説明

蚊又はハエ取り線香用薬剤

【課題】蚊又はハエ取り線香につき、良好な殺虫効力を発揮するために、化合物Aとともに配合される効力増強剤Aにおける立体異性体(エキソーエンド異性体)の配合割合を明らかにする一方、前記蚊又はハエ取り線香の製造に際し、化合物Aと効力増強剤Aとの混合による有用性を明らかにすること。
【解決手段】有効成分である4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボキシラートと、効力増強剤であるN−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ[2,2,1]−ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミドを、有効成分に対し効力増強剤を1.0倍以上の割合にて配合している混合物であって、効力増強剤におけるExo型比率が30%以上とし、Endo型比率が70%以下とすることによって、前記課題を達成し得る蚊又はハエ取り線香用薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蚊又はハエ取り線香用薬剤及び当該薬剤に基づく蚊又はハエ取り線香の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蚊取線香は、蚊の成虫駆除用殺虫剤として100年以上も前から親しまれているもので、マッチ一本で空間処理を時間的にも保持し、燃え尽きるまで効力は一定なので非常に合理的な殺虫形態である。1902年、渦巻型蚊取線香が日本で発明されたが、その原料は、除虫菊乾花の粉末(60〜80%)と粘結剤として椨の葉の粉末(20〜40%)を含む混合粉で、これに水を加えて練合し渦巻状にしたものを乾燥して製造された。殺虫成分としては、除虫菊粉末が長い間使用されたが、熱安定性に優れた合成ピレスロイド・アレスリンの工業化に伴いこれに替わり、更に最近では生理活性の高いその光学活性体が世界中で広く使用されている。
【0003】
また、近年、ハエの発生は、都市部では減っているが、漁村、魚介類加工場、ゴミ処理場や畜舎、鶏舎などの周辺では従来以上に悩まされる機会が多くなっている。その対策として、空間処理用のハエ取り線香の需要が高まっており、蚊取線香だけでなく、ハエ取り線香も含めてより効果的な線香の開発が求められている。
【0004】
ところで、アレスリンをはじめとするピレスロイドは、有機塩素系、有機燐系、カーバメイト系などの合成殺虫剤に比べ、昆虫に対する速効性と温血動物に対する安全性に優れ、家庭用殺虫剤の殺虫成分として最適であるが、製造工程は複雑で非常に高価である。
このため、効力増強剤(化合物自体は全く殺虫力を持たないが、殺虫成分に配合した場合に殺虫効力を増強する化合物)の添加によりピレスロイドの添加量を節約することは非常に有用であり、これまで、油剤、エアゾールや粉剤等の製剤において、ピペロニルブトキサイド、N−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ[2,2,1]−ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド(以降、効力増強剤Aと称する)、N−(2−エチルヘキシル)−1−イソプロピル−4−メチルビシクロ[2,2,2]−オクト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド等の効力増強剤をピレスロイドに混用することがしばしば行われてきた。効力増強剤のメカニズムについては多くの報告があり、例えば、昆虫体内で自らが代謝分解を受けてピレスロイドの酸化的解毒代謝を阻害したり、あるいはピレスロイドの皮膚への浸透を促進し、神経系作用点への到達を容易にすることによって、ピレスロイドの殺虫効力を高めることなどが知られている。しかしながら、かかる効力増強剤の作用機構は当然のことながら昆虫の種類に大きく依存し、効力増強剤による効力増強効果は通常10〜20%程度にとどまるのが一般的である。
【0005】
これに対し、本発明者らは線香形態でのある種配合剤の作用を鋭意検討した結果、上記各種効力増強剤のなかでは、効力増強剤Aが特異的に有効であることを開発過程における実験によって明らかにした。このような成果に基づき、効力増強剤Aにつき、特許文献1、及び特許文献2において蚊取線香における有用性を、また、ハエ取り線香については特許文献3においてその有用性を開示した。すなわち、複数のピレスロイドに効力増強剤Aを加えることによって線香の殺虫効力が2〜3倍増強するという事実を、特許文献1及び2によって明らかにした。他方、近年開発された殺虫成分の4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボキシラート(以降、化合物Aと称する)は、蚊やハエに対する優れた殺虫活性と人畜に対する安全性を兼備し、種々の分野で開発が進められているが、その適度な揮散性と相まって蚊又はハエ取り線香は最適な使用形態である。
【0006】
このような状況下において、本発明者らは、化合物Aと効力増強剤Aを所定の比率にて配合した場合に、特にハエ取り線香として有用であることを特許文献3において明らかにした。一連の開発過程によって明らかとなった効力増強剤Aを有効成分と配合することによって得られる有用性の原因については、昆虫生理学的機構に基づく従来の効力増強剤のメカニズムだけでは説明できず、別の原因として、効力増強剤Aが殺虫成分の揮散率上昇に寄与し殺虫成分の気中濃度を高めたことや、揮散した殺虫成分の拡散をある物質が助長したことなど、物理的な作用も貢献しているものと考えられた。
【0007】
線香に配合される殺虫成分は、一般的に0.01〜0.5質量%程度で、例えば0.1質量%の場合、線香1巻約13g中に約13mgの殺虫成分が含有される。そして、線香1巻が約7時間で燃え尽きるとすると、1時間当り線香が約10cm燃焼するが、その間に揮散する殺虫成分量は約2mgという極微量である。
このような場合、前記のような物理的な作用の貢献をも考慮するならば、線香の製剤開発にあたっては、前述の殺虫効力の増強だけでなく、製造工程で殺虫成分を如何に線香に均一に混合させるかが重要な考察事項の対象となるが、この点については、実施形態及び実施例において後述するとおりである。
【0008】
効力増強剤Aの立体構造としては、Exo型とEndo型とが存在するが、前記物理的な作用の貢献を考慮するならば、このような立体異性体(エキソーエンド異性体)の配合比率もまた、殺虫効力に影響を与えることが考えられる。しかるに、特許文献1、2、3の何れにおいても、このような立体異性体と殺虫効力との関係について、格別の考察が行われている訳ではない。
本発明は、有効成分である化合物Aと効力増強剤Aとによる蚊又はハエ取り線香用薬剤において、Exo型とEndo型比率が効力増強効果との関係に着目したうえで、技術上の開発が行われている。
【特許文献1】特許第3909717号公報
【特許文献2】特許第3926836号公報
【特許文献3】特開2008−120762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、蚊又はハエ取り線香につき、良好な殺虫効力を発揮するために、化合物Aとともに配合される効力増強剤Aにおける立体異性体の配合割合を明らかにする一方、前記蚊又はハエ取り線香の製造に際し、化合物Aと効力増強剤Aとの混合による有用性を明らかにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するため、本発明は以下の構成を採用する。
(1)有効成分である4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボキシラートと、効力増強剤であるN−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ[2,2,1]−ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミドを、有効成分に対し効力増強剤を1.0倍以上の割合にて配合している混合物であって、効力増強剤におけるExo型比率が30%以上とし、Endo型比率が70%以下としている蚊又はハエ取り線香用薬剤。
(2)効力増強剤におけるExo型比率を40〜70%とし、Endo型比率を30〜60%とすることを特徴とする(1)記載の蚊又はハエ取り線香用薬剤。
(3)蚊又はハエ取り線香の製造に際し、(1)、(2)の何れかに記載の蚊又はハエ取り線香用薬剤を、線香を構成する他の基材との混合を行うことによる蚊又はハエ取り線香の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の蚊又はハエ取り線香用薬剤は、線香の製造段階における殺虫成分の均一配合を実現するとともに、使用段階における殺虫効力を顕著に高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の蚊又はハエ取り線香用薬剤(以下「本発明薬剤」と称する。)は、化合物Aと効力増強剤Aとの混合物によって構成されている。一般に、蚊又はハエ取り線香において、有効成分とともに、効力増強剤を配合する場合には、効力増強剤による作用効果を発揮し得るような双方の配合割合の特定が不可欠となり、本発明においてもその例外ではない。本発明においては、前記(1)からも明らかなように、化合物Aに対し効力増強剤Aを1.0倍以上とすることによって、有効な効力増強作用を発揮している。但し、配合割合の上限は、精々5.0倍であって、通常は、2.0倍以下に設定する場合が多い。
特に1.0〜2.0倍の質量比にて配合した場合には、線香用薬剤全体量に対して、化合物Aを30〜50質量%、効力増強剤Aを50〜67質量%含み、必要ならば残部を非活性物質、例えばケロシン等の溶剤で調整すると、線香中の化合物Aの配合量は、対象害虫に対する殺虫効力や経済性等を考慮して全構成成分のうち、0.01〜0.5質量%程度に設定されることから、効力増強剤Aは、全構成成分において、0.01〜0.5質量%以上であって、通常、0.02〜1.0質量%以下に設定される場合が多い。
前記(1)からも明らかなように、本発明においては、効力増強剤Aについては、Exo型の比率を30%以上とし、Endo型の比率を70%以下とすることを基本要件としている。
【0013】
効力増強剤Aの立体構造については、文献等から以下のような入手方法が判明している。
(1)無水ハイミック酸[cis−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物]を溶媒中で2−エチル−ヘキシルアミンと反応させて調製でき、通常の製造方法によれば、(Endo型)無水ハイミック酸から(Endo型)効力増強剤A、また、(Exo型)無水ハイミック酸から(Exo型)効力増強剤Aが得られる。
(2)原料の無水ハイミック酸については、Endo型が市販品でExo型は特注品であり、特段の要請がなければ効力増強剤Aの立体構造はEndo型が主体である。
しかるに、前記のような立体構造と作用効果との関係については、これまでさしたる関心が向けられていた訳ではない。
本発明者らは、線香形態においては、効力増強剤Aの立体構造が効力増強メカニズムに影響を及ぼす可能性に着目し、Exo型とEndo型の種々組み合わせにつき殺虫効力試験を行い、その結果、詳しい理由は不明ながら、Exo型がEndo型に比べて殺虫効力が高く、また経済性や製造性等を考慮すると、Exo型比率が30%以上、好ましくは、前記(2)のように、40〜70%が効果的であることを見出すに至った(尚、70%の上限値は、当該上限値を超えても殺虫効力をさほど改良する訳ではないことから、主として製造コスト上の配慮に基づいて決定されており、かつこの点は、実施例において後述するとおりである。)。
【0014】
これに対し、エアゾール形態では、Exo/Endo型比率に基づく明確な殺虫効力差を観察することができないことから、本発明の効果は線香の形態において顕著であるものと解される。このような線香の形態の場合に、固有の効果を発揮し得る薬理学上の根拠は現時点では不明であるが、この点については将来の解明に委ねる以外にない。
【0015】
次に、本発明薬剤の製造方法について述べる。
原料としては安価な(Endo型)の無水ハイミック酸を使用し、工程は大きく、(1)(Endo型)の無水ハイミック酸の(Exo型+Endo型)への異性化反応、(2)生成物の2−エチルヘキシルアミンとの縮合反応、(3)効力増強剤Aの蒸留工程 に分けることができる。
【0016】
(1)(Endo型)の無水ハイミック酸を、有機溶剤無添加か、もしくは沸点が190〜300℃の有機溶剤とともに190℃以上で30分以上加熱し、Exo型比率を30%以上に移行させる。有機溶剤無添加の場合、無水ハイミック酸の一部が昇華して容器上部に付着することがあるが、このものも異性化が進行しており問題はない。一方、この工程で用いる有機溶剤としては、脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系、エステル系、エーテル系溶剤等、各種のものが使用可能であるが、次反応や取扱いを考慮するとケロシンが好適である。通常、反応時間を長くするに伴い、Exo型の比率が増加する傾向がある。
【0017】
(2)放冷後、(1)の反応物に2−エチルヘキシルアミン単独、又は、(1)の工程で有機溶剤無添加の場合は、2−エチルヘキシルアミンと水もしくは沸点が110〜150℃の有機溶剤(トルエン、キシレン等)を加え、95〜160℃で30分以上反応させる。Exo型とEndo型の比率は反応中大きく変化しない。水、トルエン、キシレン等の使用は、反応容器の上部に付着した無水ハイミック酸を洗い出し反応の進行に効果的で、なかでも水を用いる工程は製造上の安全性の点で有利である。なお、反応終了後、必要ならばソーダ灰を用いて反応液のpH調整(5.5〜7.0)を行い、蒸留装置に移行させる。
【0018】
(3)効力増強剤Aの蒸留温度は160〜170℃/3mmHgで、何ら特別の装置を必要とせず、通常の設備によって行うことができる。
なお、効力増強剤Aを直接210℃以上に加熱して(Exo型+Endo型)への異性化反応を行うことも可能である。
【0019】
通常、有効成分に対し効力増強剤を配合した状態にて蚊又はハエ取り線香を製造する場合には、有効成分と効力増強剤とは個別に他の基材と一体をなすように配合が行われている。しかるに、本発明においては、(3)の場合のように、化合物Aと効力増強剤Aとが予め混合されている本薬剤を他の基材と配合しており、前記のような個別による配合に比し、良好な殺虫効力を得ることができることは、実施例において後述するとおりである。
本発明薬剤を使用した蚊又はハエ取り線香の製造する場合に、化合物A以外に他の有効成分を配合することは、特に禁止されている訳ではない。このような有効成分としては、アレスリン、プラレトリン、ピレトリン、フラメトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、エムペントリン等の各種ピレスロイド系殺虫成分あるいはそれらの任意の異性体が好適であるがこれらに限定されない。
通常の蚊取線香及びハエ取り線香の場合と同様に、粘結剤や支燃剤等が配合されるが、前者の粘結剤には、タブ粉、澱粉、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等があげられ、一方、後者の支燃剤としては、除虫菊抽出粕粉、モミ、トガ、ヒノキ、チャ、カンキツ、ニセアカシアの葉の乾燥粉、ココナッツシェル粉等の植物粉末、ケイソウ土、クレー、ゼムライト、カオリン、タルク等の鉱物粉、あるいは素灰等の無機粉末等を例示できる。
【0020】
また、必要により、色素、防腐剤、安定剤等が含有されてもよい。色素としては、例えばマラカイトグリーン等があげられ、防腐剤としては、例えばソルビン酸、デヒドロ酢酸、p−ヒドロキシ安息香酸等の酸、あるいはそれらの塩等が代表的である。また、安定剤としては、2,6−ジ−ターシャリーブチル−4−メチルフェノール(BHT)や2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−ターシャリーブチルフェノール)等があげられるがこれらに限定されない。
更に、本発明薬剤の効力に支障を生じない限りにおいて、殺菌剤、抗菌剤、忌避剤、あるいは芳香剤、消臭剤等を混合し、効力のすぐれた多目的組成物を得ることもできる。
【0021】
なお、蚊又はハエ取り線香を調製するにあたっては、何ら特別の技術を必要とせず、公知の製造方法を採用できる。例えば、プレミックス粉(本発明の蚊又はハエ取り線香用組成物を支燃剤の一部に含有させたもの)と残部の線香基材を混合したものに水を加えて混練し、続いて、押出機、打抜機によって成型後、乾燥して蚊取線香もしくはハエ取り線香を製すればよい。また、線香基材のみを用いて成型後、これに本発明の蚊又はハエ取り線香用薬剤等を含む液剤をスプレーあるいは塗布するようにしても構わない。
【0022】
こうして得られる蚊又はハエ取り線香は、アカイエカ、コガタアカイエカ、ネッタイイエカ、ネッタイシマカ、ハマダラカ、チカイエカ等の蚊類、イエバエ、キンバエ、ニクバエ、チョエバエ、コバエ等のハエ類に卓効を示すが、もちろん、ゴキブリ、屋内塵性ダニ類等の衛生害虫、あるいはユスリカ、アブ等の種々の害虫にも有効であり、その実用性は極めて高い。
【0023】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に明らかにする。
【実施例1】
【0024】
(Endo型)の無水ハイミック酸5.0gを反応フラスコに入れ、反応温度195℃で30分間加熱した。加熱後のExo型比率は57%であった。
放冷後、前記の反応物に水15gと2−エチルヘキシルアミン4.1gを加え、95〜100℃で5時間反応させた。反応終了後、反応液を分液し、下層を蒸留装置に移行させて蒸留を行い、Exo型比率が50%の効力増強剤A(7.6g)を得た(蒸留温度:160〜170℃/3mmHg、収率:91%)。
【実施例2】
【0025】
(Endo型)の無水ハイミック酸5.0gを反応フラスコに入れ、反応温度195℃で1時間加熱した。加熱後のExo型比率は60%であった。
放冷後、前記の反応物にトルエン5.0gと2−エチルヘキシルアミン4.1gを加え、生成する水を系外に取り出しながら、120℃で1時間反応させた。反応終了後、蒸留を行い、Exo型比率が55%の効力増強剤A(7.8g)を得た(蒸留温度:160〜170℃/3mmHg、収率:93%)。
【実施例3】
【0026】
(Endo型)の無水ハイミック酸5.0gを反応フラスコに入れ、IP−ソルベント(出光石油製イソパラフィン、沸点:初留213℃)5.0gを加え、反応温度195℃で1時間加熱した。加熱後のExo型比率は55%であった。
放冷後、前記の反応液に2−エチルヘキシルアミン4.1gを加え、140℃で1時間反応させた。反応終了後、蒸留を行い、Exo型比率が55%の効力増強剤A(7.6g)を得た(蒸留温度:160〜170℃/3mmHg、収率:91%)。
【実施例4】
【0027】
化合物A(50部)及びExo型比率が55%の効力増強剤A(50部)を混合し、化合物Aと効力増強剤Aの質量比が1:1の本発明の蚊又はハエ取り線香用薬剤を得た。
【実施例5】
【0028】
化合物A(40部)及びExo型比率が30%の効力増強剤A(60部)を混合し、化合物Aと効力増強剤Aの質量比が1:1.5の本発明の蚊又はハエ取り線香用薬剤を得た。
【実施例6】
【0029】
化合物A(30部)、Exo型比率が38%の効力増強剤A(60部)及びケロシン(10部)を混合し、化合物Aと効力増強剤Aの質量比が1:2の本発明の蚊又はハエ取り線香用薬剤を得た。
【実施例7】
【0030】
実施例4で得られた本発明の蚊又はハエ取り線香用薬剤0.06部を、線香基材99.94部(α−澱粉とタブ粉からなる粘結剤:18部、除虫菊抽出粕粉:25部、他木粉等)に均一に混合後、着色剤と防腐剤を含む水を加えて混練後、押出機にかけて板状シートとし、打抜機によって渦巻型に打抜き、水分率7〜10%程度まで乾燥して、化合物Aを0.03質量%と効力増強剤Aを0.03質量%含有する蚊取線香を製造した。
同様に、実施例5で得られた本発明の蚊又はハエ取り線香用薬剤0.075部と線香基材99.925部を用いて、化合物Aを0.03質量%と効力増強剤Aを0.045質量%含有する蚊取線香を、また、実施例6で得られた本発明の蚊又はハエ取り線香用薬剤0.09部と線香基材99.91部を用いて、化合物Aを0.03質量%と効力増強剤Aを0.06質量%含有する蚊取線香を製造した。
【実施例8】
【0031】
実施例4で得られた本発明の蚊又はハエ取り線香用薬剤0.2部を、線香基材99.8部(ウーロン茶抽出粕粉25部、ココナッツシェル粉末20部、木粉30部、椨粉、澱粉等からなる混合粉)に均一に混合後、防腐剤を含む水を加え、公知の方法によって、化合物Aを0.1質量%と効力増強剤Aを0.1質量%含有するハエ取り線香を得た。
同様に、実施例5で得られた本発明の蚊又はハエ取り線香用薬剤0.25部と線香基材99.75部を用いて、化合物Aを0.1質量%と効力増強剤Aを0.15質量%含有するハエ取り線香を、また、実施例6で得られた本発明の蚊又はハエ取り線香用薬剤0.3部と線香基材99.7部を用いて、化合物Aを0.1質量%と効力増強剤Aを0.2質量%含有するハエ取り線香を製造した。
【実施例9】
【0032】
実施例7に準じて調製した各種蚊取線香を用いて下記のアカイエカ雌成虫に対する殺虫効力試験を行った。なお、線香1巻を3分割してそれぞれを供試し、殺虫成分の分布の均一性を調べた。
[25m3の部屋での実地殺虫効力試験]
閉めきった25m3の部屋にアカイエカ雌成虫100匹を放った後、部屋の中央に点火した供試蚊取線香(実施例7に準じて調製)を置いた。2時間暴露させ、時間経過に伴い落下仰転したアカイエカ雌成虫を数え、KT50値を求めたが、その結果は、以下の表1記載のとおりである。
















【0033】
【表1】


* 線香製造時に、化合物Aと効力増強剤Aを混合調製した。
** 化合物Aを含有する線香と効力増強剤Aを含有する線香を各1本ずつ同時に燻煙させた。
【0034】
各試験の結果、化合物Aと効力増強剤Aを予め1:1〜1:2の質量比で配合した本薬剤を用いた本発明品は、アカイエカに対する速効性に優れており、効力増強剤Aを配合していない比較例1の場合はもとより、Exo型の比率が0%、20%である比較例2、3と対比した場合、KT50値が大幅に改善されていることが判明する。特に効力増強剤Aの配合量が0.03%であって、Exo型の比率が30%である本発明1と、効力増強剤Aの配合量が0.045%であって、Exo型の比率が20%である比較例3とを対比した場合、本発明1の方が比較例3よりも、良好なKT50値を示していることは、Exo型の比率を10%増加させ、30%以上とすることによって、KT50値が大幅に増加することを示している。本発明2〜6のKT50値の相互の対比からも明らかなように、Exo型比率が30%から40%を超えるに従って殺虫効力は順次増強したが、70%を超えると殺虫効力は殆ど増加せず、製造効率や経済性を考慮すると、効力増強剤AのExo型比率としては、40〜70%の範囲が適切であることが認められた。
一方、効力増強剤Aを配合しない線香(比較例1)は、殺虫効力が低く、また、比較例4のように、線香製造段階において化合物AとEndo型100%である効力増強剤Aを混合調製した線香は、化合物AとEndo型100%である効力増強剤Aとを予め混合した状態としている比較例2と対比した場合、速効性及び殺虫成分の均一性のいずれの点でも劣っている。したがって、Exo型の比率を30%以上としている本発明薬剤の混合物の場合と、当該混合物を生成せずに線香製造段階に同一比率の化合物Aと効力増強剤Aとを調合した場合においても、同様の結果が得られることが十分推認でき、前記(3)の製造方法の意義が裏付けられている。このように、化合物Aと効力増強剤Aとを当初から混合した状態にて線香製造時に調合することによって、殺虫効力が改善される根拠は、当初からの混合物を調合した場合の方が個別の調合の場合に比し、化合物Aと効力増強剤Aとが相互に接近した状態にて調合されるという現象を想定することが可能である。この点は、本発明薬剤を用いた場合、線香3分割の各部門においてKT50値のバラツキが小さいことからも想定できる。因みに、化合物Aを含有する線香と効力増強剤Aを含有する線香を各1本ずつ同時に燻煙させた比較例5の場合には、化合物Aと効力増強剤Aとが接触し合う機会は、比較例4の場合よりも明らかに少ないものと考えられるが、比較例5の殺虫効力の結果は、比較例4の殺虫効力よりも更に劣っており、前記の根拠を推認させるに十分である。尚、前記比較例5と効力増強剤Aを配合していない比較例1との対比の結果、燻煙した状態であっても、化合物Aと効力増強剤Aとの相乗による殺虫効果を裏付けている。
【実施例10】
【0035】
実施例8に準じて調製した各種ハエ取り線香を用いて下記のイエバエ雌成虫に対する殺虫効力試験を行った。
[25m3の部屋での実地殺虫効力試験]
閉めきった25m3の部屋にイエバエ雌成虫100匹を放った後、部屋の中央に点火した供試ハエ取り線香(実施例8に準じて調製)を置いた。3時間暴露させ、時間経過に伴い落下仰転したイエバエ雌成虫を数え、KT50値、KT90値及び致死率を求めたが、その結果は、以下の表2記載のとおりである。
【0036】
【表2】


* 線香製造時に、化合物Aと効力増強剤Aを混合調製した。
** 化合物Aを含有する線香と効力増強剤Aを含有する線香を各1本ずつ同時に燻煙させた。
【0037】
各試験の結果、実施例9の蚊取線香に係る殺虫効力試験と同様に、化合物Aと効力増強剤Aを予め1:1〜1:2の質量比で配合した本発明薬剤を配合することによって、ハエ取り線香は、効力増強剤Aを配合しない比較例1の場合に比し、イエバエに対するKT50値、KT90値及び致死率が著しく向上した。また、線香製造時に化合物Aと効力増強剤Aを混合調製した比較例2の場合に比し、イエバエに対するKT50値は若干の改善に留まったが、KT90値及び致死率については増強効果が大きく、本発明薬剤を配合しているハエ取り線香は安定した殺虫効果を奏し得ることを示した。なお、効力増強剤AのExo型比率については、30%以上(Endo型比率が70%以下)の範囲のなかでも、40%以上が好ましいことが示されている。
また、本発明1、比較例2、比較例3とは、ともに、化合物A及び効力増強剤Aの配合量が同一であって、しかもExo型とEndo型との比率も同一であるが、当初から混合物の状態にある本発明薬剤を、製造段階において調合している本発明1、化合物Aと効力増強剤Aとを個別に調合している比較例2、化合物Aを含有する線香と効力増強剤Aを含有する線香を各1本ずつ同時に燻煙させた比較例3の殺虫効力を対比した場合、本発明1が殺虫効力が最も優れており、比較例3の殺虫効力が最も劣っており、比較例2の殺虫効力がその中間である点において、蚊取線香の場合と同様の結果が出ており、結局、化合物Aと効力増強剤Aとの接近の程度が殺虫効力に反映することが、ハエ取り線香の場合においても裏付けられている。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、蚊取線香やハエ取り線香の製造分野において、須らく利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分である4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボキシラートと、効力増強剤であるN−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ[2,2,1]−ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミドを、有効成分に対し効力増強剤を1.0倍以上の割合にて配合している混合物であって、効力増強剤におけるExo型比率が30%以上とし、Endo型比率が70%以下としている蚊又はハエ取り線香用薬剤。
【請求項2】
効力増強剤におけるExo型比率を40〜70%とし、Endo型比率を30〜60%とすることを特徴とする請求項1記載の蚊又はハエ取り線香用薬剤。
【請求項3】
蚊又はハエ取り線香の製造に際し、請求項1、2の何れか一項に記載の蚊又はハエ取り線香用薬剤を、線香を構成する他の基材との混合を行うことによる蚊又はハエ取り線香の製造方法。

【公開番号】特開2010−13360(P2010−13360A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172140(P2008−172140)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】