説明

蘚苔類及び藍藻類の制御剤及びこれを用いる制御方法

【課題】蘚苔類及び藍藻類を周囲環境に悪影響を与えることなく効果的に制御する制御剤及制御方法を提供すること。
【解決手段】制御剤は、酵素群として、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、αグルコシダーゼ及びイソアミラーゼの混合物を採用し、これらの飽和状態の水溶液を制御剤水溶液として用いた。晴天の日の午後1時頃(気温28℃)に、ギンゴケのコロニーが乾燥して葉を閉じた状態となっていることを確認した上で、制御剤水溶液をジョウロに入れて、グリーン上に平均に散布し、ギンゴケコロニーに十分に制御剤水溶液を保持させた。その1週間後に対象のグリーンを観察すると、該グリーン上のギンゴケのコロニーは黒くなり、乾燥して捲れ上がった状態になっており、不活化状態になっていた。またベントグラスには異常は認められなかった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蘚苔類及び藍藻類の制御剤及びこれを用いる制御剤に関するものであり、特に、ゴルフ場等の良好な芝を維持したい芝生地に発生する蘚苔類や藍藻類、特にギンゴケやユレモ若しくはネンジュモ等を芝に悪影響を与えることなく効果的に制御する蘚苔類及び藍藻類の制御剤及びこれを用いる制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴルフ場のグリーン内、公園の芝生内、公共施設等の駐車場の駐車面上、或いは、種々の庭園の芝生内等には、蘚苔類又は藍藻類が発生し、美観の低下が生じたり、育成対象の植物、例えば、芝等の生育不良等が生じる等の問題がある。
【0003】
そこで、このような問題を解消するために、藻類や苔類を防除するための除草剤が提供されている。藻類・苔類用のACN(キノクラミン)や苔類用のカルフェントラゾンエチル等であるが、前者は、植木等の葉にかかると薬害が生じると云われ、後者は植木等の葉に飛散すると影響がある、と云われており、他の植物に対する安全性に疑義がある。
【0004】
またこれらの問題に関しては、いくつかの提案もある。
【0005】
その1は、蘚類及び藻類の防除剤及び防除方法(特許文献1)の提案であり、これは、水溶液中に主成分として炭酸カリウムを含有する蘚類及び藻類の防除剤であり、またこの防除剤を芝地に散布するその防除方法である。
【0006】
この防除剤及びこれを用いた防除方法によれば、防除剤を適切な濃度で使用すれば、ギンゴケの防除が可能でありつつ、芝に影響を与えないようであるが、最適濃度より僅かに濃度が高くなると、芝に褐変が生じ、また最適濃度より僅かに濃度が低くなると、ギンゴケの防除に十分な効果が得られないようである。従って、芝生地に於けるギンゴケの防除剤として安心して効果的に使用できるとは云い難いと思われる。
【0007】
その2は、芝草地に発生するコケ・藻類の防除用組成物及び防除方法(特許文献2)の提案であり、これは、鉄の水溶性硫酸塩及びアルミニウムの水溶性硫酸塩の内の少なくとも一種を含有する芝草地に発生するコケ・藻類の防除用組成物、及びこれを対象土に散布する芝草地に発生するコケ・藻類の防除方法である。
【0008】
この防除用組成物及びこれを散布する防除方法によれば、その直接の作用は、土壌に過剰に存在する水溶性リン酸及び/又は水溶性リン酸塩を水不溶性に変換すると云うものである。それ故、コケ類及び藻類の防除に時間が掛かり、速やかな効果が得られ難いと思われ、また水溶性リン酸及び水溶性リン酸塩が殆ど水不溶性に返還されてしまった場合には、芝草にリン欠乏症を生じる虞がある、と云う問題もある。
【0009】
その3は、芝生に発生する藻類の防除方法(特許文献3)の提案であり、これは、ストレプトマイシンまたはその塩を含有してなる農業組成物を、土壌処理または茎葉処理する芝生に発生する藻類の防除方法である。
【0010】
この藻類の防除方法は、抗生物質であるストレプトマイシンを使用するものであり、特定の、即ち、真正細菌型リボソームのみに選択的に作用して、該リボソーム上でのポリペプチド鎖の合成の開始を阻害するものであり、この方法によれば、これによって藻類に於ける蛋白質の合成を阻害して、その生体合成を阻害し、これを通じて、対象の藻類の防除の目的を達成しようとするものと理解できる。
【0011】
しかしこの方法は、高価な抗生物質であるストレプトマイシンを使用するものであり、たとえ、効果が認められるとしても、バクテリアの耐性の獲得の問題も含めて、このような分野に多用するのには疑問がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−169175号公報
【特許文献2】特開平11−106305号公報
【特許文献3】特開2005−289845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、蘚苔類及び藍藻類を、これを使用する使用者も含めて、周囲環境に悪影響を与えることなく効果的かつ適切に制御する制御剤及びこれを用いた制御方法を提供することを解決の課題とするものであり、特に、ゴルフ場等の芝生地に発生する蘚苔類や藍藻類、特にギンゴケやユレモ若しくはネンジュモ等を周囲の芝や、使用者に悪影響を与えることなく効果的に不活化する等の制御を行う蘚苔類及び藻類の制御剤及びこれに用いる制御方法を提供することを解決の課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の1は、デンプンの低分子炭水化物への分解を触媒する酵素群を含む蘚苔類及び藍藻類の制御剤である。
【0015】
本発明の2は、本発明の1の蘚苔類及び藍藻類の制御剤に於いて、前記酵素群を構成する酵素が、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、αグルコシダーゼ及び脱分岐酵素の全部又は一部を含むものとしたものである。
【0016】
本発明の3は、本発明の1又は2の蘚苔類及び藍藻類の制御剤に於いて、前記酵素群に、セルロースの分解を触媒するセルラーゼを加えたものである。
【0017】
本発明の4は、本発明の1、2又は3の蘚苔類及び藍藻類の制御剤に於いて、前記酵素群に界面活性剤を添加したものである。
【0018】
本発明の5は、本発明の1、2、3又は4の蘚苔類及び藍藻類の制御剤を水に溶解し、得られた制御剤水溶液を蘚苔類又は藍藻類が発生した領域に散布し、該蘚苔類又は藍藻類を不活化させて制御する蘚苔類及び藍藻類の制御方法である。
【0019】
本発明の6は、本発明の5の蘚苔類及び藍藻類の制御方法に於いて、前記蘚苔類又は藍藻類が発生した領域に散布すべき前記制御剤水溶液の量を、該蘚苔類又は藍藻類が保持し得る限度の水分量に相当する量に設定したものである。
【0020】
本発明の7は、本発明の5又は6の蘚苔類及び藍藻類の制御方法に於いて、前記制御剤水溶液の散布を、晴天の日で、その日の内の最も高温、強光度、かつ乾燥状態にある時間帯に行うこととしたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の1の蘚苔類及び藍藻類の制御剤によれば、これを蘚苔類又は藍藻類の発生している領域に施用することにより、その領域に発生している蘚苔類及び藍藻類のいずれであれ、それらのみを選択的に防除することができる。
この制御剤の施用は、蘚苔類及び藍藻類のいずれであれ、それらに浸透させるために、水分が必要であり、またそれらに適量を均一に施用する観点から水に溶解した状態で行うのが適当である。
【0022】
この制御剤の酵素群は、蘚苔類の細胞内の葉緑体に貯えられているデンプン(同化澱粉)又は藍藻類の細胞内に貯えられているデンプン(同化澱粉)、並びにその分解物(多糖の炭水化物)に作用し、その加水分解を触媒し、該デンプンをスクロースやグルコース等の低分子炭水化物に分解する。特に重要なことは、水溶性の低分子炭水化物に分解することである。こうして蘚苔類の葉緑体内又は藍藻類の細胞内の溶質である単糖類又は二糖類等のモル濃度が上昇し、これに伴って水分活性値が低下し、かつ浸透圧が上昇することとなり、該葉緑体の属する細胞中の水分又は該藍藻類の細胞外の水分を吸収する。なお、酵素群は、通常、複数種のそれから構成されるが、一種類のそれの群であっても以上の効果を導くことができるものであれば、それも含む。
【0023】
該葉緑体又は該藍藻類の細胞は、水分の吸収により膨圧を上昇させ、場合により、その膨圧によりバーストするに至る。或いは、バーストまでには至らなくても異常な膨圧状態となる。いずれにしても葉緑体又は該藍藻類の細胞では、その本来の機能を発揮し得なくなり、その活動をすべき時点で光合成を行うことができなくなる。また、蘚苔類では、こうして、該葉緑体に水分が吸収された結果、その属する細胞内の水分活性値も低下することになるが、該細胞ではアポプラストからの水分の供給は得られず、結局、膜分離により、不活化状態となる。こうして対象の蘚苔類又は藍藻類はいずれ確実に不活化する。
【0024】
なお、以上に於いて、蘚苔類の細胞膜、及び藍藻類の内、単細胞又は小数細胞のそれの細胞膜は脂質二重層であり、また蘚苔類の内部の葉緑体は外膜と内膜の二層構造ではあるが、外膜は全透性であり、内膜は半透性である。またいずれの細胞膜もその外側が細胞壁で保護されている。これらの細胞膜等は、特定の物質を透過させる選択的透過性を有しているとされているが、分子量の小さな酵素類はそれらの膜を通過可能であり、また細胞壁の通過も可能である。実験及び実施例に於いて、前記酵素群が容易にそれらの膜又は細胞壁を通過し、蘚苔類では葉緑体内部に移動し、藍藻類ではその細胞内に移動して、前記のように作用することは確認されている。
【0025】
これに対して、これらの蘚苔類及び藍藻類とは異なる高等植物の外装には、例えば、芝の場合は、その葉の外装は、ケイ酸クチクラ二重層・表皮・海綿状細胞・柵状細胞・表皮(裏)細胞というように複層構造となっている。また細胞膜は細胞壁で保護されている。細胞膜は、脂質二重層と呼ばれる構造を作っており、特定の物質を選択的に通過させる選択的透過性を有している。分子量の小さな酵素類は、細胞膜等の半透性の膜を通過する可能性はあるが、制御剤を構成する酵素群は、これらに施用される際には、最終的には、水に溶解した水溶液の態様となっており、前記のように、葉の外装は、ケイ酸クチクラ二重層であり、該クチクラ層はパラフィンであるため、これらの酵素群の水溶液は、該クチクラ層で弾かれてしまい、該層を容易に通過し難い。また該酵素群の水溶液は、気孔からの進入も想定できるが、この気孔も水溶液が施用された場合は、閉じてしまう可能性が高く、結局、酵素群は、容易には細胞内に進入することができない場合が多い。
【0026】
また酵素群が、葉の最外層の気孔、細胞壁、細胞膜及び葉緑体の膜等を通じて該葉緑体内に進入できたとしても、芝その他の高等植物の場合は、デンプン(同化澱粉)をシンクの需要に合わせてスクロース(ショ糖)に変えて転流させ、或いはその部位の光呼吸のために消費してしまうため、該葉緑体中に加水分解対象のデンプンが殆ど貯蔵されておらず、それを加水分解させることを通じて、該葉緑体及びその属する細胞に損傷を加えることは不可能になる。それ故、本発明の1の蘚苔類及び藍藻類の制御剤の酵素群は、蘚苔類及び藍藻類に対してのみ選択的に作用することになる。
【0027】
また本発明の1の蘚苔類及び藍藻類の制御剤は、これに含まれる成分がデンプンの分解を触媒する酵素群であり、周囲環境を害することがなく、人や動物に対しても安全である。
【0028】
本発明の2の蘚苔類及び藍藻類の制御剤によれば、適切な酵素を選択して酵素群を構成することにより、本発明の1について述べたように、蘚苔類及び藍藻類の不活化等の制御を、その細胞の葉緑体中のデンプンを水溶性の低分子炭水化物に分解することにより、効率的に行うことができる。
【0029】
本発明の3の蘚苔類及び藍藻類の制御剤によれば、細胞膜を保護する細胞壁を低分子炭水化物に分解することが可能となるため、酵素群の細胞内への進入がより容易になるものである。なお、云うまでもなく、細胞壁はセルロースで構成されているため、本発明の3の蘚苔類及び藍藻類の制御剤が保持するセルラーゼでその加水分解を触媒することが可能となる。またこうして細胞壁を破壊すれば、より容易、かつ確実に制御剤の主要部を構成する酵素群の水溶液を葉緑体内等に進入させることが可能になる。
【0030】
本発明の4の蘚苔類及び藍藻類の制御剤によれば、その酵素群を蘚苔類の葉緑体及び藍藻類の細胞内に良好に浸透させることができるため、制御剤の主要部を構成する酵素群の水溶液をより容易かつ確実に葉緑体内等に進入させることが可能になり、一層効果的に蘚苔類及び藍藻類を不活化させることができる。
【0031】
本発明の5の蘚苔類及び藍藻類の制御方法によれば、蘚苔類及び藍藻類の一方又は双方の発生している領域に、含まれる酵素群を均一に散布し、かつ対象の蘚苔類の葉緑体及び藍藻類の細胞内に良好に進入させ、その中のデンプンを分解させて、それらの蘚苔類及び藍藻類のいずれをも良好に不活化制御することができる。
【0032】
本発明の6の蘚苔類及び藍藻類の制御方法によれば、対象の領域に適切な量の制御剤を施用し得、効果的に蘚苔類及び藍藻類の不活化制御を行うことが可能になる。
【0033】
本発明の7の蘚苔類及び藍藻類の制御方法は、蘚苔類及び藍藻類の活動が停止し、前者の細胞の葉緑体内又は後者の細胞内にデンプンが貯蔵された時間帯に於ける処理であり、このような、本来、蘚苔類及び藍藻類の活動休止時間帯に制御剤水溶液を施用することは、一面で、蘚苔類及び藍藻類を休止状態から無理矢理活動状態に誘導し、それらにとって異常な状態を作り出すことであり、他方、このような活動休止時間帯に、制御剤中の酵素群の細胞壁、細胞膜及び葉緑体の膜を通じての該葉緑体内への進入(藍藻類では細胞内への進入)、並びに該葉緑体(藍藻類では細胞)内に貯蔵されているデンプンの加水分解に対する触媒作用を進行させてしまうものである。またこの時間帯は、温度が高く、酵素がより効率的に作用する時間帯であり、加水分解作用がよりスピーディに行われることにもなる。
【0034】
それ故、これを通じて、前記したように、最終的には、該葉緑体又は藍藻類の細胞をバースト状態又はこれに近似する状態にさせ、該葉緑体の属する細胞又は藍藻類の細胞を異常状態にさせるものである。通常、30分程度で、対象の蘚苔類及び藍藻類は活動可能状態になるはずであるが、以上のような酵素群の触媒作用の結果、該対象の蘚苔類及び藍藻類は、その活動が不可能となり、最終的には不活化することとなるものである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、基本的に、デンプンの低分子炭水化物への分解を触媒する酵素群を含む蘚苔類及び藍藻類の制御剤、及び以上の蘚苔類及び藍藻類の制御剤を水に溶解し、得られた制御剤水溶液を蘚苔類又は藍藻類が発生した領域に散布し、該蘚苔類又は藍藻類を不活化させて制御する蘚苔類及び藍藻類の制御方法である。
【0036】
前記蘚苔類及び藍藻類は、本発明の制御剤を施用し、または制御方法を実行する対象であるが、スギゴケに代表される蘚類、ゼニゴケの仲間の苔類、更に単細胞又は比較的小数の細胞からなるそれが対象である藍藻類である。以上の内、実用的には、芝生中に発生する蘚類のギンゴケや藍藻類のユレモ及びネンジュモ等が特に重要である。ネンジュモ目のイシクラゲも重要である。
【0037】
これらの蘚苔類及び藍藻類は、細胞の最外層が一次及び二次細胞壁で被覆され、細胞膜は脂質二重層と云われる構造となっている。また蘚苔類の細胞中の葉緑体は、全透性の外膜と半透性の内膜及びその間の膜間部でその外装が構成されている。制御剤を構成する酵素群は、以上の細胞壁、半透性である細胞膜及び半透性並びに全透性の葉緑体の二重膜を通過し得るかが問題であるが、実際には、それが可能であり、実験例及び実施例によって確認した。それ故、酵素群は該葉緑体中のデンプン又は藍藻類の細胞中のデンプンまで到達し、その加水分解を触媒することが可能となる。
【0038】
他方、制御すべきこれらの蘚苔類又は藍藻類の発生する領域に存在する可能性のある芝、その他の高等植物の外装は、例えば、芝の場合は、その葉の外装は、ケイ酸クチクラ二重層・表皮・海綿状細胞・柵状細胞・表皮(裏)細胞というように複層構造となっている。細胞膜は、脂質二重層と呼ばれる構造を作っており、特定の物質を選択的に通過させる選択的透過性を有している。細胞膜は細胞壁に被覆されている。分子量の小さな酵素類は、細胞膜等の半透性の膜を通過する可能性はあるが、制御剤を構成する酵素群は、これらに施用される際には、最終的には、水溶液の態様となっており、前記のように、葉の外装は、ケイ酸クチクラ二重層であり、該クチクラ層はパラフィンであるため、これらの酵素群の水溶液は、該クチクラ層で弾かれてしまい、該層を容易に通過し難い。また該酵素群の水溶液は、葉の気孔からの進入も想定できるが、この気孔も水溶液が施用された場合には、閉じてしまう可能性が高く、結局、酵素群は、容易には細胞内に進入することができない場合が多い。
【0039】
また酵素群が、葉の最外層の気孔、細胞壁、細胞膜及び葉緑体の膜等を通じて該葉緑体内に進入できたとしても、芝、その他の高等植物の場合は、デンプン(同化澱粉)をシンクの需要に合わせてスクロース(ショ糖)に変えて転流させ、或いは当該部位の光呼吸のために消費してしまうため、該葉緑体中にデンプンが殆ど貯蔵されておらず、それを加水分解させることを通じて、該葉緑体及びその属する細胞に損傷を加えることは不可能になる。それ故、本発明の蘚苔類及び藍藻類の制御剤の酵素群は、蘚苔類及び藍藻類に対してのみ選択的に作用することになる。
【0040】
従って、前記のように、制御すべき蘚苔類又は藍藻類と共に、制御対象ではない芝その他の高等植物が存在している場合であっても、結果として、この制御剤は、蘚苔類及び藍藻類の細胞内、更には蘚苔類の葉緑体内にのみ選択的に浸透し、蘚苔類の葉緑体及び藍藻類の細胞の内部のデンプンにのみ作用することになる。従って芝等の高等植物と併存する蘚苔類及び藍藻類のみを制御することが可能になるものである。
【0041】
前記酵素群を構成する酵素は、前記のように、デンプンの低分子炭水化物への加水分解を触媒するそれであり、例えば、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ及びαグルコシダーゼ、並びにプルラナーゼやイソアミラーゼ等の脱分岐酵素の全部又は一部を含むものとする。デンプンは、その大部分をグルコースまで分解してしまうのが好ましいが、グルコースへの分解途中の水溶性多糖類、例えば、スクロース(ショ糖)等まででも、十分な浸透圧が確保できるのであれば不都合ではない。重要なことは、蘚苔類の細胞内の葉緑体中、又は藍藻類の細胞内のデンプンを水溶性の低分子炭水化物に分解し、前者の葉緑体内部又は後者の細胞内部の水分活性値を低下させ、浸透圧を十分に高めて、該葉緑体内又は該細胞内に水分を引き込み、その膨圧を高めて該葉緑体又は該細胞をバースト又はそれに近似する異常状態にすることであり、そのために必要なデンプンの加水分解を導くことである。
【0042】
また、これを通じて蘚苔類の葉緑体の属する細胞の水分が該葉緑体に吸収された結果、該細胞内の水分活性値も低下するが、該細胞はアポプラストからの水分の供給を得ることはできず、結局、膜分離により、生命活動が停止するに至る。
こうして以上の蘚苔類又は前記藍藻類は不活化状態になる。重要なことは、最終的に、この結果を導くために、必要な葉緑体又は藍藻類の細胞内のデンプンの加水分解を導くことである。
【0043】
この制御剤の酵素群は、そのような観点で必要な酵素からなるものである必要があり、そうであれば十分である。従って酵素群は、通常、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α−グルコシダーゼ及び脱分岐酵素(プルラナーゼ、イソアミラーゼ)の全部を含むことが好ましいが、その一部でも有効であり、その場合は、加水分解の進行が効率的に進行するように、酵素の基質特異性の面から、作用様式の異なる複数の酵素を選択するのが好ましい。例えば、α−アミラーゼとβ−アミラーゼを組み合わせると、デンプンを完全にマルトースへと分解することができる。更にマルトースを分解するα−グルコシダーゼを加えると、生じたマルトースは、グルコースに分解されることになる等である。
【0044】
またこれらの酵素群には、セルロースの分解を触媒するセルラーゼを加えることもできる。これは、特に、蘚苔類及び藍藻類の細胞壁を破壊することにより、他のデンプンの加水分解を触媒する酵素群の細胞への、更にその内の蘚苔類の細胞内の葉緑体への進入をより効率的に行い得るようにする趣旨である。なお、該細胞壁は、その一部をリグニンやヘミセルロースが構成しているが、その50%程度はセルロースで構成されている。
【0045】
更に酵素群には、界面活性剤を添加することも可能である。界面活性剤としては、界面張力を低下させて酵素群の水溶液を素早く蘚苔類又は藍藻類に浸透させる趣旨から、例えば、洗剤に用いられる脂肪酸ナトリウム等を採用するのが適当である。勿論、このような作用を有する他の多くの界面活性剤を採用することができる。
【0046】
また前記制御剤は、蘚苔類又は藍藻類の発生した領域に施用する際には、該制御剤をそのまま施用することも可能ではあるが、粉体等の状態では、均一な施用が困難であり、更にいずれにしても前記蘚苔類等の細胞に浸透させるために水分は必要であり、そのため、該制御剤の施用に前後して水分を施す必要がある。従ってこの制御剤は、予め水に溶解させ、水溶液として施用するのが適当である。この場合、制御剤は、水に飽和するまで溶解させるのが適当である。
【0047】
該制御剤の施用量は、対象の領域の蘚苔類又は藍藻類が保持し得る量とするのが適当である。例えば、蘚類のギンゴケは、これが形成するコロニーでは自重の5〜20倍の水分を保持できると云われており、その領域のギンゴケの生育状態を観察してその量をある程度想定した上で、その散布を行い、若干少なめに散布した段階で、該領域の水分の保持状態を観察し、不足分を追加する等により散布量を適切に調整する。該領域のギンゴケから制御剤水溶液が流れ出ない程度に散布する。即ち、ギンゴケが発生した領域に散布すべき前記制御剤水溶液の量は、該ギンゴケが保持し得る限度の水分量に相当する量に設定すべきものである。これは、他の蘚苔類又は藍藻類の場合も同様であり、該蘚苔類又は藍藻類が発生した領域に散布すべき前記制御剤水溶液の量は、該蘚苔類又は藍藻類が保持し得る限度の水分量に相当する量に設定すべきものである。なお、これらの散布は、均一な散布を実行するために、噴霧手段を用いて行うのが適当である。
【0048】
該制御剤を用いた蘚苔類及び藍藻類の制御方法は、蘚苔類及び藍藻類の活動が停止し、前者の細胞の葉緑体内及び後者の細胞内にデンプンが貯蔵された時間帯に実行するのが最適である。このような、本来、蘚苔類及び藍藻類が活動を休止している時間帯に制御剤水溶液を施用することは、一面で、蘚苔類及び藍藻類を休止状態から、無理矢理、活動状態に誘導し、それらにとって異常な状態を作り出すことであり、他面では、このような活動休止時間帯に、制御剤中の酵素群の細胞壁、細胞膜及び葉緑体の膜を通じての該葉緑体内への進入(藍藻類では細胞内への進入)、並びに該葉緑体(藍藻類では細胞)内に貯蔵されているデンプンの加水分解に対する触媒作用を進行させてしまうものである。それ故、これを通じて、前記したように、最終的には、該葉緑体(藍藻類では細胞)をバースト状態又はこれに近似する異常膨圧状態にさせ、更に該葉緑体の属する細胞(藍藻類では当該の細胞自体)を異常状態にさせるものである。またこの時間帯は、温度が高く、酵素がより効率的に作用する時間帯であり、加水分解作用がよりスピーディに行われることにもなる。
【0049】
通常、制御剤の水溶液が施用されると、例えば、ギンゴケの場合であれば、休止状態の葉の閉じた状態から、約30分で、開いた状態になるが、以上のような酵素群の触媒作用の結果、該対象のギンゴケは、その生命活動が不可能となり、最終的に不活化状態となる。その他の、蘚苔類及び藍藻類であっても、これはほぼ同様であり、制御剤の水溶液が施用されると、それぞれの植物に応じた時間で活動可能状態になるはずであるが、以上に述べた酵素群の触媒作用の結果、該対象の蘚苔類及び藍藻類は、その活動が不可能となり、最終的に生命活動が停止することとなる。
【0050】
本発明の蘚苔類及び藍藻類の制御剤は、以上の通りであり、それ故、これを蘚苔類又は藍藻類の発生している領域に、前記のように、そのまま均一に散布した上で、散水し、或いは水に溶解して水溶液として散布することにより、制御剤の浸透のため及びデンプンの加水分解に必要な水分を確保しながら、その領域の蘚苔類及び藍藻類のみを選択的に不活化することができる。
【0051】
この制御剤中の酵素群は、蘚苔類の細胞内の葉緑体に貯えられているデンプン又は藍藻類の細胞内に貯えられているデンプンに作用し、その加水分解を触媒し、前記のように、該デンプンをグルコースに又はグルコースまでの分解の途中の水溶性低分子炭水化物に分解する。こうして蘚苔類の葉緑体内又は藍藻類の細胞内の浸透圧を上昇させ、水分活性値を低下させることにより、該葉緑体又は該細胞中に、その属する細胞内又は外部の水分を吸収させ、該葉緑体又は該細胞の膨圧を高め、これにより該葉緑体又は該細胞をバーストするに至らせる。またはバーストまでには至らなくても異常な膨圧状態にさせる。こうして、いずれにしても、該葉緑体又は該細胞を正常な活動が不能であるようにし、例えば、光合成を行うことを不可能にし、対象の蘚苔類又は藍藻類を不活化状態にさせる。
【0052】
また蘚苔類では、該葉緑体が属する細胞も、以上のようにして、該葉緑体に水分が奪われることにより、その水分活性値が低下するが、アポプラストからの水分の供給は得られないため、膜分離により、これも不活化状態となる。
【0053】
なお、以上に於いて、蘚苔類又は藍藻類の細胞膜は、その外側に一次及び二次細胞壁を備えている。細胞膜自体は半透性である脂質二重層の構成であり、また蘚苔類では、その内部の葉緑体は外膜と内膜の二層構造ではあるが、外膜は全透性であり、内膜は半透性である。これらの膜は、選択的透過性を有するとされているが、前記酵素群は、容易にこれらを通過して、蘚苔類では葉緑体の内部まで移動し、藍藻類では細胞内部まで移動し、前記のように触媒作用をすることが実験的に及び実施例の上で分かっている。
【0054】
これに対して、これらの蘚苔類又は藍藻類とは異なる高等植物は、例えば、芝では、その葉の外装が、前記したように、複層構造で、クチクラ層・表皮・海綿状細胞・柵状細胞・表皮(裏)細胞とによる複層構造であり、酵素群を溶解させた水溶液は、前記したように、パラフィンで構成されたクチクラ層で弾かれてこれに進入できず、また進入可能に思われる気孔も、酵素群が水溶液の態様で施用されるため、閉じてしまって容易に進入し得ない。それ故、このような構造の芝の細胞中には、制御剤の水溶液は進入不可であり、これと近似する外装構造である高等植物の細胞内にも進入することはできない。従って、本発明の蘚苔類及び藍藻類の制御剤の酵素は、蘚苔類及び藍藻類に対してのみ選択的に作用することになる。
【0055】
前記制御剤に、前記のように、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、αグルコシダーゼ及び脱分岐酵素の全部又は一部を含むものとした場合は、先に述べたように、蘚苔類ではその細胞中の葉緑体中のデンプンを、藍藻類ではその細胞中のデンプンを、それぞれ効率的に水溶性の低分子炭水化物に分解可能となるものであり、これによって蘚苔類及び藍藻類の制御を効率的に行うことができる。
【0056】
前記酵素群に、セルロースの分解を触媒するセルラーゼを加えることとした場合は、前記のように、細胞膜を保護する細胞壁を低分子炭水化物に分解し、これを破壊することができる。そのため酵素群の細胞内への進入がより容易になる。なお、云うまでもなく、細胞壁はセルロースで構成されているため、前記セルラーゼでその加水分解を触媒することが可能となり、こうして細胞壁を破壊することにより、より容易、かつ確実に制御剤の主要部を構成する酵素群の水溶液を、蘚苔類では、葉緑体内に、藍藻類では、その細胞中に、それぞれ進入させることが可能になる。
【0057】
前記のように、前記酵素群に界面活性剤を添加した場合は、制御剤の酵素群を蘚苔類の葉緑体内及び藍藻類の細胞内に良好に浸透させることが可能となり、制御剤の主要部を構成する酵素群の水溶液をより容易かつ確実に該葉緑体内及び該細胞内に進入させ得、一層効果的に蘚苔類及び藍藻類を不活化することができる。
【0058】
制御剤を水に溶解し、得られた制御剤の水溶液を蘚苔類又は藍藻類が発生した領域に散布し、該蘚苔類又は藍藻類を不活化させて制御する方法を採用した場合は、蘚苔類及び藍藻類の一方又は双方の発生している領域に、必要な酵素群を均一に散布し、かつ対象の蘚苔類の細胞の葉緑体内及び藍藻類の細胞内に良好に進入させ、その中のデンプンを分解させて、それらの蘚苔類及び藍藻類のいずれをも良好に制御することができることになる。
【0059】
前記蘚苔類又は藍藻類が発生した領域に散布すべき制御剤の水溶液の量を、前記のように、該蘚苔類又は藍藻類が保持し得る限度の水分量に相当する量に設定した場合は、対象の領域に適切な量の制御剤を施用し得、効果的に蘚苔類及び藍藻類の不活化を行うことが可能になる。
【0060】
前記制御剤の水溶液の散布を、晴天の日で、その日の内の最も高温、強光度、かつ乾燥状態にある時間帯に行うこととした場合には、前記のように、これは、蘚苔類及び藍藻類の活動が停止し、前者の細胞の葉緑体内及び後者の細胞内にデンプンが貯蔵された時間帯に於ける処理であり、このような本来蘚苔類及び藍藻類の活動休止時間帯に制御剤水溶液を施用することは、一面で、蘚苔類及び藍藻類を休止状態から無理矢理活動状態に誘導し、それらにとって異常な活動状態を作り出すことである。また他方では、このような活動休止時間帯に、制御剤中の酵素群の細胞壁、細胞膜及び葉緑体の膜を通じての該葉緑体内への進入(藍藻類では細胞内への進入)、並びに該葉緑体内(藍藻類では細胞内)に貯蔵されているデンプンの加水分解に対する触媒作用を進行させてしまうものである。またこの時間帯は、前記のように、温度が高く、酵素の作用が効率的に行われるため、よりスピーディにデンプンの分解作用が行われることになる。
【0061】
それ故、これを通じて、前記したように、蘚苔類の葉緑体内又は藍藻類の細胞内の水分活性値を低下させ、浸透圧を高めて、蘚苔類では、該葉緑体の属する細胞内の水を吸収し、藍藻類では、外部の水分を吸収し、該葉緑体内部又は該細胞内の膨圧を異常状態にまで引き上げることにより、最終的には、該葉緑体又は該細胞をバースト状態又はこれに近似する異常状態にさせ、他方、蘚苔類では、該葉緑体の属する細胞を、これから水を奪って異常状態にさせるものである。通常、制御剤の水溶液の散布後30分程度で、対象の蘚苔類及び藍藻類は活動可能状態になるはずであるが、以上のような酵素群の触媒作用の結果、該対象の蘚苔類及び藍藻類は、その活動が不可能となり、最終的に生命活動が停止するに至る。
【実施例1】
【0062】
この実施例1は、砂上に生育させたギンゴケの制御の実験である。
【0063】
幅:10cm、長さ:25cm、深さ:3cmで、上部開口の直方体状の容器に、底部に排水用の穴を数カ所に開口した上で、川砂を充填し、該川砂の上面に5個のギンゴケのコロニーを移植した。該容器の底部の開口部から水が出てくる程度に全体に水を施した。なお、以上のギンゴケのコロニーは近所の駐車場のコンクリート上に生育していたものを採取したものである。この容器は、日当たりの良い場所に配置しておいた。
【0064】
この実施例1では、制御剤として、大根を摺り下ろしたものの全量を採用した。これは、デンプンの分解酵素であるアミラーゼを含んでいるが、その他に、プロテアーゼ、セテラーゼ、リパーゼ、カタラーゼ及びミロシナーゼ等も含んでいる。
【0065】
晴れの日の午後1時頃(気温27℃)に、前記容器中の砂上のギンゴケのコロニーを観察し、その葉が乾燥状態で閉じていることを確認した上で、前記大根の摺り下ろし物を全コロニーの各々の上に載せた。摺り下ろし物の液体はコロニーに浸透していくように見えた。なお、ギンゴケの葉は一細胞層であり、細胞全体から吸収するため摺り下ろし物、特にその液体は良好に吸収されているようであった。
【0066】
摺り下ろし物の施用後、30分程度が経過した時点で、ギンゴケのコロニーの葉が開いた状態になった。
【0067】
摺り下ろし物の施用の日の2日後の午後1時頃に、対象の容器上のギンゴケを観察すると、そのコロニーは黒くなり、不活化状態になっていた。更に1週間後に観察したところ、ギンゴケのコロニーは、乾燥して捲れ上がったような状態になっていた。殆ど完全に生命活動を停止したと思われる状態である。
【実施例2】
【0068】
この実施例2は、茨城県内のゴルフ場の駐車場のコンクリート面上に生じたギンゴケの制御に関する。
【0069】
対象のギンゴケのコロニーは駐車場のコンクリート上の約3m2の範囲に斑に生じているものである。
【0070】
この実施例2では、制御剤は、酵素群として、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、αグルコシダーゼ及びイソアミラーゼの混合物を採用し、これらの40gを2Lの水に溶解させたが、若干の沈殿物が生じたので、その上澄みを制御剤水溶液として用いた。
【0071】
晴れの日の午後1時30分頃(気温26℃)に、前記駐車場のコンクリート面上のギンゴケのコロニーを観察し、その葉が乾燥状態で閉じていることを確認した上で、前記制御剤水溶液を全コロニーの各々の上に散布した。この散布は、該制御剤水溶液をジョウロに入れ、これで噴霧することで行った。またこの散布は、少しずつ行い、ギンゴケのコロニーに十分にこの制御剤水溶液を保持させるようにした。なお、前記したように、ギンゴケの葉は一細胞層であり、細胞全体から吸収するため該制御剤水溶液は良好に吸収されているようであった。
【0072】
制御剤水溶液の散布後、概ね30分程が経過した時点で、ギンゴケのコロニーの葉が開いた状態になった。
【0073】
制御剤水溶液の散布の日の2日後の午後1時頃に、前記駐車場のコンクリート面上のギンゴケを観察すると、そのコロニーは黒くなり、不活化状態になっていた。更に1週間後に観察したところ、ギンゴケのコロニーは、乾燥して捲れ上がったような状態になっていた。殆ど完全に生命活動を停止したと思われる状態になっていた。
【実施例3】
【0074】
この実施例3は、茨城県内のゴルフ場のグリーン上に生じたギンゴケの制御に関する。芝はベントグラスである。
【0075】
制御剤は、実施例2で用いた酵素群と全く同様の酵素群60gを3Lの水に溶解させて用いた。このとき、水中には若干の沈殿物が生じたので、その上澄み液を制御剤水溶液として用いた。
【0076】
晴天の日の午後1時頃(気温28℃)に、ギンゴケのコロニーが乾燥して葉を閉じた状態となっていることを確認した上で、前記制御剤水溶液をジョウロに入れて、グリーン上に平均に散布した。ギンゴケのコロニーの状態を観察し、制御剤水溶液がコロニーから流れ出さず保持されている程度とした。最後に、追加散布し、コロニーに十分に制御剤水溶液が保持されるようにした。前記したように、ギンゴケの葉は一細胞層であり、該制御剤水溶液は細胞全体から良好に吸収されているようであった。
【0077】
制御剤水溶液の散布後、30分程度経過した時点で、ギンゴケのコロニーの葉が開いた状態になった。
【0078】
制御剤水溶液の散布の日の2日後の午後1時頃に、対象のグリーンを観察すると、ギンゴケのコロニーは黒くなり、不活化状態になっていた。
同日確認したところ、周囲のベントグラスは、制御剤水溶液の散布前と異ならない緑色を維持していた。
更に1週間後に観察したところ、ギンゴケのコロニーは乾燥して捲れ上がった状態になっていた。またベントグラスには異常は認められなかった。
【実施例4】
【0079】
この実施例4は、茨城県内のゴルフ場の実施例3とは異なるグリーン上に生じたギンゴケの制御に関する。芝はベントグラスである。
【0080】
制御剤は、酵素群として、実施例3と同様のそれを採用し、更にこれに界面活性剤である脂肪酸ナトリウムを添加したものを採用し、これらの60gを3Lの水に溶解させた。若干の沈殿物が残ったので、その上澄みを制御剤水溶液として用いた。
【0081】
晴天の日(実施例3と同日)の午後1時15分頃(気温28℃)に、ギンゴケのコロニーが乾燥して葉を閉じた状態となっていることを確認した上で、前記制御剤水溶液をジョウロに入れて、グリーン上に平均に散布した。更に、ギンゴケのコロニーの状態を観察し、制御剤水溶液がコロニーから流れ出さず保持されている程度に追加散布した。前記したように、ギンゴケの葉は一細胞層であり、該制御剤水溶液は細胞全体から良好に吸収されるはずであるが、この実施例4では、制御剤水溶液のギンゴケコロニーへの浸透が、実施例3のそれより、より一層スムーズに(弾かれることなく)行われるように見えた。
【0082】
制御剤水溶液の散布後、30分程度経過した時点で、実施例3のそれと同様に、ギンゴケのコロニーの葉が開いた状態になった。
【0083】
制御剤水溶液の散布の日の2日後の午後1時頃に、対象のグリーンを観察すると、ギンゴケのコロニーは黒くなり、不活化状態になっていた。
同日確認したところ、周囲のベントグラスは、制御剤水溶液の散布前と異ならない緑色を維持していた。
更に1週間後に観察したところ、実施例3とほぼ同様に、ギンゴケのコロニーは乾燥して捲れ上がった状態となっていた。ベントグラスには異常は認められなかった。
【実施例5】
【0084】
この実施例5は、茨城県内のゴルフ場の実施例3、4とは異なるグリーン上に生じたギンゴケの制御に関する。芝はベントグラスである。
【0085】
制御剤は、酵素群として、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、αグルコシダーゼ及びイソアミラーゼの混合物、並びにC1セルラーゼ、Cxセルラーゼ、セロビオハイドロラーゼ、セロビアーゼ及びC2セルラーゼの混合物を採用し、更にこれらに界面活性剤である脂肪酸ナトリウムを添加したものを用いることとし、これらの60gを3Lの水に溶解させて構成した。水中には若干の沈殿物が残ったので、この場合もその上澄みを制御剤水溶液として用いた。
【0086】
晴天の日(実施例3、4と同日)の午後1時30分頃(気温28℃)に、ギンゴケのコロニーが乾燥して葉を閉じた状態となっていることを確認した上で、前記制御剤水溶液をジョウロに入れて、グリーン上に平均に散布した。この場合も、ギンゴケのコロニーの状態を観察し、制御剤水溶液がコロニーから流れ出さず保持される程度に追加散布した。前記したように、ギンゴケの葉は一細胞層であり、該制御剤水溶液は細胞全体から良好に吸収されるはずであるが、この場合は、制御剤水溶液のギンゴケコロニーへの浸透が、実施例3のそれよりより一層スムーズに(弾かれることなく)行われるように見えた。
【0087】
制御剤水溶液の散布後、30分程度経過した時点で、実施例3のそれと同様に、ギンゴケのコロニーの葉が開いた状態になった。葉の内側が若干溶けているように見えた。セルラーゼの作用によって細胞壁が分解したものと思われる。
【0088】
制御剤水溶液の散布の日の2日後の午後1時頃に、対象のグリーンを観察すると、ギンゴケのコロニーは黒くなり、これも同様に、不活化状態になっていた。
同日確認したところ、周囲のベントグラスは、制御剤水溶液の散布前と異ならない緑色を維持していた。
更に1週間後に観察したところ、実施例3、4とほぼ同様に、ギンゴケのコロニーは乾燥して捲れ上がった状態となっていた。ベントグラスに異常は認められなかった。
【実施例6】
【0089】
この実施例6は、茨城県内のゴルフ場の実施例3、4、5とは異なるグリーン上に生じたユレモの制御に関する。芝はベントグラスである。
【0090】
制御剤は、酵素群として、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、αグルコシダーゼ及びイソアミラーゼの混合物を採用し、更にこれに界面活性剤である脂肪酸ナトリウムを添加したものを用いることとし、これらの60gを3Lの水に溶解させて構成した。この場合もその上澄みを制御剤水溶液として用いた。
【0091】
晴天の日の午後1時頃(気温26℃)に、ユレモのコロニーが乾燥して薄いシート状となっていることを確認した上で、前記制御剤水溶液をジョウロに入れて、グリーン上に平均に散布した。更にユレモのコロニーの状態を観察して、制御剤水溶液がコロニーに保持される限度で追加散布した。制御剤水溶液のユレモのコロニーへの浸透は、十分スムーズに(弾かれることなく)行われるように見えた。
【0092】
制御剤水溶液の散布の日の2日後の午後1時頃に、対象のグリーンを観察すると、ユレモのコロニーは乾燥して海苔状となっており、不活化状態に見えた。
同日確認したところ、周囲のベントグラスは、制御剤水溶液の散布前と異ならない緑色を維持していた。
更に1週間後に観察したところ、ユレモのコロニーは乾燥して捲れ上がった状態となっていた。生命活動を停止したと見て良い状態であった。ベントグラスに異常は認められなかった。
【0093】
<考察>
実施例1は、制御剤として大根の摺り下ろした物を用いたので、その中には、デンプン分解酵素であるアミラーゼ以外の酵素も含まれている。従ってやや不明な点もあるが、以下のようなアミラーゼの作用により、ギンゴケを不活化させるに至ったと思われる。勿論、これに他の酵素等も補助的な作用をした可能性はある。
【0094】
この場合は、制御剤中のアミラーゼが、ギンゴケの葉緑体内に進入し、その内部に貯蔵されているデンプンをスクロースやグルコースのようなより低分子の水溶性炭水化物に分解し、該葉緑体の内部の水分活性値を低下させ、浸透圧を高めて、この葉緑体の属する細胞から水分を吸収して内部の膨圧を異常に高め、場合によりバーストし、更には、水分を奪われた細胞も水分活性値を低下させるが、該細胞外から水分の供給を受けることができず、結局、活動能力を失って、不活化し、生命活動を失うに至ったと思われる。
【0095】
実施例2の場合は、制御剤は、デンプンの分解酵素のみを含むものであるから、実施例1で説明したのと同様の過程を経て、ギンゴケは不活化するに至ったと思われる。制御剤水溶液の散布後、概ね30分程が経過した時点で、ギンゴケのコロニーの葉が開いたのは、休眠状態のギンゴケが、制御剤の水溶液を供給されて、無理矢理活動を再開させられたと理解することができる。もっとも、既に、その時点では、葉緑体は膨圧を高めた異常状態となっており、本来の活動ができない状態になっていた筈でもある。
【0096】
なお、この実施例2では、駐車場のコンクリート面に生じたギンゴケを制御する例を説明したが、このように選択性を要求されない場所に発生した蘚苔類や藍藻類の制御は容易である。
【0097】
実施例3の制御剤は、実施例2のそれと同じであり、ギンゴケに対して同様に作用したと理解することができる。またこのような制御剤はベントグラスに悪影響を与えないことが分かる。
【0098】
実施例4の制御剤は、実施例2、3と同様の酵素群に界面活性剤を加えたものである。ギンゴケに対する制御作用は、実施例2、3と全く同様であるように思われる。一方、制御剤の水溶液をギンゴケのコロニーに散布する際に、前記界面活性剤の作用により該コロニーへの浸透がよりスムーズで効率的に行われるものとなった。
【0099】
実施例5の制御剤は、実施例4のそれに更にセルラーゼを追加したものであるが、ギンゴケに対する制御作用及ギンゴケのコロニーへの制御剤水溶液の浸透作用は、実施例4のそれと全く同様であるように思われる。一方、セルラーゼの作用により、細胞壁が破壊され、ギンゴケの細胞内及び葉緑体内へのアミラーゼの進入がより効率的に行われるようになったと思われる。
【0100】
また制御剤及びこれを用いた制御方法は、いずれの場合も、ギンゴケ以外の周囲の高等植物に悪影響を与えるものではない。更に、この制御剤を構成する要素は、デンプンの加水分解を触媒する酵素や浸透性を良好にする界面活性剤等であり、これを用いて制御方法を実行する者及び制御方法を実行した周辺を移動する者等に悪影響を与えることも全くない。環境に対して極めて安全性の高いものである。
【0101】
実施例6は、ユレモの制御の例であるが、その制御剤は実施例2、3と同様の酵素群に界面活性剤を加えたものであり、この制御剤の水溶液をユレモのコロニーに散布する際には、実施例4、5と同様に、該コロニーへの浸透が極めて良好に行われていたと認められる。またユレモに対する制御作用は、実施例2、3と全く同様であり、酵素群の触媒作用により、同様の過程を経てその細胞内のデンプンがスクロース又はグルコース等に分解され、その内部の水分活性値が低下し、浸透圧が上昇し、外部から水分を吸収してその膨圧を異常に高め、バーストする等により、不活化状態となったものだと理解できる。ギンゴケと基本的に同様の過程を経て不活化すると云える。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の蘚苔類及び藍藻類の制御剤及び蘚苔類及び藍藻類の制御方法は、これらを製造する農薬や肥料の分野や、製造した制御剤を用いる芝生の管理等の関係分野で有用に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプンの低分子炭水化物への分解を触媒する酵素群を含む蘚苔類及び藍藻類の制御剤。
【請求項2】
前記酵素群を構成する酵素が、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、αグルコシダーゼ及び脱分岐酵素の全部又は一部を含むものである請求項1の蘚苔類及び藍藻類の制御剤。
【請求項3】
前記酵素群に、セルロースの分解を触媒するセルラーゼを加えた請求項1又は2の蘚苔類及び藍藻類の制御剤。
【請求項4】
前記酵素群に界面活性剤を添加した請求項1、2又は3の蘚苔類及び藍藻類の制御剤。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4の蘚苔類及び藍藻類の制御剤を水に溶解し、得られた制御剤水溶液を蘚苔類又は藍藻類が発生した領域に散布し、該蘚苔類又は藍藻類を不活化させて制御する蘚苔類及び藍藻類の制御方法。
【請求項6】
前記蘚苔類又は藍藻類が発生した領域に散布すべき前記制御剤水溶液の量を、該蘚苔類又は藍藻類が保持し得る限度の水分量に相当する量に設定した請求項5の蘚苔類及び藍藻類の制御方法。
【請求項7】
前記制御剤水溶液の散布を、晴天の日で、その日の内の最も高温、強光度、かつ乾燥状態にある時間帯に行うこととした請求項5又は6の蘚苔類及び藍藻類の制御方法。

【公開番号】特開2011−20977(P2011−20977A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169619(P2009−169619)
【出願日】平成21年7月19日(2009.7.19)
【出願人】(302018374)
【出願人】(509204677)有限会社ワールド技研 (1)
【出願人】(594208732)日本アクティブ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】