説明

芳香族塩素化合物発生抑制剤並びに燃焼排ガス処理方法

【課題】ダイオキシン類の発生を有効に抑制することが可能な芳香族塩素化合物発生抑制剤を提供する。
【解決手段】スメクタイト系粘土またはその酸処理物からなり、下記基本組成;
SiO:51.0乃至85.0重量%
Al:9.0乃至30.0重量%
MgO:2.5乃至8.0重量%
を有し且つ酸化物換算でのアルカリ金属とアルカリ土類金属との合計量が0.30乃至2.10重量%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物焼却炉などから生成する燃焼排ガスの処理に使用される芳香族塩素化合物発生抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年において、都市ゴミや産業廃棄物などの廃棄物焼却炉から発生する燃焼排ガス中に含まれるダイオキシン類による環境汚染が問題となっている。ダイオキシン類は、ポリ塩化ジベンゾ−p−ジオキシン、ポリ塩化ジベンゾフランおよびコプラナーポリ塩化ビフェニルの総称で、結晶性の高い分子であり、燃焼排ガス中に含まれる塩化物、酸素原子とベンゼンやナフタレン等のハイドロカーボンからラジカル反応によって生成することが知られている(非特許文献1)。従って、現在では、廃棄物焼却炉の温度を800℃以上の高温に設定することにより炭素ラジカルを出来るだけ二酸化炭素に変換させたり、焼却炉内の酸素濃度を10%程度に維持したりすると共に、ダイオキシン類が生成しやすい温度領域である300℃付近での排ガスの滞留時間を短くすることにより、ダイオキシン類の生成が抑えられている。
【0003】
しかしながら、焼却温度を800℃以上の高温に設定したとしても、このような高温の炉から煙突を経て大気へ排気されるまでの冷却される工程のどこかでダイオキシン類が再合成するのを抑えることはできず、従って、燃焼排ガス中からダイオキシン類の前駆体を確実に除去する処理方法が求められている。
【0004】
このような燃焼排ガスの処理方法として、例えば特許文献1には、活性炭、活性白土、酸性白土などを担持させた濾布(バグフィルター)で燃焼排ガスを処理する方法が提案されている。即ち、活性炭や活性白土によりダイオキシンを吸着せしめることにより、ダイオキシンを燃焼排ガス中から除去するというものである。
【0005】
特許文献2には、都市ごみ焼却設備からのダイオキシン類の排出および発生した飛灰からの重金属の溶出を一つの薬剤にて簡便に防止する目的で、比表面積が100〜800m/gの酸性白土、活性白土、ベントナイトなどを用いるというものである。
【0006】
また、特許文献3には、モンモリロナイトもしくはこれを主成分とする粘土鉱物からなる、排ガス中の有害物除去用吸着剤が提案されている。
【0007】
特許文献4には、ダイオキシン類が非常に疎水性の強い物質であるとの考えから、酸性白土、活性白土、ベントナイトなどの表面をシランカップリング剤で疎水化したもので吸着させることにより、ダイオキシン類を燃焼排ガス中から除去するというものである。
【0008】
さらに、特許文献5には、モンモリロナイト族粘土鉱物またはその酸処理物からなり、固体酸としてのルイス酸含量が0.08mmol/g以上の範囲にあるダイオキシン吸着剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−87624号公報
【特許文献2】特開平11−9963号公報
【特許文献3】特開2000−325737号公報
【特許文献4】特開平10−151343号公報
【特許文献5】特開2006−263587号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ぶんせき,1998年,515
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1で提案されている活性炭は、ダイオキシン類吸着能に優れ、さらにハイドロカーボン吸着能も良好であるが、活性炭は炭素粉末であり、燃焼の問題がある。即ち、高温に保持されている燃焼排ガスの処理に活性炭を用いるときには、それ自体が燃焼して炭素ラジカルの発生源、ひいてはダイオキシン類の発生源となるという問題を生じてしまうため、活性炭以外の吸着剤が求められているのが現状である。
【0012】
さらに、特許文献2乃至4で示されているような活性白土は、モンモリロナイトを主成分とする酸性白土を酸処理したものであり、酸性白土に比して大きな比表面積や細孔容積を有しているが、活性炭に比してダイオキシン類吸着効果がかなり低く、活性炭の代替品としては適当でなく、通常、それ単独で使用されることはなく、活性炭等との併用で燃焼排ガスの処理に使用される。
【0013】
これに対して、特許文献5で提案されているダイオキシン吸着剤は、本出願人が提案したものであり、固体酸としてのルイス酸含量が一定の範囲以上にあるモンモリロナイト族粘土鉱物は、ダイオキシン類のみならずダイオキシン類発生源となるハイドロカーボンを効果的に除去できるという知見に基づいて開発されたものであり、上記のような特許文献に開示されているダイオキシン吸着剤に比して、効果的にダイオキシン類の発生を抑制することができる。
しかしながら、特許文献5のダイオキシン吸着剤においてもその効果は十分ではなく、さらに効果的にダイオキシン類の発生を抑制し得る剤が求められている。
【0014】
従って、本発明の目的は、ダイオキシン類の発生を有効に抑制することが可能な芳香族塩素化合物発生抑制剤及びその効果的な製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記芳香族塩素化合物発生抑制剤を用いての燃焼排ガスの処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、芳香族塩素化合物発生抑制剤について多くの実験を行い、その性能を検討した結果、スメクタイト系粘土またはその酸処理物の内、一定の組成を有しているものは特に優れたダイオキシン発生抑制機能を有しているという知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
即ち、本発明によれば、スメクタイト系粘土またはその酸処理物からなり、下記基本組成;
SiO:51.0乃至85.0重量%
Al:9.0乃至30.0重量%
MgO:2.5乃至8.0重量%
を有し且つ酸化物換算でのアルカリ金属とアルカリ土類金属との合計量が0.30乃至2.10重量%であることを特徴とする芳香族塩素化合物発生抑制剤が提供される。
【0017】
本発明の芳香族塩素化合物発生抑制剤においては、
(1)灼熱減量(1000℃)が6.0乃至12.0重量%であり、メチレンブルー吸着能が30乃至80mmol/100gの範囲にあること、
(2)スメクタイト系粘土とその酸処理物との混合物からなること、
(3)スメクタイト系粘土が酸性白土からなること、
(4)スメクタイト系粘土の酸処理物が活性白土からなること、
が好適である。
【0018】
本発明によれば、また、酸性白土または活性白土が下記基本組成;
SiO:51.0乃至75.0重量%
Al:13.0乃至28.0重量%
MgO:4.0乃至8.0重量%
を有し且つ酸化物換算でのアルカリ金属とアルカリ土類金属との合計量が0.30乃至2.00重量%であることを特徴とする芳香族塩素化合物発生抑制剤が提供される。
【0019】
本発明によれば、さらに、上記の芳香族塩素化合物発生抑制剤を用いて廃棄物焼却から発生する燃焼排ガスを処理することを特徴とする燃焼排ガス処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の芳香族塩素化合物発生抑制剤を用いて、廃棄物焼却から発生する燃焼排ガスを処理することにより、従来公知の処理剤を用いた場合に比しても効果的にダイオキシン類の発生を抑制することができる。
【0021】
本発明の芳香族塩素化合物発生抑制剤を用いてダイオキシン類の発生を有効に抑制できる理由は明確に解明されていないが、本発明者等は、ダイオキシン類の生成過程で中間体として生じる芳香族塩素化合物が有効に吸着されるために、ダイオキシン類の発生が有効に抑制できるものと考えている。
即ち、ダイオキシン類は、例えば焼却炉中で、炭素ラジカルなどが食塩等の塩化物由来の塩素原子および空気由来の酸素原子と反応してクロロベンゼン類、クロロフェノール類、クロロナフタレン類などといった芳香族塩素化合物が生成し、この芳香族塩素化合物が更にカップリング反応して生成するものである。後述する実施例に示されているように、本発明の芳香族塩素化合物発生抑制剤は、ダイオキシン類発生の過程で中間体として生じる芳香族塩素化合物(例えばクロロベンゼン)を有効に吸着するという特性を有しており、この結果、ダイオキシン類発生を効果的に抑制することができると考えられる。
【0022】
また、本発明において、芳香族塩素化合物発生抑制剤として使用するスメクタイト系粘土或いはその酸処理物は、SiO含量、Al含量及びMgO含量が一定の範囲にあるという基本組成を有していると同時に、アルカリ金属とアルカリ土類金属との合計含量(以下、単にアルカリ含量と呼ぶ)が一定量以下であることが必要である。即ち、上記基本組成ではMgO成分を比較的多く含んでいること、さらに、アルカリ含量が少ないことが相乗的効果を発揮し、芳香族塩素化合物に対して高い吸着性を示し、ダイオキシン類の発生抑制に繋がるものと考えられる。
【0023】
本発明においては、上述した基本組成及びアルカリ含量に関する条件を満足するものであれば、天然に産出するスメクタイト系粘土及びその酸処理物の何れも芳香族塩素化合物発生抑制剤として使用することができる。
一方、スメクタイト系粘土を硫酸等の鉱酸で処理して得られる酸処理物は、酸処理によってNaやCa2+がプロトン(H)に交換されるため、その殆どのものはアルカリ含量に関する条件を満足しているが、酸処理によってMgO量が低減してしまうため、基本組成の条件を満足するものは少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
<芳香族塩素化合物発生抑制剤>
本発明の芳香族塩素化合物発生抑制剤は、スメクタイト系粘土、スメクタイト系粘土の酸処理物あるいは両者の混合物からなるものである。
【0025】
即ち、スメクタイト系粘土の主成分であるスメクタイトは、AlO八面体シートが二つのSiO四面体シートでサンドイッチされた三層構造を基本層とし、この基本層がc軸方向に積層された積層構造を有している。また、上記のAlO八面体シートのAlは、その一部がMgやFe(II)で同形置換され、SiO四面体シートのSiの一部はAlで同形置換され、c軸方向に積層されている基本層の層間には、同形置換による電荷の不足を補う形で金属カチオン(例えばNaやCa2+)が存在している。このような2八面体型スメクタイトには、粘土鉱物分類上、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイトなどがある。天然に産する所謂酸性白土やNa型ベントナイト、Ca型ベントナイトは、これら2八面体型のスメクタイトを主要成分として含有している粘土(スメクタイト系粘土と呼ぶ)であり、火山灰や溶岩等が海水の影響下に変性されることにより生成したものと考えられている。本発明では、中でも酸性白土が好適に用いることができる。
【0026】
酸性白土はCa型ベントナイトが風化を受けたものであり、本邦日本海側のグリーンタフにおいて広く産出し、モンモリロナイトのAlO八面体シートのAlの一部がMg等の二価金属で置換され、その原子価を補うようにプロトン(H)が結合している。したがって、酸性白土を食塩水溶液中に懸濁させてそのpHを測定すると、前記プロトン(H)がナトリウム(Na)イオンで置換され、酸性を示す。従って、アルカリ金属成分が少なく、しかも水膨潤性も低下しており、またケイ酸分の含有量も高いため、吸着性の点で極めて有利である。
【0027】
一方、スメクタイト系粘土の酸処理物は、活性白土と称されるものであり、上記のスメクタイト系粘土を硫酸等の鉱酸でスメクタイトの基本層構造を破壊しない程度に酸処理することにより得られるものである。この酸処理によって、MgやFe等の金属酸化物が溶出し、比表面積や細孔容積が増大すると共に、基本層間の金属カチオン(例えばNaやCa2+)がプロトン(H)に交換され、夾雑汚染物質も除去され吸着性能が向上しているものである。
【0028】
本発明においては、上記のスメクタイト系粘土及びその酸処理物である活性白土の何れも芳香族塩素化合物発生抑制剤として使用することができ、両者の混合物も使用することができるが、下記の基本組成;
SiO:51.0乃至85.0重量%、好ましくは51.0乃至75.0重量%
Al:9.0乃至30.0重量%、好ましくは13.0乃至28.0重量%
MgO:2.5乃至8.0重量%、好ましくは4.0乃至8.0重量%
を有していることが必要である。即ち、この基本組成を満足しないものは、芳香族塩素化合物に対する吸着力が低く、ダイオキシン類の発生抑制効果が低くなってしまう。
【0029】
尚、上記の基本組成において、Al及びMgO含量はスメクタイト系粘土のカチオン交換容量と関係しているが、本発明において好適に用いる粘土及びその酸処理物は、特にMgO含量がやや多いことが芳香族塩素化合物に対する吸着力の向上に寄与しているものと考えられる。
【0030】
また、本発明において、芳香族塩素化合物発生抑制剤として使用するスメクタイト系粘土及びその酸処理物は、上記のような基本組成を有していると共に、アルカリ含量が0.30乃至2.10重量%、特に0.30乃至2.00重量%の範囲にあるものでなければならない。また、酸化物換算でアルカリ金属(ナトリウム分、カリウム分)が0.20乃至1.50重量%、特に0.20乃至0.90重量%であることが好ましい。更に、酸化物換算でナトリウム分が0.15重量%以下、特に0.10重量%未満であることが好ましい。即ち、このアルカリ含量が少ないということは、スメクタイトの表面および基本層間にあったアルカリ金属及びアルカリ土類金属がプロトンに置換されることにより多くの吸着点が生成し、MgO成分が示す吸着性能と相俟って、芳香族塩素化合物を捕捉し、芳香族塩素化合物からのダイオキシン類の発生を有効に抑制することが可能となるものである。
【0031】
上記の説明から理解されるように、本発明において芳香族塩素化合物発生抑制剤として使用するスメクタイト系粘土及びその酸処理物は、スメクタイト系粘土に特有の層構造を有しており、Cu管球を用いたX線回折測定により、2θ=5乃至10度の領域には(001)面に由来する回折ピークを示す。また、上記の基本組成を満足し且つアルカリ含量が上記範囲内に低減されているとともに、他の酸化物成分、例えばFe分で0.8乃至8.0重量%含有していることが好ましい。
【0032】
また、その灼熱減量(1000℃)は、6.0乃至12.0重量%の範囲にあることが好ましい。この灼熱減量は、基本層間に存在する水分子の量や粒子表面のOH基量を示すものであり、この灼熱減量が大きいほど、高い表面活性を有しており、吸着点が多いため、芳香族塩素化合物の吸着容量も高いことを示す。また、このようなスメクタイト系粘土及びその酸処理物は、そのメチレンブルー吸着能が、一般に30乃至80mmol/100gの範囲にあるため、更に吸着性が向上していると考えられる。
【0033】
さらに、本発明で芳香族塩素化合物発生抑制剤として用いるスメクタイト系粘土およびその酸処理物は、例えば比表面積が60m/g以上、特に100乃至400m/gの範囲にあり、且つ細孔容積が0.15乃至0.50cm/gの範囲にあることが好ましい。
このような範囲の比表面積及び細孔容積を有するものは、芳香族塩素化合物ばかりか発生したダイオキシン類等に対する物理的吸着特性も高く、従ってダイオキシン類の発生を極めて効果的に抑制することができる。
【0034】
本発明において、上述した芳香族塩素化合物発生抑制剤は、一般に、粒径が10乃至100μm、特に15乃至50μmの微粉末の形で使用に供することが好ましい。即ち、粒径があまり小さいと、バグフィルターの目詰まりを生じ易くなり、また目詰まりした吸着剤をバグフィルターから剥離することも困難となるおそれがあり、さらに粒径があまり大きいと、バグフィルターの目詰まりやバグフィルターからの剥離性の点では問題ないが、吸着能が低下するおそれがあるからである。
【0035】
また、上記の芳香族塩素化合物発生抑制剤は、それ単独で使用することもできるし、それ自体公知のダイオキシン類吸着剤やハイドロカーボン吸着剤と併用して使用することも可能である。
【0036】
<芳香族塩素化合物発生抑制剤の製造>
本発明の芳香族塩素化合物発生抑制剤は、上述したような基本組成及びアルカリ含量を有するスメクタイト系粘土或いはその酸処理物からなるものである。上記の基本組成及びアルカリ含量を満足するスメクタイト系粘土は特定の産地からわずかに産出するに過ぎず、一般に産出するスメクタイト系粘土は、前述した基本組成の条件を満足するとしても、アルカリ含量がかなり多く、アルカリ含量に関する条件を満足していない。一方、スメクタイト系粘土の酸処理物である活性白土は、酸処理によってアルカリ含量が低減するため、アルカリ含量についての条件を満足しているものの、酸処理によってMg含量が低減するため、基本組成についての条件をほとんど満足していない。
【0037】
また本発明においては、前述した基本組成を満足しているが、アルカリ含量に関する条件を満足していないスメクタイト系粘土、具体的には、前記基本組成を満足し且つ酸化物換算でのアルカリ含量が2.10重量%を超える範囲のスメクタイト系粘土を原料とし、この原料粘土に、アルカリ含量が前述した条件である0.30乃至2.10重量%を満足させるために酸処理によってアルカリ含量が低減されているスメクタイト系粘土の酸処理物を混合し、その混合物について、基本組成及びアルカリ含量について、前述した条件を満足するように調整し、この混合物を本発明の芳香族塩素化合物発生抑制剤として使用することが好ましい。
【0038】
尚、活性白土は、硫酸等の鉱酸によって酸処理されたものであり、この酸処理によってMgOやFe等の酸化物成分が除去され、その比表面積、細孔容積は増大するが、同時に、基本層間のアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオン含量がプロトンに置換され、アルカリ含量が低下する。従って、上記の原料スメクタイト系粘土と混合してアルカリ含量が0.30乃至2.10重量%に収まるように混合割合を調整する。しかるに、酸処理が強度に行われ、アルカリ含量を大きく低減した活性白土では、そのMgO含量も大きく低減する結果、前述した基本組成から大きく外れてしまい、アルカリ含量を所定の範囲に調整することはできたとしても、基本組成を所定の範囲に調整することができなくなってしまう。従って、本発明で用いる活性白土は、基本組成が所定の範囲に収まるようにするため適度な酸処理によって、酸化物換算でMgO成分が2.5重量%、特に4.2重量%を下回らないように酸処理することが好ましい。
【0039】
また、スメクタイト系粘土と活性白土を混合して使用する場合は、基本組成とアルカリ含量、及び、灼熱減量とメチレンブルー吸着量、比表面積と細孔容積等の物性を前述した範囲内にすることが好ましい。
【0040】
尚、原料スメクタイト系粘土と活性白土との混合は、天然に産出した原料スメクタイト系粘土を風簸、水簸等に供して夾雑物を除去し、次いで湿式或いは乾式で所定量の活性白土を共粉砕し、所定の粒度に調整することにより行われる。
【0041】
<燃焼排ガスの処理>
ゴミ焼却炉などから発生した燃焼排ガスは、濾布などからなるバグフィルターで集塵された後に煙突から排出されるが、バグフィルターを通す前に、前述した芳香族塩素化合物発生抑制剤により処理される。これにより、ダイオキシン類発生の中間体となる芳香族塩素化合物を有効に吸着除去できるため、排ガス中のダイオキシン類の発生を有効に抑制することが可能となる。
【0042】
芳香族塩素化合物発生抑制剤による処理は、通常、これを煙道に吹き込むことにより行なわれるが、バグフィルターを煙道に設け、このバグフィルターに芳香族塩素化合物発生抑制剤を担持させておくこともできる。また、この芳香族塩素化合物発生抑制剤による処理と同時に、それ自体公知のダイオキシン吸着剤やハイドロカーボン吸着剤を併用して処理を行ってもよい。
なお、芳香族塩素化合物発生抑制剤の吹き込み量や担持量等は、焼却炉の性能(排ガス量やダイオキシン類もしくはハイドロカーボンの発生量等)に応じて適宜設定すればよい。
【0043】
本発明の燃焼排ガスの処理においては、芳香族塩素化合物発生抑制剤を用いての処理と併用して、それ自体公知の他の処理、例えば、消石灰等のアルカリ粉末を吹き込み、HClなどの酸性ガスを吸収させることもできるし、或いは白金触媒層を通すことにより、COやハイドロカーボンを燃焼乃至熱分解し、有害ガスを低減させることもできる。
【実施例】
【0044】
本発明を、次の実施例で更に説明する。なお、実施例で行った試験方法は、以下の通りである。
【0045】
(1)化学組成
(株)リガク製 Rigaku RIX 2100を用い、ターゲットはRh、分析線はKαで、その他は以下の条件で測定を行った。

得られた分析データより、SiO、Al、MgO、NaO、KO、CaO、Fe、TiO、SOの合計が100重量%になるように補正し、化学組成値を算出した。
【0046】
(2)灼熱減量(Ig−Loss)
試料を磁製るつぼに入れ、1000℃で一時間焼成後放冷し減量を測定し、水分(110℃乾燥減量%)補正して算出した。
【0047】
(3)メチレンブルー吸着能(MB吸着能)
日本ベントナイト工業会標準試験方法JBAS−107−77に準拠し、0.5N硫酸を無添加で測定後、水分を補正してMB吸着能(mmol/100g)を算出した。
【0048】
(4)比表面積及び細孔容積
Micromeritics社製Tri Star 3000を用いて測定を行った。細孔容積は、脱離側窒素吸着等温線からBJH法で求めた細孔分布において細孔径1.7nm〜300nmまでの細孔容積を積算して求めた。比表面積は比圧が0.05から0.25の吸着枝側窒素吸着等温線からBET法で解析した。
【0049】
(5)ルイス酸測定
Leftin and Hall法により、下記のように測定した[参考文献:吸着(共立全書157)]。
試料は予め110℃で3時間乾燥する。乾燥後の試料1.000gをろ紙が入ったソックスレー抽出器にいれる。そこに、ベンゼンにトリフェニルクロロメタンを0.02mol/Lになるように調製した溶液50mlを加え24時間放置する(その時外気は遮断する)。次にフラスコにベンゼン100mlを用意し、加熱しながら、ベンゼンがソックスレーに入るのを確認後、24時間連続抽出する。次に、別のフラスコにアセトン150mlを用意し、ベンゼンの時と同様の操作を行い抽出する。先に定量しておいた蒸発皿に抽出液を移し、蒸発乾固後、乾燥器にて110℃で1時間乾燥し、放冷後、定量し、下記式よりルイス酸を測定した。
ルイス酸=S/260 (mmol/g)
但し、Sは抽出物の質量(mg)
【0050】
(6)吸着試験(クロロベンゼン吸着性能)
1.8Lのガラス瓶に200℃で30分間加熱処理した試料0.5gを採取してシールした後、事前に気化調製したクロロベンゼンを50〜100ppmになるように注入した。ガス注入1時間後にガス検知管でガス濃度を測定し、ガス濃度が5ppm以上になるまでガス注入操作を繰り返した。その後、ガス濃度5ppmになるまで吸着したガス量を求め、試料のガス吸着量(5ppm平衡)(mg/g)を求めた。
【0051】
(実験例1〜3)
山形県鶴岡市の産地がそれぞれ違う酸性白土を用いた。物性測定を行い、結果を表1に示す。
【0052】
(実験例4)
実験例1及び実験例2の酸性白土を重量比1:1で混合した物を混練し5mm径に造粒し、この造粒物1000gを処理槽に充填した。そこに19重量%硫酸水溶液1000gを循環させた。その時の処理温度は90℃、処理時間は6時間であった。酸処理終了後、酸処理物に洗浄水を循環して水洗を行った後、110℃で乾燥した後ボールミルで粉砕、篩い分けして活性白土粉末を得た。物性測定を行い、結果を表1に示す。
【0053】
(実験例5)
原料に実験例1の酸性白土を用い、酸処理条件を27重量%に変えた以外は、実験例4と同様にして行い、活性白土粉末を得た。物性測定を行い、結果を表1に示す。
【0054】
(実験例6)
米国産Ca型ベントナイトを原料として用い、酸処理条件を24重量%に変えた以外は、実験例4と同様にして行い、活性白土粉末を得た。物性測定を行い、結果を表1に示す。
【0055】
(実験例7)
原料に実験例2の酸性白土を用い、酸処理条件を36重量%に変えた以外は、実験例4と同様にして行い、活性白土粉末を得た。物性測定を行い、結果を表1に示す。
【0056】
(実験例8)
新潟県胎内市産のCa型ベントナイトを原料として用い、酸処理条件を24重量%に変えた以外は、実験例4と同様にして行い、活性白土粉末を得た。物性測定を行い、結果を表1に示す。
【0057】
(比較例1)
新潟県新発田市産の酸性白土を用いた。物性測定を行い、結果を表1に示す。
【0058】
(比較例2)
原料に実験例3の酸性白土を用い、酸処理条件を40重量%に変えた以外は、実験例4と同様にして行い、活性白土粉末を得た。物性測定を行い、結果を表1に示す。
【0059】
(比較例3〜4)
宮城県蔵王町産のNa型とCa型のベントナイトをそれぞれ用いた。物性測定を行い、結果を表1に示す。
【0060】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スメクタイト系粘土またはその酸処理物からなり、下記基本組成;
SiO:51.0乃至85.0重量%
Al:9.0乃至30.0重量%
MgO:2.5乃至8.0重量%
を有し且つ酸化物換算でのアルカリ金属とアルカリ土類金属との合計量が0.30乃至2.10重量%であることを特徴とする芳香族塩素化合物発生抑制剤。
【請求項2】
灼熱減量(1000℃)が6.0乃至12.0重量%であり、メチレンブルー吸着能が30乃至80mmol/100gの範囲にある請求項1に記載の芳香族塩素化合物発生抑制剤。
【請求項3】
スメクタイト系粘土とその酸処理物との混合物からなる請求項1または2に記載の芳香族塩素化合物発生抑制剤。
【請求項4】
スメクタイト系粘土が酸性白土からなる請求項1乃至3の何れかに記載の芳香族塩素化合物発生抑制剤。
【請求項5】
スメクタイト系粘土の酸処理物が活性白土からなる請求項1乃至3の何れかに記載の芳香族塩素化合物発生抑制剤。
【請求項6】
前記酸性白土または活性白土が下記基本組成;
SiO:51.0乃至75.0重量%
Al:13.0乃至28.0重量%
MgO:4.0乃至8.0重量%
を有し且つ酸化物換算でのアルカリ金属とアルカリ土類金属との合計量が0.30乃至2.00重量%であることを特徴とする請求項4または5に記載の芳香族塩素化合物発生抑制剤。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の芳香族塩素化合物発生抑制剤を用いて廃棄物焼却から発生する燃焼排ガスを処理することを特徴とする燃焼排ガス処理方法。

【公開番号】特開2011−218318(P2011−218318A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92267(P2010−92267)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000193601)水澤化学工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】