説明

薬剤耐性菌感染防除剤

【課題】 バンコマイシン等薬剤耐性菌保菌乃至感染している家畜・家禽又は魚介類の感染防除剤として、合成抗菌薬や抗生物質を用いない特定の微生物剤を有効成分として用いる薬剤耐性菌感染防除剤、その感染防除方法を提供する。
【解決手段】 バンコマイシン等薬剤耐性菌保菌乃至感染している家畜・家禽又は魚介類の感染防除剤として、乳酸菌、その死菌体、その処理物あるいはメガスフェラ・エルスデニ(Megasphaera elsdenii)を有効成分とすることにより、特に乳酸菌がエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)を用いることにより前記の課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌、その死菌体又はその処理物、あるいはメガスフェラ・エルスデニ(Megasphaera elsdenii)を有効成分とする、家畜・家禽又は魚介類のバンコマイシン耐性腸球菌((Vancomycin Resistant Enterococci略してVREともいう)、多剤耐性菌等の薬剤耐性菌に対する家畜・家禽類又は魚介類の感染防除剤及びその感染防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人における高齢化や高度医療が進展するなかで健康な人ではあまり問題とならないバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、メチシリン又はバンコマイシン耐性Staphylococcus aureus(MRSA又はVRSA),多剤耐性能を有する病原性大腸菌などの病院内における日和見感染が発生し、これらの病原菌は抗菌性物質による治療が困難となる事例が大きな問題となっている。その薬剤耐性の原因の1つとして、畜水産現場における抗菌性物質の多用により薬剤耐性菌が選択され、それが畜水産物を介して人に伝播し、人の医療に悪影響を及ぼしているのではないかということが、国内のみならず、国際的に議論されている。
【0003】
従来、このような耐性菌に対する抗菌剤として、合成抗菌剤は多数知られており、例えば、キノリンカルボン酸誘導体及びその塩(例えば、特許文献1参照)、抗生物質である新規マクロライド系化合物(例えば、特許文献2参照)等が知られている。また、天然物由来の原料を主体とする、例えばマンネンタケの子実体傘部の抽出物等(例えば、特許文献3参照)、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はこれらの塩を有効成分とするバンコマイシン耐性腸球菌用殺菌剤(例えば、特許文献4参照)、ダッタンソバに加水し、自己酵素処理せしめてケルセチン含量を高めた酵素処理物を含有する抗病性飼料添加物(例えば、特許文献5参照)や、更に乳酸菌に関連した技術として、エンテロコッカス属に属する微生物の菌体又はその超音波破砕物等の処理物を有効成分として含有する感染防御剤(例えば、特許文献6参照)、微生物に対して生育阻害作用および毒性減弱作用を示す抗菌性物質を産生することを特徴とするラクトバチラス カゼイ(Lactobacillus casei)(例えば、特許文献7参照)、乳酸菌を用いて作られたフェニル乳酸であって、上記乳酸菌は、エンテロコッカス・フェーカリス(Enterococcus faecalis)であることを特徴とするフェニル乳酸(例えば、特許文献8参照)等が知られている。
【0004】
一方、家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除剤として、乳酸菌、その死菌体又はその処理物を有効成分として含有する薬剤は知られていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平6−73056号公報
【特許文献2】特開2001−238692号公報
【特許文献3】特開2000−143529号公報
【特許文献4】特開2001−131061号公報
【特許文献5】特開2001−292706号公報
【特許文献6】特開平8−283166号公報
【特許文献7】特開2001−333766号公報
【特許文献8】特開2000−300284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の抗菌性物質の使用量は、人には年間520t使用されているとの報告があるのに対し、動物用医薬品として1060t、飼料添加物として230t、合計1290t使用されており、単純に比較すると人には2倍以上使用されていることになる。現に、国、都道府県等の連携の下で実施されている全国的な家畜由来細菌の抗菌性物質感受性実態調査において、抗菌性物質の使用量に比例して当該抗菌性物質に対する薬剤耐性菌の比率が高くなっていることが明らかにされている。
【0007】
このように、薬剤耐性菌が重要な問題となるなかで、畜水産現場で使用する抗菌性物質を必要最小限にとどめ、適正使用の下にその使用量を極力減らしていくことに、医薬品製造業者も含めた関係者間に異論はないといえる。農林水産省としては、現在、食品安全委員会に諮問中であるが、抗菌性飼料添加物については、現行指定29成分のうち、今後製造される予定のない4成分は指定取消し、人用医薬品と類似の9成分は科学的評価に基づき指定見直し、家畜専用の16成分は指定継続となると考えている。一方、抗菌性動物用医薬品は、動物の疾病の治療に不可欠であることから、獣医師の診察に基づく必要最小限の適正使用を前提に、原則として引続き使用を認める方向としたいと考えられている。
【0008】
肺炎や下痢の治療に、長期間同じ抗菌性物質を使うと、薬に抵抗する細菌が出現し、病気が治りにくくなる場合がある。抗菌性物質には、抗生物質と合成抗菌薬とがある。抗生物質は、1942年にWaksmanにより「微生物の産生する物質で、他の微生物(特に病原微生物)の発育を阻止する能力を有する化学物質」と定義されている。一方、合成抗菌薬とは、化学的に合成された抗菌性物質で、現在多くの抗菌性物質が、微生物の産生する物質を出発点に化学的に合成(半合成)されているが、これらは、抗生物質に分類されている。一般に、動物用抗菌性物質は、(1)疾病の治療を目的とした動物用抗菌剤(医薬品)と、(2)食用動物における「発育促進」又は「飼料効率の改善」を目的に、低濃度で長期間にわたって飼料に添加される抗菌性飼料添加物(医薬品ではなく抗菌性発育促進物質)とを合わせた用語として使われている。
【0009】
薬剤耐性菌とは、抗菌性物質に抵抗性を示す細菌のことで、薬剤耐性菌に感染して病気になると、治療のために抗菌性物質を使っても、治らなかったり、治りが悪かったりする。人の食中毒の原因となるネズミチフス菌(サルモネラ・ティフィムリイム)は、家畜を含む動物も感染して病気を起こすが、DT104という多剤耐性菌(いくつもの薬剤に抵抗性の細菌)が問題となっている。また、食中毒の原因菌であるカンピロバクターも、フルオロキノロン(いわゆるニューキノロン)剤などの人の治療に使用する抗菌性物質に対する耐性菌が問題となっており、カンピロバクターは家畜に感染しても殆ど症状を示さず、また耐性菌だからといってすべての人に危害を与えるわけではない。人の薬剤耐性菌の問題となっている原因菌の多くは、皮膚や扁桃や腸管などの常在菌で、健康な人に危害を与えるものではない。ところが、病気などで免疫力が弱っている人では、日和見感染や院内感染により病気になる。MRSAやVREなど、深刻な問題を引き起こしている細菌もいる。MRSAやVREは、家畜にも感染するが、家畜に病気を引き起こすわけではない。このように、問題となっている耐性菌は、人の病気として重要であっても、家畜に病気を引き起こすとは限らない。そして、耐性菌は病原菌と違って、農場を見ただけではそれが存在するかどうかを判断することができない。
【0010】
動物が細菌による病気にかかった場合、病気を治療するために抗菌性物質が使用されるが、その際、一部の細菌が耐性を獲得し、抗菌性物質により感受性の細菌が殺され、耐性菌だけが生き延びていく。このように、薬剤耐性菌は、人や家畜などに様々な抗生物質が使用されることで増加する。細菌における薬剤耐性獲得の要因としては、細菌増殖時の突然変異や、他の細菌が持っている耐性遺伝子の導入を挙げることができる。現在までに多くの耐性遺伝子が明らかにされてきており、例えば、テトラサイクリン耐性に関係する遺伝子も数種類知られ、1つの薬剤に対する耐性も単一の耐性遺伝子によるものとは限らない。
【0011】
細菌が抗生物質に抵抗するには、細菌の周りの薬剤を失活させたり、薬剤が作用する細菌の部位にたどり着かなくしたりする必要がある。薬剤を失活させるため、耐性菌は薬剤を分解もしくは修飾する酵素(不活化酵素)を産生する。薬剤を作用部位までたどり着かせなくするには、薬剤の菌体内への侵入を防いだり(細菌の細胞質膜の薬剤透過性の低下)、薬剤が作用する部位の構造を変化させたり(薬剤の一次作用点の変化)、菌体内へ侵入した薬剤を菌体外へ排出したり(薬剤排出ポンプ)する機構が関係する。
【0012】
薬剤耐性には、自然耐性のように先天的にその薬剤の作用部位をもたない場合と、後天的に耐性遺伝子を獲得して耐性となる場合がある。さらに耐性遺伝子には、耐性菌から感受性菌へと伝達されるものと伝達されないものがある。薬剤を作用部位までたどり着かせなくするような耐性機構では、薬剤耐性が他の菌へと伝達されることは殆どないが、薬剤を失活させる酵素を産生するような耐性機構では、プラスミドやトランスポゾンなどの遺伝子を介して耐性が移行する場合がある。そのようにして耐性を有した耐性菌は、自分以外の細菌を耐性菌へと変化させることができる。このため、病気を引き起こさない細菌の耐性が、病原菌へと移っていくことがある。特にVREに関する耐性機構についてはよく調べられており、VREのvanA,B耐性機構は,細胞壁、ペプチドグリカン・ムレインのペンタペプチドがD−alanyl−D−lactateに置換されることで起こる事が知られている。
そのほかに、交叉耐性(cross-resistance)と共耐性(coresistance)といった問題もある。交叉耐性は、同じようなタイプの抗菌性物質に対して抵抗する現象である。また共耐性とは、複数の異なる仲間の薬剤に対する耐性を一度に獲得しているタイプの耐性の仕組みである。このような仕組みで抗菌性物質に抵抗性となった細菌は、使用歴のある薬剤に耐性となる。
【0013】
薬剤耐性菌の出現は、薬剤の使用と深い関係があり、薬剤の使用量の増加に伴い耐性菌も増加する。これまでに報告された最近の薬剤感受性試験の成績からも、国内で古くから使われ、使用量の多い薬剤に対する耐性菌が多く見つかっている。通常、耐性菌は、薬剤の使用をやめることによって減少する。デンマークの調査では、抗菌性飼料添加物の使用を中止した後、薬剤耐性菌が減少することが明らかにされた。しかし、中止した7年後の調査において、中止薬剤に対する耐性菌が低率であるが見つかっている。このため、何らかの要因で薬剤により選択された場合、再び耐性菌が増加してくる危険性が残っている。
【0014】
薬剤耐性菌の問題は、世界的な動きとして1990年代に「動物に抗菌性物質を使用すると人の耐性菌の増加を引き起こし、人の病気の治療が難しくなる」という危険性が指摘された。そこで、世界保健機構(WHO)は、この問題を検討する専門家による会議(1997年:ベルリン、1998年:ジュネーブ)を開催した。この国際会議の中で、薬剤耐性菌が動物と人の間でどの程度分布し、広がっているかという状況を把握するためのモニタリング(耐性菌の動向調査と情報収集)の重要性が指摘された。その後、2000年になって国際獣疫事務局(OIE)は、各国で実施している薬剤耐性菌の調査法を統一していくため、薬剤耐性関連のガイドラインを策定し、2003年5月に制定された。更に、2003年12月に開催されたFAO/OIE/WHOの合同会議においては、「食用動物の耐性菌が、人の健康に危害を与える可能性は否定できない」として、その危険性の低減に向けた取り組みを行っていくことになった。その中で、家畜以外についても、ペットや水産養殖産業での薬剤使用や農薬としての抗菌性物質の使用に伴う耐性菌の出現の危険性もあるため、耐性菌の出現動向についても調査する必要があることが指摘されている。このように、耐性菌の問題は、国際的な大きな流れであることが分かる。
【0015】
畜産分野における耐性菌の出現を抑えるには、動物用の抗菌性物質の使用を禁止したり、制限したりする方法が考えられる。しかし、抗菌性物質は、安価で安全な畜産物を安定的に生産する重要な道具となっている。また、抗菌性物質がなければ、病気で苦しんでいる動物を治療することができなくなる。このため、すべての抗菌性物質を禁止することは困難といえる。一方、薬剤残留のない安全な畜産物といった食品業界からの声に、ブロイラー生産の現場では、無薬鶏などのブランドを作って、自主的な使用制限を実行している農場もある。近年、消費者の食品の安心・安全性への関心が益々高まるなか、薬剤耐性菌問題と抗菌性物質等の畜産物への残留問題は表裏一体の関係にある。このため、抗菌性物質を使う場合、診断や検査結果などの根拠に基づいて有効な薬剤の使用を最小限に抑え、使用していくことが重要である。
【0016】
本発明の課題は、家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染に対し、合成抗菌薬や抗生物質を用いない安全な薬剤耐性菌感染防除剤を提供することにあり、ひいては、人への薬剤耐性菌感染の予防に貢献する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、薬剤耐性菌感染の家畜・家禽から人への感染を懸念し、研究するなかで、抗生物質アボパルシン(AVP)を添加していないわが国ブタでもバンコマイシン耐性菌(VRE)が陽性である可能性が示唆された。家畜のVRE定着はAVPが主因とされてきたが、わが国では他に原因があることも考えられる。そこで、本発明者らは鶏を鳥類モデルとしてヒト由来VREの実験感染試験を行い、外来要因からの伝播の可能性について検討し、その結果、その恐れがあることを確認した。更に、実験を進め、バンコマイシン等薬剤耐性菌保菌乃至感染している家畜・家禽又は魚介類に対して、該薬剤耐性菌の防除を試み、防除剤として、乳酸菌、その死菌体又はその処理物、あるいは乳酸を利用する酪酸菌メガスフェラ・エルスデニを有効成分とする薬剤が顕著な効果を奏することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち本発明は、乳酸菌、その死菌体又はその処理物、あるいはメガスフェラ・エルスデニ(Megasphaera elsdenii)を有効成分として含有することを特徴とする家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除剤(請求項1)や、乳酸菌が、エンテロコッカス属に属する菌であることを特徴とする請求項1記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除剤(請求項2)や、エンテロコッカス属に属する菌が、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)であることを特徴とする、請求項2記載の家畜・家禽類又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除剤(請求項3)や、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)がEC−12(IFO 16803)であることを特徴とする請求項3に記載の薬剤耐性菌感染防除剤(請求項4)や、EC−12(IFO 16803)が、その死菌体であることを特徴とする請求項4記載の家畜・家禽類又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除剤(請求項5)や、エンテロコッカス属に属する菌が、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)であることを特徴とする請求項2記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除剤(請求項6)に関する。
【0019】
また本発明は、乳酸菌が、ラクトバシルス属に属する菌であることを特徴とする請求項1記載の薬剤耐性菌感染防除剤(請求項7)や、乳酸菌が、宿主動物に由来する乳酸菌であることを特徴とする請求項7記載の薬剤耐性菌感染防除剤(請求項8)や、薬剤耐性菌が、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)又は多剤耐性菌であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除剤(請求項9)や、死菌体が、加熱処理死菌体であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除剤(請求項10)や、乳酸菌、その死菌体又はその処理物、あるいはメガスフェラ・エルスデニを有効成分として含有する組成物を、家畜・家禽類又は魚介類に経口投与することを特徴とする家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法(請求項11)や、乳酸菌がエンテロコッカス属に属する菌であることを特徴とする請求項11記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法(請求項12)や、エンテロコッカス属に属する菌が、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)であることを特徴とする、請求項12記載の家畜・家禽類又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法(請求項13)に関する。
【0020】
さらに本発明は、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)が、EC−12(IFO 16803)であることを特徴とする請求項13記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法(請求項14)や、EC−12(IFO 16803)が、その死菌体であることを特徴とする請求項14記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法(請求項15)や、エンテロコッカス属に属する菌が、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)であることを特徴とする請求項12記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法(請求項16)や、乳酸菌が、ラクトバシルス属に属する菌であることを特徴とする請求項11記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法(請求項17)や、乳酸菌が、宿主動物に由来する乳酸菌であることを特徴とする請求項11記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法(請求項18)や、薬剤耐性菌が、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)又は多剤耐性菌であることを特徴とする請求項11〜18のいずれかに記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法(請求項19)や、死菌体が、加熱処理死菌体であることを特徴とする請求項11〜19のいずれかに記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法(請求項20)に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の乳酸菌、その死菌体、又はその処理物、あるいはメガスフェラ・エルスデニを有効成分として含有する家畜・家禽又は魚介類感染防除剤を経口的に投与すると、家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染率が著しく低下し、従来のように家畜・家禽又は魚類の感染症に使用されてきた抗生物質や合成抗菌剤を使用することなく、効果的にバンコマイシン耐性腸球菌、多剤耐性能を有する病原菌等の感染防除効果を奏し、このような感染に対し予防および治療が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の家畜・家禽類又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除剤としては、乳酸菌、その死菌体又はその処理物、あるいはメガスフェラ・エルスデニを有効成分とするものであれば特に制限されず、また、本発明の家畜・家禽類又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法としては、乳酸菌、その死菌体又はその処理物、あるいはメガスフェラ・エルスデニを有効成分とするものを、家畜・家禽類又は魚介類に経口投与する方法であれば特に制限されず、上記薬剤耐性菌感染防除剤は、そのままあるいは製剤などあらゆる形態で使用することができる。
【0023】
本発明において用いる乳酸球菌として、例えば、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、ラクトコッカス・ラクティス、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ラフィノラクティス、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ロイコノストック・ラクティス、ロイコノストック・メセンテロイデス、ペディオコッカス等を挙げることができる。また、本発明において用いる乳酸桿菌として、例えば、ラクトバシラス・アシドフィルス、ラクトバシラス・サリバリウス、ラクトバシラス・ブレビス、ラクトバシラス・ラムノサス、ラクトバシラス・プランタラム、ラクトバシラス・ヘルベティカス、ラクトバシラス・ファーメンタム、ラクトバシラス・パラカゼイ、ラクトバシラス・カゼイ、ラクトバシラス・デルブリュッキイ、ラクトバシラス・ロイテリ、ラクトバシラス・ガッセリ、ラクトバシラス・ジョンソニイ、ラクトバシラス・ケフィア、ラクトバシラス・ブルネリ等を挙げることができる。更に、ビフィズス菌として、例えば、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム、ビフィドバクテリウム・サーモフィラム、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス等を挙げることができる。
【0024】
また、本発明において用いる乳酸菌として、宿主動物由来の乳酸菌を好適に例示することができる。かかる宿主動物由来の乳酸菌はVRE等の薬剤耐性菌よりも先に腸管内に定着し、その後の薬剤耐性菌の定着を抑制することが考えられる。これに対して、エンテロコッカス・フェカリス等の死菌体は、エンテロコッカス・フェカリス等の近縁種であるVRE等に対して特異的なIgA,IgGまたはグラム陽性菌に強い殺菌効果を持つリゾチーム,またはディフェンシンなどの抗菌性物質の産生を促進し、VRE等の感染を防御することが考えられる。そしてまた、乳酸から酪酸を生成するメガスフェラ・エルスデニ(Megasphaera elsdenii)を、薬剤耐性菌感染防除に用いることができる。メガスフェラ・エルスデニは、例えばブタ大腸から単離することができる。
【0025】
これらの乳酸菌等は、一種又は二種以上の菌種を配合して用いることができる。これらの乳酸菌等は、常法に従って任意の条件で培養することによって得ることができる。
【0026】
上記乳酸菌の中でも、エンテロコッカス・フェカリスATCC19433やエンテロコッカス・フェカリスEC−12等のエンテロコッカス・フェカリスに属する微生物を好適に例示することができるが、特にエンテロコッカス・フェカリスEC−12(IFO16803)を用いることが好ましく、エンテロコッカス・フェカリスEC−12(IFO16803)の16SrDNAは、国立遺伝研究所に「AB15482」として登録されている。
【0027】
本発明において用いられるエンテロコッカス・フェカリスEC−12の菌学的性質を(表1)に示す。このエンテロコッカス・フェカリスEC−12の培養方法としては、従来公知の乳酸菌の培養方法も含め特に制限されるものではないが、乳酸菌生育用培地を用い、37℃で培養pHを中性付近に維持しながら5〜120時間、好ましくは、16〜28時間培養し、生菌数約10〜1010/ml、好ましくは約10〜1010/mlの培養液を得る方法を例示することができる。
【0028】
【表1】

【0029】
本発明においては、乳酸菌は、生菌、その死菌体又はその処理物として用いることが、また、メガスフェラ・エルスデニはその生菌を用いることが好ましい。前記死菌体としては、常法により培養、集菌した乳酸菌の菌体を洗浄し、遠心脱水し、必要に応じて洗浄・脱水を繰り返した後、蒸留水、生理食塩水等に懸濁し、この懸濁液を、例えば80〜115℃で30分〜3秒間加熱することにより得られる死菌体懸濁液やその乾燥物、又は前記死菌体懸濁液にガンマ線或いは中性子線を照射することにより得られる死菌体懸濁液やその乾燥物を挙げることができる。該死菌体懸濁液の乾燥手段としては公知の乾燥手段であれば特に制限されないが、噴霧乾燥、凍結乾燥等を例示することができる。場合によっては、加熱等による殺菌処理の前後、あるいは、乾燥処理の前後に、酵素処理、界面活性剤処理、磨砕・粉砕処理を行うこともでき、これらの処理により得られるものも、本発明の死菌体又はその処理物に含まれる。
【0030】
前記の薬剤耐性菌防除剤や組成物を製剤として用いる場合、デンプン、乳糖、大豆蛋白等の担体、賦形剤、結合材、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、懸濁剤等の添加剤を配合して、周知の方法で粉剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤等に製剤化することができる。またグルコン酸塩、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖などのオリゴ糖類やセルロース、βグルカン、キトサンなどの食物繊維素材などのプレバイオテクス素材と組み合わせると相乗効果が期待でき尚良い。かかる製剤はそのまま投与することもできるが、飼料等に混じて給餌させることもできる。
【0031】
本発明の防除剤は、特にVRE、中でもヒト由来のエンテロコッカス・フェカリス標準株となっているVREに対して抗菌作用が認められた。したがって、本発明の防除剤は、耐熱性、耐塩性のエンテロコッカス属に広く適用される。
【0032】
本発明において、薬剤耐性菌防除の対象となる家畜・家禽類としては、牛、豚、馬、羊、ヤギなどの家畜、鶏、鴨、ダチョウなどの家禽を例示することができ、授乳、哺乳期も含め、いずれの段階の日齢、年齢の家畜・家禽にも適用できる。特に、離乳期前後の子豚や、鶏のヒナは、腸内菌叢が成熟しておらず抵抗力が弱いので、VREに罹りやすい。また、魚介類としては、ハマチ、カンパチ、ヒラメ、鯛、鯉、鰻、エビ、アサリ、蛤等通常養殖されている魚介類を好適に例示することができる。
【0033】
本発明の乳酸菌、その死菌体、又はその処理物や、メガスフェラ・エルスデニを家畜等へ投与する形態は、家畜等へ直接経口投与する方法及び飼料や飲水に混合してから投与する方法があるが、何れでもよい。またこの際グルコン酸Na、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖などのオリゴ糖類やセルロース、βグルカン、キトサンなどの食物繊維素材などのプレバイオテクス素材と組み合わせると相乗効果が期待でき尚良い。
【0034】
本発明の薬剤耐性菌感染防除剤やその方法における投与量や投与回数は、家畜・家禽の種類、体重、日齢、月齢、病状、回復状態に応じて、適宜決定することができる。たとえば、鶏、ヒナに関しては、エンテロコッカス・フェカリスEC−12の死菌体又若しくは処理物を用いる場合、その量は、ヒナ用飼料0.0001%〜0.05%投与となるように混合し、通常の1日当たりの飼料の量及び給餌回数とすることを例示することができる。又、豚については、特に離乳期前後の子豚に0.0001%〜0.05%添加することができる。
【0035】
(実施例)
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
(エンテロコッカス・フェカリスEC−12死菌体の調製)
エンテロコッカス・フェカリスEC−12(IFO 16803)をロゴサ培地で37℃、24時間培養した前培養液を、酵母エキス4%、ポリペプトン3%、乳糖10%を含む液体培地に0.1(v/v)%接種し、pHスタットを用いてpH6.8〜7.0に苛性ソーダ水溶液で調整しながら、37℃で22〜24時間中和培養を行なった。
【0037】
培養終了後、連続遠心機で菌体を分離、回収した後、水を加えて元の液量まで希釈して再度連続遠心機で菌体を分離、回収した。この操作を合計4回繰り返して菌体を洗浄した。次いで、洗浄した菌体を適量の水に懸濁し、100℃で30分間殺菌した後、スプレードライヤーを用いて菌体を乾燥して加熱処理菌体粉末を調製した。
【実施例2】
【0038】
(ヒト由来VREの感染試験)
VREフリーのブロイラー1日齢ヒナ(2群、各6羽)にVRE2菌株(ヒト由来標準株2株)の菌液を約10個/羽の割合で強制的に経口投与した。投与後0.5、1、3、7及び14日に糞便スワブを採取し、バンコマイシン(VCM)10μg/mL添加EF寒天培地に塗布した。37℃で48時間培養し、発育したコロニーを釣菌してグラム染色性、形態及び発酵能からEnterococcus属であることが確認した。投与後21日に解剖し、素嚢、胃、小腸及び盲腸の各消化管への定着を調べた。その結果、VRE投与後0.5〜14日目までの全てのスワブからVREが単離され、投与後21日では、素嚢、胃、小腸、盲腸の全ての消化管部位からVREが単離された。VREが少なくとも21日間はブロイラー腸管内に定着し得ることがわかった。ヒト由来VREがブロイラーヒナに感染するという事実は、養鶏現場でのVRE汚染は外来生物による汚染も起こり得ることが示された。
【実施例3】
【0039】
(腸管内でのVRE定着抑制効果)
VREフリーのブロイラー1日齢ヒナを導入した(4群、各6羽)。無投与対照群、乳酸菌死菌体粉末(EC−12)添加飼料投与群、鶏糞便由来ラクトバシルス・エスピー(Lactobacillus sp.)強制経口投与群及び市販競合排除製剤アヴィガード(バイエル社製)噴霧投与群の4群とした。ラクトバシルス・エスピーの投与は1日齢で1回強制投与し、競合排除製剤は、1日齢で散布投与した。EC−12の投与は1日齢から解剖検査時まで、基礎飼料に0.05%添加したものを与えた。実施例2で腸管への定着が確認できたVRE株を2日齢ヒナに全羽強制経口投与した。VRE攻撃(感染)後1,3,7及び14日に糞便スワブを採取し、実施例2と同様にVRE排菌状況を定性評価した。VRE攻撃(感染)後14日に解剖検査を行い、盲腸内容物中のVRE菌数を測定した。結果を図1に示す。図1に示すように、無投与対照群はVRE攻撃(感染)後14日まで6羽中3羽が陽性を示したが、ラクトバシルス・エスピー投与群では全羽陰性、EC−12投与群では1羽が陽性であった。競合排除製剤投与群は6羽中3羽が陽性であった。盲腸内容物中菌数でも同様の傾向が認められ、ラクトバシルス・エスピー又はEC−12投与群で全羽検出限界以下となった。このように、ラクトバシルス属や、EC−12等の乳酸菌がVRE定着阻止に有用であることがわかった。
【実施例4】
【0040】
(腸管内でのVRE定着抑制効果)
本発明で用いる菌又はその製剤として、乳酸菌としてEC−12死菌体およびラクトバシルス・エスピー及びエンテロコッカス・エスピーを用い、乳酸利用菌としてブタ大腸より単離された酪酸菌メガスフェラ・エルスデニを用い、混合菌として、ラクトバシルス・エスピー及びメガスフェラ・エルスデニを用いた。対照物質として抗生物質であるアヴィガード(バイエル社製)を用いた。供試動物は、ブロイラーヒナ24羽(1日齢、雄12羽、雌12羽)を用いた。基礎飼料としては、市販試験用配合飼料(試験用標準飼料ブロイラー前期用,SDBNo.1、日本配合飼料(株)製)を使用した。閉鎖系畜舎に1日齢ヒナを収容し、体重を測定し、できるだけ体重が均一になるように配慮して4群に分け、群ごとにステンレス製ケージに入れた。投与形態として、EC−12及びエンテロコッカス・フェシウムは、試験開始(1日齢)から試験終了(16日齢)までを飼料に添加して投与した。ラクトバシルス・エスピー、及びメガスフェラ・エルスデニ、ラクトバシルス・エスピーとメガスフェラ・エルスデニの混合物は、1日齢のとき、強制経口投与した。アヴィガードはその用法・用量に従って試験開始時(1日齢)に1回投与した。
【0041】
VRE感染は、2日齢ヒナにVREを強制経口投与した。該菌株はブタ由来の野外分離株E6株を用い、培養菌液(菌体濃度10個/0.5mL)を0.5mLずつ投与した。該VRE投与時に全羽糞便スワブを採取し、バンコマイシン(VCM)添加EF寒天培地に塗抹してVREフリーであることを予め確認した。
該VRE投与後、0,1,3及び7日に滅菌綿棒を用いて糞便を採取し、VCM添加EF寒天培地に塗抹してVREの定着もしくは通過を確認した。その結果を表2に示す。また、実験終了時(バンコマイシン投与後14日)に解剖を行った。盲腸を採取し、検体希釈液で10倍段階希釈を行い、VCM添加EF寒天平板及びLBS寒天平板に適当な段階の希釈液を塗抹し、盲腸内容物中のVRE菌数及びその結果も合わせて表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2より、乳酸菌自体(エンテロコッカス・フェシウム、ラクトバシルス・エスピー)、乳酸菌の死菌体(EC−12)、メガスフェラ・エルスデニ及びラクトバシルス・エスピーとメガスフェラ・エルスデニの混合菌がVREに感染した家禽に対し、定着抑制効果があることがわかった。
【実施例5】
【0044】
(バンコマイシン耐性菌の感染試験)
バンコマイシン耐性菌として、エンテロコッカス・フェカリスATCC51299株を用いた。エンテロコッカス・フェカリスATCC51299株の各種抗生物質に対するMIC値は表3に示すとおりである。
【0045】
【表3】

【0046】
VREフリーのブロイラー1日齢ヒナを、無投与対照群として雄6羽、雌7羽を用意し、鶏糞便由来ラクトバシルス・エスピー強制投与群として雄3羽、雌3羽を用意し、EC−12群として雄7羽、雌6羽を用意し、計3群とした。EC−12は、乳酸菌死菌体粉末を1日齢から解剖検査時まで(期間中)基礎飼料に0.05%添加したものを飼料添加投与し、鶏糞便由来ラクトバシルス・エスピーは、1日齢で1回強制経口投与した。ATCC51299株攻撃(感染)後1,3,7及び14日目の前記3群について、平均体重、平均増体重を測定した。その結果を表4に示す。
【0047】
【表4】

【0048】
次に、ATCC51299株攻撃(感染)後1、3、7及び14日の前記3群のそれぞれの糞便スワブを採取し、VREの排菌状況を評価した。ATCC51299株攻撃(感染)後14日に解剖検査を行い、盲腸内容物中のVRE菌数を測定した。さらに、血液、肝臓、脾臓のATCC51299株のトランスロケーションを調べた。以上の結果を表5に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
また、前記の3群についての解剖時の盲腸内容物中の総IgA濃度及び血清中の総IgG濃度を、ELISAを用いて測定した。ELISAはChickenIgA ELISA Quantitation Kit(Bethyl Laboratories Inc., Montgomery, TX)とChicken IgG ELISA Quantitation Kit(Bethyl Laboratories Inc.)で測定した。結果を表6に示す。
【0051】
【表6】

【0052】
さらに、前記の3群について血清を20倍希釈し、ATCC51299株の膜タンパク特異的IgGを吸光度[490nm]において同様にELISAで測定した。方法は以下の通りです。VRE細胞質の薄膜蛋白質溶液は炭酸塩バッファー[50mM NaCO、50mM NaHCO、pH9.6]で薄め、コーティング抗体として使用した。VRE細胞質の膜蛋白質溶液は以下のようにして準備した。
1)エンテロコッカス・フェカリスATCC51299はGAM培地中でMG期まで培養した。
2)培地を遠心し、ペレットは再懸濁溶液[10mMTris−Cl、1mMEDTA、50mM NaCl、pH7.4]で攪拌し、細胞壁が完全に壊れるまで、氷の上で超音波処理した。
3)超音波処理した溶液は細胞内画分を除去するために超遠心した[47,000x g、20分、4℃;日立himacCP65β(日立)、東京(日本)]。
4)超音波処理した溶液(VREの細胞質の膜蛋白質)のペレットを2回洗った。(再懸濁溶液によって攪拌し超遠心[47,000のxg、20min、4℃])
VRE細胞質の膜蛋白質ペレットは、炭酸塩バッファーの中で攪拌し、細胞質の膜蛋白質溶液の10mg/mLになるように調整した。蛋白質の溶液はVRE特異的なELISA分析における抗体のコートのために使用した。その結果を表7に示す。
【0053】
【表7】

【0054】
以上、多剤耐性菌の感染試験において、表4から、無投与対照に比べて、本発明の乳酸菌ラクトバシルス・エスピー強制経口投与(1日齢)、EC−12飼料添加投与(試験期間中)については、平均体重は、無投与対照に比べて、ラクトバシルス・エスピー強制経口投与(1日齢)ではむしろ劣るが、EC−12飼料添加投与(試験期間中)では、14日後では無投与対照のものより約6%体重が上回っている。
【0055】
表5からは、7日目の糞便中のATCC51299株の菌は、無投与対照群は、陽性率77%、ラクトバシルス・エスピー強制経口投与(1日齢)では100%、EC−12飼料添加投与(試験期間中)では38%であって、EC−12の投与は、ATCC51299株の菌の生育を抑制するか生育を阻止することに大きく寄与することがわかった。また、陽性だった個体の中での盲腸内容物中のATCC51299株の平均菌数は、無投与対照群では、85600個であるのに対し、ラクトバシルス・エスピー強制経口投与(1日齢)のものは6500個、EC−12飼料添加投与(試験期間中)では8000個であり、対照群に比べて、本発明のいずれも、盲腸内容物中、ATCC51299株の菌の存在は格段に低い。
【0056】
表6からは、盲腸内容物50倍希釈における総IgA濃度[ng/ml]は、本発明のものは、共に無投与対照群に比べて、高く、また、総IgG濃度[ng/ml]では、EC−12は、無投与対照に比して、非常に高い。このようにEC−12は、免疫力を高める作用があり、疾病防御に効果がある。
【0057】
表7からは、解剖時の血清中のATCC51299株膜タンパク特異的IgG(血清20倍希釈)では、EC−12が、無投与対照に比して、非常に高く、このことについても、表6に示す結果と同様である。
【0058】
以上の実施例5より、宿主動物由来の乳酸菌はVRE等の薬剤耐性菌よりも先に腸管内に定着し、その後の薬剤耐性菌の定着を抑制すると思われる。これに対して、エンテロコッカス・フェカリス等の死菌体は、エンテロコッカス・フェカリス等の近縁種であるVRE等に対して特異的なIgA,IgGの産生を促進し、VRE等の感染を防御すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の各菌株の投与によるVRE陽性率の変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌、その死菌体又はその処理物、あるいはメガスフェラ・エルスデニ(Megasphaera elsdenii)を有効成分として含有することを特徴とする家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除剤。
【請求項2】
乳酸菌が、エンテロコッカス属に属する菌であることを特徴とする請求項1記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除剤。
【請求項3】
エンテロコッカス属に属する菌が、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)であることを特徴とする、請求項2記載の家畜・家禽類又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除剤。
【請求項4】
エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)がEC−12(IFO 16803)であることを特徴とする請求項3に記載の薬剤耐性菌感染防除剤。
【請求項5】
EC−12(IFO 16803)が、その死菌体であることを特徴とする請求項4記載の家畜・家禽類又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除剤。
【請求項6】
エンテロコッカス属に属する菌が、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)であることを特徴とする請求項2記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除剤。
【請求項7】
乳酸菌が、ラクトバシルス属に属する菌であることを特徴とする請求項1記載の薬剤耐性菌感染防除剤。
【請求項8】
乳酸菌が、宿主動物に由来する乳酸菌であることを特徴とする請求項7記載の薬剤耐性菌感染防除剤。
【請求項9】
薬剤耐性菌が、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)又は多剤耐性菌であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除剤。
【請求項10】
死菌体が、加熱処理死菌体であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除剤。
【請求項11】
乳酸菌、その死菌体又はその処理物、あるいはメガスフェラ・エルスデニを有効成分として含有する組成物を、家畜・家禽類又は魚介類に経口投与することを特徴とする家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法。
【請求項12】
乳酸菌がエンテロコッカス属に属する菌であることを特徴とする請求項11記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法。
【請求項13】
エンテロコッカス属に属する菌が、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)であることを特徴とする、請求項12記載の家畜・家禽類又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法。
【請求項14】
エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)が、EC−12(IFO 16803)であることを特徴とする請求項13記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法。
【請求項15】
EC−12(IFO 16803)が、その死菌体であることを特徴とする請求項14記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法。
【請求項16】
エンテロコッカス属に属する菌が、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)であることを特徴とする請求項12記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法。
【請求項17】
乳酸菌が、ラクトバシルス属に属する菌であることを特徴とする請求項11記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法。
【請求項18】
乳酸菌が、宿主動物に由来する乳酸菌であることを特徴とする請求項11記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法。
【請求項19】
薬剤耐性菌が、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)又は多剤耐性菌であることを特徴とする請求項11〜18のいずれかに記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法。
【請求項20】
死菌体が、加熱処理死菌体であることを特徴とする請求項11〜19のいずれかに記載の家畜・家禽又は魚介類の薬剤耐性菌感染防除方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−89421(P2006−89421A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−278572(P2004−278572)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年3月20日 社団法人日本畜産学会発行の「日本畜産学会 第103回大会 講演要旨」に発表
【出願人】(391003912)コンビ株式会社 (165)
【Fターム(参考)】