒や炭化水素水素化触媒は、金属Ni及び/又はNi化合物をNiとして30〜70質量%含んでおり、適用される反応温度は150〜400℃と比較的低い温度である。メタン化及び炭化水素水素化反応はほぼ平衡反応であるため、供給された炭化水素及び/又は炭素酸化物は、反応温度における平衡まで反応するが、強い発熱反応であるため、高濃度の炭化水素や炭素酸化物をメタン化工程に供給した場合、メタン化及び炭化水素水素化の発熱反応により温度が上昇し、触媒中の金属Ni及び/又はNi化合物が焼結(シンタリング)を起こし、触媒のメタン化及び炭化水素水素化活性が失われる。そのため、
(1)メタン工程の反応器を複数器設置し、1器当たりの触媒充填量を減少させることで、メタンの反応率を制御し、発熱温度を抑制する。また、複数設置した反応器の間に冷却器を設け、都度除熱を行う。
(2)メタン化工程出口の生成ガスの一部をメタン化工程入口にリサイクルし、反応ガス濃度を低下させることで、単位ガス量当たりの発熱量を抑制する。
(3)メタン化工程入口のガスに水蒸気を添加することで、吸熱反応である炭化水素の水蒸気改質反応を同時に進行させ、メタン化反応による発熱を緩和する。
などの発熱対策を施す必要があり、それによりユーティリティコスト、設備コストの増加を招く。
【0007】
一方で、メタン等の低級炭化水素を原料として触媒反応により芳香族化合物を製造する方法においては、プロセス自体の改良について、いくつかの提案がなされているものの、メタンの芳香族化反応は、大きな吸熱反応であることから、反応に700〜1000℃という高温を要するため、莫大な熱量を必要とするといった問題があった(例えば、特許文献3、4)。
【特許文献1】特開平9−279164号公報
【特許文献2】特開2000−104080号公報
【特許文献3】特開2007−99748号公報
【特許文献4】WO2006/068814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、水素と炭化水素及び/又は炭素酸化物を含む原料ガスから、触媒反応により、工業的に有利に芳香族化合物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、メタン化工程の反応における発熱と芳香族化合物合成工程の反応における吸熱を組み合わせることによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の[1]〜[4]を要旨とする。
【0010】
[1] 触媒の存在下に水素を炭化水素及び/又は炭素酸化物と反応させ、メタンと水に変換するメタン化工程、及び、触媒の存在下にメタン化工程で得られたメタン及び必要に応じてその他の炭化水素を反応させ、芳香族化合物及び水素を得る芳香族化合物合成工程を具備し、かつ、メタン化工程の反応で得られた発熱量を芳香族化合物合成工程の熱源として利用することを特徴とする芳香族化合物の製造方法。
【0011】
[2] メタン化工程における前記触媒が、少なくとも金属Ni及び/又はNi化合物をNiとして1〜25質量%含む触媒であることを特徴とする[1]に記載の芳香族化合物の製造方法。
【0012】
[3] メタン化工程における反応温度が300〜700℃であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の芳香族化合物の製造方法。
【0013】
[4] メタン化工程に導入する原料における水素濃度が30体積%以上であることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の芳香族化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、触媒の存在下に水素を炭化水素及び/又は炭素酸化物と反応させてメタンと水に変換するメタン化工程と、触媒の存在下にメタン化工程で得られたメタン及び必要に応じてその他の炭化水素を反応させて芳香族化合物及び水素を得る芳香族化合物合成工程とを組み合わせ、メタン化の発熱反応で得られた発熱量を、芳香族化の吸熱反応の熱源として利用することにより、水素と炭化水素及び/又は炭素酸化物を含む原料ガスから、触媒反応により、芳香族化合物を工業的に有利に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の芳香族化合物の製造方法の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0016】
本発明の芳香族化合物の製造方法は、「触媒の存在下に水素を炭化水素及び/又は炭素酸化物と反応させ、メタンと水に変換するメタン化工程」と「触媒の存在下にメタン化工程で得られたメタン及び必要に応じてその他の炭化水素を反応させ、芳香族化合物及び水素を得る芳香族化合物合成工程」とを必須工程として包含し、メタン化工程における発熱反応で得られた発熱量を芳香族化合物合成工程の吸熱反応の熱源として利用することを特徴とする。
【0017】
なお、本発明に係るメタン化工程は、前述の式(1)、(2)、(4)、(6)のような炭化水素及び/又は炭素酸化物からメタンを生成する他、前述の式(3)や式(5)のように、低級炭化水素を生成させる低級炭化水素化を伴う場合がある。本発明においては、この低級炭化水素化を伴う場合も含めて「メタン化」と称する。
【0018】
本発明の好ましい実施形態としては、後述の如く、メタン化工程、水分除去工程、芳香族化合物合成工程及び芳香族化合物分離工程とを備え、水分除去工程の前後又は前段でメタン化工程の反応発熱の回収を行い、また、芳香族化合物分離工程で分離された未反応のガスを芳香族化合物合成工程に循環供給する方法が挙げられる。
以下、各工程について説明する。
【0019】
[メタン化工程]
メタン化工程では、触媒の存在下に、前述の(1)〜(6)に示した反応により、水素を炭化水素及び/又は炭素酸化物と反応させて、メタン等の低級炭化水素と水に変換する。
【0020】
<原料>
出発原料となる炭化水素としては、好ましくは炭素数1〜4のオレフィンやパラフィン等の低級炭化水素が挙げられ、具体的には、メタン、エタン、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、ブタジエン、アセチレン等が挙げられる。
また、炭素酸化物としては、一酸化炭素、二酸化炭素が挙げられる。
これらの出発原料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
水素と炭化水素及び/又は炭素酸化物を含むメタン化原料ガスとしては、例えば、コークス炉ガス、石炭ガス化ガス、転炉ガス、高炉ガス、アスファルトガス化ガス、重質油残渣ガス化ガス、石油コークスガス化ガス、改質炉ガス、オキソガス、バイオガス、バイオマスガス化ガス、廃棄物ガス化ガス、天然ガス(LNG、NG)、LPG、メタンハイドレード、石油化学又は石油精製のオフガス等が挙げられる。これらの原料ガスは、単一で用いてもよく、2種以上を組み合わせた混合ガスとして使用してもよい。これらの原料ガスの中で、水素、炭化水素、炭素酸化物を一定割合で含有し、本発明のプロセスに安定して組み込めることから、コークス炉ガス、石炭ガス化ガスを利用することが好ましい。
【0022】
出発原料としての炭化水素や炭素酸化物の組成(濃度)は、上述した原料ガスの組合せなどにより後述する炭化水素、炭素酸化物、水素の濃度に調整すればよく、例えば、二酸化炭素などは、化学プラントにおける燃焼炉の排ガスや、大気中に存在する二酸化炭素を回収して用いてもよい。
【0023】
排ガスなどから二酸化炭素を回収する方法としては、吸収液(エタノールアミン、メタノール、ポリエチレングリコール、炭酸カリ水溶液など)と接触させる吸収法、吸着剤(合成ゼオライト、活性炭など)に吸着させる吸着法、高分子膜(ポリイミド膜、ゼオライト膜、シリカ膜、炭素膜など)で膜分離する分離膜法などがある。例えば、特開平5−184865号公報で記載された方法、すなわち、燃焼排ガスとモノエタノールアミン(MEA)水溶液を常圧下で接触させて、燃焼排ガス中に含まれる二酸化炭素を除去して回収する吸収法が適している。
【0024】
なお、メタン化反応系内における出発原料の炭化水素及び/又は炭素酸化物の濃度については特に制限はないが、上述の式(1)〜(6)から炭化水素及び/又は炭素酸化物は、1〜4倍量の水素と反応させる必要がある。メタン化工程後段の芳香族化合物合成工程では、反応上炭素酸化物が関与しないことから、工程内で炭素酸化物を残存させないことが望ましく、炭化水素及び/又は炭素酸化物の反応性を高くすることが好ましい。また、メタン化反応の発熱を芳香族化合物合成工程の熱源に利用する観点から、一定濃度以上の炭化水素及び/又は炭素酸化物を含むことが好ましい。そのため、水素濃度との兼ね合いから、炭化水素と炭素酸化物との合計で通常1体積%以上、特に3体積%以上で通常20体積%以下、特に15体積%以下であることが好ましい。
【0025】
<水素>
メタン化反応系内における水素濃度は、高い程、原料の炭化水素や生成物であるメタンがコーキングする温度を平衡上高くすることができ、また、副反応であるメタンの改質反応を平衡上高温度域にずらし、化学平衡を調整する副反応を抑制することができる。このため、メタン化工程において、高い触媒活性を有し、尚且つ高い温度における発熱反応を芳香族化合物合成工程の熱源に利用するため、メタン化反応系は、高濃度の水素を含有することが望ましく、メタン化工程に導入する原料における水素濃度は、30体積%以上、特に40体積%以上、とりわけ50体積%以上であることが好ましい。水素濃度の好ましい上限は90体積%、特には80体積%であり、これらの数値のそれぞれが、上記の好ましい下限値のそれぞれと組み合わさって本発明における好ましい範囲が得られる。
【0026】
メタン化工程において、上述のような反応及び平衡調整に用いられる水素は、上述のメタン化原料ガス中の水素を利用する他、外部より水素を供給してもよく、例えば、上記メタン化原料ガスから分離された水素、炭化水素の水蒸気改質反応や部分酸化反応で生成した水素、水の電気分解により製造された水素、プラズマ等を使用したメタン等の炭化水素直接熱分解による水素、ソーダ工場からの副生水素などを用いることができる。
なお、メタン化反応系が高濃度の水素を含有する場合、メタン化工程の後、芳香族化合物合成工程に至るまでの間に、水素分離工程を設けることができる。
【0027】
上述のメタン化原料ガスから水素を分離する方法としては、深冷分離法、吸着分離法(PSA)、化学/物理吸収法、分離膜法が挙げられ、省エネルギーの観点から装置構成も簡便な分離膜法を利用することが好ましい。分離膜法で使用される膜としては、高分子系分離膜、透析膜、限外濾過膜、精密濾過膜、逆浸透膜、液体膜、イオン交換膜等が挙げられるが、水素分離における分離効率の面から高分子系分離膜を用いることが特に好ましい。
【0028】
一般に、高分子系分離膜に使用される膜素材には、ポリイミド、ポリアラミド、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、シリコン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、パラジウム系、シリカ・アルミナ・チタニア・ジルコニア等の酸化物及びそれらの複合酸化物、ゼオライト等が挙げられ、それぞれ分離目的に合わせて、耐熱性、耐久性、耐薬品性、機械的強度、透過速度、分離係数等から最適な膜素材が選定される。この中でも特にポリイミドやポリアラミドなどの有機高分子膜が化学プラントにおける使用実績も多く、また、パラジウム系やシリカなどは、耐熱性、分離係数が高いことから本発明における水素の分離には適している。
【0029】
<触媒>
メタン化反応に用いられる触媒は、典型的なものとしてアルミナ担持のNi触媒が挙げられる。また、炭化水素水素化触媒をメタン化触媒として用いてもよい。メタン化活性を持つ金属及び/又は金属化合物としては、Niの他、Pt、Rh、Ru、Pd、Co、Mo、Feのいずれか一つ、もしくはそれらの組合せを用いることができる。この中でも価格的に安価なNi、Co、Moが好ましく、触媒としても数多く市販されているNiが特に好ましい。
【0030】
公知のメタン化触媒や組成が類似している炭化水素水素化触媒を使用することに制限は無いが、前述の如く、市販されているメタン化触媒や炭化水素水素化触媒は、金属Ni及び/又はNi化合物をNiとして30〜70質量%含んでおり、適用される反応温度が150〜400℃と比較的低い温度であるため、高温の発熱反応で焼結(シンタリング)を起こし、触媒のメタン化及び炭化水素水素化活性が失われる傾向にある。そのため、
(1)メタン工程の反応器を複数器設置し、1器当たりの触媒充填量を減少させることで、メタンの反応率を制御し、発熱温度を抑制する。また、複数設置した反応器の間に冷却器を設け、都度除熱を行う。
(2)メタン化工程出口の生成ガスの一部をメタン化工程入口にリサイクルし、反応ガス濃度を低下させることで、単位ガス量当たりの発熱量を抑制する。
(3)メタン化工程入口のガスに水蒸気を添加することで、吸熱反応である炭化水素の水蒸気改質反応を同時に進行させ、メタン化反応による発熱を緩和する。
などの発熱対策を施す必要があり、それによりユーティリティコスト、設備コストの増加を招くが、本発明では、メタン化工程の発熱量を芳香族化合物合成工程の熱源として利用することから、このような発熱対策を省略することが好ましい。従って、さらに高い温度における触媒の失活を防止するために、金属Ni及び/又はNi化合物の含有量を低減させた、耐熱性の高い触媒を用いることが好ましい。
【0031】
上述のように、高温のメタン化反応における触媒の失活の防止の観点から、本発明においては、金属Ni及び/又はNi化合物の含有量(担持量)がNiとして1〜25質量%のNi及び/又はNi化合物担持触媒を用いることが好ましく、より好ましくは、この触媒のNi含有量は3〜20質量%である。Ni含有量が1質量%未満では十分な触媒活性が得られない場合があり、25質量%を超えるとシンタリングによる失活の問題が発生しやすい傾向にある。
【0032】
なお、このNi担持触媒の担体は通常アルミナであるが、その他SiO、TiO、SnO、MgO、C(カーボン)、ZrO、Cr、SmO、CeOであってもよく、これらの2種以上を用いたものであってもよい。また、これらの担体に担持されるNi化合物とは、通常Ni酸化物である。
【0033】
このようなNi含有量1〜25質量%の触媒として典型的なものに水蒸気改質触媒が挙げられる。水蒸気改質反応は下記式(7)の反応であり、水蒸気改質触媒は、典型的にはメタン化と逆の反応に利用されるが、水蒸気改質反応は、一般的に圧力0〜4MPaG、温度450〜900℃で使用されるため、高温耐熱性に優れる。
CH + HO → CO + 3H (7)
【0034】
<反応条件>
本発明において、上述のようなNi含有量1〜25質量%の触媒をメタン化反応に用いる場合は、メタン化反応条件として、圧力0〜20MPaG、温度300〜700℃を採用することが好ましい。反応圧力が高いほど、メタン化反応には有利となるが、反応温度を規定範囲内で上げることで十分な反応活性を得ることができる。
【0035】
本発明における、芳香族化合物合成工程との組合せでは、プロセス均圧化の観点から、メタン化反応の圧力は0〜1MPaGが好ましく、特に好ましくは0〜0.5MPaGである。
反応器は一般的な固定床を用いることができる。
体積時間空間速度は300〜10000h−1が適している。
【0036】
メタン化反応は、反応平衡上温度が低い方が有利となるが、上述のNi含有量1〜25質量%の触媒では、300℃未満の温度では、Ni含有量が少ないため、十分な反応活性を得ることができない場合がある。逆に、700℃を超える温度では、反応平衡上、メタン化によって副生した水による上記式(7)の水蒸気改質反応が進行するため、低温度の場合と同じく十分な反応活性を得ることができない場合がある。また、700℃を超える反応温度では、メタンなどの低級炭化水素熱分解によるコーキングが起こり、早期に触媒の失活を招く場合がある。そのため、反応温度は300〜700℃が好ましく、中でも370〜700℃が好ましく、400〜600℃が更に好ましく、特に450〜600℃が好ましい。
【0037】
前述の如く、高温度におけるメタン化反応は平衡反応であるため、メタン化工程からは反応温度における平衡組成のガスが排出される。上述したように、原料ガス中の水素濃度が高ければ、反応平衡上、高温度でも一酸化炭素及び/又は二酸化炭素などの炭素酸化物を、メタン等の低級炭化水素に完全に変換することができるが、例えば、水素濃度の低い原料ガスを用いてメタン化工程で高温度のメタン化反応を行なった結果、炭素酸化物が残存したとしても、一般的なメタン化触媒又は炭化水素水素化触媒で反応させる工程を後段に設けることで、残存した炭素酸化物を完全に除去することもできる。この場合、一段目のメタン化工程において、大部分の炭素酸化物が反応しているため、後段のメタン化工程で起こる発熱反応は少量であり、一般的なメタン化触媒又は炭化水素水素化触媒が失活するような温度にはならない。
【0038】
[水分除去工程]
水分除去工程では、メタン化工程で副生した水を分離除去する。
即ち、本発明における芳香族化合物合成工程では、後述の如く、メタロシリケート担持金属触媒を使用することが適しているが、触媒担体として利用しているメタロシリケートの細孔構造が水により破壊する。そのため、水分除去工程において、メタン化工程で副生した水を除去することが好ましい。
【0039】
この水分除去工程では、メタン化工程からの高温のメタン化反応生成ガスを冷却して、水をドレン水として除去する方法が挙げられるが、本発明では、メタン化工程における反応発熱を熱回収して後段の芳香族化合物合成工程に利用するため、一般的な熱交換のシステムを設置して、図1(a),図2,図3に示すように、水分除去工程の前後で熱交換を行うか、或いは図1(b)に示すように、水分除去工程の前段で熱交換を行う。
【0040】
図1(a),図2,図3では、ライン(11),(23)で示される閉サイクルにおいて、使用温度に適した熱媒体を循環させて、水分除去前のメタン化反応生成ガスの冷却と、水分除去後の昇温を行う。このようにして、昇温された水分除去処理メタン化反応生成ガスを芳香族化合物合成工程に導入することにより、このガスの高温の保有熱をメタン化工程での発熱を芳香族化合物合成工程の熱源とする。なお、閉サイクルで循環する熱媒体は、水分除去後のメタン化反応生成ガスとの熱交換で熱を失った後は、水分除去前のメタン化反応生成ガスと熱交換し、生成ガスの冷却用として利用される。
【0041】
このような熱交換による熱回収及び利用は、ボイラーや改質炉等の排熱回収設備において、一般的に行われている。例えば、特開平6−207531号公報では、800℃以上の温度で運転している改質炉の排ガスと改質炉に導入される原料ガスを熱交換することで、排ガスの熱を改質炉における吸熱反応の熱の一部として利用している。また、改質炉とガスタービンを併用することで電力の併産を行い、ガスタービンの高温排ガスを改質炉の支燃剤として導入するシステムや、改質炉上流で重質留分の予備改質を行い、改質炉入口原料ガス温度を通常よりも高く予熱できるシステムを提案している。
また、例えば、特開2005−220007号公報では、特開平6−207531号公報のシステムに加え、ガスタービンの高温排ガスを改質炉に直接導入せずに、改質炉の燃料と熱交換することで改質炉の輻射熱熱吸収効率を低下させない方法を提案している。
【0042】
図1(a),図2,図3のライン(11),(23)の閉サイクルにおいて、循環させる熱媒体には特に制限はなく、気体、水(温水、スチーム)、有機熱媒体(ジフェニルエーテル、ターフェニルなど)、油浴(シリコーン油など)、砂浴など使用範囲内の温度に合った熱媒を選択すればよい。また、製造プロセスにおける反応炉などの燃焼排ガスや、高温又は低温ラインの原料ガス及び/又はプロセスガスを熱媒体として使用してもよく、これらの熱媒体との熱交換によって、メタン化工程の発熱量を回収することができる。芳香族化合物合成工程に導入される高温度のガスの熱交換には、気体である空気、窒素、原料ガス及び/又は芳香族化合物分離工程における未反応ガスなどのプロセスガスを用いることが好ましい。
【0043】
また、図1(b)においては、メタン化工程からのメタン化反応生成ガスを芳香族化合物分離工程からのリサイクルガスと熱交換してこれを加熱し、この加熱されたリサイクルガスを芳香族化合物合成工程に導入することで、メタン化工程の発熱を回収して芳香族化合物合成工程の熱源として利用する。
【0044】
本発明によれば、例えば、図1(a),(b),図2,図3に示すように、メタン化工程での反応発熱を芳香族化合物合成工程の熱源として利用することにより、芳香族化合物合成工程における反応炉燃料を削減することができる。
【0045】
水分除去工程の前段において、熱交換によりメタン化反応生成ガスを冷却する温度は、メタン化反応生成ガスの圧力によって決定すればよく、メタン化工程の反応圧力0〜20MPaGにおいては、30〜200℃まで冷却し、水分の除去で、ガス中の水分濃度を10体積%以下、特に5体積%以下にすることが好ましい。
【0046】
[芳香族化合物合成工程]
芳香族化合物合成工程では、触媒の存在化にメタン化工程で得られたメタン及び必要に応じてその他の炭化水素を反応させ、芳香族化合物、炭化水素及び水素を含む生成ガスを得る。
【0047】
芳香族化合物合成工程で用いられる触媒としては、例えば、特開平11−60514号公報や特開2001−334151号公報に記載された触媒、すなわちMo、Re、Zn、Ga、Co、Fe、Cr、W及びこれらの化合物の1種以上、希土類金属及びこれらの化合物の1種以上を含む活性成分を、担体としてのメタロシリケートに担持した触媒が適している。
【0048】
担体として使用されるメタロシリケートとしては多数の細孔を有する多孔質体が好ましい。例えば、アルミノシリケートの場合、種々の組成から成るシリカ及びアルミナから成る多孔質体であるモレキュラーシーブ5A(UTA)、フォージャサイト(NaY)及びNaX、ZSM−5、ZSM−11、ZSM−22、ZSM−48、β、モルデナイト、MCM−22などが挙げられる。またリン酸を主成分とする担体の場合、SAPO−5、SAPO−34、VPI−5などに代表される多孔質体で4〜8Åのミクロ細孔やチャンネルを有する担体を例示することができる。
更には、シリカを主成分とし、一部アルミナを成分として含むメソ細孔(20〜500Å)の筒状細孔(チャンネル)で特徴付けられるFSM−16やMCM−41などのメソ細孔多孔質担体を、シリコンアルコキサイドなどを使用したCVD法によりメソ細孔径を4〜8Åに調整した修飾メソ細孔材などを例示できる。
【0049】
メタロシリケートとしては、シリカ又はアルミナからなるアルミノシリケートの他に、シリカ及びチタニアから成るチタノシリケートなどの多孔質担体であり、Fe、Ti、Mn、Cr、In、Ga、Mo、W、Co、V、Znなどを含有し、細孔径が4〜8Åであるものが好適に使用することができる。
また、ミクロ及びメソ細孔が4〜8Åの担体が好ましく、5.5±1Åの範囲のメタロシリケートがより好ましく、更に、表面積が200〜1000m/gであるメタロシリケートがより好ましい。また、例えば、アルミノシリケートの場合のシリカとアルミナの含有比としては、通常入手し得る多孔質担体のシリカ/アルミナ比=1〜8000のものを使用することができるが、実用的な転化率及び選択率を得るためには、シリカ/アルミナ比は10〜100であることが好ましい。
【0050】
触媒は、粉末状、ペレット状、その他の形状のいずれであってもよい。また、触媒は、芳香族化合物を生成する誘導期を短縮するため、水素ガスやヒドラジン、金属水素化物、例えばNaBH、NaH、LiAlHなどによる前処理を含む触媒活性化過程を施してもよい。
【0051】
反応は、通常、回分式又は流通式の反応形式で行なわれるが、固定床、移動床、流動床などの流通式反応形式で行なうことが好ましい。
反応温度は、通常300〜1000℃、好ましくは450〜900℃、反応圧力は、通常0.0〜1.0MPaG、好ましくは0.0〜0.7MPaG、体積時間空間速度(GHSV)は、通常500〜30000h−1であり、好ましくは1000〜20000h−1である。
【0052】
上記反応により、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素を主成分とする芳香族化合物が得られる。また、この反応に伴って水素が副生する。
【0053】
[芳香族化合物分離工程]
必要に応じて設置される芳香族化合物分離工程では、上記の芳香族化合物合成工程で得られた生成ガスから、芳香族化合物と、未反応炭化水素、生成低級炭化水素及び水素含有ガスとを分離して回収する。芳香族化合物が分離された、未反応炭化水素及び生成低級炭化水素と水素を含有するガスは、リサイクルガスとして、芳香族化合物合成工程の入口ラインに送られる。このリサイクルガスを送る位置は、リサイクルガスの組成から決定すればよく、リサイクルガス中に一酸化炭素及び/又は二酸化炭素が残存する場合には、リサイクルガス中での蓄積を防止するため、メタン化工程にこのリサイクルガスを送ることもできる。
【0054】
なお、本発明で合成される芳香族化合物の成分は、ベンゼン、トルエン、キシレン異性体、ナフタレン、トリメチルベンゼン異性体、メチルナフタレン異性体、ジメチルナフタレン異性体などであり、好ましくはベンゼン、トルエン、ナフタレンである。
また、生成低級炭化水素とは、炭化水素から芳香族化合物を生成する過程で副生するエタン、エチレンなどである。
【0055】
芳香族化合物の分離手段は、特に制限されないが、冷却分離や吸収分離が好ましい。
【0056】
冷却分離は、熱交換器でガスを冷却し、高沸点化合物を凝縮させ、デミスター付きのセパレーターにて気液分離する方法である。この場合、凝縮液分を増加させるために冷凍機にて冷却温度を下げるのがよい。芳香族化合物がベンゼンの場合、例えば次工程の圧力(メタン化工程もしくは芳香族化合物合成工程)の圧力まで昇圧し、6℃まで冷却して分離する。圧力は高圧の方が好ましいが、必要以上に高い圧力にすると動力ロスが発生する。また、温度も低温の方が好ましいが、6℃未満まで低下させると、芳香族化合物(主としてベンゼン)が凝固し、分離することが困難となる。1℃未満まで低下させると水分をあらかじめ分離除去する必要が生じ、また、冷却に必要な設備を増強するため、設備コストが上昇する。
【0057】
吸収分離は、吸収液を用いて生成ガスから芳香族化合物を吸収分離する方法である。吸収液には、灯油、軽油、重油、粗成ベンゼン、石炭系洗浄油、不飽和炭化水素油などがあり、高沸点化合物を溶解できる吸収液であればいずれでも良いが、液滴の飛沫同伴や運転条件における蒸気圧分の吸収液が下流に流れるのを極力防止するため、比重が重く、吸収能力の高い重油や石炭系洗浄油が好ましい。また、吸収分離を行なう際の吸収塔は、スプレー塔、充填塔、棚段塔などがあるが、その中でも省エネ・省コストの観点から液ホールドアップ量の少ない、充填塔が好ましい。塔内部には、ガスと吸収液の接触面積を増加する目的でラシヒリング、テラレット又は木格子などの充填物が充填される。充填物によっては圧力損失が増大するものもあるので、好ましくは空間率の大きいテラレット又は木格子を使用する。例えば、重油を用いる吸収分離の場合、通常温度は50℃以下、圧力0.5〜1.5MPaGの範囲で運転される。吸収温度が低く、吸収圧力の高い方が、吸収液に対する高沸点化合物の溶解度が高いため、好ましくは35℃以下、0.8MPaG以上で運転する。運転温度の低い方が吸収効率の向上に繋がるが、低い温度では高沸点化合物の析出による配管閉塞の恐れがあるため、5℃以下では運転を行なわない方が好ましい。また、原料ガス(被吸収ガス)量に対する吸収液量は、原料ガス量400〜500mに対して吸収液量1mで使用される。ただし、上記量関係は、使用する吸収液の種類によって変動する。
【0058】
[芳香族化合物製造プロセス]
以下に図面を参照して、本発明の芳香族化合物の製造プロセスをより具体的に説明する。
図1(a),(b),図2,図3は、本発明の芳香族化合物の製造方法の一例を示すフローシートである。
【0059】
図1(a),(b)の製造プロセスは、メタン化工程(A)、水分除去工程(B)、芳香族化合物合成工程(C)、芳香族化合物分離工程(D)で構成される。原料ガスの組成によっては、図2に示す如く、CO回収工程(E)、水素分離工程(F),(G)を設置してもよい。
各工程へのガスの流れは次の通りである。
【0060】
図1(a)において、原料ガスはライン(1)からメタン化工程(A)に供給される。メタン化工程(A)で原料ガス中の水素と炭化水素及び/又は炭素酸化物が反応し、炭化水素及び/又は炭素酸化物の濃度に応じた発熱反応熱を保有したメタン化反応生成ガスはライン(2)から出てくる。メタン化反応生成ガスは、ある温度から平衡制約を受け、ガス中の炭素酸化物が反応しなくなるため、炭素酸化物を規定量反応させるために、メタン化工程(A)出口では500〜600℃に制御する。ライン(2)では、500〜600℃のメタン化反応生成ガスが熱媒体と熱交換され、30〜200℃まで冷却される。冷却されたメタン化反応生成ガスは水分除去工程(B)に導入され、そこで凝縮した水分が除去される。
【0061】
水分除去工程(B)を出たメタン化反応生成ガスは、ライン(3)で再度、熱媒体と熱交換され、500℃付近まで昇温される。この際、ライン(3)のメタン化反応生成ガスは、熱媒体による熱交換での熱ロスのため、メタン化工程(A)を出たメタン化反応生成ガス温度より僅かながら低い温度となる。このメタン化工程(A)出口でのメタン化反応生成ガス温度をメタン化反応で生成した熱によって上昇させることで、芳香族化合物合成工程(C)での加熱炉の燃料を少なくすることができ、ユーティリティコストの改善及び発生排ガス量の低減に繋がる。
【0062】
熱媒体はライン(11)で水分除去工程(B)の前後で熱の授受を行い、閉サイクルで循環する。熱履歴による熱媒体の濃縮や劣化(熱伝達率の低下)等が懸念される場合は、一部をパージしながら、新しい熱媒体を補充する方法を用いてもよい。
【0063】
水分除去工程(B)の前段では、メタン化工程(A)からライン(2)を通って、500〜600℃に昇温されたメタン化反応生成ガスが出てくる。このメタン化反応生成ガスと熱媒体を熱交換し、メタン化反応生成ガス中の水分除去を行う。熱交換によって昇温した熱媒体は、ライン(3)の水分除去工程(B)出口のメタン化反応生成ガスと熱交換し、メタン化反応生成ガス温度を500℃付近まで昇温する。メタン化反応生成ガスの昇温に使われ、熱を失った熱媒体は、再度ライン(2)のメタン化反応生成ガスと熱交換するといった循環システムで運転する。
【0064】
ライン(3)で昇温されたメタン化反応生成ガス(メタンなどの低級炭化水素を多く含む)は、ライン(7)のリサイクルガスと混合され、芳香族化合物合成工程(C)に導入される。この際、メタン化反応生成ガス中に水素を多く含有していると、反応平衡上、芳香族化反応が進行しにくいため、この芳香族化合物合成工程の手前で水素分離工程を設置してもよい。
【0065】
芳香族化合物合成工程(C)で芳香族化反応が行なわれた生成ガスは、ライン(5)から芳香族化合物分離工程(D)に導入される。芳香族化合物分離工程(D)では、冷却分離や吸収分離などを用い、芳香族化合物を分離してライン(6)から取り出す。芳香族化合物に転換しなかったメタンなどの炭化水素は、リサイクルガスとしてライン(7)から芳香族化合物合成工程(C)の入口に導入される。リサイクルガス中にメタン化工程(A)で反応しなかった炭素酸化物が残存する場合は、リサイクルガスをメタン化工程(A)に導入してもよい。また、リサイクルガスは、芳香族化合物合成工程(C)で副生した水素を含有するため、ライン(7)に水素分離工程を設置し、分離した水素をメタン化工程(A)の水素原料、各種炭化水素の水添反応原料や燃料電池用の水素、芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉用燃料として利用してもよい。ライン(7)のリサイクルガスをプロセスラインに導入する際には、芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉排ガスとの熱交換により昇温し、水分が除去されたメタン化反応生成ガスと混合する。これによって芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉排ガスの熱回収が可能である。
【0066】
メタン化反応生成ガス中に窒素などの不活性ガスを含む場合は、不活性ガス濃縮防止のためリサイクルガスの一部をライン(8)からパージする。ライン(8)からパージされたガスは、ライン(9)の空気と混合し、ライン(10)から芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉用燃料として利用することが好ましい。芳香族化合物合成工程(C)での加熱炉用燃料は、上述のリサイクルガスやメタン化反応生成ガスから分離した水素を用いることができるが、通常、助燃用にコークス炉ガス、天然ガス(LNG、NG)、LPGなどと混合して使用される。芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉で燃焼した燃料の燃焼排ガスは、1000℃付近の高温であるため、ライン(7)のリサイクルガスと熱交換し、芳香族化合物合成工程(C)の反応熱として利用される。また、リサイクルガスだけでなく、ライン(8)のパージガスとの熱交換による芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉燃焼の一助や、ライン(3)からのメタン化反応生成ガスとの熱交換による芳香族化合物合成工程(C)の反応熱として利用してもよい。熱交換によって熱を失った燃焼排ガスは、ライン(12)から大気に排出される。環境面の配慮や、燃焼排ガス中のCOを原料として利用する場合には、燃焼排ガスのライン(12)にCO回収工程を設置してもよい。
【0067】
芳香族化合物分離工程(D)で分離された芳香族化合物は、必要に応じ、ベンゼン留分とそれ以外の成分(炭素数7以上の成分で代表される高沸点成分)とに分離することができる。ベンゼン留分の分離は、例えば、適当な蒸留塔を用いて容易に行なうことができる。
【0068】
また、図1(b)のライン(2)のように、メタン化工程(A)出口のメタン化反応生成ガスと熱交換する熱媒体に、芳香族化合物分離工程(D)で芳香族化合物と分離したライン(7)のリサイクルガスを用いてもよい。芳香族化合物分離工程(D)では、冷却分離又は吸収分離により未反応ガスと生成した芳香族化合物を分離するため、ライン(7)のリサイクルガスの温度は、6〜50℃程度であり、ライン(2)のメタン化工程(A)出口のメタン化反応生成ガスを熱交換により冷却するには、十分な温度である。ライン(2)のメタン化反応生成ガスと熱交換して昇温したリサイクルガスは、ライン(13)を経てライン(12)からの芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉燃焼排ガスと熱交換された後ライン(3)の水分除去されたメタン化反応生成ガスと混合され、芳香族化合物合成工程(C)に導入される。図1(b)におけるその他のプロセスラインは、図1(a)に準じる。
【0069】
図2の製造プロセスは、メタン化工程(A)、水分除去工程(B)、芳香族化合物合成工程(C)、芳香族化合物分離工程(D)、CO回収工程(E)、第1の水素分離工程(F)、第2の水素分離工程(G)で構成される。各工程へのガスの流れは次の通りである。
【0070】
原料ガスはライン(1)からメタン化工程(A)に供給される。メタン化工程(A)に入る手前で、メタン化反応における原料ガス中の水素濃度を調整するため、メタン化工程(A)に入る原料ガスの一部又は別の原料ガスをライン(20)から第1の水素分離工程(F)に導入し、分離された水素をライン(21)からライン(1)の原料ガスと混合し、メタン化工程(A)に導入する。第1の水素分離工程(F)で水素と分離されたオフガスは、ライン(15)から排出される。このオフガスは、メタンや炭素酸化物など水素以外の炭素源を多く含むため、芳香族化合物の製造のみならず、他の化学製品の原料として用いることもできる。
【0071】
メタン化工程(A)で原料ガス中の水素と炭化水素及び/又は炭素酸化物が反応し、炭化水素及び/又は炭素酸化物の濃度に応じた発熱量を保有したメタン化反応生成ガスはライン(2)から排出される。メタン化反応生成ガスは、ある温度から平衡制約を受け、ガス中の炭素酸化物が反応しなくなるため、炭素酸化物を規定量反応させるために、メタン化工程(A)出口では500〜600℃に制御する。ライン(2)では、500〜600℃のメタン化反応生成ガスが熱媒体と熱交換され、30〜200℃まで冷却される。冷却されたメタン化反応生成ガスは水分除去工程(B)に導入され、そこで凝縮した水分が除去される。
【0072】
水分除去工程(B)を出たメタン化反応生成ガスは、ライン(3)で再度、熱媒体と熱交換され、500℃付近まで昇温される。この際、ライン(3)のメタン化反応生成ガスは、熱媒体による熱交換での熱ロスのため、メタン化工程(A)を出たメタン化反応生成ガス温度より僅かながら低い温度となる。このメタン化工程(A)出口でのメタン化反応生成ガス温度をメタン化の発熱により高くすることで、芳香族化合物合成工程(C)での加熱炉の燃料を少なくすることができ、ユーティリティコストの改善及び発生排ガス量の低減に繋がる。
【0073】
なお、第1の水素分離工程(F)で分離された水素は、これを原料ガスに混合するライン(21)から一部抜出し、ライン(14)よりライン(8)のパージガス及びライン(9)の空気と混合し、ライン(10)から芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉燃料として使用することもできる。
【0074】
ライン(11)で熱媒体は、水分除去工程(B)の前後で熱の授受を行い、閉サイクルで循環する。熱履歴による熱媒体の濃縮や劣化(熱伝達率の低下)等が懸念される場合は、一部をパージしながら、新しい熱媒体を補充する方法を用いてもよい。
【0075】
水分除去工程(B)の前段では、メタン化工程(A)からライン(2)を通って、500〜600℃に昇温されたメタン化反応生成ガスが出てくる。このメタン化反応生成ガスと熱媒体を熱交換して冷却し、メタン化反応生成ガス中の水分除去を行う。熱交換によって昇温した熱媒体は、ライン(3)の水分除去工程(B)出口のメタン化反応生成ガスと熱交換し、水分除去後のメタン化反応生成ガスの温度を500℃付近まで昇温する。メタン化反応生成ガスの昇温に使われ、熱を失った熱媒体は、再度ライン(2)のメタン化反応生成ガスと熱交換するといった循環システムで運転する。ここで、芳香族化合物分離工程(D)において芳香族化合物と分離したライン(7)のリサイクルガスをライン(2)及びライン(3)のメタン化反応生成ガスの冷却及び昇温用熱媒体として利用した後、芳香族化合物合成工程(C)に導入してもよい。
【0076】
ライン(3)で昇温された水分除去後のメタン化反応生成ガス(メタンなどの炭化水素を多く含む)は、ライン(7)のリサイクルガスと混合され、芳香族化合物合成工程(C)に導入される。この際、メタン化反応生成ガス中に水素を多く含有していると、反応平衡上、芳香族化反応が進行しにくいため、この芳香族化合物合成工程の手前で水素分離工程を設置してもよい。
【0077】
芳香族化合物合成工程(C)で芳香族化反応が行なわれた生成ガスは、ライン(5)から芳香族化合物分離工程(D)に導入される。芳香族化合物分離工程(D)では、冷却分離や吸収分離などを用い、ライン(6)から生成した芳香族化合物を分離する。芳香族化合物に転換されなかったメタンなどの炭化水素は、第2の水素分離工程(G)に入り、芳香族化合物合成工程(C)で生成した水素と分離される。分離された水素は、ライン(18)から原料ガスに混合され、メタン化工程(A)の水素原料として使用される。また、分離水素の一部を抜出し、ライン(19)から芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉燃料として使用する。
【0078】
第1の水素分離工程(F)や第2の水素分離工程(G)で分離した水素は、メタン化工程(A)の原料や芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉燃料の他、各種炭化水素の水添反応原料や燃料電池用の水素としても用いることができる。
【0079】
第2の水素分離工程(G)で水素と分離したオフガスはリサイクルガスとしてライン(7)から芳香族化合物合成工程(C)の入口に導入される。リサイクルガス中にメタン化工程(A)で反応しなかった炭素酸化物が残存する場合は、第2の水素分離工程(G)を省いて、水素含有ガスとしてリサイクルガスをメタン化工程(A)に導入してもよい。
ライン(7)のリサイクルガスを芳香族化合物合成工程(C)の入口に導入する際には、芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉排ガスとの熱交換により昇温した後、水分除去後のメタン化反応生成ガスと混合する。これによって芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉排ガスの熱回収が可能である。
【0080】
原料ガス中に窒素などの不活性ガスを含む場合は、不活性ガス濃縮防止のため芳香族化合物分離工程(D)から未反応ガスとして排出されたガスの一部をライン(8)からパージする。ライン(8)からパージされたガスは、ライン(9)の空気及びライン(19)の分離水素と混合し、ライン(10)から芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉用燃料として利用することができる。不活性ガス濃縮防止のためのガスパージは、第2の水素分離工程(G)で分離されたリサイクルガスのライン(7)から行なってもよい。芳香族化合物合成工程(C)での加熱炉用燃料は、上述のリサイクルガス、メタン化反応生成ガスや芳香族化合物合成工程(C)の未反応ガスから分離した水素を用いることができるが、通常、助燃用にコークス炉ガス、天然ガス(LNG、NG)、LPGなどと混合して使われる。芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉で燃焼した燃料の燃焼排ガスは、1000℃付近の高温であるため、ライン(7)のリサイクルガスと熱交換し、芳香族化合物合成工程(C)の反応熱として利用される。また、リサイクルガスだけでなく、ライン(8)のパージガスとの熱交換による芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉燃焼の一助や、ライン(3)からのメタン化反応生成ガスとの熱交換による芳香族化合物合成工程(C)の反応熱として利用してもよい。
【0081】
熱交換によって熱を失った燃焼排ガスは、ライン(16)からCO回収工程(E)に導入され、排ガス中のCOを分離回収した後、回収COガスはライン(17)から原料ガスと混合され、メタン化工程(A)の炭素原料として用いられる。CO回収工程(E)において、吸収法によるCO回収技術を用いる場合は、より低い温度で運転した方が、吸収液に対するCOの吸収効率が高いため、ライン(7)のリサイクルガスや、ライン(8)のパージガス、ライン(3)のメタン化反応生成ガスとの熱交換による燃焼排ガスの降温は重要である。燃焼排ガスから回収されたCOは、メタン化工程(A)の炭素原料の他、食品添加用炭酸ガス、水蒸気改質反応の炭素原料、又はメタノール、ジメチルエーテル合成の炭素原料として用いてもよい。
【0082】
芳香族化合物分離工程(D)で分離された芳香族化合物は、必要に応じ、ベンゼン留分とそれ以外の成分(炭素数7以上の成分で代表される高沸点成分)とに分離することができる。ベンゼン留分の分離は、例えば、適当な蒸留塔により容易に行なうことができる。
【0083】
図3の製造プロセスは、第1のメタン化工程(改質触媒)(A)、第2のメタン化工程(メタン化触媒)(H)、水分除去工程(B)、芳香族化合物合成工程(C)、芳香族化合物分離工程(D)で構成される。原料ガスの組成によっては、図2に示す如く、CO回収工程(E)、水素分離工程(F),(G)を設置してもよい。各工程へのガスの流れは次の通りである。
【0084】
原料ガスはライン(1)から第1のメタン化工程(改質触媒)(A)に供給される。第1のメタン化工程(改質触媒)(A)では、一般的には水蒸気改質触媒として使用するNi含有量1〜25質量%の低担持量の触媒を使用する。第1のメタン化工程(改質触媒)では、原料ガス中の水素と炭化水素及び/又は炭素酸化物が反応し、炭化水素及び/又は炭素酸化物の濃度に応じた発熱量を保有したメタン化反応生成ガスはライン(2)から出てくる。この生成ガスは、ある温度から平衡制約を受け、ガス中の炭素酸化物が反応しなくなるため、炭素酸化物を規定量反応させ、また下流の芳香族化合物合成工程(C)の熱源の一部として利用するため、第1のメタン化工程(改質触媒)(A)出口では500〜700℃に制御する。ライン(2)では、500〜700℃のメタン化反応生成ガスが熱媒体と熱交換され、第2のメタン化工程(メタン化触媒)(H)に導入される。
【0085】
第2のメタン化工程(メタン化触媒)(H)ではメタン化触媒、例えばNiを25〜70質量%含有する触媒が用いられる。そのため、ライン(2)のメタン化反応生成ガスを第2のメタン化工程(メタン化触媒)(H)に導入する前に熱媒体による熱交換により、150〜250℃まで冷却する。冷却されたメタン化反応生成ガスは、第2のメタン化工程(メタン化触媒)(H)に導入され、第1のメタン化工程(改質触媒)(A)で反応せずに残存した炭素酸化物をメタンなどの低級炭化水素に変換する。原料ガス中の炭素酸化物は、第1のメタン化工程(改質触媒)(A)で大部分が反応するため、第2のメタン化工程(メタン化触媒)(H)では、メタン化反応による発熱はそれほど多くない。
【0086】
第2のメタン化工程(メタン化触媒)(H)を出たメタン化反応生成ガスは、ライン(22)から熱媒体により30〜200℃に冷却され、水分除去工程(B)に導入され、そこで凝縮した水分が除去される。
【0087】
水分除去工程(B)を出たメタン化反応生成ガスは、ライン(3)で再度、熱媒体と熱交換され、500〜700℃付近まで昇温される。この際、ライン(3)の水分除去後のメタン化反応生成ガスは、熱媒体による熱交換での熱ロスのため、第1のメタン化工程(改質触媒)(A)出口の温度より僅かながら低い温度となる。このライン(3)でのメタン化反応生成ガス温度をメタン化の発熱により高くすることで、芳香族化合物合成工程(C)での加熱炉の燃料を少なくすることができ、ユーティリティコストの改善及び発生排ガス量の低減に繋がる。
【0088】
ライン(11)及びライン(23)で熱媒体は、第2のメタン化工程(メタン化触媒)(H)及び水分除去工程(B)の前後で熱の授受を行い、閉サイクルで循環する。熱履歴による熱媒体の濃縮や劣化(熱伝達率の低下)等が懸念される場合は、一部をパージしながら、新しい熱媒体を補充する方法を用いてもよい。
【0089】
第2のメタン化工程(メタン化触媒)(H)の前段では、第1のメタン化工程(改質触媒)(A)からライン(2)を通って、500〜700℃に昇温されたメタン化反応生成ガスが出てくる。このメタン化反応生成ガスとライン(11)の熱媒体を熱交換し、第2のメタン化工程(メタン化触媒)(H)の反応に最適な温度である150〜250℃まで冷却する。熱交換によって昇温した熱媒体は、ライン(3)の水分除去工程(B)出口の水分除去後のメタン化反応生成ガスと熱交換し、メタン化反応生成ガス温度を500℃付近まで昇温する。熱を失った熱媒体は、再度ライン(2)のメタン化反応生成ガスと熱交換するといった循環システムで運転する。また、第2のメタン化工程(メタン化触媒)(H)を出たメタン化反応生成ガスはライン(22)を通って、再度熱媒体と熱交換し、30〜200℃まで冷却され、メタン化反応生成ガス中の水分除去を行う。熱交換によって昇温したライン(23)の熱媒体は、ライン(3)の水分除去工程(B)出口のメタン化反応生成ガスと熱交換し、ライン(3)の水分除去後のメタン化反応生成ガスを第2のメタン化工程(メタン化触媒)(H)出口のメタン化反応生成ガス温度と同程度まで昇温する。メタン化反応生成ガスの昇温に使われ、熱を失った熱媒体は、再度ライン(22)のメタン化反応生成ガスと熱交換するといった循環システムで運転する。
【0090】
なお、芳香族化合物分離工程(D)において芳香族化合物と分離したライン(7)のリサイクルガスをライン(2)、(3)及び(22)のメタン化反応生成ガスの冷却及び昇温用熱媒体として利用し、芳香族化合物合成工程(C)に導入してもよい。
【0091】
ライン(3)で昇温されたメタン化反応生成ガス(メタンなどの炭化水素を多く含む)は、ライン(7)のリサイクルガスと混合し、芳香族化合物合成工程(C)に導入される。この際、メタン化反応生成ガス中に水素を多く含有していると、反応平衡上、芳香族化反応が進行しにくいため、この芳香族化合物合成工程の手前で水素分離工程を設置してもよい。
【0092】
芳香族化合物合成工程(C)で芳香族化反応が行なわれた生成物ガスは、ライン(5)から芳香族化合物分離工程(D)に導入される。芳香族化合物分離工程(D)では、冷却分離や吸収分離などを用い、ライン(6)から生成した芳香族化合物を分離する。芳香族化合物に反応しなかったメタンなどの低級炭化水素は、リサイクルガスとしてライン(7)から芳香族化合物合成工程(C)の入口に導入される。リサイクルガス中に第1のメタン化工程(改質触媒)(A)や第2のメタン化工程(メタン化触媒)(H)で反応しなかった炭素酸化物が残存する場合は、リサイクルガスを第1のメタン化工程(改質触媒)(A)、又は第2のメタン化工程(メタン化触媒)(H)に導入してもよい。また、リサイクルガスは、芳香族化合物合成工程(C)で副生した水素を含有するため、ライン(7)に水素分離工程を設置し、分離した水素を第1のメタン化工程(改質触媒)(A)や第2のメタン化工程(メタン化触媒)(H)の水素原料、各種炭化水素の水添反応原料や燃料電池用の水素、芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉熱源として利用してもよい。ライン(7)のリサイクルガスを芳香族化合物合成工程(C)の入口に導入する際には、芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉排ガスとの熱交換により昇温され、水分除去後のメタン化反応生成ガスと混合される。これによって芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉排ガスの熱回収が可能である。
【0093】
原料ガス中に窒素などの不活性ガスを含む場合は、不活性ガス濃縮防止のためリサイクルガスの一部をライン(8)からパージする。ライン(8)からパージされたガスは、ライン(9)の空気と混合し、ライン(10)から芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉用熱源として利用することが好ましい。芳香族化合物合成工程(C)での加熱炉用燃料は、上述のリサイクルガスや原料ガスから分離した水素を用いることができるが、通常、助燃用にコークス炉ガス、天然ガス(LNG、NG)、LPGなどと混合して使われる。芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉で燃焼した燃料の燃焼排ガスは、1000℃近くある高温であるため、ライン(7)のリサイクルガスと熱交換し、芳香族化合物合成工程(C)の反応熱として利用される。また、リサイクルガスだけでなく、ライン(8)のパージガスとの熱交換による芳香族化合物合成工程(C)の加熱炉燃焼の一助や、ライン(3)からのメタン化反応生成ガスとの熱交換による芳香族化合物合成工程(C)の反応熱として利用してもよい。熱交換によって熱を失った燃焼排ガスは、ライン(12)から大気に排出される。環境面の配慮や、燃焼排ガス中のCOを原料として利用する場合には、燃焼排ガスのライン(12)にCO回収工程を設置してもよい。
【0094】
芳香族化合物分離工程(D)で分離された芳香族化合物は、必要に応じ、ベンゼン留分とそれ以外の成分(炭素数7以上の成分で代表される高沸点成分)とに分離することができる。ベンゼン留分の分離は、例えば、適当な蒸留塔により容易に行なうことができる。
【0095】
[芳香族化合物の用途]
本発明の方法で製造された芳香族化合物は、一般的に製造される芳香族化合物誘導体の全ての原料に使用できる。
【0096】
ベンゼンの場合、例えば、エチレンによるアルキル化によりエチルベンゼン(スチレン、ポリスチレン樹脂の原料)、プロピレンによるアルキル化によりキュメン(フェノール、ビスフェノールA、ポリカーボネート樹脂の原料)、高級オレフィンによるアルキル化により高級アルキルベンゼン(アルキルベンゼンスルホン酸の原料)を製造することができる。また、メタノール等によるアルキル化により、トルエン、キシレン等のアルキルベンゼン類を製造することができる。更に、例えば、パラキシレンの酸化反応によりテレフタル酸を製造でき、これとエチレングリコールとの反応によりポリエチレンテレフタレートを製造することができる。
【0097】
芳香族化合物、特にベンゼンの場合、先ず、選択酸化反応により無水マレイン酸を製造し、これを接触水素化することにより、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオール等を製造することができる。γ−ブチロラクトンにアルキルアミン又はアンモニアを反応させることによりN−アルキル−2−ピロリドン等を製造することができる。また、1,4−ブタンジオールからは脱水反応によりテトラヒドロフランを選択的に製造でき、これからは、酸触媒などにより低重合生成物のポリテトラメチレングリコールエーテルを製造することができる。
【0098】
しかして、1,4−ブタンジオールとテレフタル酸の縮合反応により、ポリブチレンテレフタレートを製造することができる。
【0099】
また、ナフタレン類からは、酸化によりフタル酸及びその誘導体を製造することができる。
【0100】
更には、芳香族化合物又は水素化芳香族化合物の接触分解により、エチレン、プロピレン、ブテン等の低級オレフィンを製造することができる。そして、それから誘導される低級オレフィン誘導体、例えば、エチレン誘導品としては、酸化反応によるエチレンオキサイド、エチレングリコール、エタノールアミン、グリコールエーテル等、塩素化による塩化ビニルモノマー、1,1,1−トリクロロエタン、ポリ塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン等が挙げられる。また、エチレンの重合により、α−オレフィン(更に、α−オレフィンを原料として、オキソ反応それに続く水素化反応により高級アルコールを製造することができる。)、低密度や高密度のポリエチレン等を製造することができる。また、酢酸との反応により酢酸ビニルを製造でき、また、ワッカー反応によりアセトアルデヒド及びその誘導体である酢酸エチル等を製造することができる。プロピレン誘導品としては、アンモ酸化によるアクリロニトリル、選択酸化によるアクロレイン、アクリル酸及びアクリル酸エステル、オキソ反応によるノルマルブチルアルデヒド、2−エチルヘキサノール等のオキソアルコール、プロピレンの重合によるポリプロピレン、プロピレンの選択酸化によるプロピレンオキサイド及びプロピレングリコール、プロピレンの水和によるイソプロピルアルコール等が挙げられる。また、ワッカー反応によりアセトンを製造することができる。更に、アセトンよりメチルイソブチルケトンやアセトンシアンヒドリンを製造することができる。アセトシアンヒドリンからメチルメタクリレートを製造することができる。また、更に、ブテンの酸化脱水素によりブタジエンを製造することができる。そして、ブタジエンから、アセトキシ化、水素化、加水分解を経て1,4−ブタンジオールを製造でき、これを原料として、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン等のピロリドン類を製造でき、これを原料として、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン等のピロール等を製造することができる。また、ブタジエンから種々の合成ゴムを製造することができる。
【0101】
[実験例]
以下にメタン化反応の実験例を示す。
【0102】
<実験例1>
下記条件にてメタン化反応テストを実施した。
原料ガス組成:H27体積%、CO1体積%、CO4体積%、CHバランス
触媒:ズードケミー触媒(株)製炭化水素スチームリフォーミング触媒FCR−4−02(Ni担持アルミナ触媒、Ni含有量約3質量%)
体積時間空間速度:3000h−1
反応圧力:0.3MPaG
反応温度:200℃、350℃、又は500℃
反応結果は、表1に示す通りであった。
【0103】
【表1】

【0104】
<実験例2>
下記条件にてメタン化反応テストを実施した。
原料ガス:常法に従って、脱硫、脱タール、脱ダストの前処理を行なったコークス炉ガス(H59体積%、CO7体積%、CO2体積%、CH27体積%、N2体積%、C2体積%、C1体積%)
触媒:ズードケミー触媒(株)製炭化水素スチームリフォーミング触媒FCR−4−02(Ni担持アルミナ触媒、Ni含有量約3質量%)
体積時間空間速度:3000h−1
反応圧力:0.3MPaG
反応温度:250℃、350℃、又は500℃
反応結果は、表2に示す通りであった。
【0105】
【表2】

【0106】
上記の実験結果より、一般的な水蒸気改質触媒によって、CO及びCOのメタン化が可能であることが判った。また、H濃度を調整すれば、反応平衡に依存して、反応温度500℃においても触媒が劣化せずに、CO及びCOのメタン転化率を100%にできることが判った。更に、コークス炉ガスなどの原料を使用して、一般的な改質触媒によりメタン化反応を行なえることが判った。これにより芳香族化合物合成反応における吸熱反応の熱源の一部として、メタン化における発熱反応を利用できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の芳香族化合物の製造方法の一例を示すフローシートである。
【図2】本発明の芳香族化合物の製造方法の他の一例を示すフローシートである。
【図3】本発明の芳香族化合物の製造方法の更に他の一例を示すフローシートである。
【符号の説明】
【0108】
A:メタン化工程(第1のメタン化工程)
B:水分除去工程
C:芳香族化合物合成工程
D:芳香族化合物分離工程
E:CO回収工程
F:第1の水素分離工程
G:第2の水素分離工程
H:第2のメタン化工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下に水素を炭化水素及び/又は炭素酸化物と反応させ、メタンと水に変換するメタン化工程、及び、触媒の存在下にメタン化工程で得られたメタン及び必要に応じてその他の炭化水素を反応させ、芳香族化合物及び水素を得る芳香族化合物合成工程を具備し、かつ、メタン化工程の反応で得られた発熱量を芳香族化合物合成工程の熱源として利用することを特徴とする芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
メタン化工程における前記触媒が、少なくとも金属Ni及び/又はNi化合物をNiとして1〜25質量%含む触媒であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項3】
メタン化工程における反応温度が300〜700℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項4】
メタン化工程に導入する原料における水素濃度が30体積%以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の芳香族化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−84257(P2009−84257A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259977(P2007−259977)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】