説明

薬剤内包リポソーム、その製造方法、及びリポソーム製剤

【課題】リポソームの形状、特に真球度を高く保ち、かつ粒子間のバラツキを減少させることにより細胞に対する活性を高めた薬剤内包リポソーム、及びその製造方法を提供する。更に、当該リポソームを用いたリポソーム製剤を提供する。
【解決手段】薬剤を内包させたリポソームの体積平均粒径が30〜500nmであり、下記式で表される真球度fの平均値が0.8〜1であることを特徴とする薬剤内包リポソーム。
f=[M/(π/4)]0.5/Nmax
(式中、Mは微粒子の断面積nm2を、Nmaxはその断面の最長径nmをそれぞれ表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤内包リポソーム、その製造方法、及びリポソーム製剤に関する。詳しくは、薬剤を内包させたリポソームの真球度を向上することで細胞に対する活性が向上した薬剤内包リポソーム、その製造方法、及び該リポソームを用いたリポソーム製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、リン脂質あるいはその誘導体を膜成分として有し、必要に応じてステロール類や脂質等を加えて形成される単層または複数層の脂質二重膜からなる閉鎖小胞体である。このリポソームは、水溶性の薬剤を脂質二重膜で囲まれる内部の水相に、油溶性の薬剤類を二重膜の中に保持することができるため、本来不安定で失活しやすい薬効成分を安定的に内包させることが可能となる。また、リポソームの脂質膜は生体膜と類似の構造や機能を有するため、免疫系を刺激しにくく、低抗原性ゆえに素材としての安全性が高い。このようなことから、リポソームは診断薬、治療薬、化粧品などの様々な分野で応用開発が行われている。特に薬物送達システム(以下「DDS」と呼ぶ。)として、リポソームの粒径、脂質膜の性質、特定細胞に対する標的性付与などの調整を通じて受動的または能動的なターゲティング機能を有する薬剤内包リポソームが盛んに研究されている。
【0003】
例えば腫瘍におけるターゲッティングでは、抗癌剤や抗真菌剤をリポソーム化し、粒子表面、粒径を制御することにより、腫瘍部へのターゲッティングを促進する検討が盛んに行われ、一部実際に実用化されている。一方リポソームではないが、MRI用の特異性微粒子造影剤として、造影剤の粒子の粒径と表面形状設計、あるいは、造影剤分子自体の設計をすることで、肝のクッパー細胞をはじめとする細網内皮系や肝細胞等への取り込みを促進させ、腫瘍組織と正常組織のコントラストをつけ(腫瘍部には取り込まれないため)、肝がんの検出能を向上する試みが行われ、一部実際に診断に利用されている。その他機能向上剤についても肝臓やクッパー細胞が認識しやすい、特定の糖鎖をリポソームに修飾して蓄積性を向上する試みも行われている。DDSにおいては、「鍵と鍵穴」の例えのように、薬物の立体構造、特に粒径と表面形状が目的とする細胞との反応性を決める重要な因子である。
【0004】
これらリポソームの製造法としては、バンガム法、逆相蒸発法、凍結融解法、機械的分散法、超臨界二酸化炭素法、押出法などの種々の方法が知られている。
【0005】
しかしながら、リポソームはリン脂質等の自己集合性を利用して形成するため人為的な制御が効きにくく、また容易に破壊や変形が起こるため個々の粒子の粒径、形状を均一にすることは難しく、また再現性も低いのが現状である。前述のように粒径や粒子形状の違いで薬剤内包リポソームのターゲッティング性能が変化することが知られており、粒径や粒子形状を揃えて薬剤内包リポソームの薬効の均一性、再現性を高めることは大きな課題である。
【0006】
リポソームの粒径のバラツキを抑える工夫は比較的古くから行われており、例えば特許文献1にはリン脂質と非イオン性ポリオキシエチレン系界面活性剤とのモル比が5/95〜95/5の混合脂質を水溶液中で超音波処理することにより得られる粒径10〜300nm(100〜3000オングストローム)、粒径のばらつきが10%以下の長期間安定なリポソームが記載されている。
【0007】
しかしながら、生体物質にはない界面活性剤を利用することは前述の安全性を脅かすため、DDSのようなリポソーム処方には利用できない。
【0008】
特許文献2には金属、ガラス、セラミックなどの多孔性焼結体にリン脂質等の膜構成脂質を付着させ、次いで水溶液を多孔性焼結体に接触させることにより均一な粒径のリポソームを製造する方法が記載されているが、原理的に数μmの粒子を得る方法であり微粒子リポソームの製造方法としては使えない。
【0009】
特許文献3には粒径50〜4000nm、粒度分布が30%以上のリポソーム分散液を、セルロース系多孔質膜を用いて、好ましくはリン脂質の相転移温度以下で通過させる製造方法が記載されている。一般的にはフィルター通過による整粒効果はあるもの、大粒径の粒子を破壊して小粒径に揃えるため形状が歪みやすく、内包薬剤の内包率低下も引き起こすことが知られている。
【0010】
また、形状についても種々の研究がなされており、特定細胞の受容体との反応性が強い糖鎖、例えばガラクトースで修飾した例が知られている(例えば特許文献4参照。)、その他複数のリン脂質を使用したりして、臓器への移行性を高めたり特定細胞への蓄積性を高めて薬剤の効果を高める研究が行われているが、リポソーム単体の粒子形状を改良する方法について記載されたものはない。
【0011】
以上のように粒径と形状の高度な制御を同時に行うことで、より高いDDS性能のリポソーム製剤が期待されている。
【特許文献1】特開平6−183953号公報
【特許文献2】特許第3399009号明細書
【特許文献3】特開平5−293360号公報
【特許文献4】特開平9−235292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、リポソームの形状、特に真球度を高く保ち、かつ粒子間のバラツキを減少させることにより細胞に対する活性を高めた薬剤内包リポソーム、及びその製造方法を提供することである。更に、当該リポソームを用いたリポソーム製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題に取り組むものであり、DDSにおける細胞によって取り込まれる薬剤内包リポソームの活性を上げるために粒子の形状について透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;以下において、「TEM」と呼ぶ。)を用いて研究した結果、一般的なリポソームでは意外にも真球度が不十分な粒子が多く、またそれらの再現性も低いことが分かった。真球度の高い粒子を集めて行った細胞実験では、同じ組成のリポソームであっても平均的にマクロファージ系の細胞に対する活性が高い傾向にあることが判明した。
【0014】
真球度を高める研究を行った結果、アルコールの含有量によりリポソームの成形性が大きく変化するポイントを見つけた。それが30質量%であり、相転移温度以上におけるリン脂質溶解性の変曲点でもあることも分かった。リポソームを製造、または整粒操作を行う際にアルコールを30質量%以上含有する溶液で加圧下、膜通過させることにより微粒子で、かつ真球度のリポソームが得られることが分かった。
【0015】
すなわち、本発明に係る前記課題は下記の手段により解決される。
【0016】
1.薬剤を内包させたリポソームの体積平均粒径が30〜500nmであり、下記式で表される真球度fの平均値が0.8〜1であることを特徴とする薬剤内包リポソーム。
f=[M/(π/4)]0.5/Nmax
(式中、Mは微粒子の断面積nm2を、Nmaxはその断面の最長径nmをそれぞれ表す。)
2.前記薬剤が造影剤であることを特徴とする前記1に記載の薬剤内包リポソーム。
【0017】
3.前記1又は2に記載の薬剤内包リポソームの製造方法であって、アルコール類を30質量%以上含有するリポソーム分散液を加圧下、膜通過させる工程を含むことを特徴とする薬剤内包リポソームの製造方法。
【0018】
4.前記1又は2に記載のリポソームを用いることを特徴とするリポソーム製剤。
【発明の効果】
【0019】
本発明の上記手段により、リポソームの形状、特に真球度を高く保ち、かつ粒子間のバラツキを減少させることにより細胞に対する活性を高めた薬剤内包リポソーム、及びその製造方法を提供することができる。更に、当該リポソームを用いたリポソーム製剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の薬剤内包リポソームは、薬剤を内包させたリポソームの体積平均粒径が30〜500nmであり、前記真球度fの平均値が0.8〜1であることを特徴とする。この特徴は、請求項1〜4に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0021】
以下、本発明とその構成要素等について詳細な説明をする。
【0022】
(薬剤内包リポソームの真球度等)
本発明の薬剤内包リポソームは、薬剤を内包させたリポソームの真球度fの平均値が0.8〜1であることを特徴とする。当該真球度は本来3次元で求める必要があるが、微粒子過ぎるため難しく、現実には二次元画像で評価せざるを得ないため、撮影シーンを変えて数多く撮影し平均化することで求めることができる。
【0023】
本発明において、リポソームの真球度は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて電子顕微鏡写真を撮影し十分な数のリポソーム粒子について断面積、最長径を計測し下記式から真球度を求めて、その算術平均として求めることができる。TEMで撮影する粒子数としては20個以上が好ましく、100個の粒子を撮影するのが更に好ましい。
f=[M/(π/4)]0.5/Nmax
(式中、Mは微粒子の断面積nm2を、Nmaxはその断面の最長径nmをそれぞれ表す。)
なお、本発明の薬剤内包リポソームの体積平均粒径は、30〜500nmであることを特徴とする。好ましい体積平均粒径は、50〜250nmである。
【0024】
当該平均粒径は、動的光散乱法(例えば、寺田弘/吉村哲朗編著、「ライフサイエンスにおけるリポソーム実験マニュアル」、103〜106頁、シュプリンガー・フェアラーク東京、1992年8月1日発行等参照。)により測定することができる。本発明においては、光散乱粒径測定装置ゼータサイザー1000(マルバーン社製)で測定した。
【0025】
本発明の薬剤内包リポソームの粒径分布は単分散性であることが好ましい。すなわち、リポソームの平均粒径をr、粒径分布における標準偏差をσとしたとき、σ/rが0.4以下であり、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下であることが好ましい。なお、粒径の分布についても上記測定装置で測定することができる。
【0026】
(内包薬剤)
本発明の薬剤内包リポソームにおいて、内包される薬剤は水溶性であっても、油溶性であってもよい。水溶性薬剤は脂質二重膜に囲まれた閉鎖空間の水相に内包される。油溶性薬剤はリン脂質二重膜の内部に内包される。内包される薬剤としては、例えば広く医薬品に使用される物質が挙げられる。具体的には造影化合物、抗がん化合物、抗酸化化合物、抗菌化合物、抗炎症化合物、血行促進化合物、美白化合物、肌荒れ防止化合物、老化防止化合物、発毛促進化合物、保湿化合物、ホルモン剤、ビタミン類、色素、及びタンパク質類などが挙げられる。この中でも造影化合物が本発明の薬剤として好ましく、特に造影化合物としては、水溶性非イオン型ヨード系化合物が挙げられ、この場合X線造影剤(単に「造影剤」ともいう。)として製造され用いられる。以下、本明細書では、薬剤内包リポソームとして、水溶性の非イオン型ヨード系化合物を内包するX線造影剤を中心に説明するが、この態様に限定する意図ではない。
【0027】
造影性物質としては、水溶性ヨード系化合物を用いることができる。水溶性ヨード系化合物は、造影性があればイオン性、非イオン性を問わず、特に規定されない。一般的には非イオン性ヨード化合物の方が、イオン性ヨード化合物よりも浸透圧が低く、投与された人体に対する負荷が小さいためにより望ましい。水溶性の非イオン性ヨード系化合物としてヨウ化フェニルを含み、例えば2,4,6−トリヨードフェニル基を少なくとも1個有する非イオン性ヨード化合物が好適である。
【0028】
そのような非イオン性ヨード化合物として、具体的には、イオパミドール(Iopamidol)、イオメプロール(Iomeprol)、イオヘキソール(Iohexol)、イオペントール(Iopentol)、イオプロミド(Iopromide)、イオシミド(Iosimide)、イオベルソール(Ioversol)、イオトロラン(Iotrolan)、イオタズル(Iotasul)、イオジキサノール(Iodixanol)、イオデシノモール(Iodecimol)、(1,3−ビス−(N−3,5−ビス−[2,3−ジヒドロキシプロピルアミノカルボニル]−2,4,6−トリヨードフェニル)−N−ヒドロキシアセチルアミノ)プロパンなどが挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
また、抗がん化合物としては、具体的には、メトトレキサート、ドキソルビシン、エビルビシン、ダウノルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトボシド、エリブシチン、カプトデシン、パクリタキセル、ドセタキソル、シスブラチン、ブレドニゾンなどが挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
なお本明細書において、上記化合物は遊離形態の他に、その塩、水和物なども含めて言及することがある。
【0031】
本発明の薬剤内包リポソームをX線検査用造影剤として用いる場合、好適なヨード系化合物としては、高度に親水性であり、かつ高濃度でも浸透圧が高くならないイオメプロール、イオパミドール、イオトロラン、イオジキサノールが好ましい。特にイオトラン、イオジキサノールといった二量体非イオン性ヨード化合物では、同一ヨード濃度の造影剤を調製しても全体のモル数が低いために浸透圧をさらに低下させる利点がある。
【0032】
本発明の薬剤内包リポソームにおける水溶性ヨード系化合物の濃度は、該造影化合物の性質、意図する製剤の投与経路及び臨床上の指標といった要因に基づき任意に設定することができる。リポソーム内に封入されたヨード系化合物の量は、典型的にはX線造影剤における全ヨード化合物の5〜40質量%、好ましくは5〜35質量%、より好ましくは10〜25質量%であることが望ましい。この内包化率はリポソーム粒子の細密充填の限界を下回るため、リポソームにおける造影物質の保持安定性は損なわれない。
【0033】
(リポソーム)
〈脂質膜成分〉
本発明におけるリポソーム膜の脂質成分は特に限定されるものではなく、公知の様々な態様の配合組成を適用することができる。一般的には、リン脂質を主体として構成され、その他、糖脂質や、リポソームの膜安定化剤として作用するステロール類などが含まれてもよい。リポソームを構成する脂質膜の組成は、膜の強度やリポソームの生体内での挙動などに影響を与えるので、用途に応じて好適な組み合わせ、混合比を選択すればよい。
【0034】
上記リン脂質は、卵白、大豆もしくはその他の動植物に由来するもの(レシチン等)であっても、合成または半合成により得られたもの(リン脂質の部分的もしくは完全な水素添加物、またはポリエチレングリコールやアミノグリカン類を導入したリン脂質誘導体等)であってもよい。例えば、ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジミリストリルホスファチジルコリン(DMPC)、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)等の中性のグリセロリン脂質;ホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)、ホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)等の負に荷電したグリセロリン脂質;ホスファチジルエタノールアミン、その他スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質などを用いることができる。
【0035】
これらのリン脂質は、通常は単独で使用されるが、2種以上を併用してもよく、ホスファチジルコリンを主体とすることが好ましい。なお、2種以上の荷電リン脂質を使用する場合には、負電荷のリン脂質同士または正電荷のリン脂質同士で使用することが、リポソームの凝集防止の観点から望ましい。また、中性リン脂質と荷電リン脂質を併用する場合、これらの質量比は、通常200:1〜3:1、好ましくは100:1〜4:1、より好ましくは40:1〜5:1である。
【0036】
糖脂質としては、例えば、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド硫酸エステル等のグリセロ脂質;ガラクトシルセラミド、ガラクトシルセラミド硫酸エステル、ラクトシルセラミド、ガングリオシドG7、ガングリオシドG6、ガングリオシドG4等のスフィンゴ糖脂質が挙げられる。
【0037】
また、ステロール類としては、例えば、コレステロール、ジヒドロコレステロール、コレステロールエステル、フィトステロール、シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、コレスタノール、ラノステロール、さらに、1−O−ステロールグルコシド、1−O−ステロールマルトシド、1−O−ステロールガラクトシドといったステロール誘導体が挙げられ、特にコレステロールが好ましい。ステロール類の使用量は、リン脂質1質量部に対して通常は0.05〜1.5質量部、好ましくは0.2〜1質量部、より好ましくは0.3〜0.8質量部の割合である。
【0038】
ポリアルキレンオキシド基(ポリオキシアルキレン鎖)またはPEG鎖をリポソーム膜表面に付けることにより、新たな機能をリポソームに付与することができる。例えば、PEG化リポソームには免疫系から認識されにくくなる効果が期待できる。さらにリポソームは親水的傾向を持つことにより血中安定性を増して、長時間にわたり血液中の濃度を維持できることが明らかになっている
生理学的に許容される各種の緩衝剤、EDTANa2−Ca、EDTANa2などといったエデト酸系のキレート化剤、無機塩類、薬理的活性物質(例えば血管拡張剤、凝固抑制剤など)、さらには浸透圧調節剤、安定化剤、抗酸化剤(例えばα−トコフェロール、アスコルビン酸)、粘度調節剤、保存剤などを加えることができる。好ましくは、アミン系緩衝剤及びキレート化剤をともに含めるのがよい。pH緩衝剤として、水溶性アミン系緩衝剤及び炭酸塩系緩衝剤が好ましく用いられる。特に好ましくはアミン系緩衝剤であり、中でもトロメタモールが望ましい。キレート化剤は好ましくは、EDTANa2−Ca(エデト酸カルシウム2ナトリウム)である
(リポソームの調製方法)
本発明で用いる空のリポソームの製造方法は特に限定されるものではなく、公知の各種の製造方法により得られたリポソームを対象とすることができる。例えば、バンガム法、逆相蒸発法、凍結融解法、機械的分散法、超臨界二酸化炭素法、押出法が知られているが、内包する薬剤により使用できる製造方法が異なる場合があるし、また製造方法の違いで得られるリポソームの形態や特性の傾向は相違するため、所望の形態や特性を有するリポソームが得られる製造方法を適宜選択すればよい。
【0039】
例えば、バンガム法や逆相蒸発法は、有害な溶剤を使用し粒径も単分散性が低いが装置的には容易な製造方法であり、押出法と組み合わせると粒径も改善される。機械的分散法は一枚膜にはなりにくいが高濃度で製造できる可能性がある、また、超臨界二酸化炭素法は、単層の脂質膜を持ち一枚膜で高内包率のリポソームを作製するのに優れている。押出法は前述の様々な作製方法と組み合わせて粒子を整粒するのに優れている。
【0040】
(高真球を得るリポソームの製造工程)
本発明の薬剤内包リポソームの製造方法は、アルコール類を30質量%以上含有するリポソーム分散液を加圧下、膜通過させる工程を含む製造方法であることが好ましい。
【0041】
すなわち、上述のようなリポソームの製造工程の後、さらに、アルコール類を30質量%以上含有させた状態で、加圧を伴う膜(フィルター)通過を行うことで単分散性に優れ、平均真球度の高い薬剤内包リポソームを得ることができる。
【0042】
使用することができるアルコール類としてはメタノール、エタノール、プロパノール、i−プロパノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノールが好ましく、安全性と価格からはエタノールが好ましい。
【0043】
使用するフィルターとしては孔径0.1〜0.4μmのポリカーボネート膜またはセルロース膜をフィルターとして装着した静圧式押出し装置に通すことにより、中心粒径が50〜500nm程度であるリポソームが効率よく調製される。このようなサイズのリポソームは、毛細血管を閉塞するおそれがほとんどない利点を有する。上記の静圧式押出し装置としては、例えば、日油リポソーム社製「エクストルーダー」、野村マイクロサイエンス社製「リポナイザー」などが挙げられる。この工程では、更に微粒子化(所望の粒径に調整)を行う場合には、別途加温しながら加圧し、釜内で撹拌するといった手法を用いることもでき、高圧乳化装置(例えば、ナノマイザー、マイクロフルイタイザー、マントンゴーリンホモジナイザー、OHL式装置等)を工程内に用いて凝集を抑制しながら、更に微細化しフィルターを通過した液をまた釜に循環することも可能である。
【0044】
膜濾過工程における温度条件は50〜100℃、好ましくは60〜80℃である。また、膜濾過の圧力はCO2、N2などの気体で0.1〜50MPa、さらに0.1〜3MPaで加圧を行うのが好ましい。
【0045】
アルコール類は真球度を上げる操作中は30質量%以上含有することが必要だが、リン脂質等に対する溶解度が高いため操作終了後は低温にして溶解性を落とすか、そのまま凍結乾燥、スプレードライ等の脱水操作で乾燥するのが好ましい。また、工程内に限外濾過膜や逆浸透膜を置いて真球度を上げる操作とアルコール類を除去することを同時に行うことも可能である。その他高圧蒸気滅菌器で滅菌と同時にアルコール類を除去することも可能である。
【0046】
薬剤の保存性を考えると、以上のようにして薬剤内包リポソームを製造した後、さらにそれを凍結乾燥し、使用までの間の保管に適した態様にすることが望ましい。
【0047】
凍結乾燥は、従来のリポソームを製造する場合と同様の手段や装置を用いて行うことができる。例えば、間接加熱凍結方法、冷媒直膨方法、熱媒循環方法、三重熱交換方法、重複冷凍方法などの手法に従い、適切な条件によって(例えば、−120〜−20℃の温度、1〜15Paの圧力下で、16〜26時間)行えばよい。
【0048】
(薬剤内包リポソームの使用方法)
本発明により製造した薬剤内包リポソームは、従来のリポソームと同様にして使用することができる。前述のようにして凍結乾燥したリポソームは、激しい攪拌や加熱などを行わなくても水性媒体に短時間で完全に分散させることができ、リポソーム含有製剤として好適に利用できる。
【0049】
リポソームを分散させる水性媒体としては、最終的に得られる製剤の態様に応じて所望の水性媒体を用いればよいが、リポソーム内外の浸透圧差によるリポソームの不安定化を抑制し、薬剤等の保持率をより一層向上させることが可能であることから、リポソームに内包した薬剤類を同程度の濃度で含む水性溶媒であることが望ましい。
【0050】
また、リポソーム含有製剤の浸透圧濃度、粘度、pHなどの性状は、人体に投与することなどを考慮して適宜調整すればよい。例えば、人体に投与する場合、浸透圧濃度は通常250〜500mosmol/L、好ましくは290〜350mosmol/Lである。37℃におけるリポソーム含有製剤の粘度は、通常20mPa・s以下、好ましくは18mPa・s以下である。室温でのpHは、通常6.5〜8.5、好ましくは6.8〜7.8程度であり、必要であれば各種の緩衝液を用いてもよい。
【0051】
さらに、リポソーム含有製剤中に含有される薬剤の量についても、用途などに応じて適切に設定すればよい。例えば、ヨード系X線造影剤として用いる場合には、通常想定される10〜300mlの投与量において100〜500mgI/ml、好ましくは150〜300mgI/mlとなるようにすればよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例1
(リポソーム液の調製)
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)460mgと、コレステロール220mgの混合物をエタノール10gに溶解した溶液をステンレス製の特製オートクレーブに仕込み、オートクレーブ内を60℃に加熱後に液体二酸化炭素を導入した。オートクレーブ内の圧力を初期値の5MPaから気体圧縮装置を用いて13MPaにまで上げて、二酸化炭素を超臨界状態にし、撹拌しながら、さらに造影剤溶液(イオヘキソール517.7mg/ml(ヨード含有量240mg/ml)、トロメタモールを1mg/ml、エデト酸カルシウム2ナトリウム(EDTANa2−Ca)0.1mg/mlを含有し、適量の塩酸及び水酸化ナトリウムでpHを7前後に調整)50gを定量ポンプで連続的に注入した。注入終了後、系内を減圧して二酸化炭素を排出し、造影剤溶液を含有するリポソームの分散液を得た。
【0054】
(真球度調整処理)
この試料にエタノール15gを加えて溶液中のエタノール濃度を33%とした後、80℃の加熱条件下でエクストルーダ(日油リポソーム社製)を用いて膜濾過を各フィルターごとに10回行った。使用した装置はリポナイザー(日本油脂製)フィルターとしては0.80μmと0.40μmを順次使用した素材はいずれもポリカーボネート・フィルター(アドバンテック社製)であり、加圧圧力はN2ガスで0.3MPaで行った。最後に高圧蒸気滅菌器STH307FA(アドバンテック社製)で121℃、30分の条件で滅菌とエタノール除去を行った。得られたリポソームの平均粒径170nmで、内包率8.0%、平均真球度9.0であった。
【0055】
実施例における測定は全て以下の条件で測定した。
【0056】
(粒径の測定測定)
光散乱粒径測定装置ゼータサイザー1000(マルバーン社製)で測定した。リポソームの個数としては各サンプル毎に100個の粒子について測定し、その平均値を平均粒径とした。
【0057】
(真球度の測定)
TEM撮影装置としてJEM2000EX(日本電子製)を用いて加速電圧100kvでリポソームを撮影した。リポソームの個数としては各サンプル毎に100個の粒子について測定し、その平均値を平均真球度とした。
【0058】
(薬剤内包率の測定)
薬剤内包リポソームの分散液50μlを採取し1.8%生理食塩水950μlを加えて遠心分離(6,000rpm、20分)を行った。得られた上清及び残渣(リポソーム)を完全に分離した後、各々アルコールを加えて溶解し20mlに仕上げた。波長240nmにおける吸光度を測定し、内包薬剤の吸光度と薬剤濃度の検量線に基づき、リポソーム内包薬剤質量及び系内の全薬剤質量を計算して、以下の式で薬剤内包率を求めた。ここで、リポソーム内包薬剤質量は残渣から測定された薬剤質量、全薬剤量は上清と残渣から測定された薬剤質量の和とする。
【0059】
薬剤内包率(%)=リポソーム内包薬剤質量/全薬剤質量×100(%)
比較例1
実施例1で調製したリポソーム液を用いて、エタノール濃度が約17%のまま、実施例1の真球度調整処理と全く同じ条件で膜濾過を行い。最後に高圧蒸気滅菌器STH307FA(アドバンテック社製)で121℃、30分の条件で滅菌とエタノール除去を行った。得られたリポソームの平均粒径180nmで、内包率8.1%、平均真球度7.5であった。
【0060】
実施例2
(リポソーム液の調製)
クロロホルム420mlに、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)860mgと、コレステロール384mgとを溶解した。この溶液に、ジイソプロピルエーテルを420ml加え、さらに、イオヘキソール150を17g加え、60℃に加熱した後、超音波を5分間かけエマルションを作製した。得られたエマルションをロータリーエバポレーターにかけ、45℃にて約50mlになるまで濃縮した。この中に、イオヘキソール150を35g、純水を20g加え、再度40gになるまで濃縮し、さらにイオヘキソール150を50g、純水を25g加え、水を十分濃縮後純水を加えて100gとした。
【0061】
(真球度調整処理)
この試料にエタノール45gを加えて溶液中のエタノール濃度を約31%とした後、80℃の加熱条件下でエクストルーダ(日油リポソーム社製)を用いて膜濾過を各フィルターごとに10回行った。使用した装置はリポナイザー(日本油脂製)フィルターとしては0.80μmと0.40μmを順次使用した素材はいずれもポリカーボネート・フィルター(アドバンテック社製)であり、加圧圧力はN2ガスで0.3MPaで行った。最後に高圧蒸気滅菌器STH307FA(アドバンテック社製)で121℃、30分の条件で滅菌とエタノール除去を行った。得られたリポソームの平均粒径240nmで、内包率5.9%、平均真球度8.1であった。
【0062】
比較例2
実施例1で調製したリポソーム液を用いて、エタノール濃度が約17%のまま、実施例1の真球度調整処理と全く同じ条件で膜濾過を行い。最後に高圧蒸気滅菌器STH307FA(アドバンテック社製)で121℃、30分の条件で滅菌とエタノール除去を行った。
【0063】
得られたリポソームの平均粒径270nmで、内包率4.2%、平均真球度5.1であった。
【0064】
[造影剤の投与評価1]
実施例1、2及び比較例1、2で得られた造影剤内包リポソームを内包ヨード量90mgI/kg用量となるように肝癌発癌ラットにそれぞれ静脈内注射した。注射後、腹部についてX線CTスキャナー(GE社製LightSpeedUltra)を用い、管電圧120kv、管電流350mAの出力にて、スライス厚5mm、スライス間隔2.5mmでマルチスライス撮影を行い肝実質部分のCT値を計測した(造影剤投与前と投与1時間後に計測。)。
【0065】
(コントラスト評価)
ΔCT:造影剤投与後から造影剤投与前のノイズをキャンセルした規格濃度
○:40HU以上
△:20HU〜40HU未満
×:20HU未満
結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
肝臓中の造影剤量は投与した内包造影剤量を100として相対値で表した。また、造影剤分布は血液と肝臓の存在量を100として相対値で表した。
【0068】
平均真球度の高い実施例1、2のリポソームでは、真球度の低い比較例1,2に比べて腫瘍部分がいずれもはっきり識別できた。表1から明らかなように造影剤内包率が低い実施例2の方が高い比較例1よりも良好な造影能を示すことから肝臓への浸透性及びクッパ細胞への取り込みが真球度と相関していることが推察される。真球度0.8以上のリポソームはいずれも細胞に対する取り込みが高い結果でありDDSとして好ましい性能であることが分かる。解剖して、投与量に対するラットの肝臓中の造影剤量を調べたところ本発明に係る実施例1及び2では肝臓中への集積性が高いことが確かめられた。
【0069】
(肝癌発癌ラットの作製)
特開2002−95382号公報に従い、肝癌発癌ラットを作製した。F344系雄ラット(5週齢)にCDAA食にて1週間飼育後に、DEN 20mg/kg体重を腹腔内に単回投与し、CDAA食にて通算で64週間飼育し、さらに普通食(CRF−1)にて8週間以上飼育することにより、肝癌発癌ラットを作製した。
【0070】
実施例3
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)0.8gと、コレステロール300mg、PEG−リン脂質(日本油脂株式会社製、SUNBRIGHTDSPE−020CN)100mgの混合物をステンレス製の特製オートクレーブに仕込み、オートクレーブ内を60℃に加熱し、次いで液体二酸化炭素を高圧ボンベから加えた。撹拌を行いながら加圧装置を用いてオートクレーブ内の圧力を12MPaにまで上げて、二酸化炭素を超臨界状態にし、撹拌しながら脂質類を分散・溶解させた。さらに撹拌しながら、造影剤溶液(日局イオパミドール溶液306.2mg/ml(ヨード含有量150mg/ml)、トロメタモールを1mg/ml、エデト酸カルシウム2ナトリウム(EDTANa2−Ca)0.1mg/mlを含有し、適量の塩酸及び水酸化ナトリウムでpHを7前後に調整)50mlを定量ポンプで連続的に50分間かけて注入した。注入終了後、系内を減圧して二酸化炭素を排出し、造影剤溶液を含有するリポソームの分散液を得た。
【0071】
(真球度調整処理)
この試料にエタノール22.5gを加えて溶液中のエタノール濃度を約31%とした後、80℃の加熱条件下でエクストルーダ(日油リポソーム社製)を用いて膜濾過を各フィルターごとに10回行った。使用した装置はリポナイザー(日本油脂製)フィルターとしては0.80μmと0.40μmを順次使用した素材はいずれもポリカーボネート・フィルター(アドバンテック社製)であり、加圧圧力はN2ガスで0.3MPaで行った。最後に高圧蒸気滅菌器STH307FA(アドバンテック社製)で121℃、30分の条件で滅菌を行った。得られたリポソームの平均粒径145nmで、内包率8.3%、平均真球度8.6であった。
【0072】
比較例3
実施例3で調製したリポソーム液を用いて、エタノールがないまま、実施例3の真球度調整処理と全く同じ条件で膜濾過を行い。最後に高圧蒸気滅菌器STH307FA(アドバンテック社製)で121℃、30分の条件で滅菌を行った。得られたリポソームの平均粒径150nmで、内包率8.1%、平均真球度7.8であった。
【0073】
以上の結果を表2にまとめて示す。
【0074】
【表2】

【0075】
[造影剤の投与評価2]
体重3.1kgの家兎の腹部についてX線CTスキャナー(GE社製LightSpeedUltra)を用い、管電圧120kv、管電流350mAの出力にて、スライス厚5mm、スライス間隔2.5mmでマルチスライス撮影を行い肝実質部分のCT値を計測した。次いで実施例3及び比較例3の造影組成物12mlを0.5ml/秒・kg体重の速度で耳介静脈より注入した。注入開始後、30秒後、1分30秒後、5分後、10分後、20分後、30分、80分後に、マルチスライス撮影を行い、肝臓の同位置部分のCT値を計測した。注入後のCT値から、注入前のCT値を差し引いたΔCT値を求めた。
【0076】
比較として、上記製造例に用いた造影剤溶液(日局イオパミドール溶液306.2mg/ml(ヨード含有量150mg/ml)、トロメタモールを1mg/ml、エデト酸カルシウム2ナトリウム(EDTANa2−Ca)0.1mg/mlを含有し、適量の塩酸及び水酸化ナトリウムでpHを7前後に調整)12mlを用いて。同体重の家兎について、同様のマルチスライス撮影を行い、同様に注入後のCT値から、注入前のCT値を差し引いたΔCT値を求めた。注入後の時間経過を横軸に、ΔCT値を縦軸にとり、両者の傾きを比較した(図1参照)。
【0077】
これらの結果から明らかなように、本発明の造影組成物を用いた肝実質の撮影では、数
十分後以降でもCT値が高く、静脈内に投与後、15〜90分のタイミングであれば任意の時間適切な造影画像を得ることができる。また静脈内に投与して10分以内に観察される最初のピークのCT値は、比較造影剤よりも強く現れている。この事実に基づき、従来行われている投与直後の動態観察においては、本発明の造影組成物を用いると造影剤量の低減あるいは被爆線量の低減を図ることができる。
【0078】
また、本発明の造影組成物を用いた肝実質の撮影では、注入してから20分前後に見られる小さな増加が再び見られる。これは、注入した組成物のリポソームが肝臓Kupffer細胞コンピュータ断層撮影の食作用により取り込まれ、該部位にリポソーム内のヨード系化合物が集積したものによるものと考えられる。この部分の増加の様子を比較することにより、撮影対象の部分についての臨床的情報がさらに得られることが期待される。
【0079】
実施例4
(リポソーム製剤の作製)
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)86mgと、コレステロール38.4mgをEtOH1gに溶解しステンレス製の特製オートクレーブに仕込み、オートクレーブ内を60℃に加熱し、次いで加圧液体二酸化炭素を加えた。撹拌を行いながら、オートクレーブ内の圧力を、5MPaから12MPaにまで上げて、二酸化炭素を超臨界状態にし、撹拌しながら脂質類を分散・溶解させた。さらに撹拌しながら、水溶性キトサン(協和テクノス製フローナックS)90mgを溶解した水10gを定量ポンプで連続的に50分間かけて注入した。注入終了後、系内を減圧して二酸化炭素を排出し、水溶性キトサンを含有するリポソームの分散液を得た。
【0080】
(真球度調整処理)
この試料にエタノール3.5gを加えて溶液中のエタノール濃度を約31%とした後、80℃の加熱条件下でエクストルーダ(日油リポソーム社製)を用いて膜濾過を各フィルターごとに10回行った。使用した装置はリポナイザー(日本油脂製)フィルターとしては0.80μmと0.40μmを順次使用した素材はいずれもポリカーボネート・フィルター(アドバンテック社製)であり、加圧圧力はN2ガスで0.3MPaで行った。最後に高圧蒸気滅菌器STH307FA(アドバンテック社製)で121℃、30分の条件で滅菌を行った。得られたリポソームの平均粒径205nmで、内包率7.3%、平均真球度8.1であった。
【0081】
比較例4
実施例1で調製したリポソーム液を用いて、エタノール濃度が約9%のまま、実施例4の真球度調整処理と全く同じ条件で膜濾過を行い。最後に高圧蒸気滅菌器STH307FA(アドバンテック社製)で121℃、30分の条件で滅菌とエタノール除去を行った。得られたリポソームの平均粒径210nmで、内包率6.2%、平均真球度7.3であった。
【0082】
[水溶性キトサンの投与評価1]
実施例4及び比較例4で得られた水溶性キトサン内包リポソームを20ml/kg用量となるように肝癌発癌ラットにそれぞれ尾静脈から投与した。投与後、3時間後にラットを解剖してラットの体内への水溶性キトサン分布を調べた。結果を表3に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
肝臓中の水溶性キトサン量は投与した内包造影剤量を100として相対値で表した。
【0085】
表3に示した結果から明らかなように、本発明に係る実施例4では肝臓中への集積性が高いことが確かめられた。このことから真球度の高い水溶性キトサン内包リポソームは肝臓への浸透性及びクッパ細胞への取り込みが高いことが期待され、肝機能向上に良いとされる水溶性キトサンを効果的に肝臓へ送るDDS性能を高める方法として有効であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】造影剤の投与評価2:家兎に造影剤投与後のΔCT値の経時変化を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を内包させたリポソームの体積平均粒径が30〜500nmであり、下記式で表される真球度fの平均値が0.8〜1であることを特徴とする薬剤内包リポソーム。
f=[M/(π/4)]0.5/Nmax
(式中、Mは微粒子の断面積nm2を、Nmaxはその断面の最長径nmをそれぞれ表す。)
【請求項2】
前記薬剤が造影剤であることを特徴とする請求項1に記載の薬剤内包リポソーム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の薬剤内包リポソームの製造方法であって、アルコール類を30質量%以上含有するリポソーム分散液を加圧下、膜通過させる工程を含むことを特徴とする
薬剤内包リポソームの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のリポソームを用いることを特徴とするリポソーム製剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−127279(P2008−127279A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310039(P2006−310039)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】