説明

薬剤供給装置及び薬剤二方面供給方法

【課題】異なる有益治療剤を与えることができる医療装置、異なる量の有益治療剤、あるいは、本医療装置の面に関して同一もしくは異なる方向への異なる有益治療剤の異なる放出プロファイルを与えることにより、当業界におけるニーズを満たすこと。
【解決手段】外側面;
内側面;
該外側面および該内側面に関して半径方向に中間の位置に配置される障壁層を有し、該外側面および該内側面を貫通する複数の開口部;
該障壁層に関して半径方向に外側の位置に配置される治療剤層中の、少なくとも1種の第1治療剤;ならびに
該障壁層に関して半径方向に内側の位置に配置される治療剤層中の、少なくとも1種の第2治療剤
を含む、薬剤供給装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体腔への複数の有益(治療)剤を供給するための開口部を有する薬剤供給装置の使用に関する。特に、本発明は、該薬剤供給装置から異なる方向への、異なる有益治療剤、異なる量の有益治療剤、または異なる放出プロファイルの同一もしくは異なる有益治療剤の供給に関する。
【背景技術】
【0002】
参照
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米国特許第4,446,325号明細書;
米国特許第4,733,665号明細書;
米国特許第4,733,665号明細書;
米国特許第4,733,665号明細書;
米国特許第4,739,762号明細書;
米国特許第4,739,762号明細書;
米国特許第4,776,337号明細書;
米国特許第4,776,337号明細書;
米国特許第4,776,337号明細書;
米国特許第4,969,458号明細書;
米国特許第5,116,861号明細書;
米国特許第5,284,834号明細書;
米国特許第5,716,981号明細書;
米国特許第5,972,965号明細書;
米国特許第6,241,762号明細書;
米国特許第6,440,948号明細書;
米国特許第6,476,037号明細書;
米国特許第6,489,298号明細書;
Van Aken, H. et al. (2001) Anticoagulation: the present and future. Clin. Appl. Thromb. Hemost. 7: 195-204.
【0003】
永久的および生分解可能な装置が、体内路の開通性を維持するための体内路内での移植用に開発されてきた。これらの装置は典型的に、経皮的に導入され、望まれる位置に位置取りされるまで、管腔を通して運ばれる。これらの装置は次いで、該装置内に位置取りされる心軸もしくはバルーンの拡大による場合のように機械的に拡大されるか、または、体内での作動時に、蓄えられたエネルギーを放出することにより該装置自体を拡大させる。一旦管腔内で拡大されると、ステントと呼ばれるこれらの装置は体内組織内に包まれるようになり、永久的な移植片を残す。
【0004】
既知のステントのデザイン(設計)は:
モノ(1つの)フィラメントワイヤコイルステント(米国特許第4,969,458号明細書);
溶接金属ケージ(米国特許第4,733,665号明細書および米国特許第4,776,337号明細書);ならびに
その周囲に軸スロットが形成された薄壁金属シリンダー(米国特許第4,733,665号明細書、米国特許第4,739,762号明細書、および米国特許第4,776,337号明細書)
を包含する。ステントにおける使用のための既知の構築材料は、ポリマー、有機布帛、ならびに、ステンレス鋼、金、銀、タンタル、チタン、および、Nitinolのような形状記憶合金のような、生体相容性金属を包含する。
【0005】
米国特許第4,733,665号明細書、米国特許第4,739,762号明細書、および米国特許第4,776,337号明細書は、軸方向スロットを有する薄壁チューブ状部品形態の、拡大可能で変形可能な管腔間血管移植片を開示し、該軸スロットは、これらの部品が半径方向に外側へと向かって拡大され、体内路と接触するようにする。挿入後、これらのチューブ状部品は、これらの弾性限界を超えて機械的に拡大され、このため、体内で永久的に固定される。コーティングされたステントは、種々の有益治療剤を放出するようデザインされ、ステント移植によく関連する病状である再狭窄を抑えるという確かな結果を示してきた。例えば、米国特許第5,716,981号明細書は、ポリマー担体と、癌腫瘍処置に汎用されるよく知られたチューブリン重合安定化剤であるパクリタキセルとを含む治療剤を用いて表面コーティングされたステントを開示するものである。
【0006】
加えて、幾つかの米国特許が、血管新生剤(米国特許第6,479,654号明細書、米国特許第6,475,779号明細書、および米国特許第6,363,938号明細書)、抗血栓(抗血小板)剤(米国特許第6,071,514号明細書および米国特許第5,383,928号明細書)、抗凝固剤(米国特許第6,273,908号明細書)、またはこれらの組み合わせ(米国特許第6,231,600号明細書)を供給するステントの使用を記載する。
【0007】
しかしながら、血管新生剤供給用ステントの使用に直面する主要な技術的障害は、該ステントのコーティングの厚さにある。ステントのコーティングは必然的に非常に薄く、典型的には5〜8ミクロン(μm)である。その割に該ステントの表面積が大きいので、全容積の有益治療剤が非常に短い分散距離を有し、周囲の組織中へと放出されて行く。この問題は特に、有益治療剤の延長された供給を必要とする治療に関して問題である。該表面コーティングの厚さの増加が薬剤放出速度論を改良する一方、ステントの厚さ全体の望まれない増加をも招く。
【0008】
更に、コーティングされたステントを使用する薬剤供給(ドラッグデリバリー)の既存の方法は、有益治療剤を、該ステント面の片側のみへと選択的には供給できず、移植された該ステントの異なる面、例えば、血管壁に接する外側面および血管管腔へと晒される内側面へと、異なる有益治療剤を供給することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、異なる有益治療剤を与えることができる医療装置、異なる量の有益治療剤、あるいは、本医療装置の面に関して異なる方向への同一もしくは異なる有益治療剤の異なる放出プロファイルを与えることにより、当業界におけるニーズを満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、薬剤供給装置は、異なる方向への供給のために配置された第1治療剤および第2治療剤を包含する。
【0011】
一実施形態では、治療剤供給方法は:
外側面、内側面、ならびに、その中の開口部中に第1治療剤および第2治療剤を含む医療装置を与えるステップ;
これらの治療剤を有する該医療装置を、患者に移植するステップ;
治療効果を生じるのに充分な期間に亘って、該医療装置の主に該外側面方向へと、第1治療剤を放出するステップ;ならびに
治療効果を生じるのに充分な期間に亘って、該医療装置の主に該内側面方向へと、第2治療剤を放出するステップ
を含む。
【0012】
別の実施形態では、2種以上の治療剤を血管へと供給する方法が:
外側面、内側面、ならびに、該外側面および該内側面を貫通し該外側面および該内側面に関して半径方向に中間に位置する面に配置された障壁層を有する開口部を有する、実質的に円筒状の医療装置を提供することであって、少なくとも1種の第1治療剤が、該障壁層に関して半径方向に外側に位置する面に配置される治療剤層中に配置され、少なくとも1種の第2治療剤が、該障壁層に関して半径方向に内側に位置する面に配置される治療剤層中に配置される;
これら治療剤を有する該医療装置を、血管管腔へと供給すること;ならびに
治療効果を生じるのに充分な期間に亘って、これら治療剤を放出すること
を包含し、ここで、第1治療剤が実質的に、該医療装置の該外側面へと向かって放出され、第2治療剤が実質的に、該医療装置の該内側面へと向かって放出される。
【0013】
更なる実施形態では、血管への治療剤供給方法が:
第1面、第2面、ならびに第1面および第2面を貫通し治療剤を含有する開口部を含む医療装置を与えること;
これら治療剤を有する該医療装置を、血管管腔へと供給すること;
治療効果を生じるのに充分な期間に亘って、該血管壁へと第1の治療剤を放出すること;ならびに
治療効果を生じるのに充分な期間に亘って、該血管管腔へと第2の治療剤を放出すること
を含む。
【0014】
別の実施形態では、薬剤供給装置は、外側面、内側面、および複数の開口部をその装置本体中に有する医療装置を含み、第1治療剤および第2治療剤がこれら開口部中に配置され、第1治療剤を主に該外側面へと供給し、第2治療剤を主に該内側面へと供給するよう配置される。更なる実施形態では、薬剤供給装置が、外側面、内側面、ならびに、該外側面および該内側面を貫通し障壁層を有する複数の開口部を含み、該障壁層が、該外側面および該内側面に関して半径方向に中間の位置に配置され、治療剤層中の少なくとも1種の第1治療剤が、該障壁層に関して半径方向に外側の位置に配置され、治療剤層中の少なくとも1種の第2治療剤が、該障壁層に関して半径方向に内側の位置に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明が今から、添付図面に例示される好ましい実施形態に言及しながら、より詳細に記載され、ここで、同様な要素は同様な参照番号を有する。
【図1】図1は、血管管腔中に移植された、有益治療剤を有する医療装置の一部分の俯瞰図である。
【図2】図2は、2方面供給用の1開口部中に設けられた2種類の有益治療剤を例示する開口部を有する医療装置の一部分の拡大断面図である。
【図3】図3は、多数の開口部からの2方面供給用に与えられた複数の有益治療剤を例示する開口部を有する医療装置の一部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
本明細書において使用される場合、以下の用語は以下の意味を有する。
【0017】
血管新生:毛細血管網が、更なる分岐、延長、および接続を生じるプロセス。
【0018】
血管新生剤:血管新生を調節するよう作用する治療剤。
【0019】
血管新生因子:血管新生ポリペプチド。
【0020】
抗炎症剤:炎症の生理学的プロセスを、強度もしくは期間において抑制するよう作用する治療剤。
【0021】
抗血小板剤:血小板凝集および/または血餅形成を阻害または減少させるか、もしくは、血小板凝集および/または血餅活性を調節するよう作用する治療剤。本明細書においては、抗血栓剤と同義語として使用される。
【0022】
抗増殖剤:例えば、癌、悪性(腫瘍)、新生物、およびウィルス誘導細胞形質転換の場合の細胞形質転換から結果としてもたらされる細胞増殖を包含する細胞増殖を調節するよう作用する治療剤。
【0023】
抗再狭窄剤:再狭窄を調節するよう作用する治療剤。
【0024】
抗血栓剤:トロンビン活性を調節するよう作用する治療剤。本明細書においては、抗血小板剤と同義語として使用される。
【0025】
動脈硬化:動脈内膜への変性もしくは過剰形成変化または動脈壁中の筋と弾性組織との進展性増大により引き起こされる、動脈の硬化。
【0026】
アテローム(粥状)硬化:中もしくは大直径動脈内膜における脂質の付着により特徴付けられ、結果として、影響を被る血管の部分梗塞もしくは全梗塞となる、最もよく見られる動脈硬化形態。
【0027】
有益治療剤:本明細書において使用される場合、用語「有益治療剤」は、その最も広い可能な解釈を有するよう意図され、障壁層、担体層、治療剤層、もしくは保護層のような不活性物質ならびに任意の治療剤もしくは薬剤をも包含するよう使用される。
【0028】
有益層:有益治療剤を含む生分解性層。
【0029】
生分解性:以下の「生体再吸収性」参照。
【0030】
生体再吸収性:生理学的環境との相互作用時に、化学的もしくは物理的プロセスにより、生体再吸収可能であるかおよび/または分解可能であるという特徴。例えば、生体再吸収性もしくは生体浸食性マトリックスは、数分〜数年、好ましくは1年未満の一定期間に亘って、代謝可能であるかもしくは排泄可能である成分へと分解され、一方、同じ期間中には、任意の必要な構造的統合性もまた維持している。
【0031】
浸食:媒体もしくはマトリックス成分が、化学的もしくは物理的プロセスにより、生体再吸収および/または分解および/または壊されるプロセス。例えば、生分解性ポリマーマトリックスに関しては、浸食は、該ポリマー鎖の開裂もしくは加水分解により生じ得、これにより、該マトリックスの溶解性を上昇させ、有益治療剤を懸濁させる。
【0032】
浸食速度:前記した浸食プロセスが起こるのに要する時間量の1種の測定値であり、通常は単位面積/単位時間として表される。
【0033】
低酸素:影響を被る組織における異常に低い酸素濃度により特徴付けられる病状。
【0034】
移植部位:医療装置もしくはステントが実際に移植される部位。
【0035】
虚血:影響を被る組織への血流が梗塞されたことから結果として生じる局在的な貧血。
【0036】
マトリックスまたは生体再吸収性マトリックス:用語「マトリックス」または「生体再吸収性マトリックス」は互換的に使用され、媒体または材料のことを言い、これは被験体における移植時に、該マトリックスの拒絶という結果に至るのに充分な障害性応答を惹起しないものである。該マトリックスは、本明細書において定義されるような有益治療剤を含有するかもしくは包んでもよいが、該マトリックスは典型的に、治療応答自体を全く与えない。マトリックスはまた、支持性、構造的統合性、もしくは構造的障壁を単に与えるだけでもよい媒体でもある。該マトリックスは、ポリマー性、非ポリマー性、疎水性、親水性、親油性、両親媒性、および類似のものであってもよい。
【0037】
開口部:用語「開口部」は、貫通している開口部および陥没両方を包含する。
【0038】
医薬的に許容可能:宿主もしくは患者に対して毒性でなく、有益治療剤の安定性を維持するのに適切であるという特徴であり、標的細胞もしくは組織への該有益治療剤の供給を可能にする。
【0039】
主に:方向付けられた供給に関して、「主に」とは、血管へと与えられる有益治療剤全量の約50%より多い量を言う。
【0040】
半径方向に内面もしくは半径方向に内側面:医療装置の支柱に関して、「半径方向に内面もしくは半径方向に内側面」とは、内側支柱面の半径と実質的に等価な半径を有する面を言う。
【0041】
半径方向に中間の面:医療装置の支柱に関して、「半径方向に中間の面」とは、内側支柱面の半径と外側支柱面の半径との中間に実質的に等価な半径を有する面を言う。
【0042】
再狭窄:外科施術後の狭窄の再発であって、以前の慢性梗塞を治すのに移植された医療装置の孔中への平滑筋細胞の浸潤を包含する。
【0043】
連続供給:特定の順序での有益治療剤の供給であって、例えば、第2治療剤の約50%が供給される前に、第1治療剤の約75%が供給される場合。
【0044】
狭窄:任意の管もしくは開口部に関してもの制限もしくは梗塞。
【0045】
治療剤:生体体内路へと供給されて、望みの、通常は有益な効果を生じる、任意の治療活性物質を言う。本発明は、例えば、抗新生物剤、血管新生因子、免疫抑制剤、例えばパクリタキセルおよびラパマイシンのような抗増殖剤(抗再狭窄剤)、ならびに、ヘパリンのような抗トロンビン剤の供給に、特に良く適している。
【0046】
血栓形成:血管内での血栓(血餅)の形成であって、しばしば、該血管の部分梗塞もしくは全梗塞に至り、梗塞した該血管により賄われていた組織において低酸素病状に至る。
【0047】
血管拡張剤:ポリペプチド、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチド、小分子、もしくはこれらの組み合わせであって、血管拡張、つまり、血管管腔の増大を引き起こすもの。
【0048】
本発明は、医療装置の使用、より具体的には、長期間に亘って、移植部位へと治療剤を供給するための、非変形性支柱および/またはリンク部品中に複数の開口部を有する、移植可能な医療装置の使用に関する。特に、本発明は、治療剤の方向付けられた供給用の医療装置、および、本医療装置表面に関して異なる方向への、異なる治療剤、異なる量の治療剤、または異なる放出プロファイルの同一もしくは異なる治療剤を供給する医療装置の使用に関する。移植可能な、治療剤2方面供給装置は、例えば、抗再狭窄剤、抗血栓剤、抗血小板剤、抗増殖剤、抗新生物剤、免疫抑制剤、血管新生剤、抗血管新生剤、抗炎症剤、および/または血管拡張剤を、血管へと供給するのに有用である。本発明の1実施形態において、抗増殖剤、抗新生物剤、血管新生剤、抗血管新生剤、抗炎症剤、および/または抗再狭窄剤が血管壁へと供給され、抗血栓剤、抗血小板剤、および/または血管拡張剤が血管管腔へと供給される。該2方面供給装置は特に、第1治療剤がステントから供給されるものと知られている一方で第2治療剤が全身に供給される多くの治療において、使用され得る。該2方面供給は、全身に供給される該治療剤(第2治療剤)が、第1治療剤と同じ装置により供給されることを可能にする。
【0049】
図1は、血管中に長手方向に配置されて示される、本発明の医療装置10の一例の一部分を例示するものである。図2および図3は更に詳細に、図1の医療装置の2つの例を示す。装置10は、支柱およびリンク(本明細書においては、支柱12としてまとめて言及される)から形成され、これらは、延性ヒンジ40により相互接続される。医療装置10は、1種以上の治療剤を含有する開口部14を包含する。図1の例では、複数の支柱12が、実質的に矩形の開口部14を包含し、一方、他の支柱が、実質的に環状の開口部42を包含する。架橋部品44は、隣接するステントセグメント(同士)を接続し、有益治療剤を含有するための、実質的にD字形の開口部46の並びを包含する。支柱14ならびに開口部14、42、および46を有する架橋部品44の一部は非変形性である。
【0050】
図1の実施形態では、延性ヒンジ40が医療装置10の拡大および/または圧縮を可能にし、一方、支柱12、これゆえ開口部14が、拡大または圧縮中、変形しないでいるようにする。開口部46を含有する架橋部品44の一部も、非変形性である。有益治療剤を含有する非変形性開口部14、42、および46が、これら開口部内の該有益治療剤のダメージもしくは変化を防ぐ。図1の実施形態が一例として示されるが、他の装置構造も使用されてよい。
【0051】
図1は、血管100の管腔中に移植された医療装置10の一部分の側面図である。血管100の血管壁は、3つの区別される組織層、内膜、中膜、および外膜を包含する。医療装置10は、米国特許第6,241,762号明細書に記載の医療装置の特徴の幾つかを取り込み、その全体を本明細書において援用する。米国特許第6,241,762号明細書は、延性ヒンジおよび非変形性支柱の使用により、以前の医療装置の性能の欠点を直す医療装置デザインを記載する。
【0052】
図1の例中の開口部14、42、および46は、血管壁に隣接する本医療装置外側面から、本装置内側面もしくは管腔側に及ぶ。有益治療剤を含有する医療装置10中の開口部14、42、および46の存在は、数多くの重要な利点を与える。例えば、開口部14、42、および46は、コーティングの場合において使用され得るよりも、実質的により大きな容積の有益治療剤の使用を可能にし、供給に使える有益治療剤の合計量を増やすことができる。医療装置の開口部14中に有益治療剤を配置できる能力も、単純なコーティングの使用に比較して、長期の供給期間に亘って、有益治療剤の徐々の放出を容易にする。
【0053】
加えて、複数の治療剤と任意の障壁層とを含有する開口部14、42、および46の使用は、移植される医療装置10に関して、主に一方向もしくは両方向(内側および外側へ)への、有益治療剤の放出を可能にする(図1)。この方式で、有益治療剤が、血管100の内膜に隣接する医療装置10外側面へと主に、血管100の管腔に晒される医療装置10内側面へと主に、または両方へと供給されてもよい。医療装置10の開口部14、42、および46中の障壁層は、該障壁層方向への治療剤の拡散を最小化するのに有用であり、該治療剤の方向付けられた供給を可能にする。
【0054】
図2は、医療装置10の一実施形態の拡大断面図であり、治療剤2方面供給用の該装置の支柱12中の開口部14を示す。図3は、図1の医療装置10の別の実施形態の一部分の側面拡大断面図であり、異なる開口部からの治療剤二方面供給用の該装置の支柱12中の開口部14の並びを更に示す。
【0055】
1つ以上の開口部14および1種以上の有益治療剤を有する医療装置の一部分の拡大断面図が、図2に示される。一般的に、支柱12中の開口部14は、障壁層18、第1治療剤16、および第2治療剤20と共に与えられてもよい。本発明の一実施形態では、開口部14の合計の深さは約100〜約140ミクロン(μm)、典型的には約125ミクロンであり、これら治療剤は、該開口部中に配置された後、一緒に有意に混合してよい層を配置することにより、該開口部へと供給される。典型的な層厚は、約2〜約50ミクロン、好ましくは約12ミクロンの厚さである。開口部14中には、少なくとも2層、好ましくは約10層〜12層が配置されてもよく、有益治療剤の合計の厚みは典型的な表面コーティングよりも、約25〜約28倍厚い。本発明の好ましい一実施形態によれば、開口部14各々が、少なくとも約5×10−6平方インチ、好ましくは少なくとも約7×10−6平方インチの断面積を有する。
【0056】
有益治療剤の各層は独立に作られてよいので、別個の化学物質および薬理速度論的特性が各層へと付与され得る。数多くの層の有用な並びが形成され得、これらの幾つかを以下に記載する。これらの層の各々は層毎に、同一もしくは異なる割合の1種以上の治療剤を包含してよい。これらの層は、固体でもよく、有孔性でもよく、または他の薬剤もしくは賦形剤を用いて充填されてもよい。
【0057】
図3は、開口部14中に単純な並びの層を有する医療装置10を示し、障壁層18が支柱12の外側面24もしくは内側面26に配置された障壁層18を有し、治療剤の方向付けられた供給用に、該障壁層に隣接して、第1治療剤16および第2治療剤20が配置される。この並べ方は例えば、血管100の血管壁および管腔へと、異なる治療剤16、20を供給するのに有用である。
【0058】
治療剤16、20は、1つ以上の栓もしくは層として並べられてもよい。これらの層は、少なくとも1種の治療剤の本質的に同一の層、異なる濃度の少なくとも1種の治療剤を含む層、異なる(種類の)治療剤を含む層、またはこれらの任意の組み合わせを包含してもよく、同一もしくは異なる浸食性もしくは再吸収性を有する生分解性マトリックス中に懸濁される(suspended)。該生分解性マトリックスの浸食は結果的に、該マトリックスの浸食速度に対応する時間に亘って、ある放出速度での治療剤の放出を与え、1種以上の治療剤の制御された分布に備える。開口部と組み合わせた生体再吸収性担体の使用は特に、例えば予定期間内での該治療剤の本質的に100%の放出を確実にするのに有用である。
【0059】
これらの層中の同一治療剤の濃度は層毎に変えられ得、予定の形状の放出プロファイルを容易にする。発展的に、より深い層において治療剤濃度を増加させることは、結果的にずっとほぼ1次関数的な速度もしくは0次の供給プロファイルでの該治療剤の放出を与える。
【0060】
あるいは、異なる層が異なる治療剤を含んでもよく、医療装置10の移植後に、異なる時間に異なる治療剤を放出できる能力を与える。本発明の一実施形態では、これらの異なる層が順に浸食されて、装置10の外側面の第1層中の治療剤16の大多数が、第2のもしくは下に横たわる層の治療剤の大多数よりも先に供給される。
【0061】
図3における、障壁層18が医療装置10の外側面24もしくはその近くに配置される場合、隣の治療剤20の放出が主に血管管腔へと向けられる。この実施形態では、障壁層18が、第1サブセットの開口部14中の外側面24もしくはその近くに配置され、医療装置10の第2サブセットの開口部14中の内側面26もしくはその近くに配置される。医療装置10の移植時に血管100の血管壁へと供給されるべき治療剤16は、内側面26もしくはその近くに配置される障壁層18を有する開口部中に設けられる。医療装置10の移植時に該血管の管腔へと供給されるべき治療剤20は、外側面24に配置される障壁層18を有する開口部中に設けられる。この方式で、治療剤16、20は、異なるサブセットの開口部14を使用して、異なる方向へと主に供給され、ここで1つのサブセットは、開口部の合計数未満の任意の数の開口部でもあり得る。少なくとも80%の治療剤が選択された方向へと供給される場合、または好ましくは、少なくとも90%の該治療剤が選択された該方向へと供給される場合、該治療剤は主に、選択された該方向へと供給される(と言える)。
【0062】
図2は、本発明の別の実施形態を例示し、ここでは障壁層18が、本医療装置の外側面24および内側面26に関して半径方向に中間の位置に配置される。障壁層18は、医療装置10の外側面24と内側面26との間に、本質的に同距離に配置されてもよく、あるいは、外側面24もしくは内側面26に、より近く配置されてもよい。障壁層18は、医療装置10の全ての開口部14中の、本質的に同じ半径方向に中間の位置に、あるいは、医療装置10の異なる開口部中の、異なる半径方向に中間の位置に配置されてもよい。障壁層18の存在は、治療剤16、20を与えるための各開口部14中に、本質的に2つの独立した貯蔵場所(reservoir)を創出する。
【0063】
前記したように、第1治療剤および第2治療剤(16および20)ならびに障壁層18が、配置後に該開口部内で混合しうる1層以上の層の配置により、各々形成されてもよい。これらの治療剤層は、少なくとも1種の治療剤の本質的に同一な層、異なる濃度の少なくとも1種の治療剤を含む層、異なる治療剤を含む層、またはこれらの任意の組み合わせを包含することができ、同一もしくは異なる浸食性を有する生分解性マトリックス中に懸濁される。
【0064】
図2および図3に示されるような障壁層18は幾つかのやり方で、治療剤放出速度論を制御するのに使用され得る。第1に、実質的に非生分解性の障壁材料を有する障壁層18の場合、治療剤16、20の一方向への拡散を本質的に防ぐのに使用され得、これにより、医療装置10の本質的に一の面への治療剤供給を保証する。治療剤16、20の層において使用される生分解性マトリックスの浸食時間よりも長い既定の浸食時間を有する障壁層18も、移植された医療装置10の外側もしくは内側面へと治療剤を向かわせるのに有用であるが、結局浸食され、予定時刻に処置の終結を与えるものである。
【0065】
個々の層の浸食速度は、選択された層の表面上に輪郭を作ることにより、更に制御されてもよい。例えば、層の面上のリブが全体の表面積を増加させ、初期放出時の(浸食)速度を増加させる。ある1層の隆起もしくは突出した部分、例えば別の層のへこまされた領域中へと張り出した部分が、これら突出もしくはへこまされた層における該治療剤の放出プロファイルの特徴を導きだしたり先導したりすることを引き起こす。
【0066】
本発明の別の実施形態では、障壁層18が、医療装置10中の1サブセットの開口部14のみの中に配置されてもよい。当該サブセットは、本医療装置中の開口部の合計数よりも少ない任意の数(の開口部)を含んでもよい。障壁層18を伴わない開口部14が尚、治療剤16と共に設けられてもよく、例えば治療剤は、医療装置10の外側面24および内側面26両面へと供給されるよう意図される。
【0067】
別の代替案では、幾つかの開口部が治療剤16と共に設けられてもよく、一方、その他(の開口部)は空のままにされる。空の開口部は、内方への細胞成長のための近接の巣(immediate nidus)、および、医療装置10を血管100へと固定する細胞外成分を与えることができる一方、「充填された」方の開口部が、治療剤16、20を与える。
【0068】
第1治療剤および第2治療剤(16および20)は、これら2つの治療剤が(互いに)反対方向へと供給され、ほぼ同時に完全に供給される場合、分離障壁層を伴わずに与えられてもよい。あるいは、医療装置10の、主な供給標的以外の側への第1治療剤および第2治療剤(16および20)のある種の供給が許容可能かもしくは望まれる場合、障壁層18が省かれてもよい。
【0069】
単一の医療装置が任意の組み合わせの貫通開口部を含んでもよく、ここでこれら貫通開口部は、前記したように、障壁層と共に異なる位置において設けられてもよく、または、空のままにされてもよい。例えば、単一の医療装置であれば、本医療装置の内側面に配置された障壁層を有する開口部、本医療装置の外側面に配置された障壁層を有する開口部、本医療装置の中間面に配置された障壁層を有する開口部、ならびに空の開口部を含み得る。
【0070】
本発明の一実施形態では、治療剤を含む層(治療剤層)が、本医療装置の外側へと向かって開いた開口部中、本医療装置の内側へと向かって開いた開口部中、障壁層なしの開口部中、1サブセットの開口部中、またはこれらの任意の組み合わせにおいても設けられ得、これにより、(本発明の)実施者により選択されるとおりの、一方向もしくは両方向への治療剤の放出を見越すことができる。各層が1種以上の治療剤を含んでもよく、各開口部が1層以上の治療剤層を含んでもよい。治療剤の放出速度は、各治療剤もしくは(複数の)治療剤の各組み合わせを供給するよう選択される特定の生体再吸収性マトリックスに依存して、独立に制御され得る。放出速度および放出プロファイルも、分離層の追加、層厚の変更、マトリックス材料の選択、および他の多くの因子によって、制御され得る。
【0071】
本発明の一実施形態では、1種以上の抗増殖剤、抗新生物剤、抗血管新生剤、血管新生剤、抗炎症剤、および/または抗再狭窄剤が、血管100の血管壁への供給用に、医療装置10の外側24へと向かって開いた開口部中に与えられる。また、本発明の一実施形態では、1種以上の抗血栓剤、抗血小板剤、抗炎症剤、血管新生剤、および/または血管拡張剤が、血管管腔116への供給用に、医療装置10の内側面26へと向かって開いた開口部中に与えられる。
【0072】
本発明と共に使用される治療剤は、単独でも、もしくは、本明細書において述べられる任意の治療剤とも組み合わせて、古典的な低分子量治療剤(「薬剤」としてよく言及される)をも包含し、これは、免疫抑制剤、抗脂質剤、抗炎症剤、ビタミン、抗有糸分裂剤、メタロプロテアーゼ阻害剤、NOドナー(供与体)、エストラジオール、抗梗塞剤、および血管活性剤を包含するが、これらに限定されない。治療剤を挙げると、幾つかの例ではあるが、ペプチド、ポリペプチド、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチド、脂質、タンパク薬剤、酵素、オリゴヌクレオチドおよびこれらの誘導体、リボザイム、他の遺伝子材料、プリオン、ウィルス、バクテリア、および、内皮細胞、モノサイト(単球)/マクロファージ(巨食球)、もしくは血管平滑筋細胞のような真核細胞も包含する。該治療剤はまたプロドラッグでもよく、これは宿主への投与時に、所望の薬剤へと代謝して行く。加えて、治療剤は、前記治療剤層中へと取り込まれる前に、マイクロカプセル、微小球、微小泡、リポゾーム、ニオゾーム、エマルション、分散体、もしくは類似のものとして、予め処方されてもよい。治療剤はまた、放射性同位元素、あるいは、光もしくは超音波エネルギーのような他の何らかの形態のエネルギーにより、または、全身投与され得る他の循環分子により活性化される治療剤であってもよい。治療剤は、血管新生、再狭窄、細胞増殖、血栓形成、血小板凝集、血餅化、および血管拡張を調節することを包含する多機能を果たしてもよい。抗炎症剤は、アリール酢酸誘導体、例えば、ジクロフェナック;アリールプロピオン酸誘導体、例えば、ナプロキセン;およびサリチル酸誘導体、例えば、アスピリン、インシュリン、ジフルニサルのような非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)を包含する。抗炎症剤は、デキサメタゾン、プレドニソロン、およびトリアムシノロンのような糖質コルチコイドも包含する。抗炎症剤は、抗増殖剤と組み合わせて使用されてもよく、該抗増殖剤に対する組織の反応を緩和する。
【0073】
本発明の医療装置により供給される治療剤は、本装置の内側および外側面全体からの一様な供給のために配置されてもよい。あるいは、該治療剤の供給場所が、2種以上の治療剤が本装置の異なる領域から供給されるように配置されてもよい。例えば、第1治療剤が、円筒状の医療装置の両末端の血管壁へと供給され、第2治療剤が、該血管管腔へと一様に供給され、第3治療剤が、両末端間の円筒状の該医療装置の内側部分の血管壁へと供給されてもよい。
【0074】
本発明は、血管中におけるステントとしての使用のための、一般的に円筒状で拡張可能な医療装置として記載されてきたが、本装置は、2種以上の治療剤を方向付けて供給することが望ましい場合、体内の他の管腔もしくは器官中における移植のための異なる形状をも採用し得る。
【0075】
例示された実施形態では、該治療剤が、血管壁もしくは血管管腔へと直接供給される。該治療剤はまた、開口部中の層もしくは本装置上のコーティングといった形態の保護層もしくは制御層を通して、間接的に供給されてもよい。
【0076】
本発明の一実施形態では、1種以上の血管新生剤が、本医療装置の外側面24へと向かって開いた開口部中に与えられ、1種以上の血管拡張剤が、医療装置10の内側面26へと向かって開いた開口部中に与えられる。本発明の別の実施形態では、1種以上の抗増殖剤、抗炎症剤、および/または抗血管新生剤が、医療装置10の外側面24へと向かって開いた開口部中に与えられ、1種以上の血管拡張剤が、本医療装置の内側面26へと向かって開いた開口部中に与えられる。
【0077】
本発明の更なる実施形態では、1種以上の血管新生剤が、医療装置10の外側面24へと向かって開いた開口部中に与えられ、1種以上の抗血栓剤および/または抗血小板剤が、本医療装置の内側面26へと向かって開いた開口部中に与えられる。本発明の別の実施形態では、1種以上の抗増殖剤、抗炎症剤、および/または抗血管新生剤が、医療装置10の外側面24へと向かって開いた開口部中に与えられ、1種以上の抗血栓剤および/または抗血小板剤が、本医療装置の内側面26へと向かって開いた開口部中に与えられる。
【0078】
本発明の更なる別の実施形態では、アクチノマイシンD、ラパマイシン、もしくはパクリタキセルを包含するがこれらに限定されない1種以上の抗再狭窄剤が、医療装置10の外側面24へと向かって開いた開口部中に与えられ、1種以上の血管拡張剤が、本医療装置の内側面26へと向かって開いた開口部中に与えられる。本発明の別の実施形態では、1種以上の抗再狭窄剤が、医療装置10の外側面24へと向かって開いた開口部中に与えられ、1種以上の抗血栓剤および/または抗血小板剤が、本医療装置の内側面26へと向かって開いた開口部中に与えられる。
【0079】
本明細書において使用される場合、1種以上の治療剤とは、異なる治療剤、異なる組み合わせの治療剤、異なる濃度の同一もしくは異なる治療剤、またはこれらの組み合わせを1層以上の治療剤層中に含む治療剤を包含する。本発明の一実施形態では、多数の治療剤層が、1種以上の治療剤の本質的に連続した放出を与えるのに使用される。この方式では、多数の抗再狭窄剤、血管新生剤もしくは抗血管新生剤、抗炎症剤、および/または抗増殖剤が、血管壁へと連続供給される一方、多数の抗血栓剤、抗炎症剤、抗血小板剤、および/または血管拡張剤が、該血管管腔へと連続供給される。各治療剤の連続した放出プロファイルは、各治療剤を、特定の開口部中、異なる生体浸食性を有する(複数の)層中、隣接する(両)層に関して特定の順序で配置された層中、またはこれらの任意の組み合わせをも通して与えることにより、調節されてもよい。従って、本発明は、その実施者が、特定タイプの処置へ、特定の組み合わせの処置へ、特定の患者のニーズへ、およびこれらの任意の組み合わせへと治療剤の放出をテーラー・メイドすることを可能にする。
【0080】
開口部の存在は、生体再吸収性マトリックスの層が、本医療装置の外側端を越えて配置されることをも可能にするが、これは、該開口部内に配置されたマトリックス材料が、該開口部外側の円錐もしくは他の突出形状のマトリックス材料のためのアンカーとして働くからである。円錐状の該マトリックス材料の場合、例えば、標的毛細血管へと供給されるべき数多くの治療剤のうちの第1のもの(もしくは治療剤の第1の組み合わせ)を含み得る。本医療装置移植時に、該円錐は、該毛細血管の内側面と接触されるようにされ、標的細胞から離れるような該治療剤の拡散機会を最小にして、濃縮された形態で該治療剤を供給する。加えて、該マトリックス材料により定められるような充分な堅さの円錐は、標的血管内膜および/または中膜に機械的に浸透でき、治療剤を直接外膜へと供給でき、この場合、治療剤が最も効果を有し易いことがある。該円錐材料の外側は溶けるので、生分解性マトリックスの新たな層が露わになり、更なる治療剤を該血管壁へと供給する。本発明の一実施形態では、最外層のみが円錐形状である。別の実施形態では、1層以上の層が円錐形状である。
【0081】
一実施形態では、該開口部もしくは「ウェル」が、血管新生ポリペプチドを包含するがこれらに限定されない1種以上の治療ポリペプチドを含有する。本明細書において使用される場合、ポリペプチドは、全長ポリペプチド、短縮ポリペプチド、キメラポリペプチド、変異ポリペプチド、ポリペプチド断片、共役したポリペプチド、または天然(起源)もしくは合成アミノ酸を含む合成ポリペプチドを包含する。これらのポリペプチドのいずれもが、グリコシル化、リン酸化、アシル化、または他に修飾されてよい。本発明は、個々のポリペプチド、多数のポリペプチド、多数のサブユニットを含むポリペプチド、補因子(コファクター)を必要とするポリペプチド、およびこれらの組み合わせの使用を包含する。
【0082】
該ポリペプチドは、天然ポリペプチドもしくは組み換えポリペプチドであってもよい。該ポリペプチドは、天然資源から得られるか、または、バクテリア、イースト、もしくは哺乳類細胞を包含するがこれらに限定されない動物細胞において発現されてもよい。本発明の好ましい実施形態では、該ポリペプチドは、ヒトポリペプチドである。本発明の別の実施形態では、該ポリペプチドは、ヒトではない霊長類ポリペプチドである。本発明の更なる別の実施形態では、該ポリペプチドは、哺乳類ポリペプチドである。本発明の別の実施形態では、該ポリペプチドは、上記したポリペプチドを1種以上含む、短縮、キメラ、もしくは変異ポリペプチドである。該ポリペプチドは、活性でも不活性でもよい。不活性ポリペプチドは例えば、1種以上の不活性治療剤を有する対照の医療装置を必要とする臨床試験に有用である。該ポリペプチドは更に、タンパク質分解開裂部位、致死配列、もしくは、1種以上の調節剤用の2次的な結合部位を包含してもよく、医療装置の移植と同時かもしくは移植後の、ポリペプチド活性、特異性、もしくは安定性の調節を可能にする。
【0083】
該治療剤は、例えば、その安定性、親水性、疎水性、活性、または、特定のレセプター(受容体)、特定タイプの細胞、もしくは組織と相互作用する能力を調節する他の分子に共役されてもよい。例えば、ポリペプチドは、ヘパリンもしくはヘパリン硫酸に共役されてもよい。別の実施形態では、ポリペプチドは、天然起源もしくは合成ポリマーに共役される。本発明の別の実施形態では、ポリペプチドは、脂質、または、PEGもしくはPETのような合成水溶性ポリマーに共役される。(本発明の)実施者は、例えば、ポリペプチドの安定性、供給、もしくは調節に有用であると当業界において知られている任意のポリペプチド共役体も本発明の範囲内で使用されてよいことを、認識するようになる。任意の数の異なる共役体も、本発明において使用されてよい。加えて、本発明の一部として使用される任意のサブセットもしくは全てのポリペプチドも、完全に共役、部分的に共役、もしくは異なる分子と共役されてよく、同一層中もしくは異なる層中に配置されてもよい。
【0084】
本発明の一部として使用され得るポリペプチド治療剤は、該ポリペプチドをコード化しているポリヌクレオチドを使用して、与えられ得る。ポリヌクレオチドは、レトロウィルスベクターもしくはアデノウィルスベクターを包含するがこれらに限定されない遺伝子治療用供給ベクターを使用して、供給されてもよい。ポリペプチド治療剤は、同様のメカニズムもしくは異なるメカニズムを通して機能する治療用ポリヌクレオチドおよび/または治療用小分子と組み合わされ得る。
【0085】
本発明の一実施形態によれば、血管新生剤が、移植部位へと供給される。本発明の好ましい実施形態では、血管新生剤が、本医療装置の外側面へと供給される。血管新生剤の供給は、例えば、血管成長を促進して、末梢塞栓形成、動脈破裂、急性心筋梗塞、心筋梗塞、鼠径部血腫、腎症(ネフロパシー)、狭心症、末梢微小循環、慢性血栓塞栓肺性高血圧、臨床までには至らない慢性虚血、死亡、および、冠状動脈の慢性全冠梗塞から結果もたらされる病状の他の疾患を包含するがこれらに限定されない慢性全梗塞に関連した疾患および病状を緩和するのに有用である。該血管新生剤は、1種以上の血管新生ポリペプチドを含んでもよい。該血管新生ポリペプチドは、天然もしくは組み換えポリペプチドであってもよい。血管新生ポリペプチドの例は、VEGF、FGF、HGF、マトリックスメタロプロテアーゼ(例えば、tPA、uPA)、Ang1、Ang2、組織因子、TGF−β1、PDGF−B、血球成長因子(HGF)、インシュリン様成長因子、上皮成長因子、PD−ECGF、PF4、TSP−1、TNF、プロリフェリン(proliferin)、プラスミノーゲン活性化因子、IL−8、およびHGFを包含する。好ましい実施形態では、前記開口部もしくはウェルが、生分解性マトリックス中にVEGFポリペプチドを含有する。
【0086】
血管新生ポリペプチドは、血管新生ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを使用して、与えられてもよい。ポリヌクレオチドは、レトロウィルスベクターもしくはアデノウィルスベクターを包含するがこれらに限定されない遺伝子供給ベクターを使用して、供給されてもよい。該血管新生剤は、血管新生小分子も含んでよい。血管新生剤は、血管新生ポリペプチド、ポリヌクレオチド、および小分子の組み合わせを含んでもよい。血管新生剤は、局在的な血管新生を刺激するための医療装置の移植後数週〜数ヶ月の期間に亘って、供給されてもよい。
【0087】
本発明の別の実施形態では、血管拡張剤が、移植部位へと供給される。本発明における使用のための血管拡張剤は、有機硝酸(エステル、例えば、ニトログリセリン、二硝酸イソソルビド、二硝酸イソソルビド)、プロスタグランジン(例えば、エポプロステノール、プロスタグランジンI2(プロスタサイクリン)、およびプロスタグランジンE2)、ホスホジエステラーゼ阻害剤(例えば、パムリノン、ミリノン、エノキシモン、およびピロキシモン)、カルシウムアンタゴニスト(例えば、ジヒドロピリジン、ニフェジピン、アムロジピン、フェロジピン、イスラジピン、ニルヴァジピン、ニソルジピン、およびニトレンジピン)、ドーパミン受容体アゴニスト(例えば、フェノルドパムメシレート(メタンスルホン酸塩))、アンジオテンシン(アンギオテンシンとも)変換酵素(ACE)阻害剤(テモカプリラート、エナラプリラート、カプトプリル、キナプリル、およびペリンドプリル)、アンジオテンシンII受容体アンタゴニスト(ロサルタン、RNH−6270、L158、809、PD123319)、アドレナリン作動性受容体アンタゴニスト(例えば、ブナゾシン)、1−アドレナリン作動性アゴニスト(例えば、カルベジロール、メトプロロール、およびビソプロロール)、ならびにブラジキニンを包含するが、これらに限定されない。
Kitakaze, M. et al. (2002) J. Am. Coll. Cardiol. 40: 162-6;
Oikawa, Y. et al. (2001) J. Am. Coll. Cardiol. 38: 1188-94;
Tanoue, A. et al. (2001) J. Clin. Invest. 109: 765-75;
Sun, Y. P. et al. (2001) J. Cardiovasc. Pharmacol. Ther. 6: 175-81;
Kirsten, R. et al. (1998) Pharmacokinet. 35: 9-36;
Physicians' Desk Reference (2001) Medical Economics Co., Inc., Montvale, NJ;ならびにこれらの中の引用文献。
【0088】
当業界において知られている更なる血管拡張剤は、contulakin-G(米国特許第6,489,298号明細書)、L−アルギニンおよびタイプVホスホジエステラーゼ(米国特許第6,476,037号明細書)、チオフェン化合物(米国特許第6,440,948号明細書)、4,5−ジアリールオキサゾール誘導体(米国特許第5,972,965号明細書)、N−置換アデノシン類似体(米国特許第5,284,834号明細書)、ニトロソチオール誘導体(米国特許第5,116,861号明細書)、ならびに1,4−ジヒドロピリジン化合物(米国特許第4,446,325号明細書)を包含するが、これらに限定されない。任意の臨床的に許容可能な血管拡張剤も、本発明を実施するのに使用され得るが、但し、該血管拡張剤は、本発明の医療装置を使用して、与えられ得る。
【0089】
本発明のもう1つ別の実施形態では、抗凝固剤が、移植部位へと供給され得る。抗凝固剤は、ビタミンK依存性凝固因子を阻害する化合物(例えば、クマリン類)、トロンビンの間接的阻害剤(例えば、ヘパリンおよびヘパリン誘導体)、ならびに直接的なトロンビン阻害剤(DTIs。例えば、ヒルジン、DuP714、PPACK、エフェガトラン、イノガトラン、メラガトラン、およびキシメラガトラン)を包含する。
Physicians' Desk Reference (2001) Medical Economics Co., Inc., Montvale, NJ;
Van Aken, H. et al. (2001) Clin. Appl. Thromb. Hemost. 7: 195-204;
ならびにこれらの中の引用文献。
任意の臨床的に許容可能な抗凝固剤も、本発明を実施するのに使用され得るが、但し、該抗凝固剤は、本発明の医療装置を使用して、与えられ得る。
【0090】
本発明の更なる別の実施形態では、抗血小板剤が、移植部位へと供給され得る。抗血小板剤は、ADP受容体アンタゴニスト(例えば、チクロピジンおよびクロピドグレル)、種々のメカニズムを通して機能する糖タンパク(GP)IIb/IIIa受容体アゴニスト(例えば、エプチフィバチド、チロフィバン、およびabciximab)、ならびにプロスタグランジン阻害剤(例えば、アスピリン)およびホスホジエステラーゼ阻害剤(例えば、ジピリダモールおよびシロスタゾール)を包含する。
Physicians' Desk Reference (2001) Medical Economics Co., Inc., Montvale, NJ;
Dogne, J. M. et al. (2002) Curr. Med. Chem. 9: 577-89;
ならびにこれらの中の引用文献。
任意の臨床的に許容可能な抗血小板剤も、本発明を実施するのに使用され得るが、但し、該抗血小板剤は、本発明の医療装置を使用して、与えられ得る。
【0091】
本発明の別の実施形態では、免疫抑制剤が、移植部位へと供給され得る。免疫抑制剤は、メトトレキセートおよびそのポリグルタメート誘導体、糖質コルチコイド、シクロホスファミドおよびアザチオプリン代謝物、ミコフェノール酸、ミゾリビン、Brequinar、レフルノミド代謝物、シクロスポリン、タクロリムス、ならびにラパマイシンを包含するが、これらに限定されない。
Allison, A. C. (2000) Immunopharmacology. 47: 63-83
ならびにこの中の引用文献。
【0092】
上に同定した治療剤のいずれもが、例えば、それらの安定性を増大させ、それらの親水性を増大させ、それらの疎水性を増大させ、それらの活性を調節し、または、特定タイプの細胞と相互作用する能力を調節したり、あるいは、該治療剤が、治療効果を引き起こさないかもしくは異なるメカニズムを通して治療効果を引き起こす第2治療剤と同時に供給されるようにする他の分子に共役されてもよい。例えば、血管新生ポリペプチドが、ヘパリンもしくはヘパリン硫酸に共役されてもよい。この場合、ヘパリンが、該血管新生ポリペプチドを安定化すると同時に、抗血小板剤としても機能する。本発明がその好ましい実施形態に言及して詳細に記載されてきたが、当業者には、本発明から逸脱することなく、種々の変更および修飾がなされ得、等価なもの(均等物)が用いられることが明らかとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側面;
内側面;
該外側面および該内側面に関して半径方向に中間の位置に配置される障壁層を有し、該外側面および該内側面を貫通する複数の開口部;
該障壁層に関して半径方向に外側の位置に配置される治療剤層中の、少なくとも1種の第1治療剤;ならびに
該障壁層に関して半径方向に内側の位置に配置される治療剤層中の、少なくとも1種の第2治療剤
を含む、薬剤供給装置。
【請求項2】
第1治療剤が、血管新生剤、抗炎症剤、および抗増殖剤からなる群から選択される、請求項1の装置。
【請求項3】
第2治療剤が、抗再狭窄剤、抗血栓剤、抗血小板剤、抗炎症剤、および血管拡張剤からなる群から選択される、請求項2の装置。
【請求項4】
前記開口部が実質的に非変形性である、請求項1の装置。
【請求項5】
前記障壁層が実質的に、第1治療剤および第2治療剤の通過を防ぐ、請求項1の装置。
【請求項6】
前記障壁層が生体浸食性である、請求項1の装置。
【請求項7】
前記障壁が、第1治療剤および第2治療剤を含有する生分解性マトリックスの浸食時間よりも長い既定の浸食時間を有する、請求項6の装置。
【請求項8】
a)外側面と内側面とを含む医療装置、および、該医療装置中の開口部中に第1治療剤および第2治療剤を設けるステップ;
b)該医療装置を、これらの治療剤と共に、患者に移植するステップ;
c)第1治療剤を、治療効果を生じるのに充分な期間に亘って、該医療装置の主に該外側面方向へと放出するステップ;ならびに
d)第2治療剤を、治療効果を生じるのに充分な期間に亘って、該医療装置の主に該内側面方向へと放出するステップ
を含む、治療剤供給方法。
【請求項9】
前記医療装置中の開口部が、前記外側面および前記内側面を貫通する貫通開口部である、請求項8の方法。
【請求項10】
前記医療装置中の開口部が、該医療装置の前記外側面もしくは前記内側面における非貫通陥没である、請求項8の方法。
【請求項11】
第1治療剤および第2治療剤が:
a)異なる治療剤;
b)異なる濃度の治療剤;
c)異なる放出プロファイルの治療剤;および
d)a)〜c)の組み合わせ
からなる群から選択される、請求項8の方法。
【請求項12】
第1治療剤が、血管新生剤および抗増殖剤からなる群から選択される、請求項8の方法。
【請求項13】
第2治療剤が:
a)抗血栓剤;
b)抗血小板剤;
c)血管拡張剤;
d)抗炎症剤;および
e)a)〜d)の組み合わせ
からなる群から選択される、請求項12の方法。
【請求項14】
前記開口部が、前記医療装置の前記外側面および前記内側面に関して半径方向に中間の位置に配置される障壁層と共に設けられ、第1治療剤が、該障壁層に関して半径方向に外側の表面に設けられ、第2治療剤が、該障壁層に関して半径方向に内側の面に設けられる、請求項8の方法。
【請求項15】
第1サブセットの開口部が、前記医療装置の前記内側面近くに配置される第1障壁層と共に設けられ、第1治療剤が、第1障壁層に関して半径方向に外側の位置に設けられ、第2サブセットの開口部が、前記医療装置の前記外側面近くに配置される第2障壁層と共に設けられ、第2治療剤が、第2障壁層に関して半径方向に内側の位置に設けられる、請求項8の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−274125(P2010−274125A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167134(P2010−167134)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【分割の表示】特願2006−515031(P2006−515031)の分割
【原出願日】平成16年6月2日(2004.6.2)
【出願人】(308021741)イノヴェイショナル・ホールディングズ・エルエルシー (6)
【氏名又は名称原語表記】INNOVATIONAL HOLDINGS, LLC
【住所又は居所原語表記】One Johnson & Johnson Plaza, New Brunswick, New Jersey 08933, United States of America
【Fターム(参考)】