薬剤の肺投与の方法
患者に治療薬もしくは診断薬を投与する方法が記述される。該方法は、(i)親水性ポリマーで誘導体化された小胞形成性脂質および(ii)中性リポポリマーから選択される1種もしくはそれ以上の小胞形成性脂質を含んでなるリポソームの懸濁液を準備し、その際、該リポソームは該治療薬もしくは診断薬と連合しており;該リポソーム懸濁液のエアロゾルを形成せしめ;そして該エアロゾルを患者に吸入により投与することを含む。該リポソーム製剤は、損なわれていないリポソーム粒子を該患者の気道に送達し、そこで投与後に肺における好中球もしくはマクロファージ細胞計数によって測定されるような免疫応答の観察可能な誘発なしにそこに治療薬の貯蔵体を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の気道に治療薬もしくは診断薬を送達するための方法に関する。さらに特に、本発明は、免疫応答の誘発なしにリポソーム粒子と連合している(associated)そのような薬剤の送達方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸入による薬剤の送達は、指向性送達および多数の治療薬の毒性を最小限に抑えることの利点を有する都合のよいそして実行可能な投与経路である。この投与方法は、炎症性および線維性肺疾患、気道感染症、肺癌および嚢胞性線維症を包含する多数の適応症に適用することができる。さらに、肺はまた、全身用途のための小分子および巨大分子の投与の都合のよい入り口として用いることもできる。
【0003】
吸入は、送達と関連する多数の利点を有するように思われる。しかしながら、投与への入り口である肺は、刺激物に感受性である。治療薬、小分子および巨大分子の両方、ならびに診断薬は、肺組織に投与した場合に著しい刺激および/もしくは毒性を引き起こすことができる。肺組織への外来物質の投与の際に開始される免疫反応は、即座に肺機能に影響を与え、そして慢性事象を開始することができる。粘膜繊毛エスカレーター、細胞性免疫応答および補体活性化のような、免疫原性を誘導する分子を取り除くために用いられる肺における多数のメカニズムがあるが、これらのメカニズムはまた免疫刺激とも関連する。マクロファージおよびサイトカインの活性化により媒介される肺炎症の長期的影響は不明であるが、肺機能障害および持続性気管支収縮につながる肺線維症および粘液過分泌を包含することができる(非特許文献1)。
【0004】
肺胞マクロファージの活性化およびそれらによる食作用は、肺に直接刺激物を投与した際の炎症過程における第一段階である。これは、先天性および後天性免疫の両方につながる一連の免疫事象を引き起こすことができる。マクロファージ活性化の第一の結果の一つは、とりわけ、TNFα、IL−1β、IL−6、MCP−1のような、サイトカインおよびケモカインの生産、接着分子の刺激ならびにNOおよび反応性酸素種の分泌である(非特許文献2;非特許文献3)。これらのエフェクター分子は、肺に他の免疫細胞、主に好中球を召集し、そして刺激する。マクロファージおよび好中球の召集および活性化は、細胞副産物放出および血管拡張の結果として組織損傷を引き起こすことができる(非特許文献4)。
【0005】
吸入の際に炎症効果もしくは免疫効果を誘導しない送達系は、依然として同定されていない。理想的には、そのような送達系は、さらに、治療薬の生来の毒性を減少するかもしくはなくす。
【0006】
肺送達の一つのアプローチは、リポソームに治療薬を取込ませる(entrap)ことであった(例えば、特許文献1;特許文献2;特許文献3;特許文献4;特許文献5;特許文献6を参照)。リポソームは、肺への送達のためにエアロゾル化される。しかしながら、肺に送達されることができ、そして免疫応答を引き起こさず、それにもかかわらず持続放出のための薬剤の貯蔵体リザーバー(depot reservoir)を提供するリポソーム製剤の当該技術分野における必要性が依然としてある。
【特許文献1】米国特許第5,043,165号明細書
【特許文献2】米国特許第5,958,378号明細書
【特許文献3】米国特許第6,090,407号明細書
【特許文献4】米国特許第6,103,746号明細書
【特許文献5】米国特許第6,346,223号明細書
【特許文献6】国際公開第86/06959号パンフレット
【非特許文献1】Zhang,−H.J.et al.,Immunology 101(4):501,(2000)
【非特許文献2】de Haan,A.et al.,Immunology,89(4):488(1996)
【非特許文献3】Lentsch,A.B.,et al.,Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.,20(4):692(1999)
【非特許文献4】Phan,S.H.et al.,Exp.Lung Res.,18(1):29(1992)
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
従って、本発明の目的は、エアロゾル化されたリポソーム担体の形態の薬剤の吸入によって患者に治療薬もしくは診断薬を投与する方法を提供することである。
【0008】
一つの局面において、本発明は、(i)親水性ポリマーで誘導体化された小胞形成性脂質および(ii)中性リポポリマーから選択される1種もしくはそれ以上の小胞形成性脂質を含んでなるリポソームの懸濁液を準備し、その際該リポソームは該治療薬もしくは診断薬と連合しており;該リポソーム懸濁液のエアロゾルを形成せしめ;そして吸入により患者に該エアロゾルを投与し、かくして該投与により、損なわれていないリポソーム粒子が該患者の気道に送達され、そこで該投与後に肺における好中球もしくはマクロファージ細胞計数によって測定される免疫応答の観察可能な誘発なしに治療薬の貯蔵体(depot)を形成することを含んでなる、患者に治療薬もしくは診断薬を投与するための方法が包含する。
【0009】
一つの態様において、ポリエチレングリコールで誘導体化された小胞形成性脂質を含んでなるリポソームが提供される。誘導体化脂質の例は、ジステアロイル−ポリエチレングリコールである。
【0010】
別の態様において、リポソーム内に取込まれた(entrapped)治療薬を有するリポソームが提供される。別の態様において、治療薬は外部リポソーム表面と連合している。治療薬は、別の態様において、抗ウイルス薬、抗炎症薬、抗菌剤、抗真菌剤、遺伝子治療薬および化学療法薬よりなる群から選択することができる。
【0011】
本発明のこれらおよび他の目的および特徴は、以下の本発明の詳細な記述を添付の図面と併せて読む場合にさらに十分に理解される。
発明の詳細な記述
I.定義
本明細書において用いる場合、「エアロゾル」という用語は、相対的空中浮遊安定性(relative airborne stability)を有するように十分に細かい粒子サイズおよび結果として低い沈降速度の、固体もしくは液体粒子の空気中の分散物をさす。
【0012】
「リポソームエアロゾル」は、リポソームまたはヒトもしくは動物の気道への送達を目的とする1種もしくはそれ以上の薬剤もしくは診断薬を含有するリポソームの1つもしくはそれ以上の粒子がその中に分散している水性の液滴からなる。エアロゾル液滴のサイズは、約1.5〜2.5μmの幾何標準偏差で1〜5μmの空気動力学的質量中央径(mass median aerodynamic diameter)(MMAD)である。
【0013】
以下の略語を本明細書において使用する:PEG、ポリ(エチレングリコール);mPEG、メトキシ−PEG;DSPE、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン;mPEG−DSPE、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンに共有結合しているmPEG;HSPC、水素化ダイズホスファチジルコリン;mPEG−DS、ジステアロイルにカルバメート結合によって共有結合しているmPEG;chol、コレステロール。
リポソーム組成物および製造
リポソームは、様々な治療目的のために、そして特にリポソームのインビボ(in vivo)投与により標的領域もしくは細胞に治療薬を運ぶために用いられる閉じた脂質小胞である。リポソームは、典型的に、小胞形成性脂質、すなわち、水において二重層小胞を自然に形成する脂質でできている。小胞形成性脂質は、好ましくは、2本の炭化水素鎖および極性頭部基を有する。2本の炭化水素鎖が典型的に約12〜約24個の炭素原子の長さであり、そして様々な程度の不飽和度を有する当該技術分野において既知である様々
な合成小胞形成性脂質および天然に存在する小胞形成性脂質がある。例には、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)およびスフィンゴミエリン(SM)のようなリン脂質が包含される。本発明における使用に好ましい脂質は、水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)である。脂質の別の好ましい群は、ジアシルグリセロールである。これらの脂質は商業的に入手するかもしくは公開された方法に従って製造することができる。
【0014】
小胞形成性脂質は、一定の流動性もしくは剛性を達成するために、血清におけるリポソームの安定性を制御するために、そしてリポソームにおける封入薬剤の放出の速度を制御するために選択することができる。より硬い(rigid)脂質二重層もしくは液晶二重層を有するリポソームは、比較的硬い脂質、例えば、比較的高い相転移温度、例えば約80℃までの相転移温度を有する脂質の導入により製造することができる。硬い脂質、すなわち、飽和した脂質は、脂質二重層におけるより大きい膜剛性に寄与する。コレステロールのような他の脂質成分もまた、脂質二重層構造における膜剛性に寄与することが既知である。
【0015】
脂質二重層流動性は、比較的低い液体ないしは液晶相転移温度(例えば、室温(約20〜25℃)以下)を有する脂質の導入により得られる。
【0016】
リポソームは、また、ステロールのような、脂質二重層に導入することができる他の成分を含むこともできる。これらの他の成分は、典型的に、二重層膜の内側の疎水性領域と接触する疎水性部分、および膜の外側の極性表面に配向する極性頭部基部分を有する。
【0017】
本発明のリポソームにおける別の脂質成分は、親水性ポリマーで誘導体化された小胞形成性脂質である。このリポポリマー成分は、内側および外側脂質二重層表面の両方の上に親水性ポリマー鎖でのリポソーム表面コーティングの形成をもたらす。典型的に、約1〜20モルパーセントの間のリポポリマーが脂質組成物に含まれる。ポリエチレングリコール(PEG)のような、親水性ポリマー鎖の表面コーティングを有するリポソームは、ポリマーコーティングを欠くリポソームに対して延長された血液循環寿命を与えるので、これらのリポソームは薬剤担体として望ましい。ポリマーは血液タンパク質の障壁として働き、それによりタンパク質の結合ならびにマクロファージおよび細網内皮系の他の細胞による取り込みおよび除去のためのリポソームの認識を防ぐ。
【0018】
小胞形成性脂質との誘導体化に適当な親水性ポリマーには、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコールおよびポリアスパルトアミドが包含される。これらのポリマーは、ホモポリマーとしてまたはブロックもしくはランダムコポリマーとして用いることができる。
【0019】
好ましい親水性ポリマー鎖は、好ましくはPEG鎖として約500〜約10,000ダルトンの間、好ましくは約1,000〜約5,000ダルトンの間の分子量を有する、ポリ(エチレングリコール)(PEG)である。PEGのメトキシもしくはエトキシでキャップされたアナログもまた、好ましい親水性ポリマーである。これらのポリマーは、様々なポリマーサイズ(例えば、約12〜約220,000ダルトン)で市販されている。好ましいリポポリマーは、mPEG−DPSEである。
【0020】
リポソームにおける使用が考えられる別のリポポリマーは、米国特許第6,586,001号に記述されておりそしてmPEG−DSと呼ばれる中性リポポリマーである。このリポポリマーの製造および特性化に関する開示は、本明細書に引用することにより組み込まれる。図1Aは、mPEG−DSの構造を示す。親水性ポリマーは、カルバメート結合によって、疎水性部分、ジステアロイルに結合している。疎水性部分は多種多様な疎水性種から選択できることおよびC18ジアシル鎖は単に例となるにすぎないことが理解される。代わりの疎水性種は、米国特許第6,586,001号に記述されている。カルバメ
ート結合は単に例となるにすぎず、そして他の結合は熟練した化学者に明らかであることもまた理解される。比較のために、mPEG−DSPEの構造を図1Bに示し、ここで、ポリマーはホスファチジル頭部基で疎水性種に結合している。
【0021】
リポソームは、当該技術分野において周知であるように、場合によりターゲッティングリガンドを含有することができる。
【0022】
リポソームは治療薬もしくは診断薬を含み、そして該薬剤はリポソームに取込まれるかまたは薬剤を脂質にもしくは親水性ポリマーにつなぐことによるように、外部リポソーム表面と連合していることができると理解される。任意の治療薬もしくは診断薬が適当であり、そして当業者はある種の疾患もしくは症状の処置のための薬剤を容易に選択することができる。
【0023】
本明細書に記述するリポソーム組成物は、吸入による投与を目的とする。吸入治療のために、送達は、(a)空気ネブライザーを用いる希薄水性懸濁液のエアロゾル化、(b)粉末の懸濁した乾燥リポソームを噴射剤溶媒を用いて内臓型アトマイザーから噴霧すること、(c)噴射剤で肺に乾燥粒子を噴霧することもしくは(d)適当な装置を用いて粉末エアロゾルとして乾燥リポソームを送達することにより達成される。
肺送達
本発明のサポートとして行う研究において、6種のリポソーム製剤を分析のために製造した。これらの製剤の製造を実施例1に記載し、そして成分および薬剤装填(drug loading)の方法を表1に要約する。
【0024】
【表1】
【0025】
製剤番号1をBaxter Healthcare Corp.(Baxter 2083)、Invacare Corporation(SidestreamR)、Pari GmBH(Pari LC PlusR)およびAerogen,Inc.(AeroNebR)からの4種の市販されているネブライザーにおいて噴霧した。実施例2に記述するように、リポソーム−シプロフロキサシン製剤番号1の特定容量を各ネブライザ
ーに入れ、そして製造業者の使用説明書に従ってエアロゾル化した。粒子サイズおよび分布は、フラウンホーファー回折パターン解析(Frauenhofer Diffraction Pattern Analysis)に基づいてマルバーンマスターサイザー(Malvern Mastersizer)を用いて評価した。4種のネブライザーにより生成されるリポソームのエアロゾル粒子分布を図2に示す。
【0026】
粒子サイズの独特な分布パターンが、各ネブライザーにより生成された。幾何平均直径の分布プロファイルは、溶液中にリポソームもしくは任意の他の塩がない場合の、水における薬剤と同様であった。Pari、BoxterおよびAeroNebネブライザーは、非常に異なるメカニズムを有することにもかかわらず、幾何平均直径の同様の二峰性分布を示した。興味深いことに、SideStreamは、粒子の大部分が幾何平均直径<5μmを有して、一峰性分布(unimodal distribution)を示した。
【0027】
各ネブライザーから製剤に生成される粒子の平均質量直径(D50μm)を表2に要約する。
【0028】
【表2】
【0029】
表2は、評価した4種の通常のネブライザーの各々についてリポソーム薬剤の全ての製剤に対して平均直径が同等であったことを示す。ネブライザーからの放出エアロゾルサイズは、リポソーム製剤よりむしろネブライザーメカニズムに依存した。SideStreamRネブライザーから放出される粒子の平均空気動力学的サイズにおいて有意な差があり、一方、空気動力学的直径は、Baxter 2083、Pari LC PlusRおよびAeroNebRを包含する、評価した他のネブライザーでは同様であった。これは、AeroNebRの非常に異なるネブライザーメカニズムにもかかわらずである。AeroNebRは、メッシュを通して液体をくみ上げるために圧電振動プレートを使用する。質量中央径は、深部肺へのエアロゾル粒子の沈着のための呼吸に適する範囲の十分に範囲内である。従って、通常の噴霧により生成されるリポソーム薬剤のエアロゾル化は、肺への沈着のための適切な大きさのエアロゾル粒子を生成することができた。呼吸に適した画分(1〜5μm)粒子はリポソームシプロフロキサシン製剤から使用しそして使用に適当な空気動力学的直径で生成され得る。
【0030】
実施例3に記述する別の研究において、ネブライゼート(nebulisate)生産への製剤組成の影響を調べた。製剤番号1〜4(上記の表1)をPari LC PlusRネブライザーに入れ、そしてスプレーをインパクタープレート上に集めながら、乾固するまでエアロゾル化した。洗浄することによりエアロゾル粒子を回収し、そして分布を解析した。結果をリポソーム製剤番号1(ひし形)、2(×表示)、3(三角形)および4(四角形)について図3に示す。プレート上へのエアロゾル粒子の分布は各ネブライザ
ーで同様であり、より小さい空気動力学的粒子サイズでより多数の粒子およびより大きい全質量を有するエアロゾル粒子の二峰性分布が各製剤に認められた。
【0031】
リポソーム担体の形態で肺に薬剤を投与することにおいて、リポソーム粒子はエアロゾル化後に損なわれないままであることが望ましい。これは、長期間にわたる放出のための薬剤の貯蔵体リザーバーを実現するために特に望ましい。実施例4は、噴霧後のリポソーム完全度および薬剤漏出の程度を決定するための研究を記述する。製剤番号1〜4(表1を参照)をPari LC PlusRネブライザーを用いてエアロゾル化し、そしてネブライゼートをフラスコ中に集めた。透析によるリポソーム内に封入されていないあらゆるシプロフロキサシンの除去の後に、ネブライゼートのアリコートを溶解し、そしてシプロフロキサシン濃度について分析した。コントロールとして、噴霧を受けていないリポソームにおけるシプロフロキサシン濃度を決定した。結果を、同じ製剤の非噴霧サンプルに対する、噴霧後の各製剤のリポソームに封入されているシプロフロキサシンパーセントとして表4Aに要約する。
【0032】
【表3】
【0033】
Pari LC PlusR、Baxter 2083およびAeroNebRユニットにより噴霧する、単一のリポソーム製剤、製剤番号1を用いて同様の研究を行った。噴霧後のリポソーム完全度を実施例4に記述するように評価し、そして結果を表4Bに要約する。
【0034】
【表4】
【0035】
リポソーム内に取込まれたままであるシプロフロキサシンの量は、Pari LC PlusRネブライザーで最も高く、96%の開始封入パーセントから、78%のシプロフロキサシンが噴霧後に取込まれたままであった。Baxter 2083ネブライザーか
らのネブライゼートは、68%の取込まれているシプロフロキサシンをもたらし、一方、AeroNebRネブライザーは、噴霧による取込み薬剤の54%の損失により明らかなようにリポソームを不安定化した。最も少ない分解をもたらしたネブライザーメカニズムは、圧縮空気の流れが液体を空気中に引き出しそして空気と水との間の表面張力の結果としてエアロゾル粒子の自然形成をもたらす通常のジェットネブライザーメカニズムであった。エアロゾル粒子を生成するために超音波振動メカニズムを有するネブライザーは、リポソームを不安定化することが最も起こりにくいようである。
【0036】
別の研究において、モデル肺表面活性剤(SurvantaR)中へのリポソーム製剤からのシプロフロキサシンの放出を48時間の試験期間にわたって時間の関数として決定した。実施例5に記述するように、各製剤(製剤番号1〜4、表1)をSurvantaRと合わせ、そしてリン酸バッファーに対して透析した。サンプルをシプロフロキサシン濃度の分析のために定期的に取り出し、そして結果を図4に示す。シプロフロキサシンが受動的に取込まれた製剤番号3(三角形)は最も高い放出速度を与え、約60%の薬剤が24時間の時点で放出された。シプロフロキサシンが硫酸アンモニウム勾配に対してリポソームに遠隔的に装填された2種の製剤、製剤番号1(ひし形)および製剤番号4(四角形)は、最も遅い放出速度を有し、10%未満の封入薬剤が24時間の時点で媒質中に放出された。製剤番号2(×表示)は、他の製剤に対してその放出速度が中間であった。
【0037】
このデータは、硫酸アンモニウム勾配の使用により、リポソーム内部からの薬剤の即時放出を防ぐことができたことを例証する。硫酸アンモニウム勾配を用いて作製された製剤は、受動的に取込まれた製剤(製剤番号3)と比較した場合にリポソーム内部の内側に取込まれたままであるシプロフロキサシンの量の少なくとも50〜800%の増加を示した。肺液のpHの変化は、通常のリポソーム製剤からのシプロフロキサシンの放出速度のごくわずかな違いをもたらした(データは示さない)。デキストラン硫酸アンモニウムでの製剤番号2は、硫酸アンモニウムのみのものを越える改善された安定性を与えず、そして安定性の減少を引き起こしている可能性がある。製剤番号2でのより高い放出速度はまた、リポソーム製造過程中に除去されなかったリポソームの外側上のデキストラン−硫酸アンモニウム−シプロフロキサシン複合体の存在にも起因し得る。薬剤が通常の(非PEG、製剤番号4)もしくはPEG化された(製剤番号1)リポソーム内に取込まれるかどうかは、異なる安定性もしくは媒質へのシプロフロキサシンの放出を与えなかった。
【0038】
肺における炎症反応の重要な成分の一つはマクロファージの活性化であり、ここで、在住マクロファージは細胞防御の第一線である。リポソーム製剤番号1〜4のそして遊離シプロフロキサシンのマクロファージ取り込みの程度を評価するためにインビトロ研究を行った。実施例6に記述するように、ラット肺胞マクロファージを培養において増やした。細胞を0.5mg/mLの薬剤濃度でリポソーム製剤番号1、2、3もしくは4と、または遊離シプロフロキサシンと一緒に試験管に入れた。細胞を製剤の存在下で37℃で4時間インキュベーションし、そして細胞のアリコートをシプロフロキサシン取り込みの決定のために取り除いた。結果を図5に示し、ここで、遊離シプロフロキサシン(逆三角形)、リポソーム製剤番号1(ひし形)、2(×表示)、3(三角形)および4(四角形)の分単位の時間の関数としてのマクロファージ細胞へのpg/細胞単位のシプロフロキサシン取り込みをグラフにする。
【0039】
データは、リポソーム担体の形態で細胞に投与したシプロフロキサシンが、マクロファージによる薬剤の取り込みを減少することを示す。遊離シプロフロキサシンの取り込み(逆三角形)は、リポソーム製剤のいずれについてよりも高かった。ポリエチレングリコール(PEG)のコーティングを有するリポソーム製剤(製剤番号1(ひし形)、2(×表示)、3(三角形))は、通常の、PEGでコーティングされていないリポソーム(製剤番号4、四角形)と比較した場合に減少した肺胞マクロファージ取り込みを有した。硫酸アンモニウム勾配とPEGコーティングにより与えられる立体障壁との組み合わせは、肺胞腔への薬剤の最小漏出の利点と一緒に、肺胞マクロファージ取り込みを減少した。従って、硫酸アンモニウム勾配およびPEGのコーティングにより例示されるような、イオン勾配および親水性ポリマー鎖の表面コーティングを有するリポソーム製剤は、肺の持続放
出送達系を提供する。
【0040】
リポソーム製剤番号1〜6をカテーテルを用いて気管注入によってラットの肺に投与するインビボ研究を行った。実施例7に記述するように、製剤の注入後に、血液サンプルを採取し、そしてシプロフロキサシン濃度について分析した。投与後48時間で、肺を取り除き、そして肺組織におけるシプロフロキサシン濃度を定量した。結果を図6A〜6Bおよび7A〜7Dに示す。
【0041】
図6Aは、分単位の時間の関数としてリポソーム製剤から放出されるng/mL単位のシプロフロキサシンの血液濃度を示すグラフである。比較のコントロールとして、遊離シプロフロキサシン(逆三角形)を気管内に投与し、そして血漿におけるその濃度を分析した。遊離シプロフロキサシン(逆三角形)は、肺に投与した場合に、投与の直後に血液における薬剤の有意なそして検出可能な量をもたらす。リポソーム製剤番号1(ひし形)、2(×表示)、3(三角形)および4(四角形)に取込まれたシプロフロキサシンは、気管注入後に血液区画に、仮にあったとしても、ゆっくりと放出される。
【0042】
図6Bは、比較のためのリポソーム製剤番号1(ひし形)および遊離シプロフロキサシン(逆三角形)と一緒にリポソーム製剤番号5(閉じた丸)および6(開いた丸)(上記の表1を参照)の結果を示す。3種のリポソーム製剤、番号1、5および6は、インビボ気管投与後に血液中への薬剤の遅い最小の放出を与え、薬剤リザーバー貯蔵体としてリポソーム担体が適していることを示す。
【0043】
リポソーム製剤の気管注入後48時間で採取した、試験動物の肺におけるシプロフロキサシン濃度を図7A〜7Dに示す。図7A〜7Bは、シプロフロキサシンリポソーム製剤番号1〜4のそして遊離シプロフロキサシンの気管内注入後48時間のラットの肺におけるシプロフロキサシンの濃度を示す棒グラフである。図7Aおよび7Bはy軸目盛りにおいてのみ異なり、図7Bは、製剤番号3からのそして遊離シプロフロキサシンからの肺における濃度を見るために0〜600ng/g組織のより小さい目盛りを有する。図7C〜7Dは、シプロフロキサシンリポソーム製剤番号5〜6のそして遊離シプロフロキサシンの気管内注入後48時間のラットの肺におけるシプロフロキサシンの濃度を示す棒グラフであり、図7Dは、0〜600ng/g組織のy軸目盛り上で提示されるデータを示す。図7A〜7Dにおけるデータは、薬剤を遊離形態においてか、薬剤が受動的に取込まれたリポソーム(製剤番号3)から投与する場合に、もしくは製剤番号5および6におけるように、リポソームが37℃で流体相中の脂質を主に含んでなる場合に、少量のシプロフロキサシンが肺組織において回収されたことを示す。対照的に、比較的硬い脂質でできているリポソームからのシプロフロキサシンの送達および薬剤がイオン勾配に対してリポソームに装填される場合に、薬剤の持続放出のために、肺における薬剤の貯蔵体が提供される。
【0044】
実施例8に記述する別のインビボ研究において、PEGの表面コーティングを有するリポソームおよびPEGの表面コーティングのない通常のリポソームを鼻腔内にマウスに投与した。陽性コントロールとして、トール様受容体2を介してマクロファージを活性化することが既知である酵母細胞の不溶性製剤、ザイモサンを鼻腔内に投与した。コントロールマウスの別の群は、鼻腔内にリン酸緩衝食塩水で処理した。投与後6時間で、気管支肺胞洗浄を採取し、そして好中球およびマクロファージの炎症性細胞浸潤について定量した。鼻腔内投与の際の細胞活性化を好中球およびマクロファージの細胞計数を用いて定量し、そして計数を表5に示す。
【0045】
【表5】
【0046】
表5におけるデータは、食塩水で処理したコントロール動物およびPEGでコーティングされたリポソームで処理した動物から気管支肺胞洗浄に回収される細胞数およびタイプにおいて識別可能な差がないことにより明らかなように、PEGでコーティングされたリポソームが炎症反応を誘導しなかったことを示す。ザイモサンの鼻腔内投与は、予想されるように、気道への細胞の有意な流入を引き起こした。PEGのコーティングを欠きそして20モル%の負電荷を含有する通常のリポソームの投与は、食塩水で処理した動物に対して上昇した好中球およびマクロファージ細胞計数により明らかなように、炎症応答を誘導した。要約すると、該データは、気道におけるPEGでコーティングされたリポソームの存在によって炎症反応が認められなかったことを明らかに立証する。
【0047】
蛍光顕微鏡検査下で見られる気管支肺胞洗浄の顕微鏡写真を図8A〜8Hに示す。図8A〜8Bは、リン酸緩衝食塩水で処理したマウスの気管支肺胞洗浄に対応し;図8C〜8Dは、陽性コントロールザイモサンで処理したマウスの気管支肺胞洗浄に対応し;図8E〜8Fは、PEGの表面コーティングを欠く通常のリポソームで処理したマウスの気管支肺胞洗浄に対応し;そして図8G〜8Hは、PEGでコーティングされたリポソームで処理したマウスの気管支肺胞洗浄に対応する。全ての顕微鏡写真について、蛍光条件下で見る際にマクロファージのいくらかの自己蛍光がある。図8C〜8Dにおいて見られるように、ザイモサンの鼻腔内投与は、細胞内エンドサイトーシス体の存在を示す分断(punctuated)構造により明らかな、細胞によるザイモサンの取り込みをもたらした。PEGでコーティングされたおよび通常の、PEGでコーティングされていない、両方のタイプのリポソームは、マクロファージにより結合もしくは内在化されているようであった。通常のリポソームの蛍光(図8E〜8F)は、PEGでコーティングされたリポソームのもの(図8G〜8H)と比較してより粒状の性質であり、PEGでコーティングされたリポソームによる細胞表面結合と比較して通常のリポソームによる細胞取り込みを示唆する。
【0048】
前述の事項から、本発明の様々な態様および特徴を理解することができる。電荷を保有する送達系もしくは薬剤は、マクロファージ取り込みおよびその後の肺領域への好中球浸潤を誘導することにより炎症反応を引き起こすことができる。非常に荷電した薬剤送達系は、肺機能障害を引き起こすことができる肺における炎症効果もしくは免疫効果を誘導することにおいて特に効率がよい。例えば、陽イオン性脂質は、サイトカイン生産および反応性酸素中間体を誘導することにより炎症効果をもたらす(Dokka,S.,et al.,Pharm.Res.,18(5):521(2000))。送達系における負電荷はまた、補体活性化を引き起こすことも示されている(Cunningham,C.M
.et al.,J.Immunol.,122(4):1238(1989))。あまり荷電していない薬剤および分子は、担体のない場合に炎症効果を誘導する傾向をなお有し得る。本明細書における研究は、免疫刺激分子を含有せずそして免疫応答に対する防御障壁を有するリポソーム内部の薬剤の封入が、免疫応答の誘導を減少できることを立証する。特に、(i)外側リポソーム表面上の親水性ポリマーコーティングが、タンパク質、細胞膜などとの結合からそして細胞表面上の受容体との相互作用からリポソームおよび封入薬剤を防御することにより荷電効果の可能性を減少する;(ii)硫酸アンモニウム勾配もしくはpH勾配のようなイオン勾配がリポソーム中に薬剤を保ち、持続的薬剤放出および減少した炎症反応を与えるという特徴を含むリポソーム。
V.実施例
以下の実施例は、本明細書に記述する本発明をさらに説明し、そして決して本発明の範囲を限定するものではない。
材料
全ての材料は、Aldrich Corporationのような、商業的に適当な製造供給業者から入手した。
【実施例1】
【0049】
シプロフロキサシンを含有するリポソームの製造
HSPC、コレステロールおよびいくつかの製剤ではmPEG−DSPEをエタノールにおいて可溶化した。脂質のエタノール溶液をpH5.5でそして65℃で硫酸アンモニウムにおいて水和させるエタノール注入技術を用いて多重層小胞を形成した。連続サイズ減少膜−0.4μm、0.2μmおよび0.1μmを用いて65℃で押し出し機を通した押し出しによりリポソームを〜150nmに小型化した。イオン勾配を生成するためにダイアフィルトレーションを用いて10%のショ糖、NaCl(pH=5.5)に対して交換することにより外側の硫酸アンモニウムを除いた。シプロフロキサシンを10%のショ糖に可溶化し、そしてリポソームと65℃で30〜60分間インキュベーションした。10%のショ糖、NaClに対してダイアフィルトレーションを用いて遊離シプロフロキサシンを除いた。典型的な装填は、リポソームに装填される40〜60%の初期薬剤濃度をもたらした。最終溶液は、10mMのヒスチジンおよび10%のショ糖バッファー中であった。典型的な脂質に対する薬剤比は、0.3〜0.5(w/w)であった。
【0050】
リポソームはまた、受動的封入方法を用いても製造した。脂質HSPC、コレステロールおよびmPEG−DSPEをエタノールにおいて可溶化した。可溶化した脂質を高濃度のシプロフロキサシン溶液(120mg/mL)に65℃で60分間加えた。次に、0.4μm、0.2μmおよび0.1μmサイズ膜を通した65℃での押し出しによりリポソームを〜150nmに小型化した。封入されていないシプロフロキサシンを10%のショ糖、NaCl(pH=5.5)および10%のショ糖、10mMのヒスチジン(pH=6.5)に対するダイアフィルトレーションを用いて除いた。典型的な装填は、少なくとも0.3(w/w)の脂質に対する薬剤比をもたらした。
【0051】
製造した製剤を表1に要約する。
【実施例2】
【0052】
リポソームのエアロゾル粒子形成
実施例1に従ってシプロフロキサシンを含有するリポソームを製造した。各リポソームシプロフロキサシン製剤の測定容量(2〜3mL)をネブライザーのリザーバーに入れた。4種の市販されているネブライザー(Baxter Healthcare Corp.(Baxter 2083)、Invacare Corporation(SidestreamR)、Pari GmBH(Pari LC PlusR)およびAerogen,Inc.(AeroNebR))を入手し、そしてリポソームシプロフロキサシン製剤をエアロゾル化するために用いた。エアロゾル化された粒子サイズおよび分布は、フラウンホーファー回折パターン解析に基づいてマルバーンマスターサイザーを用いて評価した。エアロゾル化過程中、装置の指定されたサンプル面で、スプレーがフラウンホーファー装置の解析ビームを通過するようにネブライザーを位置合わせし、このサンプル面
からの逸脱は、散乱パターンのビネッティング(vignetting)および誤ったサイズ分布結果をもたらすのでサンプル位置を維持するように気をつけた。開始効果がサイズ分布測定に影響を与えるのを避けるために解析ビーム中に置く前に約1分の噴霧を最初に行った。この初期期間の後に、30秒間集める散乱パターンでネブライゼートスプレーを解析した。スプレー粒子サイズ分布および質量に基づく関連する統計的尺度(D3,2,D50,D90,)を計算するためにマスターサイザーソフトウェアを用いた。結果を図2に示す。
【実施例3】
【0053】
リポソームのエアロゾル粒子形成
リポソームシプロフロキサシンの既知量をネブライザーのリザーバーに入れた。液体製剤の噴霧は、さらなるエアロゾル化が起こらなくなる;すなわち、乾燥に至る(run to dryness)までAndersenカスケードインパクターに進めた。沈着したサンプルを集めるためにプレートをバッファーで洗浄した。バッファーは、pH3.5で10mMのリン酸二水素ナトリウム二水和物、140mMの食塩水および10%のメタノールを含んでなった。カスケードインパクターの様々なプレート上に沈着するシプロフロキサシンの濃度は、UV分光測光解析を用いて決定した。結果を図3に示す。
【実施例4】
【0054】
エアロゾル化後のリポソーム安定性の解析
実施例1に記述するように製造したリポソームシプロフロキサシン製剤をPari LC PlusRネブライザーを用いてエアロゾル化し、そしてPBSバッファーを含有するアーレンマイヤーフラスコにネブライゼートを集めた。集めたネブライゼートを少なくとも50xのPBSバッファー(pH=3.8)に対して一晩透析して封入されていないシプロフロキサシンを除いた。コントロールには、10%メタノールの最終濃度になるようにメタノールをネブライゼートに加え、そして同様にPBSバッファーに対して一晩透析した。透析バッファーにおけるそして透析バッグ中のネブライゼートの溶解したアリコートにおけるシプロフロキサシンについてアッセイするために吸光度=288nmでのUV分光測光法を用いた。噴霧および非噴霧リポソーム間の封入割合の比較を行った。結果を図4A〜4Bに示す。
【実施例5】
【0055】
モデル肺表面活性剤におけるシプロフロキサシンのインビトロ放出
実施例1に従って製造したリポソーム製剤。各製剤を改変された天然のウシ肺抽出物、SurvantaR(Ross Products Division,Abbott Laboratories,Inc.,Columbus Ohio)と1:5の比率であわせ、そして透析チューブに入れた。各製剤およびSurvantaRをリン酸バッファー(pH=3.5)に対して48時間にわたって透析した。2mLのアリコートを外相から2〜3時間間隔で取り除いた。結果を図4に示す。
【実施例6】
【0056】
リポソームおよびラット肺胞マクロファージのインビトロインキュベーション
マクロファージ関連活性を研究するための応答性肺胞マクロファージの均質で且つ連続的な供給源を提供するためにNR8383細胞系(ATCC)を樹立した。NR8383は、ラット肺胞マクロファージの連続培養物としてATCCから入手した。最初の培養物は、メスのスプラーグ−ドーリーラットからの気管支肺胞洗浄より得られた。NR8383細胞は、マクロファージ活性化と関連する以下の活性を示した:ザイモサンの食作用、非特異的エステラーゼ活性、酸化的破壊、Fc受容体、ならびにIL−1、TNFβおよびIL−6の分泌。連続細胞系を15%のFBS(Gibco)、2mMのL−グルタミン(Gibco)および100U/100μgのペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma)を含有するハムF12倍地において継代培養した。
【0057】
対数期で増殖するNR8383細胞を1x106細胞/mLの濃度で血清を欠くハムF12培地において調製した。細胞を12x75mmのポリプロピレン試験管に0.5mg/mLの薬剤(シプロフロキサシン、Uquifa)濃度でリポソームシプロフロキサシ
ン製剤(実施例1、表1を参照)もしくは遊離シプロフロキサシンと一緒に入れた。脂質濃度は、0.15〜0.25mg/mL総脂質の間で変動した。表面積を最大にするために各チューブは横に寝かせて(lying on the side)細胞を37℃および5%のCO2で4時間インキュベーションした。細胞のアリコート(200μL)をリポソーム薬剤の添加後30分、70分、120分、240分の時点で取り除いた。取り除いたアリコートを200gで2分間遠心分離し、そして上清を除いた。ペレットを30mMの酢酸ナトリウム/150mMの塩化ナトリウム、pH4.5を用いて2回洗浄した。2回目の洗浄後に回収されるペレットを−70℃で一晩凍結させた。
【0058】
凍結したペレットを室温に温め、そしてCyQuant−GRプローブ(Molecular Probes,Eugene,OR)により細胞数そして蛍光測定法によりシプロフロキサシンについてアッセイした。溶解バッファーを含有する溶液にペレットを再懸濁して細胞膜およびCyQuant Green色素を破壊した。DNA結合の際に、CyQuantGR色素は、励起λ=480nmでλ=520nmで発光する。シプロフロキサシンは、励起λ=350nmでλ=450nmで発光する。細胞数およびシプロフロキサシン濃度は、細胞数およびCyQuant GR色素もしくはシプロフロキサシンを含有する標準曲線から補間した。結果を図5に示す。
【実施例7】
【0059】
気管注入によるリポソームシプロフロキサシンのインビボ送達
麻酔したラットの気管にカテーテルを入れ、そして次にリポソームシプロフロキサシンの様々な製剤(実施例1、表1に記述するように製造する)および遊離シプロフロキサシンをカテーテルによって投与した。投与後に、血液を採取し、そしてシプロフロキサシン濃度をHPLCを用いて血漿において決定した。48時間後に肺を取り除き、そして肺からシプロフロキサシンを抽出し、そしてHPLC−MSを用いて濃度についてアッセイした。製剤番号1〜6のそして遊離シプロフロキサシンのシプロフロキサシン放出速度を図6A〜6Bに示す。除去後の肺におけるシプロフロキサシン濃度を図7A〜7Dに示す。
【実施例8】
【0060】
マウスへのリポソームの鼻腔内投与
PEGのコーティングを有するリポソームは、HSPC:chol:mPEG−DSPE:FITC−DHPE(55:40:5:0.1)(FITC=フルオレセインイソチオシアネート;DHPE=ジヘキサデカノイル−sn−グリセロール−3−ホスホエタノールアミン)から製造した。PEGコーティングのない通常のリポソームは、卵PC:DPPG:chol:FITC−DHPE(40:20:40;0.1)から製造した。
【0061】
リポソーム、陽性ザイモサンコントロール(FITC標識した)もしくはリン酸緩衝食塩水(PBS)コントロールをナイーブBalb/cマウスに鼻腔内投与によって投与した。1mLのPBSを用いる気管支肺胞洗浄を投与後6時間で行った。各洗浄の回収容量は、約0.8mLであった。気管支肺胞洗浄を1200rpmで10分間遠心分離し、そして上清を除いた。細胞ペレットを0.1%のBSAを有するPBSに再懸濁しそしてもう一度洗浄した。サイトスピンを調製し、そして血球計算板を用いて計数することにより総細胞数を決定するか、もしくは蛍光顕微鏡検査により蛍光を決定した。結果を表6にそして図8A〜8Hに示す。
【0062】
本発明は特定の態様に関して記述されているが、本発明からそれることなしに様々な変更および改変を行えることが当業者に明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1A−1B】リポポリマー、mPEG−ジステアロイル(図1A)およびmPEG−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(図1B)の化学構造を示す。
【図2】Baxter Healthcare Corp.(Baxter 2083)、Invacare Corporation(SidestreamR)、Pari GmBH(Pari LC PlusR)およびAerogen,Inc.(AeroNebR)からの4種の市販のネブライザーから生成される、マイクロメーター単位のリポソーム粒子のスプレー粒子サイズ分布を示すグラフである。
【図3】リポソーム製剤番号1(ひし形)、2(×表示)、3(三角形)および4(四角形)についてPari LC PlusRネブライザーを用いてエアロゾル化したリポソーム製剤のμm単位のサイズの関数としてリポソーム製剤の質量分率を示す。
【図4】リポソーム製剤番号1(ひし形)、2(×表示)、3(三角形)および4(四角形)について時間単位の時間の関数としてモデル肺表面活性剤(SurvantaR)中に放出されるシプロフロキサシンのパーセンテージを示すグラフである。
【図5】遊離シプロフロキサシン(逆三角形)、リポソーム製剤番号1(ひし形)、2(×表示)、3(三角形)および4(四角形)について分単位の時間の関数としてマクロファージ中へのpg/細胞単位のシプロフロキサシン取り込みを示すグラフである。
【図6A】遊離シプロフロキサシン(逆三角形)のそしてリポソーム製剤番号1(ひし形)、2(×表示)、3(三角形)および4(四角形)のラットへの気管内投与後の分単位の時間の関数としてng/mL単位のシプロフロキサシンの血漿濃度を示すグラフである。
【図6B】遊離シプロフロキサシン(逆三角形)、リポソーム製剤番号1(ひし形)、5(閉じた丸)および6(開いた丸)のラットへの気管内投与後の分単位の時間の関数としてng/mL単位のシプロフロキサシンの血漿濃度を示すグラフである。
【図7A−7B】シプロフロキサシンリポソーム製剤番号1〜4のそして遊離シプロフロキサシンの気管内注入後48時間のラットの肺におけるシプロフロキサシンの濃度を示す棒グラフである、図7Aおよび7Bは、y軸においてのみ異なる。
【図7C−7D】シプロフロキサシンリポソーム製剤番号1、6および7のそして遊離シプロフロキサシンの気管内注入後48時間のラットの肺におけるシプロフロキサシンの濃度を示す棒グラフである、図7Cおよび7Dは、y軸においてのみ異なる。
【図8A−8H】蛍光顕微鏡検査下で見られる気管支肺胞洗浄から回収された細胞の顕微鏡写真であり、洗浄はリン酸緩衝食塩水(図8A〜8B);陽性コントロール、ザイモサン(図8C〜8D);PEGの表面コーティングを欠く通常のリポソーム(図8E〜8F);およびPEGでコーティングされたリポソーム(図8G〜8H)の鼻腔内投与後にマウスから採取された。
【図1A】
【図1B】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の気道に治療薬もしくは診断薬を送達するための方法に関する。さらに特に、本発明は、免疫応答の誘発なしにリポソーム粒子と連合している(associated)そのような薬剤の送達方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸入による薬剤の送達は、指向性送達および多数の治療薬の毒性を最小限に抑えることの利点を有する都合のよいそして実行可能な投与経路である。この投与方法は、炎症性および線維性肺疾患、気道感染症、肺癌および嚢胞性線維症を包含する多数の適応症に適用することができる。さらに、肺はまた、全身用途のための小分子および巨大分子の投与の都合のよい入り口として用いることもできる。
【0003】
吸入は、送達と関連する多数の利点を有するように思われる。しかしながら、投与への入り口である肺は、刺激物に感受性である。治療薬、小分子および巨大分子の両方、ならびに診断薬は、肺組織に投与した場合に著しい刺激および/もしくは毒性を引き起こすことができる。肺組織への外来物質の投与の際に開始される免疫反応は、即座に肺機能に影響を与え、そして慢性事象を開始することができる。粘膜繊毛エスカレーター、細胞性免疫応答および補体活性化のような、免疫原性を誘導する分子を取り除くために用いられる肺における多数のメカニズムがあるが、これらのメカニズムはまた免疫刺激とも関連する。マクロファージおよびサイトカインの活性化により媒介される肺炎症の長期的影響は不明であるが、肺機能障害および持続性気管支収縮につながる肺線維症および粘液過分泌を包含することができる(非特許文献1)。
【0004】
肺胞マクロファージの活性化およびそれらによる食作用は、肺に直接刺激物を投与した際の炎症過程における第一段階である。これは、先天性および後天性免疫の両方につながる一連の免疫事象を引き起こすことができる。マクロファージ活性化の第一の結果の一つは、とりわけ、TNFα、IL−1β、IL−6、MCP−1のような、サイトカインおよびケモカインの生産、接着分子の刺激ならびにNOおよび反応性酸素種の分泌である(非特許文献2;非特許文献3)。これらのエフェクター分子は、肺に他の免疫細胞、主に好中球を召集し、そして刺激する。マクロファージおよび好中球の召集および活性化は、細胞副産物放出および血管拡張の結果として組織損傷を引き起こすことができる(非特許文献4)。
【0005】
吸入の際に炎症効果もしくは免疫効果を誘導しない送達系は、依然として同定されていない。理想的には、そのような送達系は、さらに、治療薬の生来の毒性を減少するかもしくはなくす。
【0006】
肺送達の一つのアプローチは、リポソームに治療薬を取込ませる(entrap)ことであった(例えば、特許文献1;特許文献2;特許文献3;特許文献4;特許文献5;特許文献6を参照)。リポソームは、肺への送達のためにエアロゾル化される。しかしながら、肺に送達されることができ、そして免疫応答を引き起こさず、それにもかかわらず持続放出のための薬剤の貯蔵体リザーバー(depot reservoir)を提供するリポソーム製剤の当該技術分野における必要性が依然としてある。
【特許文献1】米国特許第5,043,165号明細書
【特許文献2】米国特許第5,958,378号明細書
【特許文献3】米国特許第6,090,407号明細書
【特許文献4】米国特許第6,103,746号明細書
【特許文献5】米国特許第6,346,223号明細書
【特許文献6】国際公開第86/06959号パンフレット
【非特許文献1】Zhang,−H.J.et al.,Immunology 101(4):501,(2000)
【非特許文献2】de Haan,A.et al.,Immunology,89(4):488(1996)
【非特許文献3】Lentsch,A.B.,et al.,Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.,20(4):692(1999)
【非特許文献4】Phan,S.H.et al.,Exp.Lung Res.,18(1):29(1992)
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
従って、本発明の目的は、エアロゾル化されたリポソーム担体の形態の薬剤の吸入によって患者に治療薬もしくは診断薬を投与する方法を提供することである。
【0008】
一つの局面において、本発明は、(i)親水性ポリマーで誘導体化された小胞形成性脂質および(ii)中性リポポリマーから選択される1種もしくはそれ以上の小胞形成性脂質を含んでなるリポソームの懸濁液を準備し、その際該リポソームは該治療薬もしくは診断薬と連合しており;該リポソーム懸濁液のエアロゾルを形成せしめ;そして吸入により患者に該エアロゾルを投与し、かくして該投与により、損なわれていないリポソーム粒子が該患者の気道に送達され、そこで該投与後に肺における好中球もしくはマクロファージ細胞計数によって測定される免疫応答の観察可能な誘発なしに治療薬の貯蔵体(depot)を形成することを含んでなる、患者に治療薬もしくは診断薬を投与するための方法が包含する。
【0009】
一つの態様において、ポリエチレングリコールで誘導体化された小胞形成性脂質を含んでなるリポソームが提供される。誘導体化脂質の例は、ジステアロイル−ポリエチレングリコールである。
【0010】
別の態様において、リポソーム内に取込まれた(entrapped)治療薬を有するリポソームが提供される。別の態様において、治療薬は外部リポソーム表面と連合している。治療薬は、別の態様において、抗ウイルス薬、抗炎症薬、抗菌剤、抗真菌剤、遺伝子治療薬および化学療法薬よりなる群から選択することができる。
【0011】
本発明のこれらおよび他の目的および特徴は、以下の本発明の詳細な記述を添付の図面と併せて読む場合にさらに十分に理解される。
発明の詳細な記述
I.定義
本明細書において用いる場合、「エアロゾル」という用語は、相対的空中浮遊安定性(relative airborne stability)を有するように十分に細かい粒子サイズおよび結果として低い沈降速度の、固体もしくは液体粒子の空気中の分散物をさす。
【0012】
「リポソームエアロゾル」は、リポソームまたはヒトもしくは動物の気道への送達を目的とする1種もしくはそれ以上の薬剤もしくは診断薬を含有するリポソームの1つもしくはそれ以上の粒子がその中に分散している水性の液滴からなる。エアロゾル液滴のサイズは、約1.5〜2.5μmの幾何標準偏差で1〜5μmの空気動力学的質量中央径(mass median aerodynamic diameter)(MMAD)である。
【0013】
以下の略語を本明細書において使用する:PEG、ポリ(エチレングリコール);mPEG、メトキシ−PEG;DSPE、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン;mPEG−DSPE、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンに共有結合しているmPEG;HSPC、水素化ダイズホスファチジルコリン;mPEG−DS、ジステアロイルにカルバメート結合によって共有結合しているmPEG;chol、コレステロール。
リポソーム組成物および製造
リポソームは、様々な治療目的のために、そして特にリポソームのインビボ(in vivo)投与により標的領域もしくは細胞に治療薬を運ぶために用いられる閉じた脂質小胞である。リポソームは、典型的に、小胞形成性脂質、すなわち、水において二重層小胞を自然に形成する脂質でできている。小胞形成性脂質は、好ましくは、2本の炭化水素鎖および極性頭部基を有する。2本の炭化水素鎖が典型的に約12〜約24個の炭素原子の長さであり、そして様々な程度の不飽和度を有する当該技術分野において既知である様々
な合成小胞形成性脂質および天然に存在する小胞形成性脂質がある。例には、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)およびスフィンゴミエリン(SM)のようなリン脂質が包含される。本発明における使用に好ましい脂質は、水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)である。脂質の別の好ましい群は、ジアシルグリセロールである。これらの脂質は商業的に入手するかもしくは公開された方法に従って製造することができる。
【0014】
小胞形成性脂質は、一定の流動性もしくは剛性を達成するために、血清におけるリポソームの安定性を制御するために、そしてリポソームにおける封入薬剤の放出の速度を制御するために選択することができる。より硬い(rigid)脂質二重層もしくは液晶二重層を有するリポソームは、比較的硬い脂質、例えば、比較的高い相転移温度、例えば約80℃までの相転移温度を有する脂質の導入により製造することができる。硬い脂質、すなわち、飽和した脂質は、脂質二重層におけるより大きい膜剛性に寄与する。コレステロールのような他の脂質成分もまた、脂質二重層構造における膜剛性に寄与することが既知である。
【0015】
脂質二重層流動性は、比較的低い液体ないしは液晶相転移温度(例えば、室温(約20〜25℃)以下)を有する脂質の導入により得られる。
【0016】
リポソームは、また、ステロールのような、脂質二重層に導入することができる他の成分を含むこともできる。これらの他の成分は、典型的に、二重層膜の内側の疎水性領域と接触する疎水性部分、および膜の外側の極性表面に配向する極性頭部基部分を有する。
【0017】
本発明のリポソームにおける別の脂質成分は、親水性ポリマーで誘導体化された小胞形成性脂質である。このリポポリマー成分は、内側および外側脂質二重層表面の両方の上に親水性ポリマー鎖でのリポソーム表面コーティングの形成をもたらす。典型的に、約1〜20モルパーセントの間のリポポリマーが脂質組成物に含まれる。ポリエチレングリコール(PEG)のような、親水性ポリマー鎖の表面コーティングを有するリポソームは、ポリマーコーティングを欠くリポソームに対して延長された血液循環寿命を与えるので、これらのリポソームは薬剤担体として望ましい。ポリマーは血液タンパク質の障壁として働き、それによりタンパク質の結合ならびにマクロファージおよび細網内皮系の他の細胞による取り込みおよび除去のためのリポソームの認識を防ぐ。
【0018】
小胞形成性脂質との誘導体化に適当な親水性ポリマーには、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコールおよびポリアスパルトアミドが包含される。これらのポリマーは、ホモポリマーとしてまたはブロックもしくはランダムコポリマーとして用いることができる。
【0019】
好ましい親水性ポリマー鎖は、好ましくはPEG鎖として約500〜約10,000ダルトンの間、好ましくは約1,000〜約5,000ダルトンの間の分子量を有する、ポリ(エチレングリコール)(PEG)である。PEGのメトキシもしくはエトキシでキャップされたアナログもまた、好ましい親水性ポリマーである。これらのポリマーは、様々なポリマーサイズ(例えば、約12〜約220,000ダルトン)で市販されている。好ましいリポポリマーは、mPEG−DPSEである。
【0020】
リポソームにおける使用が考えられる別のリポポリマーは、米国特許第6,586,001号に記述されておりそしてmPEG−DSと呼ばれる中性リポポリマーである。このリポポリマーの製造および特性化に関する開示は、本明細書に引用することにより組み込まれる。図1Aは、mPEG−DSの構造を示す。親水性ポリマーは、カルバメート結合によって、疎水性部分、ジステアロイルに結合している。疎水性部分は多種多様な疎水性種から選択できることおよびC18ジアシル鎖は単に例となるにすぎないことが理解される。代わりの疎水性種は、米国特許第6,586,001号に記述されている。カルバメ
ート結合は単に例となるにすぎず、そして他の結合は熟練した化学者に明らかであることもまた理解される。比較のために、mPEG−DSPEの構造を図1Bに示し、ここで、ポリマーはホスファチジル頭部基で疎水性種に結合している。
【0021】
リポソームは、当該技術分野において周知であるように、場合によりターゲッティングリガンドを含有することができる。
【0022】
リポソームは治療薬もしくは診断薬を含み、そして該薬剤はリポソームに取込まれるかまたは薬剤を脂質にもしくは親水性ポリマーにつなぐことによるように、外部リポソーム表面と連合していることができると理解される。任意の治療薬もしくは診断薬が適当であり、そして当業者はある種の疾患もしくは症状の処置のための薬剤を容易に選択することができる。
【0023】
本明細書に記述するリポソーム組成物は、吸入による投与を目的とする。吸入治療のために、送達は、(a)空気ネブライザーを用いる希薄水性懸濁液のエアロゾル化、(b)粉末の懸濁した乾燥リポソームを噴射剤溶媒を用いて内臓型アトマイザーから噴霧すること、(c)噴射剤で肺に乾燥粒子を噴霧することもしくは(d)適当な装置を用いて粉末エアロゾルとして乾燥リポソームを送達することにより達成される。
肺送達
本発明のサポートとして行う研究において、6種のリポソーム製剤を分析のために製造した。これらの製剤の製造を実施例1に記載し、そして成分および薬剤装填(drug loading)の方法を表1に要約する。
【0024】
【表1】
【0025】
製剤番号1をBaxter Healthcare Corp.(Baxter 2083)、Invacare Corporation(SidestreamR)、Pari GmBH(Pari LC PlusR)およびAerogen,Inc.(AeroNebR)からの4種の市販されているネブライザーにおいて噴霧した。実施例2に記述するように、リポソーム−シプロフロキサシン製剤番号1の特定容量を各ネブライザ
ーに入れ、そして製造業者の使用説明書に従ってエアロゾル化した。粒子サイズおよび分布は、フラウンホーファー回折パターン解析(Frauenhofer Diffraction Pattern Analysis)に基づいてマルバーンマスターサイザー(Malvern Mastersizer)を用いて評価した。4種のネブライザーにより生成されるリポソームのエアロゾル粒子分布を図2に示す。
【0026】
粒子サイズの独特な分布パターンが、各ネブライザーにより生成された。幾何平均直径の分布プロファイルは、溶液中にリポソームもしくは任意の他の塩がない場合の、水における薬剤と同様であった。Pari、BoxterおよびAeroNebネブライザーは、非常に異なるメカニズムを有することにもかかわらず、幾何平均直径の同様の二峰性分布を示した。興味深いことに、SideStreamは、粒子の大部分が幾何平均直径<5μmを有して、一峰性分布(unimodal distribution)を示した。
【0027】
各ネブライザーから製剤に生成される粒子の平均質量直径(D50μm)を表2に要約する。
【0028】
【表2】
【0029】
表2は、評価した4種の通常のネブライザーの各々についてリポソーム薬剤の全ての製剤に対して平均直径が同等であったことを示す。ネブライザーからの放出エアロゾルサイズは、リポソーム製剤よりむしろネブライザーメカニズムに依存した。SideStreamRネブライザーから放出される粒子の平均空気動力学的サイズにおいて有意な差があり、一方、空気動力学的直径は、Baxter 2083、Pari LC PlusRおよびAeroNebRを包含する、評価した他のネブライザーでは同様であった。これは、AeroNebRの非常に異なるネブライザーメカニズムにもかかわらずである。AeroNebRは、メッシュを通して液体をくみ上げるために圧電振動プレートを使用する。質量中央径は、深部肺へのエアロゾル粒子の沈着のための呼吸に適する範囲の十分に範囲内である。従って、通常の噴霧により生成されるリポソーム薬剤のエアロゾル化は、肺への沈着のための適切な大きさのエアロゾル粒子を生成することができた。呼吸に適した画分(1〜5μm)粒子はリポソームシプロフロキサシン製剤から使用しそして使用に適当な空気動力学的直径で生成され得る。
【0030】
実施例3に記述する別の研究において、ネブライゼート(nebulisate)生産への製剤組成の影響を調べた。製剤番号1〜4(上記の表1)をPari LC PlusRネブライザーに入れ、そしてスプレーをインパクタープレート上に集めながら、乾固するまでエアロゾル化した。洗浄することによりエアロゾル粒子を回収し、そして分布を解析した。結果をリポソーム製剤番号1(ひし形)、2(×表示)、3(三角形)および4(四角形)について図3に示す。プレート上へのエアロゾル粒子の分布は各ネブライザ
ーで同様であり、より小さい空気動力学的粒子サイズでより多数の粒子およびより大きい全質量を有するエアロゾル粒子の二峰性分布が各製剤に認められた。
【0031】
リポソーム担体の形態で肺に薬剤を投与することにおいて、リポソーム粒子はエアロゾル化後に損なわれないままであることが望ましい。これは、長期間にわたる放出のための薬剤の貯蔵体リザーバーを実現するために特に望ましい。実施例4は、噴霧後のリポソーム完全度および薬剤漏出の程度を決定するための研究を記述する。製剤番号1〜4(表1を参照)をPari LC PlusRネブライザーを用いてエアロゾル化し、そしてネブライゼートをフラスコ中に集めた。透析によるリポソーム内に封入されていないあらゆるシプロフロキサシンの除去の後に、ネブライゼートのアリコートを溶解し、そしてシプロフロキサシン濃度について分析した。コントロールとして、噴霧を受けていないリポソームにおけるシプロフロキサシン濃度を決定した。結果を、同じ製剤の非噴霧サンプルに対する、噴霧後の各製剤のリポソームに封入されているシプロフロキサシンパーセントとして表4Aに要約する。
【0032】
【表3】
【0033】
Pari LC PlusR、Baxter 2083およびAeroNebRユニットにより噴霧する、単一のリポソーム製剤、製剤番号1を用いて同様の研究を行った。噴霧後のリポソーム完全度を実施例4に記述するように評価し、そして結果を表4Bに要約する。
【0034】
【表4】
【0035】
リポソーム内に取込まれたままであるシプロフロキサシンの量は、Pari LC PlusRネブライザーで最も高く、96%の開始封入パーセントから、78%のシプロフロキサシンが噴霧後に取込まれたままであった。Baxter 2083ネブライザーか
らのネブライゼートは、68%の取込まれているシプロフロキサシンをもたらし、一方、AeroNebRネブライザーは、噴霧による取込み薬剤の54%の損失により明らかなようにリポソームを不安定化した。最も少ない分解をもたらしたネブライザーメカニズムは、圧縮空気の流れが液体を空気中に引き出しそして空気と水との間の表面張力の結果としてエアロゾル粒子の自然形成をもたらす通常のジェットネブライザーメカニズムであった。エアロゾル粒子を生成するために超音波振動メカニズムを有するネブライザーは、リポソームを不安定化することが最も起こりにくいようである。
【0036】
別の研究において、モデル肺表面活性剤(SurvantaR)中へのリポソーム製剤からのシプロフロキサシンの放出を48時間の試験期間にわたって時間の関数として決定した。実施例5に記述するように、各製剤(製剤番号1〜4、表1)をSurvantaRと合わせ、そしてリン酸バッファーに対して透析した。サンプルをシプロフロキサシン濃度の分析のために定期的に取り出し、そして結果を図4に示す。シプロフロキサシンが受動的に取込まれた製剤番号3(三角形)は最も高い放出速度を与え、約60%の薬剤が24時間の時点で放出された。シプロフロキサシンが硫酸アンモニウム勾配に対してリポソームに遠隔的に装填された2種の製剤、製剤番号1(ひし形)および製剤番号4(四角形)は、最も遅い放出速度を有し、10%未満の封入薬剤が24時間の時点で媒質中に放出された。製剤番号2(×表示)は、他の製剤に対してその放出速度が中間であった。
【0037】
このデータは、硫酸アンモニウム勾配の使用により、リポソーム内部からの薬剤の即時放出を防ぐことができたことを例証する。硫酸アンモニウム勾配を用いて作製された製剤は、受動的に取込まれた製剤(製剤番号3)と比較した場合にリポソーム内部の内側に取込まれたままであるシプロフロキサシンの量の少なくとも50〜800%の増加を示した。肺液のpHの変化は、通常のリポソーム製剤からのシプロフロキサシンの放出速度のごくわずかな違いをもたらした(データは示さない)。デキストラン硫酸アンモニウムでの製剤番号2は、硫酸アンモニウムのみのものを越える改善された安定性を与えず、そして安定性の減少を引き起こしている可能性がある。製剤番号2でのより高い放出速度はまた、リポソーム製造過程中に除去されなかったリポソームの外側上のデキストラン−硫酸アンモニウム−シプロフロキサシン複合体の存在にも起因し得る。薬剤が通常の(非PEG、製剤番号4)もしくはPEG化された(製剤番号1)リポソーム内に取込まれるかどうかは、異なる安定性もしくは媒質へのシプロフロキサシンの放出を与えなかった。
【0038】
肺における炎症反応の重要な成分の一つはマクロファージの活性化であり、ここで、在住マクロファージは細胞防御の第一線である。リポソーム製剤番号1〜4のそして遊離シプロフロキサシンのマクロファージ取り込みの程度を評価するためにインビトロ研究を行った。実施例6に記述するように、ラット肺胞マクロファージを培養において増やした。細胞を0.5mg/mLの薬剤濃度でリポソーム製剤番号1、2、3もしくは4と、または遊離シプロフロキサシンと一緒に試験管に入れた。細胞を製剤の存在下で37℃で4時間インキュベーションし、そして細胞のアリコートをシプロフロキサシン取り込みの決定のために取り除いた。結果を図5に示し、ここで、遊離シプロフロキサシン(逆三角形)、リポソーム製剤番号1(ひし形)、2(×表示)、3(三角形)および4(四角形)の分単位の時間の関数としてのマクロファージ細胞へのpg/細胞単位のシプロフロキサシン取り込みをグラフにする。
【0039】
データは、リポソーム担体の形態で細胞に投与したシプロフロキサシンが、マクロファージによる薬剤の取り込みを減少することを示す。遊離シプロフロキサシンの取り込み(逆三角形)は、リポソーム製剤のいずれについてよりも高かった。ポリエチレングリコール(PEG)のコーティングを有するリポソーム製剤(製剤番号1(ひし形)、2(×表示)、3(三角形))は、通常の、PEGでコーティングされていないリポソーム(製剤番号4、四角形)と比較した場合に減少した肺胞マクロファージ取り込みを有した。硫酸アンモニウム勾配とPEGコーティングにより与えられる立体障壁との組み合わせは、肺胞腔への薬剤の最小漏出の利点と一緒に、肺胞マクロファージ取り込みを減少した。従って、硫酸アンモニウム勾配およびPEGのコーティングにより例示されるような、イオン勾配および親水性ポリマー鎖の表面コーティングを有するリポソーム製剤は、肺の持続放
出送達系を提供する。
【0040】
リポソーム製剤番号1〜6をカテーテルを用いて気管注入によってラットの肺に投与するインビボ研究を行った。実施例7に記述するように、製剤の注入後に、血液サンプルを採取し、そしてシプロフロキサシン濃度について分析した。投与後48時間で、肺を取り除き、そして肺組織におけるシプロフロキサシン濃度を定量した。結果を図6A〜6Bおよび7A〜7Dに示す。
【0041】
図6Aは、分単位の時間の関数としてリポソーム製剤から放出されるng/mL単位のシプロフロキサシンの血液濃度を示すグラフである。比較のコントロールとして、遊離シプロフロキサシン(逆三角形)を気管内に投与し、そして血漿におけるその濃度を分析した。遊離シプロフロキサシン(逆三角形)は、肺に投与した場合に、投与の直後に血液における薬剤の有意なそして検出可能な量をもたらす。リポソーム製剤番号1(ひし形)、2(×表示)、3(三角形)および4(四角形)に取込まれたシプロフロキサシンは、気管注入後に血液区画に、仮にあったとしても、ゆっくりと放出される。
【0042】
図6Bは、比較のためのリポソーム製剤番号1(ひし形)および遊離シプロフロキサシン(逆三角形)と一緒にリポソーム製剤番号5(閉じた丸)および6(開いた丸)(上記の表1を参照)の結果を示す。3種のリポソーム製剤、番号1、5および6は、インビボ気管投与後に血液中への薬剤の遅い最小の放出を与え、薬剤リザーバー貯蔵体としてリポソーム担体が適していることを示す。
【0043】
リポソーム製剤の気管注入後48時間で採取した、試験動物の肺におけるシプロフロキサシン濃度を図7A〜7Dに示す。図7A〜7Bは、シプロフロキサシンリポソーム製剤番号1〜4のそして遊離シプロフロキサシンの気管内注入後48時間のラットの肺におけるシプロフロキサシンの濃度を示す棒グラフである。図7Aおよび7Bはy軸目盛りにおいてのみ異なり、図7Bは、製剤番号3からのそして遊離シプロフロキサシンからの肺における濃度を見るために0〜600ng/g組織のより小さい目盛りを有する。図7C〜7Dは、シプロフロキサシンリポソーム製剤番号5〜6のそして遊離シプロフロキサシンの気管内注入後48時間のラットの肺におけるシプロフロキサシンの濃度を示す棒グラフであり、図7Dは、0〜600ng/g組織のy軸目盛り上で提示されるデータを示す。図7A〜7Dにおけるデータは、薬剤を遊離形態においてか、薬剤が受動的に取込まれたリポソーム(製剤番号3)から投与する場合に、もしくは製剤番号5および6におけるように、リポソームが37℃で流体相中の脂質を主に含んでなる場合に、少量のシプロフロキサシンが肺組織において回収されたことを示す。対照的に、比較的硬い脂質でできているリポソームからのシプロフロキサシンの送達および薬剤がイオン勾配に対してリポソームに装填される場合に、薬剤の持続放出のために、肺における薬剤の貯蔵体が提供される。
【0044】
実施例8に記述する別のインビボ研究において、PEGの表面コーティングを有するリポソームおよびPEGの表面コーティングのない通常のリポソームを鼻腔内にマウスに投与した。陽性コントロールとして、トール様受容体2を介してマクロファージを活性化することが既知である酵母細胞の不溶性製剤、ザイモサンを鼻腔内に投与した。コントロールマウスの別の群は、鼻腔内にリン酸緩衝食塩水で処理した。投与後6時間で、気管支肺胞洗浄を採取し、そして好中球およびマクロファージの炎症性細胞浸潤について定量した。鼻腔内投与の際の細胞活性化を好中球およびマクロファージの細胞計数を用いて定量し、そして計数を表5に示す。
【0045】
【表5】
【0046】
表5におけるデータは、食塩水で処理したコントロール動物およびPEGでコーティングされたリポソームで処理した動物から気管支肺胞洗浄に回収される細胞数およびタイプにおいて識別可能な差がないことにより明らかなように、PEGでコーティングされたリポソームが炎症反応を誘導しなかったことを示す。ザイモサンの鼻腔内投与は、予想されるように、気道への細胞の有意な流入を引き起こした。PEGのコーティングを欠きそして20モル%の負電荷を含有する通常のリポソームの投与は、食塩水で処理した動物に対して上昇した好中球およびマクロファージ細胞計数により明らかなように、炎症応答を誘導した。要約すると、該データは、気道におけるPEGでコーティングされたリポソームの存在によって炎症反応が認められなかったことを明らかに立証する。
【0047】
蛍光顕微鏡検査下で見られる気管支肺胞洗浄の顕微鏡写真を図8A〜8Hに示す。図8A〜8Bは、リン酸緩衝食塩水で処理したマウスの気管支肺胞洗浄に対応し;図8C〜8Dは、陽性コントロールザイモサンで処理したマウスの気管支肺胞洗浄に対応し;図8E〜8Fは、PEGの表面コーティングを欠く通常のリポソームで処理したマウスの気管支肺胞洗浄に対応し;そして図8G〜8Hは、PEGでコーティングされたリポソームで処理したマウスの気管支肺胞洗浄に対応する。全ての顕微鏡写真について、蛍光条件下で見る際にマクロファージのいくらかの自己蛍光がある。図8C〜8Dにおいて見られるように、ザイモサンの鼻腔内投与は、細胞内エンドサイトーシス体の存在を示す分断(punctuated)構造により明らかな、細胞によるザイモサンの取り込みをもたらした。PEGでコーティングされたおよび通常の、PEGでコーティングされていない、両方のタイプのリポソームは、マクロファージにより結合もしくは内在化されているようであった。通常のリポソームの蛍光(図8E〜8F)は、PEGでコーティングされたリポソームのもの(図8G〜8H)と比較してより粒状の性質であり、PEGでコーティングされたリポソームによる細胞表面結合と比較して通常のリポソームによる細胞取り込みを示唆する。
【0048】
前述の事項から、本発明の様々な態様および特徴を理解することができる。電荷を保有する送達系もしくは薬剤は、マクロファージ取り込みおよびその後の肺領域への好中球浸潤を誘導することにより炎症反応を引き起こすことができる。非常に荷電した薬剤送達系は、肺機能障害を引き起こすことができる肺における炎症効果もしくは免疫効果を誘導することにおいて特に効率がよい。例えば、陽イオン性脂質は、サイトカイン生産および反応性酸素中間体を誘導することにより炎症効果をもたらす(Dokka,S.,et al.,Pharm.Res.,18(5):521(2000))。送達系における負電荷はまた、補体活性化を引き起こすことも示されている(Cunningham,C.M
.et al.,J.Immunol.,122(4):1238(1989))。あまり荷電していない薬剤および分子は、担体のない場合に炎症効果を誘導する傾向をなお有し得る。本明細書における研究は、免疫刺激分子を含有せずそして免疫応答に対する防御障壁を有するリポソーム内部の薬剤の封入が、免疫応答の誘導を減少できることを立証する。特に、(i)外側リポソーム表面上の親水性ポリマーコーティングが、タンパク質、細胞膜などとの結合からそして細胞表面上の受容体との相互作用からリポソームおよび封入薬剤を防御することにより荷電効果の可能性を減少する;(ii)硫酸アンモニウム勾配もしくはpH勾配のようなイオン勾配がリポソーム中に薬剤を保ち、持続的薬剤放出および減少した炎症反応を与えるという特徴を含むリポソーム。
V.実施例
以下の実施例は、本明細書に記述する本発明をさらに説明し、そして決して本発明の範囲を限定するものではない。
材料
全ての材料は、Aldrich Corporationのような、商業的に適当な製造供給業者から入手した。
【実施例1】
【0049】
シプロフロキサシンを含有するリポソームの製造
HSPC、コレステロールおよびいくつかの製剤ではmPEG−DSPEをエタノールにおいて可溶化した。脂質のエタノール溶液をpH5.5でそして65℃で硫酸アンモニウムにおいて水和させるエタノール注入技術を用いて多重層小胞を形成した。連続サイズ減少膜−0.4μm、0.2μmおよび0.1μmを用いて65℃で押し出し機を通した押し出しによりリポソームを〜150nmに小型化した。イオン勾配を生成するためにダイアフィルトレーションを用いて10%のショ糖、NaCl(pH=5.5)に対して交換することにより外側の硫酸アンモニウムを除いた。シプロフロキサシンを10%のショ糖に可溶化し、そしてリポソームと65℃で30〜60分間インキュベーションした。10%のショ糖、NaClに対してダイアフィルトレーションを用いて遊離シプロフロキサシンを除いた。典型的な装填は、リポソームに装填される40〜60%の初期薬剤濃度をもたらした。最終溶液は、10mMのヒスチジンおよび10%のショ糖バッファー中であった。典型的な脂質に対する薬剤比は、0.3〜0.5(w/w)であった。
【0050】
リポソームはまた、受動的封入方法を用いても製造した。脂質HSPC、コレステロールおよびmPEG−DSPEをエタノールにおいて可溶化した。可溶化した脂質を高濃度のシプロフロキサシン溶液(120mg/mL)に65℃で60分間加えた。次に、0.4μm、0.2μmおよび0.1μmサイズ膜を通した65℃での押し出しによりリポソームを〜150nmに小型化した。封入されていないシプロフロキサシンを10%のショ糖、NaCl(pH=5.5)および10%のショ糖、10mMのヒスチジン(pH=6.5)に対するダイアフィルトレーションを用いて除いた。典型的な装填は、少なくとも0.3(w/w)の脂質に対する薬剤比をもたらした。
【0051】
製造した製剤を表1に要約する。
【実施例2】
【0052】
リポソームのエアロゾル粒子形成
実施例1に従ってシプロフロキサシンを含有するリポソームを製造した。各リポソームシプロフロキサシン製剤の測定容量(2〜3mL)をネブライザーのリザーバーに入れた。4種の市販されているネブライザー(Baxter Healthcare Corp.(Baxter 2083)、Invacare Corporation(SidestreamR)、Pari GmBH(Pari LC PlusR)およびAerogen,Inc.(AeroNebR))を入手し、そしてリポソームシプロフロキサシン製剤をエアロゾル化するために用いた。エアロゾル化された粒子サイズおよび分布は、フラウンホーファー回折パターン解析に基づいてマルバーンマスターサイザーを用いて評価した。エアロゾル化過程中、装置の指定されたサンプル面で、スプレーがフラウンホーファー装置の解析ビームを通過するようにネブライザーを位置合わせし、このサンプル面
からの逸脱は、散乱パターンのビネッティング(vignetting)および誤ったサイズ分布結果をもたらすのでサンプル位置を維持するように気をつけた。開始効果がサイズ分布測定に影響を与えるのを避けるために解析ビーム中に置く前に約1分の噴霧を最初に行った。この初期期間の後に、30秒間集める散乱パターンでネブライゼートスプレーを解析した。スプレー粒子サイズ分布および質量に基づく関連する統計的尺度(D3,2,D50,D90,)を計算するためにマスターサイザーソフトウェアを用いた。結果を図2に示す。
【実施例3】
【0053】
リポソームのエアロゾル粒子形成
リポソームシプロフロキサシンの既知量をネブライザーのリザーバーに入れた。液体製剤の噴霧は、さらなるエアロゾル化が起こらなくなる;すなわち、乾燥に至る(run to dryness)までAndersenカスケードインパクターに進めた。沈着したサンプルを集めるためにプレートをバッファーで洗浄した。バッファーは、pH3.5で10mMのリン酸二水素ナトリウム二水和物、140mMの食塩水および10%のメタノールを含んでなった。カスケードインパクターの様々なプレート上に沈着するシプロフロキサシンの濃度は、UV分光測光解析を用いて決定した。結果を図3に示す。
【実施例4】
【0054】
エアロゾル化後のリポソーム安定性の解析
実施例1に記述するように製造したリポソームシプロフロキサシン製剤をPari LC PlusRネブライザーを用いてエアロゾル化し、そしてPBSバッファーを含有するアーレンマイヤーフラスコにネブライゼートを集めた。集めたネブライゼートを少なくとも50xのPBSバッファー(pH=3.8)に対して一晩透析して封入されていないシプロフロキサシンを除いた。コントロールには、10%メタノールの最終濃度になるようにメタノールをネブライゼートに加え、そして同様にPBSバッファーに対して一晩透析した。透析バッファーにおけるそして透析バッグ中のネブライゼートの溶解したアリコートにおけるシプロフロキサシンについてアッセイするために吸光度=288nmでのUV分光測光法を用いた。噴霧および非噴霧リポソーム間の封入割合の比較を行った。結果を図4A〜4Bに示す。
【実施例5】
【0055】
モデル肺表面活性剤におけるシプロフロキサシンのインビトロ放出
実施例1に従って製造したリポソーム製剤。各製剤を改変された天然のウシ肺抽出物、SurvantaR(Ross Products Division,Abbott Laboratories,Inc.,Columbus Ohio)と1:5の比率であわせ、そして透析チューブに入れた。各製剤およびSurvantaRをリン酸バッファー(pH=3.5)に対して48時間にわたって透析した。2mLのアリコートを外相から2〜3時間間隔で取り除いた。結果を図4に示す。
【実施例6】
【0056】
リポソームおよびラット肺胞マクロファージのインビトロインキュベーション
マクロファージ関連活性を研究するための応答性肺胞マクロファージの均質で且つ連続的な供給源を提供するためにNR8383細胞系(ATCC)を樹立した。NR8383は、ラット肺胞マクロファージの連続培養物としてATCCから入手した。最初の培養物は、メスのスプラーグ−ドーリーラットからの気管支肺胞洗浄より得られた。NR8383細胞は、マクロファージ活性化と関連する以下の活性を示した:ザイモサンの食作用、非特異的エステラーゼ活性、酸化的破壊、Fc受容体、ならびにIL−1、TNFβおよびIL−6の分泌。連続細胞系を15%のFBS(Gibco)、2mMのL−グルタミン(Gibco)および100U/100μgのペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma)を含有するハムF12倍地において継代培養した。
【0057】
対数期で増殖するNR8383細胞を1x106細胞/mLの濃度で血清を欠くハムF12培地において調製した。細胞を12x75mmのポリプロピレン試験管に0.5mg/mLの薬剤(シプロフロキサシン、Uquifa)濃度でリポソームシプロフロキサシ
ン製剤(実施例1、表1を参照)もしくは遊離シプロフロキサシンと一緒に入れた。脂質濃度は、0.15〜0.25mg/mL総脂質の間で変動した。表面積を最大にするために各チューブは横に寝かせて(lying on the side)細胞を37℃および5%のCO2で4時間インキュベーションした。細胞のアリコート(200μL)をリポソーム薬剤の添加後30分、70分、120分、240分の時点で取り除いた。取り除いたアリコートを200gで2分間遠心分離し、そして上清を除いた。ペレットを30mMの酢酸ナトリウム/150mMの塩化ナトリウム、pH4.5を用いて2回洗浄した。2回目の洗浄後に回収されるペレットを−70℃で一晩凍結させた。
【0058】
凍結したペレットを室温に温め、そしてCyQuant−GRプローブ(Molecular Probes,Eugene,OR)により細胞数そして蛍光測定法によりシプロフロキサシンについてアッセイした。溶解バッファーを含有する溶液にペレットを再懸濁して細胞膜およびCyQuant Green色素を破壊した。DNA結合の際に、CyQuantGR色素は、励起λ=480nmでλ=520nmで発光する。シプロフロキサシンは、励起λ=350nmでλ=450nmで発光する。細胞数およびシプロフロキサシン濃度は、細胞数およびCyQuant GR色素もしくはシプロフロキサシンを含有する標準曲線から補間した。結果を図5に示す。
【実施例7】
【0059】
気管注入によるリポソームシプロフロキサシンのインビボ送達
麻酔したラットの気管にカテーテルを入れ、そして次にリポソームシプロフロキサシンの様々な製剤(実施例1、表1に記述するように製造する)および遊離シプロフロキサシンをカテーテルによって投与した。投与後に、血液を採取し、そしてシプロフロキサシン濃度をHPLCを用いて血漿において決定した。48時間後に肺を取り除き、そして肺からシプロフロキサシンを抽出し、そしてHPLC−MSを用いて濃度についてアッセイした。製剤番号1〜6のそして遊離シプロフロキサシンのシプロフロキサシン放出速度を図6A〜6Bに示す。除去後の肺におけるシプロフロキサシン濃度を図7A〜7Dに示す。
【実施例8】
【0060】
マウスへのリポソームの鼻腔内投与
PEGのコーティングを有するリポソームは、HSPC:chol:mPEG−DSPE:FITC−DHPE(55:40:5:0.1)(FITC=フルオレセインイソチオシアネート;DHPE=ジヘキサデカノイル−sn−グリセロール−3−ホスホエタノールアミン)から製造した。PEGコーティングのない通常のリポソームは、卵PC:DPPG:chol:FITC−DHPE(40:20:40;0.1)から製造した。
【0061】
リポソーム、陽性ザイモサンコントロール(FITC標識した)もしくはリン酸緩衝食塩水(PBS)コントロールをナイーブBalb/cマウスに鼻腔内投与によって投与した。1mLのPBSを用いる気管支肺胞洗浄を投与後6時間で行った。各洗浄の回収容量は、約0.8mLであった。気管支肺胞洗浄を1200rpmで10分間遠心分離し、そして上清を除いた。細胞ペレットを0.1%のBSAを有するPBSに再懸濁しそしてもう一度洗浄した。サイトスピンを調製し、そして血球計算板を用いて計数することにより総細胞数を決定するか、もしくは蛍光顕微鏡検査により蛍光を決定した。結果を表6にそして図8A〜8Hに示す。
【0062】
本発明は特定の態様に関して記述されているが、本発明からそれることなしに様々な変更および改変を行えることが当業者に明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1A−1B】リポポリマー、mPEG−ジステアロイル(図1A)およびmPEG−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(図1B)の化学構造を示す。
【図2】Baxter Healthcare Corp.(Baxter 2083)、Invacare Corporation(SidestreamR)、Pari GmBH(Pari LC PlusR)およびAerogen,Inc.(AeroNebR)からの4種の市販のネブライザーから生成される、マイクロメーター単位のリポソーム粒子のスプレー粒子サイズ分布を示すグラフである。
【図3】リポソーム製剤番号1(ひし形)、2(×表示)、3(三角形)および4(四角形)についてPari LC PlusRネブライザーを用いてエアロゾル化したリポソーム製剤のμm単位のサイズの関数としてリポソーム製剤の質量分率を示す。
【図4】リポソーム製剤番号1(ひし形)、2(×表示)、3(三角形)および4(四角形)について時間単位の時間の関数としてモデル肺表面活性剤(SurvantaR)中に放出されるシプロフロキサシンのパーセンテージを示すグラフである。
【図5】遊離シプロフロキサシン(逆三角形)、リポソーム製剤番号1(ひし形)、2(×表示)、3(三角形)および4(四角形)について分単位の時間の関数としてマクロファージ中へのpg/細胞単位のシプロフロキサシン取り込みを示すグラフである。
【図6A】遊離シプロフロキサシン(逆三角形)のそしてリポソーム製剤番号1(ひし形)、2(×表示)、3(三角形)および4(四角形)のラットへの気管内投与後の分単位の時間の関数としてng/mL単位のシプロフロキサシンの血漿濃度を示すグラフである。
【図6B】遊離シプロフロキサシン(逆三角形)、リポソーム製剤番号1(ひし形)、5(閉じた丸)および6(開いた丸)のラットへの気管内投与後の分単位の時間の関数としてng/mL単位のシプロフロキサシンの血漿濃度を示すグラフである。
【図7A−7B】シプロフロキサシンリポソーム製剤番号1〜4のそして遊離シプロフロキサシンの気管内注入後48時間のラットの肺におけるシプロフロキサシンの濃度を示す棒グラフである、図7Aおよび7Bは、y軸においてのみ異なる。
【図7C−7D】シプロフロキサシンリポソーム製剤番号1、6および7のそして遊離シプロフロキサシンの気管内注入後48時間のラットの肺におけるシプロフロキサシンの濃度を示す棒グラフである、図7Cおよび7Dは、y軸においてのみ異なる。
【図8A−8H】蛍光顕微鏡検査下で見られる気管支肺胞洗浄から回収された細胞の顕微鏡写真であり、洗浄はリン酸緩衝食塩水(図8A〜8B);陽性コントロール、ザイモサン(図8C〜8D);PEGの表面コーティングを欠く通常のリポソーム(図8E〜8F);およびPEGでコーティングされたリポソーム(図8G〜8H)の鼻腔内投与後にマウスから採取された。
【図1A】
【図1B】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)親水性ポリマーで誘導体化された小胞形成性脂質および(ii)中性リポポリマーから選択される1種もしくはそれ以上の小胞形成性脂質を含んでなるリポソームの懸濁液を準備し、その際、該リポソームは該治療薬もしくは診断薬と連合しており(associated);該リポソーム懸濁液のエアロゾルを形成せしめ;そして該エアロゾルを患者に吸入により投与し、かくして、該投与により損なわれていないリポソーム粒子が該患者の気道に送達され、そこで該投与後に肺における好中球もしくはマクロファージ細胞計数によって測定される免疫応答の観察可能な誘発なしに治療薬の貯蔵体(depot)を形成することを含んでなる、患者に治療薬もしくは診断薬を投与するための方法。
【請求項2】
該準備が、ポリエチレングリコールで誘導体化された小胞形成性脂質を含んでなるリポソームを準備することを包含する請求項1の方法。
【請求項3】
該準備が、ジステアロイル−ポリエチレングリコールを含んでなるリポソームを準備することを包含する請求項1の方法。
【請求項4】
該準備が、リポソーム内に取込まれた(entrapped)治療薬を有するリポソームを準備することを包含する請求項1の方法。
【請求項5】
該準備が、外部リポソーム表面と連合している治療薬を有するリポソームを準備することを包含する請求項1の方法。
【請求項6】
該準備が、抗ウイルス薬、抗炎症薬、抗菌剤、抗真菌剤、遺伝子治療薬および化学療法薬よりなる群から選択される取込まれた治療薬を有するリポソームを準備することを包含する請求項4の方法。
【請求項7】
該準備が、該リポソームと連合している診断薬を有するリポソームを準備することを包含する請求項1の方法。
【請求項1】
(i)親水性ポリマーで誘導体化された小胞形成性脂質および(ii)中性リポポリマーから選択される1種もしくはそれ以上の小胞形成性脂質を含んでなるリポソームの懸濁液を準備し、その際、該リポソームは該治療薬もしくは診断薬と連合しており(associated);該リポソーム懸濁液のエアロゾルを形成せしめ;そして該エアロゾルを患者に吸入により投与し、かくして、該投与により損なわれていないリポソーム粒子が該患者の気道に送達され、そこで該投与後に肺における好中球もしくはマクロファージ細胞計数によって測定される免疫応答の観察可能な誘発なしに治療薬の貯蔵体(depot)を形成することを含んでなる、患者に治療薬もしくは診断薬を投与するための方法。
【請求項2】
該準備が、ポリエチレングリコールで誘導体化された小胞形成性脂質を含んでなるリポソームを準備することを包含する請求項1の方法。
【請求項3】
該準備が、ジステアロイル−ポリエチレングリコールを含んでなるリポソームを準備することを包含する請求項1の方法。
【請求項4】
該準備が、リポソーム内に取込まれた(entrapped)治療薬を有するリポソームを準備することを包含する請求項1の方法。
【請求項5】
該準備が、外部リポソーム表面と連合している治療薬を有するリポソームを準備することを包含する請求項1の方法。
【請求項6】
該準備が、抗ウイルス薬、抗炎症薬、抗菌剤、抗真菌剤、遺伝子治療薬および化学療法薬よりなる群から選択される取込まれた治療薬を有するリポソームを準備することを包含する請求項4の方法。
【請求項7】
該準備が、該リポソームと連合している診断薬を有するリポソームを準備することを包含する請求項1の方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図8F】
【図8G】
【図8H】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図8F】
【図8G】
【図8H】
【公表番号】特表2007−500239(P2007−500239A)
【公表日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533501(P2006−533501)
【出願日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/016962
【国際公開番号】WO2004/110493
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/016962
【国際公開番号】WO2004/110493
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】
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