説明

薬液吸入装置

【課題】医科用の薬液吸入装置の稼動時に余剰薬液および患者呼気によってマスク等排出具内で発生した結露によって生じる液滴を安全に処理し、薬液霧供給管路内への余剰薬液霧及び患者呼気の進入を回避し、更に装置の連続的な使用に際し、高い衛生性を保持できる診療環境を実現するような診療装置の提供する。
【解決手段】ドレン管路4を含むドレン機構および貯留タンク6、それぞれ独立的な薬液供給管路3とドレン管路4とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の咽頭や鼻腔に薬液霧を吸入させる薬液吸入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、耳鼻咽喉科などの治療においては、ネブライザという、薬液霧(エアロゾル)を患者に吸入させることによって身体器官の咽頭部及び全身に作用させる薬液吸入装置が使用されている。
【0003】
その一例として、霧吹きの原理を用いて薬液霧を発生させる薬液霧発生装置に、加圧空気源から加圧空気を供給して、発生した薬液霧を吸入具に導き、患者の口や鼻を通じて咽頭や鼻腔等の各器官に薬液霧を吸入させる、コンプレッサー式の薬液吸入装置がある。
【0004】
前記のような薬液吸入装置においては、薬液霧を患者に供給し吸入させる際、患者の鼻孔ならびに口元全体を被覆するマスクが用いられる。このとき、患者身体とマスクとの隙間から薬液霧が漏れ出し、診療環境内に蒸散することがある。また、患者身体との密着により開放性を失った湾曲状のマスク内側の狭小空間内に、余剰薬液霧と患者呼気により結露が発生し、この液滴がマスク及び管路内に残留し、マスクの内外に垂れて来て不快且つ不衛生になることがある。
【0005】
従来では、これらの余剰薬液霧および患者呼気によって診療環境の快適性が阻害されるのを回避する措置として、例えば特許文献1および特許文献2が示すような方法がとられている。
【0006】
特許文献1の技術は、漏洩した薬液霧および患者呼気を吸引回収および清浄する手段をとして、吸引ポンプを用いて薬液吸入装置の上部・下部に設けた吸気口から排気管内に吸い込み、更にフィルタを通して清浄化したのち排気ダクトから排出する方法を特徴とするものである。
【0007】
特許文献2の技術は、薬液霧および疾患等を有する患者の呼気が診療環境に拡散するのを防止する手段として、カバーで包囲された薬液霧供給箇所を含む一定領域内において、除去フィルタを介しながら集風機で集気することで空気中の粒子を濾過および吸着・回収する構成を設けたことを特徴とするものである。
【0008】
【特許文献1】特開2001−198218
【特許文献2】特開昭47−30192
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上に示すような従来の薬液吸入装置に関しては、余剰薬液霧および患者呼気を含んだ空気を吸引回収するとともに清浄化を行う手段によって、診療環境の汚染を防ぐ一連の試みがなされている。診療環境とは、施術空間のみを指すのではなく、当該空間内に設置された診療に用いる器具や装置も含まれる。
【0010】
当該装置内の環境清浄化に関しては、余剰薬液霧を吸引回収する手段が一般的技術として知られている。しかしながら、薬液吸入装置を使用する際に、余剰薬液霧とともに、薬液霧と患者呼気が集結し結露となった液滴がマスク及び管路内に発生することは前述のとおりである。
【0011】
次に、複数の患者によって薬液吸入装置が連続的に使用される場合、どうしても回収しきれない薬液霧や患者呼気を含む液滴が装置内に残留する。患者から吐き出された呼気には、時に病原体を含む各種ウィルスや細菌が含まれる。このような液滴をマスクや管路内に滞在させたまま、別の患者が当該装置を使用する場合、同一の供給管路を介して液滴が次の患者に供される状況は医療環境としては望ましくない。
【0012】
これらの実情を踏まえると、従来の技術は診療装置内の環境改善を実現する手段としては、十分な展開がなされてこなかったといえる。
【0013】
例えば特許文献1の薬液吸入装置では、管路外に洩れた薬液霧の排気を行う空気清浄手段を提案したことで同空間内の患者・付添人・医療従事者等が不必要な薬液を吸い込む事態は低減できたものの、装置外部に洩れた蒸散気体である余剰薬液霧および患者呼気の吸引回収・排出を行うにとどまり、管路内に残留した液滴を処理できていない。
【0014】
また例えば特許文献2の薬液吸入装置では、患者が薬液を吸入する領域内にフィルタを設置させ、患者が吸う空気中の粒子を除去する手段を提案した。この手段により、当該装置使用中の患者が空気中の不要な汚れを吸い込む事態は低減できた。しかしながら、吸引回収する対象が粒子であり、液滴発生に際した対応が図られていない。また、フィルタを装置内に常置させているため汚れを装置内に留めざるを得ないことや、使用済みフィルタを度々交換する煩雑さを考えると、衛生面及び管理面での改善の余地が多く残されている。
【0015】
よって、蒸散した霧粒ならびに浮遊粒子の吸引・回収・排出という現状の手段で診療環境の衛生面を保とうとする特許文献1乃至2の技術には、解決すべき課題が依然として残されたままである。
【0016】
最も注視すべきは、余剰薬液霧および患者呼気が結露することで発生する液滴の存在である。個人用の吸入器とは異なり、医療機関等に置かれている薬液吸入装置は、同一装置に対して不特定多数の患者が連続して使用することとなる。このとき患者身体と直接接触する吸入具は、一般的に着脱容易な構造であり、患者ごとに交換され、殺菌や消毒される。
【0017】
しかし、装置内に配置されることの多い薬液霧供給管路は、患者ごとに交換されることは稀である。従って、前の患者の使用により発生した液滴が管路内に長時間残留することで管路内の衛生性が阻害される可能性も懸念される。
【0018】
実際に前記課題の対策として、一般的な吸入装置に搭載される公知の技術には、逆止弁や逆流防止管路を設けるという手段が用いられてはいる。しかしこの技術では、患者の口元に薬液霧を供給する管路と、吸入装置の使用中に発生した液滴の逆流が堰き止められる管路とに隔離性がない。液滴が薬液霧供給管路に対して通行性を有する環境である以上、液滴供給管路への流入の可能性が常に残されている。
【0019】
従って、大きくは次の点が克服すべき課題である。
1.ドレン対策・・・装置の薬液霧供給管路内に残留する薬液霧及び患者呼気が結露することにより発生した液滴の回収手段
2.衛生面の向上・・・当該装置の繰り返し使用に際して、患者に対する衛生面の向上
3.管理の簡便化・・・簡易なメンテナンス構造の実現
【0020】
以上のとおりであるから、上記特許文献は、薬液吸入装置および薬液吸入装置が使用される診療環境に関して十分な衛生面を実現する機能性を持たず、また当該装置が孕む問題点に対して抜本的な解決策を提案するようなものではなかった。
【0021】
本発明は、上記の薬液吸入装置の現状に鑑み、余剰薬液霧および患者呼気によって薬液霧供給管路内に発生した液滴を回収する構成を設けることで、薬液吸入装置のような蒸散性の物質を用いる医療装置に対し、使用上の更なる安全性を実現する技術を提案するものである。
【0022】
上記の課題を克服した本発明は、耳鼻咽喉科の医療現場において、簡易な構成ながら快適性を向上させつつ、衛生面で格段の改善を図ることができる技術を提示している。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、加圧空気源からの加圧空気によって薬液霧を発生させる薬液吸入装置本体に、上記課題の解決手段として以下の構成を備えたことを特徴とする。すなわち、加圧空気源から導管を介して設けられた薬液霧発生装置と、前記薬液霧発生装置と患者の薬液吸入口に設けられたマスク等の排出具との間を繋ぐ薬液霧供給管路と、一端を前記排出具または前記薬液霧供給管路の該排出具近傍に他端を貯留タンクに接続するドレン管路と、前記ドレン管路末端に設けられた貯留タンクとを備えたことを特徴とする薬液吸入装置を提供する。
【0024】
また、本発明が提案する前記装置は、前述の特徴に加え、前記排出具近辺においてドレン管路が前記薬液霧供給管路の垂直方向の下部に設けられていることを特徴としている。
【0025】
尚、上記の構成要件にあるドレン管路の一端が接続する薬液霧供給管路における排出具の「近傍」とは、以下の記述を以って「近傍」と定める。すなわち、ドレン管路の一端がマスク等排出具の一部と接触するような配置であるか、前の使用で発生した液滴が新たに取り付けた排出具に滲入しない構成で薬液霧供給管路と該排出具の接続部付近の該薬液霧供給管路から当該ドレン管路が分岐するような配置であるか、もしくはその両方を含む形態のいずれかである。詳しくは発明を実施するための最良の形態で説明する。
【0026】
従来技術では、診療環境の阻害要因として、蒸散した余剰薬液霧ないし患者呼気などの気体に焦点が当てられていた。本発明が着目したのは、これが結露した液滴である。当該液滴を取り除けば格段に診療環境を向上させることができるのだが、液滴回収に関しては未だ抜本的な処理方法は提案されていない。
【0027】
そこで、これを実現するために、薬液吸入装置に、排出具と液滴回収用の貯留タンクとの間にドレン開口を備えたドレン管路を設けた。この手段によって薬液霧供給管路とドレン管路とを用途別の専用管路として機能的に独立させ、供給管路内への液滴混入の防止手段とした。
【0028】
また、薬液霧供給管路に対してドレン管路を垂直方向の下部に配置することによって、吸引装置等を使用することなく、簡易な構造のまま液滴をドレン管路内へ回収する手段を実現した。以上の方法によって薬液吸入装置の使用中に発生する液滴化した余剰薬液霧および患者呼気の回収を行う。
【0029】
当該解決手段において用いられるマスク等排出具は、患者が薬液霧の吸入を行うための用具であり、患者身体と直接的に接触する吸入部を含む鼻用ないし口用の薬液霧供給管路の一端に装着する吸入用器具である。この器具は、鼻及び口元を覆う部材の一部に薬液霧供給管路との接続部を有する。従って、患者が鼻からも口からも薬液霧を吸入することができる融通性の高い形態を有している。この手段により薬液霧の放散領域を当該排出具部材によって限定し、器具外部への薬液の霧散を減少させ、効率のよい薬液霧の供給を実現する。
【0030】
上記手段で用いる排出具には、発生した液滴をドレン管路内に流入させるための開口部を設けた接続部を有する。この液滴通過用の開口部は薬液霧供給管路と接続する開口部と同一であってもよい。
【0031】
排出具に設けられた薬液霧供給機能およびドレン機能を有する前記の開口部は、供給用とドレン用とが各々個別の接続部であってもよい。この場合、当該薬液霧供給管路よりも当該ドレン管路への接続部を低い位置に設けることによって液滴の排出を無理なく行うことができる。
【0032】
尚、前記開口部分は、薬液霧供給機能およびドレン機能を兼用する如何にかかわらず、排出具を交換する場合に当該開口部材を含む排出具全体を着脱させることによって使用毎に衛生性を確保することができる。
【0033】
更に上記の解決手段として、前記の薬液吸入装置には、ドレン開口を設けたドレン管路と液滴回収用の貯留タンクを設けた。この手段においては、ドレン管路の一部もしくはドレン開口に、あるいは貯留タンクのドレン開口との接続部付近に、逆止弁や逆流防止管等を設けてもよい。
【0034】
上記の解決手段で用いられる貯留タンクには、ドレン開口との接続部に具備された連結管とは別に、貯留した液滴を下水へ排出するための排出口を設けてもよい。
【0035】
本発明の解決手段として用いられる薬液霧供給管路およびドレン管路において、両者は用途別の専用管路として機能的に独立した管路である。この両管路は、外部を1本ずつ分離させた複数の単一管路の形態であってもよいし、2つの管路を別の素材で併合した複合管路であってもよいし、一端は単一管路の形態であるが途中から分岐して別の経路に分かれる形態であってもよい。
【0036】
要するに、管路内部を通過する流体に応じた目的別の管路を当該装置に備えることによって薬液霧供給管路内に液滴が混入するのを防ぐ、という手段が実行できる形態であればよい。
【0037】
上記の解決手段における管路の独立について、薬液霧供給管路からドレン管路が分岐する形態の場合、供給される薬液霧や回収される液滴の通常の流れを阻害しない形状の逆止弁や逆流防止管等を分岐部付近に設けてもよい。
【0038】
また上記の解決手段においては、薬液霧供給管路に対してドレン管路が垂直方向の下部に配置されるようにすることで供給管路内への液滴混入の防止手段とした。ドレン管路の設置および形状に関しては「発明を実施するための最良の形態」で詳しく説明を行う。
【発明の効果】
【0039】
本発明の意図するところは、吸入具および吸入具近傍に液滴そのものが滞留しないような構造を備えることを目的とした技術の提供にある。よって、液滴が発生した時点で、当該液滴を薬液霧供給管路とは別のドレン管路に逃がす手段を用いる。すなわち本発明の特徴は、管路の機能性を用途別に独立させた点にある。
【0040】
本発明の請求項1に係る薬液霧供給管路およびドレン管路が機能的に独立して設けられることを特徴とする薬液吸入装置によれば、マスク等排出具内にこもった余剰薬液霧及び患者呼気が結露することで発生した液滴を、当該マスク等排出具近傍に設けられたドレン管路内に逃がすことができるようになる。
【0041】
上記の手段によって、液滴化した余剰薬液霧及び患者呼気がマスク等排出具から漏れ出し、患者の身体や当該装置を含む診療環境内に滴り落ちるなどして、患者に不快感を与えたり診療環境を不衛生にしたりする事態の軽減が図られ、診療環境が向上される。
【0042】
また、マスク等排出具の交換に伴う着脱作業時に部材に与えられる引き抜きの衝撃によって、余剰薬液霧および患者呼気により発生した液滴の飛沫が、薬液霧供給管路内に入り込んだり装置の周囲に飛び散ったりする事態を軽減でき、診療環境の向上が図られるという効果が奏される。
【0043】
更に、従来技術に課されていた薬液霧供給管路に対する液滴の流入可能性という課題は、上記の技術によって解決される。つまり、薬液霧を供給する管路と液滴を回収する管路とに隔離性を持たせることにより、液滴が薬液霧供給管路内に入り込む可能性を大幅に軽減できるという効果が奏される。
【0044】
上記手段で奏された効果によって、同一の薬液吸入装置を複数患者が連続的に使用する場合でも、前の患者が該装置を使用した際に発生した液滴が薬液霧供給管路内に残留した状態のまま次の患者が使用することがなくなり、不衛生な液滴が新たに装着された排出具内に入り込む事態を防ぐことができる。
【0045】
また本発明においては、ドレン開口を設けた上記のドレン管路が貯留タンクに併設されることによって一定量の液滴を効率的に処理することができる。この技術を適用した本発明の吸入装置は、連続使用に耐えられる機能性を有する。従って、病院等で一般的な複数患者による同一装置の使用状況において、一定の衛生性を保持したまま継続的に治療を施すことが可能になるという有用性が認められる。
【0046】
更に請求項2の係る薬液吸入装置によれば、マスク等排出具近辺においてドレン管路が薬液霧供給管路の垂直方向の下部に設けられている。当該排出具近辺にドレン管路を設けたことによって、マスク等から流れてきた液滴を迅速に回収し、液滴溜まりを除去するという効果が得られる。
【0047】
また、当該ドレン管路を当該薬液霧供給管路の垂直方向下部に設けたことで、重力と管路の傾斜を利用した液滴回収を行うことができる。この手段によって、吸引装置等を用いて当該装置の機能を複雑にすることなしに、簡易な構造のまま確実に液滴を回収できるという効果が奏される。
【0048】
一方で、吸引装置を用いるとマスク等排出具内では液滴の他に空気も同時に吸い込まれることになる。この際、供給される薬液霧が患者に投与される前に吸引してしまうという望ましくない事態が懸念される。液滴の回収作業に吸引装置を使用しない本発明では、発生する不要な液滴のみを確実にドレン管路に流し込むことができる。
【0049】
このように薬液吸入装置に独立的に設けられた液滴排出専用のドレン管路は、ドレン管路の設置が一般的でない従来技術を用いた薬液吸入装置と比較すると、従来の装置では回避することが困難であった薬液霧供給管路内への液滴浸入を格段に減らし、簡素な構成でありながら不要な液滴のみを確実に回収し、また装置の連続的な使用にも耐えうる構造を設備させる、という効果を奏することができる。
【0050】
以上に示したように、本発明の技術は、液滴をそもそも管路内に滞留させないという点に関して非常に優れた手段を提供するものである。この点において、液滴によって阻害される衛生性を格段に改善させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下に、図を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0052】
図1は、本発明の薬液吸入装置の一例の使用状態を示す側面概念図である。霧吹きの原理を用いて薬液霧を発生させるコンプレッサー式の当該薬液吸入装置Nは、凡そ次の構成を以ってなる。
【0053】
すなわち、薬液吸入装置Nに加圧空気を供給する加圧空気源1と、導管を介して加圧空気源1と直結する、薬液から薬液霧を発生させる薬液霧発生装置2と、発生させた薬液霧を供給するための一端を薬液霧発生装置2に接続する薬液霧供給管路3と、管路から送出される薬液霧を効率よく吸入させるために薬液霧供給管路3の他端に装着された患者Kの鼻および口元一帯を被覆するマスク等排出具Mと、当該装置N稼動中に余剰薬液霧および患者呼気によって排出具M内部に発生する液滴を回収するためのドレン管路4とは別に一端を前記排出具Mに接続するドレン管路4と、ドレン管路4内を流れてきた液滴を当該管路から排出するために前記ドレン管路4の他端に設けられたドレン開口4Aと、ドレン開口4Aを中継として排出された液滴を回収し一時的に貯留するための貯留タンク6から構成される。
【0054】
ドレン管路4は薬液霧供給管路3の垂直方向の下部に設けられている。この手段は請求項2と対応する技術である。図1では、ドレン管路4の薬液吸入装置N内における配置の一例を示している。該ドレン管路4がマスク等排出具M近傍から一定の長さで斜角を形成した後、当該装置Nが設置されている床面に対して鉛直方向に伸び、更に貯留タンク6に至るまで再び斜度のある形態をしたものを例示している。
【0055】
しかしながら、ドレン管路4の形状はこれに限ったものではない。ドレン管路4の形状および設置角度に関するバリエーションは、様々な展開が考えられる。
【0056】
例えば、ドレン管路4の形状はマスク等排出具M側のドレン管路4の末端部から他端の貯留タンク6との接触部に設けられたドレン開口4Aまで一直線状であってもよいし、湾曲性を有していてもよい。設置角度は、当該薬液吸入装置N設置面に対して斜角を形成していても良い。要するに、液滴のスムーズな回収を阻害しない形状を有していることが好ましいので、この限りにおいて、ドレン管路4の自由な形状が可能となる。
【0057】
貯留タンク6は、薬液吸入装置Nに予め内設あるいは外設されていても良いし、当該装置Nの設置場所付近に装置本体とは別個に設置された貯留用タンク(不図示)と共用する形態であっても良い。薬液吸入装置Nが可搬型で、患者Kの自宅等に持ち運んで使用する場合には、貯留タンク6の装置内臓タイプが便利である。
【0058】
また、この貯留タンク6に関して、当該タンクとドレン開口4Aとは取り外し可能であってもよいし、溶接等によって取り外し不可な接合処理がなされていてもよい。
【0059】
前例の場合は、内部に貯留された液滴を排出・廃棄処理する際に、ドレン開口4Aとの接続部を利用してもよい。後例の場合は、貯留した液滴排出用の開閉口(不図示)を別に設けても良いし、あるいはより衛生性を重視するなら、貯留タンクの一部に排水口(不図示)を設け、下水溝等の廃水処理設備と連結させる手段を備えていることが望ましい。
【0060】
また、ドレン開口4Aと貯留タンク6との継目付近に、逆止弁やオリフィス構造を設けても良い。この手段を用いれば、貯留タンク6内で発生した湿気が蒸散するといった事態が万が一起きても対応できる。
【0061】
図2は、図1の患者K頭部・マスク等輩出具M・薬液霧供給管路3ならびにドレン管路4の一部を含む一部拡大断面図で、薬液吸入装置N使用時の概略を示している。
【0062】
患者Kは、薬液霧供給管路3を通って口および鼻付近に運ばれてきた薬液霧を吸入する。この時、マスク等排出具Mの吸入部が患者K身体と接触し排出具内部に薬液霧がこもることで、効率的な供給が可能になる。その一方で、患者Kに吸入されない余剰薬液霧および患者自身の呼気がマスク等排出具M内部の閉鎖的な空間に集結し結露が生じる。この結露等液滴が排出具下部に接続したドレン管路4へと回収される。
【0063】
このとき、当該発明の特徴である複雑な装置に依らず液滴を回収するこの仕組みを利用するには、ドレン管路4が薬液霧供給管路3よりも下部に設けられていることが望ましい。この手段を用いれば、液滴自体の重みと、重力と、管路構造という簡便な手段による液滴回収を行うことができる。
【0064】
次いで、ドレン管路4に併用されるマスク等排出具Mの説明を行う。
【0065】
図3は、ドレン管路4の貯留タンク6に接続されない一端、ならびに薬液霧供給管路3の薬液霧発生装置2に接続されない一端に接続されるマスク等排出具Mの形態の一例を示した図である。
【0066】
当該排出具は一般的に、両管路3,4に繋げるための管路接続部51と、患者Kに薬液霧を効果的に吸入させるための吸入部7とによって構成される。患者吸入部7は、直接患者の身体と接触する部分であるため、人体の口および鼻周辺部一帯にフィットする形状を有していることが望ましい。
【0067】
管路接続部51は管路接続口52を有する。当該接続口の形は、円形であっても任意の多角形であってもよい。ただし、薬液が運ばれてくるとき、その流れや勢いを遮断したり低下させたりしない形態であることが好ましい。接続部51の長さや口径に関しても任意の設計が可能であるが、以上と同様の点が求められる。
【0068】
吸入部7の部材ならびに管路接続口52の部材は、公知のマスク等排出具Mの構成部材を使用すればよい。すなわち、ゴム等の弾性のある素材でもプラスチックや硝子などの硬質の素材でもよい。使用後にオートクレーブ滅菌等処理による衛生管理が可能であるように、耐熱性があり劣化しにくい素材を用いることが好ましい。
【0069】
吸入部7と管路接続部51は同一部材から成る一体型の構成であっても、それぞれ異なる部材からなる構成であっても良い。
【0070】
マスク等排出具Mはドレン管路4を含む薬液霧供給管路3に直接接続しても、コネクタ(不図示)等の公知の接続用部材を介して当該排出具と当該管路とを接続させても良い。
【0071】
次に、図4、図5を用いて、本発明の特徴となるドレン管路を含む独立管路構造の詳細を説明する。
【0072】
図4は当該発明である薬液吸入装置使用時の常態を表す側面断面図である。図4には、本発明で用いられる管路内部が機能的に独立した薬液霧を供給する専用管路である薬液霧供給管路3および当該装置N使用中に発生する液滴を回収する専用管路であるドレン管路4に、図3のようなマスク等排出具Mを装着した状態を示している。
【0073】
図5は、マスク等排出具Mの管路接続部51に設けられた管路接続口52のa視図(図3参照)であり、図4の51、52を別の角度から見た図に相当する。図5の(α)は薬液霧供給管路3に接続する薬液霧供給管路接続口31とドレン管路4に接続するドレン管路接続口41がそれぞれ別個に管路接続部51に設けられている形状の一例である。(β)は単一の管路接続口52が薬液霧供給管路接続口31とドレン管路接続口41との機能を兼備する形状の一例である。
【0074】
図4に示される薬液霧供給管路3およびドレン管路4の管路形態は、図1・図2のような各々の単一管路を管路部材5で覆って一つに統合した複合管路でもよいし、両管路とも別個の単一管路でもよいし、以上を複合したような一部が複合管路で他部が単一管路の構成でもよいし、また、一つの管路内部を障壁によって断絶し完全に分割・独立させるような形態であっても良い。
【0075】
また両管路において、該排出具Mとの接続部分は、図示した形式に限らない。図4のようにマスク等排出具Mに接続する側の一端が2管路構成になっていても、該一端の入口は薬液霧供給管路3およびドレン管路4を兼ねる1管路で、奥部で2管路に分岐する構成になっていても望ましい。またこの他にも、マスク等排出具Mとの接続部を2箇所有しそれぞれが薬液霧供給管路接続口31とドレン管路接続口41とに対応するような構成でもよい。
【0076】
マスク等排出具Mと接続する薬液霧供給管路3ないしドレン管路4の末端部の形状は円形でも多角形でもよい。薬液霧の供給効率を妨げない口径及び形状の限りにおいては、いかなる形であっても望ましい。ただし、マスク等排出具Mの管路接続部51との嵌合が適正で、且つこれに設けられた管路接続部52との呼応性を有していることが好ましい。
【0077】
管路内部を独立させる手段には、以上に挙げたような形態がある。これに加え、各管路の部材に関して、管路内を通過する流体の性質および管路の用途に応じた素材を使い分けることが装置の機能性を十分に発揮できる点で望ましい。
【0078】
液滴排出専用の導管として独立させたドレン管路においては、例えば供給管路よりも抗菌性が高く、表面が滑らかで円滑な液滴排出を遂行する公知の素材を用いることでより高い安全性を追求できる。一方で、薬液霧供給管路には薬品に耐性の高い公知の素材を用いることで化学物質による管路の劣化に対する耐性を持たせることができる。
【0079】
図5の前記両管路に装着されるマスク等排出具Mに設けられた管路接続部51および管路接続口52の形態は、装着対象管路に隙間なく対応する形であることが望ましい。
【0080】
管路接続部51および管路接続口52は、例えば(α)のように管路接続部材53によって薬液霧供給管路接続口31とドレン管路接続口41との間に二つの管路内部を完全に隔離させるような間仕切りのような構造を有する形状であってもよい。
【0081】
例えば、装着対象である該両管路3・4を互いに隔てる障壁部材によって管路接続部51の単一口径を仕切ってもよいし、既述の通り管路構造によっては入口が薬液供給機能とドレン回収機能を兼用する構成もあるので、管路接続口52は、以上の構成に対応可能な例えば(β)のような形状であっても当該発明の機能を発揮できるので望ましい。
【0082】
薬液霧供給管路接続口31およびドレン管路接続口41を含む管路接続口52と管路接続部51に係る素材、形状、口径、長さ、等の組み合わせはこの限りではない。次の使用時に該排出具の着脱・交換を行う際に、前の使用で生じた液滴によって衛生性を阻害されない構造を備えた排出具ならば、いずれの部材でも本発明の効果を発揮する上で望ましい。
【0083】
両管路とマスク等排出具Mとの連結部分のバリエーションにおいては、各管路の構成が独立的なものである限りは、つまり、該管路の用途に関して(薬液霧供給や液滴排出等に)機能性が特化され、且つその特化的な機能を十分に実現できる構成の範囲内で、形状を様々に組み合わせて設計することが可能である。
【0084】
本発明の薬液吸入装置Nは、液滴の回収機能を有する点が特徴であるが、以上に示された機構の他にも、先行する技術に当該技術を組み合わせることで更なる効果を発揮させることができる。
【0085】
例えば、特許文献1で提案されるような排気手段を具備することも非常に好ましい。この手段を更に備えることによって、液滴だけでなく霧散した余剰薬液霧および患者呼気の回収も同時におこなうことが可能である。これにより、連続使用される装置内環境の改善だけでなく、装置外にいる他の患者、付添人、医療従事者にも配慮した診療空間全体の環境向上を提供することができる。
【0086】
この点において本発明の手段は、単独的な活用のみならず、従来技術との併用も可能な非常に適用性が高く柔軟な技術として機能させることができるので、非常に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明である薬液吸入装置の実施形態を示す側面概念図である。
【図2】図1の一部拡大図であり、患者によるマスク等排出具着用時の該排出具および管路内部を示す一部拡大断面図である。
【図3】図2に記載のマスク等排出具の一例を示す斜視図である。
【図4】図3に記載のマスク等排出具を薬液供給管路およびドレン管路に接続したときの側面断面図であり、当該発明である薬液吸入装置使用時の常態を表している。
【図5】図4で使用されるマスク等排出具の管路接続部のa視図(図3参照)である。
【符号の説明】
【0088】
1・・・加圧空気源
2・・・薬液霧発生装置
3・・・薬液霧供給管路
31・・・薬液霧供給管路接続口
4・・・ドレン管路
41・・・ドレン管路接続口
4A・・・ドレン開口
5・・・管路部材
51・・・管路接続部
52・・・管路接続口
53・・・管路接続部材
6・・・貯留タンク
7・・・吸入部
K・・・患者
M・・・マスク等排出具
N・・・薬液吸入装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧空気源からの加圧空気によって薬液霧を発生させる薬液吸入装置であって、
加圧空気源から導管を介して設けられた薬液霧発生装置および、
一端を前記薬液霧発生装置、他端を患者の薬液吸入口に設けられた、マスクを含む鼻用乃至口用の排出具に接続する薬液霧供給管路と、
一端を前記排出具または前記薬液霧供給管路の該排出具近傍に接続し、他端を貯留タンクに接続するドレン管路と、
前記ドレン管路末端に設けられる前記貯留タンクを備えることを特徴とする薬液吸入装置。
【請求項2】
請求項1に記載の薬液吸入装置において、前記排出具近辺において、ドレン管路が前記薬液霧供給管路の垂直方向の下部に設けられていることを特徴とする薬液吸入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−118913(P2009−118913A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293529(P2007−293529)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000138185)株式会社モリタ製作所 (173)