説明

蓄熱式熱交換器

【課題】
潜熱による大きな蓄熱量を生かしつつ、伝熱性能の低下を防ぐことで高密度の蓄熱が可能な蓄熱式熱交換器を提供すること。
【解決手段】
課題を解決する第一の観点にかかる蓄熱式熱交換器は、相変化物質からなる蓄熱材を径の小さな伝熱管に封入し、伝熱管を多数配置した管群を蓄熱式熱交換器の蓄熱部として用いる。またこの場合、管群を支える一対の板部材と、を有することが好ましい。なお相変化物質は、例えば水、アルコール、パラフィン、溶融塩を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱式熱交換器に関し、より詳細には、細管内に封入した固液相変化物質の潜熱を利用する弁切換式蓄熱式熱交換器に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
日本の産業部門のエネルギー消費量、およびそれに伴う排熱量は膨大であり、この分野における省エネルギー化は重要な課題である。そこで注目されている排熱回収技術として蓄熱式熱交換器、例えば弁切換式蓄熱式熱交換器がある。
【0003】
弁切換式蓄熱式熱交換器とは片側の流路から流した高温の排気を蓄熱材に通すことで蓄熱材に熱を蓄え、一定時間経過後、弁を切換えて反対側の流路から低温の流体を流し、低温の流体が蓄熱材を通る際に蓄熱材の熱によって温められて出て行き、再び一定時間経過後、弁を切換えて再度高温の排気を流す、という一連の挙動を繰り返し行う蓄熱式熱交換器である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蓄熱式熱交換器は高効率化・省スペース化が求められており、そのために蓄熱密度の大きい相変化物質を蓄熱材に利用することが考えられている。しかし、相変化物質には、物質の凝固時に伝熱面に析出する固相により伝熱面での対流が抑制され、伝熱性能が低下してしまうといった課題がある。
【0005】
そこで本発明は、上記課題に着目し、潜熱による大きな蓄熱量を生かしつつ、伝熱性能の低下を防ぐことで高密度の蓄熱が可能な蓄熱式熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の第一の観点に係る熱交換器は、蓄熱材である相変化物質からなる蓄熱材を、径の小さな伝熱管に封入し、その伝熱管を多数配置した管群を熱交換器の蓄熱部として用いる。
【発明の効果】
【0007】
本発明における熱交換器は、上記の構成を採用することで蓄熱材の体積に対して伝熱面積を大きくすることができ、相変化物質の凝固時に析出する固相による伝熱性能低下の影響を小さくすることが可能になる。この結果、より高密度の蓄熱が可能な蓄熱式熱交換器を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態1に係る弁切換式蓄熱式交換器の相変化物質を封入した伝熱管群の配置の概略図である。
【図2】実施形態1に係る弁切換式蓄熱式熱交換器の外観を示す概略図である。
【図3】実施形態1に係る弁切換式蓄熱式熱交換器の築熱量に関するシミュレーションの結果を表す図である。
【図4】実施形態2に関わる伝熱管と基板からなる蓄熱カセットの概略を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の弁切換式蓄熱式熱交換器の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態の例示にのみ限定されるわけではない。
【0010】
(実施形態1)
図1は本実施形態に係る弁切換式蓄熱式交換器(以下「本熱交換器」という。)において相変化物質を封入した伝熱管群の配置の概略図である。
【0011】
本熱交換器は、本図で示されるように、径の小さな伝熱管1と、この伝熱管1内に封入される相変化物質2を有している。また本熱交換器は、この伝熱管1の長軸が流体の流れ方向と略垂直となるよう伝熱管1を複数配置し、蓄熱部として用いている。
【0012】
本熱交換器は、弁を切換えることで、この伝熱管群の周りに高温の作動流体3と低温の作動流体4を交互に流し熱交換、具体的には蓄熱と放熱を行うことができる。例えば、相変化物質2を封入した伝熱管1を複数有する蓄熱部に高温の作動流体3を流すと作動流体3の熱を蓄熱することができる。一方、弁を切換えて低温の作動流体4を流すと作動流体3に熱を放出して作動流体4を温めることができる。
【0013】
伝熱管1は作動流体から熱を受け取る又は作動流体に対し熱を渡すものであって、熱の授受が効率的である限りにおいて特段の限定はないが、熱伝導率や熱容量の観点から銀、銅、金、若しくはアルミニウム又はこれらの合金等の金属材料が好適である。
【0014】
また伝熱管1は相変化物質2を封入するものであって、両端が閉じられた管状となっていることが好ましい。このようにすることで、不必要に作動流体の流れを阻害せず作動流体との接触面積を増やすことができるといった利点がある。なお伝熱管1の断面形状は、限定されるわけではないが円形状であることが好ましいが、三角形状、四角形状等の多角形状であってもよい。
【0015】
また,伝熱管1の最適な径については弁切換時間や作動流体の速度、相変化物質の種類などによって決定されるが、それらの条件が等しく、かつ、蓄熱量が飽和しない場合であれば、径は小さいほど高効率な熱交換が可能である。この径については、限定されるわけではないが、例えば断面が円形状である場合、内径が1mm以下の範囲であることが好ましい。伝熱効率の観点から、管の厚さは0.05mm程度が好ましい。また、伝熱管1の長さは、作動流体の流量、蓄熱量によって適宜調整可能である。
【0016】
本実施形態に関わる相変化物質2は、上述のとおり伝熱管内に封入されており、蓄熱及び放熱を行うために用いられるものである。変化物質が固体から液体に相変化する際に生じる融解熱および液体から固体に相変化する際に生じる凝固熱は潜熱と呼ばれ、大きな熱容量を有する。そのため、相変化物質は従来の蓄熱材より蓄熱量が大きく、高効率の熱交換を行うことが可能である。本実施形態では、相変化物質2を伝熱管に封入し、複数配置することで、1本あたりに充填する蓄熱材の体積を小さくすることができるため、弁切換時間が短い場合であっても相変化を起こすことが容易となり、潜熱を利用した蓄熱を効率的に行なうことができる。
【0017】
相変化物質2は、作動流体による熱の授受によって相変化を生ずる物質であれば特段の限定はなく、例えば水、アルコール、パラフィン、溶融塩を用いることができるが、比較的温度の低い流体を作動流体として用いる場合は、融解時の安全性や潜熱量の観点から食品添加物などに用いられる糖アルコールが好適である。糖アルコールの場合、限定されるわけではないが、エリトリトール、グリセリン、マンニトール、イソマルト、ラクチトール、キシリトールを採用することができる。なお、蓄熱材が相変化を起こす温度は、弁を切換えることで交互に流れる高温の作動流体の温度と低温の作動流体の温度の範囲内に存在する必要がある。
【0018】
本実施形態において作動流体は、蓄熱材との熱交換を行なうとともに、本蓄熱器外部の熱源から熱を運び込む又は熱源に対し熱を供給することのできる流体であり、限定されるわけではなく、液体、気体を用いることができ、例えば空気、排ガス、水などを用いることができるがこれに限定されない。
【0019】
図2は本熱交換器の外観を示す概略図である。本熱交換器は、管群すなわち複数の伝熱管を支える一対の板部材を有しており、この一対の板部材の配置によって形成される側面部分にも板部材を配置有している。そして更に、側面の板部材には2つの流出入口が形成されており、片側の流出入口から高温の作動流体を流入させ、反対側の流出入口から流出させることができる。そして更に一定時間経過後、弁を切換え、高温の作動流体が抜けた側の流出入口から低温の作動流体を流入させ、反対側の流出入口から流出させることができる。この結果、高温と低温の作動流体を交互に逆向きに流す熱交換器とすることができる。なお弁は、流出入口近傍に設けてもよいし、作動流体を移動させるポンプ近傍に配置してもよいが、作動流体を蓄熱部近傍でより精度よく制御するためには流出入口近傍に設けられていることが好ましい。このようにすることで、板部材で複数の管を固定することができるとともに、容易に熱交換が可能となる。
【0020】
ここで潜熱による蓄熱の効果について説明する。図3は、伝熱管群を蓄熱部として有する本熱交換器の蓄熱量を表す図であって、数値シミュレーション結果に基づくものである。なお図中、横軸tは弁切換時間を、縦軸Qは蓄熱量をそれぞれ示す。本図によると、横軸tが大きくなると高温の作動流体が長時間流れるため、流入する熱の総量も大きくなる。なお図中、実線で示された結果は、相変化物質からなる蓄熱材の一例としてエリスリトール(C10、融点119℃)を用いた場合の結果であり、破線で示された結果は、アルミナ(Al)を用いた場合の結果である。高温の作動流体は200℃、低温の作動流体は50℃とし、いずれも空気として計算した。
【0021】
図3の結果によると、10〜20秒程度の弁切換期間では両蓄熱材とも時間と共に蓄熱量が大きくなっていることが確認できた。しかしながら、アルミナの場合、20秒を超えたあたりから蓄熱量の上昇が小さくなり、30秒以降はほとんど横ばいで、蓄熱量が飽和してしまっている。
【0022】
一方、相変化物質(エリストリール)の場合、40秒になるまで蓄熱量が増加し続けており、蓄熱量は飽和していない。これは蓄熱材(エリスリトール)が相変化する際の潜熱が蓄熱に寄与するため、全体の熱容量が大きくなり蓄熱量の飽和までの時間に至らない。もちろん、蓄熱量もアルミナに比べ大きくなっている。
【0023】
以上、本実施形態では、相変化物質を径の小さな伝熱管内に封入し、その伝熱管を多数配置した管群を蓄熱部とすることで、潜熱による大きな蓄熱量を生かしつつ、伝熱性能の低下を防ぐことで高密度の蓄熱が可能な蓄熱式熱交換器を提供することができる。なお相変化物質は潜熱の熱容量が大きく、従来の蓄熱材と比べて小さな蓄熱材であっても同程度の蓄熱量を確保できるため、熱交換器の大きさを小さくすることも可能となるといった利点もある。
【0024】
(実施形態2)
図4は、本実施形態に係る蓄熱式熱交換器の蓄熱カセットの概略を示す図である。本熱交換器は、伝熱管1に作動流体を封入し、複数並べて配置している点は図1と同様であるが、伝熱管1の両端を一対の基板5によって閉じることで蓄熱部を独立させ、蓄熱部のみを取外し可能な蓄熱カセットとしている点が異なる。なお本実施形態において、伝熱管1は、両端が開口した管を有し、この管の開口部に一対の板5を配置することで相変化物質を封入している。
【0025】
蓄熱カセットは移動可能な単一の蓄熱部として扱うことができるだけでなく、蓄熱カセット同士を並べる、重ねるなど連結することが容易となり必要な大きさの蓄熱部を配置することが容易に可能となるといった利点がある。
【0026】
また、一対の基板5は伝熱管に直接取り付けられているため、基板を介して伝熱管同士の熱伝達が行われ蓄熱を促進する。また、基板自体が顕熱蓄熱体としての役割を果たす。
【0027】
基板5は伝熱管を固定すると同時に、基板を介して伝熱管同士が熱の授受を行うため、熱の授受が効率的であれば特段の限定はないが、熱伝導率や熱容量の観点から銅など材料が好適である。
【0028】
以上、本実施形態によっても、相変化物質を径の小さな伝熱管内に封入し、その伝熱管を多数配置した管群を蓄熱部とすることで、潜熱による大きな蓄熱量を生かしつつ、伝熱性能の低下を防ぐことで高密度の蓄熱が可能な蓄熱式熱交換器を提供することができる。また相変化物質は潜熱の熱容量が大きく、従来の蓄熱材と比べて小さな蓄熱材であっても同程度の蓄熱量を確保できるため、熱交換器の大きさを小さくすることも可能となるといった利点もある。更に、本実施形態によると、容易に設置可能な蓄熱カセットとなり、更に一対の基板に顕熱蓄熱体としての役割をもたせることが可能となり、より効率が良くなる。
【符号の説明】
【0029】
1…伝熱管、2…相変化物質、3…高温の作動流体、4…低温の作動流体、5…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相変化物質からなる蓄熱材を径の小さな伝熱管に封入し、前記伝熱管を多数配置した管群を蓄熱式熱交換器の蓄熱部として用いる蓄熱式熱交換器。
【請求項2】
前記管群を支える一対の板部材と、を有する請求項1記載の蓄熱式熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−42120(P2012−42120A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183520(P2010−183520)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本機会学会、第49回学生員卒業研究発表講演会講演前刷集、平成年2月2月19日発行、及び、日本機械学会主催、第49回学生員卒業研究発表講演会、2010年3月10日発表
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)