説明

荷役機械及びその制御方法

【課題】保持する荷役物の重量に関係なく、昇降機構を所望の速度で上昇及び下降動作させることができる荷役機械を提供する。
【解決手段】本発明の荷役機械は、上下方向に移動自在に構成され所定の荷役物Qを保持して昇降させる昇降機構5と、昇降機構5をエアーの圧力によって駆動する空気圧シリンダ20と、エアー源21から供給されるエアーの圧力を所定の圧力に調整して出力する圧力比例制御弁22と、圧力比例制御弁22から出力されるエアーの流量を所定の値に低下させて空気圧シリンダ20に供給する流量制御弁25とを有する。圧力比例制御弁21から出力されるエアーの圧力を、空気圧シリンダ20におけるエアーの圧力に基づいて所定の値に制御するとともに、その出力されるエアーの流量を低下させて亜音速領域の流量のエアーを空気圧シリンダ20に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷役物を昇降して移動するための荷役機械に関し、特にエアー式の駆動源によって昇降機構を動作させる荷役機械に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、従来の荷役機械の概略構成図である。
図6に示すように、荷役機械101の本体103の内部には空気圧シリンダ120が配設され、空気圧シリンダ120のピストンロッド120aの先端部には昇降機構105のアーム104がリンク機構で連結されている。
このリンク機構はアーム104の上昇下降動作時の力点となるとともに、アーム104は本体103内部で支持されこの支持部がアーム104の支点となっている。
さらにアーム104の先端部には操作グリップ109aを備えた操作ボックス109とクランプ機構108が設けられ、これにより荷役物Qを把持できるようになっている。
【0003】
シリンダ120にはエアー給排気制御回路110が接続配管され、操作ボックス109からの上昇・下降指令に応じて、エアー源121からシリンダ120へエアーの給排気処理を行うように構成されている。
この場合、例えば、操作グリップ109aを上方向に操作すると、シリンダ120にはエアー給排気制御回路110を介してエアーが給気され、これによりシリンダ120にエアーが給気されると、シリンダ120のピストンロッド120aは図中下方向に動作し、アーム104先端部のクランプ機構108で把持された荷役物Qは、てこの原理で上方向に移動する。
【0004】
次に図7を使用して従来の荷役機械の回路動作について説明する。
図7において、操作ボックス109の上昇ボタン109bが押されると、制御回路124は同上昇ボタン109bの押下情報を読み取り、制御回路124の出力制御ポートbをオンにする。
【0005】
これにより、方向切換弁123aが動作し、エアー源121→流量制御弁125b→方向切換弁123a→方向切換弁123b→シリンダ120へのエアー経路が形成されるのでエアーがシリンダ120に供給され、昇降機構105が上方向に動作する。
また、下降ボタン109cが押されると、制御回路124は下降ボタン109cの押下情報を読み取り、制御回路124の出力制御ポートaをオンにする。
【0006】
出力制御ポートaがオンすると方向切換弁123aが動作し、シリンダ120→方向切換弁123b→方向切換弁123a→流量制御弁125a→消音器127へのエアー経路が形成されるのでシリンダ120内のエアーが消音器127から排気され、昇降機構105が下方向に動作する。
【0007】
次にバランス制御モードにおける動作について説明する。
バランス制御モードに切り換える場合は、オペレータはまずクランプ機構108により荷役物Qを把持し、さらに前記上昇ボタン109bを操作し、荷役物Qを吊り上げて浮かした状態(地切り状態)に操作しておく必要がある。
【0008】
この地切り状態では、圧力比例制御弁122の入力設定圧ポートには、地切りされた状態におけるシリンダ120内のエアー圧力が方向切換弁123cを介して入力される。
【0009】
この状態において、操作ボックス109のバランスモード設定ボタン109dが押されると、制御回路124は、バランスモード設定ボタン109dの押下情報を読み取り制御回路124の出力制御ポートcをオンにする。
【0010】
出力ポートcがオンすると、方向切換弁123cによってシリンダ120−圧力比例制御弁122間のエアー経路が遮断され、圧力比例制御弁122の入力設定圧ポートのエアー圧が保持されることになる。
【0011】
この状態で制御回路124の出力ポートdをオンすると、方向切換弁123bが圧力比例制御弁122側に切り換わり、圧力比例制御弁122−シリンダ120間のエアー経路が形成される。
【0012】
バランス制御モードでは、把持されている荷役物Q、操作ボックス109、又は荷役機械101のアーム104などを、直接手で持って自由に動かすことが可能になる。
【0013】
次に、従来の荷役機械101の問題点を上昇ボタン109bを押して昇降機構105を上昇させる場合を例にとって説明する。
図7において、上昇ボタン109bが押されると、エアー源121→流量制御弁125b→方向切換弁123a→方向切換弁123b→シリンダ120への経路を経てエアーがシリンダ120に供給される。
【0014】
このとき供給されるエアー流量は、供給側エアー源121のエアー圧とシリンダ120内エアー圧との圧力差、及び流量制御弁125bの有効断面積で決まる。なお、各ユニットを接続している配管は、同配管の有効断面積が流量制御弁125bの有効断面積に対して十分広いため、エアー流量に影響を与えないので無視できる。
【0015】
このときの回路動作を、図8(a)の動作原理図で説明する。
供給側エアー源121のエアー圧をPo、シリンダ120内のエアー圧をPsとすると、シリンダ120に供給されるエアー量は、エアー源121とシリンダ120内のエアー圧の圧力差(Po−Ps)と流量制御弁125aの有効断面積で決まる。
【0016】
例えば、荷役機械101が荷役物Qを把持していないとき、即ちシリンダ120内のエアー圧Psが低く、エアー源121とシリンダ120内のエアー圧の圧力差が十分大きいときに、シリンダ120に供給されるエアー流量が適当な流量になるように流量制御弁125aを調整したとする。
【0017】
この状態で荷役機械101が重量の大きい荷役物Qを把持して吊り上げた場合、シリンダ120へ供給されるエアー流量は、この荷役物Qの吊り上げによりシリンダ120内のエアー圧が上昇し、結果としてエアー源121とシリンダ120間のエアー圧力差が小さくなるため、荷役物Qを把持していない場合よりも減少する。
【0018】
すわなち、荷役物Qが把持していない状態(無負荷時)で、所望の速度で動かすように流量制御弁125bを調整した場合、重量の大きい荷役物Qを把持した状態では、所望の速度では動かすことができくなる。
この場合、把持した荷役物Qが重ければ重い程、動作速度は低下してしまうことになる。
【0019】
その一方、重量の大きい荷役物Qを把持して上昇させたときに所望の速度になるように流量制御弁125bを調整した場合、シリンダ120に供給されるエアー流量が重量荷役物把持時より無負荷時において増えてしまうため、無負荷時は所望の速度を超えて高速で上昇してしまうことになる。
【0020】
これに対し、把持する荷役物Qの重量によって動作速度が変わってしまう場合の対策として複数の速度調整弁を用意して、それらの速度調整弁を切り換えて制御する方法も考えられるが、そのような構成を採用した場合、複数の速度調整弁だけでなくこれらの速度調整弁の切換を行う制御回路、また速度調整弁を切り換えるタイミングを発するエアー圧力センサー等が必要になり回路が複雑になってしまう。
【0021】
一方、下降時のときの動作原理図を図8(b)に示す。
図8(b)に示すように、下降時では、シリンダ120から排気されるエアー流量は、シリンダ120と大気圧間のエアー圧力差、及び流量制御弁125aの有効断面積で決まる。
【0022】
流量制御弁125aの有効断面積を調整し固定した場合、消音器127から排気されるエアー流量は、把持しているとき荷役物Qの重量で決まるシリンダ120の内圧と、大気圧間のエアー圧力差によって決まるため、上昇時の場合と同様、荷役物Qの重量が変わると下降速度も変化してしまう。
上記の問題を解決するための技術として、例えば、特開2000−169100号公報に示されるものが知られている。
【0023】
ここでは、エアーシリンダのピストンロッドにシリンダの動作速度を検出するための速度センサーを設け、荷役機械の動作速度が所望の指令速度に達しない場合は荷役機械の動作速度が指令速度に達するまでシリンダへのエアー供給量を増加させるような制御方式が提案されている。
【0024】
この制御方式は、速度センサーを使用した所謂速度サーボ制御方式で、これによれば荷役物の重量を補正して荷役機械を動作させることが可能と考えられるが、高価な速度センサーが必要なこと、またそのセンサーをシリンダのピストンロッドへ取り付けなければならないこと、さらにエアー回路のサーボ制御は応答性が良くないため、制御が難しいなどの課題があると考えられる。
【特許文献1】特開2000−169100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので、保持する荷役物の重量に関係なく、昇降機構を所望の速度で上昇及び下降動作させることができる荷役機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記目的を達成するためになされた請求項1記載の発明は、上下方向に移動自在に構成され、所定の荷役物を保持して昇降させる昇降機構と、前記昇降機構をエアーの圧力によって駆動するエアー式駆動部と、所定のエアー源から供給されるエアーの圧力を所定の圧力に調整して出力する圧力調整出力手段と、前記圧力調整出力手段から出力されるエアーの流量を所定の値に低下させて前記エアー式駆動部に供給する流量制御手段とを有し、前記圧力調整出力手段から出力されるエアーの圧力を、前記エアー式駆動部におけるエアーの圧力に基づいて制御するように構成されている荷役機械である。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記圧力調整出力手段として、圧力比例制御弁を有する手段を用いるものである。
請求項3記載の発明は、請求項1又は2のいずれか1項記載の発明において、前記流量制御手段として、流量可変の制御弁を有する手段を用いるものである。
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項記載の発明において、前記圧力調整出力手段と前記エアー式駆動部とを直接接続するように切換可能に構成されているものである。
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項記載の荷役機械を制御する方法であって、前記エアー式駆動部に対して亜音速領域の流量のエアーが供給されるように、前記エアー式駆動部のエアーの圧力に対する前記圧力調整出力手段の出力エアー圧力を制御するものである。
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記圧力調整出力手段の出力エアー圧力と、前記エアー式駆動部のエアーの圧力との絶対圧力比を用いて昇降機構の速度制御を行うものである。
【0027】
本発明にあっては、圧力調整出力手段から出力されるエアーの圧力を、エアー式駆動部におけるエアーの圧力に基づいて所定の値に制御するとともに、その出力されるエアーの流量を低下させて亜音速領域の流量のエアーをエアー式駆動部に供給するようにする。
【0028】
その結果、本発明によれば、重量の大きい荷役物を保持してエアー式駆動部のエアー圧が上昇し、圧力調整出力手段の出力エアー圧との圧力差が小さくなった場合であっても、エアー式駆動部に対して十分な流量のエアーを供給することができ、しかも、無負荷時においては高速で昇降機構が動作する問題を回避することができる。
【0029】
このように、本発明によれば、圧力調整出力手段の出力エアー圧力と、エアー式駆動部のエアーの圧力との絶対圧力比に応じて、荷役物の重量に関係なく、昇降機構を所望の速度で上昇及び下降動作させることが可能になる。
【0030】
また、本発明においては、荷役物の重量にかかわらず所望の速度で上昇、下降動作させることができ、速度サーボ制御方式に比べて操作感が高く高性能の荷役機械を提供することができる。
【0031】
さらに、本発明においては、圧力比例制御弁とシリンダ内のエアー圧の絶対圧力比を増減させることにより、上昇及び下降時に加減速カーブを持たせることができるため、急激な立ち上がり、停止動作による荷役機械の振動を抑えることが可能になる。
【0032】
本発明において、圧力調整出力手段として、圧力比例制御弁を有する手段を用いる場合には、エアーの圧力を制御する回路から圧力調整出力手段に出力されるエアー圧力制御信号に比例したエアー圧を設定することができるというメリットがある。
【0033】
また、流量制御手段として、流量可変の制御弁を有する手段を用いる場合には、エアー式駆動部に供給するエアーの量を容易に変更することができるので、エアー源−エアー式駆動部間のエアー流量を調節し、荷役機械の動作速度を調整することが可能になる。
【0034】
さらに、圧力調整出力手段とエアー式駆動部とを直接接続するように切換可能に構成すれば、バランス制御モード及びクレーン制御モードの両方を行うことができるので、例えば圧力比例制御弁等を共用して制御回路の共通化及び製品コストの低減が可能になる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、保持する荷役物の重量に関係なく、昇降機構を所望の速度で上昇及び下降動作させることができる荷役機械を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る荷役機械の実施の形態の外観構成を示す概略図、図2は、同荷役機械の動作概念を示す概略構成図である。
図1に示すように、本実施の形態の荷役機械1は、鉛直に立設された支柱2を有し、この支柱2の上部に制御ボックス3が設けられている。
【0037】
図2に示すように、この制御ボックス3内には、従来技術と同様の空気圧シリンダ(エアー式駆動部)20が設けられている。この空気圧シリンダ20は、後述するエアー制御系10を介してエアー源21に接続されている(以下、シリンダ20という。)。
【0038】
荷役機械1は、第1〜第3のアーム4a〜4cから構成されるアーム4を有する昇降機構5を備えている。ここで、第1のアーム4aは、上下方向に所定の角度回動可能な状態で、てこを構成するように支持されシリンダ20のピストンロッド20aによって駆動されるようになっている。
また、第1のアーム4aは、支柱2の中心軸を中心にして水平方向に旋回するように支持されている。
【0039】
第1のアーム4aの先端部には、第2のアーム4bが、関節部6を介して常に水平状態を保持する状態で連結され、さらに、第2のアーム4bの先端部(下端部)には、鉛直方向に延びる第3のアーム4cが水平方向に回転可能な状態で連結されている。
【0040】
第3のアーム4cの下端部には、例えばエアーの吸引により荷役物Qを保持(把持)するクランプ機構8が取り付けられている。このクランプ機構8は、図示しないクランプ/アンクランプスイッチを操作することによって荷役物Qをクランプし又はクランプを解除するように構成されている。
また、第3のアーム4cの下部には、操作グリップ9aを有する操作ボックス9が取り付けられている。
【0041】
図3は、本実施の形態のエアー制御系の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、本実施の形態においては、エアー源21から供給されるエアーの圧力を所定の圧力に調整してシリンダ20に出力する圧力比例制御弁(圧力調整出力手段)22が、エアー源21の後段に設けられている。
【0042】
この圧力比例制御弁22は、マイクロコンピュータ等を有する制御回路24に接続され、制御回路24からの命令により出力圧力を調整して所定の値に設定するように構成されている。
【0043】
また、圧力比例制御弁22の後段には、方向切換弁23が設けられており、この方向切換弁23は、上述した制御回路24に接続されその動作が制御されるようになっている。
【0044】
さらに、方向切換弁23とシリンダ20との間には、流量制御弁(流量制御手段)25が設けられている。本実施の形態においては、制御回路24からの命令によって方向切換弁23の入出力ポートを切り換えて流量制御弁25のオン、オフを行うように構成されている。
【0045】
一方、シリンダ20には、その内部のエアー圧、即ち負荷バランス圧を測定するためのエアー圧力センサー26が設けられており、このエアー圧力センサー26は、制御回路24に接続されている。
【0046】
一方、本実施の形態においては、操作ボックス9にバランスモード設定ボタン30設けられ、このバランスモード設定ボタン30は制御回路24に接続されている。
さらに、オペレータから操作グリップ9aに加えられた力を図示しない力センサで検出して制御回路24に出力するように構成されている。
【0047】
以下、本実施の形態の制御方法について説明する。
本実施の形態においては、荷役物Q又はアーム4を直接持って動かすバランス制御モードと、操作グリップ9aを操作してアーム4を動かすクレーン制御モードの2つの制御モードがある。
【0048】
<バランス制御モード>
荷役物Qを吊り上げた状態でオペレータがバランスモード設定ボタン30を押すことにより、制御回路24は、まずシリンダ20内のエアー圧をエアー圧力センサー26によって読み込みその値を検出する。
【0049】
次に、圧力比例制御弁22の入力ポートの設定圧力を、先に読み込んだシリンダ20内のエアー圧力と同じ値にするととともに、制御回路24の出力制御ポートAをオンにして方向切換弁23の出力ポートをG側に切り換える。
バランス制御モードでは、圧力比例制御弁22とシリンダ20を流量制御弁25を介さず直結されるようにする。
【0050】
バランス制御モードにおいて、クランプ機構8で把持した荷役物Qにオペレータが力を加え上下方向に動かすと、シリンダ20内のエアー圧は、設定されているバランス時のシリンダ内エアー圧から操作力によって変動することになるが、圧力比例制御弁22によってシリンダ20内の変動圧を給気又は排気等を行いこれを吸収することによってシリンダ20内のエアー圧は常に一定に保たれるように制御される。
【0051】
したがって、オペレータの操作によってシリンダ20のピストンが動いた場合であっても、シリンダ20内にはこの操作力に反発する力が発生しないため、荷役物Qは力を加えた方向に動くことになる。
このような動作原理によりバランス制御モード時においては、荷役機械1はオペレータの僅かな操作力により荷役物Qを自由に昇降させて搬送することができる。
【0052】
<クレーン制御モード>
クレーン制御モードでは、制御回路24の出力制御ポートAをオフにするとともに、方向切換弁23をポートH側に切り換え、圧力比例制御弁22とシリンダ20の間に流量制御弁25が接続されるようにする。
このとき流量制御弁25を介してシリンダ20に給排気されるエアー流量について、図4に示す上昇及び下降時の動作原理図を用いて説明する。
【0053】
上昇時のエアー流量は、圧力比例制御弁22の出力エアー圧をPp[MPa] 、シリンダ20内のエアー圧をPs[MPa]、流量制御弁25の有効断面積をS[mm2] 、供給されるエアーの温度をt[℃] とすると、上昇時の流量Qu[dm3/min] は下式で表すことができる。
【0054】
イ)(Ps + 0.1)/(Pp + 0.1)≦ 0.528 [チョーク流れの場合]
Qu = 120×S×(Pp+0.1)×{273/(273 + t)}1/2 ・・・・・・・(1)
ロ)(Ps+0.1)/(Pp+0.1)>0.528[亜音速流れの場合]
Qu=240×S×{(Ps+0.1)×(Pp -Ps)}1/2×{273/(273 +t)}1/2・・・・(2)
【0055】
上式について説明すると、エアーを供給する側の圧力比例制御弁22の出力エアー圧が、供給される側のエアー圧よりも十分高い場合すなわちチョーク流れの場合(絶対圧力で1/0.528=1.89倍以上)、(1)式が適用され、両エアー圧の圧力比が小さい場合すわなち亜音速流れの場合(1.89倍未満)、(2)式が適用される。
【0056】
このような見方で従来の制御系を見てみると(図7、図8参照)、無負荷時シリンダ120内のエアー圧が低い場合、言い換えればエアーを供給する側のエアー源121とシリンダ120内のエアー圧の圧力差が十分確保できている場合は、(1)式のチョーク流れが適用されるが、重い荷役物Qを吊り上げてシリンダ120内のエアー圧が上昇した場合、供給側のエアー源121とシリンダ120内のエアー圧の圧力差を十分確保できなくなるため、(2)式の亜音速流れが適用され、エアー流量は同計算式で決まる値になる。
【0057】
(2)式から理解されるように、エアー源121とシリンダ120内の圧力差(Po−Ps)が小さくなると流量Quも小さくなる。その結果、所望の動作速度に必要な量だけエアー流量を確保できなくなり、動作速度の低下を招く。
【0058】
この対策として重量荷役物吊上げ時(亜音速流れ時)の流量を確保するため、流量制御弁125a、125bの有効断面積Sを大きくすることも考えられるが、この有効断面積Sを大きくした場合、(1)式によりチョーク流れ(無負荷時)のときのエアー流量が重量荷役物吊上げ時以上に大きくなってしまうため、無負荷時は所望の速度を超えて高速で昇降機構105が動作する問題が発生してしまう。
これに対し、本発明では、圧力比例制御弁22の出力エアー圧を制御して常に(2)式の亜音速流れの状態で回路を制御する制御方式を採用している。
【0059】
本発明においては、昇降機構5が上昇するとき、シリンダ20には(2)式で示される流量のエアーが供給されるが、シリンダ20に供給されたエアーの流量Quは、シリンダ20内のエアー圧Psによりシリンダ20内の体積Vu[dm3/min] に圧縮される。
【0060】
Vu = Qu × {0.1/(Ps + 0.1)} × {(273 + t)/273} ・・・・・・・(3)
(2)式のQu を(3)式に代入すると、
Vu = 240×S×{(Ps + 0.1)×(Pp - Ps)}1/2×{273/(273 + t)}1/2
× {0.1/(Ps + 0.1)} ×{(273 + t) /273}
=240×S×0.1×{(Ps+0.1)×(Pp -Ps)/(Ps + 0.1)21/2×{273/(273 +t)}1/2×{(273 +t) /273}
= 24×S ×[{(Pp + 0.1)-(Ps + 0.1)}/(Ps + 0.1)]1/2×{(273 + t)/273}1/2
= 24×S × {(Pp + 0.1)/(Ps + 0.1)-1}1/2 × {(273 + t)/273}1/2
【0061】
ここで、温度による影響を無視すると、Vu は次式で表される。
Vu≒24 ×S ×{(Pp + 0.1)/(Ps + 0.1)- 1}1/2 ・・・・・・・・・(4)
【0062】
このように、シリンダ20に供給されるエアー量は、(4)式で表すことができる。この(4)式は、シリンダ20に供給されたエアー増量(体積/時間)が、流量制御弁25の有効断面積Sと、供給側である圧力比例制御弁22の出力エアー圧Ppとシリンダ20内のエアー圧Psの絶対圧力比で決まることを示している。
【0063】
したがって、流量制御弁25の有効断面積Sを固定とすると、シリンダ20に供給されるエアー増量は、圧力比例制御弁22の出力エアー圧Psとシリンダ20内のエアー圧Psの絶対圧力比を制御することにより、任意に設定することができる。
【0064】
ここで、シリンダ20内のエアー増量は、シリンダ20のピストンロッド20aの受圧面積で除することにより、ピストンロッド20aの移動速度に相当する。
したがって、シリンダ20のピストンロッド20aの移動速度すなわちピストンロッド20aにリンクされた昇降機構5の上昇速度は、流量制御弁25の有効断面積Sを固定とした場合、圧力比例制御弁22の出力エアー圧Ppとシリンダ20内のエアー圧Psの絶対圧力比を制御することにより、自由に制御することが可能になる。
【0065】
図3に示すように、本実施の形態では、シリンダ20の上昇制御時、エアー圧力センサー26にて検出した結果に基づき、制御回路24が、シリンダ20内の圧力を常時モニタしており、したがって、本実施の形態では、例えば、モニタしているシリンダ20内のエアー圧力Psと、圧力比例制御弁22の出力エアー圧Ppの絶対圧力比が常に一定になるように制御する。
【0066】
ここで、シリンダ20内のエアー圧力Psと、圧力比例制御弁22の出力エアー圧Pp(=圧力比例制御弁22の入力設定圧)の絶対圧力比をKuとすると、Kuは、次式で表すことができる。
【0067】
Ku = (Pp + 0.1)/(Ps + 0.1)
Pp = Ku×(Ps + 0.1) - 0.1 ・・・・・・・・・(5)
【0068】
絶対圧力比をKuに設定したときのシリンダ20の上昇時の動作速度νu[mm/sec] は、ピストンロッド20aの受圧面積をSs[ mm ] とすると、(4)及び(5)式に基づき次式で表すことができる。
【0069】
Vu=60×νu×Ss/106=24×S×(Ku−1)1/2
νu=4×105×S×(Ku −1)1/2/Ss (但し、1.894>Ku≧1 )・・・・・・・(6)
【0070】
(6)式は、流量制御弁25の有効断面積Sを固定にした場合に、シリンダ20の動作速度νuが、圧力比例制御弁22の出力エアー圧Ppとシリンダ20内のエアー圧Psの絶対圧力比Kuを変えることにより任意に設定可能であることを示している。
【0071】
また、(6)式から理解されるように、流量制御弁25の有効断面積S及びシリンダ20のピストンロッド20aの受圧面積を固定のものとすると、ピストンロッド20aの動作速度は、上記圧力比Kuだけで決まっており圧力比例制御弁22の出力エアー圧Pp及びシリンダ20内のエアー圧Psに依存していない。
【0072】
したがって、荷役物Qの吊り上げ時にシリンダ20の内圧が増加した場合であっても、上記圧力比Kuを変えなければ、荷役物Qの重量の影響を受けることなく、所望の速度で昇降機構5を上昇させることが可能になる。
【0073】
以上の説明は昇降機構5の上昇時の制御方法について説明したものであるが、本発明によれば、昇降機構5の下降時についても同様に制御することができる。
昇降機構5を下降させる場合には、制御回路24は、圧力比例制御弁22の出力エアー圧Ppをシリンダ20内のエアー圧Psよりも低く設定する必要がある。
【0074】
図4に示すように、昇降機構5下降時のエアーの流れは、シリンダ20→流量制御弁25→圧力比例制御弁22の順になる。
【0075】
したがって、下降時にシリンダ20から排気するエアー流量Qdは、上記(4)式において圧力比例制御弁22のエアー圧Ppとシリンダ20内のエアー圧Psを入れ代えた計算式で表すことができ、さらにシリンダ20から排気されるエアー減量Vd(体積/時間)は、(7)式で表すことができる。
【0076】
Vd≒ 24×S× {(Ps + 0.1)/(Pp + 0.1)−1}1/2 ・・・・・・・・・(7)
【0077】
ここで、下降時の圧力比例制御弁22の出力エアー圧Ppとシリンダ20内のエアー圧Psの絶対圧力比をKd=(Pp + 0.1)/(Ps + 0.1))とすると、下降時の圧力比例制御弁22の設定入力圧Ppは(8)式で表すことができる。
【0078】
Kd=(Pp + 0.1)/(Ps + 0.1)
Pp=Kd×(Ps + 0.1) - 0.1・・・・・・・・・(8)
【0079】
このときシリンダ20に排気供給されるエアー減量Vd[dm3/min] 及び下降速度νd[mm/sec] は、上昇時と同様に算出すると式(9)で表すことができる。
【0080】
Vd ≒ 24×S×{(1/Kd)−1}1/2
νd = 4×105×S×{(1/Kd)−1}1/2/Ss (但し、0.528<Kd≦1 )・・・(9)
【0081】
(9)式は、圧力比例制御弁22の設定入力圧を制御することにより、上昇時と同様、下降時も荷役物Qの重量の影響を受けることなくシリンダ20を所望の速度で動作させることができることを示している。
【0082】
また、(6)式及び(9)式は、圧力比例制御弁22の出力エアー圧Ppとシリンダ20内のエアー圧Psの絶対圧力比Kdを変えることにより、上昇又は下降時の立ち上がり、停止動作時に加減速特性を持たせることができることを示している。
【0083】
図5に、上昇時の圧力比例制御弁22の出力エアー圧Ppとシリンダ20内のエアー圧の絶対圧力比と動作速度の関係を示す。
【0084】
図5に示すように、圧力比例制御弁22の出力エアー圧Ppとシリンダ20内のエアー圧の絶対圧力比Kuを1に設定することにより、シリンダ20へ給排気するエアー流量は0になり、昇降機構5を停止させておくことができる。
そして、この状態から、絶対圧力比Kuを徐々に大きくしていき、定速度状態では絶対圧力比Kuを最大にして固定する(但し、絶対圧力比Ku<1.894)。
【0085】
一方、減速時は絶対圧力比Kuを徐々に小さくしていき、停止時は絶対圧力比Kuを1にするよう制御する。このようにしてエアーの絶対圧力比Kuを変え加減速特性を持たせることにより、加速時及び減速・停止動作時の荷役機械の振動を抑えることができる。
【0086】
ここで、制御回路24へ動作速度指令を与える手段については、操作グリップ9aに加えられた操作力を力センサーで読み取り、その操作力に応じた無段階の速度指令を与える方式のほか、例えば、ジョイスティックなどの可動式の操作レバーや、操作角に応じた無段階の速度指令を発行する方式のものを用いることができる。
【0087】
また、操作ボックス9に上昇及び下降ボタン等を設け、同ボタンが押下されたときに予め決められた速度(一定速度)で昇降機構5が動作するように構成することも可能である。
【0088】
以上述べたように本実施の形態の荷役機械1によれば、重量の大きい荷役物Qを把持してシリンダ20のエアー圧が上昇し、圧力比例制御弁22の出力エアー圧との圧力差が小さくなった場合であっても、シリンダ20に対して十分な流量のエアーを供給することができ、しかも、無負荷時において昇降機構5が高速動作することもない。
【0089】
このように、本実施の形態によれば、圧力比例制御弁22の出力エアー圧力と、シリンダ20のエアーの圧力との絶対圧力比に応じて、荷役物Qの重量に関係なく、昇降機構5を所望の速度で上昇及び下降動作させることができる。
【0090】
また、本実施の形態によれば、速度サーボ制御方式、即ちシリンダのピストンロッドに速度センサーを設け速度センサからの速度情報によりシリンダの速度制御を行う方式に比べて操作感が高く高性能の荷役機械1を提供することができる。
【0091】
さらに、本実施の形態によれば、圧力比例制御弁22とシリンダ20内のエアー圧の絶対圧力比を増減させることにより、上昇及び下降時に加減速カーブを持たせることができるため、急激な立ち上がり、停止動作による荷役機械1の振動を抑えることが可能になる。
【0092】
さらにまた、本実施の形態においては、圧力比例制御弁22とシリンダ20とを直接接続するように切換可能に構成されているので、バランス制御モード及びクレーン制御モードの両方を行うことができ、これにより制御回路の共通化及び製品コストの低減が可能になる。
【0093】
なお、本発明は上述の実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、上記実施の形態では、圧力比例制御弁22とシリンダ20間に流量制御弁25を介在させるように構成したが、本発明はこれに限られず、圧力比例制御弁22とシリンダ20の接続に、流量制御弁25に代えて有効断面積が小さい配管を用いることも可能である。
【0094】
この場合は、有効断面積を変えてエアー流量を調整することはできないが、流量制御弁25を省略することができるので、構成の簡素化及びコストダウンを図ることができる。
【0095】
また、上記実施の形態では、圧力比例制御弁22の出力エアー圧Ppとシリンダ20内のエアー圧Psの絶対圧力比を用いて昇降機構5の速度制御を行うようにしたが、圧力比例制御弁22の出力エアー圧Ppとシリンダ20内のエアー圧Psの圧力差を用いて制御を行うこともできる。
【0096】
この場合、前記圧力差をΔPとすると、圧力比例制御弁22の設定入力圧は、次式のようになる。
Pp=Ps ± ΔP(+:上昇時、−:下降時)
【0097】
このような方法によっても、荷役物Qの重量に関係なく、この圧力差ΔPに応じて、昇降機構5を所望の速度で上昇及び下降動作させることができる。
【0098】
なお、上記実施の形態で説明した絶対圧力比を用いた速度制御方法、また上記圧力差による制御方法以外にも圧力比例制御弁22の出力エアー圧Ppとシリンダ20内のエアー圧との間の関係を変えて制御を行うことが考えられるが、何れも本特許の範疇である。
この場合、上記絶対圧力比の二乗を一定となるように設定したり、上記圧力差の整数倍を一定に設定することが考えられる。
【0099】
また、上記実施の形態では、アーム式の荷役機械を例にとって説明したが、本発明はこれに限られず、ベルト式タイプやアームとベルトを組み合わせたタイプの荷役機械、またホイストタイプの荷役機械にも容易に適用することができる。
さらに、本発明のエアー制御系はシンプルで制御も簡単のため、電気式回路、エアー式回路及びその組み合わせた回路で実現することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明に係る荷役機械の実施の形態の外観構成を示す概略図である。
【図2】同荷役機械の動作概念を示す概略構成図である。
【図3】同荷役機械のエアー制御系の構成を示すブロック図である。
【図4】同荷役機械のエアー制御系の上昇時における動作原理図である。
【図5】圧力比例制御弁の出力エアー圧とシリンダ内のエアー圧の絶対圧力比と動作速度の関係を示す説明図である(上昇時)。
【図6】従来のエアー式荷役機械の動作概念を示す概略構成図である。
【図7】従来技術におけるエアー制御系の構成を示すブロック図である。
【図8】(a):従来技術のエアー制御系の上昇時における動作原理図である。(b):従来技術のエアー制御系の下降時における動作原理図である。
【符号の説明】
【0101】
1…荷役機械 4…アーム 4a…第1のアーム、4b…第2のアーム、4c…第3のアーム、5…昇降機構、9…操作ボックス、9a…操作グリップ 10…エアー制御系 20…空気圧シリンダ(エアー式駆動部) 21…エアー源 22…圧力比例制御弁(圧力調整出力手段) 24…制御回路 25…流量制御弁(流量制御手段) 26…エアー圧力センサー Q…荷役物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に移動自在に構成され、所定の荷役物を保持して昇降させる昇降機構と、
前記昇降機構をエアーの圧力によって駆動するエアー式駆動部と、
所定のエアー源から供給されるエアーの圧力を所定の圧力に調整して出力する圧力調整出力手段と、
前記圧力調整出力手段から出力されるエアーの流量を所定の値に低下させて前記エアー式駆動部に供給する流量制御手段とを有し、
前記圧力調整出力手段から出力されるエアーの圧力を、前記エアー式駆動部におけるエアーの圧力に基づいて制御するように構成されている荷役機械。
【請求項2】
前記圧力調整出力手段として、圧力比例制御弁を有する手段を用いる請求項1記載の荷役機械。
【請求項3】
前記流量制御手段として、流量可変の制御弁を有する手段を用いる請求項1又は2のいずれか1項記載の荷役機械。
【請求項4】
前記圧力調整出力手段と前記エアー式駆動部とを直接接続するように切換可能に構成されている請求項1乃至3のいずれか1項記載の荷役機械。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の荷役機械を制御する方法であって、
前記エアー式駆動部に対して亜音速領域の流量のエアーが供給されるように、前記エアー式駆動部のエアーの圧力に対する前記圧力調整出力手段の出力エアー圧力を制御する荷役機械の制御方法。
【請求項6】
前記圧力調整出力手段の出力エアー圧力と、前記エアー式駆動部のエアーの圧力との絶対圧力比を用いて昇降機構の速度制御を行う請求項5記載の荷役機械の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−62946(P2007−62946A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251813(P2005−251813)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000110022)トーヨーコーケン株式会社 (19)