説明

薬注制御方法及び薬注制御装置

【課題】安価に構成可能で複雑な制御を行うことなく循環冷却水中の薬剤濃度を有効な状態に維持する。
【解決手段】開放循環冷却水系の冷却設備は、冷却塔1、冷凍機2、循環ポンプ3、制御装置10、薬注装置20を備える。冷凍機2で昇温された循環冷却水は、冷却塔1内の散水装置4から散水されて、冷却された上で下部水槽6に溜まる。下部水槽6に溜まった循環冷却水は、循環ポンプ3によって冷凍機2に循環される。制御装置10の薬注動作制御部12は、ブロー動作制御部11からの情報に基づいて、ブロー動作中に薬注装置20による薬注動作を行わせず、ブロー動作後に薬注動作を行わせ、或いはブロー動作停止期間が所定時間よりも長い場合に補助薬注動作を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、開放循環冷却水系の循環冷却水への水処理薬剤の薬注制御方法及び薬注制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる開放循環冷却水系のシステムでは、冷却塔内に空気を強制的に取り込んで、冷凍機等の熱交換器から送られて来た循環冷却水とこの空気とを気液接触させることで、循環冷却水の一部を蒸発させて冷却することが行われている。循環冷却水は、熱交換器と冷却塔との間を循環利用されるため、腐食、スケール、スライムなどの障害が発生しやすく、これらの障害を防ぐために、種々の水処理薬剤が添加された上で使用される。
【0003】
水処理薬剤は、その効果を最大限に発揮するために、循環冷却水中において常時一定濃度以上を保つように管理される必要があり、そのために種々の方法により水処理薬剤を循環冷却水に注入する(薬注する)ことが行われている。例えば、下記特許文献1の薬注制御方法では、冷却塔内へ入る循環冷却水と冷却塔外へ出る循環冷却水との温度差から冷却塔の負荷を求め、この求められた負荷に基づいて水処理薬剤の薬注量を制御することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−30936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術の薬注制御方法では、循環冷却水の蒸発損失の場合は求めた負荷に基づいてブロー水量を算出し、このブロー水量に基づき薬注量を求めるようにすると共に、飛散損失の場合は飛散損失量とブロー水量との合計量と設定薬品濃度とから薬注量を求めるようにしている。このため、水処理薬剤の薬注に関する制御が複雑になると共にシステム全体が高価になるという問題がある。また、従来の一般的な制御では、薬注動作がタイマー制御となっており、ブロー動作と薬注動作とが連動していないため、有効な薬剤濃度を維持することが困難であった。そこで、例えば循環冷却水中の薬剤濃度を直接計測して薬注を制御するものも知られているが、この場合には、システム全体が高価なものとなってしまう。
【0006】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、安価に構成可能で複雑な制御を行うことなく循環冷却水中の薬剤濃度を有効な状態に維持することができる薬注制御方法及び薬注制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る薬注制御方法は、開放循環冷却水系の循環冷却水に水処理薬剤を注入する薬注制御方法であって、冷却塔における前記循環冷却水のブロー動作中に、前記循環冷却水への前記水処理薬剤の薬注動作を行わないように制御することを特徴とする。
【0008】
なお、例えば前記ブロー動作が行われた後に、前記ブロー弁の開いた時間に比例した前記薬注動作を行うように制御したり、例えば前記ブロー弁が所定時間動作していない場合に、前記循環冷却水に前記水処理薬剤を所定量注入する補助薬注動作を行うように制御したりしても良い。
【0009】
本発明に係る薬注制御装置は、開放循環冷却水系の循環冷却水への水処理薬剤の注入を制御する薬注制御装置であって、冷却塔におけるブロー弁の動作を制御するブロー弁動作制御手段と、前記循環冷却水に前記水処理薬剤を注入する薬注装置を制御する薬注制御手段とを備え、前記薬注制御手段は、前記ブロー弁動作制御手段からの信号に基づいて、前記循環冷却水のブロー動作中に、前記薬注装置に薬注動作を行わせないように制御することを特徴とする。
【0010】
なお、薬注制御手段は、例えば前記ブロー動作が行われた後に、前記ブロー弁の開いた時間に比例して前記薬注装置に前記薬注動作を行わせるように制御したり、例えば前記ブロー弁が所定時間動作していない場合に、前記循環冷却水に前記水処理薬剤を所定量注入する補助薬注動作を前記薬注装置に行わせるように制御したりする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安価に構成可能で複雑な制御を行うことなく循環冷却水の薬剤濃度を有効な状態に維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る薬注制御方法及び薬注制御装置が適用された開放循環冷却水系の冷却設備を示す系統図である。
【図2】同薬注制御装置の内部構成を示すブロック図である。
【図3】同薬注制御方法による薬注制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】同冷却設備の動作を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、添付の図面を参照して、この発明に係る薬注制御方法及び薬注制御装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る薬注制御方法及び薬注制御装置が適用された開放循環冷却水系の冷却設備を示す系統図、図2は同薬注制御装置の内部構成を示すブロック図である。図1に示すように、開放循環冷却水系の冷却設備は、例えば冷却塔1と、冷凍機2と、循環ポンプ3と、制御装置10と、薬注装置20とを備えて構成されている。
【0015】
冷凍機2で昇温された循環冷却水は、冷却塔1内の散水装置4から散水されて、下部水槽6に溜まる。下部水槽6に溜まった循環冷却水は、循環ポンプ3によって冷凍機2に循環される。
【0016】
この循環冷却水は、冷凍機2及び冷却塔1の間を循環利用されるうちに蒸発や飛散により損失される。このため、冷却塔1内における循環冷却水の蒸発損失量及びブロー弁7の動作によるブロー動作に伴うブロー水量を含む飛散損失量に相当する量の補給水が、補給弁8を通って冷却塔1内に供給される。
【0017】
なお、下部水槽6に溜まった循環冷却水は、下部水槽6における水面が一定となるようにそのオーバーフロー分が排出管9aを通って外部に排出されると共に、排出弁9を動作させることにより強制的に外部に排出されたりする。冷却塔1内に供給される補給水は、下部水槽6の水面を一定とするように供給される。このため、上記蒸発損失量や飛散損失量が変動したり、ブロー動作が行われたりしても、冷却設備の循環冷却水の水量はほぼ一定に保たれる構造となっている。
【0018】
このような冷却塔1内における水面制御は、例えば補給弁8としてボールタップ弁等を用いることで自動的に行うことができ、ブロー動作は循環冷却水の水質が劣化した際に適宜行われる。循環冷却水の水質が劣化したか否かは、公知の技術にあるように、循環冷却水の電導度を測定することにより判定することができる。
【0019】
循環冷却水には、設備における腐食、スケール、スライム等の障害の発生を防止するために、各種の水処理薬剤が予め添加されているが、循環冷却水はこのような補給や損失を繰り返すため、循環冷却水中の薬剤濃度が有効な状態を維持できるように、薬注装置20の薬液タンク22から薬注ポンプ21によって水処理薬剤が適宜注入される。これにより、腐食、スケール、スライム等の障害の発生の防止が図られている。
【0020】
一方、これらの冷却設備の動作を制御する制御装置10は、例えば冷却設備全体の制御を司ると共に、内部にブロー動作制御部11、薬注動作制御部12、及び電導度測定部13を備えて構成されている。
【0021】
ブロー動作制御部11は、後述する電導度測定部13からの情報に基づき、ブロー弁7の動作を制御する。
【0022】
薬注動作制御部12は、薬注装置20全体の制御を司ると共に、ブロー動作制御部11からのブロー動作に関する情報に基づいて、薬注ポンプ21の動作を制御し、薬液タンク22から水処理薬剤を循環冷却水中に注入する薬注動作を薬注装置20に行わせる。この薬注動作制御部12が制御する薬注動作の詳細は後述する。
【0023】
電導度測定部13は、例えば下部水槽6に取り付けられた投げ込み型の電導度センサ15a或いは循環管路に設けられた流通型の電導度センサ15bからの情報に基づいて循環冷却水の電導度を測定する。
【0024】
このように構成された冷却設備における薬注制御は、例えば次のように行われる。図3は、本発明の一実施形態に係る薬注制御方法による薬注制御処理手順の一例を示すフローチャート、図4は冷却設備の動作を示す波形図である。本実施形態に係る薬注制御方法による薬注制御処理は、次の点を特徴とする。
【0025】
すなわち、一般的にはタイマーで行われる薬注動作を、(1)ブロー動作中には行わない、(2)ブロー動作が行われた後に、ブロー弁7の開いた時間に比例して行う、(3)ブロー弁7が所定時間動作していない場合に、水処理薬剤を所定量注入するように補助的に行うようにした点を特徴としている。
【0026】
まず、電導度測定部13によって循環冷却水の電導度が測定され、ブロー動作制御部11は、この電導度測定部13からの情報に基づいて、図4に示すように、電導度が高くなって制御開始点以上となったか否かを判定する(ステップS100)。電導度が制御開始点以上となったと判定した場合(ステップS100のY)は、ブロー動作制御部11は、ブロー弁7の動作を制御してブロー動作を行う(ステップS102)。
【0027】
すなわち、公知のように循環冷却水の水質が劣化すると電導度が高くなるという性質を利用することで、ブロー動作制御部12は、この電導度が所定の制御開始点以上となった場合にブロー弁7を開けてブロー動作を行う。こうしてブロー動作が行われると、循環冷却水の水質は改善され、電導度が低下する。
【0028】
そして、ブロー動作制御部11は、電導度測定部13からの情報に基づき電導度が低くなって制御停止点以下となったか否かを判定する(ステップS104)。電導度が制御停止点以下となったと判定した場合(ステップS104のY)は、ブロー動作制御部11は、ブロー弁7の動作を制御してブロー動作を停止する(ステップS106)。
【0029】
すなわち、公知のように循環冷却水の水質が劣化状態から改善すると電導度が低くなるため、ブロー動作制御部11は、この電導度が所定の制御停止点以下となった場合に、ブロー弁7を閉めてブロー動作を停止する。こうしてブロー動作を停止すると、循環冷却水の水質は再び劣化し始め、電導度が高くなる。
【0030】
このように、冷却設備における循環冷却水の電導度の高低を判断してブロー動作が行われる場合において、従来の薬注制御方法のようにブロー動作とは無関係に水処理薬剤の薬注動作が行われると、水処理薬剤のロスが出てしまったり、循環冷却水中の薬剤濃度が過剰に上昇してしまったりして好ましくない。
【0031】
そこで、本実施形態に係る薬注制御処理では、上記(1)のようにブロー動作に同期して薬注動作を行わない(すなわち、ブロー動作中に薬注動作を行わない)ようにしている。具体的には、ブロー動作制御部11からの情報に基づいて、ブロー動作が停止されたら(ステップS106)、薬注動作制御部12は、図4に示すように、薬注ポンプ21を動作させて薬注動作を行う(ステップS108)。
【0032】
この時の薬注動作は、水処理薬剤を予め決められた量注入するようにしても良いし、上記(2)のようにブロー弁7の開いた時間に比例して薬注量や薬注時間を決めて行うようにしても良い。薬注動作が行われると、図4に示すように、循環冷却水中の薬剤濃度は高くなる。
【0033】
そして、薬注動作制御部12は、ブロー動作制御部11からの情報に基づき、ブロー弁7が動作しておらずブロー動作が停止している時間が所定時間Tよりも長いか否か(所定時間T以上であるか否か)を判定する(ステップS110)。図4に示すように、例えばブロー動作が行われていない場合は、冷却設備の低負荷時における循環運転が行われている場合などが相当し、ブロー動作が頻繁に行われている場合は、高負荷運転が行われている場合などが相当する。
【0034】
ブロー動作が停止している時間が所定時間Tよりも長いと判定した場合(ステップS110のY)は、循環冷却水中の薬剤濃度が低下し続けてしまい悪影響となるため、薬注動作制御部12は、上記(3)のように水処理薬剤を循環冷却水に所定量注入するように補助的な薬注動作(補助薬注動作)を行い(ステップS112)、上記ステップS100に移行して処理を繰り返す。なお、補助薬注動作の薬注量や薬注時間は、冷却設備の各種条件によって適宜設定される。この補助薬中動作は、上記薬注動作と同様の薬注量や薬注時間であっても、異なる薬注量や薬注時間であっても良い。
【0035】
なお、上記ステップS100において電導度が制御開始点以上となっていないと判定した場合(ステップS100のN)は、ステップS110に移行してブロー動作が停止している時間が所定時間Tよりも長いか否かを判定する。また、上記ステップS104において電導度が制御停止点以下となっていないと判定した場合(ステップS104のN)は、ステップS102に移行してブロー動作が続行される。更に、ブロー動作が停止している時間が所定時間Tよりも短い(所定時間T未満である)と判定した場合(ステップS110のN)は、上記ステップS100に移行して処理を繰り返す。
【0036】
このような薬注制御処理を行った結果、図4に示すように、循環冷却水中の薬剤濃度は、冷却設備の高負荷運転或いは低負荷運転に関わりなく水処理薬剤が有効な状態となる濃度を維持することが可能となった。すなわち、本実施形態に係る薬注制御処理によれば、上記(1)〜(3)のように薬注動作が行われるので、タイマー運転による薬注動作と比べて水処理薬剤が注入過多となることもなく、別途ブロー水の流量を計測する流量計などが不要であると共に水処理薬剤のロスも少なくなるので、コスト低減を図ることができ安価に構成することができる。もちろん、流量計が既設のシステムにおいても本実施形態の効果が奏されることは言うまでもない。
【0037】
また、ブロー動作制御部11からのブロー動作に関する情報に基づいて薬注動作制御部14がブロー動作後、或いはブロー動作停止期間が所定時間よりも長い場合に薬注動作を行うように制御するため、複雑な演算処理や制御を行うことなく循環冷却水の水処理薬剤の薬剤濃度を有効な状態に維持することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 冷却塔
2 冷凍機
3 循環ポンプ
4 散水装置
6 下部水槽
7 ブロー弁
8 補給弁
9 排出弁
9a 排出管
10 制御装置
11 ブロー動作制御部
12 薬注動作制御部
13 電導度測定部
15a 電導度センサ
15b 電導度センサ
20 薬注装置
21 薬注ポンプ
22 薬液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開放循環冷却水系の循環冷却水に水処理薬剤を注入する薬注制御方法であって、
冷却塔における前記循環冷却水のブロー動作中に、前記循環冷却水への前記水処理薬剤の薬注動作を行わないように制御する
ことを特徴とする薬注制御方法。
【請求項2】
前記ブロー動作が行われた後に、前記ブロー弁の開いた時間に比例した前記薬注動作を行うように制御する
ことを特徴とする請求項1記載の薬注制御方法。
【請求項3】
前記ブロー弁が所定時間動作していない場合に、前記循環冷却水に前記水処理薬剤を所定量注入する補助薬注動作を行うように制御する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の薬注制御方法。
【請求項4】
開放循環冷却水系の循環冷却水への水処理薬剤の注入を制御する薬注制御装置であって、
冷却塔におけるブロー弁の動作を制御するブロー弁動作制御手段と、
前記循環冷却水に前記水処理薬剤を注入する薬注装置を制御する薬注制御手段とを備え、
前記薬注制御手段は、
前記ブロー弁動作制御手段からの信号に基づいて、前記循環冷却水のブロー動作中に、前記薬注装置に薬注動作を行わせないように制御する
ことを特徴とする薬注制御装置。
【請求項5】
前記薬注制御手段は、前記ブロー動作が行われた後に、前記ブロー弁の開いた時間に比例して前記薬注装置に前記薬注動作を行わせるように制御する
ことを特徴とする請求項4記載の薬注制御装置。
【請求項6】
前記薬注制御手段は、前記ブロー弁が所定時間動作していない場合に、前記循環冷却水に前記水処理薬剤を所定量注入する補助薬注動作を前記薬注装置に行わせるように制御する
ことを特徴とする請求項4又は5記載の薬注制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−247447(P2011−247447A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118151(P2010−118151)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000127352)株式会社イワキ (23)