説明

藻類の培養による有用物質生産システム

【課題】藻類の培養、藻類からのバイオ燃料など有用物質の抽出を低コストで行うことの可能なシステムを提供する。
【解決手段】有用物質産生藻類の培養手段1と、これにより培養された藻類を培養水から分離する固液分離手段2と、この分離された培養水を培養手段1へ返送する第一の返送手段3と、前記固液分離手段2により分離された藻類から有用成分を分離・抽出する有用成分抽出手段4と、有用成分を分離・抽出した後の残渣を無機化又は可溶化する残渣物処理手段5と、無機化又は可溶化された成分を培養手段1へ返送する第二の返送手段6と、培養手段1における藻類の培養に必要な栄養成分の減少分を補給する栄養成分補給手段7を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
近年、化石燃料の大量使用による大気中の二酸化炭素濃度の上昇や大気汚染、資源の枯渇などが懸念されており、化石燃料に頼らずに安定的かつ持続的にエネルギーを供給できる代替エネルギーの開発が急務である。このような代替エネルギーのひとつとして、バイオマス資源から生産されるバイオ燃料の利用が始まっている。しかしながら、コメやムギ、トウモロコシなどのバイオ燃料生産作物は食用植物であるため、これらのバイオマス資源をバイオ燃料の原料として利用することは、食糧の需給との競合を引き起こし、発展途上国における食料供給等の新たな問題が生じている。
【背景技術】
【0002】
一方、最近になって、バイオ燃料生産系として藻類が注目されている。藻類の中には、高い脂質蓄積能や多様な炭化水素、糖類等の生産能力を有し、陸生のバイオマスにない多くの特性を持つものがあることが明らかになってきている。例えば、
Botryococcus braunii, Chlorella sp.,
Cryptothecodinium cohnii, Cylidrotheca sp.,
Dunaliella primolecta, Isochrysis sp.,
Monallanthus salina, Nannochloris sp.,
Nannochloropsis sp.,
Neochloris oleoabundans., Nitzschia sp.,
Phaeodactylum tricornutum, Schizochytrium sp.,
Tetraselmis suieia
などは、油などの炭化水素系物質を細胞内外に産生する。藻類からバイオ燃料を生産する場合は、上述のような食用植物との取り合いの問題もなく、灌漑設備や施肥等のコストが小さく、特に海洋藻類等は淡水を利用せずに育成することが可能であって、しかも陸上に限らず地球の表面積の7割を占める海洋の利用が可能であるというメリットも有する。
【0003】
さらに、コメ、コムギ、トウモロコシからバイオ燃料を生産する場合の、耕地面積1haあたりの年間生産量はそれぞれ、1.6 kL/ha/yr、0.7 kL/ha/yr、2.1 kL/ha/yrであるのに対し、藻類は11〜90 kL/ha/yrと、在来の原料種に比べて数十倍の値となることがわかっている。このような背景を踏まえ、アメリカを中心として世界各地で藻類によるバイオ燃料生産の研究開発が盛んに行われている。なお、藻類を利用したバイオ燃料の生産技術としては、下記の特許文献1のようなものが知られている。
【0004】
また、バイオ燃料だけでなく、藻類種によっては医薬品等の原料となる有用な生理活性物質等を産生することも知られている。例えば、Parachlorella sp. Binosはアルギン酸様の細胞外分泌多糖類や脂肪酸、ビタミン類などを産生する。したがって近年は、藻類から有用物質を抽出し、機能性食品、医薬品、飼肥化、プラスチック、色素等有用素材等様々な用途の開発・利用が注目され研究が盛んに行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−518850号公報
【0006】
しかしながら、炭化水素等の有用物質を産生する藻類の培養には、他の藻類種の汚染の防止、高濃度の二酸化炭素の供給、光の供給、適正な水温の維持、増殖に必要な栄養塩の添加(施肥)、水中からの藻類の分離、藻類からの有用物質の抽出と精製などの生産プロセスが必要となるため、藻類からのバイオ燃料の生産コストは依然として高く、ほとんどの生産系が実用化のフェーズに到達していないのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題とするところは、藻類の培養、藻類からのバイオ燃料など有用物質の抽出を低コストで行うことの可能なシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムは、有用物質産生藻類の培養手段と、この培養手段により培養された藻類を培養水から分離する固液分離手段と、この固液分離手段により藻類から分離された培養水を前記培養手段へ返送する第一の返送手段と、前記固液分離手段により分離された藻類から有用成分を分離・抽出する有用成分抽出手段と、有用成分を分離・抽出した後の残渣を無機化又は可溶化する残渣物処理手段と、この残渣物処理手段により無機化又は可溶化された成分を前記培養手段へ返送する第二の返送手段と、培養手段における藻類の培養に必要な栄養成分の減少分を補給する栄養成分補給手段を備えることを特徴とするものである。
【0009】
なお、ここでいう藻類とは、酸素発生型光合成を行う生物のうち、主に地上に生息するコケ植物、シダ植物、種子植物を除いたものの総称である。すなわち、真正細菌であるシアノバクテリア(藍藻)から、真核生物で単細胞生物であるもの(珪藻、黄緑藻、渦鞭毛藻など)及び多細胞生物である海藻類(紅藻、褐藻、緑藻)などである。そして本発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムで対象とする藻類は、海藻などの大型藻類を除く、淡水及び海水に生息する1〜1000μmサイズの浮遊性(植物プランクトン)の藻類であり、種類を限定するものではない。
【0010】
請求項2の発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムは、請求項1に記載された構成において、火力発電所又は工場において発生する高濃度の二酸化炭素を培養手段へ供給することを特徴とするものである。
【0011】
請求項3の発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムは、請求項1に記載された構成において、有用成分を分離・抽出した後の残渣の残渣物処理手段で発生する二酸化炭素を培養手段へ供給することを特徴とするものである。
【0012】
請求項4の発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムは、請求項1に記載された構成において、培養手段がオープンポンド方式の水槽又は池であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5の発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムは、請求項1に記載された構成において、固液分離手段がプレコート式回転ドラム装置であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項6の発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムは、請求項1に記載された構成において、固体部分からの有用成分の有用成分抽出手段が燃料油の抽出装置及び精製装置からなることを特徴とするものである。
【0015】
請求項7の発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムは、請求項1に記載された構成において、抽出残渣の残渣物処理手段がメタン発酵装置からなり、無機化又は可溶化された成分の返送が、メタン発酵後の消化液の返送として行われることを特徴とするものである。
【0016】
請求項8の発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムは、請求項1に記載された構成において、各手段の運転に必要なエネルギーを、請求項6に記載された燃料油の抽出装置及び精製装置により抽出されたバイオ燃料の一部で賄うことを特徴とするものである。
【0017】
請求項9の発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムは、請求項1に記載された構成において、各手段の運転に必要なエネルギーを、請求項7に記載されたメタン発酵装置で生産されるバイオガスで賄うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムによれば、培養手段での藻類の増殖に必要な栄養元素は、固液分離手段から第一の返送手段を介して培養手段へ返送される培養水と、残渣物処理手段から第二の返送手段を介して培養手段へ返送される可溶化成分で賄われて循環利用され、藻類の増殖に必要な水も前記第一及び第二の返送手段により循環使用され、ロス分だけが外部から補給されるため、バイオ燃料として利用可能な炭化水素等の有用物質を低コストで得ることができ、しかも薬品等の使用を大幅に削減することができる。
【0019】
また、藻類の増殖に必要な高濃度の二酸化炭素は、システム内の残渣物処理手段から発生したものや、火力発電所又は工場において発生したものを用いることによって、この点でもコストの低減が図られると共に、大気中への二酸化炭素の放出量の削減に寄与することができる。
【0020】
また、藻体からの有用物質の抽出後の残渣を残渣物処理手段により無機化するのに伴い発生するバイオガスや、抽出されたバイオ燃料の一部で、各手段の運転に必要なエネルギーを賄うことでも、省エネルギーを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムを示す概略構成説明図である。
【図2】本発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムにおける培養手段を示す説明図である。
【図3】本発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムにおいて固液分離手段として使用されるプレコート式回転ドラム装置を示す概略構成説明図である。
【図4】図3におけるIV−IV断面図である。
【図5】本発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムの好ましい実施例を示す概略構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムを、図面を参照しながら説明する。まず図1は、本システムの概略構成説明図である。
【0023】
図1において、参照符号1は藻類を培養する培養手段、参照符号2はこの培養手段1により培養された藻類を培養水から分離する固液分離手段、参照符号3はこの固液分離手段2により藻類から分離された培養水を前記培養手段1へ返送する第一の返送手段、参照符号4は前記固液分離手段2により分離された藻類から有用成分を分離・抽出する有用成分抽出手段、参照符号5は有用成分を分離・抽出した後の残渣を可溶化する残渣物処理手段、参照符号6はこの残渣物処理手段5により無機化又は可溶化された成分を前記培養手段へ返送する第二の返送手段、参照符号7は藻類の培養に必要な栄養成分の減少分を前記培養手段1に補給する栄養成分補給手段である。
【0024】
培養対象の藻類としては、例えば先に説明したような、油などの炭化水素系物質を細胞内外に産生する
Botryococcus braunii, Chlorella sp.,
Cryptothecodinium cohnii, Cylidrotheca sp.,
Dunaliella primolecta, Isochrysis sp.,
Monallanthus salina, Nannochloris sp.,
Nannochloropsis sp.,
Neochloris oleoabundans., Nitzschia sp.,
Phaeodactylum tricornutum, Schizochytrium sp.,
Tetraselmis suieia
などが挙げられるが、淡水及び海水に生息する1〜1000μmサイズの藻類であれば、とくに種類を限定するものではない。
【0025】
藻類は無機性の栄養源を吸収し、二酸化炭素と水から光合成によって有機物と酸素を合成し、増殖する。このため培養手段1としては、培養水が満たされる培養槽又は培養池が用いられ、光の供給手段11や二酸化炭素の供給手段12を有するものである。
【0026】
図2は、本発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムにおける培養手段を示す説明図である。培養手段1はバイオリアクター方式(閉鎖系)、野外方式(海洋・湖沼・河川の直接利用)とすることも考えられるが、本システムは物質循環系であるため、オープンポンド方式かバイオリアクター方式が望ましい。図2に示される例では、培養手段1としてオープンポンド方式(開放系)の池あるいは水槽(以下、培養槽という)10が採用されている。培養槽10はエンドレスの循環水路状に形成され、培養槽10内の培養水Wは、ローターや水中ミキサーなどによる水流発生装置13によって、一定方向へ循環流動するようになっている。
【0027】
オープンポンド方式の培養槽10の形状は、一般的な排水処理の活性汚泥での反応槽(曝気槽)に近似した構造でも構わないが、増殖した藻類に光が十分に当たるように、水深を比較的浅く(20cm〜1m程度)することが望ましい。バイオリアクター方式の場合は、透明なチューブ型の筒内での栽培等により、藻類に光をまんべんなく供給することができる。
【0028】
培養槽10に供給される栄養源は、藻類の成長に多量に必要となる窒素(N)、リン(P)及び微量元素である金属塩から構成される。窒素、リン及び無機栄養源は、後述するように、図1に示される固液分離手段2によって培養水から分離された藻類から、有用成分抽出手段4において有用物質を抽出した後の残渣(藻体)を、残渣物処理手段5において分解し、無機化又は可溶化することで得られたものである。
【0029】
培養槽10への光の供給手段11としては、太陽光や人工光を供給することが考えられるが、自然エネルギーである太陽光を利用することがコスト削減及び大気中の二酸化炭素削減に寄与するため望ましい。
【0030】
培養槽10の培養水Wへの二酸化炭素(CO)の供給手段12としては、大気から供給するもの又は排ガスから供給するものが適用可能である。特に、炭化水素系の液体(油系)もしくは気体の燃焼後の排ガスを利用することで高濃度の二酸化炭素を供給することができ、このため藻類の増殖速度を高めることができ、しかも二酸化炭素の排出削減に貢献することができる。また、培養槽10がオープンポンド方式の場合は培養水Wが大気と接しているため、排ガス中の二酸化炭素とは別に大気中の二酸化炭素も供給され、効率が良い。
【0031】
培養水Wへの二酸化炭素の供給手法としては、水面からの溶解・拡散のみに依存する方法では効率が悪いため、二酸化炭素を含む空気や排ガスを、図2に示されるように培養水W中に設置した散気装置(又は微細気泡発生装置)12aにより放出して培養水Wを曝気することが望ましい。この方法によれば、水中に放出された二酸化炭素の気泡によって、藻類の沈降を防止するための攪拌の機能も兼ねることができる。散気装置(又は微細気泡発生装置)12aのみでは攪拌が不十分である場合は、機械式の攪拌機(不図示)を併用しても良い。
【0032】
また、培養槽10がオープンポンド方式の場合は、水車等の表面曝気装置(不図示)を用いることによっても、大気中の二酸化炭素を培養水Wへ供給することができる。
【0033】
藻類によっては、加温装置14によって培養水Wの温度を調節する必要を生じる場合があるが、この場合は多量の培養水Wを加熱することになるため、加温装置14には周囲の既存の熱源を利用することが望ましい。図2に示される加温装置14は、熱源で加熱された熱媒(液体又は気体)を、培養槽10内に設置した蛇管などの放熱管14aへ通すことで培養水Wとの熱交換を行うものであり、熱源としては、例えば工場等の廃熱を導入することが考えられる。また、加温装置14としては、工場等からの高温の排ガスによって、培養水Wへの二酸化炭素の供給と加温を同時に行う方式も採用可能である。
【0034】
培養槽10には、後述するように、藻類の培養に必要な栄養成分を含む培養水Wが栄養成分補給手段7によって適時に補給されているので、その補給量に相当する量の培養水がオーバーフローすることになる。そして、培養槽10内で培養された藻類は、オーバーフローされる培養水と共に固液分離手段2へ送られ、ここで藻類と培養水が分離される。
【0035】
すなわち、培養槽10内の培養水Wは大部分が水で構成されているため、培養水W中の藻類の細胞内外に産生された有用物質を抽出する際には、まず固液分離手段2によって藻類を培養水Wから取り出す必要がある。固液分離の方法としては、沈降分離法、浮上分離法、ろ過法がある。どの方法を用いるかは回収対象とする藻類の特性によって異なる。例えば、速やかに沈降する藻類の場合は沈降分離法を選択し、水面にスカム状に浮遊する藻類の場合は浮上分離法を選択すると良い。
【0036】
また、藻類の多くは培養水W中に懸濁している植物プランクトンであるため、そのままでは沈降分離法や浮上分離法は採用できないが、凝集剤を添加してプランクトン同士を粗大なフロック(浮遊物の集合体)にすれば、浮上分離もしくは沈降分離させることができる。しかしながらこの場合、薬剤によっては系内に蓄積されてしまうので、藻類から抽出される有用物質への悪影響等が懸念される。したがってこのような場合は、凝集剤等の薬品を添加せずに、遠心分離法によって固液分離を行うことも考えられる。しかしながら、遠心分離による方法は消費動力が大きいため、生産品の価値によっては採算がとれなくなり、またエネルギー収支的にも厳しい場合がある。
【0037】
なお、一般的な濾過法は、固形分を含まない液体を必要とする場合に一般的に選択される方法であり、固形分の回収には不向きである。
【0038】
これらを踏まえ、図示の実施の形態では、固液分離手段2として図3及び図4に示されるようなプレコート式回転ドラム型固液分離装置20を採用した。すなわち図3は、本発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムで好適に使用されるプレコート式回転ドラム型固液分離装置を示す説明図、図4は、図3におけるIV−IV断面図である。
【0039】
このプレコート式回転ドラム型固液分離装置(以下、単に固液分離装置という)20は、図2の培養槽10から供給されて、藻類が懸濁状に混在する培養水W1を貯留する処理槽21と、この処理槽21内に配置された固液分離ドラム22と、この固液分離ドラム22の外周面に培養水W1中を浮遊する藻類の付着により形成されたプレコート層PCを剥離回収する回収手段23とを備える。
【0040】
すなわち固液分離装置20における処理槽21には、培養槽10からオーバーフローした培養水W1が、培養された藻類が混在した状態で給水管24を介して供給されるようになっており、固液分離装置20における処理槽21には、一方の側壁21aにおける固液分離ドラム22との対向面の下部に位置して排水口21bが開設されている。
【0041】
固液分離装置20における固液分離ドラム22は、処理槽21内の培養水W1に浸漬された状態で、水平な仮想軸心を中心として低速回転されるものであって、図4に示されるように、軸方向一側が開放された形状となっている。そして円筒状の外周壁がワイヤクロスなどのメッシュ22aからなり、開放された側の外径部が、処理槽21の一方の側壁(排水口21bが開設された側壁)21aの内側面に摺動可能に密接されることによって、この側壁21aとの間に濾水貯留室Sが画成されている。なお、参照符号22bは、固液分離ドラム22の開放された外径部に周設されたシール部材である。
【0042】
図3において、固液分離ドラム22が時計方向へ回転するものとした場合、この固液分離ドラム22の外周部(メッシュ22a及びプレコート層PC)は、図中左側で培養水W1の水面から浮上し、図中右側で培養水W1の水面下へ没入する。そして処理槽21の上部には、ドラム没入側に位置して、先に説明した培養手段1における培養槽10から延びる給水管24が開口しており、処理槽21内には、この給水管24により処理槽21内へ供給される培養水W1を、固液分離ドラム22の外周がその回転に伴って水面下へ没入する位置よりも回転方向前方、好ましくは固液分離ドラム22の最下部(軸心を通る鉛直線との交点位置)よりも回転方向前方で初めて固液分離ドラム22の外周に接するように、かつ回転方向(時計方向)へ供給されるように導く導流部材25が設けられている。言い換えれば、この導流部材25は、処理槽21へ供給される培養水W1をドラム浮上側に偏在する位置へ導くものである。
【0043】
固液分離装置20における回収手段23は、固液分離ドラム22のメッシュ22aの外周面に藻類が付着して形成されたプレコート層PCの表面に、処理槽21における培養水W1の水面レベルL1より上方で接触しながら、固液分離ドラム22と逆方向へ回転されることによって、前記固液分離ドラム22のメッシュ22aからプレコート層PCを転写・付着させるローラ231と、このローラ231に転写・付着された藻類からなる固形物Cを掻き取るスクレーパ232からなる。
【0044】
以上のように構成された固液分離装置20において、図2に示される培養槽10からの培養水W1は、給水管24を通じて処理槽21内に藻類と共に供給される。処理槽21に供給された培養水W1は、この培養水W1に浸漬された固液分離ドラム22の濾水貯留室S内の濾水W2との水頭差H(=L1−L2)によって、固液分離ドラム22の外周壁のメッシュ22a及びその外周面に浮遊藻類が付着・堆積して形成されたプレコート層PCにより濾過され、固液分離ドラム22と側壁21aとの間の濾水貯留室Sへ濾水W2となって流入する。
【0045】
そして、固液分離ドラム22が図3における時計方向へ回転する場合、この固液分離ドラム22のメッシュ22aは、培養水W1の水面よりも上側で回収手段23によってプレコート層PCが除去された状態で、ドラム没入側で培養水W1の水面下へ没入し、この位置から、培養水W1に含まれる藻類の付着・堆積によるプレコート層PCの形成が開始され、培養水W1中を時計方向へ回転移動して行くのに伴って、プレコート層PCの層厚が増大して行き、ドラム浮上側で水面から浮上して、このプレコート層PCが回収手段23によって固形物Cとして剥離・回収される、といった動作が連続的に繰り返される。
【0046】
固液分離ドラム22の外周壁のメッシュ22a及びプレコート層PCにより濾過されて濾水貯留室Sへ流入した濾水W2には、藻類の増殖に必要な栄養元素や、微細な藻類の一部が含まれている。そしてこの濾水W2は、処理槽21に開設された排水口21bから、図1に示される第一の返送手段3を介して培養手段1(培養槽10)へ返送される。第一の返送手段3は、例えば管路及びポンプ等で構成されるものである。
【0047】
一方、固液分離装置20における回収手段23によって固液分離ドラム22から固形物Cとして掻き取られた藻類は、有用成分抽出手段4において、物理的手法または化学的手法によって有用物質が分離・抽出される。
【0048】
ここで、藻類種によっては、有用成分を細胞内に蓄積する種と、細胞内だけではなく細胞外に分泌し、コロニー内に多量の分泌物を蓄積する種が存在する。したがって、回収した藻類から有用物質を分離するには、その存在が細胞内か細胞外かによってその手法が異なってくる。すなわち、細胞外への分泌物が多い藻類種の場合は、細胞を壊さずに分離すれば良い。例えば有用成分として油脂分を産生する藻類では、圧搾等の処理により油脂分を搾り取って、油水分離により抽出することができる。また、細胞内へ蓄積している藻類の場合は、細胞壁を酸や粉砕、超音波等で破壊した後、ヘキサン、アセトンなどの有機溶剤で油脂分を抽出し、有機溶剤と油を分離することで精製すれば良い。また、エタノールやジメチルエーテルを用いて抽出までのプロセスを簡素化して低コストで油を抽出する技術が開発されており、抽出物をメチルエステル化処理し、バイオディーゼルとして用いることができる。
【0049】
有用成分抽出手段4によって有用物質が分離・抽出された後の藻体残渣は、残渣物処理手段5において無機化又は可溶化される。
【0050】
詳しくは、有用成分抽出後の藻体残渣には、藻類の成長に必要な栄養源が多量に残存している。特に炭化水素系物質産生藻類においては、抽出液に含まれる元素は炭素と水素であり、それらが抽出された残渣には、藻類の増殖に必須となる窒素やリン及び金属塩がほとんど残存している。しかしながら、残渣に含まれる栄養元素の多くは有機体で構成されているため、そのままでは藻類の増殖に利用できない。このため、残渣物処理手段5において抽出残渣の無機化処理を行い、あるいは培養槽10において容易に無機化して栄養元素となるように可溶化(低分子の有機物化)処理を行う。残渣物処理手段5において得られた窒素やリン及び金属塩を含む処理水W3は、第二の返送手段6を介して培養手段1(培養槽10)へ返送される。第二の返送手段6は、例えば管路及びポンプ等で構成されるものである。
【0051】
有機物の無機化処理法としては、燃焼もしくは生物処理が適用可能であるが、抽出残渣は水分を多量に含むウェットバイオマスのため、燃焼による無機化方法は、残渣物に油が大量に含まれる場合を除いて適さない。一方、生物処理としては、好気性微生物を利用した好気性分解による処理方法と嫌気性微生物を利用した嫌気性分解による処理方法がある。このうち、好気性分解は、有機物分解速度は速いが、その一方で酸素の供給が不可欠であることや、汚泥発生量が多いことからランニングコストが高くなる。これに対して、嫌気性分解の場合は、有機物の分解速度は好気性分解よりは遅く、有機物の分解率も低いが、その一方で、二酸化炭素(CO)と共にメタン(CH)や水素ガス(H)などのバイオ燃料が生成され、しかも汚泥の生成量が少ないため、好ましい。
【0052】
一般的には、高濃度の有機性排水には、嫌気性微生物を利用した嫌気性分解処理が有利であり、低濃度の有機性排水には、好気性分解処理が有利である。また、嫌気性分解処理によるバイオガスの回収設備は、槽の構造が密封であることや、ガスホルダー等の設備が別途必要であることから、設備のイニシャルコストが高いが、高濃度の有機性排水であればランニングコストが安くなる。つまり、処理量が少ないと嫌気性処理はイニシャルが高くつくためライフサイクルコストとしては好気性処理のほうが安くなり、処理量が多い場合は嫌気性処理のほうがライフサイクルコストは安くなる。このため、これらを考慮して嫌気性処理又は好気性処理を選択することが必要である。
【0053】
このように、生物処理によって、無機化あるいは可溶化(低分子化)した処理水W3を藻類培養槽10へ返送することで、藻類を培養するための多量の栄養源の新たな供給を大幅に削減することができ、低コストの物質循環型の藻類を用いた有用物質生産システムを構築することができる。
【0054】
加えて、嫌気性処理で生成されるバイオガス、例えばメタン発酵法によるバイオガスは、メタンが6割、二酸化炭素が4割で構成されるが、このバイオガスをガスタービンやボイラで熱エネルギーや電気に変換すると、メタンは二酸化炭素に変換されるので、排ガスは高濃度の二酸化炭素となる。したがって、この排ガスについても藻類の成長に必要な二酸化炭素源として培養槽10の曝気用に用いることで、高効率かつ二酸化炭素削減効果の高いシステムを実現することができる。
【0055】
栄養成分補給手段7は、藻類の培養に必要な栄養成分の減少分を培養手段1(培養槽10)に補給するものである。すなわち、先に説明したように、藻類の培養に必要な栄養成分としては、窒素・リン及び金属塩などの無機栄養源であるが、これらは、有用成分抽出手段4によって分離・抽出される有用物質に僅かに移行することや、残渣物処理手段5において藻体残渣を分解する過程で消失(脱窒・汚泥化)するなど、処理過程である程度ロスしてしまうことは避けられない。このため、栄養成分のロス分については、栄養成分補給手段7によって新たに外部から補給する。補給の手法としては、薬品による供給や、工場排水、河川水、海水等の栄養源に富む水の供給が可能である。
【0056】
すなわち、本発明に係る有用物質生産システムは、藻類の成長に多量に必要となる窒素・リン及び金属塩などの栄養源を、藻類から有用物質を抽出した残渣を分解・可溶化した液を返送することで供給する循環型であることを特徴とし、また、藻類からバイオ燃料などの原料となる有用物質を生産するため、食糧の需給との競合を引き起こすこともなく、しかも単位面積あたりの有用物質の生産量も高いので、低コストで効率よく有用物質を得ることができる。
【実施例】
【0057】
図5は、本発明に係る藻類の培養による有用物質生産システムを、炭化水素系産生藻類を用いた油生産システムとした好ましい実施例を示す概略構成説明図である。
【0058】
先に説明した図2に示されるようなオープンポンド式の培養槽10で培養された油含有藻類は、栄養成分補給手段7による培養水の補給量に相当する量だけ培養槽10からオーバーフローする培養水と共に、給水管24を介してプレコート式回転ドラム型固液分離装置20へ送られる。固液分離装置20で油含有藻類と培養水(濾水)W2に分けられ、培養水W2は培養槽10へ第一の返送手段であるポンプ31によって返送される。固液分離装置20における回収手段23によって回収された油含有藻類(この場合は細胞外に分泌しコロニーを形成する種と仮定する)は、有用成分抽出手段である圧搾装置41により油と藻体残渣に分けられる。回収された油は、油精製装置42で精製され、例えば系内の各設備の駆動源あるいは熱源となるボイラやガスタービン8などの駆動エネルギーとして、あるいは系外へ搬送されて自動車や火力発電所などの燃料として利用することができる。
【0059】
一方、藻体残渣は残渣物処理手段としてのメタン発酵装置(バイオガス化設備)51へ送られ、残渣中の有機物が二酸化炭素(CO)と共にメタン(CH)や水素ガス(H)などのバイオガスへ変換される。このバイオガスは、系内のボイラやガスタービン8などの駆動エネルギーとして利用することができ、言い換えれば本システムの電源や熱源として利用することができる。
【0060】
メタン発酵装置51でのメタン発酵残渣である消化液(無機元素及び低分子の可溶性有機物の高濃度排水)は、窒素(N)、リン(P)及び金属塩などの無機栄養源を高濃度で含んでいるので、第二の返送手段であるポンプ61によって培養槽10へ返送される。メタン発酵装置51において発生する汚泥は、可溶性であれば、培養槽10へ送り、そうでなければ系外へ搬出して火力発電所などで焼却し、もしくは系内にて焼却処理する。また、上記ボイラやガスタービン8あるいは火力発電所、工場などで発生した二酸化炭素は、例えば図2に記載された二酸化炭素供給手段である散気装置(又は微細気泡発生装置)12aを介して培養槽10中の培養水Wへ供給される。
【0061】
この実施例によれば、システム内で生産されるバイオガスや精製油の一部を利用して電気エネルギーもしくは熱エネルギーに変換し、システムの動力を100%賄うこととする。そして、精製油のシステムでの自己消費分を差し引いたものが生産量(系外への供給量)となる。
【0062】
したがって、太陽エネルギー活用物質循環型の藻類培養による油生産システムであるため、系内にて僅かにロスする栄養元素及び水の補給だけで、燃料油を生産できる画期的なシステムを提供することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 培養手段
10 培養槽
11 光の供給手段
12 二酸化炭素の供給手段
2 固液分離手段
20 プレコート式回転ドラム型固液分離装置
3 第一の返送手段
31 ポンプ
4 有用成分抽出手段
41 圧搾装置
5 残渣物処理手段
51 メタン発酵装置(バイオガス化設備)
6 第二の返送手段
61 ポンプ
7 栄養成分補給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有用物質産生藻類の培養手段と、この培養手段により培養された藻類を培養水から分離する固液分離手段と、この固液分離手段により藻類から分離された培養水を前記培養手段へ返送する第一の返送手段と、前記固液分離手段により分離された藻類から有用成分を分離・抽出する有用成分抽出手段と、有用成分を分離・抽出した後の残渣を無機化又は可溶化する残渣物処理手段と、この残渣物処理手段により無機化又は可溶化された成分を前記培養手段へ返送する第二の返送手段と、培養手段における藻類の培養に必要な栄養成分の減少分を補給する栄養成分補給手段を備えることを特徴とする藻類の培養による有用物質生産システム。
【請求項2】
火力発電所又は工場において発生する高濃度の二酸化炭素を培養手段へ供給することを特徴とする請求項1に記載の藻類の培養による有用物質生産システム。
【請求項3】
有用成分を分離・抽出した後の残渣の残渣物処理手段で発生する二酸化炭素を培養手段へ供給することを特徴とする請求項1に記載の藻類の培養による有用物質生産システム。
【請求項4】
培養手段がオープンポンド方式の水槽又は池であることを特徴とする請求項1に記載の藻類の培養による有用物質生産システム。
【請求項5】
固液分離手段がプレコート式回転ドラム装置であることを特徴とする請求項1に記載の藻類の培養による有用物質生産システム。
【請求項6】
固体部分からの有用成分の有用成分抽出手段が燃料油の抽出装置及び精製装置からなることを特徴とする請求項1に記載の藻類の培養による有用物質生産システム。
【請求項7】
抽出残渣の残渣物処理手段がメタン発酵装置からなり、無機化又は可溶化された成分の返送が、メタン発酵後の消化液の返送として行われることを特徴とする請求項1に記載の藻類の培養による有用物質生産システム。
【請求項8】
各手段の運転に必要なエネルギーを、請求項6に記載された燃料油の抽出装置及び精製装置により抽出されたバイオ燃料の一部で賄うことを特徴とする請求項1に記載の藻類の培養による有用物質生産システム。
【請求項9】
各手段の運転に必要なエネルギーを、請求項7に記載されたメタン発酵装置で生産されるバイオガスで賄うことを特徴とする請求項1に記載の藻類の培養による有用物質生産システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−80850(P2012−80850A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231729(P2010−231729)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】