説明

葉片状二水石膏及びその製造方法

【課題】 従前にない葉片状という特殊独特な形状を持ち、ひ素及び重金属を特に低減した高純度の石膏及びそれを不純物含有量の高い排脱石膏からも製造可能とした効率的製造方法の提供。
【解決手段】 その石膏は長径20〜150μm、短径10〜50μm、厚さ0.5〜2μmで、かつ長径と短径との比が1〜10、厚さに対する長径の比(アスペクト比)が10〜100であり、それは過飽和度を0.15mol/L以上とした石膏溶液から急速に結晶を析出させることで製造することができるものである。
その際には、石膏溶液は加熱石膏水溶液がよく、急速に結晶を析出させるには過飽和度が0.15mol/L以上となるまで静置して冷却した後に、撹拌により行うのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特徴的な形態を有する葉片状二水石膏及びその製造する方法に関する。
より詳しくは、葉片状という、新規で特徴的な形態を有する二水石膏及びそれを過飽和溶液から析出させることにより製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明で製造対象とする石膏は、その起源によって天然石膏と化学石膏に大別される。
そのうちの天然石膏は、世界各地に比較的豊富に存在する資源のひとつであり、各大陸には純度の良い豊富な埋蔵量の鉱床が少なくない。
これに対し、化学石膏は、石灰と硫酸の反応により合成されたり、化学工業の製造過程で副生されたり、排煙脱硫過程でも副生することなどで得られる。
【0003】
また、その石膏は、結晶水の数によって、二水石膏、半水石膏(焼石膏)、無水石膏がある。
特に、そのうちの半水石膏は、それに水を加えて練り合わせると一度失った結晶水を吸収して二水石膏となり硬化する性質を有する。
石膏はこの特性を生かして工業分野から医療分野まで、更には工芸分野にまで利用されており、多くの分野で活用されている。
その石膏の結晶形状としては、天然石膏には多くの形態が有り、外観の結晶状態や形状によって分類され、透明石膏、繊維石膏、雪花石膏、塊状石膏、雲母状石膏、砂状石膏、粘土質石膏などの呼称が与えられている。
【0004】
また、化学石膏の結晶は、大部分が粉粒状や微小短繊維状をしており、概観上粉体であるが、板状等のものもあり、それらに関しては以下に示すような提案がある。
なお、石膏の繊維化を目的に二水石膏を水熱反応によって繊維状〜針状の半水石膏に転化した合成繊維石膏もある。
その石膏の純度については、天然石膏の場合産地によって純度及び含有される有害成分の量が異なる。
さらに、化学石膏の場合もその生成方法によって含有される有害成分の量が異なる。
【0005】
【特許文献1】特開2002−29740号公報
【特許文献2】特開2001−328808号公報
【特許文献3】特開平7−330329号公報
【特許文献4】特開昭56−41828号公報
【特許文献5】特開昭55−47224号公報
【特許文献6】特開昭48−71392号公報
【特許文献7】特開昭50−158595号公報
【0006】
例えば、特許文献1では、炭酸カルシウム、消石灰、生石灰、カルシウム化合物を水相中に溶解後、鉱酸と反応させて不溶解残渣を除去した後にドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ等の媒晶剤の存在下において硫酸と反応させて、純粋な硫酸カルシウムを得る方法が提案されている。
ここで得られた純粋な硫酸カルシウムの粒子は、短軸系150μm、短軸系と長軸系の比(特許文献1における表現のアスペクト比)2〜4の板状形態であると記載されている。
しかしながら、本発明者らが炭酸カルシウム(石灰石粉末)を原料として用い、特許文献1と同一条件で硫酸カルシウムの製造を行ったところ、短径20〜80μm、長径40〜200μm、厚さ3〜8μmの板状又は柱状の粒子の製造が確認された。
したがって、得られた硫酸カルシウムは本発明の葉片状二水石膏の形状とは異なるものである。
【0007】
特許文献2には、原料の副生石膏を塩酸に溶解させた石膏溶液又はスラリーを0.5〜3℃/minの速度で冷却することによって、長径が2mm以上で、短径が1〜200μmの繊維状粒子の二水石膏を得る方法が開示されている。
なお、特許文献2で製造される石膏は繊維状であり、本発明で得られる石膏の葉片状とは形状が明らかに異なっており、更にそれを得るための製造プロセスにおいても本発明では特定の過飽和度とする、及びその後急速に結晶を析出させるなど明確な差異があり、これらの点で同文献記載のものとは異なっている。
【0008】
さらに、特許文献3では、硫酸バンドなどの媒晶剤、二水石膏を添加した希硫酸に炭酸カルシウム溶液を添加後にえられたスラリーのpH値を調整することによって嵩密度が0.4〜1.0g/cm3の板状や棒状石膏を得る方法を提案しているが、その石膏も同文献3の図2〜7(写真)に示される通り、その厚さは20〜40μmであることから、本発明のものとは明らかに形状が異なっており、本発明の技術に関するものではない。
特許文献4では、α半水石膏を水和させる際に半水石膏100重量部に対して30重量部以上の二水石膏を添加することによって「板状または柱状の厚みの有る結晶」を得ると記載されている。
しかしその記載内容からして明らかに本発明の葉片状二水石膏とは異なるものである。
【0009】
また、特許文献5では、無機塩類を含み遊離硫酸が70〜500g/Lの廃硫酸に液温90℃〜沸点において炭酸カルシウム、酸化カルシウムあるいは水酸化カルシウム等のカルシウム剤を反応後の遊離硫酸濃度が40〜60g/Lとなるように添加して得られた半水石膏をクエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、塩化ナトリウム、カゼインあるいはゼラチン等を含む水溶液中でpH5以上、液温70℃で板状二水石膏の種結晶を添加して1〜2時間保持することによって100〜120μmの六角板状二水石膏を得ることを開示する。
【0010】
しかしながら、その石膏も本発明のものとは明らかに形状が異なっており、特許文献5も本発明に関し開示するものではない。
なお、同文献では、比較例として50〜100μmの薄板状二水石膏を得る方法を例示するが、それに関し、本発明者らがそれと同一条件で該石膏の製造を行ったところ、得られた石膏は厚さが2〜10μmであり、本発明の葉片状二水石膏とは形状が異なるものであった。
【0011】
特許文献6では、消石灰と硫安の複分解反応を、圧力2気圧において、半水石膏スラリー中の硫安濃度を3〜8%、且つ102〜150℃の温度範囲において行ない、半水石膏スラリー中に生成したアンモニアを蒸留することによって除去した後、これに種結晶を添加して88〜96℃の温度範囲において水和させて100×200μmの板状二水石膏を得るが、本発明の葉片状二水石膏に較べ明かに大きく、同文献も本発明に関し開示するものではない。
しかも、その反応は高圧下におけるものであり簡便な生成方法とも言えない。
【0012】
さらに、特許文献7には、NaCl、MgClを含有する溶液中で原料石膏を加熱反応によって1.5〜2.5時間溶解させた後、種結晶を添加して5〜15時間静置熟成することによって柱状又は板状の石膏を得る方法が開示されている。
この文献開示の方法に関し、本発明者らがそれと同一条件で該石膏の製造を行ったところ、得られた石膏は短径5〜140μm、長径70〜200μm、厚さ10〜20μmの板状粒子であることを確認した。
【0013】
したがって、これは本発明の葉片状二水石膏と比較して厚さの点で明らかに異なり、かつ石膏析出に5〜15時間の静置熟成を必要としており、そのため板状石膏の生産効率は低いものとなっている。
なお、この文献7の方法では高温の溶媒中で原料石膏を煮沸させるものの、原料石膏を完全に溶解させることはないので、原料に含有される重金属をはじめとする有害物を除去することはできず、高品質のものを製造することはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明者らは、大量に副生するにもかかわらず十分に活用されていない排煙脱硫石膏に着目し、有効活用することができる石膏製品を製造するべく鋭意研究に努め、その結果開発に成功することができたのが本発明である。
したがって、本発明は、これまでにない独特の形状を持ち、かつ有害成分、特にひ素および重金属を除去した高純度の二水石膏(硫酸カルシウム二水和物ということもある)を得ることができる石膏の製造方法を提供することを解決すべき課題、すなわち目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記課題を解決した葉片状二水石膏およびその製造方法を提供するものである。
その前者の葉片状二水石膏は、長径20〜150μm、短径10〜50μm、厚さ0.5〜2μmで、かつ長径と短径との比が1〜10、厚さに対する長径の比(アスペクト比)が10〜100であることを特徴とするものである。
【0016】
後者の葉片状二水石膏を製造する方法は、過飽和度を0.15mol/L以上とした石膏溶液から急速に結晶を析出させるものであり、得られた石膏は長径20〜150μm、短径10〜50μm、厚さ0.5〜2μmで、かつ長径と短径との比が1〜10、厚さに対する長径の比(アスペクト比)が10〜100であることを特徴とするものである。
また、その葉片状二水石膏を製造する方法は、加熱石膏溶液を過飽和度が0.15mol/L以上となるまで静置して冷却した後に、撹拌により急速に結晶を析出させることが好ましく、さらに結晶を析出させる際の溶液温度は40℃以下、より好ましく35℃以下であり、かつ石膏溶液の溶媒は塩酸又は硝酸水溶液が好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の葉片状二水石膏は、前記したとおり長径20〜150μm、短径10〜50μm、厚さ0.5〜2μmで、かつ長径と短径との比が1〜10、厚さに対する長径の比(アスペクト比)が10〜100であることを特徴とするものであり、それは本発明者らが、初めて合成に成功した葉片状という独特な粒子形状を持ち、その純度は従前の技術で製造する高純度の石膏では得ることができないほど高純度のものである。
【0018】
特に強調すべきは、特殊な場合を除き、原料を副生石膏としても、含有される有害成分、特にひ素及び重金属の含有量が原料の副生石膏と対比して極端に低減することである。
具体的には、本発明の葉片状二水石膏では、その製造の際に不純な原料を用いても、有害成分、特にひ素の含有量を0.5mg/kg以下、重金属の含有量を2.0mg/kg以下とすることができる。
【0019】
すなわち、前記した従前の技術、例えば特許文献7の方法で製造できる石膏は、本願明細書の表1における比較例7に示すように、有害成分、特にクロムが7.9mg/kg、ひ素が2.3mg/kg含有されるが、本発明では、その方法では達成できない純度、特にひ素の含有量が0.5mg/kg以下、重金属の含有量が2.0mg/kg以下となる。
これは、日本薬局方及び食品添加物公定書に規定されている石膏におけるひ素及び重金属の含有基準である、ひ素の含有量0.5mg/kg以下、重金属の含有量が20mg/kg以下を十分に満たしている。
【0020】
その葉片状二水石膏は、過飽和度を0.15mol/L以上とした石膏溶液から急速に結晶を析出させる、好ましくは加熱石膏溶液を過飽和度が0.15mol/L以上となるまで静置して冷却した後に、撹拌により急速に結晶を析出させることにより製造するものであるから、類似した形状の板状あるいは薄板状石膏製造の場合のように析出に長時間を要することがないので効率的に製造することができる。
【0021】
このようにして製造した本発明の葉片状二水石膏は、形態が葉片状であることにより滑り性に優れ、化粧品原料としての特長を有するばかりでなく、含有される有害成分が極めて少量であることから、化粧品、医薬品あるいは食品添加物等の高純度であることが要求され、これまで多く用いられることがなかった新たな用途への使用が期待できる。
また、ある程度の純度が要求される医療用石膏鋳型原料、更には石膏ボードをはじめとする建材として建築物として利用後、建築物を解体するにあたり発生する建築廃材として産業廃棄物処分場に埋め立て処分した際に地下水への有害成分の溶出の恐れが全く無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、発明を実施するための最良の形態を含む本発明の実施の態様について詳細に説明するが、本発明はそれによって何等限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によって特定されるものであることはいうまでもない。
本発明の葉片状二水石膏は、前記したとおり長径20〜150μm、短径10〜50μm、厚さ0.5〜2μmで、かつ長径と短径との比が1〜10、厚さに対する長径の比(アスペクト比)が10〜100であることを特徴とするものである。
【0023】
その石膏の製造方法は、過飽和度を0.15mol/L以上とした石膏溶液から急速に結晶を析出させるものであり、好ましくは、加熱石膏溶液を過飽和度が0.15mol/L以上となるまで静置して冷却した後に、撹拌により急速に結晶を析出させるものである。
また、その方法における結晶を析出させる際の溶液温度は40℃以下が好ましく、より好ましくは35℃以下であり、石膏溶液の溶媒は鉱酸、具体的には塩酸又は硝酸水溶液が好ましい。
【0024】
石膏溶液を形成する際には粉状の石膏を用いるのがよく、それには、天然の石膏、合成した石膏、燐酸精製時の副生石膏、排煙脱硫により副生する石膏等各種の石膏を粉体状にしたものが特に制限されることなく使用できる。
前記のとおりではあるが、原料石膏は燐酸精製時の副生石膏又は排煙脱硫時に副生する石膏又は金属精錬時に副生する石膏を利用することが資源の有効活用上望ましい。
特にそれらの副生石膏は、有害成分を多く含有するために利用が限られていること、また将来、余剰が見込まれることから、その用途の拡大や適正な利用が問題となっており、その有効活用は有意義である。
【0025】
本発明の原料の石膏の含水形態は、二水石膏に限定されるものではなく、半水石膏あるいは無水石膏であってもよい。
それは、本発明の葉片状二水石膏の製造が、石膏を一旦溶解し、その後冷却することにより析出させる晶析操作によるものであるからである。
すなわち、溶媒中に溶解できる石膏であれば、溶解後の析出時には二水石膏が析出するからである。
【0026】
原料石膏粉の溶解に使用する溶媒については、石膏粉を溶解し、再度析出させることができるものであれば特に制限されることはないが、塩酸、硝酸を始めとする鉱酸を含有する溶液を用いれば、加温時に石膏粉を溶解し、冷却時に石膏を析出させることができる。
その濃度は、例えば塩酸(塩酸水溶液)の場合、塩化水素(HCl)の濃度が2mol/L以上6mol/L未満が良く、好ましくは3mol/L以上5mol/L未満である。
なお、このような範囲が好ましいのは、塩酸の濃度が4.5〜5.0mol/Lの範囲で石膏の溶解度がピークとなり、5.0mol/Lを超えても効率的な石膏の製造ができないからである。
【0027】
この溶媒による石膏の溶解は、全量溶解するのが生産効率上あるいは純度向上の点で好ましいが、一部未溶解のままでも良い。
なお、その場合には未溶解の石膏粉を沈降又は濾過させた後に上澄み液のみを晶析操作に利用する事で、全量溶解させた場合と同様の効果が得られる。
前記のようにして溶解した後は石膏溶解溶液又はスラリー(以下石膏溶液と略称する場合がある)が形成されることになる。
【0028】
石膏の溶解に使用する溶媒の濃度については、溶媒の特徴にあった実施しやすい濃度で行なえば良い。
例えば、塩酸水溶液の場合は、2mol/L未満では加温時の硫酸カルシウムの溶解度が低く、冷却時に析出する葉片状二水石膏の量が少なくなり、合成の効率が低くなる。
逆に溶媒の濃度が6mol/Lを超えても、石膏の溶解度は低くなり、効率的に葉片状二水石膏が得られないという知見を得ている。
つまり、石膏の溶解度は、前記したとおり塩酸の濃度が4.5〜5.0mol/Lの範囲にピークがあり、5.0mol/Lを超えても効率的な石膏の製造ができない。
【0029】
加熱石膏溶液を形成する際の加熱は、加熱した石膏溶液が得られるものであれば特に制限されることなく採用でき、例えば、予め溶媒を加熱し、石膏粉を添加混合した後も所定温度維持のために加熱を継続する方法がある。
また、これとは逆に常温の溶媒に石膏粉を添加混合し、その後加熱して所定温度に加熱することもでき、各種の手法が特に制限されることなく採用できる。
その原料石膏粉を溶解するための加温温度は60℃以上105℃未満が良く、好ましくは80℃以上100℃未満である。
【0030】
その理由は、60℃未満では、加温時と冷却時の溶媒に対する石膏の溶解度の差が小さく、葉片状二水石膏の合成効率が低くなるからである。
また、逆に105℃を超えると、石膏溶液から揮発する溶媒の蒸気量が増加し、周辺の金属製品の腐食・劣化を促進すると共に、周辺の作業環境の悪化を招き好ましくなく、さらに、溶媒等の沸騰による石膏溶液等の飛散等の危険があるからである。
【0031】
前記のようにして石膏溶液を形成した後に、冷却等により石膏の過飽和溶液を形成し、ついで急速に結晶を析出させることになる。
その際の過飽和溶液の形成は冷却による方法が、簡便さと溶媒が再利用できる点で好ましいが、過飽和溶液が形成できる方法であればそれ以外の方法でもよく、特に限定されない。
すなわち、石膏の溶解度を向上させるために溶媒中に存在する成分(例えばHCl)を中和、揮発、吸着、分解等の方法により低減、変質、捕捉等させ、石膏の溶媒に対する溶解度を低下させて過飽和溶液を得てもよい。
【0032】
過飽和溶液形成後は、急速に石膏を析出させることが必要であり、そのためには撹拌が好ましいが、それ以外の方法でもよく、それには種晶の添加等が例示できる。
冷却により過飽和溶液を形成する際には、冷却する温度、すなわち石膏の晶析を開始させる温度は40℃以下がよく、好ましくは35℃以下がよい
なお、前記のような温度がよいとするのは、原料石膏粉を溶解させる温度の溶媒に対する硫酸カルシウムの溶解度と、葉片状二水石膏を析出させる温度での溶媒に対する石膏の溶解度の差が小さい場合、繊維状二水石膏が混入し、葉片状二水石膏が生成しにくくなるからである。
【0033】
石膏を溶解した石膏溶液の結晶析出時における過飽和度は0.15mol/L以上が必要であるが、それは、過飽和度が小さい状態で攪拌等により石膏溶液から急速に石膏を析出させた場合、繊維状二水石膏が混入し、葉片状二水石膏が生成しにくくなるからである。
また、冷却速度は、3℃/min以上が好ましいが、その理由は、冷却速度が3℃/minを下回り、特に2℃/minより遅い場合、冷却時に石膏溶液に繊維状二水石膏が混入し、葉片状二水石膏が生成しにくくなるからである。
加えて、合成される石膏の純度は石膏溶液の冷却速度に影響されることがないため、必要以上に結晶の冷却時間を長くとることは、合成の効率が悪化することになる。
【0034】
析出した葉片状石膏は、濾過、遠心分離等の固液分離操作で溶液から分離されれるが、分離したままの葉片状二水石膏は、粒子間に多くの残留する溶媒等を含んでおり、これを取り除くことが必要である。
その溶媒除去には無水又は低水分の低級アルコールによる洗浄を用いることができる。 その無水又は低水分の低級アルコールは、溶媒の溶解度が高く、かつ水とも良く混合するため、葉片状二水石膏粒子間に残留する水あるいは溶媒等の除去に好適である。
【0035】
その無水又は低水分の低級アルコールを使用する洗浄によって、葉片状二水石膏の粒子間の水あるいは鉱酸等の溶媒が除去されることにより、乾燥時に葉片状二水石膏の粒子どうしが固着することを防ぐことができる。
その洗浄に使用される低級アルコール類としては、メタノールあるいはプロパノ−ル等が例示できる。
なお、晶析操作時の溶媒による加熱溶解あるいは溶解後の冷却は、常圧下で実施するのが簡便な装置が使用可能等の理由により好ましいが、加圧あるいは減圧下で実施することも可能であり、本発明はかかる環境下で実施することを排除するものではない。
【0036】
本発明の葉片状二水石膏は、長径20〜150μm、短径10〜50μm、厚さ0.5〜2μmで、かつ長径と短径との比が1〜10、厚さに対する長径の比(アスペクト比)が10〜100で特異な形状となっており、この点が本発明の一つの特徴である。
さらに、使用する原料石膏の種類に関わらず含有される有害成分、特にひ素の含有量が0.5mg/kg以下、重金属の含有量が2.0mg/kg以下に低減されるのであり、この点も形状の特異性と共に本発明の特徴の一つである。
【0037】
本発明の好ましい製造態様は、常圧下で60〜105℃に加熱した濃度2〜6mol/Lの水溶液溶媒中で石膏粉を溶解し、形成された石膏水溶液を0〜40℃に冷却した後、この石膏水溶液を攪拌することによって二水石膏の結晶を析出させるものであり、その際の石膏水溶液の過飽和度は0.15mol/L以上、冷却速度は3℃/min以上がよい。
それにより、本発明では有害成分特にひ素の含有量が0.5mg/kg以下、重金属の含有量が2.0mg/kg以下に低減されている葉片状二水石膏が製造できる。
なお、石膏を溶解する際の溶媒の加熱温度は生産効率上は80〜100℃がより好ましい。
【0038】
[実施例1ないし8及び比較例による形状及び純度等の比較]
以下において、本発明の複数の実施例及び比較例を用いて、本発明の葉片状石膏の形状及び純度等に関し更に具体的に説明するが、本発明は、その実施例等によって何等限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によって特定されるものであることはいうまでもない。
なお、実施例及び比較例に記載する溶解度の数値は、本発明者らが塩酸溶媒に対する溶解度を測定し、その結果を図示した図1から読み取った値である。
【実施例1】
【0039】
[95℃、4.5N塩酸による排脱石膏からの製造]
排煙脱硫で副生した二水石膏(以下、排脱石膏と言う)46g(硫酸カルシウム二水和物として43g)を濃度4.5mol/Lの塩酸800mlに分散し、加温して95℃に維持しながら60分間攪拌を行なった。
この時の塩酸溶媒(すなわち塩酸水溶液)に対する二水石膏の溶解度は、0.31mol/Lとなる。
【0040】
その後、攪拌を停止し、未溶解成分を濾過によって分離して、濾液を別容器に移し、その濾液の硫酸カルシウムが溶解している塩酸溶液を毎分3℃の速さで28℃まで静置して冷却した。
この時点における塩酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は、図1より0.12mol/Lとなる。
その後攪拌を開始し、硫酸カルシウム二水和物の結晶を液中に析出させた。
【0041】
その析出した硫酸カルシウム二水和物の結晶をブフナー漏斗と濾紙を用いて、塩酸溶液から濾別し、濾紙上の硫酸カルシウム二水和物の高純度結晶を無水メタノールで洗浄し、塩酸と水分を除き、50℃で乾燥し、高純度葉片状二水石膏の結晶を得た。
その得られた葉片状二水石膏結晶の観察結果及び製造条件を表1に示した。
また、その表には他の実施例及び比較例の観察結果及び製造条件も合わせて記載した。
さらに、その得られた葉片状二水石膏結晶を電子顕微鏡で観察し撮影した結果を図2に図示した。
【0042】
【表1】

【実施例2】
【0043】
[95℃、2N硝酸による排脱石膏からの製造]
排脱石膏43g(硫酸カルシウム二水和物として40.2g)を濃度2mol/Lの硝酸800mlに分散し、加温して95℃に維持しながら60分間攪拌を行なった。
この時の硝酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は、0.29mol/Lとなる。
その後、攪拌を停止し、未溶解物および未溶解成分を濾過によって分離し、未溶解成分を濾過によって分離し、濾液を別容器に移した。
【0044】
排脱石膏が溶解している硝酸水溶液を毎分3℃の速さで28℃まで静置して冷却した。
この時の硝酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は図1より0.14mol/Lとなる。
その後攪拌を開始し、硫酸カルシウム二水和物の結晶を液中に析出させた。
その析出した硫酸カルシウム二水和物の結晶をブフナー漏斗と濾紙を用いて、硝酸溶液から濾別し、濾紙上の硫酸カルシウム二水和物の高純度結晶を無水メタノールで洗浄し、硝酸と水分を除き、50℃で乾燥し、高純度葉片状二水石膏の結晶を得た。
【実施例3】
【0045】
[95℃、4.5N塩酸による排脱石膏(少量)からの製造]
排脱石膏39g(硫酸カルシウム二水和物として36.5g)を濃度4.5mol/Lの塩酸800mlに分散し、加温して95℃に維持しながら60分間攪拌を行なった。
この時の塩酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は、0.27mol/Lとなる。
その後、攪拌を停止し、未溶解成分を濾過によって分離し、濾液を別容器に移した。
この時の塩酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は図1より0.12mol/Lとなる。
【0046】
排脱石膏が溶解している塩酸水溶液を毎分3℃の速さで28℃まで静置して冷却した。
その後攪拌を開始し、硫酸カルシウム二水和物の結晶を液中に析出させた。
その析出した硫酸カルシウム二水和物の結晶をブフナー漏斗と濾紙を用いて、塩酸水溶液から濾別し、濾紙上の硫酸カルシウム二水和物の高純度結晶を無水メタノールで洗浄し、硝酸と水分を除き、50℃で乾燥し、高純度葉片状二水石膏結晶を得た。
【実施例4】
【0047】
[95℃、2N塩酸による排脱石膏からの製造]
排脱石膏33g(硫酸カルシウム二水和物として31g)を濃度2mol/Lの塩酸800mlに分散し、加温して95℃に維持しながら60分間攪拌を行なった。
この時の塩酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は、0.22mol/Lとなる。
その後、攪拌を停止し、未溶解成分を濾過によって分離し、濾液を別容器に移した。
【0048】
次いで 排脱石膏が溶解している塩酸溶液を毎分3℃の速さで28℃まで静置して冷却した。
この時の塩酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は図1より0.12mol/Lとなる。
その後攪拌を開始し、硫酸カルシウム二水和物の結晶を液中に析出させた。
その析出した硫酸カルシウム二水和物の結晶をブフナー漏斗と濾紙を用いて、塩酸水溶液から濾別し、濾紙上の硫酸カルシウム二水和物の高純度結晶を無水メタノールで洗浄し、硝酸と水分を除き、50℃で乾燥し、高純度葉片状二水石膏結晶を得た。
【実施例5】
【0049】
[95℃、4.0N塩酸による試薬石膏からの製造]
試薬石膏46g(硫酸カルシウム二水和物純分として45.5g)を濃度4.5mol/Lの塩酸800mlに分散し、加温して95℃に維持しながら60分間攪拌を行なった。
この時の塩酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は、0.33mol/Lとなる。
その後、攪拌を停止し、未溶解成分を濾過によって分離し、濾液を別容器に移した。
【0050】
次いで、試薬石膏が溶解している塩酸溶液を毎分3℃の速さで32℃まで冷却した。
この時の塩酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は、図1より0.13mol/Lとなる。
その後攪拌を開始し、硫酸カルシウム二水和物の結晶を液中に析出させた。
その析出した硫酸カルシウム二水和物の結晶をブフナー漏斗と濾紙を用いて、塩酸水溶液から濾別し、濾紙上の硫酸カルシウム二水和物の高純度結晶を無水メタノールで洗浄し、塩酸と水分を除き、50℃で乾燥し、高純度葉片状二水石膏結晶を得た。
【実施例6】
【0051】
[95℃、2.0N硝酸による試薬石膏からの製造]
試薬石膏43g(硫酸カルシウム二水和物純分として42.5g)を濃度2mol/Lの硝酸800mlに分散し、加温して95℃に維持しながら60分間攪拌を行なった。
この時の硝酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は、0.31mol/Lとなる。
その後、攪拌を停止し、未溶解成分を濾過によって分離し、濾液を別容器に移した。
【0052】
次いで、排脱石膏が溶解している硝酸溶液を毎分3℃の速さで28℃まで冷却した。 この時の硝酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は図1より0.15mol/Lとなる。
その後攪拌を開始し、硫酸カルシウム二水和物の結晶を液中に析出させた。
その析出した硫酸カルシウム二水和物の結晶をブフナー漏斗と濾紙を用いて、硝酸水溶液から濾別し、濾紙上の硫酸カルシウム二水和物の高純度結晶を無水メタノールで洗浄し、硝酸と水分を除き、50℃で乾燥し、高純度葉片状二水石膏結晶を得た。
【実施例7】
【0053】
[95℃、4.0N塩酸による排脱石膏からの製造]
排脱石膏46g(硫酸カルシウム二水和物として43g)を濃度4.0mol/Lの塩酸800mlに分散し、加温して95℃に維持しながら60分間攪拌を行なった。
この時の塩酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は、0.31mol/Lと推定なる。
その後、攪拌を停止し、未溶解成分を濾過によって分離し、濾液を別容器に移した。
【0054】
次いで、排脱石膏が溶解している塩酸溶液を毎分5℃の速さで28℃まで冷却した。
この時の塩酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は図1より0.12mol/Lとなる。
その後攪拌を開始し、硫酸カルシウム二水和物の結晶を液中に析出させた。
その析出した硫酸カルシウム二水和物の結晶をブフナー漏斗と濾紙を用いて、塩酸水溶液から濾別し、濾紙上の硫酸カルシウム二水和物の高純度結晶を無水メタノールで洗浄し、塩酸と水分を除き、50℃で乾燥し、高純度葉片状二水石膏結晶を得た。
【0055】
[比較例1] (95℃、4.5N塩酸による排脱石膏からの製造)
この比較例1は特許文献2(特開2001−328808号公報)の実施例1に相当するものであり、以下のとおりにして石膏を製造した。
排脱石膏46g(硫酸カルシウム二水和物として43g)を濃度4.5mol/Lの塩酸800mlに分散し、加温して95℃に維持しながら60分間攪拌を行なった。
この時の塩酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は、0.31mol/Lとなる。
その後加温を継続し温度を維持しながら攪拌を停止し、未溶解成分を沈降させ、上澄み液を別容器に移し未溶解成分と分離した。
【0056】
その排脱石膏が溶解している塩酸溶液を攪拌しながら毎分1℃の速さで28℃まで冷却し、硫酸カルシウム二水和物の結晶を液中に析出させた。
この時の塩酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は図1より0.12mol/Lとなる。
その析出した硫酸カルシウム二水和物の結晶をブフナー漏斗と濾紙を用いて、塩酸溶液から濾別し、濾紙上の硫酸カルシウム二水和物の高純度結晶を無水メタノールで洗浄し、塩酸と水分を除き、50℃で乾燥し、高純度繊維状二水石膏の結晶を得た。
【0057】
[比較例2](95℃、4.5N塩酸による排脱石膏からの製造(63℃攪拌開始))
排脱石膏46g(硫酸カルシウム二水和物として43g)を濃度4.5mol/Lの塩酸800mlに分散し、加温して95℃に維持しながら60分間攪拌を行なった。
この時の塩酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は、0.31mol/Lとなる。
その後、攪拌を停止し、未溶解成分を濾過によって分離し、濾液を別容器に移した。
【0058】
次いで、排脱石膏が溶解している塩酸溶液を毎分3℃の速さで63℃まで冷却した。
この時の塩酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は図1より0.24mol/Lとなる。
その後攪拌を開始し、硫酸カルシウム二水和物の結晶を液中に析出させた。
その析出した硫酸カルシウム二水和物の結晶をブフナー漏斗と濾紙を用いて、塩酸溶液から濾別し、濾紙上の硫酸カルシウム二水和物の高純度結晶を無水メタノールで洗浄し、塩酸と水分を除き、50℃で乾燥し、高純度繊維状二水石膏の結晶を得た。
【0059】
[比較例3](95℃、2N硝酸による排脱石膏からの製造)
排脱石膏43g(硫酸カルシウム二水和物として40.2g)を濃度2mol/Lの硝酸800mlに分散し、加温して95℃に維持しながら60分間攪拌を行なった。
この時の硝酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は、0.29mol/Lとなる。
その後、攪拌を停止し、未溶解成分を濾過によって分離し、濾液を別容器に移した。
【0060】
次いで、その排脱石膏が溶解している硝酸溶液を攪拌しながら毎分1℃の速さで26℃まで冷却し、硫酸カルシウム二水和物の結晶を液中に析出させた。
その析出した硫酸カルシウム二水和物の結晶をブフナー漏斗と濾紙を用いて、硝酸溶液から濾別し、濾紙上の硫酸カルシウム二水和物の高純度結晶を無水メタノールで洗浄し、硝酸と水分を除き、50℃で乾燥し、高純度繊維状二水石膏結晶を得た。
【0061】
[比較例4](95℃硝酸による排脱石膏からの製造(62℃攪拌開始))
排脱石膏43g(硫酸カルシウム二水和物として40.2g)を濃度2mol/Lの硝酸800mlに分散し、加温して95℃に維持しながら60分間攪拌を行なった。
この時の硝酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は、0.29mol/Lとなる。
その後、攪拌を停止し、未溶解成分を濾過によって分離し、濾液を別容器に移した。
【0062】
次いで、排脱石膏が溶解している硝酸溶液を毎分3℃の速さで62℃まで冷却した。
この時の硝酸溶媒に対する二水石膏の溶解度は図1より0.24mol/Lとなる。
その後攪拌を開始し、硫酸カルシウム二水和物の結晶を液中に析出させた。
その析出した硫酸カルシウム二水和物の結晶をブフナー漏斗と濾紙を用いて、硝酸溶液から濾別し、濾紙上の硫酸カルシウム二水和物の高純度結晶を無水メタノールで洗浄し、硝酸と水分を除き、50℃で乾燥し、高純度繊維状二水石膏結晶を得た。
【0063】
[比較例5] (95℃NaCl・MgSO4による排脱石膏からの製造)
この比較例5は特開昭50−158595号公報の実施例1に相当するものであり、以下のとおりにして石膏を製造した。
排脱石膏30gをNaCl濃度175g/L、MgSO4濃度50g/Lの混合溶媒200mlに懸濁させ、加温して95℃に維持しながら2時間攪拌を行なった。
その後65℃に徐冷しながら攪拌し、種晶として板状石膏を0.9g添加した。
この懸濁溶液を熟成時間10時間で静置沈降した後、固液分離して板状石膏を分離採取した。
【0064】
上記で得られた板状石膏を走査型電子顕微鏡で観察したところ、短径5〜140μm、長径70〜200μm、厚さ10〜20μmの板状粒子の生成を確認した。
前記板状石膏の白色度を東京電色(株)TC-8600A型を用いて測定したところ、49.38であった。
また、化学分析によって有害元素の含有量、溶出量を「土壌の汚染にかかる環境基準について(平成3年環境庁告知第46号告示)」に基づく方法によって測定したところフッ素が2030mg/kg、クロムが7.9mg/kg、ひ素が2.3mg/kg含有され、かつフッ素が38.9mg/L、クロムが0.002mg/L、ひ素が0.007mg/L溶出することが確認された。
【0065】
[比較例6](廃硫酸とカルシウム化合物との反応を伴う石膏の製造)
この比較例6は特開昭55−47224号公報の実施例1に相当するものであり、以下のとおりにして石膏を製造した。
600mlの3N−H2SO4にAl2(SO4)3を74.5g(Alとして9.8g/L相当)を加え、95℃に加熱した。
【0066】
次いで、攪拌しながら濃度30wt%の消石灰スラリー347g、Ca(OH)2として104gを投入し、生成した沈殿物を濾過して得られた脱水ケーキを90℃の熱水で洗浄して半水石膏を得た。
このケーキをクエン酸ナトリウム0.29g、ゼラチン0.145g、NaCl5.84g含む292mlの水道水に入れ、予め作成された4.5gの板状二水石膏を種晶として投入し、pH値を5に調製して約70℃に1.5時間加熱保持して二水石膏化を行った。
【0067】
析出した二水石膏の結晶をブフナー漏斗と濾紙を用いて、クエン酸ナトリウム0.29g、ゼラチン0.145g、NaCl5.84gを含む溶液から濾別し、濾紙上の二水石膏の高純度結晶を無水メタノールで洗浄し、クエン酸ナトリウム、ゼラチン、NaClを含む溶液と水分を除き、50℃で乾燥し、二水石膏を得た。
上記で得られた二水石膏を走査型電子顕微鏡(日立、S−4800)で観察したところ、短径10〜80μm、長径60〜150μm、厚さ3〜5μmの板状または柱状の粒子が確認された。
【0068】
[比較例7](カルシウム化合物を不純物除去後に硫酸と反応させる石膏の製造)
この比較例7は特開2002−29740号公報の実施例1に相当するものであり、以下のとおりにして石膏を製造した。
石灰石粉末155gと水155gとを混合攪拌しながら50wt%石灰スラリーを調製した。
この石灰スラリーに濃度15wt%の塩酸663gを混合して、攪拌しながら溶解して塩化カルシウムスラリーとした。
この塩化カルシウム溶液をガラス濾紙を用いて濾過し、不溶解残渣を分離除去した。
【0069】
その濾液を75℃に加熱し、媒晶剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを濾液に対して35ppmになる様に(0.03g)添加し、それと同時に濃度80wt%の硫酸を濾液中のカルシウムイオンと等量程度になる様に183.7ml添加し、攪拌しながら約6時間反応させた。
その後、液温を65℃程度まで下げ、攪拌しながら更に6時間攪拌及び対流させながら二水石膏の結晶を熟成させた。生成した二水石膏を含む水相を固液分離した後、スラリー等量の水を用いて水洗して二水石膏の結晶を得た。
【0070】
上記で得られた二水石膏をブフナー漏斗と濾紙を用いて、上記の溶媒溶液から濾別し、濾紙上の二水石膏の高純度結晶を無水メタノールで洗浄し、上記の溶媒溶液と水分を除き、50℃で乾燥し、二水石膏を得た。
上記で得られた二水石膏を走査型電子顕微鏡(日立、S−4800)で観察したところ、短径20〜80μm、長径40〜200μm、厚さ3〜8μmの板状または柱状の粒子が確認された。
【0071】
[比較例8](硫酸とカルシウム化合物との反応を伴う石膏の製造)
この比較例8は特開昭55−47224号公報に記載の比較例に相当するものであり、これを用いて以下のとおりにして石膏を製造した。
600mlの3N−H2SO4にAl2(SO4)3を74.5g(Alとして9.8g/L相当)を加え、95℃に加熱した。
攪拌しながら濃度30wt%の消石灰スラリー430g、Ca(OH)2として129gを投入した。
【0072】
その投入後生成した沈殿物を濾過して得られた脱水ケーキを90℃の熱水で洗浄して半水石膏を得た。
このケーキをクエン酸ナトリウム0.29g、ゼラチン0.145g、NaCl5.84gを含む292mlの水道水に入れて予め作成された4.5gの板状二水石膏を種晶として投入してpH値を5に調製して約70℃に1.5時間加熱保持して二水石膏化を行なった。
【0073】
析出した二水石膏の結晶をブフナー漏斗と濾紙を用いて、クエン酸ナトリウム0.29g、ゼラチン0.145g、NaCl5.84gを含む溶液から濾別し、濾紙上の二水石膏の高純度結晶を無水メタノールで洗浄し、クエン酸ナトリウム、ゼラチン、NaClを含む溶液と水分を除き、50℃で乾燥し、板状二水石膏を得た。
上記で得られた二水石膏を走査型電子顕微鏡(日立、S−4800)で観察したところ、短径20〜50μm、長径50〜100μm、厚さ2〜10μmの板状または柱状の粒子が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明者らが測定して得た塩酸溶媒に対する二水石膏の溶解度を図示する。
【図2】実施例1で得た葉片状二水石膏結晶を電子顕微鏡で観察し撮影した結果を図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長径20〜150μm、短径10〜50μm、厚さ0.5〜2μmで、かつ長径と短径との比が1〜10、厚さに対する長径の比(アスペクト比)が10〜100であることを特徴とする葉片状二水石膏。
【請求項2】
重金属の含有量が2.0mg/kg以下、ひ素の含有量が0.5mg/kg以下である請求項1に記載の葉片状二水石膏。
【請求項3】
過飽和度を0.15mol/L以上とした石膏溶液から急速に結晶を析出させる長径20〜150μm、短径10〜50μm、厚さ0.5〜2μmで、かつ長径と短径との比が1〜10、厚さに対する長径の比(アスペクト比)が10〜100であることを特徴とする葉片状二水石膏を製造する方法。
【請求項4】
加熱石膏溶液を過飽和度が0.15mol/L以上となるまで静置して冷却した後に、撹拌により急速に結晶を析出させる、長径20〜150μm、短径10〜50μm、厚さ0.5〜2μm、かつ長径と短径との比が1〜10、厚さに対する長径の比(アスペクト比)が10〜100であることを特徴とする葉片状二水石膏を製造する方法。
【請求項5】
結晶を析出させる際の溶液温度が40℃以下である請求項4に記載の葉片状二水石膏を製造する方法。
【請求項6】
石膏溶液の溶媒が塩酸又は硝酸水溶液である請求項3、4又は5に記載の葉片状二水石膏を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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