説明

薄膜形成方法および薄膜形成装置

【課題】結晶薄膜を精度良く形成し得る薄膜形成方法を提供する。
【解決手段】薄膜形成方法は、結晶体SPを構成する原子と物理的に相互作用する探針15の先端を結晶体SPの表面上の結合点と結合させるステップと、結晶体SPの表面と結合した探針15を移動させて結合点を探針15に追随させることにより結晶体SPの単層または複数層を引き裂いて結晶薄膜を形成するステップと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶薄膜を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクロノジー(Nano technology)の研究開発が活発に行われている。ナノテクロノジーを活用すれば、数ナノメートル〜数百ナノメートルのサイズを持つ物質、部品あるいは装置を作り上げることが可能である。また、ナノテクロノジーの微細加工技術には、走査型トンネル顕微鏡(STM:Scanning Tunneling Microscope)や原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)などの走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)が多用される。特許文献1(特開平6−257019号公報)には、走査型プローブ顕微鏡の試料走査用の探針(probe tip)を用いてグラファイト薄膜をナノメートル精度で折り曲げることができる加工技術が開示されている。
【0003】
グラファイト薄膜は、sp結合した炭素原子の層からなるシート(グラフェン・シートと呼ばれる。)であり、これら炭素原子は、蜂の巣状の六員環構造を形成する。リボン状のグラファイト薄膜のエッジは、π電子による特有のスピン密度を形成し、このスピン密度に応じた磁性状態を呈することが知られている。このようなグラファイト薄膜に関する先行技術文献としては、たとえば、非特許文献1(Novoselov, K.S. et al.: "Electric Field Effect in Atomically Thin Carbon Films", Science, Vol 306 (5696), pp. 666-669 (2004).)や非特許文献2(T. Kawai et al.: "Graphitic ribbons without hydrogen-termination: Electronic structures and stabilities", Phys. Rev. B 62, R16349 (2000).)が挙げられる。
【特許文献1】特開平6−257019号公報
【非特許文献1】Novoselov, K.S. et al.: "Electric Field Effect in Atomically Thin Carbon Films", Science, Vol 306 (5696), pp. 666-669 (2004).
【非特許文献2】T. Kawai, Y. Miyamoto, O. Sugino, and Y. Koga: "Graphitic ribbons without hydrogen-termination: Electronic structures and stabilities", Phys. Rev. B 62, R16349 (2000).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
グラファイト薄膜の電気伝導度、熱伝導度および熱的安定性はいずれも高い。また、グラファイト薄膜の六員環構造は、強固な原子間結合力を有しているので、微細加工が可能であり、エレクトロマイグレーション(過度の電流により配線材料の金属の原子配列が乱れて、断線する現象)の発生を防止し得るものである。また、前述の通り、リボン状のグラファイト薄膜は、当該グラファイト薄膜のエッジでのスピン密度に応じた磁性状態(たとえば、強磁性)を呈するので、磁性体としての活用を期待できる。したがって、グラファイト薄膜は電子デバイス材料として適したものである。そこで、原子スケールで整った端構造を持つようにグラファイト薄膜を形成する技術が望まれている。
【0005】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、グラファイト薄膜などの結晶薄膜を精度良く形成し得る薄膜形成方法および薄膜形成装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、層状結晶構造を持つ結晶体を構成する原子と物理的に相互作用する探針の先端を前記結晶体の表面上の所定の結合点と結合させるステップと、前記結晶体の表面と結合した探針を移動させて前記結合点を当該探針に追随させることにより前記結晶体の単層または複数層を引き裂いて結晶薄膜を形成するステップと、を備えた薄膜形成方法が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、試料台に載置された層状結晶構造を持つ結晶体の表面と対向する先端を有し、かつ、前記結晶体を構成する原子と物理的に相互作用する探針と、前記結晶体に対する前記探針の相対位置を変化させる駆動手段と、前記駆動手段を制御して前記探針の先端を前記結晶体の表面上の所定の結合点と結合させる制御手段と、を備えた薄膜形成装置が提供される。前記制御手段は、前記駆動手段を制御して、前記結晶体の表面と結合した探針の相対位置を移動させて前記結合点を当該探針に追随させることにより前記結晶体の単層または複数層を引き裂いて結晶薄膜を形成する。
【発明の効果】
【0008】
上記の通り、本発明による薄膜形成方法および薄膜形成装置は、層状結晶構造を持つ結晶体の結合点と結合した探針の相対位置を移動させて結合点を当該探針に追随させることにより結晶体の単層または複数層を引き裂いて薄膜結晶を形成する。これにより、原子スケールで整った所望の端構造を持つ結晶薄膜をナノメートル精度で形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0010】
図1は、本発明に係る一実施形態の薄膜形成装置1の概略構成を示す図である。この薄膜形成装置1は、原子間力顕微鏡からなり、移動ステージ(駆動機構)10、試料台11、走査素子12、変位検出部13、カンチレバー(板ばね)14および探針15を有している。走査素子12と変位検出部13は、筐体16に固定されている。また、薄膜形成装置1は、制御系の構成として、ステージ駆動制御部20、素子駆動制御部21および主制御部23を有している。薄膜形成装置1は、真空ポンプ(図示せず)を有しており、この真空ポンプを使用して筐体16の内部を排気し高真空状態にすることができる。
【0011】
移動ステージ10は、当該移動ステージ10の主面に平行でかつ互いに直交する2つの駆動軸(X軸およびY軸)を有し、更に、当該移動ステージ10の主面と直交する駆動軸(Z軸)を有している。ステージ駆動制御部20は、主制御部23からの指令に応じて移動ステージ10を制御して、移動ステージ10上に固定された試料台11をX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に移動させることができる。
【0012】
試料台11の上には、層状結晶構造を持つ結晶体SPが載置される。この層状結晶構造は、多数の層状結晶が積層した構造である。本実施形態では、結晶体SPはグラファイトであるから、結晶体SPの層状結晶構造は、図2に模式的に示されるように、平面状に配列した多数の六員環30,30,…からなるグラフェン・シートが積層した構造である。各六員環30は、sp結合した6個の炭素原子31からなる。六員環30の結晶軸のうちc軸は、結晶体SPの表面すなわち試料台11の主面に対して垂直な方向(高さ方向)を向いている。c軸は、六員環30によって形成される平面(c面)に対して垂直な結晶軸である。
【0013】
カンチレバー14の先端部には、試料である結晶体SPの表面に対向する鋭い先端を有する探針(プローブ)15が固定されている。カンチレバー14の基端部は、走査素子12によって保持されている。走査素子12は、素子駆動制御部21からの指令に応じて、3軸(X軸、Y軸およびZ軸)の任意の軸方向へカンチレバー14を高精度に移動させ得る駆動手段である。走査素子12は、たとえば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電素子で構成されればよいが、特に限定されるものではない。
【0014】
探針15は、結晶体SPを構成する原子と物理的に相互作用するので、この相互作用により探針15は斥力または引力を受ける。探針15が斥力または引力に応じて変位すると、カンチレバー14はその変位に応じてたわむので、変位検出部13は、カンチレバー14のたわみ量を検出することにより探針15の変位を検出し得る。その検出結果は、電気信号(検出信号)に変換されて主制御部23に供給される。このような変位検出部13は、カンチレバー14にレーザ光を照射するレーザ光源と、カンチレバー14で反射したレーザ光を検出する光検出器とを有している。
【0015】
薄膜形成装置1が走査型プローブ顕微鏡として機能して結晶体SPの原子配列を測定するときは、主制御部23は、探針15を結晶体SPの表面で走査させつつ、カンチレバー14のたわみ量が一定となるように走査素子12をフィードバック制御して結晶体SPの表面に対する探針15の相対位置を調整する。主制御部23は、変位検出部13から供給された検出信号に基づいて結晶体SPの表層領域の3次元形状を表す画像データを生成し、表示装置24に供給することができる。ユーザは、入力装置25を操作して、主制御部23に結晶体SPの所望の観察範囲を測定させることができる。
【0016】
また、主制御部23は、測定結果に基づいて結晶体SPの結晶軸の方向を検出する機能を有する。図2に示されるように、六員環30には、c軸と直交するa軸およびb軸という2つの結晶軸が存在し得る。a軸は、結晶格子の六員環30の中心(すなわち、六員環30を構成する結晶格子の原点)と、六員環30をなす炭素原子31とを通る軸に設定されており、b軸は、結晶格子の一辺を共有しかつ隣り合う2つの六員環30,30の中心を通る軸(図2では、a軸に対して直交する軸)に設定されている。主制御部23は、これらa軸とb軸の方向をそれぞれ検出することができる。
【0017】
薄膜形成装置1が微細加工装置として機能するとき、薄膜形成装置1の駆動制御系は、探針15を結晶体SPの表面の方向に斥力に抗して移動させ、これにより、結晶体SPの表面に探針15を近接させ、かつ、探針15の先端を結晶体SPの表面上の結合点と結合させる(ステップS1)。
【0018】
このとき、真空ポンプを用いて筐体16の内部から浮遊原子(たとえば、炭素)あるいは浮遊分子(たとえば、二酸化炭素や酸素)を排気し、筐体16の内部を高真空雰囲気にすることが望ましい。これは、結晶体SPの表面に浮遊原子や浮遊分子が吸着すると、当該表面と探針15との間の結合力が弱まると考えられるからである。あるいは、その結合力向上のために、ステップS1の実行前に結晶体SPの表面に熱処理を施して当該表面を洗浄してもよい。
【0019】
なお、探針15の先端を結晶体SPの結合点と強固に結合させるためには、探針15の先端を結晶体SPの表面に押し当てることにより炭素原子31間のボンドを破壊して結晶体SPの表面に欠陥部位を形成し、この欠陥部位を結合点としてもよい。あるいは、予め結晶体SPの表面に電子ビームを局所的に照射して欠陥部位を形成し、この欠陥部位を結合点としてもよい。探針15の先端を結合点に近接させた状態で、探針15と結晶体SPとの間に電流を流すことにより探針15の先端を結晶体SPの表面と結合させることも可能である。
【0020】
また、探針15の先端は、チタンなどの金属材料や炭素材料で構成されればよい。特に、探針15の先端を結晶体SPの結合点と強固に結合する観点からは、探針15の先端はカーボンナノチューブで構成されることが望ましい。
【0021】
上記ステップS1の後、薄膜形成装置1の駆動制御系は、結晶体SPの表面と結合した探針15を、事前に検出された結晶軸(a軸またはb軸)の方向に沿って移動させて結合点を探針15に追随させる(ステップS2)。これにより、その移動方向に沿って炭素原子31間のボンドが次々と壊されて、結晶体SPの表層領域の単層または複数層が引き裂かれる。言い換えれば、結晶体SPの表層領域が結合点から劈開される。同時に、結晶体SPから表層領域の単層または複数層の結晶薄膜が剥離されることとなる。
【0022】
その後、薄膜形成装置1の駆動制御系は、探針15の先端を結晶体SPの結合点から引き離す(ステップS3)。このとき、少なくとも結合点付近に熱処理を施して探針15と結晶体SPとの間の結合力を弱くすることが望ましい。
【0023】
次に、より具体的な薄膜形成方法の実施例について説明する。
【0024】
先ず、高配向性熱分解グラファイトを高真空チャンバー内に封入し、アルゴンガスの雰囲気中2000Kで1時間の熱処理を行うことによって、高配向性熱分解グラファイト中の欠陥の修復およびその表面の清浄化を行った。その後、高配向性熱分解グラファイトを0℃まで徐々に冷却することにより、試料であるグラファイト基板SPを用意した。このグラファイト基板SPを、原子間力顕微鏡である薄膜形成装置1の試料台11上に載置した。
【0025】
次に、薄膜形成装置1を走査型プローブ顕微鏡として機能させて、グラファイト基板SPの表層領域における層状結晶構造のa軸の方向が検出された。その後、薄膜形成装置1の駆動制御系は、移動ステージ10を制御して、探針15の移動すべき方向がa軸方向(アームチェア端方向)に適合するように薄膜形成装置1の移動ステージ10を回転させた。次に、グラファイト基板SPの洗浄表面に電子ビームを照射して2点の欠陥部位40A,40Bを形成した。図3(a)は、これら欠陥部位40A,40Bを模式的に示す図である。2点の欠陥部位40A,40Bは、a軸に対して垂直な方向に2.4nmの中心間隔L1をもって形成されている。
【0026】
次に、薄膜形成装置1の駆動制御系は、2点の欠陥部位40A,40Bの間の点(略中点付近)に探針15の先端を押し付けることによってグラファイト基板SPの表面に当該先端を結合した。この状態で、図4(a)に示されるように探針15をa軸に沿った方向に移動させることによってグラファイト基板SPの表層領域の単層または複数層を引き裂くと同時に引き剥がし、これを移動させて別の場所に付着させた。
【0027】
このように引き剥がされたグラファイト薄膜の構造を原子間力顕微鏡1で観察したところ、アームチェア端50を持つ2.4nm幅の短冊状グラファイト薄膜が形成されていることが確認できた。
【0028】
その後、薄膜形成装置1の駆動制御系は、移動ステージ10を制御して、探針15の移動すべき方向がb軸方向(ジグザグ端方向)に適合するように薄膜形成装置1の移動ステージ10をZ軸の周りに90度だけ回転させた。次に、グラファイト基板SPの洗浄表面に電子ビームを照射して2点の欠陥部位41A,41Bを形成した。図3(b)は、これら欠陥部位41A,41Bを模式的に示す図である。2点の欠陥部位41A,41Bは、b軸に対して垂直な方向に2.4nmの中心間隔L2をもって形成されている。
【0029】
次に、薄膜形成装置1の制御系は、2点の欠陥部位41A,41Bの間の位置(略中点付近)に探針15の先端を押し付けることによってグラファイト基板SPの表面に当該先端を結合した。この状態で、図4(b)に示されるように探針15をb軸に沿った方向に移動させることによってグラファイト基板SPの表層領域の単層または複数層を引き裂くと同時に引き剥がし、これを移動させて別の場所に付着させた。
【0030】
このように引き剥がされたグラファイト薄膜の構造を薄膜加工装置(原子間力顕微鏡)1で観察したところ、ジグザグ端51を持つ2.4nm幅の短冊状グラファイト薄膜が形成されていることが確認できた。
【0031】
上記の通り、薄膜形成装置1は、結晶体SPを構成する炭素原子31と物理的に相互作用する探針15の先端を結晶体SPの表面上の結合点と結合させた状態で、その探針15の相対位置を結晶体SPの面方向の結晶軸(a軸またはb軸)に沿って移動させて結晶体SPに層間剥離を起こすと同時に、層内の炭素間結合を前記結晶軸方向に沿って切断することにより端構造を形成する。これにより、原子スケールで整った所望の端(アームチェア端またはジグザグ端)の構造を持つ結晶薄膜をナノメートル精度で形成することが可能となる。
【0032】
また、図3(a)または図3(b)に示したように、薄膜形成装置1は、a軸またはb軸と直交する方向に所定間隔L1またはL2をもって形成された2点の欠陥部位の間の位置に探針15の先端を結合させ、その後、探針15をa軸またはb軸の方向に移動させることができる。これにより、短冊状の薄膜構造をナノメートル精度で形成することができる。このように形成された結晶性薄膜を用いて電子デバイスを形成することが可能である。
【0033】
更に、ナノスケールの短冊状構造においては電気伝導度が結晶薄膜の端の構造に大きく依存する。たとえば、アームチェア端では幅に依存して半導体もしくは金属的な電子状態が形成されるが、ジグザグ端では常に金属的な性質が形成される。特に、ジグザグ端を持つ短冊状グラファイト薄膜では当該ジグザグ端に局在した電子状態に起因する磁性を作り出すことが可能である。
【0034】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。たとえば、図1に示した薄膜形成装置1は、原子間力顕微鏡と同じ構成を有するが、これに限定されるものではない。原子間力顕微鏡の代わりに、走査型トンネル顕微鏡や走査型近接視野光学顕微鏡(SNOM:Scanning Near-field Optical Microscope)などの走査型プローブ顕微鏡を使用してもよい。
【0035】
また、加工対象の結晶体SPは、グラファイトに限定されるものではない。たとえば、グラファイトと同様の六方晶系の層状結晶構造を持つ窒化ホウ素や二硫化モリブデン、二硫化タングステンなどの二硫化物を加工対象の結晶体SPとすることも可能である。更に、原子スケールで層状の結晶構造を持つ物質であれば、これを加工対象の結晶体SPとして適用可能である。
【0036】
更に、上記実施形態では、薄膜形成装置1は、結晶体SPを結合点から引き裂くと同時に、結晶体SPから表層領域の単層または複数層を層間剥離してナノメートルオーダーの結晶薄膜を形成していたが、この層間剥離が必ずしも必要であるとは限らない。たとえば、炭化ケイ素などの結晶体に熱処理を施すことにより比較的大面積を持つ単層あるいは数層の結晶薄膜を形成することができる。薄膜形成装置1は、この結晶薄膜を引き裂くことにより、原子スケールで整った端構造を持つ結晶薄膜をナノメートル精度で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る一実施形態の薄膜形成装置の概略構成を示す図である。
【図2】六員環の結晶構造を模式的に示す図である。
【図3】(a),(b)は、グラファイト基板の表面に形成された2点の欠陥部位を模式的に示す図である。
【図4】(a),(b)は、グラファイト薄膜が形成される様子を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 薄膜形成装置(走査型プローブ顕微鏡)
10 移動ステージ(駆動機構)
11 試料台
12 走査素子
13 変位検出部
14 カンチレバー
15 探針
20 ステージ駆動制御部
21 素子駆動制御部
23 主制御部
24 表示装置
25 入力装置
30 六員環
31 原子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状結晶構造を持つ結晶体を構成する原子と物理的に相互作用する探針の先端を前記結晶体の表面上の所定の結合点と結合させるステップと、
前記結晶体の表面と結合した探針を移動させて前記結合点を当該探針に追随させることにより前記結晶体の単層または複数層を引き裂いて結晶薄膜を形成するステップと、
を備える薄膜形成方法。
【請求項2】
請求項1記載の薄膜形成方法であって、前記結晶薄膜を形成するステップでは、前記結晶体の表面と結合した探針を前記結晶体に層間剥離を起こすように移動させる、薄膜形成方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の薄膜形成方法であって、前記結晶薄膜を形成するステップでは、前記結晶体の表面と結合した探針を前記結晶体の面方向の結晶軸に沿って移動させる、薄膜形成方法。
【請求項4】
請求項3記載の薄膜形成方法であって、前記探針は、走査型プローブ顕微鏡の探針である、薄膜形成方法。
【請求項5】
請求項4記載の薄膜形成方法であって、前記探針の先端を前記結合点と結合させるステップの実行前に、前記探針を前記結晶体の表面で走査させて前記結晶軸の方向を検出するステップを更に備える薄膜形成方法。
【請求項6】
請求項3から5のうちのいずれか1項に記載の薄膜形成方法であって、前記探針の先端を前記結合点と結合させるステップでは、前記結晶軸とは垂直な方向に所定間隔をもって形成された2点の欠陥部位の間の点を前記結合点とする、薄膜形成方法。
【請求項7】
請求項3から6のうちのいずれか1項に記載の薄膜形成方法であって、前記結晶体の結晶格子は、前記結晶体の表面に平行な平面を形成する六員環の構造を有し、前記結晶軸は、前記結晶格子の六員環の中心と前記六員環をなす原子とを通る軸に設定される、薄膜形成方法。
【請求項8】
請求項3から6のうちのいずれか1項に記載の薄膜形成方法であって、前記結晶体の結晶格子は、前記結晶体の表面に平行な平面を形成する六員環の構造を有し、前記結晶軸は、前記結晶格子の一辺を共有しかつ隣り合う2つの六員環の中心を通る軸に設定される、薄膜形成方法。
【請求項9】
請求項7または8記載の薄膜形成方法であって、前記六員環をなす原子は炭素原子からなる、薄膜形成方法。
【請求項10】
請求項9記載の薄膜形成方法であって、前記探針の先端はカーボンナノチューブで構成されている、薄膜形成方法。
【請求項11】
請求項1から10のうちのいずれか1項に記載の薄膜形成方法であって、前記探針の先端を前記結晶体の表面に押し当てることにより前記結合点に欠陥部位を形成するステップを更に備え、前記探針の先端を前記結合点と結合させるステップにおいては、前記探針の先端を前記欠陥部位と結合させる、薄膜形成方法。
【請求項12】
試料台に載置された層状結晶構造を持つ結晶体の表面と対向する先端を有し、かつ、前記結晶体を構成する原子と物理的に相互作用する探針と、
前記結晶体に対する前記探針の相対位置を変化させる駆動手段と、
前記駆動手段を制御して前記探針の先端を前記結晶体の表面上の所定の結合点と結合させる制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記駆動手段を制御して、前記結晶体の表面と結合した探針の相対位置を移動させて前記結合点を当該探針に追随させることにより前記結晶体の単層または複数層を引き裂いて結晶薄膜を形成する、薄膜形成装置。
【請求項13】
請求項12記載の薄膜形成装置であって、前記制御手段は、前記結晶体の表面と結合した探針を前記結晶体に層間剥離を起こすように移動させて前記結晶薄膜を形成する、薄膜形成装置。
【請求項14】
請求項12または13記載の薄膜形成装置であって、前記制御手段は、前記結晶薄膜を形成するときに、前記結晶体の表面と結合した探針を前記結晶体の面方向の結晶軸に沿って移動させる、薄膜形成装置。
【請求項15】
請求項14記載の薄膜形成装置であって、走査型プローブ顕微鏡からなる薄膜形成装置。
【請求項16】
請求項15記載の薄膜形成装置であって、前記制御手段が前記駆動手段を制御して前記探針を前記結晶体の表面で走査させたときに、前記結晶体を構成する原子と前記探針との間の相互作用に基づいて前記結晶軸の方向を検出する検出手段を更に備え、
前記制御手段は、前記検出手段によって前記結晶軸の方向が検出された後に、前記探針の先端を前記結合点と結合させる、薄膜形成装置。
【請求項17】
請求項14から16のうちのいずれか1項に記載の薄膜形成装置であって、前記制御手段は、前記結晶軸とは垂直な方向に所定間隔をもって形成された2点の欠陥部位の間の点を前記結合点とする、薄膜形成装置。
【請求項18】
請求項14から17のうちのいずれか1項に記載の薄膜形成装置であって、前記結晶体の結晶格子は、前記結晶体の表面に平行な平面を形成する六員環の構造を有し、前記結晶軸は、前記結晶格子の六員環の中心と前記六員環をなす原子とを通る軸に設定される、薄膜形成装置。
【請求項19】
請求項14から17のうちのいずれか1項に記載の薄膜形成装置であって、前記結晶体の結晶格子は、前記結晶体の表面に平行な平面を形成する六員環の構造を有し、前記結晶軸は、前記結晶格子の一辺を共有しかつ隣り合う2つの六員環の中心を通る軸に設定される、薄膜形成装置。
【請求項20】
請求項18または19記載の薄膜形成装置であって、前記六員環をなす原子は炭素原子からなる、薄膜形成装置。
【請求項21】
請求項20記載の薄膜形成装置であって、前記探針の先端はカーボンナノチューブで構成されている、薄膜形成装置。
【請求項22】
請求項12から21のうちのいずれか1項に記載の薄膜形成装置であって、前記制御手段は、前記駆動手段を制御して前記探針の先端を前記結晶体の表面に押し当てることにより前記結晶体の表面に欠陥部位を形成し、当該形成された欠陥部位を前記結合点とする、薄膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−214195(P2009−214195A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57670(P2008−57670)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】