説明

薬剤分配装置

【課題】一般に、製品や有効薬剤成分の堆積が最小化されるような薬剤分配装置を提供すること。
【解決手段】本発明による薬剤を投与するための圧力投与容器は、貯蔵または投与の間に薬剤と接触する圧力投与容器の構成部材の内部側表面の少なくとも1以上の部分が、少なくともその一部に接合された1以上の冷プラズマ(cold plasma )重合化モノマの層を有する。前記の層は、冷プラズマ重合化フッ化炭化水素である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力投与容器の改良に係り、とりわけ、薬剤の計測された一回分量を投与するための圧力投与容器に関している。
【背景技術】
【0002】
計測された一回分量の吸入器において、圧力投与容器からのエアゾール(煙霧)流が、患者あるいは吸入器の使用者に向かって空気流内に発射される。この空気流は、使用者が吸入器のマウスピースを介して吸い込むことによって生成され、薬剤は、空気取入孔とマウスピースとの間の地点でこの空気流内に解放される。
【0003】
従来の、圧力投与容器と共に用いるための計測バルブは、環状の計測チャンバを規定するバルブ部材内で同軸に摺動可能なバルブ柄部と、当該バルブ柄部とバルブ部材とのそれぞれの外側および内側端の間で作用してそれらの間の計測チャンバをシールするための外側および内側環状シールと、を備えている。バルブ柄部は中空であり、バルブ柄部の非投与位置では、計測チャンバが容器に接続されてそこからの製品が充填される。バルブ柄部は、バネの作用に抗して投与位置まで可動である。投与位置では、計測チャンバは容器から分離され、製品の排出のために大気に対して開口される。
【0004】
他の薬剤分配装置は、粉末状の薬剤を収容するカプセルが投与ステーションで機械的に開放される装置を含んでいる。投与ステーションでは、吸い込まれた空気が粉末と合流し、その後、粉末がマウスピースから投与される。
【0005】
このような薬剤分配装置の全てに伴っている問題は、装置の内部側面および他の構成部材上において、薬剤、あるいは、液体状の高圧ガス内での粉子状製品の懸濁からの固体成分の堆積が、多くの作動サイクル及び/または貯蔵の後に発生することである。このことは、装置の作動効率を低減させると共に、製品の堆積が投与され得る有効薬剤量を低減させて処置の効率をも低減させる。
【0006】
幾つかの従来装置は、液体状の高圧ガスと製品との混合物の運動の結果として堆積された粒子を除去するという試みのため、投与装置が振られるようになっている。しかしながら、この方策は容器の本体部自体の内部で有効であるが、計測チャンバの内側面に堆積された粒子にとっては有効でない。チャンバの大きさは著しく小さいので、(チャンバを通る流路の曲がりによって引き起こされる)計測チャンバ内の流体の制限された流れは、計測チャンバ内の流体が堆積された粒子を十分に除去するのに十分なエネルギをもっては動かない、ということを意味している。
【0007】
1つの解決策が、係属中の出願GB97211684.0に提案されている。
それには、フッ素ポリマ、セラミクス、ガラスなどの材料のライナが、計測バルブ内の計測チャンバの壁の部分を裏打ちするように設けられている。これは、これらのタイプの投与装置における堆積の問題を解決するが、それは、ライナの挿入を見込んでバルブ部材を製造するために、鋳型や成形(モールド)工具の再設計や修正を必要とする。
【0008】
本発明の目的は、一般に、製品や有効薬剤成分の堆積が最小化されるような薬剤分配装置を提供することである。
【0009】
本発明によれば、薬剤を投与するための圧力投与容器であって、貯蔵または投与の間に薬剤と接触する圧力投与容器の構成部材の内部側表面の少なくとも1以上の部分が、少なくともその一部に接合された1以上の冷プラズマ(cold plasma )重合化モノマの層を有し、前記の層は冷プラズマ重合化フッ化炭化水素である、圧力投与容器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の薬剤分配装置の1タイプである、吸入装置の断面図である。
【図2】薬剤分配装置の他のタイプで用いられる計測バルブの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の特別な実施の形態が、例としてのみ、添付の図面を参照して説明される。
【0012】
図1は、本発明の薬剤分配装置の1タイプである、吸入装置の断面図である。
図2は、薬剤分配装置の他のタイプで用いられる計測バルブの断面図である。
図1において、薬剤のような製品のための吸入装置10は、薬剤の圧力投与容器12を受容するためのハウジング11と、吸入装置10の使用者の口に挿入するためのマウスピース部14と、を備えている。
【0013】
容器ハウジング11は、全体に円筒形で、その上方端で開口している。ハウジング11の下方壁15は、容器12の管状のバルブ柄部17を受容するための環状のソケット16を含んでいる。このソケット16は、オリフィス19で終わるダクト18を介して、マウスピース部14と連通している。下方壁15は、また、空気が容器ハウジング11を通ってマウスピース部14内へ流れることを許容すべく、孔20を有している。
【0014】
マウスピース部14は、全体に円形状、または、口に適合するような形状となっており、ハウジング11に接続されてその一部を形成している。
【0015】
使用時において、患者または使用者は、通常は片手で吸入装置10を保持し、彼の口をマウスピース部14に当てる。使用者はこの時、マウスピース部14を介して吸入し、このことが、円筒形ハウジング11を通っての、投与容器12の周りのその開口端から孔20を通ってマウスピース部14への空気流を生成する。使用者がマウスピース部14を介しての吸入を開始した後で、容器12はその柄部17上に下方向きに押下げられ、容器12から1回分量の薬剤が解放される。1回分量の薬剤は、容器12内の圧力によって、ダクト18を介してオリフィス19を通って発射される。それは、マウスピース部14を通る空気流と混合し、使用者によって吸込まれる。
【0016】
伝統的な吸入装置においては、全ての構成部材はプラスチック成形品(モールディング)である。このことが、前述の堆積問題を発生させる。吸入装置のような装置で特に問題となる領域は、マウスピース部14の内部側面21、ダクト18の内部側面22及びオリフィス19を規定する壁23である。幾つかの吸入装置10では、ダクト18の少なくとも一部の直径が0.5mm程度と小さく、その内部側表面22上の堆積が、利用できる有効薬剤成分の減少という問題を引起こすだけでなく、投与の困難性をも引起こす。
【0017】
図2に図示された計測バルブ100は、他のタイプの薬剤分配装置または投与装置であり、バルブ部材112から突出してバルブ部材112内で軸上で摺動可能なバルブ柄部111を含んでいる。バルブ部材112とバルブ柄部111とが、それらの間に、環状の計測チャンバ113を規定している。バルブ部材112は、投与されるべき製品を収容する圧力容器(図示せず)内に位置するバルブ本体114内に配置されている。計測バルブ110は、容器の上部にひだ付けされた(crimped )口輪115によって、容器に対して所定の位置に保持される。バルブ本体114と容器との間には、環状ガスケット116によるシーリングが与えられている。
【0018】
弾性材料の外側シール117と内側シール118は、バルブ柄部111とバルブ部材112との間に放射状に延びている。外側シール117は、バルブ部材112とバルブ柄部111との間に放射状で圧縮されており、明確な密封(シーリング)接触を提供している。この圧縮は、組立中に、バルブ柄部111上の締まりばめを提供するシールを用いることによって、及び/または、圧力容器上への口輪115のひだ付けによって、実現される。
【0019】
バルブ柄部111は、端部119を有している。当該端部119は、バルブ部材112及び口輪115から突出し、中空管であり、計測チャンバ113内に設けられたフランジ120によって終了している。バルブ柄部111の中空の端部119は、バルブ柄部111の側壁を通って放射方向に延びる排出ポート121を有している。バルブ柄部111は、さらに、中間部122を有している。当該中間部122は、中空であって、中央通路を規定すると共に、中央空洞を介して相互接続されている一対の間隔の空いた放射方向ポート123,124を有している。
【0020】
バネ125が、バルブ柄部111の中間部122とバルブ柄部111の内方側端部127とを分離する第2フランジ126と、バルブ本体部114の一端部と、の間に延びており、バルブ柄部111を非投与位置に付勢しており、この時、第1フランジ120が外側シール117と密封接触状態に保持されている。第2フランジ126は、バルブ部材112の外側で、かつ、バルブ本体部114の内側に位置している。
【0021】
計測チャンバ113は、外側シール117によって、大気から密封されており、内側シール118によって、バルブ110が取付けられている圧力容器から密封されている。図1に示されたバルブ110の図において、放射方向ポート123,124は、バルブ部材111の中間部122内の中央空洞と共に、計測チャンバ113を容器と接続(連通)する。これにより、この非投与状態において、計測チャンバ113が、投与されるべき製品で充填され得る。
【0022】
バルブ柄部111が容器の内側へ移動するように、バルブ部材112に対してバルブ柄部111を押し付ける時において、放射方向ポート124は、それが内側シール118を通過する時に閉じられて、計測チャンバ113を圧力容器の内容物から孤立させる。さらに、同じ方向に投与位置までバルブ柄部111を移動すると、排出ポート121が外側シール117を通過して計測チャンバ113と連通する。この投与位置において、計測チャンバ113内の製品は、バルブ柄部111の中空端部119内の排出ポート121及び空洞を介して、大気に自由に排出され得る。
【0023】
バルブ柄部111が解放されると、戻りバネ125の付勢力が、バルブ柄部111をその最初の位置にまで戻す。結果として、計測チャンバ113は、さらなる投与操作のための準備として再充填される。
【0024】
バルブ部材、バルブ柄部、吸入装置ハウジングなどの従来の薬剤投与装置の構成部分は、一般に、単一成形品(モールディング)として、前述の堆積問題が生じ易いアセタール、ポリエステルまたはナイロンのような材料から形成される。
幾つかの場合には、堆積問題が発生する領域の部分を裏打ちするために、フッ素ポリマー、セラミクスまたはガラスなどの材料の分離したライナを含むことが可能であるが、このことは、構成部材がそのようなライナを収容できるように、鋳型及びモールド工具を再設計または修正することを要求する。
【0025】
本発明においては、圧力投与容器の構成部分が以上に列記した伝統的な材料から従来の工具及び鋳型によって作られる場合の解決法を提供する。この時、それらは、1以上のモノマーの冷プラズマ重合化処理にさらされる。それは、疎水性の処理であり、構成部分の表面上にプラズマポリマーの大変に薄い層を生成する。これは、反摩擦性、耐水性、及び低表面エネルギのような要因のために、適切な表面上での有効薬剤の堆積を顕著に低減する。
【0026】
このプロセスで使用するのに好適なモノマーは、ペルフルオロシクロヘキサン、または、ペルフルオロヘキサンである。これらは、適当な表面上に、プラズマ重合化されたフルオロシクロヘキサンまたはフルオロヘキサンの薄い層を生成する。テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン及びフッ化ビニルのような他のフッ化炭化水素もまた、使用され得る。フルオロエチレンとフルオロプロピレンの2つのモノマーは、共重合フッ化エチレン−プロピレン(FEP)を形成すべく用いられ得る。
【0027】
このプロセスは、「冷プラズマ」処理として知られており、プラズマの本体部内の温度が周囲のものである(ambient )。従って、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ナイロン、アセチル(acetile )及びテトラブチレンテレフタレート(TBT)などの熱可塑性材料が、熱による損傷のおそれなく、取り扱われ得る。この処理は、構成部材が0.005Torr未満に真空引きされたチャンバ内に載置される、真空処理である。1以上のモノマーが、制御された速度でチャンバに導入され、13.56MHzのr.f.信号が、外部アンテナに適用される。プラズマは、チャンバ内で発火されて、所定の時間予め選択された電力設定に維持される。処理の最後に、プラズマは消され、チャンバはフラッシュされて(flushed )、製品が回収される。結果として、プラズマ重合された材料の薄い層(例えば0.005から0.5ミクロン)が、構成部材の表面に親密に結合される。
【0028】
圧力投与容器内の全部の構成部材、または、作動中に薬剤と接触する1以上の構成部材の表面のみ、のいずれもが、本発明による改良された圧力投与容器を提供すべく、処理され得る。図1に示すようなタイプの吸入装置の場合、表面21,22及び23が処理され得る。図2の計測バルブでは、バルブ部材112のみが単独で処理され得る。しかしながら、バルブ本体部114及びシール116,117及び118を含む、バルブの他のプラスチック及びゴム部分の幾つかまたは全てを処理することは、付加的な利点を達成し得る。シール117及び118の処理は、シール117及び118とバルブ柄部111との間の摩擦が低減されて、装置のより容易な操作をもたらすという付加的利点を有する。バルブ柄部111とシール117及び118との間の摩擦の程度は、バルブ柄部111自体の処理によってさらに低減され得る。このような処理は、シール117及び118とバルブ柄部111とに適用されるべきシリコンエマルジョンや油の必要性を低減あるいは除去する。シール116,117及び118の処理は、これらのシールが弾性材料から製造されている場合の抽出(extractibles)の程度を低減し、圧力投与容器内の高圧ガスへのシールの浸透性を低減し、シールの表面への製品の吸収の程度を低減する、という利点を有する。
【符号の説明】
【0029】
10 吸入装置
11 ハウジング
12 容器
14 マウスピース部
15 下方壁
16 ソケット
17 柄部
18 ダクト
19 オリフィス
20 孔
21 マウスピース部の内部側面
22 ダクトの内部側面
23 壁
110 計測バルブ
111 バルブ柄部
112 バルブ部材
113 計測チャンバ
114 バルブ本体
115 口輪
116 環状ガスケット
117 外側シール
118 内側シール
119 バルブ柄部の端部
120 第1フランジ
121 排出ポート
122 中間部
123、124 放射方向ポート
125 バネ
126 第2フランジ
127 バルブ柄部の内方側端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を投与するための圧力投与容器であって、
貯蔵または投与の間に薬剤と接触する圧力投与容器の構成部材の1以上の内部側表面の少なくとも一部が、少なくともその一部に接合された1以上の冷プラズマ(cold plasma )重合化モノマの層を有しており、
前記の層は、冷プラズマ重合化フッ化炭化水素である
ことを特徴とする圧力投与容器。
【請求項2】
冷プラズマ重合化のための1以上のモノマは、
ペルフルオロシクロヘキサン、ペルフルオロヘキサン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、フルオロエチレン、及び、フルオロプロピレン
を有する材料群から選択される
ことを特徴とする請求項1に記載の圧力投与容器。
【請求項3】
圧力投与装置と共に使用するための計測バルブであって、
当該バルブは、バルブ部材内で同軸に摺動可能なバルブ柄部を備えており、
前記バルブ部材とバルブ柄部とは、環状の計測チャンバを規定しており、
バルブ部材とバルブ柄部とのそれぞれの外側および内側端の間で作用してそれらの間の環状計測チャンバをシールするための外側および内側環状シールが設けられており、
計測バルブの内部側表面の少なくとも一部が、それに接合された1以上の冷プラズマ(cold plasma )重合化モノマの層を有しており、
前記の層は、冷プラズマ重合化フッ化炭化水素である
ことを特徴とする計測バルブ。
【請求項4】
前記内部側表面は、計測チャンバの表面を有している
ことを特徴とする請求項3に記載の計測バルブ。
【請求項5】
前記内部側表面は、バルブ部材の表面を有している
ことを特徴とする請求項3または4に記載の計測バルブ。
【請求項6】
前記内部側表面は、バルブ柄部の表面を有している
ことを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載の計測バルブ。
【請求項7】
前記内部側表面は、前記外側および内側環状シールの両方のうちのいずれかの表面を有している
ことを特徴とする請求項3乃至6のいずれかに記載の計測バルブ。
【請求項8】
バルブは、さらに、バルブ部材が内部に配置されるバルブ本体部を備え、
当該バルブ本体部は、それに接合された1以上の冷プラズマ(cold plasma )重合化モノマの層を有しており、
前記の層は、冷プラズマ重合化フッ化炭化水素である
ことを特徴とする請求項3乃至7のいずれかに記載の計測バルブ。
【請求項9】
さらに、計測バルブと圧力投与容器とのシール面の間で延びるガスケットを備え、
前記ガスケットは、それに接合された1以上の冷プラズマ(cold plasma )重合化モノマの層を有しており、
前記の層は、冷プラズマ重合化フッ化炭化水素である
ことを特徴とする請求項3乃至8のいずれかに記載の計測バルブ。
【請求項10】
実質的に、添付の図面を参照して説明され添付の図面に図示された装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−136695(P2009−136695A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13030(P2009−13030)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【分割の表示】特願2000−340938(P2000−340938)の分割
【原出願日】平成11年2月19日(1999.2.19)
【出願人】(397009934)グラクソ グループ リミテッド (832)
【氏名又は名称原語表記】GLAXO GROUP LIMITED
【住所又は居所原語表記】Glaxo Wellcome House,Berkeley Avenue Greenford,Middlesex UB6 0NN,Great Britain
【Fターム(参考)】