説明

薄板状ヒータ構造

【課題】本発明は、ヒータの大型化及び薄板状構造を実現することを目的としている。
【解決手段】このため、電熱線により発熱する発熱体と、発熱体を保持する保持体と、保持体を収納するケースとを備えるヒータ構造において、発熱体は、電熱線を巻き掛けたマイカ板からなる芯材と前側及び後側マイカ板とを有し、芯材を前側及び後側マイカ板によって挟み込む三層構造とし、保持体は、発熱体前面のスチール板と、発熱体後面のスチール板よりも膨張率の大きいステンレス板とを有し、発熱体の前後をスチール板とステンレス板により保持して前面側のスチール板が前方向に突出する凸形状とし、保持体をケースに収納する際には、保持体の凸形状を維持するように、保持体の後面に断熱材を介して補強板を設け、保持体前面のスチール板両側を線接触にて保持する前面固定金具を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は薄板状ヒータ構造に係り、特に発熱素材としてマイカ板を使用する発熱体を利用したヒータにおいて、このヒータの大型化及び薄板状構造の実現を図る薄板状ヒータ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薄板状ヒータ(「面状発熱体」とも換言できる。)は、熱源として電熱線を使用し、発熱素材としてマイカ板を使用している。
なお、参考までに記載すると、「マイカ(mica)」は、天然の鉱物であり、日本語では「雲母」と言う。
そして、「マイカ」は、電気絶縁性や耐熱性に優れ、へき開性を持ち、薄片状に形成でき、しかも安価であるため、一般的に電気絶縁材料として使用されている。
また、前記薄板状ヒータは、広い面積を均一に加熱するために、金属表面から赤外線を積極的に輻射することを意図したものであり、電気ヒータや工業用乾燥炉の熱源ユニットなどに利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−14581号公報
【特許文献2】実開昭57−91012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のヒータにおいては、以下の3つのものが考えられる。
(1)セラミック素材に電熱線を埋没させて、電熱線を加熱すると同時にセラミック素材を加熱し、赤外線を輻射するもの。
(2)厚板の金属板構造で保持した剛体構造のもの。
(3)マイカの発熱体を露出させた保護構造の無いもの。
【0005】
しかし、上記(1)のものの場合には、セラミック素材に電熱線を埋没させた構造とするため、ヒータを大型構造とすることが困難であるという不都合がある。
また、上記(2)のものの場合には、厚板による剛体構造であるため、大型化は可能であるが、薄板状構造及び軽量化が困難であるという不都合がある。
更に、上記(3)のものの場合には、マイカの発熱体自体を加熱するため、赤外線輻射率が低く、輻射赤外線量を増加させる必要がある
という不都合がある。
【0006】
また、前記ヒータを形成する際に、マイカ板からなる発熱体の前面及び後面を金属製の保持体によって保持するものがある。
このとき、保持体の全面においてネジ固定する方策も考えられるが、保持体の前面にネジ頭が見えてしまうため、ネジ固定の方策を廃止し、折り返しによるヘミング加工を施しているものがある。
このヘミング加工を施したものにおいては、発熱体と保持体との夫々の外周部位が固定される。
前記発熱体と保持体とにヘミング加工を施して平面状の前記ヒータを形成した際には、発熱体と保持体との間に隙間は現出していない。
しかし、前記ヒータを使用すると、マイカ板からなる発熱体と金属製の保持体との熱膨張率が異なるとともに、マイカ板からなる発熱体の温度ムラによるランダムな反りの発生によって、発熱体と保持体との間に隙間ができてしまうという不都合がある。
追記すれば、マイカ板からなる発熱体の反りは、一定の方向に反るのではないとともに、反り方も場所によって相違するため、発熱体と保持体との間において微小な隙間のみでなく、大きな隙間も現出してしまうものであった。
この結果、発熱体と保持体との間に現出する隙間、つまり空気層によって、熱移動が妨げられ、ヒート温度に大きく影響が出てしまうという不都合がある。
【0007】
この発明の目的は、熱伝達の効率を向上させ、ヒータの大型化及び薄板状構造を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、この発明は、上述不都合を除去するために、電熱線により発熱する発熱体と、この発熱体を保持する保持体と、この保持体を収納するケースとを備えるヒータ構造において、前記発熱体は、前記電熱線を巻き掛けたマイカ板からなる芯材と、この芯材の前後に位置する前側マイカ板及び後側マイカ板とを有し、前記芯材を前側マイカ板及び後側マイカ板によって挟み込む三層構造とし、前記保持体は、前記発熱体の前面に位置する放射用の表面処理を施したスチール板と、前記発熱体の後面に位置する前記スチール板よりも膨張率の大きいステンレス板とを有し、前記発熱体の前後をスチール板とステンレス板とにより保持して前面側のスチール板が前方向に突出する凸形状とし、この保持体を前記ケースに収納する際には、保持体の凸形状を維持するように、保持体の後面に断熱材を介して補強板を設けるとともに、保持体の前面に位置する前記スチール板の両側を線接触にて保持する前面固定金具を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上詳細に説明した如くこの発明によれば、電熱線により発熱する発熱体と、発熱体を保持する保持体と、保持体を収納するケースとを備えるヒータ構造において、発熱体は、電熱線を巻き掛けたマイカ板からなる芯材と、芯材の前後に位置する前側マイカ板及び後側マイカ板とを有し、芯材を前側マイカ板及び後側マイカ板によって挟み込む三層構造とし、保持体は、発熱体の前面に位置する放射用の表面処理を施したスチール板と、発熱体の後面に位置するスチール板よりも膨張率の大きいステンレス板とを有し、発熱体の前後をスチール板とステンレス板とにより保持して前面側のスチール板が前方向に突出する凸形状とし、保持体を前記ケースに収納する際には、保持体の凸形状を維持するように、保持体の後面に断熱材を介して補強板を設けるとともに、保持体の前面に位置するスチール板の両側を線接触にて保持する前面固定金具を設けた。
従って、前記保持体の熱膨張の方向が三層構造(「三層サンドイッチ構造」ともいう。)が密着する方向であるとともに、前記ケースへの保持体の収納状態がスチール板が前方向に突出する凸形状であることにより、保持体のスチール板と前記発熱体との間に隙間が現出されるおそれが全くなく、保持体前面のスチール板への熱伝達の効率を向上させることができる。
これにより、赤外線放射効率を上げることができる。
また、前記保持体は、前面側のスチール板が前方向に突出する凸形状として前記ケースに収納する際に、保持体のスチール板の両側を前面固定金具によって線接触にて保持することにより、スチール板の両側以外は固定されておらず、移動が自由な状態であるため、スチール板が熱膨張してもスチール板の形状を維持することができる。
つまり、スチール板の両側が膨張・収縮によって前面固定金具の線接触部位をスライド移動する。
これにより、ヒータの大型化及び薄板状構造を実現することができる。
そして、発熱素材のマイカ板からなる前記発熱体は、前面のスチール板と後面のステンレス板とを有する前記保持体によって保護されているので、ヒータの機械的強度を向上させることができ、外力が掛かることによる漏電や感電などのリスクを低くし得て、実用上有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は薄板状ヒータの概略断面図である。(実施例1)
【図2】図2は発熱体を示し、(a)は発熱体の一部切り欠き正面図、(b)は発熱体の平面図である。(実施例1)
【図3】図3は発熱体を保持した保持体を示し、(a)は保持体の背面図、(b)は保持体の平面図、(c)は保持体の右側面図である。(実施例1)
【図4】図4は図3(b)の矢視A部分の概略拡大図である。(実施例1)
【図5】図5は保持体の要部拡大断面図である。(実施例1)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図面に基づいてこの発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例】
【0012】
図1〜図5はこの発明の実施例を示すものである。
図1において、1は薄板状ヒータである。
この薄板状ヒータ1は、図1〜図3に示す如く、電熱線(「ヒータ線」ともいう。)2により発熱する発熱体3と、この発熱体3を保持する保持体4と、この保持体4を収納するケース5とを備える。
【0013】
そして、前記発熱体3は、図2に示す如く、片面または両面に前記電熱線2を巻き掛けた絶縁用マイカ板からなる芯材6と、この芯材6の前後に位置する前側マイカ板7及び後側マイカ板8とを有している。
このとき、前記芯材6を前側マイカ板7及び後側マイカ板8によって挟み込み、前記発熱体3を三層構造としている。
この発熱体3の三層構造を維持するために、複数の所定の箇所にハトメ9を設け、このハトメ9によって芯材6とこの芯材6の前後に位置する前側マイカ板7及び後側マイカ板8とを固定する。
【0014】
なお、前記芯材6を形成する際には、例えば図2に示す如く、前記発熱体3の上下方向を3分割し、3個の第1〜第3芯材6−1、6−2、6−3を設け、第1〜第3芯材6−1、6−2、6−3の夫々に前記電熱線2を巻き掛ける。
このとき、第1〜第3芯材6−1、6−2、6−3の夫々に前記電熱線2を巻き掛ける際には、1本の電熱線2に対して2本のニッケル線10、10によって挟む(「サンドする」)ように巻き掛ける。
【0015】
前記保持体4は、前記発熱体3の前面に位置する放射用の表面処理を施したスチール板11と、前記発熱体3の後面に位置する前記スチール板11よりも膨張率の大きいステンレス板12とを有し、前記発熱体3の前後をスチール板11とステンレス板12とにより保持する。
すなわち、前記スチール板11の表面処理として放射塗料13を塗布する。
また、前記発熱体3の前後をスチール板11とステンレス板12とにより保持する際に、図3に示す如く、発熱体3と後面のステンレス板12とをほぼ同一寸法に形成するとともに、前面のスチール板11を発熱体3やステンレス板12よりも少し大きな寸法に形成し、スチール板11の4辺をステンレス板12側に折り返してヘミング加工を施す。
このとき、前記ステンレス板12には、前記1本の電熱線2や2本のニッケル線10、10などの線部材14を引き出すための開口部15を形成する。
そして、この開口部15においては、図4に示す如く、1本の電熱線2及び2本のニッケル線10、10などの線部材14を引き出した後に、開口部15近傍を絶縁チューブ16によって被覆し、この絶縁チューブ16の開口部15側を耐熱シリコンシーラント17にて覆う。
なお、1本の電熱線2及び2本のニッケル線10、10などの線部材14の引っ張り強度を8kg以上とする。
前記発熱体3を保持する保持体4は、図5に示す如く、三層構造の発熱体3の前後をスチール板11とステンレス板12とにより保持するため、合計で5層の構造を有している。
【0016】
更に、前記保持体4を前記ケース5に収納する際には、前面側のスチール板11が前方向に突出する保持体4の凸形状を維持するように、保持体4の後面に断熱材18を介して補強板19を設けるとともに、保持体4の前面に位置する前記スチール板11の両側を線接触にて保持する前面固定金具20を設ける構成とする。
詳述すれば、前記ケース5は、図1に示す如く、保持体4を収納するヒータケース部21と、このヒータケース部21の外周及び後面を覆う外装フレーム部22とを備えている。
また、ヒータケース部21の左右両端に前面固定金具20を取り付けている。
そして、前記ケース5のヒータケース部21内に保持体4を収納する際には、まず、ヒータケース部21内に前方向に突出する補強板19を位置させ、この補強板19の前面に断熱材18を位置させる。
次に、この断熱材18の前面に前記保持体4を位置させ、保持体4の前面に位置する前記スチール板11の左右両側を前面固定金具20によって線接触にて保持し、前面側のスチール板11が前方向に突出する保持体4の凸形状、つまり横方向において凸形状である平面視で保持体4の凸形状を維持するように取り付ける。
なお、上記の取り付け手順に関しては、保持体4や補強板19、断熱材18が夫々別体に形成される際の手順として説明したが、保持体4と補強板19と断熱材18とを一体的に形成する場合には、1工程による取り付け手順とすることが可能である。
【0017】
これにより、前記電熱線2により発熱する発熱体3と、この発熱体3を保持する保持体4と、この保持体4を収納するケース5とを備えるヒータ構造において、前記発熱体3は、前記電熱線2を巻き掛けたマイカ板からなる芯材6と、この芯材6の前後に位置する前側マイカ板7及び後側マイカ板8とを有し、前記芯材6を前側マイカ板7及び後側マイカ板8によって挟み込む三層構造とし、前記保持体4は、前記発熱体3の前面に位置する放射用の表面処理を施したスチール板11と、前記発熱体3の後面に位置する前記スチール板11よりも膨張率の大きいステンレス板12とを有し、前記発熱体3の前後をスチール板11とステンレス板12とにより保持して前面側のスチール板11が前方向に突出する凸形状とし、この保持体4を前記ケース5に収納する際には、保持体4の凸形状を維持するように、保持体4の後面に断熱材18を介して補強板19を設けるとともに、保持体4の前面に位置する前記スチール板11の両側を線接触にて保持する前面固定金具20を設けた。
従って、前記保持体4の熱膨張の方向が三層構造(「三層サンドイッチ構造」ともいう。)が密着する方向であるとともに、前記ケース5への保持体4の収納状態がスチール板11が前方向に突出する凸形状であることにより、保持体4のスチール板11と前記発熱体3との間に隙間が現出されるおそれが全くなく、保持体4前面のスチール板11への熱伝達の効率を向上させることができる。
これにより、赤外線放射効率を上げることができる。
また、前記保持体4は、前面側のスチール板11が前方向に突出する凸形状として前記ケース5に収納する際に、保持体4のスチール板11の両側を前面固定金具20によって線接触にて保持することにより、スチール板11の両側以外は固定されておらず、移動が自由な状態であるため、スチール板11が熱膨張してもスチール板11の形状を維持することができる。
つまり、スチール板11の両側が膨張・収縮によって前面固定金具20の線接触部位をスライド移動する。
これにより、前記ヒータ1の大型化及び薄板状構造を実現することができる。
そして、発熱素材のマイカ板からなる前記発熱体3は、前面のスチール板11と後面のステンレス板12とを有する前記保持体4によって保護されているので、ヒータ1の機械的強度を向上させることができ、外力が掛かることによる漏電や感電などのリスクを低くし得て、実用上有利である。
【0018】
なお、この発明は上述実施例に限定されるものではなく、種々の応用改変が可能である。
【0019】
例えば、この発明の実施例においては、スチール板が前方向に突出する保持体の凸形状、つまり横方向において凸形状である平面視で保持体の凸形状を維持し、かつ保持体を横方向で固定するために、ヒータケース部の左右両端に前面固定金具を取り付ける構成としたが、この前面固定金具をヒータケース部の上下端に取り付ける、つまり保持体を縦方向で固定する特別構成とすることも可能である。
すなわち、薄板状ヒータ構造においては、ヒータケース部や外装フレーム部の形状、あるいは補強板の取付位置なども考慮する必要がある。
そして、ヒータケース部や外装フレーム部の形状、あるいは補強板の取付位置などによって、保持体の固定位置が上下位置のみに制限される場合も考えられる。
このとき、前記前面固定金具をヒータケース部の上下端に取付可能として、スチール板が前方向に突出する保持体の凸形状、つまり縦方向において凸形状である側面視で保持体の凸形状を維持し、汎用性を高めるものである。
なお、参考までに記載すると、前記ケースに前記保持体を収納する際の保持体の固定位置においては、上下位置に比べて、左右位置の方が隙間が出難いという実験結果が得られているため、上下位置の使用頻度は低いものと考えられるが、発熱体や保持体に使用される板状材料の厚みや保持体の材料、凸形状、つまり曲面の度合いなどによっては使用頻度が変化する可能性があるため、この発明の実施例の改良案として開示した。
【符号の説明】
【0020】
1 薄板状ヒータ
2 電熱線(「ヒータ線」ともいう。)
3 発熱体
4 保持体
5 ケース
6 芯材
6−1、6−2、6−3 第1〜第3芯材
7 前側マイカ板
8 後側マイカ板
9 ハトメ
10、10 ニッケル線
11 スチール板
12 ステンレス板
13 放射塗料
14 線部材
15 開口部
16 絶縁チューブ
17 耐熱シリコンシーラント
18 断熱材
19 補強板
20 前面固定金具
21 ヒータケース部
22 外装フレーム部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電熱線により発熱する発熱体と、この発熱体を保持する保持体と、この保持体を収納するケースとを備えるヒータ構造において、前記発熱体は、前記電熱線を巻き掛けたマイカ板からなる芯材と、この芯材の前後に位置する前側マイカ板及び後側マイカ板とを有し、前記芯材を前側マイカ板及び後側マイカ板によって挟み込む三層構造とし、前記保持体は、前記発熱体の前面に位置する放射用の表面処理を施したスチール板と、前記発熱体の後面に位置する前記スチール板よりも膨張率の大きいステンレス板とを有し、前記発熱体の前後をスチール板とステンレス板とにより保持して前面側のスチール板が前方向に突出する凸形状とし、この保持体を前記ケースに収納する際には、保持体の凸形状を維持するように、保持体の後面に断熱材を介して補強板を設けるとともに、保持体の前面に位置する前記スチール板の両側を線接触にて保持する前面固定金具を設けたことを特徴とする薄板状ヒータ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−17454(P2011−17454A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160465(P2009−160465)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000197344)静岡製機株式会社 (37)
【Fターム(参考)】