説明

蒸気タービンロータ及びその製造方法

【課題】従来と比べて信頼性の高い蒸気タービンロータを提供する。
【解決手段】軸受8と接するジャーナル部7aが、第1のクロム鋼又はニッケル基若しくは鉄−ニッケル基からなる基材2上に中間層5を介して前記基材2よりもクロム濃度が低い第2のクロム鋼からなるオーバーレイ層6を積層して形成された蒸気タービンロータ7であって、前記中間層5は、前記基材2上に摩擦攪拌接合によりオーバーレイ層6を設ける際に形成され、前記中間層5は、前記基材2の合金相2aと前記第2のクロム鋼の合金相6aの2相が共に混在していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンロータ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、蒸気タービンロータには高Cr鋼が用いられている。また、蒸気温度が700℃を超える蒸気タービンが開発されており、そのロータには鉄基に代わり、ニッケル基合金、又は鉄−ニッケル基合金が適用されつつある。蒸気タービンロータはそのジャーナル部が軸受によって支承されており、回転軸回りに高速で回転する際には、ジャーナル部は大きな摩擦を受ける。そのため、ジャーナル部と軸受との間では、摩耗や不純物によっていわゆるかじりが生じる場合がある。具体的には、例えば、蒸気タービンロータを形成する高Cr鋼では、マトリックス金属中にCr系炭化物(Cr23)を析出させることで高強度を実現しているが、ジャーナル部でマトリックス金属が摩耗すると、このCr系炭化物がジャーナル部から脱落して軸受との間でかじりを生じさせることとなる。また,ニッケル基についても、Crを多く含み、Cr系炭化物が析出するため、同様の事象が考えられる。本明細書では、特に断りがない場合、ニッケル基(Ni基)、及び鉄−ニッケル基(FeNi基)をまとめてニッケル基(Ni基)と呼ぶこととする。
従来、このようなかじりを防止する技術として、ジャーナル部を形成する高Cr鋼からなる基材上に、低Cr鋼(例えばCrMo鋼)からなるオーバーレイ層を肉盛り溶接にて設けるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
このような技術によれば、Cr系炭化物を含む基材上に低Cr鋼からなるオーバーレイ層が形成されるので、Cr系炭化物によるかじりの発生を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−104880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1の技術では、高Cr鋼(基材)に対して低Cr鋼(オーバーレイ層)を肉盛り溶接で形成するので、高Cr鋼(基材)に含まれるCrが低Cr鋼(オーバーレイ層)に移行する。つまり、基材上でクロム濃度の濃度勾配を有する傾斜層(希釈層)が形成される。そのため、オーバーレイ層の表面にクロムの移行を防止するためにはオーバーレイ層を厚くする必要がある。また、肉盛り溶接によってオーバーレイ層を厚く形成しようとすると、溶接不良によってオーバーレイ層に亀裂が生じる虞があり、蒸気タービンロータの信頼性が不充分となる。
そこで、高Cr鋼からなる基材上に低Cr鋼(オーバーレイ層)を、例えば溶射によって形成することも考えられる。このような溶射によれば、オーバーレイ層を薄く制御することができる。また、溶射によれば、低Cr鋼からなる溶射粒子が運ぶ熱量が小さいので、高Cr鋼からなる基材に対する熱的影響が小さく、オーバーレイ層に基材のCrが移行するのを防止することができる。
しかしながら、溶射によって基材上にオーバーレイ層を形成しようとすると、肉盛り溶接と比較して基材と溶射粒子の密着強度が弱くなることから、蒸気タービンロータが高速回転する際に、オーバーレイ層が基材から剥離する虞がある。つまり、溶射でオーバーレイ層が形成された蒸気タービンロータにおいても信頼性が不充分となる。
【0005】
そこで、本発明は、従来と比べて信頼性の高い蒸気タービンロータ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明の蒸気タービンロータは、軸受と接するジャーナル部が、第1のクロム鋼又はニッケル基からなる基材上に中間層を介して前記第1のクロム鋼又はニッケル基よりもクロム濃度が低い第2のクロム鋼からなるオーバーレイ層を積層して形成された蒸気タービンロータであって、前記中間層は、前記基材の合金相と前記第2のクロム鋼の合金相の2相が共に混在していることを特徴とする。
つまり、蒸気タービンロータは、軸受と接するジャーナル部が、第1のクロム鋼、又はクロム含有のニッケル基合金(以下、単にニッケル基ということがある)、若しくはクロム含有の鉄−ニッケル基合金(以下、単に、鉄−ニッケル基ということがある)からなる基材上に、中間層を介して前記基材よりもクロム濃度が低い第2のクロム鋼からなるオーバーレイ層を積層して形成された蒸気タービンロータであって、前記中間層は、前記基材の合金相との合金相の2相が共に混在していることを特徴とする。 また、前記課題を解決する本発明の蒸気タービンロータの製造方法は、軸受と接するジャーナル部の表面にオーバーレイ層を有する蒸気タービンロータの製造方法であって、第1のクロム鋼からなる前記ジャーナル部の基材上に前記第1のクロム鋼又はニッケル基よりもクロム濃度が低い第2のクロム鋼からなるオーバーレイ材を重ね合わせる工程と、前記基材に対して前記オーバーレイ材を摩擦攪拌接合することによって、前記基材上に、前記第1のクロム鋼又はニッケル基の合金相と前記第2のクロム鋼の合金相の2相が共に混在する中間層と、この中間層上に、前記第2のクロム鋼からなるオーバーレイ層とを積層する工程と、を有することを特徴とする。
また、本発明において、前記オーバーレイ層及び前記オーバーレイ材は、前記第2のクロム鋼に代えて、前記基材よりもクロム濃度が低いクロム含有のニッケル基合金、若しくはクロム含有の鉄−ニッケル基合金で形成される構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来と較べて信頼性の高い蒸気タービンロータ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係る蒸気タービンロータの側面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る蒸気タービンロータのジャーナル部における部分拡大断面図である。
【図3】(a)は、本発明の実施形態に係る蒸気タービンロータのジャーナル部に形成される中間層及びオーバーレイ層の線分析の結果を示すグラフであり、(b)は、線分析を行った位置を示す中間層及びオーバーレイ層の部分拡大断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る蒸気タービンロータのジャーナル部における基材上にオーバーレイ材を摩擦攪拌接合する様子を示す模式図である。
【図5】(a)から(c)は、本発明の実施形態に係る蒸気タービンロータの製造方法を説明するための製造工程図である。
【図6】本発明の実施形態に係る蒸気タービンロータの製造方法において、摩擦攪拌接合ツールの進行方向を説明するためのジャーナル部付近の部分拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態に係る蒸気タービンロータは、軸受と接するジャーナル部が、第1のクロム鋼、又はクロム含有のニッケル基合金(以下では、単にニッケル基ということがある)、若しくは鉄−ニッケル基合金(以下では、単に鉄−ニッケル基ということがある)からなる基材上に、中間層を介して前記基材よりもクロム濃度が低い第2のクロム鋼からなるオーバーレイ層を積層して形成された蒸気タービンロータであって、前記中間層は、前記基材の合金相と前記第2のクロム鋼の合金相の2相が共に混在していることを特徴とする。
図1に示すように、本実施形態に係る蒸気タービンロータ7は、高低圧一体型のものであり、ブレード20が、高圧部Hで6段、中圧部Mで4段、並びに低圧部L及び低圧最終段部LLで4段の合計14段となるように植設されている。
図1中、符号7cはフランジ部であり、符号7aは、軸受8(図1中、破線で記す)に支承されると共にこの軸受8と接するジャーナル部である。
ちなみに、本実施形態での蒸気タービンロータ7は、550℃前後から720℃前後の雰囲気に曝されるので、高圧部Hと低圧最終段部LLとでは異なった組成と特性を有する合金が使用されているが、ジャーナル部7aは、後に詳しく説明する高Cr(クロム)鋼又はニッケル基からなる基材2(図2参照)上に、後に詳しく説明する低Cr鋼からなるオーバーレイ層6(図2参照)を有して構成されている。
なお、蒸気タービンロータ7では、2つのジャーナル部7aを有しているが、これらのジャーナル部7aは同じ層構成となっているので、以下では低圧側(図1の紙面右側)のジャーナル部7aについて説明し、高圧側(図1の紙面左側)のジャーナル部7aについてはその説明を省略する。
【0010】
図2に示すように、ジャーナル部7aは、後記する第1のクロム鋼(高Cr鋼)からなる基材2上に、中間層5を介して前記第1のクロム鋼又はニッケル基よりもクロム濃度が低い第2のクロム鋼(低Cr鋼)からなるオーバーレイ層6を備えて構成されている。
【0011】
基材2を構成する第1のクロム鋼としては、鋼であれば、クロム濃度が9質量%から13質量%のものが望ましい。クロム濃度が9質量%以上の第1のクロム鋼からなる基材2は、クロム系炭化物(例えば、Cr23)をこの第1のクロム鋼中に十分に析出させることができるので、高温強度に優れたものとなる。ちなみに、クロム濃度が9質量%以上の第1のクロム鋼からなる基材2は、耐酸化性にも優れたものとなる。また、クロム濃度が13質量%以下の第1のクロム鋼からなる基材2は、高温での靭性に優れたものとなる。
このような第1のクロム鋼としては、クロム耐熱鋼、ステンレス鋼等が挙げられ、より具体的には、例えばマルテンサイト系のSUS404、SUS420、フェライト系のSUS405等が挙げられる。
ニッケル基、又は鉄−ニッケル基であれば,クロム濃度が15質量%から30質量%のものが望ましい。クロムが15質量%以上のニッケル基、又は鉄−ニッケル基をロータ基材に適用する場合、曝される温度が高くなるため、より高温強度を高くするため、また、耐酸化性を向上させるのに効果的である。また30質量%以下のニッケル基、又は鉄−ニッケル基では、長時間の相安定性に優れたものとなる。
【0012】
オーバーレイ層6を構成する第2のクロム鋼としては、クロム濃度が0.5質量%から3質量%のものが望ましい。クロム濃度が3質量%以下の第2のクロム鋼からなるオーバーレイ層6は、前記した軸受8に支承されて回転するジャーナル部7aの摺動性が良好となると共に、熱伝導率が良好なものとなる。
このような第2のクロム鋼としては、例えば、CrMoV鋼、CrMo鋼等が挙げられる。
ちなみに、本実施形態でのオーバーレイ層6は、後記するように、前記基材2上に重ね合わせられたオーバーレイ材1(図4参照)を、この基材2に対して摩擦攪拌接合することで形成されたものである。つまり、オーバーレイ材1(図4参照)は、オーバーレイ層6と同じ第2のクロム鋼からなる。
【0013】
中間層5は、基材2とオーバーレイ層6との間に介在する層であり、基材2を構成する第1のクロム鋼又はニッケル基の合金相2aと、オーバーレイ層6を構成する第2のクロム鋼の合金相6aとが混在する混在層である。この中間層5は、従来の肉盛り溶接(例えば、特許文献1参照)で基材とオーバーレイ層とが溶接時の高温で溶け合うことで形成される、クロムの濃度勾配を有する傾斜層(希釈層)とはならない。言い換えれば、中間層5は、従来の肉盛り溶接で形成される傾斜層、つまり基材合金とオーバーレイ合金とが溶融しあって形成されるものと異なって、基材2(第1のクロム鋼のニッケル基の合金相2a)とオーバーレイ層6(第2のクロム鋼の合金相6a)とが塑性流動して形成されたものである。
【0014】
なお、図2では、第1のクロム鋼又はニッケル基の合金相2aと、オーバーレイ層6を構成する第2のクロム鋼の合金相6aとが、のこぎり状に噛み合うように図示されているが、これは中間層5で合金相2aと合金相6aとが混在する様子を模式的に誇張して示したものであり、実際の混在状態を示すものではない。つまり、本実施形態での中間層5は、少なくとも合金相2aと合金相6aとが混在する層であればその混在状態は特に制限はない。したがって、合金相2aと合金相6aとは、図示しないが、中間層5で例えばマーブル模様状に不定形に混在するものであってもよい。
【0015】
ここで、本実施形態での「合金相2aと合金相6aとの混在」についてさらに具体的に説明する。次に参照する図3(a)は、本発明の実施形態に係る蒸気タービンロータのジャーナル部に形成される中間層及びオーバーレイ層の線分析の結果を示すグラフであり、図3(b)は、線分析を行った位置を示す中間層及びオーバーレイ層の部分拡大断面図である。図3(b)中、符号2は第1のクロム鋼又はニッケル基からなる基材、符号6は第2のクロム鋼からなるオーバーレイ層、符号5は中間層、符号2aは中間層5における第1のクロム鋼の合金相、符号6aは中間層5における第2のクロム鋼の合金相である。また、図3(b)中の二点鎖線の矢印は、基材2側からオーバーレイ層6側に亘って実施された線分析の分析方向を示し、符号A,B,Cは線分析の分析位置である。ちなみに、分析位置A,B,Cは、合金相2aと合金相6aとの界面である。
図3(a)のグラフの縦軸は、前記した二点鎖線の矢印方向における分析位置であり、符号A,B,Cは、図3(b)の分析位置A,B,Cに対応している。また、図3(a)のグラフの横軸は、線分析を行った際のクロム濃度(質量%)である。
【0016】
図3(b)に示すように、二点鎖線の矢印方向に合金相2aと合金相6aとを横切るように線分析を行って中間層5のクロム濃度を測定すると、図3(a)に示すように、基材2では、クロム濃度がQ質量%となっている。このQ質量%は、第1のクロム鋼又はニッケル基のクロム濃度を表している。また、中間層5を構成する合金相2aにおいてもクロム濃度がQ質量%となっている。そして、中間層5の合金相2aと合金相6aとの界面である分析位置Aを境にして、クロム濃度がP質量%(P<Q)となっている。ちなみに、このP質量%は、第2のクロム鋼のクロム濃度を表している。そして、中間層5で合金相6aにおいてもクロム濃度がP質量%となっている。また、中間層5で合金相6aから合金相2aに再び切り替わる分析位置Bを境にクロム濃度はP質量%からQ質量%に変化し、中間層5で合金相2aから合金相6aに切り替わる分析位置Cを境にクロム濃度はQ質量%からP質量%に再び変化している。つまり、中間層5は、前記したように、基材2の合金相2aとオーバーレイ層6の合金相6aとの2相が共に混在する混在層となっている。このような混在層からなる中間層5は、次に説明する基材2に対するオーバーレイ材1(図4参照)の摩擦攪拌接合によって、基材2の合金相2aとオーバーレイ材1の合金相6aとが塑性流動することによって形成される。
【0017】
次に、参照する図4は、本実施形態に係る蒸気タービンロータのジャーナル部における基材上にオーバーレイ材を摩擦攪拌接合する様子を示す模式図である。
図4中、符号2は基材であり、符号1は基材2上に配置したオーバーレイ材であり、符号4は摩擦攪拌接合ツールであり、符号6は摩擦攪拌接合ツール4でオーバーレイ材1が基材2に接合されることで形成されたオーバーレイ層であり、符号5は基材2とオーバーレイ層6との間に介在するように形成される中間層である。
【0018】
図4に示すように、基材2上に重ね合わせられたオーバーレイ材1を基材2に接合する際に、所定の回転速度で回転する摩擦攪拌接合ツール4は、オーバーレイ材1に対して垂直に、又は図示しないが数度(deg)傾けられると共に、重ね合わせられたオーバーレイ材1及び基材2に対してその先端部が必要量挿入される。その結果、摩擦攪拌接合ツール4の周りに存在するオーバーレイ材1及び基材2は、回転する摩擦攪拌接合ツール4の摩擦熱で可塑化すると共に摩擦攪拌接合ツール4周りで塑性流動する。
【0019】
この際、摩擦攪拌接合ツール4は、その回転軸方向Xに略直交する面内で可塑化したオーバーレイ材1及び基材2を攪拌するので、摩擦攪拌接合ツール4の回転軸方向Xへの可塑化したオーバーレイ材1及び基材2の塑性流動の程度は前記面内での塑性流動の程度よりも僅かとなる。その結果、基材2とオーバーレイ材1との合せ目近傍では、この塑性流動によって、基材2の合金相2aとオーバーレイ材1の合金相6aとの混在する中間層5が形成されると共に、オーバーレイ材1の外周部では、合金相2aの混じらない合金相6aからなるオーバーレイ層6が形成されることとなる。
【0020】
そして、回転する摩擦攪拌接合ツール4が、オーバーレイ材1(又は基材2)の面方向S(表面に沿う方向)に向かって移動することで、基材2に対してオーバーレイ材1が接合されていくと共に、基材2上に中間層5を介してオーバーレイ層6が形成されていく。つまり、基材2上で中間層5を介してオーバーレイ層6を有するジャーナル部7aが形成されることとなる。
【0021】
本実施形態では、このように摩擦攪拌接合ツール4を回転させつつ前記面方向Sに沿って移動させることを想定しているが、本発明では、摩擦攪拌接合ツール4を、図4に示す回転軸方向Xに所定の微小範囲で往復移動させつつ、オーバーレイ材1(又は基材2)の面方向Sに移動させることもできる。このように摩擦攪拌接合ツール4を回転軸方向Xに微小範囲で往復移動させることで、形成される中間層5の厚さを制御することができる。
【0022】
次に、図5(a)から(c)を参照しながら蒸気タービンロータ7の製造方法について説明する。図5(a)から(c)は、本実施形態に係る蒸気タービンロータの製造方法を説明するための製造工程図であり、蒸気タービンロータの両端のジャーナル部のうち、低圧部寄りのジャーナル部の部分拡大斜視図である。なお、図5(a)から(c)においては、作図の便宜上、フランジ部7c(図1参照)の記載を省略している。
【0023】
図5(a)に示すように、本実施形態に係る蒸気タービンロータ7(図1参照)の製造方法においては、まずオーバーレイ材1が準備される。
本実施形態でのオーバーレイ材1は、円筒部材がその軸方向に沿うように2分割された一対の半体同士1a,1aで構成されている。ちなみに、この円筒部材の外径は、蒸気タービンロータ7(図1参照)のジャーナル部7a(図1参照)の仕上げ工程における研磨代(削り代)を考慮して、そのジャーナル部7aの外径よりも僅かに大きめに設定されている。また、円筒部材の内径は、次に説明する基材2の外径と同じになるように設定されている。
このようなオーバーレイ材1は、前記した第2のクロム鋼で形成されている。
【0024】
基材2は、前記したように、オーバーレイ材1が摩擦攪拌接合によって接合される部分であり、図5(a)に示すように、前記したオーバーレイ材1が接合されて、円柱状のジャーナル部7a(図1参照)を形成するように、オーバーレイ材1が収まる凹部7bが形成されている。この凹部7bは、円筒状のオーバーレイ材1の内側空間と同形状となる円柱形状を呈しており、その外径は、前記したように、円筒状のオーバーレイ材1の内径と同じになるように設定されている。
基材2は、前記した第1のクロム鋼で形成されている。
【0025】
次に、このような基材2の凹部7bに、一対の半体1a,1a同士が組み付けられることで、円筒状のオーバーレイ材1が凹部7b内に収められる。つまり、基材2上にオーバーレイ材1が配置されることで凹部7bの段差部分は解消されてジャーナル部7a(図1参照)の外形に近似した円柱形状となる(図5(b)参照)。
【0026】
そして、図5(b)に示すように、オーバーレイ材1の半体1a,1a同士の合せ目1b,1bに沿うように、基材2に対してオーバーレイ材1が摩擦攪拌接合によって接合される。なお、図5(b)中の矢印は、摩擦攪拌接合ツール4(図4参照)の進行方向であり、具体的には、図1に示す蒸気タービンロータ7の低圧側からフランジ部7c側に向かって摩擦攪拌接合ツール4(図4参照)は進行する。
【0027】
本実施形態における摩擦攪拌接合ツール4(図4参照)の矢印方向への進行は、基材2及びオーバーレイ材1側を固定して、回転する摩擦攪拌接合ツール4を移動させる工程を想定しているが、回転する摩擦攪拌接合ツール4側を固定して、基材2及びオーバーレイ材1側を移動させる工程とすることもできる。
【0028】
このような摩擦攪拌接合ツール4(図4参照)の進行により、オーバーレイ材1の半体1a,1a同士は合せ目1b,1bで接合されると共に、この合せ目1b,1bに沿ってオーバーレイ材1は基材2と接合される。ちなみに、基材2とオーバーレイ材1とが摩擦攪拌接合によって接合されることで、前記したように、基材2上には中間層5を介してオーバーレイ層6が形成されることとなる。
【0029】
次に、図5(c)に示すように、回転する摩擦攪拌接合ツール4(図4参照)を、螺旋状の矢印方向D1となるように進行させて、基材2に対してオーバーレイ材1を摩擦攪拌接合する。具体的には、図1に示す蒸気タービンロータ7の低圧側からフランジ部7c側に向かって摩擦攪拌接合ツール4(図4参照)は螺旋状に進行する。この際、摩擦攪拌接合ツール4による摩擦攪拌接合は、オーバーレイ材1よりも蒸気タービンロータ7の低圧側寄りでオーバーレイ材1が被覆されていない基材2部分、つまり第1のクロム鋼からなる部分にて開始されると共に、これに続いて螺旋状に移動する摩擦攪拌接合ツール4によって基材2上にオーバーレイ材1が被覆した部分に摩擦攪拌が施される。
【0030】
本実施形態における摩擦攪拌接合ツール4の矢印方向D1への進行は、回転する摩擦攪拌接合ツール4側を固定して、基材2及びオーバーレイ材1を蒸気タービンロータ7(図1参照)の軸周りに回転させる工程を想定しているが、基材2及びオーバーレイ材1側を固定して、回転する摩擦攪拌接合ツール4を、蒸気タービンロータ7(図1参照)の軸周りに回転させる工程とすることもできる。
【0031】
次に参照する図6は、本発明の実施形態に係る蒸気タービンロータの製造方法において、摩擦攪拌接合ツールの進行方向を説明するためのジャーナル部付近の部分拡大側面図である。
本実施形態に係る蒸気タービンロータ7(図1参照)の製造方法においては、図6に示すように、摩擦攪拌接合ツール4(図4参照)は、螺旋状の矢印方向D1に向かって進行する際に、周回ごとに、その前の周回での摩擦攪拌部Fに対してこれに続く周回での摩擦攪拌部Fがオーバーラップするように周回ピッチが調節される。その結果、ジャーナル部7aの全区間に亘って万遍なく基材2(図4参照)に対してオーバーレイ材1(図4参照)が接合されることとなる。
そして、図4に示したように、基材2に対してオーバーレイ材1が接合されることで、基材2上に中間層5を介してオーバーレイ層6が形成されこととなる。
【0032】
ちなみに、基材2に対するオーバーレイ材1の接合が終了した後、摩擦攪拌接合ツール4は、オーバーレイ材1よりもフランジ部7c(図1参照)寄りで、オーバーレイ材1が被覆されていない基材2部分、つまり第1のクロム鋼からなる部分に対しても摩擦攪拌を施してから図6に示す摩擦攪拌部Fから離脱する。そして、摩擦攪拌部Fの終端部Eは、摩擦攪拌接合ツール4(図4参照)が離脱する際に、周囲で塑性流動する第1のクロム鋼により埋められて面一となるが、終端部Eに摩擦攪拌接合ツール4の離脱痕としての窪みが形成される場合には、第1のクロム鋼又はニッケル基にて当該窪みは埋め戻されることが望ましい。また、当該窪みは、第2のクロム鋼にて埋め戻すこともできる。
【0033】
次に、本実施形態に係る蒸気タービンロータ7及びその製造方法が奏する作用効果について説明する。
従来の蒸気タービンロータにおいてジャーナル部が高クロム鋼で形成されるものは、ジャーナル部が軸受に支承されて高速回転する際に、高クロム鋼に含まれるCr系炭化物(Cr23)がジャーナル部から脱落して軸受との間でかじりを生じさせる虞があるところ、本実施形態においては、高クロム鋼又はニッケル基から基材2上に低クロム鋼からなるオーバーレイ層6が配置されることでジャーナル部7aが形成される。そのため、本実施形態によれば、オーバーレイ層6によって高クロム鋼又はニッケル基からCr系炭化物(Cr23)が脱落することが防止されるので、軸受8でのかじりを防止することができる。
【0034】
また、本実施形態によれば、基材2上に、オーバーレイ層を肉盛り溶接や溶射によって設けるものと異なって、摩擦攪拌接合によって基材2上にオーバーレイ層6を設けるので、オーバーレイ層6に亀裂が発生するのを抑制することができる。
【0035】
また、本実施形態によれば、前記した摩擦攪拌接合によって、基材2とオーバーレイ層6との間に基材2の合金相2aとオーバーレイ層6の合金相6aとの2相が混在する中間層5が形成される。そのため、基材2上に傾斜層(希釈層)を介してオーバーレイ層6が形成される従来の蒸気タービンロータと異なって、本実施形態に係る蒸気タービンロータ7は、基材2に対するオーバーレイ層6の密着性に優れる。
つまり、本実施形態によれば、従来と較べて信頼性の高い蒸気タービンロータ7及びその製造方法を提供することができる。
【0036】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されることなく、様々な形態で実施される。
前記実施形態では、オーバーレイ材1として、一対の半体1a,1aからなるものについて説明したが、3以上に分割されたオーバーレイ材1を使用するものであってもよい。
また、本発明において、前記オーバーレイ層6及び前記オーバーレイ材1は、前記第2のクロム鋼に代えて、前記基材2よりもクロム濃度が低いクロム含有のニッケル基合金、若しくはクロム含有の鉄−ニッケル基合金で形成される構成とすることもできる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の実施例を示しながらさらに本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
本実施例では、図5(a)に示す基材2の部分が9Crフェライト鋼で形成されたロータ材料(図1に示すジャーナル部7aに、図4に示すオーバーレイ層6及び中間層5が形成されていない以外は、図1に蒸気タービンロータ7と同様の構造のものである。以下のロータ材料に同じ)を準備した。次に、図5(a)から(c)に示すように、ジャーナル部7aの基材2上に、CrMoV鋼(2.25Cr)からなるオーバーレイ材1(半体1a,1aからなる板厚1.5mmの円筒部材)を、摩擦攪拌接合ツール4(図4参照)を使用して接合した。
なお、本実施例では、摩擦攪拌接合ツール4としてタングステン−レニウム合金製のものを使用したが、市販品を使用することもできる。
そして、基材2に対するオーバーレイ材1の接合断面を電子顕微鏡写真にて観察した結果、基材2上に中間層5を介してオーバーレイ材1が形成されていることが確認された。
また、中間層5をその積層方向にEPMA(X線マイクロアナライザ)にて線分析を行ってクロム濃度の分布を測定した結果、中間層5には、基材2(9Crフェライト鋼)の合金相と、オーバーレイ材1(CrMoV鋼)の合金相とが混在していることが確認された。ちなみに、中間層5では、クロムの傾斜層(希釈層)は確認されなかった。
次に、このようにオーバーレイ層6を形成したジャーナル部7aを有する本実施例の蒸気タービンロータ7を使用して、回転速度 3600rpmにて5000時間の回転耐久試験を行なった。その結果、かじりは発生せず、またオーバーレイ層6の剥離等も認められなかった。
【0038】
(実施例2)
本実施例では、図5(a)に示す基材2の部分が12Crフェライト鋼からなるロータ材料を使用し、CrMo鋼(1.3Cr)からなるオーバーレイ材1(半体1a,1aからなる板厚1.5mmの円筒部材)を使用した以外は、実施例1と同様にして、ジャーナル部7aの基材2上にオーバーレイ材1を摩擦攪拌接合ツール4(図4参照)を使用して接合した。
そして、実施例1と同様に、接合断面を電子顕微鏡写真にて観察した結果、基材2上に中間層5を介してオーバーレイ材1が形成されていることが確認された。
また、実施例1と同様に、中間層5をEPMA(X線マイクロアナライザ)にて線分析を行ってクロム濃度の分布を測定した結果、中間層5には、基材2(12Crフェライト鋼)の合金相と、オーバーレイ材1(CrMo鋼)の合金相とが混在していることが確認された。ちなみに、中間層5では、クロムの傾斜層(希釈層)は確認されなかった。
次に、このようにオーバーレイ層6を形成したジャーナル部7aを有する本実施例の蒸気タービンロータ7を使用して、回転速度 3600rpmにて5000時間の回転耐久試験を行なった。その結果、かじりは発生せず、またオーバーレイ層6の剥離等も認められなかった。
【符号の説明】
【0039】
1 オーバーレイ材
2 基材
2a 第1のクロム鋼の合金相
4 摩擦攪拌接合ツール
5 中間層
6 オーバーレイ層
6a 第2のクロム鋼の合金相
7 蒸気タービンロータ
7a ジャーナル部
8 軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受と接するジャーナル部が、第1のクロム鋼又はニッケル基からなる基材上に中間層を介して前記基材よりもクロム濃度が低い第2のクロム鋼からなるオーバーレイ層を積層して形成された蒸気タービンロータであって、
前記中間層は、前記基材の合金相と前記第2のクロム鋼の合金相の2相が共に混在していることを特徴とする蒸気タービンロータ。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸気タービンロータにおいて、
前記基材は、クロム濃度が9質量%から13質量%である鋼、又はクロム濃度が15質量%から30質量%であるニッケル基若しくは鉄−ニッケル基合金であることを特徴とする蒸気タービンロータ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の蒸気タービンロータにおいて、
前記第2のクロム鋼のクロム濃度は、0.5質量%から3質量%であることを特徴とする蒸気タービンロータ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の蒸気タービンロータにおいて、
前記中間層は、前記オーバーレイ層を前記基材に摩擦攪拌接合することで形成されたものであることを特徴とする蒸気タービンロータ。
【請求項5】
軸受と接するジャーナル部の表面にオーバーレイ層を有する蒸気タービンロータの製造方法であって、
第1のクロム鋼からなる前記ジャーナル部の基材上に前記第1のクロム鋼よりもクロム濃度が低い第2のクロム鋼からなるオーバーレイ材を重ね合わせる工程と、
前記基材に対して前記オーバーレイ材を摩擦攪拌接合することによって、前記基材上に、前記第1のクロム鋼の合金相と前記第2のクロム鋼の合金相の2相が共に混在する中間層と、この中間層上に、前記第2のクロム鋼からなるオーバーレイ層とを積層する工程と、
を有することを特徴とする蒸気タービンロータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−29044(P2013−29044A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164416(P2011−164416)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】