説明

蓄熱器

【課題】化学蓄熱材複合構造体又は化学蓄熱材成形体としての耐久性を向上させることができると共に、化学蓄熱材複合構造体又は化学蓄熱材成形体に対する伝熱経路を確保することができる蓄熱器を得る。
【解決手段】蓄熱器としての熱交換型蓄熱放熱装置10は、粉体化学蓄熱材12と銅粉32とが所定の割合で混合されると共に焼結されて成る化学蓄熱材複合物成形体11と、化学蓄熱材複合物成形体11を収容した金属製の熱交換器本体18と、化学蓄熱材複合物成形体11の表面に熱交換器本体18の内面との接触面を成すように設けられた銅箔膜30と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蓄熱材を成形した化学蓄熱材成形体を含んで構成された蓄熱器、及び蓄熱器に関する。
【背景技術】
【0002】
粒径0.3mm〜4mmの範囲の結晶性の石灰石を850℃〜1100℃の範囲で所定時間加熱した後に、該石灰石を500℃〜600℃の範囲で所定時間加熱することで、表面から内部に向かう多数の気孔が形成された生石灰を得る技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、内部空間の10〜60容量%の割合で粉体化学蓄熱材を収容したカプセルを、反応器又は反応塔に充填する技術が知られている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。さらに、溢汪管を具備した複数の蒸発皿を有する蒸発器と、冷媒液管流器と、凝縮器と、吸着剤容器と、これらを連通する連通管とを有する化学蓄熱型冷凍装置が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−225686号公報
【特許文献2】特公平6−80395号公報
【特許文献3】特公平6−80394号公報
【特許文献4】特開平7−332788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のように、それ自体に気孔が形成された生石灰を粉体のまま化学蓄熱材として用いた場合、作動中、水和反応と脱水反応とが繰り返される。このため、この化学蓄熱材の粉体は、体積膨張、収縮の繰り返しによって他の粉体と擦れ合い、微粉化してしまい、蓄熱システムとしての反応性が低下する問題があった。また、特許文献2、3の構成では、カプセルの採用による熱伝導抵抗の増加や接触経路の複雑化によって、化学蓄熱材の発熱反応による熱を効率良く取り出すことができず、さらに蓄熱反応における熱を効率良く供給することができない問題があった。一方、特許文献4の構成は、複数の蒸発皿を用いることで蒸発器での冷媒の蒸発面積を確保することができるものの、熱交換媒体との熱交換面積が少なく、伝熱不足(律速)を起こす原因となる。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、化学蓄熱材複合構造体又は化学蓄熱材成形体としての耐久性を向上させることができると共に、化学蓄熱材複合構造体又は化学蓄熱材成形体に対する伝熱経路を確保することができる蓄熱器を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明に係る蓄熱器は、少なくとも粉体化学蓄熱材と金属とを備えた化学蓄熱材複合構造体と、前記化学蓄熱材複合構造体を収容可能に構成された容器と、前記化学蓄熱材複合構造体の表面に、前記容器の内面との接触面を成すように設けられた金属層と、を備えている。
【0007】
請求項1記載の蓄熱器では、粉体化学蓄熱材と金属とを含む化学蓄熱材複合構造体が、金属層を介して容器の内面に接触しつつ該容器内に収容されて構成されている。化学蓄熱材複合構造体は、多孔構造体を成しており、その内部(多孔)を反応物又は反応生成物が流通することで蓄熱、放熱反応を生じ、この熱は容器との間で金属層を介して授受される。本蓄熱器では、化学蓄熱材複合構造体内に金属が混合されているので、該化学蓄熱材複合構造体の内部から金属層への伝熱(熱伝導)性が良好である。また、化学蓄熱材複合構造体は、金属層を介して容器と接触するので、これらの間の伝熱性も良好である。
【0008】
そして、本蓄熱器では、化学蓄熱材複合構造体が金属層を介して容器の内面に接触しているため、該金属層と容器内面との滑り(摺動)が許容される。このため、本蓄熱器では、蓄熱、放熱反応に伴う化学蓄熱材複合構造体の容器に対する相対的な体積膨張、収縮が、金属層と容器内面との滑りによって吸収される。換言すれば、容器に対する化学蓄熱材複合構造体の拘束荷重が緩和される。
【0009】
このように、請求項1記載の蓄熱器では、化学蓄熱材複合構造体としての耐久性を向上させることができると共に、化学蓄熱材複合構造体に対する伝熱経路を確保することができる。
【0010】
請求項2記載の発明に係る蓄熱器は、請求項1記載の蓄熱器において、前記化学蓄熱材複合構造体は、粉体化学蓄熱材と銅粉とが所定の割合で混合されると共に焼結されて成り、前記容器は、金属製とされ、前記金属層は、銅層とされた。
【0011】
請求項2記載の蓄熱器は、粉体化学蓄熱材と銅粉とが所定の割合で混合されている化学蓄熱材複合構造体が、銅層を介して容器の内面に接触しつつ該容器内に収容されて構成されている。粉体を成形して成る化学蓄熱材複合構造体は、多孔構造体を成しており、その内部(多孔)を反応物又は反応生成物が流通することで蓄熱、放熱反応を生じ、この熱は容器との間で銅層を介して授受される。本蓄熱器では、化学蓄熱材複合構造体内に銅粉が混合されているので、該化学蓄熱材複合構造体の内部から銅層への伝熱(熱伝導)性が良好である。また、化学蓄熱材複合構造体は、銅層を介して金属製の容器と金属接触するので、これらの間の伝熱性も良好である。
そして、本蓄熱器では、化学蓄熱材複合構造体が銅層を介して容器の内面に接触しているため、該銅層と容器内面との滑り(摺動)が許容される。このため、本蓄熱器では、蓄熱、放熱反応に伴う化学蓄熱材複合構造体の容器に対する相対的な体積膨張、収縮が、銅層と容器内面との滑りによって吸収される。換言すれば、容器に対する化学蓄熱材複合構造体の拘束荷重が緩和される。
このように、請求項2記載の蓄熱器では、化学蓄熱材複合構造体としての耐久性を向上させることができると共に、化学蓄熱材複合構造体に対する伝熱経路を確保することができる。
【0012】
請求項3記載の発明に係る蓄熱器は、請求項2記載の蓄熱器において、前記銅層は、前記化学蓄熱材複合構造体の表面に露出した前記銅粉に密着されるように形成されている。
【0013】
請求項3記載の蓄熱器では、化学蓄熱材複合構造体内の銅粉と該化学蓄熱材複合構造体表面の銅層とが密着されているため、化学蓄熱材複合構造体の内部から銅層、容器を介した外部への伝熱性が一層良好となる。
【0014】
請求項4記載の発明に係る蓄熱器は、請求項2又は請求項3記載の蓄熱器において、前記銅層は、無加重成膜により前記化学蓄熱材複合構造体の表面に形成されている。
【0015】
請求項4記載の蓄熱器では、例えば蒸着等の無加重成膜によって化学蓄熱材複合構造体の表面に銅層が形成(コーティング)されている。これにより、本蓄熱器では、多孔構造の化学蓄熱材複合構造体の表面に平坦な銅層を形成することができる。また、化学蓄熱材複合構造体の銅粉と銅層とを良好に密着させることができる。
【0016】
請求項5記載の発明に係る蓄熱器は、請求項2又は請求項3記載の蓄熱器において、前記銅層は、銅箔を前記化学蓄熱材複合構造体の表面に一体焼結によって接合することで形成されている。
【0017】
請求項5記載の蓄熱器では、化学蓄熱材複合構造体の表面に銅箔を保持し、これらを一体に焼結することで、化学蓄熱材複合構造体の表面に銅層が形成されている。これにより、本蓄熱器では、化学蓄熱材複合構造体における容器との界面である銅層の平面度、平滑度を確保することができ、容器内面に対する密着度すなわち伝熱性を向上することができる。
【0018】
請求項6記載の発明に係る蓄熱器は、請求項5記載の蓄熱器において、前記銅層は、前記化学蓄熱材複合構造体と共に800℃〜900℃の温度範囲で焼成されることで、該化学蓄熱材複合構造体の表面に露出した前記銅粉に焼結されている。
【0019】
請求項6記載の蓄熱器では、銅の焼結温度の下限以上の温度範囲である800℃〜900℃の温度範囲で焼成することで、銅層が化学蓄熱材構造体の表面に露出された銅粉に焼結されている。このため、化学蓄熱材複合構造体内の銅粉と該化学蓄熱材複合構造体表面の銅箔とが良好に密着され、化学蓄熱材複合構造体の内部から銅層を介した外部(容器)への伝熱性が一層良好となる。
【0020】
請求項7記載の発明に係る蓄熱器は、請求項2〜請求項6の何れか1項記載の蓄熱器において、前記粉体化学蓄熱材として、脱水反応に伴い酸化され、水和反応に伴い水酸化される無機化合物であるアルカリ土類金属水酸化物が用いられている。
【0021】
請求項7記載の蓄熱器では、アルカリ土類金属水酸化物である粉体化学蓄熱材を含む化学蓄熱材複合構造体は、水和反応、脱水(逆水和)反応に伴い体積膨張、収縮を繰り返すが、上記の通り銅層において容器に対し滑ることで、該体積膨張、収縮が吸収される。また、粉体化学蓄熱材として無機化合物を用いるので、蓄熱、放熱反応(水和、脱水)に対する材料安定性が高い。このため、長期に亘り安定した蓄熱効果を得ることができる。
【0022】
しかも、粉体化学蓄熱材としてアルカリ土類金属水酸化物を用いるため、換言すれば、環境負荷の小さい材料を用いるため、製造、使用、リサイクルを含めた安全性の確保が容易になる。また、化学蓄熱材複合構造体の成形時に水酸化物の状態の粉体化学蓄熱材を出発原料として用いれば、化学蓄熱材複合構造体の成形時に粉体化学蓄熱材と銅粉との混合物を増粘させるためのバインダとして水を用いることが可能になり、さらに比較的低温での焼成が可能になる。
【0023】
請求項8記載の発明に係る蓄熱器は、蒸気を離脱させることにより吸熱し、蒸気を吸着させることにより発熱する化学蓄熱材と銅粉とを含む多孔質体から成る化学蓄熱材複合構造体が内部に収容された容器と、前記容器と熱的に接触して設けられ、熱交換媒体が通過する流体通路と、を有する蓄熱器であって、前記化学蓄熱材複合構造体の外表面に金属層が形成されており、前記金属層と前記容器の内面とが接触するように前記化学蓄熱材複合構造体を配することを特徴とする。
【0024】
請求項8記載の蓄熱器では、粉体化学蓄熱材と銅粉とを含む化学蓄熱材複合構造体が、金属層を介して容器の内面に接触しつつ該容器内に収容されて構成されている。化学蓄熱材複合構造体は、多孔質体(多孔構造体)を成しており、その内部(多孔)を蒸気が流通することで蓄熱、放熱反応を生じ、この熱は容器との間で金属層を介して授受される。本蓄熱器では、化学蓄熱材複合構造体内に銅粉が混合されているので、該化学蓄熱材複合構造体の内部から金属層への伝熱(熱伝導)性が良好である。また、化学蓄熱材複合構造体は、金属層を介して容器と接触するので、これらの間の伝熱性も良好である。
【0025】
そして、本蓄熱器では、化学蓄熱材複合構造体が金属層を介して容器の内面に接触しているため、該金属層と容器内面との滑り(摺動)が許容される。このため、本蓄熱器では、蓄熱、放熱反応に伴う化学蓄熱材複合構造体の容器に対する相対的な体積膨張、収縮が、金属層と容器内面との滑りによって吸収される。換言すれば、容器に対する化学蓄熱材複合構造体の拘束荷重が緩和される。
【0026】
このように、請求項8記載の蓄熱器では、化学蓄熱材複合構造体としての耐久性を向上させることができると共に、化学蓄熱材複合構造体に対する伝熱経路を確保することができる。
【0027】
上記した蓄熱器に代わる蓄熱器として、粉体化学蓄熱材を成形して成る化学蓄熱材成形体と、前記化学蓄熱材成形体を収容した金属製の容器と、前記化学蓄熱材成形体の表面に、前記容器の内面との接触面を成すように設けられた炭素層と、を備えた構成としても良い。本蓄熱器では、粉体化学蓄熱材を成形して成る化学蓄熱材成形体が、炭素層を介して容器の内面に接触しつつ該容器内に収容されて構成されている。粉体を成形して成る化学蓄熱材成形体は、多孔構造体を成しており、その内部(多孔)を反応物又は反応生成物が流通することで蓄熱、放熱反応を生じ、この熱は容器との間で炭素層を介して授受される。本蓄熱器では、化学蓄熱材成形体は、粉体化学蓄熱材に対し高熱伝導率の炭素層を介して金属製の容器と接触するので、炭素層を有しない構成と比較して、これら化学蓄熱材成形体と容器と伝熱性が良好である。そして、本蓄熱器では、化学蓄熱材成形体が炭素層を介して容器の内面に接触しているため、該炭素層と容器内面との滑り(摺動)が許容される。このため、本蓄熱器では、蓄熱、放熱反応に伴う化学蓄熱材成形体の容器に対する相対的な体積膨張、収縮が、炭素層と容器内面との滑りによって吸収される。このように、本蓄熱器では、化学蓄熱材成形体の粉体化を抑制することができると共に、化学蓄熱材成形体に対する伝熱経路を確保することができる。
【0028】
また、上記の蓄熱器において、前記炭素層は、無加重成膜により前記化学蓄熱材複合構造体の表面に形成されている、構成としても良い。本蓄熱器では、例えば蒸着等の無加重成膜法によって化学蓄熱材成形体の表面に炭素膜が形成(コーティング)されている。これにより、本蓄熱器では、多孔構造の化学蓄熱材複合構造体の表面に平坦度が良好な炭素層を形成することができる。
【0029】
さらに、上記の各蓄熱器において、ダイヤモンドライクカーボン膜が前記化学蓄熱材複合構造体の表面に形成されている、構成としても良い。本蓄熱器では、炭素層として表面硬度が高く摺動性の良好なダイヤモンドライクカーボン膜が化学蓄熱材成形体の表面に形成されているため、蓄熱、放熱反応に伴う化学蓄熱材成形体の容器に対する相対的な体積膨張、収縮が、炭素層と容器内面との滑り(摺動)によって一層良好に吸収される。
【0030】
またさらに、上記の各蓄熱器において、前記炭素層は、カーボンブラックを含んで構成されている、構成としても良い。本蓄熱器では、高熱伝導材料であるカーボンブラックが炭素層に含まれているため、化学蓄熱材成形体と容器との伝熱性が向上される。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように本発明に係る蓄熱器は、化学蓄熱材複合構造体又は化学蓄熱材成形体としての耐久性を向上させることができると共に、化学蓄熱材複合構造体又は化学蓄熱材成形体に対する伝熱経路を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置の要部を模式的に示す拡大断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置の概略構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置の製造方法を模式的に示す工程説明図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置の要部を模式的に示す拡大断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置の製造方法を模式的に示す工程説明図である。
【図6】参考例に係る熱交換型蓄熱放熱装置の要部を模式的に示す拡大断面図である。
【図7】参考例に係る熱交換型蓄熱放熱装置の製造方法を模式的に示す工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の第1の実施形態に係る蓄熱器としての熱交換型蓄熱放熱装置10、及びその製造方法について、図1〜図3に基づいて説明する。
【0034】
図2には、熱交換型蓄熱放熱装置10の概略構成が模式的な斜視図にて示されている。この図に示される如く、熱交換型蓄熱放熱装置10は、容器としての熱交換器本体18と、該熱交換器本体18に設けられた化学蓄熱材複合構造体としての化学蓄熱材複合物成形体11とを備えている。熱交換器本体18は、シェル(外壁)20と、シェル20内を複数の空間に区画する壁体としての隔壁22とを有する。
【0035】
これにより、熱交換器本体18の内部は、化学蓄熱材複合物成形体11が収容される化学蓄熱材室としての蓄熱材収容部24と、該化学蓄熱材複合物成形体11との間で熱交換を行う熱交換媒体としての流体が流通する流体流路26とが、隔壁22を挟んで交互に配置されている。なお、蓄熱材収容部24と流体流路26とを共に有する構成を本発明における容器として捉えても良く、流体流路26が熱的に接触して設けられた蓄熱材収容部24を本発明における容器として捉えても良い。
【0036】
この実施形態では、蓄熱材収容部24、流体流路26は、それぞれ隔壁22が長辺とされる扁平矩形状の開口端を有する角柱状空間とされている。この実施形態では、熱交換器本体18は、蓄熱材収容部24、流体流路26が断面の扁平方向に隣接され、かつ該隣接方向の両端に流体流路26が配置される構成とされている。この実施形態では、熱交換器本体18は、例えばステンレス鋼やアルミニウム(アルミニウム合金を含む)等の金属材料にて構成されている。
【0037】
図2に示される如く、この実施形態における化学蓄熱材複合物成形体11は、内部に水蒸気流路28が形成された閉断面構造(偏平した矩形筒形状)とされており、それぞれ独立して対応する蓄熱材収容部24内に配設されている。化学蓄熱材複合物成形体11は、蓄熱材収容部24に対する挿入方向の一方側(例えば重力方向の下側)において、図示しないストッパによって蓄熱材収容部24からの脱落が防止されている。
【0038】
そして、化学蓄熱材複合物成形体11の外表面には、銅箔層30が略全面に亘って形成されている。化学蓄熱材複合物成形体11は、金属層である銅層としての銅箔膜30を介して熱交換器本体18の内面すなわちシェル20又は隔壁22に面接触されている。換言すれば、銅箔膜30は、化学蓄熱材複合物成形体11におけるシェル20又は隔壁22への接触面(界面)とされている。この実施形態では、銅箔膜30は、化学蓄熱材複合物成形体11と熱交換器本体18(流体流路26を流れる流体)との間の伝熱面(熱的密着面)、及びシェル20又は隔壁22に対する摺動面を成している。
【0039】
この銅箔膜30について説明する前に、先ず、化学蓄熱材複合物成形体11について補足する。図1には、化学蓄熱材複合物成形体11の一部が模式的な断面図にて示されている。この図に示される如く、化学蓄熱材複合物成形体11は、多数の粉体化学蓄熱材12に金属としての銅粉32が所定の割合で混合されたものが組織化、構造化されたものであって、これら多数の粉体化学蓄熱材12、銅粉32間には細孔14が形成されている。したがって、この実施形態に係る化学蓄熱材複合物成形体11は、多孔質構造体(多孔体)として把握され、かつ細孔14の内面に粉体化学蓄熱材12、銅粉32が露出して構成されているものとして把握されるものである。
【0040】
この実施形態では、粉体化学蓄熱材12は、無機化合物としてのアルカリ土類金属水酸化物である水酸化カルシウム(Ca(OH))とされており、脱水に伴って蓄熱(吸熱)し、水和(水酸化カルシウムへの復原)に伴って放熱(発熱)する構成とされている。すなわち、多数の粉体化学蓄熱材12は、以下に示す反応で蓄熱、放熱を可逆的に繰り返し得る構成とされている
Ca(OH) ⇔ CaO + H
【0041】
この式に蓄熱量、発熱量Qを併せて示すと、
Ca(OH) + Q → CaO + H
CaO + HO → Ca(OH) + Q
となる。
【0042】
この実施形態では、粉体化学蓄熱材12として、平均粒子径は略8〜10μm(レーザー回析式測定法、島津製作所製SALD−2000Aによる)のものが用いられている。また、この実施形態では、銅粉32として、平均粒子径が略5〜8μmのものが用いられている。さらに、この実施形態では、銅粉32は、30wt%の割合で粉体化学蓄熱材12に混合されている。
【0043】
以上説明したように金属分である銅粉32が粉体化学蓄熱材12に所定割合で混合されて成る化学蓄熱材複合物成形体11では、高熱伝導率の銅粉32が内部の伝熱性を向上(改善)させる構成とされている。また、化学蓄熱材複合物成形体11では、銅粉32は、表面に銅箔膜30を保持する機能を果たしている。
【0044】
この実施形態では、銅箔膜30は、後述する銅箔40を化学蓄熱材複合物成形体11に一体に焼結することで化学蓄熱材複合物成形体11に密着され、該化学蓄熱材複合物成形体11におけるシェル20、隔壁22との界面を構成している。銅箔膜30の厚みは数百μmとされている。
【0045】
以下、熱交換型蓄熱放熱装置10の製造方法を説明する。
【0046】
図3には、熱交換型蓄熱放熱装置10の製造方法が模式的に示されている。熱交換型蓄熱放熱装置10を製造するにあたっては、先ず、図3に示される材料準備工程である工程Aで、原料である水酸化物(Ca(OH))の状態の粉体化学蓄熱材12、銅粉32、及びバインダである水Wを用意する。次いで、混合工程である工程Bで、粉体化学蓄熱材12、銅粉32、水Wを混合攪拌容器34内で混合し、さらに攪拌工程である工程Cで、撹拌機36にて撹拌(混練)する。これにより、形状を保持し得るように増粘化された混合蓄熱材Mが得られる。
【0047】
次いで、成形工程である工程Dに移行する。工程Dでは、上記の通り撹拌工程で増粘化された混合蓄熱材Mを押し出し型38にて押し出し成形する。これにより、上記混合蓄熱材Mは、押し出し型38の形状に応じた所定形状、すなわち熱交換器本体18の蓄熱材収容部24に対応した扁平矩形筒状に形成される。これにより、化学蓄熱材複合物成形体11が成形される。
【0048】
次いで、工程Eで銅粉32を構成する銅箔40を用意し、銅箔保持工程である工程Fで、化学蓄熱材複合物成形体11の外表面の略全面に亘り、プレスによって銅箔40を機械的に保持(仮保持)させる。さらに、焼成工程である工程Gで外表面に銅粉32が付着された化学蓄熱材複合物成形体11を焼成炉42にて焼成する。この際の焼成温度は、800℃〜900℃とされる。
【0049】
この焼成によって、化学蓄熱材複合物成形体11は、水分が除去されて固化される。また、上記の焼成温度は銅の焼結温度に一致しており、銅箔40は、化学蓄熱材複合物成形体11の表面に露出されていた銅粉32と焼結されることで、化学蓄熱材複合物成形体11の外表面に強固に密着保持される。これにより、化学蓄熱材複合物成形体11の外表面には、略全面に亘って銅箔膜30が形成される。
【0050】
そして、挿入工程である工程Hで、外表面に銅箔膜30が形成された化学蓄熱材複合物成形体11を熱交換器本体18の蓄熱材収容部24内に挿入(圧挿)する。この際、化学蓄熱材複合物成形体11は、銅箔膜30において熱交換器本体18のシェル20、隔壁22と摺動しつつ蓄熱材収容部24に挿入される。仕上げ工程である工程Iで仕上げ(例えばストッパの装着等)を行うと、熱交換型蓄熱放熱装置10の製造が完了する。
【0051】
次に、第1の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置10の作用を説明する。
【0052】
熱交換型蓄熱放熱装置10の化学蓄熱材複合物成形体11に蓄熱する際には、流体流路26に熱源からの熱媒を流通させる。すると、熱媒からの熱によって化学蓄熱材複合物成形体11が脱水反応を生じ、この熱が化学蓄熱材複合物成形体11に蓄熱される。この際、化学蓄熱材複合物成形体11から脱水された水蒸気は、細孔14、水蒸気流路28を通じて放出される。
【0053】
一方、熱交換型蓄熱放熱装置10に蓄熱された熱を放熱する際には、熱交換型蓄熱放熱装置10は、図示しない蒸発器等からの水蒸気が水蒸気流路28を通じて熱交換型蓄熱放熱装置10内の化学蓄熱材複合物成形体11内の細孔14に供給される。これにより、化学蓄熱材複合物成形体11を構成する粉体化学蓄熱材12は、水和反応を生じつつ放熱する。この熱は、流体流路26を流通する熱輸送媒体によって加熱対象に輸送され、加熱対象の加熱に供される。
【0054】
このように、熱交換型蓄熱放熱装置10では、粉体化学蓄熱材12と銅粉32との混合物の成形体である化学蓄熱材複合物成形体11の多孔性(細孔14)を利用して、粉体化学蓄熱材12に対する水蒸気の供給、放出経路の確保と、化学蓄熱材複合物成形体11全体としての構造化とが両立されている。
【0055】
また、熱交換型蓄熱放熱装置10では、化学蓄熱材複合物成形体11に高熱伝導率の銅粉32が混合されているため、化学蓄熱材複合物成形体11内部の伝熱性が良好である。すなわち、蓄熱時の粉体化学蓄熱材12への熱供給、放熱時の粉体化学蓄熱材12からの熱回収の効率が向上する。
【0056】
しかも、熱交換型蓄熱放熱装置10では、化学蓄熱材複合物成形体11における熱交換器本体18のシェル20、隔壁22との界面が、該シェル20、隔壁22と金属接触する銅箔膜30であるため、熱交換器本体18に対する熱的密着性が確保される。これにより、熱交換型蓄熱放熱装置10では、化学蓄熱材複合物成形体11の外部(隔壁22を介した流体流路26の流体)に対する熱伝導率も高い。
【0057】
さらに、熱交換型蓄熱放熱装置10では、銅箔膜30が化学蓄熱材複合物成形体11の表面側に位置する銅粉32に密着されているため、化学蓄熱材複合物成形体11の内外への伝熱性が一層良好である。これらによって熱交換型蓄熱放熱装置10では、全体として所要の伝熱特性が確保される。
【0058】
ところで、化学蓄熱材複合物成形体11を構成する粉体化学蓄熱材12は、水和(放熱)、脱水(蓄熱)に伴って、体積膨張、収縮を繰り返し、化学蓄熱材複合物成形体11は線膨張係数が異なる熱交換器本体18に対して相対的に体積膨張、収縮を繰り返すこととなる。
【0059】
ここで、熱交換型蓄熱放熱装置10では、化学蓄熱材複合物成形体11が銅箔膜30において熱交換器本体18(シェル20、隔壁22)に対し摺動可能に接触している。このため、熱交換型蓄熱放熱装置10では、化学蓄熱材複合物成形体11の熱交換器本体18に対する体積膨張、収縮が、銅箔膜30における化学蓄熱材複合物成形体11とシェル20、隔壁22との摺動によって吸収される。すなわち、熱交換器本体18に対する化学蓄熱材複合物成形体11の拘束荷重が緩和される。これにより、化学蓄熱材複合物成形体11の体積膨張、収縮に伴い該化学蓄熱材複合物成形体11の一部が粉体化することが防止又は効果的に抑制される。
【0060】
換言すれば、熱交換型蓄熱放熱装置10では、銅箔膜30を設けることで化学蓄熱材複合物成形体11と熱交換器本体18との滑りが可能とされているため、粉体化学蓄熱材12の水和、脱水反応に伴う膨張収縮に対し、熱交換器本体18の海面との間で発生する熱膨張率の違いによる耐久性の低下を抑制することができる。
【0061】
以上説明したように、第1の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置10では、化学蓄熱材複合物成形体11の粉体化を抑制して耐久性を向上させることができると共に、化学蓄熱材複合構造体に対する伝熱経路を確保することができる。一方、熱交換型蓄熱放熱装置10では、水蒸気流路28に面する化学蓄熱材複合物成形体11の内表面には銅箔膜30が形成されないので、水蒸気流路28を通じて粉体化学蓄熱材12(細孔14)に対し水蒸気を良好に供給、放出することができる。
【0062】
また、熱交換型蓄熱放熱装置10では、銅箔40を化学蓄熱材複合物成形体11の外表面に一体焼結することで銅箔膜30が形成されている。このため、銅箔膜30によって化学蓄熱材複合物成形体11の外表面の平面度、平滑度が確保され、シェル20、隔壁22との良好な面接触が確保される(接触面積が大きい)。これにより、熱交換型蓄熱放熱装置10では、全体として一層良好な伝熱特性が確保される。
【0063】
しかも、熱交換型蓄熱放熱装置10では、800℃〜900℃の焼成温度で化学蓄熱材複合物成形体11を焼成することで、銅箔膜30が銅粉32に焼結されている。このため、銅粉32すなわち化学蓄熱材複合物成形体11に対する銅箔膜30の強固な接合性、良好な熱伝導性が担保される。そして、熱交換型蓄熱放熱装置10では、粉体化学蓄熱材12として水酸化カルシウムを用いているため、800℃以上の温度で化学蓄熱材複合物成形体11を焼成しても、化学蓄熱材としての活性が回復される。換言すれば、粉体化学蓄熱材12として水酸化カルシウムを用いることで、800℃〜900℃の焼成温度で化学蓄熱材複合物成形体11を焼成して銅箔膜30を銅粉32に焼結させる構成が実現された。
【0064】
さらに、化学蓄熱材複合物成形体11では、粉体化学蓄熱材12として無機化合物である水酸化カルシウムを用いているため、蓄熱、放熱反応(水和、脱水)に対する材料安定性が高い。特に、水酸化カルシウムは、例えば水酸化マグネシウム等に対しても可逆性が高い(ほぼ100%の水和、脱水反応率を有する)ため、長期間に亘り安定した蓄熱効果を得ることができる。また、水酸化カルシウムは、水酸化マグネシウム等に対して不純物に対する感度が低いので、この点でも長期安定運転に寄与する。また特に、粉体化学蓄熱材12としてアルカリ土類金属化合物である水酸化カルシウムを用いているため、換言すれば、環境負荷の小さい材料を用いるため、化学蓄熱材複合物成形体11の製造、使用、リサイクルを含めた安全性の確保が容易になる。
【0065】
さらにここで、熱交換型蓄熱放熱装置10では、水酸化物である水酸化カルシウムの粉体を用いて化学蓄熱材複合物成形体11を製造するため、撹拌工程で粉体化学蓄熱材12と銅粉32との混合物を増粘させるためのバインダとして水を用いることができる。これにより、簡単かつ安価な方法で化学蓄熱材複合物成形体11を得ることができる。例えば、酸化カルシウムを出発物質とした場合には、該酸化カルシウムは水に反応するために水(水を含む液体)をバインダとして用いることができない。また例えば、炭酸カルシウムを出発原料として粉体化学蓄熱材12(水酸化カルシウム)を得る場合には、脱炭酸工程で950℃〜1000℃程度の高温焼成が要求される。これに対して熱交換型蓄熱放熱装置10では、上記の通り水酸化カルシウムを出発原料として化学蓄熱材複合物成形体11が製造されるため、水をバインダとして粉体化学蓄熱材12、銅粉32の混合物を撹拌することで増粘効果が得られ、成形性が向上する。
【0066】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。なお、上記第1の実施形態又は前出の構成と基本的に同一の部品、部分については、上記第1の実施形態又は前出の構成同一の符号を付して説明を省略し、また図示を省略する場合がある。
【0067】
(第2の実施形態)
図4には、本発明の第2の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置50の要部が図1に対応する断面図にて示されている。この図に示される如く、熱交換型蓄熱放熱装置50は、銅箔膜30に代えて、金属層である銅層としての銅コーティング膜52を備えて構成されている点で、第1の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置10とは異なる。
【0068】
銅コーティング膜52は、無加重成膜法の1つである蒸着法によって化学蓄熱材複合物成形体11の外表面に形成されている点で、銅箔40をプレス(加重)、焼結により密着させて形成された銅箔膜30とは異なる。このため、銅コーティング膜52の厚みは、銅箔膜30と比較して薄く、例えば略数十〜百μmとされる。以下、熱交換型蓄熱放熱装置50の製造方法について、図5を参照しつつ、主に熱交換型蓄熱放熱装置10の製造方法と異なる部分を説明する。
【0069】
図5に示される如く、熱交換型蓄熱放熱装置50の製造方法は、その工程A〜工程Dについて熱交換型蓄熱放熱装置10の製造方法における工程A〜工程Dと共通する。熱交換型蓄熱放熱装置50の製造方法では、工程Dの後、焼成工程である工程Eで、工程Dで成形された化学蓄熱材複合物成形体11を焼成炉42によって焼成する。この場合の焼成温度は、例えば400〜500℃とされる。
【0070】
次いで、蒸着工程である工程Fで、真空蒸着装置54によって化学蓄熱材複合物成形体11の外表面に銅を蒸着する。この実施形態では、真空蒸着装置54における蒸着原料である銅を蒸発させるためのヒータとして、例えばレーザアブレーションが用いられている。この工程Fにより、外表面の略全面に亘り銅コーティング膜52が形成された化学蓄熱材複合物成形体11が得られる。
【0071】
そして、工程Gで必要数だけ揃えられた化学蓄熱材複合物成形体11を用いて、熱交換型蓄熱放熱装置10の製造方法における工程H、工程Iと同様の挿入工程、仕上げ工程を行うことで、熱交換型蓄熱放熱装置50の製造が完了する。熱交換型蓄熱放熱装置50の他の構成、製造方法は、図示しない部分を含め熱交換型蓄熱放熱装置10の対応する構成、製造方法と同様である。
【0072】
したがって、第2の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置50によっても、化学蓄熱材複合物成形体11における熱交換器本体18との界面が銅コーティング膜52とされているため、銅箔膜30が銅箔40より成ることによる効果を除いて、基本的に熱交換型蓄熱放熱装置10と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。すなわち、第2の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置50では、化学蓄熱材複合物成形体11の粉体化を抑制して耐久性を向上させることができると共に、化学蓄熱材複合構造体に対する伝熱経路を確保することができる。
【0073】
また、熱交換型蓄熱放熱装置50では、無加重成膜法である蒸着によって銅コーティング膜52が形成されるため、多孔体である化学蓄熱材複合物成形体11の表面にフラットな銅コーティング膜52を形成することができる。しかも、熱交換型蓄熱放熱装置50では、化学蓄熱材複合物成形体11が銅粉32を含んで構成されているため、銅粉32を起点として銅を蒸着させることができ、粉体化学蓄熱材12を主成分とする該化学蓄熱材複合物成形体11の表面に蒸着によって銅コーティング膜52を形成することができる。
【0074】
さらに、熱交換型蓄熱放熱装置50では、真空蒸着装置54内の真空、加熱場での表面活性化によって銅粉32表面の酸化膜が還元されながら、銅蒸気(イオン)が化学蓄熱材複合物成形体11に蒸着される。このため、高温に加熱することなく、銅粉32と銅コーティング膜52とを熱的及び機械的に密着させることができる。したがって、熱交換型蓄熱放熱装置50では、化学蓄熱材複合物成形体11の内外に対し、熱交換型蓄熱放熱装置10と同等の伝熱性能を得ることができる。
【0075】
(参考例)
図6には、参考例に係る熱交換型蓄熱放熱装置60の要部が図1に対応する断面図にて示されている。この図に示される如く、熱交換型蓄熱放熱装置50は、化学蓄熱材成形体61が銅粉32を有せず、かつ銅箔膜30に代えて、炭素層、ダイヤモンドライクカーボン膜としてのDLCコーティング膜62を備えて構成されている点で、第1の実施形態に係る熱交換型蓄熱放熱装置10とは異なる。
【0076】
熱交換型蓄熱放熱装置60を構成する化学蓄熱材成形体61は、粉体化学蓄熱材12間に細孔14が形成された多孔質体である粉体化学蓄熱材12成形体として構成されている。換言すれば、化学蓄熱材成形体61は、銅粉32を有しない点を除き、化学蓄熱材複合物成形体11と同様に構成されている。
【0077】
また、熱交換型蓄熱放熱装置60を構成するDLCコーティング膜62は、無加重成膜法の1つである蒸着法によって、化学蓄熱材成形体61の外表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)の膜を形成して構成されている。DLCコーティング膜62の厚みは、銅箔膜30と比較して薄く、例えば略数十〜百μmとされる。さらに、熱交換型蓄熱放熱装置60では、化学蓄熱材成形体61におけるDLCコーティング膜62との境界部(の細孔14内)に、カーボンブラック層64が設けられている。この参考例では、DLCコーティング膜62とカーボンブラック層64とで本発明における炭素層が構成されている。
【0078】
以下、熱交換型蓄熱放熱装置60の製造方法について、図7を参照しつつ説明する。
【0079】
熱交換型蓄熱放熱装置60を製造するにあたっては、先ず、図7に示される材料準備工程である工程Aで、原料である水酸化物(Ca(OH))の状態の粉体化学蓄熱材12及びバインダである水Wを用意する。次いで、混合工程である工程Bで、粉体化学蓄熱材12、水Wを混合攪拌容器34内で混合し、さらに攪拌工程である工程Cで、撹拌機36にて撹拌(混練)する。これにより、形状を保持し得るように増粘化された混合蓄熱材Mが得られる。
【0080】
次いで、成形工程である工程Dに移行する。工程Dでは、上記の通り撹拌工程で増粘化された混合蓄熱材Mを押し出し型38にて押し出し成形する。これにより、上記混合蓄熱材Mは、押し出し型38の形状に応じた所定形状、すなわち熱交換器本体18の蓄熱材収容部24に対応した扁平矩形筒状に形成される。これにより、化学蓄熱材成形体61が成形される。
【0081】
次いで、浸漬工程である工程Eで、カーボンブラック槽66に化学蓄熱材成形体61を浸漬して該化学蓄熱材成形体61の表面側にカーボンブラックCBを入り込ませる(塗り込む構成としても良い)。この際、水蒸気流路28内にカーボンブラックCBが侵入しないように、適宜マスキングを施す(図示省略)。さらに、焼成工程である工程Fで、工程Eにて表面側にカーボンブラックCBが入り込まされた化学蓄熱材成形体61を焼成炉42によって焼成する。この場合の焼成温度は、例えば400〜600℃とされる。
【0082】
次いで、蒸着工程である工程Gで、真空蒸着装置68によって化学蓄熱材成形体61の外表面にDLCを蒸着する。この参考例では、DLCは、物理蒸着(PVD)の何れによって化学蓄熱材成形体61の外表面に蒸着される。この工程Gにより、外表面の略全面に亘りDLCコーティング膜62が形成された化学蓄熱材成形体61が得られる。
【0083】
そして、工程Hで必要数だけ揃えられた化学蓄熱材成形体61を用いて、挿入工程である工程Iで、外表面に銅箔膜30が形成された化学蓄熱材成形体61を熱交換器本体18の蓄熱材収容部24内に挿入(圧挿)する。この際、化学蓄熱材成形体61は、銅箔膜30において熱交換器本体18のシェル20、隔壁22と摺動しつつ蓄熱材収容部24に挿入される。仕上げ工程である工程Jで仕上げ(例えばストッパの装着等)を行うと、熱交換型蓄熱放熱装置60の製造が完了する。
【0084】
次に、参考例に係る熱交換型蓄熱放熱装置60の作用効果を説明する。
【0085】
熱交換型蓄熱放熱装置60の化学蓄熱材成形体61に蓄熱する際には、流体流路26に熱源からの熱媒を流通させる。すると、熱媒からの熱によって化学蓄熱材成形体61が脱水反応を生じ、この熱が化学蓄熱材成形体61に蓄熱される。この際、化学蓄熱材成形体61から脱水された水蒸気は、細孔14、水蒸気流路28を通じて排出される。
【0086】
一方、熱交換型蓄熱放熱装置60に蓄熱された熱を放熱する際には、熱交換型蓄熱放熱装置60は、図示しない蒸発器等からの水蒸気が水蒸気流路28を通じて熱交換型蓄熱放熱装置60内の化学蓄熱材成形体61内の細孔14に供給される。これにより、化学蓄熱材成形体61を構成する粉体化学蓄熱材12は、水和反応を生じつつ放熱する。この熱は、流体流路26を流通する熱輸送媒体によって加熱対象に輸送され、加熱対象の加熱に供される。
【0087】
このように、熱交換型蓄熱放熱装置60では、粉体化学蓄熱材12の成形体である化学蓄熱材成形体61の多孔性(細孔14)を利用して、粉体化学蓄熱材12に対する水蒸気の供給、放出経路の確保と、化学蓄熱材成形体61全体としての構造化とが両立されている。
【0088】
また、熱交換型蓄熱放熱装置60では、化学蓄熱材成形体61における熱交換器本体18のシェル20、隔壁22との界面が、該シェル20、隔壁22と面接触すると共に粉体化学蓄熱材12に対し熱伝導率が高いDLCコーティング膜62であるため、熱交換器本体18に対する熱的密着性が確保される。これにより、熱交換型蓄熱放熱装置60では、化学蓄熱材成形体61の外部(隔壁22を介した流体流路26の流体)に対する熱伝導率も高い。
【0089】
ところで、化学蓄熱材成形体61を構成する粉体化学蓄熱材12は、水和(放熱)、脱水(蓄熱)に伴って、体積膨張、収縮を繰り返し、化学蓄熱材成形体61は線膨張係数が異なる熱交換器本体18に対して相対的に体積膨張、収縮を繰り返すこととなる。
【0090】
ここで、熱交換型蓄熱放熱装置60では、化学蓄熱材成形体61がDLCコーティング膜62において熱交換器本体18(シェル20、隔壁22)に対し摺動可能に接触している。このため、熱交換型蓄熱放熱装置60では、化学蓄熱材成形体61の熱交換器本体18に対する体積膨張、収縮がDLCコーティング膜62における化学蓄熱材成形体61とシェル20、隔壁22との摺動によって吸収される。これにより、化学蓄熱材成形体61の体積膨張、収縮に伴い該化学蓄熱材成形体61の一部が粉体化することが防止又は効果的に抑制される。
【0091】
換言すれば、熱交換型蓄熱放熱装置60では、DLCコーティング膜62を設けることで化学蓄熱材成形体61と熱交換器本体18との滑りが可能とされているため、粉体化学蓄熱材12の水和、脱水反応に伴う膨張収縮に対し、熱交換器本体18の海面との間で発生する熱膨張率の違いによる耐久性の低下を抑制することができる。
【0092】
特に、DLCコーティング膜62は、表面硬度が高く、水蒸気の共存下で摺動性が向上する(摺動抵抗が減じられる)特性を有するので、金属製の熱交換器本体18との高い熱密着性(熱伝導)と良好な滑りとを両立することができる。さらに、熱交換型蓄熱放熱装置60では、ダイヤモンドライクカーボンに対しても高熱伝導であるカーボンブラック層64が設けられているため、化学蓄熱材成形体61から熱交換器本体18への熱伝導性が一層向上される。
【0093】
以上説明したように、参考例に係る熱交換型蓄熱放熱装置60では、化学蓄熱材成形体61の粉体化を抑制して耐久性を向上させることができると共に、化学蓄熱材複合構造体に対する伝熱経路を確保することができる。一方、熱交換型蓄熱放熱装置60では、水蒸気流路28に面する化学蓄熱材成形体61の内表面にはDLCコーティング膜62が形成されないので、水蒸気流路28を通じて粉体化学蓄熱材12(細孔14)に対し水蒸気を良好に供給、放出することができる。
【0094】
また、熱交換型蓄熱放熱装置60では、無加重成膜法である蒸着によってDLCコーティング膜62が形成されるため、多孔体である化学蓄熱材成形体61の表面にフラットなDLCコーティング膜62を形成することができる。
【0095】
さらに、熱交換型蓄熱放熱装置60における粉体化学蓄熱材12として無機化合物である水酸化カルシウムを用いたことによる作用効果は、熱交換型蓄熱放熱装置10、熱交換型蓄熱放熱装置50において粉体化学蓄熱材12として無機化合物である水酸化カルシウムを用いたことによる作用効果と同様である。
【0096】
なお、参考例では、DLCコーティング膜62及びカーボンブラック層64が共に設けられた例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、DLCコーティング膜62及びカーボンブラック層64の何れか一方のみを化学蓄熱材成形体61の外表面に形成しても良い。また、これらDLCコーティング膜62及びカーボンブラック層64とは別構造の炭素層を備えた構成としても良い。
【0097】
また、参考例では、化学蓄熱材成形体61が粉体化学蓄熱材12にて構成された例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、化学蓄熱材成形体61が粉体化学蓄熱材12と銅粉32とを所定の割合で混合した成形物である構成としても良い。
【0098】
なお、上記した各実施形態では、化学蓄熱材複合物成形体11に混合される金属として銅粉32、化学蓄熱材複合物成形体11の表面に形成される金属層として銅箔膜30、銅コーティング膜52を例示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、銅粉に代えてステンレス鋼を含む鉄繊維やアルミニウム繊維等を採用することができ、また、金属層としてもステンレス鋼やアルミニウムを採用することができる。粉体化学蓄熱材12としてCaOH系の蓄熱材を採用する場合には、腐食防止の観点からステンレス鋼を採用することができる。また、本発明は、化学蓄熱材複合物成形体11に混合される金属と、化学蓄熱材複合物成形体11の表面に形成される金属層とが同種の金属にて構成される例に限られるものではない。
【0099】
さらに、上記した各実施形態では、化学蓄熱材複合物成形体11が粉体化学蓄熱材12、又は粉体化学蓄熱材12と銅粉32との混合物より成る例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、成形体としての強度を確保するための添加物を混合して化学蓄熱材複合物成形体11を構成しても良い。
【0100】
またさらに、上記した実施形態では、粉体化学蓄熱材12として水和系化学蓄熱材である水酸化カルシウム(Ca(OH))を用いた例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、アルカリ土類金属の無機化合物である水酸化マグネシウム(Mg(OH))を粉体化学蓄熱材12として用いても良い。同様に、アルカリ土類金属の無機化合物であるBa(OH)やBa(OH)・HOを粉体化学蓄熱材12として用いても良く、アルカリ土類金属以外の無機化合物であるLiOH・HO、Al・3HO等を粉体化学蓄熱材12として用いても良い。但し、焼成温度が800℃〜900℃となる第1の実施形態においては、粉体化学蓄熱材12として水酸化カルシウムを用いることが望ましい。
【0101】
また、上記した各実施形態では、化学蓄熱材複合物成形体11が単独で水蒸気流路28を有する偏平矩形筒状に成形された例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、それぞれ平板状に形成された一対の化学蓄熱材複合物成形体11を共通の蓄熱材収容部24内に配置し、該化学蓄熱材複合物成形体11間の空間を水蒸気流路28とした構成としても良い。
【0102】
さらに、上記した各実施形態では、熱交換器本体18における蓄熱材収容部24と流体流路26との開口方向が同じ対向流又は並行流型の構成を例示しているが、例えば、直交流型の熱交換器本体18を用いて熱交換型蓄熱放熱装置10、50、60を構成しても良い。
【0103】
またさらに、上記した各実施形態では、本発明が蓄熱器としての熱交換型蓄熱放熱装置10、50、60に適用された例を示したが、本発明はこれに限定されず、金属容器内に化学蓄熱材複合物成形体11を収容して成る各種形態の蓄熱器に適用可能である。したがって例えば、容器の外周面の一部が蓄熱の熱源又は放熱による加熱対象に直接的に接触される蓄熱器に本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0104】
10 熱交換型蓄熱放熱装置(蓄熱器)
11 化学蓄熱材複合物成形体(化学蓄熱材複合構造体)
12 粉体化学蓄熱材
18 熱交換器本体(容器)
24 蓄熱材収容部(容器)
26 流体流路
30 銅箔膜(銅層)
32 銅粉
40 銅箔
50・60 熱交換型蓄熱放熱装置(蓄熱器)
52 銅コーティング膜(銅層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも粉体化学蓄熱材と金属とを備えた化学蓄熱材複合構造体と、
前記化学蓄熱材複合構造体を収容可能に構成された容器と、
前記化学蓄熱材複合構造体の表面に、前記容器の内面との接触面を成すように設けられた金属層と、
を備えた蓄熱器。
【請求項2】
前記化学蓄熱材複合構造体は、粉体化学蓄熱材と銅粉とが所定の割合で混合されると共に焼結されて成り、
前記容器は、金属製とされ、
前記金属層は、銅層とされた請求項1記載の蓄熱器。
【請求項3】
前記銅層は、前記化学蓄熱材複合構造体の表面に露出した前記銅粉に密着されるように形成されている請求項2記載の蓄熱器。
【請求項4】
前記銅層は、無加重成膜により前記化学蓄熱材複合構造体の表面に形成されている請求項2又は請求項3記載の蓄熱器。
【請求項5】
前記銅層は、銅箔を前記化学蓄熱材複合構造体の表面に一体焼結によって接合することで形成されている請求項請求項2又は請求項3記載の蓄熱器。
【請求項6】
前記銅層は、前記化学蓄熱材複合構造体と共に800℃〜900℃の温度範囲で焼成されることで、該化学蓄熱材複合構造体の表面に露出した前記銅粉に焼結されている請求項5項記載の蓄熱器。
【請求項7】
前記粉体化学蓄熱材として、脱水反応に伴い酸化され、水和反応に伴い水酸化される無機化合物であるアルカリ土類金属水酸化物が用いられている請求項2〜請求項6の何れか1項記載の蓄熱器。
【請求項8】
蒸気を離脱させることにより吸熱し、蒸気を吸着させることにより発熱する化学蓄熱材と銅粉とを含む多孔質体から成る化学蓄熱材複合構造体が内部に収容された容器と、
前記容器と熱的に接触して設けられ、熱交換媒体が通過する流体通路と、
を有する蓄熱器であって、
前記化学蓄熱材複合構造体の外表面に金属層が形成されており、
前記金属層と前記容器の内面とが接触するように前記化学蓄熱材複合構造体を配することを特徴とする蓄熱器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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