説明

薄膜フィルターユニット及びその薄膜フィルターユニットの製造方法

この発明は、一つの束の少なくとも一つの端面側が開いた中空糸膜(1)を有する、液体状又はガス状の媒体用の薄膜フィルターユニットであって、膜の開いた端部(2)に近い領域で密閉層(3)を注型して、固い頭部に硬化させ、その場合、膜の開いた端部(2)が、密閉層(3)の外側に突き出ている薄膜フィルターユニットに関する。密閉層(3)は、スペーサー(4)の上に配置されており、このスペーサーは、中空糸膜(1)が貫通している、硬化させて密閉層(3)とする注型材料を透過させない層を有する。また、この発明の対象は、この薄膜フィルターユニットの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一つの束又は多数の任意に配置された、少なくとも一つの端面側が開いた中空糸膜を有する、液体状又はガス状の媒体のための薄膜フィルターユニットであって、この膜の開いた端部に近い領域で密閉層を注型して、硬化させて固い頭部とし、その場合、膜の開いた端部が、密閉層の外側に突き出ている薄膜フィルターユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離のために用いられる中空糸膜は、実施形態と用途に応じて、200μm〜約5mmの外径を持つことができる。膜分離での正常な機能を保証するためには、中空糸膜の頭部を欠陥無く注型しなければならない。更に、注型部分として作られた頭部を製造する際に、中空糸膜の端部側が貼り付いたり、詰まったり、機械的に損傷したりしないことを保証しなければならない。切断による機械的な処理は、その機械的な処理で多くの膜材料がほぐれてしまうので、避けるべできである。
【0003】
特許文献1により周知の最初に述べた特徴を持つ薄膜フィルターユニットの製造方法では、膜の束の端部を液体の層に浸漬させて、その層を固い支持体に凝固させている。次に、この支持層上に、プラスチック素材から成る密閉層を積層させて、中空糸膜に対してプラスチック素材を注型している。プラスチック素材の硬化後に、支持層を再び液化させて、取り除き、それにより中空糸膜の端部を露出させている。中空糸膜を小さく束ねている時に、中空糸膜間に作用する毛管引力のために、製造技術的な問題が発生する。膜の束を液体に浸漬させる場合、作用する毛管引力に応じて、液体が中空糸膜の外側を上方に昇って行く。頭部を後で作る場合、プラスチック素材を外側から中空糸の束の内部に注ぎ込むことは困難であり、個々の中空糸をプラスチック素材で確実に取り囲むことは、もはや保証されない。
【0004】
特許文献2から周知の方法では、薄膜の自由な端部を細かい固形物から成る層内に置いて頭部に注ぎ込む形の薄膜を採用しており、その層の上にプラスチック素材を積層、硬化させて、頭部としている。頭部が硬化した後、固形物の層を再び取り除き、それにより中空糸膜の端部を露出させている。この方法は、材料が、小さい変位しか許容しないので、固形物層内には、比較的少ない数の中空糸膜しか同時に浸漬させることができないという点において、製造技術的に不利である。
【0005】
特許文献3により、懸濁液やゲルなどの揮発性の液体を使用して、その中に中空糸膜の端部を浸漬させる方法が知られている。それに続いて、中空糸膜に対して、密閉体を注型している。中空糸膜の端部を浸漬させる物質は、その物質が毛管力のために著しく変形するのを防止するために、比較的大きな粘性を有する。しかし、この方法においても、物質が中空糸膜の外側をほぼ上方に昇って行くのを防止することはできない。そのため、この場合にも製造技術的な問題が発生する。
【0006】
前記の製造技術のすべては、方法の第一のステップで、先ずは中空糸膜の開いた端部を層に浸漬させて、その層が、中空糸膜に注ぎ込んでいる間に膜の端部が注型材料と接触するのを防止していることが共通している。頭部が硬化した後、この層を除去することによって、中空糸膜の端部を再び露出させている。従って、これらの周知の製造方法は、比較的負担がかかる。
【0007】
特許文献4には、薄膜フィルターユニットの頭部の製造方法が記載されており、そこでは、穴の開いた板として形成された注型型の底部に中空糸膜を通している。この注型型の中に、粘性の注型材料を入れて、中空糸膜の間の自由空間を満たすとともに、硬化させて固い頭部としている。次に、頭部を中空糸膜と共に注型型から引き出している。方法の最後のステップで、頭部を切断して、中空糸膜を露出させている。頭部を切断した後、中空糸膜の開いた端部は、硬化した密閉層の外面に対して平坦な形で閉じられる。この方法は、機械的な処理によりほぐれてしまう中空糸膜には適さない。
【特許文献1】米国特許公開第5639373号
【特許文献2】米国特許公開第6294039号
【特許文献3】国際特許公開第01/85315号
【特許文献4】欧州特許公開第0771233−B1号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の課題は、前述した問題を出発点として、機械的に処理することなく、頭部を簡単に欠陥無く製造することが可能である、最初に述べた特徴を持つ薄膜フィルターユニットを提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、この発明にもとづき、密閉層をスペーサーの上に配置し、このスペーサーは、中空糸膜が貫通している、硬化させて密閉層とする注型材料を透過させない層を有することによって解決される。薄膜フィルターユニットを製造する場合に、スペーサーの中空糸膜の開いた端部の方を向いた側に、処理する中空糸膜の全体又は個々のグループを取り囲む壁面を載せて、この壁面が、底部を構成するスペーサーと共に、密閉層用の注型型を形成するようにするのは、この目的に適うことである。スペーサーの上にカラー部を構成して、注型材料用の収容空間を形成し、注型型として使用可能とすることも、この発明の範囲内に有る。特に、この壁面を、浸透液の貯蔵空間を備えた頭部との一体的な構造部分とすることもでき、この貯蔵空間は、流体が注型材料から突き出た膜の開いた端部に通れるようになっている。注型型に充填することによって、頭部の製造が行われ、その場合スペーサーの注型材料を通さない層は、注型材料が注型型から流れ出るのを防止している。この場合、注型層の高さは、中空糸膜の開いた端部が、閉ざされないままとなるような高さとする。このようにして、欠陥の無い頭部を問題無く製造することができる。この発明による薄膜フィルターユニットでは、中空糸膜の構造を持った構成、例えば、星形、リング状又は四角形の幾何学的な形状を問題無く実現することができる。そのような構成により、例えば、動作中に、中央からの空気によるガス処理によって中空糸膜を清掃することが可能となる。このスペーサーによって、個々の中空糸膜間の所定の間隔を保証することが可能である。こうすることによって、注型材料が、個々の中空糸膜をそれぞれ欠陥無く取り囲むことが保証される。更に、このスペーサーに、例えば、空気によるガス処理のための導管を配備することができる。
【0010】
開口部が中空糸膜をほぼ隙間無く取り囲む穴の開いた板からスペーサーを構成することができる。この場合、中空糸膜を穴の開いた板の開口部に通す。次に、スペーサーの上側に注型材料を積層させる。この穴の開いた板は、例えば、金属、プラスチック又はエラストマー材料から構成することができる。
【0011】
中空糸膜を収容するための開口部又は横方向スリットを有する柔軟なプラスチックバンドからスペーサーを構成することも、この発明の範囲内に有る。このプラスチックバンドを螺旋状に巻き付けるか、或いはプラスチックバンドの断面を多層の束で構成することができる。
【0012】
この発明の別の実施形態は、スペーサーが、細かい固体、柔らかい物質、薄片の中の一つ以上から成る機能層を有し、この機能層は、注型プロセスの前に、中空糸膜の端部によって突き破られるものと規定する。ここで、例えば、中空糸の直径が大きい場合、先ずは、突き破った後に再び容易に取り去ることができる物質で膜の開いた端部を閉じるのが、この目的に適っている場合もある。この機能層は、開口部を備えた支持体に配置することができる。
【0013】
また、この発明の対象は、前述した薄膜フィルターユニットの製造方法である。この方法では、中空糸膜が貫通している、注型材料を通さない層を有するスペーサーに対して端部を突き出した形の中空糸膜を使用する。そして、スペーサーの上側に突き出た中空糸膜間の自由空間を膜端部の下のレベルにまで満たした粘性の注型材料から成る密閉層をスペーサー上に積層、硬化させて、固い頭部とする。この方法の有利な実施形態は、請求項8〜16に記載されており、以下において、実施例にもとづき説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図面は、液体状又はガス状の媒体用の薄膜フィルターユニットを図示しており、このユニットは、一つの束又は多数の任意に配置された、少なくとも一つの端面側が開いた中空糸膜1を備えており、中空糸膜の開いた端部2に近い領域において、密閉層3を注型、硬化させて、固い頭部としている。これらの図面から、膜の開いた端部2が、密閉層3の上側、即ち、頭部の外側の上に突き出ていることが分かる。密閉層3は、中空糸膜1の開いた端部2とは反対側のスペーサー4の上方を向いた側の上に積層される。スペーサー4は、中空糸膜1が貫通している、硬化させて密閉層3とする注型材料を通さない、或いは少なくとも十分透過させない層を有する。図1の実施例では、スペーサー4は、穴の開いた板から構成されており、その開口部5は、中空糸膜をほぼ隙間無く取り囲んでいる。この実施例では、穴の開いた板の開口部又は開口部の一部を拡張又は広げることができる。穴の開いた板への中空糸膜の装入は、例えば、差し込み又は嵌め込みによって行うことができる。
【0015】
薄膜フィルターユニットを製造する場合、中空糸膜1を穴の開いた板に通すことにより、端部が穴の開いた板4の中に突き出た形の中空糸膜1を使用する。その後、穴の開いた板4の上側に、壁面6を載せ、その壁面は、底部を構成する穴の開いた板4と共に密閉層3用の注型型を形成する。次に、穴の開いた板4の上に、粘性の注型材料から成る密閉層3を積層させる。注型材料は、穴の開いた板4の上側に突き出た中空糸膜1の端部間の自由空間を満たすとともに、硬化して固い頭部となる。図面からは、更に、穴の開いた板4の各開口部5が、それぞれ中空糸膜1に対応していることが分かる。このことは、個々の中空糸膜1が、それぞれ注型材料によって欠陥無く取り囲まれることを保証するものである。更に、こうすることによって、中空糸膜1の構造を持った構成を問題無く実現することができる。穴の開いた板4の上側に突き出た中空糸膜1の端部2は、注型材料を積層させる際に閉ざされないままとする。図1の実施例では、注型材料は、供給導管7を通して、中空糸膜1以外のスペーサー4の上側に供給される。密閉層3を、穴の開いた板4の上に一つ以上の層で積層させることは、この発明の範囲内である。密閉層を多層に積層させる場合、下側の各層を少なくとも部分的に硬化させて、その後次の層を積層させる。多層の構造は、有利には、密閉層3の物理的な特性に効果を発揮する場合がある。注型材料としては、熱可塑性又は熱硬化性のプラスチック、例えば、ポリウレタン又はエポキシ樹脂を使用することができる。注型材料が硬化した後、必要な場合、壁面6を取り除くことができる。
【0016】
図2の実施例では、スペーサー4上に、カラー部8を構成して、注型材料用の収容空間を形成している。カラー部8と共に構成したスペーサー4は、再利用しない注型型14を形成する。この実施例では、型は、一つ以上の開口部15を有し、そこを通して、注型材料が供給される。実施例では、注型型14を構成する構造部分は、更にノズル9を備えており、このノズルは、薄膜フィルターユニットのガス処理用に使用することができる。注型材料を供給するための別の有利な方策が、図3に図示されている。この場合、注型材料は、構造部分14のノズル9を円環状の隙間を開けて取り囲む管16を通して供給される。
【0017】
図4の実施例では、スペーサー4は、柔らかい物資から成る機能層10を有し、この機能層は、中空糸膜1の端部によって突き破られている。機能層10は、開口部を備えた支持体に配置されている。柔らかい物質の代わりに、細かい固形物と薄片の両方又は一方を使用することもできる。
【0018】
図5の実施例では、スペーサー4は、柔軟なプラスチックバンド12から構成されており、このバンドは、中空糸膜1を収容するための開口部又は横方向スリット13を有する。中空糸膜1は、螺旋状に巻き付けられたプラスチックバンド12の横方向スリット13又は開口部内に嵌め込まれる。図5に図示した螺旋形の構成に代わって、プラスチックバンド12の断面を、多層の束で構成することもできる。
【0019】
この発明による薄膜フィルターユニットでは、中空糸膜の構造を持った構成、例えば、星形、リング状又は四角形の幾何学的な形状を問題無く実現することができる。図6に図示した構成では、中空糸膜1は、環状の区画毎に束ねられている。環状の区画の間には、自由空間が残されており、この空間により、原水側が中空糸の束の内部にまで流れ込むことが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明による製造プロセス中の薄膜フィルターユニット
【図2】この発明による対象の別の実施形態
【図3】この発明による対象の別の実施形態
【図4】この発明による対象の別の実施形態
【図5】この発明による対象の別の実施形態
【図6】図3の線A−Aでの断面図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの束又は多数の任意に配置された、少なくとも一つの端面側が開いた中空糸膜(1)を有する、液体状又はガス状の媒体用の薄膜フィルターユニットであって、この膜の開いた端部(2)に近い領域で密閉層(3)を注型して、固い頭部に硬化させ、その場合、膜の開いた端部(2)が、密閉層(3)の外側に突き出ている薄膜フィルターユニットにおいて、
密閉層(3)は、スペーサー(4)の上に配置されており、このスペーサーは、中空糸膜(1)が貫通している、硬化させる密閉層(3)の注型材料を透過させない層を有することを特徴とする薄膜フィルターユニット。
【請求項2】
スペーサー(4)は、穴の開いた板から構成されており、その開口部(5)が、中空糸膜(1)をほぼ隙間無く取り囲んでいることを特徴とする請求項1に記載の薄膜フィルターユニット。
【請求項3】
スペーサー(4)は、柔軟なプラスチックバンド(12)から構成されており、このプラスチックバンドが、中空糸膜(1)を収容するための開口部又は横方向スリット(13)を有することを特徴とする請求項1に記載の薄膜フィルターユニット。
【請求項4】
プラスチックバンド(12)が、螺旋状に巻き付けられているか、或いはこのプラスチックバンドの断面が、多層の束で構成されていることを特徴とする請求項3に記載の薄膜フィルターユニット。
【請求項5】
スペーサー(4)は、細かい固形物、柔らかい物質、薄片の中の一つ以上から成る機能層を有し、この機能層が、中空糸膜の端部によって突き破られていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜フィルターユニット。
【請求項6】
当該の機能層が、開口部を備えた支持体に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の薄膜フィルターユニット。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか一つに記載の薄膜フィルターユニットの製造方法であって、
端部がスペーサーから突き出た形の中空糸膜を使用し、このスペーサーは、中空糸膜が貫通している、注型材料を透過させない層を有し、
スペーサーの上に、粘性の注型材料から成る密閉層を積層させ、その注型材料は、スペーサーの上側に突き出た中空糸膜間の自由空間を、膜端部の下のレベルにまで満たすとともに、硬化して固い頭部となる方法。
【請求項8】
開口部を備えた板を使用し、その開口部の中に中空糸膜を差し込むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
各開口部が、それぞれ中空糸膜に対応していることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
当該のスペーサーが、注型材料を透過させない層を有し、この層は、中空糸膜を嵌め込む際に突き破られることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項11】
当該の中空糸膜を嵌め込む際に突き破られる層が、細かい固形物、柔らかい物質、薄片の中の一つ以上から構成されていることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
当該の中空糸膜は、プラスチックバンドの開口部又は横方向スリットに嵌め込まれることと、このプラスチックバンドが、螺旋状に巻き付けられているか、或いはプラスチックバンドの断面が、束で構成されていることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項13】
当該のスペーサーの上に突き出た中空糸膜の端部が、注型材料の積層時に閉ざされないままであることを特徴とする請求項7から12までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
中空糸膜以外のスペーサーの上側に、注型材料を供給することを特徴とする請求項7から13までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
注型材料を収容する構造部分の一つ以上の開口部を通して、注型材料を供給することを特徴とする請求項7から14までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項16】
当該の密閉層は、スペーサー上に複数の層で積層され、その場合、下側の各層が、少なくとも部分的に硬化した後に、次に層を積層させることを特徴とする請求項7から15までのいずれか一つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−519515(P2007−519515A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−550079(P2006−550079)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【国際出願番号】PCT/EP2005/000720
【国際公開番号】WO2005/070523
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(503096694)コッホ・メンブラーネ・システムズ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (3)
【Fターム(参考)】