説明

蛋白質固定化用アンカーペプチドを提供する方法

【課題】目的の蛋白質の精製ができ、さらに基盤へ固定化できる精製・固定化用ペプチド蛋白質を提供すること
【解決手段】本発明の精製・固定化用ペプチド蛋白質は、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのEドメイン遺伝子へランダムに変異を導入したライブラリから、SAを用いてセレクションを行うことで獲得した蛋白質である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのEドメイン遺伝子にランダムミューテーションを導入したライブラリからストレプトアビジン(SA)を用いてセレクションされたタンパク質分子であり、SAに対する結合性を利用した、ビオチンを利用しない精製・固定化用蛋白質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
目的とする蛋白質を色素等を用いて識別する一般的な方法として、ストレプトアビジン(SA)およびビオチンを利用した系が存在する。
【0003】
一方、目的とする蛋白質を精製または固定化するための方法として、世の中に多数存在する(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−501304号公報
【特許文献2】特開平6−166698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、背景技術に記載の精製または固定化方法では、精製用および固定化用として各々の結合蛋白質が必要であるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来の問題点に鑑み、目的の蛋白質の精製ができ、さらに基盤へ固定化できる精製・固定化用ペプチド蛋白質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来の課題を解決するために、蛋白質(抗体、プロテインAなど)を精製および固定化するために、精製・固定化用ペプチド融合蛋白質を作製する。
【0008】
この精製・固定化用ペプチド蛋白質は、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのEドメインを基にした。
【0009】
黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのEドメインを基にした理由は、遺伝子レベルで変異を導入したとしても、蛋白質として発現したとき、機能を発揮するために必要な構造を保持できると考えたからである。
【0010】
本発明の精製・固定化用ペプチド蛋白質は、黄色ブドウ球菌由来のプロテインAのEドメイン遺伝子へランダムに変異を導入したライブラリから、SAを用いてセレクションを行うことで獲得した蛋白質である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、一つのアミノ酸配列だけを融合することで、目的とする蛋白質を精製および固定化することができる、精製および固定化が可能である精製・固定化用ペプチド蛋白質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の免疫測定方法における実施の形態を示す図
【図2】本発明の免疫測定方法における実施の形態を示す図
【図3】本発明の免疫測定方法における実施の形態を示す図
【図4】本発明の免疫測定方法における実施の形態を示す図
【図5】本発明の一実験例の結果を示す図
【図6】本発明の一実験例の結果を示す図
【図7】本発明の一実験例の結果を示す図
【図8】本発明で作製した蛋白質の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
(実施例1)
図1の#7(配列番号:1)および#8(配列番号:2)は、精製・固定化用ペプチド蛋白質の配列を示す。
【0015】
次に、上記配列を獲得する具体的方法を示す。
【0016】
(1.ランダム変異導入遺伝子ライブラリの作製)
テンプレート遺伝子としてプロテインAのEドメインを使用した。
【0017】
図2に、プロテインAのEドメインの遺伝子を導入するためのプラスミドベクター(pCDNA3.1(+);Invitrogen社)を示す。
【0018】
プロテインAのEドメイン遺伝子は以下の塩基配列を用いた。
【0019】
GCGCAACACGATGAAGCTCAACAAAATGCTTTTTATCAAGTCTTAAATATGCCTAACTTAAATGCTGATCAACGCAATGGTTTTATCCAAAGCCTTAAAGATGATCCAAGCCAAAGTGCTAACGTTTTAGGTGAAGCTCAAAAACTTAATGACTCTCAAGCTCCAAAA(配列番号:3)
プロテインAのEドメインの遺伝子周辺にランダムな変異を導入した。
【0020】
次に、ランダム変異を導入するために、2つのプライマーと変異導入酵素(GeneMorpho II Random Mutagenesis Kit; Stratagene)を用い、PCRを3回行った。
【0021】
図3にPCRの条件を示す。
【0022】
これにより、変異導入酵素の特性から計算上4.7x10e24の多様性を持つプロテインAのEドメインランダム変異遺伝子ライブラリを作製した。
【0023】
上記遺伝子ライブラリをプラスミドベクターへ導入するため、プライマーとして遺伝子ライブラリ、テンプレートとしてプロテインAのEドメイン遺伝子が導入されたプラスミドベクター、酵素としてPrimeSTAR HS(タカラバイオ株式会社)を用いてPCRによって行った。
【0024】
PCR後、テンプレートのプラスミドベクターがライブラリに混入することが無いよう、酵素DpnIにて処理を行い、テンプレートを細かく切断した。
【0025】
図4にPCRの条件を示す。
【0026】
SA結合性Eドメイン変異体の選択
細胞への形質転換
上記PCRにより獲得したプロテインAのEドメイン変異遺伝子ライブラリが導入されたプラスミドベクター群をエレクトロポレーション法により、HEK293T細胞へ導入した。
【0027】
形質転換する方法としてカチオン性脂質による方法を採用した。
【0028】
形質転換試薬には、リポフェクタミン2000(Invitrogen社)を用いた。
【0029】
プロテインAのEドメインを細胞表面に発現する細胞とプロテインAのEドメイン変異体を細胞表面に発現する細胞ライブラリを培養し、おのおのマウスIgG2aとの相互作用をFACS(BD社)により解析したところ、 オリジナルのEドメインは36.7%※の細胞がIgG2aと相互作用し、Eドメイン変異体は9.7%に減少していることから、ランダム変異が導入されたことによりIgG2aへの相互作用を失っている、つまりランダム変異を含むライブラリが作製できていることが確認された。
【0030】
EドメインはマウスIgG2aとの相互作用があるが、100%にならないのは細胞周期によるタンパク質発現の有無によると考えられる。また、EドメインはマウスIgG1とはほぼ相互作用しないことが一般的である。
【0031】
磁気ビーズを用いたSA結合性Eドメイン変異体の選択方法を利用した。
【0032】
磁気ビーズには、MACS磁気ビーズ(Miltenyi Biotec)を用いた。
【0033】
磁気ビーズ表面には、SAが結合されている。
【0034】
選択方法の概略を以下に示す。
【0035】
1. プロテインAのE ドメインランダム変異体細胞ライブラリとStreptavidinマイクロビーズ(MACS, Miltenyi Biotec)を反応させる。
【0036】
2. MSカラム(MACS, Miltenyi Biotec)へ投入する。
【0037】
3.カラム内を1mlの1%BSA入りPBSにて3回ウォッシュする。
【0038】
4.1mlの1%BSA入りPBSをカラム内に入れ、MSカラム付属のプランジャを用いてSAに反応したEドメインランダム変異体細胞群を回収する。
【0039】
上記手順を3回繰り返すことにより準備した磁気ビーズを含む細胞ライブラリから、MSカラム(MACS, Miltenyi Biotec)を用いて、SA特異的結合能を有するプロテインAのEドメイン変異体細胞群を選択した。
【0040】
評価は、Eドメイン変異体を細胞表面に発現した状態で行った。ゆえに、評価指標は細胞の数、または細胞の数に依存した蛍光強度で示される。 図5に、各ラウンドで得られた細胞群とSAとの結合能を、FACSort(FACS, BD社製)により測定した結果を示す。
【0041】
標識色素としてSA化FITC(吸収波長、495 mm)を用い、SAに結合するEドメイン変異体を発現する細胞が有するFITCの蛍光強度(520 mm)を測定することにより、ライブラリが持つ結合能を測定した。
【0042】
このことから、Eドメイン変異体を発現する細胞群がSAに対する結合能を有しているということが示された。
【0043】
図6に、SAとSA-PE(蛍光色素)を用いたインヒビションアッセイの結果を示す。
【0044】
SA結合性Eドメイン変異体を発現した細胞数を一定(約1x105)に揃え、過剰量のSA-PEと0ug、0.01ug、0.1ug、1ug、10ugのSAを各々混合し、PEの蛍光量をFACSにより測定した。
【0045】
測定した蛍光量の平均値をプロットしたものである。
【0046】
このことからも、選択されたEドメイン変異体を発現した細胞がSAに対して結合性を有することが示された。
【0047】
図7に、単クローン化したEドメイン変異体を発現した細胞とSAの結合性を評価したFACSの結果を示す。
【0048】
SAとの結合性を蛍光量で測るために、SA-PEを用いた。
【0049】
この結果から、単クローンであってもSAに結合性を有することが示された。
【0050】
図中#7は図1中の配列#7(配列番号:1)と、図中#8は図1中の配列#8(配列番号:2)と対応する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の精製・固定化用融合蛋白質を用いれば、図8記載のように、目的の蛋白質を精製および固定をひとつの蛋白質で行うことができ、蛋白質作製時の簡便さ、製造時の必要部材の削減にとって有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製および固定化するための蛋白質であって、配列番号1または配列番号2からなるペプチドであることを特徴とする精製・固定化用融合蛋白質。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−25701(P2012−25701A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166742(P2010−166742)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】