説明

荷役機械、荷役機械の運転方法

【課題】バランスモードで荷役物が勝手に上下移動しない技術を提供する。
【解決手段】制御回路21が圧力制御装置25に設定信号を出力し、エアーシリンダ24内の圧力は圧力センサ15によって測定されて測定信号として制御回路21に入力されている。本発明の荷役機械11では、予め設定信号と測定信号の関係を実測しておき、制御回路21は入力された測定信号を記憶内容の関係から設定信号に変換し、圧力制御装置25に出力しており、その結果、測定された負荷バランス圧と等しい圧力を圧力制御装置25から出力することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷役機械及びその運転方法の技術分野にかかり、特に、荷役物を空中で確実に静止させることができる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
工場の生産ラインあるいは倉庫などでは、比較的重量のある機材の脱着作業に伴う搬送、半製品ワークの次工程への搬送、また出荷製品の運搬など多種多様な搬送が行われている。
こうした各種負荷の搬送作業では、労力軽減化と安全化を図り、かつ小回りが利き機動性と簡便さを備えた荷役機械が使用されている。
【0003】
図7は、従来技術の荷役装置111及び本発明の荷役機械11の外観図である。
この荷役機械111の基本構造は、台車(又は底面)112から支柱113が垂直に立ち上げられており、この支柱113の上端114には、アーム115が取りつけられている。
【0004】
アーム115は、首振り動と旋回が可能に構成されている。アーム115の先端部は荷役物119を吊り上げる吊上部116となっていて、荷役物のクランプ機構117が装備されている。
【0005】
荷役機械111には、荷役物119を持ち上げるクレーンモードと、クランプ機構117が荷役物をクランプした状態で、作業者が荷役物119を直接把持して無重力感覚で自在に移動・移載できるバランスモードという二種類の制御モードがある。
【0006】
図4は、従来の荷役機械の回路ブロック図である。
クレーンモードにおいて、操作ボックス130の上昇ボタン131、又は下降ボタン132が押下されると制御回路121はそれを検出し、制御回路121の出力ポートdをONにし、エアーシリンダ124を第一の方向切換弁122に接続させる。
【0007】
ここで、押下されたのが上昇ボタン131であった場合は、制御回路121は、出力ポートbもONにし、第一の方向切換弁122によって、第二の方向切換弁123を、エアー源135に接続された第一の流量制御弁136に接続させる。
【0008】
これらにより、エアー源135からエアーシリンダ124に至るまで、「エアー源135→第一の流量制御弁136→第一の方向切換弁122→第二の方向切換弁123→エアーシリンダへ124」の順序のエアー経路が形成される。
このエアー経路により、エアー源135で生成されるエアーがエアーシリンダ124に供給され、内部の圧力が上昇してアーム115が上方向に移動する。
【0009】
押下されたのが下降ボタン132であった場合は、制御回路121は、出力ポートbではなく出力ポートaをONにし、第一の方向切換弁122によって、第二の方向切換弁123を、消音器139に接続された第二の流量制御弁137に接続する。
【0010】
これらにより、エアーシリンダ124から消音器139に至るまで、「エアーシリンダ124→第二の方向切換弁123→第一の方向切換弁122→第二の流量制御弁137→消音器139」の順序のエアー経路が形成され、エアーシリンダ124内部のエアーは消音器139を通って大気に排気され、エアーシリンダ124内部の圧力が低下し、荷役機械111のアーム115は下降する。
【0011】
次にバランス制御モードにおける動作について説明する。バランス制御モードに切り換える場合は、荷役機械111の操作者は荷役機械111のクランプ機構(荷役物把持機構)117に荷役物119をクランプさせた後、先ず、前記上昇ボタン131を押下し、荷役物119をアーム115によって吊り上げ、地上から浮かした状態(地切り状態)にする。
【0012】
この地切りされた状態では、出力ポートcはOFFであり、圧力制御装置125の設定圧入力ポートpには、地切りされた状態におけるエアーシリンダ124の内部のエアー圧力が、第三の方向切換弁126を介して入力されている。
【0013】
地切り後、荷役物119が上下方向に静止している状態で操作ボックス130のバランスモード設定ボタン133が押下されると、荷役機械111の制御回路121は、同ボタンの押下を検出し、出力ポートcをONにする。
【0014】
出力ポートcのONにより、第三の方向切換弁126はエアーシリンダ124と圧力制御装置127の間のエアー経路を遮断する。その結果、圧力制御装置125の設定入力ポートpには、バランスモード設定ボタン133が押下されたときのエアーシリンダ124の圧力が、負荷バランス圧として保持される。
【0015】
次いで、制御回路121の出力ポートdがONされると、第二の方向切換弁123が、圧力制御装置125の出力圧ポートqをエアーシリンダ124に接続するように切り替わり、圧力制御装置125とエアーシリンダ124間にエアー経路が形成される。
【0016】
圧力制御装置125は、その内部に、出力圧ポートqの圧力を測定する内部センサと、エアー源135と消音器138とによって、出力圧ポートqに対して給排気を行う内部給排気弁を有しており、エアー源135のエアーをエアーシリンダ124に給気し、又は、エアーシリンダ124内部のエアーを消音器138を介して大気に排気することで、圧力制御装置125は、内部センサが測定した出力圧ポートqの圧力が、入力圧ポートpによって設定された圧力と等しくなるように動作する。その結果、エアーシリンダ124の内部は、荷役物が上下方向に静止しているときの圧力、即ち、負荷バランス圧に維持される。
【0017】
この状態でクランプされた荷役物119を移動させるとエアーシリンダ124の内部圧力は変動するが、圧力制御装置125がその変動を打ち消すように動作するため、移動の際の抵抗は圧力制御装置125によって打ち消され、その結果、荷役物119を直接手で持って自由に動かすことが可能になる。
【特許文献1】特開平11−147699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
圧力制御装置125の入力圧ポートpの圧力に対する出力圧ポートqの比(=出力圧ポートq/入力圧ポートpの圧力)、即ち、圧力制御装置125の圧力ゲインは理想的には“1”であり、その場合には、入力圧ポートpに設定された圧力と、エアーシリンダ124の内部の圧力とは等しくなる。
【0019】
しかし、実際には圧力ゲインは“1”にはならないため、バランスモードに移行した場合に、入力圧ポートpには負荷バランス圧が設定されていても、エアーシリンダ124の内部は、その圧力からずれてしまう。
【0020】
図5は、圧力制御装置125の入出力特性の一例を示すグラフであり、横軸は入力圧ポートpの圧力、縦軸は出力圧ポートqの圧力である。
【0021】
この例では、低圧側では圧力ゲインは“1”よりも小さく、高圧側では“1”よりも大きい。荷役物119の重量が軽い場合は負荷バランス圧は低圧側にあるため、エアーシリンダ124の内部は負荷バランス圧よりも低い圧力になってしまう。荷役物119の重量が重い場合は負荷バランス圧は高圧側にあるから、エアーシリンダ124の内部は負荷バランス圧よりも高い圧力になってしまう。
このため、荷役物119は下方に移動したり、上方に移動したりして上下方向に静止できない。
【0022】
このような状態にならないようにするため、通常、圧力制御装置125には、出力エアー圧の調整機能を有する圧力調整ボリューム127が装備されており、出力圧ポートqの圧力を一定量増減できるように構成されている。
【0023】
図5の入出力特性の場合、圧力調整ボリューム127を使用し、図6(a)のように入出力特性をΔp1だけ増大方向にシフトさせれば、低圧側の圧力P1で圧力ゲインを“1”にでき、同図(b)のように入出力特性をΔp2だけ減少方向にシフトさせれば、高圧側の圧力P2で圧力ゲインを“1”にできる。
【0024】
しかし、入出力特性の傾きは変えることができないため、低圧側で圧力ゲインを“1”にした場合には、高圧側で“1”から大きく外れ、高圧側で圧力ゲインを“1”にした場合には、低圧側で“1”から大きく外れてしまう。
このような場合、荷役物119の静止状態を保つことができなくなり、荷役物119に何等操作力を加えなくても上方又は下方に移動してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するため、本発明は上記のように構成されており、荷役物を持ち上げるアームと、前記アームに取りつけられたエアーシリンダと、前記エアーシリンダに接続され、前記エアーシリンダ内の気体を給排気し、前記エアーシリンダ内を入力された設定信号に応じた圧力にする圧力制御装置と、前記圧力制御装置に前記設定信号を出力する制御回路とを有し、前記エアーシリンダ内の圧力が、前記圧力制御装置によって前記荷役物の重量に応じた負荷バランス圧に設定されると、前記エアーシリンダ内の圧力によって生成され、前記アームを介して前記荷役物に加えられる上昇力と、前記荷役物の重量によって生じる下降力とが釣り合い、前記荷役物が上下方向に静止し、前記荷役物に操作力を加えると前記荷役物を所望方向に移動できるように構成された荷役機械であって、前記エアーシリンダ内の圧力を測定し、測定結果を測定信号として前記制御回路に出力する圧力センサと、前記制御回路に接続された記憶装置とを有し、前記記憶装置には、前記設定信号の値と、前記設定信号が前記圧力制御装置に入力されたときの前記測定信号の値とが対応付けて記憶され、前記制御回路は、前記圧力センサから入力された前記測定信号を前記記憶装置内の対応付けから前記設定信号に変換し、前記圧力制御装置に出力するように構成された荷役機械でる。
また、本発明は、測定開始ボタンを有し、前記測定開始ボタンが押下されると、前記設定信号の値と前記測定信号の値とが前記記憶装置に対応付けて記憶されるように構成された荷役機械である。
また、本発明は、バランスモード設定ボタンを有し、前記バランスモード設定ボタンが押下されたときの前記エアーシリンダ内の圧力の測定結果を示す前記測定信号を、前記記憶装置内の対応付けから前記設定信号に変換し、前記圧力制御装置に出力し、前記圧力制御装置に、前記バランスモード設定ボタンが押下されたときの前記エアーシリンダ内の圧力を維持させるように構成された荷役機械である。
また、本発明は、荷役物を持ち上げるアームと、前記アームに取りつけられたエアーシリンダと、前記エアーシリンダに接続され、前記エアーシリンダ内の気体を給排気し、前記エアーシリンダ内を入力された設定信号に応じた圧力にする圧力制御装置と、前記圧力制御装置に前記設定信号を出力する制御回路とを有し、前記エアーシリンダ内の圧力が、前記圧力制御装置によって前記荷役物の重量に応じた負荷バランス圧に設定されると、前記エアーシリンダ内の圧力によって生成され、前記アームを介して前記荷役物に加えられる上昇力と、前記荷役物の重量によって生じる下降力とが釣り合い、前記荷役物が上下方向に静止し、前記荷役物に操作力を加えると前記荷役物を所望方向に移動できるように構成された荷役機械を運転する荷役機械の運転方法であって、予め、前記設定信号の値と、前記設定信号が前記圧力制御装置に入力されたときの前記測定信号の値とを対応付けておき、運転の際に、前記対応付けから前記圧力センサから入力された前記測定信号を前記設定信号に変換し、前記圧力制御装置に出力する荷役機械の運転方法である。
【0026】
本発明は上記のように構成されており、エアーシリンダ内の圧力が、荷役物が上下方向に静止する負荷バランス圧になっているときに、制御回路に入力される、エアーシリンダ内の圧力の測定結果を示す測定信号の値を、予め測定された設定信号と測定信号の相関関係に基いて設定信号に変換しており、これにより、圧力制御装置から前記負荷バランス圧が出力されるようになる。
【発明の効果】
【0027】
バランスモード移行後、エアーシリンダ内の圧力を正確に負荷バランス圧に設定できるので、荷役物が勝手に上下方向に移動することが無くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は、本発明の荷役機械11の回路ブロック図であり、その外観は図7に示した通りであり、台車(又は底面)112から支柱113が垂直に立ち上げられている。支柱113の上端114にはアーム115が首振り動と旋回動が可能に取りつけられている。また、アーム115の先端側は根本側に対して回転可能に取りつけられており、これらによって荷役機械11の機構部112〜115が構成されている。
【0029】
アーム115の一端部は荷役物119を吊り上げる吊上部116となっており、吊上部116の下端には荷役物のクランプ機構117が装備されている。
アーム115の反対側の部分はエアーシリンダ24のピストンに取りつけられている。
荷役機械11の外部にはエアー源35が配置されている。
【0030】
制御回路21には操作ボックス30が接続されており、エアーシリンダ24内の給排気を操作ボックスで制御できるように構成されている。
操作ボックス30内には、上昇ボタン31と、下降ボタン32と、バランスモード設定ボタン33と、測定開始ボタン34とが設けられている。
【0031】
第一、第二の方向切換弁23は制御回路21によって制御されており、上昇ボタン31が押下されると制御回路21はそれを検出し、第一、第二の方向切換弁22、23によって、エアーシリンダ24を、第一の方向切換弁22を介してエアー源35に接続し、エアー源35から、第一の流量制御弁36によって流量制御した状態でエアーシリンダ24にエアーを供給する。これにより、エアーシリンダ24の内部圧力が上昇してピストンは下方に移動し、その反対に、アーム115は上方に回動し、これにより、荷役物119を上方に移動させることができる。
【0032】
下降ボタン32が押下されると第一、第二の方向切換弁22、23によって、エアーシリンダ24を、第二の流量制御弁37を介して消音器39に接続し、エアーシリンダ24内のエアーを、第二の流量制御弁37によって流量制御し、消音器39によって消音した状態で大気に排気する。この場合はエアーシリンダ24内の圧力が低下してピストンが上方に移動し、アーム115はその反対に下方に回動し、これにより、荷役物119を下方に移動させることができる。
【0033】
他方、バランスモード設定ボタン33や測定開始ボタン34が押下された場合、エアーシリンダ24は、第二の方向切換弁23によって圧力制御装置25に接続される。
【0034】
圧力制御装置25は、第二の方向切換弁23を介してエアーシリンダ24に接続される出力圧ポートqと、制御回路21が出力する圧力を示す設定信号が、D/A変換器19によってアナログ信号に変換されて入力される入力端子rとを有している。
【0035】
圧力制御装置25の入力側は、エアー源35と消音器38に接続されている。圧力制御装置25には、給排気弁が設けられており、給排気弁が給気側に設定されると出力圧ポートqはエアー源35に接続され、排気側に設定されると消音器38に接続されるように構成されている。
【0036】
また、圧力制御装置25には、出力圧ポートqの圧力を測定する不図示の内部センサが設けられており、圧力制御装置25は、出力圧ポートqの圧力が、入力端子rに入力された設定信号が示す圧力よりも不足している場合にはエアー源35と出力圧ポートqの間を接続し、他方、出力圧ポートqの圧力が入力圧ポートrに入力された設定信号が示す圧力よりも大きい場合は出力圧ポートqを、消音器38を介して大気に接続するように構成されており、その結果、給排気弁は、内部センサの測定値が、入力端子rに入力された設定信号が示す圧力と一致するように制御される。
【0037】
従って、圧力制御装置25は、出力圧ポートqの圧力を、入力端子rに入力された設定信号が示す圧力にするように動作する。出力圧ポートqがエアーシリンダ24に接続されている状態では、出力圧ポートqの圧力とエアーシリンダ24の圧力は等しいから、圧力制御装置25は、エアーシリンダ24の圧力を入力端子rに入力された設定信号が示す圧力にするように動作している。
【0038】
<測定モード>
荷役物119を実際に搬送する前に、入出力特性の測定を行うため、測定開始ボタン34が押下される。これにより、制御回路21は第二の方向切換弁23を操作し、エアー源35を圧力制御装置25を介してエアーシリンダ24に接続する。このとき、第一の方向切換弁22はエアーシリンダ24から切り離されている。
【0039】
エアーシリンダ24には圧力センサ15が接続され、エアーシリンダ24の内部圧力は圧力センサ15で測定されており、測定結果は、A/D変換器18を介してディジタル値に変換され、測定信号として制御回路21に入力されている。
【0040】
上述したように、制御回路21は、出力圧ポートqの圧力、即ち、エアーシリンダ24内の圧力を指示する設定信号を出力するから、エアーシリンダ24内の圧力に対応する信号には、設定信号と測定信号の二種類の信号があり、示す圧力が異なれば、設定信号や測定信号は異なる値になる。
【0041】
この荷役機械11では、制御回路21に記憶回路16が接続されている。
記憶回路16内には、当該荷役機械11のエアーシリンダ24に許容される圧力の下限に対応する設定信号Pr1と、上限に対応する値の設定信号Prnが記憶されており、更に、圧力の上限と下限の間の範囲に含まれる複数の圧力の大きさに対応した設定信号Pr2〜Prn-1が記憶されている(設定信号Pr1〜Prnや、後述する測定信号Ps1〜Psnはディジタル値として記憶されている)。
測定モードでは、制御回路21は記憶回路16内に記憶された設定信号Pr1〜Prnを読み込み、圧力制御装置25の入力端子に順番に出力する。
【0042】
ここで、記憶された設定信号Pr1〜Prnのうち、符号Prmで示す一個の設定信号が、D/A変換器19を介して圧力制御装置25の入力端子rに出力されたものとすると、圧力制御装置25は、内部給排気弁を制御し、出力圧ポートqの圧力、即ちエアーシリンダ24の圧力を、入力端子rに入力されたアナログの設定信号Prmが示す圧力にするように動作する。
【0043】
その動作によってエアーシリンダ24内の圧力が変化し、アーム115は動いてしまうが、エアーシリンダ24内の圧力値が変動している間は、圧力センサ15の測定値を無視し、圧力変動が無くなってからエアーシリンダ24内の圧力を測定するようにする。例えば、アーム115が上限まで上昇した状態になったり、又は接地した状態になり、圧力変動が無くなるまでサンプリングを待つことができる。
【0044】
この場合待機時間が長くなってしまうので、測定モードでは、アーム115は動かないように固定し、圧力制御装置25によってエアーシリンダ24内の圧力が変化してもアーム115を静止させるのが望ましい。
【0045】
エアーシリンダ24内の圧力は、圧力センサ15で測定され、圧力センサ15が出力したアナログの測定信号は、A/D変換器18によってディジタル信号に変換され、制御回路21にディジタル値の測定信号Psmとして入力され、予め設定されたディジタル値の設定信号Prmとそれに対応するディジタル値の測定信号Psmは、記憶装置16内に対応付けて記憶される。
【0046】
設定信号の値と測定信号の値が等しければ、設定信号と測定信号は同一大きさの圧力を示しているものとし、D/A変換器19とA/D変換器18に変換誤差が無く、圧力制御装置25の圧力ゲイン(出力圧ポートqの圧力/入力端子rに入力される信号が示す圧力)が“1”である場合は、制御回路21が出力した設定信号Prmと、A/D変換器18を介して制御回路21に入力される測定信号Psmは等しく、Prm=Psmとなる。
しかしながら、実際にはD/A変換やA/D変換の誤差が存在したり、圧力ゲインが“1”でないことから、設定信号Prmと測定信号Psmは等しくならない。
【0047】
測定モードでは、制御回路21は、記憶回路16内に設定された設定信号Pr1〜Prnを順番に出力し(順番でなくてもよい)、それらの信号が出力されたときのエアーシリンダ24内の圧力を圧力センサ15によって測定し、ディジタル値の測定信号Ps1〜Psnとして制御回路21に入力させ、それらの測定信号Ps1〜Psnを、測定信号Ps1〜Psnを与えた設定信号Pr1〜Prnと対応付けて記憶装置16内に記憶する。
【0048】
<クレーンモード>
入出力特性が記憶された後、クランプ機構117に荷役物119をクランプさせ、上昇ボタン31を押下すると、上述したようにアーム115は上方に回動し、荷役物119は地上より持ち上げられる。下降ボタン32を押下すると荷役物119は下降する。
【0049】
<バランスモード>
クレーンモードにおいて、上昇ボタン31と下降ボタン32を操作し、荷役物119を空中で静止した状態にしてバランスモード設定ボタン33を押下すると、第二の方向切換弁23は、エアーシリンダ24を第一の方向切換弁22から切り離し、替わりに圧力制御装置25に接続する。
【0050】
エアーシリンダ24内の圧力は負荷バランス圧であり、その大きさは圧力センサ15によって測定されており、バランスモード設定ボタン33が押下された時点の測定値は、A/D変換器18を介して、ディジタルの測定信号として制御回路21に入力される。
【0051】
その測定信号を符号Pscで表すと、制御回路21は、入力された測定信号Pscを記憶回路16の記憶内容と照合し、それが記憶されている場合は、その測定信号Pscに対応付けられた設定信号Prcを記憶内容から抽出し、D/A変換器19を介して圧力制御装置25の入力端子rに出力する。
【0052】
圧力制御装置25は、エアーシリンダ24を、入力された設定信号Prcが示す圧力にするから、エアーシリンダ24内の圧力は、設定信号Prcに対応する測定信号Pscが示す圧力、即ち、バランスモード設定ボタン33の押下時の圧力(負荷バランス圧)に維持される。
【0053】
バランスモード設定ボタン33が押下されたときに制御回路21に入力されている測定信号Pscと等しい値の測定信号が記憶回路16内に記憶されていない場合、記憶内容から、記憶されていない測定信号Pscに対応するディジタル値の設定信号を下記のように算出する。
【0054】
例えば、入力された測定信号Pscを中心とし、その値よりも大小両側に隣接する測定信号Psa、Psb(Psa<Psc<Psb)を抽出し、抽出した測定信号Psa、Psbとそれに対応する設定信号Pra、Prbの二つの測定点(Pra,Psa)、(Prb,Psb)を結ぶPx−Py平面上の近似直線の下記方程式(1)、
Py={(Prb−Pra)/(Psb−Psa)}×Px−(Pra×Psb−Prb×Psa)/(Psb−Psa)……(1)
を求め(又は予め求めておき)、Pxに入力された測定信号Pscを代入すると、測定信号Pscに対応する設定信号Prcは、Pyとして求めることができる(Py=Prc)。
【0055】
図2は、実際の入出力特性と、上記のような近似直線との関係を示すグラフであり、曲線は実際の入出力特性、折れ線は予め記憶された設定信号Pr1〜Prnと測定信号Ps1〜Psnとから、各測定点(Pr1,Ps1)〜(Prn,Psn)の隣接する二点間を結ぶ(n−1)個の近似直線である。同図の横軸は設定信号Pr、縦軸は測定信号Psである。
【0056】
図3の符号L1は、図2のグラフに記載された(n−1)個の近似直線のうちの上記方程式(1)で表される近似直線を示しており、L2は実際の入出力特性の曲線を示している。
【0057】
なお、上記実施例では、測定信号Pscの両隣の値の予め記憶された測定信号Psa、Psbと、それに対応する設定信号Pra、Prbから、二測定点(Pra,Psa)、(Prb,Psb)間を直線近似したが、二個の測定点ではなく、三個以上の測定点を使用することもできる。
【0058】
例えば、測定信号Pscの両隣の測定信号Pra、又はPrbのいずれか一方の更に外側にもう一点を加えれば、三点間を二次曲線や円等の近似曲線を作成することができ、その曲線の方程式に実際に測定した測定信号Pscを代入すると、それに対応する設定信号Prcを求めることができる。近似曲線を使用すれば、近似直線を使用する場合よりも設定信号Prcの精度が向上する。
【0059】
更に又、予め記憶された測定信号を四個以上用い、三次以上の高次の近似曲線や最小二乗法による近似直線を用いてもよい。
要するに、測定点の数が二個以上であり、近似直線や近似曲線を作成して測定信号Pscから設定信号Prcを算出できればよい。
【0060】
以上説明したように、本発明は、予め制御装置21が出力するディジタルの設定信号が、制御装置21に入力されるディジタルの測定信号との間の関係を実測するときの、制御装置21が出力する制御信号がエアーシリンダ24の圧力に変換されるまでに経由する装置(D/A変換器19と圧力制御装置25)と、エアーシリンダ24内の圧力が、制御装置21に入力されるディジタルの測定信号に変換されるまでに経由する装置(圧力センサ15とA/D変換器18)の構成を変えないで、バランスモードにおいて、制御回路21に入力された測定信号を、記憶された関係から設定信号に変換して出力しており、設定信号→エアーシリンダ圧力→測定信号、の経路の信号変換の誤差が、制御回路21内の記憶内容によって補償される。
【0061】
その結果、制御回路21から、D/A変換器19と圧力制御装置25とエアーシリンダ24と圧力センサ15とA/D変換器18とを経て制御回路21に戻る信号経路のゲインが“1”に近づけられている。
【0062】
なお、D/A変換器19や、A/D変換器18は、圧力制御装置25や圧力センサ15に内蔵されていてもよい。
また、記憶回路16がアナログ信号を記憶でき、制御回路21がアナログ信号を入出力できる場合には、図1のD/A変換器19やA/D変換器18は不要である。
【0063】
以上は、アーム115は金属製の堅いパイプ部材であったが、本発明のアームはそれに限定されるものではなく、アーム115には合成繊維等の布製のベルトや、金属製等の堅い支柱との組合せの部材も含まれる。また、巻き取り式のホイストタイプのアームも含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の荷役機械の回路ブロック図
【図2】実際の入出力特性と近似直線の関係を説明するためのグラフ
【図3】設定信号Prcの求め方を説明するためのグラフ
【図4】従来技術の荷役機械の回路ブロック図
【図5】理想特性と実際の入出力特性の関係を示すグラフ
【図6】入出力特性をシフトさせた場合の理想特性との関係を説明するためのグラフであって、(a):上方にシフトさせた場合、(b):下方にシフトさせた場合
【図7】従来技術及び本発明の荷役機械の外観図
【符号の説明】
【0065】
15……圧力センサ
16……記憶装置
21……制御回路
24……エアーシリンダ
25……圧力制御装置
33……バランスモード設定ボタン
34……測定開始ボタン
115……アーム
119……荷役物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷役物を持ち上げるアームと、
前記アームに取りつけられたエアーシリンダと、
前記エアーシリンダに接続され、前記エアーシリンダ内の気体を給排気し、前記エアーシリンダ内を入力された設定信号に応じた圧力にする圧力制御装置と、
前記圧力制御装置に前記設定信号を出力する制御回路とを有し、
前記エアーシリンダ内の圧力が、前記圧力制御装置によって前記荷役物の重量に応じた負荷バランス圧に設定されると、前記エアーシリンダ内の圧力によって生成され、前記アームを介して前記荷役物に加えられる上昇力と、前記荷役物の重量によって生じる下降力とが釣り合い、前記荷役物が上下方向に静止し、前記荷役物に操作力を加えると前記荷役物を所望方向に移動できるように構成された荷役機械であって、
前記エアーシリンダ内の圧力を測定し、測定結果を測定信号として前記制御回路に出力する圧力センサと、
前記制御回路に接続された記憶装置とを有し、
前記記憶装置には、前記設定信号の値と、前記設定信号が前記圧力制御装置に入力されたときの前記測定信号の値とが対応付けて記憶され、
前記制御回路は、前記圧力センサから入力された前記測定信号を前記記憶装置内の対応付けから前記設定信号に変換し、前記圧力制御装置に出力するように構成された荷役機械。
【請求項2】
測定開始ボタンを有し、前記測定開始ボタンが押下されると、前記設定信号の値と前記測定信号の値とが前記記憶装置に対応付けて記憶されるように構成された請求項1記載の荷役機械。
【請求項3】
バランスモード設定ボタンを有し、前記バランスモード設定ボタンが押下されたときの前記エアーシリンダ内の圧力の測定結果を示す前記測定信号を、前記記憶装置内の対応付けから前記設定信号に変換し、前記圧力制御装置に出力し、
前記圧力制御装置に、前記バランスモード設定ボタンが押下されたときの前記エアーシリンダ内の圧力を維持させるように構成された請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の荷役機械。
【請求項4】
荷役物を持ち上げるアームと、
前記アームに取りつけられたエアーシリンダと、
前記エアーシリンダに接続され、前記エアーシリンダ内の気体を給排気し、前記エアーシリンダ内を入力された設定信号に応じた圧力にする圧力制御装置と、
前記圧力制御装置に前記設定信号を出力する制御回路とを有し、
前記エアーシリンダ内の圧力が、前記圧力制御装置によって前記荷役物の重量に応じた負荷バランス圧に設定されると、前記エアーシリンダ内の圧力によって生成され、前記アームを介して前記荷役物に加えられる上昇力と、前記荷役物の重量によって生じる下降力とが釣り合い、前記荷役物が上下方向に静止し、前記荷役物に操作力を加えると前記荷役物を所望方向に移動できるように構成された荷役機械を運転する荷役機械の運転方法であって、
予め、前記設定信号の値と、前記設定信号が前記圧力制御装置に入力されたときの前記測定信号の値とを対応付けておき、
運転の際に、前記対応付けから前記圧力センサから入力された前記測定信号を前記設定信号に変換し、前記圧力制御装置に出力する荷役機械の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−106589(P2007−106589A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302073(P2005−302073)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(000110022)トーヨーコーケン株式会社 (19)