説明

菌数測定用プレート

【課題】ISO4831の表を使うことができ、簡易な方法で菌数を測定することができるプレートの提供。
【解決手段】傾斜プレートに、0.1mL容のウェル、1mL容のウェル及び10mL容のウェルをそれぞれ3〜10設け、最下に液だめを設け、ウェルの上から試料溶液を流すと、全てのウェルが試料溶液で満され、更に液だめに試料溶液が貯まるようにした菌数測定用プレート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最確数(MPN)法が簡便、迅速に成しうる菌数測定用プレートに関する。
【背景技術】
【0002】
菌数を測定する方法としては、最確数法が知られている。
最確数法は、試料の数段階の連続希釈系列の一定量を数本の液体培地を含む試験管に加えて所定の条件で培養し、測定対象菌の増殖またはそれに基づく所定の反応の認められた試験管数から試料中の細菌数を最確数・MPN(統計学的に最も確からしい数値;most probable number)として確率論的に推計する方法である。
【0003】
最確数法による菌数測定は、通常、次のようにして行われる。
ア)適当濃度の試料溶液を調製し滅菌希釈水を用いて10倍段階希釈を行う。
イ)希釈試料溶液10ml、1ml、および0.1mlを、所定の液体培地10mlを入れた試験管3本、5本又は10本に無菌的に添加し、培養する。
ウ)培養後、測定対象菌の増殖または所定の反応が認められた試験管数を陽性管数とし、最確数表より試料100mlまたは100g中の菌数を求める。
エ)最確数表は、各希釈段階の試料溶液につき試験管3本を用いた場合と5本を用いた場合と10本用いた場合について、陽性管数の組み合わせとその場合の最確数を一覧表にしたものである。
【0004】
このように最確数法による菌数測定法は、段階希釈及び試験管の操作が必要なため、煩雑で手間のかかる方法であった。
より簡便な操作により菌数を測定するため、試験管ではなく、複数のウェルを有するプレートが考えられ、例えば次のものが報告されている。
特許文献1〜3には、上部表面シートと下部表面シートの間に液体サンプルを入れることができる容器について記載され、その容器は、上部を開放でき液体サンプルを流し込むことができ、容器内で多数の区画に仕切られていて、正確なサンンプル量が分配されるようになっている。また、液体サンプルを仕切った状態を保つために、各仕切りから浸透しないようにするためにできる材質から出来ている。
【0005】
特許文献4記載のプレートは、水平な場所におかれて、少なくとも20箇所の凹んだ画分に水平表面が接するもので、各ウェルは液体の正確な量を保持できるように開発されている。形や大きさも適当な材質で作られていて、表面張力により、各ウェルに正確に保持される。液体サンプルからの余分な液体サンプルは、プレートの表面から流れ出る。
特許文献5には、蓋と本体を含む微生物培養容器について記載されている。これは、本体と蓋は多角形で、好ましくは6角形で、壁には蓋を開け閉めするために凹みをつけているものである。
特許文献6記載のプレートは、透明なプラスチック板の上に、生化学反応用の小円形のくぼみを多数作り、その中で遺伝子等の生化学物質に反応を起こさせるもので、プラスチック板に平行光線を照射し、反応液の透過性や光の波長による透過性の差を利用して、生化学反応の結果を光センサーなどの光反応により電気信号に変えるものである。
また、特許文献7には、複数のウェルが一列に接続されたウェルプレートと、ウェルの閉口を密封する滅菌シートからなり、使用するウェル毎に滅菌シートを貼る事を特徴とする使い捨て培養容器が記載されている。ウェルプレートは3〜9個のウェルによってユニットが形成されたものであり、複数のウェルプレートと、実質的に連続した滅菌シートとを有するマルチウェルプレートからなる培養容器である。
【0006】
しかし、文献1〜5の記載のプレートを用いる方法は、最確数値は独自に計算した値で、ISO4831(Microbiology-general guidance for enumeration of coliforms-most probable number technique)の表とは異なる。また、文献1〜3記載のプレートを用いる方法は特殊な機械が必要である。
【特許文献1】米国特許5518892号
【特許文献2】米国特許5620895号
【特許文献3】米国特許5753456号
【特許文献4】米国特許5700655号
【特許文献5】米国特許5792654号
【特許文献6】特開昭62-197766号公報
【特許文献7】特開平4-58880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、このような背景から、ISO4831の表を使うことができ、試験管操作等が必要でない更に簡易な方法で菌数が測定できるプレ−トを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、下記プレートを用いれば、ISO4831の表を使うことができ、簡易な方法で菌数が測定できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、傾斜プレートに、0.1mL容のウェル、1mL容のウェル及び10mL容のウェルをそれぞれ3〜10設け、最下に液だめを設け、ウェルの上から試料溶液を流すと、全てのウェルが試料溶液で満され、更に液だめに試料溶液が貯まるようにした菌数測定用プレートを提供するものである。
また、本発明は、傾斜プレートに、上から順に、0.1mL容のウェル、1mL容のウェル及び10mL容のウェルをそれぞれ3〜10設け、最下に液だめを設け、0.1mL容のウェルの上から試料溶液を流すと、全てのウェルが試料溶液で満され、更に液だめに試料溶液が貯まるようにした菌数測定用プレートを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のプレートを用いれば、ISO4831の表を使うことができ、簡易な方法で菌数を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のプレートは、傾斜しているプレートに、0.1mL容のウェル、1mL容のウェル及び10mL容のウェルをそれぞれ3〜10設け、最下に液だめを設けた構造となっている。
好ましい態様としては、傾斜しているプレートに、上から順に、0.1mL容のウェル、1mL容のウェル及び10mL容のウェルをそれぞれ3〜10設け、最下に液だめを設けた構造が挙げられる。そして、0.1mL容のウェルの上流から試料溶液を流すと、0.1mL容のウェルが先ず満たされ、次に1mL容のウェル、その次に10mL容のウェルが試料溶液で満され、最後に液だめに試料溶液が貯まる。
従って、本発明のプレートは、一箇所から試料溶液を流せばよく、試験管ごとに試料溶液を一定量入れる手間が省ける。また、各ウェルは従来の最確数法に用いる各試験管の役割を果たすので、ISO4831の表を使うことができる。更に、液だめ中の試料溶液も菌の有無の判定に役立つ。
【0012】
本発明のプレートの材質は、特に限定されないが、透明なプラスチックが好ましく、例えばポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレ−ト、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂等の熱可逆性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。また、プレート上には、雑菌が入らないように蓋を設けることが好ましい。
【0013】
次に、図面を用いて本発明をより詳細に説明する。
本発明のプレートとしては、例えば図1〜3に示すプレート1が挙げられる。
図1は斜視図、図2は平面図、図3は断面図である。
プレート1の上面は、傾斜しており(図3参照)、試料溶液が流れるようになっている。
試料溶液は、プレートの上流部から流す。そうすると、試料溶液は整流部2によりせき止められ、一部がスリット部から流れ出し、0.1mL容の各ウェル3に均等に流れる。整流部2は複数のスリット部を有する板状物である。試料溶液は、ウェル3を満たした後、1mL容のウェル4に流れ、これを満たし、さらに10mL容のウェル5に流れ、これを満たし、全てのウェルが満たされた後の試料溶液は液だめ6に貯まる。
【0014】
試料溶液をこのように注入した後、培養する。培養後、測定対象菌の増殖または所定の反応が認められたウェル数を陽性管数とし、最確数表より試料100mlまたは100g中の菌数を求める。
なお、各ウェルの数を変えることにより、MPN5本法のみならず、MPN3本法やMPN10本法が適用できるプレ−トの作成も可能である。さらに、液だめ6も菌の有無の判定に役立つ。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を、実施例等を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等になんら限定されるものではない。
【0016】
(方法および材料)
本発明のプレートとして、図1に示すプレート1を作成した。外寸は124mm×81mm×42mmであった。0.1mL容のウェル、1mL容のウェル及び10mL容のウェルは夫々5つ設けた。すなわち、MPN5本法用のプレートである。
一方、従来から使われているMPN表(5本法、ISO4831:Microbiology-general guidance for enumeration of coliforms-most probable number technique)では、最低1.8CFU/100mL(10μL 1mL 0.1mL = 0 0 0)から最高>1600 CFU/100mL(5 5 5)までであるため、ブルーライト培地(ECブルーと同組成の培地)500mLに2CFU〜1600 CFU/100mLになるように大腸菌を懸濁した。この懸濁液を、各5本ずつ用意した空の滅菌試験管へ10mL、1mL、0.1mL分注し、滅菌モルトン栓をして、35℃、24時間培養し、陽性試験管からMPN値を求めた。
本発明のプレート1には、該懸濁液100mlをデカンタで流し込んだ。
更に対照として、BGLB培地を準備し、同じ懸濁液を10ml、1ml、0.1ml接種した。35℃、48時間後ダーラム管中のガスの有無を確認して、陽性と陰性の判定をした。懸濁液10mlを接種するBGLB培地は、3倍濃度のBGLB培地5mlを準備した。
【0017】
供試菌株
E. coli ATCC 11775菌株をトリプトソイブイヨンで、35℃、24時間培養した菌液を滅菌生理食塩水で適宜希釈した。
【0018】
MPN法の検討(1)
試験
1回目. 菌液の10-6の2ml/800ml
2回目. 菌液の10-6の0.2ml/100ml
3回目. 菌液の10-6の0.1ml/100ml
4回目. 菌液の10-7の0.4ml/100ml
【0019】
接種時間の比較
ECブル−100に菌液を用意し、本発明プレ−ト1と試験管(MPN5本法)への接種時間をストップウオッチで測定した。
【0020】
(結果及び考察)
結果を表1〜4に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
E. coli ATCC 11775のトリプトソイブイヨンで、35℃、24時間培養した菌液は1回目:2.04x109/ml、2回目:2.0x109/ml、3回目:1.85x109/ml、4回目:9.2x108/mlであった。接種した菌液の実測値と計算値および試験管と本発明によるMPN値(下限、上限)はそれぞれ以下の結果であった(CFU/100ml):
1回目;440、500、348(118,1005)、348(118、1005)、
2回目;385、400、348(118、1005)、348(118、1005)、
3回目;480、185、542(180、1405)、920(210、3000)、
4回目;46、37、109(31、253)、141(37、343)。
【0026】
本発明プレ−トを用いた結果は、試験管を用いた結果と大差なく、全ての両方の結果は95%信頼限界内に収まった。
接種時間の比較においては、本発明プレ−トは10秒〜20秒、試験管は1分30秒〜2分で接種し培養できた。試験管では、ピペットは最低2種類が必要であった。
以上のことより、本発明プレ−トを用いれば、接種時間の短縮が確認でき、作業時間は6倍〜9倍短縮できると考えられる。
【0027】
MPN法の検討(2)
MPNプレ−トと試験管でのMPN値の相関を検討した。
上記の結果から、ECブル-の試験管法とMPNプレ−ト法の相関は0.97(図1)、BGLB培地試験管法とMPNプレ−ト法の相関は、0.94(図2)であった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のプレートを用いれば、ISO4831の表を使うことができ、簡易な方法で菌数を測定することができる。従って、作業の省力化、培養スペ−スの削減、ランニングコストの低減など経済的効果が見込める。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のプレートの一例を示す斜視図である。
【図2】本発明のプレートの一例を示す平面図である。
【図3】本発明のプレートの一例を示す断面図である。
【図4】ECブル-の試験管法とMPNプレ−ト法の相関を示す図である。
【図5】BGLB培地試験管法とMPNプレ−ト法の相関を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 プレート
2 整流部
3 0.1mL容のウェル
4 1mL容のウェル
5 10mL容のウェル
6 液だめ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜プレートに、0.1mL容のウェル、1mL容のウェル及び10mL容のウェルをそれぞれ3〜10設け、最下に液だめを設け、ウェルの上から試料溶液を流すと、全てのウェルが試料溶液で満され、更に液だめに試料溶液が貯まるようにした菌数測定用プレート。
【請求項2】
傾斜プレートに、上から順に、0.1mL容のウェル、1mL容のウェル及び10mL容のウェルをそれぞれ3〜10設け、最下に液だめを設け、0.1mL容のウェルの上から試料溶液を流すと、全てのウェルが試料溶液で満され、更に液だめに試料溶液が貯まるようにした菌数測定用プレート。
【請求項3】
ウェルの上部に整流部を有する請求項1又は2記載の菌数測定用プレート。
【請求項4】
整流部が複数のスリット部を有する板状物である請求項3記載の菌数測定用プレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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