説明

落雷位置標定補正装置、方法およびプログラム

【課題】落雷位置標定システムにより標定された落雷位置を補正する。
【解決手段】落雷位置標定補正装置10は、対象領域を格子状に分割する格子生成手段100と、構造物の高さ情報を含む構造物データ40を用いて格子ごとに構造物の最大高さを算出する格子毎構造物高さ算出手段101と、構造物最大高さを格子の高さとし、格子を保護する保護格子を回転球体法を用いて格子ごとに決定する格子毎保護格子算出手段102と、外部から落雷観測データを取得する落雷観測データ取得手段103と、落雷観測データで特定される落雷位置を含む落雷格子を求める落雷格子算出手段104と、落雷格子の保護格子を、格子毎保護格子算出手段102の処理結果を参照して求め、求めた保護格子の中心座標を落雷位置の補正座標とする落雷位置補正算出手段105とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷位置標定システムによって標定された落雷位置を補正する落雷位置標定補正装置、方法およびプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
落雷による被害の把握や、迅速な復旧作業のための被害場所の特定などのため、落雷位置を標定するシステムがある。よく知られている方法は、落雷により放出された電磁波を検知するセンサを複数設置し、電磁波が発生した方向や、電磁波を検知した時間差などを利用して落雷位置を標定する方法である。このような方法で日本全国をカバーした落雷位置標定システムとしてJLDN(Japan Lightning Detection Network:全国雷観測ネットワーク)がある(非特許文献1参照)。JLDNの平均的な位置標定精度は500m程度である。
【0003】
一方、構造物を落雷から保護するための被雷設備の規格では、最新の雷理論にもとづき、被雷設備の保護範囲を設定する場合には回転球体法を用いることとされた(非特許文献2参照)。回転球体法では、雷撃の最終段階では雷撃の先端から保護レベルに応じた半径の球体に接した構造物や大地に雷撃するという考え方に基づいている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】JLDN(全国雷観測ネットワーク),株式会社フランクリン・ジャパン,<http://www.franklinjapan.jp/>
【非特許文献2】「建築物等の雷保護」,JIS−A−4201,2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に開示された従来の落雷位置標定システムによる500m程度の位置標定精度では、落雷による被害からすみやかに復旧するために被害箇所を迅速に発見する情報としては十分ではない。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、落雷位置標定システムにより標定された落雷位置を、構造物の高さデータに基づいて補正する落雷位置標定補正装置、方法およびプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の落雷位置標定補正装置は、解析対象領域を格子状に分割する格子生成手段と、構造物の高さ情報を含む構造物データを用いて、前記格子生成手段が生成した格子ごとに構造物の最大高さを算出する格子毎構造物高さ算出手段と、この格子毎構造物高さ算出手段が算出した構造物最大高さを格子の高さとし、格子を保護する保護格子を回転球体法を用いて格子ごとに決定する格子毎保護格子算出手段と、外部から落雷の位置標定情報を含む落雷観測データを取得する落雷観測データ取得手段と、前記格子生成手段が生成した格子のうち、前記落雷観測データで特定される落雷位置を含む落雷格子を求める落雷格子算出手段と、この落雷格子算出手段が求めた落雷格子の保護格子を、前記格子毎保護格子算出手段の処理結果を参照して求め、求めた保護格子の中心座標を落雷位置の補正座標とする落雷位置補正算出手段とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の落雷位置標定補正装置の1構成例において、前記格子毎保護格子算出手段は、保護格子を決定しようとする対象格子を一つ抽出する対象格子抽出手段と、前記対象格子の中心の真上から球体が垂直に降下することを仮定し、前記対象格子の中心との最短距離が前記球体の半径Rよりも小さい格子を保護格子候補とする保護格子候補決定手段と、前記最短距離を求めたときの保護格子候補の起点の二次元座標および高さ座標によって定まる点を中心とする半径Rの球体と、前記対象格子の中心の垂線との交点を求め、交点の高さ座標のうち最も大きい座標を保護格子候補の接触高度とし、全ての保護格子候補のうち、最大の接触高度を有する保護格子候補を前記対象格子の保護格子と決定する保護格子決定手段とからなり、前記対象格子抽出手段と前記保護格子候補決定手段と前記保護格子決定手段とは、前記対象格子ごとに処理を行うことを特徴とするものである。
また、本発明の落雷位置標定補正装置の1構成例において、前記格子毎保護格子算出手段は、前記落雷観測データに落雷の電流値のデータが含まれる場合に、落雷の電流値に応じた最適な球体の半径Rを求め、この半径Rを用いて格子ごとの保護格子を決定することを特徴とするものである。
また、本発明の落雷位置標定補正装置の1構成例において、前記格子生成手段と前記格子毎構造物高さ算出手段と前記格子毎保護格子算出手段とは、前記落雷観測データを取得する前にあらかじめ処理を行うことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の落雷位置標定補正方法は、解析対象領域を格子状に分割する格子生成ステップと、構造物の高さ情報を含む構造物データを用いて、前記格子生成ステップで生成した格子ごとに構造物の最大高さを算出する格子毎構造物高さ算出ステップと、この格子毎構造物高さ算出ステップで算出した構造物最大高さを格子の高さとし、格子を保護する保護格子を回転球体法を用いて格子ごとに決定する格子毎保護格子算出ステップと、外部から落雷の位置標定情報を含む落雷観測データを取得する落雷観測データ取得ステップと、前記格子生成ステップで生成した格子のうち、前記落雷観測データで特定される落雷位置を含む落雷格子を求める落雷格子算出ステップと、この落雷格子算出ステップで求めた落雷格子の保護格子を、前記格子毎保護格子算出ステップの処理結果を参照して求め、求めた保護格子の中心座標を落雷位置の補正座標とする落雷位置補正算出ステップとを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の落雷位置標定補正プログラムは、落雷位置標定補正方法の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、解析対象領域を格子状に分割し、構造物の高さ情報を含む構造物データを用いて、格子ごとに構造物の最大高さを算出し、算出した構造物最大高さを格子の高さとして、格子を保護する保護格子を回転球体法を用いて格子ごとに決定し、外部から取得した落雷観測データで特定される落雷位置を含む落雷格子を求め、落雷格子の保護格子を求めて、求めた保護格子の中心座標を落雷位置の補正座標とすることにより、構造物の高さで落雷位置を補正することができ、落雷位置標定の精度向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る落雷位置標定補正装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る落雷位置標定補正装置の動作を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態における格子条件の例と格子条件に従って生成した格子の例とを示す図である。
【図4】本発明の実施の形態における構造物データの例と構造物データから算出した格子毎構造物高さデータの例とを示す図である。
【図5】回転球体法の考えに基づいた雷撃の進行の概念を表す図である。
【図6】回転球体法の考えに基づいた保護格子の求め方の概念を表す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る格子毎保護格子算出手段の処理を説明するフローチャートである。
【図8】保護格子候補の接触高度の求め方の概念を表す図である。
【図9】落雷の電流値と回転球体半径との関係を記憶するテーブルの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態を図面を用いて説明する。なお、本発明は下記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り様々な形態をとりうる。
図1は、本発明の実施の形態に係る落雷位置標定補正装置10の構成を示すブロック図である。
【0013】
[落雷位置標定補正装置10の構成の説明]
図1に示すように、落雷位置標定補正装置10は、格子生成手段100と、格子毎構造物高さ算出手段101と、格子毎保護格子算出手段102と、落雷観測データ取得手段103と、落雷格子算出手段104と、落雷位置補正算出手段105と、格子データ記憶部110と、格子毎構造物高さデータ記憶部111と、格子毎保護格子データ記憶部112と、落雷観測データ記憶部113と、落雷格子データ記憶部114とから構成される。
【0014】
図2は、落雷位置標定補正装置10の動作を説明するフローチャートである。まず、格子生成手段100は、解析対象領域を二次元格子状に分割する(ステップS1)。格子毎構造物高さ算出手段101は、分割された格子ごとに、構造物の高さ情報が記述された構造物データ40を用いて格子ごとの構造物の最大高さを計算する(ステップS2)。格子毎保護格子算出手段102は、格子が近隣の格子のうち、より高いどの格子によって落雷から保護されているかを、回転球体法を用いて格子ごとに算出する(ステップS3)。
【0015】
一方、落雷観測データ取得手段103は、補正の元となる落雷観測データを取得する(ステップS4)。落雷格子算出手段104は、落雷位置が格子生成手段100で作成されたどの格子に含まれるかを算出する(ステップS5)。落雷位置補正算出手段105は、落雷格子算出手段104で算出された格子がどの格子により保護されているかを、格子毎保護格子算出手段102で算出された結果を用いて算出し、算出結果を出力する(ステップS6)。以下、各手段についてより詳細に説明する。
【0016】
[格子生成手段100]
格子生成手段100は、格子条件30に記述された解析対象領域と格子間隔の条件とに従って解析対象領域を格子状に分割する(ステップS1)。格子の生成方法については、文献「村上周三,“CFDによる建築・都市の環境設計工学”,東京大学出版会,p10−12,2000年」に開示されている。
【0017】
格子条件30の例を図3(A)に示し、この格子条件30に従って生成した格子の例を図3(B)に示す。図3(A)に示した格子条件30には、東西方向(x方向)の情報xdefとして、格子数の情報「300」と、格子の始点の経度情報「139.5」と、格子の東西方向のサイズ情報「0.0001」とが記述され、さらに南北方向(y方向)の情報ydefとして、格子数の情報「200」と、格子の始点の緯度情報「36.1」と、格子の南北方向のサイズ情報「0.0001」とが記述されている。このような格子条件30により、図3(B)に示すように、始点の位置が東経139.5度、北緯36.1度で、東西方向のサイズが0.0001(経度)、南北方向のサイズが0.0001(緯度)の格子が東西方向に300個、南北方向に200個生成される。格子生成手段100が生成した格子のデータは、格子データ記憶部110に記憶される。
【0018】
なお、本実施の形態では、南北方向、東西方向に格子境界を設定した格子で説明するが、本発明はこれに限ったものではない。また、座標系について、本実施の形態では緯度経度で説明するが、平面直角座標系のような原点からの距離による座標系でもかまわない。また、回転球体法の半径などのメートル単位と緯度経度座標系は適宜相互に変換することとする。変換手法は既知で広く使われているため、説明は省くこととする。
【0019】
[格子毎構造物高さ算出手段101]
格子毎構造物高さ算出手段101は、解析対象領域の構造物の位置情報と高さ情報とが記述されている構造物データ40を読み込み、格子生成手段100がステップS1で生成した格子ごとに構造物の最大高さを算出する(ステップS2)。構造物データ40としては、構造物の外形と高さ情報とが電子的に記録された住宅地図などの電子地図や、電柱や鉄塔などの位置と高さ情報とが含まれる設備データなどを利用する。
【0020】
図4(A)、図4(B)に住宅地図と設備データとから算出した格子毎構造物高さデータの例を示す。図4(A)はステップS1で生成された格子に構造物データ40を投影した図である。図4(A)における400,401,402は建物、403,404は電柱または鉄塔である。建物400,401,402の高さはそれぞれ50m、30m、100mであり、電柱または鉄塔403,404の高さは10mである。図4(B)は格子毎の構造物の最大高さを算出した結果を示す図である。各格子内に記述されている最大高さの単位はmである。このように、格子毎構造物高さ算出手段101が算出した格子毎構造物高さデータは、各格子の構造物の最大高さを示す。この格子毎構造物高さデータは、格子毎構造物高さデータ記憶部111に記憶される。
【0021】
なお、構造物データ40から、格子ごとに含まれる構造物を求める方法は、計算流体力学の分野で既知のためここでは説明しない。また、標高データを利用して、格子の最大高さを補正することも考えられる。
【0022】
[格子毎保護格子算出手段102]
格子毎保護格子算出手段102は、格子毎構造物高さ算出手段101がステップS2で算出した構造物最大高さを格子の高さとして扱う。そして、格子毎保護格子算出手段102は、格子が近隣の格子のうち、より高いどの格子によって落雷から保護されているかを、回転球体法を用いて格子ごとに算出する(ステップS3)。
【0023】
雷撃の最終段階では雷撃の先端が球体に接した構造物や大地に雷撃するという回転球体法の考えに基づくと、雷撃が構造物高さの低い格子の上空から進んできた場合、雷撃の最終段階で構造物高さが高く且つ球体500が接する近隣の格子に落雷すると考えられる(図5)。ここでは、構造物高さの低い格子は構造物高さの高い格子に保護されていると考える。以下、構造物高さの低い格子の上空に来た雷撃を構造物高さの低い格子の代わりに受ける格子を、構造物高さの低い格子の保護格子と呼ぶこととする。図5の例では、構造物高さの低い格子501の保護格子は502である。図5におけるz方向は高さ方向を表す。
【0024】
格子毎保護格子算出手段102は、各格子の保護格子を、回転球体法に基づいて算出する。具体的には、図6に示すように、計算対象となる格子601の中心の真上から半径Rの球体600が垂直に降りてきたと仮定し、最初に球体600に接する格子を求める。この格子が保護格子602である。
【0025】
図7は、格子毎保護格子算出手段102の処理を説明するフローチャートである。
[対象格子を抽出]
まず、格子毎保護格子算出手段102は、保護格子を求めていない格子群から計算対象の格子を一つ抽出する(ステップS10)。格子毎保護格子算出手段102は、例えば北西端の格子から順に格子を選択すればよい。
【0026】
[保護格子候補抽出」
続いて、格子毎保護格子算出手段102は、半径Rの球体に接する可能性のある格子を保護格子候補として抽出する(ステップS11)。球体はステップS10で抽出した対象格子の中心の真上から垂直に降りてくると仮定するため、対象格子の中心との最短距離が半径Rよりも小さい格子が保護格子候補となる。対象格子の近隣にある格子と対象格子の中心との最短距離は、対象格子の近隣にある格子の位置に応じて以下の(a)〜(h)のいずれかで求まる。なお、対象格子自身も保護格子候補に含まれる。
【0027】
(a)対象格子と緯度が同じで東側にある格子の場合には、この格子の西側の辺の中心を起点として、この起点と対象格子の中心との距離を最短距離とする。
(b)対象格子と緯度が同じで西側にある格子の場合には、この格子の東側の辺の中心を起点として、この起点と対象格子の中心との距離を最短距離とする。
(c)対象格子と経度が同じで北側にある格子の場合には、この格子の南側の辺の中心を起点として、この起点と対象格子の中心との距離を最短距離とする。
(d)対象格子と経度が同じで南側にある格子の場合には、この格子の北側の辺の中心を起点として、この起点と対象格子の中心との距離を最短距離とする。
(e)対象格子の北東にある格子の場合には、この格子の南西端を起点として、この起点と対象格子の中心との距離を最短距離とする。
(f)対象格子の南東にある格子の場合には、この格子の北西端を起点として、この起点と対象格子の中心との距離を最短距離とする。
(g)対象格子の南西にある格子の場合には、この格子の北東端を起点として、この起点と対象格子の中心との距離を最短距離とする。
(h)対象格子の北西にある格子の場合には、この格子の南東端を起点として、この起点と対象格子の中心との距離を最短距離とする。
【0028】
[保護格子決定]
次に、格子毎保護格子算出手段102は、保護格子候補の起点の二次元座標(x,y座標)と保護格子候補の高さ座標(z座標)によって定まる点を中心とする半径Rの球と、対象格子の中心の垂線との交点を求め、1個乃至2個の交点のz座標のうち最も大きいz座標をその保護格子候補の接触高度とする。格子毎保護格子算出手段102は、このような接触高度の算出を保護格子候補ごとに行う。そして、格子毎保護格子算出手段102は、すべての保護格子候補のうち、最大の接触高度を有する保護格子候補を対象格子の保護格子と決定する(ステップS12)。
【0029】
図8は、保護格子候補の接触高度の求め方の概念を表す図である。図8における800は対象格子、801,802,803,804は保護格子候補、805,806,807,808はそれぞれ保護格子候補801,802,803,804の起点の二次元座標および高さ座標によって中心が定まる球、809は対象格子800の中心の二次元座標および高さ座標によって中心が定まる球である。また、810,811,812,813はそれぞれ球805,806,807,808と対象格子800の中心の垂線815との交点であり、保護格子候補801,802,803,804の接触高度を示す点である。814は球809と対象格子800の中心の垂線815との交点であり、対象格子800の接触高度を示す点である。上記のとおり、対象格子800の場合には、対象格子800の中心の二次元座標と対象格子800の高さ座標によって球809の中心が定まる。
【0030】
最大の接触高度を有する保護格子候補が複数ある場合は、その中から一つを保護格子として選択すればよい。このとき、保護格子を選択する方法としては、格子高さがより高い格子を選択する方法、対象格子により近い格子を選択する方法などがあるが、ランダムで選んでもよい。
格子毎保護格子算出手段102は、以上のステップS10〜S12の処理を、ステップS1で生成された全ての格子の保護格子を決定し終えるまで(ステップS13においてyes)、繰り返し行う。格子毎保護格子算出手段102が決定した保護格子のデータは、格子毎保護格子データ記憶部112に記憶される。
【0031】
回転球体の半径Rについては、JIS規格に則り、20m、30m、45mまたは60mのいずれか一つとする。ただし、これら複数または全部の半径Rごとに保護格子を求めておいてもよい。また、落雷観測データ取得手段103が取得する落雷観測データに電流値が含まれている場合、電流値ごとに利用する半径Rを変更する方法もある。詳細は落雷格子算出手段105で説明する。
なお、分かりやすさのため、図5、図6、図8はxz平面の二次元で記載したが、格子毎保護格子算出手段102は上記記載のように3次元座標で処理を行う。
【0032】
[落雷観測データ取得手段103]
次に、落雷観測データ取得手段103は、通信回線21を介して落雷観測データ配信ネットワーク20から落雷観測データを取得する(ステップS4)。この落雷観測データは、落雷観測データ記憶部113に記憶される。落雷観測データ配信ネットワーク20は、例えば非特許文献1に開示された落雷位置標定システムに接続されており、落雷位置標定システムから落雷観測データが得られるようになっている。落雷観測データは、少なくとも落雷の位置標定情報を含むこととし、落雷時刻や電流値などの情報が含まれていてもよい。
【0033】
なお、本実施の形態では、通信回線21を介して落雷観測データ配信ネットワーク20から落雷観測データを取得するとしているが、他の手段によって落雷観測データを取得するようにしてもよい。例えば、落雷観測データが蓄積された外部記憶装置から読み込む形態でもよい。
【0034】
[落雷格子算出手段104]
落雷格子算出手段104は、格子生成手段100がステップS1で生成した格子のうち、落雷観測データで特定される落雷位置を含む落雷格子を求める(ステップS5)。落雷格子算出手段104が求めた落雷格子のデータは、落雷格子データ記憶部114に記憶される。
【0035】
[落雷位置補正算出手段105]
落雷位置補正算出手段105は、落雷格子算出手段104がステップS5で求めた落雷格子の保護格子を、格子毎保護格子算出手段102がステップS3(S10〜S13)で行った結果を参照して求め、求めた保護格子の中心座標を補正座標とする(ステップS6)。つまり、落雷位置標定システムが決定した落雷位置を含む格子は、落雷格子算出手段104がステップS5で求めた落雷格子であるが、実際には保護格子の位置に落雷したものと推定する。
【0036】
落雷観測データに落雷の電流値のデータが含まれる場合には、格子毎保護格子算出手段102が落雷の電流値に応じた最適な回転球体半径Rを求め、この回転球体半径Rを用いてステップS10〜S13で説明したような処理を行って格子ごとの保護格子を求め、落雷位置補正算出手段105が落雷格子の保護格子を求め、この保護格子の中心座標を補正座標とすればよい。
【0037】
電流値ごとに最適な回転球体半径Rについては、例えば図9に示すようなテーブル900をあらかじめ用意しておき、このテーブル900に従って回転球体半径Rを決める方法が考えられる。
落雷位置補正算出手段105は、補正座標を含んだ落雷情報を、通信回線51を介して外部ネットワーク50に出力する。なお、他の手段によって落雷情報を出力してもよく、例えば落雷位置標定補正装置10に接続された表示手段によって落雷情報を表示したり、図示しない外部記憶装置に落雷情報を出力したりしてもよい。
【0038】
なお、上記の手段のうち格子生成手段100、格子毎構造物高さ算出手段101および格子毎保護格子算出手段102はあらかじめ処理を行っておくことが可能である。格子生成手段100、格子毎構造物高さ算出手段101および格子毎保護格子算出手段102があらかじめ処理を行って、格子の生成と保護格子の決定とをしておくことにより、落雷観測データをリアルタイムで取得して補正座標をリアルタイムで出力することもできる。ただし、落雷の電流値ごとに最適な回転球体半径Rを用いる場合には、落雷の電流値ごとにステップS10〜S13の処理を行って、落雷の電流値ごとに保護格子をあらかじめ決定しておき、落雷位置補正算出手段105が落雷位置を含む格子の保護格子を求める際に、落雷の電流値に応じた保護格子を選択できるようにしておく必要がある。
【0039】
以上のように、本実施の形態では、非特許文献1に開示された従来の落雷位置標定システムにより標定された落雷位置を、構造物の高さデータと回転球体法に基づいて補正することができる。
【0040】
本実施の形態で説明した落雷位置標定補正装置10は、CPU、記憶装置およびインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このようなコンピュータを動作させるための落雷位置標定補正プログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体に記録された状態で提供される。CPUは、読み込んだプログラムを記憶装置に書き込み、このプログラムに従って本実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、JLDNなどの落雷位置標定システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
10…落雷位置標定補正装置、20…落雷観測データ配信ネットワーク、21…通信回線、30…格子条件、40…構造物データ、50…外部ネットワーク、51…通信回線、100…格子生成手段、101…格子毎構造物高さ算出手段、102…格子毎保護格子算出手段、103…落雷観測データ取得手段、104…落雷格子算出手段、105…落雷位置補正算出手段、110…格子データ記憶部、111…格子毎構造物高さデータ記憶部、112…格子毎保護格子データ記憶部、113…落雷観測データ記憶部、114…落雷格子データ記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析対象領域を格子状に分割する格子生成手段と、
構造物の高さ情報を含む構造物データを用いて、前記格子生成手段が生成した格子ごとに構造物の最大高さを算出する格子毎構造物高さ算出手段と、
この格子毎構造物高さ算出手段が算出した構造物最大高さを格子の高さとし、格子を保護する保護格子を回転球体法を用いて格子ごとに決定する格子毎保護格子算出手段と、
外部から落雷の位置標定情報を含む落雷観測データを取得する落雷観測データ取得手段と、
前記格子生成手段が生成した格子のうち、前記落雷観測データで特定される落雷位置を含む落雷格子を求める落雷格子算出手段と、
この落雷格子算出手段が求めた落雷格子の保護格子を、前記格子毎保護格子算出手段の処理結果を参照して求め、求めた保護格子の中心座標を落雷位置の補正座標とする落雷位置補正算出手段とを備えることを特徴とする落雷位置標定補正装置。
【請求項2】
請求項1記載の落雷位置標定補正装置において、
前記格子毎保護格子算出手段は、
保護格子を決定しようとする対象格子を一つ抽出する対象格子抽出手段と、
前記対象格子の中心の真上から球体が垂直に降下することを仮定し、前記対象格子の中心との最短距離が前記球体の半径Rよりも小さい格子を保護格子候補とする保護格子候補決定手段と、
前記最短距離を求めたときの保護格子候補の起点の二次元座標および高さ座標によって定まる点を中心とする半径Rの球体と、前記対象格子の中心の垂線との交点を求め、交点の高さ座標のうち最も大きい座標を保護格子候補の接触高度とし、全ての保護格子候補のうち、最大の接触高度を有する保護格子候補を前記対象格子の保護格子と決定する保護格子決定手段とからなり、
前記対象格子抽出手段と前記保護格子候補決定手段と前記保護格子決定手段とは、前記対象格子ごとに処理を行うことを特徴とする落雷位置標定補正装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の落雷位置標定補正装置において、
前記格子毎保護格子算出手段は、前記落雷観測データに落雷の電流値のデータが含まれる場合に、落雷の電流値に応じた最適な球体の半径Rを求め、この半径Rを用いて格子ごとの保護格子を決定することを特徴とする落雷位置標定補正装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の落雷位置標定補正装置において、
前記格子生成手段と前記格子毎構造物高さ算出手段と前記格子毎保護格子算出手段とは、前記落雷観測データを取得する前にあらかじめ処理を行うことを特徴とする落雷位置標定補正装置。
【請求項5】
解析対象領域を格子状に分割する格子生成ステップと、
構造物の高さ情報を含む構造物データを用いて、前記格子生成ステップで生成した格子ごとに構造物の最大高さを算出する格子毎構造物高さ算出ステップと、
この格子毎構造物高さ算出ステップで算出した構造物最大高さを格子の高さとし、格子を保護する保護格子を回転球体法を用いて格子ごとに決定する格子毎保護格子算出ステップと、
外部から落雷の位置標定情報を含む落雷観測データを取得する落雷観測データ取得ステップと、
前記格子生成ステップで生成した格子のうち、前記落雷観測データで特定される落雷位置を含む落雷格子を求める落雷格子算出ステップと、
この落雷格子算出ステップで求めた落雷格子の保護格子を、前記格子毎保護格子算出ステップの処理結果を参照して求め、求めた保護格子の中心座標を落雷位置の補正座標とする落雷位置補正算出ステップとを備えることを特徴とする落雷位置標定補正方法。
【請求項6】
請求項5記載の落雷位置標定補正方法において、
前記格子毎保護格子算出ステップは、
保護格子を決定しようとする対象格子を一つ抽出する対象格子抽出ステップと、
前記対象格子の中心の真上から球体が垂直に降下することを仮定し、前記対象格子の中心との最短距離が前記球体の半径Rよりも小さい格子を保護格子候補とする保護格子候補決定ステップと、
前記最短距離を求めたときの保護格子候補の起点の二次元座標および高さ座標によって定まる点を中心とする半径Rの球体と、前記対象格子の中心の垂線との交点を求め、交点の高さ座標のうち最も大きい座標を保護格子候補の接触高度とし、全ての保護格子候補のうち、最大の接触高度を有する保護格子候補を前記対象格子の保護格子と決定する保護格子決定ステップとからなり、
前記対象格子抽出ステップと前記保護格子候補決定ステップと前記保護格子決定ステップとを、前記対象格子ごとに実行することを特徴とする落雷位置標定補正方法。
【請求項7】
請求項5または6記載の落雷位置標定補正方法において、
前記格子毎保護格子算出ステップは、前記落雷観測データに落雷の電流値のデータが含まれる場合に、落雷の電流値に応じた最適な球体の半径Rを求め、この半径Rを用いて格子ごとの保護格子を決定することを特徴とする落雷位置標定補正方法。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか1項に記載の落雷位置標定補正方法において、
前記格子生成ステップと前記格子毎構造物高さ算出ステップと前記格子毎保護格子算出ステップとを、前記落雷観測データを取得する前にあらかじめ実行することを特徴とする落雷位置標定補正方法。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれか1項に記載の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とする落雷位置標定補正プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−194097(P2012−194097A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59010(P2011−59010)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)