説明

薄層クロマトグラフィ用プレート、その製造方法及びその使用方法

【課題】品質の安定性が得られるクリプトフィックス2.2.2検出用の薄層クロマトグラフィを提供する。
【解決手段】薄層クロマトグラフィは、塩化白金酸溶液及びヨウ化カリウム溶液を混合した原液100質量部に対して、塩酸が1質量部以下(塩酸1%以下)になるように加えた使用液を、シリカゲルが塗布された薄層プレートに浸漬させてなる。薄層クロマトグラフィ表面の退色原因として、塗布されたヨウ化白金錯体からのヨウ素イオンの遊離が考えられる。加える濃塩酸の濃度を1%以下とすることで、ヨウ化白金錯体からのヨウ素の遊離を遅らせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリプトフィックス2.2.2を検出するための薄層クロマトグラフィ用プレートに関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、人体内部を画像によって観察・診断する方法の一つとして、近年、陽子を放出する物質を用いたPETシステム(ポジトロン[陽子]・エミッション[放出]・トモグラフィ[断層写真法]システム)による画像診断法が注目されている。PETシステムによる画像診断法によれば、ガンなどの疾患の形態画像のみならず、体内における血液や酸素の動きなどの機能画像を得ることができ、脳障害や心臓病などの診断に大きな威力が発揮される。
【0003】
PETシステムは、短半減期の放射性同位元素で標識化したグルコースを人体内に投与し、エネルギを消費する腫瘍等に集まる放射性同位元素が崩壊するときのγ線を検知して、腫瘍等を動態的に検知する等に用いられる画像診断システムである。PETシステムの概略は次の通りである。
(1)サイクロトロンにおいてイオンを高エネルギに加速する。
(2)加速されたイオンを、反応容器であるターゲットボックスにおいて、ターゲットと呼ばれる材料に照射することにより、放射性核種を生成する。
(3)上記放射性核種を原料とし、標識化合物合成装置において、人体に投与できる放射性同位元素で標識された化合物を調製する。
(4)このようにして調製された標識化合物を人体内に投与し、そして、スキャナによって人体内に取り込まれた上記標識化合物の分布を検出し、検出結果をコンピュータにより画像化する。
【0004】
PETシステムで採用される一般的な標識化合物は、18F-FDG(2-18F-フルオロ-2-デオキシ-D-グルコース)である。18F-FDGは、グルコースの一部を陽電子放出核種の18F(半減期119.7分)に置き換えた標識化合物である。2002年に18F-FDGが薬価収載されて以来、18F-FDGを臨床使用する施設が増加している。
【0005】
18F-FDGの合成で最も広く用いられている方法では、トリフレート(1,3,4,6-テトラ-O-アセチル-2-O-トリフルオロメタンスルホニル-β-D-マンノピラノース)の18Fフッ素化合物求核置換を促進するために、クリプトフィックス2.2.2(アミノポリエーテル4,7,13,16,21,24-ヘキサオキソ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]-ヘキサコサノール)を、相間移動触媒として利用している。
【0006】
クリプトフィックス2.2.2には毒性[IVratLD50=35mg/kg]があるため、18F-FDG中にクリプトフィックス2.2.2が無いことを証明する必要がある。それゆえ、クリプトフィックス2.2.2を触媒として用いた合成法による18F-FDG注射液は、患者に投与する前に品質検定され、当該注射液中に残存するクリプトフィックス2.2.2が基準値以下であることが確認される。
【0007】
従来、18F-FDGの品質検定項目中の残留クリプトフィックス2.2.2の確認試験には、クリプトフィックス2.2.2を滴下した薄層クロマトグラフィを展開し、ヨウ素で発色させる方法が用いられてきたが、判定時間が20分程度かかってしまう。18F-FDGは半減期が119.7分という短寿命の標識化合物であるから、迅速な品質検定が求められる。
【0008】
より時間がかからず且つ簡便な方法として、非特許文献1には、発色試薬を塗布した薄層クロマトグラフィに、合成された18F-FDGと陽性コントロールのクリプトフィックス2.2.2溶液(40ppm)を滴下するだけで、18F-FDG中に規定量以上のクリプトフィックス2.2.2が含まれているか否かを視覚的に5分以下で判定できる「カラースポットテスト」が提案されている。
【0009】
この非特許文献1には、薄層クロマトグラフィは、発色試薬としてヨウ化白金試薬を調合し、その後、シリカゲルが塗布されたプレート(プラスチックで裏打ちされたシリカゲル60の薄層クロマトグラフィ)をヨウ化白金試薬の水溶液に浸漬することで製造されることが記載されている。そして、ヨウ化白金試薬の調合について、「ヨウ化白金試薬の原液は、5%塩化白金酸溶液5mLと10%ヨウ化カリウム溶液45mLとを混合することにより、調合された。酸性のヨウ化白金試薬は、塩酸1とカラー試薬の原液10(ヨウ化白金試薬の原液10 注:出願人追加)とを、又は塩酸1とカラー試薬の原液4(ヨウ化白金試薬の原液4 注:出願人追加)とを混合することにより、調合された」(非特許文献1、193頁右欄第3段落)と記載されている。
【0010】
【非特許文献1】Nuclear Medicine & Biology, Vol.24, 193-195, 1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
発色試薬は、塩化白金(II):H2[PtCl6]・6H2O水溶液にヨウ化カリウム(KI)水溶液を加えて調製されたヨウ化白金錯体であり、その錯体構造は[PtI4Cl2]2-,[PtI2Cl4]2-または両者が混在していると推測される。錯体試薬の性質として薄層クロマトグラフィの調製後、時間の経過とともに薄層クロマトグラフィ表面の色が変化するが、その性質は製品の低い安定性と短い有効期間の原因となる。色の変化はさまざまであり、調製直後のピンクがかった色から紫色または黄土色、そして白色へと退色していく。また、発色試薬の塩酸濃度が高く、かなり低いpH値であるため、自動品質管理装置で行うpH試験に影響を及ぼす可能性がある。
【0012】
日常の品質検定試験に薄層クロマトグラフィを使用するためには、その品質の安定性が必要である。そこで本発明は、品質の安定性が得られる薄層クロマトグラフィを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
塩化白金(II):H2[PtCl6]・6H2O水溶液にKI水溶液を加えることにより、[PtCl6]2-は[PtI4Cl2]2-,[PtI2Cl4]2-などのようなヨウ化錯体となり、その退色原因として、塗布されたヨウ化白金錯体からのヨウ素イオンの遊離が考えられる。そこで今回、ヨウ化白金錯体からのヨウ素の遊離を遅らせる方法を検討した。非特許文献1に記載の方法によると、薄層クロマトグラフィの作成時に反応を敏感にするために10%の濃塩酸を加えているが、作成された薄層クロマトグラフィは強酸性になり、ヨウ化白金錯体からヨウ素を遊離させる要因となり、また自動品質管理装置で行うpH試験に影響を及ぼす可能性がある。そこで、加える濃塩酸の濃度を0%〜1%としたプレートを作成し、クリプトフィックス2.2.2の半定量試験を行ったところ、4週間後でも問題なく判定を行うことができ、また自動品質管理装置で行うpH試験に影響を及ぼさなかった。
【0014】
すなわち請求項1に記載の発明は、塩化白金酸溶液及びヨウ化カリウム溶液を混合した原液100質量部に対して、塩酸が0質量部を超えて1質量部以下になるように加えた使用液に、シリカゲルが塗布された薄層プレートを浸漬させてなることを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレートにより、上述した課題を解決する。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の薄層クロマトグラフィ用プレートにおいて、シリカゲルが塗布された前記薄層プレートの裏面支持体は、アルミ、ガラス又は紙からなることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明は、塩化白金酸溶液及びヨウ化カリウム溶液を混合した原液100質量部に対して、塩酸が0質量部を超えて1質量部以下になるように加えた使用液を得る工程と、前記使用液にシリカゲルが塗布されたプレートを浸漬させる工程と、を備えることを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレートの製造方法である。
【0017】
請求項4に記載の発明は、塩化白金酸溶液及びヨウ化カリウム溶液を混合した原液に塩酸を加えた使用液に、シリカゲルが塗布された薄層プレートを浸漬してなる薄層クロマトグラフィ用プレートを、デシケータで除湿しながら保存することを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレートの保存方法である。ここで、デシケータには、デシケータ内の湿度をコントロールする装置が装備されたデシケータが用いられても良いし、容器の中にシリカゲル等の乾燥剤が入っているだけのデシケータが用いられてもよい。
【0018】
請求項5に記載の発明は、塩化白金酸溶液及びヨウ化カリウム溶液を混合した原液に塩酸を加えた使用液に、シリカゲルが塗布された薄層プレートを浸漬してなる薄層クロマトグラフィ用プレートを、光を遮断しながら保存することを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレートの保存方法である。
【0019】
請求項6に記載の発明は、塩化白金酸溶液及びヨウ化カリウム溶液を混合した原液に塩酸を加えた使用液に、シリカゲルが塗布された薄層プレートを浸漬してなる薄層クロマトグラフィ用プレートを、冷蔵しながら保存することを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレートの保存方法である。
【0020】
請求項7に記載の発明は、塩化白金酸溶液及びヨウ化カリウム溶液を混合した原液に塩酸を加えた使用液に、シリカゲルが塗布された薄層プレートを浸漬してなる薄層クロマトグラフィ用プレートを、コルクなどの緩衝材に載せて輸送することを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレートの輸送方法である。
【0021】
請求項8に記載の発明は、塩化白金酸溶液及びヨウ化カリウム溶液を混合した原液に塩酸を加えた使用液に、シリカゲルが塗布された薄層プレートを浸漬してなる薄層クロマトグラフィ用プレートが、劣化して退色した後に、前記薄層クロマトグラフィ用プレートにヨウ化カリウム溶液を塗布することにより復活させることを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレートの復活方法である。
【0022】
請求項9に記載の発明は、塩化白金酸溶液及びヨウ化カリウム溶液を混合した原液に塩酸を加えた使用液に、シリカゲルが塗布された薄層プレートを浸漬してなる薄層クロマトグラフィ用プレートに、18F-FDG(2-18F-フルオロ-2-デオキシ-D-グルコース)試料、及びクリプトフィックス2.2.2(アミノポリエーテル4,7,13,16,21,24-ヘキサオキソ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]-ヘキサコサノール)標準液を滴下し、同一の薄層クロマトグラフィ用プレートに滴下した前記18F-FDG試料及び前記クリプトフィックス2.2.2標準液の発色状況を撮像装置で撮像し、前記18F-FDG試料及び前記クリプトフィックス2.2.2標準液の発色画像を比較することにより、前記18F-FDG試料のクリプトフィックス2.2.2濃度を判定し、得られた前記発色画像を記録として保存することを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレートの使用方法である。
【0023】
請求項10に記載の発明は、請求項1又は2に記載の薄層クロマトグラフィ用プレートを、クリプトフィックス2.2.2(アミノポリエーテル4,7,13,16,21,24-ヘキサオキソ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]-ヘキサコサノール)又は第3級アミンの検出に用いることを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレートの使用方法である。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に記載の発明によれば、長期間保存しても脱色し難い薄層クロマトグラフィが得られる。
【0025】
請求項2に記載の発明によれば、薄層プレートの裏面支持体にガラスを用いることにより、滴下時のばらつきをなくして判定を一定にできる。また自動検査装置への保持も安定し、自動滴下のばらつきもなくすことができる。ガラスだけでなく、アルミシート、紙などの扱い易い柔らかな材質も保持方法によっては使用できる。
【0026】
請求項3に記載の発明によれば、長期間保存しても脱色し難い薄層クロマトグラフィが得られる。
【0027】
請求項4に記載の発明によれば、デシケータで除湿することにより、長期間薄層クロマトグラフィの品質を安定化させることができる。
【0028】
請求項5に記載の発明によれば、薄層クロマトグラフィを遮光されたケース内に保存して光を遮断することで、薄層クロマトグラフィの品質を安定化させることができる。この場合、ケースはプラスチックに限らず、木製などの光を遮断する構造になっていればよい。
【0029】
請求項6に記載の発明によれば、薄層クロマトグラフィを冷蔵保存することで、薄層クロマトグラフィの品質を長期間安定化させることができる。温度を下げると活性が下がるので、ヨウ素イオンの遊離が押さえられるからである。蓋付きガラス容器(目張りはしていない)に入れて薄層クロマトグラフィを冷蔵保存した場合、3ヶ月後でも全く問題なく使用できることが確認されている。
【0030】
請求項7に記載の発明によれば、薄層クロマトグラフィ用プレートをコルクなどの緩衝材に載せて輸送することで、薄層クロマトグラフィ用プレートの破損を防止できる。ただし、コルクは、その性質として2〜6%の水分を保つため強塩酸を残留させる可能性があり、安定した保管の妨げになると考えられる。しかし、デシケータ内に輸送箱の蓋を開けて保管、又はコルクをはがして蓋を閉じて保管した場合、一ヶ月間保色している。すなわち、緩衝材としてコルクを使用した場合、強塩酸の残留というマイナス要因があるものの、上のような保管方法をとれば実用上問題なく、かつ、安全な輸送を確保できる。
【0031】
請求項8に記載の発明によれば、劣化して脱色した薄層クロマトグラフィ用プレートを復活させることができる。
【0032】
請求項9に記載の発明によれば、同一プレートに滴下された18F-FDG試料とクリプトフィックス2.2.2標準液の発色画像を撮像装置で同時に撮像し、その画像を比較することにより試料の濃度の判定を容易にすると同時に、記録として保存することができる。
【0033】
請求項10に記載の発明のように、作成された薄層クロマトグラフィ用プレートは、クリプトフィックス2.2.2以外にも第3級アミンとも反応するので、第3級アミンの検出にも用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に本発明の一実施形態における薄層クロマトグラフィの製造方法について説明する。
1.発色試薬の調製
(1)購入試薬、購入薄層プレート
試薬として、塩化白金酸六水和物、ヨウ化カリウム、塩酸、クリプトフィックス2.2.2を購入し、薄層プレートとして、シリカゲルが塗布された薄層プレートを購入する。薄層プレートの大きさは2cm×5cmのものを用意する。ここで、薄層プレートに20cm×20cmの大きなものを用意し、使用液を塗布した後に2cm×5cmの大きさに切断してもよい。
【0035】
上記非特許文献1では、薄層プレートの裏面支持体にプラスチックを用いていたが、本実施形態ではガラスを用いる。ガラスを用いることにより、滴下時のばらつきをなくして判定を一定にできるという効果がある。また、自動品質管理装置への保持も安定でき、自動滴下でのばらつきもなくすことができる。ただし、ガラスの他にアルミシート又は紙を用いてもよい。
【0036】
(2)原液、使用液の調製
5%塩化白金酸溶液5ml、10%ヨウ化カリウム溶液45ml、水100mlを混合することにより、原液を調合する。そして、原液100質量部に対して塩酸を0質量部を超えて1質量部以下添加して、塩酸0%を超えて1%以下の使用液を調合する。塩酸は1%以下であるが0%ということはない。
【0037】
つまり、原液の組成は以下の表1のようになり、使用液の組成は表2のようになる。
【表1】


【表2】

【0038】
2.薄層クロマトグラフィの作成
調製した使用液をプラスチックケースに入れ、2cm×5cmのTLC(Thin-layer chromatography:薄層クロマトグラフィ)プレートを並べたかごを使用液に浸漬させる。その後、かごからTLCプレートを注意深く取り出し、Blottingペーパ(キムワイプ等)の上に載せて室内で一晩放置乾燥、またはクリーンベンチで1.5時間乾燥させる。
この他にも、20cm×20cmの薄層プレートのシリカゲルの表面に、噴霧器を用いて使用液を3〜5回、均一にコートするように噴霧し、乾燥後、2cm×5cmの大きさにカットしてもよい。
以上により、薄層クロマトグラフィが作成される。
【0039】
3.薄層クロマトグラフィを用いたカラースポットテスト
(1)カラースポットテストの測定手順
18F-FDG試料液及び陽性コントロール(クリプトフィックス2.2.2の濃度40ppm)された標準液のそれぞれ5〜10μl程度を、マイクロピペット又はマイクロシリンジで薄層クロマトグラフィに滴下する。そして、下記の判定基準に従い定量する。
【0040】
(2)カラースポットテストの判定手順(図1参照)
陽性(>40ppm) 試料が滴下されると未反応の試薬は水溶液で周辺部(環)に洗い流され、結果としてシリカゲルの白色円の桃色環状となる。クリプトフィックス2.2.2のスポットは中央に小さな暗黒環として現れる。スポットの直径は白色環の約1/3である。
陰性(<40ppm) 低クリプトフィックス2.2.2濃度(例えば20ppm)の場合、中央のスポットは桃色で青黒環のはっきりとした縁が見られる。
陰性(0ppm) クリプトフィックス2.2.2が存在しない場合は、中央にわずかな緑色スポットは残るが、はっきりした縁が見られない。
【0041】
(3)カラースポットテストの長所・短所
ヨウ化白金酸試薬はクリプトフィックス2.2.2に特異的ではなく、第3級アミンとも反応する。それゆえ擬陽性の反応(スポット)が出る可能性がある。すなわち、陽性反応の場合、18F-FDG試料液にクリプトフィックス2.2.2が存在していることの証明にならない。しかし陰性反応の場合、クリプトフィックス2.2.2が存在しないことの証明になる。
【0042】
(4)従来の展開方法との比較
カラースポットテストは、通常のTLCのような試料滴下→乾燥→展開→乾燥→発色などの作業工程が短縮でき、試料を滴下するだけで測定できる。したがって被曝を低減できる。
従来のTLCでは結果判定まで15〜20分ほどかかるが、本法ではその場で判定が可能になる。したがって時間が短縮できる。
TLC作業熟練者でなくても操作が簡便なため、正確に結果判定が可能になる。したがって操作ミスを低減できる。
従来のTLCのような展開層、展開試薬、着色試薬、着色層、放射線遮蔽設備などが必要ない。
従来のTLCのようにヨウ素発色の場合の退色がなく、結果判定がし易く、またCCDカメラ等での画像保存が容易になる。したがって品質検定結果を保存することができる。
【実施例】
【0043】
日常の品質検定試験にカラースポット薄層クロマトグラフィ(以下「カラースポットテスト」という。)を使用するためには、その品質の安定性が必要である。そこで今回、発色試薬に加える塩酸量を少なくすることによりカラースポットテストの安定性が得られるかを検討した。またカラースポットテストの安定性に影響を与えるであろうと推測される要因として、光、乾燥、湿度、輸送箱内のコルク等についても検討し、品質の安定性と長期保存の可能性について検討した。
【0044】
カラースポットテストは上記に記載の製造方法で作成した。カラースポットテストのpHの測定には、複合電極のものを用いた。カラースポットテストの保管試験に使用したデシケータはオートドライデシケータで、除湿に固体高分子電解質膜を使用しており、その除湿原理は湿気を水素イオン(H)と酸素(O2)に分解し、水素イオンを固体高分子電解質膜を通して庫外に排出する方法で除湿している。
【0045】
作成したカラースポットテストの色調変化を経時的に測色記録した。測色方法は目測法で測定し、変色の程度を視覚的に判定するため、色見本として大日本インキ社のColor Chartを用いた。昼白色の照明光源をカラースポットテストの真上方向から当て、45度の方向から視覚的に色調を観察した。観察するカラースポットテストは平面状に並ぶように隣接配置した。作業背景として、測色するカラースポットテストを並べる部分は白色の紙で覆った。また、デジタルカメラによりその色を記録した。撮影は一定条件で行った。カラースポットテストの品質を検査するために1週間毎にマイクロピペットを用いてクリプトフィックス2.2.2の40ppm,20ppm及び18F-FDGをカラースポットテストに滴下し、暗黒色のbull’s-eye生成の有無により、カラースポットテストが品質検定に使用できる状態であるかを確認した。
【0046】
カラースポットテストの保管方法として、(1)本発明の一実施形態である輸送箱(図2参照。薄層クロマトグラフィ用プレート1を、コルク2などの緩衝材に載せて輸送。ケース3には蓋4がついている。そして遮光のため輸送箱は黒色)にカラースポットテストを入れ、箱の蓋を開けたままデシケータ内で保管、(2)デシケータ内に直接カラースポットテストを並べ、キムタオル(紙タオルの一種)をかけて保管、(3)プラスチックケースにカラースポットテストを入れ、箱のふたをして保管、(4) プラスチックケースにカラースポットテストとシリカゲルを入れ、箱のふたをして保管、(5)輸送箱のコルクをはがしてカラースポットテストを入れ、箱のふたを閉じて保管の方法を検討した。
【0047】
1%の塩酸濃度で作成した発色試薬はpH0.95であり、この発色試薬で作成したカラースポットテストは保管方法に係らず、1ヶ月間保色していた(図3ないし図5参照)。そのうち、最も色の変化が少なかったのはオートドライデシケータ内での保管であった。実験を行った室内の温度は24℃〜26℃に保たれていたが湿度は23〜49%の幅があった。オートドライデシケータ内の温度は約25℃、湿度は25%に保たれていた。また、カラースポットテストの乾燥方法に関しては、クリーンベンチで長時間カラースポットテストを乾燥させると、強風のためにガラス切断面からシリカゲルがはがれる現象が見られた(図6参照)。
【0048】
塩化白金(II):H2[PtCl6]・6H2O水溶液にKI水溶液を加えることにより、[PtCl6]2-は[PtI4Cl2]2-,[PtI2Cl4]2-などのようなヨウ化白金錯体となり、その退色原因として、塗布されたヨウ化白金錯体からのヨウ素イオンの遊離が考えられる。その確認のために、白色に脱色して40ppmのクリプトフィックス2.2.2に反応しなくなった薄層クロマトグラフィに再びKI水溶液を塗布すると再使用が可能になった。また、保管に使用したプラスチックケースの色が透明から黄色へ変化したことからもヨウ素の遊離が推察できる。そこで今回、ヨウ化白金錯体からのヨウ素の遊離を遅らせる方法を検討した。非特許文献1に記載の方法によると、薄層クロマトグラフィの作成時に3級アミンとの反応を敏感にするために10%の濃塩酸を加えているが、作成された薄層クロマトグラフィは強酸性になり、ヨウ化白金錯体からヨウ素を遊離させる要因となり、また自動品質管理装置で行うpH試験に影響を及ぼす可能性がある。そこで、加える濃塩酸の濃度を1%以下として薄層クロマトグラフィを作成し、クリプトフィックス2.2.2の半定量試験を行ったところ、4週間後でも問題なく判定を行うことができ、また自動品質管理装置で行うpH試験に影響を及ぼさなかった。保管方法に関してはカラースポットテストの納品に用いている輸送箱は緩衝材として箱の内側にコルクが貼られているが、その性質として2〜6%の水分を保つため、カラースポットテストに使用された強塩酸を輸送箱中に残留させる可能性が考えられた。そこで、コルクの有無についても検討した。また、光の影響については透明プラスチックケースを使用することにより確認した。
【0049】
今回の実験で保管に最も適した条件は輸送箱から取り出してオートドライデシケータ内に並べ、その上にキムタオルをかぶせた保管方法であった。オートドライデシケータ内での保管がカラースポットテストの色を保った理由として、庫内が一定の条件に保たれていることが考えられる。オートドライデシケータは除湿に固体高分子電解質膜を使用しており、その除湿の原因として湿気を水素イオン(H)と酸素(O2)に分解し、分解された水素イオンは固体高分子電解質膜を通して庫外に排出されるが分解された酸素は庫内に残る。ゆえに庫内の酸素濃度は庫外よりも高濃度となる。濃塩酸を加えて作成したカラースポットテストからはIが遊離する。遊離したIはデシケータ内のO2によりI2になる。そのため、庫内のI2濃度は庫外よりも高い濃度に保たれると考えられ、このことがオートドライデシケータ中でのカラースポットテストの保管が最も良い結果を示したと考察される。また、オートドライデシケータ内に輸送箱のまま保管した場合、コルクがその性質として2〜6%の水分を保ち、強塩酸を残留させる可能性があるので、安定した保管の妨げになると考えられた。しかし、オートドライデシケータ内に輸送箱の蓋を開けて保管、又はコルクをはがして蓋を閉じて保管した場合、一ヶ月間保色していた。すなわち、緩衝材としてコルクを使用した場合、強塩酸の残留というマイナス要因があるものの、上のような保管方法をとれば実用上問題なく、かつ、安全な輸送を確保できる。
【0050】
なお本発明は上記実施形態の限られることなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記実施形態では、薄層クロマトグラフィ用プレートを、18F-FDG試料中のクリプトフィックス2.2.2の検出に用いているが、第3級アミンの検出に用いても良い。
【0051】
またF−MISO(フッ素18標識ミソニダゾール)、F−FLT(フッ素18標識チミジン)、F−タイロシン(フッ素18標識チロシン)などのクリプトフィックス2.2.2を使用して合成された放射性薬剤中のクリプトフィックス2.2.2の検出に用いてもよい。
【0052】
薄層クロマトグラフィ用プレートは、フッ素−18(半減期119.7分)以外の放射性核種(例えば炭素―11(半減期20.38分),窒素−13(半減期9.96分),酸素−15(半減期122秒)他)のみならず、放射性各種全般に応用でき、その核種で標識された標識化合物に使用してもよい。
【0053】
薄層プレートの裏面支持体にはガラスを用いているが、ガラス以外にアルミシート、紙、プラスチックを用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】カラースポットテストの判定方法を示す図
【図2】輸送箱を示す斜視図
【図3】プレートの5種類の保管方法について1週間毎の色の変化を示すカラーチャート(色は藍(C)と紅(M)と黄(Y)と墨(BL)が刷り重ねられて構成されており、右端の数値はアミ点濃度(%),「クリプトフィックス試験」はこれらプレートの28日たったものでの検出試験結果)
【図4】図3の結果のデジタル写真
【図5】プレートの4種類の保管方法について6週〜15週後の色の変化を示すカラーチャート(色は藍(C)と紅(M)と黄(Y)と墨(BL)が刷り重ねられて構成されており、右端の数値はアミ点濃度(%))
【図6】クリーンベンチで乾燥させた薄層クロマトグラフィを示す写真
【符号の説明】
【0055】
1…薄層クロマトグラフィ用プレート
2…コルク
3…ケース
4…蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化白金酸溶液及びヨウ化カリウム溶液を混合した原液100質量部に対して、塩酸が0質量部を超えて1質量部以下になるように加えた使用液に、シリカゲルが塗布された薄層プレートを浸漬させてなることを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレート。
【請求項2】
シリカゲルが塗布された前記薄層プレートの裏面支持体は、アルミ、ガラス又は紙からなることを特徴とする請求項1に記載の薄層クロマトグラフィ用プレート。
【請求項3】
塩化白金酸溶液及びヨウ化カリウム溶液を混合した原液100質量部に対して、塩酸が0質量部を超えて1質量部以下になるように加えた使用液を得る工程と、
前記使用液にシリカゲルが塗布されたプレートを浸漬させる工程と、を備えることを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレートの製造方法。
【請求項4】
塩化白金酸溶液及びヨウ化カリウム溶液を混合した原液に塩酸を加えた使用液に、シリカゲルが塗布された薄層プレートを浸漬してなる薄層クロマトグラフィ用プレートを、デシケータで除湿しながら保存することを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレートの保存方法。
【請求項5】
塩化白金酸溶液及びヨウ化カリウム溶液を混合した原液に塩酸を加えた使用液に、シリカゲルが塗布された薄層プレートを浸漬してなる薄層クロマトグラフィ用プレートを、遮光されたケース内に収納し、光を遮断しながら保存することを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレートの保存方法。
【請求項6】
塩化白金酸溶液及びヨウ化カリウム溶液を混合した原液に塩酸を加えた使用液に、シリカゲルが塗布された薄層プレートを浸漬してなる薄層クロマトグラフィ用プレートを、冷蔵しながら保存することを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレートの保存方法。
【請求項7】
塩化白金酸溶液及びヨウ化カリウム溶液を混合した原液に塩酸を加えた使用液に、シリカゲルが塗布された薄層プレートを浸漬してなる薄層クロマトグラフィ用プレートを、コルクなどの緩衝材に載せて輸送することを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレートの輸送方法。
【請求項8】
塩化白金酸溶液及びヨウ化カリウム溶液を混合した原液に塩酸を加えた使用液に、シリカゲルが塗布された薄層プレートを浸漬してなる薄層クロマトグラフィ用プレートが、劣化して退色した後に、前記薄層クロマトグラフィ用プレートにヨウ化カリウム溶液を塗布することにより復活させることを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレートの復活方法。
【請求項9】
塩化白金酸溶液及びヨウ化カリウム溶液を混合した原液に塩酸を加えた使用液に、シリカゲルが塗布された薄層プレートを浸漬してなる薄層クロマトグラフィ用プレートに、18F-FDG(2-18F-フルオロ-2-デオキシ-D-グルコース)試料、及びクリプトフィックス2.2.2(アミノポリエーテル4,7,13,16,21,24-ヘキサオキソ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]-ヘキサコサノール)標準液を滴下し、
同一の薄層クロマトグラフィ用プレートに滴下した前記18F-FDG試料及び前記クリプトフィックス2.2.2標準液の発色状況を撮像装置で撮像し、
前記18F-FDG試料及び前記クリプトフィックス2.2.2標準液の発色画像を比較することにより、前記18F-FDG試料のクリプトフィックス2.2.2濃度を判定し、
得られた前記発色画像を記録として保存することを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレートの使用方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の薄層クロマトグラフィ用プレートを、クリプトフィックス2.2.2(アミノポリエーテル4,7,13,16,21,24-ヘキサオキソ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]-ヘキサコサノール)又は第3級アミンの検出に用いることを特徴とする薄層クロマトグラフィ用プレートの使用方法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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