説明

落雷電荷評価システム、落雷判定方法、落雷電荷評価方法

【課題】電界波形データ及び磁界波形データにピークが生じた際に、そのピークがリーダの発生によるものであるか、落雷の発生によるものであるかを判定できるようにする。
【解決手段】電界及び磁界の時間変化を示す電界データ及び磁界データにおける所定の勾配以上のピークが落雷によるものか否かを判定する際に、ピークから所定の期間内における単位時間幅ごとの電界データ又は磁界データの相関係数の絶対値を算出し、算出した相関係数の絶対値が前記変化後に急激に低下する場合には、ピークが落雷によるものであると判定し、緩やかに低下する場合には、ピークがリーダによるものであると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界波形データ及び磁界波形データにピークが生じた際に、そのピークが落雷によるものであるか否かを判定する方法及びこの判定方法を用いた落雷電荷評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
落雷は送電設備等に被害を及ぼすことから、従来より、雷の接近を検知するための装置が提案されている。また、本願出願人らは、落雷は電荷量が大きいほど、被害の程度も大きくなることから、電界及び磁界を測定し、測定した電界波形データ及び磁界波形データに基づき、落雷の電荷量を算出する装置を提案している(例えば、特許文献1、2参照)。このような装置では、電界波形データに大きな変化(以下、ピークという)が生じた場合に、このピークが落雷によるものか否かを、そのピークの変化量及び勾配に基づいて判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007―315910号公報
【特許文献2】特開2007―315911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
落雷発生前には、放出された一部の雷電荷が放電するリーダが発生するが、このようなリーダが生じた場合であっても、電界波形データにはピークが生じる。このような場合にも、上記の方法では、リーダの発生を落雷の発生と誤認してしまい、不要な電界波形データ及び磁界波形データの取込みを行ってしまうことがある。
そして、リーダが観測された場合であっても、リーダに続く落雷による電界及び磁界波形データの変化が小さい場合があるため、リーダが観測された場合にデータの取込みを行ってしまうと、落雷による電界及び磁界波形データの変化が小さく、電荷評価の対象とはならない場合についてのデータも取込んでしまうこととなる。このような不要なデータの取り込みを防止すべく、落雷によりピークが生じた場合のみに電界波形データ及び磁界波形データの取込みが可能となることが望ましい。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、電界波形データ及び磁界波形データにピークが生じた際に、そのピークがリーダの発生によるものであるか、落雷の発生によるものであるかを判定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の落雷電荷評価システムは、落雷発生時の落雷電荷を算出する落雷電荷評価システムであって、測定対象地点における電界及び磁界の時間変化を示す電界データ及び磁界データを取得するデータ取得手段と、前記データ取得手段により取得された電界データ又は磁界データに所定の勾配以上の変化が観測されると、前記変化から所定の期間内における単位時間幅ごとの電界データ又は磁界データの相関係数の絶対値を算出し、前記算出した相関係数の絶対値が所定の基準値以上の減少勾配で減少するか否かを判定する勾配判定手段と、前記勾配判定手段により、前記算出した相関係数の絶対値が所定の基準値以上の減少勾配で減少すると判定された場合に、前記電界データ及び磁界データに基づき、落雷電荷を算出する落雷電荷算出手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
上記の落雷電荷評価システムにおいて、前記所定の勾配以上の変化の前後の所定の時間における電界データのレベル差を算出し、この電界データのレベル差が基準電界レベル差よりも大きいか否かを判定する電界レベル差判定手段を備え、前記落雷電荷算出手段は、前記勾配判定手段により、前記算出した相関係数の絶対値が所定の基準値以上の減少勾配で減少すると判定され、かつ、前記電界レベル差判定手段により、電界データのレベル差が基準電界レベル差よりも大きいと判定された場合に、落雷電荷を算出してもよい。
【0008】
また、本発明の落雷判定方法は、電界及び磁界の時間変化を示す電界データ及び磁界データにおける所定の勾配以上の変化が落雷によるものか否かを判定する方法であって、前記変化から所定の期間内における単位時間幅ごとの電界データ又は磁界データの相関係数の絶対値を算出し、前記算出した相関係数の絶対値が所定の基準値以上の減少勾配で減少する場合には、前記変化が落雷によるものであると判定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の落雷電荷評価方法は、落雷発生時の落雷電荷を算出する落雷電荷評価方法であって、測定対象地点における電界及び磁界の時間変化を示す電界データ及び磁界データを取得するデータ取得ステップと、前記データ取得ステップにおいて取得した電界データ又は磁界データに所定の勾配以上の変化が観測されると、前記変化から所定の期間内における単位時間幅ごとの電界データ又は磁界データの相関係数の絶対値を算出し、前記算出した相関係数の絶対値が所定の基準値以上の減少勾配で減少するか否かを判定する勾配判定ステップと、前記勾配判定ステップにおいて算出した相関係数の絶対値が所定の基準値以上の減少勾配で減少すると判定された場合に、前記電界データ及び磁界データに基づき、落雷電荷を算出する落雷電荷算出ステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電界データに所定の勾配以上の変化が観測された場合に、電界データ及び磁界データの単位時間幅ごとの相関係数の絶対値を算出し、この相関係数の絶対値の変化が基準勾配よりも小さいか否かを判定している。これにより、電界データの変化が落雷の発生によるものであるか、リーダの発生によるものであるかを判定することができ、確実に、落雷時の落雷電荷のデータを取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】落雷前後の電界波形データ及び磁界波形データを示すグラフである。
【図2】図1におけるA部を時間軸を拡大して示すグラフである。
【図3】図1におけるB部を時間軸を拡大して示す図である。
【図4】リーダ発生時及び落雷発生時の前後における相関係数を示すグラフである。
【図5】リーダが発生した場合及び落雷が発生した場合におけるリーダ又は落雷の発生前後における電界レベルを比較するグラフである。
【図6】測定地点の遠方で落雷が発生した場合における電界波形データ及び磁界波形データを示すグラフである。
【図7】測定地点の遠方で落雷が発生した場合における電界波形データ及び磁界波形データの相関係数を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態である落雷電荷評価装置2を含むシステム1の全体構成図である。
【図9】リーダ発生時点の判定方法を説明するための図である。
【図10】ΔEを求める方法を説明するための図である。
【図11】落雷電荷評価システムにより、落雷電荷を算出する流れを説明するためのフローチャートである。
【図12】STEP104における落雷判定部によりピークが計測子局の近傍で発生した落雷によるものか否かを判定する流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の落雷電荷評価システムの一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、落雷前後の電界波形データ及び磁界波形データを示すグラフであり、図2は、図1におけるA部を時間軸を拡大して示すグラフであり、図3は、図1におけるB部を時間軸を拡大して示す図である。
落雷が発生する際には、落雷の前に前駆現象であるリーダが発生する。図1〜3に示すように、リーダが発生する前には電界波形及び磁界波形はノイズが生じているものの、略一定の値となっている。
図1、図2に示すように、リーダが発生した後、電界波形及び磁界波形には振動的変化が生じる。この電界波形及び磁界波形に生じる振動的変化は、略同期しているが、リーダ発生後、電界は徐々に大きくなるものの、磁界はリーダ発生前と同程度の大きさである。
【0013】
また、図1、図3に示すように、落雷が発生した場合にも、電界波形及び磁界波形には振動的変化が生じる。この電界波形及び磁界波形に生じる振動的変化も、リーダの発生時と同様に略同期している。しかし、落雷が生じた時点で電界は急激に増大し、落雷後も徐々に大きくなる。これに対して、磁界波形には振動は生じるものの、しばらくするとリーダ発生前と同程度の大きさに戻る。
【0014】
ここで、従来技術の欄に記載したように、電界波形データに所定の勾配以上の変化が観測された場合に落雷が発生したと判定する方法では、リーダが発生した場合であっても、上記のように電界波形データに大きな振動が生じるため、落雷が発生したと誤判定してしまうという問題があった。
【0015】
そこで、本願発明者は、図1〜図3についての上記考察に基づいて、リーダ発生時の前後数百μ秒の期間と、落雷発生時の前後数百μ秒の期間とについて、50μ秒間隔で電界波形データと磁界波形データの相関係数を算出した。図4は、リーダ発生時及び落雷発生時の前後における相関係数を示すグラフである。同図に示すように、リーダ発生前は、相関係数はほぼ0であるが、リーダ発生時には、相関係数が約0.9と非常に高い値となっている。そして、リーダ発生から500μ秒経過するまで、相関係数が0.3以上の値となっている。
これに対して、落雷発生時の相関係数は、リーダ発生時と同様に、落雷発生前は約0であり、落雷発生時には約0.9と非常に高い値となる。しかしながら、落雷発生後50μ秒では依然として相関係数は高い値であるものの、落雷発生後100μ秒経過時点では、約0まで低下している。
【0016】
このように、リーダ発生時及び落雷発生時に共通して、リーダ又は落雷発生時までの間は、相関係数がほぼ0であるが、リーダ又は落雷の発生直後は、相関係数は約0.9程度まで上昇する。しかし、落雷の場合には、落雷発生後約100μ秒経過するまでの間に、相関係数がほぼ0まで急激に低下するのに対して、リーダの場合には、リーダ発生後約500μ秒経過しても、相関係数は0.3以上であり、相関係数は緩やかに低下する。
【0017】
また、本願発明者は、リーダが発生した場合及び落雷が発生した場合におけるリーダ又は落雷の発生前後における電界レベルを比較した。図5はこの比較結果を示すグラフである。同図に示すように、リーダの場合における電界レベルは、リーダ発生前(150μ秒前)は約−0.38、リーダ発生時には約−0.28、リーダ発生後(150μ秒後)は約−0.35であった。なお、リーダ発生前と発生後の電界レベルの差は0.023であった。
【0018】
これに対して、落雷の場合における電界レベルは、落雷の発生前(150μ秒前)は約0.05であり、落雷の発生時は約0.17であり、落雷の発生後(約150μ秒後)は約0.17であった。なお、落雷発生前と発生後の電界レベルの差は0.115であった。
【0019】
このように、リーダの場合には、リーダ発生時に電界レベルが大きく変化するものの、所定の時間(150μ秒)経過すると、電界レベルがリーダ発生前に近い値になるのに対して、落雷の場合には、リーダ発生時に電界レベルが大きく変化し、その後もリーダ発生前の値に戻ることなく、リーダの発生前後で電界レベルが大きく変化する。
【0020】
なお、遠方で発生した落雷は、電界波形データや磁界波形データがノイズの影響を受け易いなどの理由で、正確に電荷量を算出することができず、電荷評価には適していない。図6は、測定地点の遠方で落雷が発生した場合における電界波形データ及び磁界波形データを示すグラフであり、図7は、電界波形データ及び磁界波形データの相関係数を示すグラフである。
【0021】
図7に示すように、遠方で落雷が発生した場合であっても、落雷発生後100μ秒までは相関係数が高いものの、100μ秒を超えると急激に相関係数が低下する。また、図6に示すように、落雷発生の前後での電界レベルの変化は、測定地点の近傍で落雷が発生した場合に比べて小さい。
【0022】
上記の結果をふまえ、本願出願人は、以下に説明するように、ピーク発生後の単位時間幅ごとの電界波形データと磁界波形データの相関係数の絶対値を算出し、この絶対値がピーク後、所定の勾配以上で急激に低下する場合には、ピークが落雷により発生したものであると判定し、所定の勾配以下で緩やかに低下する場合には、ピークがリーダにより発生したものであると判定し、落雷により発生したものであると判定した場合に、電界波形データと磁界波形データとに基づいて落雷電荷を評価する落雷電荷評価システムを提案する。
図8は、本発明の一実施形態である落雷電荷評価装置2を含むシステム1の全体構成図である。同図に示すように、本実施形態の落雷電荷評価装置2には、雷放電位置標定装置40と、複数の計測子局10とが接続されている。
【0023】
計測子局10は、電界計測部12及び磁界計測部14を備えており、雷の監視対象地域に例えば数十km程度の間隔で各地に配置される。電界計測部12は、計測子局10の設置地点での電界を計測し、電界の時間変化を示すデータ(以下、電界波形データという)を生成する。また、磁界計測部14は、計測子局10の配置された地点での磁界を計測し、磁界の時間変化を示すデータ(以下、磁界波形データという)を生成する。そして、これらの電界波形データ及び磁界波形データは、当該計測子局10の識別情報と共に、落雷電荷評価装置2へ伝送される。
【0024】
また、雷放電位置標定装置40は、雷放電から放射される電磁波を複数の地点で受信し、それらの受信した電磁波を解析することにより、落雷位置を標定する機能を有する周知の装置であり、その詳細は、例えば、岸本保夫、「雷観測システムおよび雷保護規格の最新動向」、[online]、NTTファシリティーズ総合研究所、[平成21年6月17日検索]、インターネット<URL:http://www.ntt-fsoken.co.jp/research/pdf/2005_kish.pdf>等に記載されている。雷放電位置標定装置40により標定された落雷位置を示す情報は、落雷電荷評価装置2へ伝送される。
【0025】
図8に示すように、落雷電荷評価装置2は、データ取得部20、落雷判定部21、データ読込部22、落雷位置取得部28、落雷発生時点検知部23、リーダ検知部24、リーダ進展時間算出部25、電荷高度算出部26、及び、落雷電荷算出部27の各機能部と、一時記憶部31と、CRTや液晶等のディスプレイ装置である表示装置30とを備えている。なお、落雷電荷評価装置2は、例えば、コンピュータシステムにより構成され、一時記憶部31は例えば、メモリ上に構築され、また、上記機能部20〜30はコンピュータのCPUがハードディスク装置などの記憶装置に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより実現される。
【0026】
データ取得部20は、計測子局10から伝送されてきた電界波形データ及び磁界波形データを取得する。データ取得部20が取得した電界波形データ及び磁界波形データは、一時記憶部31に記録される。
一時記憶部31は、データ取得部20が取得した電界波形データ及び磁界波形データを所定の時間分記憶しており、これらデータは常時更新される。
【0027】
落雷判定部21は、データ取得部20が取得した磁界波形データ及び電界波形データに基づいて、取得した磁界波形データ及び電界波形データにおける落雷の有無を判定する。以下、落雷の発生の有無の判定方法を説明する。
落雷判定部21には、予め、後述する相関係数を算出する対象となる所定の期間(例えば、ピーク時から500μ秒;以下、検討期間という)と、相関係数を算出する間隔(例えば、50μ秒:以下、単位時間幅という)と、リーダであるか落雷であるかを判定する基準となる基準勾配(例えば、検討期間における減少値が0.5)が設定されている。
【0028】
落雷判定部21は、電界波形データにおいて、短時間に急激に大きさが変化するピークが生じた場合に、具体的には、判定基準としてメモリに記憶されている所定の勾配で、所定の強度を超えるような急峻な電界変化が生じた場合に、検討期間内の電界波形データと磁界波形データについて、単位時間幅ごとの相関係数の絶対値を算出する。
【0029】
そして、算出した相関係数の絶対値のピーク後の変化が基準勾配よりも小さい場合には、このピークは、リーダの発生によるものであると判定する。一方、算出した相関係数の絶対値のピーク後の変化が基準勾配よりも大きい場合には、このピークは落雷によるものであると判定する。
【0030】
さらに、落雷判定部21には、予め、ピークの前後における電界レベルの差を求めるための、ピーク前及びピーク後の基準となる基準時間(例えば、ピーク前50μ秒とピーク後1000μ秒)と、電荷評価の対象とするか否かを決定するための基準となる基準電界レベル差(例えば、0.1V)が設定されている。
【0031】
落雷判定部21は、上記のように、算出した検討期間内の相関係数が基準相関係数を超える場合には、ピークの前後の基準時間における電界レベルの差を算出する。そして、算出した電界レベル差が基準電界レベル差よりも大きい場合には、電荷量評価の対象とすると判定し、基準電界レベル差以下の場合には、電荷量評価の対象とはしないと判定する。
【0032】
データ読込部22は、落雷判定部21により電荷量評価の対象とすると判定された場合に、一時記憶部31より電界波形データ及び磁界波形データを取得する。
また、落雷位置取得部28は、雷放電位置標定装置40から伝送されてきた落雷位置情報を取得する。
【0033】
落雷発生時点検知部23は、電荷量評価の対象とすると判定された場合には、そのピークの発生時点を、落雷発生時点とする。より具体的には、所定の勾配を超える急峻な電界変化が生じた時点を、落雷発生時点とする。
【0034】
リーダ検知部24は、落雷判定部21により電荷量評価の対象とすると判定された場合に、データ読込部22が取得した磁界波形データに基づいて、落雷発生に先行して起こるリーダの発生時点を検知する。リーダ検知部24は、落雷発生時点検知部23が検知した落雷発生時点より前の所定期間における電界波形データ又は磁界波形データを参照し、その期間内で磁界波形に、短時間の間に電界の大きさの急激な変化やピークが現れた場合に、急激な変化やピークの発生時点を、リーダ発生時点であると判定する。より具体的には、落雷発生時点を判定する場合と同様に、所定の勾配かつ所定の強度を超える急峻な電界変化あるいは磁界変化が生じた時点を、リーダ発生時点と判定する。図9に示すように、数十マイクロ秒程度の微小時間の間に電界の大きさが急激に変化するピークが現れた場合においては、符号Xの時点がリーダ発生時点と判定される。なお、図9では、電界波形のピークは符号A,B,C,D等で示すように、複数回生じているが、これは、1回の落雷が複数回の放電に分かれて起きることによるものである。
【0035】
リーダ進展時間算出部25は、リーダ検知部24が検知したリーダ発生時点から、落雷発生時点検知部23が検知した落雷の発生時点までの時間をリーダ進展時間として算出する。
【0036】
電荷高度算出部26は、リーダ進展時間算出部25で算出されたリーダ進展時間と、リーダ進展速度とに基づいて落雷電荷の高度を算出する。上述のように、雷雲から放出されたリーダが地表に向けて進展して、地上に到達することにより落雷が発生するのであるが、その際にリーダが雷雲から地表に向けて進展する際の速度がリーダ進展速度であり、一般に、0.2m/μsである。したがって、電荷高度算出部26は、リーダ発生時点から落雷時点までの時間であるリーダ進展時間に、リーダ進展速度を乗ずることにより、落雷電荷の高度(地上からの高さ)を求めることができる。
【0037】
落雷電荷算出部27は、上記のように電荷高度算出部26で求めた落雷電荷の高さと、落雷位置取得部28が取得した落雷発生位置と、データ取得部20が取得した電界波形データとに基づいて落雷電荷を算出する。
【0038】
一般に、雷の電荷に関して、雷の有する電荷量Q(C)は次式(1)で表されることが知られている。
【数1】

ただし、πは円周率、ε0は空気の誘電率であり、ΔE(V/m)は落雷の前後での電界の変化量、D(m)は落雷が地上に到達した落雷地点から観測地点までの水平距離、H(m)は雷発生直前の電荷の高度を示している。
【0039】
落雷電荷Qを求めるのに必要なパラメータのうち、落雷電荷の高さHは、上記のように、電荷高度算出部26により算出でき、距離Dは、電界波形データ及び磁界波形データの送信元である計測子局10の位置情報と、落雷位置取得部28が取得した落雷位置情報とから算出できる。また、落雷による電界変化ΔEは電界波形データから求めることができる。なお、落雷電荷評価装置2は、各計測子局10の識別情報と、位置情報との対応関係を保持するデータベースを備えており、電荷高度算出部26は、電界波形データ及び磁界波形データと共に送られてきた識別情報に基づき、上記データベースを参照して、計測子局10の位置情報を取得することができる。
【0040】
以下において、電界波形データから落雷による電界変化ΔEを求める手法について説明する。
図10は、落雷が発生したときの電界及び磁界の波形を、上記図9よりも時間スケールを千倍程度に拡大して示す図である。一般に、落雷は電荷が複数回に分けて地上に放電して起こることが多く、図9に示す電界波形にも、複数回の放電に対応する複数回の変化が生じている。このうち、同図の電界波形に現れる電界変化ΔE1、ΔE2、ΔE3、ΔE5、ΔE6、ΔE7は急峻に立ち上がっており、落雷に伴う電界変化であると判断できる。これに対して、電界変化ΔE4は、比較的小さな緩やかな勾配で電界が上昇することにより生じている。このような緩やかな電界の変化は、ノイズによって生ずることもあり、この電界変化ΔE4は落雷による放電によるものかどうか、電界波形から直ちに判定することは困難である。
【0041】
これに対して、本実施形態では、落雷電荷算出部27は、以下のように、磁界波形データを参照することにより、電界変化ΔE4のような緩やかな変化が落雷によるものか否かを正確に判定できるようにしている。
【0042】
本願出願人らが行った調査・研究によると、落雷により電界変化が生じている間、図7に符号S1、S2、S3、S5、S6、S7等で示すように、磁界も間欠的に変化することが分っている。そこで、落雷電荷算出部27は、上記電界変化ΔE4のように緩やかな電界変化が生じている期間の磁界波形データにノイズレベルを超える変化が生じているか否かを判定し、磁界に変化が生じていれば(図10においては、符号S4)、当該電界変化は落雷による電界変化であると判断する。そして、落雷による最初に電界変化(図10の例では、ΔE1)が起きる直前の電界の値E0から、最後の電界変化(図10の例ではΔE7)が終了した時点での電界の値Eeまでの各電撃による実効的な電界変化の総量Etotal(=ΔE+ΔE+ΔE+ΔE+ΔE+ΔE+ΔE)を落雷による電界変化ΔEとし、これを(1)式に代入して、落雷電荷Qを算出する。なお、ここでは、図10に示す電界変化ΔE7の後、一定時間をおいても落雷による電界変化が現れていなかったものとして、このΔE7を今回の落雷による最後の電界変化であると判断している。
【0043】
落雷電荷算出部27は、上記の式Etotal=ΔE+ΔE+ΔE+ΔE+ΔE+ΔE+ΔEにより計算されるEtotalを、落雷による電界変化量ΔEとして求める。
【0044】
そして、落雷電荷算出部27は、上記求めた電界変化量ΔEと、電荷高度算出部26により求められた電界高度Hと、計測子局10の位置情報と、落雷位置取得部28が取得した落雷位置情報とから算出される距離Dとを(1)式に代入することにより、落雷電荷Qを計算する。
【0045】
表示装置30は、落雷高度算出部30で算出した落雷高度や、落雷電荷算出部27で算出した落雷電荷を表示し、必要に応じて、データ取得部20で取得したデータと、落雷位置取得部28で取得した位置情報も表示する。
【0046】
以下、落雷電荷評価システム1により、落雷電荷を算出する流れを図11に示すフローチャートを参照しながら説明する。
常時、計測子局10の電界計測部12及び磁界計測部14が、それぞれ設置された地点での電界及び磁界を測定し、電界及び磁界に応じた電界波形データ及び磁界波形データを落雷電荷評価装置1へ送信する。そして、落雷電荷評価装置1は、データ取得部20により電界波形データ及び磁界波形データを取得し、取得された電界波形データ及び磁界波形データは一時記憶部31に一時的に記録され、常時更新される。
【0047】
落雷電荷評価装置1は、常時、落雷判定部21により電界波形データを監視し(STEP100)、電界波形データにおいてピークを観測すると(STEP102)、落雷判定部により、このピークが計測子局10の近傍で発生した落雷によるものか否かを判定する(STEP104)。
【0048】
図12は、落雷判定部21により、ピークが計測子局10の近傍で発生した落雷によるものか否かを判定する流れを示すフローチャートである。同図に示すように、まず、検討期間内の電界波形データと磁界波形データについて、単位時間幅ごとの相関係数の絶対値を算出する(STEP200)。
【0049】
次に、落雷判定部21により、算出した相関係数の絶対値の変化が基準勾配よりも大きいか否かを判定する(STEP202)。そして、STEP202において、相関係数の絶対値の変化が基準勾配よりも大きい場合(STEP202でYES)には、このピークはリーダによるものであると判定し(STEP203)、再びSTEP100に戻る。また、相関係数の絶対値の変化が基準勾配よりも小さい場合(STEP202でNO)には、このピークは落雷によるものであると判定する(STEP206)。
【0050】
STEP206において、ピークは落雷によるものであると判定された場合には、ピークの前後の基準時間における電界レベルの差を算出し(STEP208)、算出した電界レベル差と基準レベル差とを比較する(STEP210)。そして、電界レベルの差が基準レベル差以下である場合(STEP210でNO)には、このピークは遠方での落雷又はリーダによるものと判定し(STEP212)、STEP100へ戻る。また、電界レベル差が基準レベル差よりも大きい場合(STEP210でYES)には、近傍での落雷によるものであるので、このピークを落雷電荷の算出の対象とする旨判定する(STEP214)。
【0051】
このようにして、STEP104において、落雷判定部21により近傍での落雷以外の原因によるものと判定された場合には、STEP100に戻り、電界波形データを監視する。
【0052】
また、STEP104において、落雷判定部21によりピークが近傍での落雷によるものと判定された場合には、データ読取部22が一時記憶部31より所定の時間長さの電界波形データ及び磁界波形データを読み込む(STEP106)。
【0053】
次に、落雷発生時点検知部23により、電界波形データに所定の勾配を超える急峻な電界変化が生じた時点を落雷発生時点とする(STEP108)。
次に、リーダ検知部24により、データ読込部22が取得した磁界波形データに基づいて、落雷発生に先行して起こるリーダの発生時点を検知する(STEP110)。
【0054】
次に、リーダ進展時間算出部25により、リーダ検知部24が検知したリーダ発生時点から、落雷発生時点検知部23が検知した落雷の発生時点までの時間をリーダ進展時間として算出する(STEP112)。
次に、電荷高度算出部26により、リーダ進展時間算出部25で算出されたリーダ進展時間と、リーダ進展速度とに基づいて落雷電荷の高度を算出する(STEP114)。
【0055】
次に、落雷位置取得部28により、落雷発生位置を取得する(STEP116)。
次に、落雷電荷算出部27は、電荷高度算出部26により算出された落雷電荷の高度と、落雷位置取得部が取得した落雷発生位置と、データ読込部22が一時記憶部31から読み込んだ電界波形データとに基づいて落雷電荷を算出する(STEP118)。
【0056】
このようにして算出された落雷電荷は、データ読込部22が読み込んだ電界波形データ及び磁界波形データや、落雷位置取得部28が取得した位置情報ともに表示装置30により画面表示する(STEP120)。
【0057】
以上説明したように、本実施形態によれば、電界波形データにピークが観測された場合に、電界波形データ及び磁界波形データの単位時間幅ごとの相関係数の絶対値を算出し、この相関係数の絶対値の変化が基準勾配よりも小さいか否かを判定している。これにより、ピークが落雷の発生によるものであるか、リーダの発生によるものであるかを判定することができ、確実に、落雷時の落雷電荷のデータを取得することができる。
【0058】
さらに、ピークの前後における電界レベルの差を算出し、算出した電界レベル差と基準電界レベル差とを比較しているため、実際は、リーダによるピークであるものの、相関係数が検討期間内を通じて基準相関係数を超えてしまった場合や、落雷が遠方で発生した場合のデータを除くことができ、確実に落雷電荷の算出に適した近傍での落雷時の落雷電荷のデータのみを取得することができる。
【0059】
なお、本実施形態では、特開2007―315910号公報記載の方法と同様にして、落雷電荷を算出するものとしたが、落雷電荷の算出方法はこれに限られず、適宜な方法を用いることができる。
【0060】
また、本実施形態では、電界波形データ及び磁界波形データの検討期間内の相関係数の絶対値を算出した後、落雷電荷を算出するものとしたが、これに限らず、相関係数の絶対値を算出する際に、落雷電荷を並行して算出することとしてもよい。
【0061】
また、本実施形態では、STEP202において、ピーク後の相関係数の絶対値が基準相関係数の変化が基準勾配よりも小さいか否かを判定しているが、これに限らず、例えば、検討期間内において、相関係数の絶対値が所定の値よりも小さくなるか否かに基づき判定してもよく、要するに、相関係数が緩やかに低下しているか、急激に低下しているかを判定できればよい。
【符号の説明】
【0062】
1 システム 2 落雷電荷評価装置
10 計測子局 12 電界計測部
14 磁界計測部 20 データ取得部
21 落雷判定部 22 データ読込部
23 落雷発生時点検知部 24 リーダ検知部
25 リーダ進展時間算出部 26 電荷高度算出部
27 落雷電荷算出部 28 落雷位置取得部
30 表示装置 31 一時記憶部
40 雷放電位置標定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
落雷発生時の落雷電荷を算出する落雷電荷評価システムであって、
測定対象地点における電界及び磁界の時間変化を示す電界データ及び磁界データを取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段により取得された電界データ又は磁界データに所定の勾配以上の変化が観測されると、当該変化が観測された時点から所定の期間内における単位時間幅ごとの電界データ又は磁界データの相関係数の絶対値を算出し、前記算出した相関係数の絶対値が所定の基準値以下の減少勾配で減少するか否かを判定する勾配判定手段と、
前記勾配判定手段により、前記算出した相関係数の絶対値が所定の基準値以上の減少勾配で減少すると判定された場合に、前記電界データ及び磁界データに基づき、落雷電荷を算出する落雷電荷算出手段とを備えることを特徴とする落雷電荷評価システム。
【請求項2】
請求項1記載の落雷電荷評価システムであって、
前記所定の勾配以上の変化の前後の所定の時間における電界データのレベル差を算出し、この電界データのレベル差が基準電界レベル差よりも大きいか否かを判定する電界レベル差判定手段を備え、
前記落雷電荷算出手段は、前記勾配判定手段により、前記算出した相関係数の絶対値が所定の基準値以上の減少勾配で減少すると判定され、かつ、前記電界レベル差判定手段により、電界データのレベル差が基準電界レベル差よりも大きいと判定された場合に、落雷電荷を算出することを特徴とする落雷電荷評価システム。
【請求項3】
電界及び磁界の時間変化を示す電界データ及び磁界データにおける所定の勾配以上の変化が落雷によるものか否かを判定する方法であって、
前記変化から所定の期間内における単位時間幅ごとの電界データ又は磁界データの相関係数の絶対値を算出し、
前記算出した相関係数の絶対値が所定の基準値以上の減少勾配で減少する場合には、前記変化が落雷によるものであると判定することを特徴とする落雷判定方法。
【請求項4】
落雷発生時の落雷電荷を算出する落雷電荷評価方法であって、
測定対象地点における電界及び磁界の時間変化を示す電界データ及び磁界データを取得するデータ取得ステップと、
前記データ取得ステップにおいて取得した電界データ又は磁界データに所定の勾配以上の変化が観測されると、前記変化から所定の期間内における単位時間幅ごとの電界データ又は磁界データの相関係数の絶対値を算出し、前記算出した相関係数の絶対値が所定の基準値以上の減少勾配で減少するか否かを判定する勾配判定ステップと、
前記勾配判定ステップにおいて算出した相関係数の絶対値が所定の基準値以上の減少勾配で減少すると判定された場合に、前記電界データ及び磁界データに基づき、落雷電荷を算出する落雷電荷算出ステップとを備えることを特徴とする落雷電荷評価方法。

【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−37387(P2012−37387A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177908(P2010−177908)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)