説明

薬剤スクリーニングシステム

【課題】 薬剤処理した糸状菌の形態変化を顕微観察することで、薬剤の効果を迅速かつ簡便に評価する方法において複数の薬剤の効果を同時に評価するシステムを提供する。
【解決手段】 顕微観察試料台1に薬剤と糸状菌の組み合わせの複数の処理区3を作成し、複数の処理区の連続顕微画像を同時に取得することで糸状菌の形態変化を観察し、複数の薬剤の効果を同時に評価することで、糸状菌の防除に用いる薬剤のスクリーニングを行なうシステムを構築した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸状菌に有効に作用する薬剤のスクリーニングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
糸状菌のなかには人類に損失を与えるさまざまな病害を引き起こすものがあり、特に植物に病気を引き起こす病原体の約8割は糸状菌といわれており、食糧の安定供給の観点からも糸状菌の防除は重要な課題である。
【0003】
糸状菌の防除のために薬剤の候補となる化合物をスクリーニングする際、そのスクリーニングシステムは迅速でかつ簡便でなければならない。
【0004】
非特許文献1、あるいは特許文献1には、薬剤処理した糸状菌の菌糸の伸長や肥大などの形態の変化を経時的に顕微観察することで、薬剤の効果を迅速に、簡便に評価できることが記されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1、あるいは非特許文献1に記載されている方法では一台のシステムによる一回の測定で効果を評価できるのは、一種類の糸状菌と一種類の薬剤の組み合わせのみであり、複数の薬剤のスクリーニングを行うためには著しく不利なシステムであった。
【特許文献1】特開2001−29096号公報
【非特許文献1】Oh K,Matsuoka H,Nemoto Y,Sumita O,Takanori K and Kurata H(1993)Determination of anti−Aspergillus activity of antifungal agents based on the dynamic growth rate of a single hypha.Applied Microbiology and Biotechnology39,363−367
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記したような従来の技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、糸状菌の形態の変化を観察することによって薬剤の効果を評価するシステムにおいて、薬剤と糸状菌との複数の組み合わせを同時に観察可能とすることで、薬剤のスクリーニングに利用できるシステムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、観察試料台に複数の薬剤処理区を作成し、複数の処理区の顕微連続画像を同時に取得するものである。これにより、複数の処理区の菌糸の形態変化を同時に観察することが可能となるため、複数の薬剤の効果を同時に評価することが可能となる。
【0008】
また、本発明のうち請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、観察試料台あるいは顕微画像取得装置を駆動することによって複数の薬剤処理区を順次連続撮影し、複数薬剤の糸状菌に対する効果を同時に評価するものである。
【0009】
また、本発明のうち請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、薬剤処理区にゲル化材で糸状菌を固定し、薬剤を上層することにより薬剤処理を行なうものである。
【0010】
また、本発明のうち請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において薬剤処理区の作成は、穴を有する粘着テープを観察試料台に貼付することによって行なうものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明による薬剤スクリーニングシステムは、薬剤処理した糸状菌の形態の変化を観察することによって、薬剤の効果を迅速かつ簡便に評価し薬剤をスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付の図面に基づいて本発明による薬剤スクリーニングシステムの実施の一例について詳細に説明するものとする。
【0013】
図1には、本発明による薬剤スクリーニングシステムの実施の一例を概念的に表す説明図が示されている。
【0014】
即ち、本発明による薬剤スクリーニングシステムは、観察試料台1に形成された複数の薬剤処理区3と、各処理区を撮影するための顕微画像取得装置である9、および画像保存、解析用のコンピューターである10から構成されるものである。
【0015】
各処理区の顕微連続画像を同時に取得する画像取得装置9は、処理区の数に合わせた複数の顕微鏡7とデジタルカメラ8を有する構造でもよいが、観察試料台1あるいは顕微画像取得装置9を駆動することで、一台の顕微鏡7とデジタルカメラ8によって複数処理区の連続画像を同時に取得することが可能となる。
【0016】
観察試料台1を駆動することで複数処理区の連続画像を取得するシステムの場合、図1において、試料台上に形成された処理区A,B,C,D,EおよびFを順に顕微撮影しこの動作を繰り返すことによってAからFまでの処理区における糸状菌の顕微連続画像をデジタルカメラ8によって取得しコンピューター10に保存する。図2にこのようにして取得した連続画像の例を示す。
【0017】
観察試料台1を駆動することで複数点の連続画像を取得する機構を多点タイムラプス機能として装備する顕微鏡も市販されており、本発明においてはそのような顕微鏡を利用することも可能である。
【0018】
観察の対象となる糸状菌の形態変化としては、胞子の発芽、菌糸の伸長、付着器のような特殊な器官の形成などが挙げられるが、薬剤の効果を評価する場合、菌糸の伸長を観察することが多い。
【0019】
図2に示す連続画像例では、薬剤処理区の顕微連続画像中の菌糸の先端の経時的な位置変化を追尾し、その移動距離を計算し菌糸の伸長量を計算することによって薬剤の評価を行なうことが可能である。
【0020】
図1において、処理区3の詳細を4に示す。ゲル化材で糸状菌を固定した層が6である。ここに薬剤5を上層することにより薬剤処理を行なうものである。
【0021】
図1において、処理区3は厚みのある素材2によって透明な観察試料台1の上に作成されているが、観察試料台1に窪みをつけることによって作成することも可能である。
【0022】
図1において、顕微画像取得装置9は透明な観察試料台1の下方に位置しているが、不透明な観察試料台を用いる場合には顕微画像取得装置9は観察試料台1の上方に位置する。
【0023】
観察用試料台1は通常はスライドガラスであるが、たとえば植物の葉や茎を試料台として用いることも可能であり、そうすることでより自然に近い状態での薬剤の効果を評価することが可能である。
【実施例】
【0024】
なお、以下に示す実施例においては、本発明による薬剤スクリーニングシステムにおいて、薬剤としてブラストサイジンSおよびトリフルミゾール、糸状菌としてイネいもち病菌を用いるものとして説明することとする。
【0025】
ここで、処理区はブラストサイジンSを終濃度0.1,1,10μg/mlとなるようにした処理区と、トリフルミゾールを0.1,1,10mg/mlとなるようにした処理区を設けた。
【0026】
糸状菌として、各処理区にあらかじめイネいもち病菌の胞子を0.2%アガロースをゲル化剤として固定し、発芽させ伸長した菌糸を用いた。
【0027】
処理区はスライドガラス上に、直径3mmの穴をあけた厚さ1mmの粘着テープを貼付して作成した。
【0028】
複数画像の取得は市販の顕微鏡の多点タイムラプス機能を用い、観察試料台を駆動し、処理区を5分毎に順次顕微鏡の対物レンズの光軸上に移動することで行なった。
【0029】
取得した連続画像中の菌糸先端部の位置変化を追尾することで、菌糸の伸長量を測定した。この際、市販の運動解析プログラムを用いて、菌糸の先端を入力し、その移動距離を計算した。
【0030】
図3には、このようにして取得した、菌糸の伸長量を示してある。この結果より、ブラストサイジンSの場合は 1 μg/ml、トリフルミゾールの場合は 10 mg/mlの濃度で供試したイネいもち病菌の生育抑制に有効であると評価された。
【0031】
上記実施例では、糸状菌の固定を0.2%アガロースによって行なったが、ゲル化剤はアガロースに限るものではなく、また、アガロースの濃度も0.2%に限定するものではない。ただし、ゲルが固いと糸状菌の伸長に支障をきたす可能性があり、また柔らかすぎると薬剤を上層した際に糸状菌がはがれてしまう可能性がある。
【0032】
上記実施例では、処理区はスライドガラス上に、直径3mmの穴をあけた厚さ1mmの粘着テープを貼付して作成したが、処理区を作成する材料や処理区の大きさはこれらに限定されるものではなく、例えば、顕微観察可能な様々な直径の試料処理区を持つマイクロタイタープレートのような製品を用いることも可能である。
【0033】
近年、農業生産の現場では新しい病害の発生や、耐性菌の問題が毎年のように発生しており、新規薬剤開発のために化合物をスクリーニングすることや、新病害防除に有効な薬剤をスクリーニングする需要はますます高まると思われる。本発明は、このような現場での利用に直接結びつく有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明による薬剤スクリーニングシステムの一例を概念的に示す図である。
【図2】本発明によって取得した経時画像の一例である。
【図3】本発明によって複数の薬剤の効果を評価した一例である。
【符号の説明】
【0035】
1 観察試料台
3 薬剤処理区
7 顕微鏡
8 デジタルカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤処理した糸状菌の経時的な顕微連続画像を取得し、形態の変化を観察することで薬剤の効果を評価するシステムにおいて、
観察試料台に複数の薬剤処理区を作成し、複数区の顕微連続画像を同時に取得することで、複数薬剤の糸状菌に対する効果を同時に評価する
ことを特徴とする、薬剤スクリーニングシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の薬剤スクリーニングシステムにおいて、
観察試料台または顕微画像取得装置を駆動することによって複数の薬剤処理区を順次撮影し、複数区の顕微連続画像を同時に取得する
ことを特徴とする薬剤スクリーニングシステム。
【請求項3】
請求項2に記載の薬剤スクリーニングシステムにおいて、
薬剤処理区にゲル化材で糸状菌を固定し、薬剤を上層することによって薬剤処理を行なう
ことを特徴とする薬剤スクリーニングシステム。
【請求項4】
請求項3に記載の薬剤スクリーニングシステムにおいて、
穴を有する粘着テープを観察試料台に貼付することで薬剤処理区を作成する
ことを特徴とする薬剤スクリーニングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−136464(P2008−136464A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350560(P2006−350560)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年5月15日 日本植物病理学会発行の「平成18年度 日本植物病理学会大会 プログラム・講演要旨予稿集」に発表
【出願人】(506430037)
【出願人】(506430048)
【Fターム(参考)】