説明

苗植付具

【課題】 内部の主空間部に潤滑油を有する苗植付具ケ−スを備え、苗押出具が押出作動により苗植付具ケ−ス内の軸受部材に対して摺動する軸部と苗植付具ケ−スの外部で該軸部の先端に固着された苗押出部を備え、軸受部材の下側には軸部の外周面に接触するオイルシールを設けた従来の苗植付具においては、潤滑油が軸部の摺動で前記隙間を逐次つたってくるため、オイルシールで受け止められている潤滑油の行き場がなくなって、この潤滑油がオイルシールと軸部の間を通って苗植付具ケースの外部に洩れ出るおそれがあり、潤滑油が外部に洩れ出ることにより、苗を植え付ける圃場を汚染したり、苗植付具ケース内の潤滑油が不足して苗植付具の耐久性が低下するおそれがある。
【解決手段】 オイルシール82から主空間部Aにわたる連通溝85を、軸受部材81の左右方向側面側又は後側に設けた苗植付具とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苗移植機等の苗植付装置に使用する苗植付具の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
苗載台上のマット状の苗から一株分の苗を掻き取る植付爪と、該植付爪が掻き取った苗を押し出す苗押出具と、内部の主空間部に潤滑油を有する苗植付具ケ−スを備えた苗植付具において、苗押出具は、押出作動により苗植付具ケ−ス内の軸受部材に対して摺動する軸部と、苗植付具ケ−スの外部で該軸部の先端に固着された苗押出部を備え、軸受部材の下側には軸部の外周面に接触するオイルシールを設けたものがある(特許文献1及び2参照。)。
【特許文献1】特開平6−209623号公報
【特許文献2】特開平8−23736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記背景技術の構成は、苗押出具の軸部が軸受部材に対して摺動すると、苗植付具ケ−スの主空間部内の潤滑油が軸部と軸受部材の間の隙間をつたってくるが、オイルシールによりこの潤滑油が苗植付具ケ−スの外部に洩れ出ないようにしている。
【0004】
しかしながら、潤滑油が軸部の摺動で前記隙間を逐次つたってくるため、オイルシールで受け止められている潤滑油の行き場がなくなって、この潤滑油がオイルシールと軸部の間を通って苗植付具ケースの外部に洩れ出るおそれがあり、潤滑油が外部に洩れ出ることにより、苗を植え付ける圃場を汚染したり、苗植付具ケース内の潤滑油が不足して苗植付具の耐久性が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を解決するべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1に係る発明は、苗載台(11)上のマット状の苗から一株分の苗を掻き取る植付爪(31)と、該植付爪(31)が掻き取った苗を押し出す苗押出具(32)と、内部の主空間部(A)に潤滑油を有する苗植付具ケ−ス(73a)を備え、苗植付具ケ−ス(73a)の前面に締着ボルト(79)により前記植付爪(31)を固着した苗植付具において、苗押出具(32)は、押出作動により苗植付具ケ−ス(73a)内の軸受部材(81)に摺動する軸部(78)と、苗植付具ケ−ス(73a)の外部で該軸部(78)の先端に固着された苗押出部(80)を備え、軸受部材(81)の下側には軸部(78)の外周面に接触するオイルシール(82)を設け、該オイルシール(82)から前記主空間部(A)にわたる連通溝(85)を、軸受部材(81)の左右方向側面側又は後側に設けた苗植付具とした。
【0006】
従って、この苗植付具は、植付爪(31)が苗載台(11)上のマット状の苗から一株分の苗を掻き取り、その苗を苗押出具(32)の苗押出部(80)で圃場へ向けて押し出すことにより、圃場に苗を植え付ける。苗押出具(32)の押出作動で軸部(78)が軸受部材(81)に対して摺動することにより、苗植付具ケ−ス(73a)の主空間部(A)内の潤滑油が軸部(78)と軸受部材(81)の間の隙間をつたってくるが、オイルシール(82)によりこの潤滑油を受け止める。潤滑油が軸部(78)の摺動で前記隙間を逐次つたってオイルシール(82)に供給されても、締着ボルト(79)がない軸受部材(81)の左右方向側面側又は後側に設けた連通溝(85)により、オイルシール(82)で受け止めた潤滑油を前記主空間部(A)に戻してオイルシール(82)付近の圧力の上昇を防止し、オイルシール(82)を介して潤滑油が外部に洩れ出るのを防止する。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、苗載台(11)上のマット状の苗から一株分の苗を掻き取る植付爪(31)と、該植付爪(31)が掻き取った苗を押し出す苗押出具(32)と、内部の主空間部(A)に潤滑油を有する苗植付具ケ−ス(73a)を備えた苗植付具において、苗押出具(32)は、押出作動により苗植付具ケ−ス(73a)内の軸受部材(81)に摺動する軸部(78)と、苗植付具ケ−ス(73a)の外部で該軸部(78)の先端に固着された苗押出部(80)を備え、軸受部材(81)の下側には軸部(78)の外周面に接触するオイルシール(82)を設け、該オイルシール(82)から前記主空間部(A)にわたる連通溝(85)を、主空間部(A)側ほど軸部(78)から離れるように斜め方向に向けて設けた苗植付具とした。
【0008】
従って、この苗植付具は、植付爪(31)が苗載台(11)上のマット状の苗から一株分の苗を掻き取り、その苗を苗押出具(32)の苗押出部(80)で圃場へ向けて押し出すことにより、圃場に苗を植え付ける。苗押出具(32)の押出作動で軸部(78)が軸受部材(81)に対して摺動することにより、苗植付具ケ−ス(73a)の主空間部(A)内の潤滑油が軸部(78)と軸受部材(81)の間の隙間をつたってくるが、オイルシール(82)によりこの潤滑油を受け止める。潤滑油が軸部(78)の摺動で前記隙間を逐次つたってオイルシール(82)に供給されても、連通溝(85)により、オイルシール(82)で受け止めた潤滑油を前記主空間部(A)に戻してオイルシール(82)付近の圧力の上昇を防止し、オイルシール(82)を介して潤滑油が外部に洩れ出るのを防止する。しかも、前記連通溝(85)は、主空間部(A)側ほど軸部(78)から離れるように斜め方向に向けて設けたので、主空間部(A)に戻される潤滑油が軸受部材(81)の主空間部(A)側の端から離れた位置に戻される。
【0009】
また、請求項3に係る発明は、苗押出具(32)を作動させる苗押出カム(75)を主空間部(A)内の軸部(78)の後側に配置し、連通溝(85)を、軸受部材(81)の後側で且つ主空間部(A)側ほど広く構成した請求項2に記載の苗植付具とした。
【0010】
従って、この苗植付具は、請求項2に係る苗植付具の作用に加えて、連通溝(85)を軸受部材(81)の後側に配置したので、苗押出カム(75)が配置される後側に潤滑油が戻される。しかも、連通溝(85)は、主空間部(A)側ほど広く構成されているので、潤滑油を円滑に主空間部(A)側へ戻すことができる。
【発明の効果】
【0011】
よって、請求項1に係る発明によると、潤滑油が苗植付具ケ−ス(73a)の外部に洩れ出るのを防止し、潤滑油で苗を植え付ける圃場を汚染したり、苗植付具ケース(73a)内の潤滑油が不足して苗植付具の耐久性が低下したりするようなことを防止できる。更に、連通溝(85)は、締着ボルト(79)がない軸受部材(81)の左右方向側面側又は後側に設けたので、締着ボルト(79)や該締着ボルト(79)を挿入するボルト挿入溝に阻害されることなく、円滑に潤滑油を戻す構成とすることができる。
【0012】
また、請求項2に係る発明によると、潤滑油が苗植付具ケ−ス(73a)の外部に洩れ出るのを防止し、潤滑油で苗を植え付ける圃場を汚染したり、苗植付具ケース(73a)内の潤滑油が不足して苗植付具(73)の耐久性が低下したりするようなことを防止できる。更に、連通溝(85)により潤滑油が軸受部材(81)の主空間部(A)側の端から離れた主空間部(A)内の位置に戻されるので、戻した潤滑油が再度軸部(78)と軸受部材(81)の間の隙間をつたってオイルシール(82)側に供給されるのを抑えることができ、潤滑油が苗植付具ケ−ス(73a)の外部に洩れ出るのを更に防止できる。
【0013】
また、請求項3に係る発明によると、請求項2に係る発明の効果に加えて、連通溝(85)により戻される潤滑油が苗押出カム(75)に供給されやすくなり、苗押出カム(75)の潤滑を促すことができ、苗植付具の作動の適正化による植付精度の向上が図れると共に、苗植付具の耐久性の向上が図れる。更に、連通溝(85)により、潤滑油を円滑に主空間部(A)側へ戻すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の実施の一形態を、以下に説明する。
図1及び図2は、歩行型田植機(1)の全体側面図及び平面図である。この歩行型田植機(1)は、機体の前端部に設けたエンジン(2)と、該エンジン(2)の後側に設けた主伝動ケース(3)と、該主伝動ケース(3)の左右に各々設けた走行支持部材となる走行伝動ケース(4)と、該走行伝動ケース(4)からの動力で駆動する左右各々の走行体となる車輪(5)と、主伝動ケース(3)の後側面から後方に延びる前部フレーム(6)と、前部フレーム(6)の後端に固着され湾曲して斜め後上方に延びる後部フレーム(8)と、後部フレーム(8)の前端部の上面に載置される植付伝動ケース(7)と、前記後部フレーム(8)の後端に取り付けた操縦ハンドル(9)とを備えている。前記植付伝動ケース(7)の下部には複数(4個)の苗植付装置(10)を取り付け、後部フレーム(8)の前側には該フレーム(8)に左右移動可能に支持される苗載台(11)を設けている。従って、この歩行型田植機(1)は、走行しながら圃場に同時に4条分の苗を植え付ける4条植えの構成となっている。尚、前記エンジン(2)、主伝動ケース(3)、走行伝動ケース(4)及び車輪(5)等により走行部(走行車体)が構成され、植付伝動ケース(7)、苗植付装置(10)及び苗載台(11)等により植付部が構成されている。
【0015】
前記植付伝動ケース(7)は、左右中央に位置する中央ケース部(7a)と、左右両側に位置する外側ケース部(7b)とを備えている。中央ケース部(7a)には後述する左右移動軸(29)や中央2条の苗植付装置(10)へ伝動する伝動機構を備え、外側ケース部(7b)には左右各々の最外条の苗植付装置(10)へ伝動する伝動機構を備えており、植付伝動軸(15)からの動力は中央ケース部(7a)に入力され、該中央ケース部(7a)から外側ケース部(7b)に伝動する構成となっている。尚、後部フレーム(8)上に植付伝動ケース(7)が載置された構成となっている。
【0016】
また、機体の下部には圃場面に接触する複数(3個)の接地体となるフロート(12)を設けており、機体の走行により該フロート(12)が圃場面を滑走して整地する。フロート(12)のうち、機体の左右中央のセンターフロート(12a)は左右内側の2条の苗植付装置(10)の植付位置を整地し、機体の左右両外側のサイドフロート(12b)は左右外側の各々1条の苗植付装置(10)の植付位置を整地する。
【0017】
エンジン(2)の出力軸は主伝動ケース(3)内に突入しており、エンジン(2)からの動力が主伝動ケース(3)内に伝達される。主伝動ケース(3)内には、車輪(5)、苗植付装置(10)及び苗載台(11)への全ての伝動を断つことができる主クラッチと、該主クラッチからの動力を車輪(5)への伝動経路と苗植付装置(10)及び苗載台(11)への伝動経路とに分岐する動力分岐部と、前記苗植付装置(10)及び苗載台(11)への伝動経路上において該苗植付装置(10)及び苗載台(11)への伝動を断つことができる植付クラッチと、左右の車輪(5)への伝動を非伝動状態に切り替えできる左右各々のサイドクラッチとを設けている。走行伝動ケース(4)は、前端部を中心に上下に回動可能に設けられ、後端部に位置する車軸(14)を上下に移動させて車輪(5)を上下動させる。また、植付クラッチの伝動により、主伝動ケース(3)から後側に延びる植付伝動軸(15)を介して植付伝動ケース(7)内へ伝動される。
【0018】
主伝動ケース(3)の左側の側部には油圧ポンプを固着し、主伝動ケース(3)の後側に単動式の油圧昇降シリンダ(16)を固着している。この油圧昇降シリンダ(16)は、前後方向に移動する移動部材となるシリンダロッド(17)を後部に備えている。従って、油圧ポンプからの油圧により、シリンダロッド(17)が後方へ移動する。また、油圧昇降シリンダ(16)内の油圧を油圧タンクとなる主伝動ケース(3)内へ戻す状態に切り替えると、機体の自重によりシリンダロッド(17)が前方へ移動する。
【0019】
シリンダロッド(17)の後側の端部には、中継リンク部材(18)を連結している。中継リンク部材(18)の左右端部に左右各々の連結ロッド(20)を連結し、該連結ロッド(20)の前端は走行伝動ケース(4)の上側に固着された左右各々のアーム(21)に連結されている。従って、油圧ポンプからの油圧を油圧昇降シリンダ(16)内へ供給すると、シリンダロッド(17)が後方へ移動し、左右の連結ロッド(20)を後側に引き、左右のアーム(21)を後側に回動させることにより左右の走行伝動ケース(4)が下側に回動し、左右の車輪(5)が下動して圃場に対して機体が上昇する。逆に、油圧昇降シリンダ(16)内の油圧を主伝動ケース(3)内へ戻すと、左右の車輪(5)の接地荷重により左右のアーム(21)、左右の連結ロッド(20)及び中継リンク部材(18)等を介してシリンダロッド(17)が前方へ戻され、左右の車輪(5)が上動して圃場に対して機体が下降する。
【0020】
苗植付装置(10)及び苗載台(11)は、植付伝動ケース(7)からの動力で作動する。苗載台(11)は、植付伝動ケース(7)の左右に突出して左右移動する左右移動軸(29)の左右両端から左右各々の連結部材(30)を介して支持され、苗受板(27)に沿って左右往復移動し、苗受板(27)に設けた各条の苗取口(28)に一株分ずつ苗を供給する。尚、苗載台(11)の上部には左右移動用レール(34)を固着して設けており、該左右移動用レール(34)が後部フレーム(8)の上部から支持される支持ローラ(33)に案内されて左右移動可能に支持されている。従って、苗載台(11)は、下部で苗受板(27)に左右移動可能に支持され、上部で支持ローラ(33)に左右移動可能に支持され、植付伝動ケース(7)からの動力で左右移動軸(29)を介して左右に往復移動する構成となっている。また、苗載台(11)には、左右移動端で苗取口(28)側(下側)に苗を移送する各条の苗送りベルト(35)を備えている。この苗送りベルト(35)は、植付伝動ケース(7)からの動力で作動し、苗載台(11)の左右移動端でマット苗を一株分移送して苗を苗取口(28)へ供給する。
【0021】
苗植付装置(10)は、植付伝動ケース(7)の下部に取り付けられ、該植付伝動ケース(7)から突出して出力され機体の走行に連動して回動する苗植付装置駆動軸(70)の駆動により回転駆動する回転アーム(71)の先端と、植付伝動ケース(7)の下部に取り付けられた揺動自在の揺動リンク(72)の先端とに、苗植付具(73)を連結したクランク式の構成となっている。該苗植付具(73)は、苗を取って保持する植付爪(31)と、該植付爪(31)が保持する苗を押し出す苗押出具(32)とを備える。従って、この苗植付装置(10)は、回転アーム(71)の駆動により苗植付具(73)が上下に長いループ軌跡を描きながら、植付爪(31)が苗取口(28)上の苗を掻き取り、掻き取った苗を苗押出具(32)が圃場面に向かって押し出して圃場に苗を植え付ける。苗押出具(32)は、基部が苗植付具(73)の苗植付具ケース(73a)内に挿入され、苗植付具ケース(73a)の主空間部(A)内で苗の押出作用側に苗押出スプリング(74)により付勢されると共に、苗植付具(73)に対して回動する苗押出カム(75)の回動により揺動軸(76a)回りに揺動する苗押出ア−ム(76)を揺動させ該ア−ム(76)先端に連繋して、苗植付具ケ−ス(73a)に対して摺動して押出作動するようになっている。尚、苗押出ア−ム(76)の前部に苗押出具(32)を連繋させ、苗押出ア−ム(76)の後部に苗押出カム(75)が接触する構成となっている。尚、苗押出具(32)と苗押出ア−ム(76)との連繋部となる苗押出具(32)の上端部(77)は、苗押出アーム(76)に連繋させるために、後述する丸軸部(78)より外径が大きくなっている。また、前記苗押出スプリング(74)は、苗押出ア−ム(76)に接触して作用する。尚、前記苗押出カム(75)は回転アーム(71)に対して回動しないように設けられ、回転アーム(71)の一回転につき苗押出カム(75)が苗植付具(73)に対して一回転する構成となっている。
【0022】
植付爪(31)は、先端部となる両端が針状に尖った棒材を屈曲して構成され、先端部から基部側に向かって延びる切欠き部と、前記先端部に設けた左右2本の分離針(31a)と、先端部とは反対の基部側の左右の棒材の間に締着ボルト(79)を挿入するためのボルト挿入溝を備える。従って、植付爪(31)は、ボルト挿入溝に通す締着ボルト(79)により苗植付具ケ−ス(73a)の前面側に取り付けられる。
【0023】
苗押出具(32)は、押出作動により前記苗植付具ケ−ス(73a)に対して摺動する軸部となる丸軸部(78)と該丸軸部(78)の先端に固着された苗押出部(80)とを備えて構成される。尚、苗植付具ケ−ス(73a)内において、前記丸軸部(78)が苗植付具ケ−ス(73a)に内装される筒状の軸受部材となるブッシュ(81)に摺動可能に支持され、丸軸部(78)の外周面がブッシュ(81)の内周面に接触している。前記苗押出部(80)には左右の苗押出プレ−ト(80a)を設け、該苗押出プレ−ト(80a)の前端部が植付爪(31)が保持した苗の苗床に当接して植付爪(31)が保持した苗を押し出すようになっている。尚、左右の前記苗押出プレ−ト(80a)は、左右の分離針(31a)の後側近くに配置されている。
【0024】
ブッシュ(81)の下側には丸軸部(78)の外周面に接触するオイルシール(82)を設け、該オイルシール(82)により苗押出具(32)の作動で苗植付具ケ−ス(73a)内の主空間部(A)内に収容した潤滑油(液状のオイル又はグリス)が外部に洩れないようにしている。ブッシュ(81)の上側には、丸軸部(78)の外周面で摺動自在なクッションゴム(83)を設けている。オイルシール(82)とブッシュ(81)の間には空洞部(84)を設け、丸軸部(78)の摺動並びに苗押出具(32)の上端部(77)の往復移動で該丸軸部(78)とブッシュ(81)との間の隙間をつたってくる潤滑油が空洞部(84)に供給されるようになっている。該空洞部(84)は、ブッシュ(81)の下端部の外周位置にわたる構成となっている。ブッシュ(81)の左右2箇所には、ブッシュ(81)の下端部の外周位置から上側の苗植付具ケ−ス(73a)内の主空間部(A)にわたる連通溝(85)をブッシュ(81)の外面に沿って左右それぞれ設けている。この連通溝(85)により、丸軸部(78)の摺動で空洞部(84)に潤滑油が供給されても、空洞部(84)内の圧力が上昇せずに空洞部(84)内の潤滑油を苗植付具ケ−ス(73a)内の空間に戻す作用が生じ、空洞部(84)内からオイルシール(82)を介して潤滑油が外部に洩れ出るのを防止している。
【0025】
以上により、この苗植付装置(10)は、回転アーム(71)の回転により、上下方向のル−プ軌跡で旋回して、植付爪(31)により苗載台(11)の下部の苗取口(28)から一株分の苗を掻き取ってその掻き取った苗を圃場面に移送し、苗押出具(32)の押出作動により圃場に苗を植え付ける。一株分の苗を掻き取るとき、苗床から上方に延びる苗の葉が植付爪(31)の切欠き部に入ると共に苗植付具(73)に一株分の苗床が保持され、圃場面に移送する苗の苗床が分離しないように確実に苗床を保持する。また、苗植付具(73)に保持された苗は、苗押出具(32)の苗押出プレ−ト(80a)の押出作動により確実に圃場に植え付けられる。
【0026】
そして、苗押出具(32)の押出作動で軸部がブッシュ(81)に対して摺動することにより、苗植付具ケ−ス(73a)の主空間部(A)内の潤滑油が丸軸部(78)とブッシュ(81)の間の隙間をつたってくるが、オイルシール(82)によりこの潤滑油を受け止めて空洞部(84)内に収容する。潤滑油が丸軸部(78)の摺動で前記隙間を逐次つたって空洞部(84)に供給されても、連通溝(85)により空洞部(84)内の潤滑油を前記主空間部(A)に戻して空洞部(84)内の圧力の上昇を防止し、空洞部(84)内からオイルシール(82)を介して潤滑油が外部に洩れ出るのを防止し、潤滑油で苗を植え付ける圃場を汚染したり、苗植付具ケース(73a)内の潤滑油が不足して苗植付具(73)の耐久性が低下したりするようなことを防止できる。更に、連通溝(85)は、締着ボルト(79)がないブッシュ(81)の左右方向側面側に設けたので、締着ボルト(79)や該締着ボルト(79)を挿入するボルト挿入溝に阻害されることなく、円滑に潤滑油を戻す構成とすることができる。
【0027】
操縦ハンドル(9)の前側で且つ苗載台(11)の後側には、主クラッチを操作して車輪(5)、苗植付装置(10)及び苗載台(11)への伝動を断つことができる主クラッチレバー(36)と、植付クラッチを操作して苗植付装置(10)及び苗載台(11)への伝動を断ったり油圧昇降シリンダ(16)を作動させたりする植付昇降レバー(37)とを設けている。また、センターフロート(12a)の上下動で該センターフロート(12a)の前部に連結されるロッドを介して油圧バルブユニットの油路を切り替える構成となっており、センターフロート(12a)の前部が上動すると油圧昇降シリンダ(16)内へ油圧を供給して左右の車輪(5)を下動させる構成となっている。従って、通常の植付作業時は、センターフロート(12a)が圃場面に接地して上下動することにより該センターフロート(12a)が所望の前後姿勢になるよう左右の車輪(5)が上下動し、機体が所定の対地高さとなるよう昇降制御される構成となっている。
【0028】
操縦ハンドル(9)及び苗載台(11)の前側には、走行速度を変速操作するための変速レバー(38)と、エンジン(2)を始動するためのリコイルノブ(39)とを設けている。尚、機体の前端部にあるエンジン(2)とリコイルノブ(39)とは、リコイルロープ(40)により連結されている。操縦ハンドル(9)の左右のハンドルグリップ(9a)の下方には左右各々のサイドクラッチレバー(41)を設けており、該サイドクラッチレバー(41)により左右各々のサイドクラッチを操作する構成となっている。操縦ハンドル(9)の斜め前下側で後部フレーム(8)の左側には、植付深さ調節レバー(42)を設けている。操縦ハンドル(9)の斜め前下側で後部フレーム(8)の右側には、苗取量調節レバー(65)を設けており、該苗取量調節レバー(65)の操作により苗受板(27)の苗植付装置(10)に対する上下位置を変更して、苗植付装置(10)による一株当たりの苗取り量を変更して調節できる構成となっている。
【0029】
エンジン(2)及び主伝動ケース(3)の上方には、ボンネットカバー(43)を設けている。また、エンジン(2)の上方には、燃料タンク(44)を設けている。
ボンネットカバー(43)の後部の上方から植付伝動ケース(7)の前部の上方にわたる位置には、予備の苗を載せる予備苗載台(45)を設けている。この予備苗載台(45)は、棒材を組み合わせた枠体で構成され、前部フレーム(6)から上方に延びる予備苗載台支持フレーム(46)に支持されている。予備苗載台(45)の前後左右の四方には立ち上がり部(47、48)を設けており、該立ち上がり部(47、48)により搭載した苗が脱落しないようにしている。
【0030】
機体の前部には、機体の前方の障害物からエンジン(2)、主伝動ケース(3)及びボンネットカバー(43)等を防護する防護フレーム(51)を設けている。この防護フレーム(51)は、主伝動ケース(3)の左右側面から左右外側に延びる左右各々の取付部(51a)と、この左右の取付部(51a)を連結する機体外縁となる防護部(51b)とを備えている。機体をトラックの荷台に積み込んで固定するときには、前記防護部(51b)の左右中央部分の左右両端に各々ロープを掛けると共に、後部フレーム(8)の上部に固着したフック(52)にロープを掛け、機体の3箇所を固定して荷台にしっかりと固定するようになっている。
【0031】
上述の苗植付装置(10)の苗植付具(73)はブッシュ(81)の左右側面側の2箇所に連通溝(85)を設けた構成としたが、図7乃至図10に示すようにブッシュ(81)の後側に1箇所のみの連通溝(85)を設けたり、図11及び図12に示すようにブッシュ(81)の外周に120度おきに計3本の連通溝(85)を設けたりしてもよい。
【0032】
また、図13及び図14に示すように、連通溝(85)を、ブッシュ(81)の外周面から離し、主空間部(A)側ほど丸軸部(78)から離れるように斜め方向に向けて設けてもよい。これにより、主空間部(A)に戻される潤滑油が軸受部材(81)の主空間部(A)側の端から離れた位置に戻され、戻した潤滑油が再度軸部(78)と軸受部材(81)の間の隙間をつたって空洞部(84)側に供給されるのを抑えることができ、潤滑油が苗植付具ケ−ス(73a)の外部に洩れ出るのを更に防止できる。しかも、この連通溝(85)の主空間部(A)側の端部となる潤滑油の出口は、苗押出具(32)の上端部(77)及びクッションゴム(83)より丸軸部(78)から離れた位置に配置されているので、苗押出具(32)の作動による前記上端部(77)及びクッションゴム(83)の作動で主空間部(A)側にある潤滑油が連通溝(85)へ供給されて、潤滑油が連通溝(85)を逆流するようなことを防止できる。更に、連通溝(85)の主空間部(A)側の端部となる潤滑油の出口は、ブッシュ(81)の主空間部(A)側の端部より主空間部(A)の中央部側(苗押出ア−ム(76)側)に位置しているので、戻した潤滑油が再度軸部(78)と軸受部材(81)の間の隙間に供給されるのを抑えることができる。
【0033】
また、図15乃至図18に示すように、苗植付具ケ−ス(73a)の下部の後側に設けたリブ(88)内に連通溝(85)を形成し、該連通溝(85)を主空間部(A)側ほど丸軸部(78)から離れるように斜め方向に向けて設けると共に、該連通溝(85)をブッシュ(81)の後側で且つ主空間部(A)側ほど広く構成してもよい。この連通溝(85)は、所定の厚みを有するリブ(88)に形成するため、苗植付具ケ−ス(73a)を鋳造する際に形成することができる。この連通溝(85)により戻される潤滑油が苗押出カム(75)に供給されやすくなり、苗押出カム(75)の潤滑を促すことができ、苗植付具の作動の適正化による植付精度の向上が図れると共に、苗植付具の耐久性の向上が図れる。更に、主空間部(A)側ほど広く構成された連通溝(85)により、潤滑油を円滑に主空間部(A)側へ戻すことができる。
【0034】
また、図19及び図20に示すように、ロータリー式の苗植付装置(10)の苗植付具(73)に連通溝(85)を設けてもよい。このロータリー式の苗植付装置(10)は、回転駆動する回転ケ−ス(86)と該回転ケ−ス(86)の両端部にそれぞれ装着された苗植付具(73)を備えて構成され、該苗植付具(73)が苗取口(28)上の苗を掻き取り、掻き取った苗を圃場に植え付けていくようになっている。すなわち、前記回転ケ−ス(86)が該苗植付装置駆動軸(70)と一体回転するように取り付けられると共に、回転ケ−ス(86)内の太陽ギヤが機体に対して回転しないように設けられ、回転ケ−ス(86)の回動により該太陽ギヤと噛み合う中間ギヤを前記太陽ギヤ回りに回動させ、前記中間ギヤの駆動により該中間ギヤと噛み合う最終ギヤを回動させる遊星歯車機構を介して、前記最終ギヤと一体回転する最終ギヤ回動軸(87)により前記苗植付具(73)を一体回転させ、前記回転ケ−ス(86)の回動位置に対して前記苗植付具(73)の前後傾斜姿勢が決定される。尚、前記苗植付具(73)が最終ギヤと一体回転するようになっている。また、前記中間ギヤ及び前記最終ギヤは、前記太陽ギヤに対して対称位置に一対ずつ設けられてそれぞれの苗植付具(73)の前後傾斜姿勢を決定するようになっている。また、前記太陽ギヤと前記中間ギヤと前記最終ギヤとは非円形の偏心ギヤであると共にそれぞれ同じ歯数であり、回転ケ−ス(86)の一回転につき前記中間ギヤ及び前記最終ギヤが回動角速度を変えながらそれぞれ一回転する。従って、回転ケ−ス(86)が一回転する間に、苗植付具(73)が回転ケ−ス(86)の回動とは逆方向に該回転ケ−ス(86)に対して一回転するようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】歩行型田植機を示す側面図
【図2】歩行型田植機を示す平面図
【図3】苗植付具を示す断面側面図
【図4】図3のS1−S1断面図
【図5】図3のS2−S2断面図
【図6】図3のS3−S3断面図
【図7】他の苗植付具を示す断面側面図
【図8】図7のS4−S4断面図
【図9】図7のS5−S5断面図
【図10】図7のS6−S6断面図
【図11】他の苗植付具を示す断面図
【図12】他の苗植付具を示す断面図
【図13】他の苗植付具を示す断面側面図
【図14】図13のS7−S7断面図
【図15】他の苗植付具を示す断面側面図
【図16】クッションゴムを省略した図15のS8−S8断面図
【図17】図15のS9−S9断面図
【図18】図15のS10−S10断面図
【図19】ロータリー式の苗植付装置を示す一部断面側面図
【図20】ロータリー式の苗植付装置の苗植付具を示す断面側面図
【符号の説明】
【0036】
11:苗載台、31:植付爪、32:苗押出具、73:苗植付具、73a:苗植付具ケ−ス、78:丸軸部、80:苗押出部、81:ブッシュ、82:オイルシール、85:連通溝、A:主空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
苗載台(11)上のマット状の苗から一株分の苗を掻き取る植付爪(31)と、該植付爪(31)が掻き取った苗を押し出す苗押出具(32)と、内部の主空間部(A)に潤滑油を有する苗植付具ケ−ス(73a)を備え、苗植付具ケ−ス(73a)の前面に締着ボルト(79)により前記植付爪(31)を固着した苗植付具において、苗押出具(32)は、押出作動により苗植付具ケ−ス(73a)内の軸受部材(81)に摺動する軸部(78)と、苗植付具ケ−ス(73a)の外部で該軸部(78)の先端に固着された苗押出部(80)を備え、軸受部材(81)の下側には軸部(78)の外周面に接触するオイルシール(82)を設け、該オイルシール(82)から前記主空間部(A)にわたる連通溝(85)を、軸受部材(81)の左右方向側面側又は後側に設けた苗植付具。
【請求項2】
苗載台(11)上のマット状の苗から一株分の苗を掻き取る植付爪(31)と、該植付爪(31)が掻き取った苗を押し出す苗押出具(32)と、内部の主空間部(A)に潤滑油を有する苗植付具ケ−ス(73a)を備えた苗植付具において、苗押出具(32)は、押出作動により苗植付具ケ−ス(73a)内の軸受部材(81)に摺動する軸部(78)と、苗植付具ケ−ス(73a)の外部で該軸部(78)の先端に固着された苗押出部(80)を備え、軸受部材(81)の下側には軸部(78)の外周面に接触するオイルシール(82)を設け、該オイルシール(82)から前記主空間部(A)にわたる連通溝(85)を、主空間部(A)側ほど軸部(78)から離れるように斜め方向に向けて設けた苗植付具。
【請求項3】
苗押出具(32)を作動させる苗押出カム(75)を主空間部(A)内の軸部(78)の後側に配置し、連通溝(85)を、軸受部材(81)の後側で且つ主空間部(A)側ほど広く構成した請求項2に記載の苗植付具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−219369(P2009−219369A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64343(P2008−64343)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】