説明

薬剤投与装置

【課題】薬剤の投与量を正確に制御できる薬剤投与装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、人間を含む哺乳動物の生体組織内に薬剤を投与する薬剤投与装置1であって、貫通穴4を介して外部と連通する内部シリンダ5を有する細長い躯体2と、内部シリンダ5に薬剤を導く薬剤導路11と、貫通穴4に設けられ、内部シリンダ5から外部に向かう方向にのみ連通させる第1の一方向弁16と、薬剤導路11の内部シリンダ5への出口に設けられ、薬剤導路11から内部シリンダ5空間に向かう方向のみ連通させる第2の一方向弁17と、内部シリンダ5内を液密に移動可能なピストン6と、ピストン6を移動させるワイヤ7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人間を含む哺乳動物の生体組織内に薬剤を投与する薬剤投与装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人間を含む哺乳動物の生体組織内に薬剤を投与する場合は、血流中に薬剤を投与して血流を介して薬剤を体内に取り入れる方法と、目的とする生体組織(例えば腫瘍)に直接薬剤を投与する方法がある。
【0003】
このうち生体組織に直接薬剤を投与する方法では、生体組織に対してカテーテルを穿刺し、体外の薬剤リザーバからポンプ等で薬剤をカテーテル内に送り出し、カテーテル先端から組織内に薬剤を直接投与している。このようなカテーテルは、内部にルーメンを有する細長い管状を有しており、体内に挿入される部分には、薬剤の吐出などを目的として内部のルーメンと外部とを連通する貫通穴が設けられている(たとえば、特許文献1参照)。この貫通穴は、カテーテル先端の針の先端に設けられる場合もあるが、カテーテルの側面に1つまたは複数個設けられる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−504132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、薬剤の投与量は生体組織の薬液吸収速度に依存しており、血流中に薬剤を投与する場合と比較して格段に少ない数十μリットル程度の微量の薬剤しか投与できない。さらに、この投与可能な量を超えて薬剤を投与した場合には、薬剤が生体組織から漏れ出てしまい、他の生体組織にも薬剤が触れてしまう可能性があるので、薬剤の投与量は正確に制御する必要がある。
【0006】
従来では、ポンプを制御することによって薬剤の投与量の調整を行っていた。この場合、薬剤の投与量を増やす場合にはポンプの送出圧力を高め、投与量を減らす場合にはポンプの送出圧力を減らしていた。そして、ポンプから薬剤投与部位まではある程度の距離があるため、カテーテルは数cmから数十cm程度の長さがあることが通常である。
【0007】
しかしながら、この従来の方法では、微量の薬剤投与の正確な制御は困難であった。これは、正確に微量の薬剤の吐出量を制御できる程の微妙なポンプ制御は容易ではなかったためである。また、従来の方法では、カテーテルの長さや曲がり具合によって薬剤投与ごとにポンプの圧力とカテーテルからの薬剤の吐出量との関係が微妙に変わってくるため、事前に個々のケースに合わせて条件出しをするという煩雑な処理を行う必要があった。そして、薬剤被投与対象(人間を含む哺乳類)の姿勢が変化すると重力の方向が変わり、薬剤の投与量に影響してしまうという問題があった。さらに、薬剤投与対象の運動によりカテーテルの屈曲具合(屈曲部位、曲がり度合い)が動的に変化し、これが薬剤の投与量に影響してしまうという問題があった。
【0008】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、薬剤の投与量を正確に制御できる薬剤投与装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかる薬剤投与装置は、人間を含む哺乳動物の生体組織内に薬剤を投与する薬剤投与装置であって、貫通穴を介して外部と連通する内部空間を有する細長い躯体と、前記内部空間に薬剤を導く薬剤導路と、前記貫通穴に設けられ、前記内部空間から外部に向かう方向にのみ連通させる第1の一方向弁と、前記薬剤導路の前記内部空間への出口に設けられ、前記薬剤導路から前記内部空間に向かう方向のみ連通させる第2の一方向弁と、前記内部空間の容量を変化させる容量変化機構と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかる薬剤投与装置は、上記の発明において、前記容量変化機構は、前記躯体の軸方向に移動可能な移動部材を有し、前記躯体は、前記移動部材によって前記内部空間と液密に隔てられたルーメンを有することを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる薬剤投与装置は、上記の発明において、前記躯体は、前記内部空間と形状可変の隔壁によって分離されたルーメンを有し、前記容量変化機構は、前記隔壁の形状を変化させるものであることを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる薬剤投与装置は、上記の発明において、前記形状可変の隔壁は、バルーンまたは蛇腹の隔壁であることを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる薬剤投与装置は、上記の発明において、前記容量変化機構は、外部から前記内部空間の容量を変化させる線状の操作部材を有することを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかる薬剤投与装置は、上記の発明において、前記線状の操作部材の動作を助力する磁石またはバネ部材を有することを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる薬剤投与装置は、上記の発明において、前記躯体は、前記内部空間と隔てられたルーメンを有し、前記容量変化機構は、前記ルーメン内部の圧力を変動させる圧力変動ユニットを有することを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる薬剤投与装置は、上記の発明において、前記内部空間と前記ルーメンとを隔てる移動部材をさらに有し、前記内部空間に薬剤が充填されている状態で、前記圧力変動ユニットが前記ルーメン内の圧力を高めることで、前記移動部材は前記躯体の軸方向に前進して、前記内部空間の容量を狭めて前記薬剤を吐出させ、前記圧力変動ユニットが前記ルーメン内の圧力を減じることで、前記移動部材は前記躯体の軸方向に後退して、前記内部空間の容量を拡大させて前記内部空間を陰圧として前記内部空間に前記薬剤を導くように構成されていることを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる薬剤投与装置は、上記の発明において、前記容量可変機構は、前記内部空間の容量を変化させるアクチュエータを有することを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかる薬剤投与装置は、上記の発明において、前記薬剤導路、または前記薬剤導路と連通する薬剤レザバには、薬剤が充填されている空間と薬剤が充填されていない空間とを仕切る可動式の隔壁が設けられていることを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかる薬剤投与装置は、上記の発明において、前記躯体は、貫通穴を介して外部と連通する内部シリンダを有し、前記薬剤導路は、前記内部シリンダに薬剤を導き、前記容量変化機構は、前記内部シリンダ内を液密に移動可能なピストンと、前記ピストンを移動させる機構と、を備え、前記躯体は、前記ピストンによって、前記内部シリンダにおける内部空間と液密に隔てられたルーメンを有することを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかる薬剤投与装置は、上記の発明において、前記ピストンを移動させる機構は、前記ピストンと接続する操作ワイヤ、前記ルーメン内部の圧力を変動させる圧力変動ユニット、または、電磁力によって前記ピストンを移動させるアクチュエータのいずれか1つであることを特徴とする。
【0021】
また、この発明にかかる薬剤投与装置は、上記の発明において、前記躯体は、ルーメンを有し、前記ルーメン内には、前記ルーメンとは非連通の内部空間を有したバルーン又は蛇腹容器であって、前記内部空間が前記貫通穴を介して外部と連通しているバルーン又は蛇腹容器が設けられ、前記ルーメンには、前記ルーメン内の圧力を変動させる圧力変動ユニットが接続され、前記薬剤導路は、前記バルーンまたは前記蛇腹容器の内部空間に薬剤を導き、前記第1の一方向弁は、前記バルーンまたは前記蛇腹容器の前記内部空間から外部に向かう方向にのみ連通させ、前記第2の一方向弁は、前記薬剤導路の前記内部空間への出口に設けられ、前記薬剤導路から前記内部空間に向かう方向のみ連通させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、貫通穴を介して外部と連通する内部空間を有する細長い躯体と、内部空間に薬剤を導く薬剤導路と、貫通穴に設けられ、内部空間から外部に向かう方向にのみ連通させる第1の一方向弁と、薬剤導路の内部空間への出口に設けられ、薬剤導路から内部空間に向かう方向のみ連通させる第2の一方向弁と、内部空間の容量を変化させる容量変化機構と備え、内部空間の容量を変化させることによって、躯体の内部空間に所定量の薬剤を正確に収納でき、さらに貫通穴から内部空間の薬剤を外部に吐出できるため、薬剤の投与量を正確に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施の形態1にかかる薬剤投与装置の主要部分の一例を示す図である。
【図2】図2は、図1に示す薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。
【図3】図3は、図1に示す薬剤投与装置の薬剤導路への薬剤充填処理を説明する断面図である。
【図4】図4は、図1に示す薬剤投与装置の内部空間への薬剤充填処理を説明する断面図である。
【図5】図5は、図1に示す薬剤投与装置から薬剤を投与する手順を示す断面図である。
【図6】図6は、実施の形態1の変形例1にかかる薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。
【図7】図7は、実施の形態1の変形例2にかかる薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。
【図8】図8は、実施の形態1の変形例3にかかる薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。
【図9】図9は、図8に示すピストンおよび薬剤導路を構成する管状部材を示す斜視図である。
【図10】図10は、実施の形態2にかかる薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。
【図11】図11は、実施の形態2にかかる薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。
【図12】図12は、実施の形態3にかかる薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。
【図13】図13は、実施の形態3にかかる他の薬剤投与装置を軸方向に沿って切断した断面図である。
【図14】図14は、実施の形態4にかかる薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。
【図15】図15は、実施の形態5にかかる薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。
【図16】図16は、実施の形態5にかかる他の薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。
【図17】図17は、実施の形態6にかかる薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、この発明を実施するための形態として、人間を含む哺乳動物の生体組織内に穿刺されて薬剤を投与する薬剤投与装置について説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付している。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態1にかかる薬剤投与装置の主要部分の一例を示す図である。図1に示すように、本実施の形態にかかる薬剤投与装置1は、人間を含む哺乳動物の生体組織内に薬剤を投与するものである。そして、薬剤投与装置1は、細長い躯体2を有し、この躯体2の先端3には貫通穴4が設けられている。そして、躯体2内部からは、線状の操作部材であるワイヤ7の基端部が延伸している。なお、躯体2は、生体適合性のある柔軟な素材(例えば、シリコン、テフロン(登録商標)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン)で形成されている。
【0026】
図2は、薬剤投与装置1の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。図2(1)に示すように、躯体2内部には、貫通穴4を介して外部と連通する内部シリンダ5と、内部シリンダ5内を液密に移動可能な移動部材であるピストン6とが設けられている。このピストン6にはワイヤ7の先端が機械的に接続され、操作者の操作によってワイヤ7の基端部が前後に移動することによって、ピストン6も躯体2の軸方向に沿って移動する。このように、ワイヤ7はピストン6を移動させる機構になっている。
【0027】
図2(1)は、ピストン6が最前位置にある場合を示している。図2(1)に示すように、ピストン6先端面が内部シリンダ5の先端内壁8に当接することにより、ピストン6が内部シリンダ5先端部に位置規制される。
【0028】
図2(2)は、ピストン6が最後位置に入る場合を示している。図2(2)に示すように、ピストン6基端面が内部シリンダ5の後端にある底面9に当接することにより、ピストン6が内部シリンダ5の後端部に位置規制される。
【0029】
ピストン6の先端側には、内部シリンダ5とピストン6で囲まれる内部空間10が定義され、この内部空間10の容量は、図2(1)に示す最小容量(最小容量はゼロも許容する。)から、図2(2)に示す最大容量まで変化する。
【0030】
そして、躯体2は、基端側に基端側内部ルーメン22を有し、この基端側内部ルーメン22の先端部は、内部シリンダ5のうちピストン6より後方の空間である先端側内部ルーメン21と連通し、内部ルーメン20を構成する。したがって、ピストン6は、内部空間10と内部ルーメン20を液密に隔てるものである。そして、ピストン6は、ワイヤ7の操作によって、軸方向に沿って内部シリンダ5内を移動することによって、基端側先端に形成される内部空間10の容量を変化させている。このように、ピストン6と、ピストン6に接続されたワイヤ7とは、内部空間10の容量を変化させる容量変化機構として機能する。
【0031】
また、躯体2内部には、内部空間10に薬剤を導く薬剤導路11が設けられている。この薬剤導路11は、薬剤レザバ12に連通している。薬剤レザバ12の底面には可動式の隔壁であるセプタム15が設けられており、このセプタム15は、後述する図3(2)における薬剤充填処理において薬剤が充填される空間13と、薬剤充填処理において薬剤の充填されることのない空間14とを仕切っている。セプタム15の位置は、薬剤量の変位に応じてレザバ12内を、たとえば図2(1)に示す基端側端部P1から、図2(2)に示す先端側端部P2までの間を前後に移動する。セプタム15は、弾性を有する材料で形成されている。なお、空間14は、躯体2の基端側開口部まで連続している。また、後述するように、薬剤レザバ12をなくして、薬剤導路11が薬剤レザバ12を兼ねるようにした構成も可能であり、その場合には、セプタム15は薬剤導路11内に位置する。
【0032】
さらに、貫通穴4には内部空間10から外部に向かう方向にのみ連通させる第1の一方向弁16が設けられている。そして、薬剤導路11の内部空間10への出口には、薬剤導路11から内部空間10に向かう方向のみ連通させる第2の一方向弁17が設けられている。
【0033】
次に、図1,2に示す薬剤投与装置1における薬剤充填方法について説明する。図3は、薬剤投与装置1の薬剤導路11および薬剤レザバ12に薬剤を充填する手順を示す断面図である。
【0034】
図3(1)は、薬剤が充填されていない初期状態を示す。この場合、セプタム15は、薬剤レザバ12の最先端の先端側端部P2に位置している。また、薬剤レザバ12の先端側にある薬剤導路11は空になっている。なお、ピストン6は、先端面が内部シリンダ5の先端内壁8に当接した状態となっている。
【0035】
図3(2)は、セプタム15を薬剤注入器25で穿刺貫通した状態を示す。薬剤注入器25は、矢印Y1のように躯体2の基端側開口部から挿入される。そして、薬剤注入器25は、薬剤注入器25基端から薬剤が供給され、薬剤注入器25先端から薬剤を吐出可能である。この薬剤注入器25による薬剤の注入開始によって、まず薬剤導路11内に薬剤が充填され、次いで薬剤レザバ12に薬剤が充填される。この薬剤の薬剤レザバ12への充填にともない、先端側端部P2に位置していたセプタム15が、薬剤に押されて、矢印Y2のように後方の基端側端部P1側に移動する。
【0036】
このセプタム15の移動に適合するように、薬剤注入器25の先端部には伸長および収縮が容易な柔軟部26が設けられている。たとえば、図3(2)に示す例では、柔軟部26は螺旋形状をしている。この柔軟部26は、この螺旋形状によって矢印Y2方向への動きを吸収して、セプタム15を矢印Y2方向へ動きやすくしている。そして、薬剤注入器25の柔軟部26先端には、薬剤注入時にセプタム15が薬剤注入器25先端を滑らないようにストッパ25aが設けられている。
【0037】
そして、セプタム15が基端側端部P1まで移動し薬剤レザバ12への薬剤の充填が完了した後、図3(3)のように、薬剤注入器25はセプタム15から引き抜かれる。そして、セプタム15においては、薬剤注入器25が引き抜かれた後に、弾性によって薬剤注入器25による穿刺口は塞がれる。なお、薬剤充填時には、薬剤レザバ12の空気を抜くために、空気抜き用の中空の針を刺し、この針基端から空気を抜きながら、薬剤注入器25で薬剤を注入する必要がある。
【0038】
次に、薬剤投与装置1の内部空間10に薬剤を充填する手順について説明する。図4は、薬剤投与装置1の内部空間10に薬剤27を充填する手順を示す断面図である。図4(1)に示すように、薬剤導路11と薬剤レザバ12とには図3に示す手順によって薬剤が充填されている。これに対し、内部空間10は、ピストン6先端面が内部シリンダ5の先端内壁8に当接しているため、容量がゼロまたはゼロに近く薬剤が充填されていない状態にある。そこで、図4(1)および図4(2)の矢印Y3に示すように、ワイヤ7を後方の基端側に引く。この結果、ピストン6が後方の基端側に移動し、内部空間10が拡張し、内部空間10の容積が拡大する。この拡張により内部空間10に基端側方向の圧力(陰圧)が加えられる。この結果、薬剤導路11内の薬剤27の一部が、矢印Y4のように第2の一方向弁17を通って内部空間10内に移動し、内部空間10を満たす。さらに、この薬剤27の一部の移動に合わせて、セプタム15が前方の先端側に矢印Y5のように移動する。なお、ピストン6の基端面がシリンダ5の後端にある底面9に当接するまで、ワイヤ7の引き抜き操作が行われる。
【0039】
次に、薬剤投与装置1から薬剤を投与する手順について説明する。図5は、薬剤投与装置1から薬剤を投与する手順を示す断面図である。薬剤を投与するには、図5(1)のように内部空間10に薬剤27が充填されている状態で、矢印Y6のように、ワイヤ7を前方の先端側に移動させる。この結果、図5(2)に示すように、ピストン6が前方の先端側に移動し、内部空間10の容積を狭めて、薬剤27を押圧する。これにともない、内部空間10内に充填されていた薬剤27が、第1の一方向弁16を通って、矢印Y7のように貫通穴4から吐出される。ワイヤ7は、ピストン6の先端面が内部シリンダ5の先端内壁8に当接するまで移動される。なお、ワイヤ7の先端側への移動速度を制御することによって、薬剤27を迅速に吐出させるほか、薬剤27をゆっくりと吐出させることもできる。
【0040】
以上に述べた操作を行うことによって、内部空間10の容量に相当する量の薬剤27を正確に薬剤投与装置1の外に吐出することができる。薬剤投与装置1においては、内部空間10の容量は、内部シリンダ5の内径とピストン6の可動長(シリンダ5の先端内壁8と最前位置にあるピストン6の先端面との距離)とによって正確に規定される。このため、薬剤投与装置1は、様々な条件下でも安定して正確な量の薬剤を投与できる。
【0041】
本実施の形態1にかかる薬剤投与装置1においては、ポンプを使用せずとも薬剤投与が可能であり、たとえば内部シリンダ5の内径を1mmといった小さな径に設定することによって、内部空間10の容量を数μリットル程度の微量値に設定することもできる。もちろん、本実施の形態1にかかる薬剤投与装置1においては、ポンプを使用しないため、ポンプ圧力制御の事前の条件出しを行う必要もない。また、薬剤投与装置1においては、先端部分に所定量の薬剤を充填し、先端から薬剤27を吐出するため、薬剤被投与対象の姿勢や薬剤投与対象の運動による躯体2の屈曲具合によらず、一度に吐出する薬剤27の量を正確に制御することができる。
【0042】
そして、図5(3)の矢印Y8のようにワイヤ7が後方の基端側に引かれることによって、ピストン6も後方の基端側に移動し、内部空間10が拡張する。この拡張により内部空間10に陰圧が加えられるため、薬剤27の一部が、矢印Y9のように第2の一方向弁17を通って薬剤導路11から内部空間10内に移動して、内部空間10を満たす。この結果、内部空間10に薬剤27が再充填される。なお、この薬剤27の一部の移動に合わせて、矢印Y10のようにセプタム15が前方の先端側に移動する。そして、薬剤投与装置1は、図5に示す手順が行われることによって、再度充填された所定量の薬剤を外部に吐出することができる。このように、薬剤投与装置1においては、図4および図5に示した充填処理と吐出処理とを所定回繰り返すことで、所望の容量の薬剤を正確に投与できる。
【0043】
(実施の形態1の変形例1)
次に、実施の形態1の変形例1について説明する。図6は、実施の形態1の変形例1にかかる薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。図6(1)に示すように、本実施の形態1の変形例1にかかる薬剤投与装置1aは、薬剤投与装置1と比較して、ピストン6に代えて、金属などの磁性体で形成されたピストン6aを備えるとともに、薬剤レザバ12の先端側に配置された磁石30をさらに備える。
【0044】
薬剤投与装置1aは、薬剤投与装置1と同様に、薬剤投与時においては、図6(1)のように内部空間10に薬剤27が充填されている状態で、図6(2)に示す矢印Y6のように、ワイヤ7を前方の先端側に移動させることによって、ピストン6aが先端側に移動して薬剤27を押圧し、薬剤27が第1の一方向弁16を通って矢印Y7のように貫通穴4から吐出される。
【0045】
そして、ピストン6aは、図6(3)の矢印Y8aのように、磁石30に引き付けられて後方の基端側の底面9まで移動し、内部空間10が拡張する。すなわち、薬剤投与装置1aにおいては、操作者がワイヤ7を操作せずとも、磁石30に起因する磁力によってピストン6aが基端側に移動する。このため、薬剤投与装置1aにおいては、ワイヤ7の動作を助力する磁石30が設けられることによって、薬剤充填時における操作者のワイヤ操作負担を軽減することができる。
【0046】
そして、この拡張により内部空間10に陰圧が加えられるため、薬剤27の一部が、矢印Y9のように第2の一方向弁17を通って薬剤導路11から内部空間10内に移動して、内部空間10を満たす。この場合、ワイヤ7は、ピストン6aに固定される必要はなく、押す場合に当てつけられる構成ならよい。
【0047】
(実施の形態1の変形例2)
次に、実施の形態1の変形例2について説明する。図7は、実施の形態1の変形例2にかかる薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。図7(1)に示すように、本実施の形態1の変形例2にかかる薬剤投与装置1bは、薬剤投与装置1と比較して、先端側内部ルーメン21の基端側に配置されたバネ31をさらに備える。このバネ31は、先端側においてピストン6の基端側端面と接続し、ピストン6に対して先端側に付勢させる機能を有する。
【0048】
薬剤投与装置1bは、薬剤投与装置1と同様に、ワイヤ7が基端側に引かれ、図7(1)のように内部空間10に薬剤27が充填された後、ワイヤ7の操作を解除する。この結果、図7(2)に示すように、バネ31の付勢力によって、ピストン6が矢印Y6bのように先端側に移動し、薬剤27を押圧する。この結果、薬剤27が第1の一方向弁16を通って矢印Y7のように貫通穴4から吐出される。すなわち、薬剤投与装置1bにおいては、操作者がワイヤ7を操作せずとも、バネ31の付勢力によってピストン6が前方の先端側に移動する。このため、薬剤投与装置1bにおいては、ワイヤ7の動作を助力するバネ31が設けられることによって、薬剤吐出時における操作者のワイヤ操作負担を軽減することができる。
【0049】
その後、図7(3)の矢印Y8のようにワイヤ7が後方の基端側に引かれることによってピストン6も後方の基端側に移動し、内部空間10が拡張する。この拡張により内部空間10に陰圧が加えられるため、薬剤27の一部が、矢印Y9のように第2の一方向弁17を通って薬剤導路11から内部空間10内に移動して、内部空間10を満たす。この結果、内部空間10に薬剤27が再充填される。なお、この薬剤27の一部の移動に合わせて、矢印Y10のようにセプタム15が前方の先端側に移動する。
【0050】
(実施の形態1の変形例3)
次に、実施の形態1の変形例3について説明する。図8は、実施の形態1の変形例3にかかる薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。図9は、図8に示すピストンおよび薬剤導路を構成する管状部材を示す斜視図である。
【0051】
図8および図9に示すように、実施の形態1の変形例3にかかる薬剤投与装置1cは、躯体2c内の薬剤導路11cを、ピストン6cを貫通する管状部材11dによって構成している。そして、ピストン6cは、矢印Y11のように、管状部材11dに対して液密にスライド可能である。
【0052】
薬剤導路11c先端には、薬剤導路11cから内部空間10cに向かう方向のみ連通させる第2の一方向弁17が設けられている。この第2の一方向弁17は、内部シリンダ5cの先端内壁8cに当接する位置に設けられる。また、薬剤導路11cには、基端部において接続する薬剤レザバ(図示しない。)からポンプによって、所定圧力で薬剤27が供給されている。したがって、薬剤投与装置1cは、図2に示すセプタム15を削除した構成とすることができる。
【0053】
そして、先端側内部ルーメン21cと基端側内部ルーメン22cとによって構成される内部ルーメン20cは、基端部において、内部ルーメン20cの内部圧力を変動させる圧力変動ユニット40に接続する。この圧力変動ユニット40は、たとえばポンプによって構成され、内部ルーメン20cの内部圧力を変動させることによって、ピストン6cを先端側あるいは基端側に動かしている。
【0054】
次に、薬剤投与装置1cにおける薬剤充填処理と薬剤投与処理について説明する。まず、薬剤27を内部空間に充填するには、圧力変動ユニット40を駆動させることによって、図8(2)の矢印Y12に示す基端側方向の圧力を加える。この結果、ピストン6cが矢印Y13のように管状部材11dに沿って基端側の底面9cまで後退移動し、内部空間10cを拡張する。すなわち、内部空間10cの容量が拡大する。これにともない、薬剤導路11c内の薬剤27の一部が、矢印Y9のように第2の一方向弁17を通って内部空間10c内に移動して内部空間10cを満たす。すなわち、圧力変動ユニット40が内部ルーメン20c内の圧力を減じることで、ピストン6cが、躯体2cの軸方向に後退して、内部空間10cの容量を拡大させて内部空間10cを陰圧として内部空間10cに27薬剤を導いている。
【0055】
そして、内部空間10cの薬剤27を外部に吐出するには、圧力変動ユニット40を駆動させることによって、図8(3)の矢印Y15に示す先端側方向の圧力を加える。この結果、ピストン6cが矢印Y16のように管状部材11dに沿って先端側に前進移動し、内部空間10cの容量を狭め、薬剤27を押圧する。これにともない、内部空間10c内に充填されていた薬剤27が、第1の一方向弁16を通って、矢印Y7のように貫通穴4から吐出される。すなわち、内部空間10cに薬剤27が充填されている状態で圧力変動ユニット40が内部ルーメン20c内の圧力を高めることで、ピストン6cは、躯体2cの軸方向に前進して、内部空間10cの容量を狭めて薬剤27を吐出させている。
【0056】
このように、薬剤投与装置1cでは、薬剤導路11cをピストン6cを貫通する管状部材11dによって構成しているため、薬剤吐出口である貫通穴4を薬剤投与装置1cの先端に設けた場合でも、薬剤導路を薬剤投与装置先端まで到達させるために内部シリンダを迂回させる必要がない。言い換えると、薬剤投与装置1cでは、薬剤導路11cがピストン6cを貫通するように構成されているため、薬剤導路を薬剤投与装置先端まで到達させるために内部シリンダを迂回させている薬剤投与装置1と比較して、躯体の細経化が可能になる。
【0057】
また、薬剤投与装置1cでは、圧力変動ユニット40を設け、内部ルーメン20cの内部圧力の変動によってピストン6cを前後に動かしている。したがって、薬剤投与装置1cでは、薬剤投与装置1におけるワイヤ7を削除できるため、躯体を屈曲した形状に敷設した場合であっても操作性が阻害されず、薬剤充填処理及び薬剤吐出処理を円滑に行なうことができる。
【0058】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2では、薬剤導路が薬剤レザバを兼ねる構成とすることによって、実施の形態1における薬剤レザバを省略し、躯体の細経化を図っている。図10は、実施の形態2にかかる薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。
【0059】
図10(1)に示すように、実施の形態2にかかる薬剤投与装置201は、躯体202内部に、薬剤導路211が設けられており、この薬剤導路211は、実施の形態1における薬剤レザバを兼ねている。セプタム15は、薬剤導路211内に設けられ、薬剤導路211先端まで移動することができる。
【0060】
また、躯体202は、躯体2と同様に、内部シリンダ205を構成する先端側内部ルーメン221と基端側内部ルーメン222とによって構成される内部ルーメン220を有するとともに、内部シリンダ205内を前後に移動可能であるピストン206を有する。
【0061】
次に、薬剤投与装置201における薬剤充填処理と薬剤投与処理について説明する。まず、薬剤27を内部空間に充填するには、ワイヤ7を基端側に引くことによって、図10(2)の矢印Y23のようにピストン206を基端側に移動させる。この結果、内部空間210が拡張し、拡張により内部空間210に基端側方向の圧力(陰圧)が加えられ、薬剤導路211内の薬剤27の一部が、矢印Y24のように第2の一方向弁17を通って内部空間210内に移動し、内部空間210を満たす。そして、この薬剤27の一部の移動に合わせて、セプタム15が先端側に矢印Y25のように移動する。ピストン206は、内部シリンダ205後端の底面209に当接するまで移動することによって、内部空間210内に最大量の薬剤27を充填する。
【0062】
そして、内部空間210の薬剤27を外部に吐出するには、内部空間210に薬剤27が充填されている状態で、図10(3)の矢印Y26のように、ワイヤ7を前方の先端側に移動させる。この結果、矢印Y26aのようにピストン206が先端側に移動して薬剤27を押圧し、内部空間210内に充填されていた薬剤27が、第1の一方向弁16を通って、矢印Y27のように貫通穴4から吐出される。ピストン206は、内部シリンダ205の先端内壁208に当接するまで移動することによって、内部空間210内の薬剤27全てを貫通穴4から吐出させる。
【0063】
このように、薬剤投与装置201では、図10(2)および図10(3)に示す処理を繰り返すことによって、薬剤充填および薬剤投与が可能であり、実施の形態1と同様に、所望の容量の薬剤を正確に投与できる。そして、薬剤投与装置201では、図11の矢印Y28に示すように、セプタム15は、薬剤導路211の先端面211aまで移動できる。このため、薬剤投与装置201では、吐出されない薬剤が残る薬剤導路211内のデッドボリュームが最小となることから、充填した薬剤を無駄なく投与することができる。
【0064】
なお、薬剤導路211は、図示するような管材に限らず、軟性の袋で構成してもよい。この場合、袋内でセプタムを固定できるため、薬剤注入器による注入操作に有利である。
【0065】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3について説明する。実施の形態3においては、流体を介して圧力変動ユニットで内部ルーメンの内部圧力を変動させることによって、ピストンを移動させている。図12は、実施の形態3にかかる薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。
【0066】
図12(1)に示すように、実施の形態3にかかる薬剤投与装置301は、図10に示す薬剤投与装置201と比して、ワイヤ7を省いた構成を有する。そして、薬剤投与装置301は、内部ルーメン220の基端部に接続するポンプ340を有する。そして、領域214、先端側内部ルーメン221および基端側内部ルーメン222には、流体328が充填されている。この領域214は、セプタム15によって薬剤導路211と仕切られた薬剤導路211の基端側の領域であり、薬剤が充填されない領域となる。ポンプ340は、領域214と、先端側内部ルーメン221および基端側内部ルーメン222との間で流体328を移動させる。これによって、ポンプ340は、内部ルーメン220の内部の圧力を変動させる。
【0067】
次に、薬剤投与装置301における薬剤充填処理と薬剤投与処理について説明する。まず、薬剤27を内部空間210に充填するには、ポンプ340を駆動させることによって、図12(2)の矢印Y31のように、先端側内部ルーメン221および基端側内部ルーメン222から、領域214に流体328を移動させる。この流体328の移動にともない、ピストン206が矢印Y32のように、基端側に移動する。この結果、内部空間210が拡張し、薬剤導路211内の薬剤27の一部が、矢印Y33のように第2の一方向弁17を通って内部空間210内に移動し、内部空間210を満たす。なお、この薬剤27の一部の移動に合わせて、セプタム15が先端側に移動する。また、ピストン206は、内部シリンダ205後端の底面209に当接するまで移動することによって、内部空間210内に最大量の薬剤27を充填する。
【0068】
そして、内部空間210の薬剤27を外部に吐出するには、ポンプ340を駆動させることによって、図12(3)の矢印Y34のように、ポンプ340から、先端側内部ルーメン221および基端側内部ルーメン222に流体328を補充する。この結果、矢印Y35のようにピストン206が先端側に移動して薬剤27を押圧し、内部空間210内に充填されていた薬剤27が、第1の一方向弁16を通って、矢印Y36のように貫通穴4から吐出される。ピストン206は、内部シリンダ205の先端内壁208に当接するまで移動することによって、内部空間210内の薬剤27全てを貫通穴4から吐出させる。
【0069】
このように、薬剤投与装置301では、図12(2)および図12(3)に示す処理を繰り返すことによって、薬剤充填および薬剤投与が可能であり、実施の形態1と同様に、所望の容量の薬剤を正確に投与できる。
【0070】
なお、薬剤投与装置301では、ポンプ340に、流体328を移動させる機能ではなく、先端側内部ルーメン221、基端側内部ルーメン222および領域214の液体を回収する機能を持たせてもよい。この場合、薬剤27を内部空間210に充填するには、ポンプ340を駆動させることによって、先端側内部ルーメン221および基端側内部ルーメン222の流体328を回収するとともに、領域214に流体328を補充すればよい。そして、内部空間210の薬剤27を外部に吐出するには、ポンプ340を駆動させることによって、先端側内部ルーメン221および基端側内部ルーメン222に流体328を補充すればよい。
【0071】
また、図13の薬剤投与装置301aに示すように、薬剤投与装置301aを構成する躯体302に、薬剤導路211に接続する薬剤補充路311aを設けて、薬剤補充口311bに穿刺した薬剤注入器25から薬剤27を補充してもよい。この薬剤補充口311bは、弾性部材によって覆われており、この弾性部材では、薬剤注入器25の引き抜き後は弾性によって穿刺口が塞がる。そして、領域214に接続する流体補充路314aを設けて、流体補充口314bから流体328を補充してもよい。流体補充口314bは、薬剤補充口311bと同様に、弾性部材によって覆われている。
【0072】
(実施の形態4)
次に、実施の形態4について説明する。実施の形態4では、躯体先端ではなく、躯体側面に薬剤を吐出する貫通穴を設けた場合について説明する。図14は、実施の形態4にかかる薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。
【0073】
図14(1)に示すように、実施の形態4にかかる薬剤投与装置401は、躯体402の側面に貫通穴404が設けられている。躯体402内部には、貫通穴404に対し先端側に向かって、ピストン406を有する内部シリンダ405が設けられている。貫通穴404には、図14(2)に示す内部空間410から外部に向かう方向にのみ連通させる第1の一方向弁16が設けられている。そして、躯体内部402には、内部シリンダ405と第2の一方向弁17と介して接続する薬剤導路411が設けられている。
【0074】
そして、内部シリンダ405の先端内壁408および基端側の底面409には、それぞれ電磁石430a,430bが設けられている。電磁石430a,430bは、図示しない接続線によって基端側の制御装置(図示しない。)と接続しており、制御装置の制御によって、磁界の発生および停止を行う。また、ピストン406は、金属などの磁性体によって形成されている。
【0075】
次に、薬剤投与装置401における薬剤充填処理と薬剤投与処理について説明する。まず、薬剤投与装置401においては、薬剤27を内部空間に充填するには、先端側に位置する電磁石430aに電流を供給し、電磁石430aに磁界を発生させる。この場合、電磁石430bには電流供給を行わない。この結果、ピストン406は、図14(2)の矢印Y41のように、電磁石430aに引き付けられて、先端内壁408まで移動する。この結果、内部空間410が拡張し、薬剤導路411内の薬剤27の一部が、矢印Y42のように第2の一方向弁17を通って内部空間410内に移動し、内部空間410を満たす。
【0076】
そして、内部空間410の薬剤27を外部に吐出するには、先端側に位置する電磁石430aへの電流供給を停止させて電磁石430aによる磁界発生を停止させるとともに、基端側に位置する電磁石430bに電流を供給し、電磁石430bに磁界を発生させる。この結果、ピストン406は、図14(3)の矢印Y43のように、電磁石430bに引き付けられて、底面409まで移動する。このピストン406の移動によって、薬剤27が押圧され、薬剤27が第1の一方向弁16を通って矢印Y44のように貫通穴404から吐出される。
【0077】
このように、薬剤吐出装置401においては、薬剤充填および薬剤吐出に応じて電磁石430a,430bに磁界を発生させることによって、ピストン406を移動させて薬剤充填および薬剤投与が可能であり、実施の形態1と同様に所望の容量の薬剤を正確に投与できる。また、薬剤投与装置401では、薬剤導路411と内部シリンダ405とを軸方向に沿って直列に配置できるため、薬剤導路と内部シリンダとを並列に配置している薬剤投与装置1と比較して、躯体の細経化が可能になる。
【0078】
なお、実施の形態4においては、一方の電磁石430a,430bの磁界発生時に他方の電磁石430a,430bの磁界発生を停止させている場合を例に説明したが、もちろん、ピストン406を離間させる電磁石430a,430bに、ピストン406を引き付ける電磁石430a,430bとは逆方向の磁界が発生するように電流供給を制御して、ピストン406に、ピストン406を離間させる電磁石430a,430bに対する反発力が生じるようにしてもよい。
【0079】
(実施の形態5)
次に、実施の形態5について説明する。実施の形態5においては、形状が拡張可能であるバルーンを設けた場合について説明する。図15は、実施の形態5にかかる薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。
【0080】
図15(1)に示すように、実施の形態5にかかる薬剤投与装置501には、内部ルーメン520に、貫通穴4を介して外部と連通するバルーン540が設けられている。このバルーン540は、貫通穴4と連通するとともに、薬剤導路511とも連通している。バルーン540の内部空間は、内部ルーメン520と、形状可変のバルーン540の隔壁で分離されており、バルーン540の内部空間と、内部ルーメン520とは、非連通である。
【0081】
そして、内部ルーメン520には、バルーン540の最大容量を規定するリミッタフレーム541が設けられている。リミッタフレーム541は、流体は自由に通過させるが、バルーン540はこれを越えて拡張できない。リミッタフレーム541は、例えば、形状が固定された網で形成することができる。これにより、内部空間の最大容量が規定される。さらに、内部ルーメン520の基端側には、圧力変動ユニット40が接続されている。
【0082】
次に、薬剤投与装置501における薬剤充填処理と薬剤投与処理について説明する。まず、薬剤27をバルーン540の内部空間に充填するには、この圧力変動ユニット40を駆動させることによって、図15(2)の矢印Y51に示す基端側方向の圧力を加える。この結果、バルーン540は、この基端側方向の圧力にしたがって、矢印Y52のように基端側に拡張し、内部空間510が生じる。このバルーン540の拡張にともない、薬剤導路511内の薬剤27の一部が、矢印Y52aのように第2の一方向弁17を通って内部空間510内に移動して内部空間510を満たす。なお、この内部空間510の最大容量は、前述したようにリミッタフレーム541によって規定されている。
【0083】
そして、内部空間510の薬剤27を外部に吐出するには、圧力変動ユニット40を駆動させることによって、図15(3)の矢印Y53に示す先端側方向の圧力を加える。この結果、バルーン540が矢印Y53aのように先端側に収縮し、薬剤27を押圧する。これにともない、内部空間510内に充填されていた薬剤27が、第1の一方向弁16を通って、矢印Y54のように貫通穴4から吐出される。
【0084】
このように、薬剤投与装置501においては、バルーン540内部の内部空間510の最大容量は、リミッタフレーム541によって正確に規定されるため、薬剤投与装置501においても、安定して正確な量の薬剤を投与できる。
【0085】
なお、実施の形態5では、図16の薬剤投与装置501aに示すように、バルーン540に代えて、蛇腹容器540aを設けてもよい。図16に示すように、蛇腹容器540aは、バルーン540と同様に、貫通穴4と連通するとともに、薬剤導路511とも連通しており、蛇腹容器540aの内部空間は、内部ルーメン520と、形状可変の隔壁で分離され、内部ルーメン520と非連通である。蛇腹容器540aの場合には、最大容量が容器形成部材によって規定されるため、リミッタフレーム541を削除してもよい。
【0086】
この場合も、薬剤投与装置501と同様に、圧力変動ユニット40を駆動させることによって、図16(2)の矢印Y51に示す基端側方向の圧力を加えて、蛇腹容器540aを矢印Y52bのように拡張させて、内部空間510aを生じさせる。これにともない、薬剤導路511内の薬剤27の一部が、矢印Y52cのように第2の一方向弁17を通って内部空間510a内に移動して内部空間510aを満たす。
【0087】
そして、内部空間510aの薬剤27を外部に吐出するには、圧力変動ユニット40を駆動して、図16(3)の矢印Y53に示す先端側方向の圧力を加え蛇腹容器540aを矢印Y53bのように先端側に収縮させることによって、薬剤27を押圧する。これにともない、内部空間510a内に充填されていた薬剤27が、第1の一方向弁16を通って、矢印Y54のように貫通穴4から吐出される。なお、薬剤投与装置501aにおいてもリミッタフレーム541を設けて、厳密に内部空間の最大容量を規定してもよい。
【0088】
(実施の形態6)
次に、実施の形態6について説明する。実施の形態6においては、電磁的力によってピストンを移動させるアクチュエータを設けた場合について説明する。図17は、実施の形態6にかかる薬剤投与装置の先端部を軸方向に沿って切断した断面図である。
【0089】
図17(1)に示すように、実施の形態6にかかる薬剤投与装置601においては、図8に示す薬剤投与装置1cと比して、躯体602内の内部シリンダ5c側面に固定子641が設けられ、ピストン606側面には固定子641と咬み合う回転子642が設けられている。固定子641と回転子642とは、いわゆるリニアステッピングモータを形成し、図示しない制御部から供給される電力に同期して動作する。
【0090】
次に、薬剤投与装置601における薬剤充填処理と薬剤投与処理について説明する。まず、薬剤27を内部空間に充填するには、図示しない制御部を操作することによって、図17(1)の矢印Y61に示す方向に回転子642を移動させる。これにともない、ピストン606も矢印Y61に示す基端側に移動し、内部空間10cが拡張し、薬剤導路11c内の薬剤27の一部が、矢印Y62のように第2の一方向弁17を通って内部空間10c内に移動して内部空間10cを満たす。
【0091】
そして、内部空間10cの薬剤27を外部に吐出するには、図示しない制御部を操作することによって、図17(3)の矢印Y63に示す方向に回転子642を移動させる。これにともない、ピストン606が矢印Y63に示す先端側に移動して薬剤27を押圧し、内部空間10c内に充填されていた薬剤27が、第1の一方向弁16を通って、矢印Y64のように貫通穴4から吐出される。
【0092】
このように、薬剤投与装置601においては、リニアステッピングモータによってピストン606を段階的に移動させることができるため、内部空間10cの容量を複数の段階で正確に規定でき、薬剤の投与量をさらに厳密に調整することができる。
【符号の説明】
【0093】
1,1a,1b,1c,201,301,301a,401,501,501a,601 薬剤投与装置
2,2c,202,302,402,502,602 躯体
3 先端
4,404 貫通穴
5,5c,205,405 内部シリンダ
6,6a,6c,206,406,606 ピストン
7 ワイヤ
8,8c,208,408 先端内壁
9,9c,209,409 底面
10,10c,210,410,510,510a 内部空間
11,11c,211,411,511 薬剤導路
11d 管状部材
12 薬剤レザバ
13,14 空間
214 領域
15 セプタム
16 第1の一方向弁
17 第2の一方向弁
20,20c,220,520 内部ルーメン
21,21c,221 先端側内部ルーメン
22,22c,222 基端側内部ルーメン
25 薬剤注入器
25a ストッパ
26 柔軟部
27 薬剤
30 磁石
31 バネ
40 圧力変動ユニット
211a 先端面
328 流体
340 ポンプ
311a 薬剤補充路
311b 薬剤補充口
314a 流体補充路
314b 流体補充口
430a,430b 電磁石
540 バルーン
540a 蛇腹容器
541 リミッタフレーム
641 固定子
642 回転子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間を含む哺乳動物の生体組織内に薬剤を投与する薬剤投与装置であって、
貫通穴を介して外部と連通する内部空間を有する細長い躯体と、
前記内部空間に薬剤を導く薬剤導路と、
前記貫通穴に設けられ、前記内部空間から外部に向かう方向にのみ連通させる第1の一方向弁と、
前記薬剤導路の前記内部空間への出口に設けられ、前記薬剤導路から前記内部空間に向かう方向のみ連通させる第2の一方向弁と、
前記内部空間の容量を変化させる容量変化機構と、
を備えたことを特徴とする薬剤投与装置。
【請求項2】
前記容量変化機構は、前記躯体の軸方向に移動可能な移動部材を有し、
前記躯体は、前記移動部材によって前記内部空間と液密に隔てられたルーメンを有することを特徴とする請求項1に記載の薬剤投与装置。
【請求項3】
前記躯体は、前記内部空間と形状可変の隔壁によって分離されたルーメンを有し、
前記容量変化機構は、前記隔壁の形状を変化させるものであることを特徴とする請求項1に記載の薬剤投与装置。
【請求項4】
前記形状可変の隔壁は、バルーンまたは蛇腹の隔壁であることを特徴とする請求項3に記載の薬剤投与装置。
【請求項5】
前記容量変化機構は、外部から前記内部空間の容量を変化させる線状の操作部材を有することを特徴とする請求項1に記載の薬剤投与装置。
【請求項6】
前記線状の操作部材の動作を助力する磁石またはバネ部材を有することを特徴とする請求項5に記載の薬剤投与装置。
【請求項7】
前記躯体は、前記内部空間と隔てられたルーメンを有し、
前記容量変化機構は、前記ルーメン内部の圧力を変動させる圧力変動ユニットを有することを特徴とする請求項1に記載の薬剤投与装置。
【請求項8】
前記内部空間と前記ルーメンとを隔てる移動部材をさらに有し、
前記内部空間に前記薬剤が充填されている状態で前記圧力変動ユニットが前記ルーメン内の圧力を高めることで、前記移動部材は、前記躯体の軸方向に前進して、前記内部空間の容量を狭めて前記薬剤を吐出させ、
前記圧力変動ユニットが前記ルーメン内の圧力を減じることで、前記移動部材は、前記躯体の軸方向に後退して、前記内部空間の容量を拡大させて前記内部空間を陰圧として前記内部空間に前記薬剤を導くように構成されていることを特徴とする請求項7に記載の薬剤投与装置。
【請求項9】
前記容量可変機構は、前記内部空間の容量を変化させるアクチュエータを有することを特徴とする請求項1に記載の薬剤投与装置。
【請求項10】
前記薬剤導路、または、前記薬剤導路と連通する薬剤レザバには、前記薬剤が充填されている空間と前記薬剤が充填されていない空間とを仕切る可動式の隔壁が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の薬剤投与装置。
【請求項11】
前記躯体は、貫通穴を介して外部と連通する内部シリンダを有し、
前記薬剤導路は、前記内部シリンダに前記薬剤を導き、
前記容量変化機構は、
前記内部シリンダ内を液密に移動可能なピストンと、
前記ピストンを移動させる機構と、
を備え、
前記躯体は、前記ピストンによって、前記内部シリンダにおける前記内部空間と液密に隔てられたルーメンを有することを特徴とする請求項1に記載の薬剤投与装置。
【請求項12】
前記ピストンを移動させる機構は、前記ピストンと接続する操作ワイヤ、前記ルーメン内部の圧力を変動させる圧力変動ユニット、または、電磁力によって前記ピストンを移動させるアクチュエータのいずれか1つであることを特徴とする請求項11に記載の薬剤投与装置。
【請求項13】
前記躯体は、ルーメンを有し、
前記ルーメン内には、前記ルーメンとは非連通の前記内部空間を有したバルーン又は蛇腹容器であって、前記内部空間が前記貫通穴を介して外部と連通しているバルーン又は蛇腹容器が設けられ、
前記ルーメンには、前記ルーメン内の圧力を変動させる圧力変動ユニットが接続され、
前記薬剤導路は、前記バルーンまたは前記蛇腹容器の前記内部空間に前記薬剤を導き、
前記第1の一方向弁は、前記バルーンまたは前記蛇腹容器の前記内部空間から外部に向かう方向にのみ連通させ、
前記第2の一方向弁は、前記薬剤導路の前記内部空間への出口に設けられ、前記薬剤導路から前記内部空間に向かう方向のみ連通させることを特徴とする請求項1に記載の薬剤投与装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−147553(P2011−147553A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10357(P2010−10357)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】